以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の実施形態による多芯式筆記具1の斜視図である。また、図2は、多芯式筆記具1の非筆記状態の縦断面図であり、図3は、多芯式筆記具1の筆記状態の縦断面図であり、図4は、多芯式筆記具1の筆記状態においてリフィルの切り替え中の縦断面図であり、図5は、多芯式筆記具1の筆記状態においてリフィルの切り替え後の筆記状態の縦断面図である。
多芯式筆記具1は、筒状に形成された筒状部材である軸筒2を有している。軸筒2は、前軸3と、中軸4と、後軸10とからなる。また、軸筒2内には、一端に筆記部5aを備えた筆記体として複数のリフィル5、具体的には2つのリフィル5が配置されている。2つのリフィル5は、各々を区別する場合はリフィル5A及びリフィル5Bという。2つのリフィル5の各々は、弾性部材として対応するスプリング6によって独立的に後方に付勢されている。多芯式筆記具1は、第1操作部である操作部材20と、回転部材30と、スライドカム40と、第2操作部であるノック部材50と、回転子60と、摺動コマ70とをさらに有している。本明細書中では、多芯式筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、筆記部5aとは反対側を「後」側と規定する。特に言及のない限り、中心軸線又は軸線方向とは多芯式筆記具1の中心軸線又は軸線方向をいう。
多芯式筆記具1は、ノック部材50を前方に押圧するノック操作によって、リフィル5が軸筒2に対して出没するノック式筆記具である。すなわち、ノック部材50を前方に押圧するノック操作によって、相対的に前進しているリフィル5、具体的には図2におけるリフィル5Aが軸筒2の端面に対して出没する。
一般にノック式筆記具は、回転子を有している。回転子の外周面には突起状のカム部が設けられており、軸筒の内周面には回転子のカム部と協働する突起状のカム部が設けられている。ノック操作によって、回転子のカム部と軸筒のカム部とが係止又は係止解除をすることによって、筆記状態と非筆記状態とが切り替えられる。
本実施形態では、軸筒2の後軸10の後端部の内周面に、後述するカム部11が形成されている。ノック操作は、ノック部材50を前方に向かって押圧し、ノック部材50と共に回転子60を軸筒2内において所定位置まで前方に移動させることによって行われる。すなわち、回転子60のカム部(図示せず。)と軸筒2のカム部11とが係止するためには、回転子60のカム部の後端面が、少なくとも軸筒2のカム部11の前端面よりも軸線方向の前方に配置される所定位置まで、回転子60を移動させる。回転子60を所定位置まで移動させた後、ノック部材50に加えている力を解放すると、スプリング6の付勢力によって回転子60が回転しながら僅かばかり後退して、回転子60のカム部の後端面と軸筒2のカム部11の前端面とが係止し、多芯式筆記具1は筆記状態となる(図3)。
筆記状態において、ノック操作によってノック部材50を前方に向かって押圧し、回転子60を再び所定位置まで前方に移動させると、回転子60のカム部の後端面と軸筒2のカム部11の前端面との係止が解除され、回転子60が回転する。その後、ノック部材50に加えている力を解放すると、スプリング6の付勢力によって回転子60がより後方へ移動し、多芯式筆記具1は再び非筆記状態となる(図2)。
図6乃至図11を適宜参照しながら、主要な部品の構成について説明する。
図6は、後軸10の縦断面図である。後軸10は、多芯式筆記具1の組み立て状態では、図6において上方が多芯式筆記具1の後側となるように配置される。後軸10は、筒状に形成された筒状部材である。後軸10の前端面には矩形の凹凸が形成されている。後軸10の前端面の凹凸は、中軸4の後端面に相補的に形成された凹凸(図1)と嵌合し、接合される。後軸10の後端部の内周面には、カム部11が形成されている。カム部11は、軸線方向に延びる複数の突起12からなり、上述したように、ノック操作の際に回転子60のカム部と係止又は係止解除する。後軸10の内周面には、前端から後方に向かって延び且つ対向して配置された2つのスライド溝13が形成されている。後軸10の前端部よりも後方の内周面は、前端部の内周面よりも小径に形成され、前方に面した環状の第1段部14が形成されている。また、カム部11の前方の内周面には、前方に面した環状の第2段部15が形成されている。後軸10の周面には、軸線方向に沿って、前側に配置された第1貫通孔16aと、後側に配置された第2貫通孔16bが形成されている。
図7は、操作部材20の斜視図であり、図8は、操作部材20の側面図である。操作部材20は、多芯式筆記具1の組み立て状態では、図7及び図8において上方が多芯式筆記具1の後側となるように配置される。操作部材20は、筒状に形成された筒状部材である。操作部材20の前端部の外周面には操作突起21が形成されている。操作部材20の周方向において操作突起21の両側には、前端から後方に向かって平行に延びる2つのスリット22が形成されている。操作部材20の周面には、カム溝23が中心軸線回りに螺旋状に形成されている。螺旋状のカム溝23は、操作部材20を後方から見て、後端部近傍から前方に向かって時計回りに略半回転分だけ形成されている。操作部材20の周面には、後端から前方に向かって延びる1つのスリット24が形成されている。
