本発明について実施形態に基づきさらに詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、電子基板に塗布した後に光を照射することで硬化し、電子素子や配線等を覆うことで、それらを水、湿気、ほこり、衝撃等から保護すること等に利用することができるものである。この樹脂組成物は主成分として、少なくとも脂肪族又は脂環式の何れかの単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、これら(メタ)アクリル酸エステルモノマーに溶解したスチレン系熱可塑性エラストマーと、マレイミド化合物と、イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含んでいる。最初にこれらの主成分について説明する。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、樹脂組成物を硬化して得られる封止材等の保護材の機械的強度を向上させ、保護材を剥がすときにちぎれないようにするための成分である。スチレン系熱可塑性エラストマー単独では固体のため液状の樹脂組成物とすることができず、封止すべき物に対して塗布できない。そのため、主成分である単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーに対して可溶である必要がある。また、ある程度のタックを有していても接着性は有していない。
スチレン系熱可塑性エラストマーの樹脂組成物100重量部中の濃度は19~60重量部とすることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーの配合量が、60重量部よりも多くなると樹脂組成物の粘度が高くなり、塗布が困難になる。一方、19重量部未満になると、保護材としたときの機械的強度が十分でなく引張強さが弱くなるおそれがあり、剥がす際にちぎれるおそれがある。
また、スチレン系熱可塑性エラストマーの樹脂組成物100質量部中の濃度を35~60質量部とすると、スチレン系熱可塑性エラストマーが35質量部以上配合されることで機械的強度を高めることができる。そのため、接着力を高めた保護材であっても、剥離する際にちぎれ難くすることができる。こうした点で、スチレン系熱可塑性エラストマーの樹脂組成物100質量部中の濃度を35~60質量部とするのは好ましい態様である。また、スチレン系熱可塑性エラストマーの樹脂組成物100質量部中の濃度を21~35質量部とすると、溶剤を含まない場合であっても塗布性に優れ、硬化後の保護材を引き剥がすときの糊残りも少なくすることができる。したがって、こうした点で、スチレン系熱可塑性エラストマーの樹脂組成物100質量部中の濃度を21~35質量部とするのは好しい態様である。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、保護材とした際に所定の引張り強さ、接着強さを発現させることができ、透湿性の低い保護材とすることができる。そのため、特に湿気に弱い部材の保護や、高湿度の環境で用いる電子機器に適している。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレンブロック共重合体、スチレン-(エチレン-プロピレン)-スチレンブロック共重合体を用いることが好ましい。前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、イソブチレン骨格、エチレン-ブチレン骨格、エチレン-プロピレン骨格のいずれかを有していることから、耐候性、耐熱性に優れるとともに、特に透湿度を低くすることができる。
スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は10~30%とすることが好ましい。スチレン含有量が30%をよりも多くなると硬化物である保護材が硬くなるおそれがある。一方、スチレン含有量が10%よりも少ないと、保護材の機械的強度が十分でなく引張強さが弱くなるおそれがあり、剥がす際にちぎれるおそれがある。
スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は、ポリスチレンでなるハードセグメントとソフトセグメントのブロック共重合体におけるポリスチレンの重量%を意味する。即ち、ポリスチレンの分子量の合計をブロック共重合体の全体の分子量で割ることで算出することができる。
スチレン系熱可塑性エラストマーの分子量は5~20万とすることが好ましい。分子量が5万より小さい場合には、保護材の伸び性が充分でなくなり、保護材を剥した際に被着体に糊残りが生じやすくなるおそれがある。一方、分子量が20万よりも大きくなると、スチレン系熱可塑性エラストマーの溶解性が低下して、所定量のスチレン系熱可塑性エラストマーを配合することが難しくなるおそれがある。換言すれば、多量のスチレン系熱可塑性エラストマーを配合しようとすれば、樹脂組成物の粘度が高くなり塗布性が悪くなるおそれがあり、他方スチレン系熱可塑性エラストマーの充填量が少ないと、硬化物である保護材の機械的強度が十分でなく引張強さが弱くなるおそれがあり、剥がす際にちぎれるおそれが生じる。前記分子量は、好ましくは8~15万である。