JP2016084493A - ステンレス鋼及び材料処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ステンレス鋼の機械的性質と耐食性を向上させかつ残留応力を低減する。
【解決手段】 Crを15%以上含有するFe系ステンレス鋼において、層状のFeリッチ相と層状のCrリッチ相とが交互に形成された変調組成部がα相の結晶粒の少なくとも一部の粒界に沿って複数箇所形成されている。圧延されたステンレス鋼を加熱し前記ステンレス鋼のキュリー点以下の温度まで昇温する加熱工程と、前記ステンレス鋼を前記キュリー点以下の温度から冷却する冷却工程と、前記加熱工程における所定の温度から前記キュリー点以下の温度と、前記冷却工程における前記キュリー点以下の温度から他の所定の温度との範囲にわたって、前記ステンレス鋼の圧延方向に磁場を印加する磁場印加工程とを備えることを特徴とする材料処理方法。
【選択図】図8
【解決手段】 Crを15%以上含有するFe系ステンレス鋼において、層状のFeリッチ相と層状のCrリッチ相とが交互に形成された変調組成部がα相の結晶粒の少なくとも一部の粒界に沿って複数箇所形成されている。圧延されたステンレス鋼を加熱し前記ステンレス鋼のキュリー点以下の温度まで昇温する加熱工程と、前記ステンレス鋼を前記キュリー点以下の温度から冷却する冷却工程と、前記加熱工程における所定の温度から前記キュリー点以下の温度と、前記冷却工程における前記キュリー点以下の温度から他の所定の温度との範囲にわたって、前記ステンレス鋼の圧延方向に磁場を印加する磁場印加工程とを備えることを特徴とする材料処理方法。
【選択図】図8
Description
本発明は、ステンレス鋼とその材料処理方法に関する。
鉄系素材において機械的性質の向上、耐食性向上あるいは機能性向上のための組織制御の手法として磁場印加法が開示されている。特許文献1及び2では鉄鋼材料の磁気変態点以下の温度領域において磁場印加により組織制御可能なことが記載されている。
また特許文献3において構造材料表面から超音波衝撃を加えることにより劣化を抑制する手法が開示されている。
上記先行技術文献では、磁場印加と同時に拡散が進行して組織を制御するため、結晶粒が成長する温度範囲まで加熱保持する必要がある。超音波衝撃法は材料表面の残留応力の低減には有効であるが、組織制御はこれまでの手法では困難であった。
金属系材料の組織を制御するためには、応用上できるだけ低温度で実施できる手法が望ましい。磁場印加は主に強磁性相に働き、強磁性相の結晶粒が磁場方向に成長することが可能である。また超音波印加は、転位や欠陥の移動には有効な手法である。
強磁性の結晶粒が成長すると、結晶粒径が増加し、機械的性質や耐食性が低下する。そこで、機械的性質と耐食性を向上させかつ残留応力を低減可能な手法が望まれている。
上記課題を解決するために、本発明は、例えば特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本発明によれば、ステンレス鋼の機械的性質と耐食性を向上させかつ残留応力を低減することができる。
結晶粒の成長をできるだけ押さえ、機械的性質や耐食性の向上ならびに寿命向上を実現させるためには、脆化相の成長を抑制することが有効である。ステンレス系材料においてσ相を代表とするCrリッチ相の成長は脆化につながることが知られており、σ相が成長すると衝撃値が急激に低下する。
σ相の成長にはσ相構成元素であるCr、Mo、Feの拡散が不可欠である。このようなσ相の構成元素やσ相の成長促進元素あるいはσ相の安定化元素の拡散を抑制するか、排除することがσ相成長を抑制することには有効である。Cr25wt%のステンレス系材料の場合、通常各結晶粒のCr濃度は20〜30wt%であり、粒界近傍から粒中心までほぼ一定のCr濃度分布となる。これに対し、粒界近傍にCr10wt%未満あるいは80wt%以上の濃度をもった相を成長させてCr濃度の平均組成(20〜30wt%)から遠ざけることで、Cr30〜60wt%のσ相となる組成から離すことができ、σ相成長を遅らせることができる。上記Cr10wt%未満あるいは80wt%以上の相を形成するためには次のような手法が有効である。
Crリッチ相とFeリッチ相に相分離する温度範囲で材料に磁場を印加する。すなわちスピノーダル分解が進行する温度範囲において磁場を印加する。磁場は静磁場、回転磁場、交流磁場などが使用できる。磁場強度は0.02T以上10T以下の範囲であり、圧延材のように結晶の優先成長方位がある材料の場合には0.02〜2Tの範囲でよい。スピノーダル分解は磁場印加により促進され、磁場印加によりスピノーダル分解進行温度が低下するとともに、Crリッチ相のCr濃度及びFeリッチ相のFe濃度が磁場印加により増加し、各々が磁場に沿った層状に交互に重なって形成される。
磁場印加による効果は以下のようになる。磁場印加によりスピノーダル分解が促進されるため熱処理時間が短くなる。スピノーダル分解は拡散反応であるため、拡散速度が速い粒界近傍で磁場によって分解が促進されることから、磁場印加により粒界と粒界近傍のスピノーダル分解が優先的に進行する。σ相成長場所も粒界であることから、局所的なスピノーダル分解は、σ相の成長を遅らせることに有効であると同時に、粒中心には何も悪影響を及ぼさない。磁場印加はσ相の核発生場所近傍で組成変調を起こして拡散の障壁を作り、σ相の成長を遅延させる。このような組成変調は溶体化温度付近まで加熱することにより容易に消失する。
