JP7250268B2 - 比熱とエンタルピー変化の測定方法 - Google Patents

比熱とエンタルピー変化の測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、比熱とエンタルピー変化の測定方法に関する。
熱量法を原理として、試料を連続的に直接加熱することを特徴とする比熱の測定方法が、直接加熱法という名称で知られている。図5は、この方法を最も発展させたCezairliyanらが開発した測定装置の概略図である(非特許文献1、2参照)。この測定装置では、まず、バッテリーから試料に1000A以上の電流を流し、温度変化率が1000K/s以上となる急速加熱を行い、最初は室温状態の試料の温度を、1秒以内で所定の目標温度に到達させる。そして、試料の温度が目標温度Tに到達した時間tにて、バッテリーと試料の間にあるスイッチを切断して通電加熱を停止し、試料を自然冷却する。その間の温度T(t)と試料に発生する電力P(t)を連続測定し、温度Tにおける試料の比熱C(T)を、下記(1)式から算出する。
(T)=P(t)/m/((dT/dt)-(dT/dt)) (1)
(1)式中のmは試料の質量を表し、(dT/dt)は目標温度Tに到達する直前の試料の温度変化(上昇)率を表し、(dT/dt)は目標温度Tに到達して電流を切った直後の試料の温度変化(下降)率を表している。
(1)式は、試料の温度がTに到達する直前直後における試料のそれぞれの熱収支式を連立して解くことで得られる。
昇温時の熱収支式:mC(T)(dT/dt)=P(t)+W(T) (2a)
降温時の熱収支式:mC(T)(dT/dt)= W(T) (2b)
(2a)、(2b)式中のW(T)は、温度T(時間t)の試料から試料周囲に散逸する熱損失量を表している。
この測定では、試料の加熱速度を大きくすることにより、以下の理由から、結果の正確性が向上する。1つ目の理由は、加熱速度を大きくすることで、近似的に(dT/dt)/(dT/dt)=0となるため、(1)式を下記の単純な(3)式で近似できるからである。
(T)=P(t)/m/(dT/dt) (3)
(3)式と(1)式を比較すると判るが、(3)式による比熱の導出では(dT/dt)の測定不確かさが含まれなくなるので、比熱測定値の不確かさは減少する。すなわち、加熱速度を増加させることは、入力熱量P(t)に対する熱損失W(T)の相対的大きさを小さくすることを意味しており、結果として熱損失の影響を無視できる(3)式により、正確性が高い比熱を導出することができる。
2つ目の理由は、金属のように電気抵抗率が正の温度依存性を有する物質を試料として通電加熱する場合、電流が低温部分(電気抵抗率が低い部分)により多く流れるため、加熱中の試料の温度分布がより均一になる傾向があり、試料の温度分布が短時間で定常状態に到達することである。3つ目の理由は、短時間で目標温度となるように、試料を通電加熱することにより、試料の高温曝露時間が大幅に減るため、試料と試料周囲(雰囲気ガスや接触している電極等の測定装置の部材)との反応に起因する、測定不確かさを低減できるとともに、測定温度の上限を容易に上げられることである。
この測定は、試料周囲が試料と同じ高温に到達する前に終了するため、一般的に固体の比熱測定に用いられる、示差走査熱量法(DSC)や落下熱量法における測定温度の上限(概ね1500K)を遙かに超えた、超高温状態の試料の比熱測定が可能である。さらに、この測定には、実験に要する時間が非常に短いという利点、および同時に電気抵抗率と全放射率も測定できるという利点がある。
一方、半導体や導電性セラミックス、もしくは相変態を起こす金属/合金を試料として通電加熱する場合、試料の温度分布を定常状態に到達させるためには比較的長い時間を要する。このような物質の比熱を測定するため、昇温速度を数K/s程度として行う直接加熱法が提案されている。昇温速度が小さい場合、入力熱量に対する熱損失の相対的大きさが大きくなるため、比熱を正確に測定するには、熱損失を正確に測定するか、熱損失を物理的に排除する必要がある。Naitoらは、熱損失の物理的な排除を目的として、試料の周囲に、試料と同温度になるように温度制御した断熱壁を設けた上で、比較的低速で加熱することを特徴とする直接加熱法の原理を用いた熱量計(図6参照)を開発している(非特許文献3、4参照)。
A. Cezairliyan, M. S. Morse, H. A. Berman, and C. W. Beckett, J. Res. Natl. Bur. Stand. (U.S.) 74A, 65 (1970). A. Cezairliyan, J. Res. Natl. Bur. Stand. (U.S.) 75C, 7 (1971). K. Naito, H. Inaba, M. Ishida, and K. Seta, J. Phys. E: Sci. Instrum. 12, 712 (1979). K. Seta, T. Matsui, H. Inaba, and K. Naito, J. Nucl. Mater. 110, 47 (1982).
