JP7235365B1 - SARS-CoV-2スパイクタンパク質とそのヒト受容体アンジオテンシン変換酵素2との結合阻害を評価する方法及びキット - Google Patents

SARS-CoV-2スパイクタンパク質とそのヒト受容体アンジオテンシン変換酵素2との結合阻害を評価する方法及びキット Download PDF

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Abstract

【課題】SARS-CoV-2に対する抵抗力の強さを正確かつ簡便に評価する方法、及びキットを提供することを課題とする。【解決手段】SARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)又はそのヒト受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を固相化したプレートに、検体と、標識化したACE2又は標識化したスパイクタンパク質RBDを添加し、標識化したタンパク質の結合を測定することによって、スパイクタンパク質とACE2との結合阻害を評価することができる。また、スパイクタンパク質RBD又はACE2を固相化したプレートと、標識化したACE2又は標識化したスパイクタンパク質RBDと、標識を測定するための試薬を含む評価キットとして提供する。【選択図】図6

Description

検体中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体の量を評価する方法に関する。
新型コロナウイルスにより引き起こされる感染症であるCOVID-19は、全世界で多くの死者を出してきた。2022年7月現在、感染力は強いものの比較的軽い症状の者が多いオミクロン株やその亜種への置き換わりが進んでいるが、パンデミックの終焉はまだ遠いと考えられている。一方、SARS-CoV-2に対するワクチンが迅速に開発され、その接種率は、日本では80%以上、全世界でも60%以上に達している。ワクチンによって誘導されたウイルスに対する中和抗体が一定量体内に存在していれば、SARS-CoV-2感染に対して抵抗性があると考えられる。
SARS-CoV-2は、ウイルス粒子表面のスパイクタンパク質がヒ卜細胞表面のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)をウイルス受容体として結合することが契機となって細胞内に侵入し、肺炎などの症状を引き起こす。中和抗体とは、スパイクタンパク質とACE2との結合を阻害することができる抗体のことである。
ワクチン接種、あるいは自然感染によって、中和抗体が獲得されるものの、抗体がどの程度持続するか十分に明らかにされていない。自然感染後の抗体は数ヶ月以上持続するとされているが、再感染も認められており感染予防効果や重症化抑制効果の持続については不明である。また、ワクチン接種後の中和抗体の持続についても経時的に抗体の量が減弱することが知られており、その効果の持続については明らかではない(非特許文献1、2)。そのため、3回目、4回目の接種の必要性が議論されている。
ワクチン接種、あるいは自然感染による反応性は個人によって大きく異なり、中和抗体の量、持続時間が異なると考えられる。したがって、年齢、基礎疾患等によって、一律にワクチンの追加接種を行う現行のやり方は、ワクチン接種による副反応のデメリットや、医療経済上の問題があると考えられる。また、医療従事者等にとっては、自身の中和抗体量を知ることは、感染の危険性を認識することになる。したがって、中和抗体量を知ることは、適切な時期にワクチン接種を行い、感染の危険性を減じるとともに、無駄なワクチン接種を行わないためにも重要である。
特許文献1には、SARS-CoV-2に対する中和抗体を簡便に測定する方法として、スパイクタンパク質を結合させたビーズ、ACE2を結合させたビーズを用いて中和抗体の存在を確認する方法が開示されている。
特許第7036979号
W. N. Chia, etal. Lancet Microbe, 2021, 2(6), e240-e249,doi: 10.1016/S2666-5247(21)00025-2. Goel, R. R., etal. Cell, 2022, Apr 7 (online), https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.04.009
