JP7211711B2 - 内燃機関用ピストン - Google Patents

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Description

本発明は,自動車のエンジン等の内燃機関で使用するピストンに関する。
図17を参照して既知の一般的な内燃機関用ピストン100の構成について説明する。なお,本明細書では,エンジンのヘッド側(燃焼室側)を「上」,これとは反対側(クランクケース側)を「下」として説明し,ここに記載する上下は,実際の使用状態におけるエンジンに搭載された際の上下とは必ずしも一致しない。
内燃機関に使用される一般的なピストン100は,図17に示すように,燃焼圧を受ける頂面111aを有するクラウン部110と,このクラウン部110より下方側に突設されたスラスト側スカート部120a及び反スラスト側スカート部120bから成るスカート部120,ピン穴131やピンボス132,ピンボス132をクラウン部110の裏面111bに連結するピンボスリブ133が形成されていると共に,前記スラスト側スカート部120aと反スラスト側スカート部120bの両端間を連結するサイドウォール130を備え,クラウン部110の頂面111aにおいて燃焼ガスのガス圧を受けてシリンダ150内を下降し,ピンボス132のピン穴131にピストンピン145及び連結棒151を介して連結されたクランク軸(図示せず)を回転させると共に,クランク軸の回転に伴いシリンダ150内を昇降して,4サイクルエンジンでは排気,吸入,圧縮,燃焼・膨張の各行程が行われる。
このピストン100は,シリンダ150の内径に対し僅かに小径に形成されていることから,連結棒151の傾きに応じて上昇,下降の行程において首振りを起こすが,クラウン部110の下方に設けられている前述のスカート部120がシリンダ150の内壁と摺接することでピストン100の首振りが抑制され,ピストン100はシリンダ150内を円滑に上下運動することができるようになっている。
このように,内燃機関のピストン100は,シリンダ150内を上下動することにより燃料の燃焼によって生じた燃焼ガス圧を機械的な運動に変換するものであることから,燃焼ガス圧を効率良く機械的な運動エネルギーに変換するためには,ピストン100が軽量であることが望ましい。
そのため,このような軽量化を目的として,ピストン100の材質として近年ではアルミニウム合金等の軽金属の使用が主流となっていると共に,ピストン100各部の薄肉化が行われている。
また,ピストン100は,前述したようにスカート部120をシリンダ150の内壁と摺接させた状態でシリンダ150内を上下動することから,スカート部120とシリンダ150内壁間の摩擦抵抗は,燃焼によって生じた燃焼ガス圧を機械的な運動に変換する際のエネルギー損失を生じさせると共に,高い摩擦抵抗は摺接部分に焼き付きを生じるおそれもあることから,摩擦抵抗を可及的に低減することが望ましい。
このような摩擦抵抗の低減方法としては,シリンダ150内壁面との接触面積を減少させる形状にスカート部120を設計する他,シリンダ150内壁と摺接する部分のスカート部120表面の摩擦係数を低下させる構成,シリンダ150内壁に対するスカート部120の面圧を低下させる構成等の採用も提案されている。
このうち,シリンダ150内壁に摺接する部分のスカート部表面の摩擦係数を低下させる構成としては,スカート部120の表面に潤滑性を有するコーティング層を所定のパターンで形成し,コーティング層の形成に伴う摩擦抵抗の低減と,コーティング層の非形成部に生じた凹部を,潤滑油を保持する油溜まりとして機能させることによって潤滑性の向上を図ったピストンが提案されている(特許文献1)。
また,シリンダ150内壁面に対するスカート部120(120a,120b)の面圧を低減する方法としては,図18に示すように,スカート部120(120a,120b)の幅方向両端とサイドウォール130の幅方向両端間に,耐熱性樹脂,ゴム,バネ材,マグネ鋼等のピストンを構成する軽合金材料よりも弾性が高いダンパー材160を設けることで,シリンダ内壁面に対するスカート部120(120a,120b)の幅方向両端部の接触圧力を低減することが提案されている(特許文献2)。
特開2005-320934号公報 特開2004-150326号公報
前掲の特許文献1として紹介したピストン100のように,スカート部120(120a,120b)の表面に潤滑性を有するコーティング層を形成する構成では,コーティング層の形成によってスカート部表面の摩擦係数が低下することで,摩擦抵抗を効果的に低減することができる。
しかし,この構成では,スカート部120(120a,120b)の表面に形成されたコーティング層が経時によって摩滅等すると摩擦抵抗を低減する効果が失われてしまい,燃費の悪化や出力の低下,ひいては焼き付きが生じるおそれもある。
