〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
(検査装置100の構成)
図1は、対象物1を測定して臼および杵の不良を検査する検査装置100の構成を示す図である。図1に示すように、検査装置100は、光源2、レンズ6、検出部7、金属探知機9および制御装置10を備える。検査装置100は、支持部5に載置されている対象物1を測定する。本実施形態では支持部5は対象物1を製造する製造装置に含まれるものであって、検査装置100に含まれるものではない。ただし、支持部5は検査装置100に含まれていても構わない。なお、本実施形態では、支持部5の回転状態を示す信号が、支持部5を制御するシーケンサーから制御装置10へ出力されている。また、検査装置100は、検査に関する情報などを表示するためのモニター(不図示)をさらに備えていてもよい。
対象物1は、検査装置100の検査対象となる物体であり、粉体が圧縮成形されて形成されたものである。対象物1は、例えば錠剤である。対象物1は、例えば複数の臼と、当該臼内に順次充填された原料粉末を上下に圧縮して錠剤を成形する複数の上杵および下杵とを備える製造装置によって成形されている。以下の説明では、上杵および下杵を総称して、単に「杵」と称する。当該製造装置において、複数の臼は、例えば回転盤上において、同一の円の円周上に位置するように配設されていてもよい。また、杵は、回転盤とともに回転する。このため、当該製造装置において、臼と杵の組み合わせは常に変わらない。
対象物1の形状は、円筒形状に限定されず、どのような形状であってもよい。対象物1は固形に成形されたものであれば、錠剤などの医薬品、サプリメントなどの医薬部外品、錠菓などの食品、その他化粧品、農薬、飼料、食料等であってもよい。また、原料粉末に含まれるものとしては、賦形剤として使われることが多い乳糖、セルロース、スターチ、または滑沢剤として使われる事が多いステアリン酸マグネシウムなどが想定される。
検査によって所定の成分として検出すべきものとしては、例えば医薬品であればアセトアミノフェン、イブプロフェンまたはインドメタシンなどの有効成分や主薬が想定される。その他、食品に含まれる栄養分や化粧品の成分など、所定の成分はユーザーの必要性に応じて適宜選ばれてよい。本実施形態では医薬品によく用いられる鎮痛剤のアセトアミノフェンを想定している。
光源2は、複数の対象物1のそれぞれに対して検査光3を継続的または断続的に照射する光源であり、例えば、ハロゲンランプであってよい。検査光3は、対象物1の全体が検査光3のスポット4(照射範囲)に含まれる状態が、当該対象物1の検査中に、少なくとも一時的に発生するように照射される。
検査光3のピーク波長は、たとえば600nm以上2500nm以下であってよい。検査光3のピーク波長は、この範囲内に限られないが、この波長域においては、粉末からなる対象物1を透過しやすく、かつ、紫外線を照射したときのように対象物1を損傷させることがないので、好ましい。
さらに、検査光3のピーク波長は、たとえば800nm以上1800nm未満であってよい。特に医薬品の場合、有効成分が錠剤に含まれる量はごく微量であって、溶解時間の調整や服用を助けるといった目的のために有効成分以外の結晶セルロースやスクロース、スターチなどの粉末が大量に使用される。検査光3の波長の1800nm以上の波長帯にはこうした有効成分以外の大きな光吸収のピークがあるせいで対象物1を透過する光の強度が極めて弱くなってしまい、測定したい成分の信号に対するノイズが多くなってしまう。こうした信号品質の良くない波長帯のデータは検査精度を悪化させることがあるため、算出に使用しない事が望ましい。また、波長が短すぎたり長すぎたりすると光散乱、吸収などによる光損失が大きくなってしまう。そのため、検査光3のピーク波長としては800nm以上1800nm未満であることが好ましい。
本実施形態では光源2の一例としてハロゲンランプを挙げたが、光源2の種類はこれに限らず他の種類のランプなどであってもよい。光源2はたとえばタングステンランプ、蛍光体、LED、レーザのいずれかであってもよい。
支持部5は、対象物1を支持する部材であり、対象物1を透過した透過光8を通過させる開口部(図示せず)を有している。支持部5としては円盤のほか直線状のベルトコンベヤなどが利用可能である。支持部5は図示しない複数の対象物1を搬送している。本実施形態においては、支持部5は対象物1を製造する製造装置の一部であり、特に、支持部5が円盤型であり、高速回転により短時間で大量の対象物1が生産される場合には、臼または杵への粉末の付着や臼または杵の変形といった不良が短時間で起こりやすい。そのような場合には、本開示による臼と杵の検査が特に重要になる。
対象物1が円盤型または扁平な球形である場合には、支持部5が有する開口部の内径は、対象物1の外径より小さい。また、支持部5には、対象物1を1個ずつ挿入するための凹部が形成されていてもよい。また、支持部5には、対象物を固定するための吸着部などの固定機構が形成されていても良い。
また、開口部は、実際に開口していなくても、光学的に透過光8を通過させるような材料を用いて光学的に開口していてもよい。すなわち、支持部5における対象物1を載置する箇所は、光を透過する波長特性を有する透明部材で形成されていてもよい。当該透明部材の材料としては、たとえば、石英ガラス、または、合成石英ガラスを採用することができる。その場合、当該開口部の内径は、対象物1の外径以上であってもよい。
光源2と支持部5とは相対的に移動する。光源2が移動してもよいし、支持部5が移動してもよい。本実施形態では、光源2の位置が固定されており、支持部5が図1における矢印110の方向に回転するものとする。そのため、支持部5は、対象物1を搬送する移動機構として機能する。具体的には、支持部5には成形済みの対象物1が順次供給され、支持部5は供給された対象物1を連続的にスポット4の位置(換言すれば、検出部7による検査位置)に搬送する。
レンズ6は、透過光8を検出部7に向けて光学的に接続するための光学部材であり、支持部5の下側、かつ支持部5の開口部または透明部材と同軸となる位置に配置されている。レンズ6としては例えばコリメートレンズを用いれば透過光8を平行光として光ファイバに導光することができるので、その光ファイバに接続された検出部7に透過光8を導光することができる。
検出部7は、対象物1を通過した透過光8の強度を示す分光データを、所定のタイミングで取得する装置である。分光データは、透過光8の波長ごとの強度を示すデータの集合である。本実施形態では、検出部7は、受光した光のスペクトルを分光データとして測定する分光器である。検出部7として、例えばポリクロメータ式の分光器を用いることとしてよい。ポリクロメータ式の分光器においては、各波長に分光するプリズムの先に受光素子が多数並んでおり、各波長光を同時に測定できる。ポリクロメータ式の分光器は、測定時間が高速である利点を有する。ポリクロメータには、受光素子とプリズムとを用いた方式のものや、CCD(Charge Coupled Device)を用いた方式のものなどがある。ポリクロメータの種類は、検査装置の構成や測定する対象物1の種類、光の波長などに応じて適宜選択される。本実施形態では、一例として、CCDよりも精度の良いInGaAS受光素子とプリズムとを組み合わせた方式を用いる。
なお検出部7は、分光器を備えるとは限らない。検出部7は、たとえばフォトダイオード、フォトトランジスタ、アバランシェフォトダイオード、光電子倍増管のいずれかを備える構成であってもよい。検出部7における受光素子の個数、配置などは、異物検査装置の構成、測定すべき対象物の種類、用いられる光の波長などに応じて適宜選択される。これ以降、検出部7が測定するデータを単に「分光データ」と称することがある。分光データには分光器に限らず上記の様々な装置において検出される光のデータが含まれる。
なお、対象物1を透過した光を、光ファイバなどの光学部材を用いて検出部7に導いてもよい。
上述したとおり、検出部7は、対象物1を通過した透過光8の強度を示す分光データを、所定のタイミングで取得する。所定のタイミングは検査に応じてユーザーが適宜決定して良く、常に透過光8を測定してもよいが、間欠的に測定を行う形態でもよい。検査の対象物1が検査位置に来たタイミングに合わせて測定を開始し、検査光3の走査が終われば測定を止めて次の検査の対象物1が検査位置に来た時にまた測定を開始する。
検査の対象物1が検査位置に来たタイミングで測定するには、例えば支持部5を制御するシーケンサーから、測定のトリガーにできる制御信号を制御装置10が受け取れば良い。制御装置10は外部から受け取ったトリガーによって測定タイミングを知ることができ、そして制御装置10が検出部7にトリガーに合わせて測定の指示を出すことで対象物1が検査位置に来たタイミングで測定を行う事ができる。なお、このシーケンサーについて、使用者は、対象物1の搬送形態に合わせてシーケンサー20と同一にするか別に設けるかを選ぶことができる。
