以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
本発明の実施形態を説明する前に、本発明が適用される一例として内燃機関の吸気通路に配置された熱式センサを備えたセンサモジュールの構成(図1、図2参照)と、本発明の比較例とした熱式センサの検出部の構成(図16A~図16C参照)、及び水滴に発生する気泡について説明する。
先ず、本発明が適用されるセンサモジュールは、熱式センサが組み込まれたセンサモジュールであり、熱式センサの適用箇所に制限はないが、例えば、他のセンサと共にセンサモジュールに組み込むことができる。
センサモジュールに組み込まれる熱式センサとして、以下では熱式湿度センサを例に挙げて説明する。図1、及び図2は熱式湿度センサが組み込まれたセンサモジュールを示している。
図1、及び図2において、センサモジュール100は、内燃機関の燃焼室に吸入空気を流す吸気管101に装着されており、支持基板102を有する。この支持基板102は、例えば、配線が印刷されたプリント基板から構成され、支持基板102上には、様々な種類の機能部品が搭載されている。
具体的に、支持基板102上には、例えば、吸気管101を流れる吸入空気の流量を測定する熱式流量センサを構成する検出部(半導体チップ)103と、空気の湿度を測定する熱式湿度センサを構成する検出部(半導体チップ)104と、熱式流量センサ、及び熱式湿度センサの制御回路が形成された制御回路部(半導体チップ)105とが搭載されている。このように構成されている支持基板102は、コネクタ106と接続されている。
センサモジュール100のボディ107は、表面カバーや必要な形状を備えた内壁を有し、表面カバーや内壁によって、ボディ107の内部空間は、熱式流量センサを構成する検出部103と制御回路部105とが配置された収納空間107Aと、熱式湿度センサの検出部104が配置された収納空間107Bとに区画されている。
また、センサモジュール100のボディ107には、副流路108が設けられており、熱式流量センサを構成する検出部103の一部は、この副流路108に露出されている。副流路108には吸入空気の一部が分流されおり、分流された吸入空気の流量(実際は流速)が測定されて、全体の吸入空気量を推定している。
更に、センサモジュール100のボディ107によって区画された収納空間107Bには、空気入れ替え通路109(図2参照)と連通している。この空気入れ替え通路109は、空気の流れの影響を受けないように、吸入空気の流れで見て下流側に設けられている。そして、空気入れ替え通路109の開口面積は、副流路108の開口面積と比べて小さく、また、その通路形状はクランク形状とされている。
特に、収納空間107Bの内部に配置されている熱式湿度センサの検出部104に、流速の早い空気が接すると熱式湿度センサの検出部104の温度分布に悪影響を及ぼすので、熱式湿度センサの検出精度が低下する。このことから、上述した空気入れ替え通路109を介して、収納空間107Bを吸気管101の内部と連通させる構成が採用されている。
次に、図2に示すように、センサモジュール100のボディ107によって、制御回路部105が配置されている制御空間107Aと、熱式湿度センサの検出部104が配置されている収納空間107Bとが分離されている。そして、収納空間107Bは、空気入れ替え通路109と連通している。
図2において、例えば、熱式湿度センサの検出部104は、ワイヤ110Aを介して、支持基板102の表面に形成されている配線と電気的に接続されている。同様に、例えば、制御回路部105は、ワイヤ110Bを介して、支持基板102の表面に形成されている配線と電気的に接続されている。このとき、ワイヤ110Aやワイヤ110Bは、腐食から保護するため、エポキシ系保護剤111で覆われるように構成されている。図2では、一例として、ワイヤ110Aがゲル状のエポキシ系保護剤111で覆われている構成が示されている。
以上のようにして、センサモジュール100が構成されている。尚、このセンサモジュール100は、上述した構成に限らず、例えば、熱式流量センサの代わりに圧力センサが配置された収納空間を備えるように構成することもできる。
すなわち、センサモジュール100では、流量センサと熱式湿度センサとを組み合わせたセンサモジュールについて説明しているが、これに限らず、例えば、圧力センサや他のセンサと熱式湿度センサとを組み合わせたセンサモジュールや、熱式湿度センサ単体のセンサモジュールとすることもできる。
次に、上述したセンサモジュール100の動作について簡単に説明する。図1において、吸気管101の内部に取り込まれた空気は、副流路108を通る。このとき、副流路108に露出するように設けられた熱式流量センサの検出部103により、空気流量が測定され、空気流量に対応づけられた電気信号が熱式流量センサから出力される。
また、吸入空気は空気入れ替え通路109から収納空間107Bに流入する。この結果、収納空間107Bの内部に設けられている熱式湿度センの検出部104によって、空気の湿度が測定され湿度に対応づけられた電気信号が熱式湿度センサから出力される。
熱式流量センサから出力された電気信号と、熱式湿度センサから出力された電気信号は、制御回路部105に入力される。そして、制御回路部105によって、空気の流量に対応づけられた電気信号に基づいて空気流量が算出され、空気流量を示す流量データが、制御回路部105からコネクタ106を介して、外部機器に出力される。
同様に、制御回路部105によって、空気の湿度に対応づけられた電気信号に基づいて空気の湿度が算出され、空気の湿度を示す湿度データが、制御回路部105からコネクタ106を介して、外部機器に出力される。
ここで、外部機器とは、エンジンコントロールユニットであり、このエンジンコントロールユニットで燃料噴射量や点火時期が演算され、これに基づいて燃料噴射弁や点火コイルが動作される。
以上のようにして、センサモジュール100を動作させることができる。このように構成されているセンサモジュール100を自動車などの内燃機関に組み込んで、吸入空気量、吸入空気湿度を検出することで、最適な量の燃料を内燃機関に噴霧することができ、また最適な点火時期に火花点火を行なうことができる。この結果、内燃機関の燃費を向上し、また排気ガス有害成分を低減することができるようになる。
尚、発熱抵抗線を使用して絶対湿度を測定する熱式湿度センサは、例えば、感湿膜を使用して、感湿膜の抵抗値や容量値の変化から相対湿度を測定する湿度センサに比べて、湿度の検出感度が高いという利点を有している。なぜなら、感湿膜は、水分を吸着することにより抵抗値や容量値が変化するが、水分を吸着する量に限界があり、湿度が高い環境においては、感湿膜に吸着する水分の量が飽和して、湿度に対応した抵抗値や容量値の変化が起こらなくなってしまうからである。
これに対し、熱式湿度センサでは、水分の蒸発に必要な熱量の大小によって発熱抵抗線の両端の電位差が変化すること利用して気体の湿度を測定しているため、たとえ湿度が高い状態でも検出精度を確保することができる。
