実施例1における無段変速機の変速制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「変速制御装置のシステム構成」、「フレキシブルマニュアル変速制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例1の変速制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
エンジン1は、ドライバのアクセル操作による出力トルクの制御(通常制御)以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1には、変速機との協調制御によりトルクダウン制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。なお、トルクダウン制御では、エンジン1の点火時期リタード制御やスロットルバルブ閉制御などによりエンジントルクが上限トルクを上回らないように制限する。
トルクコンバータ2は、トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジなどの前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジなどの後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることで、いずれも解放される。
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機構である。
プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。
セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。
プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面に掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギア機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギア52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギア53及びリダクションギア54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギア55と、を有する。そして、差動ギア機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギア56を有する。
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御系である油圧制御ユニット7と、電子制御系であるCVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9とを備えている。なお、CVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9は、CAN通信線13により情報交換可能に接続されている。
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、などを調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、エンジン1により回転駆動されるメカオイルポンプと電動モータにより回転駆動される電動オイルポンプとの少なくとも一方による油圧源70と、油圧源70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。
油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力されるソレノイド指令値によって各指令圧に調圧する。
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、油圧源70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。他のソレノイド弁73,74,75,76は、ライン圧PLを元圧として指令された油圧に減圧調整する。
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御などを行う。ライン圧制御では、アクセル開度APOなどに応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを制御する指令値をロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、セカンダリ回転センサ82、油温センサ83、インヒビタスイッチ84、ブレーキスイッチ85、タービン回転センサ86からの情報が入力される。さらに、変速モード選択スイッチ87、シフト操作スイッチ88などからの情報が入力される。エンジンコントロールユニット9には、アクセル開度センサ90、エンジン回転センサ91などからの情報が入力される。
[変速制御装置のシステム構成]
図2は、エンジン車に適用されたベルト式無段変速機CVTの変速制御装置を示す。以下、図2~図4に基づいて変速制御装置のシステム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ベルト式無段変速機CVT(トルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4、終減速機構5)と、駆動輪6と、を備えている。
ベルト式無段変速機CVTのトルクコンバータ2は、締結によりエンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結するロックアップクラッチ20を有する。前後進切替機構3は、前進走行レンジ(Dレンジ、Lレンジなど)の選択により締結される前進クラッチ31と、後退走行レンジ(Rレンジ)の選択により締結される後退ブレーキ32と、を並列に有する。バリエータ4(無段変速機構)は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有する。
変速制御装置の油圧制御系は、図2に示すように、油圧源70と、油圧制御回路71と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、を備えている。
