近年のスマートフォン、タブレットの急速な普及や高精細な動画配信サービスの様なリッチコンテンツの増加等により、インターネットのバックボーンネットワークが転送するトラフィックは増え続けている。また、企業におけるクラウドサービスの活用も進んでいる。これらのことから、データセンタ(以下「DC」(Data Center)という。)内、DC間のネットワークのトラフィックが年率約1.3倍の割合で増加することが予測されている。
現在DC内やDC間の接続方式には主にイーサネット(登録商標)が導入されている。通信トラフィックの増大に伴い、単一拠点におけるDCの大規模化が困難になることが予想されている。そのため、今後は今まで以上にDC間連携の必要性が高まり、DC間で送受信されるトラフィックの更なる増大が考えられる。このような状況に対応するためには、低コストかつ大容量の短距離光伝送技術の確立が求められる。
現行のイーサネット(登録商標)規格では、10GbE(Gigabit Ethernet(登録商標))-ZRを除き40kmまでの伝送路に光ファイバ通信が適用されている。また、100GbEまでは光のon、offに2値情報を割り当てる強度変調方式が用いられている。受信側は受光器のみで構成され、長距離伝送で用いるコヒーレント受信方式よりも安価な構成となっている。
100GbEでは、変調スピードが25GBd(GigaBaud)、シンボルあたりの情報量が1bit/symbolのNRZ(Non-return-to-zero)信号を4波多重することで、100Gb/sの伝送容量を実現している。
100GbEの次の世代にあたる400GbEの標準化においては、100GbEで用いられた経済的なデバイス構成の維持と、信号の帯域利用効率を考慮し、初めて2bits/symbolのPAM4(4-level pulse-amplitude-modulation)が採用されている。これにより、400GbEでは、50Gb/sの信号を8波多重することで400Gb/sの伝送容量を実現している。400GbEの規格として、例えば、400GBASE-FR8,LR8などがある。
今後の更なるトラフィック増大に向け、2020年以降、800GbE、1.6TbEの標準化が予定されている。これらの通信速度は、例えば、図15に示すように、200Gb/sのPAM4を採用して変調スピードを100GBaudとした信号を4~8波長多重して実現するか、または、200Gb/sのPAM8を採用して変調スピードを75GBaudとした信号を4~8波長多重して実現することが予定されている。
更なる大容量化に向けた課題として、伝送容量の増大に伴う信号品質劣化、すなわち、デバイスの帯域制限や波長分散の影響が顕在化する。例えば、図16に示すように、伝送容量が増大して利用帯域が増加すると、デバイスの帯域制限により、周波数領域501(斜め線のハッチング領域)が失われてしまう問題が発生する。また、図17に示すように、伝送容量が増大すると、波長分散の影響が大きくなり、干渉する領域502が増大したりする。
このような問題を解決する手法として、高速な通信速度に対応したDAC(Digital to Analog Converter)やADC(Analog to Digital Converter)を用いたり、波長の分散を補償する分散補償モジュール等を用いたりする手法がある。しかし、こういった機器は高価であり、機器に要するコストが高くなるため、経済的な観点からは、回避したい手法である。経済的な観点において、望まれている手法は、従来の送受信器の構成を維持し、多値化、帯域制限耐力、波長分散耐力を向上させて、低コストな狭帯域のデバイスを活用する手法である。しかし、低コストな狭帯域のデバイスを用いる場合、上述したような通信速度の高速化に伴う帯域制限や波長分散による符号間干渉などによって生じる問題を解決する必要がある。
符号間干渉などの問題によって歪んだ受信信号波形から正しい送信データを得るための最も有効な等化方式として、最尤系列推定(以下「MLSE」(Maximum Likelihood Sequential Estimation)という。)が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
例えば、図18は、上述した低コストな狭帯域デバイスを用いて構成された従来の通信システム100を示すブロック図である。通信システム100は、送信側の信号生成装置1、伝送路2、受信側のシンボル判定装置90を備える。信号生成装置1は、外部から与えられるm値データ信号を取り込み、電気信号の送信信号系列{st}を生成する。ここで、mは、シンボル多値度であり、2以上の整数である。また、tは、送信信号系列を識別する識別番号であり、送信信号系列{st}に含まれるシンボル数がN個であるとすると、例えば、1,2,3,…,Nといった整数値が割り当てられる。
伝送路2の強度変調器2-2は、信号生成装置1が出力する電気信号の送信信号系列{st}を取り込み、取り込んだ電気信号の送信信号系列{st}によって光源2-1が出射する光を変調し、光信号の送信信号系列{st}を生成する。光ファイバ2-3は、強度変調器2-2が生成した光信号の送信信号系列{st}を伝送する。受光器2-4は、光ファイバ2-3が伝送する光信号の送信信号系列{st}を光信号の受信信号系列{rt}として受光し、電気信号の受信信号系列{rt}に変換して出力する。
このとき、伝送路2を等化回路によって示すと、図19に示すような構成となる。図19において、遅延器82-1~82-2Lは、入力シンボルを取り込んで記憶し、「T」の時間経過後に記憶した入力シンボルを出力する。ここで、「T」は、シンボル間隔であり、シンボルごとの演算のタイミングは、「tT」となる。
遅延器81は、入力シンボルを取り込んで記憶し、「-LT」の時間経過後に記憶した入力シンボルを出力する。なお、遅延量にマイナス符号が付いているため、遅延器81は、「LT」の負遅延を与えていることになる。ここでは、伝送路2において、時刻tにおける符号の前後Lシンボル分の符号間干渉が発生するものとして、遅延器81により光信号の送信信号系列{st}の要素stの前後Lシンボル分を伝達関数部83に与えている。
伝達関数部83は、遅延器81,82-1~82-2Lが出力するシンボル系列に伝達関数(H)を適用する。加算器85は、伝達関数部83の出力値に対して、雑音成分であるωtを加算して、受信信号系列{rt}を生成する。ωtは、平均0、分散δ2の互いに独立なガウスランダム系列である。
図19の等化回路が生成する受信信号系列{rt}を式で示すと次式(1)となる。式(1)において、t=1,2,…,Nである。
図20は、伝送路2が出力する受信信号系列{rt}に基づいてMLSEによって送信シンボル系列の識別を行う識別回路であるシンボル判定装置90の内部構成を示した図である。伝送路2における伝達関数(H)は、未知の関数である。そのため、シンボル判定装置90は、伝送路2の伝達関数(H)を推定し、推定した伝達関数(H’)(以下「推定伝達関数(H’)」という。)を用いて受信シンボル系列のレプリカを生成する。以下、推定伝達関数(H’)によって複製した受信シンボル系列を推定受信シンボル系列という。シンボル判定装置90は、生成した推定受信シンボル系列と、受信信号系列{rt}から得られるシンボル系列とを比較し、最も尤もらしい推定受信シンボル系列を判定結果とする。
