特許文献1に記載される砂防堰堤も、土石流発生時に巨礫や流木といった流下物を堰き止める各構造体の変形が許容されない剛構造であり、これらの構造体を受け止めるコンクリート構造物を構築する必要がある。こうしたコンクリート構造物は巨大であり、一般に、工事用道路がないと施工困難であるため、従来の砂防堰堤は、土石流の発生源に対して比較的下流側にしか構築できない。しかしながら、土石流の発生源は、河川の最上流部、更には涸れ沢などに代表される常時表流水のない、例えば山頂近傍の或いは深い山間の小規模な谷部であり、こうした小規模な谷部では、工事用道路もなく、巨大なコンクリート構造物を伴う砂防堰堤は構築することができない。
つまり、例えば山頂近傍や深い山間の小規模な谷部で発生した土石流は、下流側に至るほど、岸部の木や岩を巻き込んで巨大化し、それに伴って土石流の運動エネルギーも大きくなる。従って、河川の下流側に構築される砂防堰堤は、この巨大な運動エネルギーを受け止めるために、どうしても頑健な構造とせざるを得ない。換言すれば、土石流による被害を効果的に低減するためには、土石流の運動エネルギーが未だ小さい、例えば山頂近傍や深い山間の小規模な谷部にこそ、発生直後の土石流の流下物を的確に堰き止める砂防堰堤が望まれる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小規模な谷部でも構築することができ、その結果、土石流による被害を効果的に低減することが可能な砂防堰堤を提供することにある。
上記目的を達成するため請求項1に記載の堰堤は、
谷部に設けられる堰堤において、前記谷部の幅方向の中間位置で、前記谷部の底部から立設された1又は複数の支柱と、前記谷部の幅方向両端部間に架け渡され、前記支柱に係合されるロープと、前記ロープと係合されることで、前記谷部の底部又は底部近傍から所定高さ位置までの領域に伸展されて前記谷部の略幅方向に張設されるネット体と、を備え、前記支柱は、前記ロープに係合されるネット体の前記谷部幅方向中間部が前記谷部幅方向両端部よりも谷部下流側に位置するように配置されたことを特徴とする。
この構成によれば、谷部の幅方向両端部間に架け渡されたロープを谷部の幅方向中間位置に立設された支柱に係合し、このロープとネット体を係合して谷部の略幅方向にネット体が張設される。従って、土石流発生時には、ネット体によって谷部を流れる巨礫や流木などの流下物が堰き止められ、その際、ネット体の変形性能によって土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、ネット体全体で流下物を堰き止めることができる。そのため、巨大なコンクリート構造物を必要とせず、例えば山頂近傍や深い山間の小規模な谷部でも堰堤を構築することが可能となる。
このとき、ロープに係合されるネット体の谷部幅方向中間部が谷部幅方向両端部よりも谷部下流側に位置するように支柱が配置されているため、ネット体に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中間部が低くなるようにネット体上に堆積する。従って、水はネット体上に堆積する流下物の上から、又は流下物の隙間を通って谷部幅方向の中間部に流れ、谷部幅方向の両端部、即ち谷部の岸部を浸食することがない。また、小規模な谷部では、張設されるネット体の大きさも制限されるため、場合によっては、流下物がネット体をあふれる可能性もあるが、そうした場合にも、流下物は谷部幅方向の中間部からあふれるので、土石流の拡大を最小限に抑制することができると共に、下流側にも堰堤があれば、その堰堤であふれた流下物が効果的に堰き止められる。
以上より、土石流の発生源又はその近傍である小規模な谷部に有効な堰堤を構築することができ、土石流発生時の水や流下物が下流側に流れて流下物の容量や運動エネルギーが増大する以前に流下物を堰き止めることができ、しかも谷部の岸部の浸食が回避され、その結果、土石流の被害を効果的に低減することができる。また、巨大なコンクリート構造物を構築する必要がなく、地形や植生の改変が少ないので、景観・環境を保全することができる。
請求項2に記載の堰堤は、請求項1に記載の堰堤において、前記ロープが前記張設領域における前記ネット体の上端部を支持する支持ロープであり、前記ロープは、前記ネット体の前記谷部幅方向中間部の鉛直方向位置が前記谷部幅方向両端部の鉛直方向位置よりも低く設定されるように前記支柱に係合されたことを特徴とする。
この構成によれば、土石流発生時にネット体に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中間部が低くなるようにネット体上に確実に堆積する。従って、土石流の被害をより一層確実且つ効果的に低減することができる。
請求項3に記載の堰堤は、請求項1又は2に記載の堰堤において、前記ロープの前記谷部幅方向両端部の夫々は、前記谷部の両岸部の夫々に固定されたことを特徴とする。