プライマリ圧ソレノイド弁73は、変速油圧制御時、油圧制御回路71において、油圧源70からの吐出圧に基づいて調圧されたライン圧を元圧とし、CVTコントロールユニット8からのプライマリ圧制御指令によりプライマリ圧Ppriを調圧する。そして、調圧されたプライマリ圧Ppriは、バリエータ4に有するプライマリプーリ42のプライマリ圧室45に導かれる。
セカンダリ圧ソレノイド弁74は、変速油圧制御時、油圧制御回路71において、油圧源70からの吐出圧に基づいて調圧されたライン圧を元圧とし、CVTコントロールユニット8からのセカンダリ圧制御指令によりセカンダリ圧Psecを調圧する。そして、調圧されたセカンダリ圧Psecは、バリエータ4に有するセカンダリプーリ43のセカンダリ圧室46に導かれる。
変速制御装置の電子制御系は、図2に示すように、CVTコントロールユニット8を備え、CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、インヒビタスイッチ84、変速モード選択スイッチ87、シフト操作スイッチ88、アクセル開度センサ90などからの情報が入力される。
ここで、プライマリ回転センサ80は、プライマリプーリ42の実プライマリ回転数Npriを検出する。車速センサ81は、車速VSPを検出する。インヒビタスイッチ84は、ドライバが選択しているレンジ位置(Rレンジ、Nレンジ、Pレンジ、Dレンジ、Lレンジなど)を検出する。アクセル開度センサ90は、アクセル開度APO(ドライバによるアクセル操作量)を検出し、CAN通信線13を介してCVTコントロールユニット8へアクセル開度APOの情報を供給する。
変速モード選択スイッチ87は、ドライバ操作により「無段変速モード」と「マニュアル変速モード」との何れかの変速モードを選択するスイッチであり、無段変速モード選択信号とマニュアル変速モード選択信号を出力する。
シフト操作スイッチ88は、「マニュアル変速モード」を選択している場合、シフトアップを意図するドライバ操作によりシフトアップ要求信号を出力し、シフトダウンを意図するドライバ操作によりシフトダウン要求信号を出力する。なお、ドライバ操作とは、例えば、アップシフト/ダウンシフトの操作レバーに対するレバー操作、或いは、アップシフト/ダウンシフトの操作ボタンに対するボタン操作、或いは、アップシフト/ダウンシフトのシーソースイッチに対するスイッチ操作などをいう。
CVTコントロールユニット8は、図2に示すように、ベルト式無段変速機CVTのバリエータ4による変速制御機能を分担する変速コントローラ800を備える。変速コントローラ800は、変速モード選択部801と、無段変速制御部802と、フレキシブルマニュアル変速制御部803と、ソレノイド指令出力部804と、を有する。
変速モード選択部801は、インヒビタスイッチ84と変速モード選択スイッチ87からのスイッチ信号を入力する。そして、Dレンジであって、かつ、「無段変速モード」であるとき、無段変速制御部802による無段変速制御処理を選択する。一方、Dレンジであって、かつ、「マニュアル変速モード」であるとき、フレキシブルマニュアル変速制御部803によるマニュアル変速制御処理を選択する。
無段変速制御部802は、「無段変速モード」の選択時、図3に示すDレンジ無段変速マップM1を用い、運転点(VSP,APO)のマップ位置に基づいて無段階に変速比を変更する無段変速制御処理を実行する。無段変速制御部802からソレノイド指令出力部804へは、無段変速制御処理結果として目標プライマリ回転数Npri(C)*を出力する。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択時、図4に示すマニュアル変速マップM2を用い、運転点(VSP,APO)のマップ位置とドライバによるシフト要求操作とに基づいてマニュアル変速制御処理を実行する。フレキシブルマニュアル変速制御部803からソレノイド指令出力部804へは、ドライバによるシフト要求操作と車両の運転状態に基づいて、マニュアル変速制御処理結果として実プライマリ回転数Npriに対して所定の回転段差ΔNupを有する目標プライマリ回転数Npri(M)*を出力する。ここで、“フレキシブルマニュアル変速制御部803”としたのは、マニュアル変速マップM2が固定変速比線を有さず、運転状況に応じて無数の固定変速比線を引くことができる柔軟性が高い制御則によるマニュアル変速制御部であることによる。例えば、ドライバによるアップシフト要求操作があれば、実プライマリ回転数Npriにアップシフトで低下させる入力回転数の回転段差ΔNupを引いた目標プライマリ回転数Npri(C)*を設定し、アップシフトを行う。また、ドライバによるダウンシフト要求操作があれば、実プライマリ回転数Npriにダウンシフトで上昇させる入力回転数の回転段差ΔNdwnを加えた目標プライマリ回転数Npri(C)*を設定し、ダウンシフトを行う。
ソレノイド指令出力部804は、「無段変速モード」の選択時、無段変速制御部802から目標プライマリ回転数Npri(C)*を入力する。そして、実プライマリ回転数Npriを目標プライマリ回転数Npri(C)*へ収束させるプライマリ圧制御指令とセカンダリ圧制御指令を演算する。一方、「マニュアル変速モード」の選択時、フレキシブルマニュアル変速制御部803から目標プライマリ回転数Npri(M)*を入力する。そして、実プライマリ回転数Npriを目標プライマリ回転数Npri(M)*へ収束させるプライマリ圧制御指令とセカンダリ圧制御指令を演算する。演算されたプライマリ圧制御指令はプライマリ圧ソレノイド弁73へ出力し、セカンダリ圧制御指令はセカンダリ圧ソレノイド弁74へ出力する。
次に、無段変速制御部802の詳細を説明する。図3は、Dレンジでの無段変速モード選択時に無段変速制御部にて用いられるDレンジ無段変速マップM1の一例を示す。Dレンジ無段変速マップM1は、縦軸を目標プライマリ回転数Npri*とし横軸を車速VSPとする二次元座標面に、最ロー変速比線と最ハイ変速比線とコースト変速比線が書き込まれた変速マップである。なお、前進走行中であって、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ20と前後進切替機構3の前進クラッチ31が締結状態であるときは、バリエータ4への入力回転数である実プライマリ回転数Npriはそのままエンジン回転数Neになる。
Dレンジ無段変速マップM1を用いる無段変速制御は、最ロー変速比線と最ハイ変速比線とコースト変速比線とで囲まれるハッチング領域内で、運転点(VSP,APO)の位置に応じて目標プライマリ回転数Npri*を決めることで実行される。なお、変速比は、Dレンジ無段変速マップM1の最ロー変速比線や最ハイ変速比線から明らかなように、ゼロ運転点から引かれる固定変速比線(=等変速比線)の傾きであらわされる。なお、運転点(VSP,APO)のマップ位置により目標プライマリ回転数Npri*を決めることは、実セカンダリ回転数Nsec(=車速VSP)との関係からバリエータ4の目標変速比を決めることに等しい。