MLSEでは、条件付き結合確率密度関数pN({rN}{s’N})を最大にする送信信号系列{s’t}を探索することで、シンボル判定を行う。条件付き結合確率密度関数pN({rN}{s’N})は、伝送路2を通じて、m値データから生成される系列長Nの送信信号系列{s’t}が送信された場合に、受信信号系列{rt}が受信される確率であり、次式(2)によって表される。
条件付き結合確率密度関数pN({rN}{s’N})を最大にすることは、次式(3)で示される距離関数dNを最小にすることと等価である。なお、式(3)において(p-1)/2=Lである。
式(3)における(s’t-(p-1)/2,…,s’t,…,s’t+(p-1)/2)は、時刻tにおける伝送路2の状態(ステート)μt(以下「伝送路状態μt」という。)を示している。シンボル系列長が「p」の場合、変調シンボルI=[i1,i2,…,im]の全ての組み合わせの数は、「mp」となる。この場合、伝送路2は、mp個の有限の伝送路状態を有する有限状態機械とみなすことができる。有限状態機械とみなすことができることから、例えば、ビタビ・アルゴリズムのような最尤系列推定の手法を用いて、受信信号系列{rt}ごとに、逐次計算を行って距離関数dNを算出することができる。
時刻tにおいて、伝送路状態μtに到達する距離関数dt({μt})は、時刻t-1における距離関数dt-1({μt-1})と、時刻tにおける状態遷移に伴う尤度、すなわちメトリックb(rt;μt-1→μt)とを用いて次式(4)によって表される。
メトリックb(rt;μt-1→μt)は、推定伝達関数(H’)を用いて次式(5)として表される。
時刻tにおけるメトリックbは、t-1からtへの状態遷移にのみ依存し、それ以前の状態遷移には依存しない。ここで、伝送路状態μtに到達する距離関数の最小値d_mint-1(μt-1)と、これに対応する全状態遷移が、時刻t-1における全ての伝送路状態μt-1において既知であると仮定する。
この仮定の下で、伝送路状態μtに到達する距離関数dt({μt})の最小値を求める場合、全ての状態遷移に対応する距離関数dt({μt})を求める必要はない。伝送路状態μtに遷移する可能性のある全ての伝送路状態{μt-1}について、d_mint-1(μt-1)+b(rt;μt-1→μt)を算出し、この中の最小値を求めれば、その値が伝送路状態μtに到達する全ての距離関数dt({μt})の最小値であるd_mint(μt)になる。これを式で示すと次式(6)で表される。
図20に戻り、シンボル判定装置90において、遅延器92-1~92-(p-1)は、入力シンボルを取り込んで記憶し、「T」の時間経過後に記憶した入力シンボルを出力する。そのため、推定伝達関数部93には、伝送路2の時刻tにおける伝送路状態μtを示す(s’t-(p-1)/2,…,s’t,…,s’t+(p-1)/2)のシンボル系列が与えられる。推定伝達関数部93には、このシンボル系列に対して、推定伝達関数(H’)を適用する。減算器94は、受信信号系列{rt}から推定伝達関数部93の出力値を減算する。絶対値器95は、減算器94の出力値の絶対値を算出し、算出した絶対値が式(5)で示されるメトリックbとなる。
加算比較選択部91は、伝送路状態μtに遷移する可能性のある全ての伝送路状態{μt-1}について、式(6)におけるd_mint-1(μt-1)+b(rt;μt-1→μt)を算出し、算出した値の中の最小値を距離関数dt({μt})の最小値であるd_mint(μt)とする。
パス遡り判定部96は、加算比較選択部91が算出した距離関数dt({μt})の最小値に基づいて、ビタビ・アルゴリズムのトレリスのパスを遡り、信号生成装置1が取り込んだm値データの推定値を求め、求めた推定値を判定結果として出力する。
上記のように、ビタビ・アルゴリズムでは、伝送路状態μtに到達する距離関数dt({μt})の最小値を求める場合、全ての状態遷移に対応する距離関数dt({μt})を求めずに、伝送路状態μtに遷移する可能性のある全ての伝送路状態{μt-1}について、d_mint-1(μt-1)+b(rt;μt-1→μt)を算出するようにしている。これにより、ビタビ・アルゴリズムでは、系列長に対し指数的に増大する演算量を線形的な増大に抑えることができる。そのため、MLSEでは、ビタビ・アルゴリズムを用いることで、演算量を抑えた最尤系列の推定を可能としている。
また、MLSEでは、送信信号波形が受ける符号間干渉を受信器側のデジタル信号処理によって推定して再現することで、高い等化性能を実現する。したがって、推定精度が高いほど符号間干渉による符号誤りを抑制して、符号間干渉によって歪んだ受信信号波形から正しい送信データを得ることが可能になる。MLSEを用いた信号品質劣化抑制技術は、上記のイーサネット(登録商標)の大容量化においても検討されている。
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態における通信システムSの構成を示すブロック図である。通信システムSは、信号生成装置1、伝送路2、及びシンボル判定装置3を備える。
信号生成装置1及び伝送路2は、図18に示した従来の通信システム100が備える信号生成装置1及び伝送路2と同一構成である。信号生成装置1は、外部から与えられるm値データ信号を取り込む。mは、シンボル多値度であり、例えば2以上の整数である。各シンボルは、数字や記号で表される。例えば、m=8の場合、各シンボルは、[0,1,2,3,4,5,6,7]の数字で表される。
信号生成装置1は、取り込んだm値データ信号を送信シンボル系列とし、送信シンボル系列を含む電気信号の送信信号系列{st}を生成する。tは、送信信号系列を識別する識別番号である。送信信号系列{st}に含まれるシンボル数がN個であるとすると、例えばt=1,2,3,…,Nといった整数値が割り当てられる。
伝送路2において、強度変調器2-2は、信号生成装置1が出力する電気信号の送信信号系列{st}を取り込む。強度変調器2-2は、電気信号の送信信号系列{st}に含まれているm値のシンボル系列に基づいて光源2-1が出射する光を変調する。これにより、強度変調器2-2は、m値のシンボル系列を表す光信号の送信信号系列{st}を生成する。
光ファイバ2-3は、強度変調器2-2が生成した光信号の送信信号系列{st}を伝送する。
受光器2-4は、光ファイバ2-3が伝送する光信号の送信信号系列{st}を光信号の受信信号系列{rt}として受光する。受光器2-4は、受光した光信号の受信信号系列{rt}を電気信号の受信信号系列{rt}に変換して出力する。受光器2-4は、例えばフォトダイオードである。
