<全固体リチウムイオン電池用正極活物質>
リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に、後述する金属複合酸化物からなる被覆層を有する場合には、被覆層を有するリチウム金属複合酸化物の粒子が本発明の一態様に係る「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子」に該当する。
また、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に、金属複合酸化物からなる被覆層を有さない場合には、リチウム金属複合酸化物の粒子が本発明の一態様に係る「リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子」に該当する。
本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子である。本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池に好適に用いられる正極活物質である。
以下、本実施形態の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を、単に「正極活物質」と称することがある。
本実施形態の正極活物質は、以下の要件を満たす。
(要件1)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含む。
(要件2)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下である。
(要件3)正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である。
以下、順に説明する。
(要件1:リチウム金属複合酸化物)
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、遷移金属として、Ni、Co、Mn、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、遷移金属としてNi,Co及びMnからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、Liイオンが脱離可能又は挿入可能な安定した結晶構造を形成する。そのため、本実施形態の正極活物質を二次電池の正極に用いた場合、高い充放電容量が得られる。
また、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物が、Ti、Fe、V及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、得られるリチウム金属複合酸化物は、結晶構造が強固となる。そのため、本実施形態の正極活物質は、高い熱的安定性を有する正極活物質となる。また、本実施形態の正極活物質は、サイクル特性が向上する。
さらに詳しくは、リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(A)で表される。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O2 ・・・組成式(A)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.1≦x≦0.30、0≦y≦0.40、0≦z≦0.40、及び0≦w≦0.10を満たす。)
(xについて)
サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるxは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において「サイクル特性が良い」とは、充放電の繰り返しによる、電池容量の低下量が少ない特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。
また、本明細書において「初回クーロン効率」とは「(初回放電容量)/(初回充電容量)×100(%)」で求められる値である。初回クーロン効率が高い二次電池は、初回の充放電時の不可逆容量が小さく、体積及び重量あたりの容量が相対的に大きくなりやすい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(A)において、xは、−0.10以上0.25以下であってもよく、−0.10以上0.10以下であってもよい。
xは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
xは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
xは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
本実施形態においては、xは、0<x≦0.30であることが好ましい。
(yについて)
電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるyは0を超えることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるyは0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることがよりさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(A)において、yは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.33以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
yは、0を超え0.40以下であってもよく、0を超え0.35以下であってもよく、0を超え0.33以下であってもよく、0を超え0.30以下であってもよい。
yは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.33以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
yは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.33以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
yは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.33以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
本実施形態においては、yは、0<y≦0.40であることが好ましい。
本実施形態においては、組成式(A)において、0<x≦0.10であり、0<y≦0.40であることがより好ましい。
(zについて)
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるzは0.39以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(A)において、zは、0以上0.39以下であってもよく、0以上0.38以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
zは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.39以下であってもよく、0.01以上0.38以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
zは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.39以下であってもよく、0.02以上0.38以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
zは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.39以下であってもよく、0.10以上0.38以下であってもよく、0.10以上0.35以下であってもよい。
本実施形態においては、zは、0.02≦z≦0.35であることが好ましい。
(wについて)
電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が多いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(A)において、wは、0以上0.09以下であってもよく、0以上0.08以下であってもよく、0以上0.07以下であってもよい。
wは、0を超え0.10以下であってもよく、0を超え0.09以下であってもよく、0を超え0.08以下であってもよく、0を超え0.07以下であってもよい。
wは、0.0005以上0.10以下であってもよく、0.0005以上0.09以下であってもよく、0.0005以上0.08以下であってもよく、0.0005以上0.07以下であってもよい。
wは、0.001以上0.10以下であってもよく、0.001以上0.09以下であってもよく、0.001以上0.08以下であってもよく、0.001以上0.07以下であってもよい。
本実施形態においては、wは、0≦w≦0.07であることが好ましい。
(y+z+wについて)
電池容量が大きいリチウム二次電池を得る観点から、本実施形態においては、前記組成式(A)におけるy+z+wは0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.46以下がさらに好ましい。
前記組成式(A)におけるy+z+wは0を超え、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。
y+z+wは0を超え0.50以下が好ましい。
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(A)において1−y−z−w≧0.50、かつy≦0.30を満たすと好ましい。すなわち、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物は、組成式(A)においてNiの含有モル比が0.50以上、かつCoの含有モル比が0.30以下であると好ましい。
(Mについて)
前記組成式(A)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(A)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Ti、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。
上述したx、y、z、wについて好ましい組み合わせの一例は、xが0.02以上0.30以下であり、yが0.05以上0.30以下であり、zが0.02以上0.35以下であり、wが0以上0.07以下である。例えば、x=0.05、y=0.20、z=0.30、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であるリチウム金属複合酸化物や、x=0.25、y=0.07、z=0.02、w=0であるリチウム金属複合酸化物を挙げることができる。
本実施形態において、正極活物質の組成分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて行うことができる。
