以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
[プラズマ処理装置の構成]
まず、実施形態に係るプラズマ処理方法が行われるプラズマ処理装置の構成について、説明する。図1及び図2は、プラズマ処理装置の一例を示す。図1及び図2に示すように、プラズマ処理装置1は、チャンバ2、マイクロ波発生源3、導波管4、排気機構5,6、供給機構7、載置部8、壁部9及びコントローラ10を備える。
チャンバ2は、例えば、ステンレス又はアルミニウム合金等の金属から形成される。チャンバ2の内部には、収納空洞11が形成され、収納空洞11には、載置部8及び壁部9が配置される。ここで、プラズマ処理装置1及びチャンバ2では、第1の方向(矢印X1及び矢印X2で示す方向)、第1の方向に対して交差する(垂直又は略垂直な)第2の方向(矢印Y1及び矢印Y2で示す方向)、及び、第1の方向及び第2の方向の両方に対して交差する(垂直又は略垂直な)第3の方向(矢印Z1及び矢印Z2で示す方向)が、規定される。図1は、チャンバ2を第1の方向に対して垂直又は略垂直な断面で示す。また、図2は、チャンバ2を第2の方向に対して垂直又は略垂直な断面を示し、図1のB1-B1断面を示す。また、図1及び図2等の一例では、第3の方向は、鉛直方向と一致又は略一致する。
載置部8は、載置面13を備える。載置面13は、第3の方向の一方側(矢印Z1側)を向き、鉛直上側を向く。載置面13上には、被処理物15が載置される。また、チャンバ2の側壁には、窓(図示しない)等が設けられてもよい。この場合、被処理物15は、窓を介してチャンバ2の収納空洞11に搬入され、窓を介して収納空洞11から搬出される。また、後述するプラズマを用いた処理を行っている状態では、窓は、ゲートバルブ(図示しない)等によって、気密に閉じられる。また、プラズマ処理装置1には、駆動機構(図示しない)が設けられてもよい。この場合、駆動機構は、サーボモータ又は制御モータ等を備える。そして、駆動機構を駆動することにより、載置部8が回転する等、載置部8が移動する。このため、載置面13に被処理物15が載置されている状態では、載置部8が移動することにより、被処理物15は、載置部8と一緒に移動する。
被処理物15は、後述するプラズマを用いた処理によって処理される部分が露出する状態で、載置面13に載置される。そして、図1等の一例では、プラズマによって処理される部分が、第3の方向について載置面13が向く側、すなわち、鉛直上側を向く状態で、被処理物15が載置面13に載置される。
導波管4は、第1の方向に沿って延設され、導波管4の長手方向は、第1の方向と一致又は略一致する。また、導波管4は、チャンバ2の収納空洞11を通って延設され、第3の方向について載置部8から離れて設けられる。導波管4は、第3の方向について載置面13が向く側(矢印Z1側)、すなわち、鉛直上側に、載置部8に対して離れて配置される。導波管4は、例えば角筒状等の筒状に形成され、例えばアルミニウム合金等の金属から形成される。
導波管4の内部には、誘電体17が埋め込まれる。誘電体17は、例えば、石英又は酸化アルミニウム等から形成される。誘電体17は、導波管4の内部に隙間なく埋められる。マイクロ波発生源3は、チャンバ2の外部に設けられる。第1の方向について、すなわち、導波管4の長手方向について、導波管4及び誘電体17の一端は、チャンバ2の外部で、マイクロ波発生源3に接続される。マイクロ波発生源3は、マイクロ波を発生し、発生したマイクロ波を導波管4の内部の誘電体17に放射する。
導波管4には、スロット18が形成され、図1及び図2の一例では、4つのスロット18が設けられる。導波管4の内部は、スロット(スロットアンテナ)18を介して開口する。導波管4の内部には、前述のように誘電体17が隙間なく埋め込まれる。このため、導波管4の外部から内部へのスロット18を介してのガスの流入が、防止される。スロット18のそれぞれは、導波管4において載置部8が位置する側(矢印Z2側)を向く面、すなわち、鉛直下側を向く面に、形成される。このため、導波管4から見て、スロット18のそれぞれは、第3の方向の一方側(矢印Z2側)へ開口する(換言すると、導波管4に対するスロット18の開口方向は第3の方向の一方側(矢印Z2側)である)。また、スロット18のそれぞれは、導波管4の長手方向(第1の方向)に沿って長孔状に形成される。導波管4においてスロット18が形成される部位は、チャンバ2の内部の収納空洞11に配置される。また、スロット18は、導波管4の長手方向(第1の方向)について並んで配置される。ただし、スロット18は、導波管4の長手方向について、互いに対して離れて配置される。
図3は、導波管4及び壁部9をチャンバ2の第3の方向の一方側(矢印Z2側)から視た状態で示す。図1乃至図3に示すように、収納空洞11では、壁部9によって、スロット18と同一の数だけ空間23が規定され、図1及び図2等の一例では空間23が4つ規定される。空間23のそれぞれは、スロット18の対応する1つに対して、載置部8が位置する側に隣接する。したがって、空間23のそれぞれは、スロット18の対応する1つと載置部8との間に形成される。
空間23のそれぞれの周囲(外周)は、壁部9によって囲まれる。また、空間23は、第1の方向について並んで配置される。ただし、互いに対して隣り合う空間23の間には、壁部9の一部が介在し、互いに対して隣り合う空間23は、壁部9の一部によって、仕切られる。なお、第3の方向(鉛直方向)について壁部9と載置部8の載置面13との間には、隙間が形成される。そして、載置面13に被処理物15が載置された状態では、第3の方向について壁部9と被処理物15との間に隙間が形成される。すなわち、被処理物15は、壁部9に接触しない状態で、載置面13に載置される。
導波管4では、長手方向(第1の方向)についてマイクロ波発生源3とは反対側の端に、反射部25が設けられる。マイクロ波発生源3から誘電体17に放射されたマイクロ波は、反射部25に向かって進行波として伝達される。反射部25は、マイクロ波発生源3からの進行波を反射する。反射部25で反射されたマイクロ波は、誘電体17においてマイクロ波発生源3に向かって反射波として伝達される。進行波及び反射波の進行方向は、第1の方向に対して平行又は略平行であり、スロット18のそれぞれの開口方向(第3の方向の一方側)に対して交差する(垂直又は略垂直である)。
