JP5098013B2 - ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株の樹立方法、ヒト悪性卵巣胚腫瘍細胞株、及びその利用 - Google Patents

ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株の樹立方法、ヒト悪性卵巣胚腫瘍細胞株、及びその利用 Download PDF

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Description

本発明はヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍に由来する細胞株の樹立方法、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍に由来する細胞株、及びヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍に由来する細胞株の利用技術に関する。
卵黄嚢腫瘍は胚細胞性の悪性卵巣腫瘍(悪性卵巣胚細胞腫瘍)であり、ほとんどが35歳以下の若年女性に発症し、全体では5年生存率は70%程度であるが、III、IV期の進行癌では20〜30%ときわめて予後不良である(非特許文献1〜3)。また、若年女性に発症することから、妊よう性温存術式が行われることが多く、再発もしばしば認められる。進行期癌に対しては術後治療としてシスプラチンを中心とした化学療法が施行され一定の効果は得られるものの(非特許文献4)、進行癌に対する効果についてはまだまだ十分とは言えず、再発症例においてはシスプラチン耐性獲得によりきわめて予後不良である(非特許文献5)。
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以上のように卵黄嚢腫瘍について臨床的な報告は散見されるが、基礎的研究及びそれに裏付けられた治療法の開発は皆無である。その最大の原因は、卵黄嚢腫瘍由来の細胞株の樹立法が確立していないことにある。このことは、悪性卵巣腫瘍の中でも上皮性卵巣癌では以前より多くの細胞株が樹立されており、治療法の開発に向けて多くの基礎的研究が進められていることと対照的である。
一方、卵黄嚢腫瘍に限らず、悪性卵巣胚細胞腫瘍の中で最も症例が多い未分化胚細胞腫についても、その細胞株の樹立に成功したという報告はない。このように、悪性卵巣胚細胞腫瘍に由来する細胞株の樹立は非常に困難と考えられている。
そこで本発明は、悪性卵巣胚細胞腫瘍由来の細胞株の樹立方法、悪性卵巣胚細胞腫瘍由来の細胞株、及び悪性卵巣胚細胞腫瘍由来の細胞株を利用したスクリーニング方法等を提供することを課題とする。悪性卵巣胚細胞腫瘍に由来する細胞株が得られれば、それを用いた基礎的及び応用的研究が可能となり、発症機構の解明や適切な治療法の開発への途が開かれる。
本発明はまた、悪性卵巣胚腫瘍の一つである卵黄嚢腫瘍に対する治療法の確立に向けて、標的となる分子(標的分子)及びその用途を提供することを課題とする。
以上の課題を解決すべく、本発明者らはまず、悪性卵黄胚細胞腫瘍の中でも特にその細胞株の提供が望まれている卵黄嚢腫瘍から細胞株を樹立することを試みた。本発明者らは、現在に至るまで卵黄嚢腫瘍の細胞株が樹立されていない理由は、卵黄能腫瘍細胞では上皮性卵巣癌に比較して樹立段階での増殖能が低いことにあると考えた。また、卵黄嚢腫瘍は巨大化し、内部が壊死に陥っていることが多いことから、細胞株の樹立に適した細胞(即ち、十分な生存能力及び分裂能を備える細胞)の採取が困難であったこともその細胞株の樹立を困難にしていたと考えられる。
以上の点に鑑みて本発明者らは、生体から分離された卵黄嚢腫瘍細胞を初代培養する際の培地の選択が重要であると考え、様々な培地を用いた培養実験を実施した。その結果、培養の初期段階に特定の成分を培地中に添加することによって卵黄嚢腫瘍細胞が良好に生存及び分裂することが判明し、株化に成功した。また、通常より低濃度の血清存在下で培養の初期段階を行うことが細胞株の樹立に対して有効に作用すると考えられた。
一方、トリプシン処理等で細胞をばらした後に培養するのではなく、生体より分離された組織片(卵黄嚢腫瘍細胞)の状態のままで培養に供し、組織片から目的の細胞を遊走させてコロニーを形成させることが細胞株の樹立に重要であることが判明した。さらに、培養の初期段階においては線維芽細胞が極めて優位であり目的の細胞の増殖は認められなかったものが、特定の成分を含有する培地で長期に亘って培養を継続することによって次第に線維芽細胞の数と目的の細胞の数とが逆転し、実質的に目的の細胞のみからなるコロニーを形成させることに成功した。このことから、細胞株の樹立において、本発明者らが見出した特定の成分を含有する培地を用いた培養を長期間に亘って継続することが重要であることが判明した。さらに、形成されたコロニーから細胞を採取した後の継代培養においても、しばらくの間、培養初期に使用した培地と同等の培地を使用することによって、良好な細胞増殖が得られた。つまり、コロニーから細胞を採取した後の継代培養の初期段階においても、本発明者らが見出した特定の成分を含有する培地を使用することが、細胞株の樹立に対して有効に作用することが明らかとなった。
一方、樹立された細胞株(NOY1)の特性を検証したところ、α−フェトプロテイン(AFP)及びサイトケラチンの発現が認められ、卵黄能腫瘍細胞に由来する細胞であることが確認された。
また、卵黄嚢腫瘍細胞と同じ悪性卵黄腫瘍に分類され、その由来及び特徴において卵黄嚢腫瘍細胞に近似する未分化胚性細胞種の細胞株樹立にも、本発明者らが見出した新規な培養条件が有効であると予想された。
さらに検討を進め、樹立された細胞株(NOY1)を元に抗癌剤耐性株を樹立することに成功した。特筆すべきことに、耐性株の一つはシスプラチンに対して約10倍の耐性を獲得していた。
一方、樹立された細胞株(NOY1)では、AFPの転写に関与する転写因子Nkx2.5が高発現していることを確認するとともに、Nkx2.5の発現抑制によってNOY1の細胞増殖能が有意に抑制されることが判明した。
本発明は主として以上の知見又は成果に基づくものであり、以下の樹立方法等を提供する。
[1] 血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子を含有する培地中でヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を培養することを特徴とする、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株の樹立方法。
[2] 前記培地中の前記血清の含有量が約5%(v/v)である、[1]に記載の樹立方法。
[3] 以下のステップ(1)〜(3)を含む、[1]又は[2]に記載の樹立方法:
(1)血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子を含有する培地中でヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を含む組織片を培養するステップ;
(2)血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子を含有する培地中で、前記組織片から遊走した細胞を培養するステップ;
(3)増殖した細胞を継代培養するステップ。
[4] 混在する線維芽細胞の数が減少し、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞が主体になるまでステップ(2)の培養を継続することを特徴とする、[3]に記載の樹立方法。
[5] 実質的にヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞のみからなるコロニーが形成されるまでステップ(2)の培養を継続し、形成されたコロニーより細胞を採取し、採取した細胞をステップ(3)の継代培養に供することを特徴とする、[3]に記載の樹立方法。