特許文献1に記載の発明は、検体中の中和抗体の存在を検出することができるが、定量的なアッセイ方法ではない。そのため、感染リスク、重症化リスクを判定することができない。SARS-CoV-2に対する感染リスクを評価するためには、定量的に中和活性測定を行う必要がある。中和活性の測定は、通常プラーク減少中和試験(PRNT)によって行われる。PRNTは、血清試料とウイルス懸濁液を混合し、血清試料中の抗体とウイルスを反応させた後に、宿主細胞に感染させ、感染細胞でウイルスが増殖することによって生じるプラーク数を測定するものである。この方法は、宿主細胞でウイルスを増殖させることにより中和活性を測定するため、バイオセーフティレベル3(BSL3)実験室で行う必要があり、測定できる施設が限られているだけではなく、感染のリスクを伴い、煩雑であり、時間のかかる測定法である。そのため、現在、抗体量を測定するために実施されているのはIgG抗体定量検査である。この検査はスパイクタンパク質に反応する抗体量を測定する試験である。IgG量と中和活性の間には一定の相関は認められるが、抗体の中にはスパイクタンパク質に結合するものの、スパイクタンパク質とACE2との結合を阻害しないものも含まれていることから、正確に中和活性、すなわち感染に対する抵抗性を反映する方法ではない。SARS-CoV-2に対する抵抗力の強さ、感染リスクや重症化リスクの軽減を判定するためには、中和活性を測定する必要がある。本発明は、SARS-CoV-2中和活性測定を短時間で簡便に測定する方法及びキットを提供することを課題とする。
本発明は、以下のSARS-CoV-2スパイクタンパク質とそのACE2との結合阻害を評価する方法、及びキットに関する。
(1)SARS-CoV-2スパイクタンパク質とその受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との結合阻害評価方法であって、スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)又はACE2を固相化したプレートに、検体と、標識化したACE2又は標識化したスパイクタンパク質RBDを添加し、標識化したタンパク質の結合を測定することによって、結合阻害を評価する方法。
検体に含まれるSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する抗体のうち、ACE2との結合を阻害する抗体量を測定することによって、検体中の中和抗体量を評価することができる。これにより、SARS-CoV-2に対する抵抗力の強さ、感染リスクや重症化リスクの軽減を判定することができる。
(2)標準抗体によって検量線を求め、結合阻害を評価する(1)記載の結合阻害評価方法。
(3)標準抗体として11-4.1抗体を使用することを特徴とする(2)記載の結合阻害評価方法。
検量線を使用することにより、結合阻害を正確に評価することができる。特に、種々の変異型に対しても反応性の高い11-4.1抗体を使用することにより、正確に評価を行うことができる。結合阻害率75%をカットオフ値と設定することにより、95%以上の確率でウイルス量を50%以下に減少させる中和活性を有すると考えられることから、ワクチン接種のタイミング等の判断を行うことが可能となる。
(4)SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合阻害を評価するためのキットであって、スパイクタンパク質RBD又はACE2を固相化したプレートと、標識化したACE2又は標識化したスパイクタンパク質RBDと、標識を測定するための試薬を含むことを特徴とする評価キット。
評価キットとすることにより、簡便に検体中の中和抗体量を測定することができる。
(5)さらに標準抗体を含むことを特徴とする(4)記載の評価キット。
(6)前記標準抗体として11-4.1抗体を含むことを特徴とする(5)記載の評価キット。
また、標準抗体を含むことにより、中和抗体量を測定することができる。
