JP2017031473A - 二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置 - Google Patents

二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、結晶粒の成長および脆化相の成長が抑制されて機械的性質の低下が抑制された二相ステンレス鋼と、このような二相ステンレス鋼を得ることが可能な二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置を提供する。【解決手段】本発明に係る二相ステンレス鋼は、Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、Niよりも低融点の元素を含み、前記α相の結晶粒が組成変調構造を有することを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置に関する。
鉄系素材において、機械的性質の向上、耐食性向上あるいは機能性向上のための組織制御の手法として磁場印加法が一般的に知られている。特許文献1および2において、鉄鋼材料の磁気変態点以下の温度領域において磁場印加により組織制御可能であることが記載されている。
また、特許文献3において、構造材料表面から超音波衝撃を加えることにより劣化を抑制する方法が開示されている。
特開2001‐234240号公報 特開2000‐328143号公報 特表2009‐510256号公報
上記特許文献では、磁場印加と同時に元素の拡散を進行させて組織を制御するため、結晶粒が成長する温度範囲まで加熱保持する必要がある。また、超音波衝撃法は材料表面の残留応力の低減には有効であるが、材料表面から印加する手法であり、材料内部の組織制御は困難であった。
金属系材料の組織を制御するためには、応用上できるだけ低温度で実施できる手法が望ましい。磁場印加は主に強磁性相に働き、強磁性相の結晶粒が磁場方向に成長することが可能である。しかしながら、強磁性の結晶粒が成長すると、結晶粒径が増加し、機械的性質や耐食性が低下する。そこで、結晶粒の成長を抑制して機械的性質と耐食性の低下を防止し、かつ脆化相成長を抑制可能な材料とその製造方法が望まれている。
本発明は、上記事情に鑑み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、結晶粒の成長および脆化相の成長が抑制されて機械的性質の低下が抑制された二相ステンレス鋼と、このような二相ステンレス鋼を得ることが可能な二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置を提供する。
本発明は、上記目的を達成するため、Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、Niよりも低融点の元素を含み、上記α相の結晶粒が組成変調構造を有することを特徴とする二相ステンレス鋼を提供する。
また、本発明は、Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼の製造方法において、二相ステンレス鋼の母材となる合金を溶解および熱間鍛造する工程と、上記母材にNiよりも低融点の元素を添加し、溶解および圧延する工程と、溶体化処理工程と、時効処理工程と、を含み、上記時効処理工程は、磁場を印加しながら上記二相ステンレス鋼のキュリー点以下の温度に昇温した後冷却する工程を含むことを特徴とする二相ステンレス鋼の製造方法を提供する。
また、本発明は、Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼の製造装置において、被処理材である二相ステンレス鋼を加熱する加熱装置と、上記被処理材に磁場を印加する磁場印加装置を備えることを特徴とする二相ステンレス鋼の製造装置を提供する。
本発明によれば、Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、結晶粒の成長および脆化相の成長が抑制されて機械的性質の低下が抑制された二相ステンレス鋼と、このような二相ステンレス鋼を得ることが可能な二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置を提供することができる。
本発明に係る二相ステンレス鋼の結晶組織の一例を示す模式図である。 本発明に係る二相ステンレス鋼の結晶組織の他の一例を示す模式図である。 二相ステンレス鋼の磁化の温度依存性を示すグラフである。 本発明に係る二相ステンレス鋼の製造方法の一例を示すフロー図である。 本発明に係る二相ステンレス鋼の製造装置(磁場中熱処理装置)の一例を示す模式図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものでは無く、発明の要旨を変更しない範囲で適宜改良および変更を加えることが可能である。
[二相ステンレス鋼]
図1は本発明に係る二相ステンレス鋼の結晶組織の一例を示す模式図であり、図2は本発明に係る二相ステンレス鋼の結晶組織の他の一例を示す模式図である。上述したように、本発明に係る二相ステンレス鋼は、α相(フェライト相)の結晶粒11およびγ相(オーステナイト相)の結晶粒10を主成分とするものであり、ニッケル(Ni)よりも低融点の元素(図示せず)を含み、α相の結晶粒11が組成変調構造12を有するものである。より詳細には、α相の結晶粒11およびβ相の結晶粒12の粒界近傍に、鉄(Fe)濃度およびクロム(Cr)濃度に周期性がある組成変調構造12を有している。
なお、本発明において「組成変調構造」とは、同じ結晶中で、該結晶を構成する元素が、結晶構造を変えずに濃度に周期性を有している構造を意味するものとする。また、「粒界」とは、隣り合う結晶粒の境界を意味するものとする。
本発明に係る二相ステンレス鋼は、結晶粒の成長をできるだけ押さえ、機械的性質、耐食性および寿命の向上を実現するために脆化相の成長が抑制されたものである。ステンレス系材料において、クロム(Cr)リッチ相の成長は脆化につながることが知られている。例えば、σ相(Cr30〜60質量(mass)%(Cr含有濃度が30mass%以上60mass%以下))が成長すると、衝撃値が急激に低下する。そこで、本発明は、σ相を代表とするCrリッチ相の成長を抑制する。σ相の成長には、σ相の構成元素であるCr、モリブデン(Mo)およびFe等の拡散が不可欠である。このようなσ相構成元素(「σ相成長促進元素」または「σ相安定化元素」とも称する。)の拡散を抑制するか、排除することがσ相成長を抑制することには有効である。
Cr25mass%の二相ステンレス鋼の場合、通常、各結晶粒(α相結晶粒およびγ相結晶粒)のCr濃度(平均組成)は、20〜30mass%と粒界近傍から粒中心までほぼ一定のCr濃度分布となる。そこで、粒界近傍において、上記σ相の平均濃度からずれた濃度(例えば、Cr10mass%未満あるいは80mass%以上)をもった相を成長させて上記σ相の平均組成からCr濃度を遠ざけることで、σ相成長を遅らせることが可能となる。
各結晶粒のCr濃度をσ相の平均組成からずらすための方法として、Crリッチ相とFeリッチ相に相分離する温度範囲で磁場を印加する処理(磁場中時効処理)を行うことが有効である。すなわち、スピノーダル分解が進行する温度範囲(二相ステンレス鋼のキュリー点〜キュリー点よりも100℃低い温度)において磁場を印加すると、磁性材料であるα相に組成変調が生じる。スピノーダル分解は磁場印加により促進され、磁場印加によりスピノーダル分解進行温度が低下するとともに、Crリッチ相のCr濃度およびFeリッチ相のFe濃度が増加する。磁場印加条件の詳細については、追って詳述する。
