本発明者は、オルガノアルコキシシランから生ずる(シロキサン結合)ガラス皮膜が徐放性の効果を有することを発見して本発明に想到したものであり、本発明は、防腐、脱臭、抗菌、防虫、鳥獣の忌避効果等の効果を持つ木酢油を安定的に保持する基材や方法を提供するものである。図1は本発明の実施形態の一例を示す図である。第1面(上面または表面と呼んでも良い)および第2面(下面または裏面と呼んでも良い)を持つ基材11の第1面および/または第2面上に木酢油を含む液剤(材料)を積層し、第1の層(木酢油を含む層)12を形成する。基材11は、有機系材料または無機系材料、またはこれらの複合材料(積層材や混合材)である。有機系材料は、主として有機物から構成される材料であり、たとえば、プラスチック、樹脂、ゴム、皮、革、布・織物・編物等の布帛、不織布、紙(和紙、用紙、機能紙、一般紙等)・木材・ベニヤ・段ボール等のセルロース系素材、その他各種繊維類が挙げられる。無機系材料は、主として無機物から構成される材料であり、たとえば、金属、半導体、有機物以外の絶縁体、セラミックス、無機繊維等が挙げられる。また、これら有機系材料または無機系材料の多孔質体でも良い。基材11の形状は、板状、角状、棒状、シート状、フィルム状等が挙げられ、この状態で破壊せずには変形できないものや変形可能なものも含まれる。変形可能な例として、たとえば紙・布等のシートやフィルムのように折り曲げたり、丸めたりできるものが挙げられる。基材の厚さは特に限定されないが、シート状やフィルム状の場合にはたとえば5μm~5mm、板状の場合にはたとえば50μm~100mmである。また木材の第1面・第2面の面積は特に限定されず、任意の大きさを選択できる。
本発明で用いる木酢油について説明する。木材(おが屑や廃材等も含む)や植物を高温(たとえば、400℃~500℃の温度)で熱分解すると、木ガス、水溶性の木酢液、植物タールまたは木タールが得られる。この植物タールまたは木タールを常圧下または減圧下(たとえば、1000Pa~10000Pa)で加熱して(たとえば、30℃~200℃の温度)蒸留精製すると、木酢油が得られる。また植物タールまたは木タールを常圧・常温下で長時間(たとえば、数日)蒸留しても木酢油を得ることができる。木酢油にはクレオソートに相当する成分(たとえば、フェノール性化合物)が多く含まれており、またそれ以外の種々の成分も混入されており、木酢油は、防腐のみならず、脱臭剤、防ばい剤(防カビ剤)、防虫剤、防蟻性、抗菌、抗真菌、鳥獣の忌避の各作用を有する。(特許文献1、非特許文献1)尚、青森ヒバ等のヒバ材から水蒸気蒸留で抽出したヒバ油も本発明で使用する木酢油に含まれる。ヒバ油は、ヒノキチオール、β-ドラブリン、カルバクロール、セドロール、トリメチルナフタレン、シトロネール酸等の成分が含まれる。(非特許文献2)
木酢油を含む液剤は、木酢油単独の液剤、木酢油と有機系溶剤を加えたものや、これらそれぞれにさらに水、およびまたは酸、およびまたはアルカリを加えたものである。有機系溶剤として、たとえば、エタノール、ポリビニールアルコール等のアルコール類、炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類等が挙げられる。また、これらに乳化剤等他の物質・液剤を加えても良い。一例として、木酢油(10wt%)、乳化剤(20wt%)、エタノール(10wt%)、水(60wt%)を混合して、エマルジョン型の微粒子化したものを使用できる。また、別の例として、ヒバ油(10wt%)、乳化剤(2wt%)、ポリビニールアルコール(6wt%)を混合して水溶化したエマルジョン型ヒバ油やヒバ油(10wt%)、乳化剤(20wt%)、エタノール(20wt%)、水(50wt%)を混合して水溶化したエマルジョン型ヒバ油を使用できる。
本発明で用いる木酢油を含む液剤(材料)には、さらに、たとえば、天然または合成香料を含む。木酢油は特有の臭気を放つので、これらの天然または合成香料を含むことにより、木酢油の上記効果を減ずることなく、木酢油の臭気を隠して人間に好ましい臭いにすることができる。使用される天然または合成香料としては、レモングラス油、シトロネラ油、タイム油、スターアニス油、クローブ油等の天然精油、シトラール、シトロネラール、アネトール、アニスアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド等の合成香料等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
基材11上に木酢油を含む液剤を積層して木酢油を含む層12を形成する方法として種々の方法がある。たとえば、基材11を木酢油(または木酢油を含む液剤)に浸漬(ディップ)する方法がある。この場合、基材11の周囲に木酢油が付着する。基材11が図1に示すような板状の場合は、上面(第1面や表面と称しても良い)および下面(第2面や裏面と称しても良い)および側面に付着するが、付着したくない部分や面をカバーテープ等で被って、浸漬後にカバーテープを取り外せば、所望の部分や面に木酢油を含む層を形成できる。
あるいは、基材11の所定面(図1では上面)上に木酢油(または木酢油を含む液、以下同様)をハケ(刷毛)や筆等を使って塗布(コート)する方法がある。あるいは、スピンコーターに基材11を載せて基材11をスピンコーターで真空吸引して基材11を固定し、基材11の所定面(図1では上面)上に所定量の木酢油を垂らした後に、スピンコーターで基材11を回転させて、基材11の所定面(図1では上面)に木酢油を均一に塗布することができる。(スピンコーター法)あるいは、回転ローラーやスキージを使って基材11の所定面(図1では上面)上に木酢油の層を均一に形成できる。(ローラー法、スキージ法)あるいは、木酢油を細かい液滴や霧状にして散布したり吹き付けたりして、基材11の所定面(図1では上面)上に木酢油の層を形成できる。(スプレー法、散布法、吹き付け法)上記以外にも種々の方法で基材11の所定面(図1では上面)上に木酢油の層を形成することもできる。
基材11上の木酢油を含む層12の厚さは、基材の厚みにもよるが、たとえば1μm~5mmであるが、これに限定されない。上記の方法により所定量または所定厚みの木酢油を含む層12が形成できない場合は、上記の方法を繰り返し用いたり、または上記の方法を組み合わせたりすることによって、木酢油を含む層12を形成することができる。基材11がシートやフィルム状等の場合で変形しやすい基材の場合は、上記に示した浸漬法やハケ・筆等による塗布法を用いたり、ローラー法やスキージ法やスプレー法等を用いたりするのが良い。
基材11上に木酢油を含む層12を形成した後に、熱処理や自然乾燥や真空乾燥等の方法により木酢油を含む層12の液状部分を蒸発・気化または木酢油を含む層12に含まれる物質・材料を化学反応させて木酢油を含む層12を固化させる。木酢油を含む層12は常温でも長時間乾燥により固化するが、たとえば50℃~130℃の温度において短時間(たとえば、30分~2時間)で固化できる。基材11が高温で変形等しなければ、上記以上の温度での熱処理を行なうこともできる。また、木酢油を含む層12上にオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を積層した後に、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を固化する熱処理や乾燥処理があるので、木酢油を含む層12を完全に固化する必要はなく、液状部分が一部残っていても良い。たとえば、木酢油を含む層が粘つく程度の状態でも良い。すなわち、木酢油を含む層12は反固化状態もしくはゲル状等の状態でも良い。
