〔植播系作業機の基本構成〕
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、本発明の植播系作業機の一例として乗用型田植機を例に挙げて説明する。なお、図2に示されているように、本実施形態では、矢印Fが走行機体Cの機体前部側、矢印Bが走行機体Cの機体後部側、矢印Lが走行機体Cの機体左側、矢印Rが走行機体Cの機体右側である。
図1乃至図3に示されているように、乗用型田植機には、左右一対の操舵車輪10と、左右一対の後車輪11とを有する走行機体Cと、走行機体に支持され、圃場に対する苗の植付け作業を行う植播系作業装置としての苗植付装置Wと、が備えられている。左右一対の操舵車輪10は、走行機体Cの機体前側に設けられて走行機体Cの向きを変更操作自在なように構成され、左右一対の後車輪11は、走行機体Cの機体後側に設けられている。苗植付装置Wは、昇降用油圧シリンダ20の伸縮作動により昇降作動するリンク機構21を介して、走行機体Cの後端に昇降自在に連結されている。また、図示は省略してあるが、苗植付装置Wは走行機体Cの後端に回転自在に連結されており、ローリング用油圧シリンダ82(図7を参照)の駆動によりローリング方向に回転可能になっている。
走行機体Cの前部には、開閉式のボンネット12が備えられている。ボンネット12の先端位置には、マーカ装置33によって圃場に描かれる指標ライン(不図示)に沿って走行するための目安となる棒状のセンターマスコット14が備えられている。走行機体Cには、前後方向に沿って延びる機体フレーム15が備えられ、機体フレーム15の前部には支持支柱フレーム16が立設されている。
ボンネット12内には、エンジン13が備えられている。詳述はしないが、エンジン13の動力が、機体に備えられた変速装置を介して操舵車輪10及び後車輪11に伝達され、変速後の動力が電動モータ駆動式の植付クラッチ(不図示)を介して苗植付装置Wに伝達される。
図1及び図2に示されているように、苗植付装置Wに、四個の伝動ケース22と、八個の回転ケース23と、苗載せ台26と、マーカ装置33と、が備えられている。回転ケース23は、各伝動ケース22の後部の左側部及び右側部に、夫々回転自在に支持されている。夫々の回転ケース23の両端部に、一対のロータリ式の植付アーム24が備えられている。苗載せ台26に、植え付け用のマット状苗が載置される。マーカ装置33は、苗植付装置Wの左右側部に備えられ、圃場の田面に指標ライン(不図示)を形成する。このように、苗植付装置Wではフロートは設けられておらず、乗用型田植機はフロートを備えないフロートレスタイプとなっている。
苗植付装置Wは、苗載せ台26を左右に往復横送り駆動しながら、伝動ケース22から伝達される動力により各回転ケース23を回転駆動して、苗載せ台26の下部から各植付アーム24により交互に苗を取り出して圃場の田面に植え付けるようになっている。苗植付装置Wは、八個の回転ケース23に備えられた植付アーム24により苗を植え付ける八条植え型式に構成されている。なお、苗植付装置Wは、四条植え型式であったり、六条植え型式であったり、七条植え型式であったり、十条植え型式であったりしても良い。
詳述はしないが、マーカ装置33は、作用姿勢と格納姿勢とに切換え可能なように構成されている。作用姿勢の状態で、マーカ装置33は、走行機体Cの走行に伴って圃場の田面に接地して次回の作業行程に対応する田面に指標ライン(不図示)を形成する。格納姿勢の状態で、マーカ装置33は圃場の田面から上方に離れる。マーカ装置33の姿勢切換えは電動モータ(不図示)により行われる。
図1乃至図3に示されているように、走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、複数(例えば四つ)の通常予備苗台28と、予備苗台29と、が備えられている。通常予備苗台28は、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能なように構成されている。予備苗台29は、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能なレール式に構成されている。走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、各通常予備苗台28と予備苗台29とを支持する背高のフレーム部材としての左右一対の予備苗フレーム30が備えられ、左右の予備苗フレーム30の上部同士が連結フレーム31にて連結されている。