誘導結合プラズマ発光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
なお、全固体リチウムイオン電池の充電は、外部電源により、正極に負の電位、負極に正の電位を印加して行う。
また、全固体リチウムイオン電池の放電は、充電された全固体リチウムイオン電池の正極及び負極に放電回路を接続し、放電回路に通電させて行う。放電回路は、全固体リチウムイオン電池の電力で駆動する電子機器、電気機器及び電気自動車を含む。
(層状構造)
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状構造である。リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P−6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、P63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
(要件2)
本実施形態において、正極活物質は、後述する水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、0.50ml/g以下が好ましく、0.45ml/g以下がより好ましい。
(要件3)
本実施形態において、正極活物質は、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下であり、6μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、4μm以下が特に好ましい。
[水銀圧入法]
本実施形態において、水銀圧入法による細孔分布測定は下記のような方法で行う。
まず、正極活物質の入った容器内を真空排気した上で、容器内に水銀を満たす。水銀は表面張力が高く、そのままでは正極活物質の表面の細孔には水銀は浸入しないが、水銀に圧力をかけ、徐々に昇圧していくと、径の大きい細孔から順に径の小さい細孔へと、徐々に細孔の中に水銀が浸入していく。
圧力を連続的に増加させながら細孔への水銀圧入量を検出していけば、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係から水銀圧入曲線が得られる。
ここで、細孔の形状を円筒状と仮定し、水銀に加えられた圧力をP(単位:Pa)、細孔径(細孔直径)をD(単位:μm)、水銀の表面張力をσ(単位:mN/m)、水銀と試料との接触角をθ(単位:°)とすると、細孔径は、下記式(X)で表される。
D=−4σ×cosθ/P ・・・(X)
(式(X)中、表面張力σは480dyne/cm、接触角θは140°とする。)
すなわち水銀に加えた圧力Pと水銀が浸入する細孔の直径Dとの間には相関があることから、得られた水銀圧入曲線に基づいて、正極活物質の細孔半径の大きさとその体積との関係を表す累積細孔分布曲線を得ることができる。
得られた累積細孔分布曲線において、微小細孔側から25%累積時の細孔径をD75とする。
また、得られた累積細孔分布曲線において、微小細孔側から95%累積時の細孔径をD5とする。
また、σ、θは定数であるから式(X)より、加えた圧力Pと細孔直径Dの関係が求まる。そのときの水銀浸入体積を測定することにより、累積細孔容積を導くことができる。
ここで、細孔径Dの細孔の長さをLとすると、その体積Vは下記式(Y)で表される。
V=πD2L/4 ・・・(Y)
円筒の側面積S=πDLのため、S=4V/Dと表すことができる。ここで、ある細孔径の範囲での体積増加dVが、あるひとつの平均細孔径を有する円筒細孔によるものと仮定すれば、その区間で増加した比表面積はdA=4dV/Dav (Davは平均細孔径)と求めることができ、細孔比表面積ΣAが算出される。
なお、水銀圧入法による細孔径のおおよその測定限界は、下限が約2nm以上、上限が約200μm以下である。水銀圧入法による測定は、水銀ポロシメータ等の装置を用いて行うことができる。水銀ポロシメータの具体例としては、オートポアIV9520(Micromeritics 社製)等が挙げられる。
なお、水銀圧入法による測定の前には、正極活物質をあらかじめ乾燥させることが好ましい。乾燥条件としては、例えば100℃以上150℃以下の温度で、2時間以上5時間以下乾燥させればよい。
本実施形態においては、下記要件4〜要件5をさらに満たすことが好ましい。
(要件4)
本実施形態において、正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、95%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D5)が、0.003μm以上であることが好ましく、0.0031μm以上がより好ましく、0.0032μm以上が特に好ましい。
(要件5)
本実施形態において、正極活物質が含むリチウム金属複合酸化物は、液体窒素温度における窒素吸着等温線及び窒素脱離等温線から求められる細孔物性において、窒素吸着等温線の相対圧力(p/p0)が0.99のときの窒素吸着量から求められる全細孔容積が、0.0035cm3/g未満であることが好ましい。
発明者らの検討により、従来の液系リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合には、良好な電池性能を示す正極活物質であっても、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合には、性能が不十分であるものがあることが分かった。このような全固体リチウムイオン二次電池に固有の知見に基づいて、発明者らが検討したところ、上述の要件1〜要件3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、電圧降下量(IRdrop値)を低減できることが分かった。
本実施形態の正極活物質においては、要件1を満たすことで、リチウムイオンの挿入及び脱離を良好に行うことができる。
全固体電池において電解質が挿入し得ない正極活物質中に存在する空隙は、リチウムイオンの拡散経路になり得ず、電子移動の抵抗にもなる。このため正極活物質中の空隙の容積が小さいほど、電池の内部抵抗が減少する。
要件2〜3を満たす本実施形態の正極活物質は、抵抗となりうる空隙の存在量が小さい。このため電池の内部抵抗が少なく、電圧降下量を低減できる。
以上の理由から、要件1〜3を満たす本実施形態の正極活物質は、全固体リチウムイオン電池の正極に用いた場合に、電圧降下量を低減することができ、電池性能を向上させることができる。
また、要件4を満たす細孔を表面に有する正極活物質は、表面の細孔がくさび効果を発揮できる。このため、固体電解質を保持しやすくなり、界面形成が容易となる。
充電と放電に伴い、正極活物質が体積変化した場合には界面にずれが生じ、新たな空隙が発生しうる。このような空隙は、抵抗となりうる。
要件4を満たす本実施形態の正極活物質は、充電及び放電時の膨張と収縮にも界面を維持したまま正極活物質が追従できる。このため、充電と放電に伴い、正極活物質が膨張又は収縮した場合でも界面を維持できるため、抵抗が小さくなり、電圧降下量を低減できると考えられる。
本実施形態において、全固体リチウムイオン電池の電池性能は、以下の方法で求めた初回充放電効率により評価することができる。
<全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成になるように混合し、混合粉を得る。得られた混合粉に、樹脂バインダー(エチルセルロース)と、可塑剤(フタル酸ジオクチル)と、溶媒(アセトン)とを、混合粉:樹脂バインダー:可塑剤:溶媒=100:10:10:100(質量比)の組成となるように加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合する。
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得る。
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成する。
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シーを得る。
(全固体リチウムイオン電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(例えば、株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得る。
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、100gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させる。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得る。
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねる。
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、全固体リチウムイオン電池を作製する。
<初回充放電効率の測定>
作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で初回充放電試験を実施する。
<初回充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.01CA、定電流定電圧充電(カットオフ電流0.002CA)
放電最小電圧2.5V、放電電流0.01CA、定電流放電
<電圧降下量(IRdrop値)の測定>
前述の電圧4.3Vでの初期充電の後、最初の放電開始し、30秒後の電圧(「V1」とする。)を測定した。「4.3V−V1」の値を、電圧降下量(IRdrop値)とする。
(その他の構成1)
本実施形態の正極活物質は、正極活物質を構成する粒子が、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、一次粒子及び二次粒子とは独立して存在する単粒子と、からなることが好ましい。
本発明において、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子であって、粒子径が0.5μm未満の粒子を意味する。
本発明において、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集することにより形成された粒子を意味する。二次粒子は、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在する。
本発明において、「単粒子」とは、二次粒子とは独立して存在し、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子であって、粒子径が0.5μm以上の粒子を意味する。
すなわち、本実施形態の正極活物質は、走査型電子顕微鏡を用いて20000倍の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子と、外観上に粒界が存在する粒子とからなる。
外観上に粒界が存在しない粒子は、粒子径が0.5μmを基準に小粒径の「一次粒子」と、大粒径の「単粒子」とからなる。
外観上に粒界が存在する粒子は、上記「一次粒子」の凝集粒である「二次粒子」である。
