JP7218643B2 - 安定オーステナイト系ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
C:0.15%以下、
Si:0.4~2.5%、
Mn:0.5~2.0%、
Cr:11.0~20.0%、
Ni:10.0~14.0%、
N:0.01~0.15%、
Mo:0~3.0%、
Cu:0~1.5%、
Nb:0~0.15%、
V:0~0.15%、
Ti:0~0.30%、
B:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)および(ii)式で定義されるNi当量とCr当量との関係が、下記(iii)式を満足し、
下記(iv)式で算出される積層欠陥エネルギーSFEが、37mJ/m2と以下となり、
オーステナイト相の平均結晶粒径が、8.0μm以下であり、
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが、100MPa以下である、安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
Ni当量≧0.1×(Cr当量)2-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
SFE(mJ/m2)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
Mo:0.2~3.0%、
Cu:0.1~1.5%、
Nb:0.01~0.15%、
V:0.01~0.15%、
Ti:0.01~0.30%、および
B:0.0003~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C含有量が0.15%超の場合、最終焼鈍時に粗大なCr炭化物が結晶粒界に析出し、加工性および耐食性が劣化する。このため、C含有量は0.15%以下とする。Cは、安価に鋼板の強度を高める効果を有する。このため、C含有量の下限は、特に定めないが、C含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。
Siは、積層欠陥エネルギーを下げる効果が大きい元素である。Si含有量が、0.4%未満ではこの効果が十分得られない。このため、Si含有量は、0.4%以上とする。しかしながら、Si含有量が2.5%を超えると、粗大な酸化物を形成し、加工性を著しく低下させる。このため、Si含有量は2.5%以下とする。Si含有量は、0.8%以上とするのが好ましく、1.2%以上とするのがより好ましい。また、Si含有量は、2.0%以下とするのが好ましく、1.8%以下とするのがより好ましい。
Mnは、強力なオーステナイト生成元素であり、また積層欠陥エネルギーを下げる効果を有する。これらの効果は、含有量が0.5%未満では、十分得られないため、Mn含有量は、0.5%以上とする。しかしながら、Mn含有量が2.0%を超えると、加工性が劣化する。このため、Mn含有量は、2.0%以下とする。Mn含有量は、0.8%以上が好ましい。また、Mn含有量は、1.5%以下とするのが好ましく、1.2%以下とするのがより好ましい。
Crは、ステンレス鋼の基本元素であり、鋼材表面に金属酸化物層を形成し、耐食性を高める効果を有する。このため、Cr含有量は11.0%以上とする。しかしながら、Crは、強力なフェライト安定化元素であるため、Cr含有量が過剰であると、δフェライトが生成する。このδフェライトは素材の熱間加工性を劣化させるとともに、室温まで残存することで、冷間加工性をも劣化させる。このため、Cr含有量は、20.0%以下とする。Cr含有量は、13.0%以上とするのが好ましい。また、Cr含有量は、19.0%以下とするのが好ましい。
Niは、オーステナイト生成元素であり、室温でオーステナイト相を安定して得るために重要な元素である。このため、Ni含有量は、10.0%以上とする。しかしながら、Niは積層欠陥エネルギーを上げる元素であり、加工中において双晶が形成しにくくなることから、細粒化を困難にする。このため、Ni含有量は、14.0%以下とする。Ni含有量は、10.5%以上とするのが好ましい。また、Ni含有量は、13.5%以下とするのが好ましい。
Nは、Cと同様に、固溶強化元素であり、鋼の強度向上に寄与する。また、Nは、Nb、Ti、Vと結合して微細なNb化合物として熱間圧延時および焼鈍時に析出し、再結晶、粒成長を抑制させる効果がある。このため、N含有量は0.01%以上とする。しかしながら、N含有量が0.15%を超えると、鋼板の製造過程で粗大な窒化物が多数生成され、これらの粗大な窒化物は破壊起点となって、熱間加工性を顕著に劣化させ、製造を困難にする。このため、N含有量は、0.15%以下とする。N含有量は、0.03%以上とするのが好ましい。また、N含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。
Moは、材料の耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moは、極めて高価であり、Mo含有量が3.0%を超えると、コストの上昇にもつながる。加えて、Mo含有量の増加は、Cr当量を上げオーステナイトを不安定化させる。このため、Mo含有量は3.0%以下とし、2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上とするのが好ましい。
Cuは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイト相の安定度を調整することができる元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が1.5%を超えると、製造過程で粒界に偏析し、この粒界偏析は、熟間加工性を顕著に劣化させ、製造が困難になる。このため、Cu含有量は1.5%以下とし、1.2%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