FeCrMoNiN系二相ステンレス鋼の典型的な手段を以下に示す。圧延された二相ステンレス鋼はα相とγ相の二相から構成され、圧延方向にこれらの結晶粒が伸びている。γ相は20℃で非磁性である。キュリー点以下でスピノーダル分解が進行するため、キュリー点以下の500℃まで昇温しながら磁場を印加し、500℃から400℃まで冷却(徐冷)する時にも磁場を印加する。磁場印加によりα相の結晶粒界近傍にはCrリッチ相及びFeリッチ相が成長する。静磁エネルギーを低下させるためFeリッチ相は磁場方向に長く伸びようとし、磁化は高くなろうとするため、CrリッチとFeリッチ相が成長するための拡散が促進される。このように磁場印加によりFeリッチ相の形状に方向性が付加される。磁場方向に平行な方向でFeリッチ相が伸び、磁場方向に垂直な方向で最も変調周期が短くなる。このように磁場印加により、変調周期に異方性が付与されるのである。Feリッチ相とCrリッチ相の核は相の成長初期に形成される。磁場強度が10Tを超えると、磁場に沿った方向にFeリッチ相が伸びるよりも、Feリッチ相の核がさらに磁化を高めるように拡散するため、Feリッチ相が伸びた層状になりにくい。このため磁場強度は10T未満、できれば5T以下が望ましい。
Feリッチ相とCrリッチ相は、組成と磁場中熱処理条件によって異なる。FeCr系の場合、Cr濃度が25%以上であればCrリッチ相の中にFeリッチ相が磁場印加方向に伸びて一部層状となる。これに対してCr濃度が20%未満の場合にはFeリッチ相内にCrリッチ相が島状に成長する。両者ともにσ相となるFe50Cr50の組成からFeリッチ相及びCrリッチ相の組成には濃度差ができ、組成が変調されない場合よりもσ相成長にはエネルギーが必要となる。このためσ相など高Cr相の成長が抑制されるのである。
適用可能な磁場は磁場強度と印加方向が一定である上記のような静磁場以外に、強磁性相の結晶粒の配向状態に合わせ、磁場印加方向が一定でない回転磁場も使用でき、静磁場と同様の効果がある。被処理材が圧延材ではなく鍛造材の場合には、α相結晶の配向が一定ではないため、静磁場よりも回転磁場の方が脆化抑制には有効である。
上記層状Feリッチ相はCr拡散の障壁となるためα/γ界面でのσ相やG相,χ相,Cr2N相などの成長速度を遅くすることができる。σ相成長の遅延は溶接時の熱影響部におけるσ相成長を抑制し、脆化防止となり耐食性と信頼性、寿命が大幅に改善できる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。なお、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
本実施例で用いる二相ステンレス材料の組成はFe-25.28Cr-7.01Ni-3.90Mo-0.99Mn-0.43Cu-0.13W-0.024C-0.27N(wt%)である。材料の圧延方向に1.0Tの磁場を印加し、キュリー点(515℃)以下の510℃において磁場中時効熱処理を進める。磁場中時効熱処理についてその典型条件を以下に示す。
二相ステンレス材料の圧延方向に磁場が印加できるよう電磁石の位置を調整する。加熱部が酸化しないようにArガスを流しながらヒータで加熱する。加熱速度は1〜10℃/分である。温度が215℃に達した時に磁場を印加開始し、510℃まで昇温させた後、冷却する。磁場は215℃以下になるまで継続して印加する。磁場は二相ステンレス材料の中心部で1.0Tであり、端部で0.5Tとなっている。磁場強度は0.1T以上であればσ相の成長抑制効果が確認できる。昇温時は、温度が460℃に達した時に加熱速度を小さくする。460℃以上の温度では0.5℃/分とした。510℃に達した後直ちに0.5℃/分の速度で460℃まで徐冷する。460℃以下は炉冷する。
上記磁場中時効処理により,スピノーダル分解が磁場によって加速され、かつスピノーダル分解が局所的に進行する。スピノーダル分解は、組成の変調を伴い強磁性であるα相におけるFeやCr濃度を変調させる。このため短時間であれば粒界近傍のみスピノーダル分解が進行する。数時間程度の短時間で500℃の熱処理を無磁場中で施してもスピノーダル分解は進行しにくい。無磁場中でも510℃の時効熱処理を施すことにより、時効熱処理しない場合よりもσ相の成長が抑制されるが、その抑制効果は小さい。
上記磁場中時効熱処理により二相ステンレス鋼の組織や組成が変化する。特に強磁性であるα相の結晶粒内に組成変調が生じる。Feの含有量が多いFeリッチ相とCrあるいはMoなどの非磁性元素の含有量が多いCrリッチ相が層状あるいは粒状に成長する。磁場が1.0Tの場合,層状のFeリッチ相の長手方向が磁場印加方向に平行になる傾向がある。これは磁場によって強磁性の形状が磁場方向に平行になった方が形状に依存するエネルギーを小さくすることが可能であるためである。従って磁場を印加することによりFeリッチ相が圧延方向に平行に成長し,α/γ界面で510℃よりも高温になった時の拡散バリアーとして作用する。
