JP7185844B2 - TiN基焼結体およびTiN基焼結体製切削工具 - Google Patents
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Description
この発明は、硬さと靱性にすぐれたTiN基焼結体に関し、また、このTiN基焼結体を基体とするチッピング、欠損等の耐異常損傷性と耐摩耗性にすぐれたTiN基焼結体製切削工具に関するものである。
従来、切削工具としては、WC基超硬合金製切削工具、TiCN基サーメット製切削工具、TiC基焼結合金製切削工具、TiN基焼結合金製切削工具等が知られている。
これらの切削工具のうち、TiC基焼結体製切削工具は、耐摩耗性にすぐれるものの、他の切削工具に比して、靱性が著しく劣り、熱衝撃に弱く、また、欠損も発生しやすいことから、主として、高速仕上げ切削加工で使用されている。
また、TiCN基サーメット製切削工具は、鋼に対する親和性が低く、耐摩耗性、仕上げ面粗さに優れているが、その反面、靱性は十分ではない。
一方、WC基超硬合金製切削工具は、靱性にすぐれるものの、耐摩耗性が十分であるとはいえず、さらに、合金成分として、希少金属であるW、Coを使用していることから、低コスト化を図るためにはW使用量、Co使用量の低減が必要とされる。
そこで、すぐれた靱性と耐摩耗性を備える工具材料を提供すべく、従来からいくつかの提案がなされている。
これらの切削工具のうち、TiC基焼結体製切削工具は、耐摩耗性にすぐれるものの、他の切削工具に比して、靱性が著しく劣り、熱衝撃に弱く、また、欠損も発生しやすいことから、主として、高速仕上げ切削加工で使用されている。
また、TiCN基サーメット製切削工具は、鋼に対する親和性が低く、耐摩耗性、仕上げ面粗さに優れているが、その反面、靱性は十分ではない。
一方、WC基超硬合金製切削工具は、靱性にすぐれるものの、耐摩耗性が十分であるとはいえず、さらに、合金成分として、希少金属であるW、Coを使用していることから、低コスト化を図るためにはW使用量、Co使用量の低減が必要とされる。
そこで、すぐれた靱性と耐摩耗性を備える工具材料を提供すべく、従来からいくつかの提案がなされている。
例えば、TiC基焼結合金としては、特許文献1に示されるように、Ni及び/又はCoを主成分とする結合相5~25重量%と、残り炭化チタン20~65重量%、窒化チタン18~40重量%、周期律表の6a族金属の炭化物の少なくとも1種15~40重量%を含む硬質相と不可避不純物とからなる焼結合金において、該硬質相は、平均粒径が1.0μm~2.0μmにあり、かつ0.5μm以下の粒径の硬質相が全硬質相中の1~10面積%であること、並びに前記結合相は格子定数が3.56Å~3.61Åである切削工具部品用TiC基焼結合金が提案されており、このTiC基焼結合金からなる切削工具によれば、耐熱衝撃性、耐摩耗性、耐熱塑性変形性、耐欠損性が改善されるとされている。
また、例えば、TiN基焼結合金については、特許文献2に示されるように、硬質相と結合用金属とを含有する切削工具用の焼結硬質合金において、該合金は65~97重量%の硬質相と3~35重量%の結合用金属とから成り、前記硬質相は酸素含量0.15%以下の窒化物及び/又は炭窒化物によって構成されており、硬質相を結合している前記の結合用金属は少なくとも鉄族金属の1つとクロム族金属の1つとの合金である切削工具用の焼結硬質合金が提案されており、この焼結硬質合金は、強靭性を備えるとされている。
そして、具体例を示す実施例1には、硬質相成分としてのTiN90重量%(この中の酸素含量は0.05%である)と、NiとMoとの(80:20)混合物10重量%とを、350mmHgの圧力下で窒素中で約1450℃で焼結して得た焼結硬質合金は、約1500ビッカースの硬度(荷重3kg)及び80-90kg/mm2の曲げ破損強度を示すことが記載されている。
そして、具体例を示す実施例1には、硬質相成分としてのTiN90重量%(この中の酸素含量は0.05%である)と、NiとMoとの(80:20)混合物10重量%とを、350mmHgの圧力下で窒素中で約1450℃で焼結して得た焼結硬質合金は、約1500ビッカースの硬度(荷重3kg)及び80-90kg/mm2の曲げ破損強度を示すことが記載されている。
さらに、例えば、特許文献3では、TiN65~95重量%、Moおよび/またはMo2C2~20重量%、鉄族金属3~15重量%からなるTiNを主体とする焼結合金原料粉末100重量部に対して、炭素粉末を上記原料粉末に配合されるTiNを対象としてその100重量部に対して0.2~6.8重量部の割合で添加混合し、成型、焼結したTiN基焼結合金が提案されており、このTiN基焼結合金によれば、焼成時に炭素粉末がTiN粒子の表面にTiCとして析出し、TiN粒子と結合金属(Ni、Co)の濡れ性を改善することにより、特に鋳鉄の高速連続・断続切削において、切削工具の耐久性(フランク摩耗、耐塑性変形性)が高まるとされている。
近年、切削加工の技術分野における省力化、省エネ化、高速化、高効率化、低コスト化の要請は強く、切削装置の高性能化には目ざましいものがあるが、その反面、切削工具にとっての使用条件は益々過酷なものとなってきており、工具性能の一段の向上が求められるとともに、工具寿命の延命化が求められており、そして、このような要請に応えることのできる材料の開発が望まれている。
