〔走行作業機の基本構成〕
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、本発明の走行作業機の一例として乗用型田植機を例に挙げて説明する。なお、図2に示されているように、本実施形態では、矢印Fが走行機体Cの機体前部側、矢印Bが走行機体Cの機体後部側、矢印Lが走行機体Cの機体左側、矢印Rが走行機体Cの機体右側である。
図1乃至図3に示されているように、乗用型田植機には、左右一対の操舵車輪10と、左右一対の後車輪11とを有する走行機体Cと、圃場に対する苗の植え付けが可能な作業装置としての苗植付装置Wと、が備えられている。左右一対の操舵車輪10は、走行機体Cの機体前側に設けられて走行機体Cの向きを変更操作自在なように構成され、左右一対の後車輪11は、走行機体Cの機体後側に設けられている。苗植付装置Wは、昇降用油圧シリンダ20の伸縮作動により昇降作動するリンク機構21を介して、走行機体Cの後端に昇降自在に連結されている。
走行機体Cの前部には、開閉式のボンネット12が備えられている。ボンネット12の先端位置には、マーカ装置33によって圃場に描かれる指標ライン(不図示)に沿って走行するための目安となる棒状のセンターマスコット14が備えられている。走行機体Cには、前後方向に沿って延びる機体フレーム15が備えられ、機体フレーム15の前部には支持支柱フレーム16が立設されている。
ボンネット12内には、エンジン13が備えられている。詳述はしないが、エンジン13の動力が、機体に備えられた不図示のHST(静油圧式無段変速装置)を介して操舵車輪10及び後車輪11に伝達され、変速後の動力が電動モータ駆動式の植付クラッチ(不図示)を介して苗植付装置Wに伝達される。
図1及び図2に示されているように、苗植付装置Wに、四個の伝動ケース22と、八個の回転ケース23と、整地フロート25と、苗載せ台26と、マーカ装置33と、が備えられている。回転ケース23は、各伝動ケース22の後部の左側部及び右側部に、夫々回転自在に支持されている。夫々の回転ケース23の両端部に、一対のロータリ式の植付アーム24が備えられている。整地フロート25は、圃場の田面を整地するものであり、苗植付装置Wに複数備えられている。苗載せ台26に、植え付け用のマット状苗が載置される。マーカ装置33は、苗植付装置Wの左右側部に備えられ、圃場の田面に指標ライン(不図示)を形成する。
苗植付装置Wは、苗載せ台26を左右に往復横送り駆動しながら、伝動ケース22から伝達される動力により各回転ケース23を回転駆動して、苗載せ台26の下部から各植付アーム24により交互に苗を取り出して圃場の田面に植え付けるようになっている。苗植付装置Wは、八個の回転ケース23に備えられた植付アーム24により苗を植え付ける八条植え型式に構成されている。なお、苗植付装置Wは、四条植え型式であったり、六条植え型式であったり、七条植え型式であったり、十条植え型式であったりしても良い。
詳述はしないが、マーカ装置33は、作用姿勢と格納姿勢とに切換え可能なように構成されている。作用姿勢の状態で、マーカ装置33は、走行機体Cの走行に伴って圃場の田面に接地して次回の作業行程に対応する田面に指標ライン(不図示)を形成する。格納姿勢の状態で、マーカ装置33は圃場の田面から上方に離れる。マーカ装置33の姿勢切換えは電動モータ(不図示)により行われる。
図1乃至図3に示されているように、走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、複数(例えば四つ)の通常予備苗台28と、予備苗台29と、が備えられている。通常予備苗台28は、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能なように構成されている。予備苗台29は、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能なレール式に構成されている。走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、各通常予備苗台28と予備苗台29とを支持する背高のフレーム部材としての左右一対の予備苗フレーム30が備えられ、左右の予備苗フレーム30の上部同士が連結フレーム31にて連結されている。
図1乃至図3に示されているように、走行機体Cの中央部には、各種の運転操作が行われる運転部40が備えられている。運転部40には、運転座席41と、操向ハンドル43(人為操向操作具)と、主変速レバー44と、操作レバー45と、が備えられている。運転座席41は、走行機体Cの中央部に備えられ、運転者が着座可能なように構成されている。操向ハンドル43は、人為操作によって操舵車輪10の操向操作を可能なように構成されている。主変速レバー44は、前後進の切換え操作や走行速度の変更操作が可能なように構成されている。苗植付装置Wの昇降操作と、左右のマーカ装置33の切換えと、が操作レバー45によって行われる。操向ハンドル43、主変速レバー44、操作レバー45等は、運転座席41の機体前部側に位置する操縦塔42の上部に備えられている。運転部40の足元部位には、搭乗ステップ46が設けられている。搭乗ステップ46はボンネット12の左右両側にも延びている。
主変速レバー44を操作すると、HST(不図示)における斜板の角度が変更され、エンジン13の動力が無段階に変速される。図示しないが、HSTの斜板角度は、サーボ油圧制御機器を搭載した油圧ユニットによって制御される。サーボ油圧制御機器に、公知の油圧ポンプや油圧モータ等が用いられる。
操作レバー45を上昇位置に操作すると、植付クラッチ(不図示)が切り操作されて苗植付装置Wに対する伝動が遮断され、昇降用油圧シリンダ20を作動して苗植付装置Wが上昇し、左右のマーカ装置33(図1参照)が格納姿勢に操作される。操作レバー45を下降位置に操作すると、苗植付装置Wが下降して田面に接地して停止した状態となる。この下降状態で操作レバー45を右マーカ位置に操作すると、右のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。操作レバー45を左マーカ位置に操作すると、左のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。
運転者は、田植え作業を開始するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを下降させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を開始させて田植え作業を開始する。そして、田植え作業を停止するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを上昇させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を遮断する。
