次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。初めに図1を参照して、本実施形態の排気ガス浄化装置8を備える船舶1について説明する。図1は、船舶1の概略側面図である。
図1に示すように、本実施形態の船舶1は、船体2と、船体2の船尾側に設けられた船橋3と、当該船橋3の後方に設けられた煙突4と、船体2の後方下部に設けられたスクリュー5及び舵6と、を備えている。
船体2の内部には、エンジン10と、減速機9と、が配置されている。エンジン10は、船舶1を推進したり発電機を駆動したりするための駆動力を発生するディーゼルエンジンである。エンジン10が発生した駆動力は、減速機9によって減速された後にスクリュー5の回転軸へ伝達される。
エンジン10で発生した排気ガスは、排気経路7を介して煙突4から外部へ排出される。排気経路7には、排気ガス浄化装置8が設けられている。排気ガス浄化装置8は、エンジン10で発生した排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)を選択触媒還元により浄化することができる。
本実施形態のエンジン10は、推進用及び発電用を兼ねているが、推進用のエンジンと発電用のエンジンが個別に設けられる構成であってもよい。また、エンジンはディーゼルエンジンに限られず、例えばディーゼルモードとガスモードを切替可能なデュアルフューエルエンジンであってもよい。
次に、エンジン10の構成について、図2及び図3を参照して説明する。図2に示すように、エンジン10は、吸気部20と、動力発生部30と、排気部40と、を主要な構成として備える。また、エンジン10は、図3に示すエンジン制御装置60によって制御される。
エンジン制御装置60は、公知のコンピュータとして構成されており、CPU等の演算装置、フラッシュメモリ等の記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及びエンジン10の制御に関するデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、エンジン制御装置60はエンジン10を制御する。
吸気部20は、外部から空気を吸入する。吸気部20は、吸気管21と、スロットル弁22と、吸気マニホールド23と、過給機24と、を備える。なお、スロットル弁22及び過給機24の少なくとも一方を省略することもできる。
吸気管21は、吸気通路を構成し、外部から吸入された空気をエンジン内部に向かって供給する。
スロットル弁22は、吸気通路の中途部に配置されている。スロットル弁22は、ユーザの操作又はエンジン制御装置60の指令等に応じて開度を変更することにより、吸気通路の断面積が変化する。これにより、吸気マニホールド23へ供給する単位時間あたりの空気量を調整することができる。
吸気マニホールド23は、吸気流れ方向において、吸気管21の下流側端部に接続されている。吸気マニホールド23は、吸気管21を介して供給された空気を動力発生部30へ供給する。具体的には、動力発生部30は、複数のシリンダ31と、各シリンダ31に形成された燃焼室32と、を備える。吸気マニホールド23は、吸気管21を介して供給された空気をシリンダ31の数に応じて分配し、それぞれの燃焼室32へ供給する。
動力発生部30は、各シリンダ31に形成された燃焼室32において、燃料を燃焼させることによって、ピストンを往復運動させる動力を発生する。具体的には、動力発生部30は、更に、コモンレール33と、インジェクタ34と、を備える。コモンレール33は、図略の燃料タンクから供給された燃料を高圧で蓄える。インジェクタ34は、シリンダ31毎に配置されている。インジェクタ34は、吸気マニホールド23から供給された空気が燃焼室32で圧縮された後に、コモンレール33から供給された燃料を燃焼室32に噴射する。これにより、燃焼室32で燃焼が発生し、ピストンを上下往復運動させることができる。こうして得られた動力は、クランク軸等を介して、動力下流側の適宜の装置へ伝達される。
エンジン10には、図3に示すように、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ61が設けられている。エンジン回転速度センサ61は、例えば、クランク軸の回転を検出するクランクセンサとして構成され、エンジン10の回転速度を検出する。エンジン回転速度センサ61により検出されたエンジン回転速度は、エンジン制御装置60へ出力される。