図9は、回転部材30の斜視図であり、図10は、回転部材30の縦断面図である。回転部材30は、多芯式筆記具1の組み立て状態では、図9及び図10において上方が多芯式筆記具1の後側となるように配置される。回転部材30は、前側に位置する円筒状の小径部31と、小径部31の後方に形成された円筒状の大径部32と、大径部32の後方に形成された円柱状の摺動部33とからなる。小径部31の外周面には、1つのカム突起34が形成されている。カム突起34の横断面形状は、楕円又は角丸長方形である。カム突起34は、後述するように配置されるカム溝23の延在方向に沿うように配向される。カム突起34は円形であってもよい。大径部32及び摺動部33の内部は、2つのリフィル5の各々を離間して配置するため、軸線方向に延びる隔壁35によって等しく隔てられている。また、大径部32の内部には、隔壁35を挟んだ対称位置に、軸線方向に延びる2つの挿入孔36が形成されている。挿入孔36の各々の内周面には、後方に面した支持面37が形成されている。摺動部33の周面には、軸線方向に延びる矩形の貫通孔である2つのレール溝38が、隔壁35を挟んだ対称位置に形成されている。
図11は、スライドカム40の斜視図であり、図12は、スライドカム40の縦断面図である。スライドカム40は、多芯式筆記具1の組み立て状態では、図11において上方が多芯式筆記具1の後側となるように配置される。スライドカム40は、中心軸線回りに環状に形成された環状部41と、爪形状の爪部42とを有している。爪部42の縁部には、平坦に形成された平坦面43と、斜めに形成された斜端面44とが形成されている。爪部42の平坦面43及び斜端面44並びに環状部41の前端面45は、カム面46を構成する。環状部41の外周面には、軸線方向に延びる2つのスライド突起47が形成されている。2つのスライド突起47は、中心軸線回りに対称的に形成されている。環状部41の後端部近傍の内周面は環状に突出しており、それによって後方に面した環状の支持面48が形成されている。
次に、主に図1乃至図5を参照しながら、多芯式筆記具1における各部品の組み合わせ及び配置について説明する。
中軸4の前端部には、前軸3が嵌合している。回転部材30は、小径部31の前端面が前軸3の後端面に対向し、回転部材30の大径部32の後端面が後軸10の第1段部14に対向するように、軸筒2内に配置されている。それによって、回転部材30は、軸線方向の移動が規制されつつ、中心軸線回りに回転できるように軸筒2内に配置される。前軸3の後部は、回転部材30の小径部32と略同一の外径及び内径を有する円筒状に形成されている。操作部材20は、前軸3の後部の外面及び回転部材30の小径部32の外面の両方に亘って配置されている。このとき、回転部材30のカム突起34が、操作部材20のカム溝23内に配置されている。また、操作部材20の操作突起21は、中軸4の周面に形成された窓孔4aを介して軸筒2の外部へ突出している。窓孔4aは、軸線方向に延びる矩形の貫通孔である。操作突起21が窓孔4aの内縁に当接することによって、操作部材20の前後動を所定距離の範囲内に規制し、且つ、操作部材20の中心軸線回りの回転を規制している。なお、操作部材20を軸筒2内に配置の際には、操作部材20にスリット22及びスリット24が形成されていることによって、径方向の弾性変形が可能となり、容易に配置することができる。
2つのリフィル5の各々は、回転部材30の対応する挿入孔36に挿入され、隔壁35によって隔てられている。リフィル5の後端部には摺動コマ70が挿入され、摺動コマ70は、嵌合によってリフィル5に対して接続されている。リフィル5に接続された摺動コマ70は、回転部材30のレール溝38に嵌合し、脱落することなく軸線方向に摺動可能に配置されている。回転部材30の摺動部33の後端部は、スライドカム40の前部に受容されている。スライドカム40のスライド突起47の各々は、後軸10の対応するスライド溝13内に配置される。それによって、スライドカム40は、中心軸線回りに回転することなく軸線方向にスライド可能に配置されている。
スプリング6は、回転部材30の挿入孔36内に配置されている。このとき、スプリング6の前端は回転部材30の支持面37によって支持され、スプリング6の後端は摺動コマ70と当接している。その結果、スプリング6は、摺動コマ70を後方に付勢し、ひいては摺動コマ70に接続されたリフィル5を後方に付勢している。また、摺動コマ70の後端部は、スライドカム40のカム面46に当接している。したがって、スプリング6は、摺動コマ70を介してスライドカム40も後方に付勢している。多芯式筆記具1の非筆記状態(図2)において、後方に付勢されたスライドカム40の後方への移動は、スライドカム40の支持面48が回転子60の前端面と当接することによって、又は、スライドカム40の後端面が後軸10の第2段部15と当接することによって、規制される。また、多芯式筆記具1の筆記状態(図3)において、後方に付勢されたスライドカム40の後方への移動は、スライドカム40の支持面48が回転子60の前端面と当接することによって、規制される。
次に、多芯式筆記具1の動作について説明する。
多芯式筆記具1では、上述したように、第1操作部である操作部材20、具体的には操作突起21が軸筒2に対して前後方向に移動可能に設けられている。多芯式筆記具1は、操作部材20の前後動に応じて操作部材20と回転部材30とが協働して回転部材30を回転させることによって、複数のリフィル5のうちの1つが前進するように構成されている。すなわち、操作部材20の前後動が、回転部材30の回転運動に変換され、回転部材30の回転運動が、リフィル5の前後動に変換される。
