本発明の実施形態において、前記自動変速機における変速比(=ギヤ比)は、「入力回転部材の回転速度/出力回転部材の回転速度」である。変速段や変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速段や変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、前記自動変速機の最ロー側変速段(=ギヤ段)である第1速ギヤ段の変速比すなわち最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
また、前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジンである。又、前記車両は、前記動力源として、このエンジンに加えて或いは替えて、回転機等を備えていても良い。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の動力源である、エンジン12及び回転機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。
動力伝達装置16は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、自動変速機18、自動変速機18の出力回転部材であるAT出力軸20に連結されたプロペラシャフト22、そのプロペラシャフト22に連結されたディファレンシャルギヤ24、そのディファレンシャルギヤ24に連結された1対のドライブシャフト26等を備えている。第1クラッチC1と第2クラッチC2とは、エンジン12から出力される動力の伝達において直列に配置されている。自動変速機18は、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを介してエンジン12に連結されていると共に、第2クラッチC2を介して回転機MGに連結されている。動力伝達装置16において、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを順次介して自動変速機18へ伝達されたエンジン12からの動力や第2クラッチC2を介して自動変速機18へ伝達された回転機MGからの動力は、自動変速機18からプロペラシャフト22、ディファレンシャルギヤ24、及びドライブシャフト26等を順次介して駆動輪14へ伝達される。尚、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン12は、後述する電子制御装置70によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置28が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
回転機MGは、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。回転機MGは、車両10に備えられたインバータ30を介して、車両10に備えられたバッテリ32に接続されている。回転機MGは、後述する電子制御装置70によってインバータ30が制御されることにより、回転機MGの出力トルクであるMGトルクTmgが制御される。
自動変速機18は、第2クラッチC2と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられて、動力源(エンジン12、回転機MG)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する。自動変速機18は、例えば1組又は複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置とを備えている公知の遊星歯車式の自動変速機、又は、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えている公知の平行軸式常時噛合型の自動変速機などである。自動変速機18は、例えば後述する電子制御装置70によって制御される、車両10に備えられた油圧制御回路34から供給される油圧にて油圧アクチュエータが作動させられることで、変速比(ギヤ比ともいう)γ(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)が選択的に形成される有段式の自動変速機である。AT入力回転速度Niは、自動変速機18の入力回転部材であるAT入力軸36の回転速度である。AT出力回転速度Noは、AT出力軸20の回転速度である。
第1クラッチC1は、エンジン12と第2クラッチC2との間の動力伝達経路を断接可能に設けられている。第2クラッチC2は、回転機MGと自動変速機18との間の動力伝達経路を断接可能に設けられている。回転機MGは、第1クラッチC1と第2クラッチC2との間の動力伝達経路に連結されている。例えば、回転機MGのロータ軸(不図示)は、第1クラッチC1の出力側部材に連結されたMG入力軸38と一体的に連結されていると共に、第2クラッチC2の入力側部材に連結されたMG出力軸40と一体的に連結されている。従って、第1クラッチC1は、エンジン12と回転機MGとの間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチ、すなわちエンジン12を回転機MGと断接するクラッチとしても機能する。第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、各々、例えば公知の乾式単板の摩擦クラッチ又は公知の湿式多板の油圧式摩擦係合装置又は公知の噛合式クラッチなどであり、後述する電子制御装置70によってクラッチアクチュエータが駆動させられることにより、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
車両10は、更に、エンジン12、回転機MG、及び自動変速機18などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置70を備えている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置70は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
