JP7197941B2 - 生体組織染色試薬、生体組織染色キット及び生体組織染色方法 - Google Patents

生体組織染色試薬、生体組織染色キット及び生体組織染色方法 Download PDF

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Description

本発明は、生体組織染色試薬、生体組織染色キット及び生体組織染色方法に関する。
医学及び生物学の研究において、組織全体及び個体全体等を対象とする体系的な3次元(3D)観察及び解析が試みられている。組織の透明化及び3D画像化の方法の開発によって、1細胞以下の解像度で全身又は器官全体を包括的に観察することが可能になった。このようなデータセットから生物学的な情報をより多く得るために、構造、細胞の種類及び細胞の活性に適した標識が求められる。
標識では、遺伝学及びウイルスを利用した手法が利用されている。さらに、透明化及び3D画像化と組み合わされた様々な染色剤及び抗体によって生物学的標本の3D染色が評価されている。染色剤及び抗体を利用する染色は、ヒト及び動物の標本を含む幅広い試料に適用でき、複数の標的を比較的容易に標識できるため、遺伝学及びウイルスを利用した手法よりも適用範囲が広く、有利である。実際に1980年代頃から、昆虫、エビの神経系、カエルの胚等で器官全体及び全身の体系的な観察が検討された。近年、3D観察がげっ歯類及びヒト等の様々な器官、全身及び病理組織標本等で展開されている。
厚みのある標本内部への染色剤及び抗体の浸透を改善するための方法がいくつかある。例えば、固定した組織の細孔を拡げる透過処理が脱脂処理、脱水処理、緩い固定処理及びプロテアーゼによる部分的な分解等で試みられている。浸透中の染色剤及び抗体の結合親和性を調整するために尿素又はSDSが使用されている。また、電気泳動及び圧力等の物理的な方法がアクリルアミドに包埋された試料に適用されている。
特許文献1には、所定の濃度の尿素と免疫染色用抗体とを含む抗体組成物を、生物材料に接触させる免疫染色法が開示されている。また、非特許文献1及び2には、免疫染色法として、メタノール処理又はジメチルスルホキシド(DMSO)処理した試料を、グリシン及びDMSO等を含む透過溶液でインキュベートし、ブロッキング処理を施してから、ヘパリン、DMSO及びロバ血清等を含む溶液中で一次抗体と反応させ、続いて二次抗体と反応させるiDISCO法が開示されている。
国際公開第2014/010633号
Nicolas Renier、外5名、「iDISCO:a simple,rapid method to immunolabel large tissue samples for volume imaging.」、Cell、2014年、159、896-910 Nicolas Renier、外15名、「Mapping of brain activity by automated volume analysis of immediate early genes.」、Cell、2016年、165,1789-1802
上記特許文献1に開示された抗体組成物、上記非特許文献1及び2に開示されたiDISCO法を含む上述の染色剤及び抗体の浸透を改善するための方法でも、十分な浸透効率は未だに達成されていない。厚みのある標本の組織染色の場合、染色対象の複雑な物理化学的環境のために、低分子である染色剤でさえも組織内部にあまり浸透しないことがある。
さらに、上記非特許文献1及び2に開示されたiDISCO法では、GFP(Green Fluorescent Protein)等の蛍光タンパク質の褪色の他、脱水及び透明化処理における試料の収縮が起こることがある。このため、特に蛍光タンパク質を発現させた生体組織の解析にiDISCO法は使用しづらい面がある。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、幅広い生体組織に適用可能で、かつ染色剤及び抗体を十分に浸透させることができる生体組織染色試薬、生体組織染色キット及び生体組織染色方法を提供することを目的とする。
固定され脱脂処理された生体組織が架橋したポリペプチドから主に構成されるアニオンチャージの電解質ゲルとして特徴づけられ、その生体組織の化学的性質が電解質ゲルとして定義可能であることを発明者は見出した。発明者は、当該電解質ゲルへの染色剤又は免疫染色用抗体の浸透と、染色剤又は抗体を含む緩衝液の塩濃度及び組成、並びに実験条件との関係に着目して試行錯誤を繰り返し、本発明を完成させた。
本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
1%より高濃度の非イオン性界面活性剤と、
200mM以上の塩と、
を含む。
この場合、上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
中性緩衝液をさらに含む、
こととしてもよい。
また、上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
ブロッキング試薬をさらに含む、
こととしてもよい。
また、上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
下記の一般式(1)に示す尿素又は尿素誘導体を除く芳香族アミン、脂肪族アミド類、ニコチンアミド類、スルファミド類、スルホン酸塩、アミノアルコール、アルコール、スルフィン酸類、チオ尿素類及びカルボン酸類の化合物から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、
こととしてもよい。
Figure 0007197941000001
(一般式(1)において、R、R、R、Rは、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、炭化水素基を構成する炭素原子が複数個ある場合には当該炭素原子の一部が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子により置換されていてもよい。炭化水素基には、鎖状炭化水素基及び環状炭化水素基が含まれる。)
また、上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
染色剤をさらに含む、
こととしてもよい。
また、上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬は、
免疫染色用抗体をさらに含む、
こととしてもよい。
本発明の第2の観点に係る生体組織染色キットは、
上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬と、
染色剤と、
を備える。
本発明の第3の観点に係る生体組織染色キットは、
上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬と、
免疫染色用抗体と、
を備える。
この場合、上記本発明の第3の観点に係る生体組織染色キットは、
弱酸性緩衝液をさらに備える、
こととしてもよい。
また、上記本発明の第3の観点に係る生体組織染色キットは、
1%より高濃度の非イオン性界面活性剤、200mM以上の塩及び中性緩衝液を含む洗浄緩衝液をさらに備える、
こととしてもよい。
また、上記本発明の第2の観点及び第3の観点に係る生体組織染色キットは、
水と相分離する相分離誘導試薬をさらに備える、
こととしてもよい。
本発明の第4の観点に係る生体組織染色方法は、
上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬を使用した生体組織染色方法であって、
前記免疫染色用抗体を含む弱酸性緩衝液に、脱脂された生体組織を暴露する前処理ステップと、
前記生体組織染色試薬に前記生体組織を暴露する免疫染色ステップと、
を含む。
本発明の第5の観点に係る生体組織染色方法は、
染色剤と、免疫染色用抗体と、を含む上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬に生体組織を暴露する同時染色ステップを含む。
本発明の第6の観点に係る生体組織染色方法は、
染色剤及び免疫染色用抗体の少なくとも一方を含む上記本発明の第1の観点に係る生体組織染色試薬と、生体組織と、相分離誘導試薬と、を混合する染色ステップを含む。
本発明によれば、幅広い生体組織に適用可能で、かつ染色剤及び抗体を十分に浸透させることができる。
本発明に係る実施の形態における代表的な添加剤を示す図である。(A)は中性のpHを有する添加剤を示す図である。(B)はアルカリ性のpHを有する添加剤を示す図である。 本発明に係る実施の形態の生体組織染色方法の各ステップを時間軸とともに示す図である。(A)は実施の形態に係る生体組織染色方法の一例を示す図である。(B)は図1(A)に示す生体組織染色方法に酵素処理ステップを加えた生体組織染色方法を示す図である。(C)は図1(A)に示す生体組織染色方法に前処理ステップを加えた生体組織染色方法を示す図である。 本発明に係る別の実施の形態の生体組織染色方法の各ステップを時間軸とともに示す図である。 実施例1において染色剤で3D染色したマウス大脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。 実施例2において染色剤で3D染色したマウス小脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)は、それぞれヨウ化プロピジウム(以下“PI”とする)及びSYTO(商標) 16(以下“SYTO 16”とする)で3D染色したマウス小脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)中のスケールバーはいずれも1mmに相当する。 実施例3において染色剤で3D染色したマウス小脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。スケールバーは1mmに相当する。 実施例4において染色剤で3D染色したマウス大脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)は、それぞれ尿素を含まない染色剤染色用緩衝液及び尿素を含む染色剤染色用緩衝液で3D染色したマウス大脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。 実施例5において3D免疫染色したマウス大脳半球の約3mm厚断片から作製した凍結切片の画像を示す図である。 実施例6において免疫染色したマウス脳凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)は、非イオン性界面活性剤の濃度がそれぞれ0.1重量%及び5重量%の免疫染色用緩衝液で免疫染色した凍結切片の画像を示す図である。 実施例6において免疫染色したマウス脳凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)は、非イオン性界面活性剤の濃度がそれぞれ5重量%及び10重量%の免疫染色用緩衝液で免疫染色した凍結切片の画像を示す図である。 実施例7において免疫染色したマウス脳凍結切片の画像を示す図である。上段左端の矢状方向の切片全体を示す画像において「1」で示された部分を拡大した画像が上段中央及び上段右端に示されている。上段左端の画像において「2」で示された部分を拡大した画像が下段中央及び下段右端に示されている。矢状方向の切片全体を示す画像中のスケールバーは1mmに相当する。拡大した画像中のスケールバーは100μmに相当する。 実施例8に係る3D透明化染色方法の各ステップを時間軸とともに示す図である。 図12に示す3D透明化染色方法に基づいて3D免疫染色したマウス半脳から作製した凍結切片の画像を示す図である。左側の矢状方向の切片全体を示す画像におけるスケールバーは1mmに相当する。右側の拡大した画像におけるスケールバーは50μmに相当する。 実施例9において3D核染色及び3D免疫染色したマウス全脳の画像を示す図である。(A)は、SYTOX(商標)-Green(以下“SYTOX-G”とする)及びNeuNのシグナルの画像と、これらの画像をマージした画像とを示す図である。“L”は“左”、“R”は“右”を示す。(A)におけるスケールバーは2mmに相当する。(B)は、(A)に示された全脳の矢状面及び冠状面におけるSYTOX-G及びNeuNのシグナルの画像を示す図である。(B)におけるスケールバーは100μmに相当する。 実施例10において3D核染色及び3D免疫染色したマウス全脳の画像を示す図である。