以下、本発明に係るバイオリアクタ、細胞培養システム及び細胞培養方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態に係る細胞培養システム10は、生体組織から分離した細胞を培養して増殖するものである。本実施形態において、細胞培養システム10に用いられる細胞は、接着細胞である。ただし、細胞は、接着細胞に限定されず、浮遊細胞であってもよいし、接着細胞と浮遊細胞とを組み合わせたものであってもよい。また、細胞としては、例えば、幹細胞(間葉細胞、造血細胞等)、繊維芽細胞、角化細胞、前駆細胞、その他の完全分化細胞又はそれらを組み合わせたものが用いられる。
図1に示すように、細胞培養システム10は、システム本体12と、システム本体12に所定の流体を導入する流体導入部14と、システム本体12から流体を排出する排出部16と、培養された細胞を回収する回収部18と、制御部19とを備える。
システム本体12に導入される所定の流体は、細胞含有液、培地及び剥離液である。細胞含有液は、システム本体12の後述する被播種部材60の細胞播種面58に細胞を播種させるための細胞懸濁液である。細胞含有液としては、例えば、MEM(Minimum Essential Medium)、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)等が用いられる。
培地は、被播種部材60に播種された細胞に育成環境を提供する流体(培養液)である。培地としては、例えば、MEM、DMEM等が用いられる。剥離液は、細胞を被播種部材60から剥離するための液体である。剥離液としては、例えば、細胞の蛋白質を分解するトリプシン溶液及びトリプシンEDTA溶液等が挙げられる。
システム本体12は、細胞を培養するためのバイオリアクタ20、循環流路22、酸素供給部24、複数のバルブ26、循環ポンプ28及び圧力センサ30を有する。バイオリアクタ20の詳細な構成については後述する。
循環流路22には、流体導入部14から所定の流体(細胞含有液、培地及び剥離液)が導入される。循環流路22は、バイオリアクタ20の導出部64bから導出された流体をバイオリアクタ20の導入部64aに循環させる。循環流路22は、第1流路22a、第2流路22b、第3流路22c、第4流路22d及びバイパス流路22eを有する。
第1流路22aは、酸素供給部24に連結されている。第2流路22bは、酸素供給部24とバイオリアクタ20の導入部64aとを互いに連結する。第3流路22cは、バイオリアクタ20の導出部64bに連結されている。第4流路22dは、第3流路22cと第1流路22aとを互いに連結する。バイパス流路22eは、第1流路22aと第2流路22bとを互いに連結する。
酸素供給部24は、ガス交換部32、培地入口部34a、培地出口部34b、ガス入口部36a及びガス出口部36bを有する。ガス交換部32は、培地に酸素を供給することにより培地の酸素濃度を高める。培地入口部34aには第1流路22aが連結され、培地出口部34bには第2流路22bが連結されている。ガス入口部36aには、所定のガス(酸素を含むガス)が導入される。ガス出口部36bには、培地との間でガス交換された後の使用済みのガスが流通する。
複数のバルブ26は、流路を開放及び閉塞する開閉弁である。複数のバルブ26は、第1流路22aのうちバイパス流路22eとの連結部よりも第4流路22d側に設けられたバルブ26aと、第1流路22aのうちバイパス流路22eとの連結部よりも酸素供給部24側に設けられたバルブ26bと、バイパス流路22eに設けられたバルブ26cとを含む。
循環ポンプ28は、第4流路22dに設けられている。循環ポンプ28は、第1方向と第2方向(第1方向とは反対方向)とに流体をポンピング可能に構成されている。つまり、循環ポンプ28は、第1流路22a、酸素供給部24(バイパス流路22e)、第2流路22b、バイオリアクタ20、第3流路22c及び第4流路22dの順番(第1方向)に流体を流通させる。また、循環ポンプ28は、第1流路22a、第4流路22d、第3流路22c、バイオリアクタ20、第2流路22b、バイパス流路22eの順番(第2方向)に流体を流通させることができる。
圧力センサ30は、第4流路22dに設けられ、循環流路22内の流体の圧力を検出する。循環ポンプ28及び圧力センサ30は、第4流路22dに設けられた例に限定されず、循環流路22の任意の位置に設けることができる。
