JP7213440B2 - レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置 - Google Patents

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Description

本開示は、レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関する。
レーザ溶接は、被溶接物であるワークに照射されるレーザ光のパワー密度が高いため、高速かつ高品質の溶接を行うことができる。特に、レーザ光をワークの表面で高速にスキャンしながら溶接を行うスキャニング溶接では、溶接をしない期間中にレーザビームを次の溶接点へ高速に移動することができるため、トータルな溶接時間を短縮することができる(例えば、特許文献1参照)。また、レーザ光のスキャニング方法に関しては、ワークの表面にリサージュパターンを描くようにレーザ光を走査する方法が、従来提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。また、スキャンニング溶接は、通常の鉄鋼材料のみではなく、亜鉛めっき等の表面処理を行った鉄鋼材料の薄板溶接にも適用されている(例えば、特許文献4参照)。
特開2005-095934号公報 特開昭60-177983号公報 特開平11-104877号公報 特許第4915315号公報
ところで、亜鉛の沸点(906℃)は、鉄の融点(1535℃)よりも大幅に低い。このため、亜鉛めっき層がそれぞれの表面に形成された2枚の鋼板をギャップレスで重ねて溶接する重ね溶接では、鉄が溶融する前に鋼板の重ね合わせ面に介在する亜鉛めっき層が蒸発温度に達してしまう。発生した亜鉛蒸気は、キーホールまたは溶融池を不安定にしたり、ワークの内部にポロシティを形成させたり、極端な場合は溶融池を吹き飛ばしたりして、溶接欠陥を発生させるおそれがあった。
しかし、特許文献1~3に開示された従来の構成では、亜鉛めっき層が形成された鋼板の重ね溶接に関して何ら開示されておらず、前述の課題に関しても開示されていない。
一方、特許文献4には、溶接方向に沿ってレーザビームを前後にウィービングするとともに、前方にウィービングする前進工程でのレーザ光の出力を後方にウィービングする後進工程でのそれよりも低くする方法が開示されている。このようにすることで、亜鉛めっき層を除去した後に鋼板同士を溶接することを可能にしている。
しかし、特許文献4に開示される方法では、レーザ光の軌跡が、前進工程と後進工程とで重なっている。また、溶接方向と交差する方向におけるレーザ光の幅が、前進工程と後進工程とで同じである。これらのことにより、溶接領域に対して、亜鉛めっき層が除去される領域が十分に確保できず、溶接欠陥を発生させるおそれがあった。
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、亜鉛めっき層等の被覆層が形成された板材の重ね溶接において、溶接欠陥の発生を抑制し、良好な形状の溶接ビードが得られるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、本開示に係るレーザ溶接方法は、レーザ光を溶接方向に進行させながら、前記レーザ光を二次元的に走査してワークの表面に照射することで、前記ワークを溶接する溶接ステップを備え、前記ワークは、それぞれ板状の部分を含む2つの母材において、前記板状の部分同士が重ね合わされ、少なくとも前記板状の部分の表面に被覆層が形成された構造であり、かつ前記被覆層の沸点は、前記母材の融点よりも低く、前記溶接ステップでは、前記ワークの表面で所定のパターンを描くように、かつ、前記所定のパターンのうち、溶接方向に沿って前記所定のパターンの原点の前方に位置する第1描画パターンは、前記原点の後方に位置する第2描画パターンよりも前記溶接方向と交差する方向に関して広いパターンとなるように前記レーザ光を走査し、前記第1描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力が、前記第2描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力よりも低くなるように前記レーザ光の出力を制御し、前記所定のパターンは、互いに非対称な形状の2つの環状のパターンが前記原点で接して連続したパターンであることを特徴とする。
本開示に係るレーザ溶接装置は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、前記レーザ光を受け取ってワークに向けて照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドの動作及び前記レーザ光の出力を制御するコントローラと、を少なくとも備え、前記レーザヘッドは、前記レーザ光を第1方向と前記第1方向と交差する第2方向のそれぞれに走査するレーザ光スキャナを有し、前記ワークが、それぞれ板状の部分を含む2つの母材において、前記板状の部分同士が重ね合わされ、少なくとも前記板状の部分の表面に被覆層が形成された構造であり、かつ前記被覆層の沸点が前記母材の融点よりも低い場合に、前記コントローラは、前記レーザ光が前記ワークの表面で所定のパターンを描くように、かつ前記所定のパターンのうち、溶接方向に沿って前記所定のパターンの原点の前方に位置する第1描画パターンは、前記原点の後方に位置する第2描画パターンよりも前記溶接方向と交差する方向に関して広いパターンとなるように前記レーザ光スキャナを駆動制御し、さらに、前記コントローラは、前記第1描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力が、前記第2描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力よりも低くなるように前記レーザ光の出力を制御し、前記所定のパターンは、互いに非対称な形状の2つの環状のパターンが前記原点で接して連続したパターンであることを特徴とする。
本開示によれば、2つの板状の部分の間にある被覆層を除去できるとともに、被覆層が蒸発して発生する蒸気に起因した溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、ワークに形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。
図1は、実施形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成図である。 図2は、レーザ光スキャナの概略構成図である。 図3は、ワークの断面模式図である。 図4は、レーザ光の走査パターンを示す図である。 図5は、溶接方向に沿ったレーザ光の走査軌跡を示す図である。 図6は、レーザ光の描画位置と出力との関係を示す図である。 図7は、レーザ光照射時の溶接方向に沿ったワークの状態変化を示す模式図である。 図8は、変形例1に係るレーザ光の描画位置と出力との関係を示す図である。 図9は、レーザ光照射時の溶接方向に沿ったワークの状態変化を示す模式図である。 図10は、レーザ光の出力とキーホールの深さとの関係を示す図である。 図11Aは、変形例2に係るレーザ光の第1の走査パターンを示す図である。 図11Bは、変形例2に係るレーザ光の第2の走査パターンを示す図である。 図11Cは、変形例2に係るレーザ光の第3の走査パターンを示す図である。 図12は、実施形態2に係る溶接線に沿ったレーザ光の走査軌跡を示す図である。 図13Aは、溶接開始時のレーザ光の描画位置と出力との関係を示す図である。 図13Bは、溶接終了時のレーザ光の描画位置と出力との関係を示す図である。 図14Aは、変形例3に係るレーザ光の第1の走査パターンを示す図である。 図14Bは、変形例3に係るレーザ光の第2の走査パターンを示す図である。 図14Cは、変形例3に係るレーザ光の第3の走査パターンを示す図である。 図15は、実施形態3に係るレーザ光の走査軌跡の概略を示す図である。 図16Aは、第1のスポットパターンを示す図である。 図16Bは、第2のスポットパターンを示す図である。 図16Cは、第3のスポットパターンを示す図である。 図16Dは、第4のスポットパターンを示す図である。 図16Eは、第5のスポットパターンを示す図である。 図16Fは、第6のスポットパターンを示す図である。 図16Gは、第7のスポットパターンを示す図である。
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(実施形態1)
[レーザ溶接装置及びレーザ光スキャナの構成]
