JP7213320B2 - 造形用のステンレス鋼粉末 - Google Patents
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Description
Cr:10.5質量%以上20.0質量%以下
Ni:1.0質量%以上15.0質量%以下、
C+Si+Mn+N:2.0質量%以下、
及び
Mo+Cu+Nb:5.0質量%以下
を含むステンレス鋼である。このステンレス鋼の残部は、Fe及び不可避的不純物である。このステンレス鋼は、下記数式(1)及び(2)を満たす。
Creq/ Nieq≧ 1.5 (1)
P + S ≦ 0.03 (2)
この数式(1)において、Creq及びNieqは、それぞれ、下記数式によって算出される。
Creq= Cr + 1.4Mo + 1.5Si + 2Nb
Nieq= Ni + 0.3Mn + 22C + 14N + Cu
上記粉末を準備する工程、
及び
この粉末に急速溶融急冷凝固プロセスを伴う造形を施して、成形体を得る工程
を含む。この成形体の組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、5質量%以下である。この成形体の組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、20質量%以下である。
0.7 ≦ ED / D50≦ 5.0 (3)
Crは、成形体の表面に酸化被膜を形成させる。この酸化皮膜は、成形体の耐食性に寄与する。さらに、Crは炭化物を形成しやすく、従って成形体の焼入れ性を高める。焼入れ性に優れた成形体では、硬さが大きく、強度も大きい。これらの観点から、ステンレス鋼におけるCrの含有率は10.5質量%以上が好ましく、12.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上が特に好ましい。Crは、フェライト形成元素である。Crを大量に含むステンレス鋼では、焼入れ処理によってもフェライト組織が残存しやすい。Crの含有率が所定値以下とされることにより、成形体の焼入れ性が損なわれない。従って、この成形体では、硬さが大きく、強度も大きい。これらの観点から、ステンレス鋼におけるCrの含有率は20.0質量%以下が好ましく、18.5質量%以下がより好ましく、18.0質量%以下が特に好ましい。
Niは、Crによって生成される酸化皮膜の密着性を高める。NiとCrとの両方を含むステンレス鋼から形成された成形体は、耐食性に優れる。この観点から、ステンレス鋼におけるNiの含有率は1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。Niは、オーステナイト形成元素である。多量のNiを含むステンレス鋼では、オーステナイト相が形成されやすい。このオーステナイト相は、成形体の硬度及び強度を阻害する。この観点から、Niの含有率は15.0質量%以下が好ましく、13.0質量%以下がより好ましく、11.0質量%以下が特に好ましい。
C、Mn及びNは、オーステナイト形成元素である。C、Mn及びNの含有率が小さなステンレス鋼は、適正なマルテンサイト変態温度を有する。
Siは、フェライト形成元素である。Siの含有率が小さなステンレス鋼は、成形体の靱性に寄与しうる。
成形体の強靱性の観点から、C、Si、Mn及びNの合計含有率は2.0質量%以下が好ましく、1.7質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。この含有率がゼロであってもよい。
Moは、Crと組み合わされることで、成形体の硬度及び強度に寄与しうる。この観点から、ステンレス鋼におけるMoの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。大量のMoの添加は、成形体の焼入れ性を阻害し、硬度を低下させる。
Niと共にCuを含むステンレス鋼は、成形体の耐食性に寄与する。この観点から、ステンレス鋼におけるCuの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。Cuは、オーステナイト形成元素である。大量のCuの添加は、マルテンサイト変態温度に悪影響を与える。
ニオブは、ステンレス鋼において炭化物を形成する。この炭化物は、成形体の強度に寄与しうる。この観点から、ステンレス鋼におけるNbの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。Nbは、フェライト形成元素である。大量のNbの添加は、成形体の靱性を阻害する。
成形体の強靱性の観点から、Mo、Cu及びNbの合計含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
本発明において、クロム当量(Creq)は、下記の数式によって算出される。
Creq= Cr + 1.4Mo + 1.5Si + 2Nb
Cr、Mo、Si及びNbは、フェライト形成元素である。クロム当量(Creq)は、ステンレス鋼におけるフェライトの形成されやすさを表す指標である。
本発明において、ニッケル当量(Nieq)は、下記の数式によって算出される。
Nieq= Ni + 0.3Mn + 22C + 14N + Cu
Ni、Mn、C、N及びCuは、オーステナイト形成元素である。ニッケル当量(Nieq)は、ステンレス鋼におけるオーステナイトの形成されやすさを表す指標である。
成形体において、オーステナイトがマルテンサイトへと変態するときの凝固割れが生じにくいとの観点から、クロム当量(Creq)とニッケル当量(Nieq)との比(Creq/Nieq)が、下記数式(1)を満たすことが好ましい。
Creq/ Nieq≧ 1.5 (1)
換言すれば、比(Creq/Nieq)は1.5以上が好ましい。比(Creq/Nieq)は2.0以上がより好ましく、2.5以上が特に好ましい。比(Creq/Nieq)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
P及びSは、不可避的不純物である。ステンレス鋼において、PとSはδ相に入りやすい。δ相とγ相との2相を有するステンレス鋼では、粒界の面積が大きいので、P及びSが分散する。このP及びSの影響により、凝固の収縮に起因する割れが発生する。凝固割れの抑制の観点から、P及びSの含有率が下記の数式(2)を満たすことが好ましい。
P + S ≦ 0.03 (2)
換言すれば、Pの含有率とSの含有率との合計は、0.03質量%以下が好ましい。この合計は、0.02質量%以下が特に好ましい。理想的には、Pの含有率はゼロであり、Sの含有率もゼロである。
成形体は、粉末に急速溶融急冷凝固プロセスを伴う造形法が施されることで得られる。この造形法として、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法及び肉盛法が例示される。典型的には、成形体は、三次元積層造形法によって成形される。