非特許文献1、2に記載されているように、直接加熱法による比熱、エンタルピー変化の測定は、試料に対する加熱速度を増加することにより、測定値の正確性を向上させることができる。ただし、構造や成分が不均質な試料、電気抵抗率の温度依存性が負である試料、相変態が加熱中に生じる試料については、通電加熱中の試料の温度分布が定常状態になるまでに、比較的長い時間を要する場合がある。そのため、これらの場合には、単に試料の加熱速度を上げるだけでは、比熱とエンタルピー変化の測定値の正確性を向上させることが難しい。また、加熱速度を上げる場合、試料の温度変化率を正確に測定するためには温度測定の時間分解能を高くする必要が生じるが、一般に、時間分解能を上げると温度の測定精度は低下してしまう。また、加熱速度を上げようとすると、急峻な電流変化を伴う大電流パルスを試料に流すことになるため、電磁的ノイズが増加し、温度測定の正確性が一般に低下する。
また、非特許文献3、4に記載されているように、熱損失を物理的に排除するために、試料の周囲に、試料と同温度になるように温度制御した断熱壁を設けた場合、試料の他に断熱壁の温度も制御する必要が生じる。そのため、測定可能な温度範囲が、高速加熱を伴う一般的な直接加熱法と比較して低い範囲(1500K近傍)に限定されてしまう。さらに、装置が複雑かつ大型になることにより、測定に要するコストや時間が増加してしまう問題が生じる。したがって、このような低速加熱と断熱壁を用いた特殊な直接加熱法は、DSCや落下熱量法による、汎用的な市販測定装置と同様の温度域の比熱測定に限定されてしまうため、DSCや落下熱量法のような一般的な比熱測定法との差別化は難しい。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高温状態の試料の比熱及びエンタルピー変化を、試料の物理的・化学的特性によらず、短時間で正確に測定することを可能にする比熱とエンタルピー変化の測定方法および測定装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
(1)本発明の一態様に係る比熱とエンタルピー変化の測定方法は、通電加熱により、試料の温度を昇温させる昇温段階と、前記試料の温度を保温する保温段階と、これらの段階を交互に複数回繰り返して行い、全ての前記保温段階について、直近の前記保温段階との間のエンタルピー変化を求め、最初の保温段階の温度に対する各保温段階の温度におけるエンタルピー変化の温度関数を温度微分することにより、前記試料の比熱を求める。
(2)前記(1)に記載の比熱とエンタルピー変化の測定方法において、前記保温段階を、前記試料の温度分布が定常状態になるまで行うことが好ましい。
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載の比熱の測定方法において、前記保温段階を、測定される温度の時間変化率が10K/s以下となるまで行うことが好ましい。
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の比熱の測定方法において、前記保温段階を、測定される電力の時間変化率が100W/s以下となるまで行うことが好ましい。
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の比熱の測定方法において、前記試料として、導電部と、前記導電部に接する非導電部とで構成される複合体を用い、前記導電部を通電加熱することにより、間接的に前記非導電部を加熱したときの前記複合体のエンタルピー変化を求め、前記複合体から前記非導電部を除去し、前記導電部だけを通電加熱することにより、前記導電部のエンタルピー変化を求め、前記複合体のエンタルピー変化から前記導電部のエンタルピー変化を差し引いて導出できる前記非導電部のエンタルピー変化の温度関数を温度微分することにより、前記非導電部の比熱を求めてもよい。
(6)本発明の一態様に係る比熱とエンタルピー変化の測定装置は、試料に電圧を印加する電圧印加手段と、前記電圧によって前記試料に流れる電流の増減を制御する電流制御手段と、前記電流を測定する電流測定手段と、前記電流の方向に対して位置が異なる前記試料中の2点間の電圧を測定する電圧測定手段と、前記試料の温度を測定する温度測定手段と、を有する。
(7)前記(6)に記載の比熱とエンタルピー変化の測定装置において、前記温度測定手段が、前記試料の複数の位置の温度を測定できるように配置され、測定された前記温度に基づき、前記試料の温度分布を測定する温度分布測定手段を、さらに有していてもよい。
