JP2017172044A - 低熱膨張合金 - Google Patents

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Abstract

【課題】低い熱膨張係数、高いヤング率及び高い引張強度を有する合金を提供する。【解決手段】本実施形態による低熱膨張合金は、質量%で、C:0.2〜2.0%、Mn:0.05〜2.0%、V:0.8〜10.0%、Ni:30.0〜40.0%、Si:0.5%以下及びAl:0.1%以下からなる群から選択される1種以上、Co:0〜10.0%及びCr:0〜3.0%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。低熱膨張合金は、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有する。低熱膨張合金は、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物を10個/μm2以上含有する。30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)−0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。【選択図】なし

Description

本発明は、合金に関し、さらに詳しくは、低熱膨張合金に関する。
低熱膨張合金として、インバー(商標)合金が知られている。インバー合金は、自発体積磁歪(インバー効果)により、室温〜300℃の範囲において、低い熱膨張係数を有する。そのため、熱の影響を受けても寸法が変化しにくい。インバー合金は、工作機械や精密測定機器等、高い寸法精度が求められる装置の部材に利用される。
しかしながら、インバー合金は、熱膨張係数が小さい反面、ヤング率及び引張強度は低い。たとえば、ヤング率は140GPa程度であり、一般的な鋼の2/3程度と低い。したがって、剛性及び強度が求められる部材にインバー合金を使用しにくい。
特開2015−178672号公報(特許文献1)、特開2002−256395号公報(特許文献2)及び特開平07−228947号公報(特許文献3)は、インバー合金のヤング率及び引張強度を高める技術を提案する。
特許文献1に記載された低熱膨張合金は、質量%で、C:0.2〜2.0%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.05〜2.0%、Al:0.01〜0.14%、V:0.8〜10.0%、Ni:30.0〜40.0%、Co:0〜10.0%、及び、Nb及びTiの少なくとも1種:0〜4.0%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、30.0≦Ni+Co≦40.0を満たす化学組成を有する。低熱膨張合金は、V、Nb及びTiのいずれかを含む特定炭化物を、体積分率で2.5〜12.5%含有する。これにより、低い熱膨張係数及び高いヤング率を有する合金が得られる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に記載された低熱膨張合金は、質量%で、C:0.1〜0.4%、V:0.5%超〜3.0%、及び、Ni:25〜50%を含有し、2≦V/C≦9を満たし、残部Fe及び不純物からなる。これにより、高い引張強さ、優れた捻回特性及び低い熱膨張特性を有する低熱膨張合金が得られる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に記載された低熱膨張合金は、重量比にして、C:0.1〜0.4%、Si:0.2〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、Ni:33〜42%、Co:5.0%以下、Cr:0.75〜3.0%、V:0.2〜3.0%、B:0.003%以下、O:0.003%以下、Al:0.1%以下、Mg:0.1%以下、Ti:0.1%以下、及び、Ca:0.1%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなり、1.0%≦V+Cr≦5.0%を満たす。これにより、熱膨張係数が低く、高い常温引張強さを有する低熱膨張合金が得られると、特許文献3には記載されている。
特開2015−178672号公報 特開2002−256395号公報 特開平07−228947号公報
E. A. Owen, E. L. Yates, and A. H. Sully: Proc. Phys. Soc. 49, 323(1937) Eremenko V.N., Kharkova A.M., Velikanova T.Y.: Isothermal section of the vanadium-rhenium-carbon system at 1950 °C. Dopovidi Akademii Nauk Ukrains'koi RSR, Seriya A: Fiziko-Matematichni ta Tekhnichni Nauki 5 (1984) 83-85 (in Ukrainian)
