<1.本発明の細胞培養容器の特徴>
本発明の細胞培養容器は、細胞を培養するための容器である。本発明の細胞培養容器を形成する材料は、特に制限されず、具体的には、金属、ガラス、シリコン、及びプラスチック等の無機材料等を挙げることができ、より好ましくはプラスチックである。プラスチックとして、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。本発明の細胞培養容器は、当業者にとって周知・慣用技術の方法により製造することができる。例えば、プラスチック材料からなる細胞培養容器を製造する場合には、射出成形法または押出し成形法等により製造することができる。本発明の細胞培養容器に含まれる容器本体、培養板等の各部材は上記の材料から形成することができる。
<1.1.容器本体>
細胞培養容器は、容器本体を備えている。容器本体は、細胞培養容器に培地等の供給液を導入する導入口と、細胞培養容器から供給液を導出する導出口とを有している。細胞培養容器の内部には、導入口と導出口との間に内部空間が形成されている。容器本体の内部空間の全体形状は、後述する実施形態においては直方体であるが特に限定されず、例えば、直方体、錐体(円錐体、円錐台体、角錐体、角錐台体等)、柱体(円柱体、角柱体等)、球体、及び/又は半球体、或いはこれらの2種以上を組み合わせた形状であることができる。
容器本体の内部空間は容器本体の内部に形成された空間であり、後述する多層空間と第1空間とを少なくとも含み、後述する第2空間を更に含んでもよい。
容器本体の内部空間の体積は特に限定されないが、例えば1,000mm3以上であり、好ましくは10,000mm3以上、100,000mm3以上、1,000,000mm3以上である。内部空間の体積がこの範囲である場合に、細胞培養に特に適する。内部空間の体積の上限は特に限定されないが、例えば100,000,000mm3以下にすることが好ましい。第1空間及び第2空間の体積は、供給液を滞留させることが可能な体積であればよく特に限定されないが、典型的には、それぞれ、内部空間の体積の30%以下、25%以下又は10%以下であり、内部空間の体積の1%以上であることができる。
容器本体は導入管と導出管とを備えることができる。導入管には、内部空間に供給液を導入する導入流路が形成されており、導入流路の下流に、導入口を形成することができる。一方、導出管には、内部空間から供給液を導出する導出流路が形成されており、導出流路の上流に、導出口を形成することができる。
図示する各実施形態では導入口の開口面積と導出口の開口面積は同じであるが、この態様には特に限定されるものではない。例えば、導入口の開口面積に対して導出口の開口面積が異なっていてもよく、導入口の開口面積に対して、導出口の開口面積が大きい場合には細胞培養容器内の圧力は低下し、細胞へのストレスが軽減されると考えられるため好ましい。
本発明では、導入口及び導出口の容器本体における位置及び相対的な配置は、図示する各実施形態での態様には限定されるものではない。図示する各実施形態のように、導入口と導出口とは容器本体の対向する壁面上に設けられていることが好ましいがこれには限定されない。図示する各実施形態のように導入口は容器本体の上流側の壁面の中央に設けられている場合には限定されず、該壁面の周縁寄りの位置に設けられていてもよいし、容器本体の他の位置に設けられていてもよい。導出口は容器本体の下流側の壁面の中央に設けられている必要はなく、該壁面の周縁寄りの位置に設けられていてもよいし、容器本体の他の位置に設けられていてもよい。導入口と導出口とは、それらが容器本体の対向する壁面上に設けられている場合であっても、一軸上に対向するように設けられている必要はなく、それぞれが異なる軸上に設けられていてもよい。ただし、図示する各実施形態のように、導入口が容器本体の上流側の壁面の中央近傍に設けられ、導出口が容器本体の下流側の壁面の中央近傍に設けられ、且つ、導入口と導出口とが一軸上に対向するように設けられている態様では、容器本体内に供給液が流れるとき、流路の断面上での流速分布が、前記軸を中心として点対称となり、流速の偏りが生じ難いため好ましい。
本発明において、容器本体の、内部空間を形成する面は、好ましくは、導入口が形成された上流壁面と、前記上流壁面に対向配置され、導出口が形成された下流壁面と、上流壁面の周縁と下流壁面の周縁との間を接続し内部空間の周囲を囲う内壁面とを含む。内壁面の、前記上流壁面から前記下流壁面へ向かう方向に垂直な平面による断面の形状は、円形、矩形等の任意の形状であってよい。
<1.2.培養板>
本発明の細胞培養容器の容器本体の内部空間の、導入口と導出口との間には、1以上の培養板が配置されており、培養板により区分された複数の流路空間が形成されている。本発明では、複数の流路空間を組み合わせた全体を多層空間とする。
本発明において培養板は、その壁面(表面)が、細胞が接着する足場として機能する板状体である。培養板の、流路空間を囲う壁面には、流路空間を通じて培地等の供給液とともに細胞を供給することができる。本発明の細胞培養容器を用い、培養板壁面に細胞を付着させた状態で、培地等の供給液を、導入口から供給し、各流路空間に通過させ、導出口から排出することにより、細胞を供給液により培養又は処理することができる。各流路空間は、培養板の壁面のみにより囲われていてもよいし、培養板の壁面と、容器本体の内壁面とにより囲われていてもよい。流路空間が培養板と容器本体の内壁面とにより囲われている場合には、容器本体の内壁面もまた、細胞が接着する足場として機能することが好ましい。培養板の壁面及び容器本体の内壁面に接着した細胞は、本発明の細胞培養容器に、供給液として細胞を剥離する剥離剤を含む液を流通させることにより剥離し導出口から回収することが可能である。
流路空間を囲う培養板の壁面及び/又は容器本体の内壁面が実質的に平滑である場合、各流路空間内での供給液の流れが培養板の壁面及び/又は容器本体の内壁面により乱されず、しかも、培養板の壁面及び/又は容器本体の内壁面に付着した細胞を剥離して回収することが容易であるため好ましい。ただし、培養しようとする細胞の種類や目的によっては、培養板の壁面及び/又は容器本体の内壁面は実質的な凹凸を有していてもよい。
本発明において培養板は、多層空間の導入口側の端部から導出口側の端部まで連続的に延在していることを特徴とする。これに伴い、培養板により区分される流路空間の各々はその導入口側の端部から導出口側の端部まで途切れずに連続的に形成され、均一な流動状態を保ち易い。このように配置された培養板を備えた本発明の細胞培養容器は、培養板を備えない場合と比較して、供給された供給液の内部空間内における流速分布が均一化される。また、各流路空間内で供給液の流れは妨げられず、各流路空間内で上流から下流までの流速は均一化され易い。
本発明において1つの培養板は、それにより区分される流路空間が、その入口側端部から導出口側端部まで連続的に形成されるものである限り、1つの部材により構成されている必要はなく、複数の部材が組み合わされて構成されていてもよい。例えば、図17に示す、第1実施形態の変形例のように、複数の板部材を、多層空間の導入口側の端部から導出口側の端部への方向に沿って、互いに側面が接するように並べて1つの培養板を形成することができる。また、図示しないが、複数の板部材を、多層空間の導入口側の端部から導出口側の端部への方向と直交する方向に、互いに側面が接するように並べて1つの培養板を形成することもできる。
本発明において1つの培養板の形状は特に限定されるものではない。培養板は、図示する各実施形態のように平板状であってもよいし、曲げられた板の形状であってもよい。曲げられた板の形状の培養板としては、多層空間の導入口側端部から導出口側端部の方向を軸とする筒体の壁面を形成するように曲げられた培養板が例示できる。該筒体の、前記軸に対して垂直な断面の形状は、円形、矩形等の任意の形状であってよい。更に、複数の異なる形状の培養板が組み合わされた状態で内部空間に配置されていてもよい。
本発明において培養板は、細胞培養容器の容器本体と一体的に成形されていてもよい。また、容器本体に培養板となる部材を容器本体の内壁面に取り付けて、培養板としてもよい。
図示する各実施形態のように、容器本体の、内部空間を形成する面が、導入口が形成された上流壁面と、前記上流壁面に対向配置され、導出口が形成された下流壁面と、上流壁面の周縁と下流壁面の周縁との間を接続し内部空間の周囲を囲う内壁面とを含む場合には、培養板は、内部空間内において、培養板の導入口側の端部が前記上流壁面から離間し、培養板の導出口側の端部が前記下流壁面から離間し、且つ、培養板の側方の辺が内壁面に接続するように配置されていることが好ましい。
本発明において培養板は、多層空間を囲う容器本体の内壁面の少なくとも1つと、好ましくは、多層空間を囲う容器本体の内壁面の一対と、略平行となるように配置されていることが好ましい。このように配置により、各流路空間に流れる供給液が層流になり易い。
容器本体の内部空間に配置される培養板は1以上であればよく、その数は特に限定されるものではない。容器本体の内部空間に培養板が複数配置される場合、培養板の壁面の面積が増大し、多くの細胞を接着させ処理することが可能である。
容器本体の内部空間に培養板を複数配置する場合、複数の培養板を、後述する第2、第3実施形態のように、互いに略平行となるように配置してもよい。複数の培養板を互いに略平行になるように配置することで、各流路空間に流れる供給液の流れのバラつきが小さくなる。
また、容器本体の内部空間に培養板を複数配置する場合、少なくとも一対の培養板を互いに交差するように配置してもよい。少なくとも一対の培養板を互いに交差するように配置する場合の具体例としては、少なくとも一対の培養板を互いに略直交するように配置することが挙げられ、より好ましくは、後述する第4実施形態のように、一方向に沿って互いに略平行となるように配置した複数の培養板と、前記一方向と略直交する方向に沿って互いに略平行となるように配置した複数の培養板とを格子状に組み合わせる例が挙げられる。少なくとも一対の培養板を互いに交差するように配置することで、細胞接着の足場となる培養板の壁面の面積を効率的に増やすことできる。更に、少なくとも一対の培養板を互いに略直交するように配置することで、流路空間の断面積の大きさを確保しつつ、細胞接着の足場となる培養板の壁面の面積を増やすことが容易である。
本発明の細胞培養容器において、1つ以上の培養板により区分される複数の流路空間は、それぞれ同じ形状及び寸法となるように形成されていることが好ましい。複数の流路空間が同じ形状及び寸法であることにより、複数の流路空間の各々に、導入口からの供給液をより均一に分散させることが可能である。このためには、本発明の細胞培養容器において、対向する容器本体の内壁面と培養板の壁面との面間距離、及び、(培養板が複数配置される場合には)隣接する培養板の対向する壁面間の面間距離がそれぞれ等しくなるように、容器本体内に培養板を配置することが好ましい。