本実施形態の正極活物質においては、粒子全体における単粒子の含有率が、20%以上であると好ましい。粒子全体における単粒子の含有率が20%以上である正極活物質は、全固体電池に用いた場合、正極層内で固体電解質との接触界面を担保しやすく、界面を通じたリチウムイオンの伝導がスムーズに行われる。
また、粒子全体における単粒子の含有率が20%以上である正極活物質は、粒子全体における単粒子の粒子内に粒界が存在しないため、全固体電池の正極に用い充放電を繰り返したとしても、粒子が割れにくく、導電経路を保持しやすい。
単粒子の平均粒子径は、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。また、単粒子の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
単粒子の平均粒子径の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
二次粒子の平均粒子径は、3.0μm以上であることが好ましく、5.0μm以上であることがより好ましい。また、二次粒子の平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
二次粒子の平均粒子径の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
単粒子及び二次粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定することができる。
まず、本実施形態の正極活物質を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せる。次いで、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5510)を用い、正極活物質に加速電圧が20kVの電子線を照射して、20000倍の視野にて観察を行う。
次いで、得られた電子顕微鏡画像(SEM写真)から下記方法で50個以上98個以下の単粒子又は二次粒子を抽出する。
(単粒子の抽出方法)
単粒子の平均粒子径を測定する場合、20000倍の拡大視野において、一視野に含まれる単粒子の全てを測定対象とする。一視野に含まれる単粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の単粒子を測定対象とする。
(二次粒子の抽出方法)
二次粒子の平均粒子径を測定する場合、20000倍の拡大視野において、一視野に含まれる二次粒子の全てを測定対象とする。一視野に含まれる二次粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の二次粒子を測定対象とする。
抽出した単粒子又は二次粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を、単粒子又は二次粒子の粒子径として測定する。
得られた単粒子又は二次粒子の粒子径の算術平均値が、正極活物質に含まれる単粒子の平均粒子径、又は正極活物質に含まれる二次粒子の平均粒子径である。
(その他の構成2)
本実施形態において正極活物質は、正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に、金属複合酸化物からなる被覆層を有することが好ましい。
被覆層を構成する金属複合酸化物としては、リチウムイオン伝導性を有する酸化物が好適に用いられる。
被覆層を構成する金属複合酸化物がリチウムイオン伝導性を有さない場合であっても、被覆層が非常に薄膜(例えば、0.1nm以上1.0nm以下)であれば、被覆層を有さない正極活物質と比べて電池性能が向上することが知られている。この場合、被覆層には、リチウムイオン伝導性が発現していると推測される。しかし、正極活物質のような粒子表面に均一な被覆層を1.0nm以下の厚さに制御して製造する方法は量産性が乏しい製法に限定される。
対して、被覆層を構成する金属複合酸化物がリチウムイオン伝導性を有すると、被覆層の厚さが5nm〜20nm程度であっても被覆層が好適にリチウムイオンを伝導し、電池性能を向上させることができ好ましい。
なお、被覆層の厚さは、レーザー回折式粒度分布測定で得られた50%累積体積粒度D50(μm)±5%の最大径を示す正極活物質を対象として測定することができる。10個の粒子について測定した値の算術平均値を、被覆層の厚さとする。
測定対象である正極活物質の粒子について、被覆層の平均の厚さは、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)−エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDX)を用いた分析結果により求める。被覆層に特有の元素のラインプロファイルを作成し、得られたラインプロファイルに基づいて、上記特有の元素が検出される範囲を被覆層の存在範囲として、被覆層の厚さを求めることができる。
このような金属複合酸化物としては、例えば、Liと、Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、V及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との金属複合酸化物を挙げることができる。
本実施形態の正極活物質が被覆層を有すると、正極活物質と固体電解質との界面における高抵抗層の形成を抑制し、全固体電池の高出力化が実現できる。このような効果は、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる硫化物系全固体電池において得られやすい。
<正極活物質の製造方法1>
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物を製造するにあたって、まず、目的物であるリチウム金属複合酸化物を構成する金属のうちリチウム以外の金属を含む金属複合化合物を調製し、当該金属複合化合物を適当なリチウム化合物と、不活性溶融剤と焼成することが好ましい。
詳しくは、「金属複合化合物」は、必須金属であるNiと、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、La及びVのうちいずれか1種以上の任意金属と、を含む化合物である。
金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。
以下に、リチウム金属複合酸化物の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム金属複合酸化物の製造工程とに分けて説明する。
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知の共沈殿法により製造することが可能である。共沈殿法としては、通常公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法を用いることができる。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、金属複合化合物の製造方法を詳述する。
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NiaCobMnc(OH)2(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
以上の金属塩は、上記NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応する割合で用いる。すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるニッケル、コバルト塩溶液の溶質におけるコバルト、マンガン塩溶液の溶質におけるマンガンのモル比が、NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応してa:b:cとなる量を用いる。
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水である。すなわち、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水溶液である。
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン、及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。錯化剤は、例えば、アンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
金属複合水酸化物の製造工程において、錯化剤は、用いられてもよく、用いられなくてもよい。錯化剤が用いられる場合、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。本実施形態においては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムである。
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、NiaCobMnc(OH)2が生成する。
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30〜70℃の範囲内で制御する。
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
反応槽に供給する金属塩溶液の金属塩濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の二次粒子径、細孔半径等の各種物性を制御することが出来る。
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
得られる反応生成物を酸化する化合物(酸化剤)として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
詳しくは、反応槽内は、不活性雰囲気であってもよい。反応槽内が不活性雰囲気であると、混合液に含まれる金属のうち、ニッケルよりも酸化されやすい金属が、ニッケルよりも先に凝集してしまうことが抑制される。そのため、均一な金属複合水酸化物が得られる。
また、反応槽内は、適度な酸化性雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気は、不活性ガスに、酸化性ガスを混合した酸素含有雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させてもよい反応槽内が適度な酸化性雰囲気であることにより、混合液に含まれる遷移金属が適度に酸化され、金属複合酸化物の形態を制御しやすくなる。
酸化性雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
酸化性雰囲気が酸素含有雰囲気である場合、反応槽内の雰囲気の制御は、反応槽内に酸化性ガスを通気させる、混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥することで、金属複合化合物が得られる。本実施形態では、金属複合化合物としてニッケルコバルトマンガン水酸化物が得られる。また、反応沈殿物に水で洗浄するだけでは混合液に由来する夾雑物が残存してしまう場合には、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や、アルカリ溶液で洗浄してもよい。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含む水溶液を挙げることができる。