前述のように誘電体17においてマイクロ波が伝達されるため、誘電体17では、マイクロ波発生源3からの進行波及び反射部25からの反射波によって、定在波が形成される。マイクロ波発生源3は、所定の周波数範囲のいずれかの周波数で、マイクロ波を放射する。所定の周波数範囲のいずれかの周波数でマイクロ波が伝達される場合、スロット18のそれぞれに定在波の腹位置Aの対応する1つが位置する。また、所定の周波数範囲のいずれかの周波数でマイクロ波が伝達される場合、互いに対して隣り合うスロット18の間に、定在波の節位置Nの対応する1つが位置する。
前述のように誘電体17を通して伝達されるマイクロ波は、スロット18のそれぞれから、空間23の対応する1つに照射される。ここで、前述のように、マイクロ波発生源3は、スロット18のそれぞれに定在波の腹位置Aの対応する1つが位置する状態に、マイクロ波を放射する。このため、スロット18のそれぞれから空間23の対応する1つへ照射されるマイクロ波の強度は、確保される。
排気機構(排気源)5は、チャンバ2の内部の収納空洞11全体を排気する。排気機構5は、排気駆動部31、制御弁32及び排気ライン33を備える。排気ライン33は、チャンバ2の外壁等に設けられる排気口35に、接続される。排気駆動部31は、例えば、真空ポンプである。また、制御弁32は、排気ライン33において排気駆動部31と排気口35との間に、配置される。制御弁32は、例えばAPC(Auto Pressure Controller)弁等の圧力制御弁である。排気駆動部31を作動することにより、チャンバ2の内部の収納空洞11のガスは、排気口35から排気ライン33を通して排気される。
また、排気機構(排気源)6は、チャンバ2の収納空洞11において、空間23のそれぞれを局所的に排気する。排気機構6は、排気駆動部41、制御弁42、排気ライン43及び排気経路45を備える。排気経路45は、空間23と同一の数だけ形成される。排気経路45のそれぞれは、チャンバ2の収納空洞11において壁部9に形成される。また、排気経路45のそれぞれは、排気口46を有する。排気経路45のそれぞれの排気口46は、空間23の対応する1つと連通する。排気口46のそれぞれは、空間23の対応する1つに対して、第2の方向の一方側(矢印Y2側)に位置する。
排気駆動部41、制御弁42及び排気ライン43は、チャンバ2の外部に配置される。排気経路45のそれぞれには、排気口46とは反対側の端に、排気ライン43が接続される。排気駆動部41は、例えば、真空ポンプである。また、制御弁42は、排気ライン43において排気駆動部41と排気経路45のそれぞれへの接続位置との間に、配置される。制御弁42は、例えばAPC(Auto Pressure Controller)弁等の圧力制御弁である。排気駆動部41を作動することにより、壁部9で囲まれた空間23のそれぞれでは、排気口46の対応する1つから排気経路45の対応する1つ及び排気ライン33を順に通して、ガスが排気される。前述のように排気機構6によって空間23のそれぞれが排気されている状態では、空間23のそれぞれから排気口46の対応する1つを通して、排気経路45の対応する1つにガスが流出する。このため、空間23のそれぞれでは、第2の方向の一方側(排気口46が位置する側)へ、ガスが流出する。
また、排気機構(第1の排気機構)6及び排気機構(第2の排気機構)5によって排気されたガスは、回収タンク48等に回収される。そして、回収タンク48において、ガスを無害化する処理が行われた後、大気等に放出される。
供給機構(供給源)7は、排気機構(排気源)6による空間23のそれぞれの排気と並行して、チャンバ2の収納空洞11において、空間23のそれぞれに水蒸気を含むガスを供給する。供給機構7は、タンク51、供給駆動部52、開閉弁53、供給ライン54及び供給経路55を備える。供給経路55は、空間23と同一の数だけ形成される。供給経路55のそれぞれは、チャンバ2の収納空洞11において壁部9に形成される。また、供給経路55のそれぞれは、供給口56を有する。供給経路55のそれぞれの供給口56は、空間23の対応する1つと連通する。供給口56のそれぞれは、第2の方向について、空間23の対応する1つに対して、排気口46が位置する側とは反対側(矢印Y1側)に位置する。
タンク51、供給駆動部52、開閉弁53及び供給ライン54は、チャンバ2の外部に配置される。供給経路55のそれぞれには、供給口56とは反対側の端に、供給ライン54が接続される。タンク51には、水蒸気を含むガスが貯められる。供給駆動部52は、例えば、ポンプである。また、開閉弁53は、供給ライン54において供給駆動部52と供給経路55のそれぞれへの接続位置との間に、配置される。開閉弁53によって、空間23のそれぞれへのガスの供給及び供給停止が、切替えられる。なお、開閉弁53は、工場の配管等に接続してもよい。この場合、タンク51及び供給駆動部52を省略可能である。
開閉弁53が開かれた状態で供給駆動部52を作動することにより、壁部9で囲まれた空間23のそれぞれには、供給ライン54及び供給経路55の対応する1つを通して、水蒸気を含むガスが供給される。この際、空間23のそれぞれには、供給口56の対応する1つからガスが噴出される。前述のように供給機構7によって空間23のそれぞれにガスが供給されている状態では、空間23のそれぞれに供給口56の対応する1つを通して、供給経路55の対応する1つからガスが流入する。このため、空間23のそれぞれでは、第2の方向について排気口46が位置する側とは反対側から、すなわち、供給口56が位置する側から、ガスが流入する。
壁部9に囲まれる空間23のそれぞれでは、供給機構7によって供給される水蒸気にスロット18の対応する1つからマイクロ波が照射されることにより、プラズマ(水蒸気プラズマ)が発生する。そして、発生したプラズマによって、被処理物15が処理される。
また、本実施形態では、空間23のそれぞれにおいて、排気機構6による排気と並行して、供給機構7によって水蒸気が供給される。このため、空間23のそれぞれでは、供給口56から排気口46へのガスの流れが形成される。本実施形態では、空間23のそれぞれにおけるガスの流れ方向は、第2の方向に対して平行又は略平行である。したがって、ガスの流れ方向は、マイクロ波(進行波及び反射波)の進行方向に対して交差し(垂直又は略垂直であり)、スロット18のそれぞれの開口方向(第3の方向の一方側)に対して交差する(垂直又は略垂直である)。