このように必要な時間だけ測定することで、不良品の排除指示を出すまでの時間を短縮することができる。また、現時点の検査の対象物1の分光データと次の検査の対象物1の分光データとを明確に区別するためにも、間欠的に測定を行うことが好ましい。
本実施形態では、光源2は点灯・消灯に時間がかかるハロゲンランプであるため、常時点灯させておいたほうが好ましい。そのため、制御部11は、検出部7の測定を間欠的に行うよう検出部7を制御する。なお、検出部7の測定を連続的にしておいて制御装置10の内部での信号処理でデータの取得を間欠的に行う事でも、同様に間欠的な測定を行う事が可能である。また、点灯・消灯に時間のかからない光源であれば、光源2からの検査光3をパルス状に照射するよう制御してもよい。また、光源2にシャッターを設けることで、光源2を点灯させた状態のままで、検査光3を間欠的に照射することも可能である。
金属探知機9は、対象物1に含まれる金属を検出する装置である。金属探知機9は、例えばX線または磁力により金属を検出する装置であってもよい。図1においては、金属探知機9は、光源2と一体に設けられている。ただし、金属探知機9は、光源2と別体であってもよい。
制御装置10は、光源2および検出部7などを制御する装置である。制御装置10は、制御部11および記憶部12を備えている。また、制御装置10は、支持部5を移動させる駆動機構を制御しても構わない。制御部11は、第1判定部11a、第2判定部11bおよび第3判定部11cを備える。制御部11による各処理は、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)によって実現されてもよい。
第1判定部11aは、検出部7によって得られる第1分光データ、または金属探知機(異物探知機)からの出力信号に基づいて、対象物1に異物が混入しているか否かを判定する。第1分光データに基づく判定の方法については後述する。
第2判定部11bは、透過光8の強度を示す第2分光データに基づいて、対象物1に含まれる所定の成分の含量を算出し、その算出値が所定の範囲内にあるか否かを判定する。所定の範囲とは、対象物1における所定の成分の含量の、適切な範囲である。
所定の成分および所定の範囲については、対象物1の品目により対象物1の製造者が定める事ができる。例えば対象物1が鎮痛剤であれば、所定の成分とはアセトアミノフェン、イブプロフェンまたはインドメタシンなどの薬品であり、所定の範囲は上記所定の成分を人間が服用するべき重量に基づいて定められる範囲、例えば30~45重量%である。また例えば対象物1が食品であれば、所定の成分とは砂糖またはビタミンなどであり、所定の範囲は製造者が決めた対象物1の味または栄養分を実現できる含量の範囲、例えば20~25gである。なお含量は重量%であっても重量であってもよく、対象物1に応じて好適に装置の製造者もしくは使用者が決定できる。第2分光データに基づく含量の算出方法については後述する。
本実施形態では、第1分光データおよび第2分光データは互いに同一である。ただし、第1分光データのうち判定に使用する波長と第2分光データのうち含量の算出に使用する波長は必ずしも同一である必要は無く、それぞれの判定や算出に適した波長を選ぶことが好ましい。すなわち、第1判定部11aおよび第2判定部11bは、共通の分光データの少なくとも一部を用いて、異物が混入しているか否かの判定または含量の算出を行う。これにより、分光データの取得に要する時間を短縮できる。なお、第1判定部11aおよび第2判定部11bは、互いに共通でない分光データを用いて判定または算出を行ってもよい。
第3判定部11cは、第1判定部11aおよび第2判定部11bの判定結果に基づいて、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じているか否かを判定する。第3判定部11cは、対象物1における、異物の混入の有無、および所定の成分の含量の異常の有無、の両方に基づいて判定することで、臼および杵によって成形された検査対象物における、臼または杵の微細な不良に起因する異常を的確に判定できる。
本実施形態では、第3判定部11cは、対象物1に金属の異物が混入していると第1判定部11aが判定した場合に、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じていると判定する。また、第3判定部11cは、対象物1に異物が混入していないと第1判定部11aが判定し、かつ、含量の算出値が所定の範囲内にないと第2判定部11bが判定した場合にも、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じていると判定する。また、第3判定部11cは、対象物1に異物の混入以外の異常が生じていると第1判定部11aが判定し、かつ、含量の算出値が所定の範囲内にないと第2判定部11bが判定した場合にも、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じていると判定する。対象物1に異物が混入した場合、当該異物に起因して所定の成分の含量に異常があると判定される場合がある。これを鑑みて、検査装置100においては、対象物1に異物が混入していると第1判定部11aが判定した場合、および、対象物1に異物が混入していないと第1判定部11aが判定し、かつ、含量の算出値が所定の範囲内にないと第2判定部11bが判定した場合に、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じていると判定する。したがって、対象物1に異物の混入が生じた場合と、所定の成分の含量に異常が生じた場合とを区別できる。
記憶部12は、検査装置100による検査に必要な情報を記憶するためのものである。記憶部12には、第1判定部11aによる判定、および第2判定部11bによる算出のために用いられる算出モデルが予め記憶されている。その他、記憶部12は、例えば検出部7による測定データを一時的に記憶するための領域、制御装置10が実行する各種プログラム、これらのプログラムにおいて使用されるデータを記憶するための領域、これらのプログラムがロードされる領域、および、これらプログラムが実行される際に使用される作業領域などを備えている。ここでいう各種プログラムとは、たとえば、判定を行なうためのプログラム、計算アルゴリズム、データベースなどである。
(検査方法における作業の流れ)
本実施形態における検査装置に基づいて検査を行なう際の作業の流れについてより具体的に説明する。
検査を行なう前に予め、対象物1がある状態のときに照射光が対象物1を覆うようにピントを合わせておく。具体的には、照射光に垂直な面における対象物1の断面積の少なくとも80%を照射光が覆うように調整しておく。対象物1内部における情報を漏れなく得るために、対象物1の断面積の少なくとも100%を照射光が覆うことがより好ましい。
ただし、光の照射面積が照射光に垂直な面における対象物1の断面積より大きすぎると光の全体のうち無駄になる割合が大きくなるので、照射面積は対象物1よりやや大きい程度にする。具体的には、光の照射面積は、照射光に垂直な面における対象物1の断面積の、400%以下であることが好ましい。ここでは照射光に垂直な面における対象物1の断面積の100.1%とする。
制御部11は、検出部7で測定された光の強度を用いて、対象物1の状態を抽出するための算出を行なう。本実施形態では、対象物1の状態とは例えば所定の成分の含量や、対象物1の内部に異物が混入しているかによって判定される状態のことである。
また、検査装置100の後段にはシーケンサー20(PLC:プログラマブルロジックコントローラーとも呼ばれる)が設けられ、シーケンサー20のさらに後段には廃棄装置30が設けられている。シーケンサー20は、検査装置100が出力した警告信号および異常信号に基づき対象物1と当該対象物1を成形した臼および杵の組とを対応付ける。ここで、警告信号とは、対象物1の成形に用いられた臼または杵に不良が発生している可能性があることを示す信号である。異常信号とは、廃棄すべき対象物1を示す信号である。また、廃棄装置30は、検査装置100が出力した異常信号に基づき対象物1を廃棄するための装置である。
また、検査装置100は、警報装置40(報知装置)と通信可能に接続されている。制御部11は、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じていると第3判定部11cが判定した場合に、警報装置40により当該不良の発生を報知する。警報装置40は、アラーム(警報音)や回転灯により、検査装置100の使用者に警報を発する。なお、検査装置100は、不良の発生を報知するための、警報装置40とは別の報知装置を備えていてもよい。例えば対象物1を生産する生産装置の使用者が使用する制御盤またはモニターに警報を表示したり警報を鳴らしても良い。
