<全固体リチウムイオン電池用正極活物質>
本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子である。本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に好適に用いられる正極活物質である。
以下、本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を、単に「正極活物質」と称することがある。
本実施形態の正極活物質は、以下の要件を満たす。
(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
(要件2)粒子は、レーザー回折式粒度分布測定によって測定される累積分布について、小粒子側からの累積割合が10%、50%、90%となる粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、関係式(D90-D10)/D50≧0.90が成り立つ。
(要件3)結晶は、CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1.0以上である。
以下、順に説明する。
(要件1:リチウム金属複合酸化物)
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、遷移金属として、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、遷移金属としてNi,CoおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、Liイオンが脱離可能または挿入可能な安定した結晶構造を形成する。そのため、本実施形態の正極活物質を二次電池の正極に用いた場合、高い充放電容量が得られる。
また、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、Ti、Fe、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、結晶構造が強固となる。そのため、本実施形態の正極活物質は、高い熱的安定性を有する正極活物質となる。また、本実施形態の正極活物質は、サイクル特性が向上する。
さらに詳しくは、リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(1)で表される。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 ・・・(1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、0≦w≦0.10を満たす。)
(xについて)
サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において「サイクル特性がよい」とは、充放電の繰り返しにより、電池容量の低下量が低い特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。
また、本明細書において「初回クーロン効率」とは「(初回放電容量)/(初回充電容量)×100(%)」で求められる値である。初回クーロン効率が高い二次電池は、初回の充放電時の不可逆容量が小さく、体積および重量あたりの容量がより大きくなりやすい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、xは、-0.10以上0.25以下であってもよく、-0.10以上0.10以下であってもよい。
xは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
xは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
xは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
本実施形態においては、0<x≦0.30であることが好ましい。
(yについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるyは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることがよりさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、yは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.33以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
yは、0を超え0.40以下であってもよく、0を超え0.35以下であってもよく、0を超え0.33以下であってもよく、0を超え0.30以下であってもよい。
yは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.33以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
yは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.33以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
yは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.33以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
本実施形態においては、0<y≦0.40であることが好ましい。
本実施形態においては、組成式(1)において、0<x≦0.10であり、0<y≦0.40であることがより好ましい。
(zについて)
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、zは、0以上0.39以下であってもよく、0以上0.38以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
zは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.39以下であってもよく、0.01以上0.38以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
zは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.39以下であってもよく、0.02以上0.38以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
zは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.39以下であってもよく、0.10以上0.38以下であってもよく、0.10以上0.35以下であってもよい。
(wについて)
また、電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(1)において、wは、0以上0.09以下であってもよく、0以上0.08以下であってもよく、0以上0.07以下であってもよい。
wは、0を超え0.10以下であってもよく、0を超え0.09以下であってもよく、0を超え0.08以下であってもよく、0を超え0.07以下であってもよい。
wは、0.0005以上0.10以下であってもよく、0.0005以上0.09以下であってもよく、0.0005以上0.08以下であってもよく、0.0005以上0.07以下であってもよい。
wは、0.001以上0.10以下であってもよく、0.001以上0.09以下であってもよく、0.001以上0.08以下であってもよく、0.001以上0.07以下であってもよい。
(y+z+wについて)
また、電池容量が大きいリチウム二次電池を得る観点から、本実施形態においては、前記組成式(1)におけるy+z+wは0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.46以下がさらに好ましい。
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(1)において1-y-z-w≧0.50、かつy≦0.30を満たすと好ましい。すなわち、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(1)においてNiの含有モル比が0.50以上、かつCoの含有モル比が0.30以下であると好ましい。
(Mについて)
前記組成式(1)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(1)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Ti、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。
上述したx、y、z、wについて好ましい組み合わせの一例は、xが0.02以上0.3以下であり、yが0.05以上0.30以下であり、zが0.02以上0.35以下であり、wが0以上0.07以下である。例えば、x=0.05、y=0.20、z=0.30、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.25、y=0.07、z=0.02、w=0であるリチウム金属複合酸化物を挙げることができる。
(層状構造)
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状構造である。リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、P63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
