JP7237032B2 - 圧電膜付き基板、圧電素子及び振動発電素子 - Google Patents

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Description

本開示に係る技術は、圧電膜付き基板、圧電素子及び振動発電素子に関する。
圧電膜を備えた圧電素子は、インクジェットヘッド、マイクロミラーデバイス、ジャイロセンサ及び振動発電デバイスなど様々なデバイスに用いられている。
圧電膜を支持する支持基板としては、シリコン基板が一般的に用いられている。例えば、カンチレバーなどの振動板を作製する際には、まず、シリコン基板上に下部電極層を介して圧電膜及び上部電極層を成膜し、圧電膜を一対の電極層で挟んだ圧電部を設ける。その後、圧電部とともにシリコン基板を振動板として機能させるために、圧電部が設けられたシリコン基板に対してエッチングを施すことにより、シリコン基板を振動板として良好な性能を発揮する所望の厚みに成形する。
圧電膜は通常400℃以上の高温で成膜される。圧電膜の成膜後、圧電膜が成膜された支持基板を室温まで冷却すると、圧電膜が成膜された支持基板が反る場合がある。この支持基板の反りは、支持基板と圧電膜との線膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)の差に由来すると考えられる。支持基板に反りがあると、その後のデバイス作製プロセスが困難になり、製造歩留まりが大きく低下する。
特許文献1には、支持基板に金属基板を用い、金属基板の材料として圧電材料の線膨張係数と近い線膨張係数を有する金属を用いることが提案されている。
特許文献2では、支持基板にシリコン基板を用い、かつ、シリコン基板と圧電膜との間に多孔質層を備えることによって、圧電膜に発生する応力を低減し、 高品質な圧電膜を得ることができるとされている。
特開平11-334087号公報 特開2005-203761号公報
シリコン基板を作製するためのシリコンウエハは、取扱いの簡便さから0.5mm~1mm程度の厚さで提供されることが多い。そのため、圧電膜を支持する支持基板としてシリコン基板を用いる場合には、既述の通り、市販されているある程度の厚みを有するシリコン基板を用い、シリコン基板上に圧電部を設けた後に、エッチング処理によりシリコン基板を所望の厚みに加工する。すなわち、シリコン基板を支持基板として用いる場合には、エッチング工程を要するため、コスト高となるという問題もある。また、エッチング後の支持基板と圧電膜には反りが生じるため、その後のデバイス作製プロセスが困難になる。
特許文献1によれば、支持基板を構成する金属材料として圧電材料の線膨張係数と近い線膨張係数を有する金属を用いるので、基板と圧電膜との線膨張係数の差に起因する基板の反りを抑制することができる。一方、金属基板を支持基板として用いているため、金属基板上に成膜した下部電極層及び圧電膜および上部電極層を、複数に分割して複数の圧電部を設けても、複数の圧電部のそれぞれの下部電極が全て金属基板と同電位となるために、複数の圧電部を直列接続させることができず、回路設計の自由度が低い。
特許文献2によれば、シリコン基板と圧電膜との間に多孔質層を備えることにより、圧電膜に生じる応力を低減できる可能性はあるが、シリコン基板と圧電膜との線膨張係数の差に起因するシリコン基板の反りを抑制することは出来ない。
本開示は、上記事情に鑑みて、従来と比較して、圧電膜と基板の反りが抑制され、かつ、回路設計における自由度が高く、かつ低コストな圧電膜付き基板、圧電素子及び振動発電デバイスを提供することを目的とする。
本開示の圧電膜付き基板は、少なくとも両面がアルミニウムを含む材料で構成される金属基材と、金属基材の両面のそれぞれに形成されたポーラス型陽極酸化膜とを備えた支持基板と、
支持基板の一方の面を構成するポーラス型陽極酸化膜の上層として設けられた下部電極層と、
下部電極層の上層として設けられた圧電膜とを備え、
圧電膜は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物を含み、
支持基板と圧電膜との線膨張係数の差がシリコンと圧電膜との線膨張係数の差よりも小さい、圧電膜付き基板である。
本開示の圧電膜付き基板においては、金属基材が、アルミニウムを含む材料のみで形成された単一材であってもよい。
本開示の圧電膜付き基板においては、金属基材が、フェライト系鉄合金薄板とフェライト系鉄合金薄板の両面にそれぞれ設けられたアルミニウムを含む材料との複合材であってもよい。
本開示の圧電膜付き基板においては、圧電膜と下部電極層との間に、下記一般式(1)で表される金属酸化物を含む成長制御層を備えていてもよい。
1-d (1)
ここで、Mはペロブスカイト型酸化物のAサイトに置換可能な1以上の金属元素であり、
Nは、Sc、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ir,Ni、Cu、Zn、Ga、Sn、In及びSbの中より選択される少なくとも1つを主成分とし、
Oは酸素元素であり、
d、eは組成比を示し、0<d<1であって、Mの電気陰性度をXとした場合、
1.41X-1.05≦d≦A1・exp(-X/t1)+y0
A1=1.68×1012,t1=0.0306,y0=0.59958である。
本開示の圧電膜付き基板においては、一般式(1)のMの電気陰性度が0.95未満であることが好ましい。
本開示の圧電膜付き基板においては、一般式(1)のMがBaを主成分として含むことが好ましい。
本開示の圧電膜付き基板においては、一般式(1)のNがRu、Ir、Sn、Ni、Co、Ta、又はNbであることが好ましい。
本開示の圧電素子は、本開示の圧電膜付き基板と、圧電膜付き基板の圧電膜の上層として設けられた上部電極層とを含む。
本開示の圧電素子は、下部電極層と、圧電膜と、上部電極層との積層体を含んで構成される圧電部を複数備え、複数の圧電部が直列接続されていてもよい。
本開示の振動発電素子は、本開示の圧電素子と、圧電素子で生じた電力を取出す電気回路とを備えている。
本開示の圧電膜付き基板、圧電素子及び振動発電デバイスは、従来と比較して、圧電膜と基板の反りが抑制され、かつ、回路設計における自由度が高く、かつ低コストである。