電子制御装置70には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ50、入力回転速度センサ52、出力回転速度センサ54、各車輪速センサ56、MG回転速度センサ58、アクセル開度センサ60、スロットル弁開度センサ62、バッテリセンサ64など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Ni、車速Vに対応するAT出力回転速度No、左右の駆動輪14の各回転速度Ndwである車輪速度Ndwl、Ndwr、回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg、運転者(=ドライバー)の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、スロットルアクチュエータによって駆動される電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、バッテリ32のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置70からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置28、インバータ30、油圧制御回路34など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、回転機MGを制御する為の回転機制御指令信号Smg、自動変速機18を制御する為の油圧制御指令信号Sp、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を各々制御する為のクラッチ制御指令信号(不図示)など)が、それぞれ出力される。電子制御装置70は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ32の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。
電子制御装置70は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部72、及び変速制御手段すなわち変速制御部74を備えている。
ハイブリッド制御部72は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ30を介して回転機MGの作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン12及び回転機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部72は、例えば予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。この駆動要求量は、例えば、運転者による車両10に対する要求駆動力としてのドライバ要求駆動力Fddemである。ここでは、要求駆動力に替えて要求駆動トルクなどが用いられても良い。この要求駆動トルクは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーである。又、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどが用いられても良い。ハイブリッド制御部72は、ドライバ要求駆動力Fddemを実現する為の目標駆動力Fdtgtを設定し、伝達損失、補機負荷、自動変速機18の変速比γなどを考慮して、目標駆動力Fdtgtを得る為の動力源(エンジン12及び回転機MG)の出力となるように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと回転機MGを制御する回転機制御指令信号Smgとを出力する。
ハイブリッド制御部72は、目標駆動力Fdtgtが回転機MGの出力のみで賄える範囲の場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとし、第1クラッチC1を解放させた状態且つ第2クラッチC2を係合させた状態で回転機MGのみを走行用の動力源として走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部72は、目標駆動力Fdtgtが少なくともエンジン12の出力を用いないと賄えない範囲の場合には、走行モードをハイブリッド走行(=HV走行)モードとし、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を共に係合させた状態で少なくともエンジン12を走行用の動力源として走行するHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部72は、目標駆動力Fdtgtが回転機MGの出力のみで賄える範囲の場合であっても、エンジン12やエンジン12に関連する機器の暖機が必要な場合、バッテリ32の充電が必要となる程に充電状態値SOCが低下した場合等には、走行モードをHV走行モードとする。
変速制御部74は、予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機18の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機18の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Spを出力する。上記変速マップは、例えば車速V及びドライバ要求駆動力Fddemを変数とする二次元座標上に、自動変速機18の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどが用いられても良いし、又、要求駆動力に替えて要求駆動トルクやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどが用いられても良い。