運転部40の操縦塔42の上部の操作パネル47に、液晶表示器を用いて種々の情報を表示可能な表示部48が備えられている。表示部48は、タッチパネル式の液晶表示器であっても良い。また、表示部48の右側には、押し操作式の始点設定スイッチ49Aが備えられ、表示部48の左側には、押し操作式の終点設定スイッチ49Bが備えられている。始点設定スイッチ49A及び終点設定スイッチ49Bの機能については後述する。
主変速レバー44の握り部には、押し操作式の自動操向スイッチ50が備えられている。自動操向スイッチ50は、自動復帰型に設けられ、押し操作する毎に自動操向制御の入り切りの切換えを指令する。自動操向スイッチ50は、主変速レバー44の握り部を手で握った状態で、例えば、親指で押すことができる位置に配置されている。
図4に示されているように、走行機体Cには、左右の操舵車輪10を操向操舵可能な操向操作手段として操向操舵ユニットUが備えられている。操向操舵ユニットUには、ステアリング操作軸54と、ピットマンアーム55と、ピットマンアーム55に連動連結される左右の連繋機構56と、操向モータ58と、ギヤ機構57と、が備えられている。ステアリング操作軸54は、クラッチ53を介して操向ハンドル43と連動連結される。ピットマンアーム55は、ステアリング操作軸54の回動に伴って揺動するように構成されている。ギヤ機構57は、ステアリング操作軸54に操向モータ58を連動連結するように構成されている。
ステアリング操作軸54は、ピットマンアーム55及び左右の連繋機構56を介して、左右の操舵車輪10に夫々連動連結されている。ステアリング操作軸54の下端部に、ロータリエンコーダからなる操向角センサ60が備えられ、ステアリング操作軸54の回転量は操向角センサ60により検出されるようになっている。ステアリング操作軸54の途中部には、操向ハンドル43に掛かるトルクを検出するトルクセンサ61が備えられている。
例えば、操向モータ58が所定の方向にステアリング操作軸54を回動させているときに、その回動方向とは反対方向に向けて操向ハンドル43が人為操作されると、トルクセンサ61にてそのことを検出することができる。また、操向モータ58が作動停止しているときに、操向ハンドル43が任意の方向に人為操作されると、トルクセンサ61にてそのことを検出することができる。このような人為操作が行われると、自動操向制御に優先して、人為操作に基づいて操向モータ58を作動させることができる。
クラッチ53は、ステアリング操作軸54と操向ハンドル43との間に設けられ、クラッチ53が切られることによって、操向ハンドル43とステアリング操作軸54との間で動力が伝達しなくなる。クラッチ53は、例えば畦際の自動旋回時に切られるように構成され、自動旋回時において、操向モータ58の作動によるステアリング操作軸54の回転が、操向ハンドル43に伝達しなくなる。
操向操舵ユニットUの自動操向を行う場合には、操向モータ58を駆動して、操向モータ58の駆動力によりステアリング操作軸54を回動操作し、操舵車輪10の操向角度を変更するようになっている。自動操向を行わない場合には、操向操舵ユニットUは、操向ハンドル43の人為操作により回動操作することができる。
〔自動操向制御の構成〕
次に、自動操向制御を行うための構成について説明する。
走行機体Cに、衛星からの電波を受信して機体の位置を検出する衛星測位用システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の一例として、周知の技術であるGPS(Global Positioning System)を利用して、機体の位置を求める衛星測位ユニット70が備えられている。本実施形態では、衛星測位ユニット70は、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)を利用したものであるが、RTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)を用いることも可能である。
具体的には、位置検出手段として、衛星測位ユニット70が測位を行う対象(走行機体C)に備えられている。衛星測位ユニット70は、地球の上空を周回する複数のGPS衛星から発信される電波を受信するアンテナ71付きの受信装置72を有する。航法衛星から受信する電波の情報に基づいて、受信装置72すなわち衛星測位ユニット70の位置が測位される。
図1乃至図3に示されているように、衛星測位ユニット70は、走行機体Cの前部に位置する状態で、板状の支持プレート73を介して連結フレーム31に取り付けられている。図1及び図3に示されているように、受信装置72が、連結フレーム31と予備苗フレーム30とによって、高い箇所に支持されるものとなる。これにより、受信装置72に受信障害が生じるおそれが少なく、受信装置72における電波の受信感度を高めることができる。
衛星測位ユニット70の他に、走行機体Cの方位を検出する方位検出手段として、例えばIMU(Inertial Measurement Unit)74Aを有する慣性計測ユニット74が、走行機体Cに備えられている。慣性計測ユニット74は、IMU74Aに代えてジャイロセンサや加速度センサを有する構成であっても良い。図示はしないが、慣性計測ユニット74は、例えば、運転座席41の後側下方位置であって走行機体Cの横幅方向中央の低い位置に設けられている。慣性計測ユニット74は、走行機体Cの旋回角度の角速度を検出可能であり、角速度を積分することで機体の方位変化角ΔNA(図7参照)を求めることができる。従って、慣性計測ユニット74により計測される計測情報には走行機体Cの方位情報が含まれている。詳述はしないが、慣性計測ユニット74は、走行機体Cの旋回角度の角速度の他、走行機体Cの左右傾斜角度、走行機体Cの前後傾斜角度の角速度等も計測可能である。
図5に示されているように、走行機体Cに制御装置75が備えられている。制御装置75は、自動操向制御が実行される自動操向モードと、自動操向制御が実行されない手動操向モードと、に切換え可能なように構成されている。
制御装置75は、経路設定部76と、方位ずれ算定部77と、制御部78(制御手段)と、操向制御部79(制御手段)と、を有する。経路設定部76は、走行機体Cが走行すべき目標移動経路LM(図6参照)を設定する。方位ずれ算定部77の詳細は後述する。
制御部78は、衛星測位ユニット70にて計測される走行機体Cの位置情報と、慣性計測ユニット74にて計測される走行機体Cの方位情報と、に基づいて、走行機体Cが目標移動経路LMに沿って走行するように、操作量を算定して出力する。操向制御部79は、操作量に基づいて操向モータ58を制御する。具体的には、制御装置75は、マイクロコンピュータを備えており、経路設定部76と方位ずれ算定部77と制御部78と操向制御部79とが制御プログラムにて構成されている。
自動操向制御に用いる目標移動経路LMをティーチング処理によって設定するための設定スイッチ49が備えられている。設定スイッチ49には、始点位置Tsを設定する始点設定スイッチ49Aと、終点位置Tfを設定する終点設定スイッチ49Bと、が備えられている。上述したように、始点設定スイッチ49Aは表示部48の右側に備えられ、終点設定スイッチ49Bは表示部48の左側に備えられている。
