JP7202864B2 - セラミックス基複合材料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セラミックス基複合材料の製造方法に関する。
航空機の機体やエンジン、産業用のガスタービンエンジンの高温となる部分や軽量でかつ高い耐久性が要求される部分に、セラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composites)を用いることが検討されている。セラミックス基複合材料は、複数の繊維を有する織布と、繊維同士の間の間隙に充填されたマトリクスと呼ばれる補強材と、を有する。セラミックス基複合材料を得るに当たっては、一例としてPIP法(Polymer Impregnation and Pyrolysis法)と呼ばれる技術が用いられる。PIP法は、マトリクスの前駆体を含む溶液中で織布に前駆体を含浸させる工程と、前駆体が含浸された織布を焼成する工程とを含む。
織布の繊維と前駆体とが接触したまま焼成されると、前駆体により繊維が劣化されて、完成品であるセラミックス基複合材料の強度が低下するおそれがある。そのため、例えば特許文献1に示すように、繊維の周囲に炭素の界面層が形成された織布を前駆体に含浸して、焼成を行う場合がある。繊維の周囲に界面層を形成することで、繊維と前駆体との接触が抑えられる。
特開2018-95484号公報
しかし、繊維の周囲に界面層が形成された織布を前駆体に含浸して焼成した場合でも、条件によっては適切に焼成できずに、セラミックス基複合材料の強度低下が抑えられない場合がある。従って、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することが求められている。
本発明は、上述した課題を解決するものであり、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制可能なセラミックス基複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法は、複数のセラミックス製の繊維、及び前記繊維の周囲を覆う界面層を有する織布に、前駆体としてのポリマーを含浸して素体を形成する含浸ステップと、前記素体に含まれる前記ポリマーに酸素を供給する酸素供給ステップと、前記素体を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、前記ポリマーを反応させてマトリクスを形成する不活性焼成ステップと、前記酸素供給ステップ及び前記不活性焼成ステップの後に、前記素体を酸素雰囲気下で加熱することで、前記界面層を除去して、前記繊維同士の間に前記マトリクスが配置されるセラミックス基複合材料を生成する酸素焼成ステップと、を有する。
前記不活性焼成ステップを、前記酸素供給ステップの後に行うことが好ましい。
前記酸素供給ステップにおいて、酸素雰囲気下において前記素体を加熱することで、前記ポリマーに酸素を供給し、前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低いことが好ましい。
前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、200℃以上、600℃未満であることが好ましい。
前記酸素供給ステップにおいて、水蒸気雰囲気下で前記素体を保持することで、前記ポリマーに酸素を供給し、前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低いことが好ましい。
前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満であることが好ましい。
前記ポリマーは、前記繊維と同じ材料のセラミックスを含むことが好ましい。
前記界面層は、炭素を主成分とする層であることが好ましい。
本発明によれば、セラミックス基複合材料の強度低下を抑制することができる。
図1は、本実施形態に係る製造システムのブロック図である。 図2は、本実施形態に係る素体の構成を示す模式図である。 図3は、本実施形態に係る素体の断面の模式的な拡大図である。 図4は、本実施形態に係る素体の断面の模式的な拡大図である。 図5は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。 図6は、セラミックス基複合材料の製造過程による各層の変化を示す模式図である。 図7は、樹脂の変性の一例を示す化学式を示す図である。 図8は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の構成を示す模式図である。 図9は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の断面の模式的な拡大図である。 図10は、曲げ強度の測定結果を示すグラフである。