図1において、α相の結晶粒11とγ相の結晶粒10の間のα相側に組成変調構造12が形成される。図1では、水平方向(図1の矢印方向)に磁場を印加した場合であり、磁場方向に垂直に組成の変調周期が確認することができる。この組成変調は、Feリッチ相またはCrリッチ相が成長しており、組成変調に伴う拡散障壁の形成が原子の拡散を遅くする。図2は回転磁場を使用して作製した二相ステンレス鋼の典型的な組織であり、組成変調構造12がα相の粒界に沿って形成される。この組成変調構造12により、α相の分解が抑制される。図1の構造よりも、図2の構造の方が組成変調構造12の割合が多く、σ相の成長をより抑制することができる。
磁場印加による効果は以下のとおりである。スピノーダル分解は、常温で磁場を印加しない状態であっても進行するが、磁場印加により促進されるため、組成変調構造を形成するための熱処理時間を短くすることができる。スピノーダル分解は拡散反応であるため、拡散速度が速い粒界近傍で磁場によって促進されることから、磁場印加により、結晶粒の粒界と粒界近傍において優先的に(局所的に)スピノーダル分解が進行する。σ相成長場所も粒界であることから、局所的なスピノーダル分解は、σ相の成長を遅らせることに有効であると同時に、結晶粒中心には何も悪影響を及ぼさない。磁場印加はσ相の核発生場所近傍で組成変調を起こして拡散の障壁を作り、σ相の成長を遅延させる。なお、二相ステンレス鋼が図1のような組成変調構造を有することは、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)像等の電子顕微鏡観察によって確認することができる。また、このような組成変調構造は溶体化温度付近まで加熱することにより容易に消失するので、組成変調構造12を形成した後であっても、目的とする二相ステンレス鋼の特性を考慮して組成変調構造12の割合を制御することができる。
磁場印加により組成変調が局所的に促進され、Cr50mass%に近い組成のσ相の成長に必要な拡散時間が延び、その成長が抑制される。本発明に係る二相ステンレス鋼は、上記組成変調構造が発現されやすいように、添加元素としてニッケル(Ni)の融点(1455℃)よりも低融点の元素を添加する。二相ステンレス鋼の主要構成元素であるFe,Cr,Ni,Moの中で最も低融点であるNiよりも融点が低い元素を添加することでFe,Cr,Moの元素の組成変調を促進させることができる。
添加元素の具体例としては、スズ(Sn),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),インジウム(In),金(Au),銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、Al(アルミニウム)、亜鉛(Zn)および軽希土類元素(ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu))などが挙げられる。上記Niよりも融点が低い元素の中で、溶体化処理が可能な元素を選択することが好ましい。添加量は、0.01〜2mass%であることが好ましい。0.01mass%未満であると、組成変調を促進する効果が十分に得られない。また、2mass%よりも多いと、粒界の不安定性から耐食性や粒界脆化など、二相ステンレス鋼の信頼性が低下する恐れがある。
さらに、磁場印加効果を増大させるために、Feの磁気モーメントの減少を抑制することができる元素を添加することが好ましい。Crは、α‐FeのFe原子を置換するとFeの磁気モーメントを減少させる。Crに替えてSnを添加する場合には、Feの磁気モーメント減少が抑制される。磁気モーメント減少が抑制されると、磁場中では磁気モーメントが磁場に平行な方向に向いている方が自由エネルギーを減少させて安定となる。このため、CrよりもFeの磁気モーメント減少効果が小さな元素を添加することで、添加した元素がγ相よりもα相に留まり、σ相の成長を抑制することができる。このような効果を有する添加元素として、Au,AgおよびSnが特に好ましい。
具体的な添加元素の添加効果は、以下のとおりである。
(1)添加元素が0.01mass%以上添加されることにより、時効処理における組成変調開始温度が低温(400℃)となり、Feリッチ相が成長しやすくなる。このようなα相内での組成変調は、その後の熱処理の拡散バリアとして作用し、脆化相の成長が抑制される。
(2)磁場中時効処理において、添加元素はFeリッチ相よりもCrリッチ相に多く分布する。Feリッチ相/Crリッチ相の界面付近のCrリッチ相側に分布することにより、磁場が印加された場合の自由エネルギーを減少させる。α相の結晶粒内の添加元素は、CrあるいはFe原子位置を置換している。添加元素は、周囲のFe原子の磁気モーメントをCr原子よりも減少させない。このため、添加元素がFe原子の周囲に存在した方が磁場中の磁気自由エネルギーが低下して安定となる。したがって、添加元素はCrリッチ相/Feリッチ相の界面近傍に偏在し易く、このような組成変調組織が、二相ステンレス鋼の脆化を抑制する。
(3)添加元素のα相結晶粒内における偏在化により、800℃10分保持後のσ相の成長が抑制され、添加元素が無い場合に比べてσ相は1/10に減少する。また、溶接時の入熱制限が緩和され、厚板の二相ステンレス鋼における溶接効率が上昇する。さらに、100mmを超える厚板の製造と溶接においても脆化相抑制効果を発揮することができる。
本発明に係る二相ステンレス鋼の母材(添加元素を含まない組成)は、特に限定は無いが、添加元素を添加した磁場中時効処理がσ相やχ相などの脆化相成長を抑制可能な材料は、Fe系ステンレス鋼やFeNi系ステンレス鋼である。またCr以外のσ相形成元素でかつ非磁性元素であるMoを含むステンレス鋼においても有効である。ま
[二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置]
次に、上述した本発明に係る二相ステンレス鋼を得ることが可能な二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置について説明する。図4は、本発明に係る二相ステンレス鋼の製造方法の一例を示すフロー図である。図4に示すように、本発明に係る二相ステンレス鋼の製造方法は、合金(母材)を溶解し、熱間鍛造する工程(S1)と、溶解した合金に添加元素を添加し、溶解および圧延する工程(S2)と、溶体化処理する工程(S3)と、時効処理(磁場中熱処理)する工程(S4)を含む。その後、目的とする部材を得るために、溶接する工程(S5)を行う。具体的な製造工程を示したが、本発明において必須となるのは、S2のNiよりも低融点の元素を添加する工程と、S4の時効処理工程である。
以下、S4について詳述する。なお、S1〜S3およびS5については特に限定は無く、従来の技術を適用することができる。
S4では、磁場を印加しながら、組成変調が起きる温度に昇温して冷却する。この冷却過程において、組成変調構造が形成される。具体的には、スピノーダル分解が進行する温度範囲(α相のキュリー点(500℃)〜キュリー点よりも100℃低い温度の温度範囲)において、5min以上の時間をかけて冷却することが好ましい。キュリー点におけるα相の熱平衡組成とキュリー点よりも低温側での熱平衡組成にはCr濃度に差があり、この濃度差は自由エネルギーの差に反映されて拡散の駆動力の一つとなり、組成が変調される。
まず、時効処理における磁場条件について説明する。σ相の成長が抑制可能な時効処理条件について以下に説明する。σ相の抑制には組成変調の磁場印加制御が必要なため、分解前の主相のキュリー点以下での磁場印加が必要になる。キュリー点以下の温度で磁場印加によりFeリッチ相の形成を促進させかつFeリッチ相のFe濃度を高くする。また磁場方向に沿ってFeリッチ相の長手方向が揃う。このよう現象を実現するためには、磁場0.01T以上が必要であり、キュリー点から少なくとも100℃低温側からキュリー点の温度範囲で磁場を印加する必要がある。磁場が0.01T未満では磁場印加による組成変調の促進効果などが認められない。また磁場が10Tを超えると、磁場に沿った方向でFeリッチ相が伸びるよりも、Feリッチ相の核がさらに磁化を高めるように拡散するため、Feリッチ相が伸びた層状になり難く、粒状となり、拡散抑止効果が低下する。このため磁場強度は10T未満、できれば5T以下が望ましい。したがって印加する磁場は0.01〜10Tが好ましい。圧延材のように優先成長方位がある材料の場合は、0.02〜2Tの範囲であれば十分である。これは、強磁性であるα相が圧延方向に延びて磁場効果が出やすいためである。磁場印加方式は、永久磁石またはコイルのいずれでも良い。なお、印加する磁場は静磁場、回転磁場および交流磁場などを使用することができる。