(要件2:粒度分布)
上述の要件2について、「体積基準の累積粒度」は、レーザー回折散乱法を測定原理とする測定方法によって測定することができる。レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定のことを「レーザー回折式粒度分布測定」と称する。
具体的には、正極活物質の累積粒度は、次の測定方法で測定する。
まず、正極活物質0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、正極活物質を分散させた分散液を得る。
次いで、得られた分散液についてマイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3300EXII(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。粒度分布の測定範囲は、0μm以上2000μm以下とした。
得られた累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が10%となる点の粒子径の値を10%累積体積粒度D10(μm)、50%となる点の粒子径の値を50%累積体積粒度D50(μm)、90%となる点の粒子径の値を90%累積体積粒度D90(μm)、とする。
本実施形態において、(D90-D10)/D50は、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。
本実施形態において、(D90-D10)/D50は、10.0以下が好ましく、6.5以下がより好ましい。
(D90-D10)/D50の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態において、(D90-D10)/D50は、0.9以上10.0以下であってもよく、0.9以上6.5以下であってもよい。
(D90-D10)/D50は、1.0以上10.0以下であってもよく、1.0以上6.5以下であってもよい。
(D90-D10)/D50は、1.2以上10.0以下であってもよく、1.2以上6.5以下であってもよい。
(D90-D10)/D50は、1.5以上10.0以下であってもよく、1.5以上6.5以下であってもよい。
(D90-D10)/D50を所望の範囲とするために、粒子径の異なる2種以上の正極活物質を混合して粒度分布を調製してもよい。
(要件3:結晶子サイズ比)
上述の要件3について、「結晶子サイズα」「結晶子サイズβ」は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によって測定することができる。
具体的には、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の結晶子サイズは、下記の測定方法で測定する。
まず、本実施形態の正極活物質について、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を10°以上90°以下とする粉末X線回折測定を行う。測定の結果、横軸が2θ、縦軸が測定範囲内の全ピークのうち最大のピーク強度を1としたときの相対強度、であるX線回折スペクトルが得られる。
次いで、得られたX線回折スペクトルから、2θ=18.7±2°の範囲内のピークと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークとを決定する。
次いで、決定したそれぞれのピークについて半値全幅を算出する。
半値全幅を算出するにあたっては、2θ=10~12°における各強度の平均値を2θ=10°にプロットし、2θ=88~90°における各強度の平均値を2θ=90°にプロットして、2θ=10°にプロットした平均値と、2θ=90°にプロットした平均値とを結ぶ直線をベースラインとした。
ピークの回折角、および得られた半値幅を、Scherrer式(D=Kλ/Bcosθ(D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、B:ピークの半値幅))に代入することで、結晶子サイズを算出することが出来る。
なお、Scherrer式を用いて、回折ピークの半値幅から結晶子サイズを算出することは、従来から使用されている手法である(例えば「X線構造解析-原子の配列を決める-」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著、参照)。
以下に、本実施形態の正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物が、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造である場合を例に、図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する結晶子の模式図である。図1に示す結晶子において、003面の垂線方向の結晶子サイズは、上述の結晶子サイズαに相当する。また、図1に示す結晶子において、104面の垂線方向の結晶子サイズは、結晶子サイズβに相当する。
結晶子サイズ比α/βの値が1よりも大きいほど、図1中のz軸に対して平行に結晶子が異方成長したものであることを示し、α/βの値が1に近づくほど、結晶子が等方成長したものであることを示す。
本実施形態の正極活物質は、結晶子サイズ比α/βが1.0以上である。すなわち、本実施形態の正極活物質は、正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物の結晶子が、図1中のx軸またはy軸に対して、z軸方向に異方成長したものである。
本実施形態の正極活物質においては、リチウム金属複合酸化物が異方成長した結晶子を有することにより、放電容量等の電池性能を向上させることができる。
例えば、結晶子サイズ比α/βが1.0以上であるリチウム金属複合酸化物の結晶子をケース1とし、図1のxy平面と平行な方向に結晶子が異方成長した扁平な結晶子をケース2としたとき、同じ体積のケース1の結晶子とケース2の結晶子とを比較する。この場合、ケース1の結晶子は、ケース2の結晶子よりも結晶子の中心までの距離が短い。そのため、ケース1の結晶子では、充放電に伴うLiの移動が容易となる。
本実施形態においては、α/βは1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。また、α/βは3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、結晶子サイズαは、400Å以上、1200Å以下であることが好ましく、1100Å以下であることがより好ましく、1000Å以下であることがさらに好ましく、900Å以下であることがよりさらに好ましく、840Å以下であることが特に好ましい。また、充電容量が高いリチウム二次電池を得る意味で、結晶子サイズαは、450Å以上であることがより好ましく、500Å以上であることがさらに好ましい。
αの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態において、αは、400Å以上1100Å以下であってもよく、400Å以上1000以下であってもよく、400Å以上900Å以下であってもよい。
αは、450Å以上1200Å以下であってもよく、450Å以上1100Å以下であってもよく、450Å以上1000以下であってもよく、450Å以上900Å以下であってもよい。
αは、500Å以上1200Å以下であってもよく、500Å以上1100Å以下であってもよく、500Å以上1000以下であってもよく、500Å以上900Å以下であってもよい。
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、結晶子サイズβは600Å以下であることが好ましく、550Å以下であることがより好ましく、500Å以下であることがさらに好ましく、450Å以下であることが特に好ましい。また、充電容量が高いリチウム二次電池を得る意味で、結晶子サイズβは、200Å以上であることが好ましく、250Å以上であることがより好ましく、300Å以上であることがさらに好ましい。
前記βの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態において、βは、200Å以上600Å以下であってもよく、200Å以上550以下であってもよく、200Å以上500Å以下であってもよく、200Å以上450Å以下であってもよい。
βは、250Å以上600Å以下であってもよく、250Å以上550以下であってもよく、250Å以上500Å以下であってもよく、250Å以上450Å以下であってもよい。
βは、300Å以上600Å以下であってもよく、300Å以上550以下であってもよく、300Å以上500Å以下であってもよく、300Å以上450Å以下であってもよい。
発明者らの検討により、従来の液系リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、良好な電池性能を示す正極活物質であっても、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合には、性能が不十分であるものがあることが分かった。このような全固体リチウムイオン二次電池に固有の知見に基づいて、発明者らが検討したところ、上述の要件1~要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、高い初期充電容量が測定されることが分かった。