培養板の材質は、前記「1.本発明の細胞培養容器の特徴」で既述した通り、特に制限されず、具体的には、金属、ガラス、シリコン、及びプラスチック等の無機材料等を挙げることができ、より好ましくはプラスチックである。プラスチックとして、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
培養板が複数の部材の組み合わせから構成されている態様においては、複数の部材の材質は全て同一であってもよいし、異なる材質を組み合わせて用いてもよい。また、容器本体の内部空間に培養板を複数配置する態様においては、容器本体の内部空間に配置される複数の培養板に用いる部材の材質は全て同一であってもよいし、異なる材質を組み合わせて用いてもよい。
さらに、培養板が細胞培養容器の容器本体と一体的に成形されている態様においては、培養板に用いる部材の材質は容器本体と同一であってもよい。また、容器本体に培養板となる部材を取り付けて培養板とする態様においては、培養板に用いる部材の材質は、容器本体の材質と同一であってもよいし、異なる材質であっても良い。
本発明では、細胞培養容器内において導入口に対向する側の培養板の幅WA(例えば、μm又はmm)及び内部空間の幅M(例えば、μm又はmm)は、導入口の内周に内接する最大内接円の直径D(例えば、μm又はmm)よりも大きいことが好ましい。この場合、図3に矢印で示すように、導入口から培養板の壁面に沿って流れる供給液を分散し、培養板により区分された各流路空間に、均一な流速で供給液を供給できる。この結果、各流路空間を形成する細胞培養容器の容器本体の内壁面および培養板の壁面に、均一に細胞を分散及び接着させ易く、これらの表面に接着した細胞に均一な流速を有した供給液を接触させることができる。さらに、各流路空間内に培地等の供給液を均一な流速で流すことができるので、細胞培養容器の容器本体の内壁面および培養板の壁面に接着した細胞を剥離剤処理後に安定して剥離することができる。ここで、導入口に対向する側の培養板の幅WA(例えば、μm又はmm)は、培養板の、導入口の側の端部における幅を指す。導入口の内周に内接する最大内接円の直径D(例えば、μm又はmm)は、下記「1.5.流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lと、導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dとの関係」において詳述する通りである。
<1.3.第1空間、第2空間>
本発明の細胞培養容器の容器本体の内部空間では、導入口と多層空間の間に、導入口から流入した供給液を滞留させる第1空間(液滞留空間)が形成されている。
培養板により区分された複数の流路空間からなる多層空間よりも上流側に第1空間を形成することにより、導入口から導入された供給液を、多層空間に向かう前に第1空間で滞留させ、供給液の液圧を安定させることができる。このような結果、第1空間で安定した液圧の供給液を多層空間に送り、多層空間を構成する各流路空間内の供給液の流速をより均一にすることができる。
本発明の細胞培養容器の容器本体の内部空間では更に、多層空間と導出口の間に、多層空間から流出した供給液を滞留させる第2空間(液滞留空間)が形成されていてもよい。多層空間よりも下流側に第2空間を設けることにより、導出口から流れ出る供給液は、流れ出る前に一旦第2空間に確保される。このため、導出口近傍の供給液の流速が高まるのを抑え、多層空間を構成する各流路空間を流れる供給液の流れを整えることができる。
第1空間及び第2空間の形状は、供給液を滞留させることができる形状である限り特に限定されず、例えば、直方体、錐体(円錐体、円錐台体、角錐体、角錐台体等)、柱体(円柱体、角柱体等)、球体、及び/又は半球体、或いはこれらの2種以上を組み合わせた形状であることができる。
<1.4.面積比St/Sa>
本発明では、細胞培養容器の容器本体の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における断面積をSa(mm2)とする。ここで、内部空間の、培養板の導入口側端部の位置は、複数の培養板の導入口側端部の、導入口からの流路に沿った距離が複数存在する場合は、複数の培養板の導入口側端部のうち最も上流側、すなわち最も導入口寄りの培養板の導入口側端部の位置を指す。
本発明ではまた、培養板により区分される複数の流路空間の総流路断面積をSt(mm2)とする。総流路断面積St(mm2)は、複数の流路空間の、各々の導入口側端部における断面積(開口面積)の和である。断面積Sa(mm2)は、総流路断面積St(mm2)と、培養板の導入口側端部の面積とを合わせた面積(mm2)である。
本発明では、面積比St/Sa≦0.932の関係を満たすことが好ましい。面積比St/Saが上記の関係を満たすことにより、複数の流路空間からなる多層空間に、供給液を均一に分散させることができ、多層空間の、導入口に対向する部分に流れる供給液の流速を抑え、多層空間のうち一部の流路空間にて局所的に供給液の流速が大きくなることを低減することができる。その結果、多層空間に流れる供給液の流速を均一にすることができる。面積比St/Sa>0.932の時には、多層空間の空隙率が大きいため、導入口からの供給液の流れの影響を、個々の流路空間内において受けやすいことがある。
なお、本発明において、面積比及び長さ比は、いずれも、比較すべき面積及び長さの単位を統一したうえで算出した比である。
更に、後述する解析(13)〜(23)で示すように、面積比St/Sa(空隙率)の値が小さいほど多層空間に流れる供給液の流速は均一になる(図16a〜16c参照)。例えば、面積比St/Sa≦0.932を満たすことが好ましい。さらに好ましくは、面積比St/Sa≦0.803を満たすことが好ましい。例えば、面積比St/Sa≦0.749、面積比St/Sa≦0.678、面積比St/Sa≦0.653、面積比St/Sa≦0.545、面積比St/Sa≦0.339、面積比St/Sa≦0.327、又は、面積比St/Sa≦0.272を満たしていても良い。面積比St/Saは供給液の流速の均一性という観点からは下限値は特に限定されないが、生産のし易さや細胞を含む供給液の目詰まりの防止の観点から例えばSt/Sa≧0.001であり、好ましくはSt/Sa≧0.010であり、より好ましくはSt/Sa≧0.100であり、より好ましくはSt/Sa≧0.200である。
前記断面積Stの範囲は、上記面積比St/Saの関係(St/Sa≦0.932又は上記のより具体的な範囲)を満たせば特に限定されないが、例えば100,000mm2以下であり、好ましくは50,000mm2以下、36,000mm2以下、30,000mm2以下、20,000mm2以下、15,000mm2以下、14,400mm2以下、13,750mm2以下、13,200mm2以下、11,520mm2以下、11,000mm2以下、10,000mm2以下、9,600mm2以下、9,000mm2以下、8,000mm2以下、7,200mm2以下、7,000mm2以下、6,000mm2以下、5,000mm2以下、4,800mm2以下、4,248mm2以下、4,000mm2以下、3,000mm2以下、2,160mm2以下である。前記断面積Stの下限は、上記St/Saの関係を満たせば特に限定されないが、例えば10mm2以上であり、好ましくは100mm2以上、1,000mm2以上である。
前記総開孔面積Saの範囲は、上記面積比St/Saの関係(St/Sa≦0.932又は上記のより具体的な範囲)を満たせば特に限定されないが、例えば100,000mm2以下であり、好ましくは60,000mm2以下、58,750mm2以下、50,000mm2以下、49,750mm2以下、40,000mm2以下、30,000mm2以下、20,000mm2以下、19,900mm2以下、15,000mm2以下、10,000mm2以下、9,950mm2以下、5,000mm2以下、4,000mm2以下、3,000mm2以下、2,985mm2以下である。前記総開孔面積Saの下限は、上記面積比St/Saの関係を満たせば特に限定されないが、例えば10mm2以上であり、好ましくは100mm2以上、500mm2以上、1000mm2以上である。
<1.5.流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lと、導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dとの関係>
本発明では、各流路空間の、導入口側端部における内周に内接する最大内接円の直径をL(例えば、μm又はmm)とし、導入口の内周に内接する最大内接円の直径をD(例えば、μm又はmm)とする。
ここで、流路空間の「内周」とは、各流路空間の断面(供給液の流路の方向に垂直な断面)上における内周を指す。流路空間の「導入口側端部」とは、流路空間のうち、導入口の側の端部を指し、本明細書では、この部分における流路空間の内周の最大内接円の直径をLとする。流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lは、前記内周が、円である場合には円の直径を指し、他の形状である場合にはその最大内接円の直径を指す。例えば、図示する各実施形態では、流路空間の、導入口側端部における内周は矩形であるため、該内周の最大内接円の直径Lは、対向する辺の間の距離のうち短い方に相当する。
導入口の内周とは、第1空間の側から見たときの導入口の内周を指す。導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dは、導入口の内周が、図示する各実施形態におけるように、円である場合には円の直径を指し、図示しないが他の形状である場合にはその最大内接円の直径を指す。本明細書では、便宜上、「導入口の内周に内接する最大内接円の直径」を「導入口の口径」と称する場合がある。
流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lの範囲は特に限定されないが、例えば10μm以上であり、好ましくは50μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、400μm以上、500μm以上、1mm以上、2mm以上、4mm以上、5mm以上、10mm以上、11mm以上、15mm以上、20mm以上、24mm以上、30mm以上、40mm以上、50mm以上、59mm以上である。流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lの上限は特に限定されないが、例えば250mm以下であることが好ましい。