しかしながら、特許文献1〜特許文献3に記載された技術を用いても、低い熱膨張係数、高いヤング率及び高い引張強度を有する合金が得られない場合がある。
本発明の目的は、低い熱膨張係数、高いヤング率及び高い引張強度を有する低熱膨張合金を提供することである。
本実施形態による低熱膨張合金は、質量%で、C:0.2〜2.0%、Mn:0.05〜2.0%、V:0.8〜10.0%、Ni:30.0〜40.0%、Si:0.5%以下及びAl:0.1%以下からなる群から選択される1種以上、Co:0〜10.0%、及び、Cr:0〜3.0%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。低熱膨張合金は、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有する。低熱膨張合金は、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物を10個/μm2以上含有する。
30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)
−0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態による低熱膨張合金は、低い熱膨張係数、高いヤング率及び高い引張強度を有する。
本発明者らは、低熱膨張合金の熱膨張係数、ヤング率及び引張強度について調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
Niは、合金の自発体積磁歪を高め、その結果、合金の熱膨張係数を下げる。Ni含有量が30〜40質量%であれば、合金の熱膨張係数が低くなる。CoはNiを代替可能である。したがって、化学組成が式(1)を満たせば、合金の熱膨張係数が低くなる。
30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)
式(1)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
合金のヤング率を高めるためには、周期表4〜6族の元素(以下、特定元素と称する)を利用することが有効である。特定元素が固溶状態で存在した場合、合金のヤング率は高くなる。しかしながら、特定元素の固溶量が一定量を超えると合金の熱膨張係数が急激に増大する。一方で、特定元素を析出物と複合化させることでも合金のヤング率を高めることができる。しかしながら、この場合、析出物が熱膨張することにより、合金の熱膨張係数が増大する。
したがって、これらの方法ではなく、熱膨張係数が低く、かつ、ヤング率の高い化合物を分散する方法により合金のヤング率を高める。
バナジウム炭化物は、熱膨張係数が低く、かつ、ヤング率が高い。さらに、バナジウム炭化物は、溶解した合金が凝固する過程で容易に晶出する。したがって、合金のヤング率を高める化合物として、バナジウム炭化物を利用する。合金が、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有すれば、合金のヤング率が高まる。
本実施形態ではさらに、合金中に円相当径が200nm未満の微細バナジウム炭化物を分散させることによって、合金の引張強度を高める。溶湯の凝固時に晶出するバナジウム炭化物は粗大である。そのため、合金のヤング率を高めるものの、合金の引張強度を高めることは難しい。
バナジウム炭化物は高温においても安定であるため、通常、溶体化処理等の熱処理によって合金中に固溶させにくい。しかしながら、本発明者らは、合金中のV含有量及びC含有量を適切に調整すれば、溶体化処理によってバナジウム炭化物の一部を固溶できることを見出した。具体的には、合金中のV含有量及びC含有量が式(2)を満たせば、バナジウム炭化物が固溶しやすくなる。
−0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)
式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
溶体化処理によって固溶したV及びCは、時効処理によって微細バナジウム炭化物として析出させることができる。微細バナジウム炭化物が合金中に分散すれば、合金の引張強度が高まる。
つまり、合金がバナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有し、微細バナジウム炭化物を10個/μm2以上含有すれば、合金の熱膨張係数が低くなり、ヤング率及び引張強度が高まる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による低熱膨張合金は、質量%で、C:0.2〜2.0%、Mn:0.05〜2.0%、V:0.8〜10.0%、Ni:30.0〜40.0%、Si:0.5%以下及びAl:0.1%以下からなる群から選択される1種以上、Co:0〜10.0%、及び、Cr:0〜3.0%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。低熱膨張合金は、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有する。低熱膨張合金は、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物を10個/μm2以上含有する。