図2及び図3に示された状態では、リフィル5Aがリフィル5Bよりも前進した位置にある。すなわち、リフィル5Aが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において爪部42の平坦面43に配置されている。他方、リフィル5Bが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において環状部41の前端面45に配置されている。したがって、リフィル5Aは、リフィル5Bよりも相対的に前進している。そのため、図2に示された非筆記状態において、第2操作部であるノック部材50をノック操作すると、回転子60及びスライドカム40と共に、リフィル5A及びリフィル5Bが前進する。その結果、相対的に前進したリフィル5Aのみが軸筒2から突出し、筆記状態となる(図3)。なお、ノック操作によって、操作部材20及び回転部材30が軸線方向に移動することはない。
図3に示された状態では、操作部材20の操作突起21は窓孔4a内の前端に配置され、且つ、回転部材30のカム突起34は操作部材20のカム溝23内の後端に配置されている。この状態で、操作部材20の操作突起21を後方へ移動させると、カム突起34が、カム溝23の螺旋軌道に沿って相対的に前方へ移動する。それによって回転部材30が中心軸線回りに回転する(図4)。このとき、リフィル5及び摺動コマ70は、スプリング6によって後方に付勢されながら、回転部材30と共に中心軸線回りに回転する。その結果、摺動コマ70の各々は、スライドカム40のカム面46に沿って周方向に移動する。したがって、リフィル5Aが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において爪部42の平坦面43から斜端面44に沿って環状部41の前端面45に向かって移動する。他方、リフィル5Bが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において環状部41の前端面45から斜端面44に沿って爪部42の平坦面43に向かって移動する。
操作部材20の操作突起21を窓孔4a内の後端に至るまでさらに後方へ移動させると、回転部材30のカム突起34は操作部材20のカム溝23内の前端に達する。それによって、回転部材30の中心軸線回りの回転、具体的には180度の回転が完了する。すなわち、リフィル5Aが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において環状部41の前端面45に配置される。他方、リフィル5Bが接続された摺動コマ70は、スライドカム40のカム面46において爪部42の平坦面43に配置される。したがって、リフィル5Bは、リフィル5Aよりも相対的に前進して軸筒2から突出し、筆記状態となる(図5)。
図5に示された状態において、再びリフィル5Aで筆記する場合には、操作部材20の操作突起21を前方へ移動させる。操作突起21を後方への移動によって、カム突起34が、カム溝23の螺旋軌道に沿って相対的に後方へ移動する。それによって回転部材30が中心軸線回りに、先ほどとは逆方向に回転する(図4)。その結果、リフィル5Aが、リフィル5Bよりも相対的に前進して軸筒2から突出し、筆記状態となる(図3)。なお、図3乃至図5を参照しながら、多芯式筆記具1の筆記状態におけるリフィル5の切り替えを説明したが、多芯式筆記具1の非筆記状態においても、リフィル5の切り替えを同様に行うこともできる。
次に、使用者による多芯式筆記具1の操作について、具体的な説明する。使用者は通常、多芯式筆記具1の中軸4を、親指、人差し指及び中指で把持し、筆記する。このとき、多芯式筆記具1は、操作部材20の操作突起21が親指と人差し指との間に配置されるように、把持される。リフィルの切り替えを行う場合には、人差し指及び中指で多芯式筆記具1を支持しながら、親指を用いて操作突起21を前方又は後方にスライド操作又はフリック操作する。その後、再び親指を元の位置に戻して多芯式筆記具1を把持することによって、筆記を行うことができる。
したがって、多芯式筆記具1によれば、筆記するリフィルを簡単に切り替えることができる。親指での操作を行いやすいように、特に、第1操作部、すなわち操作部材20又は操作突起21が軸筒2の前半分に配置されていることが好ましい。また、多芯式筆記具1によれば、筆記時において筆記を中断して軸筒2を持ち替えることなく、筆記するリフィルを切り替えることができる。さらに、使用者は、操作突起21の窓孔4a内における位置を、見ることによって又は触ることによって、リフィル5A及びリフィル5Bのいずれが前進した位置にあるか容易に判別することができる。
なお、使用者は、後軸10に形成された第1貫通孔16a及び第2貫通孔16bを介して軸筒2の内部を確認することによって、リフィル5A及びリフィル5Bのいずれが前進した位置にあるか判別することができる。そのためには、接続されたリフィル5に収容されたインクと同色で着色された摺動コマ70を使用する。例えば、図2に示された状態では、第1貫通孔16a及び第2貫通孔16bを介してリフィル5Aの摺動コマ70が視認可能である。したがって、使用者は、この状態でノック操作を行うと、リフィル5Aが軸筒2から突出することを判別することができる。また、図3に示された筆記状態では、第1貫通孔16aからのみリフィル5Aの摺動コマ70が視認可能である。したがって、使用者は、リフィル5Aが軸筒2から突出していることを判別することができる。他方、図5に示された状態では、第1貫通孔16aからのみリフィル5Bの摺動コマ70が視認可能である。したがって、使用者は、リフィル5Bが軸筒2から突出していることを判別することができる。
上述した実施形態では、多芯式筆記具1は、ノック式筆記具であったが、ノック操作をすることなく、軸筒2から突出するリフィル5の切り替えを行うことができる筆記具として構成してもよい。すなわち、多芯式筆記具1においてノック部材50及び回転子60を排除し、図3乃至図5に示された位置でスライドカム40を固定するように構成する。この場合、スライドカム40を軸筒2と一体的に形成してもよい。このように構成した多芯式筆記具において、図4に示されるように、操作突起21を窓孔4aの前後方向における中間位置に配置すると、多芯式筆記具を非筆記状態とすることができる。多芯式筆記具は、この状態から、操作突起21を前方へ移動させると、リフィル5Aを軸筒2にから突出させることができ、操作突起21を後方へ移動させると、リフィル5Bを軸筒2にから突出させることができ、多芯式筆記具を筆記状態とすることができる。