この構成によれば、谷部幅方向中間部に立設される支柱は、両端部の夫々が両岸部の夫々に固定されるロープに係合されるので、土石流の運動エネルギーに抗して支柱を支持するための構造が簡潔になり、施工性が向上すると共にネット体が土石流発生時の流下物を堰き止めた際にも支柱を頑健に支持することができる。
請求項4に記載の堰堤は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の堰堤において、前記支柱が複数である場合、前記谷部幅方向のより中央部に配置される支柱ほどより谷部下流側に配置されたことを特徴とする。
この構成によれば、谷部幅方向中間部に立設される支柱が複数であっても、土石流発生時にネット体に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中間部が低くなるようにネット体上に確実に堆積するため、土石流の被害を確実且つ効果的に低減することができる。
請求項5に記載の堰堤は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の堰堤において、前記支柱が1である場合、前記支柱は前記谷部幅方向中央部に配置されたことを特徴とする。
この構成によれば、谷部幅方向中間部に立設される支柱が1であっても、土石流発生時にネット体に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中間部が低くなるようにネット体上に確実に堆積するため、土石流の被害を確実且つ効果的に低減することができる。
請求項6に記載の堰堤は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の堰堤において、前記谷部が、常時表流水のない、0次谷又はその近傍であることを特徴とする。
この構成によれば、常時表流水のない、0次谷又はその近傍において、土石流発生時の流下物を堰き止めることが可能となるので、土石流の被害を最も効果的に低減することが可能となる。
請求項7に記載の堰堤は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の堰堤において、前記ネット体の下端部が、前記谷部の底部に固定されたことを特徴とする。
この構成によれば、土石流発生時、巨礫や流木などの流下物を堰き止めたネット体の下端部がめくれ上がるのを抑止することができることから、土石流発生時の流下物がネット体の下から下流に流れてしまうのを防止することができ、それらをネット体で確実に堰き止めることが可能となる。
請求項8に記載の堰堤は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の堰堤において、前記ロープには所定値以上の負荷が加えられたときに所定の制動力を伴いながら該ロープの長さの伸びを許容するブレーキ装置が設けられたことを特徴とする。
この構成によれば、ロープに大きな負荷が加わったときに所定の制動力を伴いながらロープの伸びが許容されるので、ロープの伸びに伴って制動作用、つまり運動エネルギーの吸収力を確保することが可能となる。これにより、土石流等の流下物の持つ運動エネルギーをより一層的確に吸収することが可能となり、ロープを含めたネット体全体によって流下物をより確実に堰き止めることができる。
以上説明したように、本発明によれば、土石流発生時には、ネット体によって巨礫や流木などの流下物が堰き止められ、その際、ネット体の変形性能により土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、ネット体全体で流下物を堰き止めることができる。また、流下物堰き止め時の水やネット体からあふれる流下物が、谷部の岸部を浸食することがなく、土石流の被害を最小限に抑制することができる。その結果、小規模な谷部にも有効な堰堤を構築することができ、景観や環境を保全しながら、土石流による被害を効果的に低減することができる。
以下、本発明の堰堤の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1(A)は、この実施の形態に係る砂防堰堤1の全体構成を示す平面図、図1(B)は、同正面図、図2は、図1の砂防堰堤1の側面図、図3は、図2における支柱2a~2c、ロープ6a~6c及びリング式ネット(ネット体)18の詳細を示す一部断面側面図である。この実施の形態に係る砂防堰堤1は、既存の砂防堰堤と同様に、土砂災害、特に、土石流による被害を防止すること等を目的に谷部Rの幅方向に延設されるものであるが、この実施の形態では、小規模な谷部Rに構築することを目的とする。小規模な谷部Rは、例えば後段に詳述する0次谷に代表される、常時表流水のない谷部を指し、例えば山や丘の頂部近傍、或いは深い山間に多く存在する。そのため、この実施の形態の砂防堰堤1は、例えば、地山Hの頂部近傍に存在する小さな谷部Rに構築される。常時表流水のない谷部Rは、所謂涸れ沢であるが、降雨時などには、土石流が発生する恐れがある。つまり、0次谷こそ、土石流の発生源であるともいえる。