シンボル判定装置3は、伝送路2が出力する受信信号系列{rt}に基づいて、送信シンボル系列の識別を行う識別回路である。シンボル判定装置3は、図2に示す内部構成を備えている。シンボル判定装置3は、仮判定部30、系列推定部40を備える。仮判定部30には、例えば、FFE(Feed Forward Equalizer)が適用される。仮判定部30は、逆伝達関数を推定した関数(以下「推定逆伝達関数」という。)により受信信号系列{rt}を適応等化して硬判定を行い、送信シンボル系列の仮判定を行う。
系列推定部40は、伝送路状態を示すシンボル系列に対して推定伝達関数(H’)を適用して推定受信シンボル系列を生成する。系列推定部40は、生成した推定受信シンボル系列と、パルス幅を圧縮した受信信号系列{rt}とに基づいてメトリックを算出する。また、系列推定部40は、算出したメトリックを用いて、仮判定部30が仮判定したシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲でビタビ・アルゴリズムを実行する。これにより、系列推定部40は、送信シンボル系列の推定値、すなわち信号生成装置1が取り込んだm値データ信号の推定値を求める。
仮判定部30は、適応フィルタ部301、判定処理部302、及び更新処理部303を備える。適応フィルタ部301は、例えば、図3に示すように線形トランスバーサルフィルタである。適応フィルタ部301は、伝送路2の伝達関数(H)の逆伝達関数を推定した推定逆伝達関数により入力信号を適応等化する。
適応フィルタ部301は、図3に示すように、遅延器31,32-1~32-(u-1)、タップ33-1~33-u、及び加算器34を備える。遅延器31は、図4に示すように、N個からなる受信信号系列{rt}の一部であるu個のシンボル系列を取り込む。遅延器31は、取り込んだシンボル系列を記憶し、「(u-1)T/2」の時間経過後、すなわち「(u-1)/2」シンボル分、遅延させて取り込んだシンボル系列を出力する。
タップ33-1には、遅延器31が出力する「(u-1)/2」シンボル分、遅延したシンボルであるrt+(u-1)/2が与えられる。
遅延器32-1~32-(u-1)の各々は、1つのシンボルを取り込んで記憶し、「T」の時間経過後、すなわち1シンボル分、遅延させて取り込んだシンボルを出力する。例えば、最初の遅延器32-1は、「(u-3)/2」シンボル分、遅延したrt+(u-3)/2のシンボルを出力する。最後の遅延器32-(u-1)は、「(u-1)/2」シンボル分、遅延したrt+(u-1)/2のシンボルを出力する。これにより、タップ33-1~33-uには、次式(7)で示される系列長uのシンボル系列を含んだ信号が与えられることになる。
タップ33-1~33-uの各々には、いわゆるフィルタ係数値であるf1,f2,…,f(u+1)/2,…,fuのタップ利得値が設定されている。このタップ利得値f1~fuが、推定逆伝達関数を表していることになる。
タップ33-1~33-uは、各々に与えられるシンボルに対して各々のタップ利得値f1~fuを乗算して出力する。加算器34は、タップ33-1~33-uの出力値を合計して出力する。式(7)は、「(u+1)/2」番目の要素であるrtを中心とした系列ということができるため、加算器34の出力値を次式(8)のように表すことができる。
適応フィルタ部301では、遅延器31により「(u-1)T/2」の遅延を与えている。そのため、適応フィルタ部301による線形デジタルフィルタリングの演算タイミングtTの出力値に対応する入力情報であるu個のシンボル系列は、「(u-1)T/2」分の遅延が発生していることになる。
判定処理部302は、適応フィルタ部301の出力値に対して硬判定による仮判定を行い、出力値に対応する送信シンボルの推定値を求める。判定処理部302は、求めた推定値である仮判定シンボルA’を仮判定結果として出力する。
更新処理部303は、適応フィルタ部301の出力値の目標値を判定処理部302が出力する仮判定シンボルA’として、適応フィルタ部301のタップ33-1~33-uの各々のタップ利得値f1~fuの更新値を算出する。例えば、更新処理部303は、タップ利得値f1~fuの更新値、すなわち推定逆伝達関数を所定の更新アルゴリズムにより算出する。
更新処理部303は、図3に示すように、フィルタ更新アルゴリズム処理部35と、減算器36とを備える。更新処理部303において、減算器36は、判定処理部302が出力する仮判定シンボルA’から適応フィルタ部301の出力値を減算して得られる減算値を誤差としてフィルタ更新アルゴリズム処理部35に出力する。
フィルタ更新アルゴリズム処理部35は、減算器36が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムによりタップ利得値f1~fuの更新値を算出する。フィルタ更新アルゴリズム処理部35は、算出したタップ利得値f1~fuを、タップ33-1~33-uに設定して、タップ利得値f1~fuの更新を行う。
系列推定部40は、適応フィルタ部401、系列推定アルゴリズム処理部402、伝送路推定部403、更新処理部404、及びパス遡り判定部405を備える。適応フィルタ部401は、例えば、図3に示すように線形トランスバーサルフィルタであり、伝送路推定部403の記憶長を削減するために、受信信号系列{rt}のインパルスレスポンスを圧縮する。ここで、インパルスレスポンスの圧縮とは、図5に示すように、帯域制限や波長分散のために時間的に広がった受信信号系列{rt}のパルス幅を圧縮することであり、圧縮によりシンボル間の干渉を削減することができる。
適応フィルタ部401は、図3に示すように、遅延器41,42-1~42-(v-1)、タップ43-1~43-v、及び加算器44を備える。遅延器41は、遅延器31と同様に、図4に示すように、N個からなる受信信号系列{rt}の一部であるv個のシンボル系列を取り込む。ここで、vは、uと同一値であってもよいし、異なる値であってもよい。
遅延器41は、取り込んだシンボル系列を記憶し、「(v-1)T/2」の時間経過後、すなわち「(v-1)/2」シンボル分、遅延させて取り込んだシンボル系列を出力する。タップ43-1には、遅延器41が出力するシンボルであるrt+(v-1)/2が与えられる。
遅延器42-1~42-(v-1)の各々は、1つのシンボルを取り込んで記憶し、「T」の時間経過後、すなわち1シンボル分、遅延させて取り込んだシンボルを出力する。例えば、最初の遅延器42-1は、「(v-3)/2」シンボル分、遅延したrt+(v-3)/2のシンボルを出力する。最後の遅延器42-(v-1)は、「(v-1)/2」シンボル分、遅延したrt+(v-1)/2のシンボルを出力する。これにより、タップ43-1~43-vには、次式(9)で示される系列長vのシンボル系列を含んだ信号が与えられることになる。
タップ43-1~43-vの各々には、いわゆるフィルタ係数値であるc1,c2,…,c(v+1)/2,…,cvのタップ利得値が設定されている。タップ43-1~43-vは、各々に与えられるシンボルに対して各々のタップ利得値を乗算して出力する。加算器44は、タップ43-1~43-vの出力値を合計して出力する。式(9)は、「(v+1)/2」番目の要素であるrtを中心とした系列ということができるため、加算器44の出力値を式によって表すと、次式(10)になる。
