JP7248280B2 - 熱伝導構造体、熱拡散装置 - Google Patents

熱伝導構造体、熱拡散装置 Download PDF

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Description

本発明は、複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体を備える熱伝導構造体、及び熱伝導構造体を備える熱拡散装置に関する。
放熱対象である発熱体の熱を移動させて放熱する熱伝導体として、高熱伝導性材料であるグラファイト板の表面にチタン層を形成したグラファイト構造体が知られている(特許文献1参照)。前記グラファイト板は、複数のグラフェンシートが積層されたものであり、組成が脆く崩れ安い性質を有している。そのため、上述した従来のグラファイト構造体は、グラファイト板の表面をチタン層で被覆することにより、効率的な熱伝導を実現しつつ、強度を高めている。また、上述した従来のグラファイト構造体は、グラファイト板のベーサル面に垂直な方向に貫通する貫通孔を有し、この貫通孔の内面にもチタン層を形成することによって、グラファイト板の強度を更に補強している。
特開2013-191830号公報
前掲した従来のグラファイト構造体は、ベーサル面に垂直に貫通する複数の貫通孔を有するため、これらの複数の貫通孔によって、グラフェンシートの延在方向(ベーサル面に沿う方向)の熱伝導が阻害される。また、前記グラファイト板のエッジ面(ベーサル面に隣接する側面)には、炭素原子とチタンとが結合したチタン化合物が形成されるため、チタン層と前記エッジ面とが強固に接合されるが、同様の接合力をベーサル面とチタン層との間に生じさせるためには、前記貫通孔を無数に形成する必要があり、却って強度が低下し、また、グラフェンシートの延在方向の熱伝導率が著しく低下する。
本発明の目的は、強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能な熱伝導構造体、及び熱伝導構造体を備える熱拡散装置を提供することにある。
(1) 本発明の熱伝導構造体は、複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、前記グラファイト構造体において熱伝達対象物が取り付けられる側の第1表面に形成され、前記第1表面に対して交差する傾斜面を含む凹部と、少なくとも前記傾斜面に形成され、前記傾斜面に現れる前記グラフェンシートのエッジ部と密着した状態で前記エッジ部を覆う被覆部と、を備えることを特徴とする。なお、前記凹部は、前記第1表面に一つ以上設けられていることが好ましい。
このように本発明が構成されているため、前記傾斜面にグラフェンシートのエッジ部(グラフェンシートのベーサル面方向の端部)が現れる。グラフェンシートのエッジ部には、不飽和な状態(未結合手を有する状態)の炭素原子が存在しているため、前記傾斜面には、不飽和な状態の炭素原子が現れる。そのため、前記傾斜面を覆うように被覆部が形成されることにより、被覆部に含まれる原子や分子等が上述した不飽和な状態の炭素原子と結合する。その結果、被覆部が、前記傾斜面に密着した状態で強固に前記傾斜面に形成される。また、前記傾斜面には、複数のエッジ部が現れ、そのエッジ部間の隙間は、前記被覆部が前記傾斜面に形成される際にアンカー効果をもたらす。そのため、前記傾斜面を覆うように被覆部が形成されることにより、前記エッジ部間の隙間に被覆部の材料が入り込み、前記傾斜面と前記被覆部との接合力及び密着性がアップする。その結果、前記被覆部が、前記傾斜面に密着した状態で強固に前記傾斜面に形成される。以上より、本発明の熱伝導構造体においては、前記第1表面における前記傾斜面に被覆部が強固に密着した状態で形成されるため、前記グラファイト構造体が熱膨張しても、前記被覆部の剥がれや割れが防止される。とりわけ、本発明の熱伝導構造体のベーサル面方向の端部における前記被覆部の剥がれや割れが防止される。また、前記グラファイト構造体はベーサル面方向の熱伝導率が極めて高いことから、本発明の熱伝導構造体において前記第1表面側に発熱体などの熱伝達対象物が取り付けられた場合に、前記熱伝達対象物の熱が被覆部を伝って前記傾斜面の前記エッジ部に伝達すると、そのエッジ部からベーサル面方向へ素早く伝達して拡散する。また、前記熱膨張による被覆部の剥がれや割れを防止ための多数の貫通孔を前記グラファイト構造体に形成する必要がないため、熱伝導構造体の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能となる。
(2) 前記傾斜面は、前記グラファイト構造体の前記第1表面に対して所定の角度を成していることが好ましい。前記傾斜面は、例えば、旋盤などによって第1表面を切削してテーパー状に加工することにより形成される。この傾斜面には、傾斜角度に応じて複数のグラフェンシートそれぞれのエッジ部が現れる。