つまり、熱式湿度センサは、感湿膜による水分の吸着を利用する湿度センサではないため、感湿膜による水分吸着の飽和に起因する湿度の検出感度の低下を招くことがない。このことから、熱式湿度センサは、感湿膜を使用する湿度センサに比べて、気体の湿度の検出精度が高いという利点を有している。したがって、特に、熱式湿度センサは、高温、高湿の環境の湿度検出に優れている。
また、感湿膜を使用する湿度センサでは、水滴が付着した場合、センサ全体を加熱するヒータが必要となり、消費電力の増大は免れない。また、加熱するための回路が必要となり、コスト増の課題もある。
また、熱式湿度センサでは、発熱抵抗線の温度を500℃以上にすると、湿度の検出感度が良好であり、空気だけでなく、一酸化炭素(CO)や他のガスにおいて適切な検出感度を得ることができる。更には、熱式湿度センサでは、600℃以上でも精度良く、かつ、多様なガスに対応する湿度センサを実現することができる。
ところで、上述したように、例えば内燃機関においては、停止時にはピストンが動作せず空気の流れが発生しないので、水滴が空気の流れによって持ち去られず多量の水滴が熱式センサの検出部103に付着、滞留することがある。また、湿度を測定する場合は、空気の流れが影響しないような収納空間に熱式センサを配置するので、この場合も空気の流れが少なく多量の水滴が熱式センサの検出部104付着、滞留することがある。
したがって、結露等によって生じた多量の水滴が検出部103、104を構成する薄膜ダイヤフラム部のヒータ領域に付着、滞留した場合、熱式センサの起動時の急速加熱によって、水滴の内部における沸騰により大きな気泡が発生する。そして、この大きな気泡が破裂する際の圧力エネルギーによって、薄膜ダイヤフラム部が衝撃を受けて亀裂等の破損に至る現象がある。
次に、熱式センサの検出部の構成と水滴に発生する気泡について説明する。図16A、及び図16Bは、比較例としての熱式湿度センサにおいて、検出部104の最表面が、酸化シリコン膜からなる絶縁膜で覆われている薄膜ダイヤフラム部の表面に水滴が形成された初期状態を示している。
図16Aにおいて、半導体基板で作られた検出部104の平面形状は四角形の形状をしている。また、この検出部104の裏面には、例えば、四角形の形状からなる薄膜ダイヤフラム部10が形成されている。尚、図16Aでは、破線によって薄膜ダイヤフラム部10が示されている。この薄膜ダイヤフラム部10より外側は、厚さが薄膜ダイヤフラム部10より厚い厚膜部とされている。
検出部104の表面には、薄膜ダイヤフラム部10の面に直交する方向の平面視において、薄膜ダイヤフラム部10に内包されるように、ヒータ領域11が設けられており、このヒータ領域11に発熱抵抗線からなるヒータ11Hが形成されている。例えば、ヒータ領域11は、縦、及び横の長さが90μmの四角形状をしている。このようなヒータ領域11に形成されているヒータ11Hは、例えば、折り返し形状を有する発熱抵抗線から構成されている。
そして、ヒータ11Hの一端は、引き出し配線であるリード配線12aと接続され、ヒータ11Hの他端は、引き出し配線であるリード配線12bと接続されている。リード配線12aは、プラグ13aを介して、外部接続端子として機能する電極14aと電気的に接続されている。同様に、リード配線12bは、プラグ13bを介して、外部接続端子として機能する電極14bと電気的に接続されている。
このように構成されている検出部104では、電極14aと電極14bとの間に電圧を印加することにより、電極14aと電極14bとを接続するヒータ11Hに電流を流すことができる。この結果、ヒータ11Hを構成する発熱抵抗線からジュール熱を発生させる。このとき、図16Aに示すように、平面視において、ヒータ11Hは、厚さの薄い薄肉ダイヤフラム部10に内包されるように設けられているため、熱容量が小さくヒータ11Hの加熱特性を向上することができる。
そして、比較例における熱式湿度センサの検出部104の表面は、絶縁膜4としての酸化シリコン膜によって全面が覆われている。図16Bにあるように、検出部104は、支持体である半導体基板1と、半導体基板1に開口部1aを形成する際にマスクとして使用された絶縁膜2から構成されている。更に半導体基板1の上面に酸化シリコン膜からなる絶縁膜3が形成され、この絶縁膜3の上面にヒータ11Hを形成する発熱抵抗線が形成されている。そして、この発熱抵抗線を保護する酸化シリコン膜からなる絶縁膜4が、検出部104の全面を覆うように形成されている。
このような構成の検出部104において、周辺環境(ここでは、吸気管内の空気)中の水蒸気が凝縮して多量の水滴となって検出部104に付着すると、図16A、及び図16Bに示すように、水滴15の断面は半円状の形状を示し、水滴15の端の接触角度はほぼ90度となる。
発明者等の検討によれば、絶縁膜4が酸化シリコン膜で形成される場合、1μLの水滴が付着すると、水滴の高さHは、H≒1mmとなり、その直径Lは、L≒2mmとなった。したがって、水滴15の量が多くなるほど水滴の高さHと直径Lは大きくなっていくことは容易に理解できる。
そして、この状態で内燃機関を始動するとヒータ11Hに電流が流れ、ヒータ11Hにおいてはジュール熱が発生して、ヒータ11Hの温度は設定された温度500℃に向けて急速に加熱される。そして、薄膜ダイヤフラム部10の絶縁膜4の上面に接する水滴15は、ジュール熱によって加熱されて蒸発して縮小していくようになる。
この時、図16Cに示すように水滴15の絶縁膜4に近い外周面は水滴15の高さが低いため、気泡Bの発生が認められなく、水蒸気はそのまま空気中に拡散していく。一方、水滴の中央部に近い領域は水滴15の高さHが高いため、蒸発した水蒸気が空気中に抜けて行かず、気泡Bとなって水滴の中央付近に集まるようになる。
そして、この状態が続くと気泡Bが更に大きく成長していき、最終的には水滴15内の気泡Bが破裂することになる。このときの破裂の圧力エネルギーにより、薄膜ダイヤフラム部10に衝撃が加わり、亀裂が生じて破損に至ることがある。発明者等の検討によると、水滴15の高さHが1mm程度に達すると、気泡Bが水滴15から抜けずに成長していき、破裂に至ることが判明した。
また、薄膜ダイヤフラム部10の亀裂の問題とは別に、ヒータ領域11の中央付近に多量の水滴15が残っている場合、ヒータ11Hの温度が上昇せず設定温度である500℃になるまで時間がかかり、また、水滴の外周面では、蒸発した水蒸気が再度小さな水滴15となって付着することから、完全に蒸発するまで長い時間を要するようになる。
尚、気泡Bが発生するのは、大まかにはヒータ11Hの温度が200℃以上の場合であるが、熱式湿度センサにおいては、ヒータ11Hの温度を200℃以下にすると検出感度が低下すること、及び検出部104が乾燥して湿度を検出するまでの時間が更に長時間となるため、設定温度を200℃以下に下げることは得策ではない。
このため、水滴が付着した場合においても気泡が発生せず、且つ短時間で水滴を蒸発して湿度の検出が可能となる熱式湿度センサが要望されている。
次に本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。尚、以下では比較例に示した検出部104の構成を踏襲しているので、同じ参照番号は同じ構成要素を示している。