[6] ステップ(3)において継代培養の最初の数代が血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で行われ、その後の継代培養がインスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有しない培地中で行われることを特徴とする、[3]〜[5]のいずれかに記載の樹立方法。
[7] ステップ(3)において継代培養の第3代〜第5代までが血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で行われることを特徴とする、[6]に記載の樹立方法。
[8] 前記ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞がヒト卵黄嚢腫瘍細胞又はヒト未分化胚細胞腫細胞であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載の樹立方法。
[9] 前記ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞がヒト卵黄嚢腫瘍細胞であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載の樹立方法。
[10] [9]に記載の方法で樹立され、α−フェトプロテイン及びサイトケラチン陽性のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株。
[11] 受託番号がFERM P−21055である、[10]に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株。
[12] [10]又は[11]に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を抗癌剤に曝露することによって、該抗癌剤への耐性を獲得した耐性ヒト細胞。
[13] [10]又は[11]に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株をシスプラチン又はカルボプラチンに曝露することによって、シスプラチン又はカルボプラチンへの耐性を獲得した耐性ヒト細胞。
[14] 培養液中のシスプラチン濃度が3μ/mlで維持可能である、[13]に記載の耐性ヒト細胞。
[15] シスプラチンに対する耐性が、[11]に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株の約10倍である、[13]に記載の耐性ヒト細胞。
[16] 被検物質の存在下、[10]若しくは[11]に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株、又は[12]〜[15]のいずれかに記載の耐性ヒト細胞を培養し、該細胞の生存率を測定・評価することを特徴とする、ヒト卵黄嚢腫瘍に対して有効な物質のスクリーニング方法。
[17] 転写因子Nkx2.5を標的分子とすることを特徴とする、ヒト卵黄嚢腫瘍に対して有効な化合物のスクリーニング方法。
(細胞株の樹立方法)
本発明の細胞株の樹立方法では、採取されたヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を培養する際、少なくとも初期段階において特定の培地が使用される。
ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞は、悪性卵巣胚細胞腫瘍に罹患した患者の腫瘍組織より生検で採取することができる。悪性卵巣胚細胞腫瘍は、未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、未熟奇形種、及びその他の腫瘍に分類される。本発明の細胞株の樹立方法はこの中でも特に未分化胚細胞腫又は卵黄嚢腫瘍を対象とする。これら二つはその由来及び特徴において類似することから、片方に対して有効な細胞株樹立法は、当然に他方に対しても有効と考えられる。
本発明において培養の初期段階に使用される培地には、血清、インスリン(insulin)及び上皮細胞増殖因子(EGF)が含有される。基本となる培地の種類は特に限定されない。従って、無機塩、糖質やアミノ酸類又はビタミン類などを含有する、哺乳類細胞培養用の基本培地に血清、インスリン及びEGFを添加することによって、本発明で使用される培地を調製することができる。ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質がさらに添加された培地を使用してもよい。哺乳類細胞培養用の基本培地として例えば、RPMI 1640培地(ナカライテスク株式会社、シグマ社、ギブコ社等)、ダルベッコ変法イーグル(D-MEM)培地(ナカライテスク株式会社、シグマ社、ギブコ社等)、SmGM培地(CAMBREX社)、SmGM-2培地(CAMBREX社)を採用することができる。
培地中に添加する血清としては、ヒト血清、ウシ胎仔血清(FBS)、羊血清などを用いることができる。容易に入手できる点から、FBSを採用することが好ましい。FBSは例えばGIBCO社より容易に入手することができる。血清の添加濃度は約1%〜約10%の範囲に設定できる。癌細胞の培養法では一般的に血清濃度が10%程度の培地が用いられる。これに対して、本発明者らは、5%という低濃度の血清存在下で初期培養する方法によって、ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株の樹立に成功している。この事実を考慮すれば、血清濃度を例えば約5%といった低濃度に設定することが好ましいと考えられる。尚、初代培養時の血清濃度を低く設定することによって、混在する線維芽細胞の増殖が抑えられた結果として、目的の卵黄嚢腫瘍細胞の増殖が促され、株化の成功に繋がったと予想される。
インスリンとしては、組換えヒトインスリン(CHEMICON社)、リコンビナントインスリン(株式会社 細胞科学研究所)等を使用することができる。培地へのインスリンの添加濃度は、例えば1mg/l〜40mg/l、好ましくは2mg/l〜10mg/l、更に好ましくは約5mg/lとする。
EGFとしては、組換えヒトEGF(hEGF)(CHEMICON社、湧永製薬株式会社、R&D Systems社等)、ヒトリコンビナントEGF(Pepro Tech EC社)等を使用することができる。培地へのEGFの添加濃度は、例えば0.2μg/l〜20μg/l、好ましくは1μg/l〜10μg/l、更に好ましくは約4μg/lとする。
本発明の好ましい一態様では、以下のステップ(1)〜(4)が実施される。
1.ステップ(1)
このステップでは、血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中でヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を含む組織片を培養する。ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を含む組織片としては、悪性卵巣胚細胞腫瘍に罹患した患者の腫瘍組織の一部から採取されたものを使用することができる。本発明の特徴の一つは、採取された腫瘍組織片を直接、培養に供することである。即ち、採取された腫瘍組織片にトリプシン処理等を施して細胞をばらした後に培養するのではなく、組織片のままの状態で培養を開始する。これによって、目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞がトリプシン処理等で損傷するのを防止できる。尚、ここでの「直接、初代培養に供する」とは、トリプシン処理のように目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞に損傷を与えるような操作を経ることなく培養が開始されることを意味する。従って、組織片の洗浄や付着物の切除など、組織片を培養する際に通常行われる操作を培養前に行うことを妨げない。