従って,コーティング層の形成による摩擦抵抗の低減は,シリンダ150内壁に対するスカート部120(120a,120b)の面圧を低減する等の,他の方法と組み合わせて採用することが好ましい。
ここで,近年のピストン素材の主流となりつつあるアルミニウム合金等の軽金属材料は,鋼等の材料に比較して剛性(ヤング率)が低く,しかも,軽量化の要請より,ピストン100各部の薄肉化が行われていることから,シリンダ150の内壁に高い面圧で摺接されるピストン100のスカート部120(120a,120b)はこの面圧によって変形し易くなっている。
このようなスカート部120(120a,120b)の変形は,面圧を逃がして緩和する作用を有するものの,スカート部120(120a,120b)の剛性に偏りがあると,高剛性の部分は変形が生じ難い一方,低剛性の部分で大きく変形することで,シリンダ150内壁に対する接触面積が増大すると共に,剛性の高い部分の面圧が局部的に高くなることで摩擦抵抗が高まると共に,焼き付きが生じ易くなる。
すなわち,ピストン100のスカート部120(120a,120b)は,その中央付近においてシリンダ150内壁面と接触し,この部分の接触面積を小さくして摩擦抵抗を小さくすることができるようその形状が設計されている。
しかし,スカート部120(120a,120b)は,その上端がクラウン部110に連結されて支持されていると共に,幅方向の両端がサイドウォール130,130に連結されて支持されているため,図19に示すように,スカート部120(120a,120b)の高さ方向の剛性は,上端側に向かうに従い高く,下端側に向かうに従い低くなり,幅方向の剛性は,中央側において低く,幅方向両端側に向かうに従い高くなる。
このように,スカート部の剛性は,スカート部120(120a,120b)の下端部側の幅方向中央部分において相対的に低くなっていることから,この部分に大きな変形が生じることでシリンダ150内壁面との接触面積が増大すると共に,変形部分周囲の接触圧力が高まることで,摩擦抵抗の増大や焼き付きが生じ易くなる。
前掲の特許文献2に記載のピストン110は,このようにして接触圧力が高まる部分のうち,前述したスカート部120(120a,120b)の幅方向両端付近の接触圧力を低下させるべく,前述したようにスカート部120a,120bの幅方向両端とサイドウォール130,130間に耐熱性樹脂やゴム,バネ等の高弾性の材料によって形成されたダンパー材160を介在させる構成を採用する。
しかし,この構成では,スカート部120a,120bの幅方向両端側の剛性が低下することで,スカート部120a,120bの幅方向両端側における接触圧力を低下させることはできるが,依然としてスカート部120a,120bの上下方向に存在する剛性の偏りは改善されていないことから,スカート部120a,120bの高さ方向における局部的な接触圧力の上昇によって摩擦抵抗の増大や焼き付きが生じ得る。
また,特許文献2に記載の構成では,前述したダンパー材160の存在によりスカート部120a,120bの幅方向両端を支持する力が弱まることで,面圧を受けた際のスカート部全体の変形量が大きくなる。
その結果,スカート部120a,120bの変形量の増大に伴い,ピストン110の首振り角が増大することとなるため,この首振りに伴う振動や騒音も増大する。
しかも,サイドウォール130,130によるスカート部120a,120bの幅方向両端側を支持する力が弱まることで,スカート部120a,120bに面圧が加わると,スカート部120a,120bの上端とクラウン部110の連結部分(肩部)に応力が集中することとなるため,この部分の強度が低いとピストン100が破損する。
その結果,スカート部120a,120bとクラウン部110との連結部分を厚肉に形成する等して補強する必要が生じるが,このような補強は,ピストン100の重量を増大させる点で軽量化の要求に反するだけでなく,スカート部120a,120bの上端側の剛性を高めることになるため,高さ方向におけるスカート部120a,120bの剛性の偏りをより一層高めることとなり,その結果,スカート部120a,120bに局部的な面圧の上昇が生じ易くなる。
更に,特許文献2に記載の構成では,スカート部120a,120bとサイドウォール130,130とを,耐熱性樹脂やゴム,バネ等のピストンを構成する金属材料とは異なるダンパー材160によって連結する複雑な構造であることや,これに伴う部品点数の増加,及び製造時の工程数の増加が製造コストを高めることとなり価格競争力を失わせる原因ともなる。
このように,スカート部が変形することは,スカート部にかかる面圧を逃がして緩和することで摩擦抵抗を低減させる作用があるものの,過度な変形はピストンの首振りを助長して振動や騒音を発生させる原因となることから,変形は,適度に行われる必要がある。