30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)
−0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上記低熱膨張合金の化学組成は、Co:0.1〜10.0%を含有してもよい。
上記低熱膨張合金の化学組成は、Cr:1.0〜3.0%を含有してもよい。
以下、本実施形態の低熱膨張合金について詳しく説明する。
[化学組成]
本実施形態の低熱膨張合金は、次の化学組成を有する。化学組成について「%」は、特に断りが無い限り質量%を意味する。
C:0.2〜2.0%
炭素(C)は、バナジウム(V)と結合してバナジウム炭化物を形成する。バナジウム炭化物のヤング率は高い。さらに、バナジウム炭化物の熱膨張係数は低く、オーステナイトの半分程度である。したがって、バナジウム炭化物は、合金の熱膨張率の上昇を抑えつつ、ヤング率を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、Cが母相であるオーステナイト相中に固溶する。Cが母相に固溶すれば、熱膨張係数が増大する。したがって、C含有量は0.2〜2.0%である。C含有量の下限は、好ましくは0.2%よりも高く、より好ましくは0.4%であり、さらに好ましくは0.8%である。C含有量の上限は、好ましくは2.0%未満であり、より好ましくは1.6%であり、さらに好ましくは1.2%である。
Mn:0.05〜2.0%
マンガン(Mn)は不純物である硫黄(S)と結合し、合金の熱間加工性を改善する。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、合金の自発体積磁歪が減少する。その結果、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Mn含有量は0.05〜2.0%である。Mn含有量の下限は、好ましくは0.05%よりも高く、より好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mn含有量の上限は、好ましくは2.0%未満であり、より好ましくは1.0%である。
V:0.8〜10.0%
バナジウム(V)は炭素(C)と結合してバナジウム炭化物として合金中に晶出又は析出する。これにより、合金の熱膨張係数の増加を抑えつつ、合金のヤング率を高めることができ、また引張強度を高めることができる。V含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、V含有量が高すぎれば、Vが母相に過剰に固溶して、合金の熱膨張係数が増大する。V含有量が高すぎればさらに、バナジウム炭化物が粗大化し、合金の熱間加工性が低下する。したがって、V含有量は0.8〜10.0%である。V含有量の下限は、好ましくは0.8%よりも高く、より好ましくは1.6%であり、さらに好ましくは3.2%である。V含有量の上限は、好ましくは10.0%未満であり、より好ましくは8.0%であり、さらに好ましくは6.0%である。
Ni:30.0〜40.0%
ニッケル(Ni)は、合金の自発体積磁歪を高め、その結果、合金の熱膨張係数を下げる。Ni含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、合金の熱膨張係数がかえって増大する。したがって、Ni含有量は30.0〜40.0%である。Ni含有量の下限は、好ましくは30.0%よりも高く、より好ましくは32.0%であり、さらに好ましくは33.0%である。Ni含有量の上限は、好ましくは40.0%未満であり、より好ましくは38.0%であり、さらに好ましくは35.0%である。
低熱膨張合金はさらに、Si及びAlからなる群から選択される1種以上を含有する。
Si:0.5%以下
シリコン(Si)は合金を脱酸する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、合金の自発体積磁歪が減少し、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Si含有量は0.5%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.01%である。Si含有量の好ましい上限は0.3%であり、より好ましくは0.2%である。
Al:0.1%以下
アルミニウム(Al)は合金を脱酸する。しかしながら、Al含有量が高すぎれば、合金の自発体積磁歪が減少する。その結果、合金の熱膨張係数が高まる。したがって、Al含有量は0.1%以下である。Al含有量の下限は、好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Al含有量の上限は、好ましくは0.1%未満であり、より好ましくは0.05%である。本実施形態において、Al含有量とは、全Alの含有量である。
