以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mを駆動するための制御装置であって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、回転子の電気角θを検出し、その検出した電気角θを制御回路3に出力する電気角検出部Sp(レゾルバなど)を備えているものとする。
インバータ回路2は、直流電源Pから供給される直流電力により電動機Mを駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など)と、電流検出部S1、S2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が直流電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が直流電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流検出部S1を介して電動機MのU相、V相、W相(第1~第3の相)のうちのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流検出部S2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
コンデンサCは、直流電源Pから出力される直流電圧を平滑する。
電動機Mの各相に流れる電流Iu、Iv、Iw(第1~第3の電流)を用いた3相変調制御または弱め界磁制御または矩形波制御によりスイッチング素子Sw1~SW6がそれぞれオン、オフすることで、直流電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120[rad]ずつ異なる交流の電圧Vu、Vv、Vw(第1~第3の電圧)に変換される。そして、電圧Vuが電動機MのU相にかかり、電圧Vvが電動機MのV相にかかり、電圧Vwが電動機MのW相にかかることで、電動機Mの回転子が回転する。
電流検出部S1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れる電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流検出部S2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れる電流Ivを検出して制御回路3に出力する。なお、電流検出部S1が電流Ivを検出し、電流検出部S2が電流Iuを検出してもよい。また、電流検出部S1、S2により検出される電流は、電流Iu及び電流Ivの組み合わせに限定されず、電流Iv及び電流Iwの組み合わせ、または、電流Iu及び電流Iwの組み合わせでもよい。
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5とを備える。
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部5から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と三角波とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、速度演算部6と、減算部7と、トルク制御部8と、トルク/電流指令値変換部9と、電流計算部10と、座標変換部11と、減算部12と、減算部13と、電流制御部14と、dq/uvw変換部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが不図示の記憶部に記憶されているプログラムを実行することにより、速度演算部6、減算部7、トルク制御部8、トルク/電流指令値変換部9、電流計算部10、座標変換部11、減算部12、減算部13、電流制御部14、及びdq/uvw変換部15が実現される。なお、演算部5は、3相変調制御によりスイッチング素子SW1~SW6をそれぞれオン、オフする場合、電動機Mの回転子の電気角θが0[rad]から2π[rad]まで変化する間のすべてのサンプリングタイミング(演算部5の動作タイミング)において、電流検出部S1、S2により検出される電流Iu、Ivを取得することができるものとする。また、演算部5は、弱め界磁制御または矩形波制御によりスイッチング素子SW1~SW6をそれぞれオン、オフする場合、電動機Mの回転子の電気角θが0[rad]から2π[rad]まで変化する間の一部のサンプリングタイミングにおいて、電流Iu、Ivのうちの一方の電流を取得することができるものとし、他方の電流を取得することができないものとし、残りのサンプリングタイミングにおいて、電流Iu、Ivを取得することができるものとする。
速度演算部6は、電気角検出部Spにより検出される電気角θを用いて、電動機Mの回転子の回転速度ωを演算する。例えば、速度演算部6は、電気角θをサンプリング時間(演算部5の動作タイミングの間隔)で除算することにより回転速度ωを求める。
減算部7は、外部から入力される回転速度指令値ω*と速度演算部6から出力される回転速度ωとの差Δωを算出する。
トルク制御部8は、減算部7から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部8は、不図示の記憶部に記憶されている、電動機Mの回転子の回転速度と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報を参照して、差Δωに相当する回転速度に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