図1は、本実施形態に係るレーザ溶接装置の構成の模式図を示し、図2は、レーザ光スキャナの概略構成図を示す。図3は、ワークの断面模式図を示す。
なお、以降の説明において、反射ミラー33からレーザ光スキャナ40に向かうレーザ光LBの進行方向と平行な方向をX方向と、レーザヘッド30から出射されるレーザ光LBの光軸と平行な方向をZ方向と、X方向及びZ方向とそれぞれ直交する方向をY方向とそれぞれ呼ぶことがある。X方向とY方向とを面内に含むXY平面は、ワーク200の表面が平坦面である場合、当該表面と略平行でもよく、当該表面と一定の角度をなしていてもよい。
図1に示すように、レーザ溶接装置100は、レーザ発振器10と光ファイバ20とレーザヘッド30とコントローラ50とマニピュレータ60とを備えている。
レーザ発振器10は、図示しない電源から電力が供給されてレーザ光LBを発生させるレーザ光源である。なお、レーザ発振器10は、単一のレーザ光源で構成されていてもよいし、複数のレーザモジュールで構成されていてもよい。後者の場合は、複数のレーザモジュールからそれぞれ出射されたレーザ光を結合してレーザ光LBとして出射する。また、レーザ発振器10で使用されるレーザ光源あるいはレーザモジュールは、ワーク200の材質や溶接部位の形状等に応じて、適宜選択される。
例えば、ファイバレーザかディスクレーザ、あるいはYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザをレーザ光源とすることもできる。この場合、レーザ光LBの波長は、1000nm~1100nmの範囲に設定される。また、半導体レーザをレーザ光源あるいはレーザモジュールとしてもよい。この場合、レーザ光LBの波長は、800nm~1000nmの範囲に設定される。また、可視光レーザをレーザ光源あるいはレーザモジュールとしてもよい。この場合、レーザ光LBの波長は、400nm~600nmの範囲に設定される。
光ファイバ20は、レーザ発振器10に光学的に結合されており、レーザ発振器10で発生したレーザ光LBは、光ファイバ20に入射されて、その内部をレーザヘッド30に向けて伝送される。
レーザヘッド30は、光ファイバ20の端部に取り付けられており、光ファイバ20から伝送されたレーザ光LBをワーク200に向けて照射する。
また、レーザヘッド30は、光学部品として、コリメーションレンズ32と反射ミラー33と集光レンズ34とレーザ光スキャナ40とを有しており、筐体31の内部にこれらの光学部品が所定の配置関係を保って収容されている。
コリメーションレンズ32は、光ファイバ20から出射されたレーザ光LBを受け取って、平行光に変換し、反射ミラー33に入射させる。また、コリメーションレンズ32は、図示しない駆動部に連結されており、コントローラ50からの制御信号に応じて、Z方向に変位可能に構成されている。コリメーションレンズ32をZ方向に変位させることで、レーザ光LBの焦点位置を変化させ、ワーク200の形状に応じて適切にレーザ光LBを照射させることができる。つまり、コリメーションレンズ32は、図示しない駆動部との組み合わせにより、レーザ光LBの焦点位置調整機構としても機能している。なお、集光レンズ34を駆動部により変位させて、レーザ光LBの焦点位置を変化させるようにしてもよい。
反射ミラー33は、コリメーションレンズ32を透過したレーザ光LBを反射して、レーザ光スキャナ40に入射させる。反射ミラー33の表面は、コリメーションレンズ32を透過したレーザ光LBの光軸と約45度をなすように設けられている。
集光レンズ34は、反射ミラー33で反射され、レーザ光スキャナ40で走査されたレーザ光LBをワーク200の表面に集光させる。
図2に示すように、レーザ光スキャナ40は、第1ガルバノミラー41と第2ガルバノミラー42とを有する公知のガルバノスキャナである。第1ガルバノミラー41は、第1ミラー41aと第1回転軸41bと第1駆動部41cとを有し、第2ガルバノミラー42は、第2ミラー42aと第2回転軸42bと第2駆動部42cとを有している。集光レンズ34を透過したレーザ光LBは、第1ミラー41aで反射され、さらに第2ミラー42aで反射されて、ワーク200の表面に照射される。
例えば、第1駆動部41c及び第2駆動部42cは、ガルバノモータであり、第1回転軸41b及び第2回転軸42bは、モータの出力軸である。図示していないが、第1駆動部41cが、コントローラ50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第1回転軸41bに取り付けられた第1ミラー41aが第1回転軸41bの軸線回りに回転する。同様に、第2駆動部42cが、コントローラ50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第2回転軸42bに取り付けられた第2ミラー42aが第2回転軸42bの軸線回りに回転する。
第1ミラー41aが第1回転軸41bの軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、レーザ光LBがX方向に走査される。また、第2ミラー42aが第2回転軸42bの軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、レーザ光LBがY方向に走査される。つまり、レーザ光スキャナ40は、レーザ光LBをXY平面内で二次元的に走査してワーク200に向けて照射するように構成されている。
コントローラ50は、レーザ発振器10のレーザ発振を制御する。具体的には、レーザ発振器10に接続された図示しない電源に対して出力電流やオンオフ時間等の制御信号を供給することにより、レーザ発振制御を行う。また、コントローラ50は、レーザ光LBの出力を制御する。
また、コントローラ50は、選択されたレーザ溶接プログラムの内容に応じて、レーザヘッド30の動作を制御する。具体的には、レーザヘッド30に設けられたレーザ光スキャナ40及び、コリメーションレンズ32の図示しない駆動部の駆動制御を行う。さらに、コントローラ50は、マニピュレータ60の動作を制御する。なお、レーザ溶接プログラムは、コントローラ50の内部または別の場所に設けられた記憶部(図示せず)に保存され、コントローラ50からの命令によってコントローラ50に呼び出される。
コントローラ50は、図示しないLSIまたはマイクロコンピュータ等の集積回路を有しており、この集積回路上でソフトウェアであるレーザ溶接プログラムを実行することで、前述のコントローラ50の機能が実現される。なお、レーザヘッド30の動作を制御するコントローラ50とレーザ光LBの出力を制御するコントローラ50とを別個に設けてもよい。
マニピュレータ60は、多関節ロボットであり、レーザヘッド30の筐体31に取り付けられている。また、マニピュレータ60は、コントローラ50と信号の授受が可能に接続され、前述のレーザ溶接プログラムに応じて所定の軌跡を描くようにレーザヘッド30を移動させる。なお、マニピュレータ60の動作を制御する別のコントローラ(図示せず)を設けるようにしてもよい。
図1に示すレーザ溶接装置100は、種々の形状のワーク200に対してレーザ溶接を行うことができる。例えば、図3に示すように、それぞれ亜鉛めっき層211,221が表面に形成され、鋼板からなる第1板材210と第2板材220とをギャップ無く密着させて重ね合わせたワーク200にレーザ光LBを照射して、重ね溶接が行われる。第1板材210及び第2板材220の表面にそれぞれ亜鉛めっき層211,221を形成することで、鋼板に錆びが発生するのを防止できる。なお、レーザ溶接されるワーク200の構造や材質が図3に示す例に限定されないことは言うまでもない。
[リサージュパターンの数式的表現]
図4は、レーザ光の走査パターンを示し、レーザ光LBは、XY平面内、この場合はワーク200の表面でリサージュパターン(以下、リサージュ図形ともいう)を描くように走査される。
図4に示すリサージュパターンは、レーザ光LBをX方向に所定の周波数の正弦波状に振動させるとともに、Y方向にX方向と異なる周波数(X方向の周波数の1/2である)の正弦波状に振動させることで得られる。また、前述したように、第1ミラー41a及び第2ミラー42aの回転運動に基づいて、レーザ光LBのX方向及びY方向の走査パターンが決定される。第1ミラー41aの駆動によって得られるリサージュパターンの位置座標をXとし、第2ミラー42aの駆動によって得られるリサージュパターンの位置座標をYとするとき、位置座標X,Yは、それぞれ以下の式(1)、(2)で表される。
X=a1×sin(nt) ・・・(1)
Y=b1×sin(mt+φ) ・・・(2)
X=a2×sin(nt) ・・・(3)
Y=b2×sin(mt+φ) ・・・(4)
ここで、
a1:リサージュパターンのうちの走査パターンLS1のX方向の振幅
