JP7248894B2 - 2相ステンレス鋼 - Google Patents
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本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を含有する。なお、特に断りが無い限り、元素に関する%は質量%を意味する。
本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を必須に含有する。
クロム(Cr)は、酸化物として2相ステンレス鋼の表面に不働態被膜を形成する。不働態被膜は、腐食因子と2相ステンレス鋼の表面との接触を抑制する。その結果、2相ステンレス鋼の孔食の発生が抑制される。Crはさらに、2相ステンレス鋼のフェライト組織を得るために必要な元素である。十分なフェライト組織を得ることで、安定した耐孔食性が得られる。Cr含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は21.0~27.0%未満である。Cr含有量の好ましい下限は21.5%であり、より好ましくは22.0%であり、さらに好ましくは22.5%である。Cr含有量の好ましい上限は26.5%であり、より好ましくは26.0%である。
モリブデン(Mo)は、不働態被膜に含有され、不働態被膜の耐食性をさらに高める。その結果、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼からなる鋼管を組立等する場合の加工性が低下する。したがって、Mo含有量は2.50~5.00%である。Mo含有量の好ましい下限は2.80%であり、より好ましくは3.00%である。Mo含有量の好ましい上限は4.50%であり、より好ましくは4.00%であり、さらに好ましくは3.80%であり、さらに好ましくは3.50%である。
ニッケル(Ni)は、オーステナイト安定化元素であり、フェライト・オーステナイトの2相組織を得るために必要な元素である。Ni含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、フェライト相とオーステナイト相とのバランスが得られない。この場合、安定して2相ステンレス鋼を得られない。したがって、Ni含有量は4.50~8.00%である。Ni含有量の好ましい下限は5.50%であり、より好ましくは6.00%である。Ni含有量の好ましい上限は7.50%である。
窒素(N)は、オーステナイト安定化元素であり、フェライト・オーステナイトの2相組織を得るために必要な元素である。Nはさらに、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。N含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.080~0.400%である。N含有量の好ましい下限は0.100%であり、より好ましくは0.125%である。N含有量の好ましい上限は0.350%であり、より好ましくは0.320%であり、さらに好ましくは0.290%である。
銀(Ag)は、2相ステンレス鋼に固溶して、酸性溶液中で2相ステンレス鋼の表面に形成された、活性サイトを被覆する。その結果、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。Ag含有量が低すぎれば、この効果は得られない。一方、Ag含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。Ag含有量が高すぎればさらに、2相ステンレス鋼の耐孔食性が低下する。したがって、Ag含有量は0.01~0.50%である。Ag含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ag含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
炭素(C)は不可避に含有される。すなわち、C含有量は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を増大させる。したがって、C含有量は0.030%以下である。C含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siを脱酸剤として用いる場合、Si含有量は0%超である。一方、Si含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は1.00%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.80%であり、より好ましくは0.70%である。Si含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.20%である。
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnを脱酸剤として用いる場合、Mn含有量は0%超である。一方、Mn含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Mn含有量は2.00%以下である。Mn含有量の好ましい上限は1.75%であり、より好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.25%である。Mn含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.20%である。
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alを脱酸剤として用いる場合、Al含有量は0%超である。一方、Al含有量が高すぎれば、2相ステンレス鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は0.040%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.030%であり、より好ましくは0.025%である。Al含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.005%である。本実施形態において、Al含有量とは、酸可溶性Al(sol.Al)含有量を指す。
バナジウム(V)は不可避に含有される。すなわち、V含有量は0%超である。V含有量が高すぎれば、フェライト相が過度に増加し、2相ステンレス鋼の靱性及び耐食性の低下が生じる場合がある。したがって、V含有量は0.50%以下である。V含有量の好ましい上限は0.40%であり、より好ましくは0.30%である。V含有量の下限は特に限定されないが、たとえば0.05%である。
酸素(O)は不純物である。すなわち、O含有量は0%超である。Oは2相ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる。したがって、O含有量は0.010%以下である。O含有量の好ましい上限は0.007%であり、より好ましくは0.005%である。O含有量はなるべく低いほうが好ましい。しかしながら、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0005%である。