また,スカート部の剛性に偏りがあり剛性の低い部分で局部的に変形が生じると,接触面積が増大すると共に剛性の高い部分の面圧が局部的に上昇することになり,却って摩擦抵抗を上昇させたり焼き付きを発生させたりする原因となることから,スカート部は,上下方向及び幅方向のいずれの方向においても剛性が大きく偏ることなく分布していることが望ましい。
しかも,このようにスカート部の適度な変形性や,偏りのない剛性分布を実現しつつ,ピストン全体の軽量化や,応力が集中する部分に必要な強度を持たせるという,相反する要求をも満足させる必要がある。
そこで本発明は,スカート部が適度な変形性を有すると共に,上下方向及び幅方向のいずれの方向においてもスカート部の剛性が大きく偏ることなく分布している内燃機関用ピストンを提供することを第1の目的とする。
また,本発明は,スカート部が前述したように適度な変形性と大きな偏りのない剛性の分布を有するものでありながら,強度的にも優れた内燃機関用ピストンを提供することを更なる目的とする。
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と,発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
上記目的を達成するために,本発明の内燃機関用ピストン1は,
燃焼圧を受ける頂面11aを有するクラウン部10と,
上端を前記クラウン部10に連結されたスラスト側スカート部20a及び反スラスト側スカート部20bと,
前記スラスト側スカート部20aの幅方向両端と前記反スラスト側スカート部20bの幅方向両端間をそれぞれ連通する一対のサイドウォール30,30と,
前記両スカート部20a,20b間の中間位置において前記サイドウォール30,30の肉厚を貫通するピン穴31を備え,
前記スカート部20a,20bそれぞれの少なくとも幅方向の中央付近(図3のテーパ部21参照)が下端側から上端側に向かって厚みを減じるテーパ状に形成されていると共に,
前記サイドウォール30,30には,前記ピン穴31の形成位置における肉厚を厚くした厚肉部32が上下方向に連続して形成されていると共に,前記厚肉部32と前記スカート部それぞれとを連通する薄肉部33が設けられており(図10,11参照),前記厚肉部32から前記薄肉部33に向かって段差なく曲線的に厚みを減じる形状に形成されており,
前記クラウン部10が,前記頂面11aを有する円盤状の頂部11と,前記頂部11の裏面11b周縁部より突出した円筒部12を備え,(図8,9参照),
前記スカート部20a,20bそれぞれの前記上端を,前記円筒部12の開口縁に連続して形成すると共に,
前記サイドウォール30,30の上端を,前記円筒部12内において前記頂部11の裏面11bに連結すると共に,前記サイドウォール30の前記薄肉部33を前記円筒部12の内周面に連結し,
前記スラスト側スカート部20a及び前記反スラスト側スカート部20bのうち,少なくとも一方のスカート部(例えばより高い面圧を受ける側のスカート部)と連結される前記薄肉部33の内壁面と,前記頂部11裏面11b,及び前記円筒部12内周面によって画成される隅角部Cから前記サイドウォール30の前記薄肉部33の内壁面及び前記頂部11裏面11bに補強用の肉盛り41(図12,13参照)が行われていることを特徴とする(請求項1)。
上記構成の内燃機関用ピストン1において,前記補強用の肉盛り41を,図13に示すように前記隅角部Cから前記サイドウォール30の前記薄肉部33の内壁面及び前記頂部11裏面11bに向かって段差なくなだらかな曲線で厚みを減少するように行うことが好ましい(請求項)。
前述のスカート部20a,20bは,それぞれ,平面視した前記ピストン1のスラスト方向における直径を基準線LSとし,該基準線LSを0°として,ピストンピンの軸線LCと前記基準線LSとの交点Oを中心に,該基準線LSに対し±20°~50°の範囲に形成することが好ましく(請求項),スカート部20a,20bの形成範囲が広すぎると摺動面積の増大によりフリクションが大きくなる一方,狭すぎると面圧の増大によって焼き付きが生じ易くなる。
また,スカート部20a,20bに設けるテーパ部21は,前記基準線を0°として,ピストンピンの軸線LCと前記基準線LSとの交点Oを中心に,該基準線LSに対し±20°~40°の範囲に設けることが好ましい(請求項)。
このテーパ部21は,スラスト側スカート部20aに設けるテーパ部21を幅広に,反スラスト側スカート部20bに設けるテーパ部21をこれよりも幅狭に形成するものとしても良い。すなわち,スラスト側スカート部20aは,燃焼荷重を大きく受けるため,スラスト側スカート部20aに設けるテーパ部21を幅広に形成することで面圧を下げられる可能性があり,焼付きに有利になる。一方,反スラスト側スカート部20bでは,荷重は小さいので面積を狭くし,摺動面積を減らすことで,フリクションの低下が期待できる。