導入口の口径Dの範囲は特に限定されないが、導入口に細胞を通過させる必要があるため、例えば10μm以上であり、好ましくは50μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、400μm以上、500μm以上、600μm以上、700μm以上、800μm以上、900μm以上、1mm以上、4mm以上である。導入口の口径Dの上限は特に限定されないが、例えば250mm以下であり、好ましくは100mm以下である。
本発明の好ましい実施形態では、前記LとDとが、L/D≦1の関係を満たしており、より好ましくはL/D≦0.500の関係を満たしている。また、L/D≦0.125の関係を満たしても良い。
L/Dの値が上記範囲を満たすことにより、導入口からの供給液を、培養板により形成された多層空間に分散させやすくなり、多層空間に流れる供給液の流速をより均一にすることができる。この効果の観点からはL/Dの下限は特に限定されないが、生産のし易さ等の観点から例えばL/D≧0.01である。なお、比率L/Dを算出する際には、導入口側端部における内周に内接する最大内接円の直径Lと導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dの単位は統一する。例えば、前記Lの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記Lの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。また、上述したL/Dの比率における前記導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lと前記導入口の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよい。
つまり、流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lが、導入口の口径D以下であるとき、流路空間を囲う壁面間で、導入口から流れる供給液が絞られるため、各流路空間内を流れる供給液は、導入口からの供給液の流速の影響を受け難く、その結果、均一な流れを作ることができる。
<1.6.導入口の口径Dと細胞培養容器の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における幅Mとの関係>
本発明の実施形態における細胞培養容器の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における幅M(例えば、μm又はmm)は、内部空間の前記位置における断面の最も広い部分の幅を指し、具体的には、該断面が特定の方向に延びた形状である場合は該方向の幅を指し、より具体的には、該断面が矩形である場合は対向する辺の間の距離のうち長い方を指し、該断面が楕円である場合は長径を指す。
細胞培養容器の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における幅Mの範囲は特に限定されないが、例えば1mm以上であり、好ましくは10mm以上、50mm以上、59mm以上、99.5mm以上、100mm以上、150mm以上、200mm以上である。前記Mの上限は特に限定されないが、例えば10,000mm以下であり、好ましくは1,000mm以下、500mm以下、400mm以下、350mm以下、300mm以下、250mm以下、249mm以下である。
本発明の更に好ましい実施形態では、細胞培養容器の容器本体の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における幅M(例えば、μm又はmm)が、導入口の口径D(例えば、μm又はmm)よりも大きいことが好ましい。更に好ましい様態としては、25≦M/D≦125の関係を満たす。より好ましくは50≦M/D≦62.25の関係を満たす。この関係を満たすことにより、図3の矢印に示すように、導入口から多層空間に向かって流れる供給液が分散され易くなる。なお、比率M/Dを算出する際には、培養板の導入口側端部の位置における幅Mと導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dの単位は統一する。例えば、前記Mの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記Mの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。ここで、内部空間の、培養板の導入口側端部の位置は、複数の培養板の導入口側端部の、導入口からの流路に沿った距離が複数存在する場合は、複数の培養板の導入口側端部のうち最も上流側、すなわち最も導入口寄りの培養板の導入口側端部の位置を指すことは既述の通りである。また、上述したM/Dの比率における前記細胞培養容器の容器本体の内部空間の、培養板の導入口側端部の位置における幅Mと前記導入口の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよい。
以下に本発明の4つの実施形態を図1〜12を参照しながら説明する。
<2.細胞培養容器の実施形態>
<2.1.第1実施形態>
以下に、図1〜図4を参照しながら、第1実施形態に係る細胞培養容器1Aの全体構造を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る細胞培養容器1Aの模式的斜視図であり、図2は、図1に示す細胞培養容器1Aの内部空間を示した模式的斜視図である。図3は、図1のA−A線矢視断面図であり、図4は、図3のB−B線矢視断面図である。
第1実施形態に係る細胞培養容器1Aは、容器本体10を備え、容器本体10は、細胞培養容器1Aに培地等の供給液を導入する導入口12と、細胞培養容器1Aから供給液を導出する導出口13とを有している。細胞培養容器1Aは、導入口12と導出口13との間には、内部空間11を有しており、内部空間11は、容器本体10の内壁面15、上流壁面17、および下流壁面18により形成されている。容器本体10の内壁面15は、上流壁面17の周縁と、下流壁面18の周縁との間を接続し、内部空間11を囲う面である。本実施形態では、内部空間11は容器本体10により形成された空間であり、後述する多層空間43、第1空間16、及び第2空間19を含む。この多層空間43は、複数の流路空間43Aからなり、各流路空間43A又はそれを囲う壁面において、細胞が培養される。
容器本体10には、導入管20および導出管30が接続されている。導入管20には、内部空間11に供給液を導入する導入流路21が形成されており、導入流路21の下流に、導入口12が配置されている。一方、導出管30には、内部空間11から供給液を導出する導出流路31が形成されており、導出流路31の上流に、導出口13が配置されている。図示する本実施形態では、導入口12の開口面積と導出口13の開口面積は同じであるが、この態様には特に限定されるものではない。
本実施形態では、導入口12は、平面状の上流壁面17の中央に形成されており、導出口13は、平面状の下流壁面18の中央に形成されている。導入管20の導入流路21と、導出管30の導出流路31とは、容器本体10の中心線P(同一直線状)に沿って形成されており、導入口12の中心と導出口13の中心とは、容器本体10の中心線P上に配置されているが特に限定されるものではない。
本実施形態では、導入口12が容器本体10の上流側の壁面の中央近傍に設けられ、導出口13が容器本体10の下流側の壁面の中央近傍に設けられ、且つ、導入口12と導出口13とが一軸上に対向するように設けられているため、容器本体10内に供給液が流れるとき、流路の断面上における流速分布が、前記軸を中心として点対称となり、流速の偏りが生じ難いため好ましい。ただし、本発明では、導入口12及び導出口13の容器本体10における位置及び相対的な配置は、図示する本実施形態における態様に限定されるものではないことは既述の通りである。
本実施形態では、容器本体10の内部空間11の全体形状は直方体であるが、特に限定されるものではない。
図2に示すように、細胞培養容器1Aの容器本体10の内部空間11の、導入口12と導出口13との間には、培養板40Aが配置されている。図4に示すように、容器本体10の内部空間11には、培養板40Aにより区分された複数の流路空間43Aが形成されている。本発明では、複数の流路空間43Aを組み合わせた全体を多層空間43とする。複数の流路空間43Aの各々の導入口12の側の端部を、流路空間の導入口側端部43Eとする。複数の流路空間の導入口側端部43Eからなる、多層空間43の導入口12の側の端部を、多層空間の導入口側端部44とする。複数の流路空間43Aの各々の導出口13の側の端部を、流路空間の導出口側端部43Fとする。複数の流路空間の導出口側端部43Fからなる、多層空間43の導出口13の側の端部を、多層空間の導出口側端部45とする。
本実施形態では、培養板40Aは、多層空間の導入口側端部44から導出口側端部45まで連続的に延在している。これに伴い、培養板40Aにより区分される流路空間43Aの各々はその導入口側端部43Eから導出口側端部43Fまで途切れずに連続的に形成され、均一な流動状態を保ち易い。このように配置された培養板40Aを備えた細胞培養容器1Aは、培養板40Aを備えない場合と比較して、供給された供給液の内部空間11内における流速分布が均一化される。また、各流路空間43内で供給液の流れは妨げられず、各流路空間43A内で上流から下流までの流速は均一化され易い。
本実施形態ではまた、培養板40Aは、内部空間11の導入口12の側の端部11Aから、内部空間11の導出口13の側の端部11Bに沿った方向に延在している。ここで「内部空間の導入口の側の端部」とは、容器本体が有する内壁面のうち、対向する一対の壁面の一方(上流壁面)に導入口が形成されており、他方(下流壁面)に導出口が形成されており、上流壁面と下流壁面との間に内部空間が形成されている場合において、内部空間のうち前記一方の壁面(上流壁面)の近傍部分を指し、「内部空間の導出口の側の端部」とは、前記場合において、内部空間のうち前記他方の壁面(下流壁面)の近傍部分を指す。
本実施形態では、培養板40Aは、導入口12および導出口13の間の内部空間11の中央の空間(内部空間11の一部)を、2つの流路空間43Aに区分するように、導入口12が形成された上流壁面17および導出口13が形成された下流壁面18に対して離間し、且つ、側方の辺がそれぞれ内壁面15に接続するように配置されており、多層空間43を囲う、容器本体10の内壁面15のうち一対の対向する部分と平行となるように内部空間11の幅方向に亘って配置されている。これにより、導入口12から導入された供給液の圧力損失を低減し、各流路空間43Aを通過して、導出口13から導出させることができる。
本実施形態では、培養板40Aの形状は平面視で矩形状であるが、特に限定されるものではない。培養板40Aは、細胞培養容器1Aの容器本体10と一体的に成形されていてもよい。また、容器本体10に培養板40Aとなる部材を容器本体10の内壁面15に取り付けて、培養板40Aとしてもよい。