なお、本発明においてスチレン系熱可塑性エラストマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、脂環式単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、脂肪族単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーを挙げることができ、少なくとも脂肪族又は脂環式の何れかの単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーを用いることができる。本明細書及び特許請求の範囲では、脂環式単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、脂肪族単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーの何れか、又は双方を単に、単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーとも言うものとする。
単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、液状組成物であり、後述の単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーと同様にスチレン系熱可塑性エラストマーを溶解する成分である。また、単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、これを配合することで、樹脂組成物の接着力を高めつつ、樹脂組成物を剥したときに糊残りを少なくすることができる。また、硬化後の保護材を強靭にして引張強さを高める効果がある。
単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、イソボロニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート等を挙げることができる。
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーもまた液状組成物であり、前記単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーと同様にスチレン系熱可塑性エラストマーを溶解するための成分である。単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーを配合することで、保護材の柔軟性を高め切断時伸びを大きく向上させることができる。
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシルジグリコールアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキシド変性アクリレートなどの脂肪族エーテル系(メタ)アクリル酸エステルモノマーや、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレートなどの脂肪族炭化水素系(メタ)アクリル酸エステルモノマーを挙げることができる。
樹脂組成物中に含まれる単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、マレイミド化合物と、イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーとに由来する不揮発成分100質量部中に、単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーが40~77質量%濃度で含まれるものとすることができる。単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーを不揮発成分100重量部中に40~77質量部含まれるものとすることで、塗布性に優れた粘度の樹脂組成物が得られる。40質量部未満では粘度を低くすることが困難になり易く、密着性が低下するおそれがある。一方で、77質量部を超えると、相対的にスチレン系熱可塑性エラストマーの割合が少なくなるため、硬化後の保護材の強靭性が低下してリワーク性を損なうおそれがある。
あるいは、前記単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーの樹脂組成物100質量部中の濃度は50~70質量部であるものとすることができる。単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーの樹脂組成物100質量部中の濃度を50~70質量部とすれば、粘度の比較的低い樹脂組成物とすることができ、塗布性に優れるものとすることができる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーに対して相対的に単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合量が多くなり密着性を高め易い。