組織片の培養を開始すると、組織片より細胞が遊走する現象が観察される。組織片からの十分な細胞の遊走が認められた後は組織片を取り除いてもよい。通常、培養開始から5日〜1週間程度経過した後に組織片の除去を行う。
2.ステップ(2)
ステップ(1)に続くステップ(2)では、血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で、組織片より遊走した細胞を培養する。通常はステップ(1)で使用した培地と同一の培地を使用して当該ステップ(2)の培養を行う。但し、ステップ(1)で使用した培地と異なる培地を使用することを妨げるものではない。つまり、血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有するという条件を満たす限り、任意の培地を用いて当該ステップ(2)を行うことができる。
組織片から遊走した細胞の中には、目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞以外に線維芽細胞も多く含まれる。ヒト卵黄嚢腫瘍から採取された組織片を用いた検討の結果、培養の初期段階では線維芽細胞が極めて優位であり目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞の増殖はほとんど認められなかったものが、長期に亘って培養を継続することによって次第に線維芽細胞の数と目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞の数とが逆転する現象が認められた。このことから、混在する線維芽細胞の数が減少し、目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞が主体になるまで比較的長期間に亘って当該ステップ(2)を継続することが好ましい。これによって目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を選択的に以降の継代培養(ステップ(3))に供することができる。目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞が主体になるまでの培養期間は、使用するヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞の種類や培養環境によって変動するが、卵黄嚢腫瘍細胞の場合は概ね3週間〜6週間と予想される。
より好ましくは、実質的にヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞のみからなるコロニーが形成されるまで当該ステップ(2)を継続する。この場合、形成されたコロニーより細胞を採取し、採取した細胞を以降の継代培養(ステップ(3))に使用する。このように細胞集団を純化した後に継代培養することで、目的のヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞の株化が容易となる。実質的にヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞のみからなるコロニーが形成されるまでの培養期間は、使用するヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞の種類や培養環境によって変動するが、卵黄嚢腫瘍細胞の場合は概ね5週間〜8週間と予想される。尚、線維芽細胞とヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞は形態が顕著に相違するため、光学顕微鏡下での観察等によって容易に両者を識別可能である。
ステップ(2)の培養の間は必要に応じて培地交換を行う。例えば、2〜5日に1回の頻度で培地を交換すればよい。また、必要に応じて継代培養を行う。
3.ステップ(3)
このステップでは、ステップ(2)で増殖した細胞を継代培養する。継代培養は常法で行うことができる。即ち、培養容器内でサブコンフルエント又はコンフルエントになった時点で細胞を回収し、回収された細胞の一部を別の培養容器に播種して培養を継続する。細胞の回収はトリプシンやセルスクレイパー等を用いて行われる。継代培養を繰り返し、長期間に亘って細胞を維持する。例えば1週〜2週に1度の頻度で継代する。十分な期間(例えば継代培養開始から2ヶ月以上)経過後、均一な細胞集団からなり、且つ十分な増殖能を維持していることを確認する。
本発明の好ましい一態様では、継代培養の最初の数代について血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地を使用し、その後は哺乳類細胞の培養に通常使用される培地に切り換える。具体的には例えば継代培養の第3代〜第7代までを血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で行う。即ち、線維芽細胞の増殖を減少させ、目的の細胞(ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞)を優位にするため、目的の細胞の増殖能が線維芽細胞の増殖能を上回る時期に上記のごとき培地の切り換えを実施する。尚、この態様では、継代培養の初期をそれまでの培養で使用した培地と同等の培地(特定の成分を含有する培地)で行うことになる。これによって、細胞の状態が不安定な初期段階に培養環境が急激に変化せず、またインスリン等の特定の成分が細胞に作用する結果、良好な細胞の増殖・維持が達成されるといった効果も得られる。培地切り換え後の培地の例として、10%FBS含有のRPMI 1640培地、10%FBS含有のD-MEM培地などを挙げることができる。
尚、継代培養の全過程を通して血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地を使用することにしてもよい。
(細胞株)
本発明の他の局面は、本発明の方法で樹立されたヒト卵黄嚢腫瘍細胞株に関する。本発明のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株はその特性の一つとしてα−フェトプロテイン(AFP)及びサイトケラチン陽性を示す。AFP陽性であることは、例えば、細胞の培養上清から回収したタンパク質を試料として用い、検出試薬として抗ヒトAFP抗体を用いたウエスタンブロット法や、抗ヒトAFP抗体を用いた細胞免疫染色法で確認することができる。他方、サイトケラチン陽性であることは、例えば、抗ヒトサイトケラチン抗体を用いた細胞免疫染色法で確認することができる。
本発明の樹立方法で得られたヒト卵黄嚢腫瘍細胞株の一つ(NOY1)は以下の通り所定の寄託機関に寄託されている。
寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号 中央第6)
寄託日(受領日):平成18年(2006年)10月6日
受託番号:FERM P−21055
本発明は更に、本発明の方法で樹立されたヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を抗癌剤に曝露することによって、当該抗癌剤への耐性を獲得した変異株(即ち、耐性ヒト細胞)を提供する。本発明の耐性ヒト細胞は、それが由来する親株に比較して、特定の抗癌剤(例えばシスプラチンやカルボプラチン)に対して高い耐性を有する。本発明の耐性ヒト細胞は、2剤以上に対して耐性を有していてもよい。本発明の耐性ヒト細胞を作製する際の曝露方法としては例えば、細胞株の培地中に抗癌剤を添加し、連続的に曝露する方法が簡便である。或いは、試験化合物又はそれを含む溶液などを直接細胞に接触させることにしてもよい。