供給液が通過する各流路空間43Aは、培養板40Aの壁面41Aにより、或いは、培養板40Aの壁面41Aと容器本体10の内壁面15とにより囲われる。培養板40Aの壁面41A及び/又は容器本体10の内壁面15が実質的に平滑な面であってもよいし、実質的な凹凸を有する面であってもよい。
本実施形態では、導入口12に対向する側の培養板40Aの幅WA及び内部空間の幅Mは、導入口12の口径Dよりも大きい。これにより、図3に矢印で示すように、導入口12から培養板40Aの壁面41Aに沿って流れる供給液を分散し、培養板40Aにより区分された各流路空間43Aに、均一な流速で供給液を供給できる。この結果、各流路空間43Aを形成する細胞培養容器1Aの内壁面15および培養板40Aの壁面41Aに、均一に細胞を分散及び接着させ易く、これらの表面に接着した細胞に均一な流速を有した供給液を接触させることができる。さらに、各流路空間43A内に培地等の供給液を均一な流速で流すことができるので、細胞培養容器1Aの内壁面15および培養板40Aの壁面41Aに接着した細胞を剥離剤処理後に安定して剥離することができる。ここで、導入口12に対向する側の培養板40Aの幅WAは、培養板40Aの、導入口12の側の端部41Eにおける幅を指す。導入口12の口径Dは、既述の通り、第1空間16から見たときの導入口12の内周12aに内接する最大内接円の直径を指す。
本実施形態では、導入口12と多層空間43の間には、導入口12から流入した供給液を滞留させる第1空間(液滞留空間)16が形成されている。さらに、多層空間43と導出口13の間には、多層空間43から流出した供給液を滞留させる第2空間(液滞留空間)19が形成されている。
培養板40Aにより区分された複数の流路空間43Aからなる多層空間43よりも上流側に第1空間16を形成することにより、導入口12から導入された供給液を、多層空間43に向かう前に第1空間16で滞留させ、供給液の液圧を安定させることができる。この結果、第1空間16で安定した液圧の供給液を多層空間43に送り、多層空間43を構成する各流路空間43A内の供給液の流速をより均一にすることができる。
さらに、培養板40Aにより区分された複数の流路空間43Aからなる多層空間43よりも下流側に第2空間19を設けることにより、導出口13から流れ出る供給液は、流れ出る前に一旦第2空間19に確保される。このため、導出口13近傍の供給液の流速が高まるのを抑え、多層空間43を構成する各流路空間43を流れる供給液の流れを整えることができる。
本実施形態において第1空間16及び第2空間19の形状は直方体であるが、供給液を滞留させることができる形状である限り特に限定されるものではない。
本実施形態では、前記1.4で説明した面積比St/Sa、前記1.5で説明したL/D、及び、前記1.6で説明したM/Dがそれぞれ上記の好ましい関係を満足する。これらの特性については、第2実施形態を参照しながら説明するが、これらの特性についての説明は、本実施形態及び第3、第4の実施形態にも当てはまる。
なお、前記「1.2.培養板」で説明した通り、本実施形態における培養板40Aは、複数の板部材を、多層空間43の導入口側の端部44から導出口側の端部45への方向に沿って、互いに側面が接するように並べることにより形成することができる。この一例を、図17に、第1実施形態の変形例として示す。第1実施形態の変形例では、1つの培養板40Aが、3つの板部材40A−10、40A−20、40A−30により形成される。3つの板部材40A−10、40A−20、40A−30は、多層空間43の導入口側の端部44から導出口側の端部45への方向に沿って、板部材40A−10の導出口側の側面40A−11と、板部材40A−20の導入口側の側面40A−21とが接し、板部材40A−20の導出口側の側面40A−22と、板部材40A−30の導入口側の側面40A−31とが接するように配置されている。こうして形成された1つの培養板40A、及び、培養板40Aにより区分される2つの流路空間43Aは、多層空間43の導入口側の端部44から導出口側の端部45まで連続的に延在した形状となる。
<2.2.第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態に係る細胞培養容器1Bの模式的斜視図であり、図6は、図4に示す位置に相当する第2実施形態に係る細胞培養容器1Bの模式的断面図であり、図7は、図6のC−C線矢視断面図である。
第2実施形態に係る細胞培養容器1Bが、第1実施形態のものと相違する点は、培養板40Aの個数である。したがって、第1実施形態の細胞培養容器1Aと同じ部分には、符号を付してその詳細な説明を省略する。
図5に示すように、細胞培養容器1Bの導入口12と導出口13との間には、第1実施形態の培養板40Aと同じ形状の培養板40Aが、その一例として4つ配置されており、4つの培養板40Aは、内部空間11の一部を5つの流路空間43Aに区分する。5つの流路空間43Aを多層空間43とする。培養板40Aは、多層空間の導入口側端部44から導出口側端部45まで連続的に延在しており、これに伴い、流路空間43Aの各々はその導入口側端部43Eから導出口側端部43Fまで途切れずに連続的に形成されている。なお、本実施形態では、4つの培養板40Aを配置したが、後述する条件を期待することができるのであれば、特にその個数は限定されない。
図6に示すように、内部空間11の一部は、4つ培養板40Aにより区分された5つの流路空間43Aを形成しており、各培養板40Aは、第1実施形態と同様に、多層空間43を囲う、容器本体10の内壁面15のうち一対の対向する部分と平行となるように内部空間11の幅方向に亘って配置されている。各培養板40Aは、導入口12が形成された上流壁面17および導出口13が形成された下流壁面18に対して離間し、側方の辺がそれぞれ内壁面15に接続されている。本実施形態では、内部空間11の高さ方向に4つの培養板40Aが等間隔(等ピッチ)で配置されており、且つ、4つの培養板40Aがそれぞれ同じ厚さを有しているため、隣接する培養板40Aの対向する壁面41A間の面間距離は等しい。本実施形態では、内部空間11を、対向する内壁面15と壁面41Aとの面間距離、及び、隣接する培養板40Aの対向する壁面41A間の面間距離がそれぞれ等しくなるように、それぞれ同じ厚さの4つの培養板40Aにより高さ方向に等間隔で配置することにより、各流路空間43Aは、同じ形状及び寸法となっている。各流路空間43Aが同じ形状及び寸法となるためには、培養板40Aとして異なる厚さの板を用いる場合は適宜ピッチを調整して各流路空間43Aが同じ形状及び寸法となるようにすればよいが、本実施形態のように、培養板40Aとして同じ厚さの板を等間隔で配置することが好ましい。
本実施形態では、内部空間11の一部に同じ形状及び寸法の5つの流路空間43Aが形成されているので、各流路空間43Aに、導入口12からの供給液をより均一に分散させることができる。特に、内壁面15のうち一対の対向する部分と平行となるように、平板状の4つの培養板40Aを等間隔で配置したので、各流路空間43Aに流れる供給液は、層流になり易い。
図8(a)は、第2実施形態に係る細胞培養容器1Bの断面積Saを説明するための図であり、図8(b)は、第2実施形態に係る4つの培養板40Aにより形成された複数の流路空間43Aの総流路断面積を説明するための図である。本実施形態では、図8(a)に示すハッチング部分の面積が、細胞培養容器1Bの内部空間11の、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fにおける断面積Sa(mm2)に相当する。ここで、内部空間11の、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fは、複数の培養板40Aの導入口側端部41Eの、流路に沿った導入口12からの距離が複数存在する場合(図示せず)は、複数の培養板40Aの導入口側端部41Eのうち最も上流側、すなわち最も導入口12寄りの培養板40Aの導入口側端部41Eの位置を指す。図8(b)に示すハッチング部分の面積が、4つの培養板40Aにより形成された5つの流路空間43Aの総流路断面積St(mm2)に相当する。総流路断面積St(mm2)は、5つの流路空間43Aの、各々の導入口側端部43Eにおける断面積の和である。断面積Sa(mm2)は、総流路断面積St(mm2)と、4つの培養板40Aの導入口側端部の断面積とを合わせた面積(mm2)である。
本実施形態では面積比St/Sa≦0.932の関係を満たすことにより、培養板40Aにより区分された複数の流路空間43Aからなる多層空間43に、供給液を均一に分散させることができ、多層空間43の導入口12に対向する部分に流れる供給液の流速を抑え、多層空間43のうち一部の流路空間43Aにて局所的に供給液の流速が大きくなることを低減することができる。その結果、多層空間43に流れる供給液の流速を均一にすることができる。
本実施形態では、流路空間43Aの、導入口側端部43Eにおける内周43Lに内接する最大内接円Cの直径をL(例えば、μm又はmm)とし、導入口12の口径をD(例えば、μm又はmm)とする。ここで、5つの流路空間43Aの、導入口側端部43Eにおける内周43Lは、各流路空間43Aのうち、最も導入口12寄りの位置における内周である。流路空間43Aの、導入口側端部43Eにおける内周43Lに内接する最大内接円Cの直径は、本実施形態及び図示する他の実施形態のように内周43Lが矩形である場合には、対向する辺の間の距離のうち短い方に相当する。
本実施形態では、前記LとDとが、好ましくはL/D≦1の関係を満たしており、より好ましくはL/D≦0.500の関係を満たしている。また、L/D≦0.125の関係を満たしても良い。なお、比率L/Dを算出する際には、流路空間43Aの、導入口側端部43Eにおける内周43Lに内接する最大内接円Cの直径をLと導入口12の口径Dの単位は統一することは既述の通りである。例えば、前記Lの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記Lの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。なお、上述したL/Dの比率における前記導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lと前記導入口12の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよいことは既述の通りである。
L/Dの値が上記範囲を満たすことにより、導入口12からの供給液を、培養板40Aにより形成された多層空間43に分散させやすくなり、多層空間43に流れる供給液の流速をより均一にすることができる。この効果の観点からはL/Dの下限は特に限定されないが、生産のし易さ等の観点から例えばL/D≧0.01である。