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーと単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの混合比は、その重量比で4:1~2:3の割合とすることができる。単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーと単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの混合比を4:1~2:3とすることで、硬化後の保護材の硬さと、表面タックの状態などの硬化特性のバランスが良い保護材とすることができる。
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーが脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーの4重量倍を超える場合には、樹脂組成物を剥したときに糊残りが発生するおそれがあり、接着強さ、防湿性が不十分となるおそれがある。逆に3分の2未満の場合には、保護材が硬くなり易く、さらに経時変化で必要以上に接着性が増大し剥離が困難になるおそれがある。そして、脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重量比が3:2~1:4の範囲であれば、切断時伸びが大きく、剥離し易い保護材とすることができる。
マレイミド化合物は、樹脂組成物が固化した後の保護材に、耐熱性と柔軟性を付与することができる成分である。マレイミド化合物としては、マレイミド構造を2つ有するビスマレイミド化合物を用いることができる。ビスマレイミド化合物は保護材の耐熱性を高める効果が大きいからである。また、マレイミド化合物としては、脂肪族マレイミドを用いることができる。脂肪族及び脂環式単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの相溶性が良く、また脂肪族及び脂環式単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマー並びにイミド(メタ)アクリレートモノマーとの硬化性に優れるためである。
マレイミド化合物の樹脂組成物中に含まれる不揮発成分100質量部中の濃度は2~15質量部とすることができる。マレイミド化合物の樹脂組成物中に含まれる不揮発成分100質量部中の濃度を2~15質量部とすることで、耐熱性と柔軟性に優れた保護材とすることができる。2質量部未満では、耐熱性が不十分となるおそれがあり、15質量部を超えると、保護材が硬くなるおそれがある。
イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、これを含むことで成分どうしの相溶性を高めて成分の分離を抑制でき、保存安定性を高めることができる成分である。イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、イミド骨格を有する環状化合物の窒素原子にアクリル酸エステルが結合した化合物であり、例えばマレイミドやイソインドール等のイミド基を有する環状化合物、およびそれらの水素化物の窒素原子にアクリル酸エステルが結合した化合物が挙げられ、N-アクリロイルオキシアルキルフタルイミドやその水素化物であるN-アクリロイルオキシアルキルヘキサヒドロフタルイミド、N-アクリロイルオキシアルキルテトラヒドロフタルイミド等が含まれる。より具体的には、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-アクリロイルオキシエチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、N-アクリロイルオキシエチル-3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミド、N-アクリロイルオキシエチルマレイミド、N-アクリロイルオキシスクシンイミド等を例示できる。
樹脂組成物の不揮発成分100質量部中に含まれるイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーの濃度は1~20質量部とすることができる。イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーの不揮発成分100質量部中の濃度が1質量部未満では、マレイミド化合物を充分に相溶させることができないおそれがある。一方、20質量部を超えると、スチレン系熱可塑性エラストマーとの相溶性が低下するおそれがある。
ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アセトフェノン系、アシルフォスフィン系等の光重合開始剤を用いることができる。また、ジアシルパーオキシド類、ハイドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、パーオキシカーボネート類、アゾ化合物等の熱重合開始剤を用いることもできる。ラジカル重合開始剤の使用量は、単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、1~8質量部がより好ましい。
なお、光重合開始剤と熱重合開始剤と比較すると、熱による影響を抑制して、短時間で硬化して保護材を形成できる点で光重合開始剤を用いることが好ましい。一方、保護対象が光や紫外線に弱い素子の場合や、保護材を遮光性とする場合には、熱重合開始剤を用いることが好ましい。