流体導入部14は、第1導入流路38a、第2導入流路38b、第3導入流路38c、複数の導入バルブ40及び導入ポンプ42を有する。第1導入流路38aは、細胞含有液を収容可能な第1収容部44a(細胞含有液収容バッグ)と第1流路22aとを互いに連結する。第2導入流路38bは、剥離液を収容可能な第2収容部44b(剥離液収容バッグ)と第1導入流路38aとを互いに連結する。第3導入流路38cは、培地を収容する第3収容部44c(培地収容バッグ)と第2導入流路38bとを互いに連結する。
複数の導入バルブ40は、流路を開放及び閉塞する開閉弁である。複数の導入バルブ40は、第1導入流路38aのうち第2導入流路38bとの連結部よりも第1収容部44a側に設けられた導入バルブ40aと、第2導入流路38bのうち第3導入流路38cとの連結部よりも第2収容部44b側に設けられた導入バルブ40bと、第3導入流路38cに設けられた導入バルブ40cとを含む。
導入ポンプ42は、第1導入流路38aにおける第2導入流路38bとの連結部よりも循環流路22側に設けられている。導入ポンプ42は、第1~第3収容部44a~44cから循環流路22に流体(細胞含有液、剥離液及び培地)を導く。
第2導入流路38bは、第1導入流路38aに連結された例に限定されず、循環流路22に直接連結されていてもよい。第3導入流路38cは、第2導入流路38bに連結された例に限定されず、循環流路22に直接連結されていてもよい。
排出部16は、排出流路46及び排出バルブ48を有する。排出流路46は、第3流路22cと廃棄収容部50(廃棄バッグ)とを互いに連結する。排出バルブ48は、排出流路46に設けられ、排出流路46を開放及び閉塞する開閉弁である。
回収部18は、回収流路52及び回収バルブ54を有する。回収流路52は、培養された細胞を収容可能な回収収容部56(回収バッグ)と第3流路22cとを互いに連結する。回収バルブ54は、回収流路52を開放及び閉塞する開閉弁である。
図1~図6において、バイオリアクタ20は、細胞が播種される細胞播種面58を有する被播種部材60(図3~図6参照)と、被播種部材60を収容するハウジング62と、ハウジング62に設けられた導入部64a及び導出部64bとを含む。
図3~図6に示すように、被播種部材60は、いわゆるシャーレ積層型として構成されており、矢印Z方向に互いに積層された複数の板状部材68を有する。板状部材68は、細胞が播種可能な材料(例えば、硬質樹脂材料)によって一体的に成形されている。板状部材68は、矩形状に形成されており、一方向(矢印X方向)に延在している。
板状部材68の表面68a(矢印Z2方向の面)には、複数の突起70が複数の板状部材68の積層方向に沿って(矢印Z2方向に向かって)突出している。各突起70は、例えば、板状部材68の全長に亘って(図4の導入部64aから導出部64bに向かう方向)に沿って直線状に延在している。
複数の突起70は、複数の板状部材68の積層方向と突起70の延在方向とに交差する方向(矢印Y方向)に互いに離間した状態で並んでいる。換言すれば、複数の突起70は、板状部材68の短手方向に等間隔に設けられている。複数の突起70の突出端面70aは、突起70の突出方向(矢印Z2方向)に隣接する板状部材68の裏面68bに接触している。つまり、複数の突起70は、複数の板状部材68を支持する。
板状部材68の表面68aのうち互いに隣接する突起70の間には、平面状の細胞播種面58が形成されている。細胞播種面58は、板状部材68の全長に亘って板状部材68の直線状に延在している。互いに対向する板状部材68において、細胞播種面58と板状部材68の裏面68bとの間には、流体(細胞含有液、培地及び剥離液)が流通して細胞播種面58を形成する複数の流路72が形成されている。換言すれば、各板状部材68には、流体(細胞含有液、剥離液及び培地)が流通する複数の流路72が形成されている。つまり、流路72は、互いに隣接する突起70と細胞播種面58とによって形成されている。流路72は、導入部64a側(矢印X1方向)に向けて開口する第1開口部72aと、導出部64b側(矢印X2方向)に向けて開口する第2開口部72bとを有する(図3及び図4参照)。
突起70の数、形状、位置は、任意に設定可能である。例えば、突起70は、直線状に延在したものに限定されず、湾曲していてもよいし、点状に形成されていてもよい。
図2~図5に示すように、ハウジング62は、被播種部材60を覆うように四角筒状に構成されている。ハウジング62の全長(矢印X方向の寸法)は、被播種部材60の全長(矢印X方向の寸法)よりも長い。ハウジング62は、例えば、硬質樹脂によって成形されている。ハウジング62は、ハウジング62の外側から内部の被播種部材60を視認可能なように、透明に形成されていてもよい。