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
図1は、本実施形態に係る製造システムのブロック図である。本実施形態に係る製造システム1は、PIP法(Polymer Impregnation and Pyrolysis法)によって素体100を処理することで、セラミックス基複合材料102を製造するシステムであり、本実施形態に係るセラミックス基複合材料102の製造方法を実施するシステムである。図1に示すように、製造システム1は、素体形成装置2と、酸素供給装置4と、不活性焼成装置6と、大気焼成装置8とを有する。素体形成装置2は、後述の含浸ステップを実行することで素体100を形成する装置である。酸素供給装置4は、後述の酸素供給ステップを実行する装置であり、不活性焼成装置6は、後述の不活性焼成ステップを実行する装置であり、大気焼成装置8は、後述の酸素焼成ステップを実行して、セラミックス基複合材料102を生成する装置である。素体形成装置2と、酸素供給装置4と、不活性焼成装置6と、大気焼成装置8とは、それぞれのステップを実行可能な装置であれば、構造などは任意である。
セラミックス基複合材料102は、CMC(Ceramic Matrix Composites)部材である。セラミックス基複合材料102は、セラミックス製の繊維24同士の間にマトリクス30Bが配置されている部材であり、素体100を処理することにより製造される。
最初に、素体100の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る素体の構成を示す模式図である。図3及び図4は、本実施形態に係る素体の断面の模式的な拡大図である。図2に示すように、素体100は、複数の繊維層10を積層することで、一例として薄肉板状に形成されている。言い換えると、素体100は、重なり合って配置された複数の繊維層10を有している。なお、図2に示す例では、複数の繊維層10同士の間に境界線を便宜的に表示しているが、実際の素体100では繊維層10同士の間にこのような明確な境界線は存在せず、複数の繊維層10同士は一体をなしている。また、素体100の形状は、図2に示す板形状に限定されず、種々の形状とすることができる。
図3は、繊維層10の構成を模式的に示している。図3に示すように、繊維層10は、織布20と、ポリマー30とを備える。織布20は、繊維束22の織物であり、すなわち、繊維束22を織ることで形成される織物である。織布20は、繊維束22に対して平織りや、朱子織りを施すことで形成することができる。さらに、織布20は繊維束22を用いた不織布として形成することもできる。
繊維束22は、複数の繊維24を有しており、複数の繊維24が束状となって構成されている。繊維24は、セラミックスを主成分とする繊維、すなわちセラミックス製の繊維である。さらに言えば、本実施形態では、繊維24は、酸化物系セラミックスを主成分としており、酸化物系セラミックスとしては、アルミナおよびムライトなどが挙げられる。また、繊維24は、SiC系の繊維であってもよい。
図4に示すように、繊維24の周囲には、界面層26が設けられる。界面層26は、繊維24及びポリマー30とは異なる材料で形成される層である。本実施形態では、界面層26は、炭素を主成分とする層であり、本実施形態では、CNO等の炭素系の組成を有する。このように、それぞれの繊維24の周囲には、界面層26が設けられているため、織布20(又は繊維束22)は、複数の繊維24と、繊維24の周囲を覆う界面層26とを有していると言える。
ポリマー30は、複数の繊維束22同士の間に形成された間隙や、繊維24同士の間の間隙に配置される。繊維24の周囲には界面層26が設けられているため、ポリマー30は、界面層26を介して、繊維24の間に配置されているといえる。ポリマー30は、後述のマトリクス30Bの前駆体である。すなわち、ポリマー30が反応することで、マトリクス30Bが形成される。さらに言えば、ポリマー30は、流動性を有するスラリー状となっており、後述の不活性焼成ステップ及び酸素焼成ステップで熱分解することで硬化して、マトリクス30Bとなる。さらに言えば、ポリマー30は、酸化物系セラミックスの前駆体である。ポリマー30は、繊維24と同じセラミックス、すなわちアルミナおよびムライトなどの酸化物系セラミックスの前駆体であり、Al-O結合やSi-O結合などのメタロキサン(M-O結合)を含んでいる。