まず、本実施形態の正極活物質においては、要件1を満たすことで、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行うことができる。
また、本実施形態の正極活物質においては、要件2を満たす。全固体リチウムイオン二次電池の正極においては、正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンの授受が行われる。このような全固体リチウムイオン二次電池においては、要件2を満たすような広い粒度分布を有することで、正極活物質同士または正極活物質と固体電解質との接触面積が広がりやすい。これにより、本実施形態の正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合、正極活物質と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われやすい。
さらに、本実施形態の正極活物質において要件3を満たすこととは、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物の結晶が、層状構造の積層方向に異方成長していることを意味する。要件3を満たすリチウム金属複合酸化物は、層状構造の積層方向と交差する方向から層間にリチウムイオンを挿入および脱離しやすい。そのため、本実施形態の正極活物質が要件3を満たすと、電池性能を向上させやすい。
そのため、要件1~3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる。
(その他の構成1)
本実施形態の正極活物質は、正極活物質を構成する粒子が、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、一次粒子および二次粒子とは独立して存在する単粒子と、からなることが好ましい。
本発明において、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子であって、粒子径が0.5μm未満の粒子を意味する。
本発明において、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集することにより形成された粒子を意味する。二次粒子は、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在する。
本発明において、「単粒子」とは、二次粒子とは独立して存在し、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子であって、粒子径が0.5μm以上の粒子を意味する。
すなわち、本実施形態の正極活物質は、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子と、外観上に粒界が存在する粒子とからなる。
外観上に粒界が存在しない粒子は、粒子径が0.5μmを基準に小粒径の「一次粒子」と、大粒径の「単粒子」とからなる。
外観上に粒界が存在する粒子は、上記「一次粒子」の凝集粒である「二次粒子」である。
本実施形態の正極活物質においては、粒子全体における単粒子の含有率が、20%以上であると好ましい。粒子全体における単粒子の含有率が20%以上である正極活物質は、全固体電池に用いた場合、正極層内で固体電解質との接触界面を担保しやすく、界面を通じたリチウムイオンの伝導がスムーズに行われる。
また、粒子全体における単粒子の含有率が20%以上である正極活物質は、粒子全体における単粒子の粒子内に粒界が存在しないため、全固体電池の正極に用い充放電を繰り返したとしても、粒子が割れにくく、導電経路を保持しやすい。
単粒子の平均粒子径は、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。また、単粒子の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
単粒子の平均粒子径の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
二次粒子の平均粒子径は、3.0μm以上であることが好ましく、5.0μm以上であることがより好ましい。また、二次粒子の平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
二次粒子の平均粒子径の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
単粒子及び二次粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定することができる。
まず、本実施形態の正極活物質を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せる。次いで、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-5510)を用い、正極活物質に加速電圧が20kVの電子線を照射して、20000倍の視野にて観察を行う。
次いで、得られた電子顕微鏡画像(SEM写真)から下記方法で50個以上98個以下の単粒子又は二次粒子を抽出する。
(単粒子の抽出方法)
単粒子の平均粒子径を測定する場合、20000倍の拡大視野において、一視野に含まれる単粒子の全てを測定対象とする。一視野に含まれる単粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の単粒子を測定対象とする。
(二次粒子の抽出方法)
二次粒子の平均粒子径を測定する場合、20000倍の拡大視野において、一視野に含まれる二次粒子の全てを測定対象とする。一視野に含まれる二次粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の二次粒子を測定対象とする。
抽出した単粒子又は二次粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を、単粒子又は二次粒子の粒子径として測定する。
得られた単粒子又は二次粒子の粒子径の算術平均値が、正極活物質に含まれる単粒子の平均粒子径、又は正極活物質に含まれる二次粒子の平均粒子径である。
(その他の構成2)
本実施形態の正極活物質は、正極活物質を構成する粒子の表面に、金属複合酸化物からなる被覆層を有することが好ましい。
被覆層を構成する金属複合酸化物としては、リチウムイオン伝導性を有するものが用いられる。
このような金属複合酸化物としては、例えば、Liと、Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、VおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との金属複合酸化物を挙げることができる。
本実施形態の正極活物質が被覆層を有すると、正極活物質と固体電解質との界面における高抵抗層の形成を抑制し、全固体電池の高出力化が実現できる。このような効果は、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる硫化物系全固体電池において得られやすい。
<正極活物質の製造方法1>
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物を製造するにあたって、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む金属複合化合物を調製し、当該金属複合化合物を適当なリチウム塩と、不活性溶融剤と焼成することが好ましい。金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。
以下に、リチウム金属複合酸化物の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム金属複合酸化物の製造工程とに分けて説明する。
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NiaCobMnc(OH)2(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
以上の金属塩は、上記NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
錯化剤は、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。錯化剤は含まれていなくてもよく、錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、任意金属M塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、NiaCobMnc(OH)2が製造される。
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30~70℃の範囲内で制御する。
反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプのものである。
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、下記工程で最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の二次粒子径、細孔半径等の各種物性を制御することが出来る。
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
得られる反応生成物を酸化する化合物として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥することで、金属複合化合物が得られる。本実施形態では、金属複合化合物として、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物が得られる。また、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