ハウジング62は、被播種部材60を矢印Z方向から覆う2つの壁部74a、74bと、被播種部材60を矢印Y方向から覆う2つの壁部74c、74dとを含む。図5において、壁部74aは、最も矢印Z1方向に位置する板状部材68の裏面68bに接触している。壁部74bは、最も矢印Z2方向に位置する板状部材68の各突起70の突出端面70aに接触している。各壁部74c、74dは、各板状部材68の側面に接触している。
図1~図4に示すように、導入部64aは、第2流路22bの流体をハウジング62内に導入する。導入部64aは、入口側端壁部76a、1つの導入流路78a、複数の入口側連結流路80a及び複数の入口バルブ82aを有する。なお、図2では、導入流路78a、複数の入口側連結流路80a及び複数の入口バルブ82aの図示を省略している。
入口側端壁部76aは、ハウジング62の矢印X1方向の開口部62aを閉塞するようにハウジング62の一端部に設けられている。入口側端壁部76aと被播種部材60との間には、入口側空間84aが形成されている(図3及び図4参照)。入口側端壁部76aには、矢印Y方向に配列した複数個の入口ポート86aからなる入口ポート列88aが矢印Z方向に複数設けられている(図2参照)。
各入口ポート86aは、入口側端壁部76aをその厚さ方向(矢印X方向)に貫通する円形状の貫通孔である。図4において、複数の入口ポート86aは、被播種部材60の複数の流路72に対応するように配置されている。つまり、複数の入口ポート86aは、被播種部材60の流路72に対して矢印X1方向に位置する。ただし、複数の入口ポート86aの大きさ、形状、位置及び数は、任意に設定可能である。
導入流路78aは、第2流路22bに連結している(図1参照)。図3及び図4において、複数の入口側連結流路80aは、第2流路22bから複数の入口ポート86aに分岐している。すなわち、複数の入口側連結流路80aは、第2流路22bの流体を複数の入口ポート86aのそれぞれに導く。複数の入口側連結流路80aのそれぞれは、複数の入口ポート86aのそれぞれに連結することにより複数の入口流路79aを構成する。複数の入口バルブ82aは、複数の入口側連結流路80aのそれぞれに設けられている。つまり、導入部64aは、複数の入口流路79aと、複数の入口流路79aのそれぞれを開閉するための複数の入口バルブ82aとを有する。複数の入口バルブ82aは、入口側端壁部76aに個別に設けられている。
図1~図4に示すように、導出部64bは、流体をハウジング62内から導出させる。導出部64bは、出口側端壁部76b、1つの導出流路78b、複数の出口側連結流路80b及び複数の出口バルブ82bを有する。出口側端壁部76bは、ハウジング62の矢印X2方向の開口部62bを閉塞するようにハウジング62の他端部に設けられている。出口側端壁部76bと被播種部材60との間には、出口側空間84bが形成されている(図3及び図4参照)。出口側端壁部76bには、矢印Y方向に配列した出口ポート86bからなる出口ポート列88bが矢印Z方向に複数設けられている(図2参照)。
各出口ポート86bは、出口側端壁部76bをその厚さ方向(矢印X方向)に貫通する円形状の貫通孔である。図4において、複数の出口ポート86bは、被播種部材60の複数の流路72に対応するように配置されている。つまり、複数の出口ポート86bは、被播種部材60の流路72に対して矢印X2方向に位置する。すなわち、複数の出口ポート86bは、入口ポート86aと同数設けられている。換言すれば、複数の出口ポート86bの位置は、矢印X方向からの平面視で複数の入口ポート86aと重なる位置に設けられている。ただし、複数の出口ポート86bの大きさ、形状、位置及び数は、任意に設定可能である。
図3及び図4に示すように、複数の出口側連結流路80bは、複数の出口ポート86bから導出流路78bに延出する。すなわち、複数の出口側連結流路80bは、複数の出口ポート86bから導出された流体を導出流路78bに導く。複数の出口側連結流路80bのそれぞれは、複数の出口ポート86bのそれぞれに連結することにより複数の出口流路79bを構成する。導出流路78bは、第3流路22cに連結している(図1参照)。複数の出口バルブ82bは、複数の出口側連結流路80bのそれぞれに設けられている。つまり、導出部64bは、複数の出口流路79bと、複数の出口流路79bのそれぞれを開閉するための複数の出口バルブ82bとを有する。複数の出口バルブ82bは、出口側端壁部76bに個別に設けられている。