ところで、車両10が波状路や異μ路などの悪路を走行することによって、車輪速度Ndwl、Ndwrの変動すなわち車輪速変動が大きくなるような駆動輪14のスリップとグリップとが繰り返される場合、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路においてばね下共振と呼ばれる現象が発生し、その共振によって増幅された車輪速変動に伴う捩れ振動が駆動輪14から上流のエンジン12側に伝達される可能性がある。つまり、共振により発生した、動力伝達経路の各部の回転部材を回転変動させるトルクが駆動輪14から入力される可能性がある。
図2は、共振発生時における動力伝達装置16の各部のトルクを自動変速機18の変速段毎に示す図表である。車輪速変動に起因するドライブシャフト26上のトルク変動(捩れ振動に対応)は、自動変速機18を介してエンジン12側すなわち上流へ伝達される。その為、図2に示すように、低車速側の変速段(例えば第1速ギヤ段1st)よりも高車速側の変速段(例えば第3速ギヤ段3rd)の方がドライブシャフト26上のトルク変動が小さなものであっても、高車速側の変速段程、自動変速機18の上流側におけるトルク変動であるAT入力軸36上のトルク変動やMG入力軸38上のトルク変動が大きくされている。従って、自動変速機18よりもエンジン12側の部品である上流部品は、自動変速機18の変速段が高車速側の変速段である程、トルク変動の影響が大きくされて耐久性の上で不利になる。本実施例の車両10の場合、例えば回転機MGの慣性が大きいと、動力伝達装置16において捩れ振動が起き易く、又、エンジン12と回転機MGとの間に捩れダンパが配置されていると、その捩れダンパの捩れ最大角を超えた場合に衝突エネルギーが生じる為、上述したような課題が顕著に現れ易い。
目標駆動力Fdtgtを下げて動力源(エンジン12、回転機MG)の出力トルクを低減するトルクダウン制御を実行することで、上述したような共振によるトルク変動の入力を抑制することが考えられる。トルク変動の入力を低減できれば、例えば部品の小型化や軽量化を図ることができるが、相応のトルクダウン量が必要になる。動力源のトルクダウン制御を行うとドライバ要求駆動力Fddemを実現できない為、トルクダウン制御時のトルクダウン量によっては、悪路における走行性が低下するなど、ドライバビリティーの悪化や運転者の違和感を招くおそれがある。或いは、トルクダウン制御時のトルクダウン量には限界がある為、部品の小型化や軽量化を図ることができない可能性がある。そこで、電子制御装置70は、悪路の走行中には、目標駆動力Fdtgtを維持したままで、自動変速機18の変速段を、トルク変動の影響が比較的小さくされて耐久性の上で有利になる低車速側の変速段へ切り替える。
具体的には、電子制御装置70は、悪路を走行する際にドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ上流部品の耐久性低下を抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部76、及び許容領域内判定手段すなわち許容領域内判定部78を更に備えている。
状態判定部76は、車輪速変動に基づいて、車両10が悪路を走行している状態であるか否かを判定する。例えば、状態判定部76は、車輪速度Ndwl、Ndwrの変動成分を抽出し、車輪速度Ndwl、Ndwrの変動幅を表す数値の所定期間における積分値が波状路判定閾値以上であるか否かに基づいて、車両10が悪路例えば波状路を走行している状態であるか否かを判定する。前記所定期間は、例えば車両10が波状路を走行している状態であるか否かの判定を誤判定しない為の予め定められた期間である。前記波状路判定閾値は、例えば車両10が波状路を走行している状態であると判断する為の予め定められた値である。尚、車輪速度Ndwl、Ndwrとしては、平均車輪速度が悪路判定に用いられても良いし、又は、左右各々の車輪速度が悪路判定に用いられても良い。
許容領域内判定部78は、状態判定部76により車両10が悪路を走行している状態であると判定された場合には、自動変速機18の現在の変速段において、上流部品に対して伝達される車輪速変動に起因するトルク変動が上流部品の耐久性の上で許容できる大きさとなるドライバ要求駆動力Fddemの領域として予め定められた許容領域内にドライバ要求駆動力Fddemが入っているか否かを判定する。
図3は、前記許容領域とドライバ要求駆動力との関係を説明する為の図である。図3において、実線Aは、例えばドライバ要求駆動力Fddemを実現可能な目標駆動力Fdtgtを設定したときに、上流部品に対して伝達される車輪速変動に起因するトルク変動が上流部品の耐久性の上で許容できる大きさとなる為の予め定められた自動変速機18の各変速段毎のドライバ要求駆動力Fddemの上限値である。「OK領域」は、ドライバ要求駆動力Fddemが実線Aの値以下となる領域であって、前記許容領域を示している。「NG領域」は、ドライバ要求駆動力Fddemが実線Aの値よりも大きな値となる領域であって、上流部品に対して伝達される車輪速変動に起因するトルク変動が上流部品の耐久性の上で許容できない大きさとなる、前記許容領域以外の領域を示している。
図3において、例えば点Bに示すように、自動変速機18の現在の変速段が第2速ギヤ段2ndであるときに、ドライバ要求駆動力FddemがNG領域に入っている場合、車輪速変動に起因するトルク変動が上流部品の耐久性の上で許容できる大きさとなる為には、目標駆動力Fdtgtを下げるか、又は、自動変速機18のダウンシフトを実行する必要が有る。ドライバ要求駆動力Fddemを実現するすなわち目標駆動力Fdtgtを維持する為には、自動変速機18のダウンシフトを実行する必要が有る。このように、自動変速機18の現在の変速段において、前記許容領域内すなわちOK領域内にドライバ要求駆動力Fddemが入っているか否かを判定することは、自動変速機18のダウンシフトを実行する必要が有るか否かを判断すること、すなわちダウンシフトの必要性を判断することと同じである。