本発明の比熱とエンタルピー変化の測定方法および測定装置は、1回の測定過程において、試料を異なる温度で一定に保つ複数回の保温段階を有している。したがって、試料の特性・構造によっては昇温段階における試料内の温度上昇率の分布が不均一になる事により、昇温段階での試料の温度分布が比熱測定に不適当な非定常状態となる場合であっても、各保温段階において、試料の温度分布を比熱測定に適する定常状態に到達させる事ができる。さらに、保温段階における保持時間を適宜延長することにより、試料の温度分布を均一にすることにより、さらに正確な比熱測定も可能となる。つまり、本発明の比熱の測定方法および測定装置による測定は、試料の比熱とエンタルピー変化を、試料の物理的・化学的特性によらず、熱的な定常状態さらには平衡状態(温度分布が均一な状態)を維持しながら行うものであるため、従来の測定に比べて、短時間で正確に実施することを可能とするものである。
本発明の第一実施形態に係る比熱の測定装置の構成を示す図である。 有効試料部に供給する電力の時間変化と、それに伴って加熱された有効試料部の温度の時間変化を示すグラフである。 有効試料部に供給する電力と、有効試料部の温度変化の関係を示すグラフである。 試料の温度と比熱の関係を示すグラフである。 従来技術における比熱の測定装置の構成を示す図である。 従来技術における比熱の測定装置の構成を示す図である。
以下、本発明を適用した実施形態に係る比熱の測定装置および測定方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
(比熱の測定装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る比熱の測定装置100の構成を、模式的に示す図である。比熱の測定装置100は、主に、電圧印加手段101と、電流制御手段102と、電流測定手段103と、電圧測定手段104と、温度測定手段105と、を有する。
電圧印加手段101は、試料Sに電圧を印加するバッテリー(電池、キャパシター、直流電源)であり、試料Sの温度を概ね800K~3300Kまで変える程度の電圧を印加できるものであればよく、その構成については限定されない。
電流制御手段102は、試料Sに印加された電圧によって試料Sに流れる、電流Iの増減を制御するスイッチ素子である。本実施形態では、階段状の昇温プロセスを高速制御するため、このスイッチ素子としては、例えば電界効果トランジスタを用いることが好ましく、その場合の電流Iの増減の制御は、電界効果トランジスタに印加するゲート電圧の大きさを変えて行うことができる。
電流測定手段103は、電流Iを測定するために、電圧印加手段101と試料Sの間に直列接続されている。
電圧測定手段104は、試料Sの電流方向に対する任意の2つの位置の間に印加されている電圧、すなわち、電流の方向に対して位置が異なる(離れた)試料S中の2点間の電圧を測定する電圧計であり、電圧印加手段101と並列になるように、一対の電圧プローブ103aを介して試料Sに電気的に接続されている。
温度測定手段105は、電圧プローブ103aが電圧を測定する試料の領域である有効試料部Saの温度を測定するものであれば測定原理は限定されることはないが、有効試料部Saに対して熱的な干渉をしないで済む非接触測定が可能な放射温度計が好ましい。放射温度計であれば高速の温度測定が可能であるため、試料Sの温度変化率が高い場合等に有効である。
さらに、比熱及びにエンタルピー変化は温度に依存することを考慮すると、実効試料部Saの温度分布を考慮した実効的な試料温度を測定することが好ましいため、温度測定手段105は、有効試料部Saの複数の位置の温度を測定できるように配置されていることが好ましい。この他、比熱の測定装置100は、有効試料部Sa内の温度分布を測定する温度分布測定手段をさらに有していれば、測定結果の正確性を高めると共に測定値と温度との関係性すなわち比熱やエンタルピー変化の温度依存性を正確に決定できるため、より好ましい。
(比熱の測定方法)
本実施形態に係る比熱の測定は、図1に示すような比熱の測定装置100を用い、例えば次の手順で行うことができる。
まず、電圧印加手段(バッテリー)101を駆動し、試料Sに対し、通電加熱用の電流Iを供給する。この電流Iについては、電流測定手段(電流計)103を用いて連続測定する。試料Sのうち、一対の電圧プローブ104aが接触する2点の間を、有効試料部Saとし、その両端の電位差Vを、電圧印加手段(電圧計)104を用いて連続測定する。測定した電流Iと電圧Vの積から、有効試料部Saにおいて単位時間当たりに発生するジュール熱(電力)Pを導出する。
温度測定手段105として例えば放射温度計を用い、主に、有効試料部Saの中心付近の温度を測定する。有効試料部Saの温度分布が顕著に不均一と推定される場合には、中心以外に複数点の温度も測定し、その平均等から有効試料部Saの実質的な温度を算出することが好ましい。