b1:リサージュパターンのうちの走査パターンLS1のY方向の振幅
a2:リサージュパターンのうちの走査パターンLS2のX方向の振幅
b2:リサージュパターンのうちの走査パターンLS2のY方向の振幅
n:第1ミラー41aの周波数
m:第2ミラー42aの周波数
t:時間
φ:第1ミラー41aまたは第2ミラー42a駆動時の位相差であり、具体的には、第1ミラー41aと第2ミラー42aの回転運動時に設ける角度ずれ量である。
走査パターンLS1(以下、第1描画パターンLS1ともいう)は、図4に示すリサージュパターンにおいて、X方向で+側に位置する走査パターンであり、走査パターンLS2(以下、第2描画パターンLS2ともいう)は、X方向で-側に位置する走査パターンである。
なお、式(1)~(4)に示す位置座標X,Yは、レーザヘッド30の位置を固定した状態でのリサージュパターンの静止座標系で表現される。
また、周波数nと周波数mは、それぞれ第1ミラー41aと第2ミラー42aの駆動周波数とそれぞれ対応する。
図4から明らかなように、本実施形態のリサージュパターンは、原点Oを通りY方向に延びる中心線に関して非対称な形状となっている。
X方向に沿って原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1は、式(1)、(2)において、a1=1,b1=1,n=1,m=2,φ=0とした場合に対応する。一方、原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2は、式(3)、(4)において、a2=0.5,b2=0.5,n=1,m=2,φ=0とした場合に対応する。つまり、X方向及びY方向のそれぞれにおいて、第1描画パターンLS1は、第2描画パターンLS2よりも大きなパターンとなっている。よって、第1描画パターンLS1の描画長さは、第2描画パターンLS2の描画長さよりも長くなっている。なお、a1,a2,b1,b2は、それぞれ第1描画パターンLS1の大きさを基準に1で正規化している。また、式(1)~(4)の位相差φは、0度または180度のどちらでもよい。
また、第1描画パターンLS1と第2描画パターンLS2とを合成したパターンは、∞字形状のリサージュパターンである。なお、実際のリサージュパターンのサイズ、つまり、X方向及びY方向の振幅は、それぞれ1mm~10mm程度の範囲内にある。
ここで、図4に示すように、所定の時間変分ΔtにおけるリサージュパターンのX方向の描画距離をΔX、Y方向の描画距離をΔY、時間変分Δtにおけるリサージュパターンの描画距離をΔLとするとき、ΔX、ΔY、ΔLは、それぞれ以下に示す式(5)~(7)で表される。
ΔX= a1×n×cos(nt)×Δt ・・・(5)
ΔY= b1×m×cos(mt+φ)×Δt ・・・(6)
ΔL= Δt×{(ΔX)+(ΔY)1/2 ・・・(7)
よって、リサージュパターンの描画速度Vは、以下に示す式(8)で表される。
V= ΔL/Δt ・・・(8)
数式(5)~(8)は、数式(1)~(2)をもとにして作成した、LS1に関する数式であるが、同様に、数式(3)~(4)をもとにしてLS2に関する数式を作成することができる。ここでは、その詳細を省略する。
[レーザ溶接方法]
図5は、溶接方向に沿ったレーザ光の走査軌跡を示し、図中に示す複数のリサージュパターンの外形が、溶接ビードの外形に対応している。また、図中に示す複数のリサージュパターンは、レーザ光LBが溶接方向に沿って進行する際の、描画パターンの時間に対する位置変化をそれぞれ示している。図6は、レーザ光の描画位置と出力との関係を示し、図7は、レーザ光照射時の溶接方向に沿ったワークの状態変化を模式的に示す。
なお、図4に示すリサージュパターンは、1周期の間に、原点Oから図4に示す矢印AR1及び矢印AR2の方向にレーザ光LBを走査することで得られる。具体的には、1周期の間に、原点Oから描画位置A→B→C→O→D→E→F→Oを通るようにレーザ光LBを走査する。
本実施形態では、マニピュレータ60によってレーザヘッド30をX方向の+方向(以下、溶接方向WDと呼ぶことがある)に所定の速度で移動させつつ、レーザ光LBをワーク200の表面に照射している。さらに、レーザ光スキャナ40を用いて、ワーク200の表面で図4に示すリサージュパターンを描くように、レーザ光LBを二次元的に走査している。また、本実施形態では、図3に示すワーク200を重ね溶接する場合を例に取って説明する。
図4に示すように、リサージュパターンのうち、溶接方向WDに沿って原点Oの前方に描画される第1描画パターンLS1は、原点Oの後方に描画される第2描画パターンLS2よりも、X方向、Y方向ともに走査振幅が大きくなっている。具体的には、式(1)、(2)において、a1=1、b1=1、n=1、m=2とした場合に、図4に示す第1描画パターンLS1が得られる。また、式(3)、(4)において、a2=0.5、b2=0.5、n=1、m=2とした場合に、図4に示す第2描画パターンLS2が得られる。
このことから明らかなように、第1描画パターンLS1のY方向の走査幅LACは、第2描画パターンLS2のY方向の走査幅LDFよりも2倍広くなっている。また、図5に示すように、走査幅LACは、亜鉛めっき層211,221が除去されるY方向の幅(以下、亜鉛めっき層除去幅LACともいう)に相当し、走査幅LDFは、ワーク200の溶接幅(以下、溶接幅LDFともいう)に相当する。なお、溶接幅LDFは、溶接ビード(図示せず)のY方向の幅に対応しているが、両者は完全には一致しないことが多い。溶接中の熱伝導の影響で、実際の溶接ビードのY方向の幅は、溶接幅LDFよりも少し広くなることが多いためである。
前述したように、Y方向に関し、亜鉛めっき層除去幅LACは、溶接幅LDFよりも広くなるように設定される。このため、レーザ光LBの走査軌跡において、Y方向に関し、溶接幅LDFの両側に、亜鉛めっき層211,221が除去される一方、第1板材210と第2板材220とが溶接されていない領域が生じる。なお、以降の説明において、この領域のY方向の幅をビード外周部亜鉛めっき層除去幅LNZnと呼ぶことがある。
一方、図6に示すように、第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力P1は、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力P2よりも低くなるように設定される。
図3に示すワーク200に対して、従来の技術では、レーザ光LBによりギャップレスで重ね溶接を行う場合、前述したように、鉄が溶融する前に発生した亜鉛蒸気が、溶接欠陥を発生させるおそれがある。一方、本実施形態によれば、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221を除去できるとともに、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。このことについてさらに説明する。
レーザ光LB1の出力を図6に示す出力P1に設定することで、リサージュパターンの原点Oよりも前方、例えば、描画位置Bでは、光軸がb-b’で示されるレーザ光LB1により深さがLK1のキーホール301が形成され、さらにその周囲に溶融池311が形成される。このとき、キーホール301の深さLK1は、第1板材210と第2板材220との界面に達しておらず、同様に、溶融池311も第1板材210と第2板材220との界面に達していない。つまり、第1板材210はレーザ光LB1によって底部まで完全には溶融していない。
一方、キーホール301の内部に到達したレーザ光LB1からの入熱及び溶融池311で発生した熱により、第1板材210と第2板材220との界面の温度は上昇し前述した亜鉛の沸点に達して、当該界面に介在する亜鉛めっき層211,221が蒸発する。この結果、原点OからX方向に沿って長さLZnに亘って、亜鉛めっき層211,221が当該界面から除去される。
また、レーザ光LB2の出力を図6に示す出力P2に設定することで、リサージュパターンの原点Oよりも後方、例えば、描画位置Eでは、光軸がe-e’で示されるレーザ光LB2により深さがLK2のキーホール302が形成され、さらにその周囲に溶融池312が形成される。このとき、キーホール302は、第1板材210を貫通して、第2板材220の内部に到達している。同様に、溶融池312も第1板材210の表面から第2板材220の内部にかけて形成されている。つまり、レーザ光LB2により、亜鉛めっき層211,221が蒸発して除去された後の第1板材210と第2板材220との界面近傍が溶融され、第1板材210と第2板材220とが溶接された溶接部320が、溶融池312の後方に形成される。