本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の添加剤等のその他の成分を適宜配合することができる。例えば脂環式又は脂肪族単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のアクリル酸エステルモノマー、アクリルアミドモノマー、可塑剤、粘着付与剤、増感剤、シランカップリング剤、重合禁止剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤又は充填剤等が挙げられる。なお、樹脂組成物中に溶剤を含んでいても、含まなくても良いが環境への影響や、含有成分点数の減少、作業性等の見地から溶剤を含まない方が好ましい。
こうした成分の混合物である樹脂組成物は、25℃における粘度を1~1000Pa・sとすることができる。樹脂組成物の25℃における粘度を1~1000Pa・sとしたため塗布性に優れる。一方、1Pa・s未満では、樹脂組成物の流動性が高すぎて塗布後に液だれを起こすおそれがある。そのため、流れを止めるいわゆる“ダム”を設けなければ、塗布した箇所の周囲へ流れてしまい、所定の膜厚の保護材を形成することが難しいおそれがある。また、1000Pa・sを超える場合には、流動性に乏しく、ディスペンサー又は他の手段による塗布が困難になるおそれがある。なおこの粘度は、粘度計(BROOK FIELD製回転粘度計DV-E)(スピンドルNo.14の回転子を使用、回転速度10rpm、測定温度23℃)を用いて測定したものである。
また、樹脂組成物は、少なくとも脂肪族又は脂環式の何れかの単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、マレイミド化合物と、イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、ラジカル重合開始剤のみを混合して作成した際のチキソ比を1.5~8.0とすることができる。
また、保護対象の細部まで浸透させて確実に保護するという観点からは、前記チキソ比は1.5~5.5とすることが好ましい。こうしたチキソ比の範囲は、マレイミド化合物とイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーの濃度を低くすることで調整できる。具体的にはマレイミド化合物の濃度を2~5重量部とし、イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーの濃度を1~10重量部とする。なお、チキソ比は、粘度を測定した粘度計で、回転速度1rpmの粘度と、回転速度10rpmの粘度とを測定し、その粘度の比(粘度(1rpm)/粘度(10rpm))を計算することで求めることができる。
また、樹脂組成物の硬化収縮率は1~5%とすることができる。硬化収縮率が1%未満のものは実質的に製造し難いが、マレイミド化合物を含むことから2官能モノマーの配合量を低減でき、またマレイミドの反応部位が硬化収縮を小さくするものと考えられ、硬化収縮率を1~5%と小さくすることができる。5%を超える場合には樹脂組成物の塗布対象となる基板等に反りが発生するおそれがあるが、5%以下に抑えることができるため、こうした危険性を排除することができる。
硬化収縮率は、樹脂組成物の比重と、樹脂組成物を硬化させてなる保護材の比重から求めることができる。樹脂組成物の比重は、JIS Z8804に準ずる比重瓶による密度および比重測定方法によって測定することができ、保護材の比重は、JIS Z8807に準ずる水中秤量法による密度および比重測定法によって測定することができる。そして、これらによって得られた比重から次の式(2)により硬化収縮率を求めることができる。
硬化収縮率(%)={(硬化後比重)-(硬化前比重)}/(硬化後比重)×100‥式(2)
上記成分の混合物である樹脂組成物は液状組成物として得られるが、これを電子素子等の封止対象物上に塗布して覆い、紫外線等を照射するなどして硬化すれば固化して保護材が得られる。保護材の硬化条件としては、例えば照度200~600mW/cm2の高圧水銀ランプを使用し、積算光量4000~6000mJ/cm2となる照射条件が好適である。また、高圧水銀ランプの他に、メタルハライドランプ又は波長365nm以下のLEDを用いることもできる。
保護材の弾性率は、後述する動的粘弾性測定装置で測定した貯蔵弾性率で0.01~100MPaとすることができ、好ましくは0.1~20MPaとすることができる。保護材の弾性率を0.01~100MPaとすれば、柔軟な保護材とすることができ、フレキシブル基板に対して好適に利用することができる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、ある程度の強靭性を備えるため、伸縮させる用途への利用を図ることもできる。保護材の弾性率が0.01MPa未満の場合は、変形した保護材の復元力が十分に得られないおそれがある。また、強靭性の点で懸念があり、例えば、他の部材が保護材に接触すると保護材が破損するなど、過酷な環境での利用が困難になるおそれがある。また、保護材の弾性率が100MPaを超える場合には硬くなって保護材が変形し難くなり、フレキシブルな用途に向かなくなるおそれがある。