図1において、制御部19は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM、RAM、等を有しており、CPUがROMに記憶されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)として機能する。なお、各種機能実現部は、ハードウエアとしての機能実現器により構成することもできる。
制御部19は、酸素供給部24の駆動を制御する。また、制御部19は、ポンプ制御部90とバルブ制御部92とを備える。ポンプ制御部90は、導入ポンプ42及び循環ポンプ28の駆動を制御する。バルブ制御部92は、複数のバルブ26、複数の導入バルブ40、排出バルブ48及び回収バルブ54を開閉制御する。また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御し、複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。
次に、上記のように構成された本実施形態に係る細胞培養システム10を用いた細胞培養方法について説明する。
図7のステップS1の準備工程において、各収容部(第1収容部44a、第2収容部44b、第3収容部44c、廃棄収容部50及び回収収容部56)を所定の流路に接続する。なお、第1収容部44aには、細胞含有液が収容され、第2収容部44bには剥離液が収容され、第3収容部44cには培地が収容されている。また、準備工程の状態で、複数のバルブ26、複数の導入バルブ40、排出バルブ48、回収バルブ54、複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bは閉状態になっている。
続いて、ステップS2のプライミング工程において、細胞培養システム10のプライミング処理を行う。具体的には、図8に示すように、バルブ制御部92は、複数のバルブ26a、26b、26c、導入バルブ40c、排出バルブ48、複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bを開状態にする。また、ポンプ制御部90は、導入ポンプ42を連続的又は間欠的に駆動させるとともに循環流路22を第1方向に流体(培地)が流通するように連続的又は間欠的に循環ポンプ28を駆動させる。なお、制御部19は、酸素供給部24を駆動しない。
そうすると、第3収容部44cから第3導入流路38c、第2導入流路38b及び第1導入流路38aを介して第1流路22aに培地が導入される。第1流路22aに導入された培地は、酸素供給部24を介して第2流路22bに導かれるとともにバイパス流路22eを介して第2流路22bに導かれる。
そして、第2流路22bに導かれた培地は、複数の入口側連結流路80a及び複数の入口ポート86aを通りハウジング62内に導入され、ハウジング62内が培地で満たされる。ハウジング62内の培地は、複数の出口ポート86b及び複数の出口側連結流路80bを通り第3流路22cに導出される。第3流路22cに導出された培地は、第4流路22dを通り第1流路22aに戻される。つまり、培地は、循環ポンプ28の作用下に循環流路22を第1方向に循環する。なお、循環流路22に供給された培地の過剰分は、排出流路46に排出されて廃棄収容部50に収容される。
次いで、図7のステップS3の播種工程において、被播種部材60の細胞播種面58に細胞を播種させる。具体的には、図9に示すように、バルブ制御部92は、バルブ26b及び導入バルブ40cを閉状態にするとともに導入バルブ40aを開状態にする。なお、バルブ26a、26c、排出バルブ48は、開状態に維持される。
また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御するとともに複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。換言すれば、バルブ制御部92は、所定のプログラムに基づいて複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。ここで、所定のプログラムとは、複数の入口流路79aと複数の出口流路79bとを開放させる順番及び開放時間が規定されたプログラムであって、被播種部材60の複数の流路72に略均等に流体(細胞含有液)が供給されるように設定されている。
