本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
本発明者らは、従来の光スキャンデバイスには、装置の構成を複雑にすることなく、光で空間をスキャンすることが困難であるという課題があることを見出した。
例えば、特許文献1に開示されている技術では、ミラーを回転させる駆動装置が必要である。このため、装置の構成が複雑になり、振動に対してロバストでないという課題がある。
特許文献2に記載の光フェーズドアレイでは、光を分岐して複数の列導波路および複数の行導波路に導入し、2次元的に配列された複数のアンテナ素子に光を誘導する必要がある。このため、光を誘導するための導波路の配線が非常に複雑になる。また、2次元スキャンの範囲を大きくすることができない。さらに、遠視野における出射光の振幅分布を2次元的に変化させるためには、2次元的に配列された複数のアンテナ素子の各々に位相シフタを接続し、位相シフタに位相制御用の配線を取り付ける必要がある。これにより、2次元的に配列された複数のアンテナ素子に入射する光の位相をそれぞれ異なる量変化させる。このため、素子の構成が非常に複雑になる。
特許文献3の構成によれば、光偏向素子に入射する光の波長を変化させることにより、出射光によって1次元的に大きくスキャンすることができる。しかし、光偏光素子に入射する光の波長を変化させる機構が必要である。そのような機構をレーザーなどの光源に組み込むと、光源の構造が複雑になるという課題がある。
本発明者らは、従来技術における上記の課題に着目し、これらの課題を解決するための構成を検討した。本発明者らは、対向する一対のミラーと、それらのミラーに挟まれた光導波層とを有する導波路素子を用いることにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。導波路素子における一対のミラーの一方は、他方に比べて高い光透過率を有し、光導波層を伝搬する光の一部を外部に出射させる。出射した光の方向(または出射角度)は、後述するように、光導波層の屈折率および/または厚さを調整することにより、変化させることができる。より具体的には、屈折率および/または厚さを変化させることにより、出射光の波数ベクトル(wave vector)の、光導波層の長手方向に沿った方向の成分を変化させることができる。これにより、1次元的なスキャンが実現される。
さらに、複数の導波路素子のアレイを用いた場合には、2次元的なスキャンを実現することもできる。より具体的には、複数の導波路素子に供給する光に適切な位相差を与え、その位相差を調整することにより、複数の導波路素子から出射する光が強め合う方向を変化させることができる。位相差の変化により、出射光の波数ベクトルの、光導波層の長手方向に沿った方向に交差する方向の成分が変化する。これにより、2次元的なスキャンを実現することができる。なお、2次元的なスキャンを行う場合でも、複数の光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を異なる量変化させる必要はない。すなわち、複数の光導波層に供給する光に適切な位相差を与え、かつ、複数の光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を同期して同量変化させることにより、2次元的なスキャンを行うことができる。このように、本開示の実施形態によれば、比較的簡単な構成で、光による2次元スキャンを実現することができる。
以上の基本原理は、光を出射する用途だけでなく、光信号を受信する用途にも同様に適用できる。光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、受信できる光の方向を1次元的に変化させることができる。さらに、一方向に配列された複数の導波路素子にそれぞれ接続された複数の位相シフタによって光の位相差を変化させれば、受信できる光の方向を2次元的に変化させることができる。
本開示の実施形態による光スキャンデバイスおよび光受信デバイスは、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムなどの光検出システムにおけるアンテナとして用いられ得る。LiDARシステムは、ミリ波などの電波を用いたレーダシステムと比較して、短波長の電磁波(可視光、赤外線、または紫外線)を用いるため、高い分解能で物体の距離分布を検出することができる。そのようなLiDARシステムは、例えば自動車、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)、AGV(Automated Guided Vehicle)などの移動体に搭載され、衝突回避技術の1つとして使用され得る。
<光スキャンデバイスの構成例>
以下、一例として、2次元スキャンを行う光スキャンデバイスの構成を説明する。
図1は、本開示の例示的な実施形態における光スキャンデバイス100の構成を模式的に示す斜視図である。光スキャンデバイス100は、第1の方向(図1におけるY方向)に規則的に配列された複数の導波路素子10を含む導波路アレイを備える。複数の導波路素子10の各々は、第1の方向に交差する第2の方向(図1におけるX方向)に延びた形状を有する。複数の導波路素子10は、第2の方向に光を伝搬させながら、第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する第3の方向D3に光を出射させる。本実施形態では、第1の方向(Y方向)と第2の方向(X方向)とが直交しているが、両者が直交していなくてもよい。本実施形態では、複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいるが、必ずしも等間隔に並んでいる必要はない。
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
複数の導波路素子10のそれぞれは、互いに対向する第1のミラー30および第2のミラー40(以下、単にミラーと呼ぶ場合がある)と、ミラー30とミラー40の間に位置する光導波層20とを有する。ミラー30および40の各々は、第3の方向D3に交差する反射面を、光導波層20との界面に有する。ミラー30および40、ならびに光導波層20は、第2の方向(X方向)に延びた形状を有している。
なお、後述するように、複数の導波路素子10の複数の第1のミラー30は、一体に構成された第3のミラーの複数の部分であってもよい。また、複数の導波路素子10の複数の第2のミラー40は、一体に構成された第4のミラーの複数の部分であってもよい。さらに、複数の導波路素子10の複数の光導波層20は、一体に構成された光導波層の複数の部分であってもよい。少なくとも、(1)各第1のミラー30が他の第1のミラー30と別体に構成されているか、(2)各第2のミラー40が他の第2のミラー40と別体に構成されているか、(3)各光導波層20が他の光導波層20と別体に構成されていることにより、複数の導波路を形成することができる。「別体に構成されている」とは、物理的に空間を設けることのみならず、間に屈折率が異なる材料を挟み、分離することも含む。
第1のミラー30の反射面と第2のミラー40の反射面とは略平行に対向している。2つのミラー30および40のうち、少なくとも第1のミラー30は、光導波層20を伝搬する光の一部を透過させる特性を有する。言い換えれば、第1のミラー30は、当該光について、第2のミラー40よりも高い光透過率を有する。このため、光導波層20を伝搬する光の一部は、第1のミラー30から外部に出射される。このようなミラー30および40は、例えば誘電体による多層膜(「多層反射膜」と称することもある。)によって形成される多層膜ミラーであり得る。
それぞれの導波路素子10に入力する光の位相を制御し、さらに、これらの導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を同期して同時に変化させることで、光による2次元スキャンを実現することができる。
本発明者らは、そのような2次元スキャンを実現するために、導波路素子10の動作原理について詳しく分析を行った。その結果に基づき、複数の導波路素子10を同期して駆動することで、光による2次元スキャンを実現することに成功した。
図1に示されるように、各導波路素子10に光を入力すると、各導波路素子10の出射面から光が出射される。出射面は、第1のミラー30の反射面の反対側に位置する。その出射光の方向D3は、光導波層の屈折率、厚さ、および光の波長に依存する。本実施形態では、各導波路素子10から出射される光が概ね同じ方向になるように、各光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方が同期して制御される。これにより、複数の導波路素子10から出射される光の波数ベクトルのX方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、出射光の方向D3を、図1に示される方向101に沿って変化させることができる。
さらに、複数の導波路素子10から出射される光は同じ方向を向いているので、出射光は互いに干渉する。それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御することにより、干渉によって光が強め合う方向を変化させることができる。例えば、同じサイズの複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいる場合、複数の導波路素子10には、一定量ずつ位相の異なる光が入力される。その位相差を変化させることにより、出射光の波数ベクトルの、Y方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、複数の導波路素子10に導入される光の位相差をそれぞれ変化させることにより、干渉によって出射光が強め合う方向D3を、図1に示される方向102に沿って変化させることができる。これにより、光による2次元スキャンを実現することができる。
以下、光スキャンデバイス100の動作原理をより詳細に説明する。
<導波路素子の動作原理>
図2は、1つの導波路素子10の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。図2では、図1に示すX方向およびY方向に垂直な方向をZ方向とし、導波路素子10のXZ面に平行な断面が模式的に示されている。導波路素子10において、一対のミラー30とミラー40が光導波層20を挟むように配置されている。光導波層20のX方向における一端から導入された光22は、光導波層20の上面(図2における上側の表面)に設けられた第1のミラー30および下面(図2における下側の表面)に設けられた第2のミラー40によって反射を繰り返しながら光導波層20内を伝搬する。第1のミラー30の光透過率は第2のミラー40の光透過率よりも高い。このため、主に第1のミラー30から光の一部を出力することができる。
通常の光ファイバーなどの導波路では、全反射を繰り返しながら光が導波路に沿って伝搬する。これに対して、本実施形態における導波路素子10では、光は光導波層20の上下に配置されたミラー30および40によって反射を繰り返しながら伝搬する。このため、光の伝搬角度(すなわち、ミラー30または40と光導波層20との界面への入射角度)に制約がなく、ミラー30または40に対して、より垂直に近い角度で入射する光も伝搬できる。すなわち、全反射の臨界角よりも小さい角度(すなわち、より垂直に近い角度)で界面に入射する光も伝搬できる。このため、光の伝搬方向における光の群速度は自由空間における光速に比べて大きく低下する。これにより、導波路素子10は、光の波長、光導波層20の厚さ、および光導波層20の屈折率の変化に対して光の伝搬条件が大きく変化するという性質を持つ。
導波路素子10の光の伝搬について、より詳しく説明する。光導波層20の屈折率をnw、光導波層20の厚さをdとする。ここで、光導波層20の厚さdは、ミラー30または40の反射面の法線方向における光導波層20のサイズである。光の干渉条件を考慮すると、波長λの光の伝搬角度θwは、以下の式(1)を満たす。
mはモード次数である。式(1)は、光導波層20内の光が厚さ方向に定在波を形成する条件に相当する。光導波層20内の波長λgがλ/nwのとき、光導波層20の厚さ方向における波長λg’はλ/(nwcosθw)であると考えることができる。光導波層20の厚さdが、光導波層20の厚さ方向における波長λg’の半分λ/(2nwcosθw)の整数倍と等しいとき、定在波が形成される。この条件から式(1)が得られる。なお、式(1)におけるmは定在波の腹(anti-node)の数を表す。
ミラー30および40が多層膜ミラーである場合、反射時にミラー内部にも光が侵入する。このため、厳密には、光が侵入した分の光路長に対応する項を式(1)の左辺に付け加える必要がある。しかし、ミラー内部への光の侵入の影響よりも光導波層20の屈折率nwおよび厚さdの影響の方が遥かに大きいため、式(1)によって基本的な動作を説明できる。
光導波層20内を伝搬する光が、第1のミラー30を通じて外部(典型的には空気)に出射されるときの出射角度θは、スネルの法則にしたがって以下の式(2)のように記述できる。
式(2)は、光の出射面において、空気側の光の面方向における波長λ/sinθと、導波路素子10側の光の伝搬方向の波長λ/(nwsinθw)とが等しいという条件から得られる。
式(1)および式(2)より、出射角度θは、以下の式(3)のように記述できる。
式(3)からわかるように、光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、または光導波層20の厚さdのいずれかを変えることで光の出射方向を変えることができる。
例えば、nw=2、d=387nm、λ=1550nm、m=1の場合、出射角度は0°である。この状態から、屈折率をnw=2.2に変化させると、出射角度は約66°に変化する。一方、屈折率を変えずに厚さをd=420nmに変化させると、出射角度は約51°に変化する。屈折率も厚さも変化させずに波長をλ=1500nmに変化させると、出射角度は約30°に変化する。このように、光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、または光導波層20の厚さdのいずれかを変えることにより、光の出射方向を大きく変えることができる。