この砂防堰堤1では、土石流発生時の巨礫や流木などの流下物を堰き止めるために、後述するリング式ネット18からなるネット体を、谷部Rの底部B側から所定高さ位置まで伸展するようにして谷部Rの略幅方向に張設する。この実施の形態のリング式ネット18は、例えば図1(B)に示すように、例えば鋼線材を複数回巻回してなるリング状部材20(図では一部のみを表示)を互いに連結して構成される。ネット体は、何れも、自身が変形することによって流下物の運動エネルギーを吸収可能とするが、特にリング式ネット18を構成するリング状部材20は、許容する変形量が大きく、その分だけ、吸収可能な運動エネルギーが大きいという利点を有する。
この実施の形態では、リング式ネット18を谷部Rの幅方向に張設するために、3以上の支柱2a~2cを谷部Rの幅方向に並べるようにして、谷部Rの底部Bから立設する。この実施の形態では、計6本の支柱2a~2cを立設している。これら6本の支柱2a~2cのうち、谷部Rの幅方向両端部又は両端部寄りの支柱を両端側支柱2aとし、両端側支柱2aの間に立設される支柱を中間支柱2b、2cとする。更に、この実施の形態では、中間支柱2b、2cのうち、谷部幅方向の最も中央部又は中央部寄りの2本の支柱を中央側中間支柱2cとし、中央側中間支柱2cと両端側支柱2aの間の2本の支柱を補助中間支柱2bとする。
これら6本の支柱2a~2cは、谷部Rの凡そ幅方向に並べて立設されるが、後段に詳述するように、実際には、中間支柱2b、2cが両端側支柱2aより谷部Rの下流側に位置するように配設される。また、谷部幅方向のより中央部に配置される中間支柱2b、2cほどより下流側に配設される。即ち、2本の補助中間支柱2bの夫々は2本の両端側支柱2aの夫々よりも下流側に配設され、2本の中央側中間支柱2cは2本の補助中間支柱2bよりも更に下流側に配設されている。また、後述するように、各支柱2a~2cの上端部の鉛直方向位置(高さ)にも工夫がなされている。各支柱2a~2c間の間隔は凡そ3~5m、各支柱2a~2cの高さも凡そ3~5mである。なお、本発明では、後述するように、谷部幅方向中間部に立設される1本以上の支柱を必須構成要件とする。
支柱2a~2c自体は、例えば鋼製の中空四角柱やH型鋼などで構成され、H型鋼を用いる場合には、ウエブを谷部Rの上下流方向に向け、更に、例えばフランジ間に適宜補強部材を差し渡して補強するなどしてもよい。また、支柱2a~2cには、例えば断面円形の中空鋼材や断面楕円形の中空鋼材も使用可能である。使用される支柱材料の長さ(高さ)については、後述するとして、各支柱2a~2cは、谷部Rの底部Bに構築された小規模な土台5上に立設されている。土台5は、例えば小規模な四角柱形状のコンクリート基台5a上に鋼板5bを搭載して形成され、鋼板5bの上方から谷部Rの底部Bの安定化地層Dまでアンカー53を穿って固定される。アンカー53は、谷部Rの底部表面から安定化地層Dまで穿設されたアンカー穴に挿入され且つアンカー穴に注入されたセメントミルク55が硬化して谷部Rの底部Bに固設される。そして、土台5の上面を構成する鋼板5bの谷部幅方向両端部には軸受部5cが突設され、この2つの軸受部5cに挿通される回転軸51が支柱2a~2cの下端部に貫通されている。そのため、この実施の形態では、支柱2a~2cは、軸線が谷部幅方向に向いた回転軸51に沿って谷部Rの上下流方向、特に下流方向に傾倒可能である。
各支柱2a~2cの上端部及び下端部及びその中間部には、支柱2a~2cの下流側面にロープ挿通用の係合リング57が取付固定されており、この係合リング57にロープ6a~6cが挿通されて、各支柱2a~2cとロープ6a~6cが係合している。ロープ6a~6cは、支柱2a~2cの上端部の係合リング57に挿通される上端部ロープ6a、支柱2a~2cの下端部の係合リング57に挿通される下端部ロープ6c、支柱2a~2cの高さ方向中間部の係合リング57に挿通される中間部ロープ6bの3本が、夫々、両端側支柱2a間に架け渡すようにして各支柱2a~2cに係合している。このロープ6a~6cには、例えば高強度のワイヤロープなどが適用される。また、ロープ6a~6cの線径は、例えば12~30mm程度である。なお、図3では、両端側支柱2a及び上端部ロープ6aのみを代表して示している。
各ロープ6a~6cの両端部は、両端側支柱2aよりも谷部Rの上流側で且つ係合リング57による両端側支柱2aと上端部ロープ6aの係合高さよりも高い位置で、谷部Rの岸部の地形、例えば地山Hの安定化地層Dに固定手段4で固定されている。これにより、この実施形態の支柱2a~2cは、各ロープ6a~6cによって、谷部Rの岸部から吊られるように支持されている。この実施の形態のロープ6a~6cの両端部の固定手段4は、谷部幅方向の両端部、即ち谷部Rの両岸部の夫々において、プレート40に挿通されて地山Hの表面から安定化地層Dまで到達するアンカー39に全てのロープ6a~6cの端部を連結して構成される。アンカー39とロープ6a~6cの連結には、例えばターンバックル部材などの個別の連結手段4aを用いてもよい。この連結手段4aには、個別のワイヤロープなどを用いることもできる。