先ず、センサモジュール100に組み込まれている熱式湿度センサについて説明する。図3Aは、熱式湿度センサを構成する検出部104の上面の構成を示し、図3Bはヒータ領域11付近の断面を示している。
図3A、図3Bにおいて、検出部104の平面形状は四角形の形状に形成されている。この検出部104の裏面には、例えば、四角形の形状からなる薄膜ダイヤフラム部10が形成されている。図3Aでは、破線によって薄膜ダイヤフラム部10が示されている。薄膜ダイヤフラム部10は、検出部104の範囲に含まれるような大きさに形成されており、検出部104の各辺と、薄膜ダイヤフラム部10の各辺がそれぞれ平行な関係になる形態に形成されている。
そして、この薄膜ダイヤフラム部10の平面形状は、例えば、一辺が800μmの四角形形状から構成されている。検出部104の薄膜ダイヤフラム部10の面に直交する方向の平面視において、薄膜ダイヤフラム部10の外側は、厚さが薄膜ダイヤフラム部10より厚い厚膜部(シリコン基板)1とされており、この厚膜部1によって薄膜ダイヤフラム部10が支持されている。
また、検出部104の薄膜ダイヤフラム部10の面に直交する方向の平面視において、検出部104の表面には、薄膜ダイヤフラム部10の範囲に内包されるように、ヒータ領域11が設けられており、このヒータ領域11にヒータ11Hが形成されている。例えば、ヒータ領域11は、縦、横の長さが90μmの四角形状をしている。このようなヒータ領域11に形成されているヒータ11Hは、例えば、折り返し形状を有する発熱抵抗線から構成されている。
そして、ヒータ11Hの一端は、引き出し配線であるリード配線12aと接続され、ヒータ11Hの他端は、引き出し配線であるリード配線12bと接続されている。リード配線12aは、プラグ13aを介して外部接続端子として機能する電極14aと電気的に接続されている。同様に、リード配線12bは、プラグ13bを介して外部接続端子として機能する電極14bと電気的に接続されている。
このように構成されている検出部104では、電極14aと電極14bとの間に電圧を印加することにより、電極14aと電極14bとを接続するヒータ11Hに電流を流すことができる。この結果、ヒータ11Hを構成する発熱抵抗線からジュール熱を発生させる。
このとき、図3Aに示すように、ヒータ11Hは厚さの薄い薄膜ダイヤフラム部10のヒータ領域11の範囲に内包されるように設けられているため熱容量を小さくでき、ヒータ11Hの加熱特性を向上することができる。すなわち、薄膜ダイヤフラム部10は、ヒータ311加熱特性を向上するために形成されているということができる。
次に、本実施形態の特徴である水滴の高さを制御する構成について説明する。尚、ここで、制御とは電気的な制御を意味するものではなく、水滴の高さを調整するという意味である。また、図3Aでは四角形の形状の検出部104において、夫々対向する2つの辺を説明の都合から、上辺104U、下辺104B、右辺104R、左辺105Lと定義する。
図3Aにおいて、ヒータ11Hを含む薄膜ダイヤフラム部10は低親水性膜4によって全体が覆われている。尚、本実施形態では検出部104の全面に亘って低親水性膜4で覆われている。低親水性膜4は、比較例と同様に酸化シリコン膜で形成されており、この酸化シリコン膜は絶縁膜、及び保護膜としても機能する。この低親水性膜4は水分との親和性が低い性質を備えているものであり、後述の高親水性膜との比較での表現である。以下では、必要に応じて低親水性膜4、或いは酸化シリコン膜4と表記する場合もある。ここで、低親水性膜4は、本実施形態では酸化シリコン膜を使用しているが、これに限らず酸化シリコン膜と同等の親水性を有する絶縁膜から形成されていても良いものである。
そして、酸化シリコン膜4の上面には、検出部104の上辺104Uと下辺104Bに直交し、しかも上辺104Uと下辺104Bを接続する高親水性膜5が、所定の間隔をおいて断続的に形成されている。高親水性膜4は、窒化アルミニウム膜で形成されており、この窒化アルミニウム膜は絶縁膜としても機能する。この高親水性膜5は水分との親和性が高い性質を備えているものであり、上述の低親水性膜との比較での表現である。以下では、必要に応じて高親水性膜5、或いは窒化アルミニウム膜5と表記する場合もある。
本実施形態では、検出部104の表面に3つの窒化アルミニウム膜5が形成されており、右辺104Rに沿って形成された右側窒化アルミニウム膜5R、左辺104Lに沿って形成された左側窒化アルミニウム膜5L、及び、右側窒化アルミニウム膜5Rと左側窒化アルミニウム膜5Lとの間に形成された、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hが備えられている。
そして、左側窒化アルミニウム膜5Lとヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの間には、酸化シリコン膜4が露出されており、同様に、右側窒化アルミニウム膜5Rとヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの間には、酸化シリコン膜4が露出されている。したがって、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、酸化シリコン膜4によって両側から挟まれる状態となっている。
それぞれの酸化シリコン膜4は、検出部104の上辺104Uと下辺104Bに直交し、しかも上辺104Uと下辺104Bを接続し、上辺104Uと下辺104Bの方向に所定の幅(第2の所定幅)を有した長方形の形状とされている。
このように、左側窒化アルミニウム膜5L、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、及び右側窒化アルミニウム膜5Rは、検出部104の上辺104Uと下辺104Bを接続する長方形の形状で、酸化シリコン膜4の上面に形成されている。ここで、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、ヒータ領域11を含むように重ね合せられており、水滴の水分を早期に蒸発させることができる。
例えば、ヒータ領域11に酸化シリコン膜4が露出され、これに隣り合わせて窒化アルミニウム膜5が形成されていると、ヒータ11Hは水分が少ない酸化シリコン膜4を加熱するだけで、隣接する窒化アルミニウム膜5の加熱が不十分となり、水分が完全に蒸発するまで長い時間を要するようになる。
尚、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、ヒータ領域11の一部、或いは全部を覆う形状とされていても良いが、本実施形態では、ヒータ領域11の全部を覆うように構成している。
そして、左側窒化アルミニウム膜5L、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、及び右側窒化アルミニウム膜5Rは、高親水性を備えているので、水滴の水分は夫々の窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rの表面で広がって水滴の高さが低くなる。