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製することができる。焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
本工程では、上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥させた後、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物とリチウム化合物とを混合する。また、本実施形態において、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物とリチウム化合物を混合する際に、同時に不活性溶融剤を混合することが好ましい。
金属複合酸化物とリチウム化合物と不活性溶融剤とを含む混合物、又は金属複合水酸化物とリチウム化合物と不活性溶融剤とを含む混合物を焼成することにより、不活性溶融剤の存在下で、金属複合化合物とリチウム化合物との混合物を焼成することになる。金属複合化合物とリチウム化合物との混合物を不活性溶融剤の存在下で焼成することにより、一次粒子同士が焼結して二次粒子が生成することを抑制できる。また、単粒子の成長を促進できる。
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
水酸化リチウムが不純物として炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウム中の炭酸リチウムの含有率は、5質量%以下であることが好ましい。
本実施形態において、上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥条件は特に制限されない。乾燥条件は、例えば、下記1)〜3)のいずれの条件でもよい。
1)金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件。具体的には、酸化物が酸化物のまま維持される乾燥条件、水酸化物が水酸化物のまま維持される乾燥条件である。
2)金属複合水酸化物が酸化される条件。具体的には、水酸化物が酸化物に酸化される乾燥条件である。
3)金属複合酸化物が還元される条件。具体的には、酸化物が水酸化物に還元される乾燥条件である。
酸化又は還元がされない条件のためには、乾燥時の雰囲気に窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよい。
水酸化物が酸化される条件のためには、乾燥時の雰囲気に酸素又は空気を使用すればよい。
また、金属複合酸化物が還元される条件のためには、乾燥時に、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
以上のリチウム化合物と金属複合化合物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合化合物を用いる場合、リチウム化合物と当該金属複合化合物は、LiNiaCobMncO2(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるリチウム金属複合酸化物において、リチウムが過剰(含有モル比が1超)である場合には、リチウム化合物に含まれるリチウムと、金属複合化合物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となるように混合する。
ニッケルコバルトマンガン複合化合物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行ってもよい。不活性溶融剤の存在下で焼成を行うことにより、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム金属複合酸化物に残留していてもよいし、焼成後に水やアルコールで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム金属複合酸化物は水やアルコールを用いて洗浄することが好ましい。
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
通常、保持温度が高くなればなるほど、単粒子の粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス200℃以上不活性溶融剤の融点プラス200℃以下の範囲で行うことが好ましい。
保持温度として、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、700℃以上1000℃以下がさらに好ましく、800℃以上1000℃以下が特に好ましい。
保持温度を上記下限値以下とすることにより、熱応力により正極活物質粒子が割れることに起因する新たな細孔の発生を防止できる。
保持温度を上記下限値以上とすることにより、上記要件2〜3の範囲に制御できる。
また、前記保持温度で保持する保持時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられる。保持時間は0.5時間以上10時間以下が好ましい。
前記保持温度までの昇温速度は、例えば50℃/時間以上400℃/時間以下であり、100℃/時間以上300℃/時間以下が好ましく、120℃/時間以上200℃/時間以下がより好ましい。
昇温速度が上記の範囲であると、微小なクラックの発生を抑制しながら正極活物質粒子の粒子成長を促進しやすい。この場合、微小なクラックの発生に伴う微細孔の形成も抑制できるため、要件2〜3を満たす正極活物質が得られやすくなる。
昇温速度、保持温度及び保持時間の組み合わせとして、好ましい組み合わせを以下の(例1)〜(例3)に記載する。
(例1)120℃/時間以上200℃/時間以下の昇温速度で昇温し、800℃以上1000℃以下の温度で0.5時間以上10時間以下の時間保持する。
(例2)120℃/時間以上200℃/時間以下の昇温速度で昇温し、900℃以上1000℃以下の温度で1時間以上5時間以下の時間保持する。
(例3)120℃/時間以上200℃/時間以下の昇温速度で昇温し、800℃以上900℃以下の温度で5時間以上12時間以下の時間保持する。
前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
上述の方法で得られたリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩及びAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF2(融点:1402℃)、MgF2(融点:1263℃)、SrF2(融点:1473℃)及びBaF2(融点:1355℃)を挙げることができる。
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl2(融点:782℃)、MgCl2(融点:714℃)、SrCl2(融点:857℃)及びBaCl2(融点:963℃)を挙げることができる。
Aの炭酸塩としては、Na2CO3(融点:854℃)、K2CO3(融点:899℃)、Rb2CO3(融点:837℃)、Cs2CO3(融点:793℃)、CaCO3(融点:825℃)、MgCO3(融点:990℃)、SrCO3(融点:1497℃)及びBaCO3(融点:1380℃)を挙げることができる。
Aの硫酸塩としては、Na2SO4(融点:884℃)、K2SO4(融点:1069℃)、Rb2SO4(融点:1066℃)、Cs2SO4(融点:1005℃)、CaSO4(融点:1460℃)、MgSO4(融点:1137℃)、SrSO4(融点:1605℃)及びBaSO4(融点:1580℃)を挙げることができる。
Aの硝酸塩としては、NaNO3(融点:310℃)、KNO3(融点:337℃)、RbNO3(融点:316℃)、CsNO3(融点:417℃)、Ca(NO3)2(融点:561℃)、Mg(NO3)2、Sr(NO3)2(融点:645℃)及びBa(NO3)2(融点:596℃)を挙げることができる。
Aのリン酸塩としては、Na3PO4、K3PO4(融点:1340℃)、Rb3PO4、Cs3PO4、Ca3(PO4)2、Mg3(PO4)2(融点:1184℃)、Sr3(PO4)2(融点:1727℃)及びBa3(PO4)2(融点:1767℃)を挙げることができる。
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)2(融点:408℃)、Mg(OH)2(融点:350℃)、Sr(OH)2(融点:375℃)及びBa(OH)2(融点:853℃)を挙げることができる。
Aのモリブデン酸塩としては、Na2MoO4(融点:698℃)、K2MoO4(融点:919℃)、Rb2MoO4(融点:958℃)、Cs2MoO4(融点:956℃)、CaMoO4(融点:1520℃)、MgMoO4(融点:1060℃)、SrMoO4(融点:1040℃)及びBaMoO4(融点:1460℃)を挙げることができる。
Aのタングステン酸塩としては、Na2WO4(融点:687℃)、K2WO4、Rb2WO4、Cs2WO4、CaWO4、MgWO4、SrWO4及びBaWO4を挙げることができる。
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、不活性溶融剤全体の融点が下がることもある。
また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩及びAの塩化物からなる群から選ばれる1種以上の塩が好ましい。
また、Aは、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。
すなわち、上記の不活性溶融剤の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、Na2CO3,K2CO3、Na2SO4、及びK2SO4からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、K2SO4及びNa2SO4のいずれか一方又は両方を用いることがより好ましい。
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。一例を挙げると、焼成時の不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、より結晶成長を促進させる場合には、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。このような不活性溶融剤としては、NH4Cl、NH4Fなどのアンモニウム塩等を挙げることができる。
(被覆層の形成工程)
正極活物質の粒子表面に被覆層を形成する場合、まずは被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を混合する。次に必要に応じて熱処理することによりリチウム金属複合酸化物の粒子の表面にリチウム金属複合酸化物からなる被覆層を形成できる。
被覆材原料によっては、上述したリチウム金属複合酸化物の製造工程において、金属複合化合物とリチウム化合物とを混合する際に、さらに被覆材原料を添加し混合することができる。