(3) 前記所定の角度は、1度以上20度以下の範囲内で定められている。
(4) より好ましくは、前記所定の角度は、8度以上20度以下の範囲内で定められている。
(5) また、前記被覆部は、前記第1表面の全域、又は、前記グラファイト構造体の外周面に密着するように形成されている。
これにより、グラファイト構造体の第1表面、又は全面において、被覆部との接合力及び密着性がアップする。
(6) また、本発明の熱伝導構造体は、前記凹部の底部に形成され、前記底部から前記第1表面に交差する方向へ穿孔された孔部を有する。この場合、前記被覆部が前記孔部の内面に形成されている。
(7) また、前記凹部は、前記グラファイト構造体を前記第1表面から反対側の第2表面に貫通している。
(8) また、本発明は、上述の熱伝導構造体を備え、前記熱伝導構造体の前記被覆部に取り付けられる熱伝達対象物から伝達される熱を拡散する熱拡散装置として捉えることができる。
また、本発明は、放熱対象物(冷却対象物)や加熱対象物などの熱伝達対象物が取り付けられる熱伝導構造体の製造方法として捉えることができる。本発明の熱伝導構造体の製造方法は、複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体の第1表面に、前記第1表面に対して交差する傾斜面を含む複数の凹部を形成し、少なくとも前記傾斜面に、前記傾斜面に現れる前記グラフェンシートのエッジ部と密着した状態で前記エッジ部を覆う被覆部を形成することを特徴とする。
本発明によれば、強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシートの延在方向における高い熱伝導率を維持することが可能である。
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体を模式的に示す斜視図である。 図2は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体が備えるグラファイト構造体を模式的に示す斜視図である。 図3は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体の凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図4は、本発明の第2実施形態に係る凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図5は、本発明の第3実施形態に係る凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図6は、本発明の第4実施形態に係る凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図7は、本発明の第5実施形態に係る凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図8は、本発明の第6実施形態に係る凹部の断面構造の一例を示す拡大断面図である。 図9は、本発明の実施形態に係る熱伝導構造体が適用された熱拡散装置を模式的に示す斜視図である。 図10は、本発明の各実施例及び比較例に対する熱衝撃試験及び熱拡散性試験に用いたテストピースを示す模式図である。 図11は、本発明の実施形態に係る熱伝導構造体が適用された熱拡散装置の他の例を示す斜視図である。 図12は、本発明の実施形態に係る熱伝導構造体が適用された熱拡散装置のその他の例を示す斜視図である。
以下、添付図を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、以下の各実施形態の全図においては、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝導構造体10及び熱伝導構造体10に熱伝達対象物である半導体素子56が取り付けられた構造を示す斜視図である。図1では、熱伝導構造体10を半導体素子56の中央で切断した断面図が示されている。また、図2は、熱伝導構造体10が備えるグラファイト構造体11を示す斜視図である。なお、半導体素子56は、例えば、パワー半導体やパワーモジュールなどのように、駆動することにより熱を発する発熱体である。また、以下の実施形態では、発熱体である半導体素子56から熱を吸熱して冷却する用途として熱伝導構造体10を用いる例を説明するが、熱伝導構造体10から熱伝達対象物に熱を伝達して当該熱伝達対象物を加熱する用途に熱伝導構造体10が用いられてもよい。