本実施形態の比熱の測定方法では、試料Sの加熱プロセスにおいて、通電加熱により、試料Sの温度を昇温させる昇温段階と、試料Sの温度を保温する保温段階と、を交互に複数回ずつ、好ましくは保温段階を5回以上(昇温段階は4回以上)行う。
昇温段階では、500K/s以上の温度変化率で試料Sを昇温させるように、試料Sに電力Pを供給する。保温段階では、供給する電力Pを、散逸する熱損失分を補う程度の大きさに抑える。
保温段階は、少なくとも、昇温段階後の約100ms間に、試料Sの温度分布が定常状態になるまで行う。ここでは、保温段階の時間領域に含まれる連続した100ms間に測定される温度の時間変化率の絶対値が10K/s以下となる条件、測定される電力の時間変化率の絶対値が100W/s以下となる条件を共に満たす場合に、試料Sの温度分布が定常状態に到達したと判断する。
図2は、試料Sに供給する電力Pの時間変化と、それに伴って加熱された試料Sの温度Tの時間変化を示すグラフである。電力Pの時間変化を上段に示し、温度Tの時間変化を下段に示している。このグラフにおいて、横軸は経過時間tを示し、上段側の縦軸は電力P(t)を示し、下段側の縦軸は温度T(t)を示している。
温度測定手段105により測定された温度値を観測パラメータとし、電流制御手段102を制御(電界効果トランジスタを用いる場合にはゲート電圧による制御)することにより、図2のグラフに示すような、試料Sの温度を階段状に変化させる。階段状変化過程において、試料温度が急峻に変化する時間領域が昇温段階に対応し、試料温度が一定に保持される時間領域が保温段階に対応している。
図2のグラフは、1回の比熱とエンタルピー変化の測定において実行する試料Sに対する多段の階段状加熱過程のうち、隣接する2つの保温段階とその間に存在する1つの昇温段階を含む1連の過程における温度と電力の時間変化を抜き出して示している。すなわち、時間tb,n-1において、設定したn-1番目の目標温度Tn-1に保持するためのゲート電圧制御を開始している。続いて、時間te,n-1において、次に設定したn番目の目標温度Tにするため試料温度の急速上昇を開始している。続いて、時間tb,nにおいて目標温度Tに到達した後に温度保持を開始し、時間te,nまで温度一定に保持している。試料を目標温度Tn-1からTに加熱する昇温段階において、時間tb,n-1からte,n-1にかけて生じるエンタルピー変化ΔHは、下記(4)式で表される。
Figure 0007250268000001
(4)式における最右辺の第二項の被積分関数は、試料温度がTn-1からTに変化する時間範囲における、有効試料部Saからの熱損失の時間関数を表している。ここでは、熱損失がPn-1からPに、時間の線形関数として変化すると近似している。Pn-1、Pは、それぞれ、試料Sの温度がTn-1、Tであるときの定常状態において生じている熱損失を表しており、それらの温度で一定保持する際に供給する電力測定値の平均値として、導出されるものである。
(4)式により、加熱温度を階段状変化させる加熱プロセスにおいて、隣接する(直近の)保温段階間でのエンタルピー変化ΔHを算出することができる。そして、ΔHを全段にわたって足し合わせ、最初の保温段階の温度を基準温度と設定した上で、各保温段階の温度における基準温度に対するエンタルピー変化を、温度の関数として求め、それを温度で微分することにより、試料Sの比熱を算出することができる。隣接する2つの保温段階の温度間において、試料Sに相変態が起きる場合、この2つの保温段階の温度間で測定されるエンタルピー変化は、温度上昇によるエンタルピー変化に加えて相変態に伴う寄与も含む。したがって、前記温度間の測定されたエンタルピー変化から別途導出した、温度上昇寄与に伴うエンタルピー変化を差し引く事で、相変態に伴うエンタルピー変化の測定も可能である。
なお、室温以上の高温における物質の温度上昇に伴うエンタルピー変化ΔHは、基準温度を室温(298.15K)として以下のような温度Tの多項式で一般に表される。
ΔH=AT+BT+DT-1+I (5)
(5)式中のA、B、D、Iは定数であり、一般に、最小二乗法などによりエンタルピー変化の測定結果を近似して導出される。本実施形態に係る比熱とエンタルピー変化の測定の場合、相変態が存在しない温度範囲においては、試料のエンタルピー変化の測定値を温度関数として表す式として、一般に(5)式を用いる。ただし、測定温度範囲に応じて、エンタルピー変化の基準温度を室温以外にすることや(5)式に類した3次程度までの温度多項式で表すこともある。