(検査装置100における処理の流れ)
図2は、検査装置100における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
この検査方法は異物混入等の異常が発生していないかを検査するためのステップと、所定の成分の含量を算出するためのステップとを含む。
制御部11は、光源2により、検査光3の照射を開始する(S1)。ここでは、制御部11は常時検査光3を照射しているものとする。制御部11は、対象物1の全体がスポット4の範囲に入るタイミングで検出部7による透過光8の検出を開始し、予め決められた時間の後に測定を終了する(S2)。本実施形態では製造装置による対象物1の生産のボトルネックとならないよう、対象物1の生産スピードに対応して測定時間は7msと設定しているが、この限りでは無い。
(吸光度の算出)
制御部11は、吸光度A(λ)=log((R-D)/(M-D))として吸光度を波長λごとに算出する(S3)。Mは、検出部7から取得した透過光8の分光データの、波長λにおける値である。Rは、予め対象物1を支持部5に戴置しない状態で検出部7から取得した、光の強度の基準となるリファレンス光の分光データの、波長λにおける値である。Dは、予め検出部7の暗電流データを校正するために検出部7から取得したダークカウントである。なお、対象物1が錠剤など内部での光の散乱が大きい場合には厳密にはA(λ)を吸光度とは呼べないが、ここでは便宜的にこのA(λ)を吸光度と定義する。
(異物混入等の異常が発生していないかを検査する工程)
次に第1判定部11aは、異物混入の有無の判定を行う(S4、第1判定ステップ)。異物の混入によるスペクトル形状の変化が大きいと、そのスペクトル形状から算出される所定の成分の含量は見かけ上、異常な値になる場合がある。このとき、異物による異常を含量の異常と誤認識してしまうため、本実施形態では先に異物の混入の検査を行って含量の誤認識を防いでいる。
第1判定部11aは、対象物1内に異物があると判定した場合(S4でYES)、当該判定結果を第3判定部11cへ出力する。第3判定部11cは、当該判定結果に基づいて、対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に、臼または杵の一部が欠ける不良が生じている可能性があると判定し、警告信号および異常信号をシーケンサー20へ出力する(S14)。具体的な処理の内容を以下に説明する。
対象物1の成形に用いられた臼または杵が金属製である場合には、まず第1判定部11aは、金属探知機9を使用して金属が対象物1の内部に混入していないかの判定を行う。上記の場合には、金属製の臼または杵が欠けてその破片が対象物1に混入している場合があるからである。金属探知機9は、対象物1中の金属を検出し、検出した金属量に応じた強度を有する信号を第1判定部11aに出力する。第1判定部11aは、上記信号を金属探知機9から取得し、当該信号の強度が所定の閾値以上である場合に対象物1の内部に金属が混入していると判定する。
しかし、金属探知機9からの信号では金属以外の異物、例えば虫のような微小生物、布やフェルトや糸くずのような繊維、毛髪や体毛などの人毛、または獣毛などの有機物を探知することができない。そこで第1判定部11aは次に、吸光度A(λ)と、記憶部12に格納されたデータベースから読み出した算出モデルとを参照して、対象物1に金属以外の異物が混入しているか否かを判定する指標の値を算出し、さらなる異物混入の有無の判定を行う。
第1判定部11aによる判定には回帰手法に基づく分類方法や判別方法を用いればよい。具体的には、サンプルのクラス予測値や類似度や確率を吸光度から算出する算出モデルを用いる。算出モデルの導出方法には、多変量解析や機械学習、深層学習が適している。算出モデルの導出方法の具体例は、例えば、サポートベクターマシーン、パターン認識、マハラノビスの距離による分析、SIMCA(Soft Independent Modeling of Class Analogy)判別分析、正準判別分析法などである。検査装置100の製造者は、どういう種類の対象物の何を判定するかという目的に応じて、最適な導出方法を選択して算出モデルを決定すればよい。なお、検査装置100の使用者もしくは製造者が後から算出モデルを検査装置100に新たに追加することができてもよい。
本実施形態では異物が混入した対象物の分光データを予め測定し、多変量解析の一種であるPLS-DA(Partial Linear Square-Discriminant Analysis)法によってその状態を表わす指標の値を求める算出モデルを導出しておいて記憶部12に記憶している。ここでの「状態」とは対象物1に異物が混入しているかどうかという状態のことである。またその「指標」とは、異物が混入している確率や、異物が混入している対象物1との類似度、異物が混入していると予測できる度合いなどである。後述するが、本実施形態ではこの指標を、異物が混入している対象物に性質が近いかを示す予測値Y’として算出している。第1判定部11aは、この算出モデルを用いて対象物1の分光データから算出した予測値Y’が予め設定した基準値以上か否かによって異物混入の判別を行なう。算出を行なうための算出モデルは、対象物1の種類や形状や異物の種類などの検査条件により使い分ける必要があるため、これらの検査条件に紐づけられて予め記憶部12に記憶されている。
本実施形態では、記憶部12に格納された算出モデルは、予め以下の手順により作成されている。予め異物が混入した対象物の試料と正常な対象物の試料の分光データを多数測定し、吸光度を算出する。分光データを、例えばM=100個の波長点で測定したとすると、算出される吸光度は、100個の吸光度の点をつないだ曲線であるスペクトルになる。当該スペクトルは吸光度のスペクトルであるため、吸収スペクトルに相当する。このスペクトルには判定に不要なノイズなどの変動が含まれているため、波長の選択、平滑化や微分、規格化などの前処理をしてこうした不必要な変動を低減することが望ましく、本実施形態でも前処理をしたデータを使用して算出する。前処理後の、あるスペクトルaはM=100個の吸光度を並べた
というベクトルに対応する。そして対象物の試料をN=200個測定したとすると、式(1)のベクトルがN=200個得られるから、これを並べれば下記のような行列式になる。
一方、異物が混入していない対象物のスペクトルに1というラベルを付し、異物が混入した対象物のスペクトルに0というラベルを付せば、このラベルは下記のようなベクトルとして表わせる。
対象物に異物が混入しているかどうかをスペクトルから予測することは、その対象物のスペクトルからYを算出することで実現できる。その算出を行うための算出モデルを構築するために、式(2)のXと式(3)のYの関係を求める。YがXに相関関係があるとするとYの変動に基づいてXも変動するから、行列の形は下記のように表わせる。
なお、式(4)では残差項eは省略している。このとき、式(4)のベクトルβは下記のように表わせる。
このとき式(4)におけるYの各成分yiは下記のような式となっている。
以降では式(5)のベクトルを、係数ベクトルβと呼ぶ。このβはYとXの相関関係を表わすものであるから、このβを求める事が算出モデルの構築となる。
本実施形態ではβの計算精度を高くかつ早くするためにPLSの手法を用いて、XおよびYを式(7)および式(8)のように展開する。
なお式(7)および式(8)では残差の項は省略している。行列Tはスコア行列、tは潜在変数と呼ばれることがある。また行列Pは複数のベクトルからなるローディング行列と呼ばれることがある。行列Qもローディングと呼ばれることがある。tとYとの共分散を最大にする条件のもとで特異値分解やLagrangeの未定乗数法などの解析手法を使用してT、P、Qを求める事が出来る。このとき、後述するLの項までを求める。
そして求めたT,Q,Pを式(4)のXとYに代入し、βを求める事ができる。記憶部12にはこのβが検査を始める前に予め格納されている。
また、式(7)と式(8)においてLで表わされる変数は任意に決める事ができるが、このLの数によってY’を正しく求められるかが変わるため、検査の精度に大きく影響する。Lが大きいほど式(7)と(8)の項が増えて、後述の式(10)のeを減らすことができるが、Lを大きくし過ぎるとここで測定したXに算出モデルが最適化され過ぎ、検査の段階で新しく測定した対象物のデータX’に対するY’が正確に算出できなくなる虞がある。よって本実施形態ではLは10以下になるように決定している。