トルク/電流指令値変換部9は、トルク制御部8から出力されるトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部9は、不図示の記憶部に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
電流計算部10は、電流Iu、Iv、Iwを出力する。また、電流計算部10は、オブザーバであって、取得可能な電流を用いて、取得不可能な電流を推定する。
<電流検出部S1、S2により電流Iu、Ivを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流Iu、Ivを用いて、電流Iwを求め、電流Iu、Iv、Iwを出力する。
<電流検出部S1により電流Iuを取得できない場合で、かつ、電流検出部S2により電流Ivを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivなどを用いて、電流Iu^を推定し、その推定した電流Iu^を電流Iuとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iu^と、電流検出部S2により検出される電流Ivとを用いて、電流Iwを求め、その求めた電流Iwを出力する。
<電流検出部S1により電流Iuを取得することができる場合で、かつ、電流検出部S2により電流Ivを取得できない場合>
電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuなどを用いて、電流Iv^を推定し、その推定した電流Iv^を電流Ivとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iv^と、電流検出部S1により検出される電流Iuとを用いて、電流Iwを求め、その求めた電流Iwを出力する。
<電流検出部S1、S2により電流Iv、Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流Iv、Iwを用いて、電流Iuを求め、電流Iu、Iv、Iwを出力する。
<電流検出部S1により電流Ivを取得できない場合で、かつ、電流検出部S2により電流Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Iwなどを用いて、電流Iv^を推定し、その推定した電流Iv^を電流Ivとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Iwを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iv^と、電流検出部S2により検出される電流Iwとを用いて、電流Iuを求め、その求めた電流Iuを出力する。
<電流検出部S1により電流Ivを取得することができる場合で、かつ、電流検出部S2により電流Iwを取得できない場合>
電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Ivなどを用いて、電流Iw^を推定し、その推定した電流Iw^を電流Iwとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Ivを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iw^と、電流検出部S1により検出される電流Ivとを用いて、電流Iuを求め、その求めた電流Iuを出力する。
<電流検出部S1、S2により電流Iu、Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流Iu、Iwを用いて、電流Ivを求め、電流Iu、Iv、Iwを出力する。
<電流検出部S1により電流Iuを取得できない場合で、かつ、電流検出部S2により電流Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Iwなどを用いて、電流Iu^を推定し、その推定した電流Iu^を電流Iuとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Iwを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iu^と、電流検出部S2により検出される電流Iwとを用いて、電流Ivを求め、その求めた電流Ivを出力する。
<電流検出部S1により電流Iuを取得することができる場合で、かつ、電流検出部S2により電流Iwを取得できない場合>
電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuなどを用いて、電流Iw^を推定し、その推定した電流Iw^を電流Iwとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iw^と、電流検出部S1により検出される電流Iuとを用いて、電流Ivを求め、その求めた電流Ivを出力する。
なお、W相に流れる電流Iwを検出する電流検出部S3を制御装置1にさらに備えるように構成してもよい。
<電流検出部S1、S2、S3により電流Iu、Iv、Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S1、S2、S3により検出される電流Iu、Iv、Iwをそのまま出力する。
<電流検出部S1、S3により電流Iu、Iwを取得できない場合で、かつ、電流検出部S2により電流Ivを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivなどを用いて、電流Iu^を推定し、その推定した電流Iu^を電流Iuとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iu^と、電流検出部S2により検出される電流Ivとを用いて、電流Iwを求め、その求めた電流Iwを出力する。