また、前述したように、Y方向に関し、亜鉛めっき層除去幅LACは溶接幅LDFよりも広くなっており、溶接幅LDFのY方向の両側には、亜鉛めっき層211,221が除去される一方、第1板材210と第2板材220とが溶接されていない領域が形成される。
このようにすることで、亜鉛めっき層211,221が確実に除去された領域に対してレーザ溶接がなされるため、亜鉛蒸気に起因して発生するキーホール302及び溶融池312の不安定性を低減できる。同様に、亜鉛蒸気に起因してワーク200の内部に形成されるポロシティや溶融池312が吹き飛んで発生するスパッタやクレータ等の溶接欠陥の発生を抑制できる。
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接方法は、レーザ光LBをX方向(第1方向)に進行させながら、レーザ光LBを二次元的に走査してワーク200の表面に照射することで、ワーク200を溶接する溶接ステップを備えている。
ワーク200は、表面に亜鉛めっき層211が形成された第1板材210と表面に亜鉛めっき層221が形成された第2板材220とがギャップレスで重ね合わされた構造である。第1板材210及び第2板材220は、ともに鋼板である。
溶接ステップでは、レーザ光LBをX方向に沿って周波数nに対応する第1周波数を有する正弦波状に振動させるとともに、Y方向(第2方向)に沿って周波数mに対応する第2周波数を有する正弦波状に振動させる。このことにより、ワーク200の表面で∞字形状のリサージュパターンを描くようにレーザ光LBを走査する。
さらに、リサージュパターンのうち、溶接方向WD(X方向の+側方向)に沿ってリサージュパターンの原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1が、原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりもY方向に関して広いパターンとなるようにレーザ光LBを走査する。
第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力P1が、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力P2よりも低くなるようにレーザ光LBの出力Pを制御する。
また、第1描画パターンLS1を描画中に、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221が除去される。第2描画パターンLS2を描画中に、亜鉛めっき層211,221が除去された第1板材210と第2板材220とが互いに溶接される。
本実施形態によれば、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221を除去できるとともに、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、ワーク200に形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。
特許文献4に開示される方法では、溶接方向と交差する方向にレーザ光を走査しておらず、レーザ光の軌跡が、前進工程と後進工程とで重なっている。また、溶接方向と交差する方向におけるレーザ光の幅が、前進工程と後進工程とで同じである。このため、レーザ光のスポットサイズや出力によっては、溶接方向と交差する方向に関して、溶接幅に対する亜鉛めっき層が除去される幅が十分に確保できず、ワークの溶接時に亜鉛蒸気に起因した溶接欠陥を発生させるおそれがあった。また、溶接ビードの形状が崩れてしまうおそれがあった。
一方、本実施形態によれば、前述したように、Y方向に関し、亜鉛めっき層除去幅LACが、溶接幅LDFよりも広くなるようにレーザ光LBを走査している。このため、溶接領域に対する亜鉛めっき層が除去される領域が十分に確保でき、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、このことにより、ワーク200に形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。
本実施形態に係るレーザ溶接装置100は、レーザ光LBを発生させるレーザ発振器10と、レーザ光LBを受け取ってワーク200に向けて照射するレーザヘッド30と、レーザヘッド30の動作及びレーザ光LBの出力Pを制御するコントローラ50と、を少なくとも備えている。
ワーク200は、表面に亜鉛めっき層211が形成された第1板材210と表面に亜鉛めっき層221が形成された第2板材220とがギャップレスで重ね合わされた構造である。第1板材210及び第2板材220は、ともに鋼板である。
レーザヘッド30は、レーザ光LBをX方向(第1方向)とX方向と交差するY方向(第2方向)のそれぞれに走査するレーザ光スキャナ40を有している。
コントローラ50は、レーザ光LBをX方向に沿って第1周波数を有する正弦波状に振動させるとともに、Y方向に沿って第2周波数を有する正弦波状に振動させる。このことにより、コントローラ50は、レーザ光LBがワーク200の表面に∞字形状のリサージュパターンを描くように、レーザ光スキャナ40を駆動制御する。
さらに、コントローラ50は、リサージュパターンのうち、溶接方向であるX方向に沿ってリサージュパターンの原点Oよりも前方に位置する第1描画パターンLS1が、後方に位置する第2描画パターンLS2よりもY方向に関して広いパターンとなるように、レーザ光スキャナ40を駆動制御する。
コントローラ50は、第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力P1が、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力P2よりも低くなるようにレーザ光LBの出力Pを制御する。
本実施形態のレーザ溶接装置によれば、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221を除去できるとともに、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、ワーク200に形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。
レーザ溶接装置100は、レーザヘッド30が取り付けられたマニピュレータ60をさらに備え、コントローラ50は、マニピュレータ60の動作を制御する。マニピュレータ60は、ワーク200の表面に対して、所定の方向にレーザヘッド30を移動させる。
このようにマニピュレータ60を設けることで、レーザ光LBの溶接方向を変化させることができる。また、複雑な形状、例えば、立体的な形状のワーク200に対して、レーザ溶接を容易に行うことができる。
レーザ発振器10とレーザヘッド30とは光ファイバ20で接続されており、レーザ光LBは、光ファイバ20を通って、レーザ発振器10からレーザヘッド30に伝送される。
このように光ファイバ20を設けることで、レーザ発振器10から離れた位置に設置されたワーク200に対してレーザ溶接を行うことが可能となる。このことにより、レーザ溶接装置100の各部を配置する自由度が高められる。
レーザ光スキャナ40は、レーザ光LBをX方向に走査する第1ガルバノミラー41と、レーザ光LBをY方向に走査する第2ガルバノミラー42と、で構成されている。
レーザ光スキャナ40をこのように構成することで、レーザ光LBを簡便に二次元的に走査することができる。また、公知のガルバノスキャナをレーザ光スキャナ40として用いているため、レーザ溶接装置100のコストが上昇するのを抑制できる。
レーザヘッド30は、コリメーションレンズ32をさらに有し、コリメーションレンズ32は、X方向及びY方向のそれぞれに交差するZ方向に沿って、レーザ光LBの焦点位置を変化させるように構成されている。言い換えると、コリメーションレンズ32は、ワーク200の表面と交差するZ方向に沿って、レーザ光LBの焦点位置を変化させるように構成されている。つまり、コリメーションレンズ32は、図示しない駆動部との組み合わせにより、レーザ光LBの焦点位置調整機構としても機能している。
このようにすることで、レーザ光LBの焦点位置を簡便に変化させることができ、ワーク200の形状に応じて適切にレーザ光LBを照射させることができる。