例えば、車速VSPが一定のとき、アクセル踏み込み操作を行うとアクセル開度APOの上昇により目標プライマリ回転数Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速する。例えば、車速VSPが一定のとき、アクセル踏み戻し操作を行うとアクセル開度APOの低下により目標プライマリ回転数Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。例えば、アクセル開度APOが一定のとき、車速VSPが上昇すると最ハイ変速比線に向かいアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下すると最ロー変速比線に向かいダウンシフト方向に変速する。
次に、フレキシブルマニュアル変速制御部803の詳細を説明する。図4は、マニュアル変速モード選択時にフレキシブルマニュアル変速制御部803にて用いられるマニュアル変速マップM2の一例を示す。マニュアル変速マップM2は、縦軸を目標プライマリ回転数Npri*とし横軸を車速VSPとする二次元座標面に、最ロー変速比線と最ハイ変速比線と最低回転数線とアップシフト上限回転数線とダウンシフト上限回転数線が書き込まれた変速マップである。即ち、マニュアル変速マップであるにもかかわらず固定変速比線を有さず、無数の固定変速比線を描くことができる点を最大の特徴とする。そして、マニュアル変速マップM2での運転点(VSP,APO)のマップ位置とドライバによるシフト操作とに基づいて変速比制御を行う。
ここで、最低回転数線は、バリエータ4への入力回転数(=実プライマリ回転数Npri=エンジン回転数Ne)として、エンジンストールを防止するために維持しておく必要がある最低回転数を規定する回転数線である。このため、マニュアル変速マップM2にて運転点(VSP,APO)が最低回転数線に移行すると、フレキシブルマニュアル変速制御部803は、車速VSPの変化に応じたバリエータ4の無段変速制御により入力回転数の最低回転数を維持する。
マニュアル変速マップM2のアップシフト上限回転数線は、ドライバ操作によるシフトアップ要求があったとき、バリエータ4の最大入力回転数を規定する回転数線である。マニュアル変速マップM2のダウンシフト上限回転数線は、ドライバ操作によるシフトダウン要求があったとき、バリエータ4の最大入力回転数を規定する回転数線である。このため、フレキシブルマニュアル変速制御部803によるアップシフト制御での上限回転数は、アップシフト上限回転数により制限され、ダウンシフト制御での上限回転数は、ダウンシフト上限回転数により制限される。そして、アップシフト/ダウンシフトが頻繁に繰り返されるのを防止するビジーシフト対策のため、アップシフト上限回転数線を、ダウンシフト上限回転数線より高い変速機入力回転数域に設定するという回転数ヒステリシスを持たせている。
例えば、「マニュアル変速モード」の選択中に図4の運転点Aにてアクセル足離し操作をしたとき、運転点Aにより決まる固定変速比線に沿ってコースト減速し、コースト減速によって図4の運転点Bにて最低回転数線に到達したとする。この場合、運転点Bからは最低回転数を維持するように固定変速比制御からダウンシフト方向の無段変速制御へと移行する。そして、無段変速中の運転点Cにてドライバによりアクセル踏み込み操作が行われたら、アクセル踏み込み操作時点の変速比(運転点Cにより決まる固定変速比)を維持する制御が実行される。
即ち、最低回転数を維持する無段変速中にアクセル踏み込み操作が行われたら、無段変速制御からアクセル踏み込み操作タイミングでの運転点(VSP,APO)により決まる固定変速比制御へ移行する。言い換えると、アクセル踏み込み操作タイミングでの運転点(VSP,APO)がどの位置であろうと、運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線が描かれることになる。同様に、「マニュアル変速モード」の選択中におけるアップシフト時においては、入力回転数が所定のアップシフト量だけ低下したときのアップシフト終了時点の運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線が描かれる。また、「マニュアル変速モード」の選択中におけるダウンシフト時においては、入力回転数が所定のダウンシフト量だけ上昇したときのダウンシフト終了時点の運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線が描かれる。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行中、ドライバによるシフトアップ要求操作がある場合、車両加速度Xgが大きいほどアップシフトで低下させる入力回転数の回転段差ΔNupを大きな値に設定する。
ここで、「ドライブ走行」とは、アクセル踏み込み操作により走行抵抗に打ち勝つ走行用駆動源からの駆動力を駆動輪に伝達しながら走行する駆動走行をいう。なお、「コースト走行」とは、アクセル足離し操作により駆動輪が駆動系負荷抵抗を受けながら車両慣性にしたがって走行する惰性走行をいう。つまり、車両の走行態様は、ドライバによるアクセル操作の有無によって、変速制御での取り扱いが異なる2つの走行態様(ドライブ走行とコースト走行)に分けられる。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、ドライバによるシフトアップ要求操作が連続的にある場合、シフトアップ要求操作がある毎に車両加速度Xgの大きさに応じた回転段差ΔNupを算出し、前記回転段差をアップシフト量として入力回転数を低下させるアップシフト制御を実行する。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、アップシフト制御が終了すると、アップシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があると、セレクト操作をシフトダウン要求操作とみなす。そして、シフトダウン要求操作に基づいて、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させるダウンシフト制御を実行する。
