JP7218605B2 - 低熱膨張合金及びその製造方法 - Google Patents
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化学組成が、質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たし、
前記低熱膨張合金中において、
バナジウム炭化物の体積率が2.5~12.5%であり、
円相当径が200nm未満の微細バナジウム炭化物が50個/μm2以上であり、
円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物の平均円相当径が2.8μm未満である。
30.00≦Ni+Co≦40.00 (1)
-0.50<V-50.94/12.01×C<2.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
化学組成が、
質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たす素材を1150~1300℃に加熱した後、熱間鍛造して合金材を製造する熱間鍛造工程であって、前記熱間鍛造工程での累積圧下率を30.0%以上とし、前記累積圧下率が30.0%になるまでの1パスあたりの圧下率を5.0%以上とし、熱間鍛造中の前記素材の温度を900℃以上とする、熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程後の前記合金材に対して、1000~1300℃で0.5時間以上保持する溶体化処理を実施する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の前記合金材に対して、20.0%以上の冷間加工率で冷間加工を実施する冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の前記合金材に対して、500~800℃で0.5時間以上保持して時効熱処理を実施する時効熱処理工程とを備える。
Niは、合金の自発体積磁歪を高め、その結果、合金の熱膨張係数を下げる。Ni含有量が30.00~40.00質量%であれば、合金の熱膨張係数が低くなる。さらに、CoはNiを代替可能である。つまり、Coも合金の自発体積磁歪を高め、その結果、合金の熱膨張係数を下げる。特に、化学組成が、質量%で、C:0.20~2.00%、Mn:0.05~2.00%、V:0.80~10.00%、Ni:30.00~40.00%、Si:0超~0.50%及びAl:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、Co:0~10.00%、Cr:0~3.00%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる合金において、さらに、式(1)を満たせば、合金の熱膨張係数が低くなる。
30.00≦Ni+Co≦40.00 (1)
ここで、式(1)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
合金のヤング率を高めるためには、周期表中の4~6族の元素(以下、特定元素と称する)を利用することが有効である。特定元素が固溶状態で存在した場合、合金のヤング率は高くなる。しかしながら、特定元素の固溶量が一定量を超えると、合金の熱膨張係数が急激に増大する。一方で、特定元素を析出物と複合化させることでも合金のヤング率を高めることができる。しかしながら、この場合、析出物が熱膨張することにより、合金の熱膨張係数が増大してしまう。
式(1)を満たす上記化学組成の合金において、上述のとおり、ヤング率は、バナジウム炭化物の体積率と相関を有する。一方、式(1)を満たす上記化学組成の合金において、鋼中のバナジウム炭化物のうち、少なくとも円相当径が1.0μm以上の粗大なバナジウム炭化物は、合金の強度向上に寄与しにくい。一方、円相当径が200nm未満の微細なバナジウム炭化物は、合金の強度向上に強力に寄与する。したがって、円相当径が200nm未満の微細なバナジウム炭化物の個数密度(個/μm2)を増加させれば、強度が飛躍的に高まると考えられる。以下、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物を「微細バナジウム炭化物」ともいう。また、円相当径が1.0μm以上のバナジウム炭化物を「粗大バナジウム炭化物」という。なお、円相当径とは、後述するとおり、バナジウム炭化物の面積を円に換算したときの直径を意味する。
-0.50<V-50.94/12.01×C<2.00 (2)
式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
しかしながら、式(1)及び式(2)を満たす化学組成の低熱膨張合金であっても、特許文献2に記載のとおり、円相当径が200nm未満の微細なバナジウム炭化物の個数密度は、10~23個/μm2程度である。この場合、引張強度は最大でも910MPa程度にとどまる。