なお、本実施形態では、レーザヘッド30をX方向に移動させることで、レーザ光LBをX方向の+方向に進行させるようにしたが、レーザヘッド30をY方向に移動させることで、レーザ光LBをY方向に進行させてもよい。つまり、溶接方向をY方向としてもよい。この場合、前述の周波数nを2とし、周波数mを1として、リサージュパターンの形状を変更する必要がある。このようにすることで、コントローラ50は、リサージュパターンのうち、溶接方向であるY方向に沿ってリサージュパターンの原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1が、原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりもX方向に関して広いパターンとなるように、レーザ光スキャナ40を駆動制御することができる。つまり、第1描画パターンLS1が第2描画パターンLS2よりもX方向に関して広いパターンとなるように、レーザ光LBを走査することができる。このことにより、溶接幅に対して亜鉛めっき層211,221が除去される幅を十分に広く取ることができ、亜鉛蒸気に起因した溶接欠陥の発生を抑制できる。
また、リサージュパターンの描画方向も、前述した方向に特に限定されない。例えば、1周期の間に、原点Oから図4に示す矢印AR3及び矢印AR4の方向にレーザ光LBを走査してリサージュパターンを描画してもよい。具体的には、1周期の間に、原点Oから描画位置C→B→A→O→F→E→D→Oを通るようにレーザ光LBを走査してもよい。
<変形例1>
図8は、本変形例に係るレーザ光の描画位置と出力との関係を示し、図9は、レーザ光照射時の溶接方向に沿ったワークの状態変化を模式的に示す。図10は、レーザ光の出力とキーホールの深さとの関係を示す。なお、説明の便宜上、図8~10及び以降に示す各図面において、実施形態1と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
本変形例は、以下に示す点で実施形態1に示す構成と異なる。すなわち、第1描画パターンLS1から第2描画パターンへLS2の遷移時に、レーザ光LBの出力Pが連続的に高くなるように制御している。また、第2描画パターンLS2から第1描画パターンLS1への遷移時に、レーザ光LBの出力Pが連続的に低くなるように制御している。
具体的には、図8に破線で示すように、レーザ光LBの描画位置が原点OからDに移動する場合に、レーザ光LBが原点Oを通過した時点から期間t1を経過するまでに、レーザ光LBの出力PをP1からP2に連続的に高めている。この場合の出力Pの制御曲線S1は、直線状でも曲線状でもよい。また、レーザ光LBの描画位置が原点OからAに移動する場合に、レーザ光LBが原点Oを通過した時点から期間t2を経過するまでに、レーザ光LBの出力PをP2からP1に連続的に低下させている。この場合の出力Pの制御曲線S2は、直線状でも曲線状でもよい。
このようにすることで、ワーク200の内部にポロシティが形成されるのを抑制できる。また、溶融池312を安定化することができる。このことについてさらに説明する。
図9に示すように、X方向に沿って原点Oの後方の位置O’’から原点Oの前方の位置O’にレーザ光LBの描画位置が移動した場合、すなわち、リサージュパターンにおける第2描画パターンLS2から第1描画パターンLS1への遷移時を考える。この場合、レーザ光LBの出力PをP2からP1にステップ状に低下させると、深さがLK2のキーホール302が、深さがLK1(LK1<LK2)のキーホール301へと急激に形状変化する。このことにより、キーホール302の底部から図9に示す長さLK12までの部分が、溶融金属の表面張力により急激に閉じてしまう。底部から上方にかけてキーホール302が順次閉じていく場合はあまり問題にならないが、多くの場合、底部から長さLK12までの部分において、1箇所または複数箇所でキーホール302がほぼ同じタイミングで閉じてしまうことが多い。このようなことが起こると、閉じた部分の下方または上方に空洞が残り、ワーク200の内部にポロシティが形成されるおそれがある。
一方、本変形例によれば、図8に示すように、制御曲線S2に則ってレーザ光LBの出力PをP2からP1に連続的に低下させているため、キーホール302からキーホール301への形状変化が緩やかになり、途中で空洞が残るのを抑制できる。このことにより、ワーク200の内部にポロシティが形成されるのを抑制できる。
また、前述の位置O’から位置O’’にレーザ光LBの描画位置が移動した場合、すなわち、リサージュパターンにおける第1描画パターンLS1から第2描画パターンLS1への遷移時を考える。この場合、レーザ光LBの出力Pが、P1からP2にステップ状に高くなり、深さがLK1のキーホール301が、深さがLK2のキーホール302へと急激に形状変化する。このことにより、溶融池312に過度の衝撃が加わるおそれがある。溶融池312が不安定になって波立ってしまうと、溶接ビードの形状に反映されてしまい、良好な形状の溶接ビードを形成できないおそれがある。
一方、本変形例によれば、図8に示すように、制御曲線S1に則ってレーザ光LBの出力PをP1からP2に連続的に高めているため、キーホール301からキーホール302への形状変化が緩やかになり、溶融池312が不安定になるのを抑制できる。このことにより、溶接ビードの形状が悪化するのを抑制でき、良好な形状の溶接ビードが得られる。
なお、制御曲線S1、S2に示すように出力Pを制御することで、出力Pを目標値に安定して到達させることが容易となる。また、レーザ光LBの出力Pの制御は、コントローラ50によって行われる。
また、図10に示すように、ワーク200にキーホールを形成するには、レーザ光LBの出力Pを所定値以上にする必要がある。この所定値よりも出力Pが小さい領域(熱伝導溶接領域Rc)では、レーザ光LBによる入熱でワーク200が軟化あるいは溶融するもののキーホールは形成されない。この領域から出力Pを高めていくと、遷移領域Rtを経てキーホール溶接領域Rkに達する。この領域になると、ワーク200にキーホールが形成されるとともに、キーホールの深さが出力Pの上昇につれて深くなる。前述した出力P1,P2ともに、キーホール溶接領域Rkに含まれる。
<変形例2>
図11Aは、本変形例に係るレーザ光の第1の走査パターンを、図11Bは、第2の走査パターンを、図11Cは、レーザ光の第3の走査パターンをそれぞれ示す。
実際のレーザ溶接では、ワーク200の材質、継手形状、求められるビード形状幅などに応じ、式(1)~(4)に示す前述のパラメータa1,b1,a2,b2,n,mは、適宜変更されうる。したがって、レーザ光LBの走査パターンは、図4に示したパターンに特に限定されない。
例えば、図11Aに示すように、描画パターンLS1において、パラメータa1とb1の比を2:1とし、描画パターンLS2において、パラメータa2とb2の比を2:1としたまま、a2及びb2をそれぞれa1、b2の1/2としてもよい。また、図11Bに示すように、描画パターンLS2においてのみ、パラメータa2とb2を図4に示すパターンから変更して、a2=1、b2=0.5としてもよい。また、図11Cに示すように、描画パターンLS1において、パラメータa1とb1の比を2:1とし、描画パターンLS2において、パラメータa2とb2の比を4:1としてもよい。
なお、式(1)~(4)に示すパラメータa1,b1,a2,b2の値は、図4及び図11A~11Cに示す例に特に限定されないことは言うまでもない。
なお、前述したように、第1ミラー41aの周波数n及び第2ミラー42aの周波数mの比、言い換えると、レーザ光LBのX方向の振動周波数である第1周波数とY方向の振動周波数である第2周波数の比n:mを1:2とする。このことにより、溶接方向と交差するY方向に関して原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1を原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりも広いパターンとなるようにすることができる。一方、溶接方向がY方向の場合は、第1周波数と第2周波数の比n:mを2:1とする。このことにより、溶接方向と交差するX方向に関して原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1を原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりも広いパターンとなるようにすることができる。また、この周波数の比率さえ守れば、ワーク200の形状または要求されるビード形状に応じ第1ミラー41a及び第2ミラー42aの駆動周波数をそれぞれ変更してもよい。
(実施形態2)
図12は、本実施形態に係る溶接線に沿ったレーザ光の走査軌跡を示す。図13Aは、溶接開始時のレーザ光の描画位置と出力との関係を示し、図13Bは、溶接終了時のレーザ光の描画位置と出力との関係を示す。