素体100は、以上のように構成される。本実施形態においては、このような素体100を処理することで、セラミックス基複合材料102を製造する。以下、セラミックス基複合材料102の製造方法について説明する。
図5は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。図6は、セラミックス基複合材料の製造過程による各層の変化を示す模式図である。図5に示すように、本実施形態に係る製造方法においては、最初に、裁断ステップS10を実行する。裁断ステップS10においては、織布20を、予め定められた所望の形状、寸法に裁断する。
本実施形態に係る製造方法においては、次に、界面層形成ステップS12を実行する。界面層形成ステップS12においては、裁断した織布20の繊維24の周囲に、界面層26を形成する。本実施形態においては、繊維24の周囲に、予め樹脂を付着させておく。ここでの樹脂は、例えばポリウレタン系のポリマーである。そして、裁断した織布20を不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、樹脂に化学反応を生じさせて、樹脂を界面層26に変性させる。図7は、樹脂の変性の一例を示す化学式を示す図である。図7に示すように、樹脂としてポリウレタンが用いられている場合、不活性ガス雰囲気下での加熱により、ポリウレタンの合成と熱分解を経て、界面層26としてのCNOが生成される。なお、ここでの不活性ガスは、窒素であるが、窒素に限られず、例えばアルゴンなどであってもよい。
なお、繊維24の周囲に付着される樹脂は、ポリウレタン樹脂に限られない。繊維24の周囲に付着される樹脂は、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン、ポリアルキシレングリコール、ポリオレフィン樹脂、ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ピッチ系樹脂の群から選択された少なくとも1つを用いてよい。言い換えると、上記の群のうち少なくとも1つの化学種を樹脂として有していれば、不活性ガス雰囲気下で加熱することによって、容易に界面層26を形成することができる。
本実施形態に係る製造方法においては、このように、樹脂が付着した織布20を不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、繊維24の周囲に付着した樹脂から界面層26を形成するが、界面層26の形成方法は、これに限られず任意である。例えば、樹脂を用いることなく、繊維24の周囲に、界面層26を直接接合してもよく、直接接合として、例えば蒸着してもよい。
図5に示すように、本実施形態に係る製造方法においては、界面層形成ステップS12の後に、積層ステップS14を実行する。積層ステップS14においては、所望の厚さになるまで、織布20を複数積層する。なお、織布20を積層する際に、繊維の長軸方向を層ごとに違えることで、積層された織布20に擬似等方性を持たせることもできる。具体的には、n層の織布20を積層する場合、各層の繊維の長軸方向を(360/n)°ごとに違えることで擬似等方性を実現することができる。
本実施形態に係る製造方法においては、積層ステップS14を実行した後に、含浸ステップS16を実行する。含浸ステップS16においては、織布20にポリマー30を含浸させることで、素体100を形成する。本実施形態では、スラリー状のポリマー30に織布20を浸けて、繊維24同士の間にポリマー30を充填させる。これにより、織布20にポリマー30が含浸した素体100を形成する。このように、本実施形態では、積層ステップS14で織布20を積層した後に、含浸ステップS16を実行している。すなわち、本実施形態では、織布20の積層体にポリマー30を含浸してすることで、繊維層10の積層体である素体100を形成している。ただし、積層ステップS14と含浸ステップS16との順番は任意である。例えば、先に含浸ステップS16を実行することで、ポリマー30が含浸した織布20である繊維層10を形成しておき、その後で積層ステップS14を実行することで、繊維層10を積層して素体100を形成してもよい。
積層ステップS14及び含浸ステップS16の実行により、素体100が形成される。含浸ステップS16は、素体形成装置2によって行われる。素体形成装置2は、裁断ステップS10から含浸ステップS16までの一連の処理を実行してもよいし、含浸ステップS16のみを実行してもよい。また、含浸ステップS16は、作業者の手作業により行われてもよい。