σ相はFe-Cr二元状態図でFe50Cr50%の組成に成長するが、スピノーダル分解により組成変調が生じ、Feリッチ相とCrリッチ相に分離することでFe50Cr50%の組成から離れた組成となるためσ相は成長しにくくなる。本実施例の場合,平均組成25.8%Crとなっているが組成変調によりα相の粒界近傍でFe濃度が80-95重量%, Cr濃度が70から90重量%の相が成長する。前者がFeリッチ相、後者がCrリッチ相である。Crリッチ相にはCr以外にMo, Mnなどの非磁性元素がFeリッチ相よりも多く含有する。α/γ界面は圧延方向に平均的に平行になっているので磁場印加方向を圧延方向と平行にすることで組成変調の変調方向がα/γ界面と垂直な方向となる。このように磁場印加方向を選択することで組成変調の方向に異方性を有することとなる。組成変調は拡散の障壁となり拡散速度が減少しσ相の成長が抑制される。
上記スピノーダル分解は、以下の手法で確認できる。1)X線回折パターンのα相の回折ピークが少なくとも2つのピークで分離され、2つのピークがFeリッチ相とCrリッチ相に対応できる。2)透過電子顕微鏡観察によりFeリッチとCrリッチの層状コントラストが得られる。3)内部磁場測定から高内部磁場と低内部磁場成分が検出できる。
上記スピノーダル分解によりα相の硬さは増加する。スピノーダル分解前すなわち磁場印加熱処理前は、α相のビッカース硬さ(Hv)が270〜280である。スピノーダル分解後のビッカース硬さは290〜500となる。磁場中熱処理によりσ相の成長抑制する溶接部あるいは溶接熱影響部はα相の硬さが高くなる。一方γ相の硬さは磁場中熱処理により大きく変化せず250〜290の範囲であった。
本実施例において磁場中時効熱処理を実施することによりσ相の成長は未実施の材料と比較して1/5に減少した。この結果は、熱処理許容時間が従来と比較して約5倍に延びることと同等であり,溶接時の入熱条件や冷却条件と溶接後の残留歪除去条件が緩和できる。
本実施例のような磁場中時効熱処理がσ相などの脆化相成長を抑制可能な材料は、Fe-28Cr-7.01Ni-3.90Mo-0.99Mn-0.43Cu-0.13W-0.024C-0.27N以外にCrを15%以上含有するFe系ステンレス鋼やFeNi系ステンレス鋼である。またCr以外のσ相形成元素でかつ非磁性元素であるMoを含むステンレス鋼においても有効である。
本実施例で用いる二相ステンレス材料の組成はFe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)である。圧延方向に0.1及び1.0Tの磁場を印加し、キュリー点(515℃)以下の510℃において磁場中時効熱処理を進める。磁場中時効熱処理についてその典型条件を以下に示す。
溶体化処理された二相ステンレス鋼の圧延方向に磁場が印加できるよう電磁石の位置を調整する。真空ポンプで排気し1×10-2Paまで真空引き後、ヒータで加熱する。加熱速度は1〜10℃/分である。加熱と同時に磁場を印加開始し、冷却時も磁場印加する。磁場は二相ステンレスの中心部で0.1T及び1.0Tとなっている。磁場強度は0.1T以上であればσ相の成長抑制効果が確認できる。温度が460℃に達した時に加熱速度を小さくする。460℃以上の温度では0.5℃/分とした。510℃に達した後直ちに0.5℃/分の速度で460℃まで徐冷する。460℃以下では炉冷である。
上記磁場中時効処理中の磁化と温度の関係を図1に示す。印加磁場0.1Tの場合と1.0Tの場合の二つの曲線を測定した。矢印は即定時の昇温及び降温時の曲線に相当する。0.1Tの場合465℃に磁化−温度曲線で変曲点が認められ、1.0Tの場合には450℃に変曲点が確認される。この変曲点近傍の曲線を拡大して右上に示す。1.0Tの場合には450℃から460℃の温度範囲で加熱とともに磁化が増加している。通常の強磁性体では温度上昇とともに磁化は減少するが、上記のように磁場1.0Tの場合には温度依存性が通常の強磁性体とは逆の依存性が確認される。これはスピノーダル分解により高磁化をもったFeリッチ相と低磁化のCrリッチ相に組成変調が起きることに対応している。変曲点は図1に示すように0.1Tで465℃、1.0Tの磁場で450℃にあり、磁場強度が高いほど変曲点温度は低くなる。
上記結果により、スピノーダル分解が磁場によって加速されることが判明した。また磁場中時効処理時間が短時間であるためスピノーダル分解が局所的に進行する。スピノーダル分解は、組成の変調を伴い強磁性であるα相におけるFeやCr濃度を変調させる。このため短時間であれば粒界近傍のみスピノーダル分解が進行する。数時間程度の短時間で500℃の熱処理を無磁場中で施してもスピノーダル分解は進行しにくい。無磁場中で510℃の時効熱処理を施すことにより、時効熱処理しない場合よりもσ相の成長が抑制されるが、その抑制効果は小さい。