この実施の形態のアンカー39は、例えば鋼棒材からなり、地山Hの表面から安定化地層Dまで穿設されたアンカー穴に挿入され且つ該アンカー穴に注入されたセメントミルク41が硬化して地山Hに固設されている。周知のように、地山Hは、一般的に、表層部の不安定層Tの下(深み)に深層を構成する安定化地層Dが存在し、安定化地層Dと不安定層Tの境界を滑り面として、不安定層(表層)Tが滑落するおそれがある。一方、アンカー穴内でセメントミルク41が硬化すれば、地山Hの安定化地層Dに到達するアンカー39は安定化地層Dと一体化される。
この実施の形態では、アンカー39のプレート貫通突出部には雄ネジが形成されており、プレート40の貫通孔にアンカー39を挿通した後、この雄ネジに座付きアイナット42を螺合し締め付けてアンカー39が地山Hに固定される。このアイナット42のリング部と各ロープ6a~6cの両端部の夫々とを直接、又はターンバックル部材などの連結手段4aを介して連結した。なお、この実施の形態では、全てのロープ6a~6cの両端部の夫々を谷部幅方向両端部の夫々に設けられた1つの固定手段4によって共通に地山Hに固定しているが、各ロープ6a~6c毎に個別の固定手段で地山Hに固定してもよい。また、この実施の形態では、支柱2a~2cとロープ6a~6cを係止しているが、ロープ6a~6cを支柱2a~2cに固定してもよい。
前述したリング式ネット18は、これらのロープ6a~6cと係合することによって支持されている。具体的には、リング式ネット18を構成するリング状部材20のリング内、即ち内周側を縫うようにしてロープ6a~6cが挿通されている。なお、ロープ6a~6cの挿通部分では、リング状部材20とロープ6a~6cを連結することが望ましい。また、ロープは、リング式ネット18のリング状部材に挿通せずに、例えばシャンクやジョーと呼ばれる個別の係止具を用いてリング状部材20に係止してもよい。また、上端部ロープ6aは、例えばリング式ネット18を吊り下げるようにして支持している(即ち、支持ロープ)が、この上端部ロープ6aを含めて、全てのロープ6a~6cは、単にリング式ネット18を支持するだけでなく、後述するように、リング式ネット18が流下物を堰き止めた際に、そのリング式ネット18を補強する機能を発揮する。つまり、土石流発生時の流下物の運動エネルギーは、リング式ネット18の変形によって吸収されるものの、ロープ6a~6cにも伝達される。このロープ6a~6cに伝達される運動エネルギーに対して、ロープ6a~6cの両端部を堅固に地山Hに固定したり、或いはロープ6a~6cの伸びを許容しながら、その伸びに対して制動力を付与したりすることで、リング式ネット18を補強することが可能となる。
このリング式ネット18は、流下物を受け止めてリング状部材20が変形すると、リング式ネット18全体が下流側に膨出する。その際、下流に膨出するリング式ネット18の下端部がめくれ上がって、リング式ネット18の下側から流下物が下流側に流れ出てしまわないために、図2に示すように、リング式ネット18の下端部を上流側に向けて谷部Rの底部Bに這わせ、その上流側端部のリング状部材20を固定構造38によって谷部Rの底部Bに固定する。この実施の形態の固定構造38は、前述したロープ6a~6cの固定手段4と同様に、プレート40に挿通されて谷部Rの底部表面から安定化地層Dまで到達するアンカー39にリング式ネット18のリング状部材20を連結して構成される。アンカー39は、谷部Rの底部表面から安定化地層Dまで穿設されたアンカー穴に挿入され且つ該アンカー穴に注入されたセメントミルク41が硬化して谷部Rの底部Bに固設されている。アンカー39のプレート貫通部には、前述のアンカーと同様に、雄ネジが形成されており、この雄ネジに座付きアイナット42を螺合し締め付けてアンカー39が地山Hに固定される。そして、このアイナット42のリング部にリング式ネット18のリング状部材20を挿通して、両者を連結した。これにより、アンカー39はセメントミルク41と共に安定化地層Dと一体化し、リング式ネット18が流下物を堰き止めても、流下物の運動エネルギーでアンカー39が抜けるのを抑止することができ、その結果、リング式ネット18の下端部を谷部Rの底部Bに固定し続けることができる。なお、リング式ネット18のリング状部材20とアンカー29の連結には、個別の連結手段を介装してもよい。
実際のロープ6a~6cは、図1(B)に示すように、自重やリング式ネット18の重みによって下方に弛んでいる。また、この弛み量によって、リング式ネット18による流下物の抑止とそれに挿通又は係止されているロープ6a~6cによる流下物の抑止を調整することが可能となる。即ち、ロープ6a~6cはリング式ネット18のリング状部材20のリング内に挿通され又はリングと係止されることによってリング状部材20とロープ6a~6cが連結されているため、土石流発生時のロープ6a~6cの動きとリング式ネット18の動きは互いにリンクしている。