式(10)から分かるように、適応フィルタ部401は、タップ利得値c1,c2,…,c(v+1)/2,…,cvにより影響度合いが調整されているが、v個分のシンボル系列の情報量を圧縮した1つの出力シンボルを出力していることになる。
MLSEの演算量は、パルスの広がり幅に対して指数的に増大することが知られているが、適応フィルタ部401によってパルス幅を圧縮することにより演算量の増大を抑えることができる。
適応フィルタ部401では、遅延器41により「(v-1)T/2」の遅延を与えている。そのため、適応フィルタ部401による線形デジタルフィルタリングの演算タイミングtTの出力値に対応する入力情報であるv個のシンボル系列は、「(v-1)T/2」分の遅延が発生していることになる。
伝送路推定部403には、時刻tにおける伝送路2の伝送路状態μtを表すシンボル系列のうち、仮判定部30が仮判定したシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲で表されるシンボル系列が与えられる。伝送路推定部403は、近傍加算比較選択部51から与えられるシンボル系列の各々に対して推定伝達関数(H’)を適用してシンボル系列ごとの推定受信シンボル系列を生成する。
伝送路推定部403は、例えば、図3に示すように線形トランスバーサルフィルタである。伝送路推定部403は、遅延器62-1~62-(x-1)、タップ61-1~61-x、及び加算器63を備える。遅延器62-1~62-(x-1)の各々は、1つのシンボルを取り込んで記憶し、「T」の時間経過後、すなわち1シンボル分、遅延させて取り込んだシンボルを出力する。近傍加算比較選択部51から与えられる時刻tにおける伝送路2の伝送路状態μtは、次式(11)に示すシンボル系列{s’t}として表すことができる。なお、xは、記憶長の値に一致し、記憶長が「3」である場合、x=3となる。
タップ61-1~61-xの各々には、式(11)のシンボル系列{s’t}に含まれるシンボルの各々が与えられる。タップ61-1~61-xの各々には、いわゆるフィルタ係数値である推定伝達関数(H’)の係数値h1,h2,…,h(x+1)/2,…,hxが設定されている。例えば、タップ61-1は、h1×s’t-(x-1)/2の演算を行う。タップ61-2~61-xも、同様に、各々の係数値と、与えられるシンボルとを乗算し、乗算結果を加算器63に出力する。加算器63は、乗算結果の合計値を出力する。加算器63の出力値が、推定受信シンボル系列を構成するシンボルとなり、次式(12)として表される。
系列推定アルゴリズム処理部402は、伝送路状態μtごとのメトリックを算出する。系列推定アルゴリズム処理部402は、算出した伝送路状態μtごとのメトリックを用いて、仮判定部30が仮判定したシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲でビタビ・アルゴリズムを実行する。
系列推定アルゴリズム処理部402は、減算器54、絶対値器53、及び近傍加算比較選択部51を備える。減算器54は、式(10)に示す適応フィルタ部401の出力値から、式(12)に示す伝送路推定部403の出力値を減算する。減算器54は、減算により得られる減算値を絶対値器53に出力する。絶対値器53は、減算器54から受けた減算値の絶対値を算出する。絶対値器53が算出した絶対値が、メトリックであり次式(13)として表される。
近傍加算比較選択部51は、仮判定部30が仮判定結果として出力する複数の仮判定シンボルA’を取りこむ。近傍加算比較選択部51は、複数の仮判定シンボルA’を用いて、予め定められる記憶長の長さを系列長とする仮判定シンボル系列{A’t}を生成する。近傍加算比較選択部51は、時刻tにおける伝送路2の伝送路状態μtを表すシンボル系列のうち、仮判定シンボル系列{A’t}に含まれるシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲で表される複数のシンボル系列{s’t}を生成する。近傍加算比較選択部51は、生成した複数のシンボル系列{s’t}を伝送路推定部403に出力する。
近傍加算比較選択部51は、絶対値器53が出力する伝送路状態μtごとのメトリックを用いて、仮判定シンボル系列{A’t}に含まれるシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲でビタビ・アルゴリズムを実行する。近傍加算比較選択部51は、ビタビ・アルゴリズムを実行することにより、推定受信シンボル系列の尤もらしさを示す距離関数dt({μt})を算出し、算出した距離関数dt({μt})の最小値を検出する。この最小値に対応する推定受信シンボル系列が、最も尤もらしい推定受信シンボル系列になる。
パス遡り判定部405は、近傍加算比較選択部51が検出した距離関数dt({μt})の最小値に基づいて、トレリスのパスを遡って、送信シンボルの判定を行う。なお、遡るパスの始点は、時刻tにおいて伝送路状態μtに到達する際の距離関数dt({μt})が最小値になる伝送路状態である。また、パス遡り判定部405がパスを遡る際の遡り数「w」は予め定められており、遡り数「w」を固定値にすることでパスを判定する演算量を削減することができる。なお、伝送路推定部403の記憶長の数倍程度遡ることで、パスが収束することが知られている。
パス遡り判定部405が、シンボル判定することにより得られる各々のシンボルを判定シンボルAとする。パス遡り判定部405は、判定シンボルAを判定結果として出力する。パス遡り判定部405が順次判定する判定シンボルAを系列に並べた判定シンボル系列{At}が、送信シンボル系列の推定値、すなわち信号生成装置1が取り込んだm値データの推定値となる。
更新処理部404は、適応フィルタ部401のタップ利得値c1~cvと、フィルタ更新用伝送路推定部70の推定伝達関数の係数値h1~hxを算出する。
更新処理部404は、適応フィルタ部401のタップ利得値c1~cvを算出する際、適応フィルタ部401の出力値の目標値を、判定結果である判定シンボル系列{At}を入力情報とするフィルタ更新用伝送路推定部70の出力値とする。更新処理部404は、目標値になるように、適応フィルタ部401のタップ43-1~43-vの各々のタップ利得値c1~cvの更新値を所定の更新アルゴリズムにより算出する。
また、更新処理部404は、フィルタ更新用伝送路推定部70の推定伝達関数の係数値h1~hxを算出する際、フィルタ更新用伝送路推定部70の出力値の目標値を、適応フィルタ部401の出力値とする。更新処理部404は、目標値になるように、フィルタ更新用伝送路推定部70のタップ71-1~71-xの各々の係数値h1~hxの更新値を所定の更新アルゴリズムにより算出する。更新処理部404が算出した係数値h1~hxの更新値は、伝送路推定部403のタップ61-1~61-xにも適用される。