また、弾性率は、保護材が封止する基板等を構成する材料の弾性率の10分の1~10000分の1であることが好ましい。弾性率が10分の1よりも大きい場合は保護材が変形し難くなるおそれがある。一方、弾性率が10000分の1を超えると、変形した保護材の復元力が不足するおそれがある。
また、保護材の耐熱前弾性率/耐熱後弾性率で算出される変化率が0.05以上であるものとすることができる。保護材の耐熱前/耐熱後弾性率の変化率が0.05より小さい場合は、高温で使用する用途での信頼性に乏しく、使用できる用途が制限される可能性がある。本発明の保護材は、マレイミド化合物を含むため、弾性率の変化率が所定範囲で変化しても、保護材がしなやかさを維持できるため、密着力やリワーク性の低下を抑制することができる。
また、保護材のA硬度による硬さは、5~90とすることができる。A硬度が5より小さいと、保護材が柔らかくなり千切れや脱落を起こすおそれがある。また、A硬度が90より大きいと硬くなりすぎてフレキシブル性が乏しくなり、フレキシブル基板等の変形し易い対象物に対してはそうしたフレキシブル基板等の機能を損なうおそれがある。
保護材の透湿度は、0.2~30g/m2・dayとすることができる。保護材の透湿度を0.2~30g/m2・dayとしたため、封止する基板等を湿気から隔てることができる。透湿度を0.2g/m2・day未満とすることは困難であり、0.2g/m2・day以上でも十分に封止対象物を封止することができる。また、30g/m2・dayを超える値とすると、透湿性が悪化し、水分等から封止対象物を十分保護することができないおそれがある。
こうした保護材は、フレキシブル性を備える基板等に対して好適に用いられる。また、伸張性を備える基板等に対しても好適に用いることができ、120%程度伸長可能な基板に適用しても好適な封止効果を得ることができる。さらに、封止材用途で用いた際に、封止した電子素子から保護材を引き剥がすときに糊残りや損傷が発生し難く、電子素子の検査又は交換等がし易い。
(A)試料の作製: 以下の表1及び表2で示す配合からなる試料1~試料17の樹脂組成物を作製した。スチレン系熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマー、マレイミド化合物、イミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーを混合して、それぞれの成分が相溶するまで攪拌して液状混合物を得た。その後に、この液状混合物にラジカル重合開始剤を所定量添加して、各試料の樹脂組成物を得た。さらに各試料の樹脂組成物を、照度200mW/cm2の高圧水銀ランプを使用し、積算光量6000mJ/cm2となるように紫外線を照射することで硬化し、各試料の保護材を作製した。
試料1~試料6を対比すると、マレイミド化合物の配合量を変化させている。試料7はマレイミド化合物を含有しないものであり、試料8はイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含まず溶剤を含むものである。試料9はイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーも溶剤も含まないものである。試料10~試料12を対比すると、スチレン系熱可塑性エラストマーの配合量を変化させている。試料13はマレイミド化合物を別種のものに変更したものであり、試料14はスチレン系熱可塑性エラストマーを別種のものに変更したものである。試料15~試料17は、マレイミド化合物に代えて、3単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーを加えたものである。より具体的な原材料名及びその配合量は表1及び表2に示す。なお、表1及び表2において成分の配合量は重量部で示す。
(B)各種試験: 上記試料1~試料17の樹脂組成物及びこれらを硬化して得た保護材について、以下に示す種々の試験を行った。その結果もまた表1及び表2に示した。
柔軟性(180℃屈曲性): 厚み50μmのポリイミドフィルムに各試料の樹脂組成物を塗布、硬化して厚みが1mmとなるように保護材を形成した。そして、ポリイミドフィルムを内側にして180°折り曲げたときの保護材の状態を確認した。その結果、折り曲げ可能なものを“A”、折り曲げ可能だが保護に支障が出ない端部表面等に僅かに割れが生じたものを“B”、折り曲げ可能だが折り目に沿って痕が残るものを“C”、折り曲げ時に折り目に沿って亀裂が生じたが亀裂が肉厚を貫通していなかったものを“D”、折り曲げ時に肉厚を貫通する亀裂が生じたものを“E”と評価した。この結果を各表の「保護材の性質」における「柔軟性」の欄に示した。
弾性率E’(MPa): 保護材の有する柔軟性の指標として、弾性率を測定した。この弾性率は、各試料の硬化物を幅5.0mm×長さ30.0mm(厚さは1.0mm)の大きさに切り出して測定用試験片を準備し、動的粘弾性測定装置(セイコーインスツル株式会社製「DMS6100」)を用いて、チャック間距離8mm、周波数1Hz、23℃、引張モードにて測定した貯蔵弾性率E’である。この結果を各表の「弾性率E’」の欄に示した。
硬度(タイプA硬度): 保護材の硬さを、タイプAデュロメータを用い、日本工業規格であるJIS K 6253に基づいて測定した。その結果を各表の「ゴム硬度」欄に示した。