なお、こうしてLによって項数を限定された行列Tは、元の行列Xよりも小さな行列であり、言い換えるとスペクトルデータよりも次元が低くなっているため、次元を圧縮する効果がある。次元を圧縮するとXの特性を有意な情報を持つ少ない変数で表わす事ができる。一般にスペクトルデータの場合は波長間で情報が重複していることと、XとYの相関関係とは無関係な情報がXには含まれることから、有意な情報を持つ変数のみを用いた方がY’の算出精度が高まると共に計算速度も速くできるという効果がある。本実施形態では対象物1個につきミリ秒単位の高速な検査を想定しているため、こうした計算速度の高速化が好ましい。
そして、検査の際には未知試料である対象物を測定した新しい分光データに、予めβを算出する際に用いた前処理を施して得られるスペクトルX’に、記憶部12に格納されたβを適用すればそのラベルY’を求める事ができる。すなわち下記の式に適用すればよい。以上が算出モデルの構築である。
なお、ここで得られるラベルY’は必ずしも0か1にはならない。実際にはXとYの相関関係とは無関係なノイズなどによるスペクトルの変動が、前処理で低減してもいくらか含まれるからである。例えば式(7)は実際には下記の式(10)のように、XとYの相関関係だけでは説明できないスペクトルの変動であるeが含まれる。
よってY’(以降、予測値と呼ぶ)は0と1以外の値を取ることがある。本実施形態では正常な対象物のラベルを1、異物が混入した対象物のラベルを0と設定しているため、1に近いほど異物が混入していない対象物の特性に近く、0に近いほど異物が混入した対象物の特性に近い。第1判定部11aによる判定のために、例えば予め閾値を0.5と決めておいて、記憶部12に格納しておく。この場合、Y’が0.5以上なら、第1判定部11aは、対象物1に異物が混入していないと判断する。例えばY’が0.6なら、0.5以上であるので、第1判定部11aは対象物1について、異物が混入していない正常な対象物であると判定する。また例えばY’が0.2であれば、第1判定部11aは対象物1について、異物が混入した対象物であると判定する。これにより、検査の際には新しく測定した分光データを算出モデルに適用してその対象物の特性を検査することができる。
なお、閾値は好適に設定でき、例えば検査を厳し目にして良品巻き込みをある程度許容する場合には閾値を0.7としてもよい。この場合、第1判定部11aは、Y’が0.7未満なら異物が混入していると判定し、Y’が0.7以上なら異物が混入していないと判定する。
なお、第1判定部11aは、判定においてF検定を併用することで異物の混入以外の異常を検知することができる。F検定とは、F分布から推測される確率であり、予測値Y’と実際のラベルとの誤差および一般的なF分布表とを用いて算出することができる。このときの確率が1に近いほど、予め測定した様々な対象物の特性と似ていないことを示す。本実施形態では、F検定により算出した確率が95%以上である時、異物の混入とは無関係な異常が起きていると判断する。例えば臼または杵の不調により対象物1の表面に傷がついていたり内部に空隙ができている場合にこうした異常が検知される事がある。この場合、第1判定部11aは、異物の混入以外の異常が発生しているとして判定する。
以上がPLS法による算出モデルの作成方法と判定方法である。
第1判定部11aは、検出部7での測定結果から求めた吸光度と、記憶部12に格納されたデータベースから検査条件に応じて読み出した算出モデルを参照して、対象物1の特徴を示す指標を算出し、異物混入の有無の判定を行なう。
本実施形態では、第1判定部11aは、前述のように予め求めたβを用い、式(10)のX’に、測定した対象物1の一個のスペクトルをベクトルにして代入し、Y’を算出する。対象物1の検査時にはモデルの算出時とは異なり測定スペクトルを複数並べることなく対象物1のひとつひとつをベクトルにして、式(6)のように波長点ごとに係数ベクトルβをかけた数値の和を算出することで得られるyがY’に相当する。
なお、係数ベクトルβの値は測定したい対象物1の形状や品目などの検査条件により変わる事がある。このため、本実施形態においては、記憶部12に予めそれらの検査条件と紐づけてリレーショナルデータベースとして係数ベクトルβが格納されている。ユーザーが検査する際には、所定の検査条件をモニターなどから選んでその検査条件に必要な係数ベクトルβを用いる事が出来る。
検査した対象物1に異物が混入していると第1判定部11aが判定した場合、制御部11は、当該判定結果に基づき、警告信号および異常信号をシーケンサー(不図示)へ出力する。このシーケンサーは図1のシーケンサー20とは別のシーケンサーであり、支持部5の制御など対象物1の生産を制御している。本実施形態では、製造装置が備える臼および杵には個別にIDが割り振られている。生産を制御するシーケンサーは、臼および杵のIDとその臼および杵によって生産された対象物1との紐づけを行っており、異常が発生した対象物1のデータとそれを生産した臼および杵のIDとを照らし合わせることで、不良が生じていると思われる臼および杵を特定することができる。あるいは、生産を制御するシーケンサーは、どの臼および杵により成形された対象物1から検査を開始したかを記憶部12に記録すると共に、異常が検知された対象物1が検査開始から何個目であるかをカウントし、その両者を照らし合わせることによっても、異常が検知された対象物1がどの臼および杵で成形されたものであるかを紐づけすることができる。
なお、シーケンサー20はこの時点で対象物1を廃棄させるための信号を廃棄装置30に出力してもよい。ただし、この後のステップS5で対象物1に含まれる所定の成分の含量を検査することで臼または杵の不良を検知する必要があるために、廃棄装置30が対象物1を廃棄するタイミングは含量の検査の後にする必要がある。
本実施形態では、制御部11はシーケンサーから紐づけの情報を受け取って記憶部12に記憶することとするが、これに限るものではない。制御部11においても同様にして、異物が混入した対象物1とそれを生産した臼および杵の情報とを紐づけし、記憶部12にセットで記録することができる。具体的には、制御部11が紐づけに必要な情報を外部から受け取ることができれば、制御部11においても同様にして、異物が混入した対象物1とそれを生産した臼および杵の情報とを紐づけし、記憶部12にセットで記録することができる。例えばどの臼あるいは杵から生産を始めるのかを特定するためにその臼あるいは杵のIDを制御部11が受け取ることができ、制御部11が検査した対象物の個数をカウントしていれば、異常が生じた対象物と、それがどのIDの臼あるいは杵から生産されたのかを紐づける事ができる。
この情報はこの後のステップS5で参照されることになる。また、異物の混入以外の異常が発生していると判定された場合には、第1判定部11aはその判定結果も同様に記憶部12に記録する。また、異常が発生した対象物1とそれを生産した臼および杵の情報を記憶部12にセットで記録することで、生産工程の見直し等に役立てたりすることも可能である。
このように、対象物1に異物が混入しているとスペクトルの形状が変化する。よって、前述のとおり、この後のステップS5で行う所定の成分の含量の検査よりも前に異物の混入検査を行う事で、異物が原因で起こるスペクトルの異常を含量の異常と誤認識して臼または杵の不良に起因するものであると誤った判断をすることを防ぐ事が出来る。
(所定の成分の含量を算出する工程)
次に第2判定部11bは、吸光度A(λ)と、記憶部12に格納されたデータベースから読み出した対象物1の種類や検査条件ごとの算出モデルとを参照して、所定の成分の含量を算出し、その算出値が所定の範囲内にあるか否かを判定する(S5、第2判定ステップ)。
本実施形態では第2判定部11bは、含量の算出に回帰分析を用いる。具体的には、予め様々な成分の含量を変えて測定した対象物の分光データと含量との相関から、いくら含量が変化すればどのくらい分光データが変化するのかという相関を分析することにより算出モデルを予め作成する。算出モデルの導出方法には、重回帰分析法やPLS(Partial Linear Square)回帰分析のような多変量解析手法や、機械学習や深層学習による手法などがあるが、どういう種類の対象物の何を判定するかという目的に応じて最適な導出方法を選択して算出モデルを作成すればよい。本実施形態ではPLS回帰分析を用いて所定の成分の含量を算出する算出モデルを作成する。
本実施形態では予め所定の成分に対して様々な含量の対象物を測定し、PLS回帰法によって未知試料における当該成分の含量を求める算出モデルを導出しておいて記憶部12に格納している。算出を行なうための算出モデルは、その算出モデルを使用できる対象物1の種類や形状や異物の種類などの検査条件に紐づけられて予め記憶部12に記憶されている。
