JP7224765B2 - 燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法に関するものである。
ディーゼルエンジンのシリンダを往復するピストンの頂部には、凹状のキャビティが形成され、キャビティを有するピストンの頂部とシリンダの内面によって囲まれた空間に燃焼室が形成される。キャビティの形状に応じて、燃料の燃焼の際に発生するスート(Soot;すす)の量が増減する。
下記の特許文献1及び2には、燃焼室のキャビティの形状を変更することによって、燃料と空気の混合の程度を高め、燃料の燃焼により生じるスートを低減する技術が開示されている。
また、シリンダ内に形成された燃焼室内へ燃料を噴射するタイミングを調整することによって、スートの発生量を抑制できる。燃料の噴射タイミングは、エンジンの運転条件(例えば、エンジン回転数や燃料噴射量)に応じて細かく設定されており、実際の運転条件にしたがって燃料の噴射タイミングが制御される。燃料の噴射タイミングは、例えばキャビティ内部、又は、キャビティ外部のいずれかに燃料が偏ることで、局所的な燃料リッチ領域が形成されるのを防ぎ、スートの発生量が最小限になるように設定されている。
特許第5338268号公報(特開2010-121483号公報) 特開2013-53572号公報
スートの発生量は、噴射された燃料がキャビティに到達する位置(燃料到達位置)が関係している。製造販売当初、スートの発生量が最小限になるように燃料到達位置が設定されている。燃料到達位置がわずかに変化することによって、スートの発生量が大きく変化するため、燃料到達位置の設定が重要である。
一方、燃料に混入した不純物によって生じる流路断面積の低減などを原因として、インジェクタ9が劣化すると、単位時間当たりの燃料噴射量が減少する。これに対し、1回当たりの燃料噴射量は維持されるため、燃料噴射期間が長期化する。その結果、実際の運転条件に応じて燃料噴射タイミングが制御されたとしても、経時劣化によって燃料到達位置が製造販売当初と比べて変化し、スート発生量が徐々に増加するおそれがある。これは、キャビティ内外の燃料分配比率が変化することによる。
スート発生量の増加に対して、インジェクタ9等の燃料噴射装置を交換することが考えられるが、費用や手間を考慮すると、燃料噴射装置の交換は困難である。
また、発生したスートを後流側に設置されたDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)によって除去することができるが、DPFの再生処理には燃料が用いられる。そのため、DPF再生処理の頻度、すなわち、燃料消費量を低減するためには、スートの発生量を低減して、DPFへの依存度をできるだけ減らすことが望ましい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、燃料噴射装置の経時変化に関わらず、適切なタイミングで燃料を噴射することができ、燃料の燃焼によって生じるスート(すす)の発生量を抑制することが可能な燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る燃料噴射制御装置は、シリンダと前記シリンダ内を往復するピストンとを有し、前記ピストンの頂部に燃焼室の一部を構成する凹部が形成されたエンジンの燃料噴射装置を制御する燃料噴射制御装置であって、前記燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記実際の燃料噴射期間と基準となる燃料噴射期間を比較する第1比較部と、前記第1比較部における比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制するように、前記燃焼室に噴射される前記燃料の噴射期間を決定する第1決定部と、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御する噴射制御部と、エンジン負荷を検出する負荷検出部と、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第1閾値を比較する第2比較部と、前記第2比較部における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断する第1判断部とを備え、前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、前記噴射制御部が、前記実際の燃料噴射圧力を維持し、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するとともに、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間は、前記凹部内外における燃料の分配比率である燃料分配比率が、前記基準となる燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになるように、前記噴射制御部によって開始時期及び/又は終了時期が変更される