コントローラ10は、例えば、コンピュータ等である。コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含むプロセッサ又は集積回路(制御回路)、及び、メモリ等の記憶媒体を備える。コントローラ10は、集積回路等を1つのみ備えてもよく、集積回路等を複数備えてもよい。コントローラ10は、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。コントローラ10は、マイクロ波発生源3からのマイクロ波の出力、排気駆動部31及び制御弁32の作動等の排気機構(第2の排気機構)5の作動、排気駆動部41及び制御弁42の作動等の排気機構(第1の排気機構)6の作動、及び、供給駆動部52及び開閉弁53の作動等の供給機構7の作動を制御する。したがって、コントローラ10によって、排気機構5,6による排気、及び、供給機構7によるガスの供給が制御される。
なお、コントローラ10による制御(調整)は、排気機構5,6による排気、及び、供給機構7によるガスの供給の両者に対してなされるほか、排気機構5,6による排気、及び、供給機構7によるガスの供給のいずれかのみとしてもよい。すなわち、コントローラ10による制御(調整)は、排気機構5,6による排気、及び、供給機構7によるガスの供給の少なくともいずれかを対象として行われればよい。
また、供給機構7は、空間23のそれぞれに、水蒸気のみを供給してもよく、水蒸気と一緒にヘリウムガス等の不活性ガスを供給してもよい。水蒸気のみが供給機構7によって供給される場合、空間23のそれぞれでは、水蒸気の雰囲気においてプラズマを用いた処理が行われる。また、水蒸気と一緒に不活性ガスが供給機構7によって供給される場合、空間のそれぞれでは、水蒸気と不活性ガスとの混合ガスの雰囲気において、プラズマを用いた処理が行われる。
なお、図1等の一例ではチャンバ2が設けられるが、ある一例では、チャンバ2が設けられなくてもよい。この場合、排気機構5は、設けられない。この場合も、空間23のそれぞれでは、排気機構6による排気と並行して、供給機構7によって水蒸気を含むガスが供給される。
また、ある一例では、チャンバ2の内部に、壁部に9に囲まれる空間23が形成されてなくてもよい。この場合も、スロット18のそれぞれから載置部8が位置する側に、マイクロ波が照射される。そして、マイクロ波が照射される領域(空間)には、供給機構7等と同様の供給機構によって、水蒸気を含むガスが供給される。また、マイクロ波が照射される領域では、排気機構5,6等のいずれかと同様の排気機構によって、排気及び減圧が行われる。
また、図1等の一例では、導波管4におけるマイクロ波の伝達方向が、スロット18の開口方向に対して交差するが、これに限るものではない。ある一例では、導波管4においけるマイクロ波の伝達方向が、スロット18の開口方向に対して、平行又は略平行になる。また、マイクロ波を空間等に照射するアンテナは、スロット(スロットアンテナ)18に限るものではない。アンテナは、伝達されるマイクロ波を、空間に放射(放電)する構成であればよい。
前述のように、実施形態のプラズマ処理方法で用いられるプラズマ処理装置では、水蒸気を含むガスが供給される空間に、アンテナからマイクロ波が照射される。これにより、マイクロ波が照射される空間においてプラズマ(水蒸気プラズマ)が発生し、発生したプラズマによって、被処理物が処理される。
[被処理物]
次に、前述のようにして発生したプラズマを用いて処理される被処理物について、説明する。被処理物15としては、特にこれらに限定されないが、平板及び円板等が挙げられる。図1の一例の空間23等のマイクロ波が照射される空間では、前述のように水蒸気にマイクロ波が照射されることにより、OHラジカル(ヒドロキシラジカル)及びHラジカル(水素ラジカル)が高密度に生成される。OHラジカルは、強い酸化力を有し、Hラジカルは還元力を有する。
ある一例では、基材の表面に金属粒子及び有機物を含む塗布膜が形成された被処理物が、プラズマを用いて処理される。金属粒子としては、例えば、銅粒子が挙げられる。また、金属粒子として銅粒子を含む塗布膜としては、Cuナノインクの膜等が、挙げられる。塗布膜にプラズマが照射されることにより、塗布膜において、OHラジカルによる酸化分解によって、有機物が除去される。また、塗布膜では、OHラジカルによる酸化分解によって酸化された金属粒子が、Hラジカルによって還元される。また、塗布膜へのプラズマの照射によって、金属粒子が焼結される。これにより、金属粒子が焼結された金属層が、基材の表面に形成される。
また、別のある一例では、例えば、めっき法やスパッタ法等により成膜された金属膜の表面に有機物を含む有機膜としてのレジストマスクが形成された半導体ウェーハ等が、被処理物としてプラズマを用いて処理される。この場合、レジストマスクに含まれる有機物が、OHラジカルによる酸化分解によって、除去される。また、OHラジカルによる酸化分解によって酸化された金属膜の表面は、Hラジカルによって還元される。
[プラズマ処理の環境]
前述のようにプラズマを用いて処理が行われている状態では、排気機構5,6による排気、及び/又は、供給機構7によるガスの供給をコントローラ10が制御(調整)することにより、図1の一例の空間23等のマイクロ波が照射される空間の圧力が、調整される。そして、空間の圧力が調整されることにより、空間の雰囲気における水蒸気の圧力が調整される。また、供給機構7によってヘリウムガス等の不活性ガスが供給される場合は、空間の雰囲気における不活性ガスの圧力も調整される。前述のように、実施形態のプラズマ処理装置には、マイクロ波が照射される空間の圧力を調整する圧力調整機構が設けられ、圧力調整機構は、コントローラ(例えば10)と、排気機構(例えば5,6)及び供給機構(例えば7)の少なくとも一方と、から構成される。
圧力調整機構は、プラズマが発生している空間においてOHラジカル及びHラジカルが高密度で安定して生成される状態に、空間の圧力を調整する。すなわち、空間においてOHラジカル及びHラジカルが高密度で共存する状態に、空間の圧力が調整される。OHラジカルが高密度で安定して生成されることにより、プラズマを用いた処理において、被処理物15のエッチングレート(レジスト等の除去レート)が高く確保される等、被処理物15が適切に処理される。
また、Hラジカルが高密度で安定して生成されるため、OHラジカルによって酸化された被処理物15の表面が、適切に還元される。このため、被処理物15の酸化が適切に抑制される。また、OHラジカル及びHラジカルの作用によって前述のように被処理物が処理されるため、プラズマを用いた処理では、被処理物15の温度を、例えば100℃以上の高温に上昇させる必要がない。すなわち、被処理物の温度を室温(例えば25℃程度)に維持したまま、プラズマを用いて被処理物が処理される。
