JP7231917B2 - 癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤及び癌治療用医薬組成物 - Google Patents
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Description
(1)以下の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;
(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;
(2)癌細胞が、癌幹細胞であることを特徴とする上記(1)記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(3)癌幹細胞が、肝癌の癌幹細胞であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(4)免疫チェックポイント因子が、PD-L1又はPD-L2であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(5)核酸分子がsmall interfering (siRNA)、micro RNA、small hairpin RNA(shRNA)、guide RNA(gRNA)、アンチセンス核酸、又はリボザイムからなる群から選択される少なくとも1種の核酸分子であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(6)核酸分子がsiRNAであることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(7)上記(1)~(6)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤と、薬理学的に許容される添加物を含有する癌治療用医薬組成物。
(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;
(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;
の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤であれば特に制限されず、ここで、「RAB3B」(Entrez Gene ID:5865, mRNA: NM_002867.3, protein: NP_002858.2)は、Rasスーパーファミリーに属し、炎症反応に依存して誘導されることや、下垂体培養細胞において分泌顆粒の細胞内輸送の過程に関与していることが知られている。
例示に限定されるものではない。
(SK-HEP-1細胞株からの浮遊細胞塊の誘導)
本発明者らが以前開示した癌幹細胞誘導法(上記特許文献1)を用い、肝癌由来の肝癌細胞株SK-HEP-1より、浮遊細胞塊(sphere)形成能を有する癌幹細胞を誘導した。具体的には以下に示すとおりである。
DMEM/F12(シグマ-アルドリッチ社製) 86mL
1M Hepes(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid) 900μL
Antibiotic/antimycotic liquid(100倍濃度) 900μL
30% グルコース 1.7mL
(2)成分B
DMEM/F12培地(シグマ-アルドリッチ社製) 8.6mL
30%グルコース(シグマ-アルドリッチ社製) 200μL
トランスフェリン(シグマ-アルドリッチ社製)10mg+H2O 200μL
インスリン(シグマ-アルドリッチ社製) 2.5mg+0.1N HCl 100μL(先にインスリンを溶解) +H2O 900μL(溶解後に加える) 計1mL
プトレシン(Alexis Biochemicals社製) 19.33mg
0.3mM 亜セレン酸ナトリウム(シグマ-アルドリッチ社製) 10μL
2mM プロゲステロン(シグマ-アルドリッチ社製) 1μL
(3)成分C
200μg/mL ヒトEGF(シグマ-アルドリッチ社製) 10μL
4μg/mL Basic FGF(和光純薬工業社製) 500μL
1mg/mL ヘパリン(シグマ-アルドリッチ社製) 200μL
10μg/mL LIF(ケミコン社製) 100μL
NSF-1(50倍濃度)(カンブレックス社製) 2mL(最終濃度;2%[w/v])
60mg/mL N-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)(シグマ-アルドリッチ社製) 100μL
SK-HEP-1細胞株を1.0×105個/mLとなるように10%ウシ胎児血清(FBS:fetal bovine serum)を含むDMEM培地(以下、「DMEM培地」という)に懸濁した後、培養シャーレに播種し、37℃、5% CO2条件下で3日間培養した。DMEM培地で培養したSK-HEP-1細胞株(以下、「SK-HEP-1」ともいう)は培養シャーレに接着する接着性の癌細胞株である。
高分化型肝細胞癌由来の細胞株であるHuH7細胞株を、上記NSC培地、又は上記DMEM培地で培養した。具体的には、HuH7細胞株を1.0×105個/mLとなるように上記NSC培地又は上記DMEM培地に懸濁した後、培養シャーレに播種し、37℃、5%CO2条件下でそれぞれ7日間又は3日間培養した。上記NSC培地及び上記DMEM培地で培養したHuH7細胞株(それぞれ、以下「HuH7/NSC」、「HuH7/DMEM」ともいう)はいずれも培養シャーレに接着し、浮遊細胞塊は形成されなかった。したがって、NSC培地を用いたとしても、低分化型肝癌由来のSK-HEP-1細胞株を培養した場合には浮遊細胞塊を形成するのに対し、高分化型肝癌由来のHuH7細胞株を培養した場合には浮遊細胞塊を形成しないことが明らかとなった。
[実施例2]
(転移性肝内再発に特異的な遺伝子の同定)
実施例1で得られたSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの肝細胞癌由来細胞、及び摘除手術後5年以上肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(≧5year))若しくは摘除手術後1年以内転移性肝内再発ありHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除標本における癌部組織及び周辺非癌部組織のmRNA発現を解析することで、原発巣除去後の転移性肝内再発に特異的な遺伝子の同定を行った。