この構成によれば、燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間が取得されて、所定の閾値と比較され、比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスート(すす)の発生量を抑制するように、燃料の噴射期間が決定される。そして、決定された噴射期間に基づいて燃料を噴射するように燃料噴射装置が制御される。その結果、燃料噴射期間に燃料が噴射されることから、経時劣化などによって燃料噴射期間が当初の期間からずれた場合でも、適切なタイミングで燃料を噴射することができ、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制できる。
また、燃料噴射期間が長期化したとしても、スート排出量の悪化を可能な限り抑制することができる。
上記発明において、エンジン負荷を検出する負荷検出部と、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第1閾値を比較する第2比較部と、前記第2比較部における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断する第1判断部とを備え、前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、前記噴射制御部が、前記実際の燃料噴射圧力を維持し、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御し、前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できると判断された場合、前記噴射制御部は、前記実際の燃料噴射圧力を上昇させ、前記実際の燃料噴射期間を短縮させてもよい。
この構成によれば、検出されたエンジン負荷が所定の第1閾値と比較され、比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かが判断される。そして、第1判断部において実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、噴射制御部は、第1決定部によって決定された噴射期間に基づいて燃料を噴射するように燃料噴射装置を制御する。一方、第1判断部において実際の燃料噴射圧力を上昇できると判断された場合、噴射制御部は、実際の燃料噴射圧力を上昇させ、実際の燃料噴射期間を短縮させる。
上記発明において、前記第2比較部は、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第2閾値を比較し、前記第1判断部は、前記第2比較部における比較結果に基づいて、前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力の補正の要否を判断し、前記第1判断部において前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力の補正が不要であると判断された場合、前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力を維持してもよい。
この構成によれば、検出されたエンジン負荷が第2閾値と比較され、比較結果に基づいて、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力の補正の要否が判断される。例えば、低負荷(又は無負荷)運転条件では、空気過剰率が高く、燃料噴射量が低いため、燃料噴射期間を変化させ、キャビティへの燃料の到達位置を変化させたとしても、スートの発生量にはほとんど影響がない。したがって、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力を補正せず、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力を維持する。
上記発明において、前記エンジンから排出された排ガスを燃焼用空気に混合する排ガス再循環部と、前記排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であるか否かを判断する第2判断部と、前記第2判断部において前記排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であると判断された場合、再循環する排ガス量を決定する第2決定部とを備えてもよい。
この構成によれば、エンジンから排出された排ガスを燃焼用空気に混合する排ガス再循環部を備え、排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であるか否かが判断される。そして、第2判断部において排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であると判断された場合、再循環する排ガス量が決定される。これにより、排ガスの再循環が適切に行われ、燃料噴射期間を変更した場合でも、NOx排出量の増加を抑制できる。