過給機24は、図2に示すように、タービン25と、シャフト26と、コンプレッサ27と、を備える。コンプレッサ27は、シャフト26を介してタービン25と連結されている。このように、燃焼室32から排出された排気ガスを利用して回転するタービン25の回転に伴って、コンプレッサ27が回転することにより、図略のエアクリーナによって浄化された空気が圧縮され強制的に吸入される。
排気部40は、燃焼室32内で発生した排気ガスを外部に排出する。排気部40は、排気管41と、排気マニホールド42と、上述の排気ガス浄化装置8と、を備える。
排気管41は、排気通路を構成し、燃焼室32から排出された排気ガスをエンジン外部に向けて排出する。
排気マニホールド42は、排気ガス流れ方向において、排気管41の上流側端部に接続されている。排気マニホールド42は、各燃焼室32で発生した排気ガスをまとめて排気管41へ導く。
排気マニホールド42には、排気温度を検出する排気温度センサ62が設けられている。排気温度センサ62により検出された排気温度はエンジン制御装置60へ出力される。なお、排気温度センサ62は、排気管41から構成された排気ガス通路の他の位置(例えば排気管41又は排気ガス浄化装置8の内部)に設けられていてもよい。
排気ガス浄化装置8は、排気ガスの後処理を行う装置である。排気ガス浄化装置8は、排気ガス内に含まれるNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)等の有害成分及び粒子状物質(Particulate Matter、PM)を除去することによって、排気ガスを浄化する。排気ガス浄化装置8は、排気管41の中途部に配置される。
排気ガス浄化装置8は、DPF装置51と、SCR装置(選択触媒還元装置)52と、を備える。DPFは、Diesel Particulate Filterの略称である。SCRは、Selective Catalytic Reductionの略称である。
DPF装置51は、図略の酸化触媒、フィルタを介して、排気ガスに含まれる一酸化炭素、一酸化窒素、粒子状物質等を除去する。酸化触媒は、白金等で構成され、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化(燃焼)するための触媒である。フィルタは、酸化触媒より排気ガスの下流側に配置され、例えばウォールフロー型のフィルタとして構成される。フィルタは、酸化触媒で処理された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集する。
SCR装置52は、尿素混合管53と、尿素水噴射装置(還元剤噴射装置)54と、尿素水タンク(還元剤タンク)55と、触媒収容部56と、を備える。また、尿素水噴射装置54は、図3に示すSCR制御装置69によって制御される。なお、還元剤は、還元作用を有していれば、尿素水に限られず、他の物質を用いることができる。
SCR制御装置69は、エンジン制御装置60と同様、演算装置、記憶装置、及び入出力部等を備えたコンピュータである。また、エンジン制御装置60とSCR制御装置69は、例えば公知のCAN(Controller Area Network)等の規格によって互いに通信可能である。
尿素混合管53は、DPF装置51の出口管と、SCR装置52の入口管と、を連結する。尿素混合管53には、尿素水噴射装置54が取り付けられている。尿素水噴射装置54は、尿素水タンク55から供給された尿素水(還元剤)を尿素混合管53に噴射する。これにより、尿素混合管53内において、尿素が熱分解及び加水分解されて、NOx還元に必要なアンモニアが生成される。
尿素水タンク55には、尿素水温度(還元剤温度)を検出する尿素水温度センサ(還元剤温度センサ)67が設けられている。尿素水温度センサ67により検出された尿素水温度は、SCR制御装置69へ出力される。
また、船舶が寒冷地を航行する場合、尿素水が凍結する可能性がある。そのため、本実施形態では、エンジン冷却水を用いて尿素水を解凍するための解凍用経路11が設けられている。解凍用経路11は、例えばエンジン10の冷却水タンクと、尿素水タンク55と、を接続する。エンジン冷却水が解凍用経路11を流れることによって、尿素水タンク55に貯留されている尿素水とエンジン冷却水が熱交換を行い、その結果、尿素水が加温される(加温処理)。この加温処理が行われて尿素水が加温されることで、尿素水を解凍したり、再凍結を防止したりすることができる。また、解凍用経路11には、エンジン冷却水の供給の有無を切り替えるバルブが設けられている。このバルブの開閉を切り替えることで、加温処理の有無を切り替えることができる。