更新処理部404は、図3に示すように、フィルタ更新用伝送路推定部70、フィルタ更新アルゴリズム処理部75、遅延器76、及び減算器77を備える。フィルタ更新用伝送路推定部70の構成は、伝送路推定部403の構成に対応しており、タップ61-1~61-xが、タップ71-~71-xに対応し、遅延器62-1~62-(x-1)が、遅延器72-1~72-(x-1)に対応し、加算器63が、加算器73に対応する。
遅延器76は、適応フィルタ部401の出力値を「-wT」の時間、遅延させて減算器77に出力する。「-wT」の時間、遅延させるのは、パス遡り判定部405における処理により、「-wT」の遅延が生じるためである。遅延器76による「-wT」の遅延により、フィルタ更新用伝送路推定部70の出力値と、適応フィルタ部401の出力値のタイミングが一致することになる。
減算器77は、フィルタ更新用伝送路推定部70の出力値から、「-wT」時間遅延した適応フィルタ部401の出力値を減算し、減算により得られた誤差をフィルタ更新アルゴリズム処理部75に出力する。
フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、減算器77が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムによりタップ利得値c1~cvの更新値を算出する。また、フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、減算器36が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムにより係数値h1~hxの更新値を算出する。
フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、算出したタップ利得値c1~cvを、タップ43-1~43-vに設定して、タップ利得値c1~cvの更新を行う。フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、算出した係数値h1~hxを、タップ71-1~71-x、及び伝送路推定部403のタップ61-1~61-xに設定して、係数値h1~hxの更新を行う。
(第1の実施形態におけるシンボル判定装置による処理)
次に、図6から図9を参照しつつ、第1の実施形態におけるシンボル判定装置3による処理について説明する。
(第1の実施形態における仮判定部による処理)
図6は、シンボル判定装置3の仮判定部30による処理の流れを示すフローチャートである。
適応フィルタ部301の遅延器31が、受信信号系列{rt}から系列長uのシンボル系列を取り込んで記憶する(ステップSa1)。遅延器31は、取り込んだシンボル系列を、「(u-1)T/2」時間遅延させて出力する。遅延器32-1~32-(u-1)の各々は、遅延器31が順次出力するシンボルを取り込んで記憶し、記憶したシンボルを「T」時間経過後に出力する。
これにより、式(7)で示される受信信号系列{rt}のシンボル系列が、タップ33-1~33-uに与えられる。タップ33-1~33-uは、各々に与えられるシンボルrt-(u-1)/2~rt+(u-1)/2と、各々に設定されているタップ利得値f1~fuとを乗算し、乗算した結果を加算器34に出力する。加算器34は、乗算結果を合計して式(8)で示される出力値を算出して出力する。この出力値が、推定逆伝達関数により適応等化された受信信号系列{rt}のシンボルとなる(ステップSa2)。
判定処理部302は、適応フィルタ部301の出力値に対して硬判定による仮判定を行い、送信シンボルの推定値を求める。判定処理部302は、求めた推定値である仮判定シンボルA’を仮判定結果として出力する(ステップSa3)。
減算器36は、判定処理部302が出力する仮判定シンボルA’から適応フィルタ部301の出力値を減算して得られる減算値を誤差としてフィルタ更新アルゴリズム処理部35に出力する。
フィルタ更新アルゴリズム処理部35は、減算器36が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムによりタップ利得値f1~fuの更新値、すなわち推定逆伝達関数を算出する。フィルタ更新アルゴリズム処理部35は、算出したタップ利得値f1~fuを、タップ33-1~33-uに設定して、タップ利得値f1~fuの更新を行う(ステップSa4)。
適応フィルタ部301の遅延器31が、前回のステップSa1において取り込んだ系列長uのシンボル系列の先頭から1シンボルずらしたシンボルを先頭として、受信信号系列{rt}から系列長uのシンボル系列を取り込める場合(ステップSa5、Yes)、ステップSa1の処理を行う。一方、遅延器31が、前回のステップSa1において取り込んだ系列長uのシンボル系列の先頭から1シンボルずらしたシンボルを先頭として、受信信号系列{rt}から系列長uのシンボル系列を取り込めない場合(ステップSa5、No)、処理を終了する。
(第1の実施形態における系列推定部による処理)
図7は、シンボル判定装置3の系列推定部40による処理の流れを示すフローチャートである。適応フィルタ部401の遅延器41が、受信信号系列{rt}から系列長vのシンボル系列を取り込んで記憶する(ステップSb1-1)。遅延器41は、取り込んだシンボル系列を「(v-1)T/2」時間遅延させて出力する。遅延器42-1~42-(v-1)の各々は、遅延器41が順次出力するシンボルを取り込んで記憶し、記憶したシンボルを「T」時間経過後に出力する。
これにより、式(9)で示される受信信号系列{rt}のシンボル系列が、タップ43-1~43-vに与えられる。タップ43-1~43-vは、各々に与えられるシンボルrt-(v-1)/2~rt+(v-1)/2と、各々に設定されているタップ利得値c1~cvとを乗算し、乗算した結果を加算器44に出力する。加算器44は、乗算結果を合計して式(10)により示される出力値を算出し、算出した出力値を受信信号系列{rt}の情報量を圧縮したシンボルとして出力する(ステップSb1-2)。
ステップSb1-1,Sb1-2の処理と並列に近傍加算比較選択部51は、仮判定部30が仮判定結果として出力する複数の仮判定シンボルA’を取り込む(ステップSb2-1)。近傍加算比較選択部51は、予め定められる記憶長の長さを系列長とする仮判定シンボル系列{A’t}を生成する。例えば、近傍加算比較選択部51が取り込んだシンボルを並べた、シンボル系列が[A’t-(p-1)/2,…,A’t-1,A’t,A’t+1,…,A’t+(p-1)/2]であるとする。
このとき、記憶長が「3」、近傍のシンボル範囲として隣接±1シンボルとすることが予め定められているとする。近傍加算比較選択部51は、記憶長が「3」であることから、例えば、時刻tにおいて「A’t」と、「A’t」の前後1シンボルを含んだ[A’t-1,A’t,A’t+1]を仮判定シンボル系列{A’t}として選択する。
近傍加算比較選択部51は、図8に示すように、トレリス図において、中央付近に実線で示す仮判定シンボル系列[A’t-1,A’t,A’t+1]に含まれるシンボルの各々の隣接±1のシンボルの範囲を時刻tにおける伝送路2の伝送路状態μtを示すシンボル系列{s’t}とする。
