JP7176748B2 - T細胞受容体γδ陽性細胞の誘導方法 - Google Patents
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また、特許文献1及び2には、in vitroでT細胞受容体γδ陽性細胞を増殖させる方法が記載されている。
特許文献3には、in vitroで胸腺上皮細胞を多能性幹細胞から分化誘導させる方法が記載されている。
さらに、従来行われているT細胞受容体γδ陽性細胞の増殖方法は、培養を行う際に培地に動物血清を使用しており、感染症のリスクが高い等の問題もある。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
誘導方法。
項2.前記造血幹細胞を含む細胞集団が、表面マーカーCD3、CD4、CD8、CD11b、CD71、B220、TER119、Gr-1、及びNK1.1陽性細胞をネガティブセレクションにより除去した細胞集団である、項1に記載の誘導方法。
項3.前記共培養がインターロイキン2及びインターロイキン7の存在下で行われる、項1又は2に記載の誘導方法。
項4.前記胸腺上皮細胞が、人工多能性幹細胞をアクチビンAと、塩化リチウムとの存在下で培養する第1の工程と、アクチビンAと、塩化リチウムと、FGF8との存在下で培養する第2の工程と、塩化リチウムと、FGF7と、FGF10と、BMP4との存在下で培養する第3の工程と、を含む方法により誘導されたものである、項1~3のいずれか一項に記載の誘導方法。
項5.前記共培養が、無血清培地を使用して行われる、項1~4のいずれか一項に記載の誘導方法。
項6.前記T細胞受容体γδ陽性細胞が、T細胞受容体γδ陽性細胞治療の適用対象者と免疫学的な適合性を有する、項1~5のいずれか一項に記載の誘導方法。
(1)人工多能性幹細胞
本明細書において、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)とは、体細胞をリプログラミングすることにより、多能性を獲得された細胞である限り制限されない。
人工多能性幹細胞を維持するための培養方法は、公知の方法にしたがって行ってもよい。
購入した分化誘導前の人工多能性幹細胞は、未分化性を維持するため液体窒素に保存されている。解凍後の細胞は、洗浄後、10cmディッシュあたり2~4×105個程度となるように播種することができる。細胞の継代の際には0.25% トリプシン(Thermo Fisher Scientific)でディッシュから解離させて、人工多能性幹細胞を回収することができる。
人工多能性幹細胞からの胸腺上皮細胞の誘導方法は、少なくとも、
アクチビンAと、塩化リチウムとの存在下で培養する第1の工程と、
アクチビンAと、塩化リチウムと、FGF8との存在下で培養する第2の工程と、
塩化リチウムと、FGF7と、FGF10と、BMP4との存在下で培養する第3の工程とを含む。
本実施形態は、造血幹細胞を含む細胞集団から、T細胞受容体γδ陽性細胞を分化誘導する方法を含む。
造血幹細胞を含む細胞集団には、例えば、骨髄から採取された細胞集団、臍帯血から採取された細胞集団等を含み得る。造血幹細胞を含む細胞集団は、セルバンク、骨髄バンク、臍帯血バンク等から入手してもよい。
造血幹細胞を含む細胞集団は、採取された骨髄又は臍帯血をそのまま使用してもよいが、造血幹細胞の含有割合が高くなるように富化して使用する方が得られるγδ陽性T細胞の純度は高くなる。
上記2.(1)で取得した造血幹細胞を含む細胞集団を、上記1.(3)に記載の方法で誘導された胸腺上皮細胞と共培養することで、γδ受容体陽性T細胞を誘導する。
上記1で誘導された胸腺上皮細胞が付着したディッシュ又はシャーレに、上記2.(1)で採取した造血幹細胞を含む細胞集団を添加し、共培養を開始する。胸腺上皮細胞と造血幹細胞を含む細胞集団の細胞数の割合は、30:1~3:1程度、好ましくは15:1~5:1程度とすることが好ましい。
胸腺上皮細胞と造血幹細胞を含む細胞集団とを共培養することにより、少なくとも共培養開始から7日目からγδ受容体陽性T細胞を確認することができる。
(1)胸腺上皮細胞の分化誘導
図1に概要を示す。マウス人工多能性幹細胞(iPS細胞:APS0001)はRIKEN BRCから購入した。iPS細胞を培養するための基本培地としてSF-03 (三光純薬、東京、日本)培地を使用した。2×105個のiPS細胞は、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(2ME)と、5 mM塩化リチウム (SIGMA、St Louis, MO, USA)と、10 ng/ml アクチビンA (R&D systems, Minneapolis, MN, USA)を加えたSF-03培地 10 mlで4日間 、0.1~0.3 mg/ml IV型コラーゲン(新田ゼラチン、大阪、日本)をコーティングした10 cmディッシュで培養した。その後、0.1 mM 2ME、5 mM塩化リチウム、4 ng/ml Fibroblast growth factor (FGF) 8 (R&D systems)及び5 ng/mlアクチビンAを加えたSF-03培地に置き換え3日間培養した。続いて、0.1mM 2ME、 5 mM塩化リチウム, 20 ng/ml FGF7 (R&D systems)、10 ng/ml FGF10 (R&D systems) 及び10 ng/ml bone morphogenetic protein (BMP)4 (R&D systems)を加えたSF-03培地に置き換え、計3週間培養を続けた。このプロトコールでは、14日目以降にTECとして使用できるようになった。細胞の特性を観察するため、37℃で0.25% トリプシン-EDTA (GIBCO, Grand Island, NY, USA)で2分間接着細胞を処理して細胞を回収した。