以上のように、本実施形態に係る比熱とエンタルピー変化の測定方法および測定装置は、必要とする800K以上の高温における必要とする温度範囲の比熱もしくはエンタルピー変化を測定するために、試料Sを必要とする温度範囲の最高温度まで昇温させる過程において、試料Sの温度を一定に保つ複数回の保温段階を有している。したがって、試料の構造や成分が不均質であったり時間の掛かる相変態が生じる場合や昇温段階において温度上昇率が高過ぎる場合等により、昇温段階では試料の温度分布が非定常状態であっても、各保温段階において、時間をかけることで試料を各保温段階の温度における熱的な定常状態もしくは平衡状態に到達させることができる。その結果として、比熱とエンタルピー変化の測定に必要な試料の温度分布の定常状態を実現することができる。つまり、本実施形態に係る比熱とエンタルピー変化の測定方法および測定装置による測定は、試料Sの比熱を、試料Sの物理的・化学的特性によらず、熱的な定常状態を維持しながら行うものであるため、従来の測定に比べて、短時間で正確に実施することを可能とするものである。
本実施形態では、試料Sが柱体である場合を例に挙げて説明したが、試料Sの電流方向に対する断面積が一定であるという条件を満たせば、特に形状についての制限はない。また、試料Sは、導電部材のみからなる単体であってもよいし、導電部とそれに接する非導電部(半導体、絶縁体)とで構成される複合体であってもよい。ただし、この場合の非導電部は、導電部に対して少なくとも熱的に接している必要がある。そのような複合体としては、例えば、絶縁部材とその周りを囲む金属管とからなる複合体が挙げられる。
試料が非導電体を含む複合体である場合には、導電部を通電加熱することにより、間接的に非導電部を加熱する。このような複合体では、昇温時の温度分布が非一様になることが想定されるが、昇温後に、所定の時間を費やす保温段階を設けることにより、温度分布の定常状態を実現することができる。その結果として、複合体のエンタルピー変化を測定することができる。同様の測定を、複合体から非導電部を除去した状態で行うことにより、導電部だけのエンタルピー変化を測定することができる。そして、複合体のエンタルピー変化から、導電部のエンタルピー変化を差し引くことにより、非導電部のエンタルピー変化を導出することができ、導出した結果を温度微分することにより、非導電部の比熱を求めることができる。
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
上記実施形態に係る比熱の測定装置100を用いて、10-3Pa程度の真空下で、
試料Sに対し、上述した昇温段階と保温段階とを交互に複数回繰り返す、多段階の高速加熱実験を行った。試料Sとしては、直径2.79mm、長さ100mmのタングステン丸棒(有効試料部Saの長さ:18.94mm)を用いた。
図3は、有効試料部Saに供給する電力と、有効試料部Saの温度変化の関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は時間t(ms)を示し、左側の縦軸は温度T(K)を示し、右側の縦軸は電力P(W)を示している。
図3に示すように、最初は、約1000Kの温度に保持された試料Sに対して、昇温段階と保温段階がそれぞれ6段階となる多段階加熱を行った。各段階の保温段階における保持温度が、順に、1400K、1600K、1800K、2000K、2200K、2400Kとなるように、試料Sに供給する電力Pを調整した。試料Sに対し、1000Kから2400Kの定常状態とする加熱を、2.2秒で達成することができた。このように、当該比熱とエンタルピー変化の測定方法によれば、1400~2400Kの広い温度範囲における比熱とエンタルピー変化の測定を3秒以内で完了しており、従来の測定方法では難しい高温での比熱とエンタルピー変化の測定を、短時間で効率的に行えていることが分かる。
各保持温度での熱損失は、有効試料部Sa内の温度分布が定常状態に到達した時間領域において、連続して測定される有効試料部Saから発生するジュール熱の測定値の平均値として求めることができる。ここで求められた各保持温度の定常状態における単位時間当たりのジュール熱(電力)P、P、~、Pは、それぞれ、約31.6W、約39.9W、約57.7W、約71.9W、約111W、約130Wであった。有効試料部Saの温度分布が定常状態に到達しているかどうかは、電力を測定した100ms間における測定した温度と電力の時間変化率の絶対値が、それぞれ10K/s以下と100W/s以下になっていることから判断した。
求めた各保持温度での定常状態における電力P、P、~、Pを、それぞれ上記式(4)に代入し、最初の保持温度である1400Kを基準温度とした場合のエンタルピー変化の測定値を導出し、それらの測定値が(5)式に表す温度の関数として表されるとして、最小二乗法により(5)式の係数を導出して、次式(6)で表されるエンタルピー変化の温度関数を得る。