本実施形態において、乾燥して得られた金属複合化合物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)および要件(3)を本実施形態の範囲内に制御しやすい金属複合水酸化物を得ることができる。
「適正な外力」とは、金属複合化合物の結晶子を破壊することなく、凝集状態を分散させる程度の外力を指す。本実施形態においては、上記粉砕の際、粉砕機として磨砕機を用いることが好ましく、石臼式磨砕機が特に好ましい。石臼式磨砕機を用いる場合、上臼と下臼のクリアランスは、金属複合水酸化物の凝集状態に応じて調整することが好ましい。上臼と下臼のクリアランスは、例えば、10μm以上200μm以下の範囲が好ましい。
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製することができる。焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/hr以上が好ましく、200℃/hr以上がより好ましく、250℃/hr以上が特に好ましい。
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。また、本実施形態において、この混合と同時に不活性溶融剤を混合することが好ましい。
金属複合酸化物若しくは金属複合水酸化物、リチウム塩及び不活性溶融剤を含む、不活性溶融剤含有混合物を焼成することにより、不活性溶融剤の存在下で、混合物を焼成することになる。不活性溶融剤の存在下で焼成することにより、一次粒子同士が焼結して二次粒子が生成することを抑制できる。また、単粒子の成長を促進できる。
本実施形態において、乾燥条件は特に制限されない。
例えば、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化・還元されない条件(酸化物が酸化物のまま維持される、水酸化物が水酸化物のまま維持される)、金属複合水酸化物が酸化される条件(水酸化物が酸化物に酸化される)、金属複合酸化物が還元される条件(酸化物が水酸化物に還元される)のいずれの条件でもよい。
酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよく、水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を使用すればよい。
また、金属複合酸化物が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
以上のリチウム塩と金属複合水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該金属複合水酸化物は、LiNiaCobMncO2(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるリチウム金属複合酸化物において、リチウムが過剰(含有モル比が1超)である場合には、リチウム塩に含まれるリチウムと、金属複合水酸化物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となるように混合する。
ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行ってもよい。不活性溶融剤の存在下で焼成を行うことにより、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム金属複合酸化物に残留していてもよいし、焼成後に水やアルコールで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム金属複合酸化物は水やアルコールを用いて洗浄することが好ましい。
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
通常、保持温度が高くなればなるほど、単粒子の粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス100℃以上不活性溶融剤の融点プラス100℃以下の範囲で行うことが好ましい。
保持温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましい。
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
焼成によって得たリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
本実施形態において、焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)および要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
本実施形態において、焼成によって得たリチウム金属複合酸化物に適正な外力を加えて粉砕し、粒子の分散状態を調整することにより、前記要件(2)および要件(3)を本実施形態の範囲内に制御したリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
「適正な外力」とは、リチウム金属複合酸化物の結晶子を破壊することなく、凝集状態を分散させる程度の外力を指す。本実施形態においては、上記粉砕の際、粉砕機として磨砕機を用いることが好ましく、石臼式磨砕機が特に好ましい。石臼式磨砕機を用いる場合、上臼と下臼のクリアランスは、リチウム金属複合酸化物の凝集状態に応じて調整することが好ましい。上臼と下臼とのクリアランスは、例えば、10μm以上200μm以下の範囲が好ましい。
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、SrおよびBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩およびAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF2(融点:1402℃)、MgF2(融点:1263℃)、SrF2(融点:1473℃)およびBaF2(融点:1355℃)を挙げることができる。
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl2(融点:782℃)、MgCl2(融点:714℃)、SrCl2(融点:857℃)およびBaCl2(融点:963℃)を挙げることができる。
Aの炭酸塩としては、Na2CO3(融点:854℃)、K2CO3(融点:899℃)、Rb2CO3(融点:837℃)、Cs2CO3(融点:793℃)、CaCO3(融点:825℃)、MgCO3(融点:990℃)、SrCO3(融点:1497℃)およびBaCO3(融点:1380℃)を挙げることができる。
Aの硫酸塩としては、Na2SO4(融点:884℃)、K2SO4(融点:1069℃)、Rb2SO4(融点:1066℃)、Cs2SO4(融点:1005℃)、CaSO4(融点:1460℃)、MgSO4(融点:1137℃)、SrSO4(融点:1605℃)およびBaSO4(融点:1580℃)を挙げることができる。
Aの硝酸塩としては、NaNO3(融点:310℃)、KNO3(融点:337℃)、RbNO3(融点:316℃)、CsNO3(融点:417℃)、Ca(NO3)2(融点:561℃)、Mg(NO3)2、Sr(NO3)2(融点:645℃)およびBa(NO3)2(融点:596℃)を挙げることができる。
Aのリン酸塩としては、Na3PO4、K3PO4(融点:1340℃)、Rb3PO4、Cs3PO4、Ca3(PO4)2、Mg3(PO4)2(融点:1184℃)、Sr3(PO4)2(融点:1727℃)およびBa3(PO4)2(融点:1767℃)を挙げることができる。
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)2(融点:408℃)、Mg(OH)2(融点:350℃)、Sr(OH)2(融点:375℃)およびBa(OH)2(融点:853℃)を挙げることができる。
Aのモリブデン酸塩としては、Na2MoO4(融点:698℃)、K2MoO4(融点:919℃)、Rb2MoO4(融点:958℃)、Cs2MoO4(融点:956℃)、CaMoO4(融点:1520℃)、MgMoO4(融点:1060℃)、SrMoO4(融点:1040℃)およびBaMoO4(融点:1460℃)を挙げることができる。
Aのタングステン酸塩としては、Na2WO4(融点:687℃)、K2WO4、Rb2WO4、Cs2WO4、CaWO4、MgWO4、SrWO4およびBaWO4を挙げることができる。
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、融点が下がることもある。また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩および硫酸塩、Aの塩化物のいずれか又はその組み合わせであることが好ましい。また、Aとしては、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。すなわち、上記の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、Na2CO3,K2CO3、Na2SO4、およびK2SO4からなる群より選ばれる1種以上である。
これらの不活性溶融剤を用いることにより、得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