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、ドライバによるシフトダウン要求操作に基づくダウンシフト制御が終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する。
[フレキシブルマニュアル変速制御処理構成]
図5は、変速コントローラ800のフレキシブルマニュアル変速制御部803においてドライブ走行中に実行されるフレキシブルマニュアル変速制御処理の流れを示す。以下、図5の各ステップについて説明する。なお、図5のフレキシブルマニュアル変速制御処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、スタートに続いて、ドライバのアクセル踏み込み操作によるドライブ走行中であるか否かを判断する。YES(ドライブ走行中)の場合はステップS2へ進み、NO(コースト走行中)の場合はエンドへ進む。
ここで、ドライブ走行の判定は、走行中、アクセル開度センサ90からのアクセル開度センサ値が、アクセル開度APO=0からアクセル開度APO>0に切り替わったことで判定する。そして、アクセル開度APO>0を維持している間は、ドライブ走行の判定(ドライブ判定)が維持される。
ステップS2では、S1でのドライブ走行中であるとの判断に続き、変速モードとして「マニュアル変速モード」を選択しているか否かを判断する。YES(「マニュアル変速モード」の選択)の場合はステップS7へ進み、NO(「無段変速モード」を選択)の場合はステップS3へ進む。
ステップS3では、S2での「無段変速モード」を選択しているとの判断に続き、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があったか否かを判断する。YES(セレクト操作有り)の場合はステップS4へ進み、NO(セレクト操作無し)の場合はエンドへ進む。
ステップS4では、S3でのセレクト操作有りとの判断、或いは、S12でのシフトダウン要求操作有りとの判断に続き、「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御を実行し、ステップS5へ進む。
ここで、「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があると、セレクト操作をシフトダウン要求操作とみなす。なお、「マニュアル変速モード」へのドライバ操作によるシフトダウン要求は通常のシフトダウン要求操作であり、セレクト操作は、通常のシフトダウン要求操作の例外としてみなされるシフトダウン要求操作である。
「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御は、何れかのシフトダウン要求操作に基づいて、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させる制御である。なお、入力回転数を上昇させるダウンシフト量である回転段差ΔNdwnは、ダウンシフト制御の実行により有段ダウンシフト感を演出できる値に設定するもので、予め設定した固定値で与えても良いし、変速比や車速等に応じた可変値で与えても良い。
ステップS5では、S4での「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御実行に続き、実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNdwnを加えた回転数上昇終点に到達したか否かを判断する。YES(回転数上昇終点に到達)の場合はステップS6へ進み、NO(回転数上昇終点に未到達)の場合はステップS5の判断を繰り返す。
ステップS6では、S5での回転数上昇終点に到達との判断に続き、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御を実行し、エンドへ進む。
ステップS7では、S2での「マニュアル変速モード」を選択しているとの判断に続き、ドライバによるシフトアップ要求操作があるか否かを判断する。YES(シフトアップ要求操作有り)の場合はステップS8へ進み、NO(シフトアップ要求操作無し)の場合はステップS12へ進む。
ステップS8では、S7でのシフトアップ要求操作有りとの判断に続き、シフトアップ要求操作時の車両加速度Xg(センサ値、又は、推定値)に基づいて回転段差ΔNupを算出し、ステップS9へ進む。
ここで、「車両加速度Xg」は、車両前後方向に作用する車両前後加速度(「加速G」と呼ばれる。)の値である。車両前後加速度を検出可能なGセンサをシステムに備えている場合には、Gセンサからのセンサ値により車両加速度Xgの情報を取得する。また、実施例1のように、車速センサ81をシステムに備えている場合には、単位時間当たりの車速VSPの上昇変化量を求める微分演算により車両加速度Xgの情報を取得する。
「回転段差ΔNup」は、アップシフト制御でバリエータ4の入力回転数を一気に低下させることによる回転数変動と、これに伴う車両の前後加速度変動により有段アップシフト感を演出する値であって、車両加速度Xgが大きいほど大きな値を算出する。つまり、アップシフト量である回転段差ΔNupが大きい値であるほど有段アップシフト感の演出効果が高くなる。このため、少なくとも車両加速度Xgが大きいときは有段アップシフト感の演出効果が高い回転段差ΔNupの値を算出し、車両加速度Xgが小さいときは有段アップシフト感の演出効果を抑えた回転段差ΔNupの値を算出する。なお、回転段差ΔNupは、車両加速度Xgの大きさに比例して無段階に大きくなる値を算出しても良い。また、車両加速度Xgの大きさによって複数段階の加速度領域に分けたとき、小加速度領域から大加速度領域に向かって段階的に大きくなる値を算出しても良い。
ステップS9では、S8での車両加速度Xgに基づく回転段差ΔNupの算出に続き、算出された回転段差ΔNupをアップシフト量として入力回転数を低下させる「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御を実行し、ステップS10へ進む。
ステップS10では、S9での「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御実行に続き、実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNupを差し引いた回転数低下終点に到達したか否かを判断する。YES(回転数低下終点に到達)の場合はステップS11へ進み、NO(回転数低下終点に未到達)の場合はステップS10の判断を繰り返す。