具体的には、バルブ制御部92は、例えば、対応する入口流路79a及び出口流路79b(矢印X方向からの平面視で重なる位置にある入口ポート86a及び出口ポート86b)が同時に開放するように複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bを開閉制御する。この場合、ハウジング62内に流体を円滑に流通させることができる。
なお、所定のプログラムは、制御部19の図示しない記憶部に予め記憶されていてもよいし、制御部19が取得可能なように図示しないサーバ等に記憶されていてもよい。ただし、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bの開閉動作をランダムに制御してもよい。ポンプ制御部90は、導入ポンプ42を連続的又は間欠的に駆動させるとともに循環流路22を第1方向に流体(細胞含有液)が流通するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させる。
この場合、培地の第1流路22aへの導入が停止され、第1収容部44aから第1導入流路38aを介して第1流路22aに細胞含有液が導入される。第1流路22aに導かれた細胞含有液は、バイパス流路22eを介して第2流路22bに導かれる。
第2流路22bの細胞含有液は、複数の入口流路79aのうち開放されている入口流路79aに選択的に導入され、ハウジング62内の入口側空間84aに導かれる。入口側空間84aに導かれた細胞含有液は、被播種部材60の複数の流路72を介して出口側空間84bまで流れる。この際、細胞含有液は、細胞播種面58に接触する。そのため、細胞含有液中の細胞が細胞播種面58に接着(播種)する。
出口側空間84bまで流れた細胞含有液は、複数の出口流路79bのうち開放されている出口流路79bに選択的に導出され、出口側連結流路80bを介して第3流路22cに導かれる。第3流路22cに導出された細胞含有液は、第4流路22dを介して第1流路22aに戻される。つまり、細胞含有液は、循環流路22を第1方向に循環する。
これにより、細胞播種面58に播種されなかった細胞を再び細胞播種面58に導くことができる。なお、第3流路22cに導出された細胞含有液の一部は、プライミング時に循環流路22及びハウジング62内を満たしていた培地とともに排出流路46を流れて廃棄収容部50に収容される。これにより、第1収容部44aの細胞含有液を循環流路22に円滑に導入することができる。播種工程は、被播種部材60の細胞播種面58の全体に均等に細胞が播種されるまで所定時間行われる。
続いて、図7のステップS4の接着工程において、細胞播種面58に細胞を接着させる。具体的には、図10に示すように、バルブ制御部92は、導入バルブ40a及び排出バルブ48を閉状態にする。また、ポンプ制御部90は、導入ポンプ42及び循環ポンプ28の駆動を停止させる。これにより、循環流路22の流体の流れが完全に止まり、細胞が細胞播種面58に接着される。
なお、接着工程において、ポンプ制御部90は、循環ポンプ28の駆動を一定時間停止させた後(ハウジング62内の細胞が細胞播種面58に接着された後)、循環流路22内に残っている細胞を細胞播種面58へと送るために循環ポンプ28を駆動し、再度、循環ポンプ28の駆動を一定時間停止させてもよい。この場合、循環流路22内の細胞についても細胞播種面58に接着させることができる。接着工程において、循環ポンプ28の駆動を停止させている時間は、4~10分程度が好ましい。
その後、図7のステップS5の培養工程において、細胞播種面58に播種(接着)された細胞を培養する。具体的には、図11に示すように、バルブ制御部92は、バルブ26c及び導入バルブ40aを閉状態にするとともにバルブ26b、排出バルブ48及び導入バルブ40cを開状態にする。なお、バルブ26aは、開状態に維持される。
また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御するとともに複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bの制御は、播種工程のときと同じである。ポンプ制御部90は、導入ポンプ42を連続的又は間欠的に駆動させるとともに循環流路22を第1方向に流体(細胞含有液)が流通するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させる。さらに、制御部19は、酸素供給部24を駆動させて酸素を含む所定のガスをガス交換部32に流通させる。