本発明に係るステンレス鋼粉末から成形体が得られるとき、エネルギー密度ED(J/mm3)と粉末の累積50体積%粒子径D50(μm)とのバランスが重要である。D50が大きな粉末では、その表面積が小さい。この粉末では、内部に伝播するビームの熱が弱い。従って、成形体の内部に未溶融粉末が残存しやすい。エネルギー密度EDが大きいと、未溶融粉末の残存は生じにくい。しかし、エネルギー密度EDが大きいと、粉末が溶融されて得られた湯が突沸に似た現象を起こし、成形体に不活性ガスが巻き込まれやすい。健全な成形体が得られるとの観点から、エネルギー密度EDと粒子径D50との比(ED/D50)が下記数式(3)を満たすことが好ましい。
0.7 ≦ ED / D50≦ 5.0 (3)
換言すれば、比(ED/D50)は0.7以上5.0以下が好ましい。未溶融粉末が残存しにくいとの観点から、比(ED/D50)は1.0以上がより好ましく、1.2以上が特に好ましい。成形体に不活性ガスが巻き込まれにくいとの観点から、比(ED/D50)は4.5以下がより好ましく、4.0以下が特に好ましい。
ED = P / (V * d * t)
この数式において、Pはビームの出力(W)を表し、Vはビームの走査速度(mm/s)を表し、dはビームの操作ピッチ(mm)を表し、tはステンレス鋼粉末の積層厚さ(mm)を表す。
粉末の急速溶融急冷凝固プロセスで得られた成形体では、オーステナイト粒界に低融点化合物が偏析しやすい。この低融点化合物は、P、S、Si又はNbを含む。この低融点化合物は、共晶組織を有する。この共晶組織の具体例として、Fe-FeS共晶組織が挙げられる。この共晶組織の融点は、約998℃である。
真空中にて、アルミナ製坩堝で、所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガス又は高圧窒素ガスを噴霧し、粉末を得た。各粉末の組成の詳細が、下記の表1及び2に示されている。
この粉末を分級に供し、各粒子の粒径を63μm以下とした。この粉末を原料として、3次元積層造形装置(EOS-M280)による積層造形法を実施し、成形体を得た。
10mm角の試験片(10×10×10mm)を作製した。この試験片を中央にて切断し、導電性樹脂に埋め込んだ。目の細かい1000番以上のバフで試験片断面を磨いた後、腐食液で試験片断面を腐食させた。この試験片にて、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、任意で選択した10箇所(1箇所は200μm×200μmの領域)で元素分析を行った。統計型熱力学計算システム(Thermo-Calc)を用いて共晶温度を算出することで、P、S、Si、Nb等を含む低融点化合物からなる共晶組織の量を測定した。
10mm角の試験片(10×10×10mm)を作製した。空気中での重量、水中での重量、水の密度を用いて、この試験片の密度を算出した(アルキメデス密度測定法)。一方、定容積膨張法による乾式密度測定にて、粉末の密度を算出した。試験片の密度及び粉末の密度から、積層体の相対密度を算出した。
50gの粉末を、容積が100cm3のシリンダーに充填した。落下高さが10mmであり、回数が200回である条件でタップを行い、タップ密度を測定した。
下記の基準に従い、各粉末を評価した。
(評価1)
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒内):2質量%以下
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒界):10質量%以下
ED/D50:1.0-4.0
成形体の相対密度:95%以上
D50/TD:0.2-20
(評価2)
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D50:1.0-4.0
成形体の相対密度:95%以上
D50/TD:0.2-20
(評価3)
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D50:0.7-5.0
成形体の相対密度:95%以上
D50/TD:0.2-20
(評価4)
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600-1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D50:0.7-5.0
成形体の相対密度:90%以上
D50/TD:0.2-20
(評価5)
次の1)-3)のいずれか1つに該当する。
1)共晶温度が600-1350℃の共晶組織:粒内に5質量%以上または粒界に20 質量%以上
2)ED/D50:0.7よりも小さいか、または5.0よりも大きい
3)D50/TD:0.2よりも小さいか、または20よりも大きい
(評価6)
成形体の相対密度が90%よりも小さい
この評価の結果が、下記の表1及び2に示されている。
Claims (2)
- Cr:10.5質量%以上20.0質量%以下
Ni:1.0質量%以上15.0質量%以下、
C+Si+Mn+N:2.0質量%以下、
及び
Mo+Cu+Nb:5.0質量%以下
を含んでおり、残部がFe及び不可避的不純物であり、下記数式(1)及び(2)を満たすステンレス鋼からなる三次元積層造形物であって、
上記三次元積層造形物の組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量が、5質量%以下であり、
上記組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量が、20質量%以下である、三次元積層造形物。
Creq/ Nieq≧ 1.5 (1)
P + S ≦ 0.03 (2)
上記数式(1)において、Creq及びNieqは、それぞれ、下記数式によって算出される。
Creq= Cr + 1.4Mo + 1.5Si + 2Nb
Nieq= Ni + 0.3Mn + 22C + 14N + Cu - 上記組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量が、2質量%以下であり、
上記組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量が、10質量%以下である、請求項1に記載の三次元積層造形物。
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タイラー・ルブラン,336 積層造形されたAISI630ステンレス材の機械的性質に及ぼすひずみ速度の影響,日本機械学会第21回機械材料・材料加工技術講演会講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2013年,336-p.1-5,DOI:10.1299/jsmemp.2013.21._336-1_ |
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