以下、種々の例示的実施形態について説明する。
一つの例示的実施形態において、シャワープレートは、ガス孔を有する板状の誘電体本体と、誘電体本体内に含まれた複数の密閉領域とを備えている。個々の密閉領域は、誘電体本体よりも低い誘電率を有し、誘電体本体の中央領域における密閉領域の体積密度は、誘電体本体の周辺領域における密閉領域の体積密度よりも高い。
誘電体の静電容量は、実効的な誘電率が低下すると小さくなる。誘電体本体の中央領域においては、相対的に低い誘電率を有する密閉領域の体積密度が高いため、実効的な誘電率は低下する。したがって、中央領域の静電容量は、周辺領域の静電容量よりも小さくなる。高周波をシャワープレートの上部や周囲から導入してプラズマを発生させる場合、中央領域においてプラズマ強度が高くなる傾向があるが、中央領域の静電容量は周辺領域よりも小さいので、プラズマ強度の増加が抑制され、プラズマの面内均一性が高くなる。
一つの例示的実施形態において、板状の誘電体本体は、平坦な一方面と、平坦な他方面とを備え、シャワープレートは、一方面上に固定された電極膜を備え、他方面はプラズマ生成領域側に位置することを特徴とする。電極膜は誘電体本体に固定されているので、これらの間の隙間が温度に依存して変化せず、また、隙間における放電が生じにくい。また、誘電体本体が平坦な一方面及び他方面を備えているので、誘電体本体の熱膨張時の歪みも少ない。したがって、シャワープレートの静電容量が、温度によって変化しにくく、温度変化に伴うプラズマの均一性劣化が抑制される。
一つの例示的実施形態において、電極膜は、金属溶射膜であることを特徴とする。金属溶射膜は、接着強度が高く、剥がれにくいため、剥がれに伴う放電が生じにくく、プラズマの均一性劣化が抑制される。また、電極膜を誘電体本体の平坦な面に溶射できるので、凸面や凹面に溶射する場合に比べて、溶射の精度劣化が起こらない。
密閉領域は、窒素ガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含むことを特徴とする。ガス孔などの形成又は加工時において、密閉領域の誘電体材料が外部に露出しても、プラズマ特性に影響を与えない方が好ましい。窒素ガス、アルゴンガスは、不活性度が高く、コンタミネーションとして機能しにくい材料なので、これらの材料を用いた場合には、さらに良質なプラズマを発生させることができる。また、空気に比べて熱膨張率も低いため、温度変化に対する静電容量の変化も抑制できる。
個々の密閉領域は、誘電体本体の厚み方向に沿って延びた形状を有することを特徴とする。
一つの例示的実施形態においては、シャワープレートの厚み方向の静電容量を中央領域において、低下させている。低誘電率の密閉領域が厚み方向(縦方向)に延びている場合には、シャワープレート上下面間の静電容量を十分に低下させることができる。
一つの例示的実施形態においては、誘電体本体の厚み方向をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な2方向をX軸及びY軸とした場合、複数の密閉領域個々の重心位置の分布は、他方面側よりも、電極膜側へ偏っていることを特徴とする。他方面側は、プラズマ生成領域に接するが、密閉領域は電極膜側に偏っているので、密閉領域がプラズマに侵食されにくいという利点がある。
一方、密閉領域は低誘電率材料からなるので、誘電体本体の熱膨張により、内部に応力がかかり、変形が生じようとする。そこで、一つの例示的実施形態においては、複数の密閉領域個々の重心位置は、電極膜側に位置する所定のXY平面に対して面対称に分布していることを特徴とする。この場合、面対称であるため、熱応力に伴う変形の度合いがXY平面の上下において対称となり、全体の変形が抑制される。すなわち、誘電体本体の変形が少ないため、熱に伴う容量変化が小さく、プラズマの面内均一性を更に高めることができる。
一つの例示的実施形態においては、プラズマ処理装置は、上述のシャワープレートと、シャワープレートを収容する処理容器と、処理容器内にプラズマ発生用の高周波を導入する高周波発生器とを備えている。
高周波発生器から処理容器内に高周波が導入されると、処理容器内部においてプラズマが発生する。シャワープレートのガス孔からは処理ガスが処理容器内に供給できるので、処理ガスのプラズマを生成し、処理対象物にプラズマ処理を施すことができる。