上記磁場中時効熱処理により二相ステンレス鋼の組織や組成が変化する。特に強磁性であるbcc構造のα相結晶粒内に組成変調が生じる。Feの含有量が多いFeリッチ相とCrあるいはMoなどの非磁性元素の含有量が多いCrリッチ相が層状あるいは粒状に成長する。磁場が1.0Tの場合,層状のFeリッチ相の長手方向が磁場印加方向に平行になる傾向がある。これは磁場によって強磁性の形状が磁場方向に平行になった方が形状に依存するエネルギーを小さくすることが可能であるためである。従って磁場を印加することによりFeリッチ相が圧延方向に平行に成長し,α/γ界面で510℃よりも高温になった時の拡散バリアーとして作用する。σ相はFe-Cr二元状態図でFe50Cr50%の組成に成長するが、スピノーダル分解により組成変調が生じ、Feリッチ相とCrリッチ相に分離することでFe50Cr50%の組成から離れた組成となるためσ相は成長しにくくなる。本実施例の場合、平均組成25.8%Crとなっているが組成変調によりα相の粒界近傍でFe濃度が80重量%以上95重量%以下、Cr濃度が70重量%以上90%重量%以下の相が成長する。前者がFeリッチ相、後者がCrリッチ相である。Crリッチ相にはCr以外にMo, Mnなどの非磁性元素を含有し、これらはFeリッチ相よりも多く含有する。α/γ界面は圧延方向に平均的に平行になっているので磁場印加方向を圧延方向と平行にすることで組成変調の変調方向がα/γ界面と垂直な方向となる。組成変調は拡散の障壁となり拡散速度が減少しσ相の成長が抑制される。
上記スピノーダル分解は、X線回折パターンの測定により確認できる。圧延面に平行な面のX線回折パターンを測定し、α(211)のピークについて拡大したパターンを図2に示す。磁場印加により(211)回折ピークの高角度側に明瞭なピークが確認できる。これに対し無磁場の場合は高角度側に明瞭なピークは認められない。また低角度側についてはピーク強度が磁場印加により高くなっている。即ち、回折角81.5度において無磁場の場合よりも磁場印加の場合の方が回折強度が高くなっている。これは磁場印加により面間隔が大きい格子と小さい格子が形成されたためである。高角度側の回折ピークがFeリッチ相に相当し、回折ピークの低角度側への広がりがCrリッチ相に対応する。図1のような磁場印加による回折ピークの変化は圧延方向に垂直な面では認められない。従ってスピノーダル分解は均等ではなくスピノーダル分解が促進される方向があり、圧延方向に平行に層状に分布していると考えられる。図1の結果から磁場中時効熱処理によりα相の結晶を構成する単位格子が複数となり、面間隔が大きい格子と小さい格子に分離することとなる。磁場印加によってα相中の面間隔の差は約0.1%となる。
α相の面間隔の差は磁場強度が大きくなるほど大きくなり、微量添加元素にも依存するが0.05%以上0.5%以下の範囲で認められる。磁場中時効熱処理によりスピノーダル分解していないα相とスピノーダル分解したα相が形成される。スピノーダル分解したα相はFeリッチ相とCrリッチ相に組成が分離しているので濃度が異なる3種類のα相が形成される。α相の格子定数はCr濃度が高いほど大きくなる。面間隔が大きい順にCrリッチ相、スピノーダル分解していないα相、Feリッチ相となる。したがって、上記面間隔の差はCrリッチ相とFeリッチ相の面間隔の差となる。
本実施例において磁場中時効熱処理を実施することによりα相の分解が抑制される。図3に800℃30分熱処理後のフェライト量(α量)の相対値を示す。磁場中時効熱処理時の磁場を1.5Tとして処理した後800℃30分熱処理するとフェライト量は71%である。これに対し無磁場で時効熱処理後に800℃30分熱処理すると56%に低下する。時効熱処理なしの場合も56%である。この結果によりフェライト(α相)の分解を抑制するためには磁場と時効熱処理のどちらも必要であることがわかる。
これらの結果から時効熱処理中の磁場印加はその後のキュリー点を越える熱処理においてα相の分解を抑制する効果があることが判明した。主相であるα相のキュリー温度(520℃)よりも低温で熱処理する場合、α相の分解抑制効果が認められる最低磁場強度は0.01Tである。
本実施例のような磁場中時効熱処理がσ相などの脆化相成長を抑制可能な材料は、Fe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)以外にCrを15%以上含有するFe系ステンレス鋼やFeNi系ステンレス鋼である。またCr以外のσ相形成元素でかつ非磁性元素であるMoを含むステンレス鋼においても有効である。
本実施例で用いる二相ステンレス材料の組成はFe-27.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(%)である。800℃の温度で30分保持し冷却速度50℃/分で冷却した。この熱処理時に圧延方向に平行及び垂直方向に6Tの磁場を印加した。熱処理後の磁化-磁界曲線を図4に示す。磁場を圧延方向に平行に印加した場合が最も飽和磁束密度が大きく、無磁場の場合より磁束密度は18%高い。グラフ内の2つの図はEBSD(Electron Back Scattering Diffraction)像である。薄い色の部分がγ相、濃い色の部分がα相、白色の部分がσ相を示す。左図が6T磁場を圧延方向に平行に印加して熱処理した試料であり、σ相の比率は2.1%であった。右図が無磁場熱処理の場合であり、σ相比率は4.2%である。このことから、6T磁場印加によりσ相の成長が1/2に抑制されていることがわかる。磁場印加によってα相の分解が抑制されている理由は、磁場印加による強磁性相の自由エネルギー低下によると考えている。磁場印加によりα相の磁化が高い方が自由エネルギーを低下させるため、α相の磁化を低下させるCrやMoの拡散による濃化が進行しにくいものと推定される。