本実施形態の低熱膨張合金の残部はFe及び不純物である。ここで、不純物とは、合金を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の低熱膨張合金に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。不純物はたとえば、燐(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)等である。
本実施形態の低熱膨張合金はさらに、Feの一部に代えて、Coを含有してもよい。
Co:0〜10.0%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有された場合、CoはNiと同様の作用を有し、合金の熱膨張係数を低下する。しかしながら、Co含有量が高すぎれば、熱膨張係数がかえって増大する。したがって、Co含有量は0〜10.0%である。Co含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、より好ましくは2.0%であり、さらに好ましくは4.0%である。Co含有量の上限は、好ましくは10.0%未満であり、より好ましくは8.0%であり、さらに好ましくは6.0%である。
本実施形態の低熱膨張合金はさらに、Feの一部に代えて、Crを含有してもよい。
Cr:0〜3.0%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。Crは合金に固溶して合金のヤング率を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、過剰に多く固溶したCrにより熱膨張係数が増大する。したがって、したがって、Cr含有量は0〜3.0%である。Cr含有量の下限は、好ましくは1.0%であり、より好ましくは1.5%である。Cr含有量の上限は、好ましくは2.5%であり、より好ましくは2.0%である。
[式(1)について]
上記化学組成はさらに、式(1)を満たす。
30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)
式(1)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
P1=Ni+Coと定義する。P1は、合金中のNi及びCoの合計含有量である。上述のとおり、CoはNiと同様の作用を有する。P1が低すぎれば、又は、P1が高すぎれば、熱膨張係数が高くなる。P1が式(1)を満たせば、合金の熱膨張係数が低下する。したがって、P1は30.0〜40.0である。P1の下限は、好ましくは32.0であり、さらに好ましくは33.0である。P1の上限は、好ましくは38.0である。
[式(2)について]
上記化学組成はさらに、式(2)を満たす。
−0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)
式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
P2=V−50.94/12.01×Cと定義する。50.94はVの原子量、12.01はCの原子量である。P2は、合金中のV含有量及びC含有量の関係を表す。上述のとおり、バナジウム炭化物は高温において安定であるため、通常、溶体化処理によって合金中に固溶させることは難しい。しかしながら、P2が式(2)を満たせば、溶体化処理によってバナジウム炭化物の一部を固溶させることができる。固溶したV及びCは、時効処理によって微細バナジウム炭化物として合金中に析出させることができる。微細バナジウム炭化物が十分に分散すれば、合金の引張強度が高まる。
P2が高すぎれば、Vの固溶量が多すぎる。一方で、P2が低すぎれば、Cの固溶量が多すぎる。いずれの場合も、バナジウム炭化物が安定化するため、溶体化処理を施してもバナジウム炭化物が固溶しにくい。そのため、溶体化処理の後に時効処理を実施しても、微細バナジウム炭化物を十分に析出させることができない。この場合、十分な引張強度を有する合金が得られない。したがって、P2は−0.5超〜2.0未満である。P2の下限は、好ましくは−0.1である。P2の上限は、好ましくは1.0である。
[バナジウム炭化物の体積分率]
低熱膨張合金は、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有する。合金が十分な体積分率のバナジウム炭化物を含有すれば、合金のヤング率が高まる。バナジウム炭化物は、溶湯の凝固時に合金中に晶出する。
バナジウム炭化物の含有量が2.5体積%未満であれば、合金のヤング率が低い。一方で、バナジウム炭化物の含有量が多ければ、合金の熱間加工性及び鋳造性が低下する。また、バナジウム炭化物の含有量が多いと、バナジウム炭化物が粗大になり、引張強度が低下する可能性がある。したがって、バナジウム炭化物の含有量は2.5〜12.5体積%である。バナジウム炭化物の含有量の下限は、好ましくは5.9体積%である。バナジウム炭化物の含有量の上限は、好ましくは10.0体積%である。