制御装置75に、衛星測位ユニット70、慣性計測ユニット74、自動操向スイッチ50、始点設定スイッチ49A、終点設定スイッチ49B、操向角センサ60、トルクセンサ61、車速センサ62、障害物検知部63(畦際検知手段)等の情報が入力される。車速センサ62は、例えば、後車輪11に対する伝動機構中の伝動軸の回転速度により車速を検出するように構成されている。障害物検知部63は、走行機体Cの前部及び左右両側部に備えられ、例えば、光波測距式の距離センサであったり、画像センサであったりして、圃場の畦際や圃場内の鉄塔等を検知可能なように構成されている。障害物検知部63によって障害物が検知されると、例えばブザーや音声案内である警報部64によって運転者に警報が報知される。また、制御装置75は報知部59と接続され、報知部59は、例えば車速やエンジン回転数等の状態を報知するように構成されている。報知部59は、表示部48に表示される構成であったりしても良いし、センターマスコット14に備えられたLED照明の点滅パターンが変わる構成であったりしても良い。また、警報部64は、報知部59を介して表示部48に警報を表示するように構成されていても良い。この場合、例えば畦際検知の警報が表示部48に表示される。また、警報部64は、報知部59の一部として構成されていても良い。
始点設定スイッチ49A及び終点設定スイッチ49Bの操作に基づくティーチング処理によって、自動操向すべき目標経路に対応するティーチング経路が、経路設定部76によって設定される。
方位ずれ算定部77は、慣性計測ユニット74にて検出される走行機体Cの検出方位(自機方位NA)と、目標移動経路LMにおける目標方位LAと、の角度偏差、即ち方位ずれを算定する。そして、制御装置75が自動操向モードに設定されているとき、制御部78は、角度偏差が小さくなるように、操向モータ58を制御するための操作量を算出して出力する。
操向制御部79は、走行機体Cの自動操向制御中に、制御部78によって出力された操作量に基づいて、自動操向制御を実行する。即ち、衛星測位ユニット70及び慣性計測ユニット74によって検出される走行機体Cの検出位置(自機位置NM)が、目標移動経路LM上の位置になるように、操向モータ58が操作される。
〔目標移動経路〕
水田において田植機は、直線状の条植付けの経路に沿って田植え作業を伴う作業走行と、畦際付近で次の条植付けの経路に移動するための畦際旋回走行と、を交互に繰り返す。
図6に、ティーチング経路に沿って並列する複数の目標移動経路LMが示されている。本実施形態では、夫々の目標移動経路LM(1)~LM(6)は、経路設定部76によって、以下の手順で設定される。
まず、運転者は、走行機体Cを圃場内の畦際の始点位置Tsに位置させ、始点設定スイッチ49Aを操作する。このとき、制御装置75は手動操向モードに設定されている。そして、運転者が手動操縦しながら、始点位置Tsから側部側の畦際の直線形状に沿って走行機体Cを走行させ、反対側の畦際近くの終点位置Tfまで移動させてから終点設定スイッチ49Bを操作する。これにより、ティーチング処理が実行される。つまり、始点位置Tsにおいて衛星測位ユニット70により取得された測位データに基づく位置座標と、終点位置Tfにおいて衛星測位ユニット70により取得された測位データに基づく位置座標と、から始点位置Tsと終点位置Tfとを結ぶティーチング経路が設定される。このティーチング経路に沿う方向が基準となる目標方位LAとして設定される。なお、終点位置Tfにおける位置座標は、衛星測位ユニット70による測位データのみならず、車速センサ62に基づく始点位置Tsからの距離と、慣性計測ユニット74に基づく走行機体Cの方位情報と、に基づいて算出される構成であっても良い。また、始点位置Tsと終点位置Tfとに亘る走行機体Cの走行は、田植え作業を伴う作業走行であっても良いし、非作業状態の走行であっても良い。
ティーチング経路の設定完了後、ティーチング経路に隣接する条植付けの経路に移動するための畦際旋回走行が行われ、本実施形態では、始点位置Ls(1)に走行機体Cが移動する。畦際旋回走行は、運転者が手動で操向ハンドル43を操作することによって行われるものであっても良いし、後述する自動旋回制御によって行われるものであっても良い。このとき、制御部78は、自機方位NAが反転することにより、走行機体Cの旋回が行われたことを判別できる。自機方位NAの反転は、衛星測位ユニット70や慣性計測ユニット74によって検知可能である。
走行機体Cの旋回は、自機方位NAの反転以外に、各種機器の動作によって判別されるものであっても良い。各種機器の動作として、例えば、苗植付装置W、整地ロータ(不図示)、整地フロート25等の上昇動作であったり、サイドクラッチ(不図示)が切られることであったり、苗植付装置Wに対する伝動の遮断であったりしても良い。また、走行機体Cの始点位置Ls(1)への到達が、衛星測位ユニット70によって判別されるものであっても良い。
ティーチング経路の設定完了後、任意のタイミングで目標移動経路LM(1)が経路設定部76によって設定される。目標移動経路LM(1)は、ティーチング経路の設定完了時に設定されても良いし、走行機体Cの旋回中に設定されても良いし、走行機体Cの旋回後に設定されても良い。また、目標移動経路LM(1)は、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって設定される構成であっても良いし、自動的に設定される構成であっても良い。
走行機体Cの旋回完了が判別された後、制御装置75の手動操向モードは継続し、人為操作による直進走行が継続される。この間、制御装置75は、方位ずれ算定部77によって算定される自機方位NAの方位ずれや、操舵車輪10の向き、操向ハンドル43の操舵角等の判別条件を確認し、自動操向モードに切換え可能な状態であるかどうかを判定する。そして、制御装置75は、自動操向モードに切換え可能な状態であれば、自動操向スイッチ50の操作を許可する。このとき、制御装置75が自動操向モードに切換え可能な状態であるかどうかは、報知部59によって報知される。
制御装置75が自動操向モードに切換え不可能な状態である場合、報知部59は、その理由についても報知するように構成されている。このため、例えば自動操向制御にとっての悪条件を、運転者に報知することができるため、運転者が自動操向制御を開始するための条件を整え易くなる。報知部59による報知は、ブザー等の音声であっても良いし、センターマスコット14に備えられたLED照明の点灯や点滅であっても良いし、表示部48に表示されるものであっても良い。また、報知部59による報知は、一時的に報知される構成あっても良いし、常時報知される構成であっても良い。
自動操向制御にとっての悪条件として、目標方位LAに対する自機方位NAの方位ずれが顕著に大きいことや、操舵車輪10の向きが左右に大きく変位していることや、走行機体Cの車速が速過ぎたり遅過ぎたりすること等が例示される。また、衛星測位ユニット70が補足可能な航法衛星の数が、予め設定された数よりも少ないことも、自動操向制御にとっての悪条件として例示される。
