JP7218643B2 - 安定オーステナイト系ステンレス鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、安定オーステナイト系ステンレス鋼板に関する。
スマートフォンの筐体、精密機器部品等においては、表面光沢度が高い部材が求められることがある。ステンレス鋼は優れた耐食性を有し、これら部材に有効な素材であるが、表面光沢度の高い部材を安定的に得るため、良好な研磨性が求められる。
例えば、特許文献1~4では、研磨性の向上が検討されている。特許文献1では、ラッピング仕上げした表面光沢、写像性の優れたカーブミラー用鏡面仕上げステンレス鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、鏡面仕上げのために研磨性を向上させたプレス成形用オーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
また、特許文献3には、研磨性の優れたステンレス鋼帯と鋼板の製造する方法が開示されている。そして、特許文献4には、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、またはフェライト相とオーステナイト相との2相ステンレス鋼の鋼帯製造において、表面微小欠陥の少ない鋼帯を製造する方法が開示されている。
特開平3-169405号公報 特開平9-3605号公報 特開昭62-253732号公報 特開2000-273546号公報
加えて、医療関連で使用される精密部品においては、研磨または加工の際に破片、屑の付着を防止する必要がある。また、精密機器の動作に悪影響を与えないことが求められる。このため、上述した部品等に用いられるステンレス鋼板は、非磁性であることも求められる。
ところで、ステンレス鋼のうち、フェライト相、マルテンサイト相、および、準安定オーステナイト系ステンレス鋼で生じる加工誘起マルテンサイト相を一定量有すると、ステンレス鋼は磁性を帯びる。
これに対し、安定オーステナイト系ステンレス鋼板は、少なくとも室温以上での加工、成形後において第二相を生じることなく、加工誘起マルテンサイト相を形成しない。したがって、安定オーステナイト系ステンレス鋼は、磁性を有しない、すなわち非磁性である。このため、上述した部品等には安定オーステナイト系ステンレス鋼板が有用である。
さらに、上述した部品等においては、寸法精度の高い製品形状に加工をする必要がある。このため、良好な加工性も要求される。
しかしながら、特許文献1~4に開示されたステンレス鋼板は、研磨性は良好であるものの、複雑な製品形状への加工を考慮した場合、加工性が十分得られない可能性がある。また、磁性を帯びてしまうものもある。したがって、特許文献1~4に開示されたステンレス鋼板は、上述した部品に用いる場合、研磨性、加工性、および非磁性であるという特性が十分ではなく、改善の余地がある。
本発明は、上記課題を解決し、良好な研磨性と加工性とを有し、非磁性である安定オーステナイト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の安定オーステナイト系ステンレス鋼板を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.15%以下、
Si:0.4~2.5%、
Mn:0.5~2.0%、
Cr:11.0~20.0%、
Ni:10.0~14.0%、
N:0.01~0.15%、
Mo:0~3.0%、
Cu:0~1.5%、
Nb:0~0.15%、
V:0~0.15%、
Ti:0~0.30%、
B:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)および(ii)式で定義されるNi当量とCr当量との関係が、下記(iii)式を満足し、
下記(iv)式で算出される積層欠陥エネルギーSFEが、37mJ/mと以下となり、
オーステナイト相の平均結晶粒径が、8.0μm以下であり、
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが、100MPa以下である、安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
Ni当量≧0.1×(Cr当量)-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
SFE(mJ/m)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
(2)板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和が12.0以下である、上記(1)に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.2~3.0%、
Cu:0.1~1.5%、
Nb:0.01~0.15%、
V:0.01~0.15%、
Ti:0.01~0.30%、および
B:0.0003~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
本発明によれば、良好な研磨性と加工性とを有し、非磁性である安定オーステナイト系ステンレス鋼板を得ることができる。