これに加えて、夫々の窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rの間に露出して配置された酸化シリコン膜4は、低親水性を備えているので、夫々の窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rの間での水滴の水分の流れが規制され、水滴は左側窒化アルミニウム膜5L、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、及び右側窒化アルミニウム膜5Rに分断される。
また、左側窒化アルミニウム膜5L、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、及び右側窒化アルミニウム膜5Rの合計面積は、露出している酸化シリコン膜4の合計面積より大きく設定されている。これによって、左側窒化アルミニウム膜5L、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、及び右側窒化アルミニウム膜5Rの上面に広がる水滴15の高さを低く(薄く)して、水滴の乾燥を更に促進している。
このように、ヒータ領域11のヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに存在する水滴の水分量は少なく制御され、その高さが低く管理される。ここで、上辺104U、及び下辺104Bが延びる方向のヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの幅(第1の所定幅)と、左側窒化アルミニウム膜5L、及び右側窒化アルミニウム膜5Rの幅(第3の所定幅)は、「ヒータ部窒化アルミニウム膜5H>右側窒化アルミニウム膜5R=左側窒化アルミニウム膜5L」の関係を有しており、ヒータ11Hの熱が最も作用するヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに付着する水滴の水分を多くして、ヒータ11Hによる直接的な加熱によって水分の乾燥を促進している。
また、左側窒化アルミニウム膜5Lとヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの間の酸化シリコン膜4には、電極14aが配置され、右側窒化アルミニウム膜5Rとヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの間の酸化シリコン膜4には、電極14bが配置されている。これによって、電極14a、14bが窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rで覆われることがなく、信号線の引き出しが容易になる。また、窒化アルミニウム膜5に電極14a、14bを設けると、水滴が電極部に到達して腐蝕することがあるため、電極14a、14bは酸化シリコン膜4に配置されている。
ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、少なくともヒータ領域11のヒータ11Hの全体を覆う範囲の幅を備えており、薄膜ダイヤフラム部10を横断して、上辺104Uと下辺104Bまで延びている。これによって、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに付着した水滴は、薄膜ダイヤフラム部10を超えて外側に広がって、水滴の高さを低くすることができる。
尚、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに付着した水滴は、薄膜ダイヤフラム部10を超えて、検出部104の上辺104U、下辺104Bの端部から排出されることもある。もちろん、左側窒化アルミニウム膜5L、右側窒化アルミニウム膜5Rも同様である。
また、左側窒化アルミニウム膜5Lのヒータ領域11側の辺5LSと、右側窒化アルミニウム膜5Rのヒータ領域11側の辺5RSは、薄膜ダイヤフラム部10が形成されている範囲に含まれるように、ヒータ領域11の側に延びている。言い換えれば、酸化シリコン膜4は、薄膜ダイヤフラム部10の範囲内に収まるようにその幅(第2の所定幅)が決められている。これによって、左側窒化アルミニウム膜5L、右側窒化アルミニウム膜5Rをヒータ領域11に近づけて、水滴の乾燥を促進することができる。
次に図3Bに示すように、熱式湿度センサを構成する検出部104は、大まかに下層領域部20aと上層領域部20bの2つの領域を有している。
下層領域部20aは、開口部1aが形成された支持体である半導体基板1と、半導体基板1に開口部1aを形成する際にマスクとして使用された絶縁膜2から構成されている。半導体基板1は、例えば、単結晶シリコンから構成されており、半導体基板1の裏面に形成されている絶縁膜2は、例えば、酸化シリコン膜から形成されている。尚、絶縁膜2は、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の多層膜であっても良い。
また、下層領域部20aの上側には、上層領域部20bが設けられており、この上層領域部20bは、複数膜(積層膜)から構成されている。具体的には、上層領域部20bは、開口部1aが形成された半導体基板1上に形成された絶縁膜3を有する。この絶縁膜3は、酸化シリコン膜から形成されている。尚、この絶縁膜3は、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層膜であっても良い。ただし、積層膜の場合、半導体基板1上に発熱抵抗線を形成する下地面は、酸化シリコン膜が好ましい。
上層領域部20bは、絶縁膜3上に形成された発熱抵抗線からなるヒータ11Hを有している。このヒータ11Hは、熱式湿度センサの発熱抵抗線として機能する。ヒータ11Hは、電流を流すことができるように導電性材料から構成されており、特に、ヒータ11Hは、電流が流れることにより発生するジュール熱が大きい導電性材料を使用することが望ましく、更に、耐熱性も考慮して、例えば高融点金属材料から構成することが望ましい。高融点金属材料としては、例えば、モリブデン(Mo)やタングステン(W)を使用することができる。
また、上層領域部20bは、ヒータ11Hを覆うように低親水性膜4が形成されている。この低親水性膜4は絶縁性を有しており、代表的には酸化シリコン膜が使用されている。尚、薄膜ダイヤフラム部10の強度向上のため、低親水性膜4は、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層膜であっても良い。
低親水性膜4を部分的に覆う高親水性膜5として、酸化シリコン膜4より親水性の高い窒化アルミニウム膜5が形成されている。尚、高親水性膜5として機能するヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、少なくともヒータ11Hの幅と同等、或いはそれ以上の幅に形成され、且つ、図3Aに示しように所定の間隔(酸化シリコン膜の幅)を介して検出部104の左辺104Lから右辺104Rにかけて、左側窒化アルミニウム膜5L、右側窒化アルミニウム膜5Rが形成されている。