自動操向スイッチ50の操作が許可された状態で、運転者が自動操向スイッチ50を操作すると、経路設定部76によって目標移動経路LM(1)が設定され、制御装置75が手動操向モードから自動操向モードに切換えられる。そして、目標移動経路LM(1)に沿う自動操向制御が開始される。目標移動経路LM(1)は、ティーチング経路に隣接した状態で、目標方位LAの方位に沿って設定され、ティーチング処理後に走行機体Cが最初に作業走行を行う目標移動経路LMである。なお、運転者は、走行機体Cの旋回後に、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを下降させて田植え作業を実行するが、制御装置75が手動操向モードから自動操向モードに切換えられると、苗植付装置Wが下降して田植え作業が開始される構成であっても良い。
自動操向制御は、目標移動経路LM(1)の始点位置Ls(1)の位置する側の反対側にある終点位置Lf(1)の付近で、障害物検知部63による畦際の検知が判定されるまで継続する。この間、例えば、自動操向制御時に、HSTの斜板が電動モータによって操作され、運転者が主変速レバー44を操作しても、主変速レバー44の操作がHST(不図示)に伝達されない。また、自動操向制御時に主変速レバー44が動かないように所定位置に拘束される構成であっても良い。この構成は、特に主変速レバー44とHSTとが機械的に連係する構成で有用である。なお、自動操向制御時に、主変速レバー44がHSTを操作できない場合であっても、不図示の専用操作具やブレーキ操作によって、エンジン13が停止したり、走行機体Cが停止したりして、主変速レバー44がHSTを操作可能となる構成であっても良い。
走行機体Cと畦際との距離が、予め設定された範囲内であることが、障害物検知部63によって判定されると、警報部64の警報によって運転者に報知される。このとき、警報部64による警報は、ブザー等の音声であっても良いし、センターマスコット14に備えられたLED照明の点灯や点滅であっても良いし、表示部48に表示されるものであっても良い。そして、障害物検知部63が、予め設定された時間に亘って畦際を検出し続けることによって、畦際の検知が判定され、エンジン13が停止すると共に、制御装置75が手動操向モードに切換えられて自動操向制御は解除される。また、畦際の検知が判定されると、エンジン13が停止せず、走行機体Cが減速又は停止する構成であっても良い。つまり、走行機体Cと畦際との距離が、予め設定された範囲内であることが判定されると、自動操向制御が解除されれば良い。
このように、畦際の検知が判定されることによって、畦際付近で自動操向制御が解除されるように構成されているが、畦際付近であっても、所定の条件を満たしていれば自動操向制御が継続される構成であっても良い。例えば、障害物検知部63によって畦際が検知され、運転者に警報が報知される状態であっても、運転者が自動操向スイッチ50の操作を継続することによって、畦際の検知の判定が行われずに自動操向制御が継続される構成であっても良い。このとき、運転者が自動操向スイッチ50の操作をやめることによって、自動操向制御が解除されるように構成されていても良い。これにより、走行機体Cが終点位置Lf(1)に到達するまで、畦際の検知の判定に関係なく自動操向制御を継続することができる。また、上述した自動操向制御の継続は、自動操向スイッチ50の操作によるもの限らず、例えば、始点設定スイッチ49Aや終点設定スイッチ49Bの操作によるものであっても良い。
走行機体Cが目標移動経路LM(1)の終点位置Lf(1)に到達すると、運転者は、目標移動経路LM(1)の未作業領域側に操向ハンドル43を操作して畦際旋回走行を行い、走行機体Cは、次の作業走行の始点位置Ls(2)に移動する。なお、当該畦際旋回走行は、後述する自動旋回制御によって行われるものであっても良い。走行機体Cの旋回前に、運転者が操作レバー45を操作して苗植付装置Wを上昇させることができるが、操向ハンドル43の操作によって、苗植付装置Wに対する伝動が遮断され、苗植付装置Wが上昇する構成であっても良い。そして、走行機体Cの旋回が行われたことが判別される。
目標移動経路LM(1)における作業走行の完了後、任意のタイミングで目標移動経路LM(2)が経路設定部76によって設定される。目標移動経路LM(2)は、障害物検知部63による畦際の判定時に設定されても良いし、走行機体Cの旋回中に設定されても良いし、走行機体Cの旋回後に設定されても良い。また、目標移動経路LM(2)は、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって設定される構成であっても良いし、自動的に設定される構成であっても良い。目標移動経路LM(2)が、目標移動経路LM(1)の未作業領域側に隣接して設定された後、目標移動経路LM(2)に沿って自動操向制御が開始され、走行機体Cが作業走行する。
走行機体Cが目標移動経路LM(2)の終点位置Lf(2)に到達した後、目標移動経路LM(3),LM(4),LM(5),LM(6)の順番で、畦際旋回走行後の目標移動経路LMの設定と、作業走行と、が繰り返される。つまり、夫々の目標移動経路LMは、一つずつ設定される。
自動操向制御の間、衛星測位ユニット70によって自機位置NMの情報が経時的に取得される。また、車速センサ62による車速が算出されると共に、図7に示されているように、慣性計測ユニット74による相対的な方位変化角ΔNAが経時的に計測される。方位ずれ算定部77は、方位変化角ΔNAの積分によって、自動操向制御が開始された地点からの自機方位NAを経時的に算出する。そして、方位ずれ算定部77は、自機方位NAと目標方位LAとの方位ずれを算定する。制御部78は、自機方位NAが目標方位LAと合致するように操作量を出力し、操向制御部79は、操作量に基づいて操向モータ58を操作する。これにより、走行機体Cが、目標移動経路LMに沿って精度良く走行する。運転者は、操向ハンドル43の操作を行わない状態となっている。
〔目標移動経路の設定〕
図8に、目標移動経路LMに隣接する状態で、後工程用目標移動経路LM2が示されている。後工程用目標移動経路LM2は、走行機体Cが目標移動経路LMの次に作業走行を行う目標移動経路として設定される。このことから、図8の目標移動経路LMが図6の目標移動経路LM(1)に相当する場合、図8の後工程用目標移動経路LM2は、図6の目標移動経路LM(2)に相当する。また、図8の目標移動経路LMが図6の目標移動経路LM(2)に相当する場合、図8の後工程用目標移動経路LM2は、図6の目標移動経路LM(3)に相当する。後述する図9乃至図11における目標移動経路LM及び後工程用目標移動経路LM2も、同様である。
なお、図8の目標移動経路LMは、上述したティーチング経路であっても良い。この場合、図8の後工程用目標移動経路LM2は、図6の目標移動経路LM(1)に相当する。
基本的に、後工程用目標移動経路LM2は、衛星測位ユニット70の測位データに基づいて、目標移動経路LMから予め設定された設定距離Pだけ離して設定される。ここで、設定距離Pは、苗植付装置Wが田植え作業を行う作業幅に相当する距離である。