基材11が紙、木材、布、繊維等、多孔質セラミック(たとえば、シリカゲル、活性白土、活性炭、ゼオライト、アルミナ、炭化ケイ素、ジルコニア)等である場合は、それらは多孔質体であるため、木酢油の一部または全部が紙や繊維等の内部に浸透し、その内部で固化する。(これを図1(b)の破線矢印14で示す。これを含浸とも言う。)従って、木酢油を含む層12は基材11と強固に付着する。また木酢油の成分と基材11が化学的に結合する場合にも基材11と強固に付着する。木酢油を含む層12が基材11へ浸透する場合は、木酢油を含む層12が固化・乾燥後は、木酢油を含む層12の厚みは非常に薄いか、殆どなくなっている場合もある。その場合でも本発明の技術的範囲に含まれる。
基材11が金属やプラスチック等のような木酢油が浸透しにくいものであれば、木酢油と基材11との結合力は主に物理的力によるものであるため、木酢油と基材11との密着性は比較的弱い。密着性が弱い場合は、木酢油を含む液に金属等との密着性を高める接着材料を混合すれば良い。接着材料として、たとえば、ポリビニールアルコール系接着剤、酢酸ビニール系接着剤、アクリル系接着剤、塩化ビニール系接着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
所定量または所定厚みの木酢油を含む層12を形成するために、木酢油を含む層を重ねて積層する場合、その間に適当な熱処理工程や乾燥工程を加えることもできる。すなわち1回目の木酢油を含む層を形成した後に、加熱処理(たとえば、乾燥炉(温度は、たとえば50℃~130℃、雰囲気は、たとえば窒素や空気、または加圧または減圧下、処理時間1分~2時間)や自然乾燥を行なった後に、2回目の木酢油を含む層を形成する。必要ならこれらを繰り返し、所定量または所定厚みの木酢油を含む層12を形成する。この木酢油を含む層の形成と熱処理の繰り返しサイクルにより、基材11と木酢油を含む層12との密着性も向上させることができる。木酢油を含む層を重ねて積層する場合に用いる熱処理や乾燥処理においては、木酢油を完全に固化する必要はなく、液状部分が一部残っていても良い。たとえば、木酢油を含む層が少々粘つく程度の状態でも良い。
所定量または所定厚みの木酢油を含む層12を形成し、木酢油を含む層12を固化する熱処理や乾燥処理を行なった後に、木酢油を含む層12上にオルガノアルコキシシラン系液剤(を含む液剤)を積層し、第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)13を形成する。オルガノアルコキシシラン系液剤は、(a)オルガノアルコキシシラン類、その加水分解物、およびその重縮合物の群から選ばれた少なくとも1種を主成分として含む。
(a)オルガノアルコキシシラン類としては、式(1);R1 Si(OR2 )3 (式中、R1 は炭素数1~8の有機基、R2は同一または異なり、炭素数1~5のアルキル基および/または炭素数1~4のアシル基を表す)で表されるオルガノアルコキシシラン(以下「オルガノアルコキシシラン(1)」ともいう)、その加水分解物、あるいはその重縮合物が挙げられる。(a)成分は、エマルジョン(コロイド状も含む)でも、溶剤系でもよい。
また、(a)オルガノアルコキシシラン類には、式(2);R1
2
Si(OR2)2(式中、R1 は同一または異なり、炭素数1~8の有機基、R2は同一または異なり、炭素数1~5のアルキル基および/または炭素数1~4のアシル基を表す)で表されるオルガノアルコキシシラン(以下「オルガノアルコキシシラン(2)」ともいう)、その加水分解物、あるいはその重縮合物を(a)成分中、50重量%以下程度併用することができる。
オルガノアルコキシラン類は、水の存在により酸またはアルカリの存在下もしくは非存在下で加水分解および重縮合して高分子量化するものであり、その塗膜は加熱下または常温下で硬化する。オルガノアルコキシシラン類の加水分解触媒となる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸なとどが挙げられる。また、加水分解触媒となる塩基としては、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。なお、これらの通常の触媒を用いる場合には、加水分解の際に、反応水を共存させる。
オルガノアルコキシシラン(1)は、前記式中のR1 が炭素数1~8の有機基、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基などのアルキル基、そのほかγ-クロロプロピル基、ビニル基、3,3,3-トリフロロプロピル基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-メタクリルオキシプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、フェニル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基、γ-アミノプロピル基などであり、また式中のR2 は同一または異なり、炭素数1~5のアルキル基および/または炭素数1~4のアシル基、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、アセチル基などである有機シラン化合物である。
これらのオルガノアルコキシシラン(1)の具体例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルエトキシシラン、γ-アミノプロピルメトキシシラン、γ-アミノプロピルエトキシシランなどを例示できる。
これらのオルガノアルコキシシラン(1)は、1種の単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。好ましくは、メチルトリメトキシシランおよび/またはメチルトリエトキシシランを使用する。また、(a)成分としては、このオルガノアルコキシシランを、あらかじめ酸またはアルカリの存在下もしくは非存在下で加水分解した加水分解物、該加水分解物をさらに熟成して重縮合した重縮合物を使用することもできる。重縮合の度合いとしては、2~10分子程度の重縮合体が挙げられる。
(a)成分を構成するオルガノアルコキシシラン(2)の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシランなどや、これらの化合物の2~10分子程度の重縮合体を例示することができる。オルガノアルコキシシラン(2)の使用量は、(a)成分中に50重量%以下程度であり、50重量%を超えると、オルガノアルコキシシラン(1)とうまくシロキサン結合が生成せず好ましくない。オルガノアルコキシシラン(2)の使用量は、(a)成分中に、50重量%以下、好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは10~30重量%程度ある。(a)成分中に、オルガノアルコキシシラン(2)を併用すると、得られる塗膜に柔軟性を付与することができる。