曝露量は任意に設定可能である。例えば、1回の曝露で少なくとも一部(例えば10%〜30%)の細胞が生存状態を維持できる量とする。通常、常に曝露された状態で維持する。
抗癌剤を曝露後、生細胞を回収する。通常、以上の曝露及び回収の操作を繰り返すことによって、特定の抗癌剤に耐性を示す変異株(耐性ヒト細胞)が得られる。
抗癌剤としてシスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、パクリタキセル、ブレオマイシン(塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシンを含む)等を使用することができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。
後述の実施例に示すように、本発明者らは以上の方法によってシスプラチン耐性株(IC50=12.5μg/ml、約5倍耐性)とカルボプラチン耐性株(IC50=18μg/ml、約5倍耐性)の樹立に成功している。更なる検討の末、培養液中のシスプラチン濃度が3μg/mlで維持可能なシスプラチン耐性株(NOY1CR3.0)の樹立にも成功した。細胞株NOY1に比較し、細胞株NOY1CR3.0はシスプラチンに関して約10倍耐性である。ここでの耐性の評価はシスプラチンのIC50に基づく。
(細胞株の利用法)
本発明の更なる局面は、上記ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株又は上記耐性ヒト細胞を利用したスクリーニング方法に関する。ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を利用したスクリーニング方法で選抜された化合物は、ヒト卵黄嚢腫瘍に対する治療又は予防(以下これらをまとめて「治療等」という)に有効であると期待される。即ち、選抜された化合物はヒト卵黄嚢腫瘍に対する医薬の有効成分の有力な候補(リード化合物)となる。選抜された化合物が十分な薬効を有する場合にはそのまま薬剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で薬剤の有効成分としての使用に供することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
上記耐性ヒト細胞を利用したスクリーニング方法で選抜された化合物についても、ヒト卵黄嚢腫瘍に対する医薬の有効成分の有力な候補(リード化合物)とみなすことができる。この場合に選抜された物質は耐性ヒト細胞に対する活性を有することから、薬剤耐性を獲得するに至った症例に対して特に有効なリード化合物であり、その価値は高い。
本発明のスクリーニング方法では試験物質の曝露によって細胞の生存率(増殖率)が変化するか否かを評価する。具体的には例えば、被験物質の存在下(例えば培地中に被験物質を添加した状態)で本発明のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を所定時間培養し、細胞数を計測する。得られた細胞数と、被験物質の非存在下で本発明のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を同時間培養した場合(比較対照)の細胞数とを比較し、被験物質が生存率にどの程度影響を及ぼしたかを評価する。被験物質の存在によって生存率の低下が認められれば、被験物質がヒト悪性卵黄嚢腫瘍に対する活性を有すると判断することができる。
特定の抗癌剤に対して耐性を獲得した変異株(耐性ヒト細胞)を用いたスクリーニング方法において同様に選抜された被験物質については、当該抗癌剤が無効となった症例に対して有効であると判断することができる。
曝露量は任意に設定可能であるが、正常細胞に同様の曝露を実施した際に致命的な影響を与えない範囲で曝露量を設定するとよい。曝露時間は特に限定されない。例えば、曝露時間を1分〜1ヶ月の範囲内で設定することができる。間隔をおいて連続的に曝露してもよい。
本発明のスクリーニング方法に供する試験物質としては、様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ビタミン、ホルモン等))又は無機化合物を用いることができる。試験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、細胞抽出液、培養上清などを試験物質として用いてもよい。また、既存の薬剤(抗癌剤を含む)を試験物質としてもよい。
(転写因子Nkx2.5を標的とした治療法)
本発明者らの検討によって、転写因子Nkx2.5がヒト卵黄嚢腫瘍の治療における標的分子として有望であることが判明した。当該知見に基づき、本発明は更なる局面として、転写因子Nkx2.5の発現量又は作用量を低下させることを特徴とする、ヒト卵黄嚢腫瘍の治療法を提供する。例えば、アンチセンス法やRNA干渉によって、或いはリボザイムの使用によってNkx2.5の発現を阻害(抑制)し、これによってNkx2.5の発現量又は作用量を低下させることができる。
アンチセンス法による発現阻害を行う場合には例えば、標的細胞内で転写されたときに、Nkx2.5をコードするmRNAの固有の部分に相補的なRNAを生成するアンチセンス・コンストラクトが使用される。このようなアンチセンス・コンストラクトは例えば、発現プラスミドの形態で標的細胞に導入される。一方、アンチセンス・コンストラクトとして、標的細胞内に導入されたときに、Nkx2.5をコードするmRNA/又はゲノムDNA配列とハイブリダイズしてその発現を阻害するオリゴヌクレオチド・プローブを採用することもできる。このようなオリゴヌクレオチド・プローブとしては、好ましくは、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼなどの内因性ヌクレアーゼに対して抵抗性であるものが用いられる。
アンチセンス核酸としてDNA分子を使用する場合、Nkx2.5をコードするmRNAの翻訳開始部位(例えば-10〜+10の領域)を含む領域に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
アンチセンス核酸と、標的核酸との間の相補性は厳密であることが好ましいが、多少のミスマッチが存在していてもよい。標的核酸に対するアンチセンス核酸のハイブリダイズ能は一般に、両核酸の相補性の程度及び長さの両方に依存する。通常、使用するアンチセンス核酸が長いほど、ミスマッチの数が多くても、標的核酸との間に安定な二重鎖(又は三重鎖)を形成することができる。当業者であれば、標準的な手法を用いて、許容可能なミスマッチの程度を確認することができる。
アンチセンス核酸はDNA、RNA、若しくはこれらのキメラ混合物、又はこれらの誘導体や改変型であってもよい。また、一本鎖でも二本鎖でもよい。塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格部分を修飾することで、アンチセンス核酸の安定性、ハイブリダイゼーション能等を向上させることなどができる。また、アンチセンス核酸に、細胞膜輸送を促す物質(例えば Letsinger et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556; Lemaitre et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:648-652; PCT Publication No. W088/09810, published December 15, 1988を参照されたい)や、特定の細胞に対する親和性を高める物質などを付加してもよい。