一つの例示的実施形態においては、高周波の周波数は、130MHz~220MHzであることを特徴とする。この周波数範囲は、超短波(VHF)帯に含まれる。VHF帯とは、30MHz~300MHz程度の範囲の周波数である。このような条件の場合、一般的な直径330mm程度のシャワープレートの場合には、高周波の半波長がシャワープレートの直径に近いか、シャワープレートの直径よりも小さくなるので、定在波が立ちやすくなる。したがって、定在波に起因してプラズマの面内均一性の悪化が生じる傾向にあるが、このような場合においては、複数の密閉領域によるレンズ効果により面内均一性を良好に保つことができる。
一つの例示的実施形態においては、下部誘電体は、板状の誘電体本体と、誘電体本体内に含まれた複数の密閉領域とを備えている。個々の密閉領域は、誘電体本体よりも低い誘電率を有している。誘電体本体の中央領域における密閉領域の体積密度は、誘電体本体の周辺領域における密閉領域の体積密度よりも高い。
シャワープレートの場合と同様に、下部誘電体においても、誘電体本体の中央領域においては、相対的に低い誘電率を有する密閉領域の体積密度が高いため、実効的な誘電率は低下する。したがって、下部誘電体における中央領域の静電容量は、周辺領域の静電容量よりも小さくなる。換言すれば、下部誘電体は、周囲の電界を補正する誘電体レンズとして機能している。高周波を処理容器に導入してプラズマを発生させる場合、中央領域においてプラズマ強度が高くなる傾向があるが、中央領域の静電容量は周辺領域よりも小さいので、プラズマ強度の増加が抑制され、プラズマの面内均一性が高くなる。
以下、実施の形態に係るプラズマ処理装置について説明する。同一要素には、同一符号を用い、重複する説明は省略する。
図1は、一つの例示的実施形態に係るプラズマ処理装置100の装置構成を示す説明図である。なお、説明の便宜上、三次元直交座標系を設定する。プラズマ処理装置の鉛直方向をZ軸方向とし、これに垂直な2方向をそれぞれX軸及びY軸とする。
プラズマ処理装置100は、下部にステージLSを備えている。ステージLSと上部電極5との間にプラズマが発生する。ステージLSは、ステージの本体内に埋め込まれた下部電極6と、本体内に埋設された温度調節装置TEMP(発熱体を含む)とを備えている。ステージLSは、駆動機構DRVに支持されており、駆動機構DRVによってZ軸方向に移動させることができる。駆動機構DRVはZθステージであり、Z軸方向の移動の他、XY平面内において回転することができる。プラズマ処理装置100は、処理容器1内に対向配置された上部電極5及び下部電極6を備え、これらの電極間の空間SPにプラズマを発生させる。上部電極5には、下面に凹部が設けられており、この凹部内にシャワープレート(誘電体本体7及び電極膜7A)が配置されている。空間SPの横方向端部には、誘電体からなる高周波導入部9が設けられている。
シャワープレートの誘電体本体7には、ガス源10から処理ガスを供給するためのガス孔Hが設けられている。誘電体本体7の内部には、複数の密閉領域P(気泡など)が含まれており、密閉領域Pが含まれる領域は、誘電体本体7よりも低い誘電率を有しており、この領域における実効的な誘電率が低下している。
処理容器1の上部には、円筒形の蓋部材3が設けられる。蓋部材3の中央は開口しており、蓋部材の内面と、上部電極5の外面との間の空間が、高周波の導波路2を構成している。高周波を導波路2内に導入する方法には、様々なものがある。例えば、蓋部材3の上部の開口に連通する導波管を設け、かかる導波管内に高周波を供給してもよい。導波路2内に導入された高周波は、白抜き矢印で示す通り、下方に伝搬し、更に、誘電体からなる高周波導入部9を介して、処理容器1の内部に導入される。高周波を伝搬させるために同軸管を用いることもでき、その内部導体を上部電極5に接続することもできる。また、高周波の伝播経路内においては、適当な誘電体を配置して、インピダンス整合をとることができる。
導波路2の上部に導入された高周波は、水平方向に沿って放射状に周辺部に進行する。その後、この高周波は、処理容器1の側壁の内面に形成された導波路(平面形状は円環状で、深さはZ軸方向)を下方に進行する。しかる後、この高周波は、高周波導入部9に導入され、処理容器1の外周部から中央部に向けて進行する。Z軸方向から見た高周波導入部9の平面形状は円環状であり、水平方向の全方位から処理容器1の軸中心に向けて、高周波が進行する。高周波導入部9は、プラズマ発生空間SPの横方向に位置している。
また、高周波電力は、高周波として処理容器1の側方から上部電極5とステージLSとの間の空間内に導入される。シャワープレートの誘電体本体7のガス孔Hから処理容器1内に処理ガスが導入されると共に、上部電極5と下部電極6との間の空間内に、高周波導入部9から、高周波が導入される。これにより、処理容器1の内部の処理ガスがプラズマ化し、プラズマが発生する。処理容器1内のガスは、排気通路4を介して、排気装置14により外部に排気される。