つまり、流路空間43A、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円の直径Lが、導入口12の口径D以下であるとき、流路空間43Aを囲う隣接する培養板40Aの壁面41A間、又は、流路空間43Aを囲う培養板40Aの壁面41Aと容器本体10の内壁面15とにより、導入口12から流れる供給液が絞られるため、各流路空間43A内を流れる供給液は、導入口12からの供給液の流速の影響を受け難く、その結果、均一な流れを作ることができる。具体的には、本実施形態の場合、細胞培養容器1Bの中心線Pに沿った流路空間43Aの部分に流れる供給液の流速を、他の流路空間43Aの部分に流れる供給液の流速に近付けることができる。
図5に示すように、本実施形態に係る細胞培養容器1Bの内部空間11の、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fにおける幅M(例えば、μm又はmm)が、導入口12の口径D(例えば、μm又はmm)よりも大きいことが好ましい。更に好ましい様態としては、25≦M/D≦125の関係を満たす。より好ましくは50≦M/D≦62.25の関係を満たす。この関係を満たすことにより、図3の矢印に示すように、導入口12から多層空間43に向かって流れる供給液が分散され易くなる。ここで、内部空間11の、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fは、複数の培養板40Aの導入口側端部41Eの、導入口12からの流路に沿った距離が複数存在する場合は、複数の培養板40Aの導入口側端部41Eのうち最も上流側、すなわち最も導入口12寄りの培養板40Aの導入口側端部41Eの位置を指すことは既述の通りである。細胞培養容器1Bの内部空間11の位置Fにおける幅M(例えば、μm又はmm)は、内部空間11の位置Fにおける断面の最も広い部分の幅を指し、具体的には、該断面が特定の方向に延びた形状である場合は長軸方向の幅を指し、より具体的には、該断面が矩形である場合は対向する辺の間の距離のうち長い方を指し、該断面が楕円である場合は長径を指す。なお、比率M/Dを算出する際には、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fにおける幅Mと導入口12の口径Dの単位は統一することは既述の通りである。例えば、前記Lの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記Mの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。なお、上述したM/Dの比率における前記細胞培養容器の容器本体の内部空間の、培養板40Aの導入口側端部41Eの位置Fにおける幅Mと前記導入口12の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよいことは既述の通りである。
第1〜第4実施形態を説明する図面では、内部空間11の幅方向に延在する培養板に対しては、符号「40A」を付し、後述する内部空間11の高さ方向に延在する培養板に対しては、符号「40B」を付している。これらの培養板40A,40Bは、相対的に内部空間11において略直交する関係であり、本明細書では、これらの培養板40A,40Bによって形成された多層空間を43、培養板40Aにより区切られた各流路空間を43A、培養板40Bにより区切られた各流路空間を43B、培養板40Aと培養板40Bとにより区切られた各流路空間を43Cと付した。培養板40Aの幅(第1空間16側の幅)をWA(例えば、μm又はmm)とし、培養板40Bの幅(第1空間16側の幅)をWB(例えば、μm又はmm)とした。培養板40Aは、内部空間11の幅方向の全体に亘り形成されているとき、培養板40Aの幅WAは、内部空間11の幅M(例えば、μm又はmm)と一致し、このとき好ましくは、25≦WA/D≦125の関係を満たし、より好ましくは50≦WA/D≦62.25の関係を満たす。なお、比率WA/Dを算出する際には、培養板40Aの幅WAと導入口12の口径Dの単位は統一することは既述の通りである。例えば、前記WAの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記WAの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。なお、上述したWA/Dの比率における前記培養板40Aの幅WAと前記導入口12の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよいことは既述の通りである。
<2.3.第3実施形態>
図9は、本発明の第3実施形態に係る細胞培養容器1Cの模式的斜視図であり、図10は、図3に示す位置に相当する第3実施形態に係る細胞培養容器1Cの模式的断面図である。
第3実施形態に係る細胞培養容器1Cが、第1実施形態のものと相違する点は、培養板40Bの向きとその個数である。したがって、第1実施形態の細胞培養容器1Aと同じ部分には、符号を付してその詳細な説明を省略する。
図9に示すように、本実施形態に係る細胞培養容器1Cは、培養板40Bを7つ有している。各培養板40Bは、内部空間11の高さ方向に沿って、多層空間43を形成するように、等間隔(等ピッチ)で配置されており、且つ、7つの培養板40Bがそれぞれ同じ厚さを有しているため、隣接する培養板40Bの対向する壁面41B間の面間距離は等しい。第1実施形態に係る培養板40Aに対して、本実施形態に係る培養板40Bは、内部空間11において相対的に略直交する関係にある。本実施形態では、内部空間11を、対向する内壁面15と壁面41Bとの面間距離、及び、隣接する培養板40Bの対向する壁面41B間の面間距離がそれぞれ等しくなるように、それぞれ同じ厚さの7つの培養板40Bにより内部空間11の幅方向に等間隔で配置することにより、各流路空間43Bは、同じ形状及び寸法となっている。各流路空間43Bが同じ形状及び寸法となるためには、培養板40Bとして異なる厚さの板を用いる場合は適宜ピッチを調整して各流路空間43Bが同じ形状及び寸法となるようにすればよいが、好ましくは、本実施形態のように、培養板40Bとして同じ厚さの板を等間隔で配置する。なお、本実施形態では、7つの培養板40Bを内部空間11の一部に配置したが、後述する条件を期待することができるのであれば、特にその個数は限定されない。
具体的には、図10に示すように、7つの培養板40Bにより、8つの流路空間43Bからなる多層空間43が形成される。培養板40Bは、多層空間の導入口側端部44から導出口側端部45まで連続的に延在しており、これに伴い、流路空間43Bの各々はその導入口側端部43Eから導出口側端部43Fまで途切れずに連続的に形成されている。
また、本実施形態では、7つ培養板40Bが上記の通り等間隔で配置され、各培養板40Bは、第1実施形態と同様に、容器本体10の、多層空間43を囲う内壁面15のうち一対の対向する部分と平行となるように内部空間11の高さ方向に亘って、内壁面15の2か所を架橋するように配置されている。これより、各流路空間43Bは、同じ形状及び寸法となり、区分された8つの流路空間43Bに、導入口12からの供給液をより均一に分散させることができる。特に、平面状の内壁面15のうち一対の対向する部分と平行となるように、平板状の7つの培養板40Bを等間隔で配置したため、各流路空間43Bに流れる供給液は、層流になり易い。
なお、本実施形態では、図9及び図10に示すように、各流路空間43Bの、導入口側端部43Eにおける内周は、培養板40Bに沿った方向(内部空間11の高さ方向)に長い長方形であるため、該内周の最大内接円Cの直径Lは、隣接する培養板40Bの対向する壁面41B間の距離と合致する。培養板40B間の対向する壁面41B間の距離をL(例えば、μm又はmm)とし、導入口12の口径をD(例えば、μm又はmm)とした場合に、L/D≦1の関係を満たすとき、導入口12からの供給液を、培養板40Bにより区分された各流路空間43Bに分散させやすくなり、各流路空間43Bに流れる供給液の流速をより均一にすることができるため好ましい。なお、比率L/Dを算出する際には、培養板40B間の対向する壁面41B間の距離をLと導入口12の口径Dの単位は統一することは既述の通りである。例えば、前記Lの単位がμmである場合には、前記Dの単位もμmで統一し、前記Lの単位がmmの場合には、前記Dの単位もmmに統一する。なお、上述したL/Dの比率における前記培養板40B間の対向する壁面41B間の距離をLと前記導入口12の口径Dについては、特に限定されるものではないが、例えば、本明細書に記載した数値の範囲内において、適宜、設計してもよいことは既述の通りである。
<2.4.第4実施形態>
図11は、本発明の第4実施形態に係る細胞培養容器1Dの模式的斜視図であり、図12は、図7に示す位置に相当する第4実施形態に係る細胞培養容器1Dの模式的断面図である。
第4実施形態に係る細胞培養容器1Dが、第2実施形態のものと相違する点は、内部空間11の一部に高さ方向に沿って第3実施形態に示した複数(7個)の培養板40Bをさらに配置した点である。したがって、第3実施形態の細胞培養容器1Cと同じ部分には、符号を付してその詳細な説明を省略する。
具体的には、図11および12に示すように、本実施形態に係る細胞培養容器1Dは、内部空間11の一部に、第2実施形態と同様の4つ培養板40Aと、第3実施形態と同様の7つの培養板40Bとが、配置されている。培養板40Aと培養板40Bとは、互いに略直交するように形成されている。ここで、培養板40Aと培養板40Bとが互いに「略直交」するとは、具体的には、培養板40Aと培養板40Bとが交差する部分において、培養板40Aに沿う面の法線と、培養板40Bに沿う面の法線とが成す角のうち小さい方の角の角度が実質的に90°となるように、培養板40Aと培養板40Bとが配置されていることを指す。前記角度は具体的には80°以上、90°以下、好ましくは85°以上、90°以下、より好ましくは88°以上90°以下、特に好ましくは90°である。なお、本実施形態では、4つの培養板40Aと7つの培養板40Bを内部空間11の一部に配置したが、後述する条件を期待することができるのであれば、特にその個数は限定されない。
具体的には、図12に示すように、内部空間11の一部は、4つ培養板40Aと、7つの培養板40Bとにより、40個の流路空間43Cからなる多層空間43を形成している。これらの培養板40A,40Bは、多層空間の導入口側端部44から導出口側端部45まで連続的に延在しており、これに伴い、流路空間43Cの各々はその導入口側端部43Eから導出口側端部43Fまで途切れずに連続的に形成されている。さらに、第2および第3実施形態で述べた培養板40A,40Bの配置状態により、各流路空間43Cは、同じ形状及び寸法となっている。このようにして、導入口12からの供給液をより均一に分散させることができ、各流路空間43Cに流れる供給液は、層流になり易い。