化学組成が、質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たし、
前記低熱膨張合金中において、
バナジウム炭化物の体積率が2.5~12.5%であり、
円相当径が200nm未満の微細バナジウム炭化物が50個/μm2以上であり、
円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物の平均円相当径が2.8μm未満である。
30.00≦Ni+Co≦40.00 (1)
-0.50<V-50.94/12.01×C<2.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
前記化学組成は、
Co:0.10~10.00%を含有する。
前記化学組成は、
Cr:1.00~3.00%を含有する。
化学組成が、質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たす素材を1150~1300℃に加熱した後、熱間鍛造して合金材を製造する熱間鍛造工程であって、前記熱間鍛造工程での累積圧下率を30.0%以上とし、前記累積圧下率が30.0%になるまでの1パスあたりの圧下率を5.0%以上とし、熱間鍛造中の前記素材の温度を900℃以上とする、熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程後の前記合金材に対して、1000~1300℃で0.5時間以上保持する溶体化処理を実施する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の前記合金材に対して、20.0%以上の冷間加工率で冷間加工を実施する冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の前記合金材に対して、500~800℃で0.5時間以上保持して時効熱処理を実施する時効熱処理工程とを備える。
前記化学組成は、
Co:0.10~10.00%を含有する。
前記化学組成は、
Cr:1.00~3.00%を含有する。
本実施形態の低熱膨張合金の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、バナジウム(V)と結合してバナジウム炭化物を形成する。バナジウム炭化物のヤング率は高い。さらに、バナジウム炭化物の熱膨張係数は低く、オーステナイトの半分程度である。したがって、バナジウム炭化物は、合金の熱膨張率の上昇を抑えつつ、ヤング率を高めることができる。C含有量が0.20%未満であれば、この効果が得られない。一方、C含有量が2.00%を超えれば、Cが母相であるオーステナイト中に固溶する。Cが母相に固溶すれば、熱膨張係数が増大してしまう。したがって、C含有量は0.20~2.00%である。C含有量の好ましい下限は0.30%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.80%である。C含有量の好ましい上限は1.80%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.20%である。
マンガン(Mn)は不純物である硫黄(S)と結合し、合金の熱間加工性を改善する。Mn含有量が0.05%未満であれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が2.00%を超えれば、合金の自発体積磁歪が減少する。その結果、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Mn含有量は0.05~2.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.06%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mn含有量の好ましい上限は1.70%であり、さらに好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.00%である。
バナジウム(V)は炭素(C)と結合してバナジウム炭化物として合金中に晶出又は析出する。これにより、合金の熱膨張係数の増加を抑えつつ、合金のヤング率を高めることができる。さらに、円相当径が200nmの微細なバナジウム炭化物として析出することにより、引張強度を高めることができる。V含有量が0.80%未満であれば、この効果が得られない。一方、V含有量が10.00%を超えれば、Vが母相に過剰に多く固溶し、その結果、合金の熱膨張係数が増大する。V含有量が10.00%を超えればさらに、バナジウム炭化物が粗大化し、その結果、合金の延性が低下する。したがって、V含有量は0.80~10.00%である。V含有量の好ましい下限は1.00%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは3.20%である。V含有量の好ましい上限は9.00%であり、さらに好ましくは8.00%であり、さらに好ましくは6.00%である。