また、時効処理中に交流通電してもよい。交流通電の効果は、以下のとおりである。
(1)周波数によって制御可能な振動エネルギーが加わることにより、拡散が促進される。
(2)振動により非整合界面などでの摩擦も加わると局所的にエネルギーが溜まりやすくなり、結晶粒界や粒界三重点などで拡散促進や特定元素の偏在が生じる。
(3)渦電流が流れ、材料の形状と交流周波数により表面近傍で電磁超音波や交流超音波による拡散や偏在ならびに準安定相生成が顕著となる。
(4)印加磁場が1T以上では、静磁エネルギー、異方性エネルギー、磁気弾性エネルギーの寄与が顕著となり、このような磁気的なエネルギーの増減に超音波振動が影響する。
上記効果により、組成変調がさらに促進される。また、組成変調が粒界に沿って局所的に進行する。固有周波数における振動の伝播がα/γ相界面に沿って伝播しやすくなるため、α/γ相界面での組成変調が促進される。磁場印加熱処理では、磁場方向に平行なα層の粒界で主に組成変調が進行する。組成変調が生じる範囲は粒界中心から10μm以内である。また、α/γ相界面ではないα相の結晶粒界においても組成変調が進行する。これに対し、弾性波による固有振動を加えた場合組成変調はα/γ界面のα相粒界面で主に進行する。このためα相の耐食性が向上する。弾性波としては、交流電流の通電以外に、レーザー照射による振動、圧電素子および磁歪素子による振動なども利用することが可能である。
また、高周波の磁場を印加してもよい。高周波磁場の効果は、以下のとおりである。
(1)周波数によって制御可能な振動エネルギーが加わることにより拡散が促進される。スピノーダル分解など拡散を伴う反応が促進される。特に、2GHzの高周波を使用することにより析出物が分解される。
(2)振動により非整合界面などでの摩擦も加わると局所的にエネルギーが溜まりやすくなり、結晶粒界や粒界三重点などで拡散促進や特定元素の偏在が生じる。α相とγ相の界面で振動エネルギーの吸収が起こり界面での偏在が緩和され、弾性係数が大きな析出物はその構造が分解される。
(3)渦電流が流れ、材料の形状と交流周波数により表面近傍で電磁超音波や交流超音波による拡散ならびに準安定相生成が顕著となる。電極を被処理材の表面とその反対側の面に設置させ、電流が被処理材内部を流れるようにした場合には、通電経路に近い結晶粒で脆化抑制が顕著になる。あるいは磁場を通電経路に対し局所的に印加することで磁場が集中する結晶粒で脆化抑制などの改質効果が確認できる。
(4)印加磁場が1T以上では、静磁エネルギー、異方性エネルギー、磁気弾性エネルギーの寄与が顕著となり、このような磁気的なエネルギーの増減に超音波振動が影響する。特に、2GHzの高周波域ではスピンが平行に揃った方がエネルギーが低下するため強磁性相はさらに安定となる。また、スピンが平行になろうとするため、非磁性相は成長しにくくなる。
上記効果により、スピノーダル分解がさらに促進される。また、スピノーダル分解が粒界に沿って局所的に進行する。固有周波数における振動の伝播がα/γ相界面に沿って伝播しやすくなるため、α/γ相界面でのスピノーダル分解が促進される。このような高周波電流と磁場を利用した弾性波は、σ相の分解を促進させるだけではなく、炭素鋼の炭化物の分解、窒化処理材の窒化物の分解、粒界や粒内析出物の分解も促進できる。さらに、マイクロクラックのような粒界の欠陥集中部付近に弾性波および磁場印加により、欠陥部を選択的に拡散や再構成させることで、マイクロクラックを消失させることが可能である。このような信頼性回復工程は、通電経路と磁場印加場所ならびに弾性波波形を選択し、マイクロクラックなどの欠陥を評価しながら修復させることで材料寿命を向上させることが可能である。弾性波としては、正弦波以外にノコギリ波、矩形波やパルス波を使用しても同様の効果が得られる。また上記Snの代わりにσ相を磁場と弾性波の効果で抑制できる元素として、Ga,Ge,Al,Zn,Inおよび軽希土類元素が有効である。
さらに、上記のような高周波電流と磁場を利用した弾性波を加熱された材料に印加することで粒界改質に使用できるため、以下の効果が認められる。
(1)NdFeB系磁石材料における保磁力増加
(2)NdFeB系/Fe系複合材料においてFe系結晶が高温まで安定化され高磁化によるエネルギー積の増加
(3)非晶質/結晶質複合材料における軟磁気特性の向上
(4)弾性波により準安定相が粒界および粒界近傍に沿って成長することによる機能向上効果、具体的には、粒界に依存する性能の改善が認められ、耐食性向上、引張強度上昇、超伝導遷移温度上昇、耐摩耗性向上、疲労寿命向上などがある。
さらに、1MHzから100T(テラ)Hzの周波数範囲で室温から液相が認められる温度範囲において交流電流を磁場中通電するかあるいは振動波を印加することで、被処理材のFe系合金は粒界の析出物や介在物などの弾性係数が母相と異なる結晶を分散または破砕することが可能である。パルス状に振動波を印加するかまたは干渉効果を利用して高弾性係数の結晶にエネルギーを集中させて分散、分解、または破砕させることが可能であり、母相の結晶粒径や配向を制御することも可能である。
次に、時効処理における冷却条件について説明する。α相のキュリー点(500℃)〜該キュリー点よりも100℃低い温度の温度範囲において、冷却速度は、0.1〜20℃/minの範囲が望ましい。20℃/min以下の冷却速度で磁場印加することにより、拡散が進行しやすい粒界近傍で組成が変調される。20℃/minよりも大きな冷却速度では、組成に変調が生じるための十分な拡散時間が確保されず、スピノーダル分解あるいは組成の変調はほとんど進行しない。また、0.1℃/minより小さい冷却速度でもスピノーダル分解による組成変調が磁場中で可能であるが、長時間かかるため、0.1℃/min以上とすることが好ましい。
次に、時効処理条件と添加元素との関係について説明する。前述した添加元素の添加による効果は、時効処理によって顕著になるため、時効理条件を制御することが重要である。組成変調および添加元素の偏在化が進行するのは、σ相が成長する温度よりも低温側である。例えば、σ相が成長する温度が400〜450℃の温度範囲であるとき、この温度範囲において、0.1〜3Tの範囲の磁場を印加する。0.1T未満では磁場による組成変化がほとんど認められない。また、3Tを超えると変調組成の周期が短くなる傾向があり拡散バリアとしての効果が小さくなり、二相ステンレス鋼の機械的性質の向上はほとんどない。優先成長方位や組織の異方性に応じて、磁場の強度と方向を適正に配分することが好ましい。磁場が1Tの場合、400℃以上の温度範囲における冷却速度は0.5〜1℃/minとし、磁場強度を小さくする場合には冷却速度をさらに小さくし、磁場方向を走査しながら熱処理することが有効である。400〜500℃の熱処理時に、1〜50℃の範囲で降温と昇温を繰り返しながら昇温や降温または温度保持操作をしても良い。
図3は二相ステンレス鋼の磁化の温度依存性を示すグラフである。Sn添加量を0.1,1および5mass%とした場合の磁化と温度との関係を示している。1mass%および5mass%Snの場合、400℃以上の温度で磁化の減少が抑制され450℃から降下させた時の磁化は昇温時の磁化よりも高くなる。これは磁場中熱処理により組成変調が促進されるためである。1mass%および5mass%の場合はほぼ同様の効果を示していることから、添加元素の添加量は1mass%あればその効果を十分に発揮することができるということができる。