ステップS11では、S10での回転数低下終点に到達との判断に続き、ゼロ運転点と回転数低下終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御を実行し、エンドへ進む。
ステップS12では、S7でのシフトアップ要求操作無しとの判断に続き、ドライバによるシフトダウン要求操作があるか否かを判断する。YES(シフトダウン要求操作有り)の場合はステップS4へ進み、NO(シフトダウン要求操作無し)の場合はエンドへ進む。
次に、「背景技術と課題解決対策」を説明する。そして、実施例1の作用を、「フレキシブルマニュアル変速制御処理作用」、「ドライブ走行中の加速アップシフト作用」を説明する。
[背景技術と課題解決対策]
背景技術の「マニュアル変速モード」において用いられるマニュアル有段変速マップは、例えば、図6に示すように、固定変速比線による複数のマニュアル変速段(例えば、M1速段~M5速段)を有する変速マップを用いる。そして、ドライバのシフト操作(レバー操作やスイッチ操作など)によりシフトアップ要求があると、その時に選択されているマニュアル変速段から1つの上のマニュアル変速段を選択する。また、ドライバのシフト操作によりシフトダウン要求があると、その時に選択されているマニュアル変速段から1つの下のマニュアル変速段を選択する。
例えば、M2速段が選択されていて運転点がD点であるとき、シフトアップ要求のドライバ操作があると、運転点がD点からE点へと移行してM3速段が選択される。一方、M4速段が選択されていて運転点がF点であるとき、シフトダウン要求のドライバ操作があると、運転点がF点からG点へと移行してM3速段が選択される。
この背景技術において、図7に示すように、「マニュアル変速モード」でのドライブ走行中にドライバが加速を意図して2回のシフトアップ要求操作を行った場合を例にとる。
例えば、「マニュアル変速モード」であってM2速段を選択してのドライブ走行中に図7の運転点J1にてアクセル踏み込み操作をしたとき、アクセル開度APOの上昇に伴いM2速段の固定変速比線に沿って車速VSPが上昇して加速する。
そして、M2速段の固定変速比線上の運転点J2に到達したタイミングでドライバが1回目のシフトアップ要求操作を行うと、M2速段の固定変速比線とM3速段の固定変速比線により決められる回転段差だけ目標プライマリ回転数Npri*が低下する。この目標プライマリ回転数Npri*の低下により運転点J3に到達すると、アクセル開度APOの上昇に伴いM3速段の固定変速比線に沿って車速VSPが上昇して加速する。
そして、M3速段の固定変速比線上の運転点J4に到達したタイミングでドライバが2回目のシフトアップ要求操作を行うと、M3速段の固定変速比線とM4速段の固定変速比線により決められる回転段差だけ目標プライマリ回転数Npri*が低下する。この目標プライマリ回転数Npri*の低下により運転点J5に到達すると、アクセル開度APOの上昇に伴いM4速段の固定変速比線に沿って車速VSPが上昇して加速する。
このように、背景技術では、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行中にドライバによるシフトアップ要求操作を行うと、予め設定されている固定変速比線により決まる回転段差をアップシフト量とする。そして、シフトアップ要求操作を行う毎に変速機の入力回転数を、固定変速比線により決まる回転段差分だけ低下させるマニュアルアップシフトが実行される。
このため、ドライブ走行中のシフトアップ要求操作に基づくマニュアルアップシフト制御は、そのときの車両加速度の大小にかかわらず、固定変速比線の設定により一義的に決まる回転段差を与える制御になる。例えば、図7に示すように、車両加速度が大きくなる加速開始域の運転点J2で1回目のシフトアップ要求操作が行われた場合、運転点J2から運転点J3まで回転段差により有段アップシフト感を演出する。その後、ドライバが意図している車速への収束により車両加速度が小さくなる加速終了域の運転点J4で2回目のシフトアップ要求操作が行われた場合、運転点J4から運転点J5まで回転段差により有段アップシフト感を演出する。加えて、固定変速比線の間隔を等変速比幅に設定すると、車速VSPが高いほど回転段差が大きくなる。
よって、背景技術では、アクセル踏み込み操作によるドライブ加速走行中、車両加速度が大きくなる1回目アップシフトのときと車両加速度が小さくなる2回目アップシフトのときとで有段アップシフト感の演出が殆ど変わらない。或いは、1回目アップシフトのときより2回目アップシフトのときの方が有段アップシフト感の演出が少し高くなる。このため、ドライバが大きな加速度感を受けるときに適切な有段アップシフト感となる回転段差の設定であると、ドライバが小さな加速度感を受けるときには有段アップシフト感が過大になる。逆に、ドライバが小さな加速度感を受けるときに適切な有段アップシフト感となる回転段差の設定であると、ドライバが大きな加速度感を受けるときには有段アップシフト感が不足する。この結果、加速度感の大きさ応じた有段アップシフト感を得たいというドライバの期待と実際のアップシフトによる有段アップシフト感にずれが生じ、ドライバに違和感を与える、という課題があった。
本発明者等は、上記課題を解決するため、ドライブ走行中における加速度感と有段アップシフト感とは、何れも車両前後方向に作用する力をドライバが体感するものである点で共通することを見出した。そこで、加速度感を演出する「車両加速度(加速G)」と有段アップシフト感を演出する「回転段差」とをリンクさせると、ドライバが受ける加速度感と有段アップシフト感との一致性を高めることができる点に着目した。この着目に基づいて、ベルト式無段変速機CVTの変速制御装置は、エンジン1から駆動輪6までの駆動系にバリエータ4を搭載し、バリエータ4の変速比を制御する変速コントローラ800を備える。変速コントローラ800は、「マニュアル変速モード」を選択すると、固定変速比線を有しないマニュアル変速マップM2を用い、運転点(VSP,APO)のマップ位置とドライバによるシフト要求操作とに基づいて変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部803を有する。フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行中、ドライバによるシフトアップ要求操作がある場合、車両加速度Xgが大きいほどアップシフトで低下させる入力回転数の回転段差ΔNupを大きな値に設定する課題解決対策を採用した。
即ち、「マニュアル変速モード」の選択時に固定変速比線を有しないマニュアル変速マップM2を用いる場合、固定変速比線に拘束されることなく、アップシフトで低下させる入力回転数の回転段差を柔軟に設定できる。フレキシブルマニュアル変速制御部803では、この回転段差を設定する際の柔軟性を活用し、ドライブ走行中にドライバによるシフトアップ要求操作に対する回転段差ΔNupを、車両加速度Xgに応じた可変値に設定している。