この原理を利用して、光導波層20内を伝搬する光の波長を変化させる波長可変手段を設けることによって光の出射方向を制御することが考えられる。しかしながら、波長可変手段をレーザーなどの光源に組み込むと、光源の構成が複雑になる。
そこで、本実施形態における光スキャンデバイス100は、光導波層20の屈折率nwおよび厚さdの一方または両方を制御することで、光の出射方向を制御する。本実施形態では、光の波長λは、動作中に変化せず、一定に維持される。波長λは、特に限定されない。例えば、波長λは、一般的なシリコン(Si)により光を吸収することで光を検出するフォトディテクタまたはイメージセンサで高い検出感度が得られる400nm~1100nm(可視光から近赤外光)の波長域に含まれ得る。他の例では、波長λは、光ファイバーまたはSi導波路において伝送損失の比較的小さい1260nm~1625nmの近赤外光の波長域に含まれ得る。なお、これらの波長範囲は一例である。使用される光の波長域は、可視光または赤外光の波長域に限定されず、例えば紫外光の波長域であってもよい。本実施形態では波長の制御は行われないが、屈折率および/または厚さの制御に加えて、波長を変化させる制御を行ってもよい。
本発明者らは、上記のような特定方向への光の出射が実際に可能であるかを光学解析によって検証した。光学解析は、サイバネット社のDiffractMODを用いた計算によって行った。これは、厳密結合波解析(RCWA:Rigorous Coupled-Wave Analysis)に基づいたシミュレーションであり、波動光学の効果を正確に計算することができる。
図3は、本シミュレーションにおいて用いた計算モデルを模式的に示す図である。この計算モデルでは、基板50上に、第2のミラー40と、光導波層20と、第1のミラー30とが、この順に積層されている。第1のミラー30および第2のミラー40は、いずれも誘電体多層膜を含む多層膜ミラーである。第2のミラー40は、相対的に屈折率の低い低屈折率層42および相対的に屈折率の高い高屈折率層44を交互に6層ずつ(計12層)積層した構造を有する。第1のミラー30は、低屈折率層42および高屈折率層44を交互に2層ずつ(すなわち、計4層)積層した構造を有する。ミラー30とミラー40の間に光導波層20が配置されている。導波路素子10および基板50以外の媒質は空気である。
このモデルを用いて、光の入射角度を変化させながら入射光に対する光学応答を調べた。これは、空気からの入射光と光導波層20とが、どの程度結合するかを調べることに対応している。入射光が光導波層20と結合する条件では、光導波層20を伝搬した光が外部に出射されるという逆の過程も起きる。よって、入射光が光導波層20と結合する場合の入射角度を求めることは、光導波層20を伝搬した光が外部に出射する際の出射角度を求めることに相当する。入射光が光導波層20と結合すると、光導波層20内において光の吸収および散乱によるロスが生じる。つまり、大きなロスが生じる条件では、入射光が光導波層20に強く結合しているということになる。吸収などによる光のロスがなければ、光の透過率および反射率の合計が1になるが、ロスがあれば、透過率および反射率の合計は1よりも小さくなる。本計算では、光の吸収の影響を取り入れるために、光導波層20の屈折率に虚部を導入し、1から透過率および反射率の合計を引いた値をロスの大きさとして計算した。
本シミュレーションでは、基板50はSi、低屈折率層42はSiO2(厚さ267nm)、高屈折率層44はSi(厚さ108nm)であるものとした。波長λ=1.55μmの光を、角度を様々に変えて入射したときのロスの大きさを計算した。
図4Aは、光導波層20の厚さdが704nmの場合における光導波層20の屈折率nwと、モード次数m=1の光の出射角度θとの関係を計算した結果を示している。白い線はロスが大きいことを表している。図4Aに示されているように、nw=2.2付近でモード次数m=1の光の出射角度がθ=0°となる。nw=2.2に近い屈折率をもつ物質には、例えばニオブ酸リチウムがある。
図4Bは、光導波層20の厚さdが446nmの場合における光導波層20の屈折率nwと、モード次数m=1の光の出射角度θとの関係を計算した結果を示している。図4Bに示されているように、nw=3.45付近でモード次数m=1の光の出射角度がθ=0°となる。nw=3.45に近い屈折率をもつ物質には、例えばシリコン(Si)が挙げられる。
このように、光導波層20の厚さdを調整することにより、特定の光導波層20の屈折率nwに対して、特定のモード次数(例えばm=1)の光の出射角度θが0°となるように設計できる。
図4Aおよび図4Bに示すように、屈折率の変化に応じて、出射角度θが大きく変わることが確認できた。後述するように、屈折率は、例えばキャリア注入、電気光学効果、および熱光学効果などの様々な方法によって変化させることができる。そのような方法による屈折率の変化は0.1程度とあまり大きくない。そのため、これまでは、そのような小さな屈折率の変化では出射角度はそれほど大きく変化しないと考えられていた。しかし、図4Aおよび図4Bに示すように、出射角度がθ=0°となる屈折率付近では、屈折率が0.1増加すると出射角度θが0°から約30°にまで変化することがわかった。このように、本実施形態における導波路素子10では、小さい屈折率変化であっても、出射角度を大きく調整することが可能である。
同様に、図4Aおよび図4Bの比較からわかるように、光導波層20の厚さdの変化に応じて、出射角度θが大きく変わることが確認できた。後述するように、厚さdは、例えば2つのミラーの少なくとも一方に接続されたアクチュエータによって変化させることができる。厚さdの変化が小さくても、出射角度を大きく調整することができる。
このように、光導波層20の屈折率nwおよび/または厚さdを変化させることにより、導波路素子10から出射される光の方向を変えることができる。これを実現するために、本実施形態における光スキャンデバイス100は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させる第1調整素子を備える。第1調整素子の構成例については、後述する。
以上のように、導波路素子10を用いれば、光導波層20の屈折率nwおよび厚さdの少なくとも一方を変化させることで、光の出射方向を大きく変えることができる。これにより、ミラー30から出射される光の出射角度を、導波路素子10に沿った方向に変化させることができる。少なくとも1つの導波路素子10を用いることにより、このような1次元のスキャンを実現することができる。
図5は、単一の導波路素子10によって1次元スキャンを実現する光スキャンデバイス100の例を模式的に示す図である。この例では、Y方向に広がりのあるビームスポットが形成される。光導波層20の屈折率を変化させることにより、ビームスポットをX方向に沿って移動させることができる。これにより、1次元スキャンが実現される。ビームスポットがY方向に広がりをもつため、一軸方向のスキャンであっても、2次元的に拡がる比較的広いエリアをスキャンすることができる。2次元スキャンが不要な用途では、図5に示すような構成も採用し得る。
2次元スキャンを実現する場合には、図1に示すように、複数の導波路素子10が配列された導波路アレイが用いられる。複数の導波路素子10内を伝搬する光の位相が特定の条件を満たすとき、光は特定の方向に出射する。その位相の条件が変化すると、光の出射方向が導波路アレイの配列方向にも変化する。すなわち、導波路アレイを用いることにより、2次元スキャンを実現することができる。2次元スキャンを実現するためのより具体的な構成の例については後述する。
以上のように、少なくとも1つの導波路素子10を用いて、導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、光の出射方向を変化させることができる。しかし、導波路素子10に光を効率的に導入する構成については、改善の余地があった。本開示の実施形態における導波路素子10は、光の全反射を利用する一般的な導波路(以下、「全反射導波路」と称することがある。)とは異なり、光導波層が一対のミラー(例えば多層反射膜)に挟まれた導波路構造(以下、「反射型導波路」と称することがある。)を備える。このような反射型導波路への光の結合については、これまでに十分に検討されてこなかった。本発明者らは、光導波層20に光を効率的に導入するための新規な構造に想到した。
図6Aは、空気およびミラー30を介して間接的に光が入力される構成の例を模式的に示す断面図である。本例では、反射型導波路である導波路素子10の光導波層20対して、外部から空気およびミラー30を介して間接的に伝播光が導入される。光導波層20に光を導入するためには、光導波層20の内部における導波光の反射角θwに対して、スネルの法則(ninsinθin=nwsinθw)を満たす必要がある。ここで、ninは外部媒質の屈折率、θinは伝播光の入射角、nwは光導波層20の屈折率である。この条件を考慮して入射角θinを調整することにより、光の結合効率を最大化することができる。さらに、この例では、第1のミラー30の一部に多層反射膜の膜数を減らした部分が設けられている。その部分から光が入力されることで結合効率を高めることができる。しかし、このような構成では、光導波層20の伝搬定数の変化(θwavの変化)に応じて、光導波層20への光の入射角θinを変化させる必要が生じる。
光導波層20の伝搬定数の変化が生じても、光が常に導波路に結合できる状態を保つために、多層反射膜の膜数を減らした部分へ角度広がりのあるビームを入射する方法がある。そのような方法の一例として、図6Bに示すように、導波路素子10に、ミラー30の法線方向に対して角度θinだけ傾けて配置された光ファイバー7によって、外部から空気およびミラー30を介して間接的に光を入射した場合の結合効率について検討する。簡単のため光を光線として考える。通常のシングルモードファイバーの開口数(NA)は0.14程度である。これは角度に換算すると約±8度である。導波路に結合する光の入射角度の範囲は、導波路から出射される光の広がり角と同程度である。出射光の広がり角θdivは、以下の式(4)で表される。
ここでLは伝搬長、λは光の波長、θoutは光の出射角である。Lを10μm以上とすると、θdivは大きくても1度以下である。したがって、光ファイバー7からの光の結合効率は、1/16×100%(すなわち約6.3%)以下である。さらに、光の入射角θinを固定し、導波路の屈折率nwを変化させることによって光の出射角θoutを変化させたときの結合効率の変化を計算した結果を図7に示す。結合効率は、入射光のエネルギーに対する導波光のエネルギーの比を表す。図7に示す結果は、入射角θinを30°、導波路膜厚を1.125μm、波長を1.55μmとして、結合効率を計算することによって得られた。この計算では、屈折率nwを1.44~1.78の範囲で変化させることにより、出射角θoutを10°~65°の範囲で変化させた。図7に示すように、このような構成では、結合効率は最大でも7%に満たない。また、出射角θoutを、結合効率がピークになる出射角から20°以上変化させると、結合効率はさらに半分以下に低下する。
このように、光スキャンのために導波路の屈折率等を変化させることによって伝搬定数を変化させると、結合効率はさらに低下する。結合効率を維持するためには、伝搬定数の変化に応じて光の入射角θinを変化させる必要がある。しかし、光の入射角θinを変化させる機構を導入することは、装置構成の複雑化を招く。本発明者らは、屈折率または厚さを変化させる導波路を有する領域の前段に、屈折率および厚さが一定に維持される導波路を有する領域を設けることにより、光入射角を固定する事ができることを見出した。
また、異なる2つの導波路における導波光の結合を考える際に重要な要因が2点ある。1つ目は、伝搬光の伝搬定数であり、2つ目はモードの電界強度分布である。これらが2つの導波路において近いほど結合効率は高くなる。導波路における伝搬光の伝搬定数βは、簡単のため幾何光学的に考えると、β=k・sinθw=(2πnwsinθw)/λで表される。波数をk、導波角度をθw、導波層屈折率をnwとする。全反射型の導波路では、全反射を用いて導波光を導波層に閉じ込めているため、全反射条件であるnwsinθw>1を満たす。一方、スローライト導波路では、導波路の上下に存在する多層反射膜により光を導波路に閉じ込め、導波光の一部を多層反射膜越しに射出するため、nwsinθw<1となる。全反射型導波路と、導波光の一部を射出するスローライト導波路では、伝搬定数は等しくなり得ない。電界強度分布について、図93に示すような全反射導波路の電界強度分布は、図94のような、ピークを導波路内に持ち、導波路外では単調減少する。しかし、図95に示すようなスローライト導波路においては、電界強度分布は図96に示すようになる。導波路内にピークを持つ事は変わらないが、導波光が誘電多層膜内において光の干渉により反射するため、図96に示すように電界強度は誘電多層膜に深く染み出し、また振動的に変化する。以上のように、全反射型導波路とスローライト導波路では、導波光の伝搬定数、電界強度分布共に大きく異なる。よって、全反射型導波路とスローライト導波路を直接的に繋げることは考えられていなかった。本発明者らは、可変の屈折率および/または可変の厚さを有する光導波層に、直接的に全反射導波路を繋げることができることを発見した。
さらに、本発明者らは、そのような2種類の導波路を、共通の基板上に配置することにより、光スキャンデバイスの作製を容易にできることを見出した。すなわち、一体に形成された一つの基板上に2種類の導波路を配置してもよい。一般的な導波路は、半導体プロセスを用いて、基板上に作製される。例えば、蒸着またはスパッタリングなどによる成膜と、リソグラフィーまたはエッチングなどによる微細加工とを組み合わせることによって、基板の上に導波路の構造を作製するのが一般的である。基板の材料として、Si、SiO2、GaAs、GaNなどが挙げられる。
反射型導波路も、同様の半導体プロセスを用いて作製され得る。反射型導波路では、光導波層を挟む一対のミラーのうち、一方のミラーから光を透過させることよって、光を出射させる。ほとんどの場合、ミラーは、低コストで入手可能なガラス基板の上に作製される。ガラス基板の代わりに、Si、SiO2、GaAs、GaNなどの基板を用いてもよい。