上記のような磁場中熱処理を施した後の組織の特徴を以下に説明する。まず、磁場中熱処理前後の飽和磁化が0.1〜10%の範囲で増加することが20℃の磁化曲線の測定結果らわかる。これは、熱処理によりα相の磁化が増加したためである。α相内のFe原子はCr原子の置換によりその磁気モーメントが減少しているが、熱処理によりCr置換による磁気モーメント減少が少なくなり、Feの平均磁気モーメントが増加する。このため、材料全体の磁化が増加する。このような効果は磁気変態点の上昇や内部磁場の増加などによって確認することができる。
次に、結晶構造について説明する。溶体化処理した材料にはX線回折パターンにα相とγ相の2相が認められる。溶体化処理後のX線回折パターンと溶体化処理の後に時効処理を施した材料のX線回折パターンは異なる。磁場中熱処理後のα相の回折ピークは、少なくとも2つの格子定数に対応する結晶を有していることを示している。これは磁場中熱処理により結晶構造が変調していることを示すものである。
添加元素として、Niよりも低融点の元素を含むFeCrMoNiN系二相ステンレス鋼の場合を例にして、時効処理の典型的な条件を以下に記載する。二相ステンレス鋼はα相とγ相の二相から構成され、圧延方向にこれらの結晶粒が伸びている。γ相は20℃で非磁性である。キュリー点(500℃)以下でスピノーダル分解が進行するため、キュリー点以下の500〜400℃の冷却時と、その前の昇温時に磁場を印加する。磁場印加によりα相の結晶粒界近傍には、低融点添加元素を含有するCrリッチ相およびFeリッチ相が成長する。Feリッチ相は、静磁エネルギーを低下させるために磁場方向に長く伸びようとし、磁化は高くなろうとするため、低融点添加元素による拡散増大と磁場印加によりCrリッチ相とFeリッチ相が成長しやすくなる。このように添加元素と磁場印加により、Feリッチ相の形状に方向性が付加される。磁場方向に平行な方向でFeリッチ相が伸び、磁場方向に垂直な方向で最も変調周期が短くなる。このように、磁場印加によって変調周期に異方性が付与される。スピノーダル分解も、Feリッチ相やCrリッチ相の核が成長初期に形成する。
上記層状Feリッチ相はCr拡散の障壁となるため、α/γ界面でのσ相成長速度が遅くなる。σ相成長の遅延は溶接時の熱影響部におけるσ相成長を抑制し、脆化防止となり耐食性と信頼性、寿命を大幅に改善することができる。
図5は、本発明に係る二相ステンレス鋼の製造装置の一例を示す模式図である。図5は、本発明に係る時効処理を行う装置(磁場中熱処理装置)を示している。図5に示すように、本発明に係る二相ステンレス鋼の製造装置は、被処理材(二相ステンレス鋼)25を加熱する加熱装置(ヒータ)24と、被処理材25に磁場を印加する磁場印加装置(磁場発生器)26を備える。また、必要に応じて、被処理材25に電流を通電する通電装置(通電端子)21および被処理材25に振動を与える振動装置(振動子22および振動伝播材23)を有していてもよい。通電端子21は、被処理材25の一面に通電端子25が接触するように構成されており、振動装置は振動子22および振動子22に設けられた振動伝播材23を有し、振動子22から発生した振動が振動伝播材23を介して被処理材25に与えられるように構成されている。
電磁振動波を利用した処理の一例について説明する。通電端子21によって被処理材25に交流電流が流れ、電流パスの一部に磁場が磁場発生器26によって印加される。また、被処理材25の一部はヒータ24によって加熱される。振動子22から発生した振動が、振動伝播材23を介して被処理材25に伝播する。ヒータ24、通電端子21および磁場発生器22は、必要に応じ複数組み合わせることができる。
振動子22の代わりに、光パルスやパルスレーザ、パルス磁場を用いて発生した振動や衝撃波を伝播させることも可能である。振動波の発生源とヒータ24のみでも処理可能であるが、局所的な処理には電磁場を使用した方がエネルギー効率が高い。また、電流パスと波形、周波数、温度および磁場強度は、処理による組織や組成、構造変調の目的によって選択する。必要に応じて反応性のガス雰囲気中での処理や、拡散対としての材料を接触させて拡散対材料からの拡散源の供給も可能である。また、1kV以上の電圧を印加してイオン性元素の移動制御または加速を電磁振動場の中で付加することも可能である。電圧勾配や磁場勾配、温度勾配、濃度勾配を本処理に利用することも可能である。振動場にひねり振動や曲げ振動を使用して拡散を加速したり、弾性係数の異なる結晶または非晶質を分散させることも可能である。
上記装置は、電流値、通電周波数、振動周波数、振動波形、磁場強度、磁場分布、温度分布および加熱冷却温度が基本パラメータであり、これらのパラメータ制御のために、各種センサを使用する。応力場、磁場および電場のいずれか2つを使用して、かつ周期的に変動する外場を使用した装置を使用することにより被処理材25の組成変調が可能である。
上記処理パラメータを最適化することにより、スピン波の励起あるいは磁気双極子相互作用の励起が可能となり、このような磁気的な振動場を応用した磁気構造の変調やメタ磁性を有する準安定相を形成することが可能となる。このような準安定相を利用して、構造材料や磁性材料、エネルギー変換材料、超伝導材料、磁歪材料、自己修復金属材料、磁気冷凍材料、耐磨耗材料、高耐食性材料および磁気記録材料などを形成できる。
さらに上記振動場は、焼結過程や溶解後の熱処理過程、熱間圧延過程、熱間圧縮工程、表面処理工程、時効熱処理工程、修理・回復工程、部分強磁性化、部分非磁性化にも適用可能である。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
本実施例では、添加元素の種類および濃度を変えて二相ステンレス鋼(試料No.1〜5)を作製し、機械的性質の評価を行った。
(1)試料No.1〜5の作製
Fe‐0.5Si‐0.8Mn‐7Ni‐25Cr‐4Mo‐0.2Cu‐0.25N(mass%)の組成を有する合金を溶解後、熱間鍛造した。この合金を母材にして、Sn,GaまたはGeを添加(添加量:0〜0.2mass%)して溶解後、圧延した。圧延後に1100℃で溶体化処理した。その後、圧延方向に0.1Tの磁場を印加し、500℃で時効処理した。400〜500℃の温度範囲における冷却速度は0.5〜1℃/minとし、磁場印加効果を促進させた。試料No.1〜5の二相ステンレス鋼の組成および時効処理条件を、後述する表1に記載する。
(2)機械的性質の評価(衝撃値の測定)
次に、試料No.1〜5の二相ステンレス鋼について、800℃で10min熱処理した後、シャルピー衝撃試験を行って衝撃値(J/cm)を測定し、二相ステンレス鋼の機械的性質を評価した。なお、熱処理前の衝撃値は200J/cmである。評価結果を後述する表1に併記する。
表1に示すように、Niよりも低融点の元素を添加して時効処理を行った試料No.2〜5は、図1に示す組織が形成されており、Niよりも低融点の元素を添加せず、時効処理を行っていない試料No.1よりも衝撃値の低下抑制効果があった。これは、Sn,GaまたはGeの添加により時効処理における組成変調が促進され、機械的性質が向上したものと考えられる。特に、添加元素を0.1mass%以上含む試料No.3〜5については、添加元素を含まない試料No.1よりも衝撃値が1桁大きくなった。
より具体的に見ると、本実施例の時効処理を採用したときに、Sn添加0.1mass%のNo.3は、無添加のNo.1よりもσ相成長が抑制されて衝撃値の低下が抑制された。Sn以外に、Gaを添加(0.2mass%)したNo.4およびGeを添加(0.2mass%)したNo.5でも衝撃値低下を抑制することができることがわかる。衝撃値が熱処理前の1/2以上であれば衝撃値の改善効果が顕著であると言え、No.3〜5はいずれも添加効果が顕著であることがわかる。