以上で説明した本発明の構成により,本発明の内燃機関用ピストン1によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
サイドウォール30に薄肉部33を設けることで,スカート部20a,20bに適度な変形性を与えることができると共に,スカート部20a,20bの幅方向における剛性の偏りを改善することができ,更に,スカート部20a,20bの少なくとも幅方向の中央付近(テーパ部21)を下端側から上端側に向かって厚みを減じるテーパ状に形成して上下方向における剛性の偏りを改善することで,適度に変形しつつ,剛性の偏りが少ない,従って,局部的な変形等が生じ難いスカート部20a,20bを備えたピストン1を提供することができた。
その結果,騒音や振動の原因となるピストン1の首振りを抑制しつつ,適度な変形によってスカート部20a,20bの面圧を逃がすと共に,局部的に高い面圧が生じる部分の発生を防止することで,摩擦抵抗を低減することができ,低燃費,高出力を実現することができると共に,焼き付きの生じ難い内燃機関用ピストン1を提供することができた。
特に,スカート部20a,20bに局部的に剛性の高い部分が存在すると,スカート部20a,20bがシリンダの内壁と接触した際に,剛性の高い部分が高い面圧でシリンダ内壁と当接することで焼き付きが発生し易くなるだけでなく,騒音も増大する。
これに対し,本発明の内燃機関用ピストン1では,スカート部20a,20bの上端側(肩部側)の剛性をピンセンタの剛性に近付けることで局部的に面圧の高い部分が発生し難くなることで,焼き付きの発生が抑制できるだけでなく,騒音の発生を低減することができる点でも有利となる。
また,このように,剛性の均一化によって騒音の低減や焼き付き発生を抑制することができることで,スカート形状(プロフィール)の設計の自由度についても増大させることができた。
しかも上記構成では,サイドウォール30に設けられた厚肉部32が図17及び図18を参照して説明した従来のピストン100におけるピンボス132やピンボスリブ133に対応する機能を有するだけでなく,これらが一体的に段差なく形成され,従来構造のピストン100では,破損の起点となり易くなっていたピンボス132とサイドウォール130の連結部に生じていた角部Dが消滅していることで,強度的にも優れたピストン1とすることができた。
特に,クラウン部10を,前記頂面11aを有する円盤状の頂部11と,外周面にリング溝13が形成される円筒部12を備えた構成とし,前記スカート部20a,20bの上端を,前記円筒部12の開口縁に連続して形成すると共に,サイドウォール30,30の上端を,前記円筒部12内において前記頂部11の裏面11bと前記円筒部12の内周面に連結させた構成では,少なくとも一方のスカート部(20a又は20b)と連結される側の前記薄肉部33の内壁面と前記頂部11裏面11b,及び前記円筒部12内周面によって画成される隅角部Cに補強用の肉盛り41を行うことにより,薄肉部33の形成によって強度が低下しているサイドウォール30の上端部分を補強することができた。
しかも,この肉盛り41による補強は,クラウン部10の円筒部12内で行っているため,円筒部12の開口縁よりも下方に設けられているスカート部20a,20bの剛性に影響を与えないことから,スカート部20a,20bの上下方向における剛性の偏りを拡大させることなく補強を行うことが可能である。
特に,前述した肉盛り41を,前記隅角部Cから前記サイドウォール30の前記薄肉部33の内壁面,及び,前記頂部11裏面11bに向かって段差なくなだらかな曲線で変化するように厚みを減少させることで,より広範囲に高強度の補強をスカート部20a,20bの剛性に影響を与えることなく行うことができた。
交点Oを中心に基準線LS(0°)に対し±20°~50°の範囲に前記スカート部20a,20bを形成したことで,比較的幅広に形成されたスカート部20a,20bは変形し易く,かつ,剛性の偏りをより一層是正することができた。
また,交点Oを中心に基準線LS(0°)に対して,±20°~40°の範囲でテーパ部21を設けた構成では,シリンダ内壁面と接触する部分のスカート部20a,20bの上下方向における剛性の偏りを是正することができると共に,スカート部20a,20bの強度が低下することを好適に防止することができた。