ここで、ある実施形態では、圧力調整機構は、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力を0.2kPa以上2.4kPa以下に調整する。水蒸気の圧力を0.2kPa以上にすることにより、マイクロ波が照射される空間において、処理を高速にするのに必要な水分子の量がある程度確保される。また、水蒸気の圧力を2.4kPa以下にすることにより、空間において、水分子と電子の衝突確率が低下し、電子の平均自由工程が長くなり、電子の運動エネルギーが高く確保される。電子の運動エネルギーが高く確保されることにより、空間へのマイクロ波の照射によって、水蒸気がOHラジカル及びHラジカルに解離し易くなる。
空間における水分子の量が確保され、かつ、マイクロ波の照射によって水分子がOHラジカル及びHラジカルに解離し易くなることにより、空間において、OHラジカル及びHラジカルが安定して発生し、水蒸気のプラズマが安定して発生する。空間においてOHラジカル及びHラジカルが安定して発生し、水蒸気のプラズマが安定して発生することにより、被処理物15のエッチングレート等のプラズマを用いた処理の処理性能が低下したり、プラズマを用いた処理の処理性能のばらつきが大きくなりすぎたりすることが、有効に防止される。また、被処理物15の酸化も、有効に抑制される。
また、圧力調整機構は、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力を前述の範囲に調整するとともに、OHラジカルに対するHラジカルの比率を0.5以上3.0以下に調整する。水蒸気の圧力が前述の範囲に調整されることに加えて、OHラジカルに対するHラジカルの比率が前述の範囲に調整されることにより、被処理物15がより適切に処理されるとともに、被処理物15の酸化がより適切に抑制される。なお、OHラジカルに対するHラジカルの比率としては、後述のように、発光分析におけるOHラジカルに由来するピーク強度に対するHラジカルに由来するピーク強度の比率が、用いられる。
また、OHラジカルは、空間の環境によっては、H原子及びO原子に解離し得る。この場合、OHラジカルの解離によって、Hラジカルが発生され得る。したがって、OHラジカルの解離が発生し易い環境では、OHラジカルに対するHラジカルの比率(H/OH)が、高くなる。なお、空間に水蒸気のみが供給され、ヘリウムガス等の不活性ガスが空間に供給されない場合は、空間での水蒸気の圧力が低下することにより、OHラジカルの解離が促進され、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高くなる。また、ヘリウムガス等の不活性ガスが水蒸気と一緒に空間に供給されることにより、OHラジカルの解離が促進され、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高くなる。
また、ある実施形態では、前述のように、金属粒子及び有機物を含む塗布膜にプラズマが照射することにより、金属粒子が焼結し、金属膜を形成する。この実施形態では、空間に水蒸気のみが供給され、空間が水蒸気の雰囲気になる場合は、圧力調整機構は、水蒸気の圧力を0.2kPa以上0.65kPa以下に調整することが好ましい。水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.2kPa以上0.65kPa以下にすることにより、塗布膜において有機物がより適切に除去されるとともに、酸化された金属粒子がより適切に還元される。
また、空間に水蒸気と一緒にヘリウムガス等の不活性ガスが供給される場合は、圧力調整機構は、水蒸気の圧力を0.2kPa以上1.3kPa以下に調整することが好ましい。水蒸気と不活性ガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を0.2kPa以上1.3kPa以下にすることにより、塗布膜において有機物がより適切に除去されるとともに、酸化された金属粒子がより適切に還元される。
また、ある実施形態では、金属基材又は金属膜の表面に形成されたレジスト(有機物)がプラズマを用いて除去される。この実施形態では、圧力調整機構は、OHラジカルに対するHラジカルの比率を1.0以上3.0以下になる状態に空間の圧力を調整することが好ましい。OHラジカルに対するHラジカルの比率が1以上になる状態等、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高い状態になることにより、酸化された金属基材又は金属膜がより適切に還元され、金属基材又は金属膜の表面の酸化がより適切に抑制される。また、前述のように、ヘリウムガス等の不活性ガスが水蒸気と一緒に空間に供給されることにより、OHラジカルの解離が促進され、空間においてOHラジカルに対するHラジカルの比率が高くなる。このため、この実施形態では、水蒸気と一緒に不活性ガスが空間に供給されることが、好ましい。
[実施形態に関する検証]
また、前述の実施形態等に関連する検証を行った。検証では、図1の一例の空間23と同様に空間において、排気と並行して、水蒸気を含むガスを供給した。また、検証では、前述のマイクロ波発生源3及び導波管4等と同様のマイクロ波発生源及び導波管を用いて、水蒸気が供給される空間に、導波管のスロットからマイクロ波を照射した。この際、マイクロ波の電力は、100Wとした。そして、前述の実施形態等と同様にして、水蒸気へのマイクロ波の照射によって、空間においてプラズマを発生させた。
検証では、前述のように空間でプラズマが発生している状態において、発光分光分析を行い、OHラジカルに対するHラジカルの比率(H/OH)を検出した。発光分光分析による検証では、3つの条件γ1,γ2,γ3において、発光分光分析のスペクトルを取得した。そして、取得したスペクトルから、条件γ1~γ3のそれぞれについて、OHラジカルに対するHラジカルの比率を算出した。
図4Aは条件γ1において取得したスペクトル、図4Bは条件γ2において取得したスペクトル、図4Cは条件γ3において取得したスペクトルを示す。図4A乃至図4Cのそれぞれでは、横軸に波長(nm)を示し、縦軸に発光強度を正規化した任意単位(arbitrary unit)で示す。ここで、条件γ1では、空間にガスとして水蒸気のみを供給し、ヘリウムガス等の不活性ガスは供給しなかった。そして、空間の圧力を1.4kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を1.4kPaとした。条件γ2では、条件γ1と同様に、空間にガスとして水蒸気のみを供給した。ただし、条件γ2では、空間の圧力を0.8kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.8kPaとした。また、条件γ3では、空間に水蒸気と一緒に不活性ガスとしてヘリウムガスを供給した。そして、空間の圧力を2.4kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を2.35kPa、ヘリウムガスの圧力を0.05kPaとした。