本実施例では、時効処理条件を変えたこと以外は実施例1と同様に二相ステンレス鋼を作製し、機械的性質の評価を行った。Fe‐0.5Si‐0.8Mn‐5Ni‐26Cr‐4Mo‐0.2Cu‐0.25N‐0.1Sn合金を真空溶解し、冷却中に0.5Tの磁場を印加した。冷却速度は材料の表面と内部では異なり、内部の冷却速度が小さい。磁場は冷却時の1000℃から200℃の温度範囲において印加した。冷却中にキュリー点とキュリー点から100℃低温側の温度範囲において冷却速度を1℃/minとした。磁場は静磁場を用いた。この材料を所定の厚さまで圧延した。二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表1に記載する。
表1から、本実施例において作製されたNo.6も、σ相の成長が抑制されて衝撃値の低下が抑制されることがわかる。
本実施例では、本発明に係る二相ステンレス鋼の電子顕微鏡のよる組織観察を行った。母材の組成はFe‐27.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.017C‐0.27Nとした。時効処理は、500℃の温度で30分保持し、冷却速度0.1℃/minとした。この熱処理時に、圧延方向に平行および垂直方向に1Tの磁場を印加し、No.7の二相ステンレス鋼を作製した。二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表1に記載する。
本実施例において、磁場を圧延方向に平行に印加した場合が最も飽和磁束密度が大きく、無磁場の場合より磁束密度は0.5%高かった。EBSD像の観察により、磁場を圧延方向に平行に印加して熱処理した試料のσ相の比率は0.2%であった。無磁場熱処理の場合のσ相比率は2.2%であることから、磁場印加時効によりσ相の成長が1/10に抑制されていることがわかる。磁場印加によってα相の分解およびσ相の成長が抑制されている理由は、磁場印加によるによる組成変調と考えられる。磁場印加によりα相の粒界近傍にFeリッチ相あるいはCrリッチ相が形成され、σ相の平均組成から組成が離れた相が成長し、CrやMoの拡散によるσ相の成長が阻害されたものと推定される。
時効処理後、750℃,45minで熱処理を実施後、X線回折パターンを測定した。その結果、無磁場の場合α、γおよびσの三相が検出されたが、No.3については1Tの磁場印加によりσ相の回折ピークは検出されなかった。この結果からも、σ相の抑制効果を確認することができた。
本実施例では、添加元素をNdとして二相ステンレス鋼を作製し、実施例1と同様に機械的性質の評価を行った。Fe‐0.5Si‐0.1Mn‐7Ni‐26Cr‐4Mo‐0.2Cu‐0.25N合金を溶解後熱間鍛造した。この合金を母材にして、Ndを0.1mass%添加して溶解後圧延した。圧延後に1100℃で溶体化処理した。圧延方向に1Tの磁場を印加し、450℃で時効処理した。390℃以上の温度範囲における冷却速度は、0.5〜1℃/minとしてNo.8の試料を得た。また、上記母材にNdを添加せず、本発明の条件で冷却を行わかなかった試料(No.9)も作製した。二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表1に記載する。
衝撃値の評価の結果、No.8は、No.9と比較して衝撃値の低下が大幅に抑制されていた。Ndの添加によっても時効処理において組成変調が促進され、機械的性質の低下が抑制されることがわかる。
本実施例では、時効処理中に交流通電して二相ステンレス鋼を作製する場合について説明する。Fe‐25.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.017C‐0.1Sn‐0.27Nの鋼板に電極(通電端子)を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数500kHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電した。電流密度は0.1〜10A/cmとした。キュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に鋼板に交流通電した。その他の時効処理条件は、実施例1と同様である。本実施例においても、上記実施例1〜4と同様にσ相成長抑制の効果が得られた。
本実施例では、時効処理において二相ステンレス鋼の溶接部に有効に磁場が印加されるように磁場印加条件を調整したこと以外は実施例1と同様に二相ステンレス鋼を作製し、機械的性質の評価を行った。二相ステンレス鋼の組成は、Fe‐28.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.017C‐0.1Sn‐0.4Nである。溶接部および溶接熱影響部に対して脆化を抑制するために、溶接前に磁場引加時効熱処理を実施した。圧延方向に0.01Tの磁場を印加し、二相ステンレス鋼を構成する主相であるα相のキュリー点(500℃)以下の450℃において時効処理を行った。時効処理について本実施例における時効処理条件を以下に示す。
溶体化処理された二相ステンレス鋼の圧延方向に磁場が印加できるよう、電磁石の位置を溶接部および溶接熱影響部において調整した。真空ポンプで排気し、1×10−2Paまで真空引き後、窒素を充填し、ヒータで加熱した。加熱速度は10℃/minで450℃まで加熱した。加熱開始後、300℃に達したら磁場を印加開始し、冷却時も300℃まで磁場印加した。磁場強度は0.01Tとした。温度が390℃に達した時に加熱速度を小さくした。390℃以上の温度での冷却速度は、0.5℃/minとした。450℃に達した後、直ちに0.2℃/minの速度で390℃まで徐冷した。390℃以下では、炉冷である。上記磁場中時効熱処理を実施後、レーザー溶接し、残留歪を除去するために800℃で10分間加熱冷却し、試料No.10を得た。二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表1に記載する。試料No.10の衝撃値は190J/cmであり、二相ステンレス鋼の機械的性質の低下が十分に抑制されていた。
800℃の熱処理後、合金組織(相の構成)についてXRDパターンにより評価した。その結果、σ相の成長は認められなかった。これに対し、磁場中時効熱処理を実施せずに溶接し、800℃、10分の残留応力除去熱処理した試料については、σ相の成長が確認された。磁場印加した時効処理はσ相成長抑制に有効であり、衝撃値の低下が抑制されることも確認できた。
本実施例では、時効処理において高周波磁場を印加したこと以外は実施例1と同様に二相ステンレス鋼を作製し、機械的性質の評価を行った。二相ステンレス鋼の組成は、Fe‐25.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.017C‐0.1Sn‐0.27Nである。上記二相ステンレス鋼の鋼板に通電端子としてタングステン電極を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数2GHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電した。電流密度は0.01〜10A/cmである。キュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に、鋼板に交流通電した。本実施例で作製した試料No.11の二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および機械的性質の評価結果を後述する表2に記載する。本実施例においても、上記実施例1〜6と同様にσ相成長抑制の効果が得られた。
溶接中に磁場を印加しながら弾性波を伝搬させることにより、脆化相の成長を抑制することも可能である。また、本実施例のように2GHzの周波数の交流電流を用いて弾性波を伝搬させることによりσ相をFeリッチ相とCrリッチ相に分解させることが可能である。