アンチセンス核酸は例えば市販の自動DNA合成装置(例えばアプライド・バイオシステムズ社等)を使用するなど、常法で合成することができる。核酸修飾体や誘導体の作製には例えば、Stein et al.(1988), Nucl. Acids Res. 16:3209やSarin et al., (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451等を参照することができる。
標的細胞内におけるアンチセンス核酸の作用を高めるために、pol IIやpol IIIといった強力なプロモーターを利用することができる。即ち、このようなプロモーターの制御下に配置されたアンチセンス核酸を含むコンストラクトを標的細胞に導入すれば、当該プロモーターの作用によって十分な量のアンチセンス核酸の転写を確保できる。
アンチセンス核酸の発現は、哺乳動物細胞(好ましくはヒト細胞)で機能することが知られている任意のプロモーター(誘導性プロモーター又は構成的プロモーター)によって行うことができる。例えば、SV40初期プロモーター領域 (Bernoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウィルスの3'末端領域由来のプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、疱疹チミジン・キナーゼ・プロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)等のプロモーターを使用することができる。
本発明の一態様では、RNA干渉(RNAi)によりNkx2.5の発現阻害を行う。RNAiは、真核細胞内で引き起こすことが可能な、配列特異的な転写後遺伝子抑制のプロセスである。哺乳動物細胞に対するRNAiでは、標的mRNAの配列に対応する配列の短い二本鎖RNA(siRNA)が使用される。通常、siRNAは21〜23塩基対である。ところで、哺乳動物細胞は、二本鎖RNA(dsRNA)の影響を受ける2つの経路(配列特異的経路及び配列非特異的経路)を有することが知られている。配列特異的経路においては、比較的長いdsRNAが短い干渉性のRNA(即ちsiRNA)に分割される。他方、配列非特異的経路は、所定の長さ以上であれば配列に関係なく、任意のdsRNAによって惹起されると考えられている。この経路では、dsRNAが二つの酵素、即ち、活性型となり翻訳開始因子eIF2をリン酸化することでタンパク質合成のすべてを停止させるPKRと、RNAase L活性化分子の合成に関与する2',5'オリゴアデニル酸シンターゼが活性化される。この非特異的経路の進行を最小限に留めるためには約30塩基対より短い二本鎖RNA(siRNA)を使用することが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3; 及び Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8を参照されたい)。
尚、RNAiは様々な細胞種(例えば、HeLa細胞、NIH/3T3細胞、COS 細胞、293細胞等)において遺伝子発現を減少させる効果的な手段であることが確認されている。また、通常は、アンチセンス法よりも効果的に発現阻害を行える。
RNAiに使用するsiRNAは、化学合成によって、又は適当な発現ベクターを用いてin vitro又はin vivoで調製することができる。siRNAの設計には通常、標的核酸に固有の配列(連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログラム及びアルゴリズムが開発されている。
本発明の他の一態様ではリボザイムによりNkx2.5の発現阻害を行う。部位特異的認識配列でmRNAを開裂させるリボザイムを用いて、Nkx2.5をコードするmRNAを破壊することもできるが、好ましくはハンマーヘッド・リボザイムを使用する。ハンマーヘッド・リボザイムの構築方法については例えばHaseloff and Gerlach, 1988, Nature, 334:585-591を参考にすることができる。
アンチセンス法の場合と同様に、例えば安定性やターゲット能を向上させることを目的として、修飾されたオリゴヌクレオチドを用いてリボザイムを構築してもよい。効果的な量のリボザイムを標的細胞内で生成させるために、例えば、強力なプロモーター(例えばpol IIやpol III)の制御下に、当該リボザイムをコードするDNAを配置した核酸コンストラクトを使用することが好ましい。
本発明の治療方法に使用される薬剤(アンチセンス核酸、siRNA、リボザイム、本発明の細胞株を用いたスクリーニング方法又は転写因子Nkx2.5を標的としたスクリーニング方法を利用して見出された化合物など)の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして調製できる。
卵黄嚢腫瘍の治療においては、卵黄嚢腫瘍細胞を保有する対象(患者)に上記の薬剤が投与される。薬剤はその形態に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、腹腔内注射、標的細胞への直接導入など)によって対象(患者)に適用され得る。
薬剤の投与量は症状、患者の年齢、性別、及び体重などによって異なるが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.001mg〜約100mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の病状や薬剤の効果持続時間などを考慮することができる。
(転写因子Nkx2.5を標的としたスクリーニング方法)
本発明者らの検討によって、転写因子Nkx2.5が卵黄嚢腫瘍を対象とした創薬の標的分子として有望であることが判明した。当該知見に基づき、本発明は更なる局面として、転写因子Nkx2.5を標的分子とすることを特徴とする、ヒト卵黄嚢腫瘍に対して有効な化合物のスクリーニング方法を提供する。当該スクリーニング方法で選抜された化合物は、ヒト卵黄嚢腫瘍に対する治療等に有効であると期待される。即ち、選抜された化合物はヒト卵黄嚢腫瘍に対する医薬の有効成分の有力な候補(リード化合物)となる。選抜された化合物が十分な薬効を有する場合にはそのまま薬剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で薬剤の有効成分としての使用に供することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
本発明のスクリーニング方法では例えば、Nkx2.5タンパク質に対する試験物質の結合性、Nkx2.5の発現量又は作用量に対する試験物質の作用(影響)などを指標とする。
本発明のスクリーニング方法に供する試験物質については、上記の(細胞株の利用法)の中で説明したスクリーニング方法の場合と同様である。
(a)Nkx2.5タンパク質に対する結合性を指標としたスクリーニング
本発明のスクリーニング方法の一態様では、Nkx2.5タンパク質に対する結合性を指標として有効な化合物を選抜する。例えば、以下のステップ(1)及び(2)を実施し、有効な化合物を選抜する。
(1)Nkx2.5タンパク質と試験物質とを接触させるステップ。
(2)試験物質のNkx2.5タンパク質に対する結合性を評価するステップ。
以下、ステップ毎にその詳細を説明する。尚、Nkx2.5タンパク質の立体構造に基づき、コンピューター上でNkx2.5タンパク質と試験物質との結合性をシミュレーションしたり、Nkx2.5タンパク質に結合性を有する化合物をデザインしたりする、いわゆるin silicoスクリーニングによって、Nkx2.5タンパク質に結合性を有する化合物を選抜することにしてもよい。
ステップ(1)
ステップ(1)ではNkx2.5タンパク質と試験物質とを接触させる。具体的には例えば、プレートや膜、或いはビーズ等の不溶性支持体に固定したNkx2.5タンパク質に反応用溶液中で試験物質を接触させる。所定時間経過した後、適当な溶液で洗浄することで非特異的結合成分を除去する。