本実施形態において、不活性溶融剤として、K2SO4およびNa2SO4のいずれか一方又は両方を用いた場合には、得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。得られるリチウム金属複合酸化物の平均圧壊強度を本実施形態の範囲とするためには、焼成時の不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、必要に応じて、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。該溶融剤としては、NH4Cl、NH4Fなどのアンモニウム塩等を挙げることができる。
(被覆層の形成工程)
正極活物質の粒子表面に被覆層を形成する場合、まずは被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を混合する。次に必要に応じて熱処理することによりリチウム金属複合酸化物の粒子の表面にリチウム金属複合酸化物からなる被覆層を形成できる。
被覆材原料によっては、上述したリチウム金属複合酸化物の製造工程において、金属複合酸化物又は水酸化物とリチウム塩とを混合する際に、さらに被覆材原料を添加し混合することができる。
被覆材原料は、上述したリチウム塩と、Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、VおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩またはアルコキシドとを用いることができる。Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、VおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物は、酸化物であることが好ましい。
被覆材原料としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、酸化ホウ素、ホウ酸等が挙げられ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ホウ素、ホウ酸、酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム、ホウ酸リチウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウムが好ましい。
リチウム金属複合酸化物の表面に被覆材原料をより効率的に被覆するため、被覆材原料はリチウム金属複合酸化物の二次粒子に比べて微粒であることが好ましい。具体的には、被覆材原料の平均二次粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。
被覆材原料の平均二次粒子径の下限は小さいほど好ましいが、例えば0.001μmである。被覆材原料の平均二次粒子径は、リチウム金属複合酸化物の平均二次粒子径と同様の方法で測定することができる。
被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物の混合は、凝集体がなくなるまで均一に混合する。被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を均一に混合できれば混合装置は限定されないが、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。前記金属複合酸化物又は水酸化物とリチウム塩とを混合する混合工程において、被覆材原料を添加し混合する場合も、同様である。
また、混合を水又は水と炭酸ガスを含有する雰囲気中で行うことによって、被覆層をリチウム金属複合酸化物の表面により強固に付着させることができる。
混合後に水又は水と炭酸ガスを含有する雰囲気中において、被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を保持させることによっても被覆層をリチウム金属複合酸化物の表面により強固に付着させることができる。
被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物の混合後に必要に応じて行う熱処理における熱処理条件(温度、保持時間)は、被覆材原料の種類に応じて、異なる場合がある。
例えば、被覆原料にアルミニウムを用いる場合、600℃以上800℃以下の温度範囲で、4時間以上10時間以下焼成することが好ましい。この高温長時間の焼成条件で焼成することにより、上記要件(1)及び(2)の範囲に制御できる。焼成温度が800℃よりも高い温度であると、被覆材原料がリチウム金属複合酸化物と固溶し、被覆層が形成されない場合がある。焼成時間が4時間よりも短いと被覆原料の拡散が不十分で、被覆層が均一に形成されない場合がある。
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の温度を意味し、かつ本焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
スパッタリング、CVD、蒸着、噴霧被覆などの手法を用いることにより、リチウム金属複合酸化物の表面に、被覆層を形成させて、リチウム二次電池用正極活物質を得ることもできる。
また、前記金属複合酸化物又は水酸化物と、リチウム塩と被覆材原料を混合・焼成することによりリチウム二次電池用正極活物質を得られる場合もある。
リチウム金属複合酸化物の一次粒子又は二次粒子の表面に、被覆層を形成した粒子は、適宜解砕、分級され、リチウム二次電池用正極活物質とすることができる。
<正極活物質の製造方法2>
本実施形態の正極活物質が単粒子および二次粒子を含む場合、上述した正極活物質の製造方法1から、以下の変更を行うことで、正極活物質を製造することができる。
(金属複合化合物の製造工程)
正極活物質の製造方法2においては、金属複合化合物の製造工程において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物と、二次粒子を形成する金属複合化合物をそれぞれ製造する。以下において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物を「単粒子前駆体」と記載することがある。また、最終的に二次粒子を形成する金属複合化合物を「二次粒子前駆体」と記載することがある。
正極活物質の製造方法2においては、上述の共沈殿法により金属複合化合物を製造する際、単粒子前駆体を製造する第1の共沈槽と、二次粒子前駆体を形成する第2の共沈槽を用いる。
第1の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、単粒子前駆体を製造できる。
具体的には、反応槽の温度が例えば30℃以上80℃以下が好ましく、40~70℃の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも高いpHであることが特に好ましい。
また、第2の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、二次粒子前駆体を製造できる。
具体的には、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下が好ましく、30~70℃の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも低いpHであることが特に好ましい。
このようにして得られる反応生成物をそれぞれ水で洗浄した後、乾燥させることで、ニッケルコバルトマンガン水酸化物(単粒子前駆体、二次粒子前駆体)を単離する。
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
リチウム金属複合酸化物の製造工程においては、上述の工程で得られた単粒子前駆体、二次粒子前駆体としての上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。単粒子前駆体、二次粒子前駆体は、乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
単粒子前駆体および二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られる単粒子と二次粒子の存在比率をおおよそ制御できる。
なお、混合以降の工程において単粒子前駆体および二次粒子前駆体がそれぞれ凝集、あるいは分離し単粒子前駆体を基にした二次粒子あるいは、二次粒子前駆体を基にした単粒子も存在し得るが、単粒子前駆体と二次粒子前駆体との混合比率および混合以降の工程の条件を調整することで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物における単粒子と二次粒子の存在比率は制御することができる。
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の平均粒子径と二次粒子の平均粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
<正極活物質の製造方法3>
また、本実施形態の正極活物質が単粒子および二次粒子を含む場合、上述した正極活物質の製造方法1により、単粒子から構成される第1のリチウム金属複合酸化物と、二次粒子から構成される第2のリチウム金属複合酸化物とを、それぞれ製造し、第1のリチウム金属複合酸化物及び第2のリチウム金属複合酸化物を混合することにより製造できる。
正極活物質の製造方法3においては、リチウム金属複合酸化物の製造工程において、第1のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度を、第2のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度よりも高くするとよい。詳しくは、第1のリチウム金属複合酸化物を製造する場合には第2のリチウム金属複合酸化物の保持温度よりも、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