本実施例では、合金の組成および時効処理条件を変えたこと以外は実施例7と同様に二相ステンレス鋼を作製し、機械的性質の評価を行った。二相ステンレス鋼の組成は、Fe‐25.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.5Sn0.017C‐0.27Nである。該合金の鋼板に通電端子としてタングステン電極を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数2GHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電した。電流密度は0.01〜10A/cmである。スピノーダル分解後のキュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に鋼板に交流通電した。周波数は1kHzから2GHzの範囲を走査させてその変位から、変位最大となる周波数を選択した。No.12の二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表2に記載する。
表2より、本実施例に係る二相ステンレス鋼においては熱処理の前後で衝撃値が低下せず、機械的性質の低下抑制効果が優れていることが示された。本実施例において、Snがα/γ相界面に偏在化してσ相の成長が抑制される。Snの偏在化は磁場印加により加速され、脆化抑制には有効である。また、溶接中に磁場を印加しながら周波数を走査した弾性波を伝搬させることにより脆化相の成長を抑制することが可能である。本実施例のように2GHzの周波数の交流電流を用いて弾性波を伝搬させることによりσ相をFeリッチ相とCrリッチ相に分解させることが可能である。
本実施例では、磁場印加に永久磁石を使用した例について説明する。二相ステンレス鋼の組成は、Fe‐25.0Cr‐6.9Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.2Sn0.017C‐0.35Nである。該合金の鋼板に通電端子としてタングステン電極を接触させ、0.5Tの磁場を圧延面に平行に印加した。磁場は静磁場であり、SmCo17系永久磁石を使用しており、永久磁石端部の温度が500℃であっても減磁しない。磁場は溶接工程において溶接前のみ印加している。作製した試料No.13の二相ステンレス鋼の組成、時効処理条件および衝撃値の評価結果を、後述する表2に記載する。
このような磁場印加により、強磁性相であるα相が安定化される。α相にはSnリッチ相が磁場印加により成長し、α相の格子定数は増加する。Snリッチ相がα/γ相界面に形成されることにより脆化が抑制される。これはα/γ相界面でSnリッチ相の成長によりσ相が成長しにくくなることによる。表2より、本実施例に係る二相ステンレス鋼においては熱処理の前後で衝撃値が低下せず、機械的性質の低下抑制効果が優れていることが示された。
Snリッチ相は、Snを1〜10mass%含有しているbcc構造の結晶である。Snリッチ相のSn含有量が1mass%未満ではσ相成長の抑止効果がほとんどない。またSn濃度が10mass%を超えるとσ相成長の抑制効果はあるが、衝撃値は減少する。したがって、Snリッチ相のSn濃度は1〜10mass%が望ましい。本実施例のように磁場印加によりSnの添加濃度を低減させることができる。すなわち、Snの添加濃度が0.2mass%であっても、磁場印加によりCr濃度が1〜10mass%のα相を成長させることが可能となり、σ相などの脆化相成長を抑制することができる。
Sn添加によりα相は安定化するため、溶接後にγ相の体積が減少しやすい。そこでγ相形成元素であるNi,Nなどの濃度を増加させると、耐食性と強度を向上させることが可能である。
Figure 2017031473
Figure 2017031473
以下に、参考例1に焼結磁石に対する高周波磁場印加の効果を、参考例2〜6に電磁弾性波処理の効果を説明する。
[参考例1]
本参考例では、NdFe14Bを主相とする結晶粒の平均粒径が0.5〜10μmの焼結材を1Tの静磁場中で高周波電流を印加した。周波数は200Hz〜5GHzであり、正弦波状の交流電流である。磁場および電流通電時に焼結体を加熱する。400℃から550℃に加熱保持後急冷することで粒界及び粒界近傍の構造や組成が変化する。その効果は次のとおりである。
(1)磁場印加により磁化率を高める方が自由エネルギー低下につながるため、主相の磁化率を増大するような元素や欠陥の移動が生じる。
(2)粒界の低融点相が電磁振動エネルギーの付加により主相外周に均一に形成される。
(3)前記低融点相と主相間の濡れ性が向上し、低融点相と主相間の結合が高められる。
(4)低融点相が電磁振動無しの場合よりも低温側で成長する。5)印加する電磁振動エネルギーを増加させると、主相結晶粒の粒界面が滑らかになり、粒界の凹凸が低減される。特に加熱保持温度が300℃で残留磁化が認められる条件で、弾性振動を印加させた場合には、周波数1kHz〜20GHzで通電電流密度10A/cmのときに以下の効果が認められる。
(5)低温で粒界が軟化して粒界部近傍で拡散が進行する。伝播エネルギーに粗密があれば特定方向に拡散する。このため方向性あるいは異方性のある原子配列または濃度勾配が実現できる。
(6)主相の磁気モーメントが増加した方がエネルギーが安定化するため磁化が増加し、主相の不純物濃度が減少する。
(7)転位や点欠陥などの欠陥密度が減少する。
(8)磁気モーメントが磁場方向に平行になろうとする。
(9)主相と異なる第二相あるいは第三相が消失する。伝播の不連続部にはエネルギーが集中しやすく異相が消失したり、主相に内包されたりすることで伝播が連続的になろうとする。これは欠陥や歪が消失するのと類似している。
(10)侵入型元素など拡散しやすい原子は300℃以下の室温域においても振動場(弾性波あるいは非弾性波)により拡散し,磁気エネルギーや弾性エネルギーが安定化するような原子配列をする。
(11)加熱保持温度において液相がある場合には弾性波の印加により液相の固相間厚みが均一となるか、あるいは液相だまりが少なくなる。
上記のいずれかの効果により、添加元素を採用せずに上記電磁振動による1MHz,450℃,1h保持後急冷却の熱処理を実施することで保磁力が2kOe増加する。なお、電磁振動は20℃以上の温度範囲で引加している。
電磁振動を引加しながら5〜100℃/secの最大冷却速度で急速冷却する場合には、さらに下記の効果が加えられる。
(12)振動波の影響により欠陥密度が高い部位が凍結されて室温でも維持される。(13)振動波の影響による組成変調や偏在または偏析が凍結されて室温において維持される。
(14)加熱温度範囲で電磁振動によって誘起された準安定相が凍結され室温において維持される。
(15)被処理材において弾性率の異なる相が構成相である場合には弾性率の差に応じて弾性波の伝播に差が生じ、エネルギーの粗密が形成される。固相と液相、金属と炭化物や酸化物、窒化物、フッ化物、酸窒化物、酸フッ化物などの化合物が粒界や粒内に形成された場合などは、周波数を選択すれば前記化合物に弾性波のエネルギーを集中させて選択的に破壊消滅あるいは化合物構成元素を拡散させることが可能である。
上記効果により、電磁振動の伝播方向に組成や構造が異方的になる振動誘起異方性が認められる。このような異方性を利用して、粒界拡散磁石や高抵抗磁石などの永久磁石材料の性能向上ばかりでなく、軟磁性材料の磁気異方性の発現や、構造材料の機械的性質の向上、耐食性向上、耐摩耗性向上、残留応力除去、残留歪除去、表面保護膜の性能向上や寿命向上、超伝導材料の性能向上などが実現される。
[参考例2]
本参考例では、電磁弾性波処理を利用する例について説明する。Fe‐50%Cr‐20%Ni合金を溶解後、電磁弾性波処理により結晶粒を微細化した。電磁弾性波処理は次の条件である。磁場2.0T,温度600℃,通電電流密度200A/cm,周波数1MHz‐10THzである。磁場方向に対して45〜90度方向に通電させて弾性波を発現させる。処理時間は600℃で10minである。冷却中も電磁弾性波を印加させた。