一実施形態の圧電膜付き基板の斜視図である。 支持基板の一部を示す拡大斜視図である。 一例の支持基板の断面図である。 他の一例の支持基板の断面図である。 他の一実施形態の圧電膜付き基板の断面図である。 成長制御層の組成比dとパイロクロア相のX線回折強度との関係を示す図である。 電気陰性度と成長制御層の組成比dとの関係を示す図である。 一実施形態の圧電素子の断面図である。 複数の圧電部を備えた圧電素子の断面図である。 図9に示す圧電素子の上面図である。 振動発電素子の斜視図である。
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、視認容易のため、各層の膜厚及びそれらの比率は、適宜変更して描いており、必ずしも実際の膜厚及び比率を反映したものではない。
「圧電膜付き基板」
図1は、一実施形態による圧電膜付き基板1の斜視図である。
圧電膜付き基板1は、両面がアルミニウムを含む材料から構成される金属基材11と、金属基材11の両面のそれぞれに形成されたポーラス型陽極酸化膜12とを備えた支持基板10と、支持基板10の一方の面を構成するポーラス型陽極酸化膜12の上層として設けられた下部電極層22と、下部電極層22の上層として設けられた圧電膜24とを備える。圧電膜24は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物を含む。また、支持基板10と圧電膜24との線膨張係数の差がシリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも小さい。
ここで、ポーラス型陽極酸化膜12はアルミニウムを含む材料から構成される金属基材11の表面を陽極酸化させて形成された、複数の微細孔を有するアルミナ陽極酸化膜である。また、ポーラス型陽極酸化膜12の上層として設けられた下部電極層22とは、下部電極層22がポーラス型陽極酸化膜12に接して直接設けられている場合と、下部電極層22とポーラス型陽極酸化膜12との間に、他の層が介挿されている場合とを含む。同様に、下部電極層22の上層として設けられた圧電膜24とは、圧電膜24が下部電極層22に接して直接設けられている場合と、下部電極層22と圧電膜24との間に他の層が介挿入されている場合とを含む。
両面にポーラス型陽極酸化膜12が形成された支持基板10は、片面にのみポーラス型陽極酸化膜12が形成された支持基板と比較して厚み方向における対称性が高い。従って、金属基材11とポーラス型陽極酸化膜12との間に線膨張係数差がある場合であっても、支持基板10自体の反りが十分に小さい。支持基板10の反りが小さいので、成膜ホルダーへの密着性が均一となり成膜時の基板温度のムラを抑制することができ、また、厚みムラの小さい膜を成膜することができる。従って、同等の品質の圧電膜付き基板を高い歩留りで得ることができ、コストを抑制することができる。
また、支持基板10と圧電膜24との線膨張係数の差がシリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも小さいので、圧電膜24の成膜後、室温まで冷却する際に生じる支持基板10と圧電膜24の反りを、支持基板としてシリコン基板を用いた場合と比較して抑制することができる。反りが抑制された圧電膜付き基板1であるので、圧電素子等のデバイスに適用する場合の製造時におけるハンドリングが容易になり、デバイスの製造コストを抑制することが可能となる。
また、金属基材11はシリコン基板と比較して、厚みの加工コストが安価であり、例えば、500μm未満の厚さの支持基板を低コストに得ることができ、低コストな圧電膜付き基板1を実現できる。
支持基板10が、シリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも圧電膜との線膨張係数の差が小さいことは、支持基板10がシリコンの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有することを意味する。支持基板10がシリコンよりも小さい線膨張係数を有していることにより、圧電膜の誘電率を小さくする効果がある(後記実施例参照)。圧電膜付き基板1を振動発電素子として利用する場合、発生電圧はd/εに比例する。ここでdは圧電定数である。従って、圧電性能が同等である場合、すなわち、圧電定数dが同等である場合、誘電率εが小さいほど発生電圧が大きくなり、高い発電効率を得ることができる。
また、支持基板として従来のように金属基板を用いた場合、金属基板上に複数の圧電部を設けても複数の圧電部のそれぞれの下部電極は全て同電位となり、圧電部を直列接続することはできず、回路設計の自由度が低い。そのため、金属基板を用いる場合に、圧電部を直列接続するためには、金属基板の表面に絶縁層を設ける必要がある。しかし、本支持基板10のポーラス型陽極酸化膜12は絶縁性であるため別途に絶縁層を設けることなく、支持基板10上に複数の圧電部を設け、直列接続するなどの回路設計を自由に行うことができる。
以下、各構成要素について詳細に説明する。
(支持基板)
支持基板10は、両面がアルミニウムを含む材料で構成される金属基材11と、金属基材11の両面のそれぞれに形成されたポーラス型陽極酸化膜12とを備える。
ここで、アルミニウムを含む材料とは、陽極酸化処理によってポーラス型陽極酸化膜12が形成される材料であればよい。アルミニウムを含む材料は、具体的には、アルミニウムを主成分とする材料であり、以下において、Al材という。Al材としては、アルミニウム含有量が90質量%以上であることが好ましい。Al材としては、さらに、高純度のアルミニウムであることが好ましく、特にアルミニウム含有量が99質量%以上であることが好ましい。Al材のアルミニウム純度を高くすることにより、ポーラス型陽極酸化膜12の絶縁性を高くすることができる。なお、Al材としては、アルミニウム(Al)以外にマグネシウム(Mg)又はリチウム(Li)を1質量%以上含有するものを用いてもよい。Mg及びLiはAlと固溶合金を形成し、異組成の不純物粒子を形成せず、陽極酸化膜の欠陥とならないためである。なお、Al材中にMgを含有する場合は、10質量%以下であることが好ましい。Al材中にLiを含有する場合は、15質量%以下であることが好ましい。