V:0~0.15%
Ti:0~0.30%
B:0~0.010%
Nb、V、Ti、Bはいずれも再結晶を抑制し細粒化を図る効果を有することから、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、これら元素を過剰に含有させると、{110}<112>、{110}<001>方位の発達を促し、加工性を劣化させる。このため、Nb:0.15%以下、V:0.15%以下、Ti:0.30%以下、B:0.010%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Nb:0.01%以上、V:0.01%以上、Ti:0.01%以上、およびB:0.0003%以上とするのが好ましい。
本発明に係る鋼板は、良好な加工性を具備させるために、加工時に加工誘起マルテンサイト等への変態を生じさせず、安定オーステナイト相とする必要がある。なお、安定オーステナイト相については、後述する2-3において説明する。
Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
Ni当量≧0.1×(Cr当量)2-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
但し、上記(i)~(iii)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
本発明に係る鋼板は、良好な加工性を具備させるため、下記の(iv)式で算出される積層欠陥エネルギー(以下、「SFE」とも記載する。)を37mJ/m2以下とする。
SFE(mJ/m2)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
2-1.オーステナイト相の平均結晶粒径
良好な研磨性を具備させるため、本発明に係る鋼板では、オーステナイト相の平均結晶粒径は、8.0μm以下とする。オーステナイト相の平均結晶粒径は、6.0μm以下とするのが好ましく、5.0μm以下とするのがより好ましい。ここで、オーステナイト相の平均結晶粒径の下限値は、特に定めないが、1.0μm以上となるのが一般的である。
D=(2S/π)0.5 ・・・(1)
{110}<112>方位から{110}<001>方位にかけてのファイバー集合組織はオーステナイトの圧延加工集合組織の特徴的な方位である。これらの方位群は異方性が大きく、特に圧延幅方向の降伏応力を上げる方位である。このため、加工性の観点から、これらの方位群の集合組織の発達をできるだけ抑制する必要がある。
本発明に係る鋼板は、安定なオーステナイト相が形成した、安定オーステナイト系ステンレス鋼とする。ここで、安定オーステナイト系ステンレス鋼とは、研磨または成形などの室温加工にてオーステナイト相が安定に存在するオーステナイト系ステンレス鋼を指す。
本発明に係る鋼板では、加工性の評価の指標でもある圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSを規定する。具体的には、鋼板において、圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが100MPa超であると、スプリングバック量などの違いに起因し、プレス成形後において、例えば、円形部の張り出し高さのばらつき等の成形不良が発生する。圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが100MPa以下とし、80MPa以下とするのが好ましく、50MPa以下とするのがより好ましい。なお、上述の圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSは、圧延方向の降伏応力から板幅方向の降伏応力の差の絶対値である。
以下に、本発明に係る鋼板の好ましい製造方法について説明する。本発明に係る鋼板は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、安定して得ることができる。
本発明に係る化学組成を有する鋼を常法により溶製、鋳造し、熱間圧延に供する鋼片を得る。この鋼片は、鋼塊を鍛造または圧延したものでも良いが、生産性の観点から、連続鋳造により鋼片を製造することが好ましい。また、薄スラブキャスター等を用いて製造してもよい。
4-2-1.仕上圧延開始温度
得られた鋼片を、熱間圧延に供し、熱延鋼板を得る。本発明に係る鋼板では、熱間圧延における仕上圧延の開始温度(以下、単に「仕上圧延開始温度」または「F0T」と記載する。)を、常法より低い温度とする。具体的には、仕上圧延開始温度を1070℃以下とするのが好ましい。仕上圧延開始温度が1070℃超であると、熱間圧延におけるひずみの蓄積が不十分となり、熱延鋼板での平均結晶粒径が粗大となる。この結果、後述する冷間圧延後のオーステナイト相の平均結晶粒径も、8.0μm超となってしまう。
熱間圧延では、複数の熱延機のロールを鋼板が通過することで行われ、熱間圧延の最終段とは、熱間圧延の工程全体で複数回実施される圧延パスの中の最終段のことをいう。本発明に係る鋼板では、熱間圧延における最終段の圧下率(以下、単に「熱間圧延最終段圧下率」と記載する。)を15%以上とするのが好ましい。熱間圧延最終段圧下率が15%未満では、最終段での再結晶が生じす、粗大な加工組織が残存してしまうためである。
得られた熱延鋼板について、軟化を目的とした熱延板焼鈍を施してもよい。しかしながら、その焼鈍温度が1150℃超となると、粒成長が著しく生じる。このため、熱延鋼板の焼鈍における到達温度(単に「熱延板焼鈍到達温度」ともいう。)は1150℃以下とするのが好ましく、1100℃以下とするのがより好ましく、1000℃以下とするのがさらに好ましい。