しかし、一般的にDGPSの誤差は数メートルの範囲に及ぶ場合がある。このため、衛星測位ユニット70としてDGPSが用いられる場合、実際に衛星測位ユニット70によって取得される測位データに基づく自機位置NMの座標位置が、実際の目標移動経路LMに対して位置ずれする場合が考えられる。このことから、実際に衛星測位ユニット70によって取得される自機位置NMの座標位置のみに基づいて、後工程用目標移動経路LM2が設定される構成である場合、既作業領域の既植苗が踏み荒らされたり、畦際旋回前後の作業走行軌跡の間に不作業領域が発生したりする虞がある。
本実施形態では、目標移動経路LMに沿って自動操向制御が行われた走行機体Cの実際の位置ずれに基づいて、後工程用目標移動経路LM2の目標移動経路LMに対する離間距離が算定される。前述したようにDGPSの誤差は数メートルの範囲に及ぶ場合があるが、例えば十秒程度の短時間の間に、DGPSによる二点間の測位が行われる場合、二点間における相対的な位置の誤差は極めて小さいことが知られている。この特性を利用して、後工程用目標移動経路LM2の設定時に、畦際旋回の直前で測位される測位データに基づいて、自機位置NMから相対的な距離だけ離間した位置に後工程用目標移動経路LM2を設定するように、経路設定部76は構成されている。つまり、後工程用目標移動経路LM2は、衛星測位ユニット70の測位データに基づいて算出される自機位置NMから、設定距離Pだけ離間した位置に設定される。
目標移動経路LMに沿う自動操向制御において、走行機体Cが、目標移動経路LMに対して未作業領域側に位置ずれ偏差dだけ位置ずれした状態で作業走行する場合、走行機体Cの実際の作業走行軌跡は、図8で示される一点鎖線Laの走行軌跡となる。なお、一点鎖線Laの走行軌跡は、衛星測位ユニット70の測位データに基づいて算出される。また、衛星測位ユニット70によって測位される測位データの絶対的な誤差も、位置ずれ偏差dに含まれる。
畦際旋回走行の直前で、自機位置NMの位置座標NM3が、衛星測位ユニット70によって測位データとして測位される。位置座標NM3が測位された後、かつ、自動走行制御が開始される前に、畦際旋回走行が行われると共に、任意のタイミングで、後工程用目標移動経路LM2が設定される。通常の畦際旋回走行は数秒程度で完了するため、畦際旋回走行の完了直後に衛星測位ユニット70によって測位される位置座標と、畦際旋回走行の直前における位置座標NM3と、の間の相対的な誤差は小さなものとなる。なお、位置座標NM3は、終点位置Lfの付近において、衛星測位ユニット70によって測位される複数の測位データが平均化されたものであっても良い。
本来であれば、後工程用目標移動経路LM2は、目標移動経路LMに対して設定距離Pだけ離間した位置、即ち、図8で示される破線lmの位置に設定される。これに対して本実施形態では、走行機体Cの位置ずれ偏差dに対応して、後工程用目標移動経路LM2が破線lmから位置ずれ偏差dだけ未作業領域側に平行移動した状態で設定される。
また、走行機体Cの実際の作業走行軌跡が、目標移動経路LMに対して既作業領域側に位置ずれ偏差dだけ位置ずれする場合は、後工程用目標移動経路LM2は、目標移動経路LMに対する設定距離Pから、既作業領域側に位置ずれ偏差dの分だけ平行移動した状態で設定される。
これにより、衛星測位ユニット70によって測位される測位データに誤差が含まれる場合であっても、自機位置NMから設定距離Pだけ離間した位置に設定することができる。
苗植付装置Wの作業幅の分だけ離れた位置に、後工程用目標移動経路LM2が設定される構成によって、既作業領域の既植苗が踏み荒らされたり、畦際旋回前後の作業走行軌跡の間に不作業領域が発生したりする虞が防止される。この構成は、特に、衛星測位ユニット70として、DGPSが用いられる構成で有用である。
〔畦際自動旋回について〕
基本的に圃場の畦際旋回は、運転者が操向ハンドル43操作することによって行われる。しかし、人為操作による畦際旋回では、次の目標移動経路LMの始点位置Lsに到達し、かつ、機体の前進方向が目標移動経路LMの目標方位と一致するように、機体の方向転換を行う必要がある。このため、運転者の熟練度に依存する要素が多く、慣れない運転者にとって負担を強いられるものである。特に、上述したような、畦際旋回の直前で測位された位置座標NM3に基づいて後工程用目標移動経路LM2が設定される構成では、走行機体Cは、一定時間以内に次の作業走行の始点位置Lsに到達し、かつ、当該一定時間以内に自動操向制御を開始するための条件を整えるのが望ましい。このため、本実施形態では、制御部78は、自動旋回制御に切換可能なように構成されている。
自動旋回制御において制御部78は、衛星測位ユニット70にて測位される自機位置NMに基づいて、例えばルックアップテーブルのデータ変換を経て、操向制御部79に操向操作を指示するように構成されている。また、衛星測位ユニット70に限らず、例えば、車速センサ62によって計測される車速と、慣性計測ユニット74によって計測される方位変化角ΔNA(図7参照)と、の夫々が積分されて自機位置NMが算出される構成であっても良い。制御部78は、障害物検知部63による畦際の検知の判定を自動旋回の開始の条件とし、任意のタイミングで自動旋回制御を開始するように構成されている。自動旋回制御の目標位置は、次の作業走行の始点位置Lsであり、始点位置Lsにおいて、走行機体Cの自機方位NAと、目標方位LAと、が一致するように旋回制御される。
以下に、圃場の畦際における旋回走行のパターンについて説明する。
図9に示されている旋回走行パターンでは、目標移動経路LMに沿って、作業幅W1に亘る左右幅で作業走行が行われた後、作業走行の終点位置Lfから次の作業走行の始点位置Lsに向けて、U字状の旋回走行が行われる。なお、作業幅W1は、苗植付装置Wの作業幅であり、作業幅W1と作業幅W2とは、同じ幅を有する。後述する図10及び図11に示されている作業幅W1及び作業幅W2も、同様である。
図9に示される旋回走行のパターンでは、終点位置Lf又は始点位置Lsと、圃場の畦際と、の離間距離W3は、作業幅W1又は作業幅W2の二倍となっている。このことから、走行機体Cは、全ての目標移動経路LMにおける作業走行の完了後に、圃場の畦際に沿って二周分の周回走行をしながら作業走行を行う。図9に示される旋回走行のパターンは、主に四条植え型式や六条植え型式の苗植付装置Wを有する田植え機で用いられる。
走行機体Cが圃場の畦際に接近した状態で、障害物検知部63によって畦際が経時的に検出され、走行機体Cが圃場の畦際から離れることが判定された後に、自動旋回制御が開始されるように構成されている。図9においてP1で示された箇所は、畦際旋回走行の略中間位置であり、走行機体Cが圃場の畦際に最も接近する位置である。このことから、走行機体CがP1の箇所を通過した後に、走行機体Cが畦際から離れることが判定され、制御部78による自動旋回制御が開始される。後述する図10においてP1で示された箇所も、同様である。