図2は、支持基板10の一部を拡大して示す図である。
金属基材11の両面に形成されているポーラス型陽極酸化膜12は図2に示すように、複数の微細孔16を有する。微細孔16は、支持基板10の表面に開口を有し、支持基板10の表面に対して略垂直に形成されている。微細孔16の開口の直径φは、一例として10nm以上100nm以下である。また、陽極酸化膜12の厚さtは、一例として1μm以上50μm以下である。
既述の通り、ポーラス型陽極酸化膜12は、金属基材11のAl材で構成される表面が陽極酸化されることにより形成される。陽極酸化は、金属基材11を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に一定時間一定電圧をかける定電圧電解、もしくは、一定時間一定電流を流す定電流電解によって実施できる。定電圧電解においては、陽極陰極間に印加する電圧を変化させることで微細孔16の直径φ及び形成間隔を制御できる。また、ポーラス型陽極酸化膜12の厚さtは、陽極酸化膜の単位面積あたりに通電した電荷量により制御できる。
電解液としては、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、及びアミドスルホン酸等の多価酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液を用いる。
Al材を陽極酸化すると、表面から略垂直方向に酸化反応が進行し、陽極酸化膜が生成される。前述の酸性電解液を用いると、平面視において多数の略正六角形上の微細柱状体15が隙間なく配列し、各微細柱状体15の中心部に丸みを帯びた底面を有する微細孔16が形成され、微細柱状体15の底部にはバリヤ層が形成されたポーラス型陽極酸化膜12が得られる。金属基材11の両面へのポーラス型陽極酸化膜の形成は、逐次に行ってもよいし同時に行ってもよい。しかし、両面へのポーラス型陽極酸化膜12の形成を同時に行うことで、処理条件が同一となるため、両面のポーラス型陽極酸化膜12の材質及び厚さが略同一となり、金属基材11を中心とする支持基板10の厚み方向の対称性が向上するため好ましい。
金属基材11は、支持基板10と圧電膜24との線膨張係数の差がシリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも小さくなるものであれば、特に制限はない。
なお、本明細書において線膨張係数は室温20℃から500℃までの平均値とする。Siの線膨張係数は3.5ppm/K程度であり、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物は、8ppm/K程度である。なお、Siの線膨張係数は、Watanabe H., Yamada N., Okaji M., "Linear thermal expansion coefficient of silicon
from 293 to 1000k" J. Thermophys. Prop. Themophys, Its Appl. 2004, 25, 221-236.を参照し、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物の線膨張係数は、「塑性加工によるマイクロマテリアルのElectro-Mechanical 特性の改変」小寺英俊,天田財団 助成研究成果報告書 2003 Vol.16p43を参照した。
図3は、支持基板の一例10Aを示す断面図である。図3に示す支持基板10Aの金属基材11AはAl材のみで形成された単一材である。ポーラス型陽極酸化膜12はAl材のみからなる金属基材11Aの表面を陽極酸化して形成される。金属基材11Aは、陽極酸化前よりも薄くなるが、支持基板10A全体としては、陽極酸化前の厚さと略同等の厚さを有する。
Al材のみからなる金属基材11Aの両面にポーラス型陽極酸化膜12を備えた支持基板10Aの線膨張係数は5.5ppm/K程度である。既述の通り、Siの線膨張係数は3.5ppm/K程度であり、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物は、8ppm/K程度である。従って、支持基板10Aと圧電膜の線膨張係数の差は、シリコンと圧電膜の線膨張係数の差よりも小さい。支持基板10Aと圧電膜の線膨張係数の差は4ppm/K未満であれば、圧電膜の高温成膜の後、冷却された際に、線膨張係数の差に起因して生じる支持基板10の反りを抑制することができる。本例の支持基板10Aと圧電膜24の線膨張係数差は3ppm/K未満であり、反りを抑制する効果が十分得られる。
図4は、支持基板の他の一例10Bを示す断面図である。図4に示す支持基板10Bの金属基材11Bは、Al材とは異なる金属で構成された主基材13と、主基材13の両面に設けられたAl材14との複合材である。
主基材13を構成するAl材とは異なる金属としては、例えば、線膨張係数がシリコンよりも大きく、かつアルミニウムよりも小さいことが好ましい。主基材13には、例えばフェライト系鉄合金等の鋼材が用いられる。フェライト系鉄合金としては、冷間圧延鋼板(SPCC:steel plate cold commercial)等の軟鋼板、あるいはフェライト系ステンレス鋼等を用いることができる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS405、SUS410、SUS436、SUS444等を用いることができる。耐熱性が高いという観点から、例えば特開2011-171708号公報に開示されているCr含有フェライト系ステンレス鋼、及び、特開2013-151728号公報に記載の窒素含有鋼なども好適に用いることができる。
主基材13の両面にAl材14を有する複合材を得る方法は任意である。複合材を得る方法としては、例えば、主基材13の両面のそれぞれにAl材14を配して冷間圧延法により複合化する方法、あるいは主基材13の両面にそれぞれAl材14を蒸着等により成膜する方法等が挙げられる。
フェライト系鉄合金薄板を主基材13として、その両面にAl材14が備えられてなる支持基板10Bは、主基材13として用いられるフェライト系鉄合金の材質により多少変動するが、おおよそ9~11ppm/Kの線膨張係数を有する。圧電膜24とこのような支持基板10Bの線膨張係数の差は1~3pp/K程度となり、やはりシリコンと圧電膜の線膨張係数差よりも小さい。本例においても支持基板10Aと圧電膜24の線膨張係数差は3ppm/K以下程度であり、反りを抑制する効果が十分得られる。
