JP7221079B2 - エポキシ樹脂組成物、絶縁性成形体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
近年の地球温暖化に際して、電力用機器に関してもCO2の排出抑制や石油資源の使用量節減が求められており、エポキシ樹脂を用いた電力用機器においても植物由来材料であるエポキシ化植物油を主剤として用いることが提案されている。
例えば、下記特許文献2には、エポキシ化大豆油を主剤とする絶縁性高分子材料組成物が記載されており、また下記特許文献3には、エポキシ樹脂、石炭灰、硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ、高電圧機器の絶縁媒体に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物が提案されており、エポキシ樹脂としてエポキシ化亜麻仁油を使用できることが記載されている。
本発明の他の目的は、優れた機械的特性及び耐熱性を有すると共に、耐サーマルショック性にも優れた絶縁性成形体及びその製造方法を提供することである。
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で配合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で配合されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物が提供される。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、
1.前記3級アミンが、ベンジルジメチルアミンであること、
2.90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下であること、
が好適である。
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で混合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で混合されることを特徴とするエポキシ樹脂成形体の製造方法が提供される。
また本発明のエポキシ樹脂組成物においては、更にポリシルセスキオキサンを配合することにより、従来の電力用機器に使用されていた石油由来のエポキシ樹脂組成物と同程度の温度及び時間で硬化しても、硬化後のクラックの発生を抑制することができ、耐クラック性に優れている。また、コイル等の内蔵物の耐熱特性に応じた温度条件で成形可能であることから、種々の電力用機器に対応することができる。
更に本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法においては、ポリシルセスキオキサンの凝集を生じることなく混合可能であり、上述した特性を有するエポキシ樹脂組成物を効率よく調製することが可能であり、エポキシ樹脂組成物全体のバイオマス比率が向上されている。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ化亜麻仁油、酸無水物から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、溶融石英から成る充填剤、及びポリシルセスキオキサンを含有することが重要な特徴である。
また本発明のエポキシ樹脂組成物は、流動性に優れており、90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下に調整されている。
本発明で用いるエポキシ化亜麻仁油は、従来可塑剤等に用いられていた市販のものを使用することができ、これに限定されないが、エポキシ当量が175~185g/eqの範囲にあるものを好適に用いることができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、硬化剤として酸無水物系硬化剤を用いることが重要な特徴である。すなわち、前述したとおり、フェノール系硬化剤を用いた場合には樹脂組成物の流動性が低いことから、細かな内蔵品を備える成形体を成形する際に樹脂組成物を細部まで効率よく行き渡らせることが困難であったが、酸無水物系硬化剤によれば、樹脂組成物の流動性を改良することが可能となる。このような酸無水物系硬化剤としては、酸無水物又は該酸無水物の変性物を使用することができる。
酸無水物の配合量は、用いるエポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する酸無水物当量から決定することができ、エポキシ基と酸無水物基の比が0.9~1.1、特に0.95~1.05の範囲にあることが好ましく、これにより充分な硬化特性を得ることができ、電力用機器に要求される機械的強度及び耐熱性を得ることが可能になる。
本発明においては、硬化促進剤として、3級アミン化合物を用いる。これによりエポキシ化亜麻仁油のエポキシ基と酸無水物系硬化剤との反応を促進させ、成形時間を低減させることが可能になる。
このような3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等を例示することができるが、本発明においては、特にベンジルジメチルアミンを好適に用いることができる。
3級アミン系硬化促進剤の配合量は、成形プロセス条件にもよるが、例えばベンジルジメチルアミンを使用する場合、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、0.5~2重量部、特に0.5~1.0重量部の量で配合することが好適である。3級アミン系硬化促進剤の配合量が上記範囲にあることにより、電力用機器に要求される機械的強度及び耐熱性を得ることが可能になる。
本発明においては、充填剤として溶融石英を用いる。
溶融石英の平均粒径は、これに限定されないが、10~30μmの範囲にあることが望ましい。また溶融石英は、シラン処理が施されていてもよい。
溶融石英は、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、450~500重量部、特に475~500重量部の量で配合することが、線膨張率を好適な範囲に維持し、成形体の耐クラック性を向上することができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、ポリシルセスキオキサンを含有することが重要な特徴である。ポリシルセスキオキサンは、下記化学式(1)で示される構成単位を有するポリシロキサンであり、分子内に「Si-O―Si」結合が示す無機の特性(例えば、高い硬度)及び有機官能基「R」が示す有機の特性(例えば、エポキシ樹脂に対する優れた相溶性や分散性等)を兼ね備え、エポキシ樹脂の加工性や機械的性質を保ちながらポリマー鎖の動きをコントロールすることが可能である。本発明においては、かかるポリシルセスキオキサンを配合することにより、硬化剤として酸無水物を用いることと相俟って、樹脂組成物の流動性及び耐クラック性を改良することができる。
[(RSiO3/2)]n・・・(1)
上記式(1)中、nは、1以上の整数を示し、「R」は、炭素数1~12個(以下、「C1~C12」とも記載する)のアルキル基、C2~C12のアルケニル基、C2~C12のアルキニル基、C6以上のシクロアルキル基およびC6以上のアリール基等の1価の有機酸である。