図1は、結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す図である。
本発明者らは、鋼板に良好な研磨性と加工性とを具備させ、かつ非磁性である安定オーステナイト系ステンレス鋼板とするため、種々の検討を行った。その結果、以下(a)~(c)の知見を得た。
(a)オーステナイト系ステンレス鋼板の研磨性を向上させるためには、鋼板のオーステナイト相の結晶粒を細粒にすることが有効である。そして、オーステナイト相の結晶粒を細粒にするためには積層欠陥エネルギーを低下させることが有効である。
オーステナイト鋼板の積層欠陥エネルギーを低下させると、熱間圧延または冷間圧延中に加工ひずみに加えて変形双晶が多数導入されることから、圧延中またはその後の焼鈍中に生じる再結晶の核生成サイトが増加し、細粒化が図られる。
加えて、オーステナイト鋼板において細粒化が図られることから、圧延中にマルテンサイト変態が起こり、安定オーステナイト相が形成し、磁性を帯びる可能性もない。したがって、精密機器、特に医療用機器など磁性体の使用が制限される機器への適用も可能となる。
(b)さらに、加工性を向上させるためには、圧延方向と圧延幅方向の降伏応力の差を一定範囲内に制御することが有効である。このためには、降伏応力の異方性を大きくする{110}<112>方位から{110}<001>方位にかけての集合組織の形成を抑制することが望ましい。
(c)上記集合組織は、圧延加工工程において形成する組織である。このため、冷間圧延工程において、結晶粒を細粒にしようとすると、上記集合組織が発達し、最終的にそのまま集合組織を維持する結果となる。したがって、オーステナイト相の結晶粒を細粒にする点に加え、上記集合組織の形成を抑制する観点においても、予め、熱間圧延工程において、結晶粒を細粒にしておくのが望ましい。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.15%以下
C含有量が0.15%超の場合、最終焼鈍時に粗大なCr炭化物が結晶粒界に析出し、加工性および耐食性が劣化する。このため、C含有量は0.15%以下とする。Cは、安価に鋼板の強度を高める効果を有する。このため、C含有量の下限は、特に定めないが、C含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。
Si:0.4~2.5%
Siは、積層欠陥エネルギーを下げる効果が大きい元素である。Si含有量が、0.4%未満ではこの効果が十分得られない。このため、Si含有量は、0.4%以上とする。しかしながら、Si含有量が2.5%を超えると、粗大な酸化物を形成し、加工性を著しく低下させる。このため、Si含有量は2.5%以下とする。Si含有量は、0.8%以上とするのが好ましく、1.2%以上とするのがより好ましい。また、Si含有量は、2.0%以下とするのが好ましく、1.8%以下とするのがより好ましい。
Mn:0.5~2.0%
Mnは、強力なオーステナイト生成元素であり、また積層欠陥エネルギーを下げる効果を有する。これらの効果は、含有量が0.5%未満では、十分得られないため、Mn含有量は、0.5%以上とする。しかしながら、Mn含有量が2.0%を超えると、加工性が劣化する。このため、Mn含有量は、2.0%以下とする。Mn含有量は、0.8%以上が好ましい。また、Mn含有量は、1.5%以下とするのが好ましく、1.2%以下とするのがより好ましい。
Cr:11.0~20.0%、
Crは、ステンレス鋼の基本元素であり、鋼材表面に金属酸化物層を形成し、耐食性を高める効果を有する。このため、Cr含有量は11.0%以上とする。しかしながら、Crは、強力なフェライト安定化元素であるため、Cr含有量が過剰であると、δフェライトが生成する。このδフェライトは素材の熱間加工性を劣化させるとともに、室温まで残存することで、冷間加工性をも劣化させる。このため、Cr含有量は、20.0%以下とする。Cr含有量は、13.0%以上とするのが好ましい。また、Cr含有量は、19.0%以下とするのが好ましい。
Ni:10.0~14.0%
Niは、オーステナイト生成元素であり、室温でオーステナイト相を安定して得るために重要な元素である。このため、Ni含有量は、10.0%以上とする。しかしながら、Niは積層欠陥エネルギーを上げる元素であり、加工中において双晶が形成しにくくなることから、細粒化を困難にする。このため、Ni含有量は、14.0%以下とする。Ni含有量は、10.5%以上とするのが好ましい。また、Ni含有量は、13.5%以下とするのが好ましい。
N:0.01~0.15%
Nは、Cと同様に、固溶強化元素であり、鋼の強度向上に寄与する。また、Nは、Nb、Ti、Vと結合して微細なNb化合物として熱間圧延時および焼鈍時に析出し、再結晶、粒成長を抑制させる効果がある。このため、N含有量は0.01%以上とする。しかしながら、N含有量が0.15%を超えると、鋼板の製造過程で粗大な窒化物が多数生成され、これらの粗大な窒化物は破壊起点となって、熱間加工性を顕著に劣化させ、製造を困難にする。このため、N含有量は、0.15%以下とする。N含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。また、N含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。