得られた第1のリチウム金属複合酸化物及び第2のリチウム金属複合酸化物を所定の割合で混合することにより、単粒子および二次粒子を含むリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
<全固体リチウムイオン電池>
次いで、全固体リチウムイオン電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係る二次電池用正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有する全固体リチウムイオン電池について説明する。
図2、3は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池の一例を示す模式図である。図2は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池が備える積層体を示す模式図である。図3は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池の全体構成を示す模式図である。
全固体二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。
各部材を構成する材料については、後述する。
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体二次電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有していてもよい。
全固体二次電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
全固体リチウムイオン電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
全固体二次電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様である正極活物質を含む。また、正極活物質層111は、固体電解質(第2の固体電解質)、導電材、バインダーを含むこととしてもよい。
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1-aTiO3(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LibLa1-bTaO3(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物、LicLa1-cNbO3(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2-d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LimM1
nM2
oPpOq(式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、SbおよびSeからなる群から選ばれる1種以上の元素。M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、SnおよびAlからなる群から選ばれる1種以上の元素。m、n、o、pおよびqは、任意の正数。)で表される酸化物である。
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4(M3は、Si、Ge、およびTiからなる群から選ばれる1種以上の元素。M4は、P、AsおよびVからなる群から選ばれる1種以上の元素。)で表される酸化物などが挙げられる。
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。非晶質(アモルファス)固体電解質として、例えばLi3BO3、Li2B4O7、LiBO2などのLi-B-O化合物が挙げられる。酸化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、Li2S-P2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li10GeP2S12などを挙げることができる。
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数。Zは、Ge、ZnまたはGa)などを挙げることができる。
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-SiS2-LixMOy(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaまたはIn)などを挙げることができる。
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-P2S5などを挙げることができる。
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I、Li4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖およびポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
(導電材)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい導電材としては、炭素材料や金属化合物を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、および正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、および正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。
正極活物質シートは、上述の固体電解質、導電材およびバインダーからなる群から選ばれるいずれか1つ以上を含むこととしてもよい。
正極活物質シートは、例えば、正極活物質と、焼結助剤と、上述の導電材と、上述のバインダーと、可塑剤と、溶媒とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをキャリアフィルム上に塗布して乾燥させることで得られる。
焼結助剤としては、例えばLi3BO3やAl2O3を用いることができる。
可塑剤としては、例えばフタル酸ジオクチルを用いることができる。
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール、N-メチル-2-ピロリドンを用いることができる。
スラリーの調製時において、混合はボールミルを用いることができる。得られた混合物には、混合時に混入した気泡が含まれることが多いため、減圧して脱泡するとよい。脱泡すると、一部の溶媒が揮発し濃縮することで、スラリーが高粘度化する。
スラリーの塗布は、公知のドクターブレードを用いて行うことができる。
キャリアフィルムとしては、PETフィルムを用いることができる。
乾燥後に得られる正極活物質シートは、キャリアフィルムから剥離され、適宜打ち抜き加工により必要な形状に加工されて用いられる。また、正極活物質シートは、適宜厚み方向に一軸プレスしてもよい。
(正極集電体)
本実施形態の正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni、ステンレス、Auなどの金属材料を形成材料とするシート状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタンまたはバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-xAxN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方または両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質または非晶質のいずれでもよい。
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、または微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質(第1の固体電解質)を有している。正極活物質層111に固体電解質が含まれる場合、固体電解質層130を構成する固体電解質(第1の固体電解質)と、正極活物質層111に含まれる固体電解質(第2の固体電解質)とが同じ物質であってもよい。固体電解質層130は、リチウムイオンを伝達する媒質として機能するとともに、正極110と負極120とを分けるセパレータとしても機能する。
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
さらに、固体電解質層130は、固体電解質を予めペレット状に形成し、固体電解質のペレットと、上述の正極活物質シートとを重ねて積層方向に一軸プレスすることで形成することができる。正極活物質シートは、正極活物質層111になる。
得られた正極活物質層111と固体電解質層130との積層体に対し、さらに正極活物質層111に正極集電体112を配置する。積層方向に一軸プレスして、さらに焼結することで、固体電解質層130と正極110とを形成することができる。
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極電解質層121が接するように負極120を積層させることで製造することができる。