上部電極5は、導電性材料からなる冷却ジャケットであり、冷却媒体通路5Cを有している。上部電極5の下面は、凹部を有しており、凹部内にシャワープレート(誘電体本体7及び電極膜7A)が配置される。
シャワープレートの誘電体本体7の上面上には、電極膜7Aが形成され、固定されており、電極膜7Aは上部電極5の下面に電気的に接続されている。なお、電極膜7Aは、金属の溶射によって形成することができるが、金属膜の形成法としては、溶射の他に、溶融金属メッキ法、溶融塩電解メッキ法、金属浸透法、蒸着法、電気泳動法などが知られている。
電極膜7Aは、金属溶射膜であることが好ましい。金属溶射膜は、接着強度が高く、剥がれにくいため、剥がれに伴う放電が生じにくく、プラズマの均一性劣化が抑制される。好適には、金属は電気伝導率が高いアルミニウムであることが好ましく、例えば、標準規格のアルミニウム溶射作業標準(JIS H 9301)を用いて、溶射を行うことができる。溶射前に、誘電体本体7の下地表面上にサンドブラストなどの粗面加工を行うこともでき、この場合には、金属溶射後の接着強度を向上させることができる。
高周波導入部9は、横方向端部(水平方向端部)に位置しており、この空間内には、様々な横方向から高周波が導入されるので、定在波が形成されにくいという利点がある。シャワープレートの誘電体本体7は、中央領域の実効的な誘電率が、周辺領域の実効的な誘電率よりも低い誘電体レンズとして機能する。上部電極5と下部電極6との間に発生する電界ベクトルは、外側に向けて傾斜する傾向がある。シャワープレートの誘電体本体7が誘電体レンズとして機能するため、面内における電界ベクトルを曲げて、電界ベクトルの向きと大きさを垂直方向に揃えることができる。
以下、詳説する。
図2は、シャワープレートの縦断面構成を示す図である。
シャワープレートは、ガス孔Hを有する板状の誘電体本体7と、誘電体本体7内に含まれた複数の密閉領域Pとを備えている。個々の密閉領域Pは、誘電体本体7よりも低い誘電率を有している。
密閉領域Pは、低誘電率領域であり、内部に固体が充填されていない場合は、気泡である。密閉領域Pが気泡の場合の室温(300K)における圧力は、1気圧又は1気圧よりも低い圧力である。気泡形成時の圧力が1気圧よりも低い場合、又は、気泡形成時の温度が室温よりも高い場合には、気泡の室温での圧力を1気圧よりも低くすることができる。εr0は真空の比誘電率、εrN2は窒素ガスの比誘電率、εrsio2は石英ガラス(SiO2)の比誘電率、εrAlNは窒化アルミニウム(AlN)の比誘電率、εrAl2O3はアルミナ(Al2O3)の比誘電率を示しているとする。この場合、VHF帯に対する室温の比誘電率(誘電率)は、εr0<εrN2<εrSio2<εrAlN<εrAl2O3の関係を満たしているので、適宜選択材料の選択を行う。密閉領域Pが、気泡としての窒素ガスからなる場合、誘電体本体7は、例えば、窒化アルミニウム又はアルミナから構成することができる。これらの材料は、誘電率が高く、熱耐性も高いという利点がある。
密閉領域Pが気泡からなる場合、好適には、密閉領域Pは窒素ガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含むことができる。誘電体本体7におけるガス孔Hなどの形成又は加工時において、密閉領域Pの誘電体材料が外部に露出しても、プラズマ特性に影響を与えない材料が好ましい。窒素ガス、アルゴンガスは、不活性度が高く、コンタミネーションとして機能しにくい材料なので、これらの材料を用いた場合には、さらに良質なプラズマを発生させることができる。
ここで、誘電体本体7のXY平面内における外周に近い領域を周辺領域とする。誘電体本体7のXY平面内における重心位置を中心とし、かかる中心の近傍領域を中央領域とする。具体的には、XY平面内の誘電体本体7の形状は円形であり、その半径をRとすると、中心からR/2の位置までに含まれる領域を中央領域とし、中心からR/2の位置からRの位置までに含まる領域を周辺領域とする。この場合、周辺領域においては少数の密閉領域Pが存在し、中央領域において多数の密閉領域Pが存在している。換言すれば、誘電体本体7の中央領域における密閉領域Pの体積密度は、誘電体本体7の周辺領域における密閉領域Pの体積密度よりも高い。なお、誘電体本体7の周辺領域の最外部分の下面は、高周波導入部9などの部材によって支持されているため、この支持された領域の直下においては、プラズマが発生しない。周辺領域の定義において、直下にプラズマが発生しない領域を除いたとしても、上記の密閉領域Pの体積密度の関係は変わらない。