本発明のピストンの正面図。 本発明のピストンの平面図。 本発明のピストンの底面図。 本発明のピストンの右側面図(反スラスト側)。 本発明のピストンの左側面図(スラスト側)。 図2のVI-VI線断面図。 図2のVII-VII線断面図。 図2のVI-VI線断面図(クラウン部のみ実線で表したもの)。 図2のVII-VII線断面図(クラウン部のみ実線で表したもの)。 本発明のピストンの底面図(サイドウォールのみ実線で表したもの)。 図2のVI-VI線断面図(サイドウォールのみ実線で表したもの)。 図6のXII-XII線要部断面図。 図6のXII-XII線要部断面図(変形例)。 スカート部の剛性測定結果のグラフ。 1500min-1のフリクションの測定結果を示すグラフ(縦軸の1目盛は2kPa)。 2000min-1のフリクションの測定結果を示すグラフ(縦軸の1目盛は2kPa)。 ピストンの説明図(従来一般)であり,(A)はシリンダ内に装着した状態の正面要部断面図,(B)は底面図。 従来のピストン(特許文献2)の説明図であり,(A)は正面図,(B)は底面図。 従来のピストンにおけるスカート部の剛性分布の説明図。
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
本発明の対象である内燃機関用ピストン1は,内燃機関用のものであれば特に限定されず,ガソリンエンジン用,ディーゼルエンジン用のいずれのものであっても対象とすることができ,また,その用途も特に限定されるものではないが,以下では一例として自動車用のエンジンを例に挙げて説明する。
また,本発明の対象である内燃機関用ピストン1は,その材質についても特に限定されるものではなく,内燃機関用ピストンの材質として一般的に使用されている既知の各種の材質のものを対象とすることができるが,以下の説明では,内燃機関用ピストンの材質として主流となりつつあるアルミ-珪素系合金製のピストンを例に取り説明する。
〔ピストンの全体構造〕
この内燃機関用のピストン1は,図1~図7に示すように,燃焼ガスのガス圧を受ける頂面11aを備えたクラウン部10と,このクラウン部10より下方に伸びる,シリンダ内壁に摺接されるスラスト側スカート部20a及び反スラスト側スカート部20bから成るスカート部20,及び前記スラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20bの幅方向における両端間を連結すると共に,ピン穴31が形成されたサイドウォール30が一体的に形成された構造を有する。
〔クラウン部〕
図8及び図9中に,実線で示した部分がクラウン部10であり,このクラウン部10は,燃焼ガス圧を受ける前述の頂面11aを有する円盤状の頂部11と,この頂部11の裏面11bの周縁部より突出した円筒部12を備え,この円筒部12の外周にピストンリングが嵌合されるリング溝13が形成されている。
前述の頂面11aには,必要に応じてバルブとの干渉を避けるためのバルブリセス14(図1及び図2参照)や,ピストンボウル(窪み)を設けるものとしても良く,図示のピストンはバルブリセス14を備えた高圧縮比エンジン用のピストンとして構成されている。
〔スカート部〕
前述のクラウン部10に設けられた円筒部12の開口縁からは,図6及び図8に示すように前記円筒部12と一体的にスラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20bがそれぞれ突出形成されている。
このスカート部20は,スラスト側スカート部20a及び反スラスト側スカート部20bのいずれともに適度な変形性を得るために比較的幅広に形成することが好ましく,図2の平面視,又は図3の底面視におけるピストン1のスラスト方向における直径を基準線LSとし,この基準線LSを0°として,前記ピストンピンの軸線LCと前記基準線LSとの交点Oを中心に,該基準線LSに対し±20°~50°の範囲にスカート部20a,20bを形成することが好ましく,本実施形態ではスラスト側スカート部20aを±25°の範囲に,反スラスト側スカート部20bを±30°の範囲にそれぞれ形成している。
スラスト側,反スラスト側のスカート部20a,20bのいずれとも,図6に示すように少なくとも幅方向の中央付近の厚みが下端側から上端側に向かって徐々に厚みを減ずるテーパ状に形成されており,これにより,クラウン部10の円筒部12と一体的に形成されることで剛性が高まっているスカート部の上端側の剛性を低下させることで,スカート部の上下方向における剛性の偏りの改善が図られている。
このようなテーパ形状は,各スカート部20a,20b全体を下端側から上端側に向かって厚みを減じるテーパ形状に形成するものとしても良いが,少なくともシリンダの内壁と接触する幅方向の中央付近,一例として前述した基準線LSに対し20°~40°の範囲を前述したテーパ状に形成すれば良い。
本実施形態では,スラスト側スカート部20a及び反スラスト側スカート部20bのいずれ共に,前述した基準線LSに対し±20°の範囲におけるスカート部20a,20bを前述のテーパ形状としたテーパ部21(図3参照)を設けている。