反射型導波路に別の導波路を接続することによって、光を反射型導波路に導入することができる。
図8は、基板50Aの上に作製された複数の第1の導波路1と、別の基板50Bの上に作製された複数の第2の導波路10との接続を模式的に示す図である。2つの基板50A、50Bは、XY平面に平行に配置されている。複数の第1の導波路1および複数の第2の導波路10は、X方向に延び、Y方向に配列されている。第1の導波路1は、例えば、光の全反射を利用する一般的な導波路である。第2の導波路10は、反射型導波路である。別々の基板50A、50Bの上にそれぞれ配置された第1の導波路1および第2の導波路10を位置合わせして接続することによって、第1の導波路1から第2の導波路10へ光を導入することができる。
第1の導波路1から第2の導波路10へ効率よく光を導入するためには、10nmオーダーの極めて高精度の位置合わせが望まれる。また、高精度の位置合わせができたとしても、2つの基板50A、50Bの熱膨張係数が異なる場合、温度変化により、位置合わせがずれるおそれがある。例えば、Si、SiO2、GaAsおよびGaNの熱膨張係数は、それぞれおよそ4、0.5、6および5(×10―6/K)であり、ガラス基材としてよく使われるBK7の熱膨張係数は、9(×10―6/K)である。別々の基材としてどの材料を組み合わせても、1×10―6/K以上の熱膨張係数の違いが生じる。例えば、複数の第1の導波路1および複数の第2の導波路10の配列方向(図中ではY方向)における2つの基板50A、50Bのサイズが1mmである場合、1℃の温度変化によって、2つの基板50A、50Bの位置合わせは、1nmずれる。さらに、数十℃の温度変化によって、2つの基板50A、50Bの位置合わせは、数十~百nmのオーダーで大きくずれる。その結果、第1の導波路1から第2の導波路10へ効率よく光を導入することができなくなる。
本発明者らは、同じ基板の上に第1の導波路および第2の導波路を配置することにより、上記の課題を解決できることに想到した。共通の基板上にこれらの導波路を配置することにより、第1の導波路および第2の導波路の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1の導波路および第2の導波路の位置合わせのずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路へ効率よく光を導入することができる。
本開示のある態様における光スキャンデバイスは、第1の導波路と、前記第1の導波路に繋がる第2の導波路と、前記第1および第2の導波路を支持する基板とを備える。前記第2の導波路は、多層反射膜を有する第1のミラーと、前記第1のミラーの前記多層反射膜に対向する多層反射膜を有する第2のミラーと、前記第1のミラーおよび前記第2のミラーの間に位置し、前記第1の導波路に入力され前記第1の導波路を伝搬した光を伝搬させる光導波層と、を有する。前記第1のミラーは、前記第2のミラーよりも高い光透過率を有し、前記光導波層内を伝搬する光の一部を、前記光導波層の外部に出射する。光スキャンデバイスは、前記光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることによって出射光の方向を変化させる調整素子をさらに備える。
上記態様における「第2の導波路」は、前述の実施形態における「導波路素子」に相当する。本開示の実施形態では、第2の導波路の前段に、屈折率も厚さも一定に維持される第1の導波路が設けられ、第1の導波路に光が入力される。第1の導波路は、入力された光を伝搬させ、第2の導波路の端面から入力する。第1の導波路と第2の導波路とは、端面同士が直接接続されていてもよいし、例えば、端面間にギャップがあってもよい。本明細書において「第1の導波路と第2の導波路とが繋がる」とは、第1の導波路と第2の導波路との間で光の授受が可能な態様で両者が位置していることを意味する。「第1の導波路と第2の導波路とが繋がる」形態は、第1の導波路と第2の導波路とが直接接続されている(すなわち接触している)形態だけでなく、伝搬する光の波長よりも十分に短いギャップを介して両者が配置されている形態も含む。また、本開示で、AがBに「直接的に繋がる」とは、AとBの間で光の授受が可能なように、Aの何れかの部分とBの何れかの部分とがギャップなしに接触することをいう。
上記構成によれば、第1の導波路を第2の導波路(導波路素子)の前段に設けることにより、第1の導波路に入射する光の入射角を一定に維持しても、スキャンによる結合効率の低下(すなわちエネルギーのロス)を抑制することができる。
上記構成によれば、同じ基板の上に第1の導波路および第2の導波路を配置することによって、第1の導波路および第2の導波路の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1および第2の導波路の位置合わせのずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路へ効率よく光を導入することができる。
さらに、第1の導波路の前段に第3の導波路が設けられていてもよい。そのような第3の導波路は、第1の導波路に繋がり、第3の導波路を伝搬した光を、第1の導波路に入力する。ある実施形態において、第3の導波路は全反射導波路であり、第2の導波路は反射型導波路であり得る。第1および第2の導波路を支持する基板は、第3の導波路をさらに支持していてもよい。
図9は、第1のミラー30と第2のミラー40の間に位置する光導波層20の両隣に、スペーサ73が配置されている構成例を模式的に示す、YZ平面における導波路素子10の断面図である。スペーサ73の屈折率nlowは、光導波層の屈折率nwよりも低い(nlow<nw)。スペーサ73は、例えば、空気でもよい。スペーサ73は、光導波層よりも低い屈折率を有する限り、例えば、TiO2、Ta2O5、SiN、AlN、SiO2などであってもよい。
図10は、図9における導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図10の構成例では、Y方向において、第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅と同じである。第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅よりも広い場合、第1のミラー30が存在しない領域から導波光が漏れることを低減することができる。従来では、複数の反射型導波路も含め、複数の導波路素子10をアレイ化する際に、第1および第2のミラー30および40の少なくとも一方の幅を光導波層20の幅よりも長くすることにより、導波光の漏れを防ぐという発想はなかった。
光スキャンの性能を向上させるためには、導波路アレイ10Aにおける各導波路素子10を、細線化することが望ましい。この場合、導波光が漏れるという課題はより顕著になる。
導波光が漏れる理由を説明する。
図11は、光導波層20内において、導波光がX方向に伝搬することを模式的に示す図である。nw>nlowであることから、導波光は、±Y方向において全反射により閉じ込められながら、X方向に伝搬する。しかし、実際には、光導波層20のY方向における端面から外側へ染み出す、エバネッセント光が存在する。また、図2に示すように、導波光は、±Z方向において第1および第2のミラー30および40により反射されながら、全反射角θinよりも小さい角度で、X方向に伝搬する。このとき、図10に示す第1のミラー30が存在しない領域では、エバネッセント光は、反射されず、外に漏れ出る。この意図しない光ロスにより、光スキャンに用いられる光量は低下し得る。
本発明者らは、複数の導波路素子10の配列方向において、第1および第2のミラー30および40の少なくとも一方の幅を、光導波層20の幅よりも長くすることにより、上記の課題を解決できることに想到した。これにより、上記の意図しない光ロスを低減することができる。その結果、光スキャンに用いられる光量の低下は抑制される。
また、本発明者らは、光導波層20の平均屈折率がスペーサ73の平均屈折率よりも高ければ、光導波層20およびスペーサ73の各々は必ずしも一様媒質で構成されなくてもよいということを見出した。一例として、光導波層20およびスペーサ73は、共通の材料によって構成される領域を含み、光導波層20またはスペーサ73は、当該共通の材料とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの部材をさらに含んでもよい。共通の材料にコストの安い材料を用いることにより製造コストを下げることができる。
また、本発明者らは、光導波層20とスペーサ73の間に、光導波層20の平均屈折率よりも小さく、スペーサ73の平均屈折率よりも大きい平均屈折率を有する中間層がある反射型導波路を検討した。その結果、本発明者らは、当該反射型導波路では、導波モードの光ロスを低減させることができることを見出した。
本開示は、以下の項目に記載のデバイスを含む。
本開示の第1の項目に係る光スキャンデバイスは、光透過性を有する第1のミラーと、前記第1のミラーに対向する第2のミラーと、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの非導波領域であって、前記第1および第2のミラーの少なくとも一方の反射面に平行な第1の方向に間隙を空けて並ぶ2つの非導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれ且つ前記2つの非導波領域の間にある光導波領域であって、前記反射面に平行で且つ前記第1の方向に垂直な第2の方向に沿って光を伝搬させる光導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの中間領域であって、前記2つの非導波領域と前記光導波領域に挟まれた2つの中間領域と、を備える。前記光導波領域の屈折率は、少なくとも前記第1の方向に沿って一定である。各中間領域の屈折率は、前記第1の方向と、前記反射面の法線方向とに沿って変化する。各非導波領域の屈折率は、前記第1の方向と、前記反射面の法線方向とに沿って一定である。前記光導波領域の平均屈折率は、各中間領域の平均屈折率よりも高い。各中間領域の前記平均屈折率は、各非導波領域の平均屈折率よりも高い。前記第1のミラーは、前記第2のミラーよりも高い光透過率を有する。前記光導波領域内を伝搬する前記光の一部を、前記第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する第3の方向に出射する。前記光導波領域は、屈折率および/または厚さを変化させることが可能な構造を有する。前記屈折率および/または厚さが変化することにより、前記光の前記一部の出射方向である前記第3の方向が変化する。
この光スキャンデバイスでは、光導波領域と非導波領域との間に、中間領域がある。上記の条件を満たす光導波領域、非導波領域、および中間領域を備える光スキャンデバイスでは、屈折率および/または厚さが変化することにより、光の一部の出射方向である第3の方向が変化する。
本開示の第2の項目に係る光スキャンデバイスは、光透過性を有する第1のミラーと、前記第1のミラーに対向する第2のミラーと、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの非導波領域であって、前記第1および第2のミラーの少なくとも一方の反射面に平行な第1の方向に間隙を空けて並ぶ2つの非導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれ且つ前記2つの非導波領域の間にある光導波領域であって、前記反射面に平行で且つ前記第1の方向に垂直な第2の方向に沿って光を伝搬させる光導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの中間領域であって、前記2つの非導波領域と前記光導波領域に挟まれた2つの中間領域と、を備える。前記光導波領域の屈折率は、少なくとも前記第1の方向に沿って一定である。各中間領域の屈折率は、少なくとも前記第1の方向に沿って一定である。各非導波領域の屈折率は、前記第1の方向と、前記反射面の法線方向とに沿って一定である。前記光導波領域の平均屈折率は、各中間領域の平均屈折率よりも高い。各中間領域の前記平均屈折率は、各非導波領域の平均屈折率よりも高い。前記第1のミラーは、前記第2のミラーよりも高い光透過率を有する。前記光導波領域内を伝搬する前記光の一部を、前記第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する第3の方向に出射する。前記光導波領域は、屈折率および/または厚さを変化させることが可能な構造を有する。前記屈折率および/または厚さが変化することにより、前記光の前記一部の出射方向である前記第3の方向が変化する。
この光スキャンデバイスでは、光導波領域と非導波領域との間に、中間領域がある。上記の条件を満たす光導波領域、非導波領域、および中間領域を備える光スキャンデバイスでは、屈折率および/または厚さが変化することにより、光の一部の出射方向である第3の方向が変化する。
本開示の第3の項目に係る光スキャンデバイスは、第1または第2の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記屈折率および/または前記厚さを変化させる調整素子をさらに備える。
この光スキャンデバイスでは、調整素子が光導波領域の屈折率および/または厚さを変化させることにより、光の出射方向である第3の方向が変化する。
本開示の第4の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第3の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1の方向における各中間領域の幅が、1.5μm以下である。
この光スキャンデバイスでは、幅が1.5μm以下の中間領域を設けることにより、導波モードの消衰係数に、中間領域がない構成では得られない効果が現れる。