miRNeasy(QIAGEN社製)を用いて、実施例1で作製したSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株、及び摘除手術後5年以上肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(≧5year))及び摘除手術後1年以内転移性肝内再発有りHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除原発巣標本(それぞれn=5)における癌部組織からtotal RNAを抽出した。
TruSeq Stranded Total RNA with Ribo-Zero Gold LT Sample Prep kit(イルミナ社製)及びNextSeq500(イルミナ社製)を用いて、そのプロトコルに従ってribosomal RNA除去後にRNAシークエンスを行い、26,475遺伝子の網羅的なmRNA発現解析を行った。NextSeq 500より得られたfastqファイルからcutadaptによるデータトリミング、FastQCによるクオリティ確認を経てSTARによるhg38ヒトリファレンスゲノムへのマッピングを行った。26,475遺伝子それぞれにおけるリードカウント数について、R softwareにおけるTCCパッケージを用いて正規化及び群間比較を行った。群間比較に先立って正規化後に何れの分においても発現量が低い(read count=10)遺伝子は除外した。発現変動遺伝子(Differentially expressed Genes; DEGs)の検出にはGLM LRT法を用いた。解析にあたっては、(a)SK-sphereとSK-HEP-1、(b)SK-sphereとHuH7/NSC、(c)HCC with IHR(≦1year)vs HCC without IHR(≧5year)におけるmRNAの発現量を比較して、転移性肝内再発有り群及びSK-sphereに共通して発現亢進を示す遺伝子候補を選択した。選択基準は(Fold-change)2.0、q値〈0.05)とした。q値は、FDR多重検定(multiple-testing correction)により算出した。
さらに、上記それぞれの発現量解析の結果を統合してMA plot解析(SK-sphere vs SK-HEP-1及びShort-DFS(Disease-free survival)vs Long-DFS in Tumor)を行い、SK-sphere及び転移性肝内再発有り群に共通して発現亢進を示す遺伝子の探索を行った。肝癌におけるDFSは無再発生存期間を意味し、RFS (relapse-free survival)と同義である。上記遺伝子の探索手法の概略を図1に、MA plot解析の結果を図2及び3に示す。図2及び3中、横軸はSK-sphereとSK-HEP-1での総カウント数(mRNAの発現量に相当)又はShort-DFSとLong-DFSでの総カウント数のLog2値、縦軸はSK-sphere/SK-HEP-1又はShort-DFS/Long-DFS発現比のLog2値を表す。
(mRNA発現レベルの比較)
1.RNAシークエンス
実施例2におけるmRNAの発現解析によるSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株からのRAB3B mRNA発現をまとめたグラフを図4A(a)に示す。図4A(a)に示すように、SK-sphereはSK-HEP-1と比較して2.3倍もRAB3BのmRNAが発現していることが明らかとなった。一方、HuH7においては、培養条件にかかわらずRAB3BのmRNA発現レベルはSK-HEP-1におけるRAB3BのmRNA発現レベルよりも低かった。
定量PCRによりSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株、及び摘除手術後2年を超えて肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(>2year))若しくは摘除手術後1年以内転移性肝内再発有りHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除標本(それぞれn=5)における癌部組織からのRAB3B mRNA発現量を解析した。定量PCR解析は、以下の方法で行った。
(siRNAによるノックダウン解析)
SK-HEP-1細胞に対して、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent (Thermo Fisher Scientific社製)を用いてreverse transfection法により以下のsiRNAsをトランスフェクションした。siRNAとして、配列番号2(Sense 5’ to 3’: GCUUCAUUCUGAUGUAUGAtt)に示されるセンス配列と配列番号3(Antisense 5’ to 3’: UCAUACAUCAGAAUGAAGCcc)に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRAB3B#1、又は、配列番号4(Sense 5’ to 3’: GCUAUGCUGAUGACACGUUtt))に示されるセンス配列と配列番号5(Antisense 5’ to 3’: AACGUGUCAUCAGCAUAGCgg)に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRAB3B#2の塩基配列、及びコントロールsiRNA (siNegaCont: Silencer(登録商標) Select Negative Control No.1 siRNA; Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。Reverse transfection法には以下の条件を適用した。1x105 cells/ 5nM each siRNA/1 μL Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent/ 1mL Opti-MEM I Reduced Serum培地 (Thermo Fisher Scientific社製)。結果を図5(a)、(b)、図6、図7に示す。