すなわち、(1)[A’t-1]と、[A’t-1]の隣接±1である[A’t-1+1]と[A’t-1-1]の3シンボルと、(2)[A’t]と、[A’t]の隣接±1である[A’t+1]と[A’t-1]の3シンボルと、(3)[A’t+1]と、[A’t+1]の隣接±1である[A’t+1+1]と[A’t+1-1]の3シンボルによって示されるトレリスの枝、すなわち、図8の破線と1本の実線で示されるトレリスの枝を伝送路状態μtの範囲とする。
上述したように、シンボル多値度が「m」であり、シンボル系列長が「p」である場合、トレリスの枝は、mp本になる。仮に、記憶長を「3」にしたとしても枝数は、m3本となる。これに対して、上記のように、隣接±1シンボルにすることで、m=3にすることができるので、図8に示すように、枝数を33=27本に絞り込むことができる。
近傍加算比較選択部51は、仮判定シンボルの各々を中心とした近傍のシンボルの範囲に絞った伝送路状態μtの各々を表すシンボル系列を伝送路推定部403に出力する。このシンボル系列は、式(11)で表され、記憶長が「3」の場合、[s’t-1,s’t,s’t+1]になる。
伝送路推定部403の遅延器62-1~62-(x-1)の各々は、取り込んだシンボルを記憶し、「T」時間経過後に取り込んだシンボルを出力する。タップ61-1~61-xの各々には、シンボル系列{s’t}に含まれるシンボルの各々が与えられる。
タップ61-1~61-xは、各々の係数値h1~hxと、与えられたシンボルとを乗算し、乗算結果を加算器63に出力する。加算器63は、乗算結果を合計して式(12)により示される出力値を算出して出力する。加算器63が順次出力する出力値が、推定受信シンボル系列を構成するシンボルになる(ステップSb2-2)。
減算器54は、式(10)により示される適応フィルタ部401の出力値から、式(12)により示される伝送路推定部403の出力値を減算し、減算により得られる減算値を絶対値器53に出力する。絶対値器53は、減算器54から受けた減算値の絶対値を算出する。絶対値器53が算出した絶対値が、式(13)として表されるメトリックとなる(ステップSb3)。
例えば、近傍加算比較選択部51が、トレリスの枝数を27本に絞った場合、伝送路状態μtの各々とは、図8に示す最初の枝[A’t-1-1,A’t-1,A’t+1-1]から最後の枝の[A’t-1+1,A’t+1,A’t+1+1]までの27個のシンボル系列{s’t}になる。伝送路推定部403は、27個のシンボル系列{s’t}の各々に対して推定伝達関数(H’)を適用し、式(12)によって示される27個の出力値を算出する。したがって、絶対値器53も、27個のメトリックを算出することになる。
近傍加算比較選択部51は、図8に示すトレリス図において、中央付近に実線で示す仮判定シンボル系列[A’t-1,A’t,A’t+1]に含まれるシンボルの各々の隣接±1のシンボルの範囲でビタビ・アルゴリズムを実行する。近傍加算比較選択部51は、ビタビ・アルゴリズムを実行して、距離関数dt({μt})を算出し、算出した距離関数dt({μt})の最小値を検出する(ステップSb4)。
パス遡り判定部405は、近傍加算比較選択部51が算出した距離関数dt({μt})の最小値に基づいて、トレリスのパスを遡って、シンボル判定を行い、判定シンボルAを求める。パス遡り判定部405は、判定シンボルAを判定結果として出力する(ステップSb5)。パス遡り判定部405が順次判定する判定シンボルAを系列に並べた判定シンボル系列{At}が、送信シンボルの推定値、すなわち信号生成装置1が取り込んだm値データの推定値となる。
フィルタ更新用伝送路推定部70の遅延器72-1~72-(x-1)の各々は、パス遡り判定部405が順次出力する判定シンボルAを取り込んで記憶し、「T」時間経過後に記憶した判定シンボルAを出力する。タップ71-1~71-xの各々には、判定シンボル系列{At}に含まれるシンボルの各々が与えられる。タップ71-1~71-xは、各々の係数値h1~hxと、与えられたシンボルとを乗算し、乗算結果を加算器73に出力する。加算器73は、乗算結果の合計値を算出して出力する。
遅延器76は、適応フィルタ部401の出力値を「-wT」の時間、すなわち「-w」シンボル分、遅延させて減算器77に出力する。減算器77は、フィルタ更新用伝送路推定部70の出力値から、「-wT」時間遅延した適応フィルタ部401の出力値を減算し、減算により得られた誤差をフィルタ更新アルゴリズム処理部75に出力する。
フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、減算器77が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムにより係数値h1~hxの更新値を算出する。フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、算出した係数値h1~hxを、各々に対応するタップ71-1~71-x、及びする伝送路推定部403のタップ61-1~61-xに設定して、係数値h1~hxの更新を行う(ステップSb6)。
フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、減算器77が出力する誤差に基づいて、誤差を小さくするように所定の更新アルゴリズムによりタップ利得値c1~cvの更新値を算出する。フィルタ更新アルゴリズム処理部75は、算出したタップ利得値c1~cvを、各々に対応するタップ43-1~43-vに設定して、タップ利得値c1~cvの更新を行う(ステップSb7)。
適応フィルタ部401の遅延器41が、前回のステップSb1-1において取り込んだ系列長vのシンボル系列の先頭から1シンボルずらしたシンボルを先頭として、受信信号系列{rt}から系列長vのシンボル系列を取り込める場合(ステップSb8、Yes)、ステップSb1-1、Sb2-1の処理を行う。一方、遅延器41が、前回のステップSb1-1において取り込んだ系列長vのシンボル系列の先頭から1シンボルずらしたシンボルを先頭として、受信信号系列{rt}から系列長vのシンボル系列を取り込めない場合(ステップSb8、No)、処理を終了する。
なお、上記の図7に示す処理において、ステップSb6とステップSb7の処理の順番が逆になっていてもよい。