本開示の第5の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第4の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記光の波長をλとすると、前記第1の方向における各中間領域の幅が、0.4λ以上λ以下である。
この光スキャンデバイスでは、導波モードの消衰係数が、中間領域がない構成よりも、小さくなる。
本開示の第6の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第5の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記光導波領域が、1種類の屈折率を含み、各中間領域が、3種類の屈折率を含む。
この光スキャンデバイスでは、第1から第5の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスと同様の作用効果を得ることができる。
本開示の第7の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第5の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記光導波領域が、2種類の屈折率を含み、各中間領域が、3種類の屈折率を含む。
この光スキャンデバイスでは、第1から第5の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスと同様の作用効果を得ることができる。
本開示の第8の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第7の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記光導波領域、前記2つの中間領域の各々、および前記2つの非導波領域の各々が、共通の材料によって構成される領域を含み、前記光導波領域、および前記2つの中間領域の各々が、共通の部材によって構成される領域を含む。
この光スキャンデバイスでは、共通の材料にコストの安い材料を用いることにより製造コストを下げることができる。
本開示の第9の項目に係る光スキャンデバイスは、第8の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1の方向における前記光導波領域の幅が、3μm以上である。
この光スキャンデバイスでは、導波モードの電界の広がりは、光導波領域の幅より小さい。
本開示の第10の項目に係る光スキャンデバイスは、第8または第9の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1および第2の方向に垂直な方向における前記共通の部材の寸法が、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの距離の0.1倍よりも大きい。
この光スキャンデバイスでは、導波モードの電界の広がりは、光導波領域の幅よりも大きいものの、光は光導波領域内を伝搬する。
本開示の第11の項目に係る光スキャンデバイスは、第8または第9の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1および第2の方向に垂直な方向における前記共通の部材の寸法が、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの距離の0.2倍よりも大きい。
この光スキャンデバイスでは、導波モードの電界の広がりは、光導波領域の幅よりも小さい。
本開示の第12の項目に係る光スキャンデバイスは、第8から第11の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1のミラーと前記第2のミラーの間で且つ前記2つの非導波領域の外側に位置し前記第1のミラーと前記第2のミラーとの距離を固定する2つの支持部材をさらに備える。
この光スキャンデバイスでは、共通の材料として空気を用いることができる。
本開示の第13の項目に係る光スキャンデバイスは、第8から第11の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1および第2のミラーの少なくとも一方に接続されたアクチュエータを備える。前記アクチュエータは、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの距離を変化させることにより、前記光導波領域の厚さを変化させる。
この光スキャンデバイスでは、アクチュエータにより、光導波領域の厚さを変化させることができる。
本開示の第14の項目に係る光スキャンデバイスは、第13の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記アクチュエータが、圧電部材を含み、前記圧電部材を変形させることにより、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの距離を変化させる。
この光スキャンデバイスでは、第13の項目に係る光スキャンデバイスと同様の作用効果を得ることができる。
本開示の第15の項目に係る光スキャンデバイスは、第8から第12の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記共通の材料が液晶であり、前記光導波領域を間に挟む一対の電極を備える。前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記光導波領域の屈折率が変化する。
この光スキャンデバイスでは、共通の材料が液晶である。これにより、電圧印加によって光導波領域の屈折率が変化する。
本開示の第16の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第15の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記第1および第2のミラーの少なくとも一方が、多層反射膜を含む。
この光スキャンデバイスでは、第1および第2のミラーの少なくとも一方が、多層反射膜を含む。第1および第2のミラーの上記少なくとも一方により、光は、吸収なしに反射される。
本開示の第17の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第16の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記第3の方向に出射する光の波数ベクトルの、前記第2の方向の成分をX成分とするとき、前記屈折率および前記厚さの少なくとも一方を変化させることにより、前記波数ベクトルのX成分が変化する。
この光スキャンデバイスでは、屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、波数ベクトルのX成分が変化する。
本開示の第18の項目に係る光スキャンデバイスは、第1から第17の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスにおいて、前記光導波領域を含む複数の光導波領域と、前記2つの非導波領域を含む複数の非導波領域と、前記2つの中間領域を含む複数の中間領域と、を備える。前記複数の光導波領域の各々の平均屈折率は、前記複数の中間領域の各々の平均屈折率よりも高い。前記複数の中間領域の各々の平均屈折率は、前記複数の非導波領域の各々の平均屈折率よりも高い。前記複数の光導波領域および前記複数の非導波領域は、前記第1のミラーと前記第2のミラーの間において、前記複数の中間領域の各々を介して前記第1の方向に交互に並ぶ。
この光スキャンデバイスでは、複数の光導波領域、複数の非導波領域、および複数の中間領域がアレイ化されている。これにより、2次元における光スキャンが可能になる。
本開示の第19の項目に係る光スキャンデバイスは、第18の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記複数の光導波領域にそれぞれ接続された複数の位相シフタであって、それぞれが、前記複数の光導波領域の対応する1つにおける前記光導波領域に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む複数の位相シフタをさらに備える。前記複数の位相シフタから前記複数の光導波領域へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、前記複数の光導波領域から出射される光の前記第3の方向が変化する。
この光スキャンデバイスでは、複数の位相シフタから複数の光導波領域へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、複数の光導波領域から出射される光の第3の方向が変化する。
本開示の第20の項目に係る光スキャンデバイスは、第19の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、各位相シフタにおける前記導波路が、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含む。各位相シフタにおける前記導波路に電圧を印加する、または前記導波路の温度を変化させることにより、前記導波路内の屈折率が変化し、前記複数の位相シフタから前記複数の光導波領域に伝搬する光の位相の差がそれぞれ変化する。
この光スキャンデバイスでは、第19の項目のいずれかに係る光スキャンデバイスと同様の作用効果を得ることができる。
本開示の第21の項目に係る光スキャンデバイスは、第19または第20の項目に係る光スキャンデバイスにおいて、前記第3の方向に出射する光の波数ベクトルの、前記第1の方向の成分をY成分とするとき、各位相シフタにおける前記導波路に電圧を印加する、または前記導波路の温度を変化させることにより、前記波数ベクトルのY成分が変化する。
この光スキャンデバイスでは、各位相シフタにおける導波路に電圧を印加する、または導波路の温度を変化させることにより、波数ベクトルのY成分が変化する。
本開示の第22の項目に係る光受信デバイスは、光透過性を有する第1のミラーと、前記第1のミラーに対向する第2のミラーと、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの非導波領域であって、前記第1および第2のミラーの少なくとも一方の反射面に平行な第1の方向に間隙を空けて並ぶ2つの非導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれ且つ前記2つの非導波領域の間にある光導波領域であって、前記反射面に平行で且つ前記第1の方向に垂直な第2の方向に沿って光を伝搬させる光導波領域と、前記第1のミラーと前記第2のミラーに挟まれた2つの中間領域であって、前記2つの非導波領域と前記光導波領域に挟まれた2つの中間領域と、を備える。前記光導波領域の屈折率は、少なくとも前記第1の方向に沿って一定である。各中間領域の屈折率は、前記第1の方向と、前記反射面の法線方向に沿って変化する。各非導波領域の屈折率は、前記第1の方向と、前記反射面の法線方向とに沿って一定である。前記光導波領域の平均屈折率は、各中間領域の平均屈折率よりも高い。各中間領域の前記平均屈折率は、各非導波領域の平均屈折率よりも高い。前記第1のミラーは、前記第2のミラーよりも高い光透過率を有する。前記光導波領域は、前記第1および第2の方向によって形成される平面に交差する第3の方向から前記第1のミラーを介して前記光導波領域に入射した光を前記第2の方向に伝搬させる。前記光導波領域は、屈折率および/または厚さを変化させることが可能な構造を有し、前記屈折率および/または厚さが変化することにより、受信可能な光の方向である前記第3の方向が変化する。
この光受信デバイスでは、光導波領域と非導波領域との間に中間領域がある。上記の条件を満たす光導波領域、非導波領域、および中間領域を備える光受信デバイスでは、屈折率および/または厚さが変化することにより、受信可能な光の方向である第3の方向が変化する。
本開示の第23の項目に係る光受信デバイスは、第22の項目に係る光受信デバイスにおいて、前記光導波領域を含む複数の光導波領域と、前記2つの非導波領域を含む複数の非導波領域と、前記2つの中間領域を含む複数の中間領域と、を備える。前記複数の光導波領域の各々の平均屈折率は、前記複数の中間領域の各々の平均屈折率よりも高い。前記複数の中間領域の各々の平均屈折率は、前記複数の非導波領域の各々の平均屈折率よりも高い。前記複数の光導波領域および前記複数の非導波領域は、前記第1および第2のミラーの間において、前記複数の中間領域の各々を介して前記第1の方向に交互に並ぶ。
この光受信デバイスでは、複数の光導波領域、複数の非導波領域、および複数の中間領域がアレイ化されている。これにより、2次元における光受信が可能になる。
本開示の第24の項目に係る光受信デバイスは、第23の項目に係る光受信デバイスにおいて、前記複数の光導波領域にそれぞれ接続された複数の位相シフタであって、それぞれが、前記複数の光導波領域の対応する1つにおける前記光導波領域に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む複数の位相シフタをさらに備える。前記複数の光導波領域から前記複数の位相シフタを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、受信可能な光の方向である前記第3の方向が変化する。
この光受信デバイスでは、複数の位相シフタを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、受信可能な光の方向である第3の方向が変化する。
本開示の第25の項目に係る光検出システムは、第1から第21の項目のいずれかに記載の光スキャンデバイスと、前記光スキャンデバイスから出射され、対象物から反射された光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて、前記対象物の距離分布データを生成する信号処理回路と、を備える。
この光検出システムでは、光スキャンデバイスから出射され、対象物から反射された光を検出することにより、対象物の距離分布データを生成することができる。