被覆材原料は、上述したリチウム化合物と、Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、V及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩又はアルコキシドとを用いることができる。Nb、Ge、Si、P、Al、W、Ta、Ti、S、Zr、Zn、V及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物は、酸化物であることが好ましい。
被覆材原料としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、酸化ホウ素、ホウ酸等が挙げられ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ホウ素、ホウ酸、酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム、ホウ酸リチウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウムが好ましい。
リチウム金属複合酸化物の表面に被覆材原料をより効率的に被覆するため、被覆材原料はリチウム金属複合酸化物の二次粒子に比べて微粒であることが好ましい。具体的には、被覆材原料の平均二次粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。
被覆材原料の平均二次粒子径の下限は小さいほど好ましい。被覆材原料の平均二次粒子径は、例えば0.001μmである。被覆材原料の平均二次粒子径は、リチウム金属複合酸化物の平均二次粒子径と同様の方法で測定することができる。
被覆層を形成する際、被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物は、被覆材原料の凝集体又はリチウム金属複合酸化物の凝集体がなくなるまで均一に混合される。被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を均一に混合できれば混合装置は限定されないが、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合する混合工程において、被覆材原料を添加し混合する場合も、同様である。
また、混合を水又は水と炭酸ガスを含有する雰囲気中で行うことによって、被覆層をリチウム金属複合酸化物の表面により強固に付着させることができる。
混合後に水又は水と炭酸ガスを含有する雰囲気中において、被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を保持させることによっても被覆層をリチウム金属複合酸化物の表面により強固に付着させることができる。
被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物の混合後に熱処理する場合、熱処理条件は、被覆材原料の種類に応じて、異なる場合がある。熱処理条件としては、熱処理温度及び熱処理の保持時間が挙げられる。
例えば、被覆材原料にアルミニウムを用いる場合、600℃以上800℃以下の温度範囲で、4時間以上10時間以下焼成することが好ましい。この高温長時間の焼成条件で焼成することにより、上記要件2〜3の範囲に制御できる。焼成温度が800℃よりも高い温度であると、被覆材原料がリチウム金属複合酸化物と固溶し、被覆層が形成されない場合がある。焼成時間が4時間よりも短いと被覆原料の拡散が不十分で、被覆層が均一に形成されない場合がある。
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内の雰囲気の温度を意味し、かつ本焼成工程での保持温度の最高温度である。「保持温度の最高温度」のことを、以下、最高保持温度と呼ぶことがある。本焼成工程が、複数の加熱工程を有する場合、各加熱工程のうち、焼成温度とは最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
被覆層を形成する別の方法としては、スパッタリング、CVD、蒸着、噴霧被覆などの手法を用いることもできる。これらの手法でリチウム金属複合酸化物の表面に、被覆層を形成させて、全固体リチウムイオン電池用正極活物質を得ることもできる。
被覆材原料の種類によっては、上述したリチウム金属複合酸化物の製造工程において、金属複合化合物とリチウム化合物とを混合する際に、さらに被覆材原料を添加して混合し、焼成することにより全固体リチウムイオン電池用正極活物質を得られる場合もある。
例えば、製造するリチウム金属複合酸化物の焼成温度よりも、製造する被覆層の焼成温度のほうが低い場合に、このような製造方法を適用するのが好ましい。
また、リチウム金属複合酸化物の焼成温度と被覆層の焼成温度に大きな差がない場合にも、このような製造方法により被覆層を形成できる。ここで「大きな差」とは、例えば300℃以上の差がある場合が挙げられる。
金属複合化合物とリチウム化合物とを混合する混合工程において、さらに被覆材原料を添加する場合、被覆材原料、金属複合化合物及びリチウム化合物は、被覆材原料の凝集体、金属複合化合物の凝集体及びリチウム化合物の凝集体がなくなるまで均一に混合される。被覆材原料、金属複合化合物及びリチウム化合物を均一に混合できれば混合装置は限定されない。混合装置は、レーディゲミキサーが好ましい。
被覆材原料、金属複合化合物及びリチウム化合物の混合物を、上述の被覆層の焼成条件で焼成することで、リチウム金属複合酸化物の表面に被覆層が形成され、全固体リチウムイオン電池用正極活物質が得られる。
リチウム金属複合酸化物の一次粒子又は二次粒子の表面に、被覆層を形成した粒子は、適宜解砕、分級され、全固体リチウムイオン電池用正極活物質となる。
<正極活物質の製造方法2>
本実施形態の正極活物質が単粒子及び二次粒子を含む場合、上述した正極活物質の製造方法1から、以下の変更を行うことで、正極活物質を製造することができる。
(金属複合化合物の製造工程)
正極活物質の製造方法2においては、金属複合化合物の製造工程において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物と、二次粒子を形成する金属複合化合物をそれぞれ製造する。以下において、最終的に単粒子を形成する金属複合化合物を「単粒子前駆体」と記載することがある。また、最終的に二次粒子を形成する金属複合化合物を「二次粒子前駆体」と記載することがある。
正極活物質の製造方法2においては、上述の共沈殿法により金属複合化合物を製造する際、単粒子前駆体を製造する第1の共沈槽と、二次粒子前駆体を形成する第2の共沈槽を用いる。
第1の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、単粒子前駆体を製造できる。
具体的には、反応槽の温度は、例えば30℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上70℃以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも高いpHであることが特に好ましい。
また、第2の共沈槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、二次粒子前駆体を製造できる。
具体的には、反応槽の温度は例えば20℃以上80℃以下が好ましく、30℃以上70℃以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±20℃の範囲であることがさらに好ましい。また、反応槽内のpH値は例えばpH10以上pH13以下が好ましく、pH11以上pH12.5以下の範囲内で制御されることがより好ましく、後述する第2の反応槽に対し±pH2以内の範囲であることがさらに好ましく、第2の反応槽よりも低いpHであることが特に好ましい。
このようにして得られる反応生成物をそれぞれ水で洗浄した後、乾燥させることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を単離する。単離するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物は、単粒子前駆体と二次粒子前駆体とを含む。
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を焼成することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製できる。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の焼成条件については、上述の条件を採用することができる。
(リチウム金属複合酸化物の製造工程)
リチウム金属複合酸化物の製造工程においては、上述の工程で得られた単粒子前駆体、二次粒子前駆体としての上記金属複合酸化物又は金属複合水酸化物を乾燥した後、リチウム化合物と混合する。単粒子前駆体、二次粒子前駆体は、乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
単粒子前駆体及び二次粒子前駆体を混合時に所定の質量比で混合することで、得られる単粒子と二次粒子の存在比率をおおよそ制御できる。
なお、混合以降の工程において、単粒子前駆体及び二次粒子前駆体がそれぞれ凝集又は分離し、単粒子前駆体が凝集して生じる二次粒子、及び二次粒子前駆体が分離して生じる単粒子もそれぞれ存在し得る。単粒子前駆体と二次粒子前駆体との混合比率及び混合以降の工程の条件を調整することで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物における単粒子と二次粒子の存在比率は制御することができる。
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の単粒子の平均粒子径と二次粒子の平均粒子径を、本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
<正極活物質の製造方法3>
また、本実施形態の正極活物質が単粒子及び二次粒子を含む場合、上述した正極活物質の製造方法1により、単粒子から構成される第1のリチウム金属複合酸化物と、二次粒子から構成される第2のリチウム金属複合酸化物とを、それぞれ製造し、第1のリチウム金属複合酸化物及び第2のリチウム金属複合酸化物を混合することにより製造できる。
正極活物質の製造方法3においては、リチウム金属複合酸化物の製造工程において、第1のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度を、第2のリチウム金属複合酸化物を焼成する際の保持温度よりも高くするとよい。詳しくは、第1のリチウム金属複合酸化物を製造する場合には第2のリチウム金属複合酸化物の保持温度よりも、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
得られた第1のリチウム金属複合酸化物及び第2のリチウム金属複合酸化物を所定の割合で混合することにより、単粒子及び二次粒子を含むリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
<全固体リチウムイオン電池>
次いで、全固体リチウムイオン電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係る全固体リチウムイオン電池正極活物質を全固体リチウムイオン電池の正極活物質として用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウムイオン電池について説明する。