上記の第1の実施形態の構成において、仮判定部30は、伝送路2から取り込む受信信号系列に対して伝送路2の推定逆伝達関数による適応等化を行ってシンボル系列を生成し、生成したシンボル系列に対して仮判定を行う。伝送路推定部403は、伝送路状態を示す複数のシンボル系列と、伝送路2の推定伝達関数とに基づいて、伝送路状態ごとの推定受信シンボル系列を生成する。系列推定アルゴリズム処理部402は、受信信号系列から得られるシンボル系列と、推定受信シンボル系列の各々とのメトリックを算出し、算出したメトリックと、仮判定部30が仮判定した仮判定シンボルと、仮判定シンボルの近傍のシンボルとに基づいて所定の推定アルゴリズムにより最も尤もらしい推定受信シンボル系列を選択する。また、系列推定アルゴリズム処理部402は、仮判定部30が、仮判定した仮判定シンボルと仮判定シンボルの近傍のシンボルの範囲で伝送路状態を示す複数のシンボル系列を生成する。パス遡り判定部405は、最も尤もらしい推定受信シンボル系列に基づいて、トレリスのパスを遡って送信シンボル系列の判定を行う。そのため、系列推定アルゴリズム処理部402は、仮判定部30が仮判定した仮判定シンボルと、仮判定シンボルの近傍のシンボルの範囲に絞って、すなわちトレリスの枝数を削減して演算を行えばよくなる。したがって、受信信号系列から送信シンボルの判定を行う際、シンボル多値度が増加した場合であっても、トレリスの枝数を増加させずに、演算量の増大を防ぐことができる。
ビタビ・アルゴリズムでは、上述したように、伝送路状態μtに到達する距離関数の最小値d_mint-1(μt-1)と、これに対応する全状態遷移が、時刻t-1における全ての伝送路状態μt-1において既知であると仮定する。この仮定により、伝送路状態μtに到達する距離関数dt({μt})の最小値を求める場合、全ての状態遷移に対応する距離関数dt({μt})を求める必要がなく、伝送路状態μtに遷移する可能性のある全ての伝送路状態{μt-1}について、d_mint-1(μt-1)+b(rt;μt-1→μt)を算出すればよいことになる。このように、演算量が少ないビタビ・アルゴリズムであるが、ビタビ・アルゴリズムの演算量は、トレリスの枝数が支配的であり、高多値度符号や、広域な符号間干渉の推定の際には演算量が多くなってしまう。これに対して、上記の第1の実施形態の構成では、近傍加算比較選択部51は、更に、仮判定部30が仮判定した仮判定シンボル系列{A’t}に含まれるシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲に絞って伝送路状態μtに到達する距離関数dt({μt})を算出するため、更に演算量の削減を行うことが可能になる。
従来のMLSEでは、例えば、記憶長「3」の場合、トレリスの枝数は、m3本となる。伝送路推定部403には、m3個のシンボル系列が与えられるため、伝送路推定部403は、m3回の演算を行う必要があり、また、絶対値器53が算出するメトリックの数もm3になる。これに対して、上記の第1の実施形態の構成では、近傍加算比較選択部51は、仮判定シンボル系列{A’t}に含まれるシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲に絞って伝送路状態μtを表すシンボル系列を生成している。したがって、シンボル多値度mが大きくなった場合でも、仮判定シンボル系列{A’t}に含まれるシンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲を予め制限しておくことで、シンボル多値度の増加による演算量の増加を抑えることができる。
仮判定部30には、例えば、上述したように、FFEが適用されるが、FFEは、演算量の少ない適応等化技術である。そのため、第1の実施形態におけるシンボル判定装置3のように、最初に演算量の少ないFFEによって、シンボルの仮判定を行い、仮判定結果として得られた仮判定シンボルの各々を中心とする近傍のシンボル範囲に絞る手法の方が、シンボルの推定を全てMLSEによって行う手法よりも少ない演算量でシンボル推定を行うことができる。
隣接±1よりも広い符号間干渉(ISI:Inter-Symbol Interference)を推定する場合、近傍のシンボルの範囲として、隣接±n(ただし、nは、2以上の整数)にすることになり、この場合、記憶長を「3」とするとトレリスの枝の数は、(2n+1)3となり、記憶長を「q」とすると、(2n+1)qという一般式で表すことができる。現時点での信号処理チップの製造コストや消費電力の観点からn=1,2程度が現実的な値であるが、今後の半導体加工技術の性能、すなわち信号処理性能の向上によっては、nの値を更に大きな値することが可能である。
なお、図8において、A’t+1やA’t-1などに相当するシンボルが存在しない場合、例えば、[i1,i2,…,im]をシフトしたシンボルを用いる。i1-1の場合、imとなり、im+1の場合i1となる。これらのシンボルは、仮判定シンボルの近傍ではないが、距離関数dt({μt})が大きくなるため、最終的な判定結果として選択されない。8値データ信号の場合であって、記憶長が「3」、仮判定シンボルとして[5,3,7]が得られた場合を例に具体的に示すと、図9のようなトレリス図となる。
なお、上記の第1の実施形態の構成において、系列推定部40が適応フィルタ部401を備えない構成であってもよい。この場合、系列推定アルゴリズム処理部402の減算器54は、適応フィルタ部401の出力値の代わりに受信信号系列{rt}を取り込むことになる。
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態におけるシンボル判定装置3aの内部構成を示すブロック図であり、図11は、第2の実施形態におけるシンボル判定装置3aの詳細な内部構成を示すブロック図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。
図10に示すように、シンボル判定装置3aは、仮判定部30と系列推定部40aを備える。系列推定部40aは、適応フィルタ部401a、系列推定アルゴリズム処理部402、伝送路推定部403、更新処理部404、及びパス遡り判定部405を備える。
適応フィルタ部401aの入力端は、仮判定部30の適応フィルタ部301の出力端に接続されている。より詳細には、図11に示すように、適応フィルタ部301の加算器34の出力端と、適応フィルタ部401aの遅延器41の入力端とが接続されている。
第1の実施形態におけるシンボル判定装置3において説明したように、適応フィルタ部301は、推定逆伝達関数による適応等化により、受信信号系列{rt}を送信信号系列に近づけることを目的としている。そのため、推定逆伝達関数による適応等化の際に高周波領域の雑音を増幅させることになる。系列推定部40aの適応フィルタ部401aでは、適応フィルタ部301が増幅させてしまった高周波領域の雑音を抑える程度の少ないタップ数のフィルタリング処理を行うだけで、高周波領域の雑音を抑えるとともにパルス幅の圧縮処理を行うことができる。すなわち、第2の実施形態では、適応フィルタ部301の出力信号を利用することで、適応フィルタ部401aにおけるパルス幅の圧縮処理の効率化を図ることができる。
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、系列推定部40aが適応フィルタ部401aを備えない構成としてもよい。この場合、系列推定アルゴリズム処理部402の減算器54は、適応フィルタ部401aの出力値の代わりに適応フィルタ部301の出力値を取り込むことになる。