この場合、細胞含有液の第1流路22aへの導入が停止され、第3収容部44cから第3導入流路38c、第2導入流路38b及び第1導入流路38aを介して第1流路22aに培地が導入される。第1流路22aに導入された培地は、酸素供給部24で酸素が供給された状態で第2流路22bに導かれる。
第2流路22bの培地は、複数の入口流路79aのうち開放されている入口流路79aに選択的に導入され、ハウジング62内の入口側空間84aに導入かれる。入口側空間84aに導かれた培地は、被播種部材60の複数の流路72を介して出口側空間84bまで流れる。この際、培地は、細胞播種面58に播種されている細胞に接触する。換言すれば、細胞播種面58に播種されている細胞に酸素(栄養)が供給される。そのため、被播種部材60に播種されている細胞に良好な育成環境が提供される。
出口側空間84bまで流れた播種は、複数の出口流路79bのうち開放されている出口流路79bに選択的に導出され、出口側連結流路80bを介して第3流路22cに導かれる。第3流路22cに導出された播種は、第4流路22dを介して第1流路22aに戻される。つまり、培地は、循環流路22を第1方向に循環する。
これにより、使用済み(細胞に酸素を供給した後)の培地は、酸素供給部24で再び酸素が取り込まれた状態でハウジング62内に導入されるため、充分な酸素を含有した培地を被播種部材60に播種された細胞に供給することができる。なお、第3流路22cに導出された培地の一部は、排出流路46を流れて廃棄収容部50に収容される。培養工程は、細胞播種面58に播種されている細胞が充分に培養されるまで所定時間行われる。
そして、図7のステップS6の剥離液添加工程において、剥離液を添加して細胞播種面58に均一に分散させる。具体的には、図12に示すように、バルブ制御部92は、バルブ26b及び導入バルブ40cを閉状態にするとともにバルブ26c及び導入バルブ40bを開状態にする。なお、バルブ26a、排出バルブ48は、開状態に維持される。
また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御するとともに複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bの制御は、播種工程のときと同じである。ポンプ制御部90は、導入ポンプ42を連続的又は間欠的に駆動させるとともに循環流路22を第1方向に流体(細胞含有液)が流通するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させる。さらに、制御部19は、酸素供給部24の駆動を停止させる。
この場合、第3収容部44cから第1流路22aへの培地の流入が停止され、第2収容部44bから第2導入流路38b、第1導入流路38aを介して第1流路22aに剥離液が導入される。第1流路22aに導入された剥離液は、バイパス流路22eを介して第2流路22bに導かれる。
第2流路22bの剥離液は、複数の入口流路79aのうち開放されている入口流路79aに選択的に導入され、ハウジング62内の入口側空間84aに導かれる。入口側空間84aに導かれた剥離液は、被播種部材60の複数の流路72を介して出口側空間84bまで流れる。
出口側空間84bまで流れた剥離液は、複数の出口流路79bのうち開放されている出口流路79bに選択的に導出され、出口側連結流路80bを介して第3流路22cに導かれる。第3流路22cに導出された剥離液は、第4流路22dを介して第1流路22aに戻され、再利用される。これにより、循環流路22内及びハウジング62内に剥離液が添加される。
その後、図7のステップS7の剥離工程において、培養された細胞を細胞播種面58から剥離させる。具体的には、図13に示すように、バルブ制御部92は、導入バルブ40b及び排出バルブ48を閉状態にする。なお、バルブ26a、26cは、開状態に維持される。
また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御するとともに複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。バルブ制御部92は、剥離液の流速分布が集約するように複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bを開閉制御する。つまり、剥離工程のバルブ制御は、流速分布を均一にするための播種工程のバルブ制御とは異なる。