図1乃至図3に示されているように、走行機体Cの中央部には、各種の運転操作が行われる搭乗部40が備えられている。搭乗部40には、運転座席41と、操向操舵ユニットUに設けられた操向操作具としての操向ハンドル43と、主変速レバー44と、操作レバー45と、が備えられている。運転座席41は、走行機体Cの中央部に備えられ、搭乗者が着席可能なように構成されている。操向ハンドル43は、人為操作によって操舵車輪10の操向操作を可能なように構成されている。主変速レバー44は、前後進の切換え操作や走行速度の変更操作が可能なように構成されている。苗植付装置Wの昇降操作と、左右のマーカ装置33の切換えと、が操作レバー45によって行われる。操向ハンドル43、主変速レバー44、操作レバー45等は、運転座席41の機体前部側に位置する操縦塔42の上部に備えられている。搭乗部40の足元部位には、搭乗ステップ46が設けられている。搭乗ステップ46はボンネット12の左右両側にも延びている。
操作レバー45を上昇位置に操作すると、植付クラッチ(不図示)が切り操作されて苗植付装置Wに対する伝動が遮断され、昇降用油圧シリンダ20を作動して苗植付装置Wが上昇し、左右のマーカ装置33(図1参照)が格納姿勢に操作される。操作レバー45を下降位置に操作すると、苗植付装置Wが下降して田面に接地して停止した状態となる。この下降状態で操作レバー45を右マーカ位置に操作すると、右のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。操作レバー45を左マーカ位置に操作すると、左のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。
搭乗者は、田植え作業を開始するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを下降させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を開始させて田植え作業を開始する。そして、田植え作業を停止するときは、操作レバー45を操作して苗植付装置Wを上昇させると共に、苗植付装置Wに対する伝動を遮断する。
搭乗部40の操縦塔42の上部の操作パネル47に、種々の情報を表示可能な表示部48が備えられている。表示部48は、例えばタッチパネル式の液晶表示器であっても良い。また、表示部48の右側には、押し操作式の始点設定スイッチ49Aが備えられ、表示部48の左側には、押し操作式の終点設定スイッチ49Bが備えられている。始点設定スイッチ49A及び終点設定スイッチ49Bの機能については後述する。
主変速レバー44の握り部には、押し操作式の自動走行スイッチ50(操作具)が備えられている。自動走行スイッチ50は、自動復帰型に設けられ、搭乗者が自動走行スイッチ50を押し操作することによって操作信号が出力され、自動走行制御の入り切りの切換えを指令する。自動走行スイッチ50は、主変速レバー44の握り部を手で握った状態で、例えば、親指で押すことができる位置に配置されている。
操向操舵ユニットUの自動操向を行う場合には、操向モータ57(図4参照)を駆動することによって操向ハンドル43を回動操作し、操舵車輪10の操向角度を変更するようになっている。自動操向を行わない場合には、操向操舵ユニットUは、操向ハンドル43の人為操作により回動操作することができる。
〔自動走行制御の構成〕
次に、自動走行制御を行うための構成について説明する。
走行機体Cに、衛星からの電波を受信して機体の位置を検出する衛星測位用システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の一例として、周知の技術であるGPS(Global Positioning System)を利用して、機体の位置を求める衛星測位ユニット70が備えられている。本実施形態では、衛星測位ユニット70は、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)を利用したものであるが、RTK−GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)を用いることも可能である。