本発明の(a)成分は、オルガノアルコキシシラン類を水の存在下で、加水分解触媒として、酸や塩基などを用いて、加水分解、重縮合させるから、得られる(a)成分は、オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、その重縮合物の混合物となり、反応水と生成するアルコール類の混合系であって、その形態は、溶剤系、エマルジョン、もしくはコロイド状である。本発明の(a)成分は、オルガノアルコキシシラン類を水の存在下で、加水分解触媒として、酸や塩基などを用いて、加水分解、重縮合させるから、得られる(a)成分は、オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、その重縮合物の混合物となり、反応水と生成するアルコール類の混合系であって、その形態は、溶剤系、エマルジョン、もしくはコロイド状である。
(a)成分の加水分解、重縮合には、有機金属化合物を用いることもできる。この例示としては、例えばチタン、ジルコニウム、アルミニウムあるいはスズの錯体であり、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタネート、テトラプロポキシジルコネート、テトラブトキシジルコネート、トリプロポキシアルミネート、アルミニウムアセチルアセトナート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどが挙げられる。
オルガノアルコキシシラン系液剤は、親水性有機溶剤を含んでも良く、この親水性有機溶剤は(a)オルガノアルコキシシランの加水分解調整剤として使用する。ここでの親水性有機溶剤は、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランの加水分解で生成するアルコールも含む。本発明で使用する親水性有機溶剤は、アルコール類、グリコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類などである。アルコール類としては、炭素数1~8の脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-n-ペンタノールなどが挙げられる。グリコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールが挙られる。エステル類としては、前記アルコール類およびグリコール類のギ酸、酢酸、プロピオン酸などのエステル、具体的にはギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチルなどを例示できる。
エーテル類として、前記アルコール類およびグリコール類のアルキルエーテルなど、具体的にはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、アセトフェノンなどが挙げられる。
オルガノアルコキシシラン系液剤中の親水性有機溶剤の配合割合は、たとえば、10~60重量%、好ましくは10~20重量%である。有機溶剤の配合割合が、10重量%未満では液の粘度が上昇しすぎ、保存安定性が低下し、一方60重量%を超えると保存安定性は向上するものの、コート液中の固形分濃度が小さくなり得られる塗膜の乾燥速度および加水分解速度が低下し、硬化に長時間を要するので好ましくない。
オルガノアルコキシシラン系液剤には、(a)オルガノアルコキシシランの加水分解剤として水(H2O)が含まれる。この水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、基材内水分内OH成分を使用できる。また、(a)アルキルアルコキシシランの加水分解により生成する水も包含される。また、空気中の水分を利用する場合もある。オルガノアルコキシシラン系液剤中の水の配合割合は、たとえば2~50重量%であり、好ましくは5~20重量%である。水の配合割合が、5重量%未満では、(a)オルガノアルコキシシランの加水分解が十分に生起し難く、一方50重量%を超えるとコート液の安定性が低下し、また塗膜の乾燥速度が低下するので好ましくない。
また、オルガノアルコキシシラン系液剤には、その他の充填材を配合することもできる。これらの他の充填材としては、例えば有機顔料もしくは無機顔料などの非水溶性の一般的な顔料または顔料以外の粒子状もしくは繊維状の金属および合金ならびにこれらの酸化物、水酸化物、炭化物、窒化物、硫化物の1種または2種以上のものである。具体的には鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、亜鉛、フェライト、カーボンブラック、ステンレス鋼、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、合成ムライト、ジルコン(ケイ酸ジルコニウム)、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化銅、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化セリウム、酸化バリウム、酸化アンチモン、水酸化クロム、モリブデン赤、モリブデン白、マンガンバイオレット、紺青、エメラルドグリーン、タングステンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明のオルガノアルコキシシラン系液剤中には、上記のように、酸を添加することが好ましい。酸は、コート液のpHを7未満の酸性領域に調整し、(a)成分の加水分解を促進するとともにコーティング後の塗膜の硬化促進の働きをするものである。この種の酸としては、硝酸、塩酸などの無機酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、マレイン酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、グリコール酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸を挙げることができる。これらの酸のうち、特に酢酸が好ましい。これらの酸は、1種または2種以上を併用することができる。酸の組成物中の配合割合は、オルガノアルコキシシラン系液剤中、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランに対し、たとえば0.1~1重量%程度である。これにより、コート液のpHを7未満、好ましくは3.5~5.5に調整することが可能となる。酸の含有量が、0.1重量%未満では(a)オルガノアルコキシシランの加水分解およびコーティング後の塗膜の硬化が充分でなくなり、一方1重量%を超えると塗膜になったとき残存酸が多くなり好ましくない。