図12、図13Aに示すように、本実施形態では、レーザ溶接開始後の所定の期間(第1期間)では、第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力をP1とする一方、第2描画パターンLS2を描画するときのレーザ光LBの出力を零としている点で、実施形態1に示す構成と異なる。第1期間に、リサージュパターンの後端、つまり、図4に示す描画位置Eに対応する箇所が溶接方向WDに沿って移動する距離は、図12に示す長さL2に相当する。また、長さL2は、第2描画パターンLS2のX方向の長さの約2倍に相当する。
また、図12、図13Bに示すように、本実施形態では、レーザ溶接終了前の所定の期間(第2期間)では、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力をP2とする一方、第1描画パターンLS1を描画するときのレーザ光LBの出力を零としている点で、実施形態1に示す構成と異なる。第2期間に、リサージュパターンの前端、つまり、図4に示す描画位置Bに対応する箇所が溶接方向WDに沿って移動する距離は、図12に示す長さL1に相当する。また、長さL1は、第1描画パターンLS1のX方向の長さと、第2描画パターンLS2のY方向の長さの総和にほぼ相当する。
本実施形態によれば、亜鉛めっき層211,221が確実に除去された領域に対して、出力P2でレーザ光LBを照射してワーク200を溶接することにより、亜鉛蒸気に起因した溶接欠陥の発生を確実に抑制できる。また、溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。このことについてさらに説明する。
溶接開始点にリサージュパターンの原点Oを合わせてワーク200の溶接を開始する場合、溶接方向WDに沿って溶接開始点の前方では第1描画パターンLS1が描画され、溶接開始点の後方では第2描画パターンLS2が描画される。このとき、図6に示すように、レーザ光LBの出力Pを制御すると、溶接開始点の後方では、亜鉛めっき層211,221が除去されていない状態で、出力P2のレーザ光LBが照射されることになる。このようなことが起こると、亜鉛めっき層がまだ除去されていない部分では亜鉛蒸気が発生し、さらに溶接欠陥が発生することは既に述べたとおりである。
このような不具合を回避するため、本実施形態において、レーザ溶接開始後の第1期間では、第2描画パターンLS2を描画するときのレーザ光LBの出力を零としている。このようにすることで、亜鉛めっき層211,221がまだ除去されていない領域に高出力(=P2)のレーザ光LBが照射されるのを防止し、亜鉛蒸気の発生に起因した溶接欠陥が発生するのを確実に抑制している。
また、溶接欠陥の発生を抑制するために、溶接開始点から溶接終了点までは、少なくとも亜鉛めっき層211,221が除去されている必要がある。しかし、例えば、溶接終了点を超えて、必要以上に亜鉛めっき層211,221が除去されると、鋼板である第1板材210や第2板材220に耐食性の低下が発生するおそれがある。
このような不具合を回避するため、本実施形態において、レーザ溶接終了前の第2期間では、第1描画パターンLS1を描画するときのレーザ光LBの出力を零としている。このようにすることで、溶接領域の長さLWを所望の値としつつ、亜鉛めっき層211,221が除去される長さLZNを短くすることができる。このことにより、必要以上に亜鉛めっき層211,221が除去されて、鋼板である第1板材210や第2板材220における耐食性の低下を抑制できる。
また、溶接欠陥の抑制と第1板材210や第2板材220での耐食性の低下の抑制とを両立させる観点から、ワーク200の溶接終了後に、溶接方向WDに沿った亜鉛めっき層211,221が除去された部分の長さLZNは、溶接方向WDに沿ったワーク200が溶接された部分の長さLWと同じかそれ以上であることが好ましいことは言うまでもない。そのため、図中、L2期間において点線にて示されたLS2Sの部分と、L1期間において点線にて示されたLS1Eの部分とでは、レーザ出力がともに零である。
<変形例3>
図14A~14Cは、本変形例に係るレーザ光の第1~第3の走査パターンをそれぞれ示す。なお、図14A~14Cにおいて、走査パターン中に描かれる矢印はレーザ光LBの描画方向を示す。
本開示のレーザ光LBの走査パターンは、実施形態1や変形例2に示したリサージュパターンに限られない。例えば、図14Aに示すように、それぞれ原点Oで接してY軸を挟んで配置された、互いに非対称な形状を有する2つの円形パターンの合成パターンであってもよい。また、図14Bに示すように、それぞれ原点Oで接してY軸を挟んで配置された、互いに非対称な形状を有する2つの楕円パターンの合成パターンであってもよい。図14Bに示す例では、2つの楕円パターンのそれぞれにおいて、長軸はY方向であり、短軸はX方向であるが、長軸をX方向、短軸をY方向としてもよい。図14Cに示すように、それぞれ原点Oで接してY軸を挟んで配置された、互いに非対称な形状を有する2つのひし形パターンの合成パターンであってもよい。なお、溶接方向WDがY方向に平行な場合は、図14A~図14Cに示す各走査パターンが、Y軸に関して非対称に配置された2つの環状のパターンの合成パターンであってもよい。また、2つの環状のパターンのそれぞれの大きさも適宜変更されうる。
つまり、本願明細書におけるレーザ光LBの走査パターンは、2つの環状のパターンが一点で接して連続したパターンであればよく、図14A~図14Cに示す例やその変形例に限定されない。なお、これらのパターンは、第1ミラー41a及び第2ミラー42aをそれぞれ所定の駆動パターンに則って駆動させることで得られる。
レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置100をこのように構成することで、実施形態1,2及び変形例1,2に示す構成が奏するのと同様の効果を奏することができる。
なお、レーザ光LBの走査パターンである「所定のパターン」とは、互いに非対称な形状である2つの環状のパターンが一点、この場合は原点Oで接して連続したパターンである。当該「所定のパターン」に本願明細書に開示したリサージュパターンが含まれることは言うまでもない。
(実施形態3)
図15は、本実施形態3に係るレーザ光の走査軌跡の概略を示し、図16A~16Gは、第1~第7のスポットパターンをそれぞれ示す。
実施形態1では、レーザ光LBをX方向の+側に進行させながら、ワーク200をレーザ溶接する、いわゆる線溶接を例に取って説明したが、本開示のレーザ溶接方法は、スポット溶接にも適用可能である。
例えば、図15に示すように、レーザ光LBを二点鎖線で示す円形のスポットパターンSPに沿って進行させる場合を考える。なお、図15に示すレーザ光LBの走査パターンSP1は、図4に示す走査パターンと相似の形状である。
この場合も、ワーク200の亜鉛めっき層211,221を高速かつ確実に除去するには、レーザ光LBの走査パターンSP1を互いに非対称な形状である2つの環状のパターンが原点Oで接して連続したパターンにするのがよく、∞字状のリサージュパターンとするのが好ましい。なお、説明の便宜上、レーザ光LBの走査パターンSP1をリサージュパターンとして図示しているが、走査パターンSP1の実際の波形は、レーザ光LBの進行速度に応じて変化する。例えば、図示しないが、第1描画パターンLS1と第2描画パターンLS2とは、溶接方向WD、この場合は、スポットパターンSPに沿って時計回り方向に沿って離間しており、レーザ光LBの進行速度に応じて離間距離が変化する。また、第1描画パターンLS1及び第2描画パターンLS2ともに、スポットパターンSPの円周方向に沿って延びて変形した形状となる。
本実施形態においても、溶接方向WDに沿って、走査パターンSP1の原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1が、原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりもY方向に関して広いパターンとなるようにレーザ光LBを走査する。
このようにすることで、第1描画パターンLS1を描画中に、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221が除去される。第2描画パターンLS2を描画中に、亜鉛めっき層211,221が除去された第1板材210と第2板材220とが互いにスポット溶接される。
なお、スポットパターンSPを挟んで、スポットパターンSPの半径方向の内側と外側とで、レーザ光LBの照射幅を同じにするためには、原点Oを通り、かつ走査パターンSP1を第1描画パターンLS1と第2描画パターンLS2とに分割する中心線(図示せず)が、スポットパターンSPにおける原点Oでの接線方向と常に直交するようにレーザ光LBを走査することが望ましい。