既述のとおり、WC基超硬合金はすぐれた靱性を備えるが、耐摩耗性が十分であるとはいえず、さらに、合金成分として、希少金属であるW、Coが使用されているため、高価な工具材料であり、低コスト化を図るためにはW使用量、Co使用量の低減が課題となる。
また、TiCN基サーメットは、すぐれた硬さ、耐摩耗性を備えるが、靱性が十分でないため、これを切削工具として用いた場合には、チッピング、欠損等を発生しやすく、これを原因として工具寿命が短命となるという問題点がある。
そこで、切削工具用の材料としては、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備え、チッピング、欠損等の異常損傷を発生することなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する切削工具材料が望まれている。
既述のとおり、WC基超硬合金はすぐれた靱性を備えるが、耐摩耗性が十分であるとはいえず、さらに、合金成分として、希少金属であるW、Coが使用されているため、高価な工具材料であり、低コスト化を図るためにはW使用量、Co使用量の低減が課題となる。
また、TiCN基サーメットは、すぐれた硬さ、耐摩耗性を備えるが、靱性が十分でないため、これを切削工具として用いた場合には、チッピング、欠損等を発生しやすく、これを原因として工具寿命が短命となるという問題点がある。
そこで、切削工具用の材料としては、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備え、チッピング、欠損等の異常損傷を発生することなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する切削工具材料が望まれている。
本発明者は、上述の観点から、WC基超硬合金に匹敵する靱性を備えるとともに、TiCN基サーメットに匹敵する硬さ、耐摩耗性を相兼ね備え、しかも、希少金属であるW、Coの使用を必要としない切削工具材料について鋭意研究を行ったところ、次のような知見を得た。
まず、本発明者は、従来のTiN基焼結体からなる切削工具について、工具寿命が短命となる原因を調査したところ、TiN基焼結体は、TiN粒子と結合相との濡れ性が悪く難焼結性であるため、焼結体中には微細なポアが形成され易く緻密度が低いこと、また、Feを主成分とする結合相を用いた場合には、靱性、硬さに劣るbcc構造のFe系結合相が優先的に形成されること、さらに、Ni3Mo3C相やFe3Mo3C相の複炭化物、Fe3Mo3N相の複窒化物あるいは炭化鉄等からなる異相が形成されることによる結合相の強度の低下等が、工具寿命短命化の主たる要因であることを見出した。
そこで、本発明者は、TiN基焼結体の作製にあたり、TiN粒子と結合相との濡れ性を改善し焼結性を高めるための最適な成分組成を定めるとともに、結合相の強度を高めるための結合相構成成分の最適な成分組成を定め、さらに、結合相中での異相の形成を防止することにより、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備えたTiN基焼結体を作製することができたのである。
そして、靱性と硬さを相兼ね備えたこのTiN基焼結体を、例えば、炭素鋼、合金鋼等の連続切削、断続切削加工用の切削工具として用いたところ、従来のWC基超硬合金製切削工具とほぼ同等あるいはそれ以上にすぐれた耐異常損傷性を示すとともに、従来のTiCN基サーメット製切削工具とほぼ同等の耐摩耗性を備え、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
そこで、本発明者は、TiN基焼結体の作製にあたり、TiN粒子と結合相との濡れ性を改善し焼結性を高めるための最適な成分組成を定めるとともに、結合相の強度を高めるための結合相構成成分の最適な成分組成を定め、さらに、結合相中での異相の形成を防止することにより、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備えたTiN基焼結体を作製することができたのである。
そして、靱性と硬さを相兼ね備えたこのTiN基焼結体を、例えば、炭素鋼、合金鋼等の連続切削、断続切削加工用の切削工具として用いたところ、従来のWC基超硬合金製切削工具とほぼ同等あるいはそれ以上にすぐれた耐異常損傷性を示すとともに、従来のTiCN基サーメット製切削工具とほぼ同等の耐摩耗性を備え、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1)TiN相を70~94面積%及びMo2C相を1~25面積%を含み、残部が結合相からなる焼結組織を有するTiN基焼結体であって、
(a)前記結合相の成分は、FeとNiからなり、FeとNiの合計面積割合は5~15面積%であり、かつ、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合は、15~35質量%であり、
(b)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いてX線回折プロファイルを測定した場合、少なくとも、TiN、Mo2C及びfcc構造のFe-Niの回折ピークは存在し、bcc構造のFe-Ni、複炭化物のFe3Mo3C相および複窒化物のFe3Mo3N相の回折ピークは存在せず、