図4A乃至図4Cに示すように、発光分光分析のスペクトルでは、OHラジカルを示すスペクトルのピークは、波長が308nmの位置に、現れる。そして、Hα(原子状水素)を示すスペクトルのピークは、波長が656nmの位置に、現れる。ここで、Hαは、空間におけるHラジカルの存在を示唆するものである。検証では、条件γ1~γ3のそれぞれについて、OHラジカルの発光強度(波長が308nmの位置での発光強度)に対するHαの発光強度(波長が656nmの位置での発光強度)の比率を算出した。そして、算出した比率を、OHラジカルに対するHラジカルの比率とした。すなわち、発光分析におけるOHラジカルに由来するピーク強度に対するHラジカルに由来するピーク強度の比率を、前述の比率として算出した。
条件γ1では、OHラジカルに対するHラジカルの比率が、0.41となった。また、条件γ2では、OHラジカルに対するHラジカルの比率が、0.75となり、条件γ1に比べて高くなった。このため、ヘリウムガスが水蒸気と一緒に空間に供給されない場合は、空間の圧力が低いほど、OHラジカルの解離が促進され、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高くなることが、実証された。また、条件γ3では、OHラジカルに対するHラジカルの比率が、1.13になり、条件γ1,γ2に比べて高くなった。このため、ヘリウムガス等の不活性ガスが水蒸気と一緒に空間に供給されることにより、OHラジカルの解離が促進され、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高くなることが、実証された。
また、検証では、前述の条件γ1~γ3のそれぞれにおいて、載置部8と同様の載置部に被処理物を載置し、空間に発生するプラズマ(水蒸気プラズマ)を用いて被処理物をエッチングした。被処理物としては、ニッケル(Ni)膜の表面に厚さ10μmのレジストが形成された部材を用いた。検証では、前述の条件γ1~γ3のそれぞれにおいて、プラズマを用いてレジストをエッチングした。エッチングは、前述した発光分光分析のスペクトルが取得される条件下で、60秒間継続して行った。また、スロット(アンテナ)と被処理物との間の距離(ギャップ)は、10mmとした。また、載置部及び被処理物は、加熱等せず、室温(25℃程度)で維持した。
そして、エッチングを行った後、ニッケル膜の表面を、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析した。検証では、X線光電子分光法によって、Ni2P2/3の範囲をナロースキャン分析し、条件γ1~γ3のそれぞれについて、Ni2P2/3の範囲のナロースペクトルを取得した。
図5は、条件γ1~γ3のそれぞれでエッチングを行った後において、X線光電子分光法によるニッケル膜の表面の分析によって取得したNi2P2/3の範囲のナロースペクトルを示す。図5では、横軸に結合エネルギー(eV)を示し、縦軸に電子カウントを任意単位(arbitrary unit)で示す。図5Aに示すように、条件γ1,γ2のそれぞれでのエッチング後に取得したナロースペクトルでは、結合エネルギーがNi-O結合になる範囲又はNi2O3結合になる範囲に、ピークが検出された。一方、条件γ3でのエッチング後に取得したナロースペクトルでは、結合エネルギーが金属結合であるNi-Ni結合になる範囲に、ピークが検出された。
このため、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高い条件γ3でのエッチングでは、条件γ1,γ2のそれぞれでのエッチングに比べて、Hラジカルの還元反応によって被処理物の表面(ニッケル膜の表面)の酸化が抑制されることが、実証された。ここで、条件γ3では、OHラジカルに対するHラジカルの比率は、1以上になる。これに対して、条件γ1,γ2のそれぞれでは、OHラジカルに対するHラジカルの比率は、1より小さい。このため、プラズマを用いて金属基材又は金属膜の表面に形成されたレジストをエッチングする処理では、前述の比率を1以上にすることにより、比率が1より小さい場合に比べて、Hラジカルの還元反応が促進され、被処理物の酸化がより有効に抑制されることが、実証された。
また、別の検証でも、前述の実施形態等と同様にして水蒸気のプラズマを発生させた。ただし、この検証では、プラズマを用いて、基材の表面にCuナノインク膜が塗布された被処理物を処理した。被処理物としては、基材の表面に塗布膜として膜厚が0.33μmのCuナノインク膜が形成された部材を用いた。検証では、表1に示す条件β1~β10のそれぞれにおいて、プラズマを発生させ、プラズマを用いてCuナノインク膜の銅粒子を焼結した。プラズマを用いた焼結は、前述した発光分光分析のスペクトルが取得される条件下で、120秒間継続して行った。また、スロット(アンテナ)と被処理物との間の距離(ギャップ)は、10mmとした。また、載置部及び被処理物は、加熱等せず、室温(25℃程度)で維持した。また、マイクロ波の電力は、100Wとした。
表1にも示すように、条件β1~β5のそれぞれでは、空間に水蒸気と一緒に不活性ガスとしてヘリウムガスを供給した。条件β1では、空間の圧力を0.7kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を0.6kPa、ヘリウムガスの圧力を0.1kPaとした。条件β2では、空間の圧力を0.5kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を0.2kPa、ヘリウムガスの圧力を0.3kPaとした。条件β3では、空間の圧力を0.9kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を0.5kPa、ヘリウムガスの圧力を0.4kPaとした。条件β4では、空間の圧力を1.5kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を1.3kPa、ヘリウムガスの圧力を0.2kPaとした。条件β5では、空間の圧力を5.9kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を2.5kPa、ヘリウムガスの圧力を3.4kPaとした。