本発明に係る燃料噴射制御方法は、シリンダと前記シリンダ内を往復するピストンとを有し、前記ピストンの頂部に燃焼室の一部を構成する凹部が形成されたディーゼルエンジンの燃料噴射装置を制御する燃料噴射制御方法であって、取得部が、燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間を取得するステップと、第1比較部が、前記取得部によって取得された前記燃料噴射期間と基準となる燃料噴射期間を比較するステップと、第1決定部が、前記第1比較部における比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制するように、前記燃焼室に噴射される前記燃料の噴射期間を決定するステップと、噴射制御部が、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するステップと、負荷検出部が、エンジン負荷を検出するステップと、第2比較部が、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第1閾値を比較するステップと、第1判断部が、前記第2比較部における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断するステップと、を備え、前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、前記噴射制御部が、前記実際の燃料噴射圧力を維持し、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するとともに、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間は、前記凹部内外における燃料の分配比率である燃料分配比率が、前記基準となる燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになるように、前記噴射制御部によって開始時期及び/又は終了時期が変更される
本発明によれば、燃料噴射装置の経時変化に関わらず、適切なタイミングで燃料を噴射することができ、燃料の燃焼によって生じるスート(すす)の発生量を抑制することができる。
本発明の一実施形態に係る排ガス再循環システムを示す構成図である。 本発明の一実施形態に係る排ガス再循環システムのシリンダを示す概略図である。 本発明の一実施形態に係る排ガス再循環システムの制御部を示すブロック図である。 本発明の一実施形態に係る排ガス再循環システムの動作を示すフローチャートである。 燃料噴射(駆動電流)とクランク角度の関係を示すグラフである。 スート排出量とNOx排出量の関係を示すグラフである。
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る排ガス再循環システム1は、図1に示すように、例えば4気筒を有するディーゼルエンジン(以下「エンジン」という。)2と、圧縮機3A、タービン3B及び回転軸3Cを有する過給機3と、吸気流路5と、排気流路6と、再循環流路7などを備える。
エンジン2は、シリンダ8と、インジェクタ(燃料噴射弁)9などを有する。ピストン11は、図2に示すように、シリンダ8の内部で往復動する。ピストン11の上面とシリンダ8の内面との間には、燃焼室10が形成される。ピストン11の上面(頂部)には、凹状のキャビティ12が形成される。キャビティ12が有する形状によって、燃料と空気の混合の程度が高まり、燃料の燃焼により生じるスート(すす)が低減される。インジェクタ9は、燃料噴射ポンプなど共に燃料噴射装置を構成する。
エンジン2の燃焼室10には、インジェクタ9によって燃料が噴射されて、燃焼室10内で燃料が燃焼し、これによって所定のエンジン出力が得られる。
燃焼室10には吸気流路5が接続され、吸気ポートを開閉する吸気弁が設けられている。また、燃焼室10には排気流路6が接続され、排気ポートを開閉する排気弁が設けられている。吸気流路5に設けられたスロットル弁によって吸気(空気)量が調整され、その調整された吸気が圧縮機3Aによって圧送され、インタークーラー13及び吸気弁を介して各シリンダ8内へ供給される。
インジェクタ9が、制御部20によって開閉動作されることにより、シリンダ8内の燃焼室10に噴射される燃料噴射量や燃料噴射圧力、燃料噴射期間が制御される。
燃焼室10内で燃料が燃焼すると、燃焼ガスが発生し、その燃焼ガスが排ガスとなって排気弁から排気流路6に導かれる。また、排ガスはタービン3Bを通過し、排気流路6に設けられているDPFやNOx吸蔵触媒などを通過して大気へ放出される。圧縮機3Aとタービン3Bは回転軸3Cを介して接続されている。
排気流路6の途中には、排気流路6を流通する排ガスの一部を吸気流路5に再循環させるための再循環流路7が接続されている。再循環流路7は、エンジン2から排出された排ガスを、吸気流路5を流れる燃焼用空気に混合する。再循環流路7には、再循環された排ガス(EGRガス)を冷却するEGRクーラー14及びEGRガス流量を制御するEGR弁15が設けられている。
制御部20は、図3に示すように、取得部21と、第1比較部22と、第1決定部23と、負荷検出部24と、第2比較部25と、第1判断部26と、噴射制御部27と、第2判断部28と、第2決定部29と、再循環制御部30と、メモリ40等を有する。制御部20の動作は、予め記録されたプログラムを実行して、CPU等のハードウェア資源によって実現される。