許容領域内判定部78は、ドライバ要求駆動力FddemがNG領域に入っていると判定した場合、ドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ、つまり目標駆動力Fdtgtを変更せずに、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段が存在するか否かを判断する。例えば図3の点Bにドライバ要求駆動力Fddemがある場合、自動変速機18を第1速ギヤ段1stへダウンシフトすれば、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る。この場合、ドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段が存在することになる。
許容領域内判定部78は、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段が存在する場合、その変速段へのダウンシフトの可否を判断するダウンシフト条件を算出する。許容領域内判定部78は、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段へダウンシフトした場合の、エンジン回転速度NeやMG回転速度Nmgやクラッチ仕事量などのダウンシフト条件を、現在の車速Vやエンジン回転速度Neなどに基づいて算出する。このクラッチ仕事量は、例えば自動変速機18のダウンシフトの過渡中における、クラッチのスリップ回転速度(=クラッチの入出力回転速度差)とクラッチの伝達トルク容量との乗算値の積分値となるクラッチの発熱量である。このクラッチの伝達トルク容量は、例えばクラッチの係合圧に基づいて算出される。又、このクラッチは、例えば自動変速機18が遊星歯車式の自動変速機である場合には自動変速機内の係合装置などであり、或いは、自動変速機18が平行軸式常時噛合型の自動変速機である場合には自動変速機18の変速過渡中に断接される第2クラッチC2などである。
許容領域内判定部78は、上記算出したダウンシフト条件と、エンジン許容最高回転速度や回転機許容最高回転速度やクラッチ熱容量などとに基づいて、自動変速機18のダウンシフトの可否を判断する。エンジン許容最高回転速度や回転機許容最高回転速度やクラッチ熱容量は、各々、例えばエンジン12や回転機MGやクラッチの定格にて規定されている値である。尚、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段へダウンシフトは、通常の自動変速機18のダウンシフトとは異なり、例えば上流部品を保護する為の制御である為、クラッチ熱容量が成立するようにすなわちクラッチ仕事量がクラッチ熱容量以下となるように、素早くクラッチを係合状態へ切り替える等、変速ショックの抑制などは通常のダウンシフトと切り分けて実施することも可能である。
許容領域内判定部78は、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段へダウンシフトが可能であると判断した場合には、そのダウンシフトを許可するダウンシフト許可フラグをオンに設定する一方で、そのダウンシフトが可能でないと判断した場合には、ダウンシフト許可フラグをオフに設定する。尚、例えば図3の点Cに示すように、自動変速機18の現在の変速段においてドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入っていれば自動変速機18のダウンシフトを実行する必要が無い為、許容領域内判定部78は、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入っていると判定した場合にも、ダウンシフト許可フラグをオフに設定する。
状態判定部76は、ダウンシフト許可フラグがオンに設定されているか否かを判定する。
変速制御部74は、状態判定部76によりダウンシフト許可フラグがオンに設定されていると判定された場合には、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段を、ドライバ要求駆動力Fddemを実現可能な目標変速段すなわち目標駆動力Fdtgtを維持可能な目標変速段として設定し、その目標変速段へ自動変速機18をダウンシフトする。このように、変速制御部74は、許容領域内判定部78により自動変速機18の現在の変速段においてドライバ要求駆動力FddemがOK領域内に入っていないと判定された場合には、ドライバ要求駆動力Fddemを実現可能としたままでドライバ要求駆動力FddemがOK領域内に入る、現在の変速段よりも低車速側の変速段へ自動変速機18をダウンシフトする。
図4は、電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、悪路を走行する際にドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ上流部品の耐久性低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図5は、ダウンシフト許可判定を行う為の制御作動を説明するフローチャートであり、図4のフローチャートにおけるステップS20に対応するサブルーチンである。