図2にDay4、Day 7、Day 14及びDay 21の分化誘導細胞の位相差顕微鏡像を示す。Day 4では球状をしていたiPS細胞(黒矢印)が、Day7では紡錘形に変化し分化し始めた(白矢印)。以降さらに細胞数が増え、細胞形態も紡錘形の成熟上皮細胞の形態を呈した。Day 14で紡錘形の細胞さらに増殖し、球状の細胞は殆ど見られなかった(黒矢頭)。Day 21では、細胞数はDay 14と比較してやや増殖したが、細胞形態に差は認められなかった(白矢頭)。図3(A)に細胞数の変化を示す。Day 4から細胞が増殖し始め、Day 14から21でほぼフラットとなった。図3(B)に上記分化誘導においてiPS細胞がTECに分化していることの遺伝子発現(RT-PCR)を示す。方法は、細胞からTrisol (Thermo Fisher Scientific Inc. Waltham, USA)を使ってtotal RNAを抽出した。1μgのtotal RNA をランダムプライマー (東洋紡、大阪、日本)を使って逆転写し、cDNAを調製した。PCRに使用したプライマーを表1に示す。PCRは、94 ℃1分、55 ℃15秒、68℃30秒を30サイクル行った。耐熱性DNAポリメラーゼは、Tks Gflex DNA polymerase (タカラ、東京、日本)を使用した。新生仔期胸腺(NT)は陽性対照で、GAPDHは内部標準である。Nanogは未分化胚細胞のマーカーであり、培養14日以降はごく僅かか殆ど検出されなかった。胸腺器官形成に関わるFoxN1、Hoxa3、Pax1、Pax9、機能に関するFGFR2、AIRE、及び上皮性マーカーであるECD, K5, K8及びplet-1は培養前或いは後から発現し、特に14-21日目にはNT同様ほぼ全ての発現が認められた。CD3はT細胞のマーカーであるが、培養中に発現は見られなかった。これらの結果は以前のiPS細胞からTECへの誘導報告とも殆ど一致する(Inami et al, Immunology and Cell Biology, 2011)。以上の結果から、上記分化誘導によってTECが誘導された事が示された。
(1)造血幹細胞濃縮骨髄細胞(HSC-eBMC, Hematopoetic Stem Cells-enriched BMC)の精製
図5に示すプロトコールにしたがって、6~8週のC57BL/6 CD45.1マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を採取し、リン酸緩衝生理食塩水に浮遊させた後、70μmのナイロンセルストレーナー(Coring, NY, USA)で濾過した。次にFicoll-Paque PLUS (GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を使った密度勾配遠心法により、低比重単核細胞分画(<1.077g/mL)を回収した。回収した細胞をlineage maker抗体カクテル (Rat IgG:CD3, CD4, CD8,CD11b, CD71, B220, TER119, Gr-1, NK1.1)(BioLgend and BD Pharmingen, San Diego, USA)と反応させ、2回洗浄後、anti-Rat IgG binding Magnetic Beads (Dynal Inc., Oslo, Norway)と反応させた。上記カクテル抗体とMagnetic Beadsに結合した細胞を磁気的に除去し、結合しなかった細胞、すなわちネガティブセレクションされた細胞をHSC-eBMCとして回収した。
HSC-eBMCとTECの共培養を以下の4群のパターンで行い、その効果を評価した。培地は0.1mM 2MEを加えたSF-03を使用した。(1)-2でiPS細胞から分化させたTECが付着した10 cmディッシュに、HSC-eBMCを1.5×105個となるように播種した。培養は播種した日をDay 0とし、Day 21まで観察した。IL-2とIL-7はPEPROTEC (Rocky Hill, USA)を使用した。誘導リンパ球は回収した後、70μm Pre-separation filter (Mil Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)にて濾過した。
1群:HSC-eBMC+TEC+IL-2 20 ng/ml+IL-7 10 ng/ml