実施形態では、培養板40A、40Bを、略直交するように、内部空間11の一部に複数配置しており、第1〜第3実施形態に係る細胞培養容器1A〜1Cのものに比べて、より多くの流路空間43Cが形成される一方で、St/Saで示される空隙率は小さくなる。このため、導入口12から流れる供給液をより分散させ易くなるとともに、多層空間43において、培養する細胞が付着する表面積をより多くすることができる。
図12に示す実施形態では、各流路空間43Cの、導出口側端部43Eにおける内周43Lは、培養板40Aに沿った方向(内部空間11の幅方向)に長い長方形であるため、該内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、隣接する培養板40Aの対向する壁面41A間の距離と一致する。図示する態様とは異なるが、各流路空間43Cの、導出口側端部43Eにおける内周43Lが、培養板40Bに沿った方向(内部空間11の高さ方向)に長い長方形である場合には、該内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、隣接する培養板40Bの対向する壁面41B間の距離と一致する。前記Lが、導入口12の口径D以下(L/D≦1)の関係を満たしていれば、隣接する培養板40A同士により、導入口12から流れる供給液が絞られるため、導入口12に対向する流路空間43C内を流れる供給液は、導入口12からの供給液の流速の影響を受け難く、多層空間43全体へ均一に供給液を流すことができる。
さらに、本実施形態では、好ましくは、内部空間11の一部には、第2実施形態と同様の4つ培養板40Aと、第3実施形態と同様の7つの培養板40Bとが、配置されており、面積比St/Sa≦0.932を満たしている。この条件を満たすことにより、各流路空間43Cに、供給液を均一に分散させることができ、導入口12に対向する位置に形成された流路空間43Cに流れる供給液の流速を抑え、各流路空間43Cに局所的に供給液の流速が大きくなることを低減することができる。
<3.細胞培養システム100>
図13は、本発明の細胞培養容器を備えた細胞培養システム100の模式的概念図である。図13では、その一例として、第1実施形態に係る細胞培養容器1Aを備えた細胞培養システムを説明する。なお、各実施形態に係る細胞培養容器の作用について、上述した説明および下記の流体解析の説明で詳述しているので、ここでは、他の第2〜第4実施形態に係る細胞培養容器を適用した説明は省略する。
図13に示すように、細胞培養システム100は、細胞培養容器1Aと、供給液として培地を供給する培地供給源91と、培地供給源91から培地を細胞培養容器1Aの導入口12に圧送するポンプなどの圧送部92と、を少なくとも備えている。具体的には、細胞培養容器1Aは、圧送部92を介して培地供給源91に接続されている。培地供給源91と圧送部92との間には、バルブ91aが設けられており、これにより培地を送ることができる。
好ましくは、本実施形態に係る細胞培養システム100では、細胞培養容器1Aを通過した培地が、培地供給源91に回収されるように、三方弁91bを介して、細胞培養容器1Aの導出口13が培地供給源91に接続されている。これにより、細胞培養システム100内において培地を循環させることができる。
好ましくは、本実施形態に係る細胞培養システム100では、細胞培養容器1Aの導出口13は、細胞培養容器1Aを通過した培地が、培地供給源91とは別の廃液容器94に回収されるように、廃液容器94に接続されている。これにより、廃液容器94に培地を回収することができる。
なお、本実施形態では、細胞培養システム100に三方弁91bを設けて、細胞培養システム100内で培地の循環および培地の回収を選択的に行うことができる。しかしながら、例えば、培地を循環させない場合には、三方弁91bを用いずに、細胞培養容器1Aの導出口13を廃液容器94に接続すればよい。また、培地を廃液しない場合には、三方弁91bを用いずに、細胞培養容器1Aの導出口13を培地供給源91に接続すればよい。
さらに好ましくは、細胞培養システム100は、細胞を含む懸濁液を供給する懸濁液供給源95と、培養後の細胞培養容器1Aに接着した細胞を剥離させる剥離液供給源96と、を備えている。懸濁液供給源95、剥離液供給源96、緩衝液供給源97、およびコーティング剤供給源98は、バルブ95a、96a、97a、98aを介して、圧送部92に接続されている。これらのバルブ95a,96a、97a、98aを選択して開閉することにより、懸濁液または剥離液または緩衝液またはコーティング剤を供給液として、細胞培養容器1Aに選択的に供給することができる。なお三方弁91b、バルブ95a、96a、97a、98aは無菌的に接続できることが好ましい。また、細胞培養システム100において、培地で細胞の培養のみを行う場合には、懸濁液供給源95と剥離液供給源96と緩衝液供給源97とを省略することができる。
また、本実施形態に係る細胞培養システム100には、培地供給源91に温度センサーと温度調節装置を連結することができる。これにより、細胞培養容器1(1A)へ供給する培地及び細胞培養システム100内を循環する培地温度を一定に保持させることができる。また、細胞培養システム100(例えば、培地供給源91等)に透析システムを連結することもでき、これにより、低分子の老廃物を除去し、培養に必要な栄養素(例えば、グルコース、ビタミン類、脂質、アミノ酸などの低分子やこれらの低分子を含む培地)を供給することもできる。また、細胞培養システム100にはpHを調整するためのシステムを搭載することもできる。また、培地中の酸素濃度や二酸化炭素を調整するためのシステムを搭載することもできる。また、増殖因子等のタンパク質を新たに補充するためのシステムを搭載することもできる。また、細胞培養システム100(例えば、懸濁液供給源95等)には細胞分離デバイスを連結することもでき、これにより、接着細胞の単離から培養までの一連の工程を全て閉鎖系で行うことができる。細胞分離デバイスとしては、例えば、CellEffic BM(登録商標)を用いることができる。
<4.細胞培養方法>
以下に細胞培養方法について説明する。以下の説明では、細胞培養容器1Aの培養板40Aの壁面41Aおよび容器本体10の内壁面15に細胞を接着し、接着された細胞に培地を接触させることにより、細胞を培養する例を挙げて説明する。まず、以下に細胞と培地について例示する。
<4.1.細胞>
本発明に用いる細胞は、接着性を有する細胞(接着性細胞)であれば特に限定されず、動物由来細胞等であることができ、好ましくは哺乳類動物由来細胞等であることができ、より好ましくは生体組織由来細胞及び生体組織由来細胞から派生した細胞等であることができ、特に好ましくは上皮組織由来細胞及び上皮組織細胞から派生した細胞等、又は結合組織由来細胞及び結合組織由来細胞から派生した細胞等、又は筋組織由来細胞及び筋組織由来細胞から派生した細胞等、又は神経組織由来細胞及び神経組織由来細胞から派生した細胞等であることができる。前記筋組織由来及び筋組織由来細胞から派生した細胞等としては特に限定しないが、例えば心筋細胞、筋芽細胞、内皮細胞、壁細胞が挙げられ、前記神経組織由来及び神経組織由来細胞から派生した細胞等としては特に限定しないが、例えば、293FT細胞、プライマリーの神経細胞、株化された神経細胞(例えば、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y)、ReproNeuro(ReproCELL社)、Human Neuronal Kit(Xcell Science社)、iCell Nurons(Cellular Dynamics International’s社)、HEK293細胞、BHK-21細胞などが挙げられる。
また、前記接着性細胞は、動物由来幹細胞及び動物由来幹細胞から分化した細胞等であることができ、好ましくは哺乳類動物由来幹細胞及び哺乳類動物由来幹細胞から分化した細胞等であることができ、さらに好ましくはヒト由来幹細胞及びヒト由来幹細胞から分化した細胞等であることができる。ヒト由来幹細胞及びヒト由来幹細胞から分化した細胞等としては特に限定しないが、例えば、ヒト由来間葉系幹細胞及びヒト由来間葉系幹細胞から分化した細胞等が挙げられる。前記間葉系幹細胞の由来組織は特に限定しないが、例えば骨髄、脂肪組織、歯髄、臍帯血、胎盤、羊膜等、種々の組織から分離した細胞であってもよいし、ヒト由来多能性幹細胞から分化誘導した細胞であってもよい。
さらに、前記接着細胞は、動物由来多能性幹細胞及び動物由来多能性幹細胞から分化した細胞等であることができ、さらに好ましくは哺乳類動物由来多能性幹細胞及び哺乳類動物由来多能性幹細胞から分化した細胞等であることができ、もっとも好ましくはヒト由来多能性幹細胞及びヒト由来多能性幹細胞から分化した細胞等であることができる。また、本発明における細胞は、接着細胞が単一で存在していてもよいし、複数の接着細胞が接着及び/又は凝集することにより、細胞集団として存在していてもよい。
「多能性幹細胞」とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有する細胞であって、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。多能性幹細胞の具体例としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞であるEG細胞(Shamblott M.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1998) 95, p.13726−13731)、精巣由来の多能性幹細胞であるGS細胞(Conrad S., Nature (2008) 456, p.344−349)、体細胞由来の人工多能性幹細胞であるiPS細胞(induced pluripotent stem cells)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に用いる多能性幹細胞は、特に好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。ES細胞は、胚盤胞と呼ばれる初期胚の内部に存在する内部細胞塊から採取した未分化細胞に由来する培養細胞である。iPS細胞は、体細胞に初期化因子を導入することにより体細胞を未分化状態へと初期化し、多能性を付与した培養細胞である。初期化因子としては、例えばOCT3/4及びKLF4及びSOX2及びc−Mycを用いることができ(Yu J, et al. Science. 2007;318:1917−20.)、例えばOCT3/4及びSOX2及びLIN28及びNanogを用いることができる(Takahashi K, et al. Cell. 2007;131:861−72.)