誘電体の静電容量は、実効的な誘電率が低下すると小さくなる。誘電体本体7の中央領域においては、相対的に低い誘電率を有する密閉領域の体積密度が高いため、実効的な誘電率は低下する。したがって、誘電体本体7の厚み方向に離間した対向電極を備えるキャパシタを想定すると、中央領域の静電容量は、周辺領域の静電容量よりも小さくなる。高周波をシャワープレートの上部や周囲から導入してプラズマを発生させる場合、シャワープレートの中央領域においてプラズマ強度が高くなる傾向がある。中央領域の静電容量は周辺領域よりも、小さいので、プラズマ強度の増加が抑制され、プラズマの面内均一性が高くなる。
図2に示す板状の誘電体本体7は、平坦な一方面(Z軸のプラス側に位置するXY平面)と、平坦な他方面(Z軸のマイナス側に位置するXY平面)とを備えている。シャワープレートは、一方面上に固定された電極膜7Aを備えている。他方面はプラズマ生成領域側(図1の空間SP側)に位置している。電極膜7Aは、誘電体本体7に固定されているので、これらの間の隙間が、温度に依存して変化せず、また、隙間における放電が生じにくい。誘電体本体7が平坦な一方面及び他方面を備えているので、誘電体本体7の熱膨張時の歪みも少ない。したがって、この構造の場合、シャワープレートの静電容量が、温度によって変化しにくく、温度変化に伴うプラズマの均一性劣化を抑制することができる。
なお、ガス孔Hの形状は、深さ方向に沿って不変の直径を有する円筒形であるが、下方部の直径が、上方部の直径よりも小さい円筒形等であってもよい。
図3は、Z軸方向から見たシャワープレートの平面図である。
個々の密閉領域Pの重心の三次元位置をP(x,y,z)とし、ガス孔Hの重心のXY平面内の二次元位置をH(x,y)とする。誘電体本体内のガス孔Hの数は、密閉領域Pの数よりも少ない。なお、ガス孔Hは、Z軸方向に沿って誘電体本体7を貫通しているので、二次元位置H(x,y)にはZ軸の位置は示していない。誘電体本体7のXY平面内における中心位置をXY座標の原点とし、鉛直上方をZ軸方向の正方向とする。XY座標の原点を中心とする半径Rの円の方程式は(x2+y2=R2)である。この円の方程式が誘電体本体7の外縁の位置を示す。同図では、複数のガス孔Hは、異なる半径を有する複数の同心円上に配置されている。例えば、4つの半径(R1<R2<R3<R4)の円の方程式は、(x2+y2=R12、x2+y2=R22、x2+y2=R32、x2+y2=R42であり、ガス孔Hの位置H(x,y)は、これらの円の方程式の条件を満たしている。また、ガス孔Hは、原点を中心とする放射線上に配置されている。
密閉領域Pは、ガス孔Hとは異なる半径を有する複数の同心円上に配置されている。例えば、4つの半径(r1<r2<r3<r4)の円の方程式は、(x2+y2=r12、x2+y2=r22、x2+y2=r32、x2+y2=r42であり、密閉領域Pの二次元位置P(x,y)は、これらの円の方程式の条件を満たしている。なお、(r1<R1<r2<R2<r3<R3<r4<R4)であるとする。また、密閉領域Pは、原点を中心とする放射線上に配置されている。
密閉領域PのZ軸方向の重心位置zは、Z軸の負方向の位置であるが、密閉領域Pの大部分は、誘電体本体7のZ軸方向の厚みz0の半分z0/2よりも上側に位置している。換言すれば、全体の密閉領域Pの集合の重心位置ztotalは、0>ztotal>z0/2の関係を満たしている。換言すれば、全体集合の重心位置ztotalの誘電体本体7の上部表面(z=0)からの離間距離(|0-ztotal|)は、|z0/2|よりも小さい。
同図に示す例では、ガス孔Hの直径は、密閉領域Pの直径よりも大きい。複数のガス孔Hの直径は同一であり、複数の密閉領域Pの直径も同一である。同図に示す例では、中央領域においては、単位面積あたりのガス孔Hの数が、周辺領域よりも増加している。また、中央領域においては、単位面積あたりの密閉領域Pの数が、周辺領域よりも増加している。したがって、例え、複数の密閉領域Pの深さが、全て同一であったとしても、中央領域における実効的な誘電率は、周辺領域の実効的な誘電率よりも小さくなる。複数の密閉領域Pは、深さ方向に分散することができる。
ガスの流速の観点から考えると、本構造の場合は、中央領域におけるガス孔密度が、周辺領域よりも大きいので、中央領域から周辺領域に向けた放射状のガス流が生じる。プラズマ発生中において、処理ガスのガス孔Hへの供給を停止した場合には、ガス流は生じず、静的な状態で処理が進行する。処理容器内のガスを排気する場合、放射状のガス流を生じさせた場合には、内部の不要なガスがスムーズに排出されるという利点がある。