本実施形態では、記憶部12に格納された算出モデルは、予め以下の手順により作成されているが、PLS-DA法と共通する工程が多い為、説明の便宜上、上記にて説明した数式と同じ機能を有する数式については、同じ符号を付記している。本手順においては、式(3)の作成が、異物の混入を判定する算出モデルとは異なる。予め測定したそれぞれの試料に含まれる所定の成分の含量をベクトルとして表わすと、例えば一番目の試料の含量が8.9%、二番目の試料の含量が10.5%、200番目の試料の含量が6.3%であれば下記のようになる。
なお含量はパーセンテージのような含量割合でなくとも重量や濃度などの指標であっても構わない。
以下、含量をスペクトルから予測するための算出モデルを構築するためにβを求める工程は同じである。βの値はステップS4で使用したβとは異なる。
そして、検査の際には未知試料である対象物を測定した新しい分光データに、予めβを算出する際に用いた前処理を施して得られるスペクトルX’に、記憶部12に格納されたβを適用すればその含量を求める事ができる。すなわち下記の式に適用すればよい。以上が算出モデルの構築方法である。
判定においては、第2判定部11bは、対象物1に含まれる所定の成分の含量が、予め設定された、正常とみなすことができる所定の含量の範囲に含まれているか否かを判定する。例えば既定の含量の範囲が7%以上10%未満と設定されている場合、第2判定部11bは、Y’が5%や12%であれば不良品と判定し、8%や9%であれば正常と判定する。なお所定の含量は好適に設定できる。以下の説明では、含量が所定の範囲に含まれていない状態について、「含量の異常」と称することがある。
なおβの値は測定したい対象物1の形状や品目などの検査条件により変わる事があるため、本実施形態においては、記憶部12に予めそれらの検査条件と紐づけてリレーショナルデータベースとして格納されている。対象物1の検査時には、検査装置100の使用者が所定の検査条件をモニターなどから選ぶ事で必要な係数を用いる事が出来る。例えば、対象物1のサイズが直径7mm・最大厚さ3mmでかつ検査したい成分がイブプロフェンであるなど、使用者が複数の検査条件を選べば使用すべき係数が選択される。
検査に使用する波長は一般的に測定したい成分の光吸収がある帰属波長や、測定したい成分による光吸収が小さい中立波長などから決定することが望ましい。本実施形態ではアセトアミノフェンを想定しているため、アセトアミノフェンの吸収ピークがある1600nm~1700nmのほか900nm~1000nmや1100nm~1200nmを用いている。なおこのとき、異物の混入の検査と含量の検査において使用される波長帯が同一でなくとも使用されるスペクトルデータMは共通であってよく、第1判定部11aまたは第2判定部11bによる処理において異なる波長帯を用いればよい。これにより2つの検査に使用するデータの測定が一度で済む為に検査時間を短くする事ができ、生産スピードのボトルネックとならずに済む。
図3は、対象物1におけるアセトアミノフェンの含量について、式(1)から算出した割合と、実測した割合との関係を示すグラフである。図3において横軸は実測した割合(%)を示し、縦軸は算出した割合(%)を示す。また、図3の破線は横軸と縦軸が同じ値を取る線であって、この線上にあれば算出した値と真の値とが一致することを示すための参考の線である。図3のように、所定の成分の含量割合を数%の誤差で算出することにより、含量の異常を精度よく検知することができるために、臼または杵の異常を迅速に精度よく非破壊で検知することができる。
第2判定部11bは、判定結果を第3判定部11cへ出力する。第3判定部11cは、第2判定部11bが算出した含量が予め定めた範囲外であった場合(S5でYES)には、ステップS4の判定結果を参照する(S15、第3判定ステップ)。すなわち、第3判定部11cは、ステップS4およびS5の判定結果に基づいて、臼および杵の組に不良が生じているか否かを判定する。
ステップS4において異物の混入ありと判定されていた場合(S15でYES)には、対象物1における所定の成分の含量に異常が発生しているとは限らない。この場合には、第3判定部11cは、臼および杵の組に不良が生じていないものと判定して、その判定結果および含量が予め定めた範囲外であったという結果を記憶部12に記憶する。
なおこのときに制御部11は、異物の混入と、含量が予め定めた範囲外であったこととが両方起こったことを知らせる注意信号を出力しても良い。この場合、使用者が両方の異常を知ることで、生産装置の修理方法や生産された錠剤への対処方法を変えるなどの、きめの細かいメンテナンスが可能となるなど、より精度のよい生産を維持できるために好ましい。
一方、ステップS4において異物の混入が無いと判定されていた場合(S15でNO)には、第3判定部11cは、対象物1における所定の成分の含量に異常が発生しているとして判定する。制御部11は、第3判定部11cの判定結果に基づき、臼または杵に対象物1の粉末材料が付着する不良が発生している可能性があることを警告する警告信号を、シーケンサー20に出力する。このとき、シーケンサー20では、ステップS14で制御部11から警告信号が出力された場合と同様にして、異常が検知された対象物1がどの臼および杵で成形されたものであるかを知る事が出来、紐づけすることができる。また、異常が発生した対象物1とそれを生産した臼および杵の情報を記憶部12にセットで記録して利用することも同様に可能である。このとき、モニターに表示してユーザーに臼および杵の交換タイミングを促してもよい。さらに、制御部11は、異常と判定された対象物1あるいはこれを含むロットを廃棄できるように、廃棄すべき異常な対象物1を知らせる異常信号をシーケンサー20へ出力する。異常信号を受信したシーケンサー20は、廃棄装置30へ、異常が発生した対象物1の廃棄を命じる信号を出力する。なお警告信号と異常信号の出力は同時に行っても行わずともよいが、本実施形態ではまとめて出力している(S16)。そして、次のステップS6へ進む。
(検査の終了)
制御部11は、全ての対象物1を検査したか判定する(S6)。すなわち、検査すべき対象物1が残っているかどうかをチェックする。検査すべき対象物1が残っている場合(S6でNO)はステップS2に戻り次の検査を行う。検査対象となる対象物1の全ての検査が終われば(S6でYES)、検査装置100は、処理を終了する。
本実施形態1における検査結果と、検査結果から臼または杵の異常を判定する結果の関係を表1に示す。
なお、臼または杵に粉末材料が付着することで対象物1を構成する粉末材料の総量が変化した場合、所定の成分の比率は変化しない。しかし、対象物1の形状またはサイズが変化することで、検査光3が対象物1を通過する光路長に変化が生じることとなる。当該変化の影響により、第2判定部11bによる含量の算出値が異常な値となることで、第2判定部11bは対象物1における所定の成分の含量に異常が発生していることを判定することができる。
以上に説明してきたように、本実施形態では臼および杵から生産される成形品の状態について、抜き取り検査ではなく自動で光による検査を行う。これによりカメラでは捉えきれない臼または杵の微細な不良を早めに検知することが可能になり、不良品の生産数を抑えることができる。
また特に対象物1が医薬品である検査においては、透過法によるスペクトルの測定で対象物に含まれる微量な成分の含量均一性を検出することで厳しい品質管理基準をクリアできるという利点がある。
また、異物混入の検査も併せて行う事で、臼および杵とは無関係な原因による不良を臼または杵の不良と誤認することを防ぐ相乗効果を得ることができる。
また、検査装置100による測定は、光照射による高速な測定であるため、必要に応じて全数検査も可能であるという効果がある。
なお、図1では対象物1が1個ずつ搬送される場合を示しているがこれに限るものでは無く、複数を一度に搬送して検査しても良い。
なお、制御装置10は臼または杵に不良が生じていると判断した時点で生産を止めるための信号を出力してもよい。出力先は例えば支持部5の制御を行うシーケンサーや原料の粉末の供給装置などの、対象物1の生産の制御に関わる装置である。
〔実施形態1の変形例1〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。本実施の形態では、ステップS3とステップS4に間に内部の割れなどの破損が発生していないかを検査するステップS7を設ける。このときのフローチャートを図5に示す。
図4は、本変形例に係る検査装置100Aの構成を示す図である。検査装置100Aは、制御部11が第4判定部11dをさらに備える点で検査装置100と相違する。第4判定部11dは、透過光8の強度を示すスペクトルデータに基づいて、対象物1の内部に破損があるか否かを判定する。
本実施形態では、第4判定部11dは、ステップS3において求めたA(λ)を用いて、対象物1の内部に破損があるか否かを判定する。すなわち、第4判定部11dは、第1判定部11aおよび第2判定部11bが判定に用いるスペクトルデータと共通のスペクトルデータを用いて判定を行う。