図1、2は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池の一例を示す模式図である。図1は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池が備える積層体を示す模式図である。図2は、本実施形態の全固体リチウムイオン電池の全体構成を示す模式図である。本実施形態の全固体リチウムイオン電池は二次電池である。
全固体二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。
各部材を構成する材料については、後述する。
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。
積層体100において、正極110と負極120とは、互いに短絡しないように固体電解質層130を挟持している。その他、全固体リチウムイオン電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有し、正極110と負極120との短絡を防止していてもよい。
全固体リチウムイオン電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
全固体リチウムイオン電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
全固体リチウムイオン電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体リチウムイオン電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様である正極活物質を含む。また、正極活物質層111は、固体電解質(第2の固体電解質)、導電材、バインダーを含むこととしてもよい。
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる第2の固体電解質と接触している。詳しくは、正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(正極活物質)と、複数の粒子(正極活物質)の間に充填され粒子(正極活物質)と接触する固体電解質とを含む。
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
本実施形態においては、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を用いることが好ましく、酸化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1−aTiO3(0<a<1)などのLi−La−Ti系酸化物、LibLa1−bTaO3(0<b<1)などのLi−La−Ta系酸化物、LicLa1−cNbO3(0<c<1)などのLi−La−Nb系酸化物などが挙げられる。
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2−d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LimM1 nM2 oPpOqで表される酸化物である。
式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、m、n、o、p及びqは、任意の正数である。
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4−Li3M4O4で表される酸化物などが挙げられる。
式中、M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi−La−Zr系酸化物などが挙げられる。
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。非晶質(アモルファス)固体電解質として、例えばLi3BO3、Li2B4O7、LiBO2などのLi−B−O化合物が挙げられる。酸化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S−P2S5系化合物、Li2S−SiS2系化合物、Li2S−GeS2系化合物、Li2S−B2S3系化合物、Li2S−P2S3系化合物、LiI−Si2S−P2S5、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li3PO4−P2S5、Li10GeP2S12などを挙げることができる。
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S−P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、Li2S−P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
Li2S−P2S5系化合物としては、Li2S−P2S5、Li2S−P2S5−LiI、Li2S−P2S5−LiCl、Li2S−P2S5−LiBr、Li2S−P2S5−Li2O、Li2S−P2S5−Li2O−LiI、Li2S−P2S5−ZmSn(m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)などを挙げることができる。
Li2S−SiS2系化合物としては、Li2S−SiS2、Li2S−SiS2−LiI、Li2S−SiS2−LiBr、Li2S−SiS2−LiCl、Li2S−SiS2−B2S3−LiI、Li2S−SiS2−P2S5−LiI、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4、Li2S−SiS2−LixMOy(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)などを挙げることができる。
Li2S−GeS2系化合物としては、Li2S−GeS2、Li2S−GeS2−P2S5などを挙げることができる。
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4−3KI、LiBH4−PI2、LiBH4−P2S5、LiBH4−LiNH2、3LiBH4−LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I、Li4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。
また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。ゲルタイプのポリマー系固体電解質が有する非水電解液は、従来の液系リチウムイオン二次電池が有する非水電解液と異なり、流動性を失って電解液よりも高い剛性率を示す。液系リチウムイオン二次電池に用いられる電解液の剛性率はゼロである。この点において、ゲルタイプのポリマー系固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池も、従来の液系リチウムイオン二次電池とは異なり、本発明の全固体リチウムイオン電池に該当する。
ゲルタイプのポリマー系固体電解質において、固体電解質層に含まれる高分子化合物の割合は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
(導電材)
本実施形態の正極活物質層111が有してもよい導電材としては、炭素材料や金属化合物を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、及び正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
以下、ポリフッ化ビニリデンのことを、PVdFと称することがある。また、ポリテトラフルオロエチレンのことを、PTFEと称することがある。
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、及び正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。
正極活物質シートは、上述の固体電解質、導電材及びバインダーからなる群から選ばれるいずれか1つ以上を含むこととしてもよい。
正極活物質シートは、例えば、正極活物質と、焼結助剤と、上述の導電材と、上述のバインダーと、可塑剤と、溶媒とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをキャリアフィルム上に塗布して乾燥させることで得られる。
焼結助剤としては、例えばLi3BO3やAl2O3を用いることができる。
可塑剤としては、例えばフタル酸ジオクチルを用いることができる。
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール、N−メチル−2−ピロリドンを用いることができる。
スラリーの調製時において、混合はボールミルを用いることができる。得られた混合物には、混合時に混入した気泡が含まれることが多いため、減圧して脱泡するとよい。脱泡すると、一部の溶媒が揮発し濃縮することで、スラリーが高粘度化する。
スラリーの塗布は、公知のドクターブレードを用いて行うことができる。
キャリアフィルムとしては、PETフィルムを用いることができる。
乾燥後に得られる正極活物質シートは、キャリアフィルムから剥離され、適宜打ち抜き加工により必要な形状に加工されて用いられる。また、正極活物質シートは、適宜厚み方向に一軸プレスしてもよい。
(正極集電体)
本実施形態の正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni、ステンレス、Auなどの金属材料を形成材料とするシート状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。以下、N−メチル−2−ピロリドンのことを、NMPということがある。
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3−xAxN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、又は微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質(第1の固体電解質)を有している。正極活物質層111に固体電解質が含まれる場合、固体電解質層130を構成する固体電解質(第1の固体電解質)と、正極活物質層111に含まれる固体電解質(第2の固体電解質)とが同じ物質であってもよい。固体電解質層130は、リチウムイオンを伝達する媒質として機能するとともに、正極110と負極120とを分け、短絡を防止するセパレータとしても機能する。
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
さらに、固体電解質層130は、固体電解質を予めペレット状に形成し、固体電解質のペレットと、上述の正極活物質シートとを重ねて積層方向に一軸プレスすることで形成することができる。正極活物質シートは、正極活物質層111になる。
得られた正極活物質層111と固体電解質層130との積層体に対し、さらに正極活物質層111に正極集電体112を配置する。積層方向に一軸プレスして、さらに焼結することで、固体電解質層130と正極110とを形成することができる。