具体的には、位置検出手段として、衛星測位ユニット70が測位を行う対象(走行機体C)に備えられている。衛星測位ユニット70は、地球の上空を周回する複数の航法衛星から発信される電波を受信するアンテナ71付きの受信装置72を有する。航法衛星から受信する電波の情報に基づいて、受信装置72すなわち衛星測位ユニット70の位置が測位される。
図1乃至図3に示されているように、衛星測位ユニット70は、走行機体Cの前部に位置する状態で、板状の支持プレート73を介して連結フレーム31に取り付けられている。図1及び図3に示されているように、受信装置72が、連結フレーム31と予備苗フレーム30とによって、高い箇所に支持されるものとなる。これにより、受信装置72に受信障害が生じるおそれが少なく、受信装置72における電波の受信感度を高めることができる。
衛星測位ユニット70の他に、走行機体Cの方位を検出する方位検出手段として、例えばIMU(Inertial Measurement Unit)74Aを有する慣性計測ユニット74が、走行機体Cに備えられている。慣性計測ユニット74は、IMU74Aに代えてジャイロセンサや加速度センサを有する構成であっても良い。図示はしないが、慣性計測ユニット74は、例えば、運転座席41の後側下方位置であって走行機体Cの横幅方向中央の低い位置に設けられている。慣性計測ユニット74は、走行機体Cの旋回角度の角速度を検出可能であり、角速度を積分することで機体の方位変化角を求めることができる。従って、慣性計測ユニット74により計測される計測情報には走行機体Cの方位情報が含まれている。詳述はしないが、慣性計測ユニット74は、走行機体Cの旋回角度の角速度の他、走行機体Cの左右傾斜角度、走行機体Cの前後傾斜角度の角速度等も計測可能である。
そして、走行機体Cに制御装置75が備えられており、制御装置75は、自動走行制御が実行される自動走行モードと、自動走行制御が実行されない手動走行モードと、に切換え可能なように構成されている。
図4は制御装置のうち自動走行制御に用いる構成を示したものであり、制御装置75は、経路設定部76と、方位算定部77と、自動走行制御部78と、距離算定部79と、を有する。経路設定部76は、走行機体Cが走行すべき目標移動経路LM(図5参照)を設定する。方位算定部77の詳細は後述する。自動走行制御部78は、衛星測位ユニット70にて計測される走行機体Cの測位データと、慣性計測ユニット74にて計測される走行機体Cの方位情報と、に基づいて、走行機体Cが目標移動経路LMに沿って走行するように、操向モータ57や変速モータ58を制御する。具体的には、制御装置75は、マイクロコンピュータを備えており、自動走行制御を行うために、経路設定部76と方位算定部77と自動走行制御部78と距離算定部79とが制御プログラムにて構成されている。
自動走行制御に用いる目標移動経路LMをティーチング処理によって設定するための設定スイッチ49が備えられている。設定スイッチ49には、始点位置Tsを設定する始点設定スイッチ49Aと、終点位置Tfを設定する終点設定スイッチ49Bと、が備えられている。上述したように、始点設定スイッチ49Aは表示部48の右側に備えられ、終点設定スイッチ49Bは表示部48の左側に備えられている。
制御装置75に、衛星測位ユニット70、慣性計測ユニット74、自動走行スイッチ50、始点設定スイッチ49A、終点設定スイッチ49B、操向角センサ60、車速センサ62、障害物検知部63(検知手段)等の情報が入力される。車速センサ62は、例えば、後車輪11に対する伝動機構中の伝動軸の回転速度により車速を検出するように構成されている。障害物検知部63は、走行機体Cの前部及び左右両側部に備えられ、例えば、光波測距式の距離センサであったり、画像センサであったりして、圃場の畦際や圃場内の鉄塔等を検知可能なように構成されている。また、障害物検知部63の検知信号は距離算定部79(距離算定手段)に入力され、走行機体Cと障害物との距離が算出される。障害物検知部63によって障害物が検知されると、例えばブザーや音声案内である報知部59によって搭乗者に検知状態が報知される。制御装置75は報知部59と接続され、報知部59は、例えば車速やエンジン回転数等の状態を報知するように構成されている。報知部59は、表示部48に表示される構成であったりしても良いし、センターマスコット14に備えられたLED照明の点滅パターンが変わる構成であったりしても良い。
始点設定スイッチ49A及び終点設定スイッチ49Bの操作に基づくティーチング処理によって、自動走行すべき目標経路に対応するティーチング経路が、経路設定部76によって設定される。