図12は、シャワープレートの平面図である(密閉領域の記載は省略している)。図12のように、ガス孔Hを正方格子の格子点上に配置する方法もある。同図では、周辺領域のエッジに近い箇所にはガス孔Hを配置していないが、エッジに近い位置まで、ガス孔Hを配置してもよい。図3のような放射状のガス流は生じないが、ガス導入圧力が面内で均一であれば、均一な分布で処理容器内にガスが導入されるという利点がある。なお、図12には、密閉領域Pは図示していないが、様々なタイプの密閉領域Pを図12の誘電体本体7に設けることができる。
図3に戻って、誘電率の観点について説明する。ガス孔H内は、固体が存在しない空間であり、誘電体本体7よりも誘電率は低い。したがって、XY平面内における単位面積当たりの実効的な誘電率は、ガス孔Hの二次元密度が増加するほど、低下する。中央領域におけるガス孔Hの二次元密度を増加させつつ、密閉領域Pの3次元密度も増加させれば、より少ない密閉領域Pの数で、所望の誘電率を実現することができる。
次に、密閉領域Pの更に詳細な構造について、説明する。
図4は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
個々の密閉領域Pの形状は、球である。「球」は、Z軸を含む断面(XZ断面)内においても、XY断面内においても、円形である。複数の密閉領域Pは、誘電体本体7内に分散している。中央領域における密閉領域PのZ軸方向の数は、周辺領域における密閉領域PのZ軸方向の数よりも多く、この数は、中心から離れるほど減少している。複数の密閉領域Pからなる密閉領域群としての集合体は、誘電体本体7の上側寄りに配置されている。すなわち、Z軸方向の最下部に位置する密閉領域Pは、下限位置であるz=zdownの位置よりも上方に位置している。なお、Z軸方向の最上部に位置する密閉領域Pは、上限位置であるz=zupの位置よりも下方に位置している。誘電体本体7のZ軸方向の厚みは、|z0|であり、下限位置|zdown|は、保護厚ΔZM=|z0-zdown|を満たすように設定される。複数の密閉領域Pの個々の重心位置の分布は、他方面側(下面側)よりも、電極膜側(上面側)へ偏っている。下面側は、プラズマ生成領域に接するが、密閉領域Pは上面側に偏っているので、密閉領域Pがプラズマに侵食されにくいという利点がある。
なお、保護厚ΔZMは、誘電体本体7の下面で発生するプラズマから、密閉領域Pを保護するために設けられる厚みである。経年使用により、プラズマが誘電体本体7の下面を削るため、保護厚ΔZMを設定している。保護厚ΔZMが薄すぎると保護機能が有効でなく、厚すぎると無駄な領域が増加する。かかる観点から、z1≦ΔZM≦z2であることが好ましい。好適なz1は|z0×5%|、|z0×10%|、|z0×15%|、又は、|z0×20%|である。好適なz2は|z0×50%|、|z0×45%|、|z0×40%|、又は、|z0×35%|である。
密閉領域Pの上限位置は、密閉領域Pが露出しないように設定される。上面はプラズマで削られるわけではないので、|zup|<ΔZMに設定される。
気体などの誘電率が低い材料は、屈折率も低く、アルミナや窒化アルミニウムなどの固体誘電体材料と比較すると、分子間結合が弱く、密度が低い傾向にある。このような材料は、容易に変形する。密閉領域Pは低誘電率材料からなるので、誘電体本体7の熱膨張により、内部に応力がかかり、変形が生じようとする。
そこで、複数の密閉領域P個々の重心位置は、電極膜側に位置する所定のXY平面(z=zcenter)に対して面対称に分布している。この場合、面対称であるため、熱応力に伴う変形の度合いがXY平面の上下において対称となり、全体の変形が抑制される。すなわち、誘電体本体7の変形が少ないため、熱に伴う容量変化が小さく、プラズマの面内均一性を更に高めることができる。なお、|zcenter|=|zup|+|zdown-zup|/2であり、|zcenter|<|z0/2|である。