このような正極110は、固体電解質層130と接触している。固体電解質層130は、第1の固体電解質を有する。
正極110は、固体電解質層130に接する正極活物質層111と、正極活物質層111が積層された正極集電体112と、を有する。正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(すなわち、本発明の一態様である正極活物質)と、複数の粒子の間に充填され粒子と接触する固体電解質(第2の固体電解質)とを含む。
正極活物質層111に含まれる固体電解質及び粒子は、それぞれ固体電解質層130に接触している。すなわち、正極活物質層111に含まれる粒子は、正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している。
なお、正極活物質層111に含まれる粒子(正極活物質)の全てが正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している必要は無い。
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる固体電解質と接触することで、正極活物質層111に含まれる固体電解質と導通する。また、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。さらに、正極活物質層111に含まれる固体電解質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。
これらにより、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、直接又は間接的に固体電解質層130と導通する。
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極電解質層121が接するように負極120を積層させることで製造することができる。これにより、固体電解質層130は、負極活物質層121と接触し、導通する。
上述のように、得られた全固体リチウムイオン電池100は、正極110と負極120とが短絡しないように、固体電解質層130を正極110と負極120とを接触させて提供される。提供された全固体リチウムイオン電池100は、外部電源に接続し、正極110に負の電位、負極120に正の電位を印加することで充電される。
さらに、充電された前記全固体リチウムイオン電池100は、正極110及び負極120に放電回路を接続し、放電回路に通電させることで放電する。
以上のような構成の全固体リチウムイオン電池用正極活物質によれば、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる。
以上のような構成の電極によれば、上述の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有するため、全固体リチウムイオン電池の電池性能を向上させることができる。
以上のような構成の全固体リチウムイオン電池によれば、上述の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有するため、優れた電池性能を示す。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
一つの側面として、本発明は以下の態様も包含する。
(2−1)全固体リチウムイオン電池のための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−1−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−1)の使用。
(2−2)全固体リチウムイオン電池の正極活物質のための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−2−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−2)の使用。
(2−3)全固体リチウムイオン電池の正極のための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−3−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−3)の使用。
(2−4)全固体リチウムイオン電池を製造するための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−4−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−4)の使用。
(2−5)全固体リチウムイオン電池の正極活物質を製造するための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−5−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−5)の使用。
(2−6)全固体リチウムイオン電池の正極を製造するための、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子の使用であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、前記使用。
(2−6−1)固体電解質として酸化物固体電解質を含む全固体リチウムイオン電池のための、(2−6)の使用。
(3−1)固体電解質層と接触している正極活物質であって、前記正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子からなり、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、正極活物質。
(3−1−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(3−1)の正極活物質。
(3−2)固体電解質層と接触している正極であって、前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、前記正極活物質層は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子を含み、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、正極。
(3−2−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(3−2)の正極。
(3−3)固体電解質層と接触している正極であって、前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、前記正極活物質層は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子と、複数の前記粒子の間に充填され前記粒子と接触する固体電解質とを含み、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、正極。
(3−3−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(3−3)の正極。
(3−3−2)正極活物質層が有する固体電解質が酸化物固体電解質である、(3−3)又は(3−3−1)の正極。
(3−4)固体電解質層と接触している正極であって、前記正極は、前記固体電解質層に接する正極活物質層と、前記正極活物質層が積層された集電体と、を有し、前記正極活物質層は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子と、複数の前記粒子の間に充填され前記粒子と接触する固体電解質とを含み、前記正極活物質層に含まれる前記固体電解質及び前記粒子は、それぞれ前記固体電解質層に接触し、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、正極。
(3−4−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(3−4)の正極。
(3−4−2)正極活物質層が有する固体電解質が酸化物固体電解質である、(3−4)又は(3−4−1)の正極。
(3−5)
(3−1)(3−1−1)のいずれか1つに記載の正極活物質、又は(3−2)(3−2−1)(3−3)(3−3−1)(3−3−2)(3−4)(3−4−1)(3−4−2)のいずれか1つに記載の正極を含む全固体リチウムイオン電池。
(4−1)
正極と負極とが短絡しないように、固体電解質層を正極と負極とを接触させて提供すること、及び、外部電源により、前記正極に負の電位、前記負極に正の電位を印加することを含み、前記正極は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子を含み、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、全固体リチウムイオン電池の充電方法。
(4−1−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(4−1)の全固体リチウムイオン電池の充電方法。
(4−2)
正極と負極とが短絡しないように、固体電解質層を正極と負極とを接触させて提供すること、外部電源により、前記正極に負の電位、前記負極に正の電位を印加して全固体リチウムイオン電池を充電すること、及び、充電された前記全固体リチウムイオン電池の前記正極及び前記負極に放電回路を接続することを含み、前記正極は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む粒子を含み、前記リチウム金属複合酸化物は、層状構造を有し、且つ少なくともLiと遷移金属とを含有し、水銀圧入法により求められる累積細孔容積が、0.57ml/g以下であり、水銀圧入法により求められる累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔径側から見た細孔径(D75)が、7μm以下である、全固体リチウムイオン電池の放電方法。
(4−2−1)固体電解質層が酸化物固体電解質を含む、(3−2)の全固体リチウムイオン電池の放電方法。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<正極活物質の組成分析>
後述の方法で製造される正極活物質の組成分析は、得られた正極活物質の粒子を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
<水銀圧入法による物性測定>
後述の方法で製造される正極活物質の粉末を120℃で4時間乾燥後に、オートポアIV9520(Micromeritics 社製)を用いて測定した。
まず、正極活物質の入った容器内を真空排気した上で、容器内に水銀を満たした。水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係から水銀圧入曲線を得た。
ここで、細孔の形状を円筒状と仮定し、水銀に加えられた圧力をP、その細孔径(細孔直径)をD、水銀の表面張力をσ、水銀と試料との接触角をθとすると、細孔径は、下記式(X)で表される。
D=−4σ×cosθ/P ・・・(X)
(式(X)中、表面張力σは480dyne/cm、接触角θは140°とした。)
すなわち水銀に加えた圧力Pと水銀が浸入する細孔の直径Dとの間には相関があることから、得られた水銀圧入曲線に基づいて、正極活物質の細孔半径の大きさとその体積との関係を表す累積細孔分布曲線を得た。