さらに、本発明のオルガノアルコキシシラン系液剤には、各種界面活性剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、金属アセチルアセトネート、またナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸などのアルカリ金属塩、チヌビン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などの安定剤などの従来公知のその他の添加剤を添加することもできる。また、木酢油が放つ独特の臭気を緩和する消臭剤や心地良い臭いを出して木酢油が放つ独特の臭気をマスキングする芳香剤を加えることもできる。前記成分および必要に応じて酸などの添加剤を含み、そのpH7未満の酸性領域での固形分濃度が10~40重量%、好ましくは10~30重量%のエマルジョンあるいはコロイダル状の液状組成物である。固形分が10重量%未満では、1回の塗布で十分な厚さの塗膜が得られず作業性が悪化したり、塗膜強度が低すぎたりし、一方40重量%を超えるとゲル化し易く粘度が上昇し、密着性が悪化し、さらには均一な膜厚の塗膜が得られ難くなり好ましくない。本発明のオルガノアルコキシシラン系液剤は、例えば溶液系、あるいはエマルジョン系もしくはコロイド状の(a)成分(親水性有機溶剤や水を含む)に、必要に応じて酸成分や他の充填剤を加え、ロールミル、ボールミル、攪拌機などを用いて十分に分散させて調製することができるが、この調製方法に限定されるものではない。
オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層の積層は、第1の層(木酢油を含む層)12を積層する方法と同様に、スピンコート、刷毛塗り、スプレー、散布、吹き付け、ディッピング、ロールコート、印刷、スキージなどの塗布手段を用いることができる。1回の塗布で所定量または所定厚みのオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層を形成できないときは、複数回の塗布または積層を行なっても良く、その場合、上記塗布方法を組み合わせて使用することもできる。また重ね塗布の場合、1回毎、または複数回毎に加熱処理および/または乾燥処理を行なっても良い。加熱処理は、不活性ガス(たとえば、窒素、アルゴン等)や空気雰囲気で、減圧下・加圧下・常圧下で、50℃~200℃で5分~120分間程度行なうのが良く、また常温乾燥の場合は、1~6日間の放置で良い。重ね塗布の場合における中間熱処理・中間乾燥処理では、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層は充分に固化しなくても良く、最終熱処理で充分に固化すれば良い。尚、最終熱処理でも固化が不十分でも自然放置でオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層を十分に固化することもできる。また、用途によってはオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層は十分に固化しなくても良い場合もある。また、木酢油を含む層12の状態(厚み、量、固化程度等)やオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層の状態(厚み、量、固化や液化程度等)、あるいは製造条件や作業条件等によって適宜変更することができる。このように、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層は熱処理・乾燥処理を行なうと、シロキサン反応により(3段階の反応式(i)Si-OR+H2O→Si-OH+ROH、(ii)Si-OH+HO-Si→Si-O-Si+H2O、(iii)Si-OH+RO-Si→Si-O-Si+ROH)固化し、ガラスの基本骨格であるシロキサン結合が生成され、(すなわち、シロキサンネットワークポリマーが形成され)、硬化層13が形成される。(特許文献2)
オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を熱処理後または乾燥後は、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13は木酢油を含む層12を被覆するように固化する。木酢油が充分に固化せずにオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を積層し熱処理・乾燥した場合は、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層にも木酢油を含む層が浸透し、混然一体となる場合もある。たとえば、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層に生じる気孔に木酢油を含む層が浸透して固化する。そのような場合でもオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層(絶処理後または乾燥後において液状部分は殆どなくなるが、便宜上同じ名称で記載する)は木酢油を含む層の一部または全部を被覆する。
木酢油を含む層12が被覆されていない場合は、木酢油の有効成分が外側(大気中)へ出ていき、木酢油の有する効果が比較的短時間に消失していく。これに対して、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13で木酢油を含む層12を被覆した本発明の場合は、図1(b)の破線矢印15で示すように、木酢油の有効成分が気化し徐々にオルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層13を通して外側(大気中)へ出て行くので、木酢油の効果が同程度で長期間持続する。すなわち、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層13が固化しても、この層13は微細な間隙(以下、気孔と称する)を通して通気性が働いて木酢油の有効成分が徐々に出て行く。換言すれば、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層により木酢油の効果の徐放性を有する。または、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を積層し熱処理・乾燥する工程で、浸透性の強いオルガノアルコキシシラン系液剤が木酢層を包み込み薄膜を形成する。すなわち、オルガノアルコキシシラン系液剤が重縮合等して生成したシロキサン結合したガラス薄膜の内側に木酢油を保持した状態となる。その薄膜の気孔から木酢油の有効成分が気化し徐々に外側(大気中)へ放出する。従って、木酢油の効果を発揮する用途製品の寿命を大幅に延ばすことができる。