誘電率分布は、誘電体本体の中央領域における密閉領域密度を増加させることで、実効的には、中央領域が厚い凸形状の誘電体板と等価なるように設定される。凸形状のZ軸を含む平面内における二次元関数は、ガウス関数等を用いることができる。一般に、キャパシタの静電容量Cは、C=εS/d(εは誘電率、Sはキャパシタ用電極の面積、dは対向電極間の距離)である。したがって、誘電体本体7の上下面にキャパシタ用の電極が存在すると仮定して、凸形状の場合は、中央領域における距離dが大きいので静電容量Cが小さくなる。例えば、上述の二次元関数はdの値に相当し場所によってCの計算の元となる1/dの値が変化することを表している。ここで、凸形状の誘電体板と等価となるように、誘電率εを1/dの代わりに変化させることで、フラットな形状でも凸形状の誘電体板と等価な効果が得られる。誘電体本体7と密閉領域Pの混合物の誘電率εは、Maxwell-Garnettモデルを用いて計算することができる。
図5は、密閉領域の水平断面形状(XY平面内の形状)を示す図である。
同図に示すように、密閉領域Pの水平断面形状は、円形(図5(A))、正六角形(図5(B))、正方形(図5(C))などとすることができる。多角形のうち、円形、正六角形、正方形は、回転対称性があり、様々な向きで配置された場合にも、均一性の高い誘電率分布を実現することができ、したがって、均一な分布のプラズマを形成しやすいという利点がある。
図6は、密閉領域の縦断面形状(XZ平面内の形状)を示す図である。
同図に示すように、密閉領域Pの縦断面形状は、円形(図6(A))、長円(図6(B))、長方形(図6(C))などとすることができる。密閉領域Pの縦方向の寸法が大きい形状(長円など)の場合は、複数の円形を連続させて重ねた形状と等価の作用効果を奏し、円(球)の場合と比較して、単位体積当たりの低誘電率材料の比率を高めることができる。また、円形又は長円の場合は、鋭利な角部がないため、角度への電界集中が生じにくく、電界に対する耐性が高くなるという利点がある。
図7は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
本例では、個々の密閉領域Pは、誘電体本体7の厚み方向に沿って延びた形状を有している(図6(B)参照)。中央領域の密閉領域PのZ軸方向長は、周辺領域と比較して長く、シャワープレートの厚み方向の静電容量を中央領域において、低下させている。低誘電率の密閉領域Pが厚み方向(縦方向)に延びている場合には、シャワープレートの誘電体本体7における上下面間の静電容量を十分に低下させることができる。
詳説すれば、個々の密閉領域Pの形状は、縦断面形状が長円であり、水平断面形状は例えば円であるが、その他の形状も可能である。複数の密閉領域Pは、誘電体本体7内に分散している。中央領域における密閉領域PのZ軸方向の長さは、周辺領域における密閉領域PのZ軸方向の長さよりも長く、この寸法は、中心から離れるほど減少している。複数の密閉領域Pからなる密閉領域群としての集合体は、誘電体本体7の上側寄りに配置されている。すなわち、Z軸方向の最下部に位置する密閉領域Pは、下限位置であるz=zdownの位置よりも上方に位置している。なお、Z軸方向の最上部に位置する密閉領域Pは、上限位置であるz=zupの位置よりも下方に位置している。誘電体本体7のZ軸方向の厚みは、|z0|であり、下限位置|zdown|は、保護厚ΔZM=|z0-zdown|を満たすように設定される。複数の密閉領域Pの重心位置の分布は、他方面側(下面側)よりも、電極膜側(上面側)へ偏っている。下面側は、プラズマ生成領域に接するが、密閉領域Pは上面側に偏っているので、密閉領域Pがプラズマに侵食されにくいという利点がある。
なお、保護厚ΔZMの設定範囲に関しては、すでに説明した場合と同じである。また、上面はプラズマで削られるわけではないので、|zup|<ΔZMに設定される。
熱膨張に伴う変形に関しては、複数の密閉領域Pの重心位置は、電極膜側に位置する所定のXY平面(z=zcenter)上に分布し、このXY平面によって分割される上下の密閉領域Pの形状は、XY平面に対して面対称に分布している。この場合、面対称であるため、熱応力に伴う変形の度合いがXY平面の上下において対称となり、全体の変形が抑制される。すなわち、誘電体本体7の変形が少ないため、熱に伴う容量変化が小さく、プラズマの面内均一性を更に高めることができる。なお、|zcenter|=|zup|+|zdown-zup|/2であり、|zcenter|<|z0/2|である。
図8は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
本例においては、図7における個々の密閉領域Pの縦断面形状を長方形としたものであり、その他の構成は、図7のものと同一である。なお、密閉領域Pの水平断面形状は例えば円であるが、その他の形状も可能である。複数の密閉領域Pは、誘電体本体7内に分散している。密閉領域Pの形状は、円柱又は多角形柱となるので、上下面の寸法制御を精密に行うことができるという利点がある。