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量は0%超である。Pは2相ステンレス鋼の耐孔食性及び靱性を低下させる。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量は0%超である。Sは2相ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる。したがって、S含有量は0.0300%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0200%であり、より好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0005%である。
本実施形態による2相ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を任意に含有してもよい。
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、WはMoと同様に不働態被膜に含有され、不働態被膜の耐食性をさらに高める。その結果、2相ステンレス鋼の孔食の発生を抑制する。Wがわずかでも含有されれば、この効果はある程度得られる。一方、W含有量が高すぎれば、σ相が析出し易くなり、靱性が低下する。したがって、W含有量は0~2.50%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは1.00%である。W含有量の好ましい上限は2.40%であり、より好ましくは2.20%であり、さらに好ましくは2.00%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは2相ステンレス鋼に固溶して、酸性溶液中で2相ステンレス鋼の表面に形成された、活性サイトを被覆する。その結果、2相ステンレス鋼の耐孔食性を高める。Cuがわずかでも含有されれば、この効果はある程度得られる。一方、Cu含有量が高すぎれば、金属Cuが鋼中に析出し、かえって耐孔食性が低下する場合がある。したがって、Cu含有量は0~0.80%である。Cu含有量の好ましい下限は、0%超であり、より好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.01%超であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.70%であり、より好ましくは0.65%であり、さらに好ましくは0.60%である。
本実施形態による2相ステンレス鋼のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。フェライト及びオーステナイトの体積分率は、特に限定されない。しかしながら、フェライト相の体積率(以下、フェライト分率ともいう)、又は、オーステナイト相の体積率(以下、オーステナイト分率ともいう)が低すぎれば、適切に元素分配が行われず、2相ステンレス鋼の特性が得られない場合がある。したがって、フェライト分率は、たとえば、35~65%未満である。この場合、オーステナイト分率は、たとえば、35超~65%である。
本実施形態において、2相ステンレス鋼のフェライト分率を求める場合、次の方法で求めることができる。2相ステンレス鋼からミクロ組織観察用の試験片を採取する。2相ステンレス鋼が鋼板であれば、鋼板の板幅方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨する。2相ステンレス鋼が鋼管であれば、鋼管の軸方向と肉厚方向とを含む断面(観察面)を研磨する。2相ステンレス鋼が棒鋼又は線材であれば、棒鋼又は線材の軸方向を含む断面(観察面)を研磨する。次に、王水とグリセリンとの混合液を用いて、研磨後の観察面をエッチングする。
本実施形態による2相ステンレス鋼の形状は、特に限定されない。2相ステンレス鋼はたとえば、鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよいし、線材であってもよい。
本実施形態の2相ステンレス鋼は、たとえば次の方法で製造できる。製造方法は、準備工程と、熱間加工工程と、溶体化熱処理工程とを備える。
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は、連続鋳造法により製造された鋳片(スラブ、ブルーム、及び、ビレット)であってもよく、造塊法により製造された鋼塊(インゴット)であってもよい。必要に応じて、鋳片又は鋼塊を分塊圧延して、鋼片(ビレット)を製造してもよい。
熱間加工工程では、上記準備工程で準備された素材を熱間加工して、鋼材を製造する。熱間加工は、熱間鍛造であってもよく、熱間押出であってもよく、熱間圧延であってもよい。熱間加工の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。
溶体化熱処理工程では、上記熱間加工工程で製造された鋼材に対して、溶体化熱処理を実施する。溶体化熱処理の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、鋼材を熱処理炉に装入し、所望の温度で均熱した後、急冷する。
溶体化処理が実施された、各試験番号の鋼板に対して、孔食試験として、ASTM G48(2015)に準拠した塩化第二鉄浸漬腐食試験を実施した。具体的には、各試験番号の鋼板を機械加工して、幅30mm、厚さ3mm、長さ50mmの孔食試験片を採取した。採取した孔食試験片の重量を測定した。孔食試験片を、70±1℃に加熱した塩酸酸性の6%FeCl3水溶液中に24時間浸漬した。
表1を参照して、試験番号1~6の鋼板は、化学組成が適切であった。その結果、試験番号1~6の鋼板では、腐食速度が0.01g/m2/hr未満となり、優れた耐孔食性を示した。
Claims (3)
- 質量%で、
Cr:21.0~27.0%未満、
Mo:2.50~5.00%、
Ni:4.50~8.00%、
N:0.080~0.400%、
Ag:0.01~0.50%、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:2.00%以下、
sol.Al:0.040%以下、
V:0.50%以下、
O:0.010%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0300%以下、
W:0~2.50%、
Cu:0~0.80%、及び、
残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する、2相ステンレス鋼。 - 請求項1に記載の2相ステンレス鋼であって、前記化学組成は、
W:0.10~2.50%を含有する、2相ステンレス鋼。 - 請求項1又は請求項2に記載の2相ステンレス鋼であって、前記化学組成は、
Cu:0.01~0.80%を含有する、2相ステンレス鋼。
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