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nm~約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nm~約400nm)および赤外線(波長が約700nm~約1mm)を含む電磁波を意味する。本明細書において、紫外線を「紫外光」と称し、赤外線を「赤外光」と称することがある。
本開示において、光による「スキャン」とは、光の方向を変化させることを意味する。「1次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する方向に沿って直線的に変化させることを意味する。「2次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する平面に沿って2次元的に変化させることを意味する。
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
(実施形態)
図12は、本開示の例示的な実施形態における光スキャンデバイスの構造の一部を模式的に示す断面図である。この光スキャンデバイスは、第1の導波路1と、第1の導波路に繋がる第2の導波路(導波路素子)10とを備える。第2の導波路10は、多層反射膜を有する第1のミラー30と、第1のミラー30の多層反射膜に対向する多層反射膜を有する第2のミラー40と、第1のミラー30および第2のミラー40の間に位置する光導波層20とを有する。光導波層20は、第1の導波路1に入力され第1の導波路1を伝搬した光を伝搬させる。光導波層20は、第1の導波路1の導波方向と同じ方向に光を伝搬させる。第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い光透過率を有し、光導波層20内を伝搬する光の一部を、光導波層20の外部に出射する。図12には示されていないが、光スキャンデバイス100は、光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させる調整素子をさらに備える。光導波層20は、例えば、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含む。調整素子は、光導波層20に電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させることで、第2の導波路10から出射される光の方向を変化させる。
第1の導波路1は、対向する2つの多層反射膜3、4と、2つの多層反射膜3、4に挟まれた光導波層2とを有する。第1の導波路1における多層反射膜3、4は、導波光をロスなく伝えるために、第2の導波路10における光出射側の多層反射膜(すなわち、第1のミラー30)よりも高い反射率(すなわち、低い透過率)をもつことが望ましい。よって、多層反射膜3、4の膜厚は、第1のミラー30における膜厚よりも大きいことが望ましい。第1の導波路1の屈折率、すなわち、第1の導波路1における光導波層2の屈折率は、変化しない又は光導波層20の屈折率と異なる量変化する。また、光導波層2の厚さは、変化しない又は光導波層20の厚さと異なる量変化する。第1の導波路1は、第2の導波路10における光導波層20に直接的に繋がっている。例えば、第1の導波路1における光導波層2の端面は、第2の導波路10における光導波層20の端面に接続されている。この例における多層反射膜3は、隣接する部位よりも膜厚が薄い(すなわち反射率が低い)箇所3aを有する。この箇所3a(「光入力部3a」とも称する。)から光が入力される。このように反射率の低い領域から光を入力することにより、効率よく光導波層2に光を導入することができる。光導波層2は、光入力部3aに入射した光を伝搬させ、第2の導波路10における光導波層20の端面に入力する。これにより、光導波層2から光導波層20へ光を伝搬させ、ミラー30から出射することができる。
第2の導波路10においては、光を出射する必要があることから、第1のミラー30の多層反射膜の反射率は、第2のミラー40の多層反射膜の反射率よりも低い。第1の導波路1においては、光を出射させないようにするために、多層反射膜3、4の反射率が、第2のミラー40の反射率と同程度の大きさに設計されている。
このような構造により、光スキャンデバイスは、後述するように、光を効率よく第2の導波路10から出射することができる。
図13は、光スキャンデバイスの構造の他の例を模式的に示す断面図である。この例では、第1の導波路1が、多層反射膜3、4を有していない。第1の導波路1は、全反射によって光を伝搬させる。第1の導波路1は、表面の一部にグレーティング5を有している。グレーティング5を介して光が入力される。この例では、グレーティング5が設けられている箇所が、光入力部として機能する。グレーティング5を設けることにより、光を第1の導波路1内に導入することが容易になる。この例のように多層反射膜3、4がない場合は、導波角度θw1が全反射条件を満たすように設計される。この場合も、第1の導波路1の屈折率は、変化しない又は光導波層20と異なる量変化する。また、第1の導波路1の厚さ、すなわち、光導波層2の厚さは、変化しない又は光導波層20の厚さと異なる量変化する。また、第1の導波路1は、第2の導波路10における光導波層20に直接的に繋がっている。また、光導波層20は、第1の導波路1の導波方向と同じ方向に光を伝搬させる。
図14は、光スキャンデバイスの構造のさらに他の例を模式的に示す断面図である。この例における光スキャンデバイスは、第1の導波路1に繋がる第3の導波路1’をさらに備えている。第1の導波路1は、反射型導波路であり、対向する2つの多層反射膜3、4と、その間の光導波層2とを有する。一方、第3の導波路1’は、全反射によって光を伝搬させる全反射導波路である。第3の導波路1’の屈折率は、変化しない又は光導波層20と異なる量変化する。また、第3の導波路1’の厚さ、すなわち、光導波層2’の厚さは、変化しない又は光導波層20の厚さと異なる量変化する。また、第3の導波路1’は、第1の導波路1における光導波層2に直接的に繋がっている。また、光導波層20は、第3の導波路1’の導波方向と同じ方向に光を伝搬させる。第3の導波路1’は、図13の例における第1の導波路1と同様、表面の一部にグレーティング5’を有している。グレーティング5’を介して光源からの光が第3の導波路1’内に入力される。この例では、グレーティング5’が設けられている箇所が光入力部として機能する。第2の導波路10における光導波層20は、不図示の調整素子(例えば、変調素子)によって屈折率または厚さが変調される。一方、第1の導波路1については、そのような変調機能はない。第1の導波路1からの光の出射を抑えるために、第1の導波路1の反射ミラー(例えば、多層反射膜3、4)の反射率は、第2の導波路10の第1のミラー30の反射率よりも高く設定されている。第2の導波路10における第1のミラー30の反射率は、第2のミラー40の反射率よりも低く設定されている。このような構成により、第3の導波路1’に入力された光は、第3の導波路1’および第1の導波路1を伝搬して第2の導波路10に入力される。当該光は、第2の導波路10の光導波層20をさらに伝搬しながら、第1のミラー30を介して外部に出射される。
図15および図16Aから図16Cは、第1の導波路1に光が入力される構成において、第1の導波路1への光の入力方法の例を示す図である。図15は、図12に示す例のように、2つの多層反射膜で挟まれた光導波層2への光の入射の一例を示している。図示されるように、多層反射膜の膜厚の薄い箇所(すなわち、反射率の低い箇所)3aに光を入射することにより、効率よく光を光導波層2に導入することができる。図16Aは、図13に示す例のように、第1の導波路1の表面に設けられたグレーティング5を介して第1の導波路1に光が導入される例を示している。図16Bは、第1の導波路1の端面から光が入力される例を示している。図16Cは、第1の導波路1の表面に設けられたレーザー光源6から、当該表面を介して光が入力される例を示している。図16Cのような構成は、例えば、M. Lamponi et al., “Low-Threshold Heterogeneously Integrated InP/SOI Lasers With a Double Adiabatic Taper Coupler”, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 24, NO. 1, JANUARY 1, 2012, pp 76-78.に開示されている。この文献の開示内容全体を本願明細書に援用する。以上の構成によれば、効率よく光を導波路1に入射させることができる。
図15から図16Cに示す光の入力方法は、いずれも、図14に示す第3の導波路1’を用いる構成においても適用できる。図14に示す例では、第3の導波路1’の表面の一部にグレーティング5’が設けられているが、グレーティング5’が設けられていなくてもよい。例えば図16Bまたは図16Cに示す光の入力方法を第3の導波路1’に適用することができる。図16Bに示す光の入力方法を第3の導波路1’に適用する場合、第3の導波路1’は、第3の導波路1’の端面から入射した光を伝搬させ、第1の導波路1の端面に入力する。図16Cに示す光の入力方法を第3の導波路1’に適用する場合、第3の導波路1’の表面に設けられたレーザー光源から、当該表面を介して光が入力される。第3の導波路1’は、入力された光を伝搬させ、第1の導波路1の端面に入力する。また、第3の導波路1’が全反射導波路である必要はなく、図15に示すような反射型導波路であってもよい。
図12および図13に示すように、第1の導波路1の光導波層2の屈折率をnw1、第2の導波路10の光導波層20の屈折率をnw2、第2の導波路10からの光の出射角をθ、第1の導波路1における導波光の反射角をθw1、第2の導波路10における導波光の反射角をθw2とする。また、図14に示すように、第3の導波路1’における光導波層2’の屈折率をnw3、第3の導波路1’における導波光の反射角をθw3とする。本実施形態では、第2の導波路10から光を外部(例えば、屈折率が1の空気層)に取り出すために、nw2sinθw2=sinθ<1が満足される。
<導波光結合の原理>
以下、図12および図13を参照しながら、導波路1、10間の導波光の結合の原理を説明する。簡単のため、導波路1、10内を伝搬する光を近似的に光線であると考える。導波路10の上下の多層反射膜と光導波層20との界面、および導波路1の上下の多層反射膜と光導波層2との界面(または、光導波層2と外部媒質との界面)で、光が完全に反射されると仮定する。第1の導波路1における光導波層2の厚さをd1、第2の導波路10における光導波層20の厚さをd2とする。導波路1、10のそれぞれにおいて、伝播光が存在する条件は、以下の式(5)、(6)で表される。
2d1nw1cosθw1=mλ (5)
2d2nw2cosθw2=mλ (6)
ここで、λは光の波長、mは1以上の整数である。
導波路1、10の界面について、スネルの法則を考慮すると、式(7)が成立する。
nw1sin(90°-θw1)=nw2sin(90°-θw2) (7)
式(7)を変形すると、次の式(8)が得られる。
nw1cosθw1=nw2cosθw2 (8)
式(5)および(8)が成立するとき、d1とd2とが等しい場合には、nw2が変化した場合においても式(6)は成立する。つまり、光導波層20の屈折率が変化した場合においても、光導波層2から光導波層20に光が効率よく伝搬するということとなる。
上式の導出に際しては簡単のため光を光線として考えたが、実際には厚さd1、d2が波長λと同程度(長くとも波長の10倍以下)であるため、導波光は波動性を有する。したがって、厳密には、上記の屈折率nw1、nw2として、光導波層2、20の材料の屈折率ではなく、有効屈折率を考慮する必要がある。また、光導波層2の厚さd1と光導波層20の厚さd2とが同一ではない場合、または厳密に式(8)を満たしていない場合においても光は光導波層2から光導波層20へ導波され得る。これは、光導波層2から光導波層20への光の伝達が近接場を通じて行われるからである。すなわち、光導波層2の電場分布と光導波層20における電場分布の重なりがあれば、光導波層2から光導波層20へ光が伝達される。
以上の議論は、図14に示す例における第3の導波路1’と第1の導波路1との間の導波光についても同様に成立する。
<計算結果>
本実施形態の効果を確認するため、本発明者らは、条件を様々に変えて、光の結合効率を計算した。計算には、Photon Design社のFIMMWAVEを用いた。
まず、図12に示すように、導波路1、10共に多層反射膜に挟まれている構成について、結合効率を計算した。以下の計算では、導波路1から導波路10に伝搬する光のモードの次数は、m=2であるが、導波路1と導波路10の光のモードの次数が同じであれば、同様の原理により光は結合する。このため、光のモードの次数はm=2に限らない。
図17は、nw1を1.45、d1を1.27μm、波長λを1.55μmとした場合の導波路1から導波路10への導波光の結合効率のd2依存性を示している。横軸は、d2を、導波光を光線と仮定した場合のカットオフ膜厚dcutoff(=mλ/(2nw2))で割った値である。縦軸は、ピーク値を1として規格化された結合効率である。計算は、導波光が存在できなくなるカットオフ条件を満たす下限値から、光が外部に射出される上限値まで行った。また、nw2が1.3、1.6、1.9、2.2、2.5のそれぞれの場合について計算を行った。第1の導波路1における厚さ方向の中心と、第2の導波路10における厚さ方向の中心とは同一とした。図17に示す結果から、d2/dcutoffが大きいほど結合効率が高くなることがわかる。d2/dcutoffが小さくなるに従い、モードが存在できなくなり、結合効率は低下する。
図18は、nw1を3.48、d1を0.5μmに変更して同様の方法で行った計算の結果を示している。この場合も、導波路1から導波路10に伝搬する光のモードの次数は、m=2であるが、前述のとおり光のモードの次数はm=2に限らない。図18からわかるように、d2/dcutoffが大きいほど結合効率が高く、d2/dcutoffが小さくなるに従い、モードが存在できなくなり、結合効率は低下する。