本発明に係る鋼板は、上記元素に加え、Mo、Cu、Nb、V、Ti、およびBから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
Mo:0~3.0%
Moは、材料の耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moは、極めて高価であり、Mo含有量が3.0%を超えると、コストの上昇にもつながる。加えて、Mo含有量の増加は、Cr当量を上げオーステナイトを不安定化させる。このため、Mo含有量は3.0%以下とし、2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上とするのが好ましい。
Cu:0~1.5%
Cuは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定度を調整することができる元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が1.5%を超えると、製造過程で粒界に偏析し、この粒界偏析は、熟間加工性を顕著に劣化させ、製造が困難になる。このため、Cu含有量は1.5%以下とし、1.2%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
Nb:0~0.15%
V:0~0.15%
Ti:0~0.30%
B:0~0.010%
Nb、V、Ti、Bはいずれも再結晶を抑制し細粒化を図る効果を有することから、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、これら元素を過剰に含有させると、{110}<112>、{110}<001>方位の発達を促し、加工性を劣化させる。このため、Nb:0.15%以下、V:0.15%以下、Ti:0.30%以下、B:0.010%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Nb:0.01%以上、V:0.01%以上、Ti:0.01%以上、およびB:0.0003%以上とするのが好ましい。
本発明に係る鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
1-1.Ni当量とCr当量との関係
本発明に係る鋼板は、良好な加工性を具備させるために、加工時に加工誘起マルテンサイト等への変態を生じさせず、安定オーステナイト相とする必要がある。なお、安定オーステナイト相については、後述する2-3において説明する。
このため、本発明に係る鋼板は、後述するNi当量とCr当量との関係が下記(iii)式を満足する。この関係を満足しない場合は、オーステナイトと、フェライトおよび/またはマルテンサイトの二相または三相組織になる場合があるためである。また、オーステナイト相が不安定で加工を受けた際にマルテンサイト変態を生じてしまう場合があるためである。
なお、Ni当量は、オーステナイト形成元素であるNiの含有量と同様の効果を有する元素の含有量に係数をかけたものとの和であり、下記(i)式で定義される。同様に、Cr当量は、フェライト形成元素であるCrおよびそれに類する効果を有する元素の含有量に係数をかけたものとの和であり、下記(ii)式で定義される。
Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
Ni当量≧0.1×(Cr当量)-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
但し、上記(i)~(iii)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
1-2.積層欠陥エネルギー
本発明に係る鋼板は、良好な加工性を具備させるため、下記の(iv)式で算出される積層欠陥エネルギー(以下、「SFE」とも記載する。)を37mJ/m以下とする。
SFE(mJ/m)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
SFEが、37mJ/m超であると、圧延変形中に双晶が十分導入されず、良好な加工性を得ることができない。このため、SFEは37mJ/m以下とし、30mJ/m以下とするのが好ましく、25mJ/m以下とするのがより好ましい。SFEの下限は、特に定めないが、本発明における成分範囲では-3mJ/m以上になると考えられる。
2.金属組織
2-1.オーステナイト相の平均結晶粒径
良好な研磨性を具備させるため、本発明に係る鋼板では、オーステナイト相の平均結晶粒径は、8.0μm以下とする。オーステナイト相の平均結晶粒径は、6.0μm以下とするのが好ましく、5.0μm以下とするのがより好ましい。ここで、オーステナイト相の平均結晶粒径の下限値は、特に定めないが、1.0μm以上となるのが一般的である。
なお、オーステナイト相の平均結晶粒径は、以下の手法で測定することができる。具体的には、鋼板の中央部における圧延方向平行断面(L断面)の板厚×15mm長さ×10mm幅程度の形状の試料を切りだして、EBSDで測定する。この際の測定視野は板厚×15mmL断面の最表層を含む形で100μm×100μmとし、表裏面各2視野、計4視野とする。