また、条件β6~β10のそれぞれでは、空間にガスとして水蒸気のみを供給し、ヘリウムガス等の不活性ガスは供給しなかった。条件β6では、空間の圧力を0.25kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.25kPaとした。条件β7では、空間の圧力を0.2kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.2kPaとした。条件β8では、空間の圧力を0.3kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.3kPaとした。条件β9では、空間の圧力を0.65kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を0.65kPaとした。条件β10では、空間の圧力を1.0kPaで維持し、水蒸気の雰囲気において水蒸気の圧力を1.0kPaとした。
また、検証では、条件β1~β10のそれぞれでプラズマが発生している状態において、OHラジカルに対するHラジカルの比率を、発光分析によって測定した。OHラジカルに対するHラジカルの比率は、条件β1では2.29、条件β2では2.6、条件β3では1.95、条件β4では2.19、条件β5では1.28、条件β6では1.87、条件β7では1.24、条件β8では0.86、条件β9では0.6、条件β10では0.26になった。
また、検証では、条件β1~β10のそれぞれでCuナノインク膜の焼結を行った後、Cuナノインク膜が焼結された金属膜(焼結膜)の表面の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、四端子法によって測定した。また、条件β2,β3,β8~β10のそれぞれについては、Cuナノインク膜の焼結を行った後、焼結された金属膜の表面をX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析した。そして、X線光電子分光法によって、金属膜の表面における酸素原子に対する銅原子の比率(Cu/O)を算出した。酸素原子に対する銅原子の比率としては、X線光電子分光法により金属膜の表面に存在する酸素原子及び銅原子の濃度を測定し、取得した酸素原子濃度に対する銅原子濃度の比率を、用いた。
焼結が行われる前のCuナノインク膜では、体積抵抗率は過度に高いため、体積抵抗率は測定不能だった。また、表1に示すように、体積抵抗率は、条件β1での焼結後では22.2μΩ・cm、条件β2での焼結後では11.6μΩ・cm、条件β3での焼結後では15.1μΩ・cm、条件β4での焼結後では9.4μΩ・cm、条件β5での焼結後では44.7μΩ・cm、条件β6での焼結後では7.8μΩ・cm、条件β7での焼結後では12.7μΩ・cm、条件β8での焼結後では8.9μΩ・cm、条件β9での焼結後では12.8μΩ・cm、条件β10での焼結後では30.7μΩ・cmになった。
また、本検証では、比較例として、プラズマを用いることなく、基材の表面に塗布されたCuナノインク膜を焼結し、金属膜を形成した。比較例では、基材の表面に膜厚が0.2μmのCuナノインク膜が形成された部材を、被処理物として用いた。比較例では、水素3%、窒素97%の環境下で、被処理物の温度を250℃まで上昇させ、Cuナノインク膜を焼成した。そして、250℃の温度で2時間焼成することにより、Cuナノインク膜の銅粒子を焼結した。比較例でも、Cuナノインク膜が焼結された金属膜(焼結膜)の表面の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、四端子法によって測定した。比較例では、焼結後の体積抵抗率が5μΩ・cmになった。
比較例でも、焼成によって、有機物が除去され、かつ、金属が焼結されることにより、体積抵抗率が低くなった。ただし、比較例では、被処理物の温度を250℃まで上昇させる必要があり、焼成の処理において被処理物が高温になる。これに対して、条件β1~β10のそれぞれでのプラズマを用いた焼結では、被処理物が室温程度で維持され、被処理物が高温にならない。また、条件β1~β10のそれぞれでのプラズマを用いた焼結によって、焼結が行われる前のCuナノインク膜に比べて、体積抵抗率が低下した。これにより、水蒸気のプラズマを発生させ、OHラジカル及びHラジカルの作用によって金属膜を形成することにより、被処理物を高温にすることなく、被処理物が適切に処理されることが実証された。
ここで、条件β2~β4,β6~β9のそれぞれでは、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力が0.2kPa以上2.4kPa以下になり、かつ、OHラジカルに対するHラジカルの比率が0.5以上3.0以下になった。一方、条件β1,β5,β10のそれぞれでは、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の少なくとも一方が前述の範囲外となった。すなわち、検証の結果、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整した場合、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の少なくとも一方が前述の範囲外になる場合に比べ、金属膜の表面における体積抵抗率が低くなった。そして、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方が前述の範囲内になる条件β2~β4,β6~β9のそれぞれでは、体積抵抗率は、16μΩ・cm以下となり、適正な範囲内になった。これにより、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整することにより、Cuナノインク膜等の塗布膜において、有機物がOHラジカルによって適切に除去されるとともに、金属粒子の酸化がHラジカルによって適切に抑制されることが、実証された。
また、焼結が行われる前のCuナノインク膜では、膜の表面における酸素原子に対する銅原子の比率は、0.18になった。また、表1に示すように、焼結後の金属膜の表面における酸素原子に対する銅原子の比率(Cu/O)は、条件β2での焼結後では0.67、条件β3での焼結後では0.56、条件β8での焼結後では0.98、条件β9での焼結後では12.8μΩ・cm、条件β10での焼結後では30.7μΩ・cmになった。