バナジウム炭化物の体積分率は次の方法で測定する。10%AA系電解液(10%アセチルアセトン‐1%テトラメチルアンモニウムクロライド‐メタノール電解液)を用いて試験材を電解する。電解時の電流は20mA/cm2とする。電解液を孔径が200nmのフィルターでろ過して残渣の質量を測定する。残渣が全てバナジウム炭化物であると仮定し、電解前の試験材の質量と電解後の試験材の質量から電解量を求める。残渣が全てバナジウム炭化物であると仮定し、電解量と残渣の質量とから、バナジウム炭化物のモル分率を算出する。次に、求めたモル分率を用い、マトリクスの格子定数と、バナジウム炭化物の格子定数に基づいて、バナジウム炭化物の体積分率(体積%)を算出する。マトリクスの格子定数は、非特許文献1のインバー合金の3.59Åを、バナジウム炭化物の格子定数は、非特許文献2のVCの4.17Åを用いる。
上記方法では、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物は残渣にほぼ含まれない(つまり、残渣は円相当径が200nm以上のバナジウム炭化物である)が、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物の体積率は顕著に小さく、無視できる。したがって、本明細書において、上記方法で測定された体積率を、バナジウム炭化物の体積率(%)と定義する。
[微細バナジウム炭化物の個数]
低熱膨張合金は、微細バナジウム炭化物を10個/μm2以上含有する。微細バナジウム炭化物とは、円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物をいう。微細バナジウム炭化物の円相当径の下限は1nmである。合金が十分な個数の微細バナジウム炭化物を含有すれば、合金の引張強度が高まる。微細バナジウム炭化物は、合金を溶体化処理することによってバナジウム炭化物の一部を合金中に固溶し、その後合金を時効処理することによって析出する。これにより、微細バナジウム炭化物を合金中に分散できる。
微細バナジウム炭化物が10個/μm2未満であれば、合金の引張強度が低い。したがって、低熱膨張合金中の微細バナジウム炭化物は10個/μm2以上である。低熱膨張合金中の微細バナジウム炭化物は好ましくは15個/μm2以上である。低熱膨張合金中の微細バナジウム炭化物の個数の上限は特に限定されないが、たとえば1000個/μm2である。
微細バナジウム炭化物の個数は、次の方法で測定する。試験材を機械研磨により70μmの厚さにする。さらに、試験材をツインジェット研磨法(電解液:過塩素酸メタノール(過塩素酸10%、メタノール90%))により研磨する。研磨した試験材に対して透過型電子顕微鏡を用いて、顕微鏡観察を実施する。微細バナジウム炭化物の回折スポットを用いて結像させた暗視野像を得る。画像ソフトにより、円相当径が1nm以上かつ200nm未満の微細バナジウム炭化物の個数を測定する。微細バナジウム炭化物の個数を暗視野像の視野面積で割って、本実施形態の微細バナジウム炭化物の個数(個/μm2)とする。この方法で特定可能な微細バナジウム炭化物の円相当径は1nm以上である。
[製造方法]
上述の合金の製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。製造されたインゴットに対して、熱間加工を実施して合金を製造する。熱間加工はたとえば、熱間鍛造である。合金を1200℃に加熱して、熱間鍛造する。熱間鍛造温度はたとえば、850〜1150℃である。
[溶体化処理]
熱間加工後の合金を溶体化処理する。溶体化処理により、合金中のバナジウム炭化物の一部が固溶する。溶体化処理温度は1000〜1300℃である。溶体化処理温度が1000℃未満であれば、バナジウム炭化物が十分に固溶しない。一方で、溶体化処理温度が1300℃より高ければ、合金が部分溶融しやすい。溶体化処理時間は0.5時間以上である。溶体化処理時間が0.5時間未満であれば、バナジウム炭化物が十分に固溶しない。溶体化処理後、合金を急冷する。急冷はたとえば水冷である。
[時効処理]
溶体化処理後の合金を時効処理する。時効処理により、合金中に固溶したV及びCが微細バナジウム炭化物として合金中に析出及び分散する。時効処理温度は500〜800℃である。時効処理温度が500℃未満又は800℃より高ければ、微細バナジウム炭化物が十分に析出しない。この場合、合金に引張強度が低下する。時効処理時間は0.5時間以上である。時効処理時間が0.5時間未満であれば、微細バナジウム炭化物が十分に析出しない。
以上の工程により、本実施形態の低熱膨張合金を製造できる。
表1に示す化学組成の供試材を準備した。
Figure 2017172044
各供試材を真空中で誘導溶解し、30kg、直径100mmのインゴットを製造した。製造されたインゴットを1200℃に加熱した後、850〜1150℃で熱間鍛造し、厚さ16mmの板材とした。板材に対して表2に示す条件で、溶体化処理及び時効処理を実施した。
Figure 2017172044
[バナジウム炭化物の体積分率の測定試験]
上記板材から長さ50mm、幅10mm、厚さ10mmの試験片を作製した。上述の方法により、200nm以上のバナジウム炭化物の体積分率(体積%)を測定した。結果を表3に示す。
[微細バナジウム炭化物の個数の測定試験]
上記板材を用いて上述の方法により、200nm未満のバナジウム炭化物(微細バナジウム炭化物)の個数(個/μm2)を測定した。結果を表3に示す。
[熱膨張係数測定試験]