図17および図18において、d2/dcutoffが1よりも低い値においてもモードが存在している(すなわち導波光が結合している)のは、多層反射膜によって反射される際の光の染み出しに起因して、光導波層2の有効厚さがd2よりも厚くなるからである。d2の上限については、光が外部に出射しなくなる値である。この値は、導波光を光線として考え、各導波路の上下の多層反射膜が光を導波路との界面において完全に反射させると仮定すると、導波光の反射角が大気に対し全反射角度になるときのd2である。このとき、次の式(9)が満たされる。
nw2sinθw2=1 (9)
式(6)、式(9)、およびdcutoff=mλ/(2nw2)より、次の式(10)が成立する。
d2/dcutoff=nw2/√(nw2
2-1) (10)
多層反射膜で反射される際の光の染み出しに起因して、導波光の有効屈折率がnw2よりも低くなる。そのため、式(6)よりもd2の上限値は大きくなる。
本実施形態の構成において、図6Bに示す構成よりも結合効率が高くなることが望ましい。例えば図17および図18の結果より、以下の式が満たされることにより、結合効率が図7に示すピーク値よりも高い7%以上であるという条件が満たされる。
0.95×dcutoff<d2<1.5×dcutoff
(0.95×mλ/(2nw2)<d2<1.5×mλ/(2nw2))
図19は、横軸をd2/dcutoff、縦軸を屈折率比(|nw1-nw2|/nw1)とし、結合効率が0.5以上になる場合と、結合効率が0.5未満になる場合とを分類した図である。例えば、屈折率比が0.4よりも小さく、かつ、以下の式が満たされることにより、結合効率が0.5(50%)以上という条件が満たされる。
0.95×dcutoff<d2<1.5×dcutoff
本実施形態においては、第1の導波路1の屈折率nw1は、第2の導波路10の屈折率nw2よりも大きい(nw1>nw2)。しかし、本開示はこのような構成に限定されず、nw1≦nw2であってもよい。
図20は、第1の導波路1における光導波層2の厚さ方向の中心と、第2の導波路10における光導波層20の厚さ方向の中心とがΔzだけずれた構成を示す図である。Δzの正負は、図20に示すように、第2の導波路10の光導波層20の厚さ方向の中心線が、第1の導波路1の光導波層2の厚さ方向の中心線よりも光放射側(すなわち、第1のミラー30の側)にあるときを正とする。第1の導波路1の光導波層2の厚さd1と第2の導波路10の光導波層20の厚さd2との差の絶対値をΔdとする。Δz=Δd/2のとき、導波路1の光導波層2の下部(すなわち、光放射側とは反対の側)と導波路10の光導波層20の下部のZ方向の位置が一致する。
図21は、第1の導波路1から第2の導波路10への光の結合効率のΔz依存性を示す図である。図21の結果は、nw1を2.2、波長λを1.55μm、nw2を2.2、Δdを0.12μmとして、Δzを変えて結合効率を計算することによって得られた。図21に示す結合効率は、Δz=0の場合の値で規格化されている。光導波層2、20の厚さ方向の中心線がZ方向にずれている場合、結合効率はΔzがゼロ(0)の場合よりも低くなる。しかし、-Δd/2<Δz<Δd/2の場合には、Δzが0の場合の結合効率の90%以上になり、比較的高い結合効率を維持できる。
図13に示す例のように、第1の導波路1が全反射によって光を導波する構成についても、基本的な原理は同じであり、導波路1、10を伝搬する導波光は互いに結合し得る。図13に示す構成についても、第1の導波路1から第2の導波路10への導波光の結合効率のd2依存性を計算によって求めた。図22Aは、nw1を2.2、d1を0.7μm、波長λを1.55μmとした場合における結合効率のd2依存性を示している。図22Bは、nw1を3.48、d1を0.46μm、波長λを1.55μmとした場合における結合効率のd2依存性を示している。例えば、以下の式が満たされることにより、結合効率が7%以上になるという条件が満たされる。
0.95×dcutoff<d 2 <1.5×dcutoff
(すなわち、0.95×mλ/(2nw2)<d 2 <1.5×mλ/(2nw2))
また、例えば、以下の式が満たされることにより、結合効率が50%以上という条件が満たされる。
1.2×dcutoff<d 2 <1.5×dcutoff
(すなわち、1.2×mλ/(2nw2)<d 2 <1.5×mλ/(2nw2))
図13の構成においても、nw1>nw2でもよいし、nw1≦nw2でもよい。
上述した通り、導波路1から導波路10に伝搬する光のモードの次数はm=2に限定されない。例えば、nw1=1.883、d1=0.3μm、nw2=1.6、d2=0.55μmの条件で、図23Aの様なモデルを用いて計算すると、図23Bに示すように、光が導波路に結合することがわかる。
次に、第1の導波路1と第2の導波路10との間にギャップがある場合を検討する。
図24Aは、本実施形態の変形例を示す断面図である。この例では、第2の導波路10における光導波層20は、ギャップ(例えば空隙)を介して第1の導波路1に繋がっている。このように、第1の導波路1と第2の導波路10との間にギャップが存在する場合であっても、導波モードの近接場を介して光が結合するため、ギャップ幅(X方向の幅)が波長λに比べて十分小さければ、導波光は導波路1、10の間で結合する。これは、図6Aまたは図6Bのように、自由空間における伝播光から導波モードへと結合させる方法とは異なる。
図24Bは、結合効率のギャップ幅依存性の計算結果を示す図である。図24Bにおける結合効率は、ギャップが0μmのときの値を1として規格化された値である。計算では、nw1を3.48、nw2を1.5、d1を0.9μm、d2を1.1μm、ギャップの屈折率を1、波長λを1.55μmとした。図24Bより、規格化された結合効率が50%以上になるのは、ギャップが0.24μm以下の場合である。ギャップが空気以外の媒質である場合、および波長λが1.55μmとは異なる場合を考慮すると、ギャップの光学長(ギャップの屈折率とギャップ幅との積)がλ/6.5以下であれば、規格化された結合効率が50%以上になる。このギャップの光学長は、導波路1、10のパラメータには依存しない。
図14に示す例のように、第1の導波路1に、第3の導波路1’から光が入力される形態でも同様に、第3の導波路1’の端面と第1の導波路1の端面との間にギャップがあってもよい。前述のとおり、ギャップの光学長(ギャップの屈折率とギャップ幅との積)は、例えばλ/6.5以下に設定される。
次に、本実施形態における第1の導波路1および第2の導波路10の組み合わせ(本明細書において、「導波路ユニット」と称する。)を複数組用いて、2次元的な光のスキャンを実現する構成を説明する。2次元スキャンを実行可能な光スキャンデバイスは、第1の方向に配列された複数の導波路ユニットと、各導波路ユニットを制御する調整素子(例えばアクチュエータおよび制御回路の組み合わせ)を備える。調整素子は、各導波路ユニットにおける第2の導波路10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させる。これにより、各第2の導波路10から出射される光の方向を変化させることができる。また、複数の導波路ユニットにおける第2の導波路10に、適切に位相差が調整された光が入力されることにより、図1を参照して説明したように、光の2次元スキャンが可能となる。以下、2次元スキャンを実現するための実施形態をより詳細に説明する。
<2次元スキャンの動作原理>
複数の導波路素子(すなわち、第2の導波路)10が一方向に配列された導波路アレイにおいて、それぞれの導波路素子10から出射される光の干渉により、光の出射方向は変化する。各導波路素子10に供給する光の位相を調整することにより、光の出射方向を変化させることができる。以下、その原理を説明する。
図25Aは、導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図25Aには、各導波路素子10を伝搬する光の位相シフト量も記載されている。ここで、位相シフト量は、左端の導波路素子10を伝搬する光の位相を基準にした値である。本実施形態における導波路アレイは、等間隔に配列された複数の導波路素子10を含んでいる。図25Aにおいて、破線の円弧は、各導波路素子10から出射される光の波面を示している。直線は、光の干渉によって形成される波面を示している。矢印は、導波路アレイから出射される光の方向(なわち、波数ベクトルの方向)を示している。図25Aの例では、各導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相はいずれも同じである。この場合、光は導波路素子10の配列方向(Y方向)および光導波層20が延びる方向(X方向)の両方に垂直な方向(Z方向)に出射される。
図25Bは、導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。図25Bの例では、複数の導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相が、配列方向に一定量(Δφ)ずつ異なっている。この場合、光は、Z方向とは異なる方向に出射される。このΔφを変化させることにより、光の波数ベクトルのY方向の成分を変化させることができる。
導波路アレイから外部(ここでは空気とする。)へ出射される光の方向は、以下のように定量的に議論できる。
図26は、3次元空間における導波路アレイを模式的に示す斜視図である。互いに直交するX、YおよびZ方向で定義される3次元空間において、光が空気に出射される領域と、導波路アレイとの境界面をZ=z0とする。この境界面は、複数の導波路素子10のそれぞれの出射面を含む。Z<z0では、Y方向に複数の導波路素子10が等間隔に配列され、複数の導波路素子10のそれぞれはX方向に延びている。Z>z0において、空気へ出射される光の電界ベクトルE(x、y、z)は、以下の式(11)で表される。
ただしE0は電界の振幅ベクトルであり、kx、kyおよびkzはそれぞれX、YおよびZ方向における波数(wave number)であり、jは虚数単位である。この場合、空気へ出射される光の方向は、図26において太い矢印で表される波数ベクトル(kx、ky、kz)に平行となる。波数ベクトルの大きさは、以下の式(12)で表される。
Z=z0における電界の境界条件から、境界面に平行な波数ベクトル成分kxおよびkyは、それぞれ導波路アレイにおける光のX方向およびY方向における波数に一致する。これは、式(2)のスネルの法則と同様に、境界面において、空気側の光が有する面方向の波長と、導波路アレイ側の光が有する面方向の波長とが一致する条件に相当する。
kxは、X方向に延びた導波路素子10の光導波層20を伝搬する光の波数に等しい。上述した図2に示される導波路素子10では、kxは、式(2)および式(3)を用いて、以下の式(13)で表される。
kyは、隣接する2つの導波路素子10の間の光の位相差から導出される。Y方向に等間隔に配列されたN本の導波路素子10のそれぞれのY方向の中心をyq(q=0、1、2、・・・、N-1)とし、隣接する2つの導波路素子10の間の距離(中心間距離)をpとする。そのとき、空気へ出射される光の電界ベクトル(式(11))は、境界面内(Z=z0)のyqおよびyq+1において、以下の式(14)の関係を満たす。
任意の隣接する2つの導波路素子10の位相差がΔφ=kyp(一定)となるように設定すれば、kyは、以下の式(15)の関係を満たす。
この場合、yqにおける光の位相はφq=φ0+qΔφとなる(φq+1-φq=Δφ)。つまり、位相φqは、Y方向に沿って、一定(Δφ=0)か、比例して増加(Δφ>0)または減少(Δφ<0)する。Y方向に配列された導波路素子10が等間隔でない場合は、例えば、所望のkyに対して、yqおよびyq+1での位相差がΔφq=φq+1-φq=ky(yq+1-yq)となるように設定する。この場合、yqにおける光の位相はφq=φ0+ky(yq-y0)となる。式(14)および式(15)からそれぞれ得られるkxおよびkyを用いれば、式(12)からkzが導出される。これにより、光の出射方向(すなわち、波数ベクトルの方向)が得られる。
例えば、図26に示すように、出射光の波数ベクトル(kx、ky、kz)と、その波数ベクトルをYZ平面に射影したベクトル(0、ky、kz)とがなす角度をθとする。θは、波数ベクトルとYZ平面とがなす角度である。θは、式(12)および式(13)を用いて、以下の式(16)で表される。
式(16)は、出射光がXZ平面に平行な場合に限定したときの式(3)と全く同じである。式(16)からわかるように、波数ベクトルのX成分は、光の波長、光導波層20の屈折率、および光導波層20の厚さに依存して変化する。
同様に、図26に示すように、出射光(0次光)の波数ベクトル(kx、ky、kz)と、その波数ベクトルをXZ平面に射影したベクトル(kx、0、kz)とがなす角度をα0とする。α0は、波数ベクトルとXZ平面とがなす角度である。α0は、式(12)および式(13)を用いて、以下の式(17)で表される。
式(17)からわかるように、光の波数ベクトルのY成分は、光の位相差Δφによって変化する。
このように、波数ベクトル(kx、ky、kz)の代わりに、式(16)および式(17)からそれぞれ得られるθおよびα0を用いて光の出射方向を特定することもできる。その場合、光の出射方向を表す単位ベクトルは、(sinθ、sinα0、(1-sin2α0-sin2θ)1/2)と表すことができる。光出射においてこれらのベクトル成分はすべて実数でなければならないので、sin2α0+sin2θ≦1が満たされる。sin2α0≦1-sin2θ=cos2θから、出射光は-cosθ≦sinα0≦cosθを満たす角度範囲で変化することがわかる。-1≦sinα0≦1から、θ=0oでは、出射光は-90o≦α0≦90oの角度範囲で変化する。しかし、θが増加するとcosθは小さくなるので、α0の角度範囲は狭くなる。θ=90o(cosθ=0)では、α0=0oのときのみしか光は出射されない。
本実施形態における光による2次元スキャンは、導波路素子10が少なくとも2本あれば実現できる。しかし、導波路素子10の本数が少ない場合、上記のα0の広がり角度Δαが大きくなる。導波路素子10の本数が増加するとΔαは小さくなる。このことは、以下のようにして説明できる。簡単のために、図26においてθ=0oの場合を考える。つまり、光の出射方向がYZ平面に平行な場合を考える。