後段に詳述するリング式ネット18の変形による土石流の運動エネルギー吸収効果は、ネット体の撓みがなくなってリング状部材20が変形することで発揮される。一方、ロープ6a~6cは、リング式ネット18に流下物が受け止められ、リング式ネット18が下流側に膨出することでロープ6a~6cの弛みがなくなり、ロープ6a~6cに自重以上の張力が発生したときから流下物を支持することができる。このとき、ロープ6a~6cの伸びを許容しながらその伸びに制動力が付与されれば、制動力を伴うロープ6a~6cの伸びによって土石流の持つ運動エネルギーを吸収することができる。そのため、このロープ6a~6cの両端部には、所定の制動力を伴ってロープ6a~6cの両固定部間の長さの伸びを許容するロープ用ブレーキ装置30が設けられている。
この補強ロープ用ブレーキ装置30は、例えば通常時に補強ロープ26の長手方向への動きを規制するものである。土石流発生時、リング式ネット18が流下物を受け止め、下流側に膨出して補強ロープ26の弛みがなくなると、補強ロープ26の張力が大きくなる。この張力が、補強ロープ用ブレーキ装置30による補強ロープ26の規制力より大きくなると、例えば補強ロープ用ブレーキ装置30内で補強ロープ26の滑りが生じ、その滑りに伴う摩擦抵抗が制動力となり、この制動力によって土石流の運動エネルギーが吸収される。
この実施の形態では、これらのロープ用ブレーキ装置30によるロープ6a~6cの伸び量を、後述するリング式ネット18の変形限界と同時かそれ以前にロープ6a~6cの両固定部間の長さの伸びが限界となるように設定した。このように構成すると、ロープ6a~6cの両固定部間の長さの伸び限界と同時かそれ以後にリング式ネット18の変形限界となるため、制動力を伴うロープ6a~6cの伸びによる土石流の運動エネルギー吸収量を超える土石流の運動エネルギーをリング式ネット18の変形によって吸収することが可能となる。
例えば、ロープ用ブレーキ装置30の制動力を伴うロープ6a~6cの伸びの限界を土石流の運動エネルギー吸収上限値に設定した場合、万が一、これを超える運動エネルギーを土石流が有していた場合、ロープ6a~6cが伸びきった後からリング式ネット18の変形によって、その上限値を超える運動エネルギーを吸収することができ、これにより流下物を抑止することができる。また、土石流発生の際、リング式ネット18が変形限界になっていなければ、ロープ6a~6cを張り替え、リング式ネット18は、そのまま再利用することも可能となるので、堰堤10の再生工事が簡易になる。
なお、例えば図1のように、1本のロープ6a~6cに対し、夫々、複数のロープ用ブレーキ装置30を設ける場合、それらのロープ用ブレーキ装置30の制動力の大きさを互いに異なる大きさに設定してもよい。このような制動力配分にすると、例えば1本のロープ6a~6cに2個のロープ用ブレーキ装置30を設けた場合、何れか一方のロープ用ブレーキ装置30が先に作動して制動力を発揮し、その後から、他方のロープ用ブレーキ装置30が作動して制動力を発揮する。こうすることで、流下物を支持するロープ6a~6cが伸び続ける間、継続的或いは断続的に制動力を発揮する、つまり運動エネルギーを吸収し続けることが可能となる。
次に、本実施の形態に用いられているリング式ネット18について説明する。このリング式ネット18は、例えば特開2014-1584号公報(以下、先行技術文献とも記す)に記載されるものと同様であり、複数のリング状部材20を互いに連結して構成される。この実施の形態では、例えば、図1から理解されるように、1つのリング状部材20の周囲に4つのリング状部材20が均等に配置されるようにして、それらのリング状部材20の内周側同士が接触するように連結する。リング状部材20の連結構造は、先行技術文献に記載されるように、様々な形態がある。
このリング状部材20は、例えば鋼線からなる線材を複数回(5~20回)巻回し、周方向の数か所を締結具によって締め付けて構成されている。リング状部材20を構成する線材には、例えば硬鋼線材から製造される鋼線が好ましいが、例えば軟鋼線材から製造される鉄線でもよい。鋼線の場合、引張強度800N/mm2以上のものが好ましい。また、これらの線材にメッキや被覆を施したものも用いることができる。線材の線径は2.5~5mm程度で、リング状部材20の直径は300~1500mm程度である。リング式ネット18は、リング状部材20の直径を変更することで、堰き止めたい流下物(巨礫)の大きさに容易に対応することができる。例えば、上流の巨礫の大きさを調査し、その大きさに合わせてリング状部材20の直径を設定すれば、土石流発生時の流下物を効果的に堰き止めることができる。
リング状部材20を連結して構成されるリング式ネット18は、例えばネット面に垂直な力(負荷)が加わると、リング状部材20が互いに引っ張られるので、リング状部材20の形状そのものが変形すると共に、リング状部材20を構成する線材の巻回が緩むように変形する。これらの変形は、土石流の運動エネルギー、具体的には巨礫や流木が衝突してネット面に負荷が作用するときに生じ、リング式ネット18に負荷が加わるとリング状部材20が変形することで、土石流の運動エネルギーが吸収され、結果としてリング式ネット18全体で巨礫や流木を堰き止める効果が得られる。なお、土石流は渓流の上流側から下流側に向けて生じるので、土石流の運動エネルギーでリング状部材20が変形するリング式ネット18は、前述したように、土石流を受けると下流側に膨出する。