ここで、酸化シリコン膜4と窒化アルミニウム膜5の間の高さ、言い換えれば窒化アルミニウム膜5の膜厚は、酸化シリコン膜4に付着した水滴の水分が窒化アルミニウム膜5に移動しやすいように50nm~1nmの範囲に決められている。これは窒化アルミニウム膜5の膜厚が厚いと段差となって、酸化シリコン膜4に付着した水滴の水分が円滑に窒化アルミニウム膜5に移動するのが難しくなるからである。
図3Bに示すように、半導体基板1に形成された開口部1a上には、上層領域部20bを構成しヒータ11Hを保持する酸化シリコン膜3、ヒータ11Hを覆う酸化シリコン膜(低親水性膜)4及び窒化アルミニウム膜(高親水性膜)5だけが形成されている。このことから、半導体基板1に形成された上層領域部20bだけの厚さは、下層領域部20aと上層領域部20bを足し合わせた厚さよりも薄くなる。この結果、検出部104には、半導体基板1に開口部1aを形成することによって、薄肉部となる薄肉ダイヤフラム部10が形成されることになる。
次に、本実施形態の熱式湿度センサの動作、及びヒータ領域11に付着した水滴の挙動について、図面を参照しながら説明する。
まず、図1、及び図2にあるように、制御回路部105は、熱式湿度センサが形成された検出部104と電気的に接続されている。そして、制御回路部105は、CPU(中央演算処理部)とメモリとを有しており、CPUの制御によって検出部104に形成されている電極14aと電極14bとの間に電圧(電位差)が印加される。例えば、電極14aに接地電位(0V)が印加され、電極14bに電源電位(例えば、5V)が印加される構成とされている。
電圧が印加されると、電極14aと電極14bとに接続されている発熱抵抗線からなるヒータ11Hに電流が流れる。これにより、ヒータ11Hではジュール熱が発生して、ヒータ11Hは電流に応じて発熱することになる。このとき、例えば、CPUがヒータ11Hに流れる電流を一定とする定電流制御を行なうことによって、例えば、ヒータ11Hが形成されているヒータ領域11の温度を500℃程度に維持することができる。
ここで、図3Bに示すように、ヒータ11Hが発熱すると、ヒータ11Hのヒータ領域11の表面側の上方、およびヒータ領域11の裏面側の下方に存在する空気が加熱されて、空気に含まれる水分が蒸気Sとして蒸発(気化)する。このとき、ヒータ11Hから発生した熱の一部が、空気に含まれる水分の蒸発に必要とされる気化熱に消費される。
すなわち、ヒータ11Hに供給された電力の一部が気化熱に消費されるが、この気化熱のために消費される電力は、空気に含まれる水分量によって変化する。例えば、空気に含まれる水分が多くなると、水分の蒸発に必要とされる電力は大きくなる。一方、空気に含まれる水分が少なくなると、水分の蒸発に必要とされる電力は小さくなる。
このことは、空気の湿度に応じて、水分の蒸発に必要とされる電力が変化することを意味する。そして、CPUによって、ヒータ11Hを流れる電流を一定にする定電流制御が行なわれていることから、水分の蒸発に消費される電力の変化は、電極14aと電極14bとの間の電位差の変化として現れる。したがって、電極14aと電極14bとの間の電位差の変化を検出することによって、空気の湿度を推定することができる。
具体的には、検出部104における電極14aと電極14bとの間の電位差の変化は、制御回路部105に備えられているCPUによって監視されている。そして、CPUは、電極14aと電極14bとの間の電位差に対応した電気信号が検出部104から入力されると、例えば、予め電気信号の電圧値と空気の湿度(湿度データ)とを対応付けたテーブル、或いはマップを記憶しているメモリにアクセスして、検出部104から入力した電気信号の電圧値に対応した空気の湿度(湿度データ)を検索、取得する。その後、CPUは、取得した空気の湿度(湿度データ)を外部のECUに出力する。このようにして、空気の湿度を測定できる。
熱式湿度センサにおいて、図16A~図16Cで説明したように、水滴15の外周近辺では蒸発した分子が空気中に拡散していくのに対し、水滴の高さが高いと水滴の中央付近に発生した気泡は外周付近に到達できないことから、水滴の内部に気泡となって留まるように振る舞う。したがって、高温になるヒータ領域11の水滴の高さが低くなるように、酸化シリコン膜より親水性の高い高親水性膜を形成することが考えられる。
しかしながら、薄膜ダイヤフラム部10の全面に酸化シリコン膜より親水性の高い高親水性膜を形成した場合、付着した水分は水滴の中央から同心円状に広がり、その後にヒータ11Hによって加熱されると、水分の蒸発と共に水滴は表面張力により中央に集まってくる。そして、水滴の水分量が多い場合には、図16A~図16Cと同様の挙動行い、気泡が成長して破裂することで薄膜ダイヤフラム部10に悪影響を及ぼすことになる。
このような現象に対応するため、本実施形態では図3Aに示すように、高親水性膜5と低親水性膜4を所定の間隔で交互に配置することにより、付着した水滴を分散することで、夫々の水滴の高さを低く抑えるようにしている。
図4A、及び図4Bは、上述した実施形態において水滴が付着した初期状態を示している。ヒータ11Hを含む薄膜ダイヤフラム部10の全体を覆うように、低親水性膜4としての酸化シリコン膜4が形成され、これの上面にヒータ領域11、検出部104の左辺104L、及び右辺104Rに沿って高親水性膜5としての窒化アルミニウム膜5が、所定の間隔で交互に配置されている。
そして、検出部104に付着した水滴15の水分は、酸化シリコン膜4と窒化アルミニウム膜5に多少の段差があっても、酸化シリコン膜4上の水分は親水性の高い窒化アルミニウム膜5L、5H、5R上に移動して分断される。加えて、水滴15は、酸化シリコン膜4によって、窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rの間で相互の水分の移動が規制されるので、水滴15の水分は3つの領域に分断されてその量が少なく制御される。更に、移動した水滴15の水分は、窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rの幅に沿って、上辺104U、及び下辺104Bのほうへ向かって広がっていく。
したがって、水分量が少ない水滴15が、更に窒化アルミニウム膜5L、5H、5Rで広がるので、ヒータ11H上の水滴の高さは充分低く抑えられる。発明者等の検討によると、検出部104の中央に1μLの水滴を滴下した時に、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hにおいては、その水滴15の高さ(H)を1mm以下に制御できることが確認された。
また、上辺104U、及び下辺104Bが延びる方向で、低親水性膜4の形成位置は、少なくともヒータ領域11の端から、薄膜ダイヤフラム部10の端縁よりヒータ領域11側までとされている。これによって、薄膜ダイヤフラム部10が形成されている範囲に低親水性膜4が形成されることになる。この理由は以下の通りである。