含浸ステップS16によって素体100が形成されたら、素体100を処理してセラミックス基複合材料102を製造する。具体的には、本実施形態に係る製造方法においては、含浸ステップS16の後に、酸素供給ステップS18を実行する。酸素供給ステップS18においては、素体100に含まれるポリマー30に、すなわち織布20に含浸したポリマー30に、酸素を供給する。すなわち、図6に示すように、含浸ステップS16によって形成された素体100のポリマー30に対し、酸素供給ステップS18で酸素を導入することで、ポリマー30に酸素を含有させる。すなわち、酸素供給ステップS18においては、素体100のポリマー30を酸化させるということもできる。図6に示すように、以下、酸素供給ステップS18によって酸素を含有したポリマー30を、ポリマー30Aと記載する。ポリマー30Aは、ポリマー30が酸化した部材であるということもできる。また、酸素供給ステップS18の実行後の素体100を、すなわちポリマー30Aを含む素体100を、素体100Aと記載する。素体100Aは、ポリマーが酸化している点で、素体100とは異なる。ただし、素体100Aに含まれる繊維24及び界面層26は、反応が起こっておらず、素体100に含まれる繊維24及び界面層26と同じ化学組成のままとなっている。
本実施形態の酸素供給ステップS18は、酸素雰囲気下において、素体100を第1温度で加熱することで、ポリマー30に酸素を供給して(ポリマー30を酸化させて)、ポリマー30Aを生成する。酸素雰囲気下とは、酸素が含まれる気体の雰囲気下であることを指し、本実施形態では、大気雰囲気下である。ただし、酸素供給ステップS18では、例えば酸素のみが含まれる気体の雰囲気下で、素体100を加熱してもよい。
酸素供給ステップS18における素体100の加熱温度である第1温度は、後述の不活性焼成ステップS20における加熱温度(第2加熱温度)より低く、後述の酸素焼成ステップS22における加熱温度(第3加熱温度)より低い。第1温度は、界面層26の酸化を抑制可能な程度に低い温度であるが、ポリマー30の酸化を活性化させる程度には高い温度であることが好ましい。具体的には、第1温度は、200℃以上600℃未満であることが好ましく、さらに、400℃以上500℃以下であることがより好ましい。このような、比較的低温の温度範囲で素体100を加熱することで、界面層26の酸化を好適に抑制しつつ、ポリマー30の酸化を好適に促進することができる。
酸素供給ステップS18においては、酸素雰囲気下における素体100の第1温度での加熱を、5分以上行う。また、酸素供給ステップS18においては、酸素雰囲気下における素体100の第1温度での加熱を、180分以下行うことが好ましい。ただし、酸素供給ステップS18の実施時間は、これに限られない。
以上説明した酸素供給ステップS18は、酸素供給装置4によって行われる。酸素供給装置4は、例えば、加熱炉であり、内部に素体100を保持して、内部を酸素雰囲気下で第1温度まで加熱することにより、酸素供給ステップS18を実行する。
このように、酸素供給ステップS18は、酸素雰囲気下において、素体100を第1温度で加熱するものであるが、ポリマー30に酸素を供給する(ポリマー30を酸化する)ことが可能な工程であれば、工程の内容は任意である。例えば、酸素供給ステップS18は、素体100を、所定温度の水蒸気雰囲気下で所定時間保持することで、ポリマー30に酸素を供給してもよい。ここでの所定温度は、80℃以上200℃以下が好ましい。このような温度の水蒸気雰囲気下で素体100を保持することによっても、界面層26の酸化を好適に抑制しつつ、ポリマー30の酸化を好適に促進することができる。また、ここでの所定時間は、例えば1時間以上以下であり、また、所定時間は180分以下であることが好ましいが、それに限られず任意である。
本実施形態に係る製造方法においては、酸素供給ステップS18の後に、不活性焼成ステップS20を実行する。不活性焼成ステップS20においては、素体100Aを不活性ガス雰囲気下で加熱することで、ポリマー30Aを反応させてマトリクス30Bを形成する。より詳しくは、図6に示すように、不活性焼成ステップS20において素体100Aを不活性ガス雰囲気下で加熱することで、界面層26の酸化を抑制して界面層26を残しつつ、ポリマー30Aを反応させてマトリクス30Bを生成させる。不活性ガス雰囲気下とは、不活性ガスの雰囲気下であることを指し、本実施形態では、窒素の雰囲気下である。ただし、不活性ガスは窒素に限られず、例えばアルゴンなどであってもよい。不活性ガス雰囲気下とは、非酸素雰囲気下、すなわち酸素が含まれない気体の雰囲気下であることが好ましい。