6Tの磁場を1.5Tとし、800℃30分を750℃45分に変えて磁場中熱処理を実施後、X線回折パターンを測定した。その結果を図5に示す。下のパターンが無磁場の場合である。無磁場の場合α、γ及びσの三相が検出された。1.5Tの磁場印加によりσ相の回折ピークは弱くなっていることが確認できる。
これらの結果から熱処理中の磁場印加はα相の分解を抑制する効果があることが判明した。主相であるα相のキュリー温度(520℃)よりも高温で熱処理する場合、α相の分解抑制効果が認められる最低磁場強度は0.1Tである。
本実施例で用いる二相ステンレス材料の組成はFe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)である。圧延方向に0.1及び1.0Tの磁場を印加し、二相ステンレス鋼を構成する主相αのキュリー点(515℃)以下の510℃において磁場中時効熱処理を進める。磁場中時効熱処理についてその典型条件を以下に示す。
溶体化処理された二相ステンレス鋼の圧延方向に磁場が印加できるよう電磁石の位置を調整する。真空ポンプで排気し1×10-2Paまで真空引き後、窒素を充填しヒータで加熱する。加熱速度は1〜10℃/分である。加熱と同時に磁場を印加開始し、冷却時も磁場印加する。磁場は二相ステンレスの中心部で0.1T及び1.0Tとなっている。磁場強度は0.1T以上であればσ相の成長抑制効果が確認できる。温度が460℃に達した時に加熱速度を小さくする。460℃以上の温度では0.5℃/分とした。510℃に達した後直ちに0.5℃/分の速度で460℃まで徐冷する。460℃以下では炉冷する。上記磁場中時効熱処理を実施後、750℃で45分間加熱冷却した。磁場中時効熱処理と比較のため時効処理無しの場合について検討した。すなわち実施例3と同様の750℃熱処理時に1.5Tの磁場を印加した場合、及び750℃で無磁場の場合をあわせて検討した。
750℃の熱処理後、相構成についてXRDパターンにより評価した。その結果を図6に示す。σ相の回折ピークが検出される40〜54度の回折角度範囲を拡大して示している。二相ステンレス鋼の主相であるα相とγ相以外に1.5T及び無磁場で時効処理していない場合にはσ相の回折ピークが検出される。これに対し磁場中時効熱処理を施した場合にはσ相の回折ピークは認められない。σ相の回折ピーク強度は無磁場において最も高く、無磁場750℃熱処理>磁場中750℃熱処理>>時効磁場中熱処理後750℃無磁場熱処理である。750℃の熱処理時に1.5Tの磁場を印加した場合もσ相の成長抑制効果が確認され、磁場中時効がσ相成長抑制には最も有効であることがわかる。
図7に圧延面に垂直面のEBSDの結果を示す。上が磁場中時効熱処理をした場合、下側が磁場印加無しの場合である。左側の像が結晶粒毎のコントラストを示す。また右側はα、γ及びσのマップを示す。無磁場の場合左側の濃い色の結晶が右側ではσ相(黒い色の部分)になっている。磁場中時効熱処理した材料にはσ相は認められない。このように磁場中時効熱処理がσ相成長の抑制に有効であることがわかる。
σ相の成長が抑制可能な磁場中時効熱処理条件について以下に説明する。σ相の抑制にはスピノーダル分解の磁場印加制御が必要なため、分解前の主相のキュリー点以下での磁場印加が必要になる。キュリー温度以下の温度で磁場印加によりFeリッチ相の形成を促進させかつFeリッチ相のFe濃度を高くする。また磁場方向に沿ってFeリッチ相の長手方向が揃う。このよう現象を実現するためには磁場0.01T以上が必要であるり、キュリー点から100℃低温側からキュリー点の温度範囲で磁場を印加する必要がある。磁場が0.01T未満では磁場印加によるスピノーダル分解の促進効果などが認められない。また磁場が10Tを超えるとスピノーダル分解後の組織が層状ではなく粒状となり、拡散抑止効果が低下する。したがって印加する磁場は0.01T以上10T以下となる。
上記のようなスピノーダル分解が局所的に進行すると、スピノーダル分解前のα相よりもキュリー点が高いFeリッチ相が成長するため、キュリー点が上昇する。またスピノーダル分解前のキュリー点よりも高温側で磁化曲線を測定すると磁化曲線が開いた曲線が測定され、スピノーダル分解前のキュリー点以下の温度における保磁力よりもスピノーダル分解前のキュリー点以上の温度での保磁力が高くなる。このような高保持力が確認できる温度はスピノーダル分解前のキュリー点とその温度から100℃高温側までの温度範囲である。
本実施例のような磁場中時効熱処理がσ相などの脆化相成長を抑制可能な材料は、Fe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)以外にCrを12%以上含有するFe系ステンレス鋼やFeNi系ステンレス鋼である。またCr以外のσ相形成元素でかつ非磁性元素であるMoを含むステンレス鋼においても有効である。またσ相形成を抑制するW, Ta, Nb, Zr, YやGa, Ge, Sn, Inなどの 元素が0.01から3%添加され、かつCrを12%以上含有するFe系ステンレス鋼においても有効である。