熱伝導構造体10は、所謂熱拡散板或いは放熱板と称される部材であり、その上面10Aの中央に位置する取付領域10Bに前記発熱体としての半導体素子56が取り付けられる。熱伝導構造体10は、駆動して発熱した半導体素子56から熱を吸熱し、上面10Aに沿う方向へ熱を伝達して拡散する用途として用いられる。半導体素子56から熱が吸熱されることにより、半導体素子56を放熱して冷却することができる。また、上面10Aに沿う方向に対して高い熱伝導率を有するため、半導体素子56における熱分布を概ね均等にすることができる。
図1に示すように、熱伝導構造体10は、矩形板状に形成されたグラファイト構造体11と、グラファイト構造体11の全周面を覆うように設けられた被覆層20(本発明の被覆部の一例)と、により構成されている。
図2に示すように、グラファイト構造体11は、平板状に形成されており、複数のグラフェンシート15が一方向に沿って複数積層された結晶構造を有している。本実施形態では、各グラフェンシート15のベーサル面が平行となるように上下方向(Y軸方向)に複数のグラフェンシート15が積層されている。
グラフェンシート15は、シート状のグラフェンであって、六員環が平面方向(ベーサル面方向)に共有結合して形成されたものであり、その厚みは炭素原子一つ分(約0.335nm)である。グラファイト構造体11の各グラフェンシート15の層間は、ファンデルワールス力で結合されているため、グラフェンシート15は、層状に剥がれ易い性質を有している。
図2に示すように、グラファイト構造体11は、グラフェンシート15が積み重ねられた積層方向(Y軸方向)を厚み方向とするものであり、本実施形態では、その厚みD1がベーサル面方向(X軸方向、Z軸方向)のサイズに比べて薄いプレート状に形成されている。
具体的には、熱伝導構造体10が取付領域10B(図1参照)に取り付けられた発熱体としての半導体素子56から吸熱して放熱する用途に用いられる場合、グラファイト構造体11は、その厚みD1が1.5mm~2.0mmに形成されている。また、この場合、グラファイト構造体11は、平面視で矩形状又は円形状に形成されており、例えば、放熱対象の半導体素子56のサイズに応じて、一辺が30mm~300mmの正方形状に形成されたもの、或いは、直径が30mm~300mmの円形状に形成されたものを用いることができる。なお、グラフェンシート15の実際の厚みは炭素原子1個分であるが、説明の便宜上、各図では、実際の厚み以上に表されたグラフェンシート15が示されている。
グラファイト構造体11としては、一般的なグラファイトよりも高い熱伝導性を有する高配向性熱分解グラファイト(HOPG:Highly Oriented Pyrolytic Graphite)が採用されている。具体的には、米国MINTEQ International Inc.製の商品名「PYROID」が用いられている。
グラファイト構造体11は、熱伝導率に関して異方性を有している。つまり、グラファイト構造体11は、Y軸方向(X-Z平面に垂直な方向)の熱伝導率よりもX-Z平面に沿う方向、つまり、図1において熱伝導構造体10の上面10Aに沿う方向(ベーサル面方向)の熱伝導率が極めて高い。このように、素材の方向によって熱伝導率が異なる性質を異方性といい、この異方性を有するグラファイト構造体11は、一般に、異方性熱伝導体、或いは異方性熱伝導素子と称されている。グラファイト構造体11は、詳細には、X-Z平面に沿う方向の熱伝導率は1500[W/mK]~1700[W/mK]程度であり、Y軸方向の熱伝導率は5[W/mK]~10[W/mK]程度である。
また、上述したように、グラファイト構造体11は高配向性熱分解グラファイトであるため、一般的なグラファイトの前記積層方向(Y軸方向)の線膨張率(線膨張係数)が4.5[ppm/K]~5.5[ppm/K]であるのに対して、グラファイト構造体11の前記積層方向(Y軸方向)の線膨張率は極めて高く、具体的には約25[ppm/K]である。なお、グラファイト構造体11において、ベーサル面方向(X軸方向、Z軸方向)の線膨張率は極めて低く、実質的に0[ppm/K]である。
グラファイト構造体11の側端面16は、複数のグラフェンシート15のベーサル面方向のエッジ部が幾層にも重ね合わされた状態となっており、一般にエッジ面と称されている。上述したように、グラフェンシート15は、六員環が共有結合して形成されているため、グラフェンシート15におけるベーサル面方向(X-Z面に沿う方向)は六員環による強い共有結合で炭素間が繋がっている。しかしながら、側端面16においては、六員環による前記ベーサル面方向の共有結合が切断された状態となっているため、側端面16の炭素原子の結合は不飽和な状態となっている。そのため、側端面16においては、炭素原子が他の物質と反応し易い活性状態となっている。