具体的には、ポリマー30Aは、不活性焼成ステップS20において加熱されることで、脱水反応が生じ、ポリマー30Aに含まれるOH基がオキソ基(O基)となり、前駆体としてのポリマー30Aがマトリクス30Bとなる。したがって、不活性焼成ステップS20後のマトリクス30B中では、近接するオキソ基同士の間で分子間縮合が生じる。さらに、マトリクス30B中では、オキソ基による分子内縮合も生じる。マトリクス30Bは、繊維24と同じセラミックス、すなわちアルミナおよびムライトなどの酸化物系セラミックスの固化体となる。なお、ポリマー30Aからマトリクス30Bに変性する反応は、不活性焼成ステップS20において完結せず、後述の酸素焼成ステップS22においても続く。
不活性焼成ステップS20においては、不活性ガス雰囲気下において、素体100Aを、第2温度で加熱する。第2温度は、上述のように、酸素供給ステップS18における第1温度より高い。第2温度は、ポリマー30Aを反応させることが可能な程度に高い温度であり、800℃以上1300℃以下であることが好ましい。また、不活性焼成ステップS20においては、不活性ガス雰囲気下における素体100Aの第2温度での加熱を、5分以上行う。また、不活性焼成ステップS20においては、不活性ガス雰囲気下における素体100Aの第2温度での加熱を、180分以下行うことが好ましい。ただし、不活性焼成ステップS20の実施時間は、これに限られない。
このように、不活性焼成ステップS20においては、素体100Aを、不活性ガス雰囲気下において第2温度で加熱するため、マトリクス30Bの生成を促進しつつ、界面層26の酸化を抑制している。すなわち、不活性ガス雰囲気下であるため界面層26の酸化が抑制され、界面層26によって、反応中のポリマー30Aと繊維24との接触が抑制される。以下、不活性焼成ステップS20の実行後の素体100Aを、すなわちマトリクス30Bを含む素体100Aを、素体100Bと記載する。素体100Bは、ポリマー30Aの一部がマトリクス30Bに変性している点で、素体100Aとは異なる。ただし、素体100Bに含まれる繊維24及び界面層26は、反応が起こっておらず、素体100Aに含まれる繊維24及び界面層26と同じ化学組成のままとなっている。
この不活性焼成ステップS20は、不活性焼成装置6によって行われる。不活性焼成装置6は、例えば、加熱炉であり、内部に素体100Aを保持して、内部を不活性ガス雰囲気下で第2温度まで加熱することにより、不活性焼成ステップS20を実行する。なお、不活性焼成装置6は、内部の雰囲気を調整可能である場合、酸素供給装置4と同じ装置であってもよい。
なお、本実施形態では、酸素供給ステップS18の後に不活性焼成ステップS20を実行したが、それに限られず、不活性焼成ステップS20の後に酸素供給ステップS18を実行してもよい。すなわち、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20は、後述の酸素焼成ステップS22の前に行われれば、実施順は任意である。不活性焼成ステップS20の後に酸素供給ステップS18が実行されても、酸素焼成ステップS22が実施されるまでに、界面層26の酸化を抑制しつつ、ポリマー30に酸素を供給しておくことができる。
また、本実施形態では、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20を複数回実行してもよい。例えば、酸素供給ステップS18の後に含浸ステップS16に戻ってさらにポリマー30を含浸させて、その後、再度、酸素供給ステップS18を実行してポリマー30への酸素供給を行ってもよい。すなわち、含浸ステップS16と酸素供給ステップS18とを複数回繰り返してもよい。また、不活性焼成ステップS20の後に含浸ステップS16に戻ってさらにポリマー30を含浸させて、その後、再度、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20を実行してもよい。すなわち、含浸ステップS16と酸素供給ステップS18と不活性焼成ステップS20とを複数回繰り返してもよい。このように複数回ステップを繰り返すことで、緻密なセラミックス基複合材料102を製造することができる。
本実施形態に係る製造方法においては、不活性焼成ステップS20の後に、酸素焼成ステップS22を実行する。酸素焼成ステップS22においては、素体100Bを酸素雰囲気下で加熱することで、図6に示すように、界面層26を酸化により除去しつつ、ポリマー30Aを反応させてマトリクス30Bを生成させて、素体100Bからセラミックス基複合材料102を形成する。不活性焼成ステップS20においては、一部のポリマー30Aをマトリクス30Bに変性している。酸素焼成ステップS22においては、不活性焼成ステップS20に引き続き、ポリマー30Aをマトリクス30Bに変性させており、言い換えれば、残りのポリマー30Aをマトリクス30Bに変性させて、マトリクス30Bへの変性処理を終了させる。なお、酸素雰囲気下とは、酸素が含まれる気体の雰囲気下であることを指し、本実施形態では、大気雰囲気下である。ただし、酸素供給ステップS18は、例えば酸素のみが含まれる気体の雰囲気下で加熱してもよい。