。これらの因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNAやRNA、低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。また、拒絶反応が起きにくいとされるHLA(Human Leukocyte Antigen)型の組み合わせ(HLAホモ接合体)を持つ健常人ボランティア由来の細胞から作製されたiPS細胞を用いても良い。ES細胞、iPS細胞を始めとする多能性幹細胞は、市販品又は分譲を受けた細胞を用いてもよいし、新たに作製したものを用いてもよい。iPS細胞として、例えば253G1株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、HiPS−RIKEN−1A株、HiPS−RIKEN−2A株、HiPS−RIKEN−12A株、Nips−B2株、TkDN4−M株、TkDA3−1株、TkDA3−2株、TkDA3−4株、TkDA3−5株、TkDA3−9株、TkDA3−20株、hiPSC 38−2株、MSC−iPSC1株、BJ−iPSC1株等を使用することができる。ES細胞として、例えばKhES−1株、KhES−2株、KhES―3株、KhES−4株、KhES−5株、SEES1株、SEES2株、SEES3株、HUES8株、CyT49株、H1株、H9株、HS−181株等を使用することができる。新たに作製された臨床グレードのiPS細胞又はES細胞を用いてもよい。iPS細胞を作製する際の細胞の由来は特に限定されないが、例えば、繊維芽細胞又はリンパ球等を用いることができる。
本実施形態で用いられる細胞は、任意の動物由来のものであってよく、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類、ヒト、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類、さらにイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の家畜又は愛玩動物などの哺乳動物由来のものであってよいが、ヒト由来の細胞が特に好ましい。
<4.2.培地>
本発明で用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。なお、前記基礎培地に増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F−12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
<4.3.細胞培養方法の各工程>
本発明の細胞培養方法は、細胞を播種する工程、細胞を培養する工程、及び、細胞を剥離する工程を含む。上記の細胞培養システム100を用いる場合、具体的には、まず、バルブ95aを開弁し、細胞を含む懸濁液供給源95から圧送部92で、細胞培養容器1Aの導入口12に細胞を含む懸濁液を導入することにより細胞を播種する。懸濁液は、導入口12から第1空間16を経て多層空間43に送り込まれる。懸濁液を導出口13から導出し、三方弁91bを切り替えて、廃液容器94に排出する。細胞を播種する工程は更に細胞を接着させることを含むことができる。具体的には細胞培養容器1Aが懸濁液で満たされた時点で、バルブ95aおよび三方弁91bを閉弁し、圧送部92の駆動を停止し、細胞を接着させる。細胞を接着させるために、時間は限定しないが、一定の時間、細胞培養容器1Aへの供給液の流入を止め、細胞が沈降し、内壁面15や多層培養基盤等に細胞が接着するまで静置させる工程を含むことが好ましい。ただし、細胞の種類によっては、上記懸濁液を細胞培養容器1(1A)に導入する前にバルブ98aを先に開弁し、コーティング剤を導入する工程を含んでいても良い。コーティング剤は特に限定されないが、例えば、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲル、ゼラチン、コラーゲン、カドヘリンなどが挙がられる。
次に、細胞を培養する工程を行う。該工程は、細胞が播種された細胞培養容器に培地を供給しながら細胞を培養することを含む。具体的には、バルブ91aおよび三方弁91bを開弁し、圧送部92を駆動し、培地供給源91から培地を細胞培養容器1Aの導入口12に導入する。必要に応じて、細胞培養システム100の系内に残存する懸濁液を培地とともに廃液容器94に排出する。なお、予め、懸濁液で、内壁面15および培養板40Aの壁面41A等に細胞を接着されている場合には、上述した一連の工程を省略する。
次に、三方弁91bを切り替えて、導出口13からの培地を培地供給源91に回収し、培地を循環させることで培地を細胞培養容器1A内に供給する。これにより、これにより、細胞培養容器1(1A)内に一時的にまたは常時培地を供給することができ、細胞を培養することができる。
培養が完了後、バルブ91aを閉じ、バルブ97aを開き、緩衝液供給源97から、緩衝液を細胞培養容器1Aの導入口12に導入し、廃液容器94に排出する。これにより細胞培養容器1Aに残存した剥離液の阻害物質を除去する。その後、バルブ96aを開き、剥離液供給源96から、剥離液を細胞培養容器1Aに導入する。この工程により、接着した細胞を剥離し、剥離液とともに、培養した細胞を導出口13から回収することができる。より好ましくは、バルブ91aをさらに開き、培地供給源91から培地を細胞培養容器1Aの導入口12に導入し、剥離剤および培地とともに培養した細胞を導出口13から回収することができる。培養した細胞の回収方法としては、例えば、導出口13を送液ラインから取り外し、培養した細胞を剥離剤および培地と共に、回収容器へ直接注いでもよいし、導出口13と三方弁91bとの間に新たな三方弁を設け、さらに三方弁の先に新たな回収容器を備えても良い。導出口13と三方弁91bの間に新たな三方弁を設け、その先に新たな回収容器を備えた態様では、先述した三方弁を回収容器方向へ切り替えることで、導出口13を送液ラインから取り外すことなく、培養した細胞を剥離剤および培地と共に回収することができる。前記剥離剤は特に限定されないが、例えば、トリプシン、Accutase(商標登録)、TrypLETM Express Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、TrypLETM Select Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、ディスパーゼ(商標登録)、コラゲナーゼなどが挙げられる。本実施形態では、多層空間43内の培地等の供給液の流速を均一にすることにより、細胞を均質に培養することができる。
<5.流体解析>
<5.1.導入口の口径と培養板の幅の関係>
上述した「1.6.導入口の口径Dと細胞培養容器の内部空間の幅Mとの関係」で説明した効果を確認すべく、発明者らは、上述した第2実施形態に係る細胞培養容器を基本モデルとして、その内部に流れる供給液の流速分布を解析した。流速分布の解析はアンシス・ジャパン株式会社が提供する流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(http://www.ansys.com/ja-JP/Products/Fluids)を用いて行った。解析(1)〜(4)では、細胞培養容器の内部空間を高さ99.5mm、長さ350mmの直方体に設定し、内部空間の幅Mを変更した。さらに、各解析では、円形である導入口および導出口の口径(D)を4mmに設定し、導入口および導出口から、25mm空けた位置に厚さ1mmの3つの培養板が、その端部を揃えて24mmの等間隔に配置されるように設定した。各培養板は内部空間の幅の方向に沿って設定したため、培養板の幅Wは内部空間の幅Mと一致する。また、解析(5)では、細胞培養容器の内部空間を高さ59mm、長さ350m、内部空間の幅M及び培養板の幅Wは249mmとし、導入口および導出口の口径(D)を4mmに設定し、導入口および導出口から、25mm空けた位置に厚さ1mmの培養板4つを配置し、その端部を揃えて11mmで等間隔に配置した。なお、図14a及び図14bには導入口12、導出口13等の位置を示している。
解析(1)のモデルでは、細胞培養容器の内部空間の幅M及び培養板の幅Wを500mmに設定した。このときのM/Dは、125である。
解析(2)のモデルでは、細胞培養容器の内部空間の幅M及び培養板の幅Wを200mmに設定した。このときのM/Dは、50である。
解析(3)のモデルでは、細胞培養容器の内部空間の幅M及び培養板の幅Wを100mmに設定した。このときのM/Dは、25である。
解析(4)のモデルでは、細胞培養容器の内部空間の図14aにおける横方向の寸法及び該方向に沿って設けられた培養板の幅Wを59mmに設定した。このとき、細胞培養容器の内部空間の、流路に垂直な断面は59mm×99.5mmの長方形となるため、99.5mm(図14aにおける縦方向の寸法)が、細胞培養容器の内部空間の幅Mであり、M/Dは、24.875である。
解析(5)のモデルでは、細胞培養容器の内部空間の幅M及び培養板の幅Wを249mmに設定した。このときのM/Dは62.25である。
これらのモデルを用いて、流速10m/sとして、ナビエストークスの式を用いて、供給液の速度分布を解析した。解析において、流体の密度を1050kg/m3とし、粘度係数を3.5×10−3Pa・sとし、容器内壁面での流速を0とする滑り無し条件とした。
結果を、図14a及び図14bに示す。図14a及び図14bは、解析(1)〜(5)の結果を示した図である。図中、濃淡は流速を示しており、流速が高い部分を「H」で指し、流速が低い部分を「L」で指す。
また、図14a及び14bに示す各解析結果の画像を目視し、流速分布の均一性を、不均一な場合を0、均一な場合を+5とし、0に近い状態から+5に近い状態までを順に+1、+2、+3、+4として評価した。評価結果を次表に示す。
解析(1)〜(5)から、M/Dの値が大きくなると、導入口からの供給液の流れが幅方向に分散されることがわかる。特に25≦M/D≦125の関係を満たしているとき、その効果が現れ、さらに50≦M/D≦62.25の関係を満たしているとき、乱流等の発生が減弱し、さらに多層空間内の供給液の流速分布が均一化されていた。
<5.2.流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径と、導入口の口径との関係>
上述した「1.5.流路空間の、導入口側端部における内周の最大内接円の直径Lと、導入口の内周に内接する最大内接円の直径Dとの関係」で説明した効果を確認すべく、発明者らは細胞培養容器内の流速分布を解析した。上述した第2〜4実施形態に係る細胞培養容器を基本モデルとして、その内部に流れる供給液の流速分布を解析した。流速分布の解析は上記と同様にアンシス・ジャパン株式会社が提供する流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(http://www.ansys.com/ja-JP/Products/Fluids)を用いて行った。