方位算定部77は、慣性計測ユニット74にて検出される走行機体Cの検出方位と、目標移動経路LMにおける目標方位LAと、の角度偏差、即ち方位ずれを算定する。そして、制御装置75が自動走行モードに設定されているとき、自動走行制御部78は、角度偏差が小さくなるように、操向モータ57を制御する。即ち、衛星測位ユニット70及び慣性計測ユニット74によって検出される走行機体Cの検出位置が、目標移動経路LM上の位置になるように、操向モータ57が操作される。
〔目標移動経路〕
水田において田植機は、直線状の条植付けの経路に沿って田植え作業を伴う作業走行と、畦際付近で次の条植付けの経路に移動するための畦際旋回走行と、を交互に繰り返す。図5に、ティーチング経路LTに沿って並列する複数の目標移動経路LMが示されている。本実施形態では、夫々の目標移動経路LM(1)〜LM(6)は、経路設定部76によって、以下の手順で設定される。
まず、搭乗者は、走行機体Cを圃場内の畦際付近の始点位置Tsに位置させ、始点設定スイッチ49Aを操作する。このとき、制御装置75は手動走行モードに設定されている。そして、搭乗者が手動操縦しながら、始点位置Tsから側部側の畦際の直線形状に沿って走行機体Cを走行させ、反対側の畦際近くの終点位置Tfまで移動させてから終点設定スイッチ49Bを操作する。これにより、ティーチング処理が実行される。つまり、始点位置Tsにおいて衛星測位ユニット70により取得された測位データに基づく位置座標と、終点位置Tfにおいて衛星測位ユニット70により取得された測位データに基づく位置座標と、から始点位置Tsと終点位置Tfとを結ぶティーチング経路LTが設定される。このティーチング経路LTに沿う方向が基準となる目標方位LAとして設定される。なお、終点位置Tfにおける位置座標は、衛星測位ユニット70による測位データのみならず、車速センサ62に基づく始点位置Tsからの距離と、慣性計測ユニット74に基づく走行機体Cの方位情報と、に基づいて算出される構成であっても良い。また、始点位置Tsと終点位置Tfとに亘る走行機体Cの走行は、田植え作業を伴う作業走行であっても良いし、非作業状態の走行であっても良い。
ティーチング経路LTの設定完了後、ティーチング経路LTに隣接する条植付けの経路に移動するための畦際旋回走行が行われ、本実施形態では、始点位置Ls(1)に走行機体Cが移動する。畦際旋回走行は、搭乗者が手動で操向ハンドル43を操作することによって行われるものであっても良いし、制御装置75による自動旋回制御によって行われるものであっても良い。このとき、制御装置75は、走行機体Cの検出方位が反転することにより、走行機体Cの旋回が行われたことを判別できる。走行機体Cの検出方位の反転は、衛星測位ユニット70や慣性計測ユニット74によって検知可能である。
走行機体Cの旋回は、走行機体Cの検出方位の反転以外に、各種機器の動作によって判別されるものであっても良い。各種機器の動作として、例えば、苗植付装置W、整地ロータ(不図示)等の上昇動作であったり、サイドクラッチ(不図示)が切られることであったり、苗植付装置Wに対する伝動の遮断であったりしても良い。また、走行機体Cの始点位置Ls(1)への到達が、衛星測位ユニット70によって判別されるものであっても良い。
走行機体Cの旋回完了が判別された後、制御装置75の手動走行モードは継続し、人為操作による走行が継続する。この間、制御装置75は、方位算定部77によって算定される走行機体Cの検出方位の方位ずれや、操舵車輪10の向き、操向ハンドル43の操舵角等の判別条件を確認し、自動走行モードに切換え可能な状態であるかどうかを判定する。そして、自動走行モードに切換え可能な状態であれば、人為操作によって、又は、自動的に、経路設定部76によって目標移動経路LM(1)が設定され、制御装置75が手動走行モードから自動走行モードに切換えられる。そして、目標移動経路LM(1)に沿う自動走行制御が開始される。目標移動経路LM(1)は、ティーチング経路LTに隣接した状態で、目標方位LAの方位に沿って設定され、ティーチング処理後に走行機体Cが最初に作業走行を行う目標移動経路LMである。
自動走行制御は、目標移動経路LM(1)の始点位置Ls(1)の位置する側の反対側にある終点位置Lf(1)の付近まで継続し、障害物検知部63による畦際の検知に基づいて自動走行制御が終了するが、苗植付装置Wの上昇や走行機体Cの畦際旋回が検知されることによって自動走行制御が終了する構成であっても良い。