ニッケル(Ni)は、合金の自発体積磁歪を高め、その結果、合金の熱膨張係数を下げる。Ni含有量が30.00%未満であれば、この効果が得られない。一方、Ni含有量が40.00%を超えれば、合金の熱膨張係数がかえって増大する。したがって、Ni含有量は30.00~40.00%である。Ni含有量の好ましい下限は31.00%であり、さらに好ましくは32.00%であり、さらに好ましくは33.00%である。Ni含有量の好ましい上限は39.00%であり、さらに好ましくは38.00%であり、さらに好ましくは35.00%である。
シリコン(Si)は合金を脱酸する。Siが少しでも含有されれば、脱酸効果がある程度得られる。しかしながら、Si含有量が0.50%を超えれば、合金の自発体積磁歪が減少し、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Si含有量は0超~0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Si含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
アルミニウム(Al)は合金を脱酸する。Alが少しでも含有されれば、脱酸効果がある程度得られる。しかしながら、Al含有量が0.100%を超えれば、合金の自発体積磁歪が減少する。その結果、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Al含有量は0超~0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Al含有量の好ましい上限は0.090%未満であり、さらに好ましくは0.050%である。本実施形態において、Al含有量とは、全Alの含有量である。
本実施形態の低熱膨張合金の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Coを含有してもよい。
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。含有された場合、CoはNiと同様に、合金の熱膨張係数を低下する。しかしながら、Co含有量が10.00%を超えれば、熱膨張係数がかえって増大してしまう。したがって、Co含有量は0~10.00%である。Co含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは4.00%である。Co含有量の好ましい上限は9.00%であり、さらに好ましくは8.00%であり、さらに好ましくは6.00%である。
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有された場合、Crは合金に固溶して合金のヤング率を高める。しかしながら、Cr含有量が3.00%を超えれば、母相に過剰に多く固溶したCrにより熱膨張係数が増大する。したがって、Cr含有量は0~3.00%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは1.50%である。Cr含有量の好ましい上限は2.50%であり、より好ましくは2.00%である。
本実施形態の低熱膨張合金の上記化学組成はさらに、式(1)を満たす。
30.00≦Ni+Co≦40.00 (1)
式(1)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上記化学組成はさらに、式(2)を満たす。
-0.50<V-50.94/12.01×C<2.00 (2)
式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態の低熱膨張合金中において、バナジウム炭化物の体積率は2.5~12.5%である。合金が十分な体積率のバナジウム炭化物を含有すれば、合金のヤング率が高まる。バナジウム炭化物は、溶湯の凝固時に合金中に晶出又は析出する。バナジウム炭化物はまた、式(1)及び式(2)を満たす上記化学組成の合金において、溶体化処理時にその一部が固溶して、溶体化処理、及び、冷間加工後の時効熱処理により、微細に析出する。
本実施形態の低熱膨張合金中には、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物と、円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物とが混在する。つまり、本実施形態の低熱膨張合金中のバナジウム炭化物は、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物(微細バナジウム炭化物)と、円相当径が1.0μm以上のバナジウム炭化物(粗大バナジウム炭化物)とを含む。
本実施形態の低熱膨張合金において、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物(微細バナジウム炭化物)の個数密度は、50個/μm2以上である。微細バナジウム炭化物の円相当径の下限は1nmである。ここで、円相当径とは、後述の透過型電子顕微鏡による観察において、特定されたバナジウム炭化物の面積を、円に換算したときの直径を意味する。