(7)ワクチン接種時期の判定方法であって、(3)に記載の評価方法によって結合阻害を評価し、11-4.1抗体を標準抗体として結合阻害率を求め、結合阻害率が75%未満である場合には、ワクチン接種が推奨されると判定することを特徴とするワクチン接種時期の判定方法。
本評価方法を用いることによって、ワクチン接種時期や感染リスクを個人レベルで判断することができるようになる。
(8)SARS-CoV-2感染治療薬のスクリーニング方法であって、(4)記載のキットを用い、候補化合物の結合阻害率を測定し、結合阻害率を指標として候補化合物を選択することを特徴とする治療薬のスクリーニング方法。
本評価方法は、化合物によるSARS-CoV-2スパイクタンパク質RBDとACE2との結合阻害も測定できることから、治療薬のスクリーニングにも用いることができる。
中和抗体測定の概念図。 測定方法のフローを示す図。 得られたモノクローナル抗体によるスパイクタンパク質とACE2との結合阻害率を示す図。 7-2.1、11-4.1抗体の変異株に対する認識能を免疫沈降により解析した結果を示す図。 11-4.1抗体のスパイクタンパク質とACE2との結合阻害率を示す図。 抗体価と結合阻害率の比較検討結果を示す図。(A)は抗体価に対する結合阻害率を、(B)は抗体価、(C)は結合阻害率を測定するためのELISAの結果を示す図。
本発明の中和活性測定方法は、現在行われているSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するIgG量の測定と比較して、正確に中和活性を測定することができる。さらに、プラーク減少中和試験(PRNT)に比べて、ウイルス感染のリスクがなく、短時間で簡便に中和活性を評価することができる。したがって、個人個人のウイルス感染のリスク評価やワクチン接種の必要性を判定するためには非常に有用な方法である。また、本方法は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2の結合を阻害する物質を検出することができるため、抗体に限らず低分子化合物をスクリーニングすることもできる。すなわち、SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2の結合を阻害することを作用機序とする治療薬のスクリーニングにも使用することができる。
本明細書において「キット」とは、以下の実施例で示す中和活性を評価する目的のために、必要な試薬、器具などを構成要素とするパッケージングされた組み合わせをいう。例えば、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain:RBD)が固相化された96ウェルプレート、標識化されたACE2タンパク質溶液、さらに標識を検出する試薬を含む。また、検量線を求めるための標準抗体を含む構成とすることができる。あるいは、ACE2タンパク質を固相化した場合には、標識化されたスパイクタンパク質RBDの溶液、さらに標識を検出する試薬を含み、検量線を求めるための標準抗体を含む構成とすることもできる。また、血液サンプルを用いて対象の中和活性を調べる場合には、血液を採取し、血清を分離するための注射器、遠心管等を含むこともできる。
また、以下に示すように、本発明では検量線を得て、検体中の中和抗体量を定量するために標準抗体を用いるが、本発明の抗体とは、元の抗体と実質的に同じ抗原特異性を示す当該抗体の機能的断片をも含むものとする。抗体の機能的断片には、Fab、Fab’、F(ab’)、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、低分子化抗体(Fv-clasp)もしくはCDRを含むペプチドなど抗体がその機能を発揮するために必要な配列を備えた領域をいう。
上述のように、SARS-CoV-2は、ウイルス粒子表面のスパイクタンパク質がヒ卜細胞表面のACE2をウイルス受容体として結合することが契機となって細胞内に侵入する。中和抗体とは、スパイクタンパク質に対する抗体であって、ACE2との結合を阻害することができる抗体のことである。