薄膜ダイヤフラム部10の範囲は熱容量が小さいので、ヒータ11Hの熱により水滴15の水分が蒸発しやすい環境に置かれる。これに対して、薄膜ダイヤフラム部10の外側では、半導体基板1の熱容量が大きいため、急激に温度が低下する傾向にある。したがって、酸化シリコン膜4が、薄膜ダイヤフラム部10の外側の半導体基板1まで延びていると、左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rの水滴15の水分が蒸発し難くなると共に、左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rの面積が小さくなり水滴の高さが高くなる。
このため、薄膜ダイヤフラム部10が形成されている範囲内に酸化シリコン膜4を形成することによって、酸化シリコン膜4の外側に隣接する左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rの温度を高め、更に水滴15の高さを低くして水滴15の蒸発を促進している。これによって、ヒータ11Hの輻射熱や伝熱によって早く乾燥することができる。
このように、ヒータ領域11のヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの水滴15の水分を少なくするためにも、左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rを形成することは有効である。つまり、左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rが形成されないと、酸化シリコン膜4上に残った水滴の水分が、窒化アルミニウム膜5Hに流れて供給されてしまい、水滴15の蒸発効率が悪くなり、熱式センサが復帰するまで長い時間を要するようになる。
図5A、及び図5Bは、上述した水滴が付着した初期状態から内燃機関を始動してヒータ11Hを加熱した状態を示している。
今、熱式湿度センサを動作させるとヒータ11Hに電流が流れ、設定温度である500℃に向けて急速に加熱される。例えば、熱式湿度センサを早期に起動させるために、ヒータ11Hには予備的に大電流を流してヒータ11Hの温度を高める手法を採用することができる。この時、図16A~図16Cにある通り、薄膜ダイヤフラム部10に水分量が多い水滴が付着していると、水滴内の気泡が急速に成長して破裂し、薄膜ダイヤフラム部10の損傷を発生する恐れがある。
これに対して、本実施形態では、上述したように、低親水性膜として酸化シリコン膜4が形成され、これの上面にヒータ領域11、検出部104の左辺104L、及び右辺104Rに沿って高親水性膜として窒化アルミニウム膜5が、所定の間隔で交互に配置されている。これによって、付着した水滴15は、水分量が少ない3つの水滴15に分断され、更に窒化アルミニウム膜5上を上辺104U、下辺104Bに向かって広がる。
これによって、ヒータ領域11に形成されたヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに形成される水滴15の高さが低く制御される。そして、ヒータ領域11に形成されたヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの水滴15の高さが低いので、蒸発した蒸気は水滴15の内部に滞留することなく空気中に抜けて行き、短い時間でヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに付着した水滴15を乾燥することができる。
実際には、水滴の高さ(H)を1mm以下に制御できれば、気泡の発生を充分抑制することができる。尚、図5Aでは薄膜ダイヤフラム部10の外側に熱が伝わり難い部分に水滴が残留した状態を示しているが、全てが蒸発するまでそれほど時間を要さないものである。
このように、本実施形態によればヒータ11Hによって水滴15が急速に加熱されても、気泡が発生することが抑制されるため、薄膜ダイヤフラム部10に気泡の破裂による衝撃を与えることを抑制できる。
更に、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに加えて、左側窒化アルミニウム膜5Lと右側窒化アルミニウム膜5Rが形成されているので、水分が分散されて個々の水滴の水分量が更に少なく、その高さが低い状態で広がっているため、水分の蒸発も早いものとなっている。したがって、湿度検出までの復帰時間が短縮されるという効果を奏することができる。
次に、図6~図9を用いて、高親水性膜と低親水性膜の水滴の水分量と水滴の高さや直径に関する特性を比較した結果について説明する。
図6は、高親水性膜である窒化アルミニウム膜5と低親水性膜である酸化シリコン膜4に所定の水分量の水滴を滴下した時の水滴の直径(L)との関係を示している。図6において、同じ水滴量であっても親水性が異なることにより、酸化シリコン膜4に比べて、本実施形態の窒化アルミニウム膜5によれば、水滴が約1.4倍程度広がり易いことがわかる。
同様に、図7は窒化アルミニウム膜5と酸化シリコン膜4に所定の水分量の水滴を滴下した時の水滴の高さ(H)との関係を示している。図7において、同じ水滴量であっても親水性が異なることにより、酸化シリコン膜4に比べて、本実施形態の窒化アルミニウム膜5によれば、水滴の高さ(H)が約1/2程度まで低くできることがわかる。
したがって、図6、図7から理解できるように、高親水性膜である窒化アルミニウム膜5L、5H、5R及び酸化シリコン膜4を形成することで、水滴の高さ(H)を低く抑え、しかも水滴を広げることができる。このように窒化アルミニウム膜5や酸化シリコン膜4の寸法を適切に管理すれば、水滴の高さ(H)を制御することが可能となる。
尚、酸化シリコン膜4において1μL以上の水分量があると、水滴高さ(H)が1mm以上に達して、気泡が発生することが確認されており、この高さ以上になると気泡の破裂によって薄膜ダイヤフラム部10が破損されてしまう恐れがある。つまり、酸化シリコン膜4では1μL以上の水滴で薄膜ダイヤフラム部10が破損する恐れがある。これに対して、本実施形態の窒化アルミニウム膜5では、水滴の高さ(H)は1mm以上に達しないので、気泡の発生が抑制されて薄膜ダイヤフラム部10の破損を避けることができる。
また、水滴が付着すると異物を取り込みやすくなり、酸化シリコン膜4の場合、0.2μLと微量の水滴であってもヒータ領域11近傍に微細な異物があると、これを核にして気泡が発生しやすくなる。これに対して、本実施形態の窒化アルミニウム膜5においては、水滴の高さが低くなるので、微細な異物を水滴の中央付近まで移動させる前に水分を蒸発させることができ、気泡の発生まで至らないことを確認している。
図8は、窒化アルミニウム膜5と酸化シリコン膜4に所定の水分量の水滴を滴下した時の水滴高さ(H)/水滴直径(L)の関係を示している。この図8において、酸化シリコン膜4は、1μL以上において、水滴高さ(H)/水滴直径(L)の比が1:2であり、水滴の接触角度が90度に近いことがわかる。これに対して、本実施形態の窒化アルミニウム膜5では、1μL以上においても水滴高さ(H)/水滴直径(L)の比が0.2未満であり、水滴の高さ(H)を抑制できていることがわかる。