本実施例ではFe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)の鋼板を用いる。この鋼板に電極を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数500kHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電する。電流密度は0.1〜10A/cm2である。キュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に鋼板に交流通電する。実施例4の磁場印加効果に加えて以下の効果のいずれかが発現する。
1)周波数によって制御可能な振動エネルギーが加わることにより拡散が促進される。2)振動により非整合界面などでの摩擦も加わると局所的にエネルギーが溜まりやすくなり、結晶粒界や粒界三重点などで拡散促進や特定元素の偏在が生じる。3)渦電流が流れ、材料の形状と交流周波数により表面近傍で電磁超音波や交流超音波による拡散や偏在ならびに準安定相生成が顕著となる。4)印加磁場が1T以上では、静磁エネルギー、異方性エネルギー、磁気弾性エネルギーの寄与が顕著となり、このような磁気的なエネルギーの増減に超音波振動が影響する。
上記効果により、スピノーダル分解がさらに促進される。またスピノーダル分解が粒界に沿って局所的に進行する。固有周波数における振動の伝播がα/γ界面に沿って伝播しやすくなるためα/γ界面でのスピノーダル分解が促進される。その典型的な模式図を図9に示す。γ相10とα相11の界面付近にスピノーダル分解が進行し、変調組成部12が形成される。比較のため図8に磁場印加時効熱処理の場合を示す。磁場印加方向はα/γ界面にほぼ平行である。磁場印加時効熱処理では図8に示すように磁場方向に平行なα層の粒界で主にスピノーダル分解が進行し、一方向に変調組成部12が形成される。スピノーダル分解が生じる範囲は粒界中心から1μm以内である。図8ではα/γ界面ではないα相の結晶粒界においてもスピノーダル分解が進行する。これに対し弾性波による固有振動を加えた場合図9に示すようにスピノーダル分解はα/γ界面のα相粒界面で主に進行する。このためα相の耐食性が向上する。
本実施例のように弾性波は交流電流の通電以外に、レーザー照射による振動、圧電素子、磁歪素子による振動も利用することが可能である。
本実施例で用いる二相ステンレス材料の組成はFe-28.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.4N(wt%)である。溶接部および溶接熱影響部に対して脆化を抑制するために溶接前に磁場引加時効熱処理を実施する。圧延方向0.1Tの磁場を印加し、二相ステンレス鋼を構成する主相αのキュリー点(510℃)以下の500℃において磁場中時効熱処理を進める。磁場中時効熱処理についてその典型条件を以下に示す。
溶体化処理された二相ステンレス鋼の圧延方向に磁場が印加できるよう電磁石の位置を溶接部および溶接熱影響部において調整する。真空ポンプで排気し1×10-2Paまで真空引き後、窒素を充填しヒータで加熱する。加熱速度は10℃/分である。加熱後200℃に達したら磁場を印加開始し、冷却時も200℃まで磁場印加する。磁場強度は0.01T以上であればσ相の成長抑制効果が確認できる。温度が450℃に達した時に加熱速度を小さくする。450℃以上の温度では0.5℃/分とした。500℃に達した後直ちに0.2℃/分の速度で450℃まで徐冷する。450℃以下では炉冷である。上記磁場中時効熱処理を実施後、レーザー溶接し残留歪を除去するために800℃で10分間加熱冷却した。
800℃の熱処理後、相構成についてXRDパターンにより評価した。その結果σ相の成長は認められなかった。これに対し磁場中時効熱処理を実施せずに溶接し、800℃、10分の残留応力除去熱処理後にσ相の成長が確認できた。磁場中時効はσ相成長抑制に有効であり、衝撃値の低下がないことも確認できた。
800℃の熱処理後、相構成についてXRDパターンにより評価した。その結果σ相の成長は認められなかった。これに対し磁場中時効熱処理を実施せずに溶接し、800℃、10分の残留応力除去熱処理後にσ相の成長が確認できた。磁場中時効はσ相成長抑制に有効であり、衝撃値の低下がないことも確認できた。
σ相の成長が抑制可能な磁場中時効熱処理条件について以下に説明する。σ相の抑制にはスピノーダル分解の磁場印加制御が必要なため、分解前の主相のキュリー点以下での磁場印加が必要になる。キュリー温度以下の温度で磁場印加によりFeリッチ相の形成を促進させかつFeリッチ相のFe濃度を高くする。また磁場方向に沿ってFeリッチ相の長手方向が揃う。このよう現象を実現するためには磁場0.01T以上が必要であり、キュリー点から少なくとも100℃低温側からキュリー点の温度範囲で磁場を印加する必要がある。磁場が0.01T未満では磁場印加によるスピノーダル分解の促進効果などが認められない。また磁場が10Tを超えるとスピノーダル分解後の組織が層状ではなく粒状となり、拡散抑止効果が低下する。したがって印加する磁場は0.01T以上10T以下となる。
本実施例のような磁場中時効熱処理がσ相やχ相などの脆化相成長を抑制可能な材料は、Fe系ステンレス鋼やFeNi系ステンレス鋼である。またCr以外のσ相形成元素でかつ非磁性元素であるMoを含むステンレス鋼においても有効である。またσ相形成を抑制するW, Ta, Nb, Zr, YやGa, Ge, Sn, Inなどの 元素が0.01から3%添加され、かつCrを12%以上含有するFe系ステンレス鋼においても有効である。