このようにスカート部20a,20bの一部にテーパ部21を設けることで,シリンダ内壁と接触する部分のスカート部の上下方向における剛性の偏りが改善される一方,スカート部20a,20bの全体が強度低下することを防止できる。
なお,図4及び図5中,符合22は,固体潤滑剤を含有する樹脂を付着させて形成した潤滑性コーティング層である。
〔サイドウォール〕
図10及び図11中,実線で示した部分がサイドウォール30,30であり,このサイドウォール30,30は,図10に示すようにスラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20bの幅方向両端間を連結している。
図10及び図11に示すように,サイドウォール30,30には,スラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20b間の中間位置において,その肉厚を貫通してピン穴31が設けられており,サイドウォール30,30間に挿入された連結棒(図示せず)の小端部に設けた軸穴と,サイドウォール30,30に設けたピン穴31に,共にピストンピン(図示せず)を挿入することで,ピストン1に連結棒を連結することができるように構成されている。
このサイドウォール30,30は,図10に示すように底面視において前記ピン穴の形成位置を含む所定範囲の肉厚を内向きに膨出させた厚肉部32を有し,この厚肉部32を,図11に示すようにサイドウォール30の内壁面側の上下方向に連続して形成すると共に,この厚肉部32と前記スカート部20a,20b間を連通する部分のサイドウォール30,30を相対的に薄肉に形成して薄肉部33とし,かつ,図10に示すように前記厚肉部32から前記薄肉部33に向かって段差なく曲線的に厚みを減じる形状に形成している。
このサイドウォール30,30の上端は,図11に示すようにクラウン部10の頂部11裏面11bに一体的に連結されていると共に,サイドウォール30,30の幅方向両端の上端側の所定範囲はクラウン部10の円筒部12の内壁に一体的に連結されている。
このようにしてサイドウォール30,30に設けられた厚肉部32は,ピストンピンを支えるピンボスとしての機能を有するだけでなく,ピンボスをクラウン部10の頂部11裏面11bに連結するピンボスリブとしての機能を持つ一方,図10に示したように厚肉部32から薄肉部33に曲線的に移り変わるように構成したことで,ピンボス132とサイドウォール130の連結部分に角部Dが生じている,図17(B)及び図18(B)に示す従来のピストンのように,サイドウォールの内面に応力の集中する部分が設けられていないことで,強度的にも優れたものになっている。
また,厚肉部32と各スカート部20a,20b間に薄肉部33を設けたことで,特許文献2として紹介した従来技術とは異なり,スカート部20a,20bの幅方向の両端をサイドウォール30,30によって直接連結した構成とすることで,スカート部20a,20bの過度な変形を防止してピストン1の首振り角が増大することに伴う振動や騒音の増大を防止しつつ,スカート部20a,20bと共に薄肉部33が変形することにより,スカート部20a,20bの幅方向両端側の剛性が低下する結果,スカート部20a,20bの幅方向中央部における剛性と幅方向両端側における剛性を近付けることができるものとなっている。
本実施形態では,図10に示すように前述の厚肉部32は,外壁側の曲率に対し内壁側の曲率が大きいナツメ型に形成されて内向きに膨出する形状に形成されており,図3に示すようにスラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20b,及び一対のサイドウォール30,30の内壁によって囲まれた部分が,全体として略8の字状の空間に形成されている。
〔肉盛り補強〕
以上のように,本発明の内燃機関用ピストン1では,スカート部20a,20bの幅方向の両端をサイドウォール30,30によって直接支持したことで,特許文献2に記載のピストンのように耐熱性の樹脂やゴム等によって形成されたダンパーによってスカート部の幅方向両端を支持する構成に比較してスカート部20a,20bの上端とクラウン部10との連結部分に応力が集中することが防止できることから,この部分に対する補強は特に必要ではない。
一方,本願の内燃機関用のピストン1では,サイドウォール30,30に薄肉部33を設けていることで,スカート部20a,20bに適度な変形性が与えられると共に,スカート部20a,20bの幅方向における剛性の偏りを是正していることから,スカート部20a,20bと共に変形するサイドウォール30,30の薄肉部33上端とクラウン部10の頂部11裏面11bとの連結部分に応力が集中する。
その一方で,スカート部20a,20bの背面においてサイドウォール30,30の薄肉部33を補強すると,この補強によってスカート部20a,20bの剛性を高めることとなり,スカート部20a,20bの剛性に偏りが生じることになる。