エンジン10(例えば冷却水タンク)にはエンジン冷却水温度センサ63が設けられている。エンジン冷却水温度センサ63により検出されたエンジン冷却水温度は、エンジン制御装置60へ出力される。
触媒収容部56には、SCR触媒とスリップ触媒が収容されている。SCR触媒は、アンモニアを吸着するセラミック等の素材から構成される。排気ガスに含まれるNOxは、アンモニアを吸着したSCR触媒に触れることで還元され、窒素と水に変化する。スリップ触媒は、アンモニアが外部へ放出されることを防止するために用いられる。スリップ触媒は、アンモニアを酸化させる白金等の触媒であり、アンモニアを酸化させて窒素と水に変化させる。触媒収容部56を通過した排気ガスは、排出管を介して外部へ排出される。
また、触媒収容部56には、1又は複数のNOxセンサ68が設けられている。NOxセンサ68により検出されたNOx濃度は、SCR制御装置69へ出力される。SCR制御装置69は、NOxセンサ68により検出されたNOx濃度及び他のセンサにより検出されたデータに基づいて、尿素水噴射装置54の噴射量を決定する。
図3に示すように、船舶1には、操作装置71と、操船制御装置72と、が設けられている。
操作装置71は、ユーザが船舶1に関する操作(即ち船舶1を発進、旋回、停止させる操作や、各種事項を設定する操作)を行うための装置である。操作装置71としては、例えば、設定を行うための操作パネル71a、舵6を動かして船舶1を旋回させるためのジョイスティックレバー71b、エンジン回転速度及び変速比等を変更して船速を調整するためのアクセルレバー71c等がある。また、操作装置71には、エンジン10を始動又は停止するエンジン操作部、エンジン10が発生した駆動力をスクリュー5に伝達する伝達状態か伝達しない中立状態(ニュートラル、遮断状態)か否かを切り替えるクラッチ操作部等も含まれている。
操船制御装置72は、エンジン制御装置60及びSCR制御装置69と同様、演算装置、記憶装置、及び入出力部等を備えたコンピュータである。操船制御装置72は、操作装置71に行われた操作に応じて、船舶1の各部に指令を伝達する。また、エンジン制御装置60、SCR制御装置69、及び操船制御装置72は、例えばCAN等の規格によって互いに通信可能である。
船舶1には、船舶1の速度(船速)を検出する船速センサ73が設けられている。船速センサ73は、例えばGNSS受信機を含んでおり、GNSS受信機から得られる船舶1の位置変化に基づいて、船速を検出する。船速センサ73が検出した船速は、操船制御装置72へ出力される。
次に、図4を参照して、アイドルアップ制御について説明する。アイドルアップ制御とは、尿素水(還元剤)が凍結した場合において、エンジン10のアイドル回転速度を上昇させることでエンジン冷却水温度を上昇させて、尿素水をより早く解凍する制御である。また、本実施形態では、エンジン系、排気浄化装置系、操船系で相互に情報をやり取りできる。そのため、適切なタイミングでアイドルアップ制御を行うことができる。
本実施形態では、アイドルアップ制御は、エンジン10の始動時、及び始動完了後の何れにおいても実行可能である。ただし、アイドルアップ制御が行われるタイミングは特に限定されず、例えばエンジン10の始動時のみにアイドルアップ制御を行う構成であってもよい。
アイドルアップ制御に関する処理を行う装置をまとめて排気ガス浄化システム100と称する。排気ガス浄化システム100は、例えば、SCR装置52と、解凍用経路11と、エンジン制御装置60と、を備える。なお、本実施形態では、アイドルアップ制御に関する演算は、主にエンジン制御装置60によって行われるが、それに代えて、少なくとも一部の演算がSCR制御装置69等によって行われてもよい。
以下、図4に示すアイドルアップ制御の各処理について説明する。このフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。
エンジン制御装置60は、エンジン10の始動時又は始動完了後において、尿素水が凍結状態か否かを判定する(S101)。エンジン制御装置60は、SCR制御装置69を介して、尿素水温度を取得する。エンジン制御装置60は、尿素水温度に基づいて尿素水の少なくとも一部が凍結状態か否かを判定する。具体的には、エンジン制御装置60は、尿素水の凍結温度(融点)に基づく閾値よりも尿素水温度が低い場合、凍結状態と判定する。