(c)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いて測定したX線回折プロファイルから、前記TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数を求めた場合、TiNの格子定数は4.235~4.245Åであり、fcc構造のFe-Niの格子定数は3.58~3.62Åであることを特徴とするTiN基焼結体。
(2) 前記(1)に記載のTiN基焼結体が少なくとも切れ刃として構成されていることを特徴とするTiN基焼結体製切削工具。」
に特徴を有するものである。
「(1)TiN相を70~94面積%及びMo2C相を1~25面積%を含み、残部が結合相からなる焼結組織を有するTiN基焼結体であって、
(a)前記結合相の成分は、FeとNiからなり、FeとNiの合計面積割合は5~15面積%であり、かつ、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合は、15~35質量%であり、
(b)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いてX線回折プロファイルを測定した場合、少なくとも、TiN、Mo2C及びfcc構造のFe-Niの回折ピークは存在し、bcc構造のFe-Ni、複炭化物のFe3Mo3C相および複窒化物のFe3Mo3N相の回折ピークは存在せず、
(c)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いて測定したX線回折プロファイルから、前記TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数を求めた場合、TiNの格子定数は4.235~4.245Åであり、fcc構造のFe-Niの格子定数は3.58~3.62Åであることを特徴とするTiN基焼結体。
(2) 前記(1)に記載のTiN基焼結体が少なくとも切れ刃として構成されていることを特徴とするTiN基焼結体製切削工具。」
に特徴を有するものである。
この発明のTiN基焼結体は、所定の面積割合のTiN相、Mo2C相及びfcc構造のFe-Ni相からなる焼結組織を有し、かつ、結合相を構成するNiとFeの含有比率を所定の質量割合とし、さらに、TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数をそれぞれ所定の数値範囲内とすることによって、焼結組織中にbcc構造のFe-Niからなる結合相やFe3Mo3C相やFe3Mo3N相等の複炭化物あるいは複窒化物相等からなる異相が形成されることを抑え、TiN基焼結体の靱性をWC基超硬合金と同程度あるいはそれ以上に高めることができ、また、その硬さをTiCN基サーメットと同程度あるいはそれ以上に高めることができる。
また、この発明のTiN基焼結体からなるTiN基焼結体製切削工具は、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備えることによって、炭素鋼、合金鋼等の連続切削、断続切削加工に供した場合であっても、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を招くことなく、すぐれた耐摩耗性を示し、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮するのである。
この発明において、TiN基焼結体の焼結組織における各相を、特定の面積割合に定めた技術的理由、結合相を構成するNiとFeの含有比率を特定の質量割合に定めた技術的理由、TiN及び結合相の格子定数を特定の数値範囲に定めた技術的理由等について、以下に説明する。
TiN相:
TiN基焼結体に占めるTiN相の含有割合が70面積%未満では、焼結体の硬さが十分ではなく、その結果、TiN基焼結体製切削工具(以下、「TiN基切削工具」という)の耐摩耗性も低下する。一方、TiN基焼結体中のTiN相が94面積%を超えると、焼結組織に微細な空隙(ポア)が形成されやすくなるため、靱性が低下し、TiN基切削工具の耐チッピング性、耐欠損性低下の要因となる。
したがって、TiN基焼結体中のTiN相の含有割合は70~94面積%とする。
なお、本発明では、TiN基焼結体の断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の領域(例えば、100μm2の領域)における含有元素量を測定し、TiN相、Mo2C相及びfcc構造のFe-Ni相を特定し、各相が前記領域に占める面積比率を算出し、少なくとも、5領域以上の複数の領域で面積比率を算出し、これらの平均値を、各相の面積%とした。
TiN基焼結体に占めるTiN相の含有割合が70面積%未満では、焼結体の硬さが十分ではなく、その結果、TiN基焼結体製切削工具(以下、「TiN基切削工具」という)の耐摩耗性も低下する。一方、TiN基焼結体中のTiN相が94面積%を超えると、焼結組織に微細な空隙(ポア)が形成されやすくなるため、靱性が低下し、TiN基切削工具の耐チッピング性、耐欠損性低下の要因となる。
したがって、TiN基焼結体中のTiN相の含有割合は70~94面積%とする。
なお、本発明では、TiN基焼結体の断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の領域(例えば、100μm2の領域)における含有元素量を測定し、TiN相、Mo2C相及びfcc構造のFe-Ni相を特定し、各相が前記領域に占める面積比率を算出し、少なくとも、5領域以上の複数の領域で面積比率を算出し、これらの平均値を、各相の面積%とした。