上記測定において、fcc構造と判別された領域のうち、方位差15°以上で焼鈍双晶粒界(Σ3粒界)を除く粒界で囲まれた領域を一つの結晶粒とみなし、観察視野における面積中に含まれる結晶粒の数から結晶粒1個当たりの平均面積Sを算出する。平均面積から、下記(1)式により求められるオーステナイト平均粒径Dを算出した。結晶粒界の解析にはTSL OIM Analysis7以降のバージョンを用いる。
D=(2S/π)0.5 ・・・(1)
2-2.{110}<112>および{110}<001>方位のランダム強度比
{110}<112>方位から{110}<001>方位にかけてのファイバー集合組織はオーステナイトの圧延加工集合組織の特徴的な方位である。これらの方位群は異方性が大きく、特に圧延幅方向の降伏応力を上げる方位である。このため、加工性の観点から、これらの方位群の集合組織の発達をできるだけ抑制する必要がある。
なお、集合組織の発達の程度は、X線ランダム強度比の総和で評価することができる。ここで、X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と、供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
そして、板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和が12.0超であると、後述する圧延方向と幅方向との降伏応力の差ΔYSが100MPa超となり、加工性が低下する。このため、板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和は、12.0以下とする。板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和は、11.0以下とするのが好ましく、10.0以下とするのがより好ましい。
なお、上記X線ランダム強度比の総和の下限値は、特に定めないが、X線ランダム強度比の総和が5.0未満であると、フェライト相などオーステナイト相以外の相が発達していることを示唆する。このため、通常、上記X線ランダム強度比の総和は、5.0以上となると考えられる。
上記X線ランダム強度比の総和は、以下の手法で測定することができる。具体的には、{110}<112>および{110}<001>方位のランダム強度比は、X線回折によって測定される{200}、{311}、{220}極点図のうち、複数の極点図を基に級数展開法で計算した、3次元集合組織を表す結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function,ODFという。)から求めればよい。
図1に、本発明の結晶方位が表示されるφ2=45°断面のODFを示す。{110}<112>方位は厳密にはφ1=55°、Φ=90°で表記される方位を指す。しかしながら、試験片加工や試料のセッティングに起因する測定誤差を生じることがあるため、φ1=50~60°、Φ=85~90°の範囲の最大値をこの方位の強度比として代表させる。
{110}<001>方位は厳密にはφ1=90°、Φ=90°で表記される方位を指す。しかしながら、試験片加工や試料のセッティングに起因する測定誤差を生じることがあるため、φ1=85~90°、Φ=85~90°の範囲の最大値を、この方位の強度比として代表させる。ここで、結晶の方位は、通常、板面に垂直な方位を(hkl)または{hkl}、圧延方向に平行な方位を[uvw]または<uvw>で表示する。{hkl},<uvw>は、等価な面の総称であり、(hkl),[uvw]は、個々の結晶面を指す。即ち、本発明においてはfcc構造を対象としているため、例えば、(111)、(-111)、(1-11)、(11-1)、(-1-11)、(-11-1)、(1-1-1)、(-1-1-1)面は等価であり、区別がつかない。このような場合、これらの方位を総称して{111}と称する。
なお、ODFは、対称性の低い結晶構造の方位表示にも用いられるため、一般的にはφ1=0~360°、Φ=0~180°、φ2=0~360°で表現され、個々の方位が[hkl](uvw)で表示される。しかしながら、本発明では、対称性の高いfcc結晶構造を対象としているため、Φとφ2については0~90°の範囲で表現される。また、φ1は、計算を行う際に変形による対称性を考慮するか否かによって、その範囲が変化するが、本発明においては、対称性を考慮してφ1=0~90°で表記する。すなわち、φ1=0~360°での同一方位の平均値を、0~90°のODF上に表記する方式を選択する。
この場合は、(hkl)[uvw]と{hkl}<uvw>は同義である。従って、例えば、図1に示したφ2=45°断面におけるODFの、(110)[1-12]のX線ランダム強度比は、{110}<112>方位のX線ランダム強度比と同義である。
また、X線回折用試料の作製は、次のようにして行う。機械研磨、化学研磨などによって板厚方向に所定の位置まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げる。その後、電解研磨または化学研磨によってひずみを除去すると同時に、板厚中心位置が測定面となるように調整する。ここで、測定面を正確に所定の板厚位置にすることは困難であるので、目標とする位置を中心として、板厚に対して3%の範囲内が測定面となるように試料を作製すればよい。
