JP7187397B2 - 工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法及び再学習要否判定装置、再学習要否判定プログラム - Google Patents
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Description
特許文献1では、正常加工時のモータ負荷波形などを基準波形として記録しておき、加工時の負荷が基準波形から一定以上乖離した際に加工異常と見なす技術が示されている。このような技術によれば、目的の加工における正常加工時の波形を基準にできるため、任意の加工条件において加工異常を検出することができる。一方、基準波形からの乖離を指標とするため、テスト加工などにより事前に基準波形を取得しなければならず、加工条件が変化した場合は再設定が必要になる。また、基準波形からどれだけ乖離したら異常と判断するか適切なしきい値を決定するのが難しいという課題もある。
上記の課題に対し、機械学習を用いて解決を図る技術として特許文献2、3が開示されている。特許文献2では機械学習技術を用いた工具異常検出装置を、特許文献3では加工異常と判断するしきい値を学習させる方法を示している。
ところで、誤診は過検知(偽陽性、第一種過誤ともいう)と見逃し(偽陰性、第二種過誤ともいう)の二種に大別できる。しきい値を大きくすれば見逃しが増え、逆に小さくすれば過検知が増える。正常、異常を正しく分離できる診断モデルが提供できていれば、適切なしきい値を設定することで診断が正しく行えるが、学習が不十分な診断モデルの場合、しきい値を調整しても性能の改善にはつながらず、モデルの再学習が必要となる。前述したようにモデルの再学習は負担が大きいため、誤診が生じた場合、しきい値の問題か診断モデルの問題かを見分けることが重要となる。
見逃しについては、衝突などの機械異常につながったり、また、後の検査工程で製品不良が発覚するなど見逃しの発生が即座に判明することから、その場でしきい値の調整などを試みて解消が難しい場合には再学習に進む、という手段を採ることができる。過去の異常度合いの履歴と比較することで、見逃しを避けようとしきい値を下げた場合に過検知が増えるかどうか判断がつくため、再学習の要否を判定しやすい。
これらのことから、発明者は、工具摩耗の進展により加工の異常度合いが上がっていったとき、異常度合いが一定値に達する切削時間または切削距離が対数正規分布に従うことに着目し、本発明の完成に至った。
すなわち、上記目的を達成する請求項1に記載の発明は、機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械において、前記診断モデルの再学習の要否を判定する方法であって、
前記工作機械に装着された工具の累積切削時間または累積切削距離を工具使用量として記憶する工具使用量記憶ステップと、
前記加工異常診断手段が加工異常と診断した際の前記工具使用量を記憶する異常診断時工具使用量記憶ステップと、
前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布を基に、前記診断モデルの再学習の要否を判定する再学習要否判定ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記再学習要否判定ステップでは、前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布が対数正規分布に従うとき、前記診断モデルの再学習を不要と判断することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成において、前記再学習要否判定ステップの実行前に、突発的な加工異常が発生する想定確率を入力する突発異常発生確率入力ステップを実行し、
前記再学習要否判定ステップでは、前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布のサンプルから、前記突発異常発生確率入力ステップで入力された想定確率分を予め除外した上で、対数正規分布に当てはめることを特徴とする。
上記目的を達成する請求項4に記載の発明は、機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械において、前記診断モデルの再学習の要否を判定する装置であって、
前記工作機械に装着された工具の累積切削時間または累積切削距離を工具使用量として記憶する工具使用量記憶手段と、
前記加工異常診断手段が加工異常と診断した際の前記工具使用量を記憶する異常診断時工具使用量記憶手段と、
前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布を基に、前記診断モデルの再学習の要否を判定する再学習要否判定手段と、を備えることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成において、前記再学習要否判定手段は、前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布が対数正規分布に従うとき、前記診断モデルの再学習を不要と判断することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5の構成において、突発的な加工異常が発生する想定確率を入力する突発異常発生確率入力手段をさらに備え、
前記再学習要否判定手段は、前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布のサンプルから、前記突発異常発生確率入力手段で入力された想定確率分を予め除外した上で、対数正規分布に当てはめることを特徴とする。
上記目的を達成する請求項7に記載の発明は、診断モデルの再学習要否判定プログラムであって、機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械の制御装置に、請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法を実行させることを特徴とする。
図1において、工作機械1には工具3及び被削材4が取り付けられており、制御装置2にて工作機械を制御して被削材を加工する。
制御装置2には、加工異常により被削材を損失するのを防止するため、加工異常診断手段13が備えられている。加工異常診断手段13は、加工データ取得手段11から加工に関するデータを受け取り、学習済み診断モデル(図示しない)を用いて異常の有無を診断する。また、加工の進行に合わせて、工具3の累積使用量(切削時間または切削距離)を工具使用量記憶手段12に随時記録する。これらの処理や後述する再学習要否の判定は、制御装置2の記憶部に格納されたプログラムによって実行される。