Mo2C相:
TiN基焼結体中のMo2C相の含有割合が1面積%未満では、TiN相と結合相間でのぬれ性が不足し、焼結組織に空隙を生じるため、靱性が低下し、一方、Mo2C相の含有割合が25面積%を超えると、Fe3Mo3C相等の複炭化物、Fe3Mo3N相等の複窒化物を生じやすくなり、これが靱性低下の要因となることから、TiN基焼結体中のMo2C相の含有割合は1~25面積%とする。
TiN基焼結体中のMo2C相の含有割合が1面積%未満では、TiN相と結合相間でのぬれ性が不足し、焼結組織に空隙を生じるため、靱性が低下し、一方、Mo2C相の含有割合が25面積%を超えると、Fe3Mo3C相等の複炭化物、Fe3Mo3N相等の複窒化物を生じやすくなり、これが靱性低下の要因となることから、TiN基焼結体中のMo2C相の含有割合は1~25面積%とする。
結合相:
TiN基焼結体に占める結合相の含有割合が、5面積%未満であると、結合相量が少ないためにTiN基焼結体の靱性が低下し、一方、結合相の含有割合が15面積%を超えると、硬質相成分であるTiN相の量が相対的に減少するため、硬度が低下し、その結果、TiN基切削工具の耐摩耗性も低下する。
したがって、TiN基焼結体に占める結合相の含有割合は5~15面積%とする。
TiN基焼結体に占める結合相の含有割合が、5面積%未満であると、結合相量が少ないためにTiN基焼結体の靱性が低下し、一方、結合相の含有割合が15面積%を超えると、硬質相成分であるTiN相の量が相対的に減少するため、硬度が低下し、その結果、TiN基切削工具の耐摩耗性も低下する。
したがって、TiN基焼結体に占める結合相の含有割合は5~15面積%とする。
また、この発明では、結合相を構成するFeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)を、15~35質量%とすることによって、
TiN基焼結体の靱性及び硬さを一段と高めることができる。
これは、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が15質量%未満の場合には、NiはFe中に固溶するが、結合相を固溶強化するほどの効果は発揮されないため結合相の硬さが不足し、また、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が35質量%を超える場合には、金属間化合物FeNi3を生じやすくなるため、結合相の靱性が低下するという理由による。
TiN基焼結体の靱性及び硬さを一段と高めることができる。
これは、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が15質量%未満の場合には、NiはFe中に固溶するが、結合相を固溶強化するほどの効果は発揮されないため結合相の硬さが不足し、また、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni/(Fe+Ni)×100)が35質量%を超える場合には、金属間化合物FeNi3を生じやすくなるため、結合相の靱性が低下するという理由による。
この発明のTiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いて、測定範囲(2θ):25~115度の範囲内でX線回折プロファイルを測定した場合、図1に示すように、少なくとも、TiN、Mo2C及びfcc構造のFe-Niの回折ピークの存在が確認されるが、bcc構造のFe-NiとFe3Mo3Cの回折ピークの存在は確認されない。なお、回折ピークの同定にはJCPDSカードを用いて行い、TiNはNo.00-088-1420、Mo2CはNo.01-071-0242、fcc構造のFe-NiはNo.98-063-2933、bcc構造のFe-NiはNo.00-087-0474、複炭化物、複窒化物はNo.00-047-1191(Fe3Mo3C)、No.01-089-7952(Fe3Mo3N)、No.01-089-2579(Fe3W3C)を用いた。
このことから、この発明のTiN基焼結体には、焼結体の靱性、硬度を低下させるbcc構造のFe-Ni相あるいはFe3Mo3C相等の複炭化物、Fe3Mo3N相等の複窒化物からなる異相は形成されていないことが理解される。
なお、X線回折測定は、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を線源として、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で行うことができる。
このことから、この発明のTiN基焼結体には、焼結体の靱性、硬度を低下させるbcc構造のFe-Ni相あるいはFe3Mo3C相等の複炭化物、Fe3Mo3N相等の複窒化物からなる異相は形成されていないことが理解される。
なお、X線回折測定は、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を線源として、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で行うことができる。
また、同様にして、この発明のTiN基焼結体の断面について、図1に示すようなX線回折プロファイルを測定し、TiN及びfcc構造のFe-Niの回折ピークから、それぞれの格子定数を求めると、TiNの格子定数は4.235~4.245Åの範囲内であり、fcc構造のFe-Niの格子定数は3.58~3.62Åの範囲内である。