図4において、先ず、状態判定部76の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、車両10が悪路例えば波状路を走行している状態であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は許容領域内判定部78の機能に対応するS20において、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段へのダウンシフトの可否が判断される。具体的には、図5のS20Aにおいて、ダウンシフトの必要性が判断され、ドライバ要求駆動力FddemがNG領域に入っている場合、ドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ、つまり目標駆動力Fdtgtを変更せずに、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段が存在するか否かが判断される。次いで、S20Bにおいて、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入る自動変速機18の変速段へダウンシフトした場合の、エンジン回転速度NeやMG回転速度Nmgやクラッチ仕事量などのダウンシフト条件が算出される。次いで、S20Cにおいて、上記S20Bにて算出したダウンシフト条件と、エンジン許容最高回転速度や回転機許容最高回転速度やクラッチ熱容量などとに基づいて、自動変速機18のダウンシフトの可否が判断される。次いで、S20Dにおいて、自動変速機18のダウンシフトが可能であると判断された場合にはダウンシフト許可フラグがオンに設定される一方で、自動変速機18のダウンシフトが可能でないと判断された場合にはダウンシフト許可フラグがオフに設定される。次いで、図4に戻り、状態判定部76の機能に対応するS30において、ダウンシフト許可フラグがオンに設定されているか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS30の判断が肯定される場合は変速制御部74の機能に対応するS40において、ドライバ要求駆動力FddemがOK領域に入り且つドライバ要求駆動力Fddemを実現可能すなわち目標駆動力Fdtgtを維持可能な目標変速段へ自動変速機18がダウンシフトさせられる。このダウンシフトの完了後、本ルーチンが終了させられる。
上述のように、本実施例によれば、車両10が悪路を走行している状態であると判定され、更に、自動変速機18の現在の変速段において上流部品に対して伝達されるトルク変動が上流部品の耐久性の上で許容できる大きさとなるドライバ要求駆動力Fddemの領域として予め定められた許容領域内にドライバ要求駆動力Fddemが入っていないと判定された場合には、ドライバ要求駆動力Fddemを実現可能としたままでドライバ要求駆動力Fddemが前記許容領域内に入る、現在の変速段よりも低車速側の変速段へ自動変速機18がダウンシフトさせられるので、ドライバ要求駆動力Fddemを維持したままで、上流部品の耐久性に悪影響を及ぼすような大きなトルク変動が上流部品へ伝達されることが抑制される。よって、悪路を走行する際に、ドライバ要求駆動力Fddemを実現しつつ、上流部品の耐久性低下を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、動力源としてエンジン12及び回転機MGを備えると共に、エンジン12と回転機MGとの間に配設された第1クラッチC1と、回転機MGと自動変速機18との間に配設された第2クラッチC2とを備える車両10を例示したが、この態様に限らない。例えば、図6に示すような、動力源としてエンジン12を備えると共に、エンジン12と自動変速機18との間の動力伝達経路を断接可能に設けられた第3クラッチC3を備える車両80であっても、本発明を適用することができる。又は、例えば、図7に示すような、動力源として回転機MGを備えると共に、回転機MGと自動変速機18との間の動力伝達経路を断接可能に設けられた第4クラッチC4を備える車両90であっても、本発明を適用することができる。第3クラッチC3や第4クラッチC4は、例えば第1クラッチC1や第2クラッチC2と同様のクラッチである。又は、車両10における第2クラッチC2、車両80における第3クラッチC3、及び車両90における第4クラッチC4は、何れも、トルクコンバータやトルク増幅作用のないフルードカップリングなどの流体式伝動装置に置き換えられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。
また、前述の実施例では、自動変速機18として有段式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機18は、公知のベルト式等の無段変速機、又は公知の電気式の無段変速機などの自動変速機であっても良い。自動変速機18が無段変速機の場合、変速制御部74は、許容領域内判定部78により自動変速機18の現在の変速比においてドライバ要求駆動力FddemがOK領域内に入っていないと判定された場合には、ドライバ要求駆動力Fddemを実現可能としたままでドライバ要求駆動力FddemがOK領域内に入る、現在の変速比よりも低車速側の変速比へ自動変速機18をダウンシフトする。尚、無段変速機では、例えば変速比を有段的に切り替えて有段変速機のように変速させることも可能である。本発明は、動力源と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機を備えた車両であれば、適用することができる。
また、前述の実施例では、車輪速変動を用いて、車両10が悪路を走行している状態であるか否かを判定したが、この態様に限らない。例えば、車輪速変動そのものではなく、車輪速変動に伴って変動する値を用いても良い。要は、車輪速変動を含むその車輪速変動を表す値を用いて、車両10が悪路を走行している状態であるか否かを判定すれば良い。具体的には、車輪速変動を表す値としての車輪速度Ndwl、Ndwrの変動幅が所定変動幅を超えているか否かに基づいて、車両10が悪路を走行している状態であるか否かを判定しても良い。又は、車輪速変動を表す値として駆動輪14の左右の車輪速度Ndwl、Ndwrの差に基づいて、車両10が悪路例えば異μ路を走行している状態であるか否かを判定しても良い。又は、車輪速変動を表す値として、駆動輪14の車輪速度Ndwl、Ndwrの平均車輪速度と従動輪の左右の車輪速度の平均車輪速度との差に基づいて、車両10が悪路を走行している状態であるか否かを判定しても良い。その他、車輪速変動を表す値としては、例えばAT入力回転速度Niの変動、AT出力回転速度Noの変動、MG回転速度Nmgの変動などが挙げられる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。