なお、金属基材11A、11Bの表面にポーラス型陽極酸化膜12を備えた各支持基板10A,10Bの線膨張係数については、文献"Novel Dielectric Metal Foil Substrate Using Aluminum Oxide for Flexible Elecrtronics" S. Yuuya, TR. Kaito, K. Sato, K. Yamane, Proceeding of IDW/AD' 12, FLXp-4L, Kyoto, Japan"を参照した。
上記のような金属基材11A、11Bは、シリコンと比較してヤング率が小さく、同じ厚さで比較すると変形し易い。ポーラス型陽極酸化膜12は、膜面に略垂直に伸びる複数の微細孔16を有するので、微細孔を有しないアルミナ膜と比較してヤング率が小さくこれらのような柔らかい金属基材の柔軟性を阻害しない。具体的には、Si、Al、鉄及びポーラス型陽極酸化膜のヤング率はそれぞれ200、70、190及び100GPa程度である。支持基板10の圧電膜24の上層に上部電極層を設けることにより圧電部を備えた振動板を構成した場合、圧電部に電圧印加した際の振動板の変位、及び振動板が外力を受けた際の変位は、Si基板を支持基板として用いた振動板よりも大きくなる。従って、シリコンより柔らかい金属基材を備えた圧電膜付き基板1を含む振動板をアクチュエータに適用した場合、高い駆動効率を得ることができ、振動発電素子に適用した場合、高い発電効率を得ることができる。
(下部電極)
下部電極層22の主成分としては特に制限なく、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)等の金属、酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化イリジウム(IrO)、酸化ルテニウム(RuO)、LaNiO、及びSrRuO等の金属酸化物、及びこれらから選択された2以上の材料の組合せが挙げられる。下部電極層22としては、Irを用いることが特に好ましい。
下部電極層22の厚みに特に制限はないが、50nm以上300nm以下が好ましく、例えば200nm程度である。
下部電極層22とポーラス型陽極酸化膜12との間には、他の層が介挿されていてもよい。例えば、図5に示す設計変更例の圧電膜付き基板2に示すように、両者の密着性を向上するための密着層21を備えることが好ましい。密着層21としては、例えば、Ti層が好ましい。なお、図5において、図1に示した圧電膜付き基板1と同等の要素には同一の符号を付している。
(圧電膜)
圧電膜24は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、PbをAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物(以下において、Pb含有ペロブスカイト型酸化物と称す。)を含む。圧電膜24は、基本的にはPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる。但し、圧電膜24はPb含有ペロブスカイト型酸化物の他に不可避不純物を含んでいてもよい。本明細書において「主成分」とは50mol%以上を占める成分であることを意味する。すなわち、「PbをAサイトの主成分として含有する」とは、Aサイト元素中、50mol%以上の成分がPbであることを意味する。
Pb含有ペロブスカイト型酸化物としては、特に、下記一般式(2)で示されるペロブスカイト型酸化物が好ましい。
(Pba1αa2)(Zrb1Tib2βb3)O (2)
式中、Pb及びαはAサイト元素であり、αはPb以外の少なくとも1種の元素である。Zr,Ti及びβはBサイト元素である。a1≧0.5、b1>0、b2>0、b3≧0、であり、(a1+a2):(b1+b2+b3):c=1:1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で標準値からずれてもよい。
Pb含有ペロブスカイト型酸化物において、Pb以外のAサイト元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、カドミウム(Cd)、及びビスマス(Bi)などが挙げられる。αはこれらのうちの1つもしくは2以上の組み合わせである。
また、Ti、Zr以外のBサイト元素としては、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、及びアンチモン(Sb)などが挙げられる。βはこれらのうちの1つもしくは2以上の組み合わせである。
一般式(2)で示されるペロブスカイト型酸化物を含む圧電膜は、良好な圧電性能が得られるため好ましい。特に、Pb含有ペロブスカイト型酸化物が(001)面配向していることが高い圧電定数を得るために好ましい。
圧電膜24の膜厚は特に制限なく、通常200nm以上であり、例えば0.2μm~5μmである。圧電膜24の膜厚は1μm以上が好ましい。
圧電膜24の成膜方法は、特に限定されないが、例えば、スパッタ法あるいは蒸着法等の気相成膜、あるいはゾルゲル法などの液相成膜が挙げられる。(001)面配向の圧電膜を得るにはスパッタ法による成膜が特に適する。
圧電膜24の成膜時には、気相成膜及び液相成膜いずれの場合にも400℃以上の高温処理が必要となる。支持基板10として、圧電膜24との線膨張係数の差がシリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも小さい支持基板を用いているので、圧電膜24の成膜後、室温まで冷却する際に生じる支持基板10と圧電膜24の反りを、支持基板としてシリコン基板を用いた場合と比較して抑制することができる。
(成長制御層)
また、図5に示す圧電膜付き基板2のように、圧電膜24と下部電極層22との間に、成長制御層を備えることが好ましい。本出願人は、良好なペロブスカイト構造を有する圧電膜を成膜するためには、特定の条件の成長制御層を用いることが好ましいことを見出している(本出願人が先に出願している特願2019-109610号、特願2019-109611号、特願2019-109612号(本件出願時において未公開)を参照。)。具体的には、下記一般式(1)で表される金属酸化物を含む成長制御層23を備えていることが好ましい。