走行機体Cが目標移動経路LM(1)の終点位置Lf(1)に到達すると、目標移動経路LM(1)の未作業領域側に隣接する目標移動経路LM(2)が設定される。そして、搭乗者は、目標移動経路LM(1)の未作業領域側に操向ハンドル43を操作して畦際旋回走行を行い、走行機体Cは始点位置Ls(2)に移動する。なお、当該畦際旋回走行は、制御装置75による自動旋回制御によって行われるものであっても良い。
以後、前回の目標移動経路LM(1)と同様に、旋回後に判別条件が成立したのちに、人為操作によって、又は、自動的に、目標移動経路LM(2)に沿って自動走行制御が開始され、走行機体Cが作業走行する。走行機体Cが目標移動経路LM(2)の終点位置Lf(2)に到達した後、目標移動経路LM(3),LM(4),LM(5),LM(6)の順番で、畦際旋回走行後の目標移動経路LMの設定と、作業走行と、が繰り返される。つまり、夫々の目標移動経路LMは、一つずつ設定される。更に、全ての目標移動経路LMに沿った作業走行が完了すると、圃場の畦際に沿って周回走行しながら田植え作業が行われ、一つの圃場における田植え作業が完了する。
〔目標移動経路に沿う自動走行制御について〕
図6に示されるように、圃場の田植え作業は、夫々の目標移動経路LMに沿う作業走行と、隣接する目標移動経路LMに移動する際の畦際旋回走行と、を繰り返しながら行われる。始点位置Ls及び終点位置Lfは、圃場の畦際から距離L1(第二設定距離)だけ離間し、目標移動経路LMにおける田植え作業が完了する箇所である。始点位置Ls及び終点位置Lfよりも圃場内側に位置する領域は、作業走行領域A1であり、複数の目標移動経路LMが設定され、走行機体Cが夫々の目標移動経路LMに沿って作業走行を行う領域である。始点位置Ls及び終点位置Lfよりも畦際側に位置する領域は、最後の周回走行で田植え作業が行われる枕地領域A2であり、次の目標移動経路LM(2)に移動する場合に、枕地領域A2で旋回走行が行われる。
図6の目標移動経路LM(n)に示されているように、夫々の目標移動経路LMは、経路lm1,lm2,lm3によって構成されている。経路lm1は、制御装置75が手動走行モードから自動走行モードに切換えられる前に走行機体Cが走行する経路であって、始点位置Lsと、始点位置Lsから圃場内側に距離R1だけ離間した位置と、に亘って設定される。経路lm2は、制御装置75が自動走行モードに切換えられた状態で自動走行制御が行われる経路である。経路lm3は、走行機体Cが圃場の畦際に接近した状態における走行機体Cの走行経路であり、終点位置Lf付近の畦際から距離L2だけ離間した位置と、終点位置Lfと、に亘って設定される。図7に示される他の目標移動経路LM(n−1),LM(n+1)においても、同様の構成となっている。
圃場の畦際旋回は、基本的に運転者が操向ハンドル43を操作することによって行われ、制御装置75で畦際旋回の判定処理が行われる。このとき、走行機体Cの向きが反転したことや、走行機体Cが次の目標移動経路LM(n)の始点位置Lsに到達したこと等が判定されると、苗植付装置Wが下降して田植え作業が開始される構成であっても良い。
走行機体Cが畦際旋回して目標移動経路LM(n−1)から次の目標移動経路LM(n)の始点位置Lsに移動した後、自動走行制御のための条件が整うと自動走行制御が開始される。制御装置75が人為操作によって手動走行モードから自動走行モードに切換えられる場合、制御装置75が自動走行モードに切換え可能な状態であるかどうかは、報知部59によって報知される。そして、報知部59によって報知された状態で、搭乗者が自動走行スイッチ50を操作することによって自動走行制御が開始される。自動走行制御の開始の条件は、以下の通りである。
まず、次の目標移動経路LM(n)の始点位置Lsから、予め設定された距離に亘って人為操作による走行機体Cの走行が行われる第一条件となる。即ち、図6において、目標移動経路LM(n)の始点位置Lsから圃場内側に距離R1だけ離間した位置P1までの経路lm1に沿って人為操作による走行が行われ、制御装置75は手動走行モードとなっている。この状態で、機体の前進方向が目標移動経路LMの目標方位LAと一致又は略一致する状態で、操向ハンドル43のステアリング角度が予め設定された範囲内(直進位置も含まれる)にあることが第二条件となる。自動走行制御の開始の条件は、上述の第一条件と第二条件が必要であり、更に、この状態で衛星測位ユニット70の測位データに基づいて算出される自機位置NMと、畦際旋回の直前で測位された位置座標と、の作業幅方向における相対距離が、苗植付装置Wの作業幅と略一致することが条件に含まれていても良い。