ポンプ制御部90は、導入ポンプ42の駆動を停止させるとともに循環流路22を第1方向に流体(剥離液)が循環するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させる。この際、流体は、例えば、図示しないヒータ等によって所定温度(酵素反応が行われる温度、例えば、37℃)に維持される。
この場合、剥離液が細胞の蛋白質を分解するため、細胞が細胞播種面58から化学的に剥離される。また、入口流路79aを通る際に圧力が高められた剥離液が細胞播種面58と細胞との接着部分に直接的に当たるため、細胞が細胞播種面58から物理的に剥離される。
剥離工程において、ポンプ制御部90は、剥離液が第1方向と第2方向の両方向に交互に流通するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させてもよい。この場合、細胞を被播種部材60から効果的に剥離させることができる。
続いて、図7のステップS8の回収工程において、剥離された細胞を回収する。具体的には、図14に示すように、バルブ制御部92は、導入バルブ40c及び回収バルブ54を開状態にする。なお、バルブ26a、26cは、開状態に維持される。
また、バルブ制御部92は、複数の入口バルブ82aを選択的に開閉制御するとともに複数の出口バルブ82bを選択的に開閉制御する。複数の入口バルブ82a及び複数の出口バルブ82bの制御は、播種工程のときと同じである。ポンプ制御部90は、導入ポンプ42を連続的又は間欠的に駆動させるとともに循環流路22を第1方向に流体(細胞含有液)が流通するように循環ポンプ28を連続的又は間欠的に駆動させる。
この場合、第2収容部44bから第1流路22aへの剥離液の流入が停止され、第3収容部44cから第3導入流路38c、第2導入流路38b及び第1導入流路38aを介して第1流路22aに導入される。第1流路22aに導入された培地は、バイパス流路22eを介して第2流路22bに導かれる。
第2流路22bの培地は、複数の入口流路79aのうち開放されている入口流路79aに選択的に導入され、ハウジング62内の入口側空間84aに導かれる。入口側空間84aに導かれた培地は、被播種部材60の複数の流路72を介して出口側空間84bまで流れる。この際、培地は、被播種部材60の複数の流路72に存在する細胞を出口側空間84bに流す。
出口側空間84bまで流れた培地(細胞を含んだ培地、細胞懸濁液)は、複数の出口流路79bのうち開放されている出口流路79bに選択的に導出され、出口側連結流路80bを介して第3流路22cに導かれる。第3流路22cに導出された細胞を含む培地は、回収流路52を流れて回収収容部56に収容される。培地の一部は、第4流路22dを介して第1流路22aに戻され、ハウジング62内の細胞の回収に再利用される。ハウジング62内及び循環流路22の細胞の回収が完了すると、一連の動作フローが終了する。
このバイオリアクタ20、細胞培養システム10及び細胞培養方法は、以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に流体(細胞含有液、剥離液及び培地)を導入することができるため、ハウジング62内の流体の流速分布のバラツキを抑えることができる。これにより、細胞播種面58の全体に略同じ流速の流体を供給することができるため、簡易な構成により効率的に細胞を培養することができる。
導出部64bは、複数の出口流路79bと、複数の出口流路79bのそれぞれを開閉するための複数の出口バルブ82bと、を有している。
このような構成によれば、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に導入された流体を複数の出口流路79bから選択的にハウジング62の外側に導出することができる。これにより、ハウジング62内に流体を円滑に流すことができるため、細胞播種面58の全体に一層効率的に供給することができる。
被播種部材60には、流体が流通して細胞播種面58を形成する複数の流路72が形成されている。複数の流路72のそれぞれは、導入部64a側に向けて開口する第1開口部72aと、導出部64b側に向けて開口する第2開口部72bと、を有する。
このような構成によれば、複数の入口流路79aからハウジング62内に導入された流体を複数の流路72に円滑に流通させることができる。これにより、簡易な構成により一層効率的に細胞を培養することができる。