図9は、水滴がある状態でヒータ温度を500℃に加熱した場合における水滴の乾燥までの蒸発時間を比較例と本実施形態を比較した結果を示している。尚、薄膜ダイヤフラム部10の破損を考慮して水滴量は1μLまでとした。この図9からわかるように、比較例に比べて本実施形態では、約3倍の速度で水滴を乾燥することができていることがわかる。また、本実施形態の場合、水滴の水分量が1μLを超えた場合でも、酸化シリコン膜4によって水滴が分散され、分散された水滴は窒化アルミニウム膜5の上面を広がって薄膜ダイヤフラム部10の外側に流されるので、蒸発時間はほとんど変わらないことを確認している。
次に、本実施形態における熱式湿度センサの製造方法を図10に基づいて説明する。
まず、図10の(a)に示すように、半導体基板1の裏面と表面に絶縁膜2と絶縁膜3を形成する。このとき、絶縁膜2と絶縁膜3は、例えば1000℃以上の炉体に酸素、または水蒸気を導入して形成した酸化シリコン膜、または、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成した酸化シリコン膜である。尚、絶縁膜2、絶縁膜3は、例えば、CVD法を用いた窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜であっても良い。
その後、図10の(b)に示すように、絶縁膜3上に例えばモリブデン(Mo)やタングステン(W)に代表される高融点金属材料からなる金属膜を形成する。この金属膜は、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成できる。そして、フォトリソグラフィ技術、及びエッチング技術を使用することにより、金属膜をパターニングして、発熱抵抗線からなるヒータ11H、およびリード配線12を形成する。
次に、図10の(c)に示すように、ヒータ11Hを保護するためヒータ11Hを覆うようにCVD法を用いて酸化シリコン膜4を形成する。この酸化シリコン膜4は電気絶縁性を備えた低親水性膜である。尚、ヒータ11Hが存在する部分は段差が形成されているので、平坦化技術により酸化シリコン膜4に形成された表面の段差を低減している。また、この後に窒化シリコン膜と酸化シリコン膜を積層しても良い。ただし、この後の電極14を形成する下地として表面は酸化シリコン膜となるようにするのが望ましい。
次に、図10の(d)に示すように、スパッタリング法を用いて高親水性膜である窒化アルミニウム膜5を形成する。窒化アルミニウム膜5は、スパッタリング法を用いた場合、粒径が10nm以下の微小な柱状結晶となり、膜表面に数nmの凹凸を有して親水性が高い膜となる。また、窒化アルミニウム膜5とは別に、YSZ (イットリア安定化ジルコニア)膜、ZrO(酸化ジルコニウム)膜、MoN(窒化モリブデン)膜等の柱状結晶を有する金属膜を用いることもできる。
その後、フォトリソグラフィ技術、及びエッチング技術を使用することにより、少なくとも図3に示した長方形状の窒化アルミ膜5が得られるように、パターニングを行って酸化シリコン膜4を露出させる領域を形成する。尚、露出される酸化シリコン膜4は交互に形成されている。
次に、図示はしていないが、フォトリソグラフィ技術、及びエッチング技術を使用することにより、酸化シリコン膜4をパターニングしてリード線12が露出するようにコンタクト孔を形成し、その後、電極14となるアルミニウム膜をスパッタ法により形成する。
この際、プラグ13が同時に形成され、フォトリソグラフィ技術、及びエッチング技術を使用することにより、電極14をパターニングする。また、窒化アルミニウム膜5に電極14を設けると、水滴が電極部に到達して腐蝕することがあるため、窒化アルミニウム膜5と電極14が相互に接触しない配置とされている。
次に、裏面側の絶縁膜2にフォトリソグラフィ技術、及びエッチング技術を使用することにより、薄膜ダイヤフラム部10を形成するためのマスクとしてパターニングを行う。この後、表面を保護しながら、KOH液、またはTMAH液を用いて、裏面側の半導体基板1を絶縁膜3までエッチングして薄膜ダイヤフラム部10を形成する。
図11は、上述した製造方法により形成した熱式湿度センサを支持台に固定した時の断面を示している。この図11において、支持台16は、熱式湿度センサの検出部104よりも外形形状を大きく形成している。尚、支持台16の上面と検出部104の側面との間に間隔をあけ、窒化アルミニウム膜5を伝わってきた水滴が検出部104の外側に排出できるようにしている。
また、薄膜ダイヤフラム部10が密閉されないように、薄膜ダイヤフラム部10の裏面の空間と支持台16には連通孔17が形成されている。そして、このような形態に組み上げられて、図1、図2に示すセンサモジュール100に搭載されることになる。
このように、本実施形態によれば、高親水性膜に付着した水滴は薄膜ダイヤフラム部の外側に広がり、また高親水性膜に隣接する低親水性膜によって、他の領域から余分な水分が高親水性膜に移動するのを抑制することでヒータ領域の高親水性膜に存在する水滴の高さが低くなり、これによってヒータ領域に付着した水滴の内部に大きな気泡が発生するのを抑制して薄膜ダイヤフラム部の機械的信頼性を向上することができる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図12は、第2の実施形態になる熱式湿度センサの断面を示している。ここで、第1の実施形態と同じ参照番号は同じ構成部品を示しているので、その説明は省略する。
図12に示す熱式湿度センサの構成は、第1の実施形態における熱式湿度センサの検出部104の裏側全面に、スパッタ法によって窒化アルミニウム膜5Aを形成している。この場合の窒化アルミニウム膜5Aの膜厚は約50nmであり、薄膜ダイヤフラム部10の全体の応力に影響が及ばない程度に形成されている。
図11に示した構成の検出部104においては、薄膜ダイヤフラム部10の裏面側は、支持台16の連通孔17を介して外気と繋がっている。したがって、薄膜ダイヤフラム部10の裏面側も結露が発生する場合がある。このため、高親水性の窒化アルミニウム膜5Aが形成されることにより、薄膜ダイヤフラム部10の裏面側に付着した水滴の高さを低くすることができ、水滴の乾燥時間を短くすることができる。
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図13は第3の実施形態になる熱式湿度センサの断面を示している。ここで、第1の実施形態と同じ参照番号は同じ構成部品を示しているので、その説明は省略する。
図13において、本実施形態になる熱式湿度センサでは、高親水性膜である窒化アルミニウム膜5をパターニングせず、低親水性膜である酸化シリコン膜4の全面に窒化アルミニウム膜5を形成した後、窒化アルミニウム膜5の上面に窒化アルミニウム膜5より親水性の低い低親水性膜18を形成している。尚、この低親水性膜18は、図3Aに示す酸化シリコン膜4と同じ形状とされ、酸化シリコン膜で形成されている。
そして、ヒータ領域11にはヒータ部窒化アルミニウム膜5Hが露出していることから、水滴が付着した場合は、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H上に広がり、水滴の高さを低く抑えることができる。もちろん、左側窒化アルミニウム膜5Lと、右側窒化アルミニウム膜5Rも形成されているので、第1の実施形態と同じ作用、効果を奏することができる。