また、「R」は、ポリシルセスキオキサンを構成する上記式(1)で示されるユニット間で同一であってもよく、また、異なっていてもよい。かかるポリシルセスキオキサンは、例えば、C1~C12のアルキル基を有するアルコキシシランを加水分解縮合物として得られるものである。
具体的なアルコキシシランとしては、C1~C3のアルコキシ基を有するシラン、すなわち、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトシキシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明において、上述したエポキシ樹脂組成物が有する優れた特性を損なうことなく、成形体を製造するには下記の工程により製造することが望ましい。
すなわち、エポキシ化亜麻仁油と溶融石英を混合する工程A、酸無水物から成る硬化剤とポリシルセスキオキサンを混合する工程B、前記工程Aで得られたエポキシ混合物と、前記工程Bで得られた混合物、及び3級アミン化合物から成る硬化促進剤を混合する工程C、及び該工程Cで得られたエポキシ樹脂組成物を90~110℃で20~55時間加熱硬化させることが重要である。
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、上記工程Bで酸無水物系硬化剤とポリシルセスキオキサンを予め混合してから、上記工程Aで溶融石英と混合されたエポキシ化亜麻仁油に配合することが重要であり、これにより、樹脂組成物の粘度を低減し、所望の流動性を確保することが可能になる。
本発明においては、上述したエポキシ樹脂組成物を、90~110℃の温度、好適には95~105℃の温度で、20~55時間、好適には45~55時間加熱した後、徐冷する。最も好適には100℃で49時間加熱した後徐冷し、徐冷時間を含めて合計63時間加熱する。これにより、クラックの発生のない絶縁性成形体を効率よく成形することができる。
このように本発明のエポキシ樹脂組成物においては、植物由来でないエポキシ樹脂を用いた場合と同程度の温度と時間で硬化させることが可能であり、これによりクラックの発生がない成形体を成形できると共に、成形後の急激な温度変化に対してもクラックを発生し難い、耐サーマルショック性を具備する成形体を成形することが可能になる。
また本発明の成形体は、溶融石英を除いた樹脂組成物中のエポキシ化亜麻仁油の重量比率であるバイオマス比率が40重量%以上であり、環境負荷が低減されている。
(実施例1、比較例1~5)
表1に示す材料を用いて、表2(実施例及び比較例)に示す組成のエポキシ樹脂組成物を調製した。
外径50mm、高さ15mmの円筒状の型を用い、型中心にM24スプリングワッシャを配置した後、調製されたエポキシ樹脂組成物を充填し、表2に示す成形条件で、円筒状成形体を成形した。
得られた成形体について、ガラス転移温度、曲げ強度を、上述したJIS規格に準拠して測定した。結果を表2に示す。
充填剤を除いた樹脂成分において、植物由来成分の重量比率を算出した。結果を表2に示す。
成形終了時にクラックの発生の有無を目視により確認した。結果を表2に示す。
成形終了時にクラックを発生していない成形体について、以下の試験方法により耐サーマルショック性の評価を行った。
熱槽溶媒として水、冷槽溶媒としてエタノールを用い、表3に示す温度の熱槽及び冷槽を準備し、成形体(n=5)を入れたカゴを、熱槽と冷槽に交互に表3に示す順序で10分間浸漬した。尚、浸漬中の溶媒温度は規定温度±3℃以内に保持した。成形体が熱槽と冷槽とを移動する時間は1分間とし、その間にクラックの有無を確認した。結果を表2に示す。
尚、表2における耐サーマルショック性(耐クラック性)の評価の表記は、現行石油由来エポキシ樹脂を使用した比較例5(100℃から0℃の冷槽に浸漬された際にクラックが発生)を基準として、以下のように表記した。
○:基準と同等
×:基準より劣る(成形終了時にクラックが発生)
実施例1の成形体は、石油由来のエポキシ樹脂と比較して機械的強度に劣る植物由来のエポキシ化亜麻仁油を用いていながら、比較例5の石油由来のエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物から成る成形体と同程度の流動性、耐クラック性及び耐サーマルショック性を有していることがわかる。
エポキシ化亜麻仁油を用いた場合でも、添加剤としてポリシルセスキオサンを用いていない場合(比較例1)、或いはポリシルセスキオサンの配合量が少ない場合(比較例2)には、満足する成形体が得られていないことが明らかである。また成形終了時にクラックを発生しない成形条件とするために、ポリシルセスキオサンの配合量が多い場合(比較例3)には流動性に劣ることが明らかである。
更にこのエポキシ樹脂組成物を硬化して成る成形体は、耐熱性及び機械的強度に優れると共に、耐サーマルショック性にも優れており、長期にわたって優れた特性を維持でき、電力用機器に有効に使用できる。
Claims (5)
- エポキシ化亜麻仁油、酸無水物から成る硬化剤、3級アミン化合物から成る硬化促進剤、溶融石英から成る充填剤、及びポリシルセスキオキサンを含有し、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で配合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で配合されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。 - 前記3級アミンが、ベンジルジメチルアミンである請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
- 90~110℃における粘度が6.0Pa・s以下である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
- エポキシ化亜麻仁油と溶融石英を混合する工程A、酸無水物から成る硬化剤とポリシルセスキオキサンを混合する工程B、前記工程Aで得られたエポキシ混合物と、前記工程Bで得られた混合物、及び3級アミン化合物から成る硬化促進剤を混合する工程C、及び該工程Cで得られたエポキシ樹脂組成物を90~110℃で20~55時間加熱硬化させるエポキシ樹脂成形体の製造方法であって、
前記酸無水物が、前記エポキシ化亜麻仁油のエポキシ当量に対する当量の比で0.9~1.1の量で混合され、前記エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、前記3級アミン化合物が0.5~2重量部、前記溶融石英が450~500重量部、及び前記ポリシルセスキオキサンが11重量部以上40重量部未満の量で混合されることを特徴とするエポキシ樹脂成形体の製造方法。 - 請求項1~3の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物から成り、曲げ強度が75MPa以上であり、溶融石英を除いた樹脂組成物成分中のエポキシ化亜麻仁油の重量比率であるバイオマス比率が40重量%以上であることを特徴とする成形体。
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