また、尿素水温度に代えて又は加えて外気温度に基づいて、尿素水が凍結状態か否かを判定しても良い。外気温度は、エンジン10の熱の影響を受けない箇所(例えばエンジン制御装置60)に配置された外気温度センサによって検出される。また、外気温度を用いることで、尿素水の加温処理を止めた場合に尿素水が凍結するか否かについても判定できる。尿素水の状態としては、例えば、凍結状態、保温状態、通常状態がある、凍結状態とは、尿素水の少なくとも一部が凍結している状態である。保温状態とは、尿素水が液体であるが外気温度が低いため再凍結の可能性がある状態である。通常状態とは、外気温度が十分に高いため、尿素水の加温処理を行わなくても凍結の可能性がない状態である。そのため、尿素水が凍結状態でない場合、外気温度に基づいて、尿素水が保温状態か通常状態かを判定できる。なお、外気温度のみに基づいて、尿素水が凍結状態か否かを判定することもできる(例えば、エンジン始動時に外気温度が尿素水の凍結温度よりも低い場合は、尿素水が凍結状態の可能性が高い等)。また、外気温度と時間の両方に基づいて、尿素水が凍結状態か否かを判定してもよい。例えば、外気温度が、尿素水の凍結温度に基づく閾値を下回った状態が、所定時間続いた場合に、尿素水が凍結していると判定される。
尿素水が凍結状態でない場合は、アイドルアップ制御は不要であるため、これ以降の処理を行わない。なお、エンジン始動完了後に尿素水が凍結する可能性もあるため(例えば外気温度が低い環境で加温処理を長時間止めていた場合等)、ステップS101の判定は所定時間毎に行われる。
尿素水が凍結状態である場合、エンジン制御装置60は、推進用の動力伝達が中立状態か否かを判定する(S102)。エンジン制御装置60は、操船制御装置72を介して、操作装置71の操作状態(又はクラッチセンサ等の検出結果)を取得する。そして、クラッチが中立状態(エンジン10の駆動力がスクリュー5に伝達されない状態)であるか否かを判定する。
クラッチが中立状態でなく伝達状態である場合は、エンジン回転速度の上昇により船舶1の速度が変化する可能性がある。また、例えば船舶1を用いて漁を行う場合、トローリング時は低いエンジン回転速度を維持することが好ましい。他にも、船舶1を着岸させるときや、船舶1が停泊しているとき(現時点では殆ど動いていないが、すぐに動き出す可能性があるとき)も、低いエンジン回転速度を維持することが好ましい。このように、クラッチが伝達状態である場合は、エンジン回転速度を上昇させることが好ましくない場合があるため、アイドルアップ制御を行わない。つまり、通常のアイドル回転速度でエンジン10を回転させつつ、加温処理を行って尿素水を解凍する(S106)。
クラッチが中立状態である場合、エンジン制御装置60は、航行条件を満たすか否かを判定する(S103)。航行条件とは、船舶1の航行に関する条件である。例えば、現在の船速が低速である場合、クラッチを伝達状態とすることで船舶1が意図しない速度になることがある。従って、現在の船速が閾値以上という航行条件を設定することができる。この種の航行条件を設定する場合、ステップS102の処理を省略してもよい。なお、船速に代えてエンジン回転速度についての条件が設定されていてもよい。あるいは、「船舶1で何らかの作業(例えば漁)が行われていない」という航行条件を設定し、各種装置の動作状況に基づいて当該航行条件を満たすか判定してもよい。
航行条件を満たさない場合は、アイドルアップ制御が行われずに尿素水が解凍される(S106)。一方、航行条件を満たす場合、エンジン制御装置60は、アイドルアップ制御が禁止設定か否かを判定する(S104)。ユーザは、操作装置71(例えば操作パネル71a)を操作することで、アイドルアップ制御を禁止する禁止設定と、アイドルアップ制御を許可する許可設定と、を切り替えることができる。禁止設定の場合は、他の状況にかかわらずアイドルアップ制御は行われない。許可設定の場合は、他の条件を満たす場合に、アイドルアップ制御が行われる。現在の設定は、操船制御装置72又はエンジン制御装置60に記憶される。エンジン制御装置60は、現在の設定を読み出すことで、禁止設定か否かを判定する。