BOBO(商標)-1ヨウ化物(462/481)(以下“BOBO-1”とする)のシグナルとともにパーブアルブミン(PV)、ソマトスタチン(Sst)及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(Gad)67のシグナルをそれぞれ示すb、c及びdにおけるスケールバーは2mmに相当する。PV、Sst及びGad67のシグナルを示すeにおけるスケールバーは2mmに相当する。水平面(x-y)で脳の一部を拡大した画像を示すf及びgにおけるスケールバーは0.5mmに相当する。eに示された部分の冠状面(x-z)の画像を示すhにおけるスケールバーは2mmに相当する。hに示された部分を拡大した画像を示すi及びjにおけるスケールバーは0.1mmに相当する。 実施例11において3D免疫染色したマウス全脳の画像を示す図である。黄色蛍光タンパク質(YFP)シグナルとともにコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)及びドーパミントランスポーター(Dat)のシグナルを示すkにおけるスケールバーは2mmに相当する。kに“l”で示された部分の拡大した画像を示すlにおけるスケールバーは0.5mmに相当する。脳の一部の水平面の画像を示すmにおけるスケールバーは0.5mmに相当する。mに“n”で示された部分の拡大した画像を示すnにおけるスケールバーは0.5mmに相当する。kに“o-q”で示された部分に係る再構築された矢状面の画像を示すo、p及びqにおけるスケールバーはいずれも0.5mmに相当する。 実施例13に係るマウス小脳における抗体のシグナルを示す図である。 実施例14に係るブタの大脳皮質領域の組織の凍結切片の画像及びピークボトム比を示す。(A)及び(B)はそれぞれ添加剤なしの免疫染色用緩衝液で免疫染色した場合及び添加剤ありの免疫染色用緩衝液で免疫染色した場合を示す図である。 実施例15に係る各化合物のピークボトム比を示す図である。 実施例16において3D免疫染色したマウス大脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)、(B)、(C)及び(D)は、それぞれSynaptophysin、Gad67、Dat及びThに対する抗体で染色した凍結切片の画像を示す図である。 実施例17において添加剤なし又は添加剤ありの条件で、染色剤で3D染色したマウス半脳から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)及び(B)は、それぞれRedDot2及びSYTOX-Gのシグナルの画像を示す図である。 実施例18において染色剤及び抗体で3D染色したマウス大脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。(A)はNeuNのシグナルの画像を示す図である。図22(B)はSYTOX-Gのシグナルの画像を示す図である。(C)はNeuNのシグナルを示す画像及びSYTOX-Gのシグナルを示す画像をマージした画像を示す図である。 実施例19において相分離なし及び相分離ありの条件で3D免疫染色したマウス小脳半球から作製した凍結切片の画像を示す図である。 実施例20において3D核染色及び3D免疫染色を同時に行ったマウス全脳の画像を示す図である。(A)はGFAP及びSYTOX-Gのシグナルを示す3次元再構成画像を示す図である。(B)はGFAPのシグナルの画像を示す図である。(C)はDat及びSYTOX-Gのシグナルを示す3次元再構成画像を示す図である。(D)Datのシグナルの画像を示す図である。
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。なお、本明細書において特に示さない限り、“%”は重量%を意味する。
(実施の形態1)
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は生体組織の染色に好適な試薬である。当該生体組織染色試薬は、非イオン性界面活性剤と、塩と、を含む。より具体的には、当該生体組織染色試薬は、上述の非イオン性界面活性剤及び塩を含む溶液、好ましくは緩衝液であってもよい。溶液又は緩衝液の主溶媒は、例えば水である。水のみが溶媒として用いられてもよい。
非イオン性界面活性剤として、例えば、脂肪酸系界面活性剤、高級アルコール系界面活性剤及びアルキルフェノール系の界面活性剤が挙げられる。脂肪酸系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等が例示される。高級アルコール系界面活性剤としてはポリビニルアルコール等が例示される。アルキルフェノール系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが例示される。
好ましくは、非イオン性界面活性剤は、Triton X-100及びTriton X-140等のTriton X(商標)シリーズ、Tween-20、Tween-40、Tween-60及びTween-80等のTween(商標)シリーズ並びにNP-40(商品名)からなる群より選択される少なくとも一種である。非イオン性界面活性剤は、必要に応じて、二種以上を混合して使用することもできる。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬における非イオン性界面活性剤は1%より高濃度である。生体組織染色試薬における非イオン性界面活性剤の濃度は、例えば、2~30%、3~20%、4~15%又は5~12%である。好ましくは、生体組織染色試薬における非イオン性界面活性剤の濃度は5%又は10%である。
塩は、酸由来のアニオンと塩基由来のカチオンとがイオン結合した化合物である。塩は、酸と塩基との中和反応によって生じる化合物で、酸の水素イオンを金属で置換した化合物であってもよい。塩は好ましくは正塩で、例えば、その水溶液が中性となる塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化リチウム(LiCl)及び塩化カリウム(KCl)等である。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬における塩の濃度は200mM以上である。塩の濃度は、例えば、200~2000mM、200~1500mM、200~1000mM、200~800mM、200~600mM又は200~500mMである。好適には、生体組織染色試薬における塩の濃度は200mM又は500mMである。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、生体組織を染色剤で染色する場合であっても、免疫反応を介して抗体で染色する場合であっても使用できる。生体組織を染色する染色剤は、生体組織の染色で使用される公知の染色剤が好適に使用できる。好ましくは、染色剤は生体組織を構成する所定の分子等に結合する小分子化合物又は低分子化合物である。染色剤は、例えば核酸への結合を介して組織を染色するタイプの染色剤であってもよい。染色剤としては、PI、SYTO 16、DAPI、SYTOX-G、BOBO-1、RedDot(商標)2 Far-Red Nuclear Stain(以下“RedDot2”とする)及びNeuroTrace(商標) Fluorescent Nissl Stain(以下“NeuroTrace”とする)等が挙げられる。例えば、染色剤は核染色剤又は核酸染色剤であってもよい。
生体組織染色試薬を免疫染色に用いる場合、抗体は、例えば、免疫染色用抗体、又はハイブリドーマ培養上清、脾内免疫を行なった動物の腹水、抗血清、抗血漿若しくは鳥類の卵の漿液に由来する免疫グロブリンである。当該生体組織染色試薬は、生体組織を抗体で染色する場合、蛍光色素等の色素で標識した一次抗体、又は一次抗体と色素で標識したFab断片抗体との複合体を使用する1ステップでの免疫染色に使用されるのが好ましい。好ましい抗体は、例えば、下記表1及び表2に例示される。抗体を標識する色素としては、Alexa Fluor(商標)色素、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)及びCy色素等の色素が挙げられる。
生体組織染色試薬を免疫染色に用いる場合、好ましくは、本実施の形態に係る生体組織染色試薬は中性緩衝液をさらに含む。中性緩衝液とは、pHが6~8、好ましくは7.2~7.8、より好ましくは7.4~7.6、特に好ましくは7.5の緩衝液をいう。中性緩衝液は、具体的には、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液及びクエン酸緩衝液等を挙げることができる。また、それらの生理食塩水であるPBS、D-PBS、トリス緩衝生理食塩水及びHEPES緩衝生理食塩水を中性緩衝液として用いてもよい。中性緩衝液として、HEPES緩衝液が特に好ましく、その濃度は、5~30mM又は8~20mM、好ましくは8~12mM又は10mMである。
さらに、生体組織染色試薬を免疫染色に用いる場合、好ましくは、生体組織染色試薬はブロッキング試薬をさらに含む。ブロッキング試薬は、抗体の非特異的結合を防止するために使用されるものであれば特に限定されない。ブロッキング試薬は、例えば、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィッシュゼラチン、ウマ血清、ウシ胎仔血清(FBS)及びカゼイン等である。好適には、ブロッキング試薬はカゼインである。生体組織染色試薬におけるブロッキング試薬の濃度は、適宜設定されるが、例えば0.1~3%、0.2~2%、0.3~1%又は0.4~0.8%、好ましくは0.5%である。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、上述の成分の他に、染色剤又は抗体の生体組織への浸透を促進させる添加剤をさらに含んでもよい。例えば、添加剤は染色剤又は抗体の生体組織への浸透を促進させる化合物である。当該化合物は、下記実施例に示すように、生体組織の染色剤又は抗体による染色において、生体組織への染色剤又は抗体の浸透効率を評価することで選択できる。
例えば、添加剤は、下記の一般式(1)に示す尿素又は尿素誘導体を除く芳香族アミン、脂肪族アミド類、ニコチンアミド類、スルファミド類、スルホン酸塩、アミノアルコール、アルコール、スルフィン酸類、チオ尿素類又はカルボン酸類の化合物である。なお、一般式(1)において、R、R、R、Rは、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、炭化水素基を構成する炭素原子が複数個ある場合には当該炭素原子の一部が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子により置換されていてもよい。炭化水素基には、鎖状炭化水素基及び環状炭化水素基が含まれる。
Figure 0007197941000002
また、添加剤は、一般式(1)に示す尿素又は尿素誘導体を除く環状アミン、環状アミド、鎖状アミン、鎖状アミド、スルフォ基、又はこれらを組み合わせて有する化合物であってもよい。
好ましくは、添加剤はアミノアルコールである。アミノアルコールは、例えば、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(以下“Quadrol”とする)、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、N,N,N,N-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN-ブチルジエタノールアミン等である。染色対象の生体組織が蛍光タンパク質を含む場合、アミノアルコールとしては、Quadrol、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2-アミノ-1,3-プロパンジオール及びN-ブチルジエタノールアミンが特に好ましい。