ここで、TiNの格子定数が4.235Å未満であると、fcc構造のTiN結晶格子からTiもしくはNが抜けた状態となり、TiN粒子内の欠陥が増加することにより靱性が低下する。また、TiNの格子定数が4.245Åを超えるようになると、TiN結晶格子中にCが含有されるようになるため、TiN粒子の靱性が損なわれる。
したがって、TiNの格子定数は4.235~4.245Åの範囲内であることが必要である。
また、結合相を構成するfcc構造のFe-Niの格子定数が3.58Å未満であると、結合相中に含有されるC量が少ないため、Fe3Mo3Cを生じやすくなり、TiN基焼結体の靱性が低下し、一方、fcc構造のFe-Niの格子定数が3.62Åを超えるとセメンタイト等の炭化鉄の異相を生じやすくなり靱性が低下する。
したがって、結合相を構成するfcc構造のFe-Niの格子定数は、3.58~3.62Åの範囲内であることが必要である。
ここで、TiNの格子定数が4.235Å未満であると、fcc構造のTiN結晶格子からTiもしくはNが抜けた状態となり、TiN粒子内の欠陥が増加することにより靱性が低下する。また、TiNの格子定数が4.245Åを超えるようになると、TiN結晶格子中にCが含有されるようになるため、TiN粒子の靱性が損なわれる。
したがって、TiNの格子定数は4.235~4.245Åの範囲内であることが必要である。
また、結合相を構成するfcc構造のFe-Niの格子定数が3.58Å未満であると、結合相中に含有されるC量が少ないため、Fe3Mo3Cを生じやすくなり、TiN基焼結体の靱性が低下し、一方、fcc構造のFe-Niの格子定数が3.62Åを超えるとセメンタイト等の炭化鉄の異相を生じやすくなり靱性が低下する。
したがって、結合相を構成するfcc構造のFe-Niの格子定数は、3.58~3.62Åの範囲内であることが必要である。
なお、格子定数の測定は、例えば、TiNの(200)面の回折ピークが現れる2θの値、および、fcc構造のFe―Niの(111)面の回折ピークが現れる2θの値から、ブラッグの式:2dsinθ=nλ(但し、dは、格子面間隔、θはブラッグ角、2θは回折角、λは入射X線の波長、nは整数)に基づいて算出することにより、それぞれの格子定数を求めることができる。
本発明のTiN基焼結体の作製:
本発明のTiN基焼結体を作製するに際して、前記の各相の成分組成等を得るためには、まず、その原料粉末として、TiN:55~92質量%、Mo2C:1~40質量%、Fe:5~18質量%、Ni:1~5質量%であり、かつ、NiとFeの合量に対するNiの質量%(=Ni×100/(Fe+Ni))が15~35質量%という関係を満たす成分及び組成の原料粉末を用いることが好適である。
そして、前記条件を満足する原料粉末をボールミルで混合し、該混合粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製する。
ついで、前記圧粉成形体を、水素濃度1~3%、窒素濃度97~99%の混合ガスをフローしながら(窒素希釈水素雰囲気)、1350~1450℃の温度範囲で30分~120分焼結し、その後、10-1Paの真空雰囲気に切り替え、1200℃まで10℃/分の速度でヒーター加熱を行いながら冷却し、更に1200℃でヒーター加熱を停止し、室温まで自然冷却することによって、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備える本発明のTiN基焼結体を作製することができる。
なお、圧粉成形体を、窒素希釈水素雰囲気にて焼結するのは、TiN粉末と結合相の大半の成分であるFeとの濡れ性を高めると同時に焼結性を高めるためである。
また、この後、所定形状に機械加工することによって、チッピング、欠損等の耐異常損傷性及び耐摩耗性にすぐれ、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するTiN基焼結体製切削工具を作製することができる。
本発明のTiN基焼結体を作製するに際して、前記の各相の成分組成等を得るためには、まず、その原料粉末として、TiN:55~92質量%、Mo2C:1~40質量%、Fe:5~18質量%、Ni:1~5質量%であり、かつ、NiとFeの合量に対するNiの質量%(=Ni×100/(Fe+Ni))が15~35質量%という関係を満たす成分及び組成の原料粉末を用いることが好適である。
そして、前記条件を満足する原料粉末をボールミルで混合し、該混合粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製する。
ついで、前記圧粉成形体を、水素濃度1~3%、窒素濃度97~99%の混合ガスをフローしながら(窒素希釈水素雰囲気)、1350~1450℃の温度範囲で30分~120分焼結し、その後、10-1Paの真空雰囲気に切り替え、1200℃まで10℃/分の速度でヒーター加熱を行いながら冷却し、更に1200℃でヒーター加熱を停止し、室温まで自然冷却することによって、すぐれた靱性と硬さを相兼ね備える本発明のTiN基焼結体を作製することができる。
なお、圧粉成形体を、窒素希釈水素雰囲気にて焼結するのは、TiN粉末と結合相の大半の成分であるFeとの濡れ性を高めると同時に焼結性を高めるためである。