以上のような構成の全固体リチウムイオン電池用正極活物質によれば、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる。
以上のような構成の電極によれば、上述の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有するため、全固体リチウムイオン電池の電池性能を向上させることができる。
以上のような構成の全固体リチウムイオン電池によれば、上述の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有するため、優れた電池性能を示す。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1~3は参考例とする。
<正極活物質の組成分析>
後述の方法で製造される正極活物質の組成分析は、得られた正極活物質の粒子を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
<(D90-D10)/D50の測定>
正極活物質の90%累積体積粒度D90と、10%累積体積粒度D10との比率(D90/D10)は以下の方法により算出した。
まず、正極活物質0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得た。
次に、得られた分散液についてマイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3300EXII(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。
そして、得られた累積粒度分布曲線において、10%累積時の微小粒子側から見た粒子径の値が10%累積体積粒度D10(μm)、50%累積時の微小粒子側から見た粒子径の値が50%累積体積粒度D50(μm)とし、90%累積時の微小粒子側から見た粒子径の値が90%累積体積粒度D90(μm)とし、比率(D90-D10)/D50を算出した。
<結晶子サイズ測定>
正極活物質の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Pert PRO、PANalytical社)を用いて行った。
得られた正極活物質を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°~90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。
粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形から2θ=18.7°±2°の範囲に現れるピークAと、2θ=44.6°±2°の範囲に現れるピークBとのそれぞれについて半値幅を求めた。得られた半値幅を用い、Scherrer式により、結晶子サイズαおよび結晶子サイズβを算出した。
得られた結晶子サイズαおよび結晶子サイズβから、結晶子サイズ比α/βを求めた。
<実施例1>
(正極活物質1の製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.50:0.20:0.30となるように混合して、混合原料液を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下970℃で4時間焼成し、正極活物質1を得た。
(正極活物質1の評価)
正極活物質1の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.50、z=0.30、w=0であった。
正極活物質1のSEM観察の結果、一次粒子と二次粒子とが含まれ、単粒子は含まれていなかった。
正極活物質1の粒度分布を測定したところ、D50は10.86、(D90-D10)/D50は1.16であった。
正極活物質1についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.10であった。
<実施例2>
(正極活物質2の製造)
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.20:0.25となるように混合して、混合原料液2を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.0になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、次いで酸素雰囲気下960℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下400℃で5時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物を正極活物質2とした。
(正極活物質2の評価)
正極活物質2の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.25、w=0であった。
正極活物質2のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質2の粒度分布を測定したところ、D50は3.52、(D90-D10)/D50は0.91であった。
正極活物質2についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.89であった。
<実施例3>
(正極活物質3の製造)
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、次いで酸素雰囲気下1015℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下400℃で5時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を得た。
得られたリチウム金属複合酸化物をピンミル型粉砕機(インパクトミルAVIS100、ミルシステム株式会社製)で粉砕した後、ターボスクリーナ(TS125×200型、フロイント・ターボ株式会社製)で篩分けした。ピンミル型粉砕機およびターボスクリーナの運転条件は下記の通りとした。
(ピンミル型粉砕機運転条件)
回転数:16000rpm、供給速度:8kg/hr
(ターボスクリーナ運転条件)
使用スクリーン:45μmメッシュ、ブレード回転数:1800rpm、供給速度:50kg/hr
ターボスクリーナにおいてスクリーンを通過した粉末を回収することで、正極活物質3を得た。
(正極活物質3の評価)
正極活物質3の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.20、z=0.25、w=0であった。
正極活物質3のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質3の粒度分布を測定したところ、D50は5.41、(D90-D10)/D50は0.90であった。
正極活物質3についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.94であった。
<実施例4>
(正極活物質4の製造)
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.88:0.08:0.04となるように混合して、混合原料液を調製したこと、および反応槽内の溶液のpHを12.4になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05、K2SO4/(LiOH+K2SO4)=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下800℃で10時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を含む混合物4を得た。
混合物4と純水(水温5℃)とを、混合物4と純水との合計量に対する混合物4の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた混合物4の2倍の質量の純水(液温5℃)ですすいだ(リンス工程)。固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させることで、正極活物質4を得た。
(正極活物質4の評価)
正極活物質4の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
正極活物質4のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質4の粒度分布を測定したところ、D50は5.79、(D90-D10)/D50は1.78であった。
正極活物質4についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.84であった。
<実施例5>
(正極活物質5の製造)
反応槽内の溶液のpHを11.2になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと、液温を70℃に保持したこと以外は、実施例4と同様にしてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含む沈殿物を得た。
得られた沈殿物をカウンタージェットミル(100AFG型、ホソカワミクロン株式会社製)で粉砕することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5を得た。カウンタージェットミルの運転条件は下記の通りとした。
(カウンタージェットミル運転条件)
粉砕圧力:0.59MPa、分級回転数:17000rpm、供給速度:2kg/hr