自動旋回制御が開始されるタイミングとして、例えば、走行機体CがP1の箇所を通過した後に、自動旋回可能な状態が報知部59を介して運転者に報知され、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって自動旋回制御が開始される構成であっても良い。また、自動旋回制御は自動的に開始される構成であっても良い。また、走行機体CがP1の箇所を通過する前であっても、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって自動旋回制御が許可され、走行機体CがP1の箇所を通過した後に、走行機体Cが圃場の畦際から離れることが判定され、自動旋回制御が開始されるように構成されていても良い。
図10に示されている旋回走行パターンでは、目標移動経路LMに沿って、作業幅W1に亘る左右幅で作業走行が行われた後、作業走行の終点位置Lfから次の作業走行の始点位置Lsに向けて、U字状の旋回走行が行われる。
図10に示される旋回走行のパターンでは、終点位置Lf又は始点位置Lsと、圃場の畦際と、の離間距離は、苗植付装置Wの作業幅と同じ距離となっている。このため、例えば七条植え型式や八条植え型式の苗植付装置Wを有する田植え機である場合、そのまま畦際旋回走行が行われると、走行機体Cの前部が畦際と接触する虞がある。このことから、図10に示されている旋回走行パターンでは、走行機体Cが目標移動経路LMの終点位置Lfに到達した後、走行機体Cが一旦Lffの位置まで後進し、次の作業走行の始点位置Lsに向けて、走行機体CがU字状の旋回走行を行うように構成されている。
なお、図10に示される旋回走行パターンにおいて自動旋回制御が開始されるタイミングとして、図9に示される旋回走行のパターンで既述したタイミングのみならず、例えば、走行機体Cが終点位置LfからLffの位置まで後進したことが判定されて自動旋回制御が開始される構成であっても良い。また、走行機体Cが終点位置Lfに到達した後、自動操向スイッチ50等の操作によって、終点位置LfからLffの位置までの後進動作も含めた自動旋回制御の走行が行われる構成であっても良い。
図11に示されている旋回走行パターンでは、終点位置Lf又は始点位置Lsと、圃場の畦際と、の離間距離は、苗植付装置Wの作業幅と同じ距離となっている。更に、走行機体Cの旋回曲率半径が苗植付装置Wの作業幅よりも小さくなるように、走行機体Cが構成されている。このことから、図11に示されている旋回走行パターンでは、目標移動経路LMに沿って、作業幅W1に亘る左右幅で作業走行が行われた後、まず、走行機体Cは、作業走行の終点位置Lfから、圃場の畦際に沿う位置P1までL字状に旋回する。次に、走行機体Cは、圃場の畦際に沿って位置P2まで直進走行する。そして、位置P2から次の作業走行の始点位置Lsに向けて、走行機体Cがもう一度L字状の旋回走行を行って、畦際旋回走行が完了する。図11に示される旋回走行のパターンは、主に十条植え型式の苗植付装置Wを有する田植え機で用いられる。
位置P2から次の作業走行の始点位置Lsに向かう旋回走行は、走行機体Cが圃場の畦際から離れる方向に操舵車輪10が操舵される旋回走行である。このことから、走行機体CがP2の箇所を通過した後に、走行機体Cが畦際から離れることが判定され、制御部78による自動旋回制御が開始される。自動旋回制御が開始されるタイミングとして、例えば、走行機体Cが圃場の畦際に沿って走行する状態で、操向ハンドル43が、次の作業走行の始点位置Lsの位置する側に、操作されることが検知されて自動旋回制御が開始される構成であっても良い。また、走行機体CがP2の箇所を通過した後に、自動操向スイッチ50等の操作によって自動旋回制御が開始される構成であっても良い。加えて、走行機体CがP2の箇所を通過する前であっても、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって自動旋回制御が許可され、走行機体CがP2の箇所を通過した後に、走行機体Cが圃場の畦際から離れることが判定され、自動旋回制御が開始されるように構成されていても良い。
自動旋回制御が行われている間、操舵車輪10の操舵角度が変更されても、操向ハンドル43に操舵車輪10の操舵角度が伝達しないように、操向ハンドル43は構成されている。例えば、操向ハンドル43の操作が電気信号によって操向制御部79に伝達される構成である場合、操向制御部79は、操向ハンドル43の操作に関係なく、自動旋回制御を行うように構成されていれば良い。また、操向ハンドル43と操舵車輪10との間にクラッチが介在する構成である場合、自動旋回制御が行われている間、当該クラッチが切られるように構成されていれば良い。なお、自動旋回制御が開始される前に、報知部59又は警報部64によって自動旋回制御が開始されることが運転者に報知され、運転者が操向ハンドル43から手を離すことが促される。また、自動旋回制御時に、運転者が操向ハンドル43を操作できない場合であっても、不図示の専用操作具やブレーキ操作によって、運転者が操向ハンドル43を操作可能となる構成であっても良い。
〔位置ずれ修正処理〕
走行機体Cが、目標移動経路LMから予め設定された範囲よりも機体横方向に位置ずれした場合、以下のような位置ずれ修正処理が実行される。図12に示されているように、自機位置NMが目標移動経路LMから横方向に位置ずれ量ΔPだけ位置ずれした状態で、走行機体Cが走行する場合、制御部78は、目標方位LAを設定傾斜角α1だけ傾斜した方位に変更する。つまり、制御部78は、自動操向制御するときの目標方位LAとして、目標移動経路LMの位置する側に設定傾斜角α1だけ傾斜した方位に目標方位LAを変更して自動操向制御を実行する。
このとき、自機位置NMが目標移動経路LMに相当する箇所から離れているほど、設定傾斜角α1が大側に設定され、自機位置NMが目標移動経路LMに相当する箇所に近づくほど、設定傾斜角α1が緩く設定される。また、車速が低速であれば、設定傾斜角α1が大側に設定され、車速が高速であるほど設定傾斜角α1が緩く設定される。但し、設定傾斜角α1には上限値が設定され、車速がどのように低速であっても、位置ずれが大きくても、設定傾斜角α1が設定上限値を越えることはない。これにより、走行機体Cが急旋回して走行状態が不安定になる虞が防止される。
自機方位NAが、設定傾斜角α1だけ傾斜した目標方位LAに達すると、目標方位LAは、設定傾斜角α1よりも緩い傾斜角α2だけ傾斜した方位に変更される。更に、自機方位NAが、傾斜角α2だけ傾斜した目標方位LAに達すると、目標方位LAは、傾斜角α2よりも緩い傾斜角α3だけ傾斜した方位に変更される。このように、目標移動経路LMに対する方位偏差が徐々に小さくなる状態で、走行機体Cが斜め方向に走行するので、迅速に位置ずれ量ΔPを小さくすることができる。
上述した目標移動経路LMに相当する箇所は、目標移動経路LMに相当する位置の左右両側に横方向に所定幅の領域を有している。すなわち、位置偏差に対する制御不感帯が設定されており、位置偏差が制御不感帯の範囲内に入ると、目標方位LAは傾斜せず、本来の目標移動経路LMに沿う方向に設定される。