木酢油を含む層12は比較的脆い層であるから機械的衝撃に弱いが、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13は固化後ガラス質のシロキサン結合を有するので強固であり耐熱性や耐摩耗性や強度や硬度が大きく強靭であるので、木酢油を含む層12を機械的に保護するという効果もある。また、木酢油を含む層12は酸、アルカリ、水等の影響を受けやすいが、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13は固化後ガラス質のシロキサン結合を有するので耐環境性(耐光性、耐熱性、難燃性、撥水性、耐水性、耐酸性、耐酸化性等)も優れている。従って、図1に示す本発明の構造は木酢油を含む層12をシロキサン結合のガラス質層13で被覆しているので、長期間の使用でも劣化が小さく製品の長寿命化を実現できる。このように本発明は、木酢油単独では得られない、徐放性、強靭化、難燃性を得ることができる。
図2は、本発明の別の実施形態を示す図であり、第1面(表面または上面とも記載)および第2面(裏面または下面とも記載)を持つ基材11の第1面および/または第2面上に木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料からなる層(混合層ともいう)16を積層する。すなわち、木酢油を含む液剤とオルガノアルコキシシラン系液剤との混合液を作成し、図1で説明したものと同様に、その混合液をスピンコート、刷毛塗り、スプレー、吹き付け、ディッピング、ロールコート、印刷、スキージなどの塗布手段により、基材11の面上に積層し、木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料からなる層16を形成する。基材、木酢油を含む液剤およびオルガノアルコキシシラン系液剤は図1で説明したものと同様で良い。あるいは、木酢油単独をオルガノアルコキシシラン系液剤に混ぜた後に木酢油を含む液剤に含まれる成分を添加することもできる。あるいは、オルガノアルコキシシラン系液剤中の(a)成分を木酢油または木酢油を含む液剤に混ぜた後にオルガノアルコキシシラン系液剤中に含まれる成分を添加することもできる。
木酢油を含む液剤とオルガノアルコキシシラン系液剤との混合液における割合は、使用目的に応じて木酢油の効果や寿命等を最適化する組合せで適宜選択すれば良い。木酢油の臭いは、強ければ鳥獣の忌避剤としての効果を持ち、薄ければ杉の香りを漂わせて天然木の新建材を思わせる。一方、抗菌性目的の場合、たとえば、木酢油を含む液剤を10wt%~30wt%、オルガノアルコキシシラン系液剤を残余分とした混合液を使用する。混合液は撹拌等して充分混ぜ合わさるようにするのが良い。混合層16の厚みは、木材の厚さにもよるが、たとえば1μm~5mmである。1回の塗布で所定量または所定厚みの塗布層16を形成できないときは、複数回に分けて重ねて塗布層16を形成することもでき、その間および/または最後に加熱・乾燥処理を行なっても良い。加熱処理は、たとえば50℃~130℃、雰囲気は窒素、不活性ガス、空気であり、圧力は加圧、常圧、減圧で、時間は10分~1日で行なうことができる。重ね形成の場合の途中熱処理では塗布層を固化しても良いし、固化がやや不十分な状態でも良い。また、1日~1週間の自然乾燥を行なうこともできる。基材の変形温度が高い場合は、上記温度より高くすることもでき、短時間処理が可能となる。最終熱処理および最終処理により混合層は充分に固化することが望ましいが、用途によっては固化が十分でなくても良い。
これらの混合液では、混合液の状態すなわちミクロな状態で木酢油がオルガノアルコキシシラン系液剤により被われた状態になっていると考えられる。基材11が多孔性の繊維等である場合は、混合液の一部はそれらの孔を通して繊維11の内部に浸透して固化する。(図2(b)の破線矢印18で示す。)従って、混合液による固化層16は基材11の内部と基材11の表面に形成される。このため基材11の表面に形成される混合液による固化層16は基材11との密着性が良い。すなわち、木酢油を含む層が単独では基材11との密着性が比較的弱いが、混合層の場合はそれよりも密着性が良いので、基材からの剥離を防止できる。
基材11の表面に形成される混合液による固化層16中の木酢油からの臭気や効果物質等は固化層16から徐々に外側(外部環境)に出ていく。(図2(b)の破線矢印17で示す。)木酢油を含む層を単独で形成したときは、木酢油からの臭気や効果物質等は速やかに外側(外部環境)へ出ていき、その効果が短時間で失われるが、混合液による固化層16の場合は木酢油からの臭気や効果物質等が徐々に出ていく(オルガノアルコキシシランによる徐放性)ので、木酢油による効果が長期間持続する。また、木酢油からの臭気も弱いので人間に不快さを与えない。基材11の内部に混合液が浸透し固化した場合には、基材11の内部からの木酢油からの臭気や効果物質等も固化層16に存在する微細な気孔(これはオルガノアルコキシシランが固化するときに形成される)を通して出て来るので、さらに長期間木酢油による効果が持続する。また、木酢油を含む層が単独では比較的脆弱であるが、オルガノアルコキシシラン類が固化したオルガノポリシロキサンは強固な膜であるから、混合層による固化層16も強固となり外部からの衝撃等に対しても強い。さらに、オルガノポリシロキサンの層は酸やアルカリ、水分等に対しても耐性があるので、耐環境性も優れている。尚、混合層16上にさらにオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層13を形成することもでき、木酢油からの臭気をさらに緩和し、また木酢油による効果をさらに長期間保持できる。また、機械的衝撃に対しても強く、耐環境性も良く、製品の寿命も長くなる。
図1および図2に示した木酢油を含む層およびオルガノアルコキシシラン系液剤を積層した層を基材の用途例について説明する。木材、紙、布等の繊維、プラスチック、金属、ゴム等で作製したシートやフィルムをビルや家屋・トイレの壁・床・天井の一部または全体に貼り付けておいたり、木材・セラミック・の柱や壁材で家屋を建築すれば、防虫効果があるので蚊・ゴキブリ等の害虫やネズミ等を排除でき快適な生活をエンジョイできる。病院等の壁材や壁紙等に使用することもできる。木酢油の臭気等は前述したように、オルガノアルコキシシラン系液剤の層(オルガノシロキサン層)の徐放性により緩和されるとともに、芳香材料の添加をすれば、より好ましい香りとすることもできる。また、防腐効果もあるので壁材・床材等の劣化も防止できる。このように本発明は基材上に形成した木酢油を含む層をオルガノアルコキシシラン系液剤の層(オルガノシロキサン層)が被覆しているので、木酢油の効果を長期間維持できる。また、包装紙に本発明を用いて、たとえば食品(肉、魚等含む)を本発明の包装紙で包んで保管しておけば、木酢油の持つ防虫・防菌・防蟻・防腐、等の効果により、長期間食品を保存できる。病院においては、多くの人が触れる扉や取っ手に木酢油を含む層およびオルガノアルコキシシラン系液剤を積層した布カバーや壁紙を据え付けることで、木酢油の抗真菌性によって感染症の伝染を防止できる。又、災害時の仮設住宅やテントなどに木酢油を含む層およびオルガノアルコキシシラン系液剤を積層した建材、段ボール、布を使用することで、撥水効果が高く、防虫、防カビ性の高い設備を提供できる。特に防虫効果は、蚊やダニなどの害虫によって蔓延するマラリアや熱帯病の多い地域の住宅での病気予防に非常に役立つ。また、病院のベッドマットカバーやペットの小屋の床に使用することで、抗菌等の効果以外に濡れとかび対策にもなる。鳥獣の忌避材として、家屋への狸・ハクビジン・カラス等の鳥獣に関しても、本発明を家屋や門の外壁等に使用したり、田畑等でかかし等に用いたりすることによって、これらの鳥獣を寄せ付けないようにすることもできる。畳のダニの発生や、カビの発生も防護できる。