さらに具体的に例示される添加剤は、ピリダジン、2-シアノアセトアミド、5-メチル-2-ピロリドン、メタクリルアミド、ニコチンアミド、N,N-ビス(2-シアノエチル)ホルムアミド、ニコチン酸ヒドラジド、4-シアノピリジン、ブチルアミド、4-メチルピリジン N-オキシド、イソニコチンアミド、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、2,5-ジメチルピラジン、チオモルホリン、2-ピロリドン、2-ピリジンカルボン酸ヒドラジド、4-(2-アミノエチル)モルホリン、o-スルホベンズイミドナトリウム二水和物、4-アクリロイルモルホリン、ε-カプロラクタム、カルバミン酸メチル、グルタロニトリル、4-アセトアミドシクロヘキサノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、1,3-ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、2-ピコリンアミド、4-クロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、デヒドロコール酸ナトリウム、4-クロロベンゼンスルフィン酸ナトリウム、N,N-ジエチルプロピオンアミド、2-ピペリドン、2,2,2-トリフルオロエタノール、N,N-ジエチルニコチンアミド、1,3-ジメチルチオ尿素、N-メチルニコチンアミド、3-ジメチルアミノプロピオニトリル、N,N-ジメチルメタクリルアミド、テトラヒドロチオフェン 1,1-ジオキシド、ニコチン、2,5-ジクロロスルファニル酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸ナトリウム一水和物、アセトオキシム、ジアセトンアクリルアミド、1,2-シクロヘキサンジオール、3-ピコリルアミン、2,3-ジメチル-1-フェニル-5-ピラゾロン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、馬尿酸ナトリウム、N-エチルこはく酸イミド、プロピオンアミド、1-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]ピペラジン、3-エチル-3-オキセタンメタノール、N,N-ジメチルエチルアミン、2-アミノピラジン、モルホリン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムクロリド、3-アセトアミドピペリジン、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルエチレンジアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、N-メチルカルバミン酸エチル、2-メチルチアゾール、ジフェニルスルホン-4,4’-ジクロロ-3,3’-ジスルホン酸二ナトリウム、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、ヘプタン酸ナトリウム、N,N-ジメチルアクリルアミド、2,2’-ジアミノ-N-メチルジエチルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、3-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン、メチルグリオキシム、1-(2-ヒドロキシエチル)-4-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン、ジメチルスルホン、ジメチルアセトアミド、1-アミノ-2-ブタノール、DL-2-アミノ-1-ブタノール、3-スルホプロピルメタクリラートカリウム塩、ピラジン、N-メチルホルムアミド、4-ヒドロキシ-2-ブタノン、N,N-ジエチルアクリルアミド、1,4-ベンゼンジメタノール、キナルジン酸ナトリウム、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノピリミジン、n-オクタン酸ナトリウム、N-メチルチオ尿素、エタノール、1-ナフタレン酢酸ナトリウム、2-エチルイミダゾール、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム二水和物、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、4-ホルミルモルホリン、トリエチレンテトラミン、3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾル、ピリジン-3-スルホン酸ナトリウム、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸ナトリウム一水和物、1-(2-ジメチルアミノエチル)-4-メチルピペラジン、1-ペンタンスルホン酸ナトリウム、N-ニトロソジエチルアミン、イソニペコタミド、ヒドラジン一水和物、2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、マルチトール、1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-(4-ヒドロキシブチル)チオモルホリン1,1-ジオキシド、4-tert-ブチル-1-(3-スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩水和物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,6-ピリジンジメタノール、N,N-ジエチルイソニコチンアミド、ベラトリルアルコール、N,N’-ジアセチルエチレンジアミン、イミダゾール、4-エチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-スルホベンズアルデヒドナトリウム、1-ブタノール、テトラヒドロフラン、アジピン酸ジヒドラジド、テトラブチルアンモニウムブロミド、3,3’-イミノジプロピオニトリル、スルファミド、ビス(2-メトキシエチル)アミン、エチレンシアノヒドリン、ピペラジン六水和物、ラクトアミド、N,N-ジメチルベンズアミド、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタキス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸、1,6-ヘキサンジオール、N-tert-ブチル-2-メトキシエチルアミン、N-メチルアセトアミド、アセトアミド、1-メチルピペラジン、1-メチルピリジニウムクロリド、1-(2-ピリミジル)ピペラジン、2-ヒドロキシエチルメチルスルホン、エチレンシアノヒドリン、クロロコリンクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、N-イソプロピルアクリルアミド、イソニコチン酸ナトリウム、アミルアミン、1-アミノ-2-プロパノール、(+)-3-ブロモカンファ-8-スルホン酸アンモニウム、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、N-メチルジエタノールアミン及びリン酸イソプロパノールアミンからなる群から選択される。
図1(A)の4種の化合物はpHが中性である添加剤の代表例である。図1(B)の2種の化合物はpHがアルカリ性である添加剤の代表例である。複数種の化合物を組み合わせても添加剤としてもよい。上述の化合物の1種以上を任意に組み合わせて添加剤としてよい。添加剤として好ましい組み合わせは、図1(A)に示すニコチン酸ヒドラジド(#0854)及びピラジン(#1086)からなる組み合わせ1、N,N-ジエチルニコチンアミド(#0609)及びピラジン(#1086)からなる組み合わせ2、ニコチン酸ヒドラジド(#0854)、ピラジン(#1086)及び図1(B)に示す2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール(#0146)からなる組み合わせ3、並びにN,N-ジエチルニコチンアミド(#0609)、ピラジン(#1086)及び2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール(#0146)からなる組み合わせ4である。
生体組織染色試薬における添加剤の濃度は限定されないが、例えば、0.1~10重量%、0.5~8重量%、1~7重量%、2~6重量%又は2.5~5重量%である。添加剤が上述の化合物の1種以上を成分として含む場合、各成分の濃度は0.1~10重量%、0.5~8重量%、1~7重量%、2~6重量%又は2.5~5重量%であって、生体組織染色試薬における各成分の濃度は同じであっても異なっていてもよい。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、上述の染色剤を含んでもよい。生体組織染色試薬における染色剤の濃度は、特に限定されず、染色対象の生体組織の体積、種類及び実験条件等に応じて設定される。染色剤の濃度は、例えば1~10μg/mL、2~8μg/mL又は3~5μg/mLである。
また、本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、上述の抗体を含んでもよい。生体組織染色試薬における抗体の濃度は、特に限定されず、染色対象の生体組織の体積、種類及び実験条件等に応じて設定される。抗体の濃度は、例えば、0.05~50μg/mL、好ましくは3~40μg/mL、特に好ましくは5~20μg/mLである。
当該試薬による染色の対象となる生体組織は、例えば、動物由来の試料又は植物由来の試料である。当該動物としては、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳類等の動物が挙げられる。生体組織としては哺乳類の生体組織が好ましい。哺乳類は特に限定されず、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、マーモセット、イヌ、ネコ、フェレット、ブタ、ウシ、ウマ、サル及びチンパンジー及びヒト等が挙げられる。
生体組織は、生きているヒトを除く個体そのものであってもよいし、多細胞生物の個体から得られる器官、組織、細胞塊又は細胞であってもよい。好ましくは、生体組織は、例えば、脳全体又は大脳半球等の脳の一部である。
生体組織は、特に顕微鏡観察のために固定化処理された試料であってもよい。好ましくは、生体組織は、ホルムアルデヒド(FA)又はパラホルムアルデヒド(PFA)等を用いて公知の方法で固定化される。固定化処理後に、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)に浸漬する処理を行うことが好ましい。
生体組織は、例えば、蛍光性化学物質を注入した生体組織、蛍光性化学物質で染色を行った生体組織、蛍光タンパク質を発現した細胞を移植した生体組織及び蛍光タンパク質を発現した遺伝子改変動物の生体組織等であってもよい。
次に、本実施の形態に係る生体組織染色試薬の使用方法について説明する。ここでは、生体組織染色試薬が染色剤をあらかじめ含有するものとする。生体組織としての上述のように固定化され脱脂されたサンプルを染色剤で染色する。サンプルを脱脂するには、例えば、CUBIC-L(10重量% N-ブチルジエタノールアミン及び10重量% Triton X-100を含む水)、CUBIC-1(15重量% Triton X-100、25重量% Quadrol、25重量% 尿素を含む水)又はCUBIC-1A(10重量% Triton X-100、5重量% Quadrol、10重量% 尿素及び25mM NaClを含む水)にサンプルを37℃で数日から数週間、浸漬すればよい。
サンプルを染色剤で染色する染色ステップでは、生体組織染色試薬にサンプルを暴露する。暴露する時間はサンプル内部まで生体組織染色試薬が浸潤する時間であれば特に限定されない。例えば、染色ステップでは、サンプルを37℃で2~5日間、生体組織染色試薬に浸漬する。なお、サンプルの脱脂後、サンプルをPBS等で洗浄してから染色ステップを行うのが好ましい。染色ステップの後、サンプルをPBS等で洗浄してもよい。
サンプルが染色されているか否かは、染色剤を検出し得る光学顕微鏡等を用いた公知の方法で確認できる。蛍光顕微鏡等で染色剤を検出する場合、サンプルから公知の方法で凍結切片を作製し、凍結切片を光学顕微鏡等で観察してもよい。サンプルの観察は、あらゆる種類の光学顕微鏡を用いて行うことができる。例えば、サンプルを、三次元超分解顕微鏡技術(例えば、STED、3D PALM、FPALM、3D STORM及びSIM)で観察してもよい。また、サンプルは、多光子励起型の光学顕微鏡技術を適用して観察してもよい。また、サンプルは、1光子共焦点顕微鏡又はライトシート蛍光顕微鏡(LSFM)を用いて観察してもよい。