この状態で、搭乗者が自動走行スイッチ50を操作することによって、制御装置75が手動走行モードから自動走行モードに切換えられる。また、自動走行スイッチ50の操作に限定されず、例えば、始点設定スイッチ49Aや終点設定スイッチ49Bの操作、植付クラッチ(不図示)の入り操作、サイドクラッチ(不図示)の入り操作、苗植付装置Wの下降操作、マーカ装置33の作用操作、ポンパレバー(不図示)の操作等によって、モードの切換えが行われる構成であっても良い。
〔苗植付装置Wの対地姿勢制御について〕
本実施形態に係る乗用型田植機では、上記の自動走行制御に加えて、走行機体Cの姿勢変化に基づく苗植付装置Wの対地姿勢制御も実行可能になっている。つまり、走行機体Cの走行中に、地面状態等の影響を受けて走行機体Cの姿勢が変化した場合には、苗植付装置Wの圃場面に対する姿勢が変動してしまうので、安定した植付作業のため、苗植付装置Wの対地姿勢を維持するようになっている。具体的には、本実施形態に係る乗用型田植機は、苗植付装置Wの対地姿勢制御を行う対地姿勢制御手段と、圃場面を検出する圃場面検出手段と、を有し、圃場面検出手段により圃場面84を検出し、その検出結果に基づいて苗植付装置Wの植付け部から圃場面84までの距離や植付け部に対する圃場面84の角度などを特定し、対地姿勢制御手段により苗植付装置Wの対地姿勢が維持されるように苗植付装置Wの対地姿勢制御を実行するようになっている。
そのために、本実施形態の乗用型田植機は、圃場面検出手段として超音波センサ80を有し、取付箇所から圃場面84までの距離を特定可能になっている。そして、超音波センサ80は、苗植付装置W、特にその植付け部に設けられており、超音波センサ80の検出結果に基づいて、苗植付装置Wから圃場面84までの距離を特定できるようになっている。特に限定されないが、本実施形態では、図10に示すように、超音波センサ80は、走行機体C及び苗植付装置Wのそれぞれに設けられている。また、本実施形態では、走行機体Cには、超音波センサ80は、機体の前部部分及び後部部分のそれぞれに設けられている。また、機体の前部部分及び後部部分には、それぞれ、機体幅方向に並んだ左右一対の超音波センサ80a,80bが設けられている。走行機体Cにおける超音波センサ80の取付箇所としては、特に限定はされないが、例えば前車軸近傍箇所、後車軸近傍箇所、ステップの下面等が挙げられる。また、苗植付装置Wには、機体幅方向に並んだ左右一対の超音波センサ80a,80bが設けられている。苗植付装置Wにおける超音波センサ80の取付箇所としては、特に限定はされないが、例えば植付部が挙げられる。また、上記以外に例えば整地ロータ100(図12及び図13を参照)や整地ロータ100を支持するためのリンク機構等に超音波センサ80を設けてもよい。なお、超音波センサ80の配置箇所や個数は上記に限られるものではなく、少なくとも1つの超音波センサ80を備えればよい。
そして、制御装置75は、苗植付装置Wの対地姿勢制御を行う対地姿勢制御手段としても機能し、制御装置75は、対地姿勢制御手段としての機能に着目すると、図7に示すように、対地姿勢制御部80を有するものとなっている。対地姿勢制御部80は、超音波センサ80の検出結果に基づいて、苗植付装置Wの対地姿勢制御として、昇降用油圧シリンダ20やローリング用油圧シリンダ83を制御する。具体的には、対地姿勢制御部80は、苗植付装置Wの植付け部を取り付けた超音波センサ80の検出結果に基づいて、苗植付装置Wの植付け部から圃場面84までの距離を特定し、その距離に応じて、苗植付装置Wの昇降制御を行う。つまり、走行機体Cが前傾するなどして苗植付装置Wの植付け部が圃場面84から遠のけば、昇降用油圧シリンダ20を制御してその分苗植付装置Wを下降させ、また、走行機体Cが後傾するなどして苗植付装置Wの植付け部が圃場面84に近づけば、昇降用油圧シリンダ20を制御してその分苗植付装置Wを上昇させて、苗植付装置Wの植付け部から圃場面84までの距離が目標距離を維持できるようになっている。また、対地姿勢制御部81は、各超音波センサ80の検出結果に基づいて、走行機体Cや苗植付装置Wの圃場面84に対する傾斜向きやその角度を特定し、苗植付装置Wのローリング制御を行う。つまり、苗植付装置Wが圃場面84に対して右傾している場合には、ローリング用油圧シリンダ83を制御してその分苗植付装置Wを左方向に回転させ、苗植付装置Wが圃場面84に対して左傾している場合には、ローリング用油圧シリンダ83を制御してその分苗植付装置Wを右方向に回転させて、苗植付装置Wの植付け部が圃場面84に対して平行を維持できるようになっている。