本実施例ではFe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.017C-0.27N(wt%)の鋼板を用いる。この鋼板にタングステン電極を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数2GHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電する。電流密度は0.01〜10A/cm2である。キュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に鋼板に交流通電する。実施例4の磁場印加効果に加えて以下の効果のいずれかが発現する。
1)周波数によって制御可能な振動エネルギーが加わることにより拡散が促進される。2GHzの高周波を使用することにより析出物が分解される。2)振動により非整合界面などでの摩擦も加わると局所的にエネルギーが溜まりやすくなり、結晶粒界や粒界三重点などで拡散促進や特定元素の偏在が生じる。α相とγ相の界面で振動エネルギーの吸収が起こり界面での偏在が緩和される。3)渦電流が流れ、材料の形状と交流周波数により表面近傍で電磁超音波や交流超音波による拡散ならびに準安定相生成が顕著となる。4)印加磁場が1T以上では、静磁エネルギー、異方性エネルギー、磁気弾性エネルギーの寄与が顕著となり、このような磁気的なエネルギーの増減に超音波振動が影響する。特に2GHzの高周波域ではスピンが平行に揃った方がエネルギーが低下するため強磁性相はさらに安定となる。またスピンが平行になろうとするため非磁性相は成長しにくくなる。
上記効果により、スピノーダル分解がさらに促進される。またスピノーダル分解が粒界に沿って局所的に進行する。固有周波数における振動の伝播がα/γ界面に沿って伝播しやすくなるためα/γ界面でのスピノーダル分解が促進される。本実施例のように弾性波は交流電流の通電以外に、レーザー照射による振動、圧電素子、磁歪素子による振動も利用することが可能である。
溶接中に磁場を印加しながら弾性波を伝搬させることにより脆化相の成長を抑制することが可能である。また本実施例のように2GHzの周波数の交流電流を用いて弾性波を伝搬させることによりσ相がFeリッチ相とCrリッチ相に分解させることが可能である。
このような高周波電流と磁場を利用した弾性波は、σ相の分解を促進させるだけではなく、炭素鋼の炭化物の分解、窒化処理材の窒化物の分解も促進できる。磁場印加によりいずれの分解過程においても分解前よりも磁化が増加する。
本実施例ではFe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.5Sn0.017C-0.27N(wt%)の鋼板を用いる。この鋼板にタングステン電極を接触させ、1Tの磁場を印加中、周波数2GHzの交流を磁場印加方向に垂直な方向に通電する。電流密度は0.01〜10A/cm2である。スピノーダル分解後のキュリー点以下の温度範囲における磁場中時効処理中に鋼板に交流通電する。周波数は1kHzから2GHzの範囲を走査させてその変位から、変位最大となる周波数を選択した。実施例4の磁場印加効果に加えて以下の効果のいずれかが発現する。
1)周波数によって制御可能な振動エネルギーが加わることにより拡散が促進される。スピノーダル分解など拡散を伴う反応が促進される。2)振動により非整合界面などでの摩擦も加わると局所的にエネルギーが溜まりやすくなり、結晶粒界や粒界三重点などで拡散促進や特定元素の偏在が生じる。α相とγ相の界面で振動エネルギーの吸収が起こり界面での偏在が緩和され、弾性係数が大きな析出物はその構造が分解される。3)渦電流が流れ、材料の形状と交流周波数により表面近傍で電磁超音波や交流超音波による拡散ならびに準安定相生成が顕著となる。電極を表面とその反対側の面に設置させ、電流が材料内部を流れるようにした場合には、通電経路に近い結晶粒で脆化抑制が顕著になる。あるいは磁場を通電経路に対し局所的に印加することで磁場が集中する結晶粒で脆化抑制などの改質効果が確認できる。4)印加磁場が1T以上では、静磁エネルギー、異方性エネルギー、磁気弾性エネルギーの寄与が顕著となり、このような磁気的なエネルギーの増減に超音波振動が影響する。特に2GHzの高周波域ではスピンが平行に揃った方がエネルギーが低下するため強磁性相はさらに安定となる。またスピンが平行になろうとするため非磁性相は成長しにくくなる。
本実施例のSnの添加によってSnがα/γ界面に偏在化してσ相の成長が抑制される。Snの偏在化は磁場印加により加速され脆化抑制には有効である。また、溶接中に磁場を印加しながら周波数を走査した弾性波を伝搬させることにより脆化相の成長を抑制することが可能である。本実施例のように2GHzの周波数の交流電流を用いて弾性波を伝搬させることによりσ相がFeリッチ相とCrリッチ相に分解させることが可能である。