1-d (1)
ここで、Mはペロブスカイト型酸化物のAサイトに置換可能な1以上の金属元素であり、
Nは、Sc、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ir,Ni、Cu、Zn、Ga、Sn、In及びSbの中より選択される少なくとも1つを主成分とし、
Oは酸素元素であり、
d、eは組成比を示し、0<d<1であって、Mの電気陰性度をXとした場合、
1.41X-1.05≦d≦A1・exp(-X/t1)+y0
A1=1.68×1012,t1=0.0306,y0=0.59958である。
なお、組成比eはM、Nの価数によって変化する。
なお、Pb含有ペロブスカイト型酸化物のAサイトに置換可能な金属元素、Bサイトに置換可能な元素であるか否かは、A,B,O元素のイオンの大きさ、すなわちイオン半径によって定まる。Netsu Sokutei 26 (3) 64-75によれば、ペロブスカイト型酸化物ではAサイトは12配位、Bサイトは6配位をとるため、ペロブスカイト型構造をとるためには交互に積み重なったAO、BO層のサイズに制限が生じることになる。これを定量的な尺度として表したのがトレランスファクターtであり、これは次式で表される。
t=(rA+rO)/{√2(rB+rO)}
ここでrA,rB,rOはそれぞれA,B,Oイオンのそれぞれの位置でのイオン半径である。
通常ペロブスカイト型酸化物はt=1.05~0.90前後で出現し、理想的なペロブスカイト型構造はt=1で実現される。本明細書においては、Aサイトに置換可能な元素、Bサイトに置換可能な元素は、トレランスファクターが1.05~0.90を満たすものと定義する。なお、イオン半径はShannonにより作成されたイオン半径表のものを用いる。シャノンのイオン半径については、R. D. Schannon, Acta Crystallogr. A32, 751 (1976)に記載されている。
上記の条件を満たす成長制御層を備えることによって、パイロクロア相がない単相のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜することができる。ここで、「パイロクロア相がない」とは、圧電膜についてのXRD(X-ray diffraction)測定で得られるXRDチャートにおいて、パイロクロア相の回折ピークが観察されないことをいう。
Mの電気陰性度Xは0.95未満であることが好ましい。Mは電気陰性度が0.95未満となる範囲で、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr,Ba,La、Cd、及びBiの中から選択される少なくとも1つを主成分とすることが好ましい。ここで、「少なくとも1つを主成分とする」とは、1つの元素のみで主成分を構成するものとしてもよいし、2つ以上の元素の組み合わせを主成分としてもよいことを意味する。Mは上記金属元素以外のAサイトに置換可能な金属元素を含んでいてもよい。Mが2以上の金属元素からなる場合、Mの電気陰性度は、それぞれの金属元素の電気陰性度とその金属元素のM中における含有割合の積の和、とする。電気陰性度が0.95未満の非常に反応性の高い金属元素を含む酸化物を成長制御層として用いた場合には、成膜初期においてPb抜けAサイトを補完する効果が高く、ペロブスカイト構造の生成を促進させることができ、広いdの範囲で安定にPb含有ペロブスカイト酸化物を成長させることが可能である。
なお、成長制御層23は、MがBaを主成分とすることが好ましく、MがBaであることが特に好ましい。MにおいてBaを50mol%以上含むことで、dの許容される範囲を格段に広げることができる。
また、MがBaを含む成長制御層を備えた場合、成長制御層がない場合及びBaを含まない成長制御層を備えた場合と比較して、成長制御層上に設ける圧電膜の成膜温度を大幅に低くすることができる。圧電膜の成膜温度を低くすることができれば、支持基板の金属基材として、安価な軟鋼材を主基材として備える複合材を用いることができるので、圧電膜付き基板をより低コストに製造することができる。また、金属基材としてSUS(Steel Use Stainless)等の耐熱性の良好なフェライト系鉄合金を備えた複合材を用いた場合にも、圧電膜の成膜温度が低い方が、主基材とAl材との間で部分的な剥離を抑制する効果が得られ、好ましい。
成長制御層23の膜厚は0.63nm以上170nm以下であることが好ましく、0.63nm以上40nm以下であることがより好ましく、0.63m以上10nm以下であることが特に好ましい。成長制御層23の膜厚は0.63nm以上であれば、パイロクロア相を抑制する効果を十分得ることができる。また、40nm以下であれば、良好なペロブスカイト相を得る効果が高い。
また、Nは、Ru、Ir、Sn、Zr、Ta、Ni、Co又はNbであることが好ましい。Nがこれらの金属である場合、異相が出にくいため、スパッタ成膜時に使用するターゲットを高密度に作製しやすい。特にRu、Ir、Snにおいては高い導電率の成長制御層23とすることができるので、成長制御層23を下部電極の一部としても機能させることができる。
上記成長制御層23の条件は、異なる組成の成長制御層のサンプルを作製し、評価を行った結果に基づいて決定した(特願2019-109611号(本件出願時において未公開)を参照。)。
具体的には、成膜基板上に後記表1に記載の成長制御層をスパッタ法により成膜してサンプル1~36を作製し、各サンプルの成長制御層上の圧電膜の結晶性を評価して成長制御層の条件を決定した。圧電膜はNb添加PZT膜であり、Pb1.15((Zr0.52Ti0.48)0.88Nb0.12)Oの焼結体をターゲット材として用いスパッタ法により成膜した。各サンプルの成長制御層上に成膜された圧電膜について、ペロブスカイト構造以外の異相の有無を評価して成長制御層の条件を決定した。
圧電膜の結晶性は、各サンプルについて、RIGAKU製、RINT-ULTIMAIIIを用いてXRD測定を行い、得られたXRDチャートから、XRD回折29°近傍に生じるパイロクロア相(222)面の回折強度を求めて以下の基準で評価した。