家屋のコンクリート等の基礎上に使用される土台である木材(横材等)および/または基礎そのものに本発明を適用する。本発明は防虫・防蟻・防腐等の効果が長期間維持できるので、家屋の寿命を延ばすことができる。尚、木材の木口や木材の一部に本発明を適用する場合は、刷毛塗りや浸漬(ディッピング)や吹き付け等が作業性は良い。木材、紙、布等の繊維、プラスチック、金属、ゴム等で作製したシートやフィルムを裁断して袋等に入れて、腰等に付けて持参すれば、農作業や山歩きや散策時等で蚊等の虫よけに効果を発揮できる。また果樹園や森林の枝や幹等にこの袋等を配置しておけば、害虫や病原菌等に侵されることも防止できる。またこれらの裁断し細かくした細片を散布して(たとえば、砂や土と混ぜたり、肥料等や散布水と混ぜて)畑の土壌に混入することにより、野菜等に虫や病害菌等が付かず、野菜等の成長を促進できる。木材、紙、布等の繊維、プラスチック、金属、ゴム等で作製したシートやフィルムを張り付けた洋服や、木材、紙、布等の繊維、プラスチック、金属、ゴム等で作製したシートで作製した洋服や作業服にすれば、農作業や山歩きや散策時等で蚊等の虫よけに効果を発揮できる。本発明品は雨等により木酢が流されることがなく長期間外部環境で使用して木酢油の効果を長期間持続できる。本発明は基材上に形成した木酢油を含む層をオルガノアルコキシシラン系液剤の層(オルガノシロキサン層)が被覆しているので、洗濯等しても構造変化はなく、通常の洋服と同様な取扱いや洗濯等の処理も可能である。また納戸やトイレ等に袋等を配置しておけば、木酢油は防臭・消臭効果もあるので、納戸やトイレ等の臭いもなくなる。
図3は、本発明の別の実施形態を示す図であり、略球状の物質(基材)21に本発明を適用したものである。すなわち、図3(a)に示すように、略球状の物質21の周囲(一部または全体)に木酢油を含む液剤を積層した第1の層22を形成する。所定の厚みまたは所定量の木酢油を含む液剤を形成するために重ねて積層することもできる。第1の層(木酢油を含む層)22を積層した後に熱処理や乾燥処理を行ない、第1の層(木酢油を含む層)22を固化する。重ねて積層(重ね塗りなど)する場合もその都度熱処理することもできる。この後で、第1の層(木酢油を含む層)22上、すなわち第1の層(木酢油を含む層)22の周囲(一部または全体)にオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層を積層し、第2の層23を形成する。第2層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)は第1の層(木酢油を含む層)22の一部または全体を被覆している。この後熱処理や乾燥処理を行ない、第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)23を固化する。このとき、第1の層(木酢油を含む層)22の固化が不十分であっても、第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)23の熱処理や乾燥処理で固化が進む。尚、用途によっては、第1の層(木酢油を含む層)22および/または第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)23の固化が十分でなくても良い。すなわち、一部または全部が半固体状態や液状化(ゲル状態なども含む)していても良い。
基材の種類、木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の構成、各種熱処理・乾燥条件などは、図1および図2で説明したものと同様である。基材21の形状は略球状(球状または球状に近い形状)と記載しているが、略楕円体状(楕円体状または楕円体状に近い形状)でも良いし、曲面が凸凹でもザラザラ状態でも良い。あるいはたとえば、略角体(立方体、直方体、任意の角状体、それらに類似するものなど)でも良く、あるいは上記の形状の組合せ形状でも良い。基材21の大きさは用途に合わせて種々選択できる。たとえば、直径1mm~10mmの粒状体やパチンコ玉状体・ピンポン玉状体・ボーリング用ボール状体等が挙げられる。このような略球状基材21の周囲に第1の層(木酢油を含む層)22や第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)23を形成する方法として、浸漬法(ディッピング)が簡単である。たとえば、木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の溶液中に略球状基材21を浸漬すれば、略球状基材21の周囲に木酢油を含む層やオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層が容易に付着(塗布)する。あるいは、一定深さ(基材21の大きさより小さい)の木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の溶液に基材21を入れて、基材21を転がせば基材21の周囲にこれらの層が形成できる。あるいは、吹き付け法により基材21の周囲(一部または全部)にこれらの層を形成できる。
図3(b)は、略球状体の基材21の周囲(1部または全部)に木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料からなる層(混合層ともいう)25を形成したものである。この混合層25を形成後、熱処理・乾燥処理を行ない、混合層25を固化する。尚固化後も木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料からなる層(混合層ともいう)25と呼ぶ。混合層25は充分固化された状態でも良いし、用途によっては固化が十分でなくても良い。すなわち、一部または全部が半固体状態や液状化(ゲル状態なども含む)していても良い。基材の種類・形状・大きさ等、木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料、熱処理・乾燥処理の条件、基材への形成(塗布)方法、厚み等などについては、図1および図2および図3(a)で説明した内容と同様である。
図3で示したような本発明の略球状体は、たとえば多数の粒状または粉状のものを匂い袋等に入れて防虫袋として利用できる。また、畑などへ本発明の略球状体を撒けば防虫・防蟻等の効果が長期間持続し、植物の育成を保護できる。木酢油は雨水等に洗い流されて短時間でその効果を失うが、本発明の略球状体は木酢油の層を耐環境性に優れたシロキサンで被覆しているので、雨水等に洗い流されることなく土中に長期間とどまり、木酢油の効果を長期間発揮する。すなわち、植物の種まき前後に本発明の略球状体を1度撒けば、植物の育成期間中は木酢油の効果を持続し、植物の育成を保護する。