取得部21は、実際のインジェクタ駆動電流期間と、基準電流期間をそれぞれ取得する。インジェクタ駆動電流は、インジェクタ9が開放されるように駆動される際、流れる電流であり、インジェクタ駆動電流期間は、運転時においてインジェクタ駆動電流が実際に流れている期間である。すなわち、インジェクタ駆動電流期間は、燃料が実際に噴射されている実際の燃料噴射期間と一致又は近似している。
基準電流期間は、予め決められメモリ(記憶部)40に記録されている。基準電流期間は、設計・製造当初に決められた最適なインジェクタ駆動電流期間である。基準電流期間は、設計・製造当初に決められた基準燃料噴射期間と一致又は近似している。基準燃料噴射期間は、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量などを考慮して決定される。なお、基準電流期間は、予め決められた閾値の一例である。
第1比較部22は、取得されたインジェクタ駆動電流期間と、取得された基準電流期間を比較する。
第1決定部23は、第1比較部22における比較結果に基づいて、噴射される燃料の噴射期間を決定する。第1比較部22における比較結果において、インジェクタ駆動電流期間が基準電流期間以下である場合、第1決定部23は、通常の燃料噴射制御における燃料噴射期間を実際の燃料噴射期間として決定する。第1比較部22における比較結果において、インジェクタ駆動電流期間が基準電流期間を超える場合、第1決定部23は、燃料の燃焼によって生じるスート(すす)の発生量を抑制するように、燃料噴射期間又は燃料噴射圧力の補正量を算出する。また、第1決定部23は、燃料噴射期間又は燃料噴射圧力を補正して、実際の燃料噴射期間又は燃料噴射圧力として決定する。
負荷検出部24は、エンジン2におけるエンジン負荷を検出する。なお、エンジン負荷は、空気量センサ(エアフロメーターなど)を活用し、取得された空気過剰率の値で、エンジン2の負荷を検出してもよい。
第2比較部25は、負荷検出部24によって検出されたエンジン負荷と閾値(第1閾値又は第2閾値)を比較する。
第1判断部26は、第1閾値を用いた第2比較部25における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断する。第1判断部26は、第2閾値を用いた第2比較部25における比較結果に基づいて、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力の補正の要否を判断する。
噴射制御部27は、第1決定部23によって決定された燃料噴射期間又は燃料噴射圧力に基づいて燃料を噴射するように燃料噴射装置を制御する。
例えば、第1判断部26において燃料噴射圧力を上昇する調整を行うことができないと判断された場合、噴射制御部27は、燃料噴射圧力を維持し、第1決定部23によって補正された燃料噴射期間に基づいて燃料を噴射するように燃料噴射装置を制御する。一方、第1判断部26において燃料噴射圧力を上昇できると判断された場合、噴射制御部27は、実際の燃料噴射開始時期を変更せず、第1決定部23によって決定された燃料噴射圧力に基づいて実際の燃料噴射圧力を上昇させる。実際の燃料噴射圧力が上昇することによって、実際の燃料噴射期間が短縮する。
第2判断部28は、エンジン2における排気圧力と給気圧力の関係に基づいて、再循環流路7による排ガスの再循環が可能であるか否かを判断する。
第2判断部28において再循環流路7による排ガスの再循環が可能であると判断された場合、第2決定部29は、再循環する排ガス量を決定する。
再循環制御部30は、第2決定部29によって決定された再循環排ガス量に基づいてEGR弁15の開度を調整する。
次に、図4を参照して、本実施形態に係る排ガス再循環システム1の動作について説明する。
制御部20において、まず、インジェクタ駆動電流期間が取得される(ステップS1)。インジェクタ駆動電流期間は、燃料が実際に噴射されている実際の燃料噴射期間と一致又は近似しているため、インジェクタ駆動電流期間が取得されることによって、燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間が取得される。
また、実際の燃料噴射期間の長短を判断するため、予め決められメモリ40に記録された基準電流期間が取得される(ステップS1)。基準電流期間は、設計・製造当初に決められた基準燃料噴射期間と一致又は近似しているため、基準電流期間が取得されることによって、燃料噴射装置における基準燃料噴射期間が取得される。
次に、取得されたインジェクタ駆動電流期間と、取得された基準電流期間を比較する(ステップS2)。インジェクタ駆動電流期間が基準電流期間以下である場合は、当初決められたインジェクタ駆動電流期間が劣化等によって長期化していないと考えられるため、通常の燃料噴射制御を行う(ステップS9)。
一方、インジェクタ駆動電流期間が基準電流期間を超えている場合、当初決められたインジェクタ駆動電流期間が劣化等によって長期化している可能性がある。この場合、エンジン2の負荷に応じて適切な燃料噴射制御を行う。