A:100cps以下
B:100cps超、1000cps以下
C:1000cps超
なお、100cpsはノイズと同程度であり、29°近傍において100cpsを超えるピークがない場合には、パイロクロア相はXRDでは検出されないレベルであることを意味する。評価Bの範囲であれば、パイロクロア相は従来と比較して十分に抑制されており、圧電性の低下は許容される範囲である。なお、表1中において、100cps以下の場合は1×10、100000cps以上の場合は1×10として表記した。
表1に各サンプルのMの組成、電気陰性度、組成比d、及びNの組成を示す。さらに、表1に各サンプルの圧電膜についてのパイロクロア相の強度及び判定結果を示す。
Figure 0007237032000001

図6に、成長制御層として、BaRu1-dを用いたサンプル1~9、成長制御層としてSrRu1-dを用いたサンプル20~28及び成長制御層としてLaRu1-dを用いたサンプル29~30について、それぞれ成長制御層中Mの組成比dとパイロクロア相のXRD強度との関係を図6に示す。
図6から、MがLa、Sr、Baそれぞれの場合について、パイロクロア相のXRD強度が10以下を満たす組成比dの範囲を表2の通り抽出した。
Figure 0007237032000002
表2に示すMの電気陰性度を横軸、組成比dを縦軸として、組成下限及び上限の値をそれぞれプロットしたグラフを図7に示す。図7において、組成下限値については直線で、組成上限については曲線でフィッティングを行った。組成下限Mminを示す直線、組成上限を示すMmaxは、それぞれ電気陰性度Xの関数として下記の式で表すことができた。
min=1.41X-1.05
max=A1・exp(-X/t1)+y0
A1=1.68×1012,t1=0.0306,y0=0.59958
従って、組成下限、及び組成上限に挟まれる領域、すなわち、Mの組成dが、Mmin≦d≦Mmaxの範囲、
1.41X-1.05≦d≦A1・exp(-X/t1)+y0
を、パイロクロア相を十分抑制できる範囲として規定した。
「圧電素子」
本開示の圧電素子は、本開示の圧電膜付き基板と、圧電膜付き基板の圧電膜上に備えられた上部電極層とを含む。図8に本開示の一実施形態の圧電素子4の断面図を示す。圧電素子4は、図1に示す圧電膜付き基板1の圧電膜24上に上部電極層26を備えてなる。支持基板10上に備えられている下部電極層22、圧電膜24及び上部電極層26の積層体が圧電部20を構成する。上部電極層26は、下部電極層22と対をなし、圧電膜24に電圧を加えるための電極である。すなわち、圧電素子4は、支持基板10上に圧電部20を備えた振動板としての構造を有する。
上部電極層26の主成分としては特に制限なく、下部電極層22で例示した材料の他、クロム(Cr)等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極層26の厚みは特に制限なく、50nm~300nm程度であることが好ましい。
なお、本明細書において、上部、下部は天地を意味するものではなく、圧電膜24挟んで設けられる一対の電極層のうち、支持基板側に配置される電極層を下部電極層、基板と反対側に設けられる電極層を上部電極層と称しているに過ぎない。
圧電部20に電圧が印加されると圧電膜24が面内方向に伸びようとするために、圧電膜24を拘束する支持基板10に反りが生じ、アクチュエータとして機能する。また、圧電素子4に外力が与えられて支持基板10及び圧電膜24に反りが生じると圧電部20に電圧が生じ、センサもしくは発電素子として機能する。本圧電素子4は、反りが十分に抑制された圧電膜付き基板1を備えているので、電圧あるいは外力が与えられていない状態において圧電膜に応力がかかっていない。応力がかかっていない状態から電圧あるいは外力が与えられるので、高い圧電効果あるいは逆圧電効果を得ることができる。
圧電素子4は、反りが抑制された圧電膜付き基板1を備えており、圧電素子製造時におけるハンドリングが容易であるため、低コストに製造することができる。
また、金属基材11はシリコン基板と比較して、厚みの加工コストが安価であり、例えば、500μm未満の厚さの支持基板を低コストに得ることができる。圧電素子4は、低コストの圧電膜付き基板を用いているので、低コストに得られる。
また、支持基板10が、既述のAl材からなる金属基材11A、あるいはフェライト系鉄合金とAl材との複合材からなる金属基材11Bを備えている場合、シリコンと比較してヤング率が小さく、同じ厚さで比較すると変形し易い。したがって、そのような金属基材11A、11Bを備えていれば、本圧電素子4は、圧電部に電圧が印加された場合、及び外力を受けた場合に大きな変位が得られる。すなわち、本圧電素子4をアクチュエータに適用した場合、高い駆動効率を得ることができる。また、本圧電素子4をセンサとして使用した場合、高い感度が得られる。さらには、本圧電素子4を振動発電素子に適用した場合、高い発電効率を得ることができる。
なお、圧電部20には、図5に示した密着層21及び成長制御層23を備えていてもよい。密着層21を備えることにより、陽極酸化膜12と下部電極層22との密着性を向上することができる。陽極酸化膜12と下部電極層22との間での剥離の発生を抑制することができる。成長制御層23を備えることにより圧電膜24を、パイロクロア相を含まない単層のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜24とすることができる。パイロクロア相を備えないことで、下部電極層22と圧電膜24との間での剥離を抑制することができ、長期耐久性の高い圧電素子を得ることできる。
図9は、本開示の他の一実施形態の圧電素子5の断面図を示し、図10は圧電素子6の上面図を示す。