ΔH(T)=-0.240482T+(1.132413×10-4)T
-656508T-1+583.9092 (6)
さらに、(6)式を温度で微分することによって比熱の温度関数を求めた。結果として、2段目以降の保温段階温度である1600K、1800K、2000K、2200K、2400Kにおける比熱は0.170J/(g・K)、0.166J/(g・K)、0.169J/(g・K)、0.177J/(g・K)、0.187J/(g・K)と算出された。一般に、最小二乗法で求めたエンタルピー変化の温度関数は、基準温度近傍において相対的な誤差が大きくなる傾向があるため、ここでの比熱の導出は、2段目の保温段階温度以上に限定した。なお、基準温度近傍での保温段階の数を増やし、基準温度近傍のエンタルピー変化の温度関数の相対的誤差を、小さくすることも可能である。
図4は、試料Sの温度と比熱の関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は試料Sの温度(K)を示し、縦軸は試料Sの比熱(J/g・K)を示している。丸型のプロットは、実施例1として先に求めた比熱の計算結果に対応している。四角型のプロットは、一般的に知られているタングステンの比熱の推奨値(比較例1)に対応している。
図4のグラフから、実施例1で求めた比熱の温度変化が、推奨値との良い一致を示しており、従来の測定方法であるDSCや落下熱量法では困難かつ長時間を要する高温での比熱測定を、上述した実施形態に係る比熱の測定方法により、正確かつ短時間で測定できたことが分かる。単純な純金属の試料に限定すれば、従来型の直接加熱法による測定でも、短時間で高温での比熱を測定できるが、昇温段階では試料Sの温度分布が定常状態に到達しているかどうかを実証する術が無いため、本実験と比較すると測定結果の信頼性は低くなると言える。
従来の直接加熱法と異なり、本測定法では、有効試料部の温度分布が定常状態に達したかどうかについて、試料の温度(放射温度計で測定される有効試料部内の温度測定点の温度)と、有効試料部内で単位時間当たりに発生するジュール熱(電力)の実測値によって判断される。具体的には、試料の温度と電力のそれぞれの時間変動率の絶対値が、ある最大許容値より小さい場合に、有効試料部の温度分布が定常状態に達したと判断する。ここでの試料の温度と電力の時間変動率の絶対値の最大許容値については、それぞれ10K/sと100W/sとした。
100・・・比熱の測定装置
101・・・電圧印加手段
102・・・電流制御手段
103・・・温度測定手段
104・・・電圧測定手段
104a・・・電圧プローブ
105・・・電流測定手段
I・・・電流
S・・・試料
Sa・・・有効試料部

Claims (5)

  1. 通電加熱により、試料の温度を昇温させる昇温段階と、前記試料の温度を保温する保温段階と、を交互に複数回繰り返して行い、
    全ての前記保温段階について、直近の前記保温段階との間のエンタルピー変化を求め、
    最初の保温段階の温度に対する各保温段階の温度におけるエンタルピー変化の温度関数を温度微分することにより、前記試料の比熱を求めることを特徴とする比熱とエンタルピー変化の測定方法。
  2. 前記保温段階を、前記試料の温度分布が定常状態になるまで行うことを特徴とする請求項1に記載の比熱とエンタルピー変化の測定方法。
  3. 前記保温段階を、測定される温度の時間変化率が10K/s以下となるまで行うことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の比熱とエンタルピー変化の測定方法。
  4. 前記保温段階を、測定される電力の時間変化率が100W/s以下となるまで行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の比熱とエンタルピー変化の測定方法。
  5. 前記試料として、導電部と、前記導電部に接する非導電部とで構成される複合体を用い、
    前記導電部を通電加熱することにより、間接的に前記非導電部を加熱したときの前記複合体のエンタルピー変化を求め、
    前記複合体から前記非導電部を除去し、前記導電部だけを通電加熱することにより、前記導電部のエンタルピー変化を求め、
    前記複合体のエンタルピー変化から前記導電部のエンタルピー変化を差し引いて導出できる前記非導電部のエンタルピー変化の温度関数を温度微分することにより、前記非導電部の比熱を求めることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の比熱とエンタルピー変化の測定方法。
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