上述した構成によって、走行機体Cが目標移動経路LMに誘導されるため、特に、上述した自動旋回制御の直後に開始される自動操向制御において、走行機体Cの目標移動経路LMに対する位置ずれが速やかに収束される。
なお、衛星測位ユニット70による測位データの精度の低下が判定されたら、上述した位置ずれの補正制御は実行されないように構成されていても良い。この場合、当該位置ずれが考慮されず、目標移動経路LMに沿う方向の目標方位LAに自機方位NAが沿うように、自動操向制御が行われる。
〔慣性計測ユニットにおける補正処理〕
慣性計測ユニット74は、重力加速度による慣性計測ユニット74のたわみを基準として、走行機体Cの加速度や角加速度等の慣性量を精度良く計測可能であるため、当該角加速度の積分によって走行機体Cの方位変化角ΔNAを計測できる。しかし、走行機体Cの旋回方向は、重力加速度の方向と垂直(又は略垂直)な面上に沿うため、自機方位NAの絶対的な方位を計測することができない。このため、慣性計測ユニット74によって計測された方位変化角ΔNAに、僅かな誤差が含まれる場合であっても、方位変化角ΔNAの積分において誤差が累積される虞がある。このため、方位ずれ算定部77で算出される自機方位NAが、時間の経過に伴って不正確になる虞がある。このことから、方位ずれ算定部77は、衛星測位ユニット70による測位データに基づいて、以下の補正を行う。
前述したように、短時間の間にDGPSによる二点間の測位が行われる場合、二点間における相対的な位置の誤差は極めて小さいことが知られている。この特性を利用して、二点間の測位データに基づいて算定される絶対方位は、二点間の距離が離れるほど高精度なものとなる。
走行機体Cの車速が予め設定された値以上のとき、図13に示されているように、方位ずれ算定部77は、衛星測位ユニット70により測位された二点間の自機位置NM1,NM2に基づいて、自機方位NAcを算出するように構成されている。二点間の自機位置NM1,NM2の間では、方位変化角ΔNAが複数回に亘って検出され、方位変化角ΔNAの積分によって自機方位NAが算定される。このとき、方位変化角ΔNAの積分によって算定される自機方位NAは、方位変化角ΔNAに含まれる誤差の累積によって、自機位置NM2において点線で示される矢印NAfにずれた状態となっている。
自機方位NAcが算出されると、方位ずれ算定部77は、自機方位NAを自機方位NAcに更新する。これにより、方位ずれ算定部77によって算定された自機方位NAが、矢印NAfにずれた状態が解消される。そして、方位ずれ算定部77は、更新された自機方位NAに基づいて、慣性計測ユニット74によって計測された方位変化角ΔNAを積分することによって、経時的に自機方位NAを算出する。この構成よって、慣性計測ユニット74による方位変化角ΔNAの計測に誤差が含まれる場合であっても、ΔNAの積分による誤差の累積が解消されて自動操向制御が正確なものとなる。
〔表示部〕
図14に示されているように、機体の状態が報知部59を介して表示部48の画面に表示される。表示部48は、作業情報領域100、位置ずれ情報領域101、車速情報領域102等の複数の表示領域に区分けされている。作業情報領域100は、表示部48の上側の左端に作業日時や作業実績などを表示する。位置ずれ情報領域101は、上側の中央に目標移動経路LMに対する走行機体C(自機位置NM)の位置ずれ量を表示する。車速情報領域102は、上側の右端に車速を表示する。表示部48の上側以外の大きな領域は位置情報領域104となっており、位置情報領域104は圃場における走行機体Cの位置を示す。位置情報領域104の左端の小さな領域は操舵状態情報領域103となっており、操舵状態情報領域103は制御装置75の自動操向モード又は手動操向モードの状態を表示する。位置情報領域104の右端には、タッチパネル操作式のソフトウエアボタン群120が配置されている。表示部48の更に右側には、物理ボタン群121が配置されている。
位置情報領域104には、走行機体C周辺の圃場の作業状態及び、目標移動経路LMと、自機位置NMを示す機体シンボルSYが表示されている。なお、目標移動経路LMのうち、作業走行中の目標移動経路LMは、分かりやすくするために太い実線で描画されている。さらに、既に田植えが完了した領域は各植付苗を点描化して表示される。これにより、既作業領域と未作業領域とが視覚的に明確に区別されている。なお、この植付苗跡の表示は、点描以外に線状の植付条を示す線であっても良い。
図14では明示されていないが、走行機体Cの実際に走行した経路、つまり走行軌跡を、表示部48に表示することもできる。この走行軌跡と目標移動経路LMとを比べることで、自動操向制御の精度をチェックすることができる。走行軌跡は、衛星測位ユニット70による測位データに基づいて表示部48に表示される。また、機体シンボルSYは矢印状で示されており、尖鋭方向が進行方向、即ち自機方位NAを示している。自機方位NAと目標方位LAとの方位ずれをより視覚的に分かりやすくするため、機体シンボルSYの中心から進行方向に延びた指針110と、その向きの角度範囲を示す向き目盛111と、が上書き表示されている。また方位ずれの許容範囲を示す境界線112も表示されている。方位ずれのデジタル値も表示可能である。運転者は、表示部48を通じて、目標移動経路LMに対する走行機体Cの位置ずれ及び方位ずれを視認できる。
目標移動経路LMにおける作業走行に基づいて後工程用目標移動経路LM2が設定されると、図14に示されているように、位置ずれ情報領域101に、後工程用目標移動経路LM2に対する走行機体Cの位置ずれ量が表示される。位置ずれ量が表示されるタイミングは、目標移動経路LMから後工程用目標移動経路LM2に畦際旋回走行する際中であっても良いし、当該畦際旋回走行の完了後であっても良い。
前述したように、例えば十秒程度の短時間の間に、DGPSによる二点間の測位が行われる場合、二点間における相対的な位置の誤差は極めて小さい。しかし、DGPSによって経時的に測位される位置座標の誤差は、畦際旋回の直前で測位された位置座標NM3(図8参照)に対して、位置座標NM3が測位されたタイミングから時間が経過して測位されるほど大きくなる。つまり、位置座標NM3に対する相対的な測位精度が、時間の経過に伴って低下する。このため、衛星測位ユニット70にDGPSが用いられる構成である場合、表示部48は、位置ずれ量の精度の低下が判定されたら、位置ずれ情報領域101に位置ずれ量が表示されないように構成されている。例えば、位置ずれ情報領域101に位置ずれ量が表示される設定時間が予め設定され、位置座標NM3が測位されたタイミングから当該設定時間が経過すると、位置ずれ情報領域101に位置ずれ量が表示されないような構成であっても良い。