上記板材から直径3mm、長さ15mmの試験片を作製した。試験片を用いて、熱膨張係数を求めた。具体的には、水平示差検出方式の測定装置を用いて、5℃/minの速度で昇温し、30〜100℃の平均熱膨張係数を求めた。結果を表3に示す。
[ヤング率測定試験]
上記板材から長さ60mm、幅10mm、厚さ1.5mmの試験片を作製した。試験片を用いてヤング率を求めた。具体的には、横共振法の測定装置を用いて、ヤング率を求めた。結果を表3に示す。
[引張試験]
上記板材から、平行部の直径が6mm、平行部の長さが65mmの丸棒引張試験片を作製した。作製された引張試験片に歪ゲージを貼り付けた。その後、引張試験片を用いて、常温、大気中にて引張試験を実施し、応力−歪曲線を得た。得られた応力−歪曲線を用いて、引張強度TS(MPa)を求めた。結果を表3に示す。
Figure 2017172044
[試験結果]
表1〜表3を参照して、試験番号1〜試験番号6、試験番号11、試験番号14、試験番号15、試験番号18及び試験番号19の合金の化学組成は適切であり、式(1)及び式(2)を満たした。さらに、試験番号1〜試験番号6、試験番号11、試験番号14、試験番号15、試験番号18及び試験番号19の合金は、バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有し、微細バナジウム炭化物(円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物)を10個/μm2以上含有した。そのため、試験番号1〜試験番号6、試験番号11、試験番号14、試験番号15、試験番号18及び試験番号19の合金の熱膨張係数は4×10-6/℃以下であり、ヤング率は150GPa以上であり、引張強度は800MPa以上であった。
一方、試験番号7の合金は式(2)を満たさなかった。そのため、試験番号7の合金の微細バナジウム炭化物の個数は2個/μm2であった。その結果、試験番号7の合金の引張強度は630MPaであった。
試験番号8の合金の化学組成は適切であったものの、溶体化処理の温度が950℃であった。そのため、試験番号8の合金の微細バナジウム炭化物の個数は3個/μm2であった。その結果、試験番号8の合金の引張強度は625MPaであった。
試験番号9の合金の化学組成は適切であったものの、時効処理の温度が950℃であった。そのため、試験番号9の合金の微細バナジウム炭化物の個数は3個/μm2であった。その結果、試験番号9の合金の引張強度は610MPaであった。
試験番号10の合金の化学組成は適切であったものの、式(2)を満たさなかった。そのため、試験番号10の合金の微細バナジウム炭化物の個数は1個/μm2であった。その結果、試験番号10の合金の引張強度は630MPaであった。
試験番号12の合金のNi含有量は多かった。また、試験番号13の合金のNi含有量は少なかった。その結果、試験番号12及び試験番号13の合金の熱膨張係数は、各々4.31×10-6/℃、5.20×10-6/℃であった。
試験番号16の合金のC含有量及びV含有量は、少なかった。そのため、試験番号16の合金のバナジウム炭化物の含有量は0.5体積%であった。その結果、試験番号16の合金のヤング率は146.2GPaであった。
試験番号17の合金の化学組成は適切であったものの、時効処理を行わなかった。そのため、試験番号17の合金の微細バナジウム炭化物の個数は1個/μm2であった。その結果、試験番号17の合金の引張強度は642MPaであった。
試験番号20の合金のCr含有量は高すぎた。その結果、試験番号20の熱膨張係数は、4.21×10-6/℃であった。
試験番号21の合金では、Ni含有量及びCo含有量は適切であったものの、P1が高すぎた。その結果、試験番号21の熱膨張係数は、4.35×10-6/℃であった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.2〜2.0%、
    Mn:0.05〜2.0%、
    V:0.8〜10.0%、
    Ni:30.0〜40.0%、
    Si:0.5%以下及びAl:0.1%以下からなる群から選択される1種以上、
    Co:0〜10.0%、及び、
    Cr:0〜3.0%
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有し、
    バナジウム炭化物を2.5〜12.5体積%含有し、
    円相当径が200nm未満のバナジウム炭化物を10個/μm2以上含有する、低熱膨張合金。
    30.0≦Ni+Co≦40.0 (1)
    −0.5<V−50.94/12.01×C<2.0 (2)
    ここで、式(1)及び式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の低熱膨張合金であって、
    前記化学組成は、Co:0.1〜10.0%を含有する、低熱膨張合金。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の低熱膨張合金であって、
    前記化学組成は、Cr:1.0〜3.0%を含有する、低熱膨張合金。
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