エンジン2の負荷が所定の負荷(例えば50%)以下である低負荷(又は無負荷)運転条件の場合、燃料噴射量が低く、エンジン2の燃焼室10内部には、必要な燃料噴射量に対して十分に多い(過剰な)空気が存在する。すなわち、低負荷(又は無負荷)運転条件では、空気過剰率が高く、燃料噴射量が低い。このような条件下では、燃料噴射期間が変化した結果、キャビティ12への燃料の到達位置、すなわち、キャビティ12内外の燃料噴射率が変化したとしても、スートの発生量にはほとんど影響がない。したがって、本実施形態に係る燃料噴射制御を行わずに、通常の燃料噴射制御を行ってもよい。すなわち、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力を補正せず、実際の燃料噴射期間又は実際の燃料噴射圧力を維持する。
そこで、エンジン2の負荷が所定の負荷(例えば50%)を超えているか否かを判断する(ステップS3)。この判断は、エンジン2の負荷を検出する負荷検出部24による検出結果に基づいて行われる。または、空気量センサ(エアフロメーターなど)を活用し、取得された空気過剰率の値で、エンジン2の負荷が所定の負荷(例えば50%)を超えているか否かを判断してもよい。
エンジン2の負荷が所定の負荷(例えば50%)以下である場合は、スートの発生量にはほとんど影響がないことから、通常の燃料噴射制御を行う(ステップS9)。
一方、エンジン2の負荷が所定の負荷(例えば50%)を超えている場合、すなわち、エンジン2の負荷が中負荷又は高負荷である場合は、エンジン2の負荷に応じて適切な燃料噴射制御を行う。
次に、取得されたインジェクタ駆動電流期間と取得された基準駆動電流期間との差分を算出し、算出された差分に基づいて、燃料噴射期間を変更するための補正量を算出する(ステップS4)。燃料噴射期間の変更は、(1)燃料噴射圧力を増加させて燃料噴射期間を短縮しつつ、終了時期を変更して予め決められた基準燃料噴射期間に燃料が噴射されるようにしてもよいし、(2)燃料噴射圧力を維持させて燃料噴射期間を短縮せずに、燃焼室キャビティ内外の燃料比率を維持して、燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期を変更するようにしてもよい。
また、燃料噴射期間を変更する際、NOx排出量の低減を図ることが望ましい。したがって、燃料噴射期間を変更する場合、排ガス再循環(EGR)が可能であるか否かを判断する(ステップS5)。EGRが可能である場合、排ガスの再循環率を変更する。一方、EGRが不可能であり、燃料噴射時期又は燃料噴射圧力の変更によってNOx排出量が増加するおそれがある場合は、燃料噴射時期を変更する制御を行わずに、通常の燃料噴射制御を行う(ステップS9)。なお、EGRが不可能である場合でも、燃料噴射時期の変更によってNOx排出量が規制値を超えないことが確実であれば、本実施形態に係る燃料噴射時期又は燃料噴射圧力を変更する制御を行う。
EGRが可能である条件とは、エンジン2の排気圧力が給気圧力よりも高いことである。エンジン2の排気圧力と給気圧力の関係は、エンジン2の運転条件(例えば回転数、負荷など)から判断できる。したがって、事前に実施する製品試験などによって、エンジン2の運転条件(例えば回転数、負荷など)との関係でEGRが可能であるかを把握しておき、制御マップにおいてEGRの可否を登録しておく。または、給気圧力センサ及び排気圧力センサを設置して、各センサで検出された値に基づいて、EGRの可否を判断してもよい。
エンジン2の性能を高めるため、エンジン2の負荷が高負荷(例えば80%以上)である条件下では、燃料噴射圧力は上限値、すなわち、制御可能な圧力の最大値が用いられることが多い。この場合、燃料噴射圧力を上昇させて、燃料噴射期間を短縮することが困難である。したがって、燃料噴射圧力の調整が困難な高負荷の条件下では、燃料噴射圧力を維持したまま、燃料噴射期間の開始時期及び終了時期を変更する制御を行う。
そこで、所定の最大燃料噴射圧力との関係で燃料噴射圧力を上昇できるか否かを判断する(ステップS6)。
所定の最大燃料噴射圧力との関係で燃料噴射圧力を上昇できる場合、実際の燃料噴射開始時期を維持したまま、実際の燃料噴射圧力を上昇させて燃料噴射期間を短縮する(ステップS7)。その結果、実際の燃料噴射終了時期が変更、すなわち早期化されて、予め決められた基準燃料噴射期間に燃料が噴射されるようになる。このとき、排ガスの再循環率も変更する(ステップS7)。
一方、所定の最大燃料噴射圧力との関係で燃料噴射圧力を上昇できない場合、燃料噴射圧力を維持したまま、燃料噴射期間の開始時期及び終了時期を変更する制御を行う(ステップS8)。この場合、キャビティ12内外の燃料分配比率を基準燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになるように維持する。これにより、スート排出量の悪化を可能な限り抑制することができる。このとき、排ガスの再循環率も変更する(ステップS8)。
具体的には、図2に示すように、インジェクタ9からの燃料噴射方向とキャビティ12の幾何学的形状から、噴射された燃料がキャビティ12内部に入る又は入らないの境界となるクランク角度Bを把握する。燃料噴射開始クランク角度をA、燃料噴射終了クランク角度をCとする。このとき、燃料噴射(駆動電流)とクランク角度の関係は、図5に示すようになる。