図2に示すように、グラファイト構造体11の上面11Aには、複数の凹部30が形成されている。上面11Aは、グラファイト構造体11において発熱体としての半導体素子56(熱伝達対象物)が取り付けられる側の面であり、本発明の第1表面の一例である。凹部30は、平面視で円形状に形成されており、その底部32(図3参照)へ向かって先細り形状に形成されている。凹部30は、上面11Aからグラファイト構造体11の内部側へ切削加工することにより形成される。上面11Aには、複数の凹部30がX軸方向及びZ軸方向へ等間隔で並ぶように配置されている。
各凹部30のX軸方向及びZ軸方向の間隔は、取付領域10Bに取り付けられる熱伝達対象物の種類やサイズや、グラファイト構造体11のサイズや厚みなどに対応して定めることができ、例えば、0.5mm~50mmの範囲内で定めることができる。凹部30の単位面積あたりの数も、取付領域10Bに取り付けられる熱伝達対象物の種類やサイズや、グラファイト構造体11のサイズや厚みなどに対応して定めることができる。なお、複数の凹部30の配列方向は、X軸方向及びZ軸方向に限られない。上面11Aにおいて、複数の凹部30は、全ての方向に等間隔となるように正三角形状に配置(トライアングル配置)されていてもよい。
図3は、凹部30の断面構造の一例を示す拡大断面図である。図3に示すように、凹部30の内周面は、上面11Aに対して所定の傾斜角で交差する傾斜面31である。つまり、凹部30は、上面11Aに対して所定の角度で傾斜する傾斜面31を有する。凹部30において、上面11Aから底部32までの深さD2は、複数のグラフェンシート15のエッジ部が傾斜面31に現れる程度であり、且つ、グラファイト構造体11の厚みD1よりも十分に短い。つまり、このような凹部30が上面11Aに形成されているため、傾斜面31には、複数のグラフェンシート15のエッジ部が幾層にも重ね合わされたエッジ面が現れる。
ここで、凹部30の開口のサイズや凹部30の内部形状、傾斜面31の傾斜角度は、被覆層20の厚み、後述する被覆層20の被覆材の種類、グラファイト構造体11の厚みD1などに基づいて、熱伝導構造体10の用途の応じた適切な値に定められる。
凹部30は、切削などの機械加工、放電加工、レーザー加工などによってグラファイト構造体11の上面11Aに形成することができる。また、グラファイト構造体11の上面11Aにおいて凹部30を形成する箇所以外の領域をマスキングし、その後に、上面11Aに対してブラスト処理することにより、凹部30を形成することも可能である。また、ウェットエッチング或いはドライエッチングなどによって上面11Aに凹部30を形成することも可能である。ここで、ウェットエッチングでは、グラファイト構造体11の上面11Aにおいて凹部30を形成する箇所以外の領域をマスキングし、その後に上面11Aに腐食液を供給して露出部を腐食させることにより、凹部30を形成可能である。また、ドライエッチングでも同様に、上面11Aにおいて凹部30を形成する箇所以外の領域をマスキングし、酸素ガス或いは水素ガスなどのように炭素と反応する反応ガス(エッチングガス)を上面11Aに供給して、露出部の炭素と反応させることにより、上面11Aに凹部30を形成可能である。
上述したように、熱伝導構造体10は、グラファイト構造体11の全周面を覆うように設けられた被覆層20を有している。被覆層20は、グラファイト構造体11の全周面に密着するように形成されている。本実施形態では、被覆層20は、グラファイト構造体11の全周面に被覆材がコーティングされてなるコーティング層である。被覆層20がグラファイト構造体11の全周面に形成されることにより、当該被覆層20は、凹部30の内周の傾斜面31及び底部32にも密着した状態で形成される。
具体的には、被覆層20は、例えば、傾斜面31に現れる不飽和な状態(未結合手を有する状態)の炭素原子と結合して化合物を生成することが可能な金属元素を含む被覆材を有し、前記被覆材によって少なくとも傾斜面31に形成される皮膜である。前記金属元素としては、例えば、所謂活性金属であるニッケルやチタンを適用することができる。ニッケル及びチタンは、接合面である傾斜面31に対する濡れ性、つまり、不飽和状態の炭素原子との結合反応性が極めて高い。なお、前記金属元素は、線膨張率がグラファイト構造体11の前記積層方向の線膨張率(約25[ppm/K])よりも小さいものが好ましく、上述したニッケル及びチタン以外に、鉄、アルミニウム、金、銀、銅、亜鉛、クロム、錫、鉛、タングステン、タンタル、SUS304、SUS430、或いはこれらの金属を含む合金が好適である。
また、被覆層20は、傾斜面31に現れるグラフェンシート15のエッジ部と密着する合成樹脂を含む被覆材を有し、前記被覆材によって傾斜面31を含む全周面に密着して形成される皮膜であってもよい。前記合成樹脂としては、耐熱性が150℃以上のエンジニアリングプラスチックが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、パリレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂などを適用することができる。
また、被覆層20は、傾斜面31に現れるグラフェンシート15のエッジ部と密着する無機系化合物を含む被覆材を有し、前記被覆材によって傾斜面31を含む全周面に密着して形成される皮膜であってもよい。前記無機系化合物としては、高分子や低分子シランを原料としたガラス、窒化ケイ素などの窒化物やアルミナなどの酸化物といったセラミック、炭素系のダイヤモンドライクカーボンなどを適用可能である。
また、被覆層20は、例えば、シランカップリング剤やメタル系カップリング剤などのコーティング剤によって傾斜面31を含む全周面に密着して形成されるものであってもよい。
被覆層20の形成方法としては、例えば、スパッタや溶射、蒸着などのようなドライコーティング法、メッキや液コーティング法(例えばディッピング)などのウェットコーティング法などによって傾斜面31を含む全周面に皮膜を形成する方法を用いることができる。
なお、本実施形態では、被覆部20の一例として、グラファイト構造体11の表面に形成されたコーティング層を例示するが、被覆部20はコーティング層に限られない。例えば、被覆部20は、グラファイト構造体11の上面11A又は全周面に接合された上述の金属元素を含む板部材(例えば、銅板、アルミ板)、上述の合成樹脂を含む板部材、上述の無機系化合物を含む板部材(例えば、セラミック板)などであってもよい。また、被覆部20は、グラファイト構造体11の表面に、放熱グリスや熱伝導シート、ギャップフィラーなどのサーマル・インターフェース・マテリアル(TIM材)を形成したものであってもよい。また、被覆部20は、例えば、上述の金属元素を含む金属ブロックの中央にグラファイト構造体11が配置されるように、鋳造によって形成することも可能である。
以上のことから、熱伝導構造体10は、まず、グラファイト構造体11の上面11Aに複数の凹部30を形成し、上述した形成方法によって傾斜面31を含む全周面に被覆層20を形成することにより、製造することができる。
このように熱伝導構造体10が構成されているため、グラフェンシート15のエッジ部が現れた傾斜面31に対して、被覆層20が傾斜面31に密着した状態で強固に傾斜面31に形成される。また、傾斜面31には、複数のエッジ部が現れるため、傾斜面31において所謂アンカー効果を得ることができる。このため、被覆層20の形成時にエッジ部間の隙間に被覆材が入り込むことによる前記アンカー効果によって、傾斜面31と被覆層20との密着性がアップする。これにより、グラファイト構造体11やコーディング層20が熱膨張しても、熱伝導構造体10において被覆層20が剥がれることや割れることが防止される。とりわけ、熱伝導構造体10のベーサル面方向の端部におけるコーディング層20の剥がれや割れが防止される。また、上面10Aに発熱体などの熱伝達対象物が取り付けられた場合に、前記熱伝達対象物の熱が被覆層20を伝って傾斜面31に現れた前記エッジ部に伝達すると、そのエッジ部からベーサル面方向へ素早く伝達して拡散する。また、前記熱膨張による被覆層20の剥がれや割れを防止ための多数の貫通孔をグラファイト構造体11に形成する必要がないため、複数の貫通孔を形成することによってグラファイト構造体11が脆くなることを防止できる。つまり、熱伝導構造体10の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシート15のベーサル面方向における高い熱伝導率を維持することが可能である。
上述したように、熱伝導構造体10は、主として、パワー半導体やパワーモジュールなどのように、熱を発生する発熱体としての半導体素子56を放熱或いは均熱化する用途として用いられる。以下、図9を参照して、上述した熱伝導構造体10を有する冷却拡散装置50(本発明の熱拡散装置の一例)、及び冷却拡散装置50と半導体素子56とからなる半導体モジュール60(本発明の熱拡散装置の一例)について説明する。
図9に示すように、冷却拡散装置50は、熱伝導構造体10と、ヒートシンクなどの放熱体57と、を備える。
熱伝導構造体10の上面10Aには、その中央にパワー半導体やパワーモジュールなどの発熱体としての半導体素子56が取り付けられている。上面10Aに半導体素子56が取り付けられることにより、冷却拡散装置50と半導体素子56とからなる半導体モジュール60が構成されている。
また、熱伝導構造体10の下面10Cには、ヒートシンクなどの放熱体57が取り付けられている。これにより、冷却拡散装置50は、熱伝導構造体10の上面10Aに取り付けられた半導体素子56から熱伝導構造体10及び放熱体57を通じて熱を効率よく放熱することが可能である。また、半導体素子56における熱分布に偏りがある場合でも、熱伝導構造体10が半導体素子56の熱を上面10Aから吸熱し、その後、上面10Aに沿う方向へ迅速に伝達するため、半導体素子56における熱分布を均等にすることができる。