反応用溶液は特に限定されず、公知又は市販の緩衝液、生理食塩水などを用いることができる。例えば、反応用溶液としてはリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、トリス酢酸緩衝液などを用いることができ、そのpHは例えばpH6.0〜pH8.0、好ましくはpH6.5〜pH7.5とする。また、反応温度は例えば4℃〜45℃、好ましくは4℃〜40℃とすることができる。反応時間については例えば1分〜24時間の範囲で設定できる(具体的には例えばオーバーナイトで反応させる)。
試験物質を抗Nkx2.5抗体と競合的にNkx2.5タンパク質に接触させることにしてもよい。即ち、試験物質の存在下及び非存在下でそれぞれ、Nkx2.5タンパク質と抗Nkx2.5抗体を接触させる実験系を採用してもよい。Nkx2.5タンパク質に対する結合活性を試験物質が有すれば、試験物質の存在によって、抗Nkx2.5抗体のNkx2.5タンパク質に対する結合が阻害される。従って、Nkx2.5タンパク質に結合した抗Nkx2.5抗体の量を、試験物質の存在下で抗Nkx2.5抗体を接触させた場合と、試験物質の非存在下で抗Nkx2.5抗体を接触させた場合との間で比較すれば、間接的に試験物質のNkx2.5タンパク質に対する結合活性を求めることができる。
ステップ(2)
ステップ(2)では、試験物質のNkx2.5タンパク質に対する結合性を評価する。即ち、試験物質のNkx2.5タンパク質への結合量を測定し、測定結果から結合活性を求める。Nkx2.5タンパク質に対する結合量の測定は、試験物質の種類、性状などに応じて適当な方法で実施される。例えば試験物質がタンパク質性分子であれば、Nkx2.5タンパク質に結合した成分を回収した後にタンパク質量を測定することや、試験物質に特異的に結合性を有する抗体を用いた免疫学的手法などの利用によって、Nkx2.5タンパク質に結合した試験物質量を算出することができる。これらの方法は単なる一例であって、Nkx2.5タンパク質への結合量を測定できる限りにおいて任意の測定法を採用することができる。
上記のように抗Nkx2.5抗体を用いた実験系を採用した場合には、Nkx2.5タンパク質に結合した抗Nkx2.5抗体の量が測定対象となる。そして、測定結果(抗Nkx2.5抗体の結合量)から試験物質の結合活性が求められる。
(b)Nkx2.5の発現量又は作用量に対する試験物質の作用(影響)を指標としたスクリーニング
本発明のスクリーニング方法の他の一態様では、Nkx2.5の発現量又は作用量に対する試験物質の作用(影響)を指標として有効な化合物を選抜する。例えば、Nkx2.5の発現量又は作用量を評価することが可能な細胞を用いたレポータージーンアッセイを行う。レポータージーンアッセイではNkx2.5遺伝子、又はNkx2.5によって転写制御を受ける遺伝子(例えばα−フェトプロテイン(AFP))の発現量をレポーター遺伝子の発現量に基づいて評価し、Nkx2.5遺伝子の発現に対する試験物質の阻害(抑制)能、又はNkx2.5遺伝子の作用に対する試験物質の阻害(抑制)能を判定する。
レポータージーンとしては、CAT(クロラムフェニコール)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子等を用いることができる。
レポータージーンアッセイに利用する細胞としてはHeLa細胞、COS細胞、CHO細胞を例示することができる。これらの細胞は例えばATCCなどの細胞バンクから容易に入手可能である。
尚、レポータージーンアッセイは常法に従って行えばよい。レポータージーンアッセイの詳細は様々な成書や論文に紹介されており、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)或いはCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)、新遺伝子工学ハンドブック(羊土社)等を参考にすることができる。
1.細胞株の樹立
1−1.方法
平成17年5月30日に手術が施行された、28歳の卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)の患者より細胞株を樹立することの同意を得て腫瘍組織を採取した。採取した組織片をPBSにて十分洗浄した後に、組織片を1〜2mm角に細切しトリプシン処理は行わずに下記の培養液中に多数片培養した。
市販のSmGM培地(CAMBREX社)(500ml)に5%FBS(ギブコ社)、2.5mgのインスリン(株式会社 細胞科学研究所)、2μgのhEGF(R&D Systems社)、及び抗生物質(ペニシリン 10万単位、ストレプトマイシン100mg)を添加した培養液を使用した。培養開始5日目に組織片を取り除き、同時に培地交換をした。以後は3日に1回の頻度で培地交換を繰り返した。
尚、予備実験として、10%FBS含有RPMI 1640培地又は10%FBS含有SmGM培地を使用して同様の操作を行ったところ、卵黄嚢腫瘍細胞の増殖は認められなかった。
1−2.結果
培養開始2週間後よりコロニーの形成を確認できた。しかしながら線維芽細胞の混在があった。その後継代を繰り返すことにより、培養開始4週目から線維芽細胞が減少し、卵黄嚢腫瘍細胞が主体となってきた。腫瘍細胞がコロニーを形成してきたため、線維芽細胞がほぼ消失した段階で10個のコロニーを採取し、コロニーごとに培養した。各コロニー由来の細胞を別々に培養し、継代を繰り返した。第5継代までは上記の培養液を使用したが、その後の継代培養では10%FBS含有RPMI 1640培地を使用した。継代培養開始から5ヶ月以上経過した時点(継代数25)においても十分な増殖能を維持していることを確認した。現在の継代数は28である。
以上のようにして株化された卵黄嚢細胞(NOY1)を以下の通り寄託した。
寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号 中央第6)
寄託日(受領日):平成18年(2006年)10月6日
受託番号:FERM P−21055
2.細胞機能の解析
2−1.ウエスタンブロット法によるAFP発現の確認
10コロニーそれぞれの細胞(第21継代)の破砕液(1% Triton Xによる)から常法で蛋白を回収した。回収した蛋白(10μg)をサンプルとしてウエスタンブロット法を実施した。検出用の抗体として抗ヒトα-1-フェトプロテイン抗体(Dako Cytomation)を用いた。尚、子宮体癌細胞株(Ishikawa)においても同様に発現を検討した(ネガティブコントロール)。
ウエスタンブロットの結果を図1に示す。10コロニーすべてにおいて、70kDa付近にAFPの発現を認めた。ネガティブコントロールとして用いた子宮体癌細胞株(Ishikawa)においては発現を認めなかった。コロニーNo.2において最も強い発現を認めたので以下の解析にはコロニーNo.2を使用した。
2−2.細胞免疫染色によるAFP発現及びサイトケラチン発現の確認
2−1.の結果を踏まえて選択した細胞(コロニーNo.2)に対して抗ヒトα-1-フェトプロテイン抗体(Dako Cytomation)および抗ヒトサイトケラチン抗体(Dako Cytomation)を用い細胞免疫染色(avidin-biotin immunoperoxidase technique)を行った。
免疫染色の結果を図2に示す。免疫染色によって、強弱の差はあるもののほとんどすべての細胞の細胞質にAFPの染色を認めた。また、サイトケラチンの発現も認め、卵黄嚢腫瘍に特徴的な蛋白の発現を免疫染色にて確認した。
2−3.ELISA法によるAFP発現の確認
75mm培養皿に細胞(コロニー2)を30x104個/mlで培養し、24、48、及び72時間後の培養液を回収し、Alfa-Fetoprotein ELISA kit(R and D SYSTEMS)を用いてAFPの分泌を検討した。