図5は、検査装置100Aにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。検査装置100Aにおいては、検査装置100と同様に制御部11がステップS1~S3の処理を行った後、第4判定部11dが、対象物1の内部に割れなどの破損が発生していないかを判定する(S7)。
図6は、実際に内部の割れ等の破損による異常が発生した対象物と、正常な対象物との吸光度を示すグラフである。図6において、横軸は波長を示し、縦軸は吸光度を示す。図6においては、異常が発生した対象物の吸光度が破線、正常な対象物の吸光度が実線で、それぞれ示されている。対象物の内部の破損は、外観検査では検知できない。しかし、透過光の吸光度においては、図6に示すように破損した対象物のスペクトルは正常な対象物のスペクトルとは極めて異なる形状になる。よって第4判定部11dは、パターン認識等の手法から予め求められて記憶部12に格納された算出モデルを用いて異常の有無を判定し、検知することができる。すなわち、検査装置100Aによれば、臼または杵の不良に起因して対象物1の内部に破損が生じた場合であっても、当該対象物1を成形した臼または杵の不良を検知できる。
検知には異物の混入を判定した際と同様に回帰手法に基づく分類方法や判別方法を用いればよく、本実施形態でもPLS―DA法による検査を行っている。すなわち、正常な対象物のスペクトルに1というラベルを付し、破損した対象物のスペクトルに0というラベルを付してβを求める。なおこのβは異物の混入を判定する時に用いるβや所定の成分の含量を算出する時に用いるβとは異なる値を持つ。そして検査の際には、第4判定部11dは未知試料である対象物を測定した新しい分光データを式(9)のX’に代入し、Y’を算出する。そして、第4判定部11dは、Y’の値が予め決めておいた閾値0.5以上であれば対象物1が破損していないと判定し、0.5未満であれば対象物1が破損していると判定する。
対象物1に破損が発生していると第4判定部11dが判定した場合には、制御部11は、当該判定に基づいて、臼または杵に不良が生じている可能性を警告する警告信号を、どの臼または杵か特定する情報と共にシーケンサー20に出力する。さらに第4判定部11dはこの後段において所定の成分の含量を検査した後に、破損が発生していると判定された対象物1あるいはこれを含むロットを廃棄できるように、当該対象物1を知らせる異常信号を、シーケンサー20を介して廃棄装置30へ出力する(S27)。なお警告信号と異常信号との出力は同時に行っても行わずともよいが、本実施形態ではまとめて出力している。
なおこの後のステップS4およびS5で、異物の混入の有無、および所定の成分の含量について判定することで臼または杵の不良を検知する必要があるために、廃棄装置30はステップ27において異常信号を入力されても直ちには対象物1を廃棄しない。
なお、本変形例における検査結果と、検査結果から臼または杵の異常を判定する結果の関係を表2に示す。
一般に、臼または杵が不調になると成形時の圧力が不安定になり、対象物の内部に割れや欠けが生じる事がある。こうした破損は実施形態1の第1判定部11aにおける、F分布による判定によって異物混入以外の異常として検出できる事もある。しかし、本実施形態においては破損しているかどうかを第4判定部11dにより直接判定し、そうした対象物1の破損から臼または杵の不調を監視する工程によってより精度よく臼または杵の不調を検出する利点がある。本変形例では、対象物1の外観からは分からない内部の破損を検査できるために、対象物1の製造に用いられた臼または杵に異常が発生している可能性をより正確に把握することができる。また、異物の混入や含量の異常以外の異常も知ることで、生産装置の修理方法や生産された錠剤への対処方法を変えるなどの、きめの細かいメンテナンスが可能となるなど、より精度のよい生産を維持できるために好ましい。
〔実施形態1の変形例2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
図7は、本変形例に係る検査装置100Bの構成を示す図である。検査装置100Bは、制御部11がさらに第6判定部11fを備える点で検査装置100と相違する。第6判定部11fは、スペクトルデータにおいて、予め定められた波長における透過光8の強度が予め設定された数値未満であるか否かを、第1判定部11aおよび第2判定部11bによる判定処理の前に判定する。
本実施の形態では、第6判定部11fによる判定は、上述したステップS2とステップS3との間に実行される。第6判定部11fは、透過光8の強度が、予め定められた波長において予め設定された数値未満であるかを判定する。
対象物1が傾いたり支持部5から外れかかっているなど、対象物1の戴置が不完全である場合は、検査光3の一部あるいは全てが対象物1を通過せずに検出部7へ入射してしまうために、検出部7が検出する透過光8の光強度が極めて強い、異常なデータとなる。
透過光8の強度が予め定められた波長において予め設定された数値以上であると第6判定部11fが判定した場合には、当該判定に基づいて、制御部11は、対象物1が支持部5に正常に載置されていない事を、警報装置40などにより報知する。したがって、検査装置100Bによれば、支持部5への対象物1の載置が適切でない場合にそのことを報知できる。またこのとき、制御部11は、異常なデータを示した対象物1に対しては次のステップS3を実行せず、次に搬送されてくる別の対象物1に対してステップS2を実行する。
なお、「予め定められた波長」については、使用者が適宜定めてよいが、本実施形態1においては、錠剤によく用いられる成分のうち有効成分以外の結晶セルロースやスクロース、スターチによる光の吸収が強い波長を用いている。こうした波長では対象物1を透過した後の透過光8の強度が弱い為、対象物1を透過したか否かによる強度の差が大きい為に、より確実に対象物1の戴置の不完全さを判定することができるという利点がある。また、「予め設定された数値」とは、対象物1が支持部5に正常に載置されている場合に検出部7が検出する透過光8の、「予め定められた波長」における強度に基づいて決定される数値である。
なお、透過光8の強度が予め定められた波長において予め設定された数値未満であると第6判定部11fが判定した場合には、対象物1が支持部5に正常に戴置されていると想定されるため、次のステップS3に進む。
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。本実施形態に係る検査装置は、実施形態1に係る検査装置100と構成上は同じである。このため、以下の説明では、本実施形態に係る検査装置についても検査装置100と称する。
本実施形態の検査装置100は、第1判定部11aが、複数の臼および杵の組のうちの特定の臼および杵の組が成形した対象物1に異物が混入していると、所定の回数以上判定した場合に、当該特定の臼および杵の組に不良が発生した旨を、警報装置40を介して報知する。
図8は、検査装置100における処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明したステップと同じ機能を有するステップについては、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
本実施形態でも、図8には示されていないが、ステップS3の後、第1判定部11aは、対象物1に異物が混入しているか否かを判定し、判定結果を第3判定部11cへ出力する。しかし、第3判定部11cは、当該判定結果において対象物1に異物が混入していても、直ちに当該対象物1の成形に用いられた臼および杵の組に不良が生じているとは判定せず、それまでの検査において特定の臼および杵の組を用いて成形された対象物1における異物の混入回数が一定数未満であるか判定する(S24)。特定の臼および杵の組を用いて成形された対象物1における異物の混入回数が一定数未満でない場合(S24でNO)、第3判定部11cは、当該特定の臼または杵の不良と判定して警告信号を発する(S224)とともに、警報装置40を介して当該不良の発生を報知する。
また、本実施形態の第2判定部11bは、図8には示していないが、ステップS24またはS224の後、実施形態1におけるステップS5と同様に所定の成分の含量について異常の有無を判定し、判定結果を第3判定部11cへ出力する。第3判定部11cは、当該判定結果において所定の成分の含量に異常が生じていても、直ちに臼または杵の不良とはみなさず、それまでの検査において特定の臼および杵で成形された対象物1における含量の異常の発生回数が一定数未満であるか判定する(S25)。特定の臼および杵で成形された対象物1における含量の異常の発生回数が一定数未満でない場合(S25でNO)、第3判定部11cは、ステップS24における判定結果を参照する(S225)。ステップS24において、異物がないと判定されていた場合(S225でNO)、制御部11は警告信号および異常信号をシーケンサー20へ出力する(S226)とともに、警報装置40を介して当該不良の発生を報知する。