中和抗体測定の概念図を図1に示す。スパイクタンパク質のRBDを固相化し、検体である血清と標識を付けたACE2を結合させる。検体中に中和抗体がない場合には、ACE2はRBDに結合することができる。一方、検体中に中和抗体が存在する場合には、ACE2は結合することができない。ACE2の結合は、標識により測定すればよい。このとき、検量線を用いれば、検体中に含まれている中和抗体の量を定量することが可能となる。ここでは、RBDを固相化し、標識したACE2を用いた測定法を示しているが、ACE2を固相化し、標識したRBDを用いた測定法としてもよい。また、検体としては、血清ではなく血漿を用いてもよい。さらに、SARS-CoV-2のACE2への結合阻害薬をスクリーニングする際には、検体の代わりに化合物溶液を試料として用いることもできる。
また、ここではEnzyme-linked immuno-sorbent assay(ELISA)による測定方法を例示しているが、ELISAに限らず、Electro chemiluminescence immunoassay(ECLIA)、Ridioimmunoassay(RIA)及びChemiluminescent immunoassay(CLIA)等、当該分野で用いられている測定方法を使用できることは言うまでもない。以下実施例を示しながら、本発明について説明する。
[RBDの作製]
SARS-CoV-2スパイクタンパク質(UniProt P0DTC2、配列番号1)のRBD(319-589位、271アミノ酸)に自身の分泌シグナルを付加し、C末端にG196タグ配列(DLVPR、配列番号2)およびHis配列(HHHHHH、配列番号3)を融合した人工タンパク質をコードする人工遺伝子を合成し、発現ベクターに組込み、動物細胞(HEK293細胞)を用いて分泌タンパク質として発現させ、Ni-NTAアガロース(QIAGEN)を用いて精製した。なお、タンパク質発現のための遺伝子組換え実験、また、以下に示す抗体の作製に関しては、島根大学に申請し、必要な承認を受けて施行した。
精製したRBDタンパク質は、常法により固相化してELISAに用いた。具体的には、RBDタンパク質を1ng/μLになるようにコーティングバッファー(2mM NaHCO重水溶液)に溶解し、96ウェルプレート(CORNING)に100μLずつ加え、シールをして4℃で一晩静置した。デカントにより溶液を除去し、ブロッキングバッファー(1%BSA/2.5%スクロース/PBS)を100μLずつ加え、シールをして25℃で1時間静置した。その後、デカントで溶液を除去し、デシケータ内で3日間乾燥させ、シリカゲルを入れたアルミ袋に封入し、使用するまで4℃で保存した。なお、ここでは従来型(武漢型)や重症化リスクの高いデルタ型ウイルスのRBDタンパク質を用いているが、特定の変異株を固相化すれば、変異株に対する中和活性の測定を行うことができる。
[HRP標識ACE2の作製]
ヒトACE2(UniProt Q9BYF1、配列番号4)のSARS-CoV-2スパイクタンパク質への結合部位(18-740、723アミノ酸、)に、ヒトACE2自身の分泌シグナル(配列番号5)を付加したタンパク質をコードする人工遺伝子(配列番号6)を作製し、発現ベクターpMabProtein(mAbProtein)に組込み、動物細胞(HEK293細胞)を用いて分泌タンパク質として発現させた。Qセファロース(Cytiva)にloadingし、Wash Buffer(20mM Tris pH8.0、50mM NaCl)で洗浄後、溶出バッファー(20mM Tris pH8.0、1000mM NaCl)との linear gradientで、300-500mM画分を分取した。PBS透析後、フィルター滅菌した(以下、精製タンパク質)。精製タンパク質の純度は、SDS-PAGE後のクマシー染色により、98%以上であることを確認した。タンパク質濃度は、Bradford法を用いて算出した。精製タンパク質は、HRP標識キット(株式会社同仁化学研究所、Peroxidase Labeling Kit-NH2 HRPラベル)を用いて説明書通りにHRP標識した。HRP標識したACE2タンパク質は4℃で保存する。
[測定方法]
測定は以下のように行う(図2)。標準抗体(後述)は段階希釈し、検体は洗浄溶液(0.1%BSA/0.1%Tween20/PBS(-))で10倍希釈する。なお、血液サンプルを試料として用いる場合には、抗凝固剤なしで採血後、遠心分離し血清を採取し、57℃で30分非働化することによりウイルスを不活性化し、これを10倍希釈して用いればよい。標準抗体、又は検体をRBDタンパク質固相化プレートに100μLずつ添加し、25℃で1時間静置する(工程1)。