または、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivなどを用いて、電流Iw^を推定し、その推定した電流Iw^を電流Iwとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S2により検出される電流Ivを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iw^と、電流検出部S2により検出される電流Ivとを用いて、電流Iuを求め、その求めた電流Iuを出力する。
<電流検出部S2、S3により電流Iv、Iwを取得できない場合で、かつ、電流検出部S1により電流Iuを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuなどを用いて、電流Iv^を推定し、その推定した電流Iv^を電流Ivとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iv^と、電流検出部S1により検出される電流Iuとを用いて、電流Iwを求め、その求めた電流Iwを出力する。
または、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuなどを用いて、電流Iw^を推定し、その推定した電流Iw^を電流Iwとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S1により検出される電流Iuを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iw^と、電流検出部S1により検出される電流Iuとを用いて、電流Ivを求め、その求めた電流Ivを出力する。
<電流検出部S1、S2により電流Iu、Ivを取得できない場合で、かつ、電流検出部S3により電流Iwを取得することができる場合>
電流計算部10は、電流検出部S3により検出される電流Iwなどを用いて、電流Iu^を推定し、その推定した電流Iu^を電流Iuとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S3により検出される電流Iwを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iu^と、電流検出部S3により検出される電流Iwとを用いて、電流Ivを求め、その求めた電流Ivを出力する。
または、電流計算部10は、電流検出部S3により検出される電流Iwなどを用いて、電流Iv^を推定し、その推定した電流Iv^を電流Ivとして出力する。また、電流計算部10は、電流検出部S3により検出される電流Iwを出力する。また、電流計算部10は、推定した電流Iv^と、電流検出部S3により検出される電流Iwとを用いて、電流Iuを求め、その求めた電流Iuを出力する。
座標変換部11は、電気角検出部Spにより検出される電気角θを用いて、電流計算部10から出力される電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。例えば、座標変換部11は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
減算部12は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるd軸電流指令値Id*と、座標変換部11から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
減算部13は、トルク/電流指令値変換部9から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部11から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
電流制御部14は、減算部12から出力される差ΔId及び減算部13から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部14は、下記式2を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式3を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは電動機Mの回転子の回転速度とし、Keは誘起電圧定数とする。
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ωLqIq・・・式2
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ωLdId+ωKe・・・式3
dq/uvw変換部15は、電気角検出部Spにより検出される電気角θを用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vu*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、dq/uvw変換部15は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vu*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
図2は、第1実施形態の電流計算部10の一例を示す図である。なお、電流検出部S1、S2により電流Iu、Ivが検出される場合を想定する。
図2に示す電流計算部10は、V相モデル電圧推定部101と、V相電圧推定部102と、減算部103(第1の減算部)と、位相変換部104と、U相電圧推定部105と、減算部106(第2の減算部)と、U相電流推定部107と、U相電流選択部108と、U相モデル電圧推定部109と、減算部110(第1の減算部)と、位相変換部111と、減算部112(第2の減算部)と、V相電流推定部113と、V相電流選択部114と、W相電流計算部115とを備える。