なおこのときに制御部11は、異物の混入と、含量が予め定めた範囲外であったこととが両方起こったことを知らせる注意信号を出力しても良い。この場合、使用者が両方の異常の発生を知ることで、生産装置の修理方法や生産された錠剤への対処方法を変えるなどの、きめの細かいメンテナンスが可能となるなど、より精度のよい生産を維持できるために好ましい。
対象物1の異常は、臼または杵の不良とは無関係な場合がある。例えば、対象物1の異物混入の原因は原料の粉の時点で混入しており臼および杵と無関係な事がある。また、対象物1の含量異常の原因は成形より前の工程での粉末の混合が不完全で成分が偏っていて臼および杵と無関係なことがある。
そこで、本実施形態では、第3判定部11cは、対象物1に異物の混入または含量異常が検知されても直ちに臼または杵の不良とみなさず、異常の発生が同じ臼および杵で成形された対象物1に所定の回数(一定数)以上に検知された場合に不良の発生を報知する。したがって、臼および杵に無関係な対象物1の不良に基づいて、臼および杵に不良が発生していると誤って報知する虞が低減される。なお、一定数は、例えば5回であってよい。その回数は使用者が検査の厳しさに合わせて設定することができる。検査を厳し目にしたい場合は、例えば対象物1の不良が2回生じた段階で、第3判定部11cは臼または杵の不良とみなして報知する。さらに、この場合は報知と共に生産を停止する信号を出力してもよい。逆に検査を緩くする場合は、例えば対象物1の不良が10回生じるまでは、第3判定部11cは臼または杵の不良として報知せず、対象物1の生産装置は臼および杵をそのまま使用し続ける。
なお、対象物1自体の異常発生の情報は検査の後で該当する対象物1を廃棄する工程に必要である。このため、本実施形態の場合もステップS24の前に、その時点での対象物1に異物の混入が生じていると第1判定部11aが判定していた場合、実施形態1と同様に、それまでの異物混入の回数に関わらず直ちに異常信号を出力する。ただし、この処理は図8では省略されている。
なお、本実施形態2における検査結果と、検査結果から臼または杵の異常を判定する結果の関係を表3に示す。
なお、対象物1に破損が生じた場合、当該破損の原因は搬送途中に対象物1が何かと衝突するなどしたことが原因であって、臼および杵とは無関係な事がある。このため、本実施形態において実施形態1の変形例1のように対象物1が破損しているかどうかの検査を行う場合、同じ特定の臼および杵により成形された対象物1について、破損していると所定の回数以上判定されてから、臼または杵の不良として警告信号を発することが望ましい。また、所定の回数は例えば3回以上であってよく、検査の厳しさに応じて使用者が適宜変更できるようにしてもよい。
〔実施形態3〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
図9および図10は、実施の形態3に係る検査装置300による検査を説明する模式図である。図10に示すように、検査装置300においては、支持部5は、対象物1を成形した臼および杵から検査装置300へ対象物1を搬送する搬送装置を兼ねている。検査装置300の他の構成は検査装置100などと同様である。
図10に示す例では、臼および杵の33の組により製造された、1セット当たり33個の対象物が100セット、順次測定される。本実施形態に係る検査装置300においては、それぞれのセットにおける、同一の臼および杵の組によって成形された複数の対象物1を透過した透過光8を検出部7により検出したスペクトルデータの平均値を測定値MAとする。制御部11は、A’(λ)=log((R―D)/(MA―D))として吸光度を算出する。第2判定部11bは、同一の臼および杵の組によって成形された複数の前記対象物についての前記第2分光データの平均値に基づいて、前記対象物に含まれる前記所定の成分の含量を算出し、その算出値が前記所定の範囲内にあるか否かを判定する。
本実施形態では、対象物1を製造する製造装置に臼および杵が33組あり、制御部11は、その各臼および杵によって生産された対象物1を臼および杵ごとに100個測定したデータの平均値、すなわち100個分のデータの加算平均を測定値MAとして吸光度を算出する。なお、製造装置が備える臼および杵の本数はこれに限るものでは無く、必要に応じて決定されてよい。
一般にSN比は測定の積算回数の平方根に比例するため、1回測定したデータのSN比に対して例えば100回測定して加算平均したデータのSN比は10倍程度に向上している。そこで、対象物1を100個分測定した分光データの平均値を使用することで、1個だけ測定した場合に比べてSN比の向上効果を疑似的に得ることができる。
図9に示すとおり、対象物1の製造装置において、臼および杵は一般に数十本あり、これを横に並べるか若しくは円形に並べて、次々に充填される粉末を何度も繰り返し成形していく。生産される対象物1は、図9に示すように臼および杵の本数分のセットと捉える事が出来る。そこで臼および杵ごとに対象物1を100個分測定したデータを加算平均することで疑似的にデータを積算する効果が得られ、臼および杵の特性データのSN比を上げることができる。具体的には、図9に示すように33組の臼および杵がそれぞれ生産した33個を1セットとして、これを図10に示すように100セット分測定すれば、臼および杵ごとに各100個の測定データを得ることができる。そこでこの100個の測定データの平均値をMAとしている。
なお、検査装置300が対象物1を同時に検査できる数が1個のみである場合は100セット測定するまでは運転からわずかの間は検査結果を出す事が出来ない。しかし、一般に臼または杵の不良は長時間の運転が原因であることが多い。このため、同時検査数が1個のみである場合でも検査装置100と同様の効果を得ることができる。例えば臼および杵が33本立てであれば33×100個分のデータを測定し終えるまでは臼または杵の不良を検知することができないが、本実施形態では生産のボトルネックとならないよう、生産スピードに対応して測定時間は対象物一個あたりms単位にしていることから臼および杵の検査に支障は生じない。例えば、本実施形態では測定時間は7msと設定しているため、最初に検査が可能になるのは運転を始めてからせいぜい1分以内である。その後は臼および杵ごとに1個分ずつずらして平均値をとれば、臼または杵の不良を連続的に検査することができる。
制御部11は、例えば製造装置の運転を開始して1セット目から100セット目までの対象物1について、臼および杵ごとに100個分の分光データの平均に基づいて吸光度を算出する。第1判定部11aおよび第2判定部11bは、当該吸光度を用いて異物の混入の有無または所定の成分の含量の異常の有無について1回目の判定を行う。次に、制御部11は、製造装置の運転を開始して2セット目から101セット目までの対象物1について、臼および杵ごとに100個分の対象物1の分光データの平均に基づいて吸光度を算出する。第1判定部11aおよび第2判定部11bは、当該吸光度を用いて異物の混入の有無または所定の成分の含量の異常の有無について2回目の判定を行う。
なお、制御部11が対象物1の測定データを加算平均する回数xは、x個の対象物1を測定し終わるまでに要する時間が当該対象物1の成形に使用する臼および杵に不良が起こりにくい時間内で、かつx個の対象物1のうち、所定の成分の含量が異常である物が1個のみ含まれている場合でもその不良を精度よく判定できる程度の回数であるように設定される。加算平均する回数が多すぎると測定値を平均した時に含量の異常によるスペクトルの変動が相対的に小さくなってしまって検出できないことがあるからである。具体的には、制御部11が対象物1の測定データを加算平均する回数は、3回以上かつ100回以下であることが好ましい。
本実施形態の検査装置300の構成でも検査装置100と同様の効果を得ることができる。さらに、検査装置300では、SN比の向上によりノイズの影響を低減する効果があるのでノイズが多い時でも高い検査精度を維持することができるという利点がある。
一般に成形機の生産スピードは一個当たりミリ秒単位と極めて高速である為、測定時に積算する時間の余裕がない場合が多い。そのため積算によるノイズ低減効果を得ることが困難な状況にある。この問題は、粉末のような光散乱の強い原料を成形した対象物を透過法で測定する場合に特に大きな問題となる。光散乱の強い物質の透過光の強度は弱くなりがちであり、良好なSN比を得ることが困難だからである。このような信号品質の劣化は検査精度を悪化させる原因となる。しかし本実施形態では生産スピードが高速であることを逆に利用し、最初の100個程度であれば運転開始から時間が経っていない為に臼および杵が不良を起こす確率は極めて低いとして100個分を測定してその平均値を取ることで信号の品質を向上させて検査精度を維持することができる。