前述した自動旋回制御が行われている間、表示部48に表示される画面のうち、位置ずれ情報領域101及び位置情報領域104に、走行機体Cの位置や位置ずれ量が表示されないように構成されている。つまり、自動旋回中における表示部48の表示に自動旋回中であることが表示され、運転者に分かり易い表示とすることができる。また、運転者の意思によって、自動旋回中における走行機体Cの位置や位置ずれ量が表示されるように、切換自在な構成であっても良い。表示又は非表示の切換は、ソフトウエアボタン群120や物理ボタン群121の操作によるものであっても良い。また、位置ずれ量の報知は、報知部59による音声通知やスイッチの点灯表示又は点滅表示であっても良い。
衛星測位ユニット70が補足可能な航法衛星の数が少ないなどの要因で、衛星測位ユニット70の受信感度が不十分な場合、衛星測位ユニット70の測位データに大きな誤差が含まれる虞がある。このような場合、位置ずれ情報領域101に位置ずれ量が表示されない構成であっても良い。また、位置ずれ情報領域101や位置情報領域104に、衛星測位ユニット70の受信感度が不十分であることが、報知部59を介して報知される構成であっても良い。これにより、運転者に、作業走行を人為操作で行うように促される。なお、衛星測位ユニット70の受信感度が不十分であることの報知は、音声案内やスイッチの点灯表示又は点滅表示であっても良く、報知しないように切換自在なように構成されている。また、報知部59が報知する時間は、任意に設定調整可能なように構成されて良い。
更に、この状態で自動操向スイッチ50が操作されると、当該位置ずれが考慮されず、自機方位NAが目標方位LAに沿うように自動操向制御が行われる構成であっても良い。
目標移動経路LMは、設定後に補正可能な構成であっても良い。例えば、畦際旋回走行の完了直後に人為操作による作業走行が行われ、かつ、自機位置NMが目標移動経路LMに対して、走行機体Cの前方視で左右何れかに位置ずれしている場合が考えられる。このような場合、運転者が、自機位置NMの位置する方向に、目標移動経路LMを、走行機体Cの前方視で左右に平行移動させる補正が可能な構成であっても良い。この構成によって、目標移動経路LMに対する自機位置NMの位置ずれが許容範囲外である場合であっても、目標移動経路LMの補正によって、自機位置NMの位置ずれを目標移動経路LMに対して許容範囲内とすることができる。これにより、目標移動経路LMに沿う自動操向制御を速やかに開始させることができる。目標移動経路LMの補正は、ソフトウエアボタン群120の操作によるものであっても良いし、物理ボタン群121の操作によるものであっても良い。
〔別実施形態〕
本発明は、上述した実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
〔1〕上述した実施形態において、例えば、距離センサや画像センサである障害物検知部63が、畦際検知手段として用いられているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、障害物検知部63に代えて、例えば予め圃場の座標位置を計測した圃場計測データが用いられ、圃場計測データと衛星測位ユニット70の測位データとを比較することによって、畦際が検知される構成であっても良い。この場合、走行機体Cに、WAN(Wide
Area Network)等を介して外部端末と通信可能な通信機器が備えられ、例えば前年度以前の作業走行において衛星測位ユニット70によって測位されたものが、圃場計測データとして外部端末に管理される構成であっても良いし、地図情報サイトから取得された地図情報が、圃場計測データとして用いられる構成であっても良い。
〔2〕上述した実施形態において、操向ハンドル43が備えられた操向操舵ユニットUが、操向操作手段として用いられているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、操向操作手段は、運転者が手元で操作するプロポーショナル方式の送信機であっても良いし、携帯端末機器のタッチパネル式表示画面であっても良い。この場合、操向操舵ユニットUの操向モータ58が、遠隔操作によって操作される構成であっても良い。また、操向ハンドル43が着脱可能なように構成されていても良い。この場合、運転者等が操向ハンドル43を紛失しないように、操向ハンドル43が走行機体Cから離れないように、操向操舵ユニットUから取り外される構成であっても良い。例えば、操向ハンドル43が操向操舵ユニットUにチェーンで繋がれていたり、操向ハンドル43が操向操舵ユニットUに収納可能であったり、操向ハンドル43が走行機体Cから一定距離以上離れると、報知部59を介して表示部48や外部端末に報知されたりしても良い。
〔3〕上述した実施形態に示される自動旋回制御は、位置座標NM3が測位されたタイミングから当該設定時間が経過すると、自動旋回制御が許可されないように構成されていても良い。衛星測位ユニット70にDGPSが用いられる構成である場合、位置座標NM3に対する相対的な測位精度が、時間の経過に伴って低下する。このため、制御部78が、自動旋回制御の目標位置に、走行機体Cを精度良く到達させることが出来ないと判定する場合、自動旋回制御が許可されないように構成されていても良い。この構成は、特に、畦際旋回走行の途中で、走行機体Cが長時間停止するような場合に有効である。
〔4〕制御部78は、自動旋回制御を実行する第一モードと、自動旋回制御を実行しない第二モードと、に切換可能なように構成されていても良い。例えば、制御部78が第一モードに設定されている場合、制御部78は、走行機体Cと畦際との接近が検知されると、自動的に自動旋回制御を開始するように構成されていても良い。また、制御部78が第二モードに設定されている場合、自動旋回制御が無効化されて、操向ハンドル43の手動操作や操向モータ58の遠隔操作によって畦際旋回走行が行われる構成であっても良い。
〔5〕上述した実施形態において、目標移動経路LMが一つずつ設定されるように構成されているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、始点位置Tsと終点位置Tfとを結ぶティーチング経路(図6参照)が設定されると、全ての目標移動経路LMが同時に設定されるような構成であっても良い。
〔6〕図9乃至図11に示される旋回走行パターンにおいて、自動旋回制御の開始が可能となるタイミングは、走行機体Cの畦際からの離間が、障害物検知部63によって検知されるタイミングであるが、上述した実施形態に限定されない。例えば、走行機体Cの自機方位NAと、目標移動経路LMの目標方位LAと、の方位ずれが、予め設定された範囲よりも大きく向きずれしたときに自動旋回制御が開始されるように構成されていても良い。
例えば、方位ずれの角度が90度以上となった場合に、走行機体Cが圃場の畦際から離れることが判定され、自動旋回制御が開始される構成であっても良い。この場合、自動旋回制御が自動的に開始される構成であっても良いし、設定スイッチ49や自動操向スイッチ50等の操作によって自動旋回制御が開始される構成であっても良い。
〔7〕上述した田植機のみならず、本発明は、直播機等を含むその他の直播系作業機に適用可能である。また、直播系作業機以外に、トラクタやコンバイン等の農作業機にも、本発明は適用可能である。