図9は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
本例においては、図4における個々の密閉領域Pのうち、XY平面内において、中央領域に近いほど、径を大きくし、Z軸方向に整列した個数は一致させたものである。その他の構成は、図4のものと同一である。図9の変形例として、Z軸方向において、中心のXY平面(z=zcenter)に近いものほど径を大きくする構成が考えられる。いずれの場合も、zcenterを含むXY平面に対して、面対称に密閉領域Pが分布していることになる。
図10は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
本例においては、図4における密閉領域P全体の集合体が、下面側にシフトしたものであり、全体として凸型を構成するように分布している。かかる構成においても、水平方向の誘電率分布は制御することができる。
図11は、シャワープレートの誘電体本体の縦断面構成を示す図である。
本例においては、図10における密閉領域P全体の集合体を反転分布させたものである。かかる構成においても、水平方向の誘電率分布は制御することができる。
図13は、プラズマ処理装置のシステム構成図である。
プラズマ処理装置は、上述のシャワープレート(誘電体本体7及び上部電極膜7A)と、シャワープレートを収容する処理容器1と、処理容器1内にプラズマ発生用の高周波を導入する高周波発生器13とを備えている。高周波発生器13から処理容器1内に高周波が導入されると、処理容器1内部においてプラズマが発生する。シャワープレートのガス孔からは処理ガスが処理容器1内に供給できるので、処理ガスのプラズマを生成し、処理対象物にプラズマ処理を施すことができる。
本例における好適な高周波の周波数は、130MHz~220MHzである。この周波数範囲は、超短波(VHF)帯に含まれる。VHF帯とは、30MHz~300MHz程度の範囲の周波数である。このような条件の場合、一般的な直径330mm程度のシャワープレートの場合には、高周波の半波長がシャワープレートの直径に近いか、シャワープレートの直径よりも小さくなるので、定在波が立ちやすくなる。したがって、定在波に起因してプラズマの面内均一性の悪化が生じる傾向にあるが、このような場合においては、複数の密閉領域Pによるレンズ効果が明確に発揮される。
好適な周波数について補足説明をする。例えば、誘電体本体を構成するAl2O3の比誘電率を9とすると、波長短縮率は1/√9=1/3となり、130MHzの波長は、真空中の波長の1/3になる。よって、Al2O3中の波長は2.3m×1/3=0.77mとなる。これの半波長は0.385m=385mmであり、シャワープレートの直径である330mmに近い値となる。このような場合において、密閉領域Pの分散は、より効果を発揮する。なお、誘電体本体7の材料としては、Al2O3、AlN又はY2O3などを用いることができる。また、シャワープレートの誘電正接は小さいほど好ましく、密閉領域Pが気泡の場合は、基本的には損失が無いという利点がある。密閉領域P用の粉末材料として高分子複合粉末を用いることも可能と考えられる。
処理対象物としての基板は例えばウェハであり、ステージLS(図1参照)上に載せられる。このステージLSは、駆動機構DRVによって上下方向に移動させることができる。これにより、ステージLS上に配置される処理対象の基板W(ウェハ)とプラズマとの距離を最適な条件に設定することができる。換言すれば、ステージLSの位置を移動させることで、プラズマの分布状態を変化させることができるので、最も均一で安定してプラズマが発生するようにステージを移動させることで、プラズマの面内均一性を高めることができる。
温度調節装置TEMPは、冷却媒体を流すための媒体通路と、発熱体(ヒータ)と、温度センサとを含んでいる。コントローラ12によって、ステージLS(図1参照)が目的の温度となるように制御される。例えば、目標温度がT1℃の場合、温度センサの出力がT1℃よりも小さければ、ヒータを加熱し、T1℃よりも高ければ、ヒータを加熱しないで、冷却媒体を媒体通路に流すように、制御すればよい。ここで、温度調節装置TEMPとしての発熱体は、ステージLS(図1参照)内に埋設されていることが好ましく、高融点金属や、カーボンなどの材料から構成することができる。なお、発熱体には、給電用の配線を接続する。