N本(Nは2以上の整数)の導波路素子10のそれぞれから、同じ出射強度および上述した位相φqを有する光が出射されるとする。そのとき、N本の導波路素子10から出射される合計の光(電界)の振幅分布の絶対値は、遠視野において、以下の式(18)で表されるF(u)に比例する。
ただし、uは以下の式(19)で表される。
αは、YZ平面において、観測点および原点を結ぶ直線と、Z軸とがなす角度である。α0は、式(17)を満たす。式(18)のF(u)は、u=0(α=α0)でN(最大)となり、u=±2π/Nで0となる。u=-2π/Nおよび2π/Nを満たす角度をそれぞれα1およびα2とすると(α1<α0<α2)、α0の広がり角度はΔα=α2-α1となる。-2π/N<u<2π/N(α1<α<α2)の範囲のピークは、一般にメインローブと呼ばれる。メインローブの両側にはサイドローブと呼ばれる複数の小さいピークが存在する。メインローブの幅Δu=4π/Nと、式(19)から得られるΔu=2πpΔ(sinα)/λとを比較すると、Δ(sinα)=2λ/(Np)となる。Δαが小さければ、Δ(sinα)=sinα2-sinα1=[(sinα2-sinα1)/(α2-α1)]Δα≒[d(sinα)/dα]α=α0Δα=cosα0Δαとなる。このため、広がり角度は、以下の式(20)で表される。
したがって、導波路素子10の本数が多いほど、広がり角度Δαを小さくすることができ、遠方においても高精細な光スキャンが実現できる。同様の議論は、図26においてθ≠0oの場合にも適用できる。
<導波路アレイから出射される回折光>
導波路アレイからは0次光のほかに高次の回折光も出射され得る。簡単のために、図26においてθ=0oの場合を考える。つまり、回折光の出射方向はYZ平面に平行である。
図27Aは、pがλよりも大きい場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトがなければ(α0=0o)、図27Aに示す実線矢印の方向に0次光および±1次光が出射される(pの大きさによっては、さらに高次の回折光も出射され得る)。この状態から位相シフトを与えると(α0≠0o)、図27Aに示す破線矢印のように、0次光および±1次光の出射角度が同じ回転方向に変化する。±1次光のような高次光を用いてビームスキャンを行うことも可能であるが、よりシンプルにデバイスを構成する場合、0次光のみが用いられる。0次光の利得が低減することを回避するために、隣接する2つの導波路素子10の間の距離pをλよりも小さくすることによって高次光の出射を抑制してもよい。p>λであっても、高次光を物理的に遮断することによって0次光のみを用いることも可能である。
図27Bは、pがλよりも小さい場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトがなければ(α0=0o)、高次の回折光は、回折角度が90度を超えるため存在せず、前方には0次光だけが出射する。ただし、pがλに近い値の場合、位相シフトを与えると(α0≠0o)、出射角度の変化に伴って±1次光が出射される場合がある。
図27Cは、p≒λ/2の場合において、導波路アレイから回折光が出射される様子を示す模式図である。この場合、位相シフトを与えても(α0≠0o)±1次光は出射しない、あるいは出射したとしてもかなり大きな角度で出射する。p<λ/2の場合は、位相シフトを与えても高次の光が出射することはない。しかし、pをこれ以上小さくすることによるメリットも特にない。よって、pは、例えばλ/2以上に設定され得る。
図27Aから図27Cにおける空気へ出射される0次光および±1次光の関係は、以下のように定量的に説明できる。式(18)のF(u)は、F(u)=F(u+2π)であることから、2πの周期関数である。u=±2mπのとき、F(u)=N(最大)となる。そのとき、u=±2mπを満たす出射角度αで±m次光が出射される。u=±2mπ(m≠0)付近のピーク(ピーク幅はΔu=4π/N)をグレーティングローブと呼ぶ。
高次光のうち、±1次光のみを考えると(u=±2π)、±1次光の出射角度α±は、以下の式(21)を満たす。
+1次光が出射されない条件sinα+>1から、p<λ/(1―sinα0)が得られる。同様に、-1次光が出射されない条件sinα-<-1から、p<λ/(1+sinα0)が得られる。
出射角度α0(>0)の0次光に対して±1次光が出射されるか否かの条件は、以下のように分類される。p≧λ/(1―sinα0)の場合、±1次光の両方が出射される。λ/(1+sinα0)≦p<λ/(1―sinα0)の場合、+1次光は出射されないが-1次光は出射される。p<λ/(1+sinα0)の場合、±1次光はいずれも出射されない。特に、p<λ/(1+sinα0)を満たせば、図26においてθ≠0oの場合でも±1次光は出射されない。例えば、±1次光が出射されない場合において片側10度以上のスキャンを達成するために、α0=10°とし、pは、p≦λ/(1+sin10°)≒0.85λの関係を満たす。例えば、この式と、pに関する前述の下限についての条件とを組み合わせれば、pは、λ/2≦p≦λ/(1+sin10°)を満たす。
しかし、±1次光が出射されない条件を満たすためには、pを非常に小さくする必要がある。これは、導波路アレイの作製を困難にする。そこで、±1次光の有無に関わらず、0次光を0°<α0<αmaxの角度範囲でスキャンすることを考える。ただし、±1次光はこの角度範囲には存在しないとする。この条件を満たすためには、α0=0°において、+1次光の出射角度はα+≧αmaxでなければならず(すなわち、sinα+=(λ/p)≧sinαmax)、α0=αmaxにおいて、-1次光の出射角度はα-≦0でなければならない(すなわち、sinα-=sinαmax-(λ/p)≦0)。これらの制限から、p≦λ/sinαmaxが得られる。
上記の議論から、±1次光がスキャンの角度範囲に存在しない場合における0次光の出射角度α0の最大値αmaxは、以下の式(22)を満たす。
例えば、±1次光がスキャンの角度範囲に存在しない場合において片側10度以上のスキャンを達成するために、αmax=10°とし、p≦λ/sin10°≒5.76λを満たす。例えば、この式と、pに関する前述の下限についての条件とを組み合わせれば、pは、λ/2≦p≦λ/sin10°を満たす。このpの上限(p≒5.76λ)は±1次光が出射されない場合における上限(p≒0.85λ)と比べて十分大きいので、導波路アレイの作製は比較的容易である。ここで、使用される光が単一波長の光ではない場合、使用される光の中心波長をλとする。
以上のことから、より広い角度範囲をスキャンするためには、導波路間の距離pを小さくする必要がある。一方、pが小さい場合に式(20)における出射光の広がり角度Δαを小さくするためには、導波路アレイにおける複数の導波路の本数を増やす必要がある。導波路アレイにおける複数の導波路の本数は、用途および要求される性能に応じて適宜決定される。導波路アレイにおける複数の導波路の本数は、例えば16本以上、用途によっては100本以上であり得る。
<導波路アレイに導入する光の位相制御>
それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御するために、例えば、導波路素子10に光を導入する前段に、光の位相を変化させる位相シフタを設ける。実施形態における光スキャンデバイス100は、複数の導波路素子10のそれぞれに接続された複数の位相シフタと、各位相シフタを伝搬する光の位相を調整する第2調整素子とを備える。各位相シフタは、複数の導波路素子10の対応する1つにおける光導波層20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。第2調整素子は、複数の位相シフタから複数の導波路素子10へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、複数の導波路素子10から出射される光の方向(すなわち、第3の方向D3)を変化させる。以下の説明では、導波路アレイと同様に、配列された複数の位相シフタを「位相シフタアレイ」と呼ぶことがある。
図28は、位相シフタ80が導波路素子10に直接的に接続されている構成の例を示す模式図である。図28において、破線枠で囲まれた部分が位相シフタ80に該当する。この位相シフタ80は、対向する一対のミラー(第5のミラー30aおよび第6のミラー40a、以下、単にミラーと呼ぶことがある。)と、ミラー30aとミラー40aの間に設けられた導波路20aとを有する。この例における導波路20aは、導波路素子10における光導波層20と共通の部材で構成され、光導波層20に直接的に繋がっている。同様に、ミラー40aも、導波路素子10におけるミラー40と共通の部材で構成され、ミラー40に接続されている。ミラー30aは、導波路素子10におけるミラー30よりも低い透過率(高い反射率)を有する。ミラー30aは、ミラー30に接続されている。位相シフタ80では、光を放射しないようにするために、ミラー30aの透過率はミラー40、40aと同様の低い値に設計されている。すなわち、第5のミラー30aと第6のミラー40aの光透過率は、第1のミラー30の光透過率よりも低い。この例では、位相シフタ80が、本開示における「第1の導波路」に相当する。このように、「第1の導波路」は、位相シフタとして機能してもよい。
図29は、導波路アレイ10Aおよび位相シフタアレイ80Aを、光出射面の法線方向(Z方向)から見た模式図である。図29に示される例では、全ての位相シフタ80が同じ伝搬特性を有し、全ての導波路素子10が同じ伝搬特性を有する。それぞれの位相シフタ80およびそれぞれの導波路素子10は同じ長さであってもよいし、長さが異なっていても良い。それぞれの位相シフタ80の長さが等しい場合は、例えば、駆動電圧によりそれぞれの位相シフト量を調整する。また、それぞれの位相シフタ80の長さを等ステップで変化させた構造にすることで、同じ駆動電圧で等ステップの位相シフトを与えることもできる。さらに、この光スキャンデバイス100は、複数の位相シフタ80に光を分岐して供給する光分岐器90と、各導波路素子10を駆動する第1駆動回路110と、各位相シフタ80を駆動する第2駆動回路210とをさらに備えている。図29における直線の矢印は光の入力を示している。別々に設けられた第1駆動回路110と第2駆動回路210とをそれぞれ独立に制御することにより、2次元スキャンを実現できる。この例では、第1駆動回路110は、第1調整素子の1つの要素として機能し、第2駆動回路210は、第2調整素子の1つの要素として機能する。
第1駆動回路110は、後述するように、各導波路素子10における光導波層20の屈折率または厚さを変化(変調)させることにより、光導波層20から出射する光の角度を変化させる。第2駆動回路210は、後述するように、各位相シフタ80における導波路20aの屈折率を変化させることにより、導波路20aの内部を伝搬する光の位相を変化させる。光分岐器90は、全反射によって光が伝搬する導波路で構成してもよいし、導波路素子10と同様の反射型導波路で構成してもよい。
なお、光分岐器90で分岐したそれぞれの光に対して位相を制御した後に、それぞれの光を位相シフタ80に導入してもよい。この位相制御には、例えば、位相シフタ80に至るまでの導波路の長さを調整することによるパッシブな位相制御構造を用いることができる。あるいは、位相シフタ80と同様の機能を有する電気信号で制御可能な位相シフタを用いても良い。このような方法により、例えば、全ての位相シフタ80に等位相の光が供給されるように、位相シフタ80に導入される前に位相を調整してもよい。そのような調整により、第2駆動回路210による各位相シフタ80の制御をシンプルにすることができる。
図30は、位相シフタ80における導波路が、導波路素子10における光導波層20と、他の導波路85を介して繋がる構成の例を模式的に示す図である。他の導波路85は、上述した何れかの第1の導波路1であってもよい。また、他の導波路85は、図14に示した導波路1および1’であってもよい。各位相シフタ80は、図28に示す位相シフタ80と同じ構成を有していてもよいし、異なる構成を有していてもよい。図30では、位相シフタ80を、位相シフト量を表す記号φ0~φ5を用いて、簡易的に表現している。以降の図でも同様の表現を用いることがある。位相シフタ80には、全反射を利用して光を伝搬させる導波路を利用することができる。その場合、図28に示されているようなミラー30aおよび40aは不要である。
図31は、光分岐器90にカスケード状に並ぶ複数の位相シフタ80を挿入した構成例を示す図である。この例では、光分岐器90の経路の途中に、複数の位相シフタ80が接続されている。各位相シフタ80は、伝搬する光に一定の位相シフト量φを与える。それぞれの位相シフタ80が伝搬光に与える位相シフト量を一定にすることで、隣接する2つの導波路素子10の間の位相差が等しくなる。したがって、第2調整素子は、全ての位相シフタ80に共通の位相制御信号を送ることができる。このため、構成が容易になるという利点がある。
光分岐器90、位相シフタ80および導波路素子10などの間で、光を効率的に伝搬させるために、導波路を利用することができる。導波路には、周囲の材料よりも高い屈折率を有する、光の吸収が少ない光学材料を用いることができる。例えば、Si、GaAs、GaN、SiO2、TiO2、Ta2O5、AlN、SiNなどの材料が用いられ得る。また、光分岐器90から導波路素子10に光を伝搬させるために、上述した何れかの第1の導波路1を用いてもよい。また、光分岐器90から導波路素子10に光を伝搬させるために、図14に示した導波路1および1’を用いてもよい。
位相シフタ80では、光に位相差を与えるために光路長を変える機構が必要である。光路長を変えるために、本実施形態では、位相シフタ80における導波路の屈折率が変調される。これにより、隣接する2つの位相シフタ80から導波路素子10に供給される光の位相差を調整することができる。より具体的には、位相シフタ80が有する導波路内の位相シフト材料の屈折率変調を行うことで、位相シフトを与えることができる。屈折率変調を行う構成の具体例については、後述する。
<第1調整素子の例>
次に、導波路素子10における光導波層20の屈折率または厚さを調整する第1調整素子の構成例を説明する。まず、屈折率を調整する場合の構成例を説明する。