このように、制御装置75は、超音波センサ80の検出結果に基づいて、苗植付装置Wの昇降制御やローリング制御を行うことで、苗植付装置Wの対地姿勢が維持されるようになっている。特に、本実施形態の苗植付装置Wの対地姿勢制御はフロートを用いずに行うものとなっているので、フロートの角度変化に基づく制御により生じうる不都合(制御遅れやフロートによる泥押しや水押しなど)を回避できるようになっている。
図8,9を用いて、苗植付装置Wの対地姿勢制御の概要について説明する。図8は、走行機体Cが前傾・後傾したときに行われる対地姿勢制御を示す。図8の中央の状態が通常の状態であり、そこから地面状態等の影響を受けて、図8左側のように走行機体Cが前傾する場合には、対地姿勢制御部81は対地姿勢制御により前傾に伴って苗植付装置Wを下降させ、また、図8中右側のように走行機体Cが後傾する場合には、対地姿勢制御部81は対地姿勢制御により後傾に伴って苗植付装置Wを上昇させるようになっている。また、図9は、走行機体Cが左傾・右傾したときに行われる対地姿勢制御を示す。図9の中央の状態が通常の状態であり、そこから地面状態等の影響を受けて、図9左側のように走行機体Cが左傾する場合には、対地姿勢制御部81は対地姿勢制御により左傾に伴って苗植付装置Wを右回転させ、また、図8中右側のように走行機体Cが右傾する場合には、対地姿勢制御部81は対地姿勢制御により右傾に伴って苗植付装置Wを左回転させるようになっている。このように、本実施形態によれば、苗植付装置Wの対地姿勢を維持することができる。なお、上述のように、走行機体Cの姿勢を検出することなく、苗植付装置Wに設けられた超音波センサ80により、直接的に苗植付装置Wの対地姿勢を検出することにより、苗植付装置Wの対地姿勢を制御してもよい。また、走行機体Cの姿勢と苗植付装置Wの対地姿勢との両方を検出することにより、苗植付装置Wの対地姿勢を制御してもよい。
〔作土深特定について〕
また、制御装置75は、圃場面84から硬盤85までの深さである作土深を特定する作土深特定手段としても機能し、図7に示すように、作土深特定部82を備えている。作土深特定部82は、超音波センサ80の検出結果に基づいて作土深を特定するようになっている。具体的には、図10に示すように、硬盤85は操舵車輪10や後車輪11が接地する面であり、超音波センサ80の取付箇所から操舵車輪10や後車輪11の接地面までの距離h2は予め知ることができる。そこで、作土深特定部82では、超音波センサ80の検出結果に基づき、超音波センサ80から圃場面84までの距離h1を特定して、作土深をh2−h1により求めるようになっている。なお、このようにして求めた作土深は、例えば、図示しない記憶部に記憶したり、図示しない通信部により管理装置側に送信するなどして、分析に供される。
〔別実施形態〕
本発明は、上述した実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
〔1〕上述した実施形態において、圃場面検出手段として、超音波センサ80を用いた構成を説明したが、上述した実施形態に限定されず、種々の圃場面検出手段を用いることができる。例えば、図11に示すように、超音波センサ80に代えて、圃場面検出手段として、GPSを利用して苗植付装置Wの位置を求める衛星測位装置86を用い、苗植付装置Wの高さ方向の位置変化から、苗植付装置Wの植付け部からの圃場面84の距離を検出し、その距離に応じて対地姿勢制御部81が昇降用油圧シリンダ20を制御して苗植付装置Wを昇降させるようにしてもよい。また、圃場面検出手段として、超音波センサ80と衛星測位装置86との両者を用い、両者の検出・計測結果に基づいて対地姿勢制御部81が苗植付装置Wの対地姿勢制御を行うようにしてもよい。この場合、衛星測位装置86は、例えば苗植付装置Wの上部部分に設けることができる。また、走行機体に備えられた前述の衛星測位ユニット70を圃場面検出手段として用いることができる。なお、衛星測位ユニット70は、前述の設置場以外にも、例えば、ボンネット、センターマスコット14、走行機体Cに設けられた手すり部に設けてもよい。また、走行機体Cに屋根部が設けられる場合は、屋根部や屋根部を支持するためフレーム部に衛星測位ユニット70を設けてもよく、走行機体Cに専用のフレーム部を設けて、当該フレー部に衛星測位ユニット70を設けてもよい。衛星測位装置86と衛星測位ユニット70とは、何れかのみを圃場面検出手段として用いてもよく、併用して圃場面検出手段としてもよい。