続いて、本実施の形態に係る生体組織染色試薬を用いた免疫染色の方法について説明する。ここでは、生体組織染色試薬が抗体をあらかじめ含有するものとする。サンプルを抗体で染色する免疫染色ステップでは、染色ステップと同様に、生体組織染色試薬にサンプルを暴露する。例えば、免疫染色ステップでは、サンプルを23~37℃又は28~34℃、好ましくは32℃で生体組織染色試薬に浸漬する。免疫染色ステップにおける暴露する時間はサンプル内部まで生体組織染色試薬が浸潤する時間であれば特に限定されず、1日~8週間、2日~7週間、3日~6週間、4日~5週間又は1~4週間である。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬によれば、同一のサンプルに対して染色剤による染色と、抗体による免疫染色とを行うことができる。図2は、マウスの全脳であるサンプルに対して核染色及び免疫染色を行う場合の生体組織染色方法を構成する各ステップを所要時間と温度とともに例示する。図2(A)に示す生体組織染色方法は、サンプルを固定化する固定ステップと、サンプルを脱脂する脱脂ステップと、サンプルの核を染色する核染色ステップと、免疫染色ステップと、後固定ステップと、屈折率(RI)調整ステップと、を含む。RI調整ステップでは、サンプルを光学顕微鏡で3次元的に観察するためにサンプルのRIを調整し、透明化する。RI調整ステップでは、必要に応じてゲル等にサンプルを包埋してもよい。好ましくは、当該生体組織染色方法では、サンプルをPBS等で洗浄する洗浄ステップがステップ間に行われる。
図2(B)に例示する生体組織染色方法には、核染色ステップと免疫染色ステップとの間に、サンプルを酵素で処理する酵素処理ステップが含まれる。酵素処理ステップでは、ヒアルロニダーゼ又はコラゲナーゼ-P等でサンプルを部分的に消化することで、抗体のサンプルの端部への結合を抑制して内部へ浸透しやすくする。
図2(C)に例示する生体組織染色方法には、核染色ステップと免疫染色ステップとの間に、抗体を含む弱酸性緩衝液に、脱脂されたサンプルを暴露する前処理ステップが含まれる。脱脂したサンプルの化学的性質がアニオンチャージの電解質ゲルと類似するため、サンプルと抗体とを弱酸性条件に保持すると、等電点より酸性側となってカチオンチャージを有する抗体が電気的相互作用によってサンプルと可逆的な複合体を形成する(下記実施例13参照)。これにより、サンプルでの抗体の濃縮及び浸透性を向上させることができる。
弱酸性緩衝液は公知の任意のものが使用できる。弱酸性緩衝液のpHは、例えば4~6、4.5~5.5又は4.8~5.2である。好ましくは弱酸性緩衝液のpHは5である。より具体的には、弱酸性緩衝液は、例えばクエン酸緩衝液及び酢酸緩衝液である。弱酸性緩衝液には、所定の濃度、例えば100~500mM、100~300mM又は100~200mMの塩を含有させてもよい。なお、弱酸性緩衝液は、抗体の生体組織への浸透を促進する化合物等をさらに含んでもよい。
なお、本実施の形態に係る生体組織染色方法では、酵素処理ステップと、前処理ステップを併用してもよい。この場合、例えば、酵素処理ステップの後にサンプルを洗浄後、前処理ステップを行えばよい。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、下記実施例11に示すように、蛍光タンパク質を含む生体組織であっても、蛍光タンパク質を褪色させることなく3D染色が可能である。よって、当該生体組織染色試薬は、幅広い生体組織に適用可能である。また、当該生体組織染色試薬は、下記実施例1~4に示すように、多様な染色剤を脱脂された生体組織に十分に、かつ均一に浸透させることができる。これにより、生体組織の標的をより確実に標識することができる。
また、本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、下記実施例5、6、9に示すように、抗体であっても脱脂された生体組織に十分に、かつ均一に浸透させることができる。さらに、本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、下記実施例7に示すように、良好なシグナル-バックグラウンド比(SBR)が得られるため、例えば染色した生体組織の画像解析において、より正確な情報を得ることができる。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、下記実施例8に示すように、既存の3D透明化染色方法に組み込みが可能で、しかもサンプル内部まで抗体を浸透させることができる。また、当該生体組織染色試薬は、下記実施例9、10に示すように、同一のサンプルにおける染色剤と抗体との併用又は複数の種類の抗体であっても交差せずに標的を確実に標識することができる。さらに、当該生体組織染色試薬は、下記実施例12に示すように多種の抗体に適用が可能である。
本実施の形態に係る生体組織染色方法では、抗体を含む弱酸性緩衝液に、脱脂された生体組織を暴露する前処理ステップを含んでもよいこととした。これにより、抗体の組織での濃縮及び組織への浸透性が改善されるため、組織における標的を確実に標識できる。もちろん、当該生体組織染色方法では、図2(A)及び図2(B)に示すように、核染色ステップの後に前処理ステップを行わずに免疫染色ステップを行っても組織における標的を確実に標識できる。
なお、本実施の形態に係る生体組織染色試薬及び生体組織染色方法は、3D染色はもちろんのこと、組織切片を染色する、いわゆる2D染色にも適用できる。
また、本実施の形態に係る生体組織染色試薬及び生体組織染色方法によれば、脱脂された生体組織に十分に、かつ均一に染色剤及び抗体を浸透させることができる。このため、例えばc-Fos等の神経関連のマーカーを染色することで、細胞レベルの解像度で機能的な神経回路及びニューロン反応等を解析することができる。
また、本実施の形態に係る生体組織染色試薬は、上記の添加剤を含有することで、染色剤及び抗体のサンプルへの浸透を促進する。これにより、サンプル内部の染色性が高まり、サンプル全体を均質に染色することができる(主に下記実施例16~18、20参照)。なお、上記の添加剤は、本実施の形態に係る生体組織染色試薬に限らず、従来の染色用緩衝液でサンプルを染色する場合であっても、染色剤及び抗体のサンプルへの浸透を促進する。
別の実施の形態では生体組織染色キットが提供される。生体組織染色キットは、上記の生体組織染色試薬と、染色剤と、を備える。当該生体組織染色キットは、上記の生体組織染色試薬と、抗体と、を備えてもよい。この場合、当該生体組織染色キットは、上述の弱酸性緩衝液をさらに備えてもよい。また、当該生体組織染色キットは、1%より高濃度の非イオン性界面活性剤、200mM以上の塩及び中性緩衝液を含む洗浄緩衝液をさらに備えてもよい。洗浄緩衝液は、上述の免疫染色後のサンプルの洗浄に好適である。なお、免疫染色ステップの後、4℃で一晩保管したサンプルを洗浄緩衝液で洗浄してもよい。
なお、当該生体組織染色キットは、取扱説明書又は指示書をさらに備えてもよい。取扱説明書又は指示書には、例えば、生体組織染色試薬の組成、上述の生体組織染色方法に係るプロトコルが記載される。また、上記の生体組織染色試薬は、上記の成分以外にpH調整剤、浸透圧調整剤、防腐剤及びサンプルの乾燥抑制剤等のその他の添加物を含んでもよい。当該添加物は、生体組織染色試薬とは別に生体組織染色キットに含まれていてもよい。
なお、生体組織染色キットは、成分等の特定の材料を内包する容器を備えた包装である。生体組織染色キットは、その複数の構成要素を同一の容器に混合して備えていても別々の容器に備えていてもよい。取扱説明書又は指示書は、紙又は磁気テープ、コンピュータで読み取り可能なディスク、テープ若しくはCD-ROM等の電子媒体等の記録媒体に記録されてもよい。生体組織染色キットは、希釈剤、溶媒、洗浄液又はその他の試薬を内包した容器を備えていてもよい。さらに、生体組織染色キットは、キットの用途を実現するための手順を実行するために必要な器具及び試薬を備えていてもよい。
より具体的に、生体組織染色キットの構成が次に例示される。
[染色剤用染色キット]
(構成)
1.染色剤染色用緩衝液 n回分(4mL/マウス全脳)
2.プロトコルが記録された記録媒体
(仕様)
染色剤3D染色緩衝液:10% Triton X-100、5% Quadrol及び500mM NaCl
[免疫染色用染色キット]
(構成)
1.免疫染色用緩衝液(1×又は2×濃度) n回分(1×濃度で15.5mL/マウス全脳)
2.免疫染色添加剤(10×濃度) n回分(最大100μL(final 2×/マウス全脳)
3.染色用チューブ
4.免疫染色洗浄緩衝液 n回分(30mL(15mL×2回分)/マウス全脳)
5.免疫染色後固定剤 n回分(0.2mL/マウス全脳)
6.プロトコルが記録された記録媒体
(仕様)
免疫染色用緩衝液:(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、200mM NaCl、0.5%カゼイン
免疫染色添加剤:(10×)25% Quadrol
染色用チューブ:15mL染色チューブ
免疫染色洗浄緩衝液:10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100及び500mM NaCl
免疫染色後固定剤:飽和FA(37~38%)/メタノール
免疫染色後固定剤は染色用チューブで免疫染色洗浄緩衝液中に1%に希釈して使用
(実施の形態2)
染色剤及び抗体に応じて、適切な上記添加剤を使用することで、同一の生体組織に対して染色剤による染色と、抗体による免疫染色とを同時に行うことができる。以下では、本実施の形態に係る生体組織染色方法に関して、上記実施の形態1と異なる点について主に説明する。本実施の形態に係る生体組織染色方法は、染色剤と、免疫染色用抗体と、添加剤と、を含む生体組織染色試薬にサンプルを暴露する同時染色ステップを含む。染色ステップと同様に、生体組織染色試薬にサンプルを暴露する。例えば、同時染色ステップでは、サンプルを23~37℃又は28~34℃、好ましくは32℃で生体組織染色試薬に浸漬する。なお、同時染色ステップでは、サンプルを第1の温度に維持した後、第1の温度より低い第2の温度にサンプルを維持してもよい。この場合、第1の温度に維持する時間は、第2の温度に維持する時間より長くてもよいし、同じであってもよいし、短くてもよい。好ましくは、第1の温度が23~37℃で、第2の温度が2~6℃である。
同時染色ステップにおける暴露する時間はサンプル内部まで生体組織染色試薬が浸潤する時間であれば特に限定されず、例えば3週間、2週間、1週間又は2~6日間、サンプルが生体組織染色試薬に浸漬される。
図3は、マウスの全脳であるサンプルに対して核染色及び免疫染色を同時に行う場合の生体組織染色方法を構成する各ステップを例示する。図3に示す生体組織染色方法では、核染色ステップと免疫染色ステップとを同時に施行するため、核染色及び免疫染色に要する期間を、核染色及び免疫染色を同時に行わない場合よりも短縮できる。また、図2(A)に示す抗体の浸透性を向上させるための酵素反応ステップが図3に示す生体組織染色方法では不要となる。
本実施の形態に係る生体組織染色方法によれば、サンプルに対する染色剤による染色及び抗体による免疫染色を同時に行うので、下記実施例18に示されるようにサンプルの染色に要する時間を大幅に短縮できる。
本実施の形態に係る生体組織染色方法に好適な生体組織染色キットの構成が次に例示される。
[生体組織染色キット]
(構成)
1.染色用緩衝液(1×又は2×濃度)
2.添加剤
(仕様1)
染色用緩衝液(1×又は2×濃度):(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、500mM NaCl、0.5%(又は1%)カゼイン
添加剤:(2×)5% ニコチン酸ヒドラジド、10% ピラジン
(仕様2)
染色用緩衝液(1×又は2×濃度):(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、500mM NaCl、0.5%(又は1%)カゼイン
添加剤:(2×)5% ピラジン、10% N,N-ジエチルニコチンアミド
(仕様3)
染色用緩衝液(1×又は2×濃度):(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、500mM NaCl、0.5%(又は1%)カゼイン
添加剤:(2×)5% ニコチン酸ヒドラジド、10% ピラジン、(2×)2~3% 2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール
(仕様4)
染色用緩衝液(1×又は2×濃度):(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、500mM NaCl、0.5%(又は1%)カゼイン
添加剤:(2×)5% ピラジン、10% N,N-ジエチルニコチンアミド、(2×)2~3% 2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール
(仕様5)
染色用緩衝液(1×又は2×濃度):(1×)10mM HEPES(pH7.5)、10% Triton X-100、500mM NaCl、0.5%(又は1%)カゼイン