次に、溶液をデカントで除去し、300μLの洗浄溶液を添加し、デカントで溶液を除く。この作業を3回繰り返して洗浄を行う(工程2)。HRP標識ACE2-溶液(10ng/μL)を洗浄溶液で300倍に希釈し、各ウェルに100μL添加し、25℃で1時間静置する(工程3)。溶液をデカントで除去し、300μLの洗浄溶液を添加し、デカントで溶液を除く。この作業を3回繰り返して洗浄を行う(工程4)。発色液(TMB One Solution、Promega)を100μL添加し、遮光して25℃で5~10分静置する(工程5)。反応停止液(2N HSO)を100μL添加し(工程6)、プレートリーダーにて450nm/620nmの波長で測定する(工程7)。
ウェルの均一性やキズなどのバックグラウンドの影響を排除するために、副波長として620nmの吸光度も求め、450nmの吸光度との差を「真の吸光度」として測定に用いる。また、サンプルの吸光度は、二重測定を行って、平均値を求めることが好ましい。三重測定であれば、他の2つからかけ離れている測定値は棄却することができるのでより好ましい。さらに、棄却検定を行い得る場合には、棄却検定を行うことが好ましい。
[データ解析]
データ解析は以下の方法で行うことができる。
(1)簡易法
1.各サンプルと標準抗体の二重測定における「450nm」の平均吸光度(OD)を決定する。サンプルの二重測定(the replicate sample)の平均ODを以降の計算に使用する。
2.各サンプルと標準抗体のOD値から「620nm」のOD値を差し引く。
3.各サンプルのデータを、標準抗体が添加されていない「0nM」陽性コントロールのデータと比較する。
4.結合阻害率(the percent binding inhibition、%BI)を以下の式により計算する。
三重測定、棄却検定を行う場合は、適宜適切な値を用いて結合阻害率を算出する。
[式1]
Figure 0007235365000002
(2)詳細法
ウイルス中和活性を有する標準抗体の段階希釈を検量線として、Prism(GraphPad Software)などの解析ソフトを用いて、定量化することができる。
[検量線に用いる抗体の検討]
(1)検量線に用いる標準抗体の選択
標準抗体として用いることのできる中和活性の高い抗体を選択するために検討を行った。本発明者らは、スパイクタンパク質をマウスに免疫し、モノクローナル抗体を得て、その立体構造を認識し捕捉できる抗体を免疫沈降法により更に選別し、多数の抗体を得ている。そこで、これらモノクローナル抗体を用いて、スパイクタンパク質とACE2との結合阻害率を測定した。
従来株(武漢型)RBDタンパク質を固相化したプレートを用いて、14種類の抗スパイクタンパク質モノクローナル抗体(667nM)による、スパイクタンパク質とACE2との結合阻害率を測定した(図3)。14種類の抗体のうち、8-5.1抗体はベータ株スパイクタンパク質RBD(配列番号7)、6-22.2抗体はガンマ株スパイクタンパク質RBD(配列番号8)に対して、他のモノクローナル抗体は従来株のスパイクタンパク質(配列番号1)RBDに対して作製したモノクローナル抗体である。
図3に示すように、11-4.1及び7-2.1抗体がスパイクタンパク質(従来型)とACE2との結合を90%程度阻害した。1-9.2と10-7.2抗体は25%程度阻害したが、4-8.2と10-5.1抗体はほぼ阻害しなかった。1-9.2、4-8.2、10-7.2、10-5.1、11-4.1、7-2.1抗体は、Vero細胞へのウイルス(従来型)感染阻害能力を有することは確認している。本測定により、抗体機能の特徴付けができることが判明した。すなわち、各抗体において、Vero細胞へのウイルス感染阻害能力と抗体の中和活性を測定することにより、抗体の個々の性質を明らかにすることができる。血清中の抗体はこのようなモノクローナル抗体の集合体であるポリクローナル抗体である。すなわち、RBDを認識する抗体がすべて中和活性を有している訳ではないことを示している。また、感染阻害能力と中和活性は必ずしも一致しないものの、中和活性の高い抗体は、ウイルスの受容体への結合を阻害することから、感染を阻止することが可能である。したがって、中和活性を評価することにより、ウイルス増殖の影響を受けることなく、感染リスク、重症化リスクを評価することができる。