被播種部材60は、互いに積層された複数の板状部材68を有している。複数の板状部材68のそれぞれには、複数の流路72の少なくとも1つが形成されている。
このような構成によれば、被播種部材60の構成を簡素化することができる。
複数の板状部材68のそれぞれの表面68aには、導入部64aから導出部64bに向かう方向に沿って延在する複数の突起70が複数の板状部材68の積層方向に沿って突出している。複数の突起70は、複数の板状部材68を支持した状態で複数の流路72を形成する。
このような構成によれば、簡易な構成により各板状部材68に流路72を形成することができる。
複数の突起70は、複数の板状部材68の積層方向と複数の突起70の延在方向とに直交する方向に細胞播種面58を挟むように並んでいる。
このような構成によれば、突起70が細胞播種面58を挟むように並んでいるため、複数の入口流路79aからハウジング62内に導入された流体を細胞播種面58に効率的に導くことができる。
細胞培養システム10は、上述したバイオリアクタ20と、導出部64bから導出された流体を導入部64aに循環させる循環流路22と、流体を循環流路22に導入する流体導入部14とを備える。
このような構成によれば、上述したバイオリアクタ20と同様の効果を有する細胞培養システム10を得ることができる。
細胞培養システム10は、循環流路22に設けられて循環流路22を流通する培地に酸素を供給するための酸素供給部24を備える。
このような構成によれば、酸素を含有した培地を被播種部材60に播種された細胞に効率的に供給することができる。
バイオリアクタ20を用いて細胞を培養する細胞培養方法では、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に細胞含有液を導入して細胞を被播種部材60に播種する播種工程を行う。
このような方法によれば、被播種部材60の細胞播種面58の全体に効率的に細胞を均等に播種することができる。
細胞培養方法では、播種工程の後で、複数の入口流路79aからハウジング62内への細胞含有液の導入を停止させた状態で細胞を被播種部材60に接着させる接着工程を行う。
このような方法によれば、細胞を被播種部材60に確実に接着させることができる。
細胞培養方法では、接着工程の後で、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に培地を導入して被播種部材60に播種された細胞を培養する培養工程を行う。
このような方法によれば、細胞播種面58に播種された細胞の全体に培地を効率的に供給することができる。
細胞培養方法では、培養工程の後で、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に剥離液を導入する剥離液添加工程を行う。
このような方法によれば、細胞播種面58に播種された細胞の全体に剥離液を効率的に供給することができる。
細胞培養方法では、剥離液添加工程の後で、複数の出口流路79bから導出された剥離液を複数の入口流路79aに循環させながら複数の入口流路79から選択的にハウジング62内に剥離液を導入して培養された細胞を被播種部材60から剥離する剥離工程を行う。
このような方法によれば、細胞播種面58から細胞を効率的に剥離させることができる。
細胞培養方法では、剥離工程の後で、複数の入口流路79aから選択的にハウジング62内に培地を導入することにより、被播種部材60から剥離された細胞を導出部64bから導出させて回収する回収工程を行う。
このような構成によれば、細胞を効率的に回収することができる。
本発明は、上述した構成に限定されない。入口バルブ82a及び出口バルブ82bは、手動で開閉動作できるように構成されていてもよい。被播種部材60は、導入部64aから導出部64bに向かって延在した複数の中空糸膜を有していてもよい。
各入口バルブ82aと各入口ポート86aとは、流路(入口側連結流路80a)によって互いに連結されていてもよい。複数の入口バルブ82aは、入口側端壁部76aに個別に設けられる構成に限定されず、1つのバルブユニットを構成してもよい。各出口バルブ82bと各出口ポート86bとは、流路(出口側連結流路80b)によって互いに連結されていてもよい。複数の出口バルブ82bは、出口側端壁部76bに個別に設けられる構成に限定されず、1つのバルブユニットを構成してもよい。
本発明に係るバイオリアクタ、細胞培養システム及び細胞培養方法は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。