コントローラ12は、排気装置14も制御している。排気装置14は、処理容器1内のガスを、排気通路4(図1参照)を介して外部に排気する。これにより、プラズマ発生空間SP(図1参照)内のガスを排気することができ、この空間における圧力を適切な値に設定することができる。この圧力は、処理内容に応じて変更すればよいが、例えば、0.1Paから100Paとすることができる。排気装置14としては、ロータリポンプ、イオンポンプ、クライオスタット、ターボ分子ポンプなど真空系の装置で通常用いられるポンプを採用することができる。
コントローラ12は、ガス源10から発生したガスの流量を制御する流量コントローラ11を制御している。流量コントローラ11は、単なるバルブであってもよい。これにより、目的のガスを、処理容器1内に導入することができる。また、コントローラ12は、高周波発生器13も制御している。高周波の周波数は、本例では、好適にはVHF帯(30MHz~300MHz程度)であるが、その他の周波数帯域を用いることもできる。
ガス源10に使用できるガスとしては、Ar等の希ガスの他、CF4,C4F8などの炭素及びフッ素を含むガス、SiH4、N2,O2などのガスなどが、一例として挙げられる。処理ガスの種類に応じて、膜堆積の他、エッチングなどのプラズマ処理を行うことができる。VHF帯を用いた上述の形態を用いると、窒化シリコン(SiH4と窒素のプラズマ又はNH3のプラズマを適用させて形成する)の他、SiO2(SiH4と酸素プラズマを適用させて形成する)などの膜質が著しく向上すると考えられる。ガスの導入方法は、様々なものが考えられる。例えば、上部電極5(図1参照)にZ軸方向に沿った貫通孔を形成し、シャワープレートへのガス導入路とすることができる。シャワープレートは、ガス濃度の面内均一性を高めることができる。
上部電極膜7A、上部電極5(図1参照)及び下部電極6の材料としては、アルミニウムを用いることができる。ステージLSの材料としては、セラミックスを用いることができる。セラミックスの材料は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)である。AlNは、耐熱性が高く、プラズマに対して耐性が高いという利点がある。導波路2(図1参照)内には、石英などの誘電体を埋め込むがことができるが、高周波を伝搬できるものであれば、空気や窒素等の気体でもよい。
ステージLS(図1参照)上に配置される基板としては、シリコンなどを用いることができ、この基板に対して、成膜やエッチングなどの処理を行うことができる。また、必要に応じて、静電チャックを設けたり、下部電極6にイオンを引き込むための直流バイアス電位を加算したり、場合によっては、高周波電位を下部電極6に印加する構成も考えられる。また、処理容器1の周囲に磁石を配置する構成も考えられる。
図14は、下部誘電体(ステージ用誘電体レンズ)を備えたステージの縦断面構成を示す図である。
下部誘電体は、板状の誘電体本体8と、誘電体本体8内に含まれた複数の密閉領域Pとを備えている。個々の密閉領域Pは、誘電体本体8よりも低い誘電率を有している。誘電体本体8の中央領域における密閉領域Pの体積密度は、誘電体本体8の周辺領域における密閉領域Pの体積密度よりも高い。下部誘電体の構造は、溶射した電極膜を備えていない点を除いて、上述のシャワープレートの構造と同一であり、上述の説明における誘電体本体7を誘電体本体8に読み替えることができる。
シャワープレートの場合と同様に、下部誘電体においても、誘電体本体8の中央領域においては、相対的に低い誘電率を有する密閉領域Pの体積密度が高いため、実効的な誘電率は低下する。したがって、下部誘電体における中央領域の静電容量は、周辺領域の静電容量よりも小さくなる。換言すれば、下部誘電体は、高周波プラズマによる電界を補正する誘電体レンズとして機能している。高周波を処理容器の周囲から導入してプラズマを発生させる場合、中央領域においてプラズマ強度が高くなる傾向があるが、中央領域の静電容量は周辺領域よりも、小さいので、プラズマ強度の増加が抑制され、プラズマの面内均一性が高くなる。
なお、上述の誘電体本体又は下部誘電体は、セラミック粉末を焼結して製造することができる。セラミック粉末は、3Dプリンタを用いて、自在の形状に加工することができる。一般には、水又は有機溶剤等の液体にセラミック粉末を含有させ、3Dプリンタのノズルの先端から射出すると、射出位置にセラミック粉末が位置する。全体形状を成形した後、焼結を行うこともできるが、セラミック材料を射出しながらレーザビーム又は電子ビームを用いて加熱を行うことで、焼結を行うことができる。
なお、造形技術としては、パウダーべッド方式(PBF)、デポジション方式(DED)、バインダージェッティング方式などが知られている。