なお、標準試料は、安定γ系ステンレスの粉末を圧縮・焼結することにより集合組織を完全にランダムにし、上記と同様、機械研磨、化学研磨、バフ研磨等を行ったものを使用するのが一般的であるが、計算から求められる理想的なランダムサンプルのX線回折プロファイルデータを用いてもよい。
また、X線回折による測定が困難な場合には、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法、またはECP(Electron Channeling Pattern)法により、統計的に十分な数の測定を行っても良い。
2-3.安定オーステナイト相
本発明に係る鋼板は、安定なオーステナイト相が形成した、安定オーステナイト系ステンレス鋼とする。ここで、安定オーステナイト系ステンレス鋼とは、研磨または成形などの室温加工にてオーステナイト相が安定に存在するオーステナイト系ステンレス鋼を指す。
具体的には、加工を想定した10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率が1.0%以下であるオーステナイト系ステンレス鋼とする。そして、安定オーステナイト系ステンレス鋼ではない場合、プレス成形または曲げ加工で部品形状に成形した際に磁性を帯びる可能性がある。
なお、室温加工後においては、オーステナイト相以外の相の形成は極力低減するのが望ましい。このため、10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率は、0.5%以下であるのがより好ましく、0.1%以下であるのがより好ましい。
なお、上述のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率とは、相全体に対する分率であり、体積率である。また、合計分率において、フェライト相とマルテンサイト相とを明確に区別するものではない。両相は、ともに結晶構造としてb.c.c.構造をとり、磁性を有する鉄の結晶相の総称である。上記合計分率は、10%の引張ひずみを付与した試験片について、フェライトメーターを用いて測定することができる。測定条件は、試験片3本以上を用いて、長手中心位置を表裏1回ずつ測定し、その平均値とする。
なお、引張ひずみは、例えば、引張試験により所定量付与することができ、引張試験は、JIS Z2241:2011に準拠して行う。
3.機械的特性
本発明に係る鋼板では、加工性の評価の指標でもある圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSを規定する。具体的には、鋼板において、圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが100MPa超であると、スプリングバック量などの違いに起因し、プレス成形後において、例えば、円形部の張り出し高さのばらつき等の成形不良が発生する。圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが100MPa以下とし、80MPa以下とするのが好ましく、50MPa以下とするのがより好ましい。なお、上述の圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSは、圧延方向の降伏応力から板幅方向の降伏応力の差の絶対値である。
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSも、上述した引張試験により測定すればよい。圧延方向の降伏応力を測定するための試験片は、試料の長手方向が圧延方向となるよう、切り出す。また、板幅方向の降伏応力を測定する試験片の長手方向が板幅方向となるよう、切り出す。
本発明に係る鋼板では、研磨性を研磨後の粗さで評価し、研磨後の粗さRa(平均算術粗さ)が0.050μm以下となる場合を研磨性良好と判断する。粗さRaは、以下の手順により測定する。具体的には、長さ100mm、幅150mm、厚さ0.2mmの試料を準備し、面圧8.0N/cm、砥粒#400アルミナ、回転速度300rpm、研磨時間10秒の条件で研磨を行う。そして、研磨後の粗さをJIS B 0601:2001に準拠して測定する。
4.製造方法
以下に、本発明に係る鋼板の好ましい製造方法について説明する。本発明に係る鋼板は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、安定して得ることができる。
4-1.鋳造
本発明に係る化学組成を有する鋼を常法により溶製、鋳造し、熱間圧延に供する鋼片を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造または圧延したものでも良いが、生産性の観点から、連続鋳造により鋼片を製造することが好ましい。また、薄スラブキャスター等を用いて製造してもよい。
4-2.熱間圧延
4-2-1.仕上圧延開始温度
得られた鋼片を、熱間圧延に供し、熱延鋼板を得る。本発明に係る鋼板では、熱間圧延における仕上圧延の開始温度(以下、単に「仕上圧延開始温度」または「F0T」と記載する。)を、常法より低い温度とする。具体的には、仕上圧延開始温度を1070℃以下とするのが好ましい。仕上圧延開始温度が1070℃超であると、熱間圧延におけるひずみの蓄積が不十分となり、熱延鋼板での平均結晶粒径が粗大となる。この結果、後述する冷間圧延後のオーステナイト相の平均結晶粒径も、8.0μm超となってしまう。