検出結果を図3に示す。細胞のAFP分泌能をELISA kitで測定すると、24時間培養液で49ng/ml、48時間培養液で146ng/ml、72時間培養液で218ng/mlと高いAPF分泌能を有していることが示された。
2−4.細胞増殖能の検討
細胞増殖能をCell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit (Promega)を用いたmodified tetrazolium salt assay (MTSアッセイ)にて検討した。その結果、細胞増殖能は代表的な上皮性卵巣癌細胞株(SKOV)と同程度であり、倍化時間は45時間であった(図4)。
2−5.増殖因子レセプターの発現の検討
細胞破砕液から回収した蛋白をウエスタンブロット法に供し、インスリン、EGFなどの増殖因子レセプターの発現を調べた。その結果、インスリンレセプターαの発現を認めた(図5)。
2−6.抗癌剤耐性の検討
細胞(コロニーNo.2)に対してシスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、パクリタキセルを各種濃度で添加し、各抗癌剤のIC50を検討した。その結果、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、及びパクリタキセルに対するIC50はそれぞれ2.8μg/ml、3.5μg/ml、122μg/ml、及び150ng/mlであった。このように、樹立された卵黄嚢細胞株はシスプラチン、カルボプラチンに対しては高感受性であったが、エトポシド、パクリタキセルに対する感受性は低かった。
2−7.抗癌剤耐性株の樹立
各抗癌剤のIC50を参考にして各種抗癌剤の耐性株の樹立を試みた。実験方法は次の通りとした。即ち、シスプラチン及びカルボプラチンを0.1μg/mlの濃度から曝露開始し、継代を行いながら2週間ごとに0.1μg/mlずつ曝露濃度を上げていき、1μg/mlで維持可能な耐性株を獲得した。
結果、シスプラチン耐性株(IC50=12.5μg/ml、約5倍耐性)と、カルボプラチン耐性株(IC50=18μg/ml、約5倍耐性)の樹立に成功した。
3.考察
悪性卵巣胚細胞腫瘍は悪性卵巣腫瘍の5〜10%と発生頻度は高くないものの、そのほとんどが35歳以下の若年女性に発症し、進行、再発癌の予後は極めて不良であり、その治療法の開発は重要な課題である。悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療としては手術に加え、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンを中心とした化学療法が行われている(非特許文献6)。しかしながら、これは精巣腫瘍を中心とした胚細胞腫瘍症例の臨床データにより決められたレジメンであり、まだまだ十分な効果が得られているとは言えず、レジメンの選択を含めさらなる治療法の開発が必要である。細胞株の樹立は悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療法の開発にとって重要である。悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株が樹立されれば、それを用いた抗癌剤感受性試験が可能となる。そして抗癌剤感受性試験の結果は、最も効果のある化学療法のレジメン決定に大きく寄与する。さらに、悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株を利用することによって、種々の増殖因子受容体、シグナル伝達物質の発現など機能解析が進み、新たな分子標的治療薬の応用、開発が可能になると考える。また、現在最も重要な課題である、シスプラチン耐性症例の治療に対して、今回樹立した細胞株のシスプラチン耐性株の機能解析を行うことによってシスプラチン耐性克服が可能になれば、悪性卵巣胚細胞腫瘍の予後は飛躍的に改善する可能性がある。以上のように、ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株の樹立は悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療につながる基礎研究をすすめるために価値あるものであると考える。
4.シスプラチン耐性株の樹立
卵黄嚢腫瘍はシスプラチンを中心とした化学療法により多くは奏功する疾患であるが、再発症例においてはシスプラチン耐性獲得によりきわめて予後不良である。(非特許文献7)また、当初よりシスプラチン耐性である場合も報告されている(非特許文献5)。さらに、卵黄嚢腫瘍の患者の中には、シスプラチンに対してアレルギーがあるがためにその使用ができず、結果として予後不良となる者もいる。以上のことから、卵黄嚢腫瘍のシスプラチン耐性メカニズムの検討が重要な課題であるとともに、新規の分子標的治療法の開発も望まれるところである。我々は、上述の通り、既に抗癌剤耐性株の樹立に成功しているが、さらに耐性の強い細胞株の樹立を目指して以下の検討を行った。
4−1.方法
卵黄嚢腫瘍細胞株(NOY1)に対してシスプラチンを0.1μg/mlより添加を行い、passageを繰り返しながら、シスプラチン濃度を徐々にあげていき(6ヶ月間)、現在3μg/mlで維持可能な細胞(NOY1CR3.0)を樹立した。この細胞株(NOY1CR3.0)におけるシスプラチンIC50の測定を行った。
4−2.結果
NOY1のシスプラチンIC50は2.8μg/mlであった。これに対してNOY1CR3.0のシスプラチンIC50は27.5μg/mlであり、NOY1よりも約10倍耐性であった(図6)。このように、卵黄嚢腫瘍細胞株の樹立に加えて、シスプラチン10倍耐性株の樹立に成功した。進行した卵黄嚢腫瘍に対してはシスプラチンを中心とした化学療法が施行され、多くの症例では治癒するが、シスプラチン耐性になった場合の予後は極めて不良である。今回樹立に成功したNOY1CR3.0のマイクロアレイや蛋白アレイの解析から、耐性機序の解明が可能になり、新規の分子標的治療も可能になる。また、シスプラチン耐性株に対する他の抗癌剤の感受性試験のデータから、セカンドラインの抗癌剤治療の薬剤選択が可能になるであろう。
5.転写因子Nkx2.5をターゲットとした、卵黄嚢腫瘍細胞株の増殖抑制効果
卵黄嚢腫瘍がα−フェトプロテイン(AFP)を産生するという特徴に着目し、AFPの転写に関与するとの報告があるNkx2.5(非特許文献8)をターゲットとした、卵黄嚢腫瘍細胞株の増殖抑制効果を検討した。
5−1.方法
まず、NOY1におけるNkx2.5の発現をウエスタンブロットにて検討した。ウエスタンブロットには抗Nkx2.5抗体(Santa cruz biotechnology,sc-8697)を使用し、SDS-PAGE後の蛋白質を電気泳動にてニトロセルロースメンブレンに転写し、抗体にて検出した。一方、卵黄嚢腫瘍組織におけるNkx2.5の発現を免疫組織染色にて検討した。インフォームドコンセントを行い、同意を得て手術時に採取した検体を試料とし、パラフィン切片を作製した。免疫組織染色には抗Nkx2.5.抗体(Santa cruz biotechnology,sc-8697)を使用し、アルカリフォスファターゼ法にて検出した。また、NOY1におけるNkx2.5.の発現をsiRNAにてノックダウンし、細胞増殖能を検討した。尚、使用したsiRNAは次の通りである。
センス鎖:5’AGAUCUGGUUCCAGAAUCA 3’(配列番号1)
アンチセンス鎖:5’UGAUUCUGGAACCAGAUCU 3’(配列番号2)
コントロールsiRNAには次のものを使用した。
センス鎖:5’ACAACAACUUCGUGAACUU 3’(配列番号3)
アンチセンス鎖:5’AAGUUCACGAAGCACUUGAA 3’(配列番号4)
5−2.結果
ウエスタンブロットの結果を図7に示す。上皮性卵巣癌の細胞株に比べてNOY1ではNkx2.5.が高発現していた(図7)。
一方、卵黄嚢腫瘍組織におけるNkx2.5.免疫組織染色にて腫瘍細胞にNkx2.5.の発現を確認した(図8)。