加工従事者が予備の工具を補充する際や、購買担当者が追加工具を発注する際、あるいは定期診断時など、異常診断において過検知が生じていないか疑いが生じた時点で、再学習要否判定手段16にて診断モデルの妥当性を検証する。その際、必要に応じて突発異常発生確率入力手段15にて、寿命到達以前に突発異常によって脱落すると想定される工具本数比率を入力してもよい。
まず、工具の寿命を表す関係式として、Taylorの寿命方程式が知られている(非特許文献1)。また、工具摩耗進展のばらつきを考慮したとき、切削時間に対する工具寿命のばらつきが対数正規分布に従うことも知られている(非特許文献2)。
これらのことから、工具摩耗の進展により加工の異常度合いが上がっていったとき、異常度合いが一定値に達する切削時間または切削距離が対数正規分布に従うことが期待できる。つまり、加工異常診断手段13が異常と判定したときの工具使用量の度数分布が対数正規分布に従っていれば、診断モデルが加工状態に適合しているとみなすことができ、診断モデルの再学習が不要であると判断できる。一方で、度数分布が対数正規分布に従っていない場合、診断モデルが加工状態を表現できていないことを示すため、再学習が必要であると判断できる。
例として、図2に、工具100本に対する異常判定時における加工時間の度数分布を示す。対数正規確率紙に倣って考えると、横軸を加工時間の対数、縦軸を累積確率に対する標準正規分布の逆関数にとったとき、上記サンプルが対数正規分布に従う場合には直線状にプロットされることになる(下記数式)。
図2のサンプルを上記に従ってプロットしたものを図3に示す。この場合、点線で示す直線で良く近似できていることがわかり、このサンプルが対数正規分布に従っていると言える。判定基準としては、例えば決定係数(図3中のR2値)が一定値以上(例えば0.99以上)などとすることができる。
ここで、例えば過去の経験などから、全体の20%程度の工具で突発的な異常が発生することがわかっていたとする。突発的な異常は摩耗より早期に発生するため、工具寿命の短い方から20%をサンプルから除外し、再度プロットしたものを図6に示す。この場合、ほぼ直線状になり、決定係数も高い値となっている。このように、あらかじめ突発異常の割合が想定できている場合、この分をサンプルから除外することでより適切に判定することができる。
なお、想定される突発異常分を除いてもなお線形近似が適合しない場合、診断モデルが不適であり再学習が必要と判断できる。
また、再学習要否判定手段を工作機械の制御装置に内蔵する形としたが、外付けPCやクラウド上のアプリケーションなどの形で工作機械外部に置く形としても構わない。この場合、複数の工作機械について再学習の要否を並行して判定できる。
Claims (7)
- 機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械において、前記診断モデルの再学習の要否を判定する方法であって、
前記工作機械に装着された工具の累積切削時間または累積切削距離を工具使用量として記憶する工具使用量記憶ステップと、
前記加工異常診断手段が加工異常と診断した際の前記工具使用量を記憶する異常診断時工具使用量記憶ステップと、
前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布を基に、前記診断モデルの再学習の要否を判定する再学習要否判定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法。 - 前記再学習要否判定ステップでは、前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布が対数正規分布に従うとき、前記診断モデルの再学習を不要と判断することを特徴とする請求項1に記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法。
- 前記再学習要否判定ステップの実行前に、突発的な加工異常が発生する想定確率を入力する突発異常発生確率入力ステップを実行し、
前記再学習要否判定ステップでは、前記異常診断時工具使用量記憶ステップで記憶された前記工具使用量の度数分布のサンプルから、前記突発異常発生確率入力ステップで入力された想定確率分を予め除外した上で、対数正規分布に当てはめることを特徴とする請求項2に記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法。 - 機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械において、前記診断モデルの再学習の要否を判定する装置であって、
前記工作機械に装着された工具の累積切削時間または累積切削距離を工具使用量として記憶する工具使用量記憶手段と、
前記加工異常診断手段が加工異常と診断した際の前記工具使用量を記憶する異常診断時工具使用量記憶手段と、
前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布を基に、前記診断モデルの再学習の要否を判定する再学習要否判定手段と、
を備えることを特徴とする工作機械における診断モデルの再学習要否判定装置。 - 前記再学習要否判定手段は、前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布が対数正規分布に従うとき、前記診断モデルの再学習を不要と判断することを特徴とする請求項4に記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定装置。
- 突発的な加工異常が発生する想定確率を入力する突発異常発生確率入力手段をさらに備え、
前記再学習要否判定手段は、前記異常診断時工具使用量記憶手段に記憶された前記工具使用量の度数分布のサンプルから、前記突発異常発生確率入力手段で入力された想定確率分を予め除外した上で、対数正規分布に当てはめることを特徴とする請求項5に記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定装置。 - 機械学習により作成した学習済みの診断モデルを用いて加工の正常・異常を判断する加工異常診断手段を備えた工作機械の制御装置に、請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における診断モデルの再学習要否判定方法を実行させるための診断モデルの再学習要否判定プログラム。
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