V相モデル電圧推定部101は、電流検出部S2により検出される電流Ivを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式5に代入することにより、モデルのV相にかかるモデル電圧Vv^を推定する。ただし、Rを電動機Mにおける抵抗とし、Lを電動機Mにおけるみかけのインダクタンスとし、dtをサンプリング時間とする。
モデル電圧Vv^=(R+L/dt)×電流Iv ・・・式5
V相電圧推定部102は、dq/uvw変換部15から出力されるV相電圧指令値Vv*により、V相にかかる電圧Vv(第1の電圧)を推定する。
減算部103は、モデル電圧Vv^から電圧Vvを減算して差ΔVv(第1の差)を求める。差ΔVvは、実際の電動機MのV相にかかる電圧と電動機MのモデルのV相にかかる電圧との誤差とする。
位相変換部104は、差ΔVvの位相を120[rad]または240[rad]ずらすことによりU相に対応する差ΔVu(第2の差)を求める。差ΔVuは、実際の電動機MのU相にかかる電圧と電動機MのモデルのU相にかかる電圧との誤差とする。
U相電圧推定部105は、dq/uvw変換部15から出力されるU相電圧指令値Vu*により、U相にかかる電圧Vu(第2の電圧)を推定する。
減算部106は、電圧Vuから差ΔVuを減算して電流推定用電圧Vu´を求める。
U相電流推定部107は、「1周期(2π[rad])前に取得した電流推定用電圧Vu´(1周期前に減算部106により求められた電流推定用電圧Vu´)」及び「1周期前に取得した電流Iu´(1周期前にU相電流選択部108により選択された電流Iu´)」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式6に代入することにより、U相に流れる電流Iu^を推定する。
電流Iu^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」+L/dt×「1周期前に取得した電流Iu´」)/(R+L/dt)・・・式6
なお、U相電流推定部107は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式7に代入することにより、電流Iu^を推定するように構成してもよい。
電流Iu^=「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」/(R+L/dt)・・・式7
U相電流選択部108は、電気角検出部Spにより検出される電気角θにより、電流検出部S1が電流Iuを検出することができると判断すると、電流検出部S1により検出される電流Iuをそのまま出力する。また、U相電流選択部108は、電気角検出部Spにより検出される電気角θにより、電流検出部S1が電流Iuを検出することができないと判断すると、U相電流推定部107により推定される電流Iu^を電流Iuとして出力する。
このように、第1実施形態の制御装置1では、電流検出部S1により電流Iuを検出することができない場合、V相に流れる電流Ivを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式(上記式5)に代入して、モデルのV相にかかるモデル電圧Vv^を推定し、モデル電圧Vv^から電圧Vvを減算して差ΔVvを求め、差ΔVvの位相をU相に対応する位相に変換して差ΔVuを求め、電圧Vuから差ΔVuを減算することにより電流推定用電圧Vu´を求め、電流推定用電圧Vu´を電動機Mのモデルに相当する電圧方程式(上記式6または上記式7)に代入して、U相に流れる電流Iu^を推定している。
すなわち、第1実施形態の制御装置1では、差ΔVuを、V相に流れる電流Ivにより求めている。差ΔVuは、実際の電動機MのU相にかかる電圧と電動機MのモデルのU相にかかる電圧との誤差であるため、電圧Vuから差ΔVuが減算された電流推定用電圧Vu´が電圧方程式(上記式6または上記式7)に代入されて推定される電流Iu^は、U相に実際に流れる電流Iuに近づけることができる。これにより、U相に流れる電流Iuを検出することができない場合でも、取得可能な電流Ivを用いてU相に流れる電流Iuを精度よく推定して、電動機Mを駆動することができる。
また、図2に示すU相モデル電圧推定部109は、電流検出部S1により検出される電流Iuを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式8に代入することにより、モデル電圧Vu^を推定する。
モデル電圧Vu^=(R+L/dt)×電流Iu ・・・式8
減算部110は、モデル電圧Vu^から電圧Vuを減算することで、差ΔVu(第1の差)を求める。差ΔVuは、実際の電動機MのU相にかかる電圧と電動機MのモデルのU相にかかる電圧との誤差とする。
位相変換部111は、差ΔVuの位相を120[rad]または240[rad]ずらすことによりV相に対応する差ΔVv(第2の差)を求める。差ΔVvは、実際の電動機MのV相にかかる電圧と電動機MのモデルのV相にかかる電圧との誤差とする。
減算部112は、電圧Vvから差ΔVvを減算して電流推定用電圧Vv´を求める。
V相電流推定部113は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´(1周期前に減算部112により求められた電流推定用電圧Vv´)」及び「1周期前に取得した電流Iv´(1周期前にV相電流選択部114により選択された電流Iv´)」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式9に代入することにより、V相に流れる電流Iv^を推定する。