そこで,本発明の内燃機関用ピストン1では,クラウン部10の円筒部12の開口縁に対し上方にあるサイドウォール30,30の薄肉部33の内壁面と,前記頂部11の裏面11b,及び前記円筒部12の内周面とによって画成される隅角部Cに,図中にクロスハッチングで表示したように補強用の肉盛り41を行うことで,サイドウォール30,30の薄肉部33上端部分の補強を行っている。
前述した隅角部Cは,クラウン部10の円筒部12内に設けられていることから,この部分に肉盛り41を行って補強しても,円筒部12の開口縁よりも下側に設けられているスカート部20a,20bの剛性に影響を与えることなく,サイドウォール30,30の薄肉部33上端部分の補強が可能である。
この肉盛りは,図12に示すように前述した隅角部Cの部分にのみ肉盛り41を行うものとしても良いが,図13に示すように,前述した隅角部Cから前記サイドウォール30,30の前記薄肉部33の内壁面及び前記頂部11裏面11bに向かって徐々に厚みを減じて段差なくなだらかな曲線で変化するように比較的広範囲に肉盛り41を行うことが好ましく,これによりピストン1の強度を更に高めることができる。
〔作用等〕
以上のように構成された本発明の内燃機関用のピストン1では,スラスト側スカート部20aと反スラスト側スカート部20bの幅方向両端間をサイドウォール30,30によって連結する構成を維持しつつ,サイドウォール30,30に薄肉部33を設けたことで,スカート部20a,20bに適度な変形性を付与することで,スカート部20a,20bの幅方向における剛性の偏りを是正することができると共に,少なくともスカート部20a,20bの幅方向中央付近に,下端側(インロー側)から上端側(肩側)に向かって肉厚を減じるテーパ状に形成したテーパ部21を設けたことで,スカート部20a,20bの上下方向における剛性の偏りを是正することができた。
また,前述したように,サイドウォール30,30に前述した形状の厚肉部32を設けてサイドウォール30の内壁面に段差を生じさせることなくピンボスとピンボスリブに相当する構成を設けたことで,ピンボスとサイドウォールの連結部分に破壊の起点となり易い角部Dが形成されることなく,ピストンの強度を高めることができた。
更に,クラウン部の円筒内においてサイドウォール30の薄肉部33上端と頂部11底面11b,及び円筒部12内面によって画成される隅角部Cに肉盛りを行って補強した構成では,前述したように剛性の偏りを是正したスカート部の剛性に影響を与えることなく,応力が集中するサイドウォール30の薄肉部33の上端とクラウン部10の頂部11裏面11b間の連結部分を好適に補強することができた。
次に,本発明の内燃機関用ピストンのスカート部の剛性,摩擦抵抗,及び強度(安全率)を評価した結果を以下に示す。
〔剛性の評価〕
(1)試験の目的
本発明の内燃機関用ピストンにおいて,スカート部の高さ方向及び幅方向のいずれの方向においても剛性の偏りが是正されていることを確認する。
(2)試験方法
図12に示す補強を行った本発明のピストン(実施例1),図13に示す補強を行った本発明のピストン(実施例2),及び既知の一般的なピストン(比較例1)の三種類のピストン(いずれも直径80mm)を使用して,スラスト側及び反スラスト側のスカート部それぞれの高さ方向〔ピストンピン中心に対応する高さ位置(ピンセンタ),上端,下端〕の剛性,及び,スカート部の幅方向〔幅方向中心(0°),10°,20°〕における剛性をそれぞれ測定した。
剛性は,各測定部位のスカート部の外壁面に対し内向き方向の荷重をかけてその変位量から1μmの変位を生じさせるために必要な荷重(N/μm)を算出して剛性として評価した。
(3)試験結果
上記試験の測定結果を下記の表1に,測定結果をグラフにまとめたものを図14にそれぞれ示す。
Figure 0007211711000001
以上の結果から,実施例1及び実施例2のピストンでは,スラスト側及び反スラスト側のいずれにおいてもスカート部の剛性のばらつき,特に,シリンダ内壁面と接触する0°~±10°の範囲内における剛性のばらつきが大幅に改善されており,0°~±10°の範囲において,中心(0°位置)に対する幅方向の剛性の変化,及びピンセンタの剛性に対する上端(肩)側,及び下端(インロー)側の剛性の変化を,いずれも10N/μm以下に抑えることができた。
〔摩擦抵抗の評価〕
(1)試験の目的
本発明の内燃機関用ピストンにおいて摩擦抵抗性の低減が得られることを確認する。
(2)試験方法
浮動ライナー法によるフリクション測定装置(80.5mm浮動ライナー)を使用して,前掲の比較例1及び実施例2のピストンのフリクションを測定した。
(3)試験結果
測定結果を図15及び図16に示す。