添加剤:(2×)2~3% 2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール
(実施の形態3)
生体組織染色試薬にサンプルを暴露する際の生体組織染色試薬における抗体及び染色剤の初期濃度は、抗体及び染色剤を3次元的にサンプルに浸透させる上で極めて重要である。ローコストで抗体及び染色剤の高い初期濃度を確保するためには、抗体又は染色剤を非常に少量の生体組織染色試薬中に含有させる必要がある。しかし、少量の生体組織染色試薬ではサンプル全体を浸漬させることができない。そこで、本実施の形態に係る生体組織染色方法では、生体組織染色試薬にサンプルを暴露する染色ステップにおいて、水と相分離する相分離誘導試薬を使用する。以下では、本実施の形態に係る生体組織染色方法に関して、上記実施の形態1と異なる点について主に説明する。
相分離誘導試薬は、生体組織染色試薬の主成分である水と相分離するものであれば、液相、気相及び固相のいずれであってもよい。例えば、相分離誘導試薬は、水と混合しないミネラルオイル等のオイルである。好ましくは、相分離誘導試薬は、生体組織染色試薬に含まれる界面活性剤と混合しにくく、その比重が生体組織染色試薬の比重に近く、その粘性が過度に高くないものである。この条件を満たすものとして、例えばジメチルシリコーンオイルの1つであるKF-96(信越シリコーン社製、粘度50)が挙げられる。
本実施の形態に係る生体組織染色方法における染色ステップでは、抗体及び染色剤の少なくとも一方を含む上記実施の形態に係る生体組織染色試薬と、サンプルと、相分離誘導試薬と、を混合する。相分離誘導試薬は、水と相分離するため、サンプル及び生体組織染色試薬の外側が相分離誘導試薬で覆われる。サンプルは相分離誘導試薬から分離した生体組織染色試薬に暴露され、抗体及び染色剤の少なくとも一方がサンプルに浸透する。相分離誘導試薬を併用することで、相分離誘導試薬を使用しない場合と抗体及び染色剤の量が同じでも、生体組織染色試薬における染色剤又は抗体を濃縮することができる。
本実施の形態に係る生体組織染色試薬における染色剤の濃度は、染色剤の濃度は、例えば10~100μg/mL、20~80μg/mL又は30~50μg/mLである。本実施の形態に係る生体組織染色試薬における抗体の濃度は、例えば、0.5~500μg/mL、好ましくは30~400μg/mL、特に好ましくは50~200μg/mLである。
なお、相分離誘導試薬を使用する本実施の形態に係る生体組織染色方法は、上記実施の形態1に係る生体組織染色試薬に限らず、従来の染色用緩衝液にサンプルを暴露する場合に抗体又は染色剤の初期濃度を高めるのに有効である。例えば、染色用緩衝液として非イオン性界面活性剤を含むPBSを用いる場合、抗体及び染色剤の少なくとも一方を含む当該染色用緩衝液と、サンプルと、相分離誘導試薬と、を混合すればよい。
本実施の形態に係る生体組織染色方法によれば、相分離誘導試薬によって、同量の抗体又は染色剤で相分離誘導試薬を使用しない場合と比較して、サンプルが暴露される生体組織染色試薬における抗体又は染色剤の初期濃度を高くすることができる。このため、ローコストでサンプルに効率よく抗体又は染色剤を浸透させることができる(下記実施例19参照)。
なお、別の実施の形態では、染色用緩衝液と、上記相分離誘導試薬と、を備える生体組織染色キットが提供される。当該生体組織染色キットにおける染色用緩衝液は、好ましくは、上記実施の形態1に係る生体組織染色試薬である。また、他の実施の形態では、水と相分離する物質を含む生体組織染色補助材が提供される。
また、本実施の形態に係る相分離誘導試薬は、上記実施の形態2における同時染色ステップに適用してもよい。これにより、サンプルの染色に要する時間をさらに大幅に短縮できる(下記実施例20参照)。
本実施の形態に係る生体組織染色方法に好適な生体組織染色キットの構成には、例えば、上記実施の形態1に係る生体組織染色キットに、相分離誘導試薬が追加される。相分離誘導試薬の仕様の例は、ミネラルオイル又はジメチルシリコーンオイル(KF-96(粘度50)、信越シリコーン社製)である。
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例で使用する脱脂処理、染色剤染色用緩衝液及び免疫染色用緩衝液の組成を以下に示す。
CUBIC-L:
10重量% N-ブチルジエタノールアミン(東京化成工業社製 #B0725)
10重量% Triton X-100(ナカライテスク社製 #12967-45)
二段蒸留水
TS:
10重量% Triton X-100
500mM NaCl
0.05重量% NaN
CUBIC-1A:
10重量% Triton X-100
5重量% Quadrol(東京化成工業社製 #T0781)
10重量% 尿素(ナカライテスク社製 #35904-45)
25mM NaCl(ナカライテスク社製 #31319-45)
二段蒸留水
H-S:
10mM HEPES(pH7.5)(ナカライテスク社製 #17514-15)
染色剤染色用緩衝液A:
10重量% Triton X-100
500mM NaCl
5重量% Quadrol
二段蒸留水
染色剤染色用緩衝液B:
10重量% Triton X-100
500mM NaCl
5重量% Quadrol
10重量% 尿素
二段蒸留水
免疫染色用緩衝液A:
10mM HEPES(pH7.5)
10重量% Triton X-100
200mM NaCl
0.05重量% NaN
免疫染色用緩衝液B:
10mM HEPES(pH7.5)
0.1重量%又は5重量% Triton X-100
200mM アルギニン-HCl
0.5%(w/v) カゼイン(和光純薬工業社製 #030-01505)
0.05重量% NaN
免疫染色用緩衝液C:
10mM HEPES(pH7.5)
5重量%又は10重量% Triton X-100
200mM NaCl
0.5%(w/v) カゼイン
0.05重量% NaN
免疫染色用緩衝液D:
10mM HEPES(pH7.5)
10重量% Triton X-100
200mM NaCl
0.5(w/v) カゼイン
2.5重量% Quadrol
0.05重量% NaN
免疫染色用緩衝液E:
10mM HEPES(pH7.5)
10重量% Triton X-100
200mM NaCl
0.5(w/v) カゼイン
0.05重量% NaN
染色用緩衝液F:
10mM HEPES(pH7.5)
10重量% Triton X-100
500mM NaCl
0.5%(w/v) カゼイン
0.05重量% NaN
実施例1:高い濃度の塩及び界面活性剤での3D核染色
(サンプルの調製)
5ヶ月齢のICRマウス(日本クレア社製)を過剰量(腹腔内に>100mg/kg)のペントバルビタール(ペントバルビタールナトリウム塩(ナカライテスク社製、#02095-04))で安楽死させ、~10U/mLのヘパリンを含む10mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)に続いて4%PFAを含む20~30mLのPBSで経心的に灌流固定した。次に、頭部から全脳を摘出し、4%PFAを含むPBSで8~24時間、4℃でさらに全脳を固定した。固定した全脳をCUBIC-Lに37℃で5日間浸漬することで脱脂処理した全脳を得た。脱脂した当該全脳から切り取った脱脂された大脳半球をサンプルとした。
(核染色)
5μg/mLでPI(Molecular Probes社製、#P21493)を含むTS中にサンプルを浸漬し、37℃で2日間染色した。染色後のサンプルの外側から2、3及び4mmの位置で50μm厚の凍結切片を作製した。
(画像取得及び画像処理)
対物レンズ(UPlanSApo 4×、N.A.=0.16)、フィルタ、当該フィルタに適合する二色性反射鏡及びsCMOSカメラ(ORCA-Flash4.0、浜松ホトニクス社製)を備える蛍光顕微鏡(BX51、オリンパス社製)で凍結切片を観察した。電動x-yステージ(PRIOR社製)及びソフトウェア(cellSens Dimension 1.18、オリンパス社製)を用いて、凍結切片全体を包含する16ビットの画像を得た。画像に対するコンピュータ処理にはFiji/ImageJを用いた。
(結果)
図4は、外側から2、3及び4mmの位置での凍結切片それぞれの核染色画像を示す。凍結切片全体で均一な核染色像が得られた。
実施例2:異なる塩濃度での3D核染色
(サンプルの調製)
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウス(日本SLC社製)の全脳をCUBIC-1Aに37℃で約10日間浸漬することで脱脂処理した全脳を得た。脱脂した当該全脳から切り取った脱脂された大脳半球をサンプルとした。
(核染色)
2μg/mLのPI若しくはSYTO 16(1:150、Thermo Fisher Scientific社製、#S7578)を含むH-S又は2μg/mLのPI若しくはSYTO 16(1:150)を混合したCUBIC-1A中にサンプルを浸漬し、32℃で24時間染色した。なお、NaClの濃度の影響を調べるため、CUBIC-1AのNaClの濃度を25mM又は500mMとし、H-SにNaClを5mM又は500mMとなるように添加した。サンプルをPBSで洗浄し、40重量%のスクロースを含むPBSに浸漬した。得られたサンプルから凍結切片を作製した。ポスト2D染色のために、DAPI(1:500、Dojindo Molecular Technologies社製、#D0523)を含むPBS中に室温で30分間浸漬した。得られた凍結切片を実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察した。
(結果)
図5(A)及び図5(B)は、それぞれPI及びSYTO 16で3D染色したサンプルの凍結切片の核染色画像を示す。イオン化染色剤であるPI及びイオン化かつ脂溶性染色剤であるSYTO 16いずれにおいても、NaClの濃度が高いH-S及びCUBIC-1Aの条件で、凍結切片全体でより均一な核染色像が得られた。また、DAPIによるポスト2D染色でも核を検出できることが確認できた。
実施例3:様々な染色剤による3D核染色
(サンプルの調製)
実施例2と同様に固定した全脳をCUBIC-1Aに37℃で約10日間浸漬することで脱脂処理し、切り取った小脳半球をサンプルとして得た。
(核染色)
NaClの濃度を500mMにしたCUBIC-1A中にサンプルを浸漬し、32℃で2日間染色した。用いた染色剤は、DAPI(1:400)、SYTOX-G(1:2500、Thermo Fisher Scientific社製、#S7020)、RedDot2(1:150、Biotium社製、#40061)又はNeuroTrace(1:150、Thermo Fisher Scientific社製、#N21483)である。以降、実施例2と同様にサンプルから凍結切片を作製した。得られた凍結切片を実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察した。
(結果)
図6は、DAPI、SYTOX-G、RedDot2及びNeuroTraceで染色したサンプルの凍結切片の核染色画像を示す。いずれの染色剤でも凍結切片全体で均一な核染色像が得られた。これにより、塩の濃度を高めたCUBIC-1Aによって、種々の染色剤で均一な3D核染色ができることが示された。
実施例4:染色剤染色用緩衝液での3D核染色
(サンプルの調製)
8週齢のC57BL/6マウスを用いる点を除いて、実施例1と同様に脱脂処理した大脳半球サンプルを得た。
(核染色)
SYTOX-G(1:2500)を混合した染色剤染色用緩衝液A中にサンプルを浸漬し、37℃で3日間染色した。一方で、染色剤染色用緩衝液Aに尿素をさらに混合した染色剤染色用緩衝液Bでも同様にサンプルを染色した。上記実施例1と同様にサンプルから凍結切片を作製し、凍結切片を観察した。
(結果)
図7(A)及び図7(B)は、それぞれ染色剤染色用緩衝液A及び染色剤染色用緩衝液Bで染色したサンプルの凍結切片の核染色画像を示す。尿素の有無にかかわらず、凍結切片全体で均一な核染色像が得られた。尿素を含む染色剤染色用緩衝液Bと比較して、尿素を含まない染色剤染色用緩衝液Aの方が全体的に強いシグナルが得られた。
実施例5:中濃度の塩及び界面活性剤での3D免疫染色
(サンプルの調製)
実施例1と同様に脱脂処理した大脳半球から冠状断で約3mm厚のサンプルを得た。
(免疫染色)
蛍光色素Alexa488で標識したマウス抗NeuN抗体(Anti-NeuN-A488抗体、Merck Millipore社製、MAB377X)を10μg/mLの濃度で混合した免疫染色用緩衝液A中にサンプルを浸漬し、32℃で4日間染色した。NeuNは神経細胞核のマーカーである。染色後のサンプルから冠状断面の50μm厚の凍結切片を作製し、上記実施例1と同様に凍結切片を観察した。