電流Iv^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」+L/dt×「1周期前に取得した電流Iv´」)/(R+L/dt)・・・式9
なお、V相電流推定部113は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式10に代入することにより、電流Iv^を推定するように構成してもよい。
電流Iv^=「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」/(R+L/dt)・・・式10
V相電流選択部114は、電気角検出部Spにより検出される電気角θにより、電流検出部S2が電流Ivを検出することができると判断すると、電流検出部S2により検出される電流Ivをそのまま出力する。また、V相電流選択部114は、電気角検出部Spにより検出される電気角θにより、電流検出部S2が電流Ivを検出することができないと判断すると、V相電流推定部113により推定される電流Iv^を電流Ivとして出力する。
W相電流計算部115は、U相電流選択部108から出力される電流IuとV相電流選択部114から出力される電流Ivとを用いて電流Iwを計算し、その計算した電流Iwを出力する。
このように、第1実施形態の制御装置1では、電流検出部S2により電流Ivを検出することができない場合、U相に流れる電流Iuを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式(上記式8)に代入して、モデルのU相にかかるモデル電圧Vu^を推定し、電圧Vuからモデル電圧Vu^を減算して差ΔVuを求め、差ΔVuの位相をV相に対応する位相に変換して差ΔVvを求め、電圧Vvから差ΔVvを減算することにより電流推定用電圧Vv´を求め、電流推定用電圧Vv´を電動機Mのモデルに相当する電圧方程式(上記式9または上記式10)に代入して、V相に流れる電流Iv^を推定している。
すなわち、第1実施形態の制御装置1では、差ΔVvを、U相に流れる電流Iuにより求めている。差ΔVvは、実際の電動機MのV相にかかる電圧と電動機MのモデルのV相にかかる電圧との誤差であるため、電圧Vvから差ΔVvが減算された電流推定用電圧Vv´が電圧方程式(上記式9または上記式10)に代入されて推定される電流Iv^は、V相に実際に流れる電流Ivに近づけることができる。これにより、V相に流れる電流Ivを検出することができない場合でも、取得可能な電流Iuを用いてV相に流れる電流Ivを精度よく推定して、電動機Mを駆動することができる。
図3は、第1実施形態の電流計算部10の他の例を示す図である。なお、図2に示す構成と同じ符号には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図3に示す電流計算部10において、図2に示す電流計算部10と異なる点は、故障判定部116、117をさらに備えている点である。
故障判定部116は、電流検出部S1により検出される電流Iuと、U相電流推定部107から出力される電流Iu^との差ΔIuが閾値thu以上である場合、電流検出部S1が異常であると判定する。なお、閾値thuは、例えば、電流検出部S1が故障する直前に電流検出部S1により検出される電流Iuと、U相電流推定部107から出力される電流Iu^との差の最大値とする。そして、U相電流選択部108は、故障判定部116により電流検出部S1が異常であると判定されると、電流検出部S1が電流Iuを検出することができると判断しても、U相電流推定部107により推定される電流Iu^を電流Iuとして出力する。これにより、電流検出部S1が故障していると判定された場合、電流検出部S1により検出される電流を使用せずに、U相電流推定部107により推定される電流Iu^を用いて、電動機Mの駆動を制御することができるため、電動機Mの制御性を向上させることができる。
故障判定部117は、電流検出部S2により検出される電流Ivと、V相電流推定部113から出力される電流Iv^との差ΔIvが閾値thv以上である場合、電流検出部S2が異常であると判定する。なお、閾値thvは、例えば、電流検出部S2が故障する直前に電流検出部S2により検出される電流Ivと、V相電流推定部113から出力される電流Iv^との差の最大値とする。そして、V相電流選択部114は、故障判定部117により電流検出部S2が異常であると判定されると、電流検出部S2が電流Ivを検出することができると判断しても、V相電流推定部113により推定される電流Iv^を電流Ivとして出力する。これにより、電流検出部S2が故障していると判定された場合、電流検出部S2により検出される電流を使用せずに、V相電流推定部113により推定される電流Iv^を用いて、電動機Mの駆動を制御することができるため、電動機Mの制御性を向上させることができる。
なお、図2に示す電流計算部10または図3に示す電流計算部10は、電流検出部S1、S2が電流Iu、Ivを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Iuまたは電流Ivを推定する構成であるが、電流検出部S1、S2が電流Iv、Iwを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Ivまたは電流Iwを推定するように構成してもよい。この場合、電流Ivを検出することができない場合に取得可能な電流Iwを用いて電流Ivを推定し、電流Iwを検出することができない場合に取得可能な電流Ivを用いて電流Iwを推定する。
また、図2に示す電流計算部10または図3に示す電流計算部10は、電流検出部S1、S2が電流Iu、Iwを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Iuまたは電流Iwを推定するように構成してもよい。この場合、電流Iuを検出することができない場合に取得可能な電流Iwを用いて電流Iuを推定し、電流Iwを検出することができない場合に取得可能な電流Iuを用いて電流Iwを推定する。