また、この後、所定形状に機械加工することによって、チッピング、欠損等の耐異常損傷性及び耐摩耗性にすぐれ、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するTiN基焼結体製切削工具を作製することができる。
つぎに、この発明の実施例を具体的に説明する。
TiN基焼結体を作製するための粉末として、平均粒径10μmのTiN粉末、平均粒径2μmのMo2C粉末、平均粒径2μmのFe粉末及び平均粒径1μmのNi粉末を用意し、表1に示す配合割合となるように配合し、かつ、Fe粉末及びNi粉末の配合量を、表1に示す配合比となるように配合することにより原料粉末1~8を用意した。なお、ここでいう平均粒径は、メジアン径(d50)を意味する。
次いで、前記の原料粉末1~8を、ボールミル中に充填して混合し、混合粉末1~8を作製し、該混合粉末1~8を乾燥した後、100~500MPaの圧力でプレス成形し、圧粉成形体1~8を作製した。
次いで、この圧粉成形体1~8を、表2に示す条件で焼結した後、10-1Paの真空雰囲気に切り替え、1200℃まで10℃/分の速度でヒーター加熱を行いながら冷却し、更に1200℃でヒーター加熱を停止し、室温まで自然冷却することによって、表3に示す本発明のTiN基焼結体(以下、「本発明焼結体」という)1~8を作製した。
比較のため、本発明工具と同等の平均粒径を有する各種粉末を、表4に示す配合組成となるように配合して原料粉末11~18を用意し、次いで、原料粉末11~18を、ボールミル中に充填して混合し、混合粉末11~18を作製し、該混合粉末11~18を乾燥した後、100~500MPaの圧力でプレス成形し、圧粉成形体11~18を作製した。
次いで、この圧粉成形体11~18を、表2および表5に示す条件で焼結した後、室温まで冷却することで、表6に示す比較例の焼結体(以下、「比較例焼結体」という)11~18を作製した。
次いで、この圧粉成形体11~18を、表2および表5に示す条件で焼結した後、室温まで冷却することで、表6に示す比較例の焼結体(以下、「比較例焼結体」という)11~18を作製した。
なお、参考のため、WC基超硬合金焼結体を、以下の方法で作製した。
原料粉末として、いずれも0.5~1μmの平均粒径を有するWC粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、WC:90質量%、Co:10質量%の割合で配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度1400℃、保持時間1時間の条件で焼結し、WC基超硬合金焼結体(以下、単に「超硬合金」という)を形成した。
上記の方法で、WC:84面積%、Co:16面積%の成分組成からなるWC基超硬合金焼結体21(以下、「参考例焼結体21」という)を作製した。
原料粉末として、いずれも0.5~1μmの平均粒径を有するWC粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、WC:90質量%、Co:10質量%の割合で配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度1400℃、保持時間1時間の条件で焼結し、WC基超硬合金焼結体(以下、単に「超硬合金」という)を形成した。
上記の方法で、WC:84面積%、Co:16面積%の成分組成からなるWC基超硬合金焼結体21(以下、「参考例焼結体21」という)を作製した。
さらに参考とするため、TiCN基サーメット焼結体を、以下の方法で作製した。
原料粉末として、いずれも0.5~3μmの平均粒径を有するTiCN粉末、Mo2C粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、TiCN:75質量%、Mo2C:10質量%、Co:7.5質量%、Ni:7.5質量%の割合で配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、200MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度1450℃、保持時間1時間の条件で焼結し、TiCN基サーメット焼結体(以下、単に「サーメット」という)を形成した。
上記の方法で、TiMoCN:90面積%、Co+Ni:10面積%の成分組成からなるTiCN基サーメット焼結体22(以下、「参考例焼結体22」という)を作製した。
原料粉末として、いずれも0.5~3μmの平均粒径を有するTiCN粉末、Mo2C粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、TiCN:75質量%、Mo2C:10質量%、Co:7.5質量%、Ni:7.5質量%の割合で配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、200MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度1450℃、保持時間1時間の条件で焼結し、TiCN基サーメット焼結体(以下、単に「サーメット」という)を形成した。
上記の方法で、TiMoCN:90面積%、Co+Ni:10面積%の成分組成からなるTiCN基サーメット焼結体22(以下、「参考例焼結体22」という)を作製した。