また、実施形態1,2及び変形例1~3、さらに本実施形態に示した構成を総合してみると、本開示のレーザ溶接方法は、以下に示す構成を備えていると言える。つまり、本開示のレーザ溶接方法は、レーザ光LBを溶接方向WDに進行させながら、レーザ光LBを二次元的に走査してワーク200の表面に照射することで、ワーク200を溶接する溶接ステップを備えている。
ワーク200は、表面に亜鉛めっき層211が形成された第1板材210と表面に亜鉛めっき層221が形成された第2板材220とがギャップレスで重ね合わされた構造である。第1板材210及び第2板材220は、ともに鋼板である。
溶接ステップでは、レーザ光LBをワーク200の表面で所定のパターンを描くように走査する。所定のパターンとは、互いに非対称な形状である2つの環状のパターンが原点Oで接して連続したパターンである。
さらに、所定のパターンのうち、溶接方向WDに沿って所定のパターンの原点Oの前方に位置する第1描画パターンLS1が、原点Oの後方に位置する第2描画パターンLS2よりも溶接方向WDと交差する方向に関して広いパターンとなるようにレーザ光LBを走査する。
第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力P1が、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力P2よりも低くなるようにレーザ光LBの出力Pを制御する。
また、第1描画パターンLS1を描画中に、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221が除去される。第2描画パターンLS2を描画中に、亜鉛めっき層211,221が除去された第1板材210と第2板材220とが互いに溶接される。この場合、第1板材210と第2板材220とが互いにスポット溶接される場合も含まれる。
このようにすることで、第1板材210と第2板材220との間にギャップがなくても、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221を除去できるとともに、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、ワーク200に形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。
本開示のレーザ溶接装置100は、レーザ光LBを発生させるレーザ発振器10と、レーザ光LBを受け取ってワーク200に向けて照射するレーザヘッド30と、レーザヘッド30の動作及びレーザ光LBの出力Pを制御するコントローラ50と、を少なくとも備えている。
ワーク200は、表面に亜鉛めっき層211が形成された第1板材210と表面に亜鉛めっき層221が形成された第2板材220とがギャップレスで重ね合わされた構造である。第1板材210及び第2板材220は、ともに鋼板である。
レーザヘッド30は、レーザ光LBをX方向(第1方向)とX方向と交差するY方向(第2方向)のそれぞれに走査するレーザ光スキャナ40を有している。
レーザ光LBがワーク200の表面に所定のパターンを描くように、レーザ光スキャナ40を駆動制御する。
さらに、コントローラ50は、所定のパターンのうち、溶接方向WDに沿ってリサージュパターンの原点Oよりも前方に位置する第1描画パターンLS1が、後方に位置する第2描画パターンLS2よりも溶接方向WDと交差する方向に関して広いパターンとなるように、レーザ光スキャナ40を駆動制御する。
コントローラ50は、第1描画パターンLS1を描画中のレーザ光LBの出力P1が、第2描画パターンLS2を描画中のレーザ光LBの出力P2よりも低くなるようにレーザ光LBの出力Pを制御する。
レーザ溶接装置100をこのように構成することで、第1板材210と第2板材220との間にギャップがなくても、第1板材210と第2板材220との界面に介在する亜鉛めっき層211,221を除去できるとともに、亜鉛蒸気の発生に伴う溶接欠陥の発生を抑制することができる。また、ワーク200に形成される溶接ビードの形状を良好なものとすることができる。この場合、第1板材210と第2板材220とが互いにスポット溶接される場合も含まれる。
なお、第1板材210と第2板材220とを互いにスポット溶接するにあたって、必ずしもスポットパターンSPを図15に示す円形のパターンとしなくてもよい。第1板材210と第2板材220とがスポット溶接されていればよい。
この観点に立てば、スポットパターンSPは、種々の形状を取りうる。例えば、図16Aに示すように、スポットパターンSPを一部が開放されたオープンサークル形状としてもよいし、図16Fに示すように、スポットパターンSPを波形としてもよい。また、図16Gに示すように、スポットパターンSPを略U字状としてもよい。なお、図16A,図16C~16E及び図16Gに示すように、スポットパターンSPの一部が開放されていると、第1板材210と第2板材220との間にある空気やオイル等の抜け口ができるため、溶接ビードの形状を良好にすることができる。
(その他の実施形態)
実施形態1~3及び変形例1~3に示した各構成要素を適宜組み合わせて、新たな実施形態とすることもできる。例えば、実施形態2に示す各走査パターンを描画するにあたって、変形例1に示すようにレーザ光LBの出力Pを制御することも可能である。
また、実施形態2,3及び変形例1~3において、例えば、1周期の間に、原点Oから描画位置C→B→A→O→F→E→D→Oを通るようにレーザ光LBを走査してもよい。また、描画位置の順番が変更されるのに応じて、レーザ光LBの出力Pを変化させるタイミング等が変更されることは言うまでもない。
なお、図1に示す例では、集光レンズ34は、レーザ光スキャナ40の前段に配置されていたが、レーザ光スキャナ40の後段、つまり、レーザ光スキャナ40とレーザヘッド30の光出射口との間に配置されていてもよい。
また、レーザ光LBをX方向に沿って第1周波数を有する余弦波状に振動させるとともに、Y方向に沿って第2周波数を有する余弦波状に振動させることで、レーザ光LBの走査パターンがリサージュパターンとなるようにしてもよい。この場合、第1ミラー41a及び第2ミラー42aの振幅a,bや第1ミラー41a及び第2ミラー42aの周波数n,m、さらに位相φが適宜変更されることは言うまでもない。
また、変形例3及び実施形態3に示した構成を含めて考えると、レーザ光LBの走査パターンが∞字状のリサージュパターンとなるようにする場合、以下に示すようにレーザ光LBは走査される。つまり、レーザ光LBを溶接方向WDに沿って第1周波数を有する正弦波状または余弦波状に振動させるとともに、溶接方向WDと交差する方向に沿って第2周波数を有する正弦波状または余弦波状に振動させる。
また、本願明細書では、図3に示すワーク200をレーザ溶接する場合を例に取って説明したが、特にこれに限定されない。例えば、ワーク200が、それぞれ板状の部分を含む2つの母材であって、板状の部分同士が重ね合わされ、少なくとも板状の部分の表面に亜鉛めっき層が形成された構造であってもよい。この場合の母材は、鉄でも軟鋼でも高張力鋼でもよい。これらの融点は、いずれも亜鉛の沸点よりも高い。また、亜鉛とアルミニウムとを含む亜鉛合金めっき層が2つの母材の表面に形成されていてもよい。つまり、亜鉛を主成分とするめっき層が2つの母材の表面に形成されていてもよい。ここで、「亜鉛を主成分とするめっき層」とは、亜鉛を60%以上含むめっき層をいう。また、亜鉛以外の材料からなる被覆層が2つの母材の表面にそれぞれ形成されていてもよい。この場合、被覆層を構成する材料の沸点は、母材を構成する材料の融点よりも低くなるように、被覆層と母材の材質がそれぞれ設定される。
このワーク200をレーザ溶接する場合、第1描画パターンLS1を描画中に、板状の部分の間にある被覆層が除去される。第2描画パターンLS2を描画中に、被覆層が除去された2つの板状の部分同士が溶接される。
このような構造のワーク200をレーザ溶接するにあたって、本開示のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を適用することで、亜鉛めっき層211,221等の被覆層が蒸発して発生する蒸気に起因する溶接欠陥の発生を抑制でき、また、溶接ビードの形状を良好なものとすることができるのは言うまでもない。
本開示のレーザ溶接方法は、被覆層が蒸発して発生する蒸気に起因する溶接欠陥の発生を抑制できるため、亜鉛めっき層等の被覆層が表面に形成された2つの部材の重ね溶接を行う上で有用である。
10 レーザ発振器
20 光ファイバ
30 レーザヘッド
31 筐体
32 コリメーションレンズ
33 反射ミラー
34 集光レンズ
40 レーザ光スキャナ
41 第1ガルバノミラー
41a 第1ミラー
41b 第1回転軸