また、ノイズが大きい波長帯でも検査に使用できるために、検出部7が検出できる波長が多くなり、異物の検査と所定の成分の含量の検査で使用する波長を同一の検出部7でカバーする事が可能である。異物の検査と所定の成分の含量の検査で使用する波長が離れすぎていると検出部7を複数台用意することが必要になるが、検査装置300では検出部7が一台で済む為にコストを軽減できる。
また検出部7が検出できる波長の選択の幅が広がれば、第1判定部11aおよび第2判定部11bによる判定に最適な波長を選びやすくなり、判定に用いる波長の範囲を狭くできるという効果も得られる。第1判定部11aおよび第2判定部11bの判定において、最適な波長を使用できない場合には、代わりに広い範囲の波長を使用して検査の精度を向上させなければならないことがあるが、検査装置300ではこれを回避できる。使用する波長の範囲を狭くできれば、第1判定部11aおよび第2判定部11bにおける処理の負荷が軽減される効果がある。さらに処理に必要な時間が短くて済むために、短時間で対象物1を大量生産することが可能な製造装置にも使用できる超高速な検査が可能となるという効果も得られる。特に算出時に畳み込み等、時間や負荷がかかる処理を行う際には有効である。
また、特に検出部7に分光器を使用する際には、使用する波長範囲が狭いほど検出部7が必要とする分光器のグレーティングの測定バンド幅を狭くする事が容易になるために、波長分散を小さくすることができ、従って光学波長分解能が向上するという効果が得られ、精度よくスペクトルを測定することが出来るので検査精度を向上することができる。
なお図9では対象物1が一列に並んだ臼および杵によって同時に複数個を生産されるような模式図になっているが、これに限るものではなく、同心円状に並んだ臼および杵によって1個ずつ順次生産される形態でも構わない。また図10では対象物1が1個ずつ搬送されるような模式図になっているが、複数個を同時に搬送する形態でも構わない。
なお、検査に使用する検出器の種類や検査したい対象物の原料によっては、測定値を平均せずに積算した値をMAとして用いても検査装置100と同様の効果を得ることができる。例えばスペクトルのベースラインの変動があまり大きくない場合に積算した値をMAとして用いることができる。
〔実施形態3の変形例〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態3にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
図11は、本変形例に係る検査装置300Aの構成を示す図である。上述したとおり、検査装置300は、支持部5以外は検査装置100を同様の構成を有する。これに対し、検査装置300Aは、検査装置300と同様の支持部5を有するとともに、図11に示すように、検査装置100の構成に加えてさらに第5判定部11eを備える。第5判定部11eは、複数の臼および杵の組のそれぞれにより成形された複数の対象物1を透過した透過光8の強度を示す複数の第3分光データを平均した平均分光データに基づいて、複数の臼および杵の組に共通する不良が発生しているか否かを判定する。具体的には、第5判定部11eは、各臼および杵によって所定の時間内に成形された対象物に検査光を照射することによって得られた複数のスペクトルデータを平均した平均分光データに基づいて、複数の臼および杵の組に共通する不良が発生しているか否かを判定する。前記所定の時間内とは、例えば、5分以内である。
臼および杵は連続運転をするに従い摩擦熱で温度変化が生じる事があり、膨張して杵が伸びたり、冷えて縮んだりする。すると杵の打圧が不安定になり、対象物の表面に傷が付いたり内部にひびが入ったりして不良品になってしまう。また、臼および杵が熱を持つと粉体がだんだん融解するようになって臼および杵にこびりつき、対象物における所定の成分の含量が増減してこれも不良品となる。こうした熱による変化のように徐々に生産品への影響が大きくなる場合については、同時期に使用を開始した複数の臼および杵により成形された対象物1の分光データの平均の経時変化を見る事が有効であるために、本変形例では、不良品の発生を、全ての臼および杵で同時に成形された対象物の経時的な変化から早期に検出する。したがって、検査装置300Aによれば、複数の臼および杵の組に共通する不良が発生している場合にそのことを検知できる。
第5判定部11eによる判定は、例えば図2に示したフローチャートにおいて、ステップS2以降の任意のタイミングで実行されてよい。また、第5判定部11eは、必ずしも対象物1を1つ測定するごとに判定を行う必要はなく、所定の数の対象物を測定する毎に判定を行ってもよい。また、第5判定部11eは、対象物1を測定した数に関係なく、所定の時間ごとに判定を行ってもよい。
検査の際は、例えば対象物を製造する製造装置が臼および杵を33組備えている場合に、第5判定部11eは、33組の臼および杵を用いて生産された33個の対象物の、スペクトルデータを平均したデータが予め記憶部12に格納した判定基準を満たすか否か判定する。当該判定基準は、臼および杵が正常である場合のスペクトルデータに基づいて決定される。当該平均が判定基準を満たさないと第5判定部11eが判定した場合に、制御部11は、臼および杵全体の状態の不良の発生を警告する信号の出力を行う。
例えば、杵の打圧が変化するとスペクトルデータの平均のベースラインが上下する。このため、第5判定部11eは、例えばベースラインの平均の変動が記憶部12に格納した判定基準としての数値範囲から外れていれば警告を発する。ベースラインの算出としては、第5判定部11eは、例えばスペクトルデータの平均の最低値bを用いることができる。例えば判定基準としての数値範囲が1.2以上1.5未満であった場合に、bが1.1または1.6といった値であれば、杵の打圧が基準を外れていると考えられることから、臼または杵に不良が生じており、不良品が生産される兆候があると判断できる。このような場合には、第5判定部11eは、複数の臼および杵の組に共通する不良が発生していると判定する。
こうしたスペクトルデータの平均を用いて検査を行った場合、不良品の生産を事前に察知することが容易となる。また事前に察知できなかった場合であっても、臼または杵の不調とは無関係に突発的に生産された不良品(例えば作業者の毛髪の混入や、対象物が臼から排出された後で壁に衝突して起きた傷など)を臼または杵全体の不調と誤認識しにくくなるという利点がある。また、臼および杵ごとに算出された分光データの平均値によって検査していた時には覆い隠されていた微妙な変化も捉える事ができる。
〔実施形態4〕
本開示の他の実施形態について、以下に説明する。
図12は、本実施形態に係る製造装置900(粉体成形物製造装置)の構成を示す図である。製造装置900は、対象物1を製造する製造装置である。図12に示すように、製造装置900は、製造ユニット910と、搬送部920と、検査装置100とを備える。
製造ユニット910は、対象物1を製造するユニットである。搬送部920は、製造ユニット910により製造された対象物1を、検査装置100へ運搬する。検査装置100は、搬送部920により運搬された対象物1の検査を行う。なお、製造装置900においては、搬送部920により運搬された対象物1がロボットアームなどにより支持部5(図1等参照)に移動させられてもよい。または、搬送部920と支持部5とが一連の部材として構成されてもよい。または、搬送部920は円盤で構成されてもよい。
以上のとおり、製造装置900は、対象物1を製造する製造装置であって、検査装置100を備える。製造装置900においては、製造ユニット910により製造された対象物1の検査を、検査装置100により行うことで、臼または杵の不良を高精度で迅速に検査することができる。なお、製造装置900において、検査装置100は、上述した実施形態1または2のいずれの方法で対象物1の検査を行ってもよい。また、製造装置900は、検査装置100の代わりに検査装置100A、100B、300または300Aを備えていてもよい。
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置10の制御ブロック(特に第1判定部11a~第6判定部11f)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
後者の場合、制御装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本開示の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
〔付記事項〕
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。