中和活性の強さから、11-4.1及び7-2.1抗体は、検量線に用いる標準抗体の候補となり得る。しかし、SARS-CoV-2は多くの変異株が確認されていることから、従来型のウイルスだけではなく、変異株に対しても結合し、中和活性を示すものであることが必要である。そこで、従来型(野生型)及び変異株に対する反応性を免疫沈降により検討を行った(図4)。
7-2.1は、従来株(武漢株)のスパイクタンパク質しか認識できないのに対し、11-4.1は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、ラムダ、ミューと多様な変異株のスパイクタンパク質を認識できる抗体であることが明らかとなった。特に、従来株よりも感染能力、重症化率の高いデルタ株も認識できることから、11-4.1を検量線に用いる標準抗体の候補として選択した。なお、NL63は風邪の原因となるコロナウイルスである。
(2)11-4.1抗体を用いた検討
デルタ型のRBDを固相化したプレートを用いて、11-4.1抗体の段階希釈によるスパイクタンパク質とACE2との結合阻害率を検討した(図5)。667nMから段階3倍希釈を行い、11-4.1抗体によるスパイクタンパク質(デルタ型)とACE2との結合阻害率を測定した。11-4.1抗体は、スパイクタンパク質とACE2との結合を濃度依存的に阻害した。IC50は7.0nMと極めて低値であった。つまり、11-4.1抗体はスパイクタンパク質とACE2との結合を効率よく阻害することが判明した。この結果から、11-4.1を、検量線に用いる標準抗体に決定した。
11-4.1を標準抗体として使用するにあたり、遺伝子解析の結果を以下に示す。ハイブリドーマ11-4.1からRNAを抽出後、oligo-dTプライマーを用いて逆転写しcDNAを作成した。合成したcDNAを、H鎖及びL鎖のプライマーセットを用いて、ダイレクトシークエンス法により超可変領域の抗体遺伝子の配列、及びアミノ酸配列を決定した。用いたプライマー配列は以下のとおりである。なお、下線部は制限酵素の認識サイトを示す。
H鎖プライマー
VH1-1S:5′-ggggatcc ag gts mar ctg cag sag tcw gg-3′(配列番号9)
s=g+c、m=a+c、r=a+g、w=a+t
IgG2-1AS:5’-gggaattc ctt gac cag gca tcc tag agt ca-3’(配列番号10)
L鎖プライマー
VK-1S:5′-ggggatcc gay att gtg mts acm car wct mca -3(配列番号11)
y=c+t、m=a+c、s=g+c、r=a+g、w=a+t
CK-2AS:5’-gggaattc gaa gat gga tac agt tgg tgc-3’(配列番号12)
ハイブリドーマ11-4.1抗体のH鎖のアミノ酸配列(配列番号13)、塩基配列(配列番号14)、L鎖のアミノ酸配列(配列番号15)、塩基配列(配列番号16)を決定した。また、CDRの配列は以下の表のとおりである。
Figure 0007235365000003
Figure 0007235365000004
[ワクチン接種後血清を用いた抗体価と結合阻害率の検討]
健常人ボランティアのワクチン接種後(3回接種)の血清について、ARCHITECT SARS-CoV-2 IgG II Quant (アボット社)を用いて抗体価を測定するとともに、本法により結合阻害率を測定し、比較検討した。
スパイクタンパク質に対する抗体価と、ウイルスを使った中和抗体の力価を定量する一般的な方法であるプラーク減少中和試験(PRNT50)と比較して、抗体価が4,160AU/mL以上であれば、95%以上の確率でウイルス量を50%まで減少させると言われている。結合阻害率75%をカットオフ値と設定すると、すべての抗体価が4,160AU/mL以上であった。したがって、結合阻害率のカットオフ値を75%とした。