得られた累積細孔分布曲線において、25%累積時の微小細孔側から見た細孔径をD75とした。
また、得られた累積細孔分布曲線において、95%累積時の微小細孔側から見た細孔径をD5とした。
また、σ、θは定数であるから式(X)より、加えた圧力Pと細孔直径Dの関係が求まる。そのときの水銀浸入体積を測定することにより、累積細孔容積を得た。
<実施例1>
(正極活物質1の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.50:0.20:0.30となる割合で混合して、混合原料液1を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料液1と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.1(水溶液の水温が40℃のとき)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となる割合で秤量して混合し、混合物を得た。
その後、得られた混合物を、大気雰囲気下にて180℃/時間の昇温速度で加熱し970℃に到達したところで4時間温度を維持して焼成した。
その後室温まで冷却することで正極活物質1を得た。
(正極活物質1の評価)
正極活物質1の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.05、y=0.20、z=0.30、w=0であった。
正極活物質1のSEM観察の結果、一次粒子と二次粒子とが含まれ、単粒子は含まれていなかった。
正極活物質1の累積細孔容積は0.256ml/g、D75は2.606μm、D5は0.0036μmであった。
<実施例2>
(正極活物質2の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.88:0.08:0.04となる割合で混合して、混合原料液2を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料液2と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが12.4(水溶液の水温が40℃のとき)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2と、水酸化リチウム粉末と、硫酸カリウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05、K2SO4/(LiOH+K2SO4)=0.1(mol/mol)となる割合で秤量して混合し、混合物を得た。
その後、得られた混合物を酸素雰囲気下にて170℃/時間の昇温速度で加熱し800℃に到達したところで10時間温度を維持して焼成し、リチウム金属複合酸化物を含む焼成物を得た。
焼成物と水温5℃の純水とを、焼成物と純水との合計量に対する焼成物の割合が30質量%となるように混合し、得られたスラリーを10分間撹拌した。
スラリーを脱水し、得られた固形物を、上記スラリーの調整に用いた焼成物の2倍の質量の水温5℃の純水ですすぐ、リンス工程を実施した。
固形物を再度脱水し、80℃で15時間真空乾燥させた後、150℃で8時間真空乾燥させることで、正極活物質2を得た。
(正極活物質2の評価)
正極活物質2の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.05、y=0.08、z=0.04、w=0であった。
正極活物質2のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質2の累積細孔容積は0.560ml/g、D75は3.937μm、D5は0.0106μmであった。
<比較例1>
(正極活物質3の製造)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.20:0.25となる割合で混合して、混合原料液3を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料液3と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.0(水溶液の水温が40℃のとき)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、洗浄、脱水、単離して120℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子3と水酸化リチウム一水和物粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となる割合で秤量して混合し、混合物を得た。
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、次いで酸素雰囲気下960℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下400℃で5時間焼成して、リチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物を正極活物質3とした。
(正極活物質3の評価)
正極活物質3の組成分析を行い、組成式(A)に対応させたところ、x=0.03、y=0.20、z=0.25、w=0であった。
正極活物質3のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質3の累積細孔容積は0.700ml/g、D75は7.288μm、D5は0.0406μmであった。
<比較例2>
(正極活物質4の製造)
LiCoO2の市販品を正極活物質4として評価した。正極活物質4として、LiCoO2の市販品(豊島製作所製、LCO)を用いた。
(正極活物質4の評価)
正極活物質4のSEM観察の結果、単粒子が含まれていた。
正極活物質4の累積細孔容積は0.578ml/g、D75は7.485μm、D5は0.0118μmであった。
<全固体リチウムイオン二次電池の製造>
(正極活物質シートの製造)
前述した製造方法で得られる正極活物質と、Li3BO3とを正極活物質:Li3BO3=80:20(モル比)の組成になるように混合し、混合粉を得た。得られた混合粉に、樹脂バインダー(エチルセルロース)と、可塑剤(フタル酸ジオクチル)と、溶媒(アセトン)とを、混合粉:樹脂バインダー:可塑剤:溶媒=100:10:10:100(質量比)の組成となるように加え、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて混合した。
得られたスラリーを遊星式攪拌・脱泡装置を用いて脱泡し、正極合剤スラリーを得た。
ドクターブレードを用い、得られた正極合剤スラリーをPETフィルム上に塗布して、塗膜を乾燥させて、厚さ50μmの正極膜を形成した。
正極膜をPETフィルムから剥離して、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工し、さらに、正極膜の厚さ方向に20MPa、1分間一軸プレスすることで、厚さ40μmの正極活物質シートが得られた。正極活物質シートに含まれるLi3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質と接する固体電解質として機能する。また、Li3BO3は、正極活物質シート内で正極活物質をつなぎとめるバインダーとして機能する。
(全固体リチウムイオン電池の製造)
正極活物質シートと、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12の固体電解質ペレット(株式会社豊島製作所製)とを積層し、積層方向と平行に一軸プレスして積層体を得た。用いた固体電解質ペレットは、直径15.0mm、厚み0.5mmであった。
得られた積層体の正極活物質シートに、さらに正極集電体(金箔、厚さ500μm)を重ね、100gfで加圧した状態で、300℃で1時間加熱して有機分を焼失させた。さらに5℃/分で800℃まで昇温した後、800℃で1時間焼結して、固体電解質層と正極との積層体を得た。
次いで、以下の操作をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
固体電解質層と正極との積層体の固体電解質層に、さらに、負極(Li箔、厚さ300μm)、負極集電体(ステンレス板、厚さ50μm)、ウェーブワッシャー(ステンレス製)を重ねた。
正極からウェーブワッシャーまで重ねた積層体について、正極をコイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋に置き、ウェーブワッシャーに重ねて上蓋をして、かしめ機でかしめることで、全固体リチウムイオン電池を作製した。
<初回充放電効率の測定>
作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で初回充放電試験を実施した。
<初回充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.01CA、定電流定電圧充電(カットオフ電流0.002CA)
放電最小電圧2.5V、放電電流0.01CA、定電流放電
<電圧降下量(IRdrop値)の測定>
前述の電圧4.3Vでの初期充電の後、最初の放電開始し、30秒後の電圧(「V1」とする。)を測定した。「4.3V−V1」の値を、電圧降下量(IRdrop値)とした。
<液系リチウム二次電池の製造>
(リチウム二次電池用正極の作製)
後述する製造方法で得られる正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
(リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製)
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
(リチウム二次電池用正極の作製)で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。
ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなるように溶解したものを用いた。
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
<初回充放電効率の測定>
作製したハーフセルを用いて、以下に示す条件で初回充放電試験を実施した。
<初回充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電(カットオフ電流0.05CA)
放電最小電圧2.5V、放電電流0.2CA、定電流放電
<電圧降下(IRdrop)の測定>
前述の電圧4.3Vでの初期充電の後、最初の放電開始し、30秒後の電圧(「V1」とする。)を測定した。「4.3V−V1」の値を、電圧降下量(IRdrop値)とした。
<結果>
表1に、実施例1〜2、比較例1〜2の累積細孔容積、D75、D5をまとめて記載する。
表2に、実施例1〜2、比較例1〜2の液系リチウム二次電池と全固体リチウムイオン二次電池のIrdrop値を記載する。
評価の結果、実施例1〜2の正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池は、いずれも電圧降下量(Irdrop値)が低減されていた。
以上より、本発明が有用であることが分かった。