ついで、本発明焼結体1~8と比較例焼結体11~18について、その断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた二次電子像内の測定領域(例えば、100μm×100μmの測定領域)における含有元素量を測定し、TiN相、Mo2C相及びfcc構造のFe-Ni相を特定し、各相が前記測定領域に占める面積比率を算出し、5箇所の測定領域で面積比率を算出し、これらの算出値を平均した値を、焼結組織中の各相の面積%として求めた。
また、fcc構造のFe-Ni相について、該相におけるNiの含有量とFeの含有量を、オージェ電子分光装置を用い、Fe-Ni相上で10点の測定を行い、得られた算出値を平均した値からFeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni×100/(Fe+Ni))を質量%として求めた。
表3、表6に、これらの値を示す。
また、fcc構造のFe-Ni相について、該相におけるNiの含有量とFeの含有量を、オージェ電子分光装置を用い、Fe-Ni相上で10点の測定を行い、得られた算出値を平均した値からFeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合(=Ni×100/(Fe+Ni))を質量%として求めた。
表3、表6に、これらの値を示す。
また、本発明焼結体1~8、比較例焼結体11~18の断面について、X線回折装置を用いて、測定範囲(2θ):25~115度の範囲内でX線回折プロファイルを測定し、各焼結体の焼結組織に存在する相を確認した。
なお、X線回折測定は、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を線源として、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で行った。また、ピークの有無は、まず、得られたXRDプロファイルに対して市販のXRD解析ソフトウェアを用いてピークを抽出した。続いて、抽出した各ピークについて、ピーク周囲のバックグラウンドのカウントに対し3%以上高いカウントを有するピークを選別した。選別したピークについてはピークが存在し、それ以外のピークについてはピークが存在しないと判別した。
なお、X線回折測定は、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を線源として、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で行った。また、ピークの有無は、まず、得られたXRDプロファイルに対して市販のXRD解析ソフトウェアを用いてピークを抽出した。続いて、抽出した各ピークについて、ピーク周囲のバックグラウンドのカウントに対し3%以上高いカウントを有するピークを選別した。選別したピークについてはピークが存在し、それ以外のピークについてはピークが存在しないと判別した。
また、本発明焼結体1~8、比較例焼結体11~18の断面について測定したX線回折プロファイルのTiN及びfcc構造のFe-Niの回折ピークから、それぞれの格子定数を求めた。
なお、格子定数は、TiNの(200)面の回折ピークが現れる2θの値、および、fcc構造のFe―Niの(111)面の回折ピークが現れる2θの値から、ブラッグの式:2dsinθ=nλ(但し、dは、格子面間隔、θはブラッグ角、2θは回折角、λは入射X線の波長、nは整数)に基づいて算出することにより、それぞれの格子定数を求めた。
なお、λは、前記同様、λ=1.5418Åである。
表3、表6に、焼結組織に存在する相、TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数を示す。
なお、格子定数は、TiNの(200)面の回折ピークが現れる2θの値、および、fcc構造のFe―Niの(111)面の回折ピークが現れる2θの値から、ブラッグの式:2dsinθ=nλ(但し、dは、格子面間隔、θはブラッグ角、2θは回折角、λは入射X線の波長、nは整数)に基づいて算出することにより、それぞれの格子定数を求めた。
なお、λは、前記同様、λ=1.5418Åである。
表3、表6に、焼結組織に存在する相、TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数を示す。
ついで、本発明焼結体1~8、比較例焼結体11~18及び参考例焼結体21、22について、試験力10kgによりビッカース硬さHV(N/mm2)を測定し、5箇所における測定値の平均値を、それぞれの焼結体のビッカース硬さHV(N/mm2)として求めた。
また、各焼結体の靱性の指標として、ビッカース硬さ測定時に形成された圧痕長(圧痕の最大対角線長さ)を測定するとともに、圧痕から伸長した形成された亀裂長(最大の亀裂長)を測定し、新原らの式(「Evaluation of KIc of brittle solids by the indentation method with low crack-to-indent ratios」K.Niihara、R. Morena and D.P.H. Hasselman,. J Mater Sci Lett、1、13 (1982)参照)より破壊靱性値(MPa・m0.5)を求め、5箇所で求めたこの値を平均して、各焼結体の破壊靱性値として求めた。
なお、各焼結体は、平均ビッカース硬さ(HV)が大きいほど、高硬度を有し、また、破壊靱性値が大きいほど靱性が高いことを示すといえる。