2群:HSC-eBMC+TEC
3群:HSC-eBMC+IL-2 20 ng/ml+IL-7 10 ng/ml
4群:HSC-eBMC
次に、今回誘導されたγδT細胞を精製し形態観察を行った。そのスキームを図17に示す。はじめに、TECとHSC-eBMCが共培養されているディッシュから誘導リンパ球とTECを回収した。TECはトリプシン-EDTA処理を行い回収した。さらに誘導リンパ球はFITC-抗CD45.1抗体とPerCP Cy5.5抗TCRγδ抗体との2重染色でFACSAriaを使ってソーティングを行い、両陽性細胞を回収し、形態学的な観察を行った。また誘導リンパ球、TEC、及び精製細胞についてRT-PCRによるCD45のcongenic typeの解析も行った。
近年γδ陽性T細胞は、主に癌や感染症のための治療剤として生体内で使用されている。よって上記1及び2の方法に従って誘導されたγδT細胞も生体内で生着するか否かを、誘導リンパ球をCD45.2タイプのマウスに移植する事により調べた。またiPS細胞は、発がんのリスクがあることが報告されている。上の実験でも示されたが誘導リンパ球には少量のiPS由来細胞が含まれている可能性もあるため、腫瘍の発生も併せて副作用も調べた。
レシピエントであるCD45.2タイプのC57BL/6マウスに137Cs 放射線照射蔵置(Gammacell 40 Exactor; MDS Nordion International, Ottawa, ON, Canada)を使用して8 Gyの致死量の放射線を照射し骨髄を死滅させた。ドナーのCD45.2タイプのC57BL6マウスからの大腿骨と脛骨から骨髄細胞を採取し、シングル-セル浮遊液を調製した。放射線照射から5時間後に骨髄細胞1×107個と、iPS細胞から分化したTECとHSC-eBMCを7日間共培養し産生した誘導リンパ球3×106個をレシピエントマウスに移植した。
図20に結果を示す。移植から14日目に脾臓、腸管リンパ節、末梢血、胸腺から回収したリンパ球について、抗CD45.1抗体と抗TCRγδ抗体とを使ってFACS解析を行った。移植された宿主マウス由来γδT細胞はCD45.2タイプであるため、抗CD45.1抗体では検出されない。このため、TECとの共培養により誘導されたγδT細胞が生着していれば、図21の左段にCD45.1陽性かつTCRγδ陽性細胞として検出される。今回の検討では、胸腺以外全てのリンパ系組織にCD45.1陽性細胞が見られ、主に腸管リンパ節にCD45.1陽性γδT細胞が検出された。なお、データとしては示さないが、細胞移植後1ヶ月にもCD45.1陽性γδT陽性が腸管リンパ節に残っていた。逆に、CD45.1陽性TCR陽性βはこの間殆ど見られなかった。また、移植を受けたマウスは少なくとも10ヶ月以上健康に生存し、明らかな腫瘍の発生や自己免疫疾患等の副作用は認めなかった。
ヒトへの治験でγδT 細胞は癌同様に血液系悪性腫瘍に効果を示しており、誘導されたγδT 細胞の白血病モデルマウスへの効果を調べた。
Claims (6)
- 人工多能性幹細胞から誘導した胸腺上皮細胞と、造血幹細胞を含む細胞集団を共培養する工程を含む、T細胞受容体γδ陽性細胞の誘導方法であって、前記造血幹細胞を含む細胞集団が、表面マーカーCD3、CD4、CD8、CD11b、CD71、B220、TER119、Gr-1、及びNK1.1陽性細胞を実質的に含まない誘導方法であって、
前記実質的に含まないとは、前記造血幹細胞を含む細胞集団において、表面マーカーCD3、CD4、CD8、CD11b、CD71、B220、TER119、Gr-1、及びNK1.1の発現量がフローサイトメトリ法、及びRT-PCR法による検出において検出限界以下であることを示す、
前記誘導方法。 - 前記造血幹細胞を含む細胞集団が、表面マーカーCD3、CD4、CD8、CD11b、CD71、B220、TER119、Gr-1、及びNK1.1陽性細胞をネガティブセレクションにより除去した細胞集団である、請求項1に記載の誘導方法。
- 前記共培養がインターロイキン2及びインターロイキン7の存在下で行われる、請求項1又は2に記載の誘導方法。
- 前記胸腺上皮細胞が、人工多能性幹細胞をアクチビンAと、塩化リチウムとの存在下で培養する第1の工程と、アクチビンAと、塩化リチウムと、FGF8との存在下で培養する第2の工程と、塩化リチウムと、FGF7と、FGF10と、BMP4との存在下で培養する第3の工程と、を含む方法により誘導されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の誘導方法。
- 前記共培養が、無血清培地を使用して行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の誘導方法。
- 前記T細胞受容体γδ陽性細胞が、T細胞受容体γδ陽性細胞治療の適用対象者と免疫学的な適合性を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の誘導方法。
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