図4は本発明の別の実施形態を示す図であり、複雑な形状の物質(基材)31に本発明を適用したものである。すなわち、図4(a)に示すように、複雑形状の物質(基材)31の周囲(一部または全体)に木酢油を含む液剤を積層した第1の層32を形成する。所定の厚みまたは所定量の木酢油を含む液剤を形成するために重ねて積層することもできる。第1の層(木酢油を含む層)32を積層した後に熱処理や乾燥処理を行ない、第1の層(木酢油を含む層)32を固化する。重ねて積層(重ね塗りなど)する場合もその都度熱処理することもできる。この後で、第1の層(木酢油を含む層)32上、すなわち第1の層(木酢油を含む層)32の周囲(一部または全体)にオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層を積層し、第2の層33を形成する。第2層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)33は第1の層(木酢油を含む層)32の一部または全体を被覆している。この後熱処理や乾燥処理を行ない、第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)33を固化する。このとき、第1の層(木酢油を含む層)32の固化が不十分であっても、第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)33の熱処理や乾燥処理で固化が進む。尚、用途によっては、第1の層(木酢油を含む層)32および/または第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)33の固化が十分でなくても良い。すなわち、一部または全部が半固体状態や液状化(ゲル状態なども含む)していても良い。
基材の種類、木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の構成、各種熱処理・乾燥条件などは、図1および図2および図3で説明したものと同様である。基材31の形状は複雑形状と記載したが、任意の閉空間を構成する形状と考えることができる。当然、図1~図3で示した実施形態は図4で示す実施形態に含まれると考えることができる。たとえば、綿状、石ころや砂粒のような形状、角ばった形状、星型形状、ビン形状、顆粒状、粉末状等の各種粒形状、その他様々な形状が含まれ、図3で説明した略球状形状も含まれる。基材31の大きさは用途に合わせて種々選択できる。たとえば、直径1mm~10mmの粒状体やパチンコ玉状体・ピンポン玉状体・ボーリング用ボール状体等程度の大きさが挙げられる。このような複雑形状基材31の周囲に第1の層(木酢油を含む層)32や第2の層(オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層)33を形成する方法として、たとえば、浸漬法(ディッピング)が簡単である。たとえば、木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の溶液中に基材31を浸漬すれば、基材31の周囲に木酢油を含む層やオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層が容易に付着(塗布)する。あるいは、一定深さ(基材31の大きさより小さい)の木酢油を含む液剤やオルガノアルコキシシラン系液剤の溶液に基材31を入れて、基材31を転がせば基材31の周囲にこれらの層を形成できる。あるいは、吹き付け法により基材31の周囲にこれらの層を形成できる。
基材31が紙、木材、布、繊維等、多孔質セラミック(たとえば、シリカゲル、活性白土、活性炭、ゼオライト、アルミナ、炭化ケイ素、ジルコニア)また、ホタテ貝殻等である場合は、それらは多孔質体であるため、木酢油の一部または全部が紙や繊維等の内部に浸透し、その内部で固化する。(これを図4(b)の破線矢印34で示す。これを含浸とも言う。)従って、木酢油を含む層32は基材31と強固に付着する。また木酢油の成分と基材31が化学的に結合する場合にも基材31と強固に付着する。木酢油を含む層32が基材31へ浸透する場合は、木酢油を含む層32が固化・乾燥後は、木酢油を含む層32の厚みは非常に薄いか、殆どなくなっている場合もあるが、その場合でも本発明の技術的範囲に含まれる。
基材31が金属やプラスチック等のような木酢油が浸透しにくいものであれば、木酢油と基材31との結合力は主に物理的力によるものであるため、木酢油と基材31との密着性は比較的弱い。密着性が弱い場合は、木酢油を含む液に金属等との密着性を高める接着材料を混合すれば良い。接着材料として、たとえば、ポリビニールアルコール系接着剤、酢酸ビニール系接着剤、アクリル系接着剤、塩化ビニール系接着剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
木酢油を含む層32が被覆されていない場合は、木酢油の有効成分が外側(大気中)へ出ていき、木酢油の有する効果が比較的短時間に消失していく。これに対して、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層33で木酢油を含む層32を被覆した本発明の場合は、図4(b)の破線矢印35で示すように、木酢油の有効成分がオルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層33を通して徐々に外側(大気中)へ出て行くので、木酢油の効果が同程度の効果を有して長期間持続する。すなわち、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層33が固化しても、化学的反応によるこの層33は微細な間隙(以下、気孔と称する)を通して木酢油の有効成分が徐々に出て行く。すなわち、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む被覆層により木酢油の効果の徐放性を発揮する。または、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層33を積層し熱処理・乾燥する工程で、木酢油を含む層が気孔内に入り込んでいる。その気孔内に入り込んだ木酢油を含む層から木酢油の有効成分が徐々に外側(大気中)へ出て行く。従って、木酢油の効果を発揮する用途製品の寿命を大幅に延ばすことができる。
木酢油を含む層32は比較的脆い層であるから機械的衝撃に弱いが、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層33は固化後ガラス質のシロキサン結合を有するので強固であり、木酢油を含む層32を機械的に保護するという効果もある。また、木酢油を含む層32は酸、アルカリ、水等の影響を受けやすいが、オルガノアルコキシシラン系液剤を含む層33は固化後ガラス質のシロキサン結合を有するので耐環境性も優れている。従って、図4に示す本発明の構造は木酢油を含む層32をシロキサン結合のガラス質層33で被覆しているので、長期間の使用でも劣化が小さく製品の長寿命化を実現できる。