本実施形態の低熱膨張合金において、円相当径が1.0μm以上のバナジウム炭化物(粗大バナジウム炭化物)の平均粒径は2.8μm未満である。化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、式(1)及び式(2)を満たし、バナジウム炭化物の総体積率が2.5~12.5%であり、微細バナジウム炭化物が50個/μm2以上であっても、粗大バナジウム炭化物の平均粒径が2.8μm以上であれば、微細バナジウム炭化物により強度を高めることができても、延性が低下してしまう。その結果、引張強度×伸び(MPa・%)が低下する。
ここで、本実施形態の低熱膨張合金の熱膨張係数は次の方法で求めることができる。低熱膨張合金の任意の位置から、試験片を採取する。たとえば、低熱膨張合金が板材の場合、板幅中央位置から、試験片を採取する。低熱膨張合金が円柱状(棒材)である場合、低熱膨張合金の長手方向に垂直な断面において、R/2位置(当該断面の半径Rの中央位置)から試験片を採取する。低熱膨張合金が管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。試験片は、直径3mm、長さ15mmの円柱状とする。試験片を用いて、JIS Z 2285(2003)に基づいて、熱膨張係数を求める。熱膨張係数の測定には、水平型示差膨張式機械分析装置を用いる。具体的には、試験片を5℃/minの速度で昇温し、30~100℃の熱膨張係数を1℃ピッチで求める。求めた熱膨張係数の平均を、本実施形態の低熱膨張合金の熱膨張係数(×10-6/℃)とする。
本実施形態の低熱膨張合金のヤング率は次の方法で求めることができる。低熱膨張合金の任意の位置から、試験片を採取する。たとえば、低熱膨張合金が板材の場合、板幅中央位置から、試験片を採取する。低熱膨張合金が円柱状(棒材)である場合、低熱膨張合金の長手方向に垂直な断面において、R/2位置(当該断面の半径Rの中央位置)から試験片を採取する。低熱膨張合金が管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。試験片は、長さ60mm、幅10mm、厚さ1.5mmとする。供試材を用いて、JIS Z 2280(1993)に準拠して、常温(20℃±15℃)でのヤング率を測定する。ヤング率の測定では、横共振法の測定装置を用いる。
本実施形態の低熱膨張合金の引張強度TS(MPa)及び伸びEL(%)は次の方法で求める。低熱膨張合金の任意の位置から、試験片を採取する。たとえば、低熱膨張合金が板材の場合、板幅中央位置から、試験片を採取する。低熱膨張合金が円柱状(棒材)である場合、低熱膨張合金の長手方向に垂直な断面において、R/2位置(当該断面の半径Rの中央位置)から試験片を採取する。低熱膨張合金が管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。試験片は、平行部長さ65mm、平行部の直径6mmの引張試験片とする。平行部長さは、低熱膨張合金の長手方向(鍛伸方向)と平行とする。採取した引張試験片を用いて、JIS Z 2241(2011)に準拠して、常温(20℃±15℃)、大気中にて、引張試験を実施して、応力-ひずみ曲線を得る。得られた応力-ひずみ曲線から引張強度TS(MPa)、及び、伸びEL(%)を求める。本明細書において、伸びは、破断伸びとする。得られた引張強度TS及び伸びELに基づいて、引張強度TSと伸びELとの積(TS×EL)を求める。
本実施形態の低熱膨張合金の製造方法の一例を以下に説明する。なお、本実施形態の低熱膨張合金は、以下の製造方法に限定されない。式(1)及び式(2)を満たす上記化学組成であって、バナジウム炭化物の総体積率が2.5~12.5%であり、円相当径が200nm未満の微細バナジウム炭化物の個数密度が50個/μm2以上であり、円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物の平均円相当径が2.8μm未満である低熱膨張合金が製造できれば、製造方法は特に限定されない。
鋳造工程(S1)では、式(1)及び式(2)を満たす化学組成の合金の素材(鋳造材)を製造する。鋳造方法は、造塊法でもよいし、連続鋳造法でもよい。式(1)及び式(2)を満たす化学組成の場合、鋳造工程において、粗大バナジウム炭化物が晶出又は析出する。そのため、素材には、図1中のミクロ組織図(A)に示すとおり、母相100とともに、柱状又は塊状の粗大バナジウム炭化物200が多数存在する。
熱間鍛造工程(S2)では、鋳造工程により製造された素材に対して、熱間鍛造を実施して合金材を製造する。熱間鍛造工程(S2)は、低熱膨張合金の形状を成形するだけでなく、素材中の粗大バナジウム炭化物200を破砕して小さくする役割を有する。具体的には、素材を加熱温度T2=1150~1300℃に加熱する。
Pn={1-(nパス目の圧下後の素材の圧下方向の厚さ/nパス目の圧下前の素材の圧下方向の厚さ)}×100
ここで、圧下方向の厚さとは、図2に示す素材1において、圧下方向Pを含む断面10での圧下方向の厚さTn(mm)を意味する。