これらのことから、リング式ネット18を用いる砂防堰堤1は、リング状部材20の変形によって土石流の運動エネルギーを受け止める「柔構造」であるといえ、従来のコンクリートダム型の砂防堰堤や中間流域部だけを設けた透過型砂防堰堤の「剛構造」と異なる。この実施の形態の場合、前述のロープ6a~6cやロープ用ブレーキ装置30を含めて、リング式ネット18全体によって流下物の動きを抑止することができれば、その後、ロープ6a~6cやリング式ネット18を繋ぎ止めている固定手段4が受け止める負荷は流下物の静荷重である。周知のように、同じ物体でも、動荷重に比べて静荷重は遥かに小さい。そのため、簡易な構造であっても、固定手段4は、流下物を堰き止めたリング式ネット18やロープ6a~6cを支持し続けることができることから、所謂コンクリート構造物からなる大掛かりな基礎・躯体を必要としない。従って、コンクリート構造物の構築が困難な小規模な谷部Rであっても砂防堰堤1が構築可能となると共に、その施工も大幅に容易になる。この施工の容易さは、堰堤が構築される場所、つまり山間において多大なメリットをもたらす。
次に、この実施の形態の砂防堰堤1が構築される小規模な谷部Rについて説明する。この実施の形態の砂防堰堤1が構築されるのは、例えば社団法人砂防学会が定めるところの0次谷又はその近傍である。0次谷は、図4に示すように、谷部Rを示す等高線のうち、谷部Rの岸部間の距離、即ち間口が、同レベルにおける谷部Rの奥行より大きい谷部Rを指す。ちなみに、間口が奥行きより小さい谷部Rは1次谷と定義される。
この実施の形態では、前述のようにして構成される砂防堰堤1を、図5に示すように、小規模な谷部Rの上下流に複数段構築した。これは、後段に詳述するように、万が一、上流側のリング式ネット18、即ち砂防堰堤1からあふれた流下物を下流側のリング式ネット18、即ち砂防堰堤1で堰き止めるための配置である。その理由は、この実施の形態のように、砂防堰堤1が設置される谷部Rの規模が小さければ、張設されるリング式ネット18の大きさも制限され、その結果、1つのネット体、即ち砂防堰堤1で堰き止められる流下物の容量にも上限が生じるためである。
前述のように、この実施の形態では、図1(A)に示すように、両端側支柱2aよりも中間支柱2b、2cが谷部Rの下流側になるように配置され、更に、同じ中間支柱2b、2cでも、補助中間支柱2bよりも中央側中間支柱2cが谷部Rの下流側になるように配置されている。つまり、谷部幅方向のより中央部に配置される中間支柱2b、2cほどより谷部下流側に配置されている。これにより、上端部ロープ6aと係合するリング式ネット18は、谷部幅方向中間部、具体的には中央部が谷部幅方向両端部より下流側になるように張設される。また、図1(B)、図2から明らかなように、両端側支柱2aの上端部の鉛直方向位置、つまり高さよりも中間支柱2b、2cの上端部の鉛直方向位置、つまり高さが低く設定されている。具体的には、2本の補助中間支柱2bの上端部高さは両端側支柱2aの上端部高さよりも低く設定され、2本の中央側中間支柱2cの上端部高さは補助中間支柱2bの上端部高さよりも更に低く設定されている。これにより、上端部ロープ6aに支持されるリング式ネット18の上端部は、谷部幅方向中間部、具体的には中央部の鉛直方向位置が谷部幅方向両端部の鉛直方向位置よりも低く設定される。また、この実施の形態のように、支柱2a~2cが谷部Rの下流側に可倒である場合には、両端側支柱2aの下端部高さよりも中間支柱2b、2cの上端部高さを高く設定するのが好ましい。
図6は、図2の砂防堰堤1によって流下物を堰き止めた状態を示す断面図、図7は、図6の正面図である。なお、ロープは上端部ロープ6aのみを代表して示している。前述のように、流下物を堰き止めたリング式ネット18は、リング状部材20の伸びに伴って、下流側に膨出する。また、ロープ用ブレーキ装置の設定制動力によっては両端部間のロープ6a~6cに伸びが生じ、その結果、支柱2a~2cが下流側に傾倒することもある。前述のように、この実施の形態では、上端部ロープ6aと係合するリング式ネット18は、谷部幅方向中央部が谷部幅方向両端部より下流側になるように張設され、しかも上端部ロープ6aに支持されるリング式ネット18の上端部は、谷部幅方向中央部の鉛直方向位置が谷部幅方向両端部の鉛直方向位置よりも低く設定されているため、図7に明示するように、リング式ネット18に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部が高く、谷部幅方向中央部が低くなるようにリング式ネット18上に堆積する。支柱2a~2cが下流側に傾倒する場合、両端側支柱2aの下端部高さよりも中間支柱2b、2cの上端部高さを高く設定することで、この流下物の堆積状態を確保できる。