電磁弾性波処理により、高弾性係数のα相やγ相の結晶に転位や欠陥が導入され、結晶粒が30μm〜5μmに微細化される。また、粒界の不純物偏析が均一化される。弾性波の伝播が不連続なα/γ相界面近傍で結晶粒を細かくすることができ、耐腐食性と引張強度が上昇する。
電極対を複数使用し、通電方向を変えることで被処理材にねじり変形や曲げ変形を局所的に加えることが可能である。このような変形により応力が集中しやすい結晶粒界近傍で結晶粒径が細かくなる。また通電しながら磁場中急速冷却を施すことで応力付加部を準安定状態で室温に保持することができる。
FeNiCr系合金において、高硬度相である炭化物、窒化物や金属間化合物は電磁弾性波処理により粉砕分散させることができ、粒界あるいは粒内への分散が可能である。電磁弾性波処理無しの場合の衝撃値が50J/cmである材料であっても、電磁弾性波処理により150J/cmとすることが可能である。また、電磁弾性波は残留応力の低減にも有効である。電磁振動波を印加して成長させた準安定化合物の中には、弾性振動印加により安定化される化合物がある。このような化合物を安定維持させるために使用構造物において適用部分に弾性振動を印加し性能を維持させることが可能である。弾性振動の固有周波数を検知することにより振動波の伝播定数をパラメータとして前記準安定相の状態を推定することができ、構造物の保守管理が容易となる。
[参考例3]
本参考例では、NiFe合金において規則化を促進させるために磁場中弾性波処理を利用する例について説明する。Ni75Fe25合金に磁場1.0T、1kHz〜10THzの周波数で磁場方向とは30〜90度の範囲の方向に通電した。温度は外部ヒータにより制御し、200℃から800℃の温度範囲で加熱保持した。規則化することにより比熱の変化あるいは磁化、保磁力の変化として検出できる。500℃で1時間保持し、上記のように磁場1.0T中で1kHz〜10THzの範囲で弾性波を印加することで原子移動が生じ、規則化が進行する。周波数1kHz未満ではO,B,C,Nなど不純物元素の拡散速度を制御できるがNiやFe原子の規則度にはほとんど影響しない。周波数が1kHz〜10THzの範囲では、結晶格子の振動モードに弾性波が影響し、磁場が印加されることで規則化が進行する。弾性波は正弦波以外に矩形波などのパルス状波形でも良い。複数の電極対を使用するなどしてねじり変形成分を含む弾性波を印加しても良い。複数の電極対に対してスイッチングすることで電流パスを切り替えることにより変形方向や振動伝播方向または干渉波の導入を制御することができる。処理後L10型規則合金が形成され、残留磁化1.0T,保磁力20kOeの硬質磁性合金が得られる。規則度を向上させるために、Niよりも低融点の元素を添加することが有効である。弾性波は固有振動または非固有振動のいずれでも良い。規則合金の異方性は弾性波の伝播方向、磁場印加方向に影響される。
本参考例のような元素の規則化による保磁力の増加は、Ni75Fe25およびNi50Fe50、Co50Fe50,Fe16,など他の組成の化合物においても確認できる。
[参考例4]
Fe‐C系材料はα相、γ相および炭化物などの結晶から構成されている。磁場印加しながら加熱すると、元素拡散により強磁性相が磁場方向に伸びた配向組織を有するようになる。このような強磁性が磁場の影響で配向する温度は材料組成や結晶粒の寸法および粒界によって異なるが、500℃以上キュリー点以下の温度範囲である。キュリー点以下の温度で磁場を印加しながら弾性波を加えることで、強磁性相の配向と拡散速度促進が図られる。
FeCが成長する材料系においてはFeCの形態に磁場と弾性波が影響する。FeCを0.01%以上含有する材料においては、500℃以上キュリー点以下の温度範囲で1Tの磁場を印加しながら周波数1GHzで1μmの変位の弾性振動を加えることによりFeCの一部が破砕され、FeCの粒径が小さくなる。強磁性相であるα相に沿って微細化されたFeCが並んでいる組織となる。
キュリー点以下の温度では、磁場方向に強磁性相が伸びた方が自由エネルギーが低下する。このためα相が磁場方向に平行になりやすい。これにより非磁性あるいは弱磁性のγ相はα相とα相の相間に形成されることとなり、γ相の結晶も磁場方向に平行に繋がっている。γ相の方がα相よりも炭素や窒素などの侵入型元素を固溶しやすいためγ相が炭素の多くを含有する。炭素の固溶量が多いγ相結晶が磁場に平行につながることにより炭素原子の拡散経路が形成されることとなり、無磁場の場合よりも炭素拡散が進行しやすくなる。
キュリー点以下の温度域において、磁場以外に弾性振動を印加することにより、炭素原子が拡散し易い周波数を選択することにより炭素はさらに拡散速度が増加する。振動数が20から1kHzの低周波では強磁性と非磁性相との間には弾性波伝播の差が認められないが、振動数は1kHzを超えて1MHzとなると弾性係数が大きな連続相を伝播しやすくなりα相を弾性波は伝播し易くなる。さらに、1MHzを超えて1GHzの周波数では弾性係数の大きな不連続相である炭化物を破砕し始める。炭化物の破砕に伴い炭化物の粒径が1/2から1/10となり炭素がさらに拡散しやすくなる。
上記磁場印加と弾性波印加の効果は窒化物や酸化物、硼化物、フッ化物またはこれらの複合化合物を含む材料においてその構成元素の拡散促進や結晶粒制御に有効である。弾性波の発生源としては、電磁振動波以外に衝撃波、圧電法、超短光パルス、などのパルスレーザ法や磁歪振動子、超音波振動子との接触、音響放射圧、音波や第二音波、共鳴波、パルス磁場などを利用でき、弾性波は縦波、横波のいずれでも良い。
周波数が1GHzを超え1THzまでの範囲においては、磁場と格子振動およびスピンとの関係により特有の効果が認められる。α、γ、炭化物が主な構成相である本参考例の場合には、磁化が高い順にα、炭化物、γとなる。この場合Feが炭化物に含有している。格子振動やスピンの振動に強く影響するのは最も磁化が高いα相である。振動モードによりその影響は異なるが、スピンを平行に保持したままの伝播と、スピンを非平行にしようとする作用を加えた伝播がある。スピンを平行に保持しようとしても磁壁などで散乱し伝播が乱される。印加磁場が十分大きい場合にはスピンは平行となり単磁区化されているため、散乱されずに伝播することになる。単磁区化されたα相内では振動波の減衰が抑制され、散乱されにくい磁気構造になろうとするのである。このためスピン配列を乱すような元素は伝播経路から排除される。
弾性波などの振動を被処理材に伝播させて熱処理することによる組成・組織制御の他に、機能性材料や構造材料の使用時に振動させ、その材料の特性を維持、保全することが可能である。使用時の振動波は、振動によって誘起される準安定相や準安定状態の組織・組成・結晶構造を維持する。振動波の伝播特性などにより準安定状態を検知する。このような強制振動によって維持される準安定相を維持して、各種機能材料や構造材料を各種用途に適用できる。
[参考例5]
本参考例では、二相ステンレスの表面に対してNHガスを使用して反応性窒化する例について説明する。Fe‐25.0Cr‐4.5Ni‐4.0Mo‐0.8Mn‐0.2Cu‐0.02C‐0.35Nの二相ステンレスの表面に対してNHガスを使用して500℃にて反応性窒化した。窒化物を形成後、表面から窒素を拡散させるために弾性波を印加しながら熱処理する。被処理材に電極を接触させ10MHzの交流電流を磁場1.0Tの磁場方向から50度から90度に通電する。通電時の温度は500℃である。通電により弾性波が伝播し、窒素が表面側から被処理材の内部に拡散しやすくなる。同時に被処理材加工後の残留応力を低減させることができ、この処理後の衝撃値は190J/cmである。弾性波を印加しない場合には衝撃値が80J/cmに減少する。
二相ステンレスは上記窒化処理によりFeNやFeN、CrNなどの窒化物が表面に形成され、耐食性と耐磨耗性が向上する。電極対を窒化処理側に接触させることで、弾性表面波が伝播する。レイリー波、リーキー波あるいはラブ波も伝播し、被処理材の結晶粒および粒界ならびに最表面を弾性波が伝播する。表面から内部への伝播波は減衰しその一部は熱エネルギーとなる。このような数種類の弾性波は互いに干渉しながら減衰し、伝播時には結晶格子の変形を伴う。結晶格子の変形は侵入位置に配置する窒素や炭素などの原子拡散を促進させる。