よって、例えば、車両加速度Xgが大きなドライブ走行中にドライバによるシフトアップ要求操作があると、回転段差ΔNupが大きな値に設定される。このため、設定された回転段差ΔNup分を低下させるシフトアップの実行により、ドライバが受ける大きな加速感に負けることがないレベルまで有段アップシフト感の演出効果が高められることになる。
例えば、車両加速度Xgが小さなドライブ走行中にドライバによるシフトアップ要求操作があると、回転段差ΔNupが小さな値に設定される。このため、設定された回転段差ΔNup分を低下させるシフトアップの実行により、ドライバが受ける小さな加速感に合わせたレベルまで有段アップシフト感の演出効果が抑えられることになる。
このように、ドライブ走行シーンにおいて、1回だけシフトアップ要求操作を行った場合、そのときの加速度感の大きさに応じた有段アップシフト感を演出することができる。また、シフトアップ要求操作を連続して行った場合、そのときの加速度感の変化に応じて変化する有段アップシフト感を演出することができる。このため、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、加速度感の大きさに応じた有段アップシフト感を演出することによりドライバに与える違和感を低減することができる。
[フレキシブルマニュアル変速制御処理作用]
フレキシブルマニュアル変速制御部803において、ドライブ走行中に実行されるフレキシブルマニュアル変速制御処理作用を、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、アクセル踏み込み操作によるドライブ走行中、「無段変速モード」が選択されていると、S1→S2→S3→エンドへと進む。この場合、図3に示すDレンジ無段変速マップM1を用いる「無段変速モード」でのバリエータ4の変速比制御が実行される。
「無段変速モード」が選択されているとき、「マニュアル変速モード」を選択するドライバのセレクト操作が行われると、S1→S2→S3→S4→S5へと進む。S4では、ドライバのセレクト操作をシフトダウン要求操作とみなし、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させる「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S5では、実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNdwnを加えた回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
S5において、回転数上昇終点に到達したと判断されると、S5からS6→エンドへと進む。S6では、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御が実行される。
次に、アクセル踏み込み操作によるドライブ走行中、「無段変速モード」からの切替えにより「マニュアル変速モード」が選択されると、ドライバによるシフトアップ要求操作が無い間は、S1→S2→S7→S12→エンドへと進む流れが繰り返される。そして、ドライバがシフトアップ要求操作を行うと、S1→S2→S7→S8→S9→S10へと進む。S8では、シフトアップ要求操作時の車両加速度Xg(センサ値、又は、推定値)に基づいて車両加速度Xgが大きいほど大きな値による回転段差ΔNupが算出される。S9では、算出された回転段差ΔNupをアップシフト量として入力回転数を低下させる「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御が実行される。S10では、実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNupを差し引いた回転数低下終点に到達したか否かが判断される。
S10において、回転数低下終点に到達したと判断されると、S10からS11→エンドへと進む。S11では、ゼロ運転点と回転数低下終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御が実行される。
なお、ドライブ走行中の「マニュアル変速モード」の選択時にドライバがシフトアップ要求操作を行うと、S1→S2→S7→S12→S4→S5へと進む。S4では、ドライバによるシフトダウン要求操作に基づき、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させる「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S5では、実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNdwnを加えた回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
S5において、回転数上昇終点に到達したと判断されると、S5からS6→エンドへと進む。S6では、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御が実行される。
このように、ドライブ走行中に実行されるフレキシブルマニュアル変速制御は、下記に記載する特徴を有する。
・「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行中、ドライバによるシフトアップ要求操作がある場合、車両加速度Xgが大きいほどアップシフトで低下させる入力回転数の回転段差ΔNupを大きな値に設定する(S1→S2→S7→S8)。
・ドライバによるシフトアップ要求操作が連続的にある場合、シフトアップ要求操作がある毎に車両加速度Xgの大きさに応じた回転段差ΔNupを算出し、回転段差ΔNupをアップシフト量として入力回転数を低下させるアップシフト制御を実行する(S1→S2→S7→S8→S9→S10→S11の繰り返し)。
・アップシフト制御が終了すると、アップシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する(S10→S11)。
・「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があると、セレクト操作をシフトダウン要求操作とみなす。そして、シフトダウン要求操作に基づいて、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させるダウンシフト制御を実行する(S1→S2→S3→S4)。