このように谷部幅方向両端部が高く、谷部幅方向中央部が低くなるように流下物がリング式ネット18上に堆積すると、水はリング式ネット18上に堆積する流下物の上から、又は流下物の隙間を通って谷部幅方向中央部又は中央部寄りに流れ、谷部Rの幅方向両端部、即ち谷部Rの岸部を浸食することがない。また、この実施の形態のように、砂防堰堤1が設置される谷部Rが小規模である場合には、張設されるリング式ネット18の大きさも制限されるため、場合によっては、流下物がリング式ネット18をあふれる可能性もあるが、そうした場合にも、流下物は谷部幅方向中央部又は中央部寄りからあふれるので、土石流の拡大を最小限に抑制することができる。
0次谷のような土石流の発生源では、流下物の容量や運動エネルギーが増大する以前に土石流による流下物を堰き止めることで、土石流の被害を効果的に低減することが可能となるが、水やあふれた流下物が谷部Rの岸部を浸食しないようにすることが肝要である。なぜなら、0次谷のような山や丘の頂部近傍で谷部Rの岸部が水やあふれた流下物で浸食されると、その分、下流側の流下物の容量や運動エネルギーが大きくなってしまうためである。そこで、この実施の形態では、両端側支柱2aよりも中間支柱2b、2cが谷部Rの下流側になるように配置し、且つ両端側支柱2aの上端部高さよりも中間上端部高さを低く設定することにより、リング式ネット18上に堆積する流下物は、谷部幅方向両端部が高く、谷部幅方向中央部が低くなるので、水やあふれる流下物が谷部幅方向中央部又は中央部寄りを流下し、岸部の浸食を回避することができる。
このように、この実施の形態の砂防堰堤1によれば、谷部Rの幅方向両端部又は両端部寄りの位置に夫々両端側支柱2aを立設すると共に、その両端側支柱2aの間に1つ以上の中間支柱2b、2cを立設し、少なくとも各支柱2a~2cの上端部において両端側支柱2a間に架け渡したロープ6a~6cを各中間支柱2b、2cに係合し、そのロープ6a~6cと係合することによって谷部Rの略幅方向にリング式ネット18を張設する。そして、中間支柱2b、2cは両端側支柱2aよりも谷部下流側に位置するように配置し、且つ谷部幅方向のより中央部に配置される中央側中間支柱2cほどより谷部下流側に配置し、更に中間支柱2b、2cの上端部に係合されるリング式ネット18の上端部の鉛直方向位置を両端側支柱2aの上端部に係合されるリング式ネット18の上端部の鉛直方向位置よりも低く設定した。
これにより、土石流発生時には、リング式ネット18によって谷部Rを流れる巨礫や流木などの流下物が堰き止められ、その際、リング式ネット18の変形性能によって土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、リング式ネット18全体で流下物を堰き止めることができる。そのため、巨大なコンクリート構造物を必要とせず、例えば山頂近傍の、小規模な谷部Rでも砂防堰堤1を構築することが可能となる。また、リング式ネット18に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中央部側が低くなるようにリング式ネット18上に堆積する。従って、水はリング式ネット18上に堆積する流下物の上から、又は流下物の隙間を通って谷部幅方向の中央部側に流れ、谷部幅方向の両端部、即ち谷部Rの岸部を浸食することがない。また、流下物は谷部幅方向の中央部側からあふれるので、土石流の拡大を最小限に抑制することができると共に、下流側にも砂防堰堤1があれば、その砂防堰堤1であふれた流下物が効果的に堰き止められる。
以上より、この実施の形態の砂防堰堤1は、土石流の発生源又はその近傍である小規模な谷部Rに有効な砂防堰堤を構築することができ、土石流発生時の水や流下物が下流側に流れて流下物の容量や運動エネルギーが増大する以前に流下物を堰き止めることができ、しかも谷部Rの岸部の浸食が回避され、その結果、土石流の被害を効果的に低減することができる。また、巨大なコンクリート構造物を構築する必要がなく、地形や植生の改変が少ないので、景観・環境を保全することができる。
また、常時表流水のない、0次谷又はその近傍に砂防堰堤1を構築することにより、土石流発生時の流下物を土石流発生源の近傍で堰き止めることが可能となるので、土石流の被害を最も効果的に低減することが可能となる。
また、ロープ6a~6cの谷部幅方向両端部の夫々を谷部Rの両岸部の夫々に固定したことにより、ロープ6a~6cに係合される支柱2a~2cはロープ6a~6cを介して谷部Rの両岸部から吊られるように支持されるので、土石流の運動エネルギーに抗して各支柱2a~2cを支持するための構造が簡潔になり、施工性が向上すると共に、リング式ネット18が土石流発生時の流下物を堰き止めた際にも支柱2a~2cを頑健に支持することができる。
また、リング式ネット18の下端部を谷部Rの底部Bに固定することにより、リングネット18の下端部がめくれ上がるのを抑止して土石流発生時の巨礫や流木といった流下物がリング式ネット18の下から下流側に流れてしまうのを防止することができ、流下物をリング式ネット18で確実に堰き止めることが可能となる。