累積圧下率Pt=(1-熱間鍛造後の合金材の圧下方向を含む断面での断面積/熱間鍛造前の素材の圧下方向を含む断面での断面積)×100
ここで、圧下方向での断面とは、図2に示す断面10を意味する。なお、素材が直方体状ではない場合、熱間鍛造前の素材の圧下方向を含む断面での断面積は、熱間鍛造前の素材において、断面10のうち最小の断面の断面積とする。
溶体化処理工程(S3)では、熱間鍛造工程(S2)後の合金材に対して溶体化処理を実施する。溶体化処理を実施することにより、図1中のミクロ組織図(C)に示すとおり、合金材中の粗大バナジウム炭化物を、熱間鍛造工程(S2)直後の粗大バナジウム炭化物210の一部を固溶して、粗大バナジウム炭化物220とする。溶体化処理では、合金材を1000~1300℃の溶体化処理温度T3に加熱し、溶体化処理温度T3で保持する。保持時間はたとえば、0.5時間以上である。保持時間の上限は特に限定されないが、製造コストを考慮すれば、たとえば、100時間である。
冷間加工工程(S4)では、溶体化処理工程(S3)後の合金材に対して、冷間加工を実施する。冷間加工として、冷間鍛造を実施してもよいし、冷間抽伸を実施してもよいし、冷間圧延を実施してもよい。冷間加工における累積の冷間加工率は、20.0%以上である。ここで累積の冷間加工率CWは、次の式で定義される。
冷間加工率CW=(1-冷間加工工程後の合金材の断面積/冷間加工工程前の合金材の断面積)×100
なお、冷間加工率CWにおいて、合金材の断面積とは、合金材の長手方向(軸方向)に垂直な断面の面積を意味する。
時効熱処理工程(S5)では、冷間加工工程後の合金材に対して、時効熱処理工程(S5)を実施して、合金材中に微細バナジウム炭化物を析出させる。時効熱処理工程(S5)では、時効熱処理温度T5を500~800℃として、時効熱処理温度T5での保持時間を0.5時間以上とする。保持時間の上限は特に限定されないが、製造コストを考慮すれば、たとえば、500時間である。
[バナジウム炭化物の総体積率の測定試験]
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、長さ10mm、幅10mm、厚さ10mmの供試材を作製した。採取された供試材を、10%AA系電解液(10%アセチルアセトン‐1%テトラメチルアンモニウムクロライド‐メタノール電解液)を用いて電解した。電解時の電流は20mA/cm2とした。電解により得られた電解液を、孔径が200nmのフィルタでろ過して残渣の質量を測定した。ここで、上記フィルタでろ過して得られた残渣が、全てバナジウム炭化物であるとみなした。電解前の供試材の総質量と、電解後の供試材の総質量とから、電解量の質量を求めた。電解量の質量と残渣の質量とから、バナジウム炭化物のモル分率を算出した。次に、求めたモル分率を用い、マトリクス(低熱膨張合金)の格子定数と、バナジウム炭化物の格子定数に基づいて、バナジウム炭化物の総体積率(体積%)を算出した。ここで、マトリクス(低熱膨張合金)の格子定数は3.59Åとし、バナジウム炭化物の格子定数を4.17Åとした。得られたバナジウム炭化物の総体積率(体積%)を表3に示す。
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、供試材を採取した。供試材を機械研磨して、70μmの厚さにした。さらに、供試材の表面(観察面)を、ツインジェット研磨法(電解液:過塩素酸メタノール(過塩素酸10%、メタノール90%))により研磨した。研磨された供試材の観察面に対して透過型電子顕微鏡を用いて、顕微鏡観察を実施した。観察視野は300nm×500nmとした。微細バナジウム炭化物の回折スポットを用いて結像させた暗視野像を得た。画像ソフトにより、円相当径が1nm以上かつ200nm未満の微細バナジウム炭化物の個数密度を測定した。微細バナジウム炭化物の個数を暗視野像の視野面積で割って、本実施形態の微細バナジウム炭化物の個数密度(個/μm2)とした。得られた微細バナジウム炭化物の個数密度を表3に示す。
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、観察面が鍛伸方向及び板厚方向に平行になるように供試材を採取した。供試材の観察面をエミリー紙で研磨し、その後、ダイヤモンドを使用してバフ研磨を実施した。研磨された供試材の観察面中の任意の28視野に対して、走査型電子顕微鏡を用いて反射電子像を得た。各視野は180μm×420μmとした。得られた反射電子像を画像解析ソフトを用いて、二値化処理を実施し、析出物と母相とを区別した。さらに、表1の化学組成の低熱膨張合金のミクロ組織において、バナジウム炭化物以外の析出物は存在しないとみなすことができた。したがって、二値化処理により、バナジウム炭化物を特定することができた。特定された各バナジウム炭化物の円相当径を求めた。そして、円相当径が1.0μm以上のバナジウム炭化物を特定した。28箇所の視野にて特定された、円相当径が1.0μm以上のバナジウム炭化物の平均円相当径を求めた。平均円相当径は小数第二位を四捨五入した値とした。得られた粗大バナジウム炭化物の円相当径(μm)を表3に示す。