・ドライバによるシフトダウン要求操作に基づくダウンシフト制御が終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する(S5→S6)。
[ドライブ走行中の加速アップシフト作用]
「無段変速モード」でのドライブ走行中に「マニュアル変速モード」へのセレクト操作と2回のシフトアップ要求操作を行ったときの加速アップシフト作用を、図8及び図9に基づいて説明する。
図8の時刻0から時刻t1までの区間は、アクセル足離しにより惰性走行しているコースト走行区間である。コースト走行区間(0~t1)は、図9における運転点H0から運転点H1までの移動に対応する。
図8の時刻t1は、ドライバが加速を意図してアクセル踏み込み操作を開始するアクセル踏み込み開始時刻である。アクセル踏み込み開始時刻t1は、図9における運転点H1に対応する。
図8の時刻t1から時刻t2までの区間は、「無段変速モード」を選択したままでアクセル踏み込み操作に応じた無段変速制御により加速を開始してゆくドライブ加速走行区間である。コースト減速走行区間(t1~t2)は、図9における運転点H1から運転点H2までの移動に対応する。
図8の時刻t2は、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのセレクト操作時刻であると共に、そのときの実プライマリ回転数Npriを、回転段差ΔNdwnのダウンシフト量により上昇させるマニュアルダウンシフト時刻である。このマニュアルダウンシフト時刻t2は、図9における運転点H2から運転点H3までの移動に対応する。
図8の時刻t2から時刻t3までの区間は、マニュアルダウンシフト終了後、バリエータ4の変速比をダウンシフト終了時変速比に保ちながらドライブ加速走行しているダウンシフト加速走行区間である。ダウンシフト加速走行区間(t2~t3)は、図9における運転点H3から運転点H4までの移動に対応し、固定変速比線α1は、図9のダウンシフト終了時運転点H3とゼロ運転点を結ぶ線である。
図8の時刻t3は、「マニュアル変速モード」でのドライバによるシフトアップ要求操作時刻であると共に、そのときの実プライマリ回転数Npriを、回転段差ΔNup1のアップシフト量により低下させる1回目マニュアルアップシフト時刻である。1回目マニュアルアップシフト時刻t3は、図9における運転点H4から運転点H5までの移動に対応する。
図8の時刻t3から時刻t4までの区間は、1回目マニュアルアップシフト終了後、バリエータ4の変速比をアップシフト終了時変速比に保ちながらドライブ加速走行している第1アップシフト加速走行区間である。第1アップシフト加速走行区間(t3~t4)は、図9における運転点H5から運転点H6までの移動に対応し、固定変速比線α2は、図9のアップシフト終了時運転点H5とゼロ運転点を結ぶ線である。
図8の時刻t4は、「マニュアル変速モード」でのドライバによるシフトアップ要求操作時刻であると共に、そのときの実プライマリ回転数Npriを、回転段差ΔNup2のアップシフト量により低下させる2回目マニュアルアップシフト時刻である。2回目マニュアルアップシフト時刻t4は、図9における運転点H6から運転点H7までの移動に対応する。
図8の時刻t4以降の区間は、2回目マニュアルアップシフト終了後、バリエータ4の変速比をアップシフト終了時変速比に保ちながらドライブ加速走行している第2アップシフト加速走行区間である。第2アップシフト加速走行区間(t4~)は、図9における運転点H7から固定変速比線α3に沿った移動に対応し、固定変速比線α3は、図9のアップシフト終了時運転点H7とゼロ運転点を結ぶ線である。
このように、「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、時刻t2にて「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があると、セレクト操作をシフトダウン要求操作とみなす。そして、シフトダウン要求操作によるマニュアルダウンシフトにより、そのときの実プライマリ回転数Npriが、回転段差ΔNdwnのダウンシフト量により上昇させる制御が行われる。
よって、図8の矢印K1にて囲まれる実プライマリ回転数特性(破線特性)に示すように、実プライマリ回転数Npri(=エンジン回転数Ne)を上昇させる。エンジン回転数Neを上昇させると、エンジントルクが上昇し、車両を加速させるのに必要な駆動力として高い駆動力が確保されることになる。このため、ドライバが加速を意図してセレクト操作を行うと、実プライマリ回転数Npri(=エンジン回転数Ne)の上昇特性に呼応して図8の矢印L1にて囲まれる車速特性に示すように、車速立ち上がりによる初期加速を得ることができる。
加えて、ドライバのセレクト操作に基づいてマニュアルダウンシフトを実行すると、実プライマリ回転数Npriが高くなり、その後、ダウンシフト終了時の変速比維持制御へ移行することにより、車速VSPの上昇に伴って実プライマリ回転数Npriが上昇する。このため、マニュアルダウンシフトに続いての実行が予測されるマニュアルアップシフトに備え、マニュアルアップシフトを実行したときの実プライマリ回転数Npriの低下が許容されることになる。
次に、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、時刻t3にてドライバによる1回目のシフトアップ要求操作があると、1回目のシフトアップ要求操作に基づいて1回目のマニュアルダウンシフトが実行される。1回目のシフトアップ要求操作があると、そのときの車両加速度Xg1が大きいことで、大きな値による回転段差ΔNup1が算出される。そして、1回目のマニュアルアップシフトでは、大きな値による回転段差ΔNup1によるアップシフト量を低下させる制御が行われる。回転段差ΔNup1は、固定変速比線α1と固定変速比線α2の変速比間隔を拡大したのと等価となる。
よって、ドライバが受ける加速感は、図8の矢印L2にて囲まれる車速特性に示すように、大きな車速勾配(=車両加速度Xg1)によって高い加速感になる。ドライバが受ける有段アップシフト感は、図8の矢印K2にて囲まれる実プライマリ回転数特性(破線特性)に示すように、実プライマリ回転数Npri(=エンジン回転数Ne)を大きな落差により低下させることで高い有段アップシフト感になる。このため、ドライバが加速を意図して1回目のシフトアップ要求操作を行うと、「車両加速度Xg1」による高い加速度感に対して「回転段差ΔNup1」による有段アップシフト感の演出効果が高くされ、加速度感と有段アップシフト感の一致性によりドライバに与える違和感を低減することができる。