(結果)
図8は、凍結切片の免疫染色画像を示す。凍結切片全体で均一な神経核染色像が得られた。
実施例6:異なる濃度の界面活性剤での免疫染色
(サンプルの調製)
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの全脳をCUBIC-1Aに37℃で約10日間浸漬することで脱脂処理した全脳をサンプルとして得た。当該サンプルから50μm厚の全脳矢状断の凍結切片を作製し、染色に使用した。
(免疫染色)
1μg/mLの抗Sst抗体(Merck Millipore社製、#MAB354)と、蛍光色素Alexa594で標識したFab-抗ラット(Fab-anti-rat-A594、Jackson ImmunoResearch laboratories社製、#112-587-008)とを重量比1:0.7から1:3で混合した免疫染色用緩衝液B又は免疫染色用緩衝液C中に凍結切片を浸漬し、32℃で一晩染色した。染色後の凍結切片を上記実施例1と同様に観察した。
(結果)
図9(A)及び図9(B)は、免疫染色用緩衝液Bで染色した凍結切片の免疫染色画像を示す。Triton X-100の濃度が高いほうで強いシグナルが得られた。図10(A)及び図10(B)は、免疫染色用緩衝液Cで染色した凍結切片の免疫染色画像を示す。Triton X-100の濃度が10重量%の場合、5重量%よりもさらに強いシグナルが得られた。
実施例7:免疫染色用緩衝液とPBST緩衝液との比較
(サンプルの調製)
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウス全脳をCUBIC-Lに3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。当該サンプルから50μm厚の全脳矢状断の凍結切片を作製し、染色に使用した。
(免疫染色)
1μg/mLのマウス抗NeuN抗体と、Fab-anti-mouse IgG-A594とを重量比約1:0.75で混合した免疫染色用緩衝液E中に凍結切片を浸漬し、32℃で24時間染色した。染色後のサンプルから凍結切片を作製した。比較対象としてPBST緩衝液(0.1%(v/v) Triton X-100及び3%ロバ血清(Sigma-Aldrich社製、#D9663))でも同様に凍結切片を染色し、染色後の凍結切片を上記実施例1と同様に観察した。
(結果)
図11は、免疫染色用緩衝液Eで染色した凍結切片及びPBST緩衝液で染色した凍結切片のそれぞれサンプルの神経核染色像を示す。上段左端において「1」及び「2」で示す部分を拡大した画像によって、PBST緩衝液よりも免疫染色用緩衝液Eでの染色によってシグナルノイズ比が改善されることが示された。
実施例8:他の3D透明化染色方法との比較
既に報告されている3D透明化染色方法であるAbScale(Hiroshi Hama、外10名、「ScaleS:an optical clearing palette for biological imaging」、Nat.Neurosci.、2015年、18、1518-1529)、上記非特許文献2に開示されたiDISCO+(2016年12月版 https://idisco.info/idisco-protocol/)及び上記免疫染色用緩衝液Eを用いた染色方法について、実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの大脳半球をCUBIC-Lに37℃で3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルに対する抗体の浸透の程度を比較した。
AbScale(オリジナル)では、図12に示す順に固定後のサンプルをScaleS0、ScaleA2、AcaleB4及びScaleA2の順に浸漬し、サンプルを洗浄後、Alexa488で標識したマウス抗NeuN抗体(5μg/mL)を混合した1.6mLのAbScale溶液(0.33M尿素及び0.5%(w/v) Triton X-100を含むPBS)中にサンプルを浸漬し、37℃で染色した。なお、ScaleS0は、20%(w/v) D-(-)-ソルビトール(ナカライテスク社製、#32021-95)、5%(w/v)グリセロール(ナカライテスク社製、#17018-25)、1mM メチル-β-シクロデキストリン(東京化成工業製、#M1356)、1mM γ-シクロデキストリン(和光純薬工業社製、#037-10643)、1%(w/v) N-アセチル-L-ヒドロキシプロリン(サンタクルーズバイオテクノロジー社製、#sc-237135)、3%(v/v)ジメチルスルホキシド(ナカライテスク社製、#35624-15)をPBS中に溶解したものである。ScaleA2は、10%(w/v)グリセロール、4M 尿素、0.1%(w/v)Triton X-100を蒸留水に溶解したものである。ScaleB4は、8M 尿素を蒸留水に溶解したものである。
iDISCO+(オリジナル)では、図12に示す順に固定後のサンプルを20%、40%、60%、80%及び100%のメタノールで順次処理してサンプルを脱水し、66%ジクロロメタン(DCM)/33%メタノール中でサンプルを一晩振とうした。続いてサンプルを100%のメタノールで洗浄し、5%過酸化水素を含むメタノール中で一晩処理した。そして、80%、60%、40%及び20%のメタノールで順次サンプルを再脱水し、サンプルを洗浄した。さらに、サンプルを透過溶液及びブロッキング溶液で処理した。
iDISCO+(オリジナル)における一次抗体による染色では、マウス抗NeuN(10μg/mL)を混合した1.6mLの一次染色緩衝液(5%DMSO、3%ロバ血清、0.2%(v/v)Tween-20、10μg/mL ヘパリンを含むPBS)を用いて37℃でサンプルを染色した。二次抗体による染色では抗マウス二次IgG(A488)(10μg/mL)を混合した二次染色緩衝液(3%ロバ血清、0.2%(v/v)Tween-20、10μg/mL ヘパリンを含むPBS)を用いて37℃でサンプルを染色した。
免疫染色用緩衝液Eを用いた染色では、図12に示す順にサンプルを50%CUBIC-L及び100%CUBIC-Lに浸漬し、洗浄後、マウスモノクローナル抗NeuN IgG(10μg/mL)及びA488で標識した抗マウス二次Fab(Jackson ImmunoResearch laboratories社製、#115-547-185)を重量比1:1で混合した免疫染色用緩衝液E中にサンプルを浸漬し、32℃で染色した。
一方で、図12に示すように、AbScale(オリジナル)及びiDISCO+(オリジナル)における染色を、免疫染色用緩衝液Eを用いた染色条件に置換してサンプルを染色した。
(結果)
各サンプルの凍結切片の画像を示す図13によれば、AbScale(オリジナル)及びiDISCO+(オリジナル)での染色の場合、サンプルの内部の神経核染色像が完全には得られなかったが、本実施例に係る免疫染色用緩衝液Eを用いた染色ではサンプルの内部の神経核染色像が良好に得られた。AbScale及びiDISCO+は、免疫染色用緩衝液Eを用いて染色することで明らかにサンプルの内部の神経核染色像が改善した。これにより、既存の3D透明化染色方法と組み合わせても免疫染色用緩衝液Eによって生体組織に抗体を十分に浸透させることができることが示された。本実施例に係る免疫染色用緩衝液Eを用いた染色方法では、免疫染色用緩衝液Eの使用に加え、抗体の濃度、Fab抗体の使用及び染色の際の温度等を調整することによって、サンプルへの抗体の浸透効率を改善することができた。
実施例9:全脳の2色3D染色
以下の実施例に係る3D組織染色及び画像解析のために多用途に適用可能なプロトコル(以下「CUBIC-HV」とする)を図2(A)に図示する。CUBIC-HVにおける核染色では、上記の染色剤染色用緩衝液Bを用いた。CUBIC-HVにおける免疫染色では、上記の免疫染色用緩衝液Eを用いた。なお、図2(B)に示すように、CUBIC-HVに酵素処理を任意に追加した。
(サンプルの調製)
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの全脳をCUBIC-Lに37℃で3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。
(核染色)
サンプルをPBSで洗浄し、0.05%のNaNを含むPBS中でサンプルを4℃で使用まで保管した。SYTOX-G(1:2500)を混合した染色剤染色用緩衝液B中にサンプルを浸漬し、37℃で5日間染色した。
(酵素処理)
サンプルを洗浄後、酵素処理した。酵素処理では、ヒアルロニダーゼ(シグマ・アルドリッチ社製、#H4272又はH3884、3mg/mL)を含むCAPSO緩衝液(10mM CAPSO(シグマ・アルドリッチ社製、#C2278)及び150mM NaClを含み、pH10)でサンプルを37℃で24時間処理した。
(免疫染色)
酵素処理後、サンプルをPBSで洗浄し、10μg/mLのマウス抗NeuN抗体(Merck Millipore社製、MAB377)と、Alexa594で標識したFab-抗マウス IgG(Fab-anti-mouse IgG-A594、Jackson ImmunoResearch laboratories社製、#115-587-185、マウス抗NeuN抗体と重量比で約1:0.5になる量を添加)を混合し、さらに2.5重量%Quadrolを添加した免疫染色用緩衝液E中にサンプルを浸漬し、32℃で7日間、続いて4℃で5日間染色した。染色後のサンプルをCUBIC-Rで透明化した(RI調整)。CUBIC-Rは、45重量%のアンチピリン及び30重量%のニコチンアミドを含む二段蒸留水で、0.5%(v/w)N-ブチルジエタノールアミンで緩衝化(pH~10)されたものである。サンプルをPBSで洗浄後、1%ホルムアルデヒド(FA)で室温にて5時間、サンプルを後固定した。透明化のために、水で1:1の割合で希釈したCUBIC-Rに、室温で1日、サンプルを浸漬した。続いて希釈していないCUBIC-Rに室温で2~3日、サンプルを浸漬した。最後に、CUBIC-Rに溶解した2%(w/v)アガロースで調製したゲルにサンプルを包埋した。
(画像取得及び画像処理)
左右のシート照明ユニット(オリンパス社製)とサンプルの前側及び後側に配置された2個のマクロズーム顕微鏡(MVX10、オリンパス社製)を備えるライトシート顕微鏡(LSFM)でサンプルを3D観察した。左右のシート照明パスを切り換えるために、ファイバーで連結したダイオード又はDPSSレーザー(Omicron、λ=488、532、594及び642nmを有するSOLE-6)をコリメータ及びビーム反射鏡を介してシート照明ユニットに接続した。シート照明は円柱レンズを有するシート照明ユニットで発生させた。シート照明の厚みはメカニカルスリットで約5~10μmの範囲に調節した。本実施例におけるLSFM観察では、0.63×対物レンズ(MVPLAPO0.63X N.A.=0.15、WD=87mm、オリンパス社製)、MVX10の光学ズーム(1.25×)、488nm及び590nmレーザー、φ32シングルバンドパスフィルタ(520/44nm及び641/75nm、Semrock社製)、チューブレンズ(MVX-TV XC、オリンパス社製)及びsCMOSカメラ(Zyla 5.5、Andor社製)を用いた。サンプル画像取得のため、サンプルホルダ及びゲルに包埋した透明化サンプルを、電動式x-y-zステージ(x及びyステージがThorlabs社製のMTS50/M-Z8E、zステージがPhysik instrumente社製のM-112.1DG)に接続し、HIVAC-F4及び鉱油からなるRI調整油混合物(RIは約1.51)で満たされた、照射及び画像化ウインドウを有するサンプルチャンバー内に配置した。z方向に9μmのステップサイズでサンプルをスキャンし、16ビット画像を得た。ビームウエストの共焦点パラメータがタイリング後の各x-y画像のサンプル全体を包括するように、シート照明の焦点を動かすことで複数のz-スタックデータを取得した。すべての電子機器はLabVIEWソフトウェア(National Instruments社製)で制御した。