インジェクタ9が劣化する前は、劣化後に比べて、燃料噴射期間が短い。これに対し、インジェクタ9が劣化すると、燃料噴射期間が長期化し、燃料噴射開始時期(A)を不変とした場合、燃料噴射終了時期(C)が遅れる。本実施形態では、インジェクタ9の劣化による燃料噴射期間の長期化が発生した場合、|A-B|/|B-C|の比率が、実際の燃料噴射期間と基準燃料噴射期間とで同じになるように、燃料噴射開始クランク角度Aを進角させる。このとき、実際の燃料噴射期間の長さは維持する。
実際の燃料噴射期間において、燃料噴射開始クランク角度Aを進角させて(A-B)/(B-C)の比率が、基準燃料噴射期間と同じになることで、キャビティ12内外の燃料分配比率が基準燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになる。これにより、燃料噴射期間が長期化して燃料噴射終了クランク角度Cが遅角して、(A-B)/(B-C)の比率が、基準燃料噴射期間と異なってしまうことを抑制できる。その結果、燃料噴射期間が長期化したとしても、スート排出量の悪化を可能な限り抑制することができる。
以下、NOxの排出量制御について更に説明する。
EGRが可能であり、排ガス再循環率を変更する場合、NOx排出量は、インジェクタ9の劣化前、すなわち、製品完成時と同等又はそれ以下となるように排ガス再循環率を変更することが望ましい。事前に実施する製品試験などによって、燃料噴射圧力又は燃料噴射時期と、NOx排出量と、排ガス再循環率(EGRバルブの開度)との関係を把握しておき制御マップとして登録しておく。そして、制御マップに基づいて、本実施形態に係る制御によって設定される燃料噴射圧力、燃料噴射時期の補正量に基づき、NOx排出量が所定値以下となるように、EGRバルブの開度を調整する。
これにより、補正によって、燃料噴射圧力又は燃料噴射時期が変更された場合でも、NOx排出量が製品完成時と同等又はそれ以下となる。図6には、スート排出量とNOx排出量の関係を示す。インジェクタ9の劣化によって、スート排出量が上昇しているところ(a)、上述した本実施形態の燃料噴射制御によって、スート排出量を低減できる(b-1,b-2)。一方、燃料噴射時期又は燃料噴射圧力の変更によってNOx排出量が増加するおそれがある(b-1,b-2)。なお、b-1,b-2の値は一例であり、上下関係は反対の場合もある。これに対し、制御マップに基づいて、本実施形態に係る制御によって設定される燃料噴射圧力、燃料噴射時期の補正量に基づいて、EGRバルブの開度を調整することによって、NOx排出量を所定値以下とすることができる(c)。
以上、本実施形態によれば、燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間が取得されて、所定の閾値と比較され、比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスート(すす)の発生量を抑制するように、燃料の噴射期間が決定される。そして、決定された噴射期間に基づいて燃料を噴射するように燃料噴射装置が制御される。その結果、燃料噴射期間に燃料が噴射されることから、経時劣化などによって燃料噴射期間が当初の期間からずれた場合でも、適切なタイミングで燃料を噴射することができ、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制できる。
したがって、インジェクタ9等の燃料噴射装置を交換する場合にくらべて、費用や手間を低減できる。また、スートの発生量が抑制されることから、DPF再生処理の頻度、すなわち、燃料消費量が低減し、DPFへの依存度を減らすことができる。
上記実施形態では、低負荷(又は無負荷)運転条件において、通常の燃料噴射制御を行うとしたが、本発明はこの例に限定されない。低負荷(又は無負荷)運転条件においても、後述する本実施形態に係る燃料噴射制御を行ってもよい。
1 :排ガス再循環システム
2 :エンジン
3 :過給機
3A :圧縮機
3B :タービン
3C :回転軸
5 :吸気流路
6 :排気流路
7 :再循環流路
8 :シリンダ
9 :インジェクタ
10 :燃焼室
11 :ピストン
12 :キャビティ
13 :インタークーラー
14 :EGRクーラー
15 :EGR弁
20 :制御部
21 :取得部
22 :第1比較部
23 :第1決定部
24 :負荷検出部
25 :第2比較部
26 :第1判断部
27 :噴射制御部
28 :第2判断部
29 :第2決定部
30 :再循環制御部
40 :メモリ

Claims (5)

  1. シリンダと前記シリンダ内を往復するピストンとを有し、前記ピストンの頂部に燃焼室の一部を構成する凹部が形成されたエンジンの燃料噴射装置を制御する燃料噴射制御装置であって、
    前記燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間を取得する取得部と、
    前記取得部によって取得された前記実際の燃料噴射期間と基準となる燃料噴射期間を比較する第1比較部と、