ここで、条件β2,β3,β8,β9のそれぞれでは、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力が0.2kPa以上2.4kPa以下になり、かつ、OHラジカルに対するHラジカルの比率が0.5以上3.0以下になった。一方、条件β10では、空間の雰囲気において、OHラジカルに対するHラジカルの比率が前述の範囲外となった。すなわち、検証の結果、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整した場合、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の少なくとも一方が前述の範囲外になる場合に比べ、焼結後の金属膜の表面における酸素原子に対する銅原子の比率が高くなった。そして、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方が前述の範囲内になる条件β2,β3,β8,β9のそれぞれでは、金属膜の表面における酸素原子に対する銅原子の比率は、0.45以上となり、適正な範囲内になった。これにより、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整することにより、Cuナノインク膜等の塗布膜において、金属粒子の酸化がHラジカルによって適切に抑制されることが、実証された。
また、空間に水蒸気と一緒にヘリウムガスが供給される条件β1~β5中では、条件β2~β4のそれぞれにおいて、空間の雰囲気における水蒸気の圧力が0.2kPa以上1.3kPa以下になった。そして、水蒸気の圧力が0.2kPa以上1.3kPa以下になる条件β2~β4のそれぞれでは、体積抵抗率は、16μΩ・cm以下となり、適正な範囲内になった。これにより、水蒸気と不活性ガスとの混合ガスの雰囲気では、水蒸気の圧力を0.2kPa以上1.3kPa以下に調整することにより、塗布膜において、有機物がOHラジカルによってより適切に除去されるとともに、金属粒子の酸化がHラジカルによってより適切に抑制されることが、実証された。
また、空間に水蒸気のみが供給される条件β6~β10中では、条件β6~β9のそれぞれにおいて、空間の雰囲気における水蒸気の圧力が0.2kPa以上0.65kPa以下になった。そして、水蒸気の圧力が0.2kPa以上0.65kPa以下になる条件β6~β9のそれぞれでは、体積抵抗率は、16μΩ・cm以下となり、適正な範囲内になった。これにより、水蒸気の雰囲気では、水蒸気の圧力を0.2kPa以上0.65kPa以下に調整することにより、塗布膜において、有機物がOHラジカルによってより適切に除去されるとともに、金属粒子の酸化がHラジカルによってより適切に抑制されることが、実証された。
また、検証では、条件β2,β8,β10のそれぞれにおいて、焼結後の金属膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。走査型電子顕微鏡での観察によって、条件β2,β8,β10のいずれでも、金属膜の表面において銅粒子(金属粒子)同士が適切に結合していることが、確認された。なお、焼結が行われる前のCuナノインク膜についても、走査型電子顕微鏡によって、膜の表面を観察した。焼結が行われる前のCuナノインク膜では、膜の表面において銅粒子(金属粒子)同士が結合していないことが、確認された。
また、別の検証でも、前述の実施形態等と同様にして水蒸気のプラズマを発生させた。ただし、この検証では、プラズマを用いて、被処理物に形成されるカーボン膜をエッチングした。被処理物としては、基材の表面に化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって膜厚が2μmのカーボン膜が形成された部材を用いた。検証では、前述の条件β3~β6,β8,β9のそれぞれにおいて、プラズマを発生させ、プラズマを用いてカーボン膜をエッチングした。プラズマを用いたエッチングは、120秒間継続して行った。また、スロット(アンテナ)と被処理物との間の距離(ギャップ)は、10mmとした。また、載置部及び被処理物は、加熱等せず、室温(25℃程度)で維持した。また、マイクロ波の電力は、100Wとした。そして、条件β3~β6,β8,β9のそれぞれについて、エッチングレート(カーボン膜の除去レート)を測定した。なお、条件β3~β6,β8,β9については、前述した通りである。
表2では、条件β3~β6,β8,β9のそれぞれでのエッチングレートが示される。表2に示すように、カーボン膜のエッチングレートは、条件β3では3.9nm/s、条件β4では10.2nm/s、条件β5では2.7nm/s、条件β6では4.8nm/s、条件β8では3.8nm/s、条件β9では3.4nm/sになった。
また、本検証では、以下の条件α1~α3のそれぞれにおいて、前述の被処理物に形成されるカーボン膜をエッチングし、エッチングレート(カーボン膜の除去レート)を測定した。被処理物としては、条件β3~β6,β8,β9のそれぞれでのエッチングと、同一の被処理物、すなわち、膜厚が2μmのカーボン膜が形成された被処理物を用いた。ただし、条件α1~α3のそれぞれでは、条件β3~β6,β8,β9でのエッチングとは異なり、60秒間のみエッチングを継続した。
条件α1では、硫酸及び過酸化水素水を用いて薬液によるエッチングを行った。条件α2,α3では、プラズマを用いて、エッチングを行った。条件α2,α3では、前述の条件β3~β6,β8,β9でのエッチングと同様に、スロット(アンテナ)と被処理物との間の距離(ギャップ)は、10mmとした。また、載置部及び被処理物は、加熱等せず、室温(25℃程度)で維持した。そして、マイクロ波の電力は、100Wとした。
ただし、条件α2では、水蒸気ではなく酸素を空間に供給し、酸素のプラズマによってエッチングを行った。条件α3では、条件β3~β6,β8,β9と同様に、空間に水蒸気を含むガスを供給し、水蒸気のプラズマを用いてエッチングを行った。そして、条件α3では、空間に水蒸気と一緒に不活性ガスとしてヘリウムガスを供給した。そして、空間の圧力を1.1kPaで維持し、水蒸気とヘリウムガスとの混合ガスの雰囲気において水蒸気の圧力を1.0kPa、ヘリウムガスの圧力を0.1kPaとした。また、条件α3では、プラズマが発生している状態において、OHラジカルに対するHラジカルの比率を、発光分析によって測定した。条件α3では、OHラジカルに対するHラジカルの比率が1.23になった。なお、条件α3での検証結果は、条件β3~β6,β8,β9での検証結果とともに、表2に示す。