(SK-sphere特異的microRNAの探索)
microRNAは配列依存的に複数の遺伝子発現を制御するnon-coding RNAである。近年、microRNAは細胞内だけでなく、エクソソーム小胞に内包され細胞外に分泌されることも知られるようになった。すなわち、microRNAは細胞内における一つの遺伝子発現制御だけでなく、他の細胞における遺伝子発現をも制御しうる。まず、SK-HEP-1とSK-sphereにおける培地中のRNA濃度を調べたところ、SK-sphereはSK-HEP-1と比較してRNA濃度が上昇していた(図8(a))。そのため、CSLCにおいてはmicroRNAによって癌微小環境や周辺細胞の制御が考えられた。
(CRISPR/Cas9によるノックアウト解析)
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を用いて、SK-HEP-1株を親株としてmono-allelic RAB3B knock-out株を樹立した。ゲノム編集にはCas9 mRNA及び配列番号9に示す(-)鎖配列(GTTTCACCCGCTTCTCGTGA)及び続くCGGをそれぞれ標的配列及びPAM配列とし、配列番号10に示す配列 (GUUUCACCCGCUUCUCGUGAguuuuagagcuagaaauagcaaguuaaaauaaggcuaguccguuaucaacuugaaaaaguggcaccgagucggugcuuuu)をguide RNAとして合成し、guide RNAをlipofectamine RNAi Max(Thermo Fisher Scientific社製)によりSK-HEP-1細胞株に移入した後にsingle cell cloningを行った。得られたcloneからgenome DNAを抽出し、サンガーシーケンスにより変異導入を確認した。上記guide RNAとCas9 mRNAを用いてゲノム編集を行うことで、図9に示されるように、SK-HEP-1細胞株におけるgenome DNA中のPAM配列 (下線にて示したCCG) に隣接する標的配列に二本鎖切断が起こり、結果として配列番号1に示されるRAB3Bのアミノ酸配列が、配列番号11に示されるアミノ酸配列へと変異したクローンが得られた。図9右側上段はRAB3B野生型配列を示し、下段には変異クローンにおける配列を示した。野生型の全長219アミノ酸に対して変異型では67番目のアミノ酸以降の配列が異なり、全長も102アミノ酸となっている。左側は塩基配列を示し、guide RNAは相補鎖に対して設計し、下段に示されるようにcoding領域の200番目のアデニン(A)と201番目のシトシン(C)との間にAが挿入された配列が変異クローンにおけるRAB3B配列である。
(免疫監視機構関連因子の解析)
上記で作製したSK-HEP-1細胞株(親株:parent)及びSK-sphere株(Sphere)における免疫監視機構に関連するmRNAの発現量を調べるためにRNAシーケンスを行い、さらにその発現量の比(sphere/parent)を調べた。結果を図13に示す。
次に、SK-HEP-1細胞株及びSK-sphere株それぞれにおける膜結合MICA/B及び可溶性MICA/Bを調べた。膜結合MICAは抗MICA/B抗体を用いたフローサイトメトリーにより解析し、可溶性MICAは抗MICA抗体を用いたELISAにより解析した。結果を図15に示す。図15(a)により、sphereが形成されると膜結合型MICAの発現が低下し、他方、図15(b)により可溶性MICAの発現量が増加していた。免疫活性化を担うNKG2Dに対するリガンドの膜発現は活性化シグナルを引き起こし、一方、遊離したNKG2DリガンドはNKG2D活性化シグナルを抑制することが知られている。かかる結果より、膜結合型リガンドの減少によりNKG2Dからの活性化シグナルを減弱させると共に、分泌型リガンドの増加によっても活性化シグナルを抑制することで、CSLCが免疫逃避していることが明らかとなった。
(RAB3Bのノックアウトによる免疫監視機構関連因子の発現への影響)
上記結果に基づいて、RAB3Bをノックアウトした場合の免疫逃避機構関連因子の発現について確認するために、SK-HEP-1細胞株をDMEM培地で培養したSK-HEP-1/DMEM、SK-HEP-1細胞株をNSC培地で培養したSK-sphere/NSC、RAB3B-KO8をDMEMで培養したRAB3B-KO8/DMEM、及びRAB3B-KO8をNSCで培養したRAB3B-KO8/NSCそれぞれにおけるPD-L1、PD-L2、HLA-ABC、及びULBP1の発現をフローサイトメトリーで調べた。PD-L1の発現を調べた結果を図16に、PD-L2の発現を調べた結果を図17に、HLA-ABCの発現を調べた結果を図18に、ULBP1の発現を調べた結果を図19に示す。
Claims (4)
- RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子を有効成分とする、肝癌の癌幹細胞におけるPD-L1又はPD-L2の発現抑制剤。
- 核酸分子がsmall interfering RNA(siRNA)、micro RNA、small hairpin RNA(shRNA)、guide RNA(gRNA)、アンチセンス核酸、又はリボザイムからなる群から選択される少なくとも1種の核酸分子であることを特徴とする請求項1記載の肝癌の癌幹細胞におけるPD-L1又はPD-L2の発現抑制剤。
- 核酸分子がsiRNAであることを特徴とする請求項1又は2記載の肝癌の癌幹細胞におけるPD-L1又はPD-L2の発現抑制剤。
- 請求項1~3のいずれか記載の肝癌の癌幹細胞におけるPD-L1又はPD-L2の発現抑制剤と、薬理学的に許容される添加物を含有する肝癌治療用医薬組成物。
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TAN, P.Y. et al.,Mol Cell Biol,2012年,Vol. 32, No. 2,pp. 399-414 |
YE, F. et al.,J Transl Med,2014年,Vol. 12, Article No. 17,pp. 1-10 |
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