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、直径3mm、長さ15mmの円柱状の試験片を作製した。試験片の長手方向は、鍛伸方向と平行とした。試験片を用いて、熱膨張係数を求めた。具体的には、熱膨張係数の測定には、水平型示差膨張式機械分析装置を用いた。試験片を5℃/minの速度で昇温し、30~100℃の平均熱膨張係数を求めた。結果を表3に示す。
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、長さ60mm、幅10mm、厚さ1.5mmの試験片を作製した。試験片を用いてヤング率を求めた。具体的には、ヤング率の測定は、横共振法の測定装置を用いた。JIS Z 2280(1993)に基づいてヤング率を求めた。測定されたヤング率を表3に示す。
製造された各試験番号の低熱膨張合金(板材)の板幅中央部から、平行部の直径が6mm、平行部の長さが65mmの丸棒引張試験片を作製した。平行部は、熱間鍛伸方向と平行とした。作製された引張試験片に歪ゲージを貼り付けた。その後、引張試験片を用いて、常温、大気中にて引張試験を実施し、応力-歪曲線を得た。得られた応力-歪曲線を用いて、引張強度TS(MPa)及び伸び(破断伸び)EL(%)を求めた。さらに、得られた引張強度TSと伸びELとの積(TS×EL)を求めた。得られた引張強度TS(MPa)及び引張強度と伸びとの積TS×EL(MPa・%)を表3に示す。
表1~表3を参照して、試験番号1~11の合金の化学組成は適切であり、式(1)及び式(2)を満たした。さらに、バナジウム炭化物の総体積率は2.5~12.5%であり、円相当径が200nm未満の微細バナジウム炭化物の個数密度が50個/μm2以上であり、円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物の平均円相当径が2.8μ未満であった。そのため、これらの試験番号の熱膨張係数は4×10-6/℃以下と低く、ヤング率は150GPa以上と高かった。さらに、引張強度は950MPa以上であり、引張強度と伸びとの積(TS×EL)が5000以上であった。
Claims (6)
- 低熱膨張合金であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たし、
前記低熱膨張合金中において、
バナジウム炭化物の体積率が2.5~12.5%であり、
円相当径が1nm以上200nm未満の微細バナジウム炭化物が50個/μm2以上であり、
円相当径が1.0μm以上の粗大バナジウム炭化物の平均円相当径が2.8μm未満である、
低熱膨張合金。
30.00≦Ni+Co≦40.00 (1)
-0.50<V-50.94/12.01×C<2.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項1に記載の低熱膨張合金であって、
前記化学組成は、
Co:0.10~10.00%を含有する、
低熱膨張合金。 - 請求項1又は請求項2に記載の低熱膨張合金であって、
前記化学組成は、
Cr:1.00~3.00%を含有する、
低熱膨張合金。 - 化学組成が、質量%で、
C:0.20~2.00%、
Mn:0.05~2.00%、
V:0.80~10.00%、
Ni:30.00~40.00%、
Si:0超~0.50%、及び、Al:0超~0.100%からなる群から選択される1種以上、
Co:0~10.00%、
Cr:0~3.00%、及び、
残部:Fe及び不純物、
からなり、式(1)及び式(2)を満たす素材を1150~1300℃に加熱した後、熱間鍛造して合金材を製造する熱間鍛造工程であって、前記熱間鍛造工程での累積圧下率を30.0%以上とし、前記累積圧下率が30.0%になるまでの1パスあたりの圧下率を5.0%以上とし、熱間鍛造中の前記素材の温度を900℃以上とする、熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造工程後の前記合金材に対して、1000~1300℃で0.5時間以上保持する溶体化処理を実施する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の前記合金材に対して、20.0%以上の冷間加工率で冷間加工を実施する冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の前記合金材に対して、500~800℃で0.5時間以上保持して時効熱処理を実施する時効熱処理工程とを備える、
請求項1に記載の低熱膨張合金の製造方法。 - 請求項4に記載の低熱膨張合金の製造方法であって、
前記化学組成は、
Co:0.10~10.00%を含有する、
低熱膨張合金の製造方法。 - 請求項4又は請求項5に記載の低熱膨張合金の製造方法であって、
前記化学組成は、
Cr:1.00~3.00%を含有する、
低熱膨張合金の製造方法。
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