酸素焼成ステップS22においては、酸素雰囲気下において、素体100Bを、第3温度で加熱する。第3温度は、上述のように、酸素供給ステップS18における第1温度より高い。第3温度は、ポリマー30Aを反応させ、かつ、界面層26を分解可能な程度に高い温度であり、800℃以上1300℃以下であることが好ましい。すなわち、第3温度は、第2温度と同じ温度であることが好ましい。また、酸素焼成ステップS22においては、酸素雰囲気下における素体100Bの第3温度での加熱を、5分以上行う。また、酸素焼成ステップS22においては、酸素雰囲気下における素体100Bの第3温度での加熱を、300分以下行うことが好ましい。ただし、酸素焼成ステップS22の実施時間は、これに限られない。
界面層26は、酸素雰囲気下において第3温度で加熱されることで、酸化して気化する。すなわち、酸素焼成ステップS22においては、このように素体100Bを酸素雰囲気下で高温加熱することで、図6に示すように、界面層26を酸化しつつ、ポリマー30Aを反応させてマトリクス30Bを生成して、素体100Bからセラミックス基複合材料102を生成する。セラミックス基複合材料102は、織布20、すなわち繊維24の周囲にマトリクス30Bが配置(充填)された構造となり、界面層26を含まない。界面層26が酸化によって気化して除去されるため、セラミックス基複合材料102は、界面層26が存在した箇所、すなわち繊維24の周囲の空間が、マトリクス30Bが充填されない空孔Vとなる。セラミックス基複合材料102は、空孔Vが含まれることで、脆性の低下が抑えられる。
なお、ポリマー30Aからマトリクス30Bに変性する反応は、不活性焼成ステップS20において完結してもよく、酸素焼成ステップS22においては起こらなくてもよい。この場合、酸素焼成ステップS22は、界面層26の除去のみを実行する。
この酸素焼成ステップS22は、大気焼成装置8によって行われる。大気焼成装置8は、例えば、加熱炉であり、内部に素体100Bを保持して、内部を酸素雰囲気下で第3温度まで加熱することにより、酸素焼成ステップS22を実行する。なお、大気焼成装置8は、酸素供給装置4と同じ装置であってもよい。
図8は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の構成を示す模式図であり、図9は、本実施形態に係るセラミックス基複合材料の断面の模式的な拡大図である。セラミックス基複合材料102は、以上のような工程で素体100から製造されるため、図8に示すように、素体100と同様に、繊維層10aが積層された部材となる。なお、図8に示す例では、複数の繊維層10a同士の間に境界線を便宜的に表示しているが、実際のセラミックス基複合材料102では繊維層10a同士の間にこのような明確な境界線は存在せず、複数の繊維層10a同士は一体をなしている。図9に示すように、繊維層10aは、織布20と、マトリクス30Bとを備える。図9に示すように、繊維層10aは、織布20が、複数の繊維24を有した繊維束22が織り込まれたものである点で、図3に示す素体100の繊維層10と同じである。ただし、繊維層10aは、図6のS22に示すように、繊維24の周囲に界面層26が含まれず、ポリマー30Aがマトリクス30Bとなっている点で、素体100の繊維層10とは異なる。
以上説明したように、本実施形態に係るセラミックス基複合材料102の製造方法は、含浸ステップS16と、酸素供給ステップS18と、不活性焼成ステップS20と、酸素焼成ステップS22とを有する。含浸ステップS16においては、複数のセラミックス製の繊維24、及び繊維24の周囲を覆う界面層26を有する織布20に、前駆体としてのポリマー30を含浸して素体100を形成する。酸素供給ステップS18においては、素体100に含まれるポリマー30に、酸素を供給する。不活性焼成ステップS20においては、素体(本実施形態では素体100A)を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、ポリマー(本実施形態ではポリマー30A)を反応させてマトリクス30Bを形成する。酸素焼成ステップS22においては、酸素供給ステップS18及び不活性焼成ステップS20の後に、素体100Bを酸素雰囲気下で加熱することで、界面層26を除去して、繊維24同士の間にマトリクス30Bが配置されるセラミックス基複合材料102を生成する。