具体的には、以下に示す解析(6)〜(12)では、細胞培養容器の内部空間を幅249mm、長さ350mm、高さ59mmの直方体に設定し、円形の導入口および導出口の口径(D)を4mmに設定した。次に、厚さ1mmの培養板を、その端部を揃えて、導入口および導出口から25mm空けた位置に等間隔で配置されるように設定した。
解析(6)のモデルは、第3実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、幅方向に9枚の培養板40Bを等間隔に配置し、培養板40B同士の対向する壁面41B間の距離は、24mmである。各流路空間43Bの、導入口側端部43Eにおける内周43Lは、培養板40Bに沿った方向に長い長方形であるため、該内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、隣接する培養板40Bの対向する壁面41B間の距離である24mmと一致する。従ってL/D=6である。
解析(7)のモデルは、第3実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、培養板40B同士の対向する壁面41B間の距離は、4mmであり、解析(6)と同様に、該距離が各流路空間43Bの、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lと一致するため、L/D=1である。
解析(8)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図11参照)を基本モデルとしている。具体的には、幅方向に9枚の培養板40Bを等間隔に配置し、培養板40B同士の対向する壁面41B間の距離は、24mmであることに加え、高さ方向に4枚の培養板40Aを等間隔に配置し、培養板40A同士の対向する壁面41A間の距離は、11mmである。各流路空間43Cの、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、該内周43Lの短手方向寸法である11mmと一致し、L/D=2.75である。
解析(9)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図11参照)を基本モデルとしている。具体的には、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、培養板40B同士の対向する壁面41B間の距離は、4mmであることに加え、高さ方向に4枚の培養板40Aを等間隔に配置し、培養板40A同士の対向する壁面41A間の距離は、11mmである。各流路空間43Cの、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、該内周43Lの短手方向寸法である4mmと一致し、L/D=1である。
解析(10)のモデルは、解析(5)のモデルと同じであり、第2実施形態で示した細胞培養容器(図5参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に4枚の培養板40Aを等間隔に配置し、培養板40A同士の対向する壁面41A間の距離は、11mmである。各流路空間43Aの、導入口側端部43Eにおける内周43Lは、培養板40Aに沿った方向に長い長方形であるため、該内周43Lの最大内接円Cの直径Lは、隣接する培養板40Aの対向する壁面41A間の距離である11mmと一致する。従ってL/D=2.75である。
解析(11)のモデルは、第2実施形態で示した細胞培養容器(図5参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に19枚の培養板40Aを等間隔に配置し、培養板40A同士の対向する壁面41A間の距離は、2mmであり、解析(10)と同様に該距離がLと一致するから、L/D=0.5である。
解析(12)のモデルは、第2実施形態で示した細胞培養容器(図5参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に39枚の培養板40Aを等間隔に配置し、培養板40A同士の対向する壁面41A間の距離は、0.5mmであり、解析(10)と同様に該距離がLと一致するから、L/D=0.125である。
これらのモデルを用いて、流速10m/sとして、ナビエストークスの式を用いて、供給液の速度分布を解析した。解析において、流体の密度を1050kg/m3とし、粘度係数を3.5×10−3Pa・sとし、容器内壁面での流速を0とする滑り無し条件とした。
この結果を、図15a〜15cに示す。図15a〜15cは、解析(6)〜(12)の結果を示した図である。図中、濃淡は流速を示しており、流速が高い部分を「H」で指し、流速が低い部分を「L」で指す。
また、図15a〜15cに示す各解析結果の画像を目視し、流速分布の均一性を上記と同様の方法で評価した評価結果を次表に示す。
解析(6)〜(12)に係るモデルでは、各流路空間43A,43B,43Cの、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lと導入口の口径Dとの関係がL/D≦1を満たすとき、導入口からの供給された供給液の流速分布が多層空間において均一化され易いことが明らかになった。すなわち、各流路空間43A,43B,43Cの、導入口側端部43Eにおける内周43Lの最大内接円Cの直径Lが、導入口の口径D以下であれば、隣接する培養板同士により、導入口から流れる供給液が絞られるため、各流路空間43A,43B,43C内を流れる供給液の、導入口からの流れが分散されるためと考えられる。
<5.3.面積比St/Sa>
上述した「1.4.面積比St/Sa」で説明した効果を確認すべく、発明者らは細胞培養容器内の流速分布を解析した。上述した第2〜4実施形態に係る細胞培養容器を基本モデルとして、その内部に流れる供給液の流速分布を解析した。流速分布の解析は上記と同様にアンシス・ジャパン株式会社が提供する流体解析ソフトウェアANSYS Fluent(http://www.ansys.com/ja-JP/Products/Fluids)を用いて行った。
具体的には、以下に示す解析(13)〜(23)では、細胞培養容器の内部空間を幅249mm、長さ350mm、高さ59mmの直方体に設定し、円形である導入口および導出口の口径(D)を4mmに設定した。次に、厚さ1mmの培養板を、その端部を揃えて導入口および導出口から25mm空けた位置に等間隔に配置されるように設定した。
解析(13)のモデルは、培養板を配置しておらず、面積比St/Sa=1.000である。
解析(14)のモデルは、解析(6)のモデルと同じである。具体的には、幅方向に9枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.964である。
解析(15)のモデルは、解析(5)及び解析(10)のモデルと同じである。具体的には、高さ方向に4枚の培養板40Aを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.932である。
解析(16)のモデルは、解析(7)のモデルと同じである。具体的には、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.803である。
解析(17)のモデルは、解析(9)のモデルと同じである。具体的には、高さ方向に4枚の培養板40Aを等間隔に配置し、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.749である。
解析(18)のモデルは、解析(11)のモデルと同じである。具体的には、高さ方向に19枚の培養板40Aを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.678である。
解析(19)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に19枚の培養板40Aを等間隔に配置し、幅方向に9枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.653である。
解析(20)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に19枚の培養板40Aを等間隔に配置し、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.545である。
解析(21)のモデルは、解析(12)のモデルと同じである。具体的には、高さ方向に39枚の培養板40Aを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.339である。
解析(22)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に39枚の培養板40Aを等間隔に配置し、幅方向に9枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.327である。
解析(23)のモデルは、第4実施形態で示した細胞培養容器(図9参照)を基本モデルとしている。具体的には、高さ方向に39枚の培養板40Aを等間隔に配置し、幅方向に49枚の培養板40Bを等間隔に配置し、面積比St/Sa=0.272である。
これらのモデルを用いて、流速10m/sとして、ナビエストークスの式を用いて、供給液の速度分布を解析した。解析において、流体の密度を1050kg/m3とし、粘度係数を3.5×10−3Pa・sとし、容器内壁面での流速を0とする滑り無し条件とした。
この結果を、図16a〜16cに示す。図16a〜16cは、解析(13)〜(23)の結果を示した図である。なお、面積比St/Saは、小数第4位を四捨五入した値を示している。図中、濃淡は流速を示しており、流速が高い部分を「H」で指し、流速が低い部分を「L」で指す。
また、図16a〜16cに示す各解析結果の画像を目視し、流速分布の均一性を上記と同様の方法で評価した評価結果を次表に示す。
解析(13)および解析(14)では、多層空間内の供給液の流速が不均一になっていることに対して、解析(15)〜(23)では、多層空間を構成する各流路空間内の供給液の流速分布が均一化されていることがわかる。つまり、St/Sa≦0.932の関係を満たせば、各流路空間内の供給液の流速が均一となりやすいことがわかる。より好ましくは、面積比St/Sa≦0.803を満たせば、各流路空間内の供給液の流れがより一層均一になることがわかる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。