41c 第1駆動部
42 第2ガルバノミラー
42a 第2ミラー
42b 第2回転軸
42c 第2駆動部
50 コントローラ
60 マニピュレータ
200 ワーク
210 第1板材(母材)
211 亜鉛めっき層(被覆層)
220 第2板材(母材)
221 亜鉛めっき層(被覆層)
301,302 キーホール
311,312 溶融池
320 溶接部

Claims (16)

  1. レーザ光を溶接方向に進行させながら、前記レーザ光を二次元的に走査してワークの表面に照射することで、前記ワークを溶接する溶接ステップを備え、
    前記ワークは、それぞれ板状の部分を含む2つの母材において、前記板状の部分同士が重ね合わされ、少なくとも前記板状の部分の表面に被覆層が形成された構造であり、かつ前記被覆層の沸点は、前記母材の融点よりも低く、
    前記溶接ステップでは、
    前記ワークの表面で所定のパターンを描くように、
    かつ、前記所定のパターンのうち、溶接方向に沿って前記所定のパターンの原点の前方に位置する第1描画パターンは、前記原点の後方に位置する第2描画パターンよりも前記溶接方向と交差する方向に関して広いパターンとなるように前記レーザ光を走査し、
    前記第1描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力が、前記第2描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力よりも低くなるように前記レーザ光の出力を制御し、
    前記所定のパターンは、互いに非対称な形状の2つの環状のパターンが前記原点で接して連続したパターンであることを特徴とするレーザ溶接方法。
  2. 請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
    前記所定のパターンは、前記溶接方向に延びる∞字状のリサージュパターンであり、
    前記溶接ステップでは、前記レーザ光を前記溶接方向に沿って第1周波数を有する正弦波状に振動させるとともに、前記溶接方向と交差する方向に沿って第2周波数を有する正弦波状に振動させることで、前記ワークの表面で前記リサージュパターンを描くように前記レーザ光を走査することを特徴とするレーザ溶接方法。
  3. 請求項2に記載のレーザ溶接方法において、
    前記第1周波数と前記第2周波数との比は、1:2であることを特徴とするレーザ溶接方法。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
    前記第1描画パターンから前記第2描画パターンへの遷移時に、前記レーザ光の出力が連続的に高くなるように制御し、
    前記第2描画パターンから前記第1描画パターンへの遷移時に、前記レーザ光の出力が連続的に低くなるように制御することを特徴とするレーザ溶接方法。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
    前記第1描画パターンを描画中に、前記板状の部分の間にある前記被覆層が除去され、
    前記第2描画パターンを描画中に、前記被覆層が除去された2つの前記板状の部分同士が溶接されることを特徴とするレーザ溶接方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
    前記ワークの溶接開始後の第1期間では、前記第2描画パターンを描画するときの前記レーザ光の出力を所定の描画長さにおいて、零とし、
    前記ワークの溶接終了前の第2期間では、前記第1描画パターンを描画するときの前記レーザ光の出力を所定の描画長さにおいて、零とすることを特徴とするレーザ溶接方法。
  7. 請求項6に記載のレーザ溶接方法において、
    前記第1期間中に前記レーザ光の出力を零とする所定の描画長さは、前記第2描画パターンの1周期分の長さの約2倍とする一方、前記第2期間中に前記レーザ光の出力を零とする所定の描画長さは、前記第1描画パターンの1周期分の長さと前記第2描画パターンの1周期分の長さとの総和とほぼ同じ程度とすることを特徴とするレーザ溶接方法。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
    前記レーザ光を前記溶接方向に進行させることで、前記ワークがスポット溶接されることを特徴とするレーザ溶接方法。
  9. 請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
    前記被覆層は、亜鉛を主成分とするめっき層であることを特徴とするレーザ溶接方法。
  10. レーザ光を発生させるレーザ発振器と、
    前記レーザ光を受け取ってワークに向けて照射するレーザヘッドと、
    前記レーザヘッドの動作及び前記レーザ光の出力を制御するコントローラと、を少なくとも備え、
    前記レーザヘッドは、前記レーザ光を第1方向と前記第1方向と交差する第2方向のそれぞれに走査するレーザ光スキャナを有し、
    前記ワークが、それぞれ板状の部分を含む2つの母材において、前記板状の部分同士が重ね合わされ、少なくとも前記板状の部分の表面に被覆層が形成された構造であり、かつ前記被覆層の沸点が前記母材の融点よりも低い場合に、
    前記コントローラは、前記レーザ光が前記ワークの表面で所定のパターンを描くように、かつ前記所定のパターンのうち、溶接方向に沿って前記所定のパターンの原点の前方に位置する第1描画パターンは、前記原点の後方に位置する第2描画パターンよりも前記溶接方向と交差する方向に関して広いパターンとなるように前記レーザ光スキャナを駆動制御し、
    さらに、前記コントローラは、前記第1描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力が、前記第2描画パターンを描画中の前記レーザ光の出力よりも低くなるように前記レーザ光の出力を制御し、
    前記所定のパターンは、互いに非対称な形状の2つの環状のパターンが前記原点で接して連続したパターンであることを特徴とするレーザ溶接装置。
  11. 請求項10に記載のレーザ溶接装置において、
    前記所定のパターンは、前記溶接方向に延びる∞字状のリサージュパターンであり、
    前記コントローラは、前記レーザ光を前記溶接方向に沿って第1周波数を有する正弦波状に振動させるとともに、前記溶接方向と交差する方向に沿って第2周波数を有する正弦波状に振動させることで、前記ワークの表面で前記リサージュパターンを描くように前記レーザ光スキャナを駆動制御することを特徴とするレーザ溶接装置。
  12. 請求項11に記載のレーザ溶接装置において、
    前記第1周波数と前記第2周波数との比は、1:2であることを特徴とするレーザ溶接装置。
  13. 請求項10ないし12のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
    前記レーザヘッドが取り付けられたマニピュレータをさらに備え、
    前記コントローラは、前記マニピュレータの動作を制御し、
    前記マニピュレータは、前記ワークの表面に対して、所定の方向に前記レーザヘッドを移動させることを特徴とするレーザ溶接装置。
  14. 請求項10ないし13のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
    前記レーザ発振器と前記レーザヘッドとは光ファイバで接続されており、
    前記レーザ光は、前記光ファイバを通って、前記レーザ発振器から前記レーザヘッドに伝送されることを特徴とするレーザ溶接装置。
  15. 請求項10ないし14のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
    前記レーザ光スキャナは、前記レーザ光を前記第1方向に走査する第1ガルバノミラーと、前記レーザ光を前記第1方向と交差する第2方向に走査する第2ガルバノミラーと、で構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
  16. 請求項10ないし15のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
    前記レーザヘッドは、焦点位置調整機構をさらに有し、
    前記焦点位置調整機構は、前記ワークの表面に交差する方向に沿って、前記レーザ光の焦点位置を変化させるように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
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