本参考例では、窒化による硬化層の厚さが弾性波を使用することにより弾性波を印加しない場合と比較して2から5倍となる。硬化層の厚さを厚くすることが可能となったのは、低温で弾性波を印加して窒素の拡散を促進させているためである。
本参考例で拡散させる窒素はγ形成元素でありfccを安定化させる。fccの磁化は小さく、窒素を拡散させγ体積を増加させると磁化が小さくなる。弾性波を被処理材の磁化を小さくしたい部分のみ選択的に拡散させることにより、被処理材の部分非磁性化あるいは部分低磁化が実現できる。このような部分弱磁化の工程は窒素の拡散促進を磁場印加弾性波加熱処理や他の方式の弾性波印加を400℃から800℃の温度範囲で実施することにより、弾性波印加部が弱磁性とすることが可能となる。窒素の変わりに窒素と炭素の混合拡散、あるいは窒素、炭素、ホウ素の混合拡散も局所低磁化処理が可能である。このような局所弱磁化処理は被処理材が二相ステンレスばかりでなく、FeNiCr系、FeC系、FeMnCr系などに適用できる。
上記のように局所的に弾性波を印加して被処理材の物性を変える処理は、磁化の低減のみではなく、局所的に硬化層を厚くすること、歪や残留応力を低減すること、耐食性向上、疲労特性向上、耐磨耗性向上などが可能である。
[参考例6]
FeNiCr合金系のα相とγ相が共存する組成範囲において、400℃から600℃の温度範囲で磁界中弾性波熱処理を施す。磁界は1Tの静磁界であり弾性波は10GHzの矩形波である。変位は1〜1000nmであり被処理材の表面をドップラー効果を使用してその波形を測定できる。このような弾性波を印加しながら上記時効熱処理を実施し、さらに弾性波印加のままレーザー溶接することにより、硬質化合物の成長を抑制しながら溶接することが可能である。
上記弾性波はα相やγ相を伝播し、その結晶を安定化させる。弾性波の変わりに種々の振動波を印加することにより同様の効果が確認できる。強制振動に加えて磁場や電場を印加することで、スピン波やスピン流および電荷移動を伴った伝播により準安定相の誘起が可能である。伝播経路に沿って準安定相を形成させ、衝撃値を250J/cmに増加させることが可能である。
以上説明したように、本発明によれば、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、結晶粒の成長が抑制され、かつ脆化相の成長が抑制されて機械的性質の低下が抑制された二相ステンレス鋼と、このような二相ステンレス鋼を得ることが可能な二相ステンレス鋼の製造方法および製造装置を提供することが可能であることが実証された
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
10…γ相、11…α相、12…組成変調構造、20…二相ステンレス鋼の製造装置、21…通電端子、22…振動子、23…振動伝播材、24…ヒータ、25…被処理材、26…磁場発生器。

Claims (20)

  1. Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼において、
    Niよりも低融点の元素を含み、前記α相の結晶粒が組成変調構造を有することを特徴とする二相ステンレス鋼。
  2. 前記Niよりも低融点の元素が前記α相の結晶粒内に含まれていることを特徴とする請求項1記載の二相ステンレス鋼。
  3. 前記組成変調構造はFeとCrの組成が変調されているものであることを特徴とする請求項1記載の二相ステンレス鋼。
  4. 前記Niよりも低融点の元素がSn,Ga,Ge,In,Au,Ag,La,Ce,Pr,Nd,Pm,SmまたはEuであり、添加量が0.01〜2質量%であることを特徴とする請求項1記載の二相ステンレス鋼。
  5. 前記組成変調構造が前記α相および前記γ相の結晶粒界に沿って形成されていることを特徴とする請求項1記載の二相ステンレス鋼。
  6. Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼の製造方法において、
    二相ステンレス鋼の母材となる合金を溶解および熱間鍛造する工程と、
    前記母材にNiよりも低融点の元素を添加し、溶解および圧延する工程と、
    溶体化処理工程と、
    時効処理工程と、を含み、
    前記時効処理工程は、磁場を印加しながら前記二相ステンレス鋼のキュリー点以下の温度に昇温した後冷却する工程を含むことを特徴とする二相ステンレス鋼の製造方法。
  7. 前記時効処理工程は、磁場を印加しながら500℃に昇温し、500℃から400℃までの温度範囲を冷却速度0.1〜20℃/minで冷却する工程を含むことを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  8. 前記磁場の強度が0.01〜10Tであることを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  9. 前記時効処理工程において、前記二相ステンレス鋼に交流電流を通電することを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  10. 前記時効処理工程において、前記二相ステンレス鋼に高周波磁場を印加することを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  11. 前記時効処理工程後に得られる二相ステンレス鋼の前記α相の結晶粒が組成変調構造を有することを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  12. 前記Niよりも低融点の元素が前記α相の結晶粒内に含まれていることを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  13. 前記組成変調構造は、FeとCrの組成が変調されたものであることを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  14. 前記Niよりも低融点の元素がSn,Ga,Ge,In,Au,Ag,La,Ce,Pr,Nd,Pm,SmまたはEuであり、添加量が0.01〜2質量%であることを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  15. 前記組成変調構造が前記α相および前記γ相の結晶粒界に沿って形成されていることを特徴とする請求項6記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
  16. Fe、NiおよびCrを含み、α相およびγ相の結晶粒を主成分とする二相ステンレス鋼の製造装置において、
    被処理材である二相ステンレス鋼を加熱する加熱装置と、
    前記被処理材に磁場を印加する磁場印加装置を備えることを特徴とする二相ステンレス鋼の製造装置。
  17. さらに、前記被処理材に電流を通電する通電装置を有することを特徴とする請求項16記載の二相ステンレス鋼の製造装置。
  18. 前記通電装置は、2本の通電端子を有し、前記被処理材の一面に前記通電端子が接触するように構成されていることを特徴とする請求項17記載の二相ステンレス鋼の製造装置。
  19. さらに、前記被処理材に振動を与える振動装置を有することを特徴とする請求項16記載の二相ステンレス鋼の製造装置。
  20. 前記振動装置は、振動子および前記振動子に設けられた振動伝播材を有し、前記振動子から発生した振動が前記振動伝播材を介して前記被処理材に与えられるように構成されていることを特徴とする請求項19記載の二相ステンレス鋼の製造装置。
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