なお、本発明の熱拡散装置の他の例として、例えば、図11に示すように、冷却媒体を内部に流す複数の伝熱管711と、伝熱管711からの熱を伝達する複数のフィン712とを有する熱交換器71が考えられる。熱交換器71において、複数のフィン712は、上述した熱伝導構造体10で構成されている。この構成であれば、フィン712とフィン712の周囲を通る流体(例えば、空気や水)との間で迅速且つ効率的な熱交換を実現することができる。
また、本発明の熱拡散装置のその他の例として、例えば、図12に示すように、冷却媒体を内部に流す複数の流路721がアルミニウムなどの金属製の直方体形状のブロック722の内部に形成された熱交換器72が考えられる。熱交換器72において、熱伝導構造体10は、ブロック722の上面及び下面に密着した状態で取り付けられている。つまり、熱交換器72は一対の熱伝導構造体10を備える。この構成であれば、流路721から伝達されてブロック722の上面又は下面に伝達した熱をその周囲を通る流体に迅速に且つ効率良く伝達することができる。なお、熱交換器72の変形例として、ブロック722がアルミニウム等の金属ではなく、グラファイト構造体で構成されており、その内部に流路721を形成するアルミニウムや銅などの金属製の配管が設けられた構成が考えられる。この場合、ブロック722の外周面に上述の凹部30が形成されている。
[効果確認試験]
以下、表1を参照して、上述の第1実施形態に係る熱伝導構造体10の効果を確認する試験(熱衝撃試験及び熱拡散性試験)の試験結果について説明する。ここで、表1は、熱伝導構造体10の実施例1~6、及び熱伝導構造体10の効果を比較するための比較例1~3の傾斜角度と、各試験の結果を示す。
Figure 0007248280000001
表1に示す実施例1~6及び比較例1~3それぞれについて、以下に説明するテストピースを用意し、これらのテストピースそれぞれに対して熱衝撃試験及び熱拡散性試験を実施した。
ここで、前記テストピースは、図10に示されるものであり、一辺10mmの立方体形状のグラファイトブロックを用意し、その上面の一方の角部に、実施例1~6及び比較例1~3それぞれに対応した傾斜角度θ(表1参照)となるように、旋盤においてエンドミルを用いて前記グラファイトブロックを旋削加工して傾斜面K1を形成し、他方の角部に45度の傾斜面K2を形成し、その後、前記グラファイトブロックの周面にメッキ処理によって厚さ37.5[μm]のニッケル皮膜を形成したものである。前記ニッケル被膜は、上述した被覆層20の一例である。表1に示すように、比較例1の傾斜面の角度は0度とした。また、実施例1の傾斜角度θは1度とした。また、実施例2~6それぞれの傾斜角度θは、3度、5度、8度、10度、20度とした。また、比較例2及び3それぞれの傾斜角度θは、30度、40度とした。なお、後述の熱拡散性試験において公平な評価を担保するために、各テストピースは全て同じ体積とした。
前記熱衝撃試験は、実施例1~6及び比較例1~3の各テストピースをホットプレートスターラー(ドイツのIKA社製のC-MAG HS7)で20℃から350℃まで加熱し、その後、テストピースをアルミトレイに載置して室温(約20℃)になるまで冷却することにより行った。そして、冷却後のテストピースを目視確認及び触手確認することにより、テストピースのニッケル被膜の膨れの有無、割れの有無の判定を行い、熱衝撃試験について評価を行った。その評価結果が表1に示されている。ここで、目視又は触手で膨れが確認できた場合に「膨れ有り」と判定し、目視又は触手で割れが確認できた場合に「割れ有り」と判定し、これらの判定結果に基づいて施例1~6及び比較例1~3に対する評価を行った。また、割れが確認できた場合を「×(Poor:悪い)」と評価し、膨れは有るが割れが無い場合を「△(Fair:中程度)」と評価し、膨れも割れも確認できなかった場合を「○(Good:良好)」と評価した。
前記熱拡散性試験は、実施例1~6及び比較例1~3の各テストピースの傾斜面K1(図10参照)に25[W]のヒーターチップH1(図10参照)を取り付けて5分間加熱し、サーモグラフィー(ドイツのTesto社製のtesto870)によってテストピースの上面(傾斜面K1,K2を含む)の温度変化及び温度分布を測定し、前記上面における面内温度差を計測することにより行った。具体的には、上面において、傾斜面K1上のヒーターチップH1から傾斜面K2までの範囲(図10の点線の領域)内の温度差を計測した。前記面内温度差の計測値及びその評価が表1に示されている。ここで、面内温度差が14℃以上の場合を「×(Poor:悪い)」と評価し、面内温度差が14℃未満の場合を「○(Good:良好)」と評価した。