このため、仕上圧延開始温度は、1070℃以下とするのが好ましく、1050℃以下とするのがより好ましく、1020℃以下とするのがさらに好ましい。仕上圧延開始温度の下限は特に定めないが、850℃以上とすることは変形抵抗の増大を招き、圧延機への負荷を著しくするため、通常、850℃以上となると考えられる。
4-2-2.熱間圧延最終段圧下率
熱間圧延では、複数の熱延機のロールを鋼板が通過することで行われ、熱間圧延の最終段とは、熱間圧延の工程全体で複数回実施される圧延パスの中の最終段のことをいう。本発明に係る鋼板では、熱間圧延における最終段の圧下率(以下、単に「熱間圧延最終段圧下率」と記載する。)を15%以上とするのが好ましい。熱間圧延最終段圧下率が15%未満では、最終段での再結晶が生じす、粗大な加工組織が残存してしまうためである。
このため、熱間圧延最終段圧下率は、15%以上とするのが好ましく、18%以上とするのがより好ましく、20%以上とするのがさらに好ましい。一方、熱間圧延最終段圧下率の上限は、特に定めないが、40%超であると、熱延機の負荷を著しく高める場合がある。このため、熱間圧延最終段圧下率は40%以下とするのが好ましく、35%以下とするのがより好ましい。
4-2-3.熱延板焼鈍
得られた熱延鋼板について、軟化を目的とした熱延板焼鈍を施してもよい。しかしながら、その焼鈍温度が1150℃超となると、粒成長が著しく生じる。このため、熱延鋼板の焼鈍における到達温度(単に「熱延板焼鈍到達温度」ともいう。)は1150℃以下とするのが好ましく、1100℃以下とするのがより好ましく、1000℃以下とするのがさらに好ましい。
4-3.冷間圧延および最終焼鈍
続いて、熱延鋼板に、冷間圧延および焼鈍を一回、または複数回繰り返して冷延鋼板を製造する。その際、後述する冷間圧延最終圧下率、最終焼鈍における到達温度(以下、単に「最終焼鈍到達温度」と記載する。)、および当該温度における保持時間を下記記載の範囲とするのが望ましい。冷間圧延最終圧下率、最終焼鈍到達温度および保持時間以外の条件は、常法に従えばよい。
4-3-1.冷間圧延最終圧下率
冷間圧延最終圧下率は、30~80%とするのが好ましい。冷間圧延最終圧下率が30%未満の場合、冷間圧延中に導入されるひずみが不十分なために再結晶核生成サイトが減少する。この結果、冷延鋼板のオーステナイト相の平均結晶粒径が8.0μm超となってしまう。このため、冷間圧延最終圧下率は30%以上とするのが好ましく、35%以上とするのがより好ましく、40%以上とするのがさらに好ましい。
一方、冷間圧延最終圧下率が80%超であると、加工集合組織が著しく発達し、{110}<001>方位の集合組織が発達する。この結果、降伏応力の異方性が大きくなり、加工性の劣化に繋がる場合がある。このため、冷間圧延最終圧下率は80%以下とするのが好ましく、75%以下とするのがより好ましく、70%以下とするのがさらに好ましい。
4-3-2.最終焼鈍到達温度および保持時間
最終焼鈍到達温度は、750~1050℃の範囲とするのが好ましい。最終焼鈍到達温度が750℃未満であると、再結晶が完了せず、圧延方向に展伸した加工粒が残存するため、最終的にオーステナイト相の平均結晶粒径が8.0μm以下とならない。このため、最終焼鈍到達温度は750℃以上とするのが好ましく、780℃以上とするのがより好ましく、800℃以上とするのがさらに好ましい。
一方、最終焼鈍到達温度が、1050℃を超えると、粒成長が起こり、結晶粒が粗大化する。このため、最終焼鈍到達温度は、1050℃以下とするのが好ましく、1000℃以下とするのがより好ましく、970℃以下とするのがさらに好ましい。
また、最終焼鈍到達温度における保持時間は100s以下の範囲とするのが好ましい。最終焼鈍到達温度における保持時間が100sを超えると、粒成長が起こり、結晶粒が粗大化する。このため、最終焼鈍到達温度における保持時間は60s以下とするのが好ましく、20s以下とするのがより好ましく、10s以下とするのがさらに好ましい。
なお、保持時間の下限は特には定めないが、保持時間を0.1s以下で制御することは困難なことから0.1sを下限とすることが好ましい。
最終焼鈍後に鋼板の機械的特性の調整を目的とする冷間圧延、すなわち調質圧延を施してもよい。またその後に、鋼板の特性を大きく変化させず、単に鋼板の形状変化の原因となる残留応力を低減させる目的、いわゆるひずみ取りを目的とした熱処理を実施してもよい。
調質圧延率は50%以下とすることが望ましい。これは、調質圧延率が50%以下において必要な機械的性質へ調整可能なためである。続いて、熱処理温度は600℃~900℃とするのが望ましく、650~850℃とするのがより望ましい。これは、600℃未満ではひずみ取りの効果を得られず、逆変態を生じないためである。また、900℃を超える温度では、冷間圧延での性能調整の効果が消失するためである。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製して鋼片を製造し、この鋼片を加熱して、熱間で粗圧延を行った後、引き続いて、下記表2に示す条件で仕上圧延を行った。表2において、F0T[℃]は、仕上熱延開始温度を示し、HAは、熱延板焼鈍到達温度を示す。仕上圧延後、熱延焼鈍板は酸洗後、一度の中間冷間圧延、中間焼鈍後を行い、最終冷間圧延を施した。