圧電素子5は、支持基板10上に下部電極層22、圧電膜24及び上部電極層26を備える点で図6に示す圧電素子4と共通する。但し、圧電素子6においては、下部電極層22、圧電膜24及び上部電極層26がそれぞれ複数の部分に分離されている。下部電極層22は複数の個別下部電極22a、22b、22c、及び22dに分離されている。圧電膜24は複数の個別圧電膜24a、24b、24c、及び24dに分離されている。上部電極層26は複数の個別上部電極26a、26b、26c、及び26dに分離されている。これらのうち、積層されている個別下部電極22a、個別圧電膜24a及び個別上部電極26aによって一つの圧電部20aが構成される。同様に、個別下部電極22b、個別圧電膜24b及び個別上部電極26bによって一つの圧電部20bが構成され、個別下部電極22c、個別圧電膜24c及び個別上部電極26cによって一つの圧電部20cが構成され、個別下部電極22d、個別圧電膜24d及び個別上部電極26dによって一つの圧電部20dが構成される。そして、圧電部20aの個別上部電極26aが隣接する圧電部20bの個別下部電極22bと接続されることにより、圧電部20aと圧電部20bが直列接続されている。隣接する圧電部同士が同様に接続されることによって、圧電部20a~20dが直列接続されている。このように支持基板10上に設けられた複数の圧電部20a~20dを直列接続することで、例えば、振動発電素子として利用する際の発電効率の向上を図ることができる。
下部電極層22が金属基材11と直接接触せず、絶縁体であるポーラス型陽極酸化膜12上に設けられているため、下部電極層22を分離した場合には、個々の下部電極22a~22dが電気的にも分離されている。複数の圧電部のそれぞれの下部電極が電気的に分離されているので、本実施形態の圧電素子6に示すように、複数の圧電部を直列接続することができる。なお、本実施形態では複数の圧電部20a~20dを全て直列接続しているが、直列接続と並列接続を組み合わせてもよく、自由に回路設計を行うことができる。
「振動発電素子」
本開示の振動発電素子は、本開示の圧電素子と、圧電素子で生じた電力を取出す電気回路とを備える。図11に一実施形態の振動発電素子8の概略構成図を示す。
振動発電素子8は、カンチレバー7と、外力を受けてカンチレバー7が振動することによって生じる電力を取出す電気回路50とを備える。カンチレバー7は上述の圧電素子4と、圧電素子4の一端を把持固定する固定部40とを備える。電気回路50は、圧電素子4の下部電極層22と上部電極層26を接続されており、圧電素子4で生じる電力を取り出すことができれば、特に回路構成は限定されない。
既述の通り、Siを支持基板として用いた場合と比較して、同一組成の圧電膜であっても誘電率を小さくなるため、発電素子とした場合に発生電圧を大きくすることができる。
さらに、シリコンと圧電膜24との線膨張係数の差よりも小さい線膨張係数を有する支持基板10を用いることにより、シリコン基板を支持基板として用いた場合と比較して、同一組成の圧電膜24を用いた場合であっても、圧電膜24の誘電率εを小さくすることができる。圧電膜付き基板1を振動発電素子として利用する場合、発生電圧はd/εに比例する。ここでdは圧電定数である。従って、圧電定数dが同等である場合、誘電率εが小さいほど発生電圧が大きくなり、高い発電効率を得ることができる。
以下、圧電膜付き基板の実施例及び比較例について説明する。まず、実施例及び比較例に使用した支持基板について説明する。
<支持基板A>
金属基材として、厚さ150μmである、純度4NのAl基材を用意し、このAl基材を0.5mol/Lのシュウ酸溶液中で40Vの定電圧電界の条件で陽極酸化することにより、Al基材の両面に10μm厚さの陽極酸化被膜を形成した。これによって、10μmの陽極酸化膜、130μmのAl基材、10μmの陽極酸化膜の積層構造を有する計150μm厚さの支持基板Aを得た。
<支持基板B>
市販のフェライト系ステンレス鋼であるSUS430の両面に、純度4NのAl板を冷間圧延法により加圧接合及び減厚してAl材/SUS/Al材の3層構造のクラッド材を複合材として作製した。フェライト系ステンレス鋼SUSの厚さが50μmであり、フェライト系ステンレス鋼の両面に備えられたAl材の厚さが50μmとなるようにした。すなわち、Al/SUS/Al=50/50/50μmの計150μm厚さの複合材を作製した。その後、3層クラッド材を支持基板Aと同じ条件で陽極酸化することにより、それぞれのAl層の表面を10μm厚さの陽極酸化被膜とした。これによって、陽極酸化膜/Al/SUS/Al/陽極酸化膜=10/40/50/40/10μmの計150μm厚さの支持基板Bを得た。
<支持基板C>
厚さ150μmのSi基板を支持基板Cとした。
「実施例及び比較例の圧電膜付き基板の作製」
実施例1~7には支持基板Aを用い、実施例8~10には支持基板B、比較例1~6には支持基板Cを用いた。
それぞれ、25mm角の支持基板A、B、Cに20nm厚のTi密着層と150nm厚のIr下部電極層を積層した。その後、Ir下部電極層上に3μm厚の圧電膜をスパッタ成膜した。
なお、実施例1、3、5、7、9、比較例1、3、5については、Ir下部電極層上に成長制御層として、膜厚10nmのBa0.45Ru0.55O膜(以下においてBRO膜という。)を設けた上で、BRO膜上に圧電膜をスパッタ成膜した。
-成長制御層の成膜-
成長制御層は、スパッタリング装置内に下部電極付きの支持基板を配置し、真空度0.8Paになるようにアルゴン(Ar)をフローし、室温(基板加熱無し)で成膜した。
-圧電膜の成膜-
圧電膜は、Ir下部電極層若しくは成長制御層上に、高周波スパッタ装置を用いて成膜した。圧電膜用のスパッタ成膜のターゲット材料としてはPb1.15((Zr0.52Ti0.48)0.88Nb0.12)O3の組成のものを用いた。成膜圧力は2.2mTorr、成膜温度は500~600℃で各実施例及び比較例について表2に示す通りとした。
上記のように作製した各実施例及び比較例の圧電膜付き基板について、以下の評価を行った。
<反りの測定>
圧電膜付き基板を定盤の上に置き、圧電膜付き基板の中心部と端部の高さの差を反りとした。高さは非接触式形状測定システム(Keyence KS-1100)を用い、プロファイル(断面形状)計測モードで測定した。
この際、圧電膜付き基板の中心部と端部の高さの差について、
0.2mm未満を「良」
0.2mm以上0.5mm未満を「可」
0.5mm以上を「不可」
と評価した。
<比誘電率の測定>