LSFMで得られた脳の画像を、Fiji/ImageJを使用して次のように処理した。まず、各z位置でシート照明の焦点を動かした6個の画像(3箇所×左及び右からの光照射)をタイリングして1個の画像を構築した。タイリングの端のx位置はサンプル中央部のz位置でライトシートの焦点位置を動かした画像を収集し、各画像のシグナルコントラストを比較して決定した。タイリングの前に、各zステップにおいてライトシートの焦点位置を動かして得られた画像間の平均強度を均等化した。タイリング後、得られた16ビット画像を8ビットに変換し、ブランク領域を除外した。続いてノイズのシグナルを次のフィルタで除外した。1)脳の領域外のノイズピクセルを強度閾値で選択し、ImageJの“remove outlier”機能を適用する。2)強度閾値が染色シグナルより大きいノイズピクセルを選択し、ImageJの“remove outlier”機能を適用するか強度を0に置換する。3)強度閾値及び手動選択を組み合わせてノイズピクセルを選択し、ImageJの“clear”機能を適用する。必要に応じて、異なるチャネル間のx-y位置を手動で一致させた。
LSFMで得られ、上記のように処理されたz-スタックデータをImarisソフトウェア(version8.4、Bitplane社製)で再構成し、疑似カラー画像として可視化した。疑似カラー画像の明るさ及びコントラストを調整した。
(結果)
図14(A)には、左からSYTOX-Gのシグナルを示す画像、NeuNのシグナルを示す画像及びこれらの画像をマージした画像が示されている。LSFMによって、ほぼ等方性のボクセルサイズ(8.3×8.3×9μm)でサンプルを包含するz-スタック画像が得られた。図14(B)には、図14(A)に示すデータの矢状面(y-z)又は冠状面(x-z)の画像を示す。ほぼ等方性の細胞レベルの解像度で均質な染色及び画像が取得できた。
実施例10:全脳の多色3D染色
組織染色は、遺伝学的手法よりも、1つの標本における複数の標的の染色及び可視化が容易である。本実施例では、BOBO-1と、GABAニューロンに関連する3つの異なる抗体でマウス全脳をCUBIC-HVに従って以下のように3D染色した。
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの全脳をCUBIC-Lに3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。サンプルをPBSで洗浄し、0.05%のNaNを含むPBS中でサンプルを4℃で使用まで保管した。BOBO-1(1:400)を混合した染色剤染色用緩衝液B中にサンプルを浸漬し、37℃で5日間染色した。サンプルを洗浄後、実施例9と同様にヒアルロニダーゼで酵素処理した。
酵素処理後、サンプルをPBSで洗浄し、マウスモノクローナル抗PV IgG/Fab-Cy3(1:50、Swant社製、#PV235)、ラットモノクローナル抗Sst IgG2b/Fab-A594(1:10、Millipore社製、#MAB354)及びマウスモノクローナル抗Gad67 IgG2a/Fab-A647(1:75、Millipore社製、#MAB5406)を混合した免疫染色用緩衝液E中にサンプルを浸漬し、室温で7週間、続いて4℃で5日間染色した。サンプルをPBSで洗浄後、1%FAで室温にて5時間、サンプルを後固定した。サンプルを洗浄後、CUBIC-RでRI調整を行い、LSFMを用いて上述のように3D画像を得た。
(結果)
図15は、BOBO-1のチャネルとともにPV(b)、Sst(c)及びGad67(d)に係るチャネルの画像を示す。ボクセルサイズは8.3×8.3×9μmであった。これら4つのチャネルを重ね合わせた画像が図15のeに示されている。図15のf及び図15のgは、脳の一部を拡大した水平面(x-y)の画像を示す。図15のhは、図15のeに示された部分の冠状面(x-z)の画像を示す。図15のi及び図15のjは、それぞれ図15のhに示された部分を拡大した画像を示す。適切な抗体の種類(ホストの種及びアイソタイプ)及び染色剤、励起光及びバンドパス放射フィルタによって、異なる蛍光チャネルからシグナルを識別できることが示された。
実施例11:蛍光タンパク質を発現させた全脳の多色3D染色
本実施例では、蛍光タンパク質で標識された全脳を2種類の抗体を用いてCUBIC-HVに従って以下のように3D染色した。
8週齢のThy1-YFP-Hトランスジェニックマウス(Feng,G.P.,et al.外8名、「Imaging neuronal subsets in transgenic mice expressing multiple spectral variants of GFP」、Neuron、2000年、28、41-51)に関して、実施例1と同様に固定した全脳をCUBIC-Lに3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。サンプルを洗浄後、実施例9と同様にヒアルロニダーゼで酵素処理した。Thy1-YFP-Hトランスジェニックマウスの脳にはYFPが発現する。
酵素処理後、サンプルをPBSで洗浄し、マウスモノクローナル抗Dat IgG/Fab-A594(1:100、Abcam社製、#ab128848)及びヤギポリクローナル抗ChAT IgG/Fab-A647(1:20、Millipore社製、#AB144)を混合し、さらに2.5重量%Quadrolを添加した免疫染色用緩衝液E中にサンプルを浸漬し、32℃で15日間、続いて4℃で5日間染色した。サンプルをPBSで洗浄後、1%FAで室温にて5時間、サンプルを後固定した。サンプルを洗浄後、CUBIC-R+(M)でRI調整を行い、LSFMを用いて上述のように3D画像を得た。CUBIC-R+(M)は、45重量%のアンチピリン及び30重量%のN-メチルニコチンアミド(東京化成工業社製 #M0374)を含む二段蒸留水で、0.5%(v/w)N-ブチルジエタノールアミンで緩衝化(pH~10)されたものである。
(結果)
図16のkは、ChAT、Dat及びYFPのチャネルを重ね合わせた画像を示す。ボクセルサイズは8.3×8.3×9μmであった。図16のlは、図16のkに“l”で示された部分を拡大した画像を示す。図16のmは、脳の一部の水平面の画像を示す。図16のnは、図16のmに示された部分を拡大した画像を示す。YFPで標識された皮質脊髄路の像及びDat免疫染色されたドーパミン作動性ニューロンの投射経路の像が隣接していることが確認できる。図16のo~qは、図16のkに“o-q”で示された部分に係る再構築された矢状面の画像を示す。図16のk~qにおける“*”はサンプルの不十分な灌流による非特異的な血管のシグナルを示す。
図16に示すように、YFPのシグナルが免疫染色されたDat及びChATのシグナルとともに強い強度で鮮明に観察された。このため、本実施例に係る免疫染色用緩衝液Eを使用したCUBIC-HVによって、脳に発現するFPのシグナルを低減させることなく、標的それぞれを別の色素で標識してそれぞれの標的の局在を識別可能な画像を得ることができることが示された。
実施例12:3D染色のための抗体の選択
実施例1又は実施例2と同様にCUBIC-L又はCUBIC-1Aで脱脂処理した8週齢のC57BL/6マウスの半脳を用いて、上記のCUBIC-HVに従って種々の抗体を染色した。画像解析においてシグナル強度、SBR、酵素処理との適合性及び浸透効率を検討し、CUBIC-HVによる3D染色に好ましい抗体を同定した(表1及び表2参照)。
なお、酵素処理では、上記のヒアルロニダーゼでの処理のほか、抗体によってはコラゲナーゼ-P(シグマ・アルドリッチ社製、#11213857001、1mg/mL)を含む、150mM NaCl及び25~100μM EDTAを添加してpH10にした炭酸塩緩衝液(50mM 炭酸カルシウム(ナカライテスク社製、#31310-35)及び50mM 炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク社製、#31213-15を含む))でサンプルを37℃で18~24時間処理した。また、免疫染色用緩衝液Eには、シグナル強度、SBR、浸透効率を向上させるため、Quadrol及び尿素を適宜添加した。
Figure 0007197941000003
Figure 0007197941000004
実施例13:電気的相互作用による抗体-組織間の可逆的複合体形成
CUBIC-HVでは、組織における標的を確実に標識するために、免疫染色に用いる抗体の組織での濃縮及び組織への浸透性向上を図る前処理を適用することが想定される。ポリグルタミン酸等のアニオンチャージのポリマーと抗体とを弱酸性条件でインキュベートすると、等電点より酸性側となり、カチオンチャージを有する抗体が電気的相互作用によってポリマーと可逆的な複合体を形成する。本実施例では、電気的相互作用による抗体と組織との複合体形成を確認した。
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの大脳半球をCUBIC-Lに37℃で3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。Alexa488で標識した抗マウスIgG抗体を、所定の濃度のNaClを含む10mMのクエン酸バッファー(pH5)に混合した液中で、サンプルを37℃で一晩インキュベートした。なお、抗原抗体反応を介した組織染色でのシグナルを否定するため、組織と抗原抗体反応を原理上起こさない抗体を使用した。青色光イルミネーターでサンプルを照射し、橙フィルタを搭載したデジタルカメラで撮影後、Fiji/ImageJで色ごとにチャネルを分離した。
(結果)
図17に示すように、組織表面に緑色のシグナルが確認された。よって、弱酸性の緩衝液による抗原抗体反応に依存しない抗体-組織の複合体形成が示された。
実施例14:抗体の浸透効率の評価系の構築
(サンプルの調製)
4%PFAで約5日間固定したブタ脳スライスから、径1.5mmの生検パンチャーを用いて大脳皮質領域の小カラムをサンプルとして作製した。CUBIC-Lに37℃で約2日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを染色に使用した。
(染色)
脱脂処理後、サンプルをPBSで洗浄し、マウスモノクローナル抗Synaptophysin抗体(医学生物学研究所社製、#D073-3、20μg/mL)と、Alexa594で標識したFab-抗マウス IgG(上記抗Synaptophysin抗体と重量比で約1:1になる量を添加)と、2.5重量%Quadrol又は同量の蒸留水と、を添加した免疫染色用緩衝液E中にサンプルを浸漬し、32℃で1日間染色した。染色後、サンプルをPB-Triton及びPBで洗浄し、サンプル中央部分の凍結切片を作製した。染色後の凍結切片を上記実施例1と同様に観察した。
(結果)
図18(A)及び(B)は、それぞれ蒸留水及びQuadrolを添加した免疫染色用緩衝液Eで染色したサンプルの凍結切片の画像を示す。Quadrolを添加していない図18(A)と比較すると、図18(B)に示すように、Quadrolの添加によってサンプル内部の染色性が上昇し、抗体の浸透上昇効果が反映されていた。定量のため、顕微鏡撮影画像を用いてカラムの左右がほぼ均等に染色されている代表的な領域を選択し、輝度値のグラフを作製した。グラフ中の左右の最大輝度(ピーク)とサンプル中の最低輝度(ボトム)の比(ピークボトム比)が、Quadrolを添加していないサンプルで高く、Quadrolを添加したサンプルでは内部の染色性の上昇によって低くなった。よって、当該ピークボトム比を、抗体の組織への浸透性の定量的指標として次のように化合物を探索した。
実施例15:抗体の組織への浸透効率を向上させる化合物の探索
リストアップした426種の化合物それぞれを、2.5重量%で免疫染色用緩衝液Eに添加し、実施例14と同様に染色を実施した。また、一次抗体を抗Synaptophysin抗体から抗ニューロフィラメント抗体(Anti-phospho-neurofilament SMI31、Biolegend社製、#801601、20μg/mL)に代えて、別にリストアップした137種の化合物それぞれについて同様に染色を実施した。凍結切片の顕微鏡画像から、24時間での抗体浸透度をピークボトム比で評価した。
(結果)
抗Synaptophysin抗体を用いた場合の各化合物のピークボトム比を図19に示す。図19において、化合物として水を免疫染色用緩衝液Eに添加した場合のピークボトム比が矢印で示されている。ピークボトム比が約2.8であったQuadrolより小さなピークボトム比を示した化合物を表3~表7に示す。抗ニューロフィラメント抗体を用いた場合のピークボトム比がQuadrolより小さなピークボトム比を示し、かつ明確な浸透上昇効果が染色像より得られた化合物を表8に示す。これらの化合物の大部分は、環状アミン、環状アミド、鎖状アミン、鎖状アミド、スルフォ基、又はこれらを組み合わせて有する化合物である。同定されたこれらの化合物から、特に抗体の染色を強く阻害しない化合物、及び他の複数の抗体でも浸透上昇効果が得られる化合物を選択し、以下の実施例で添加剤として使用した。