表2においてCR[%]は冷間圧延最終圧下率を示す。冷間圧延後、最終焼鈍を実施した。最終焼鈍は、表2に記載するように、最終焼鈍到達温度まで昇温し、当該温度で、所定の時間保持した。その後、冷却を行ない、鋼板を得た。なお、AT[℃]は最終焼鈍到達温度を示す。
Figure 0007218643000001
Figure 0007218643000002
(オーステナイト相の平均結晶粒径)
得られた鋼板について、オーステナイト相の平均結晶粒径を測定した。具体的には、鋼板の中央部における圧延方向平行断面(L断面)から板厚×15mm長さ×10mm幅の形状の試料を切りだして、EBSDで測定した。この際測定視野は最表層を含むように100μm×100μmとし、表裏面各2視野、合計4視野とした。
上記測定において、fcc構造と判別された領域のうち、方位差15°以上かつ、双晶粒界(Σ3粒界)ではない粒界に囲まれた領域を一つの結晶粒とみなし、観察視野における面積中に含まれる結晶粒の数から結晶粒1個当たりの平均面積Sを算出した。平均面積から、下記(1)式により求められるオーステナイト平均粒径Dを算出した。粒界の解析にはTSL OIM Analysis 7を用いた。
D=(2S/π)0.5 ・・・(1)
({110}<112>および{110}<001>方位のランダム強度比)
鋼板の{110}<112>,{110}<001>方位のランダム強度比は、以下のようにして測定した。まず、鋼板を機械研磨およびバフ研磨した後、さらに電解研磨してひずみを除去し、板厚中心位置が測定面となるように調整した試料を用いてX線回折を行った。
なお、焼結等の手法で作製した、特定の方位への集積を持たない標準試料を作製した。標準試料は、機械研磨、化学研磨、バフ研磨等を行い、試料を作製した。標準試料のX線回折も同条件で行った。次に、X線回折によって得られた{200}、{311}、{220}極点図を基に、級数展開法でODFを得た。そして、このODFからランダム強度比を決定した。なお、表2においては、{110}<112>および{110}<001>方位のランダム強度比を、単に、ランダム強度比と記載する。
(10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率)
安定オーステナイト系ステンレス鋼であるかを評価するため、10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率を以下の方法で測定した。具体的には、圧延方向を長手とした引張試験片(JIS13号B)を作製し、JIS Z2241:2011に準拠した引張試験により10%のひずみを負荷したのち、平行部(20mm)をフェライトメーターにて測定した。なお、表2においては、10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率を単に、10%引張後合計分率と記載する。
(圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYS)
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSは、JIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行うことで測定した。試験片形状は、上述した形状とした。圧延方向の降伏応力を測定するための試験片は、試料の長手方向が圧延方向となるよう、切り出した。また、板幅方向の降伏応力を測定する試料の長手方向が板幅方向となるよう、切り出した。なお、表2中のL-YS[MPa]は、圧延方向の降伏応力を示し、C-YS[MPa]は、板幅方向の降伏応力を示す。
(研磨性)
鋼板の研磨性は以下のように評価した。具体的には、長さ100mm、幅150mm、厚さ0.2mmの試料を準備し、面圧8.0N/cm、砥粒#400アルミナ、回転速度300rpm、研磨時間10秒の条件で研磨を行った。そして、研磨後の粗さをJIS B 0601:2001に準拠して測定した。そして、研磨後の粗さRa(平均算術粗さ)が0.050μm以下となる場合を研磨性良好と判断した。
本発明例であるNo.1、2、4、6、8、10、13、15、および18は、オーステナイト相の平均結晶粒径の値も小さく、研磨性も良好だった。また、上記例では、圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが小さく、降伏応力の異方性も少なかった。
比較例であるNo.19~23は、本発明で規定する化学組成を満足しない例である。No.19は、Si含有量が2.5%超であり、過剰であったため、熱間加工性が著しく劣化し、熱延段階で割れが生じたため、試験を中止した。No.20は、Si含有量が少なく、この場合、SFEが高くなりすぎたため、圧延等の変形中の双晶形成が起こらなかったと考えられる。そして、その後において、再結晶核生成サイトが不十分となり、オーステナイト相の結晶粒が粗粒となり、研磨性が劣る結果となった。
No.21は、Cr含有量が規定範囲を下回り、SFEが高くなりすぎたため、オーステナイト相の結晶粒が粗粒となり、研磨性が劣る結果となった。No.22は、Nb含有量が過剰であったため、再結晶が著しく抑制され、集合組織が強く発達し、降伏応力の異方性が大きくなった。No.23は、Ni含有量が規定範囲を下回り、Ni当量とCr当量との関係を満足せず、安定したオーステナイト相が形成しなかった。つまり、安定オーステナイト系ステンレス鋼とはならなかった。