表1に示すように、比較例1は、熱衝撃試験の評価が悪く、また、熱拡散性試験の評価も悪いため、総合的に「×(Poor:悪い)」と評価した。
実施例1~3は、熱衝撃試験の評価が中程度であるが、熱拡散性試験の評価が良好であるため、総合的に「○(Good:良好)」と評価した。
実施例4~6は、熱衝撃試験及び熱拡散性試験ともに評価が良好であるため、総合的に「◎(Best:最良)」と評価した。
比較例2及び3については、熱衝撃試験において割れが確認されており、同試験の評価が「×(Poor:悪い)」であるため、熱拡散性試験の評価に関わらず、総合的に「×(Poor:悪い)」と評価した。
以上の評価結果によれば、テストピースの傾斜面の傾斜角度θが1度以上20度以下の範囲内であれば、総合評価として「○(Good:良好)」以上を得ることができることが分かる。このため、上述した第1実施形態において、熱伝導構造体10のグラファイト構造体11の傾斜面31は、上面11Aに対する傾斜角度θが、1度以上20度以下の範囲内であることが好ましいといえる。
また、テストピースの傾斜面の傾斜角度θが8度以上20度以下の範囲内であれば、総合評価として「◎(Best:最良)」を得ることができることが分かる。このため、上述した第1実施形態において、熱伝導構造体10のグラファイト構造体11の傾斜面31は、上面11Aに対する傾斜角度θが、8度以上20度以下の範囲内であることがより好ましいといえる。
なお、上述した第1実施形態では、グラファイト構造体11の全周面に被覆層20が形成された例について説明したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、被覆層20がグラファイト構造体11の上面11Aのみに形成された構成にも、本発明は適用可能である。
[第2実施形態]
以下、図4を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る熱伝導構造体10では、凹部30に替えて、凹部30Aがグラファイト構造体11の上面11Aに形成されている。凹部30Aは、平面視で円形状に形成されており、上面11Aからグラファイト構造体11の内部側へ先細り状の円錐形状に切削加工することにより形成される。その他の構成については、第1実施形態の構成と同様である。
[第3実施形態]
以下、図5を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る熱伝導構造体10では、凹部30の底部32から熱伝導構造体10の下面10Cへ向けて孔部35が穿孔されている。孔部35の内径は、凹部30の直径よりも十分に小さいサイズであり、例えば、0.5mm~1.0mmの範囲内で定められたサイズである。孔部35は、グラファイト構造体11をグラフェンシート15の積載方向に貫通している。そのため、孔部35の内面には、複数のグラフェンシート15のエッジ部が幾層にも重ね合わされたエッジ面が現れる。本実施形態では、孔部35の内面にも被覆層20が形成されている。被覆層20は、孔部35の内面を被覆するように形成されていれば、孔部35の中心に前記積層方向(Y軸方向)に延びる空洞が形成されていてもよく、或いは、孔部35が被覆層20によって埋められていてもよい。なお、その他の構成については、第1実施形態の構成と同様である。
[第4実施形態]
以下、図6を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態に係る熱伝導構造体10では、凹部30の底部32から熱伝導構造体10の下面10Cへ向けて孔部35Aがグラファイト構造体11に穿孔されている。孔部35Aは、上面11Aに対して所定の角度で傾斜する方向へ延出している点が、上述した孔部35と異なる。ここで、前記所定の角度は、被覆層20の厚み、及びグラファイト構造体11の厚みD1のいずれか一方又は両方に基づいて定められる。なお、それ以外の構成については、第3実施形態の孔部35と同様である。
[第5実施形態]
以下、図7を参照して、本発明の第5実施形態について説明する。第5実施形態に係る熱伝導構造体10では、グラファイト構造体11の上面11Aに凹部30が形成されており、グラファイト構造体11の下面11B(本発明の第2の表面の一例)にも凹部30と同様の凹部30Bが形成されている。そして、凹部30の底部32と凹部30Bの底部32とを貫通する孔部35がグラファイト構造体11に穿孔されている。その他の構成については、第1実施形態及び第3実施形態の構成と同様である。
[第6実施形態]