Figure 0007197941000005
Figure 0007197941000006
Figure 0007197941000007
Figure 0007197941000008
Figure 0007197941000009
Figure 0007197941000010
実施例16:添加剤の代表的な組み合わせでの3D免疫染色
実施例1と同様に脱脂処理した大脳半球を、免疫染色用緩衝液Eに浸漬し、32℃で3日間から4日間染色した。免疫染色用緩衝液Eは、一次抗体として、抗Synaptophysin抗体(#D073-3、20μg/mL)、マウスモノクローナル抗Gad67 IgG2a(Merck Millipore社製、#MAB5406、10μg/mL)、マウスモノクローナル抗Dat IgG(abcam社製、#ab128848、10μg/mL)又はマウスモノクローナル抗Th抗体(abcam社製、#13786、10μg/mL)と、各一次抗体に対するAlexa594で標識したFab-抗マウス又はラビットIgG(Jackson ImmunoResearch laboratories社製、Fab-anti-mouse IgG-A594(#115-587-185)、Fab-anti-mouse IgG2a-A594(#115-587-186)、Fab-anti-rabbit IgG-A594(#111-587-008)、各一次抗体と重量比で約1:0.75になる量を添加)と、所定の濃度の添加剤(図1(A)に記載の#0854、#1086、#0609及び図1(B)に記載の#0146から2種又は3種)と、を含む。染色後に作製した凍結切片を上記実施例1と同様に観察した。
(結果)
Synaptophysin、Gad67、Dat又はThに対する抗体で染色した各サンプルの凍結切片の画像をそれぞれ示す図20(A)、(B)、(C)及び(D)によれば、各添加剤の組み合わせによってサンプル内部の染色性が上昇した。添加剤による抗体の浸透促進効果が示された。特に抗Th抗体の染色例に示されたように、添加剤#0146の使用により、さらに強い浸透促進効果が得られた。
実施例17:添加剤の代表的な組み合わせでの3D核染色
実施例1と同様に脱脂処理した半脳を、250μLの染色用緩衝液Fに浸漬し、37℃で2日間又は3日間染色した。染色用緩衝液Fは、RedDot2(1:50)又はSYTOX-G(1:500)と、所定の濃度の添加剤(図1(A)に記載の#0854、#1086及び#0609から2種)と、を含む。染色後、実施例2と同様にサンプルから凍結切片を作製した。得られた凍結切片を実施例1と同様に蛍光顕微鏡で観察した。
(結果)
RedDot2又はSYTOX-Gで染色した各サンプルの凍結切片の核染色画像をそれぞれ示す図21(A)及び(B)によれば、各添加剤の組み合わせによってサンプル内部の染色性が上昇した。染色性の上昇は特に小脳部位で顕著であった。本実施例によって、添加剤による染色剤の浸透促進効果が示された。
実施例18:添加剤の代表的な組み合わせでの3D核染色及び3D免疫染色の同時実施
(サンプルの調製)
実施例1と同様に固定した8週齢のC57BL/6マウスの全脳をCUBIC-Lに37℃で3日間浸漬することで脱脂処理したサンプルを得た。サンプルをPBSで洗浄し、0.05%のNaNを含むPBS中で、4℃で保管した。
(3D核染色及び3D免疫染色)
SYTOX-G(1:500)、10μg/mLのマウス抗NeuN抗体、Alexa594で標識したFab-抗マウス IgG(#115-587-185、マウス抗NeuN抗体と重量比で約1:0.75になる量を添加)、2.5重量%ニコチン酸ヒドラジド(#0854)及び5重量%ピラジン(#1086)を添加した500μLの染色用緩衝液F中にサンプルを浸漬し、32℃で6日間染色後、4℃で1日間さらに染色した。染色後のサンプルを実施例9と同様にCUBIC-Rで透明化し(RI調整)、CUBIC-Rに溶解した2%(w/v)アガロースで調製したゲルにサンプルを包埋し、LSFMで3D観察した。LSFMで得られた脳の画像を、Fiji/ImageJを使用して実施例9と同様にタイリングした。得られたz-スタックデータをImarisソフトウェアで再構成し、疑似カラー画像として可視化した。なお、本実施例では、実施例9における酵素処理は行わなかった。
(結果)
図22(A)は、NeuNのシグナルを示す画像である。図22(B)は、SYTOX-Gのシグナルを示す画像である。図22(C)は、NeuNのシグナルを示す画像及びSYTOX-Gのシグナルを示す画像をマージした画像である。当該画像は、LSFMによって得られたz-スタックデータから抜き出した染色剤の浸透性が評価可能なサンプル中央部分のスタックに対応する。図22(A)~(C)に示すように、均質に染色された細胞レベルの解像度の画像が取得できた。添加剤の使用によって核染色と免疫染色とをマウス全脳で施行できることが示された。
実施例19:相分離を使用した3D免疫染色
実施例1と同様に脱脂処理した小脳半球から得られたサンプルを相分離なし及び相分離ありのそれぞれで、免疫染色用緩衝液E、あるいは0.1% Triton X-100を混合したPBS(以下、「PBST」とする)に浸漬し、32℃で2日間染色した。染色後に作製した凍結切片を蛍光顕微鏡で観察した。
免疫染色用緩衝液E及びPBSTはそれぞれ、マウスモノクローナル抗NeuN IgG(10μg/mL又は100μg/mL)及びAlexa594で標識したFab-抗マウス IgG(#115-587-185、マウス抗NeuN抗体と重量比で約1:0.75になる量を添加)を含む。相分離なしの条件では、免疫染色用緩衝液E及びPBSTの用量はそれぞれ150μLとした。一方、相分離ありの条件では、免疫染色用緩衝液E及びPBSTの用量はそれぞれ15μLとし、シリコーンオイルKF-96(粘度50)中でサンプルと免疫染色用緩衝液E又はPBSTを相分離させた。
(結果)
各サンプルの凍結切片の画像を図23に示す。相分離なし及び相分離ありのいずれの条件でも、初期濃度及び総抗体量に依存して抗体浸透度が上昇し、シグナルが向上した。マウス全脳あたりの総抗体量が5μgである、相分離なしで抗体濃度が10μg/mLの条件と、相分離ありで抗体濃度が100μg/mLの条件との比較によって、相分離によって初期濃度を高くすることで、抗体浸透度が上昇し、シグナルが向上することが示された。相分離を利用することで、同じ総抗体量、すなわち同じコストで、抗体浸透度を上昇させてシグナルを向上させることができた。
実施例20:添加剤及び相分離を使用した3D核染色及び3D免疫染色の同時実施
(サンプルの調製)
実施例1と同様に脱脂処理したマウス全脳サンプルをPBSで洗浄し、0.05%のNaNを含むPBS中でサンプルを4℃で使用まで保管した。
(3D核染色及び3D免疫染色)
SYTOX-G(1:50)、マウスモノクローナル抗GFAP抗体(医学生物学研究所社製、#D097-3、100μg/mL)又はマウスモノクローナル抗Dat抗体(abcam社製、#ab128848、100μg/mL)、Alexa594で標識したFab-抗マウス IgG(一次抗体と重量比で約1:0.75になる量)、2.5重量%ニコチン酸ヒドラジド(#0854)及び5重量%ピラジン(#1086)を添加した50μLの染色用緩衝液F中にサンプルを浸漬した。これらをミネラルオイル中で相分離させ、32℃で5日間染色後、4℃で1日間さらに染色した。染色後のサンプルを実施例9と同様にCUBIC-Rで透明化し(RI調整)、CUBIC-Rに溶解した2%(w/v)アガロースで調製したゲルにサンプルを包埋し、LSFMで3D観察した。LSFMで得られた脳の画像を、Fiji/ImageJを使用して実施例9と同様にタイリングした。得られたz-スタックデータをImarisソフトウェアで再構成し、疑似カラー画像として可視化した。なお、本実施例では、実施例9における酵素処理は行わなかった。
(結果)
図24(A)は、GFAP及びSYTOX-Gのシグナルを示す3次元再構成画像を示す。図24(B)は、内部染色性を示すためサンプル中央部のz-スタックを抽出し最大輝度値(MAX)で重ね合わせたGFAPのシグナルの画像を示す。図24(C)は、Dat及びSYTOX-Gのシグナルを示す3次元再構成画像を示す。図24(D)は、サンプル中央部のz-スタックを抽出し最大輝度値(MAX)で重ね合わせたDatのシグナルの画像を示す。添加剤及び相分離による抗体と染色剤の濃縮の双方を利用することで均質な核染色及び免疫染色を1週間以内に完了できることが示された。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本出願は、2019年8月30日に出願された日本国特許出願2019-157984号及び2020年3月18日に出願された日本国特許出願2020-47552号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2019-157984号及び日本国特許出願2020-47552号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
本発明は、生体組織の染色に好適である。

Claims (14)

  1. 1%より高濃度の非イオン性界面活性剤と、
    200mM以上の塩と、
    を含む、生体組織染色試薬。
  2. 中性緩衝液をさらに含む、
    請求項1に記載の生体組織染色試薬。
  3. ブロッキング試薬をさらに含む、
    請求項1又は2に記載の生体組織染色試薬。
  4. 下記の一般式(1)に示す尿素又は尿素誘導体を除く芳香族アミン、脂肪族アミド類、ニコチンアミド類、スルファミド類、スルホン酸塩、アミノアルコール、アルコール、スルフィン酸類、チオ尿素類及びカルボン酸類の化合物から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬。
    Figure 0007197941000011
    (一般式(1)において、R、R、R、Rは、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、炭化水素基を構成する炭素原子が複数個ある場合には当該炭素原子の一部が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子により置換されていてもよい。炭化水素基には、鎖状炭化水素基及び環状炭化水素基が含まれる。)
  5. 染色剤をさらに含む、
    請求項1から4のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬。
  6. 免疫染色用抗体をさらに含む、
    請求項1から5のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬。
  7. 請求項1から4のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬と、
    染色剤と、
    を備える、生体組織染色キット。
  8. 請求項1から4のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬と、
    免疫染色用抗体と、
    を備える、生体組織染色キット。
  9. 弱酸性緩衝液をさらに備える、
    請求項8に記載の生体組織染色キット。
  10. 1%より高濃度の非イオン性界面活性剤、200mM以上の塩及び中性緩衝液を含む洗浄緩衝液をさらに備える、
    請求項8又は9に記載の生体組織染色キット。
  11. 水と相分離する相分離誘導試薬をさらに備える、
    請求項7から10のいずれか一項に記載の生体組織染色キット。
  12. 請求項6に記載の生体組織染色試薬を使用した生体組織染色方法であって、
    前記免疫染色用抗体を含む弱酸性緩衝液に、脱脂された生体組織を暴露する前処理ステップと、
    前記生体組織染色試薬に前記生体組織を暴露する免疫染色ステップと、
    を含む、生体組織染色方法。
  13. 染色剤と、免疫染色用抗体と、を含む請求項4に係る生体組織染色試薬に生体組織を暴露する同時染色ステップを含む、
    生体組織染色方法。
  14. 染色剤及び免疫染色用抗体の少なくとも一方を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の生体組織染色試薬と、生体組織と、相分離誘導試薬と、を混合する染色ステップを含む、
    生体組織染色方法。
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