現在の設定が禁止設定の場合は、アイドルアップ制御が行われずに尿素水が解凍される(S106)。一方、現在の設定が許可設定の場合は、エンジン制御装置60は、アイドルアップ制御の禁止時間帯か否かを判定する(S105)。ユーザは、操作装置71(例えば操作パネル71a)を操作することで、アイドルアップ制御を禁止する禁止時間帯を設定することができる。禁止時間帯は、例えば騒音の影響を考慮して、夜間が設定される。禁止時間帯の場合は、他の状況にかかわらずアイドルアップ制御は行われない。また、禁止時間帯を設定する構成に代えて、許可時間帯を設定する構成であってもよい。
また、時間帯に代えて又は加えて、船舶1の現在の位置に関する条件をユーザが設定可能であってもよい。船舶1の現在の位置は、図略のGNSSセンサ等に基づいて検出できる。例えば、船舶1が所定の禁止位置にある場合、他の状況にかかわらずアイドルアップ制御は行われない。禁止位置としては、例えば騒音の影響を考慮して、港湾の近傍が設定される。また、位置と時間帯を関連付けて条件を設定してもよい。例えば、現在が夜間であって、かつ、船舶1が港湾の近傍にある場合にアイドルアップ制御を禁止してもよい(つまり、昼間であれば港湾の近傍でもアイドルアップ制御を許可する)。また、港湾の近傍以外にも、例えば排気ガス規制領域に基づいて、禁止位置を設定してもよい。つまり、排気ガス規制が比較的厳しくない地域では、尿素水を早急に解凍する必要はないので、禁止位置とすることができる。また、禁止位置を設定する構成に代えて、許可位置を設定する構成であってもよい。
上述した条件を全て満たす場合、アイドルアップ制御が行われる。アイドルアップ制御の目的は、エンジン冷却水温度をより早く上昇させることにある。言い換えれば、エンジン冷却水温度が十分に高い場合、たとえ尿素水の解凍が完了していなくても、これ以上エンジン冷却水温度を上昇させる必要がない(エンジン冷却水と尿素水の熱交換を待てばよい)。従って、アイドルアップ制御は、エンジン冷却水温度に基づいて行うことが好ましい。
ただし、例えば、エンジン冷却水温度センサ63の出力結果を伝送する電線が断線したりコネクタが外れた場合、エンジン制御装置60がエンジン冷却水温度を取得できない。また、エンジン制御装置60がエンジン冷却水温度を取得できている場合であっても、エンジン冷却水温度センサ63の故障によって、明らかに高い又は低いエンジン冷却水温度が検出されることもある。このように、適切なエンジン冷却水温度が検出されない場合は、エンジン冷却水温度を用いたアイドルアップ制御を行うことができない。この場合、エンジン制御装置60は、エンジン冷却水温度に代えて、尿素水温度を用いてアイドルアップ制御を行う。
アイドルアップ制御を行うための条件を全て満たす場合、エンジン制御装置60は、適切なエンジン冷却水温度を検出可能か否かを判定する(S107)。適切なエンジン冷却水温度を検出可能な場合、エンジン制御装置60は、エンジン冷却水温度及び排気温度を用いて、アイドルアップ制御を行う。
具体的には、エンジン制御装置60は、エンジン冷却水温度/排気温度マップ(以下、通常マップ)を用いて、目標エンジン回転速度を算出する(S108)。通常マップは、エンジン冷却水温度及び排気温度を入力として、目標エンジン回転速度を出力するマップである。通常マップの傾向としては、例えば、エンジン冷却水温度が低い場合は、早く昇温させるために高い目標エンジン回転速度が出力され易い。また、排気温度が高い場合は、尿素水噴射装置54等の損傷を防止するために低い目標エンジン回転速度が出力され易い。ただし、エンジン冷却水温度が低く排気温度が高い場合は、尿素水噴射装置54の損傷の防止を優先して、低い目標エンジン回転速度が出力され易い。なお、エンジン冷却水温度又は排気温度によっては、目標エンジン回転速度として通常のアイドル回転速度が出力される(言い換えれば、アイドルアップ制御を行わない)構成であってもよい。
本実施形態では、マップを用いて目標エンジン回転速度を算出するが、他の方式を用いて目標エンジン回転速度を算出する構成であってもよい。他の方式としては、目標エンジン回転速度と排気温度を代入することで、目標エンジン回転速度が算出される演算式がある。あるいは、エンジン冷却水温度のみに基づいて目標エンジン回転速度を算出し、排気温度が閾値以下の場合は目標エンジン回転速度をそのまま出力し、排気温度が閾値を超える場合は算出した目標エンジン回転速度ではなく通常のアイドル回転速度を出力する方式であってもよい。