(BCJRアルゴリズムを用いる他の構成例)
上記の第1及び第2の実施形態におけるシンボル判定装置3,3aが備える近傍加算比較選択部51は、送信シンボル系列を推定する推定アルゴリズムとして、ビタビ・アルゴリズムを実行していたが、本発明の構成は、当該実施の形態に限られない。例えば、近傍加算比較選択部51が、シンボルごとに異なる事前確率が存在する場合に有効な最大事後確率(Maximum A Posteriori probability:MAP)復号法であるBCJRアルゴリズムを実行するようにしてもよい。なお、ビタビ・アルゴリズムによる最尤復号法は、MAP復号法において事前確率が全てのシンボルにおいて等確率にした場合と等価な手法である。
LDPC(Low Density Parity Check)符号のBCJRアルゴリズムでは、MLSEのビタビ・アルゴリズムと同様に、トレリス図が用いられる。そのため、BCJRアルゴリズムを用いる場合、シンボル判定装置3,3aの構成を変更する必要はない。近傍加算比較選択部51が実行するアルゴリズムを、ビタビ・アルゴリズムから、BCJRアルゴリズムに置き換えることで、BCJRアルゴリズムを用いた送信シンボル系列の推定を行うことができる。
近傍加算比較選択部51は、仮判定部30が仮判定した仮判定シンボルと、仮判定シンボルの各々を中心とする近傍のシンボルの範囲でBCJRアルゴリズムを実行することになる。このとき、シンボルを表すバイナリ値の「0」か「1」のいずれか一方の値の条件付き確率が0%になることがある。BCJRアルゴリズムでは、対数尤度比を軟判定出力としており、条件付き確率が0%になると、対数尤度比が無限大になるという問題がある。
このBCJRアルゴリズムの問題点を、具体例を用いて説明する。図12は、シンボル多値度m=8の場合のgray符号を示した図である。gray符号では、誤って隣接シンボルとして判定してしまった場合、バイナリ値の誤りを最小限に抑える符号になっている。例えば、「3」と判定すべきところを「2」と判定してしまった場合、バイナリ値では1つ目と2つ目が同じ「01」を表しているので、バイナリ値の誤りを3つ目の値のみに抑えることができる。
例えば、記憶長「3」の場合、BCJRアルゴリズムの演算対象の伝送路状態として、図13に示す9通りの状態が存在しているとする。この場合、シンボル「2」,「3」,「4」についてみると、2番目の位置のバイナリ値が必ず「1」になるため、2番目の位置のバイナリ値が「1」になる条件付き確率が100%になり、「0」になる条件付き確率が0%になる。この場合、対数尤度比Rを算出すると、次式(14)に示すように無限大になる。
なお、式(14)において、P(u=1)が「1」になる確率であり、P(u=0)が「0」になる確率である。対数尤度比Rが、無限大ならず、かつ無限大に近い値を示すことができれば、この問題を解決することができる。そこで、対数尤度比Rが無限大になる場合、対数尤度比Rとして、予め定められる十分大きな値を適用するという手法が考えられる。例えば、P(u=1)=0.999999にした場合の対数尤度比Rは、R≒6になるため、R=10程度の値を適用する。なお、バイナリ値の「0」と「1」は、単なる表記上の相違であり、「0」と「1」が逆の場合についても同様である。
バイナリ値の条件付き確率は、仮判定シンボルと、近傍のシンボルによって決まるため、近傍加算比較選択部51が、仮判定部30から仮判定シンボルを受けた時点で、対数尤度比Rが無限大になるバイナリ値の位置を特定することができる。
そこで、近傍加算比較選択部51の内部の記憶領域に、例えば、図14に示すようなテーブルを予め記憶させておく。図14に示すテーブルは、「仮判定シンボル値」、「対象シンボル値」、「バイナリ値の位置」の項目を有している。「仮判定シンボル値」の項目には、仮判定シンボルを示す0~7の値が書き込まれる。「対象シンボル系列」には、記憶長「3」の場合における近傍シンボルを含んだシンボル系列が書き込まれる。
「バイナリ値の位置」には、「0」か「1」の一方のバイナリ値の条件付き確率が0%になる位置を示す情報が書き込まれる。例えば、仮判定シンボルが「3」の場合、すなわち「2」,「3」,「4」の系列の場合、2番目のバイナリ値が「0」になる条件付き確率が0%になる。これに対して、仮判定シンボルが「1」の場合、すなわち「0」,「1」,「2」の系列の場合、1番目のバイナリ値が「1」になる条件付き確率が0%になる。
このようなテーブルを備えておくことで、近傍加算比較選択部51は、仮判定部30から仮判定シンボルを受けた際、テーブルを参照することにより、対数尤度比Rが無限大になるバイナリ値の位置を特定することができる。そして、特定した位置について、対数尤度比Rとして、予め定められる十分大きな値、例えば「10」程度の値を用いて演算を進める。これにより、近傍加算比較選択部51は、BCJRアルゴリズムの演算を問題なく行うことができる。
なお、上記の第1及び第2の実施形態の構成において、適応フィルタ部301、適応フィルタ部401,401a、伝送路推定部403、及びフィルタ更新用伝送路推定部70に、線形トランスバーサルフィルタが適用されるとしているが、本発明の構成は、当該実施の形態に限られない。適応フィルタ部301、適応フィルタ部401,401a、伝送路推定部403、フィルタ更新用伝送路推定部70には、他の線形フィルタや非線形フィルタなど、線形トランスバーサルフィルタ以外のフィルタを適用してもよい。
また、上記の第1及び第2の実施形態の構成において、フィルタ更新アルゴリズム処理部35,75が、所定の更新アルゴリズムにより、誤差を小さくするように、タップ利得値f1~fu、タップ利得値c1~cv、係数値h1~hxなどのフィルタ係数値の更新値を算出している。ここで、所定の更新アルゴリズムとして、例えば、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムやRLS(Recursive Least Square)アルゴリズムなどの反復近似解法のアルゴリズムが適用される。
LMSアルゴリズムが適用される場合、各々のタップに設定されるフィルタ係数値の更新値は、例えば、次式(15)によって算出される。
H(n)k+1=H(n)k+φ・E・U(n)k・・・(15)
式(15)において、nは、複数あるタップの識別子であり、kは、更新の回数を示す値である。また、H(n)k+1が、フィルタ係数値の更新値であり、H(n)kが、更新前のフィルタ係数値であり、U(n)kが、更新値を算出する直前にn番目のタップに与えられた入力信号である。Eが、誤差であり、φが適宜定められる収束定数である。フィルタ更新アルゴリズム処理部35,75は、新たなフィルタ係数値を算出するごとに、例えば、算出したフィルタ係数値を内部の記憶領域に書き込んでおき、次回の更新時に、内部の記憶領域から読み出して更新前のフィルタ係数値H(n)kとして用いる。
上述した実施形態におけるシンボル判定装置3,3aをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。