このような高周波電流と磁場を利用した弾性波は、σ相の分解を促進させるだけではなく、炭素鋼の炭化物の分解、窒化処理材の窒化物の分解も促進できる。さらにマイクロクラックのような粒界の欠陥集中部付近に弾性波及び磁場印加により、欠陥部を選択的に拡散や再構成させることで、マイクロクラックを消失させることが可能である。このような信頼性回復工程は、通電経路と磁場印加場所ならびに弾性波波形を選択し、マイクロクラックなどの欠陥を評価しながら修復させることが可能であり材料寿命を向上させることが可能である。弾性波には正弦波以外に矩形波やパルス波を使用しても同様の効果が得られる。また上記Snの代わりにσ相を磁場と弾性波の効果で抑制できる元素として、Ga, Ge, Al. Zn, In も有効である。さらにWやNbなどの高融点金属元素の添加量が0.1%で磁場と弾性波の効果によってσ相など脆化相成長を抑制させることができる。
本実施例では、Fe-25.0Cr-6.9Ni-4.0Mo-0.8Mn-0.2Cu-0.1Sn0.017C-0.35N(wt%)の鋼板を使用し、タングステン電極を電気的に接触させ、0.5Tの磁場を圧延面に平行に印加した。磁場は静磁場でありSm2Co17系永久磁石を使用しており永久磁石端部の温度が500℃であっても減磁しない。磁場は溶接工程において溶接前と溶接中、溶接後まで印加している。このような磁場印加により強磁性相であるα相が安定化される。α相にはSnリッチ相が磁場印加により成長し、α相の格子定数は増加する。Snリッチ相がα/γ界面に形成されることにより脆化が抑制される。これはα/γ界面でSnリッチ相の成長によりσ相が成長しにくくなることによる。
Snリッチ相はSnを1〜10%含有しているbcc構造の結晶である。Snリッチ相のSn含有量が2%未満ではσ相成長の抑止効果がほとんどない。またSn濃度が10%を超えるとσ相成長の抑制効果はあるが、衝撃値は減少する。したがってSnリッチ相のSn濃度は2〜10%が望ましい。
本実施例のように磁場印加によりSnの添加濃度を低減させることができる。即ち添加濃度が0.1wt%であっても、磁場印加によりSn濃度が1-10%のα相を粒界近傍に成長させることが可能となり、σ相などの脆化相成長を抑制することができる。
Snリッチ相はSnを1〜10%含有しているbcc構造の結晶である。Snリッチ相のSn含有量が2%未満ではσ相成長の抑止効果がほとんどない。またSn濃度が10%を超えるとσ相成長の抑制効果はあるが、衝撃値は減少する。したがってSnリッチ相のSn濃度は2〜10%が望ましい。
本実施例のように磁場印加によりSnの添加濃度を低減させることができる。即ち添加濃度が0.1wt%であっても、磁場印加によりSn濃度が1-10%のα相を粒界近傍に成長させることが可能となり、σ相などの脆化相成長を抑制することができる。
Sn添加によりα相は安定化するため溶接後にγ相の体積が減少しやすい。そこでγ相形成元素であるNi, Nなどの濃度を増加させると、耐食性と強度を向上させることが可能である。
10---γ相 11---α相、12---変調組成部、
Claims (5)
- Crを15%以上含有するFe系ステンレス鋼において、層状のFeリッチ相と層状のCrリッチ相とが交互に形成された変調組成部がα相の結晶粒の少なくとも一部の粒界に沿って複数箇所形成されていることを特徴とするステンレス鋼。
- 請求項1において、前記Feリッチ相と前記Crリッチ相の面間隔の差が0.05%以上0.5%以下であることを特徴とするステンレス鋼。
- 請求項1において、前記Feリッチ相のFe含有量が80重量%以上95重量%以下、前記Crリッチ相のCr含有量が70重量%以上90重量%以下であることを特徴とするステンレス鋼。
- 圧延されたステンレス鋼を加熱し前記ステンレス鋼のキュリー点以下の温度まで昇温する加熱工程と、
前記ステンレス鋼を前記キュリー点以下の温度から冷却する冷却工程と、
前記加熱工程における所定の温度から前記キュリー点以下の温度と、前記冷却工程における前記キュリー点以下の温度から他の所定の温度との範囲にわたって、前記ステンレス鋼の圧延方向に磁場を印加する磁場印加工程とを備えることを特徴とする材料処理方法。 - 請求項4において、前記磁場印加工程で印加する前記磁場が0.01から10Tの範囲であることを特徴とする材料処理方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2014216821A JP2016084493A (ja) | 2014-10-24 | 2014-10-24 | ステンレス鋼及び材料処理方法 |
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JP (1) | JP2016084493A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2017047262A1 (ja) * | 2015-09-15 | 2017-03-23 | 株式会社日立製作所 | 二相ステンレス鋼製造物およびその製造方法 |
-
2014
- 2014-10-24 JP JP2014216821A patent/JP2016084493A/ja active Pending
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