また、圃場面検出手段として、超音波センサ80と衛星測位装置86(衛星測位ユニット70)との両者を用い、両者の検出・計測結果に基づいて対地姿勢制御部81が苗植付装置Wの対地姿勢制御を行うようにしてもよい。
また、圃場面検出手段としては、上記以外にも、操舵車輪10、後車輪11、ロータ100(図12及び図13を参照)に設けた複数対の電極であってもよい。例えば、地中に存在する電極対と地上に位置する電極対とにおける電圧値や電流値の相違を利用して圃場面を検出することができる。また、この圃場面検出手段を超音波センサ80や衛星測位装置86(衛星測位ユニット70)と併用してもよい。
〔2〕上述した実施形態では、植播系作業機が作土深特定手段を備えた構成を例に説明したが、上述した実施形態に限定されず作土深特定手段を備えないものとしてもよい。
〔3〕上述した実施形態では特に言及はしなかったが、整地ロータ100を備えてもよい。整地ロータ100は例えば、走行機体Cと苗植付装置Wとの間に設けることができる。整地ロータ100としては、特に限定はされないが、例えば、図12及び図13に示すように、以下の整地ロータ100を備えることができる。
この整地ロータ100は、ロータ本体の外周よりも径方向外側に突出した突起部102aを有する。本実施形態では、突起部102aはロータ本体の周方向で3か所設けられている。突起部102aの数は3つに限られるものではなく2つ以下であってもよく、4つ以上であってもよい。ロータ本体の周方向における突起の数は、好ましくは、2〜4つである。また、周方向に等間隔で突起を配置することが好ましい。
特に限定はされないが、本実施形態では、以下の構成により、整地ロータ100に突起部102aが設けられている。つまり、本実施形態では、整地ロータ100の駆動軸103が断面4角形状のパイプにより構成されている。この駆動軸103に、ロータ本体を構成する複数の整地体101が駆動軸103の長手方向に沿って取付けられている。また、駆動軸103における隣接する整地体101,101同士の間の箇所には、突起部材102が取付けられている。整地体101にはボス部101aが設けられており、ボス部101aを駆動軸103に外嵌することにより、整地体101が駆動軸103に取付けられる。
本実施形態では、突起部材102aは板状部材で構成され、3つの突起部102aと駆動軸103に取付けられるボス部102bとを有する。本実施形態では、突起部材102は頂点をR状にした正三角形の板材で構成され、ボス部102bが形成されている。突起部材102が駆動軸103に取付けられた状態において、突起部材102の3つの頂点がロータ本体(整地体101)の外周よりも外方に突出して突起部102aとして機能する。ボス部102bを駆動軸103に外嵌することにより、突起部材102が駆動軸103に取付けられる。
整地体101のボス部101aの内周は駆動軸103の外周と同じ形状である。また、突起部材102のボス部102bの内周は、駆動軸103の外周と同じ形状である。これにより、駆動軸103の回転に伴い、整地体101及び突起部材102が回転する。なお、突起部材102にボス部を設けずに、単に駆動軸103の外周と同じ形状の内周を有する穴部を形成してもよい。
上述の実施形態では、全ての隣接する整地体101,101同士の間に突起部材102を設けているが、必ずしも全ての隣接する整地体101,101同士の間に突起部材102を設ける構成に限られるものではない。また、突起部材102の形状も上記に限られるものではなく、突起部の形状や個数に応じて適宜変更できる。
上記構成により、突起部102aにより、圃場に存在する藁切れ等の夾雑物を効果的に地中に埋没させることができる。
〔4〕上述した田植機のみならず、本発明は、植播系作業装置として播種作業を行う直播機等を含むその他の植播系作業機に適用可能である。
〔5〕その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。従って、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。