次に、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、時刻t4にてドライバによる2回目のシフトアップ要求操作があると、2回目のシフトアップ要求操作に基づいて2回目のマニュアルダウンシフトが実行される。2回目のシフトアップ要求操作があると、そのときの車両加速度Xg2が小さいことで、小さな値による回転段差ΔNup2が算出される。そして、2回目のマニュアルアップシフトでは、小さな値による回転段差ΔNup2によるアップシフト量を低下させる制御が行われる。回転段差ΔNup2は、固定変速比線α2と固定変速比線α3の変速比間隔を縮小したのと等価となる。
よって、ドライバが受ける加速感は、図8の矢印L3にて囲まれる車速特性に示すように、小さな車速勾配(=車両加速度Xg2)によって低い加速感になる。ドライバが受ける有段アップシフト感は、図8の矢印K3にて囲まれる実プライマリ回転数特性(破線特性)に示すように、実プライマリ回転数Npri(=エンジン回転数Ne)を小さな落差により低下させることで低い有段アップシフト感になる。このため、ドライバが加速を意図して2回目のシフトアップ要求操作を行うと、「車両加速度Xg2」による低い加速度感に対して「回転段差ΔNup2」による有段アップシフト感の演出効果が低く抑えられ、加速度感と有段アップシフト感の一致性によりドライバに与える違和感を低減することができる。
加えて、ドライバによる2回連続のシフトアップ要求操作に対して1回目のアップシフト量と2回目のアップシフト量を異ならせている。よって、シフトアップ要求操作のタイミングでの加速度感の変化に応じて変化する有段アップシフト感を演出することができ、運転の楽しみが増すというドライブ感覚をも享受できる。
以上説明してきたように、実施例1のベルト式無段変速機CVTの変速制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1) 走行用駆動源(エンジン1)から駆動輪6までの駆動系にバリエータ4を搭載し、バリエータ4の変速比を制御する変速コントローラ800を備える無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)の変速制御装置において、
変速コントローラ800は、マニュアル変速モードを選択すると、予め設定された複数の固定変速比ではなく、ドライバによるシフト要求操作に基づいて、シフト要求操作時のバリエータ4の入力回転数に対し所定の回転段差を有する目標入力回転数に、バリエータ4の変速比を変速させる変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部803を有し、
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行中、ドライバによるシフトアップ要求操作がある場合、車両加速度Xgが大きいほどアップシフトで低下させる入力回転数の回転段差ΔNupを大きな値に設定する。
このため、「マニュアル変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、加速度感の大きさに応じた有段アップシフト感を演出することによりドライバに与える違和感を低減することができる。
(2) フレキシブルマニュアル変速制御部803は、ドライバによるシフトアップ要求操作が連続的にある場合、シフトアップ要求操作がある毎に車両加速度Xg1,Xg2の大きさに応じた回転段差ΔNup1,ΔNup2を算出し、回転段差ΔNup1,ΔNup2をアップシフト量として入力回転数を低下させるアップシフト制御を実行する。
このため、ドライバによるシフトアップ要求操作が連続的であるシーンにおいて、シフトアップ要求操作のタイミングでの加速度感の変化に応じて変化する有段アップシフト感を演出することができる。
(3) フレキシブルマニュアル変速制御部803は、アップシフト制御が終了すると、アップシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する。
このため、マニュアルアップシフトが終了すると、終了時の運転点(VSP,APO)を通る固定変速比線がマニュアル変速マップ(マニュアル変速マップM2)に引かれ、直ちに固定変速比を維持する制御へ移行することができる。
(4) フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、「無段変速モード」から「マニュアル変速モード」へのドライバによるセレクト操作があると、セレクト操作をシフトダウン要求操作とみなし、
シフトダウン要求操作に基づいて、所定の回転段差ΔNdwnをダウンシフト量として入力回転数を上昇させるダウンシフト制御を実行する。
このため、「無段変速モード」の選択によるドライブ走行シーンにおいて、ドライバが加速を意図して「マニュアル変速モード」へのセレクト操作を行うと、ドライバが意図する加速感を得ることができる。加えて、セレクト操作後に予測されるシフトアップ要求操作に備え、シフトアップ量を許容するように、予め入力回転数を上昇させておくことができる。
(5) フレキシブルマニュアル変速制御部803は、ドライバによるシフトダウン要求操作に基づくダウンシフト制御が終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点のマップ位置で決まる変速比を維持する。
このため、マニュアルダウンシフトが終了すると、終了時の運転点(VSP,APO)を通る固定変速比線がマニュアル変速マップ(マニュアル変速マップM2)に引かれ、直ちに固定変速比を維持する制御へ移行することができる。
以上、本発明の無段変速機の変速制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
実施例1では、変速モードとして、「無段変速モード」と「マニュアル変速モード」を有する例を示した。しかし、変速モードとしては、少なくとも「マニュアル変速モード」が含まれていれば、他の変速モードとして、「無段変速モード」をエコ変速モードとスポーツ変速モードなどに分けた例などであっても良い。
実施例1では、本発明の変速制御装置を、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の変速制御装置は、バリエータのみによるベルト式無段変速機に限らず、バリエータと副変速機が直列に連結される副変速機付きベルト式無段変速機を搭載した車両に適用しても良い。