図15及び図16に示したように,図示平均有効圧(IMEP)を変化させた場合,及び回転速度を変化(1500min-1,2000min-1)させた場合のいずれにおいても,実施例2のピストンは,比較例1のピストンに比較して低い摩擦損失平均有効圧(FMEP)を示しており,負荷を変化させた場合,及び回転速度を変化させた場合のいずれにおいてもフリクションの低減が得られることが確認された。
〔強度の評価〕
実施例1及び実施例2のピストンに対し,有限要素法(FEM)による強度解析を行うと共に,安全率の計算を行った結果,実施例1及び実施例2のいずれのピストン共,各部において必要な強度が得られていることが確認された。
特に,実施例2のピストンでは,実施例1のピストンに比較してより高い強度が得られており,より過酷な使用条件(実施例1に対し,実施例2では1.25倍の設計筒内圧)において必要な強度と安全率が得られることが確認された。
1 (内燃機関用)ピストン
10 クラウン部
11 頂部
11a 頂面
11b 裏面
12 円筒部
13 リング溝
14 バルブリセス
20 スカート部
20a スラスト側スカート部
20b 反スラスト側スカート部
21 テーパ部
22 潤滑性コーティング層
30 サイドウォール
31 ピン穴
32 厚肉部
33 薄肉部
41 肉盛り
100 (内燃機関用)ピストン
110 クラウン部
111a 頂面
111b 裏面
120 スカート部
120a スラスト側スカート部
120b 反スラスト側スカート部
130 サイドウォール
131 ピン穴
132 ピンボス
133 ピンボスリブ
145 ピストンピン
150 シリンダ
151 連結棒
160 ダンパー材
LS 基準線
LC ピストンピンの軸線
O 交点(基準線LSとピストンピンの軸線LCの)
C 隅角部
D 角部(ピンボスとサイドウォールの連結部の)

Claims (4)

  1. 燃焼圧を受ける頂面を有するクラウン部と,
    上端を前記クラウン部に連結されたスラスト側スカート部及び反スラスト側スカート部と,
    前記スラスト側スカート部の幅方向両端と前記反スラスト側スカート部の幅方向両端間をそれぞれ連通する一対のサイドウォールと,
    前記両スカート部間の中間位置において前記サイドウォールの肉厚を貫通するピン穴を備え,
    前記スカート部それぞれの少なくとも幅方向の中央付近が下端側から上端側に向かって厚みを減じるテーパ状に形成されていると共に,
    前記サイドウォールには,前記ピン穴の形成位置における肉厚を厚くした厚肉部が上下方向に連続して形成されていると共に,前記厚肉部と前記スカート部それぞれとを連通する薄肉部が設けられており,前記厚肉部から前記薄肉部に向かって段差なく曲線的に厚みを減じる形状に形成されており,
    前記クラウン部が,前記頂面を有する円盤状の頂部と,前記頂部の裏面周縁部より突出した円筒部を備え,
    前記スカート部それぞれの前記上端が,前記円筒部の開口縁に連続して形成されていると共に,
    前記サイドウォールの上端が,前記円筒部内において前記頂部の裏面に連結されていると共に,前記サイドウォールの前記薄肉部が前記円筒部の内周面に連結されており,
    前記スラスト側スカート部及び前記反スラスト側スカート部のうち,少なくとも一方のスカート部と連結される前記薄肉部の内壁面と,前記頂部裏面,及び前記円筒部内周面によって画成される隅角部から前記サイドウォールの前記薄肉部の内壁面及び前記頂部裏面に補強用の肉盛りがされていることを特徴とする内燃機関用ピストン。
  2. 前記補強用の肉盛りが,前記隅角部から前記サイドウォールの前記薄肉部の内壁面及び前記頂部裏面に向かって段差なくなだらかな曲線で厚みを減少するように行われていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストン。
  3. 平面視した前記ピストンのスラスト方向における直径を基準線とし,該基準線を0°として,ピストンピンの軸線と前記基準線との交点を中心に,該基準線に対し±20°~50°の範囲に前記スカート部を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関用ピストン。
  4. 平面視した前記ピストンのスラスト方向における直径を基準線とし,該基準線を0°として,ピストンピンの軸線と前記基準線との交点を中心に,該基準線に対し±20°~40°の範囲の前記スカート部を,下端側から上端側に向かって厚みを減じる前記テーパ状に形成したことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の内燃機関用ピストン。
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