また、所定値以上の負荷が加えられたときに所定の制動力を伴いながらロープ6a~6cの長さの伸びを許容するロープ用ブレーキ装置30をロープ6a~6cに設けたことにより、ロープ6a~6cに大きな負荷が加わったときに所定の制動力を伴いながらロープ6a~6cの伸びが許容されるので、ロープ6a~6cの伸びに伴って制動作用、つまり運動エネルギーの吸収力を確保することが可能となる。これにより、土石流等の流下物の持つ運動エネルギーをより一層的確に吸収することが可能となり、ロープ6a~6cを含めたリング式ネット18全体によって流下物をより確実に堰き止めることができる。
また、リング式ネット18をネット体としたことにより、土石流発生時には、リング式ネット18を構成する複数のリング状部材20によって巨礫や流木などの流下物が堰き止められる。その際、リング状部材20の変形などによるリング式ネット18の優れたネット変形性能により、土石流の持つ運動エネルギーが吸収され、リング式ネット18全体で流下物を的確に堰き止めることができる。
以上、実施の形態について説明したが、本発明の構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、上述したロープの本数や材質については現場の状況に応じて適宜選択されるものであり、また、それらのブレーキ装置は、上述の構成に限定されるものではなく、制動力を伴いながらロープの伸びを許容するものであれば如何なるものを用いてもよい。
また、前述のように、本発明の砂防堰堤で必要な谷部幅方向中間に立設すべき支柱の数は1以上である。図8は、支柱2が1本だけである場合の本発明の砂防堰堤1の他の実施の形態の全体構成を示す平面図である。また、図9は、図8の砂防堰堤1の正面図である。これらの例で、谷部幅方向両端部間に架け渡されるロープ6は1本だけである。図8では、谷部幅方向両端部間に架け渡されるロープ6の両端部は固定手段4を介して谷部Rの幅方向両端部、つまり岸部に固定され、係合リング57を介して上端部にロープ6が係合される支柱2は、谷部Rの幅方向中央部に1本だけ立設され、このロープ6にリング式ネット18の上端部が係合されることで、リング式ネット18は、谷部幅方向中間部(中央部)が谷部幅方向両端部よりも下流側になるように谷部Rの略幅方向に張設される。更に、図9では、固定手段4によるロープ6の両端部の岸部への固定部位の鉛直方向位置よりも係合リング57を介した支柱2とロープ6との係合部位の鉛直方向位置が低く設定されているため、ロープ6に上端部が係合され、その結果、ロープ(支持ロープ)6によって支持されるリング式ネット18の上端部は、谷部幅方向中間部(中央部)の鉛直方向位置が谷部幅方向両端部の鉛直方向位置よりも低くなっている。
本発明の砂防堰堤によって、土石流の被害を効果的に低減するために、リング式ネット18に捕捉される流下物を、谷部幅方向の両端部側が高く、谷部幅方向の中央部側が低くなるようにリング式ネット18上に堆積させるためには、図8のように、ロープ6に係合されるリング式ネット18の谷部幅方向中間部(中央部)が谷部幅方向両端部よりも谷部下流側に位置するように支柱2を配置すればよい。更に、この流下物の堆積状態を確実なものにするためには、図9に示すように、ロープ6に上端部が支持されるリング式ネット18の谷部幅方向中間部(中央部)の鉛直方向位置が谷部幅方向両端部の鉛直方向位置よりも低く設定されるようにロープ6を支柱2に係合すればよい。この例のように、谷部幅方向中間部に立設される支柱が1本だけの場合には、支柱2を谷部幅方向中央部に立設し、且つロープ6に係合されるリング式ネット18の張設状態を前述のように設定すればよい。一方、谷部幅方向中間部に立設される支柱が複数である、特に3以上である場合には、図1(A)に明示するように、谷部幅方向のより中央部に配置される支柱2b、2cほどより谷部下流側に配置することが望ましい。
また、リング式ネット18に代えて、他のネット体を適用することも可能である。このようなネット体としては、例えば図10に示すように、網目が菱形の金属線材からなる菱形金網22をネット体として用いることもできる。この菱形金網22は、例えば特開2016-37773号公報に記載されるように、例えば金属線材24を曲げ加工して三角波状ワイヤとし、並列に配置された複数の三角波状ワイヤの山と谷を互いに編んで、それらの三角波状ワイヤを係合することで構成される。この三角波状ワイヤを構成する金属線材24には、軟鋼、硬鋼、 ばね鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。この金属線材24には必要により被覆処理がなされていてもよく、これにより三角波状ワイヤの接触部分の摩耗や、腐食等を防止することができる。被覆処理としては、例えば、亜鉛メッキ処理やポリエステル被覆処理が挙げられる。この菱形金網22を含めて、本発明のネット体には、流下物を堰き止めることが可能であれば、如何様なネット体を用いることも可能である。