表3、表6に、これらの値を示す。
表3、表6によれば、本発明焼結体1~8の硬さは、参考例焼結体22(TiCN基サーメット焼結体)の硬さにほぼ匹敵し、また、靱性は、参考例焼結体21(WC基超硬合金焼結体)の靱性にほぼ匹敵することがわかる。
また、各焼結体の靱性の指標として、ビッカース硬さ測定時に形成された圧痕長(圧痕の最大対角線長さ)を測定するとともに、圧痕から伸長した形成された亀裂長(最大の亀裂長)を測定し、新原らの式(「Evaluation of KIc of brittle solids by the indentation method with low crack-to-indent ratios」K.Niihara、R. Morena and D.P.H. Hasselman,. J Mater Sci Lett、1、13 (1982)参照)より破壊靱性値(MPa・m0.5)を求め、5箇所で求めたこの値を平均して、各焼結体の破壊靱性値として求めた。
なお、各焼結体は、平均ビッカース硬さ(HV)が大きいほど、高硬度を有し、また、破壊靱性値が大きいほど靱性が高いことを示すといえる。
表3、表6に、これらの値を示す。
表3、表6によれば、本発明焼結体1~8の硬さは、参考例焼結体22(TiCN基サーメット焼結体)の硬さにほぼ匹敵し、また、靱性は、参考例焼結体21(WC基超硬合金焼結体)の靱性にほぼ匹敵することがわかる。
次に、前記で作製した本発明焼結体1~8、比較例焼結体11~18及び参考例焼結体21、22に対して研削加工を施すことにより、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもった本発明焼結体製の切削工具(以下、「本発明工具」という)1~8、比較例焼結体製の切削工具(以下、「比較例工具」という)11~18及び参考例焼結体製の切削工具(以下、「参考例工具」という)21、22を作製した。
前記本発明工具1~8、比較例工具11~18及び参考例工具21、22を、いずれも工具鋼製カッターの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下に示す、合金鋼の湿式フライス切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定するとともに、切刃の損耗状態を観察した。
切削条件:
被削材:JIS・SCM440のブロック、
切削速度:150 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.38 mm/rev、
切削時間:11 分、
表7に、切削試験の結果を示す。
切削条件:
被削材:JIS・SCM440のブロック、
切削速度:150 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.38 mm/rev、
切削時間:11 分、
表7に、切削試験の結果を示す。
表7に示されるように、本発明工具1~8は、切削寿命に影響を与えるような程度の大きな欠損、チッピング等の異常損傷を発生することなく、参考例工具21とほぼ同様な優れた耐摩耗性を示し、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮した。
しかし、比較例工具11~18、参考例工具22は、靱性が十分でないため、チッピング、欠損等の異常損傷の発生により、工具寿命が短命であった。
しかし、比較例工具11~18、参考例工具22は、靱性が十分でないため、チッピング、欠損等の異常損傷の発生により、工具寿命が短命であった。
この発明のTiN基焼結体は、すぐれた硬さと靱性を備えるため、切削工具ばかりでなく、各種の技術分野における強靭部材、耐摩部材としても適用することができるが、特に、これを切削工具として用いた場合には、すぐれた耐摩耗性と耐異常損傷性を発揮するため、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮し、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (2)
- TiN相を70~94面積%及びMo2C相を1~25面積%を含み、残部が結合相からなる焼結組織を有するTiN基焼結体であって、
(a)前記結合相の成分は、FeとNiからなり、FeとNiの合計面積割合は5~15面積%であり、かつ、FeとNiの合計含有量に対するNiの含有割合は、15~35質量%であり、
(b)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いてX線回折プロファイルを測定した場合、少なくとも、TiN、Mo2C及びfcc構造のFe-Niの回折ピークは存在し、bcc構造のFe-Ni、複炭化物のFe3Mo3C相および複窒化物のFe3Mo3N相の回折ピークは存在せず、
(c)前記TiN基焼結体の断面について、X線回折装置を用いて測定したX線回折プロファイルから、前記TiN及びfcc構造のFe-Niの格子定数を求めた場合、TiNの格子定数は4.235~4.245Åであり、fcc構造のFe-Niの格子定数は3.58~3.62Åであることを特徴とするTiN基焼結体。 - 請求項1に記載のTiN基焼結体が少なくとも切れ刃として構成されていることを特徴とするTiN基焼結体製切削工具。
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