ここで、織布にポリマーを含浸させた素体を焼成してセラミックス基複合材料を製造する場合、焼成反応時に、織布中の繊維とポリマーとが接触することで繊維が劣化して、セラミックス基複合材料の強度が低下するおそれがある。そのため、繊維とポリマーとの接触を抑制するため、繊維の周囲に界面層を設ける場合がある。しかし、界面層を設けた素体を大気雰囲気下で焼成した場合は、焼成中に界面層が分解して、結局繊維とポリマーとが接触して、強度の低下が抑制できない。一方、界面層の分解を防ぐため、最初に素体を窒素雰囲気下で焼成して界面層を保持したままポリマーの反応を起こして、その後に大気焼成して、ポリマーの反応を進めつつ界面層を除去することも可能である。この場合、素体を窒素雰囲気下で焼成するため、界面層を残したまま、ポリマーをマトリクスとすることができ、繊維とポリマーとの接触を抑えることができる。そして、窒素雰囲気下での焼成によりマトリクスの生成がある程度進んでから、大気焼成を実行して界面層を除去することができる。しかし、窒素雰囲気下で焼成するため、ポリマーと反応するための酸素が不足して、マトリクスの焼成不良を生じるおそれがある。この場合も、セラミックス基複合材料の強度が低下する。
それに対し、本実施形態に係るセラミックス基複合材料102の製造方法は、酸素焼成ステップS22の前に、酸素供給ステップS18を実行することで、ポリマー30に十分に酸素を供給し、不活性焼成ステップS20を実行することで、界面層26を残したまま、ポリマー30からのマトリクス30Bの生成を進める。そして、その後に酸素焼成ステップS22を実行することで、ポリマー30に十分に酸素が含まれた状態でポリマー30の焼成を行いつつ、界面層26を除去することができる。従って、本実施形態に係る製造方法によると、焼成中の繊維とポリマー30との接触を抑えつつ、マトリクス30Bの焼成不良を抑制することができるため、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
また、本実施形態に係る製造方法は、不活性焼成ステップS20を、酸素供給ステップS18の後に行う。酸素供給ステップS18を先に行うため、ポリマー30に十分に酸素を供給した状態で、不活性焼成ステップS20におけるポリマー30Aの焼成を行う事が可能となり、マトリクス30Bの焼成不良をより好適に抑えることができる。
また、本実施形態に係る製造方法は、酸素供給ステップS18において、酸素雰囲気下において素体100を加熱することで、ポリマー30に酸素を供給する。酸素供給ステップS18における素体100の加熱温度(第1温度)は、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22での加熱温度(第2温度及び第3温度)より低い。本実施形態に係る製造方法は、酸素雰囲気下において素体100を低温加熱するため、ポリマー30の反応や界面層26の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができる。従って、この製造方法によると、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
また、酸素供給ステップS18における素体100の加熱温度は、200℃以上600℃未満である。この製造方法によると、この温度範囲で素体100を加熱するため、ポリマー30の反応や界面層26の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができる。従って、この製造方法によると、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
また、酸素供給ステップS18において、水蒸気雰囲気下で素体100を保持することで、ポリマー30に酸素を供給してもよい。酸素供給ステップS18における水蒸気の温度は、不活性焼成ステップS20及び酸素焼成ステップS22での加熱温度(第2温度及び第3温度)より低い。本実施形態に係る製造方法は、水蒸気雰囲気下において素体100を保持するため、ポリマー30の反応や界面層26の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができる。従って、この製造方法によると、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
また、酸素供給ステップS18における水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満である。この製造方法によると、この温度範囲で素体100を保持するため、ポリマー30の焼成や界面層26の除去を抑制しながら、ポリマー30に酸素を供給することができる。従って、この製造方法によると、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