続いて、熱延鋼板に、冷間圧延および焼鈍を一回、または複数回繰り返して冷延鋼板を製造する。その際、後述する冷間圧延最終圧下率、最終焼鈍における到達温度(以下、単に「最終焼鈍到達温度」と記載する。)、および当該温度における保持時間を下記記載の範囲とするのが望ましい。冷間圧延最終圧下率、最終焼鈍到達温度および保持時間以外の条件は、常法に従えばよい。
冷間圧延最終圧下率は、30~80%とするのが好ましい。冷間圧延最終圧下率が30%未満の場合、冷間圧延中に導入されるひずみが不十分なために再結晶核生成サイトが減少する。この結果、冷延鋼板のオーステナイト相の平均結晶粒径が8.0μm超となってしまう。このため、冷間圧延最終圧下率は30%以上とするのが好ましく、35%以上とするのがより好ましく、40%以上とするのがさらに好ましい。
最終焼鈍到達温度は、750~1050℃の範囲とするのが好ましい。最終焼鈍到達温度が750℃未満であると、再結晶が完了せず、圧延方向に展伸した加工粒が残存するため、最終的にオーステナイト相の平均結晶粒径が8.0μm以下とならない。このため、最終焼鈍到達温度は750℃以上とするのが好ましく、780℃以上とするのがより好ましく、800℃以上とするのがさらに好ましい。
得られた鋼板について、オーステナイト相の平均結晶粒径を測定した。具体的には、鋼板の中央部における圧延方向平行断面(L断面)から板厚×15mm長さ×10mm幅の形状の試料を切りだして、EBSDで測定した。この際測定視野は最表層を含むように100μm×100μmとし、表裏面各2視野、合計4視野とした。
D=(2S/π)0.5 ・・・(1)
鋼板の{110}<112>,{110}<001>方位のランダム強度比は、以下のようにして測定した。まず、鋼板を機械研磨およびバフ研磨した後、さらに電解研磨してひずみを除去し、板厚中心位置が測定面となるように調整した試料を用いてX線回折を行った。
安定オーステナイト系ステンレス鋼であるかを評価するため、10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率を以下の方法で測定した。具体的には、圧延方向を長手とした引張試験片(JIS13号B)を作製し、JIS Z2241:2011に準拠した引張試験により10%のひずみを負荷したのち、平行部(20mm)をフェライトメーターにて測定した。なお、表2においては、10%の引張ひずみが付与された場合のフェライト相およびマルテンサイト相の合計分率を単に、10%引張後合計分率と記載する。
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSは、JIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行うことで測定した。試験片形状は、上述した形状とした。圧延方向の降伏応力を測定するための試験片は、試料の長手方向が圧延方向となるよう、切り出した。また、板幅方向の降伏応力を測定する試料の長手方向が板幅方向となるよう、切り出した。なお、表2中のL-YS[MPa]は、圧延方向の降伏応力を示し、C-YS[MPa]は、板幅方向の降伏応力を示す。
鋼板の研磨性は以下のように評価した。具体的には、長さ100mm、幅150mm、厚さ0.2mmの試料を準備し、面圧8.0N/cm2、砥粒#400アルミナ、回転速度300rpm、研磨時間10秒の条件で研磨を行った。そして、研磨後の粗さをJIS B 0601:2001に準拠して測定した。そして、研磨後の粗さRa(平均算術粗さ)が0.050μm以下となる場合を研磨性良好と判断した。
Claims (3)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.15%以下、
Si:0.4~2.5%、
Mn:0.5~2.0%、
Cr:11.0~20.0%、
Ni:10.0~14.0%、
N:0.01~0.15%、
Mo:0~3.0%、
Cu:0~1.5%、
Nb:0~0.15%、
V:0~0.15%、
Ti:0~0.30%、
B:0~0.010%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)および(ii)式で定義されるNi当量とCr当量との関係が、下記(iii)式を満足し、
下記(iv)式で算出される積層欠陥エネルギーSFEが、37mJ/m2と以下となり、
オーステナイト相の平均結晶粒径が、8.0μm以下であり、
圧延方向と板幅方向との降伏応力の差ΔYSが、100MPa以下である、安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn ・・・(i)
Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si ・・・(ii)
Ni当量≧0.1×(Cr当量)2-3×(Cr当量)+30 ・・・(iii)
SFE(mJ/m2)=2.2×Ni-1.1×Cr-13×Si-1.2×Mn+6×Cu+32 ・・・(iv)
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。 - 板厚中心位置における{110}<112>および{110}<001>方位のX線ランダム強度比の総和が12.0以下である、請求項1に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.2~3.0%、
Cu:0.1~1.5%、
Nb:0.01~0.15%、
V:0.01~0.15%、
Ti:0.01~0.30%、および
B:0.0003~0.010%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1または2に記載の安定オーステナイト系ステンレス鋼板。
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