エンジン制御装置60は、算出された目標エンジン回転速度に近づくように(例えばインジェクタ34を制御して燃料噴射量を増加させて)、エンジン回転速度(アイドル回転速度)を変更する(S110)。
このように、エンジン冷却水温度と排気温度の両方に基づいて目標エンジン回転速度を算出することで、エンジン冷却水温度が低い場合により早く昇温する一方で、排気温度が過剰に上昇しないのでSCR装置52(特に尿素水噴射装置54)を損傷しにくくすることができる。
また、ステップS107において、適切なエンジン冷却水温度を検出できないと判定した場合、エンジン制御装置60は、尿素水温度/排気温度マップ(以下、予備マップ)を用いて、目標エンジン回転速度を算出する(S109)。予備マップは、エンジン冷却水温度の代わりに尿素水温度が設定されているだけで、マップの傾向は通常マップと同じである。
また、図4の処理は繰り返し行われるため、現在のエンジン冷却水温度、排気温度、尿素水温度等に基づいて、より適切な目標エンジン回転速度が算出されて、アイドル回転速度が変化する。また、アイドルアップ制御の途中で、アイドルアップ制御を行うための条件を満たさなくなった場合(例えばユーザが許可設定から禁止設定に切り替えた場合)、アイドルアップ制御は中止されるので、エンジン回転速度が通常のアイドル回転速度まで低下する。
以上に説明したように、本実施形態の排気ガス浄化システム100は、SCR装置52と、解凍用経路11と、エンジン制御装置60と、を備える。SCR装置52は、船舶1に配置され、尿素水を噴射する尿素水噴射装置54を有する。解凍用経路11は、SCR装置52に貯留されている尿素水を、エンジン冷却水を用いて解凍する。エンジン制御装置60は、尿素水が凍結していると判定した場合に、エンジン冷却水温度と、エンジン10の排気温度と、に基づいて、目標エンジン回転速度を算出し、アイドル回転速度を当該目標エンジン回転速度に近づけるアイドルアップ制御を行う。
これにより、エンジン冷却水温度と排気温度の両方に基づいてアイドルアップ制御が行われるので、尿素水の解凍に適した温度に近づくようにエンジン冷却水を上昇させるだけでなく、急激な排気温度の上昇によるSCR装置52(特に尿素水噴射装置54)の損傷を防止できる。
また、本実施形態の排気ガス浄化システム100において、エンジン制御装置60は、エンジン冷却水温度が検出できない場合、又は、エンジン冷却水温度を検出するエンジン冷却水温度センサ63が故障していると判定した場合に、エンジン冷却水温度に代えて尿素水温度を用いて、目標エンジン回転速度を算出する。
これにより、適切なエンジン冷却水温度が検出できない場合であっても、代わりに尿素水温度を用いることで、適切な目標エンジン回転速度を算出してアイドルアップ制御を行うことができる。
また、本実施形態の排気ガス浄化システム100において、エンジン制御装置60は、船舶1に設けられた操作装置71に対して行われた操作に基づいて、アイドルアップ制御を行うか否かの判定を行う。
これにより、操船者の意図に反しない状況でアイドルアップ制御を行うことができる。
また、本実施形態の排気ガス浄化システム100において、操作装置71は、アイドルアップ制御を許可する許可設定とアイドルアップ制御を禁止する禁止設定を切り替える装置である。エンジン制御装置60は、現在の設定が許可設定か禁止設定かに基づいて、アイドルアップ制御を行うか否かの判定を行う。
これにより、操船者が許可した場合にのみアイドルアップ制御を行うことができるので、操船者が意図しない状況でアイドルアップ制御が行われることを防止できる。
また、本実施形態の排気ガス浄化システム100において、操作装置71は、アイドルアップ制御の実行が許可される許可時間帯、又は、アイドルアップ制御の実行が禁止される禁止時間帯を設定する装置である。エンジン制御装置60は、現在の時刻が許可時間帯又は禁止時間帯に属するか否かに基づいて、アイドルアップ制御を行うか否かの判定を行う。
これにより、特定の時間帯でアイドルアップ制御を許可又は禁止することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
エンジン10は、EGR装置を更に備えていてもよい。この場合、EGRガス温度センサの検出値を排気温度として用いることができる。
上記実施形態では、適切なエンジン冷却水温度を検出できない場合、代わりに尿素水温度を用いてアイドルアップ制御を行う。これに代えて、尿素水温度を用いてアイドルアップ制御を行うか、アイドルアップ制御を行わないかを設定可能であってもよい。