以下、図8を参照して、本発明の第6実施形態について説明する。第6実施形態に係る熱伝導構造体10には、グラファイト構造体11を厚み方向(Y軸方向)に貫通する複数の凹部30Cが形成されている。複数の凹部30Cは、グラファイト構造体11の上面11Aから反対側の下面11Bへ向けて先細り形状に形成された凹部30C1と、下面11Bから上面11Aへ向けて先細り形状に形成された凹部30C2とを含む。本実施形態では、隣接する凹部30Cは、互いに先細り方向が異なるように配置されている。なお、その他の構成については、第1実施形態の構成と同様である。
上述した第2~第6実施形態のように構成された熱伝導構造体10であっても、被覆層20が傾斜面31に密着した状態で強固に傾斜面31に形成されており、これにより、傾斜面31と被覆層20との接合力がアップし、密着性もアップする。その結果、上述した第1実施形態と同様の効果、つまり、熱伝導構造体10の強度を低下させることなく、且つ、グラフェンシート15のベーサル面方向における高い熱伝導率を維持することが可能である。
なお、上述した各実施形態では、複数の凹部30(30A,30B,30C)がグラファイト構造体11の上面11Aに等間隔で配置された構成を例示したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、複数の凹部30は、等間隔で配置されていなくてもよく、上面11Aにおいて不規則に配置されていてもよい。また、複数の凹部30(30A,30B,30C)それぞれにおいて、凹部30のサイズや、傾斜面31の傾斜角度が等しい構成を例示したが、例えば、凹部30のサイズや傾斜面31の傾斜角度が、複数の凹部30それぞれにおいて異なっていてもよい。
10 :熱伝導構造体
10A :上面
10B :取付領域
10C :下面
10mm :一辺
11 :グラファイト構造体
11A :上面
11B :下面
15 :グラフェンシート
16 :側端面
20 :被覆層
30 :凹部
30A :凹部
30B :凹部
30C :凹部
30C1 :凹部
30C2 :凹部
31 :傾斜面
32 :底部
35 :孔部
35A :孔部
50 :冷却拡散装置
56 :半導体素子
57 :放熱体
60 :半導体モジュール
71 :熱交換器
72 :熱交換器
711 :伝熱管
712 :フィン
721 :流路
722 :ブロック

Claims (6)

  1. 複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、
    前記グラファイト構造体において熱伝達対象物が取り付けられる側の第1表面に形成され、前記第1表面に対して交差する傾斜面を含む凹部と、
    少なくとも前記傾斜面に形成され、前記傾斜面に現れる前記グラフェンシートのエッジ部と密着した状態で前記エッジ部を覆う被覆部と、を備え、
    前記傾斜面は、前記グラファイト構造体の前記第1表面に対して、1度以上20度以下の範囲内で定められる所定の角度を成すことを特徴とする熱伝導構造体。
  2. 複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、
    前記グラファイト構造体において熱伝達対象物が取り付けられる側の第1表面に形成され、前記第1表面に対して交差する傾斜面を含む凹部と、
    少なくとも前記傾斜面に形成され、前記傾斜面に現れる前記グラフェンシートのエッジ部と密着した状態で前記エッジ部を覆う被覆部と、を備え、
    前記傾斜面は、前記グラファイト構造体の前記第1表面に対して、8度以上20度以下の範囲内で定められる所定の角度を成すことを特徴とする熱伝導構造体。
  3. 複数のグラフェンシートが積層されてなるグラファイト構造体と、
    前記グラファイト構造体において熱伝達対象物が取り付けられる側の第1表面に形成され、前記第1表面に対して交差する傾斜面を含む凹部と、
    少なくとも前記傾斜面に形成され、前記傾斜面に現れる前記グラフェンシートのエッジ部と密着した状態で前記エッジ部を覆う被覆部と、を備え、
    前記凹部は、前記グラファイト構造体を前記第1表面から反対側の第2表面に貫通している、熱伝導構造体。
  4. 記被覆部は、前記第1表面の全域、又は、前記グラファイト構造体の外周面に密着するように形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導構造体。
  5. 記凹部の底部に形成され、前記底部から前記第1表面に交差する方向へ穿孔された孔部を有し、
    前記被覆部が前記孔部の内面に形成されている、請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導構造体。
  6. 求項1から5のいずれかに記載の熱伝導構造体を備え、
    前記熱伝導構造体の前記被覆部に取り付けられる熱伝達対象物から伝達される熱を拡散する熱拡散装置。
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