また、NOY1にNkx2.5.のsiRNAを導入し、Nkx2.5.発現を抑制すると、AFPの発現を抑制するとともに、細胞増殖能が72時間後で約50%抑制された(図9)。
以上のように、AFPの転写因子に着目して各種の実験を施行したところ、Nkx2.5.がNOY1に強発現していることが確認され、またsiRNAを用いたNkx2.5.のノックダウンによって細胞増殖が50%抑制された。この結果から、卵黄嚢腫瘍に対する新規治療法の確立に向けた標的(分子標的)としてNkx2.5.が有望と考えられる。
本発明によってヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株の樹立が可能となる。本発明の方法でえられる細胞株を用いれば、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍についての基礎的及び応用的研究が可能となる。即ち、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療法の確立に向けた具体的な研究開発が可能となる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
樹立に成功したヒト卵黄嚢腫瘍細胞株から回収した蛋白をウエスタンブロット法で分析した結果である。全てのレーンにおいてAFPのバンドが観察される。 ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株(コロニーNo.2)の免疫組織染色像である。左は抗ヒトα-1-フェトプロテイン抗体で染色した結果、右は抗ヒトサイトケラチン抗体で染色した結果である。 ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株(コロニーNo.2)の培養液をELISA法で分析した結果である。時間経過とともに培養液中のAFP濃度が上昇していることがわかる。 ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株(コロニーNo.2)の増殖能を示すグラフである。樹立に成功したヒト卵黄嚢腫瘍細胞株(YOLK3)はヒト卵巣癌細胞(SKOV3、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center社)と同等の増殖能を示した。 ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株(コロニーNo.2)の細胞破砕液から回収した蛋白を用いたウエスタンブロット分析の結果である。ヒト卵黄嚢腫瘍細胞株では、ヒト卵巣癌細胞(SKOV)及びヒト卵巣癌 細胞(Hey)に比較して、インスリンレセプターαが強く発現していることがわかる。 ヒト卵黄嚢細胞株(NOY1)とシスプラチン耐性株(NOY1CR3.0)のシスプラチン感受性試験の結果。 ヒト卵黄嚢細胞株(NOY1)及び各種卵巣癌細胞株におけるNkx2.5.発現の比較(ウエスタンブロットの結果)。 卵黄嚢腫瘍組織を用いた免疫組織染色の結果。左は卵黄嚢腫瘍症例1、右は卵黄嚢腫瘍症例2である。 siRNAによるNkx2.5.のノックダウンによるNOY1の増殖能の変化。

Claims (15)

  1. 以下のステップ(1)〜(3)を含む、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍の細胞株の樹立方法:
    (1)血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子を含有する培地中でヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞を含む組織片を培養するステップ;
    (2)血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子を含有する培地中で、前記組織片から遊走した細胞を培養するステップ;
    (3)増殖した細胞を継代培養するステップ。
  2. 前記培地中の前記血清の含有量が約5%(v/v)である、請求項1に記載の樹立方法。
  3. 混在する線維芽細胞の数が減少し、ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞が主体になるまでステップ(2)の培養を継続することを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹立方法。
  4. 実質的にヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞のみからなるコロニーが形成されるまでステップ(2)の培養を継続し、形成されたコロニーより細胞を採取し、採取した細胞をステップ(3)の継代培養に供することを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹立方法。
  5. ステップ(3)において継代培養の最初の数代が血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で行われ、その後の継代培養がインスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有しない培地中で行われることを特徴とする、請求項のいずれかに記載の樹立方法。
  6. ステップ(3)において継代培養の第3代〜第5代までが血清、インスリン及び上皮細胞増殖因子(EGF)を含有する培地中で行われることを特徴とする、請求項に記載の樹立方法。
  7. 前記ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞がヒト卵黄嚢腫瘍細胞又はヒト未分化胚細胞腫細胞であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の樹立方法。
  8. 前記ヒト悪性卵巣胚細胞腫瘍細胞がヒト卵黄嚢腫瘍細胞であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の樹立方法。
  9. 請求項に記載の方法で樹立され、α−フェトプロテイン及びサイトケラチン陽性のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株。
  10. 受託番号がFERM P−21055である、請求項に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株。
  11. 請求項又は10に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株を抗癌剤に曝露することによって、該抗癌剤への耐性を獲得した耐性ヒト細胞。
  12. 請求項又は10に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株をシスプラチン又はカルボプラチンに曝露することによって、シスプラチン又はカルボプラチンへの耐性を獲得した耐性ヒト細胞。
  13. 培養液中のシスプラチン濃度が3μ/mlで維持可能である、請求項12に記載の耐性ヒト細胞。
  14. シスプラチンに対する耐性が、請求項10に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株の約10倍である、請求項12に記載の耐性ヒト細胞。
  15. 被検物質の存在下、請求項若しくは10に記載のヒト卵黄嚢腫瘍細胞株、又は請求項1114のいずれかに記載の耐性ヒト細胞を培養し、該細胞の生存率を測定・評価することを特徴とする、ヒト卵黄嚢腫瘍に対して有効な物質のスクリーニング方法。
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