また、ポリマー30は、繊維24と同じ材料のセラミックスを含む。このようなポリマー30を用いることで、セラミックス基複合材料102を好適に製造できる。
また、界面層26は、炭素を主成分とする層である。このような界面層26を用いることで、繊維24とポリマー30との接触を抑制して、セラミックス基複合材料102の強度低下を抑制することができる。
(実施例)
次に、本実施形態の実施例について説明する。実施例においては、図5に示した方法で素体100からセラミックス基複合材料102を製造した。また、比較例1として、800℃以上1300℃以下の温度範囲の大気雰囲気下で、素体100を焼成することで、セラミックス基複合材料102X1を製造した。また、比較例2として、800℃以上1300℃以下の温度範囲の窒素雰囲気下で、素体100を焼成した後、800℃以上1300℃以下の温度範囲の大気雰囲気下でさらに焼成することで、セラミックス基複合材料102X2を製造した。そして、実施例に係るセラミックス基複合材料102と、比較例1に係るセラミックス基複合材料102X1と、比較例2に係るセラミックス基複合材料102X2との、曲げ強度を測定した。
図10は、曲げ強度の測定結果を示すグラフである。図10に示すように、比較例1に係るセラミックス基複合材料102X1の曲げ強度を1とした場合、比較例2に係るセラミックス基複合材料102X2の曲げ強度は、約1.2となる。さらに、実施例に係るセラミックス基複合材料102の曲げ強度は、約1.7となる。このように、実施例のようにセラミックス基複合材料102を製造すると、曲げ強度の低下が抑制されることが分かる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
1 製造システム
10 繊維層
20 織布
24 繊維
26 界面層
30、30A ポリマー
30B マトリクス
100 素体
102 セラミックス基複合材料

Claims (7)

  1. 複数のセラミックス製の繊維、及び前記繊維の周囲を覆う界面層を有する織布に、酸化物系セラミックスの前駆体であるポリマーを含浸して素体を形成する含浸ステップと、
    前記素体に含まれる前記ポリマーに酸素を供給し、前記ポリマーを酸化させる酸素供給ステップと、
    前記酸素供給ステップの後に、前記素体を不活性ガス雰囲気下で加熱することで、前記ポリマーを反応させてマトリクスを形成する不活性焼成ステップと、
    前記酸素供給ステップ及び前記不活性焼成ステップの後に、前記素体を酸素雰囲気下で加熱することで、前記界面層を除去して、前記繊維同士の間に前記マトリクスが配置されるセラミックス基複合材料を生成する酸素焼成ステップと、
    を有する、セラミックス基複合材料の製造方法。
  2. 前記酸素供給ステップにおいて、酸素雰囲気下において前記素体を加熱することで、前記ポリマーに酸素を供給し、
    前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低い、請求項1に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
  3. 前記酸素供給ステップにおける前記素体の加熱温度は、200℃以上、600℃未満である、請求項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
  4. 前記酸素供給ステップにおいて、水蒸気雰囲気下で前記素体を保持することで、前記ポリマーに酸素を供給し、
    前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、前記不活性焼成ステップ及び前記酸素焼成ステップでの加熱温度より低い、請求項1に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
  5. 前記酸素供給ステップにおける前記水蒸気の温度は、80℃以上、200℃未満である、請求項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
  6. 前記ポリマーは、前記繊維と同じ材料のセラミックスを含む、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
  7. 前記界面層は、炭素を主成分とする層である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
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