No.3、5、7、9、11、12、14、16、および17は、いずれも化学組成は本発明の規定を満足しているが、十分な研磨性が確保されない、および/または、降伏応力の等方性が確保されず、降伏応力の差ΔYSが大きく、異方性が大きくなった。
No.3は、熱間圧延最終段圧下率が低かったため、熱延板の段階で再結晶が生じず、その後に粗粒な圧延組織が残存し、オーステナイト相の結晶粒が粗粒になった。この結果、研磨性が劣る結果となった。No.5は、熱延板焼鈍到達温度が高すぎたため、粒成長が生じ、オーステナイト相の結晶粒が粗粒となった。この結果、研磨性が劣る結果となった。No.7は、冷間圧延最終圧下率が低すぎたため、再結晶が生じず回復組織となったために、オーステナイト相の結晶粒が粗粒となった。この結果、研磨性が劣る結果となった。
No.9は、冷間圧延最終圧下率が高すぎたために、{110}<112>および{110}<001>方位の集合組織が発達して、降伏応力の異方性が大きくなった。No.11は、最終焼鈍到達温度が低すぎるため、再結晶が起こらず、加工粒が残存した例である。本例では、圧延方向に展伸した粗粒が残存し、かつ{110}<112>~{110}<001>方位の集合組織も発達したため、研磨性が劣化し、降伏応力の異方性も大きくなった。
No.12は冷間圧延最終圧下率が高すぎ、かつ最終焼鈍温度が低すぎるために、再結晶は完了し細粒は達成されるものの、集合組織が強いために、降伏応力の異方性が大きくなった。No.14は、最終焼鈍到達温度が高すぎたため、オーステナイト相の結晶粒が粗粒になり、研磨性が低下した。No.16は、F0Tが高すぎたために、熱延中のひずみの蓄積が不十分となる熱延板が粗粒になったため、冷延鋼板におけるオーステナイト相も粗粒となった。この結果、研磨性が劣る結果となった。No.17はF0Tが高すぎ、かつ冷間圧延最終圧下率が高すぎたために細粒にはなったが、降伏応力の異方性が大きくなった。
このように、本発明の規定を満足した細粒でかつ降伏応力の異方性が小さい安定オーステナイト鋼板は、研磨性および加工性が良好であった。一方、本発明の規定を満足しない比較例は、粗粒および/または降伏応力の異方性が大きく、また、オーステナイト相が安定しておらず、ひずみを付与した場合に、変態が生じたと考えられる例があった。このため、研磨性、加工性、少なくともいずれか一方が劣る結果となった。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.15%以下、
    Si:0.4~2.5%、
    Mn:0.5~2.0%、
    Cr:11.0~20.0%、
    Ni:10.0~14.0%、
    N:0.01~0.15%、
    Mo:0~3.0%、
    Cu:0~1.5%、
    Nb:0~0.15%、
    V:0~0.15%、
    Ti:0~0.30%、
    B:0~0.010%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)および(ii)式で定義されるNi当量とCr当量との関係が、下記(iii)式を満足し、
    下記(iv)式で算出される積層欠陥エネルギーSFEが、37mJ/mと以下となり、
    オーステナイト相の平均結晶粒径が、8.0μm以下であり、
    圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが、100MPa以下である、安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
    Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
    Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
    Ni当量≧0.1×(Cr当量)-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
    SFE(mJ/m)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
    但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
  2. 板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和が12.0以下である、請求項1に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo:0.2~3.0%、
    Cu:0.1~1.5%、
    Nb:0.01~0.15%、
    V:0.01~0.15%、
    Ti:0.01~0.30%、および
    B:0.0003~0.010%、
    から選択される一種以上を含有する、請求項1または2に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。


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