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20、K2SO4/(LiOH+K2SO4)=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合したこと以外は、実施例4と同様にして正極活物質5を得た。
(正極活物質5の評価)
正極活物質5の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.20、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
正極活物質5のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質5の粒度分布を測定したところ、D50は3.32、(D90-D10)/D50は6.32であった。
正極活物質5についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.94であった。
<実施例6>
(正極活物質6の製造)
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.91:0.07:0.02となるように混合して、混合原料液を調製したこと、および反応槽内の溶液のpHを12.3になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下したこと以外は、実施例4と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.26、K2SO4/(LiOH+K2SO4)=0.1(mol/mol)となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下790℃で10時間焼成し、リチウム金属複合酸化物を含む混合物6を得た。
混合物6と純水(水温5℃)とを、混合物6と純水との合計量に対する混合物6の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた混合物4の2倍の質量の純水(水温5℃)ですすいだ(リンス工程)。固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させた。
得られた粉末を、ターボスクリーナ(フロイント・ターボ株式会社製)で篩別することで、正極活物質6を得た。ターボスクリーナの運転条件、篩別条件は、実施例3と同じとした。
(正極活物質6の評価)
正極活物質6の組成分析を行い、組成式(1)に対応させたところ、x=0.02、y=0.07、z=0.02、w=0であった。
正極活物質6のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質6の粒度分布を測定したところ、D50は4.13、(D90-D10)/D50は1.33であった。
正極活物質6についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは2.01であった。
<比較例1>
(正極活物質E1の製造)
LiCoO2の市販品を正極活物質E1として評価した。正極活物質E1として、D50=5μm±2μmの範囲内の粒度分布を有するLiCoO2の市販品を用いた。
(正極活物質E1の評価)
正極活物質E1のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質E1の粒度分布を測定したところ、D50は6.81、(D90-D10)/D50は1.56であった。
正極活物質E1についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは0.40であった。
<比較例2>
(正極活物質E2の製造)
LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2の市販品を正極活物質E2として評価した。正極活物質E2として、D50=5μm±2μmの範囲内の粒度分布を有するLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2の市販品を用いた。
(正極活物質E2の評価)
正極活物質E2のSEM観察の結果、一次粒子と二次粒子とが含まれ、単粒子は含まれていなかった。
正極活物質E2の粒度分布を測定したところ、D50は4.79、(D90-D10)/D50は0.89であった。
正極活物質E2についてX線回折測定を行ったところ、結晶子サイズ比α/βは1.13であった。
<全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成になるように混合し、混合粉を得た。得られた混合粉に、樹脂バインダー(エチルセルロース)と、可塑剤(フタル酸ジオクチル)と、溶媒(アセトン)とを、混合粉:樹脂バインダー:可塑剤:溶媒=100:10:10:100(質量比)の組成となるように加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合した。
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得た。
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成した。
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートが得られた。正極活物質シートに含まれるLi3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
(全固体リチウムイオン電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得た。用いた固体電解質ペレットは、直径14.5mm、厚み0.5mmであった。
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、100gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させた。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得た。
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねた。
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、全固体リチウムイオン電池を作製した。
<充放電試験>
上記の方法で作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で充放電試験を実施し、初回充放電効率を算出した。
(充放電条件)
試験温度60℃
充電最大電圧4.3V、充電電流密度0.01C、
放電最小電圧2.0V、放電電流密度0.01C、カットオフ0.002C
(初回充放電効率の算出)
上記条件で充放電した際の充電容量と、放電容量とから、下記の計算式に基づいて初回充放電効率を求めた。
初回充放電効率(%)
=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)×100
<液系リチウム二次電池の製造>
(リチウム二次電池用正極の作製)
後述する製造方法で得られる正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
(リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
(リチウム二次電池用正極の作製)で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。
ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなるように溶解したものを用いた。
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
<評価結果>
評価結果を表1~4に示す。表1,2は、各正極活物質についての測定値、表3は、各正極活物質を用いた全固体リチウムイオン二次電池の物性評価の結果である。
表1に記載の「Li/Me」の「Me」は、正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物に含まれる金属のうち、Liを除いた残りの金属の量を示す。「Me」は具体的には、Ni、Co,Mn,Mの全量を示す。また、表1の「ND」は「データ無し」を示す。
また、表4は、各正極活物質を用いた液系リチウムイオン二次電池の物性評価の結果を示す。表4に示す結果は、参考例である。
表3においては、初期充電容量について以下のように評価し、評価結果を「評価」欄に示した。評価においては、◎、〇を良品、△、×を不良品と判断した。
◎:初期充電容量が100mAh/g以上
〇:初期充電容量が40mAh/g以上100mAh/h未満
△:初期充電容量が10mAh/g以上40mAh/h未満
×:初期充電容量が10mAh/g未満
評価の結果、実施例1~6の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池は、いずれも高い初期充電容量を示したのに対し、比較例1,2の正極活物質は、初期充電容量が低かった。
実施例、比較例の正極活物質について、液系リチウムイオン二次電池を作成し、評価したところ、表4に示すように、いずれの正極活物質も良好に使用可能と評価できた。
このように、液系リチウムイオン二次電池においてはいずれも良好に動作する正極活物質であっても、全固体リチウムイオン二次電池とすると、電池性能に大きな差が生じ、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質は良好な電池性能を示すことが分かった。
以上より、本発明が有用であることが分かった。