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。なお、図1に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図4に示す制御装置1において、図1に示す制御装置1と異なる点は、U相に対応するU相誘起電圧Eu及びV相に対応するV相誘起電圧Ev(第1及び第2の誘起電圧)を推定する誘起電圧推定部16をさらに備えている点である。
誘起電圧推定部16は、dq/uvw変換部15から出力されるU相電圧指令値Vu*及び電流検出部S1により検出される電流Iuを用いて、U相に対応するU相誘起電圧Euを推定するとともに、dq/uvw変換部15から出力されるV相電圧指令値Vv*及び電流検出部S2により検出される電流Ivを用いて、V相に対応するV相誘起電圧Evを推定する。
図5は、第2実施形態の電流計算部10の一例を示す図である。なお、図2に示す構成と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図5に示す電流計算部10において、図2に示す電流計算部10と異なる点は、V相モデル電圧推定部101が電流IvだけでなくV相誘起電圧Evを用いてモデル電圧Vv^を推定する点、U相電流推定部107が「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」及び「1周期前に取得した電流Iu´」だけでなくU相誘起電圧Euを用いて電流Iu^を推定する点、U相モデル電圧推定部109が電流IuだけでなくU相誘起電圧Euを用いてモデル電圧Vu^を推定する点、並びに、V相電流推定部113が「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」及び「1周期前に取得した電流Iv´」だけでなくV相誘起電圧Evを用いて電流Iv^を推定する点である。
すなわち、図5に示すV相モデル電圧推定部101は、電流検出部S2により検出される電流Iv、及び、誘起電圧推定部16により推定されるV相誘起電圧Evを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式11に代入することにより、モデル電圧Vv^を推定する。
モデル電圧Vv^=(R+L/dt)×電流Iv+V相誘起電圧Ev ・・・式11
また、図5に示すU相電流推定部107は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」、「1周期前に取得した電流Iu´」、及び「1周期前に取得したU相誘起電圧Eu(1周期前に誘起電圧推定部16により推定されたU相誘起電圧Eu)」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式12に代入することにより、電流Iu^を推定する。
電流Iu^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」-「1周期前に取得したU相誘起電圧Eu」+L/dt×「1周期前に取得した電流Iu´」)/(R+L/dt)・・・式12
なお、図5に示すU相電流推定部107は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」及び「1周期前に取得したU相誘起電圧Eu」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式13に代入することにより、電流Iu^を推定するように構成してもよい。
電流Iu^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vu´」-「1周期前に取得したU相誘起電圧Eu」)/(R+L/dt)・・・式13
第2実施形態の制御装置1では、電流検出部S1により電流Iuを検出することができない場合、電流Iv及びV相誘起電圧Evを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式に代入して、モデルのV相に対応するモデル電圧Vv^を推定し、モデル電圧Vv^から電圧Vvを減算して差ΔVvを求め、差ΔVvの位相をU相に対応する位相に変換して差ΔVuを求め、電圧Vuから差ΔVuを減算することにより、電流推定用電圧Vu´を求め、電流推定用電圧Vu´及びU相誘起電圧Euを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式に代入して、U相に流れる電流Iu^を推定する。
モデル電圧Vv^は、電流IvだけでなくV相誘起電圧Evも用いて求められているため、差ΔVuは、実際の電動機MのU相にかかる電圧Vuと電動機MのモデルのU相にかかる電圧Vuとの誤差だけでなく、実際の電動機MのU相に対応する誘起電圧Euと電動機MのモデルのU相に対応する誘起電圧Euとの誤差も含まれている。そのため、電圧Vuから差ΔVuが減算された電流推定用電圧Vu´は、相にかかる電圧や誘起電圧の誤差が含まれていない。これにより、電流推定用電圧Vu´が電圧方程式に代入されて求められる電流Iu^は、相にかかる電圧や誘起電圧の誤差に相当する電流が含まれず、U相に実際に流れる電流にさらに近づけることができる。従って、U相に流れる電流Iuを検出することができない場合でも、取得可能な電流Ivを用いてU相に流れる電流をさらに精度よく推定して、電動機Mを駆動することができる。
また、図5に示すU相モデル電圧推定部109は、電流検出部S1により検出される電流Iu、及び、誘起電圧推定部16により取得されるU相誘起電圧Euを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式14に代入することにより、モデル電圧Vu^を推定する。