反り性: 各試料の樹脂組成物を薄層になるように成形し、硬化させて保護材の反りの程度をテストした。具体的には、厚み50μmのポリイミドフィルムに、厚み1mmになるように各試料の樹脂組成物を塗布して硬化させた。この硬化物を20mm×60mmに切り出し、長辺の一方端部を押さえたとき、他方端部の浮きの高さをハイトゲージで測定した。そして、浮きの高さが1mm未満を“A”、1~4mmを“B”、4mmを超えたものを“C”と評価した。この結果を各表の「反り」の欄に示した。
損失係数(tanδ): 各試料の損失係数「tanδ」は、各試料の樹脂組成物について幅5.0mm×長さ30.0mm×厚さ1.0mmの大きさの硬化物を作製して測定用試験片とした。次いで、この試験片を動的粘弾性測定装置(セイコーインスツル株式会社製「DMS6100」)を用いて、チャック間距離8mm、周波数1Hz、23℃、引張モードにて損失係数tanδを測定した。その結果を各表の「tanδ」の欄に示した。
透湿性(WVTR)(g/m2・24h): 各試料の保護材を厚さ1mmのシート形状に成形し、JIS Z0208に従って、温度40℃、相対湿度90%RHでの透湿度を測定した。その結果を各表の「WVTR」の欄に示した。
リワーク性: 厚み50mmのポリイミドフィルムに約30mm×30mmの範囲で各試料の樹脂組成物を塗布した後に紫外線を照射し硬化して、ポリイミドフィルムに厚み1mmの保護層が積層した試験片を得た。次いで、この試験片から保護層を角から剥したときの剥がし易さの指標をリワーク性として評価した。より具体的には、保護材を剥がすときにポリイミドフィルムの表面に液状または固体の異物(糊残り)が何も残らず、保護材を剥離できたものを “A”と評価した。一方、保護材を剥がすときに異物が残ったり、保護材が破断したりしたものを“B”と評価した。その結果を各表の「リワーク性」の欄に示した。
剥離力(N/m): 各試料の保護材の剥離力(接着強さ)は、JIS K6854-2規定の180度剥離試験方法を一部変更して測定した。厚み50μmのポリイミドフィルム上に、厚み1mmになるように各試料の樹脂組成物を塗布して硬化させた。幅25mmに切り出し、剥離速度300mm/min、剥離角度180度で引き剥がすことで接着強さを測定した。その結果を各表の「剥離力」の欄に示した。
耐熱性:各試料について柔軟性試験と同じ試験片を準備し、150℃の恒温槽中に120時間放置した。その後、前記柔軟性試験を実施し、同様の評価をした。その結果を各表の「耐熱性試験」における「柔軟性」の欄に示した。
(C)評価結果: 試料1~試料4は何れも上記試験結果について優れていた。一方、マレイミド化合物を含まない試料7は、耐熱性の評価結果が“D”と劣っており、これに比べて試料1~試料4の保護材は耐熱性に優れており、これらの試料に加えられたマレイミド化合物の配合量が好ましいものであったと考えられる。マレイミド化合物を含まない試料7はまた、保護材表面のタックが大きく、耐熱試験後にその表面が顕著に硬くなる様子も見られた。
また、試料5及び試料6は、反りの結果が“C”となり、耐熱性に対する効果はあるがマレイミド化合物の配合量がやや多いと、硬化後に基材の反りが発生し易いことがわかる。加えて、弾性率の値がやや高くなり、硬さが増すことがわかる。
試料8、9の保護材は、いずれも耐熱性が劣る結果であった。いずれもイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含まないため、マレイミド化合物とその他の成分を十分に相溶化できなかったためと考えられる。また、試料8は溶剤を含むため、樹脂組成物の塗布後に溶剤揮発の工程を実施する手間が必要であった。一方、試料9はイミド(メタ)アクリレートも溶剤も含まないため、マレイミド化合物が溶解せずに溶け残った。
試料10及び試料11は、防湿性の低下が見られた。スチレン系熱可塑性エラストマーの配合比率が少ないためと考えられる。試料12は、リワーク性について“B”と評価され、他の全ての試料が“A”と評価されたのに比べて劣る結果となった。試料12は、スチレン系エラストマーを含まなかったことがその大きな理由と考えられる。加えて試料12は耐熱性に劣る結果となり、単官能(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合割合が多かったことが理由と考えられる。
試料13及び試料14の保護材は、耐熱性、その他の性質が優れており、試料13から脂肪族以外のマレイミド化合物でも脂肪族マレイミド化合物と同様の効果が得られることがわかり、試料14からスチレン系熱可塑性エラストマーの種類が変わっても同様の効果が得られることがわかる。
試料15~試料17は、マレイミド化合物及びイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーに代えて、多官能アクリルモノマーを配合した組成となっているが、マレイミド化合物及びイミド(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含有する試料と比較すると、耐熱性改善効果が見られないことがわかる。そして、試料17のように多官能モノマーを多量に配合すれば、耐熱試験後の脆さは改善できるが、硬化直後から硬くなるという欠点が生じることがわかる。
上記実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない他の任意の変更形態を含むものである。