条件α1では、エッチングレートが1.8nm/s(106nm/min)となり、条件α2では、エッチングレートが8.6nm/s(514nm/min)となった。また、表2に示すように、条件α3では、エッチングレートが11.9nm/s(714nm/min)となった。
検証の結果、水蒸気のプラズマを用いてエッチングを行う条件β3~β6,β8,β9,α3のそれぞれでは、薬液による条件α1のエッチングに比べて、エッチングレートが高くなった。したがって、水蒸気のプラズマ用いることにより、プラズマを用いた処理における処理速度が確保されることが実証された。
ここで、 条件β3,β4,β6,β8,β9,α3のそれぞれでは、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力が0.2kPa以上2.4kPa以下になり、かつ、OHラジカルに対するHラジカルの比率が0.5以上3.0以下になった。一方、条件β5では、空間の雰囲気において、水蒸気の圧力が前述の範囲外となった。すなわち、検証の結果、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整した場合、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の少なくとも一方が前述の範囲外になる場合に比べ、カーボン膜のエッチングレートが高くなった。これにより、水蒸気の圧力及びOHラジカルに対するHラジカルの比率の両方を前述の範囲内に調整することにより、エッチングレートが向上し、プラズマを用いて被処理物が適切に処理されることが実証された。
また、検証の結果、OHラジカルに対するHラジカルの比率が1以上になる状態等、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高い状態でも、空間の雰囲気によっては、エッチングレートが高く確保されることが実証された。例えば、OHラジカルに対するHラジカルの比率が2.19になる条件β4では、エッチングレートが、条件α1に対して約5.7倍速く、条件α2に対して1.2倍速くなった。また、OHラジカルに対するHラジカルの比率が1.23になる条件α3では、エッチングレートが、条件α1に対して約7倍速く、条件α2に対して1.4倍速くなった。したがって、OHラジカルに対するHラジカルの比率が高い状態でも、プラズマを用いた処理における処理速度が高く確保されることが実証された。
これらの少なくとも一つの実施形態又は実施例のプラズマ処理方法では、空間へのマイクロ波の照射によって、空間において水蒸気のプラズマを発生させる。そして、プラズマ処理方法では、プラズマが発生している空間においてOHラジカル及びHラジカルが共存する状態に、空間の圧力を調整する。これにより、被処理物の温度を上昇させることなく被処理物が適切に処理されるとともに、被処理物の酸化が適切に抑制されるプラズマ処理方法を提供することができる。
また、これら少なくとも一つの実施形態又は実施例のプラズマ処理装置では、供給機構が空間に水蒸気を供給し、アンテナが空間へマイクロ波を照射することにより、空間においてプラズマを発生させる。圧力調整機構は、プラズマが発生している空間においてOHラジカル及びHラジカルが共存する状態に、空間の圧力を調整する。これにより、処理物の温度を上昇させることなく被処理物が適切に処理されるとともに、被処理物の酸化が適切に抑制されるプラズマ処理装置を提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、付記を記載する。
[1]マイクロ波を空間に照射することと、
前記空間に水蒸気を含むガスを供給し、前記空間への前記マイクロ波の照射によって、前記空間においてプラズマを発生させることと、
発生した前記プラズマを用いて被処理物を処理することと、
前記プラズマが発生している前記空間においてOHラジカル及びHラジカルが共存する状態に、前記空間の圧力を調整することと、
を具備するプラズマ処理方法。
[2]前記空間の前記圧力を調整することは、前記空間の雰囲気において、前記水蒸気の圧力を0.2kPa以上2.4kPa以下に調整し、発光分析におけるOHラジカルに由来するピーク強度に対するHラジカルに由来するピーク強度の比率を0.5以上3.0以下に調整することを備える、[1]のプラズマ処理方法。
[3]前記空間に前記ガスを供給することは、前記空間に前記水蒸気のみを供給し、前記空間を前記水蒸気の雰囲気にすることを備え、
前記空間の前記圧力を調整することは、前記水蒸気の雰囲気において、前記水蒸気の前記圧力を0.2kPa以上0.65kPa以下に調整することを備える、
[2]のプラズマ処理方法。
[4]前記空間に前記ガスを供給することは、前記空間に前記水蒸気及び不活性ガスを供給し、前記空間を前記水蒸気と前記不活性ガスとの混合ガスの雰囲気にすることを備え、
前記空間の前記圧力を調整することは、前記混合ガスの前記雰囲気において、前記水蒸気の前記圧力を0.2kPa以上1.3kPa以下に調整することを備える、
[2]のプラズマ処理方法。
[5]前記空間への前記ガスの供給と並行して、前記マイクロ波が照射される前記空間を排気し、前記空間を減圧することをさらに具備する、請求項1乃至4のいずれか1項のプラズマ処理方法。
[6]基材の表面に金属粒子及び有機物を含む膜を形成することと、
[1]乃至[5]のいずれか1項のプラズマ処理方法によって前記プラズマを発生させることと、
発生した前記プラズマを用いて、前記膜において、前記有機物を除去するとともに、前記金属粒子を焼結することと、
を具備する、金属膜の形成方法。
[7]基材の表面に金属膜を形成することと、
前記金属膜の表面に有機物を含む有機膜を形成することと、
[1]乃至[5]のいずれか1項のプラズマ処理方法によって前記プラズマを発生させることと、
発生した前記プラズマを用いて、前記有機膜において、前記有機物を除去することと、
を具備する、有機膜の除去方法。
[8]被処理物を載置可能な載置部と、
マイクロ波を前記載置部の側に照射可能に構成されるアンテナと、
前記アンテナから前記マイクロ波が照射される空間に水蒸気を含むガスを供給し、前記空間への前記マイクロ波の照射によって、前記空間においてプラズマを発生させる供給機構と、
前記プラズマが発生している前記空間においてOHラジカル及びHラジカルが共存する状態に、前記空間の圧力を調整する圧力調整機構と、
を具備する、プラズマ処理装置。