さらに24症例を追加検討した結果を図6に示す。抗体価が80,000AU/mLを超えた2例は、図6からは削除している。図6(A)は横軸が抗体価、縦軸が本法で測定した結合阻害率を示す。また、図6(B)は抗体価の測定結果、図6(C)は本法により測定結果を示している。図6(A)に示すように、結合阻害率が100%となった5検体を除き、抗体価と結合阻害率を比較したところ、有意差を持って相関していた。
抗体価が4,160AU/mL以上である17例中結合阻害率陽性(75%以上のもの)が14例で、結合阻害率陰性(75%未満の症例)が3例存在した。この3例に関しては、抗体価は高いものの、阻害活性の高い中和抗体以外の抗体量が多いと考えられ、感染リスクは高いものと考えられる。抗体価が4,160AU/mL未満であった7例中結合阻害率陽性(75%以上のもの)はなく、7例すべて結合阻害率陰性(75%未満の症例)であった。
以上示してきたように、本発明の測定方法によれば、簡便にかつ正確に中和抗体を評価することができる。実施例で示したように抗体価は中和抗体量と一定の相関はあるものの、抗体価は高くても、中和活性が低い検体も存在したことは、本評価方法がより正確に感染リスク、重症化リスクを評価できることを示している。
なお、上記の臨床研究は倫理委員会に申請し、必要な承認を受けて施行した。

Claims (4)

  1. SARS-CoV-2スパイクタンパク質とその受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との結合阻害評価方法であって、
    SARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)又はACE2を固相化したプレートに、
    検体と、
    スパイクタンパク質RBDを固相化したプレートを用いる場合には標識化したACE2を、
    ACE2を固相化したプレートを用いる場合には標識化したスパイクタンパク質RBDを添加し、
    標識化したタンパク質の結合を測定
    標準抗体としてH鎖可変ドメインがアミノ酸配列GYTFTSYW(配列番号17)からなるCDRH1領域、IDPFDDYT(配列番号18)からなるCDRH2領域、ARGGNYLTSYYYAMDY(配列番号19)からなるCDRH3領域を含み、L鎖可変ドメインがアミノ酸配列SSVSY(配列番号20)からなるCDRL1領域、DTSからなるCDRL2領域、FQGSGYHMFT(配列番号21)からなるCDRL3領域を含む11-4.1抗体を使用し検量線を求め、
    結合阻害を評価する方法。
  2. SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合阻害を評価するためのキットであって、
    SARS-CoV-2スパイクタンパク質RBD又はACE2を固相化したプレートと、
    SARS-CoV-2スパイクタンパク質RBDを固相化したプレートの場合には標識化したACE2を、
    ACE2を固相化したプレートの場合には標識化したスパイクタンパク質RBDを含み、
    標識を測定するための試薬と、
    標準抗体としてH鎖可変ドメインがアミノ酸配列GYTFTSYW(配列番号17)からなるCDRH1領域、IDPFDDYT(配列番号18)からなるCDRH2領域、ARGGNYLTSYYYAMDY(配列番号19)からなるCDRH3領域を含み、L鎖可変ドメインがアミノ酸配列SSVSY(配列番号20)からなるCDRL1領域、DTSからなるCDRL2領域、FQGSGYHMFT(配列番号21)からなるCDRL3領域を含む11-4.1抗体を含むことを特徴とする評価キット。
  3. ワクチン接種時期の判定を補助する方法であって、
    請求項1に記載の評価方法によって対象から得られた検体の結合阻害を評価し、
    11-4.1抗体を標準抗体として結合阻害率を求め、
    検体による結合阻害率が75%未満であることが、対象のワクチン接種が推奨されることを示す、
    ワクチン接種時期の判定を補助する方法。
  4. SARS-CoV-2感染治療薬のスクリーニング方法であって、
    請求項2記載のキットを用い、
    候補化合物の結合阻害率を測定し、
    結合阻害率を指標として候補化合物を選択することを特徴とする治療薬のスクリーニング方法。
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