また、上述した実施形態では、操作部材20にカム溝23が形成され、回転部材30にカム突起34が形成されていたが、操作部材に径方向内方へ突出するカム突起を形成し、回転部材にカム溝を形成してもよい。すなわち、第1操作部及び回転部材の一方にカム溝が形成され、第1操作部及び回転部材の他方にカム突起が形成され、カム溝とカム突起とが協働することによって第1操作部と回転部材とが協働する限りにおいて、任意の構成を採用し得る。また、カム溝の形状は、第1操作部の前後動が、回転部材の回転運動に変換される限りにおいて、任意の構成を採用し得る。
また、上述した実施形態では、多芯式筆記具1は2つのリフィル5を有していたが、3つ以上のリフィルを有していてもよい。リフィルの数に応じて、回転部材の挿入孔の数や隔壁の形状、スライドカムのカム面の形状を任意に構成し得る。すなわち、スライドカムのカム面は、回転部材の回転に応じて複数のリフィルとカム面とが協働することによって複数のリフィルのうちの1つが前進するように、爪部の位置及び形状を構成することができる。このとき、操作突起の位置及び突出するリフィル、すなわちカム溝におけるカム突起の位置及び突出するリフィルは、対応関係にある。上述した実施形態では、リフィルが2つであったため、操作突起21が窓孔4aにおいて前端及び後端のときに、一方のリフィルが軸筒2から突出するよう構成されていた。例えばリフィルが3つの場合には、操作突起21が窓孔4aにおいて前端、中央及び後端のときに、3つのリフィルのいずれかが突出するように構成することができる。
上述したリフィル5は、ボールペン用リフィルであってもよく、シャープペンシル、マーキングペン、タッチペン、消しゴム又は摩擦体等のその他種類のリフィルであってもよい。また、第1操作部である操作部材20の全体、又は、操作部材20の一部に接着又は二色成形等を施すことによって、操作部材20を、リフィル5による筆跡を消去する消去部材としてもよい。また、第2操作部であるノック部材50の全体、又は、ノック部材50の一部に接着又は二色成形等を施すことによって、ノック部材50を、リフィル5による筆跡を消去する消去部材としてもよい。また、多芯式筆記具1のその他の部位、例えば前軸3の前端を消去部材としてもよい。
リフィルには、熱変色インクを収容したボールペン、熱変色芯を収容したシャープペンシル等を使用することもできる。この場合、多芯式筆記具1は熱変色性筆記具であり、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆跡を熱変色可能である。ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
熱変色性色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、摩擦熱等の熱により変色するもの、例えば、有色から無色、有色から有色、無色から有色などとなる機能を有するものであれば、特に限定されず、種々のものを用いることができ、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という。)用いることができる。
具体的には、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N--メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メトキシ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。
具体的には、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-1,1-ビス( 4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)n-ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、上述したロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
用いることができる変色温度調整剤は、上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
より具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1~100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2~5μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、イソシアネート系樹脂溶液などを徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
これらのロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、当該色素1に対して、質量比で顕色剤0.1~100、変色温度調整剤1~100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1~1である。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度(例えば、0℃以上で発色)、消色温度(例えば、50℃以上で消色)を好適な温度に設定することができ、摩擦熱等の熱により有色から無色となることが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。マイクロカプセル色材の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性、インク中での流動性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制、後述する光変色性マイクロカプセル顔料との相用性などの点から、好ましくは、0.2~5μm、さらに好ましくは、0.3~3μmである。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。
この平均粒子径が0.2μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、5μmを越えると、筆記性の劣化、熱変色性マイクロカプセル顔料の分散安定性の低下、振動によるインクバックが発生しやすくなり好ましくない。さらには90%径が8μm以下、好ましくは6μm以下である。径が大きい粒子が一定割合以上存在すると、上述した影響がより顕著になる傾向がみられる。なお、上述した平均粒子径の範囲(0.2~5μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、0.9~1.3、好ましくは1.0~1.2の範囲である。比重がこの範囲外であると、マイクロカプセル顔料の分散安定性が低下しやすい。また、比重が1.3を超えるマイクロカプセル顔料は、振動によってインクバックが発生しやすい。
筆記具用水性インク組成物において、上記熱変色性マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらのうち、インクバックによる筆記部でのインク固化を抑制する目的として、グリセリンを用いることが好ましく、その添加量はインク全量に対して1~10質量%であることが好ましい。グリセリンによる作用のメカニズムは不明だが、乾燥状態における顔料及びインク成分との凝集力を低下させる効果があるものと推察される。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
これらのうち、多糖類を使用することが好ましい。多糖類はそのレオロジー特性から、振動による流動性への影響を受けにくい傾向があり、インクバックに起因する筆記不良等の不具合が生じにくい。特にキサンタンガムは、筆記具インクに要求されるその他の特性とのバランスに優れており好ましい。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記熱変色性、光変色性マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
筆記具用水性インク組成物の粘度値は、25℃、剪断速度3.83/sにおいて、500~2000mPa・s、剪断速度383/sにおいて20~100mPa・sであることが好ましい。上記粘度範囲に設定することによって、筆記性と経時安定性に優れたインクとすることができる。さらに、S=αDn(但し、1>n>0)(Sは剪断応力(dyn/cm2)、Dは剪断速度(s-1)、αは非ニュートン粘性係数)で示される粘性式で求められる非ニュートン粘性指数nが、0.2~0.6であることが好ましい。上記粘度範囲に加えて非ニュートン粘性指数nを上記範囲とすることで、振動に対するインクの流動性を適切に設定することが可能となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
筆記具用水性インク組成物の表面張力は、25~45mN/m、さらには30~40mN/mであることが好ましい。この範囲内であれば、ペン先内部とインクの濡れ性のバランスが適切となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
リフィル内においては、インクのすぐ後方にインク追従体を配置してもよい。追従体を構成する材料としては、少なくとも、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、増粘剤とにより構成することができる。インク追従体に使用する不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、インク追従体の基油として用いるものであり、例えば、流動パラフィンが用いられる。流動パラフィンには、鉱物油、化学合成油が用いられ、化学合成油としては、ポリブテン、ポリα-オレフィン、エチレンα-オレフィンオリゴマーなどを用いることができる。
用いることができる具体的な鉱物油としては、例えば、市販品のダイアナプロセスオイルNS-100、PW-32、PW-90、NR-68、AH-58(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリブテンとしては、例えば、市販品のニッサンポリブテン200N、ポリブテン30N、ポリブテン10N、ポリブテン5N、ポリブテン3N、ポリブテン015N、ポリブテン06N、ポリブテン0N(以上、日本油脂社製)、ポリブテンHV-15(日本石油化学社製)、35R(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリα-オレフィンとしては、例えば、市販品のバーレルプロセス油P-26、P-46,P-56、P-150,P-350,P-1500、P-2200、(P-10000、P-37500)(松村石油社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なエチレンα-オレフィンオリゴマーとしては、例えば、市販品のルーカント HC-10、HC-20、HC-100、HC-150、(HC-600、HC-2000)(以上、三井化学社製)などが挙げられる。