図4(b)は、複雑形状の基材31の周囲(1部または全部)に木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料(混合液とも言う)からなる層(混合層ともいう)36を形成したものである。この混合層36を形成後、熱処理・乾燥処理を行ない、混合層36を固化する。尚固化後も木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料からなる層(混合層ともいう)36と呼ぶ。混合層36は充分固化された状態でも良いし、用途によっては固化が十分でなくても良い。すなわち、一部または全部が半固体状態や液状化(ゲル状態なども含む)していても良い。基材の種類・形状・大きさ等、木酢油およびオルガノアルコキシシラン系液剤を含む材料、熱処理・乾燥処理の条件、基材への形成(塗布)方法、厚み等などについては、図1および図2および図3および図4(a)で説明した内容と同様である。
基材31が多孔性の繊維等である場合は、混合液の一部はそれらの孔を通して繊維31の内部に浸透して固化する。(図4(b)の破線矢印38で示す。)従って、混合液による固化層36は基材31の内部と基材31の表面に形成される。このため基材31の表面に形成される混合液による固化層36は基材31との密着性が良い。すなわち、木酢油を含む層が単独では基材31との密着性が比較的弱いが、混合層の場合はそれよりも密着性が良いので、基材からの剥離を防止できる。
基材31の表面に形成される混合液による固化層36中の木酢油からの臭気や効果物質等は固化層36から徐々に外側(外部環境)に出ていく。(図4(b)の破線矢印37で示す。)木酢油を含む層を単独で形成したときは、木酢油からの臭気や効果物質等は速やかに外側(外部環境)へ出ていき、その効果が短時間で失われるが、混合液による固化層36の場合は木酢油からの臭気や効果物質等が徐々に出ていく(オルガノアルコキシシランによる徐放性)ので、木酢油による効果が長期間持続する。また、木酢油からの臭気も弱いので人間に不快さを与えない。基材31の内部に混合液が浸透し固化した場合には、基材31の内部からの木酢油からの臭気や効果物質等も固化層36に存在する微細な気孔(これはオルガノアルコキシシランが反応固化するときに形成される)を通して出て来るので、さらに長期間木酢油による効果が持続する。また、木酢油を含む層が単独では比較的脆弱であるが、オルガノアルコキシシラン類が固化したオルガノポリシロキサンは強固な膜(薄膜、圧膜等)であるから、混合層による固化層36も強固となり外部からの衝撃等に対しても強い。さらに、オルガノポリシロキサンの層は酸やアルカリ、水分等に対しても耐性があるので、耐環境性も優れている。尚、混合層36上にさらにオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層(図4(a)における33)を形成することもでき、木酢油からの臭気をさらに緩和し、また木酢油による効果をさらに長期間保持できる。また、機械的衝撃に対しても強く、耐環境性も良く、製品の寿命も長くなる。
図4で示したような本発明の複雑形状体は、様々な場所に配置できるので、様々な場所で木酢油の効果を発揮することができる。しかも、本発明の複雑形状体は、木酢油の層を耐環境性および徐放性に優れたシロキサン類で被覆しているので、長期間木酢油の効果を維持することができる。複雑形状体は表面積が大きいので、木酢油から放出される有効成分の量が多いので、単位重量当たりの木酢油による効果が大きい。たとえば、綿に本発明を適用した場合、綿自体も軽く空隙率(多孔率)も大きいので、木酢油による効果も大きく、綿を袋につめて軽い防虫袋として効果がてき面であり、その効果も長期間持続できる。また、軽いので野菜の葉や木(たとえば、果樹園や森林等)の細枝や幹にもつり下げることができるので、これらの草木の防虫にもなる。また、土や砂、或いは小さな軽石等に本発明を使用でき、これらを土壌に混ぜることによって、害虫防除や防蟻対策に有効である。しかも本発明の複雑形状体は木酢油の層を耐環境性に優れたシロキサン類で被覆しているので、雨水等に洗い流されることなく土中に長期間とどまり、木酢油の効果を長期間発揮する。すなわち、植物の種まき前後に本発明の複雑形状体を1度撒けば、植物の育成期間中は木酢油の効果を持続し、植物の育成を保護する。また、病院内に備える種々の備品にも本発明を適用できるので、木酢油の抗菌等の効果を長期間発揮して、病院内を清潔に保持することもできる。
さらに、木酢油を含む液剤をたとえば畑等の土壌に散布してその後オルガノアルコキシシラン系液剤を含む液剤を散布すれば、木酢油を含む層の一部または全部はオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層によって被覆される。この場合基材は土や砂等であるが、本発明の範囲に含まれる。また、木酢油を含む液剤とオルガノアルコキシシラン系液剤を含む液剤を混合させた混合液剤をたとえば畑等の土壌に散布すれば、基材である土や砂等の一部または全部に混合液剤の層(混合層)が形成される。これも本発明の範囲に含まれる。このように液剤の散布によって、上記した木酢油の効果を長期間持続させた土壌を作製できる。
尚、木材等を乾留する際に生じるタール成分を除いた水溶性液体は木酢液であり、この木酢液は家庭用の消臭剤や防虫剤、土壌改質材として使用されている。この木酢液を含む層を第1層として基材上に形成し、その上にオルガノアルコキシシラン系液剤を含む層を形成したり、あるいは木酢液を含む液剤とオルガノアルコキシシラン系液剤を混合した液剤を基材に塗布した混合層を形成したりして、その後適宜乾燥処理や乾燥処理を施して、基材上の層を固化またはゲル化したものについても、木酢油と同様に本発明の範囲内に含まれる。
以上詳細に説明した様に、木酢油単独では長期間の木酢油の効果を保持できないが、基材上にオルガノアルコキシシラン系液剤で木酢油を含む層の被覆層を形成したり、木酢油をオルガノアルコキシシラン系液剤と混合液剤で基材上に混合層を形成したりすることによって、木酢油の優れた効果を長期間維持することができる。木酢油は木材・植物由来であり、またオルガノアルコキシシラン系液剤を熱処理して得られるシロキサン類(一般式:R3SiO-(R2SiO)n-SiR3)も無害であるから、地球環境に影響を与えない。これまでに示した、木酢油、アルコキシシランを含む基材を本発明では複合材と呼ぶ。尚、本明細書において、明細書のある部分に記載し説明した内容について記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。さらに、前記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が前記実施形態に限定されないことも言うまでもない。また本発明で使用される木酢油やオルガノアルコキシシラン系物質については参考文献に記載された内容も含まれることは言うまでもない。