モデル電圧Vu^=(R+L/dt)×電流Iu+U相誘起電圧Eu ・・・式14
また、図5に示すV相電流推定部113は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」、「1周期前に取得した電流Iv´」、及び「1周期前に取得したV相誘起電圧Ev(1周期前に誘起電圧推定部16により推定されたV相誘起電圧Ev)」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式15に代入することにより、電流Iv^を推定する。
電流Iv^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」-「1周期前に取得したV相誘起電圧Ev」+L/dt×「1周期前に取得した電流Iv´」)/(R+L/dt)・・・式15
なお、図5に示すV相電流推定部113は、「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」及び「1周期前に取得したV相誘起電圧Ev」を、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式である下記式16に代入することにより、電流Iv^を推定するように構成してもよい。
電流Iv^=(「1周期前に取得した電流推定用電圧Vv´」-「1周期前に取得したV相誘起電圧Ev」)/(R+L/dt)・・・式16
第2実施形態の制御装置1では、電流検出部S2により電流Ivを検出することができない場合、電流Iu及びU相誘起電圧Euを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式に代入して、モデルのU相に対応するモデル電圧Vu^を推定し、モデル電圧Vu^から電圧Vuを減算して差ΔVuを求め、差ΔVuの位相をV相に対応する位相に変換して差ΔVvを求め、電圧Vvから差ΔVvを減算することにより、電流推定用電圧Vv´を求め、電流推定用電圧Vv´及びV相誘起電圧Evを、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式に代入して、V相に流れる電流Iv^を推定する。
モデル電圧Vu^は、電流IuだけでなくU相誘起電圧Euも用いて求められているため、差ΔVvは、実際の電動機MのV相にかかる電圧Vvと電動機MのモデルのV相にかかる電圧Vvとの誤差だけでなく、実際の電動機MのV相に対応する誘起電圧Evと電動機MのモデルのV相に対応する誘起電圧Evとの誤差も含まれている。そのため、電圧Vvから差ΔVvが減算された電流推定用電圧Vv´は、相に係る電圧や誘起電圧の誤差が含まれていない。これにより、電流推定用電圧Vv´が電圧方程式に代入されて求められる電流Iv^は、相にかかる電圧や誘起電圧の誤差に相当する電流が含まれず、V相に実際に流れる電流にさらに近づけることができる。従って、V相に流れる電流Ivを検出することができない場合でも、取得可能な電流Iuを用いてV相に流れる電流をさらに精度よく推定して、電動機を駆動することができる。
図6は、第2実施形態の電流計算部10の他の例を示す図である。なお、図5に示す構成と同じ符号には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図6に示す電流計算部10において、図5に示す電流計算部10と異なる点は、故障判定部116、117をさらに備えている点である。なお、図6に示す故障判定部116、117は、図3に示す故障判定部116、117と同様であるため、その説明を省略する。
図5に示す電流計算部10または図6に示す電流計算部10は、電流検出部S1、S2が電流Iu、Ivを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Iuまたは電流Ivを推定する構成であるが、電流検出部S1、S2が電流Iv、Iwを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Ivまたは電流Iwを推定するように構成してもよい。この場合、電流Ivを検出することができない場合に取得可能な電流Iwを用いて電流Ivを推定し、電流Iwを検出することができない場合に取得可能な電流Ivを用いて電流Iwを推定する。また、図4に示す誘起電圧推定部16は、dq/uvw変換部15から出力されるV相電圧指令値Vv*及び電流検出部S1により検出される電流Ivを用いて、V相に対応するV相誘起電圧Evを推定するとともに、dq/uvw変換部15から出力されるW相電圧指令値Vw*及び電流検出部S2により検出される電流Iwを用いて、W相に対応するW相誘起電圧Ewを推定する。
また、図5に示す電流計算部10または図6に示す電流計算部10は、電流検出部S1、S2が電流Iu、Iwを検出する場合において、電動機Mのモデルに相当する電圧方程式を用いて、電流Iuまたは電流Iwを推定するように構成してもよい。この場合、電流Iuを検出することができない場合に取得可能な電流Iwを用いて電流Iuを推定し、電流Iwを検出することができない場合に取得可能な電流Iuを用いて電流Iwを推定する。また、図4に示す誘起電圧推定部16は、dq/uvw変換部15から出力されるU相電圧指令値Vu*及び電流検出部S1により検出される電流Iuを用いて、U相に対応するU相誘起電圧Euを推定するとともに、dq/uvw変換部15から出力されるW相電圧指令値Vw*及び電流検出部S2により検出される電流Iwを用いて、W相に対応するW相誘起電圧Ewを推定する。
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。