圧電膜付き基板の圧電膜上に、直径1mmの円形の開口を有するメタルマスクを用い、スパッタ法でTi密着層及び、Au上部電極層を順に成膜した。各層の厚さはTi/Au=30/300(nm)とした。測定周波数1kHzにて圧電膜の静電容量Cを測定し、圧電膜の厚さL:3μmと上部電極の直径1mm、すなわち半径r=0.5mmから、圧電膜の比誘電率εを、C=ε・πr/Lに基づいて求めた。
<異相の有無>
Cu-Kα線源のXRD回折29°近傍に生じるパイロクロア相のメインピークの有無で異相としてのパイロクロア相の有無を判定した。より詳細には、各例の圧電膜について、RIGAKU製、RINT-ULTIMAIIIを用いてXRD測定を行い、得られたXRDチャートから、XRD回折29°近傍に生じるパイロクロア相(222)面の回折強度を求めて、その強度が100cps以下であれば異相無し、100cps超えであれば異相有りとして評価した。
実施例及び比較例について、支持基板、成長制御層の有無、圧電膜の成膜温度、及び各評価結果を下記表3にまとめて示す。
Figure 0007237032000003
圧電膜付き基板の反りは、実施例は全て「良」、比較例は全て「不可」という評価であった。これは、支持基板A,Bの線膨張係数と圧電膜の線膨張係数との差が小さいため、成膜時の高温処理後の冷却後における反りの発生を十分抑制することができたためと考えられる。
比誘電率は、支持基板Cを備えた比較例では、950~1040の範囲であったのに対し、支持基板Aを用いた実施例1~6で680~730の範囲であり、支持基板Bを用いた実施例7~10では、540~610の範囲であった。比誘電率については、成膜温度による有意な差は認められなかった。また、比誘電率については、異相のパイロクロア相の有無による有意差も認められなかった。実施例1~10については比較例1から6に対して比誘電率が大幅に下がっている、即ち支持基板によって比誘電率が異なることが明らかである。
なお、X線回折の結果によると、圧電膜のペロブスカイト相は(001)配向しており、(001)面間隔は支持基板Cが最も小さく、支持基板A、支持基板Bの順に大きくなった。支持基板の線膨張係数が大きいほど、圧電膜成膜後の冷却中に圧電膜に面内圧縮が強く作用し、面垂直方位の(001)面間隔が伸びていると考えられる。この(001)面間隔の伸びが上記比誘電率の変化をもたらしたと考えられる。(001)面間隔が大きいほど比誘電率が小さくなった。
成長制御層を備えたものについては、500℃~600℃の成膜範囲いずれの場合にもパイロクロア相が観察されなかった。他方、成長制御層を備えていない場合には、500℃、550℃の成膜温度ではパイロクロア相が観察された。成長制御層を備えることにより、より低い成膜温度であってもパイロクロア相を形成することなくペロブスカイト型酸化物単相の圧電膜を得ることができることが明らかである。なお、低い成膜温度で良好な圧電膜を得ることができる場合、支持基板の金属基材としてより安価なSPCCなどを用いることができ、さらに低コストな基板を実現することができる。
1、2 圧電膜付き基板
4、5 圧電素子
7 カンチレバー
8 振動発電素子
10、10A、10B 支持基板
11、11A、11B 金属基材
12 ポーラス型陽極酸化膜
13 主基材
14 アルミニウムを含む材料
15 微細柱状体
16 微細孔
20、20a、20b、20c、20d 圧電部
21 密着層
22 下部電極層
22a、22b、22c、22d 個別下部電極
23 成長制御層
24 圧電膜
24a、24b、24c、24d 個別圧電膜
26 上部電極層
26a、26b、26c、26d 個別上部電極
40 固定部
50 電気回路

Claims (8)

  1. 少なくとも両面がアルミニウムを含む材料で構成される金属基材と、前記金属基材の前記両面のそれぞれに形成されたポーラス型陽極酸化膜とを備えた支持基板と、
    前記支持基板の一方の面を構成する前記ポーラス型陽極酸化膜の上層として設けられた下部電極層と、
    前記下部電極層の上層として設けられた圧電膜とを備え、
    前記圧電膜は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、鉛をAサイトの主成分として含有するペロブスカイト型酸化物を含み、
    前記支持基板と前記圧電膜との線膨張係数の差がシリコンと前記圧電膜との線膨張係数の差よりも小さ
    前記金属基材は、フェライト系鉄合金薄板と前記フェライト系鉄合金薄板の両面にそれぞれ設けられた前記アルミニウムを含む材料との複合材である、圧電膜付き基板。
  2. 前記圧電膜と前記下部電極層との間に、下記一般式(1)で表される金属酸化物を含む成長制御層を備えている、
    1-d (1)
    ここで、Mは前記ペロブスカイト型酸化物のAサイトに置換可能な1以上の金属元素であり、
    は、Sc、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ir,Ni、Cu、Zn、Ga、Sn、In及びSbの中より選択される少なくとも1つを主成分とし、
    Oは酸素元素であり、
    d、eは組成比を示し、0<d<1であって、Mの電気陰性度をXとした場合、
    1.41X-1.05≦d≦A1・exp(-X/t1)+y0
    A1=1.68×1012,t1=0.0306,y0=0.59958である、請求項1に記載の圧電膜付き基板。
  3. 前記電気陰性度が0.95未満である請求項に記載の圧電膜付き基板。
  4. 前記一般式(1)のMがBaを主成分として含む請求項又はに記載の圧電膜付き基板。
  5. 前記一般式(1)のNがRu、Ir、Sn、Ni、Co、Ta、又はNbである請求項からのいずれか1項に記載の圧電膜付き基板。
  6. 請求項1からのいずれか1項に記載の圧電膜付き基板と、
    前記圧電膜付き基板の前記圧電膜の上層として設けられた上部電極層とを含む圧電素子。
  7. 前記下部電極層と、前記圧電膜と、前記上部電極層との積層体を含んで構成される圧電部を複数備え、前記複数の圧電部が直列接続された請求項に記載の圧電素子。
  8. 請求項又はに記載の圧電素子と、
    前記圧電素子で生じた電力を取出す電気回路とを備えた振動発電素子。
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