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。図14A、及び図14Bは第4の実施形態になる熱式湿度センサを示している。ここで、第1の実施形態と同じ参照番号は同じ構成部品を示しているので、その説明は省略する。
図14A、及び図14Bにおいて、図3Aに示すヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、本実施形態では、ヒータ11Hとリード線12の間で分断されており、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uと、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Bは、間隙GBを介して分割されている。そして、ヒータ領域11はヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uと重ね合されている。
一方、右側窒化アルミニウム膜5Rと左側窒化アルミニウム膜5Lは、上辺104U、及び下辺104Bと平行に形成されており、右側窒化アルミニウム膜5Rと左側窒化アルミニウム膜5Lの延長線は互いに一致する形状とされている。
更に、右側窒化アルミニウム膜5Rと左側窒化アルミニウム膜5Lの延長線は、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uと直角に交差し、その交差付近にはヒータ領域11が配置されている。また、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uと右側窒化アルミニウム膜5R、及び左側窒化アルミニウム膜5Lの間には、間隙GR、GLが形成されている。
このように、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-U、及びヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Bと、右側窒化アルミニウム膜5Rと左側窒化アルミニウム膜5Lとは、全体的な形状が「十文字」の形状とされている。
したがって、第1の実施形態と同様の理由で、検出部104に付着した水滴はヒータ部窒化アルミニウム膜5H-U、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-B、右側窒化アルミニウム膜5R、及び左側窒化アルミニウム膜5Lに分割されて付着し、更にヒータ部窒化アルミニウム膜5H-U、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H-B、右側窒化アルミニウム膜5R、及び左側窒化アルミニウム膜5Lの上で広がるので、水滴の高さを低く抑えることができる。
また、本実施形態の特徴として、ヒータ領域11はヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uで覆われ、これ以外のヒータ部窒化アルミニウム膜5H-B、右側窒化アルミニウム膜5R、及び左側窒化アルミニウム膜5Lは、間隙GB、GR、GLが形成されている。
したがって、引張り応力を有する窒化アルミニウム膜を使用すると、ヒータ領域11を覆うヒータ部窒化アルミニウム膜5H-Uにおいては、図14Bに示すように、膜応力によりヒータ領域11付近が薄膜ダイヤヤフラム部10の他の領域より上側、つまり凸形状となるように変形する。これによって、付着した水滴はヒータ領域11から薄膜ダイヤヤフラム部10の他の領域に移動してヒータ領域11上の水滴高さは更に低くなり、水滴中の気泡の発生を抑制することができる。
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。図15A、及び図15Bは第5の実施形態になる熱式湿度センサを示している。ここで、第1の実施形態と同じ参照番号は同じ構成部品を示しているので、その説明は省略する。
図15A、及び図15Bにおいて、本実施形態における熱式湿度センサでは、図3Aに示す検出部104を90°回転させた構成とされている。
したがって、検出部104の上辺104Uから下辺104Bに向かって、上辺104U、及び下辺104Bと平行に、上側窒化アルミニウム膜5U、ヒータ部窒化アルミニウム膜5H、下側窒化アルミニウム膜5Bが形成されている。ここで、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hは、後述するように補助ヒータ11H-Sが設けられているので、この補助ヒータ11H-Sを覆うような幅(第1の所定幅)に広く形成されている。尚、第1の実施系阿智と同様に、上側窒化アルミニウム膜5U、下側窒化アルミニウム膜5Bの幅(第3の所定幅)は、窒化アルミニウム膜5Hの幅より短く設定されている。
また、上側窒化アルミニウム膜5Uとヒータ部窒化アルミニウム膜5Hの間、ヒータ部窒化アルミニウム膜5Hと下側窒化アルミニウム膜5Bの間、及び下側窒化アルミニウム膜5Bと下辺104Bとの間に酸化シリコン膜4が形成されている。
ヒータ領域11には、主ヒータ11H-Mと、この主ヒータ11-Mを外側から囲む補助ヒータ11H-Sが配置されている。主ヒータ11H-Mと補助ヒータ11H-Sは、リード配線12を介して夫々の電極14a、14b、14c、14dと接続されている。
夫々の電極14a、14b、14c、14dは、下側窒化アルミニウム膜5Bと下辺104Bとの間の酸化シリコン膜4に形成されている。また、この酸化シリコン膜4の幅は、電極14a、14b、14c、14dが配置されるので、上側の2つの酸化シリコン膜4の幅(第2の所定幅)より広く形成されている。
尚、補助ヒータ11H-Sは、主ヒータ11H-Mが周囲の環境に影響されないように配置されている。例えば、主ヒータ11H-Mは、約500℃に加熱され、補助ヒータ11H-Sは、約300℃に加熱されている。ここで、補助ヒータ11H-Sの温度が300℃以下に管理されていれば、湿度検出感度に影響が無いことを確認している。
このように本実施形態における熱式湿度センサでは、補助ヒータ11H-Sも200℃以上の温度に加熱されるため、酸化シリコン膜4が露出した領域に補助ヒータ11H-Sが存在すると、この領域で気泡が発生するおそれがある。このため、本実施形態では、主ヒータ11H-Mと補助11H-Sを含むヒータ領域11を覆うようにヒータ部窒化アルミニウム膜5Hを形成することで、ヒータ領域11のヒータ部窒化アルミニウム膜5Hに存在する水滴の高さを低く抑えることができ、気泡の発生を抑制することができる。
以上に説明した実施形態では、熱式センサの一例として、熱式湿度センサを例に説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、熱式流量センサや熱式ガスセンサに代表される他の熱式センサにも適用できる。
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。