これらの不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、1種または2種以上を合わせて使用することができる。
インク追従体に使用する増粘剤としては、例えば、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン-ブタジエンラバー、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
用いることができるリン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP-301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-300、AEROSIL-380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-974D、AEROSIL-972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG-1901X、クレイトンGG-1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。さらに、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG-1730(シェルジャパン社製)、セプトン2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。
水添スチレン-ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。
スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、DYNARON6201B(JSR社製)等が挙げられる。
アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL-M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の中で、本発明の効果をさらに発揮させる点から、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーなどの熱可塑性オレフィン系エラストマーの使用が好ましい。
さらに、インクバックの発生を防止するインク追従体を得る点から、周波数領域1~63rad/sで指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることが好ましく、1.7~3.4とすることがさらに好ましい。
ここで、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を意味する値であり、従来では、周波数領域「1~63rad/s」で指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以下のものが好ましいことが知られていた。本発明では、上記1~63rad/sで各周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることにより、振動を吸収してインクバックの発生を防止することが可能となる。
摩擦体を形成する材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物を用いることができ、これを、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)で荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS-17でのテーバー摩耗量が25mg未満となるように構成し、摩擦体を形成する。
また、摩擦体の材料に対して、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを添加してもよい。摩擦体が、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを含むことによって、紙面を傷めず且つ印刷文字等を掠れさせることなく、筆跡の消去が可能となる。さらに、摩擦体は、JIS K6203に規定されたデュロメータD硬度が30以上であることが好ましい。それによって、所定の硬さが確保でき、より安定した擦過動作が可能となる。なお、摩擦体は、タッチペン、スタイラスペンとしても適用可能であり、導電性を付与してもよい。
また、摩擦体は、リフィルに収容された熱変色性インクの色よりも明度値が低い色で着色されていることが好ましい。すなわち、摩擦体の使用時に多芯式筆記具1の熱変色性インクが変色することなく摩擦体の表面に転写した場合に、熱変色性インクの転写を目立たなくすることができる。特に、摩擦体の色を黒色又は明度値が2.5以下とすることによって、摩擦体の使用に伴う表面の汚れも目立たなくすることができる。
明度値は汎用型色差計(TC-8600A、東京電色株式会社製)等の測定装置を用いてマンセル表色系を使用し、摩擦体の明度値は表面を測定し、熱変色性インクの明度値は、紙面(旧JIS P3201;化学パルプ100%を原料に抄造された上質紙、坪量範囲40~157g/m2、白色度75.0%以上)上に筆記速度4.5m/min、ピッチ間隔0.1mmで筆記した描線上のインクを測定することによって求められる。