    前記第1比較部における比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制するように、前記燃焼室に噴射される前記燃料の噴射期間を決定する第1決定部と、
    前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御する噴射制御部と、
    エンジン負荷を検出する負荷検出部と、
    前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第1閾値を比較する第2比較部と、
    前記第2比較部における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断する第1判断部と、
    を備え、
    前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、前記噴射制御部が、前記実際の燃料噴射圧力を維持し、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するとともに、
    前記第1決定部によって決定された前記噴射期間は、前記凹部内外における燃料の分配比率である燃料分配比率が、前記基準となる燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになるように、前記噴射制御部によって開始時期及び/又は終了時期が変更される燃料噴射制御装置。
  2. 前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できると判断された場合、前記噴射制御部は、前記実際の燃料噴射圧力を上昇させ、前記実際の燃料噴射期間を短縮させる請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
  3. 前記第2比較部は、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第2閾値を比較し、
    前記第1判断部は、前記第2比較部における比較結果に基づいて、前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力の補正の要否を判断し、
    前記第1判断部において前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力の補正が不要であると判断された場合、前記実際の燃料噴射期間又は前記実際の燃料噴射圧力を維持する請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
  4. 前記エンジンから排出された排ガスを燃焼用空気に混合する排ガス再循環部と、
    前記排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であるか否かを判断する第2判断部と、
    前記第2判断部において前記排ガス再循環部による排ガスの再循環が可能であると判断された場合、再循環する排ガス量を決定する第2決定部と、
    を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射制御装置。
  5. シリンダと前記シリンダ内を往復するピストンとを有し、前記ピストンの頂部に燃焼室の一部を構成する凹部が形成されたディーゼルエンジンの燃料噴射装置を制御する燃料噴射制御方法であって、
    取得部が、燃料噴射装置における実際の燃料噴射期間を取得するステップと、
    第1比較部が、前記取得部によって取得された前記燃料噴射期間と基準となる燃料噴射期間を比較するステップと、
    第1決定部が、前記第1比較部における比較結果に基づいて、燃料の燃焼によって生じるスートの発生量を抑制するように、前記燃焼室に噴射される前記燃料の噴射期間を決定するステップと、
    噴射制御部が、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するステップと、
    負荷検出部が、エンジン負荷を検出するステップと、
    第2比較部が、前記負荷検出部によって検出された前記エンジン負荷と所定の第1閾値を比較するステップと、
    第1判断部が、前記第2比較部における比較結果に基づいて、所定の最大燃料噴射圧力との関係で実際の燃料噴射圧力を上昇する補正を行うことができるか否かを判断するステップと、
    を備え、
    前記第1判断部において前記実際の燃料噴射圧力を上昇できないと判断された場合、前記噴射制御部が、前記実際の燃料噴射圧力を維持し、前記第1決定部によって決定された前記噴射期間に基づいて前記燃料を噴射するように前記燃料噴射装置を制御するとともに、
    前記第1決定部によって決定された前記噴射期間は、前記凹部内外における燃料の分配比率である燃料分配比率が、前記基準となる燃料噴射期間の燃料分配比率と同じになるように、前記噴射制御部によって開始時期及び/又は終了時期が変更される燃料噴射制御方法。
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