図32Aは、第1調整素子60(以下、単に調整素子と呼ぶことがある)の構成の一例を模式的に示す斜視図である。図32Aに示される例では、一対の電極62を有する調整素子60が導波路素子10に組み込まれている。光導波層20は、一対の電極62に挟まれている。光導波層20および一対の電極62は、第1のミラー30と第2のミラー40との間に設けられている。光導波層20の側面(XZ面に平行な表面)の全体が、電極62に接触している。光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する屈折率変調材料を含む。調整素子60は、一対の電極62から引き出された配線64と、配線64に接続された電源66とをさらに有している。電源66をオンにして配線64を通じて一対の電極62に電圧を印加することで、光導波層20の屈折率を変調することができる。このため、調整素子60を屈折率変調素子と呼ぶこともできる。
図32Bは、第1調整素子60の他の構成例を模式的に示す斜視図である。この例では、光導波層20の側面の一部のみが電極62に接触している。それ以外の点は、図32Aに示す構成と同じである。このように、光導波層20の屈折率を部分的に変化させる構成であっても、出射光の方向を変化させることができる。
図32Cは、第1調整素子60のさらに他の構成例を模式的に示す斜視図である。この例では、一対の電極62は、ミラー30および40の反射面に略平行な層状の形状を有する。一方の電極62は、第1のミラー30と光導波層20との間に挟まれている。他方の電極62は、第2のミラー40と光導波層20との間に挟まれている。このような構成を採用する場合、電極62には、透明電極が用いられ得る。このような構成によれば、製造が比較的容易であるという利点がある。
図32Aから図32Cに示す例では、各導波路素子10における光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含む。第1調整素子60は、光導波層20を挟む一対の電極62を有し、一対の電極62に電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。電圧の印加は、前述の第1駆動回路110によって行われ得る。
ここで、各構成要素に用いられ得る材料の例を説明する。
ミラー30、40、30a、および40aの材料には、例えば誘電体による多層膜を用いることができる。多層膜を用いたミラーは、例えば、各々が1/4波長の光学厚さを有する、屈折率の異なる複数の膜を周期的に形成することによって作製できる。このような多層膜ミラーによれば、高い反射率を得ることができる。膜の材料として、例えばSiO2、TiO2、Ta2O5、Si、SiNなどを用いることができる。各ミラーは、多層膜ミラーに限らず、Ag、Alなどの金属で形成されていてもよい。
電極62および配線64には、導電性を有する様々な材料を利用することができる。例えば、Ag、Cu、Au、Al、Pt、Ta、W、Ti、Rh、Ru、Ni、Mo、Cr、Pdなどの金属材料、またはITO、酸化錫、酸化亜鉛、IZO(登録商標)、SROなどの無機化合物、またはPEDOT、ポリアニリンなどの導電性高分子などの導電性材料を用いることができる。
光導波層20の材料には、誘電体、半導体、電気光学材料、液晶分子などの様々な透光性の材料を利用することができる。誘電体としては、例えばSiO2、TiO2、Ta2O5、SiN、AlNが挙げられる。半導体材料としては、例えば、Si系、GaAs系、GaN系の材料が挙げられる。電気光学材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)などが挙げられる。
光導波層20の屈折率を変調する方法には、例えば、キャリア注入効果、電気光学効果、複屈折効果、または熱光学効果を利用した方法がある。以下、各方法の例を説明する。
キャリア注入効果を利用した方法は、半導体のpin接合を利用した構成によって実現され得る。この方法では、ドープ濃度の低い半導体材料をp型半導体およびn型半導体で挟み込んだ構造が用いられ、半導体にキャリアを注入することによって屈折率が変調される。この構成では、各導波路素子10における光導波層20は、半導体材料を含む。一対の電極62の一方はp型半導体を含み、他方はn型半導体を含み得る。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、半導体材料にキャリアを注入し、光導波層20の屈折率を変化させる。光導波層20をノンドープまたは低ドープ濃度の半導体で作製し、これに接するようにp型半導体およびn型半導体を設ければ良い。低ドープ濃度の半導体にp型半導体およびn型半導体が接するように配置し、さらにp型半導体およびn型半導体に導電性材料が接するような複合的な構成にしてもよい。例えば、Siに1020cm-3程度のキャリアを注入すると、Siの屈折率が0.1程度変化する(例えば、“Free charge carrier induced refractive index modulation of crystalline Silicon” 7th IEEE International Conference on Group IV Photonics, P102 ‐ 104, 1-3 Sept. 2010を参照)。この方法を採用する場合、図32Aから図32Cにおける一対の電極62の材料として、p型半導体およびn型半導体が用いられ得る。あるいは、一対の電極62は金属で構成し、電極62と光導波層20との間の層、または、光導波層20自体にp型またはn型半導体を含ませてもよい。
電気光学効果を利用した方法は、電気光学材料を含む光導波層20に電界をかけることで実現され得る。特に、電気光学材料としてKTNを用いれば、大きな電気光学効果を得ることができる。KTNは正方晶から立方晶への相転移温度よりも少し高い温度で比誘電率が著しく上昇するため、この効果を利用することができる。例えば、“Low-Driving-Voltage Electro-Optic Modulator With Novel KTa1-xNbxO3 Crystal Waveguides” Jpn. J. Appl. Phys., Vol.43, No. 8B(2004)によれば、波長1.55μmの光に対して電気光学定数g=4.8×10-15m2/V2が得られる。よって、例えば2kV/mmの電界をかけると、屈折率が0.1(=gn3E3/2)程度変化する。このように、電気光学効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層20は、KTNなどの電気光学材料を含む。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、電気光学材料の屈折率を変化させる。
液晶による複屈折効果を利用した方法では、液晶材料を含む光導波層20を電極62で駆動することで、液晶の屈折率異方性を変化させることができる。これにより、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率を変調することができる。液晶は一般に0.1~0.2程度の複屈折率差を有するので、液晶の配向方向を電界で変えることで複屈折率差と同等の屈折率変化が得られる。このように、液晶の複屈折効果を利用した構成では、各導波路素子10における光導波層20は、液晶材料を含む。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加することにより、液晶材料の屈折率異方性を変化させ、光導波層20の屈折率を変化させる。
熱光学効果は、材料の温度変化に伴って屈折率が変化する効果である。熱光学効果による駆動を行うために、熱光学材料を含む光導波層20を加熱することで屈折率を変調してもよい。
図33は、高い電気抵抗を有する材料によって構成されるヒーター68を含む調整素子60と導波路素子10とを組み合わせた構成の例を示す図である。ヒーター68は、光導波層20の近傍に配置され得る。電源66をオンにして導電性材料を含む配線64を通じてヒーター68に電圧をかけることにより、加熱することができる。ヒーター68を光導波層20に接触させてもよい。本構成例では、各導波路素子10における光導波層20は、温度変化に伴って屈折率が変化する熱光学材料を含む。第1調整素子60は、光導波層20に接触してまたは光導波層20の近傍に配置されたヒーター68を有する。第1調整素子60は、ヒーター68によって熱光学材料を加熱することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。
光導波層20自体を高電気抵抗材料で作製し、光導波層20を直接一対の電極62で挟み電圧を印加することで加熱してもよい。その場合、第1調整素子60は、光導波層20を挟む一対の電極62を有する。第1調整素子60は、一対の電極62に電圧を印加して光導波層20における熱光学材料(例えば、高電気抵抗材料)を加熱することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。
ヒーター68または光導波層20に用いられる高電気抵抗材料として、半導体または抵抗率の大きい金属材料を用いることができる。半導体としては、例えば、Si、GaAs、またはGaNなどを用いることができる。また、抵抗率の高い金属としては、鉄、ニッケル、銅、マンガン、クロム、アルミニウム、銀、金、プラチナ、またはこれら複数の材料を組み合わせた合金などが用いられ得る。例えば、波長1500nmの光に対するSiの屈折率の温度依存性dn/dTは1.87×10-4(K-1)である(“Temperature-dependent refractive index of silicon and germanium”, Proc. SPIE 6273, Optomechanical Technologies for Astronomy, 62732Jを参照)。したがって、温度を500℃変えると屈折率を0.1程度変化させることができる。光導波層20の近傍にヒーター68を設け局所的に加熱すれば、500℃という大きい温度変化でも比較的高速に行うことができる。
キャリア注入による屈折率変化の応答速度は、キャリアの寿命によって決まる。一般に、キャリア寿命はナノ秒(ns)のオーダーであるため100MHz~1GHz程度の応答速度が得られる。
電気光学材料を用いた場合、電場をかけて電子の分極を誘起することで屈折率変化が生じる。分極を誘起する速度は一般的に極めて高速で、LiNbO3、LiTaO3などの材料では応答時間はフェムト秒(fs)オーダーであるため、1GHzを越えた高速駆動が可能である。
熱光学材料を用いた場合、温度昇降の速度で屈折率変化の応答速度が決まる。局所的に導波路近傍のみ加熱することで急激な温度上昇が得られる。また、局所的に温度が上がった状態でヒーターを切ると周辺に放熱することで急激に温度を下げることができる。速いものでは100KHz程度の応答速度が得られる。
以上の例では、第1調整素子60は、各光導波層20の屈折率を同時に一定の値だけ変化させることにより、出射光の波数ベクトルのX成分を変化させる。屈折率変調において、その変調量は材料の特性に依存し、大きな変調量を得るためには、高い電界を印加したり、液晶を配向させたりする必要がある。一方、導波路素子10から出射される光の方向は、ミラー30とミラー40の間の距離にも依存する。したがって、ミラー30とミラー40の間の距離を変えることによって光導波層20の厚さを変化させてもよい。以下、光導波層20の厚さを変化させる構成の例を説明する。
光導波層20の厚さを変えるためには、光導波層20は、例えば気体または液体などの容易に変形する材料で構成され得る。光導波層20を挟むミラー30および40の少なくとも一方を移動させることにより、光導波層20の厚さを変化させることができる。この際、上下のミラー30とミラー40の間の平行度を保つために、ミラー30または40の変形を最小限にするような構成が採用され得る。
図34は、変形し易い材料で構成された支持部材70でミラー30が保持された構成例を示す図である。支持部材70は、ミラー30よりも相対的に変形しやすい厚さの薄い部材または細いフレームを含み得る。この例では、第1調整素子は、各導波路素子10における第1のミラー30に接続されたアクチュエータを有する。アクチュエータは、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波層20の厚さを変化させる。なお、アクチュエータは、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続され得る。ミラー30を駆動するアクチュエータとして、例えば、静電気力、電磁誘導、圧電材料、形状記憶合金、または熱を利用した種々のアクチュエータを用いることができる。
静電気力を利用した構成では、第1調整素子におけるアクチュエータは、静電気力によって発生する電極間の引力または斥力を用いてミラー30および/または40を移動させる。以下、そのような構成のいくつかの例を説明する。
図35は、電極間に発生する静電気力によってミラー30および/または40を移動させる構成の一例を示す図である。この例では、ミラー30と光導波層20との間、およびミラー40と光導波層20との間に、透光性を有する電極62(例えば透明電極)が設けられている。ミラー30の両側に配置された支持部材70の各々は、一端がミラー30に固定され、他端が不図示の筐体に固定されている。一対の電極62に正負の電圧を印加することで、引力が生じ、ミラー30とミラー40の間の距離が縮小する。電圧の印加を止めると、ミラーを保持する支持部材70の復元力が生じ、ミラー30とミラー40の間の距離が元の長さに戻る。このような引力を生じさせる電極62は、ミラー全面に設けられている必要はない。この例におけるアクチュエータは、一対の電極62を有し、一対の電極62の一方は第1のミラー30に固定され、一対の電極62の他方は第2のミラー40に固定されている。アクチュエータは、一対の電極62に電圧を印加することにより、電極間に静電気力を発生させ、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させる。なお、電極62への電圧の印加は、前述の第1駆動回路110(例えば図29)によって行われる。
図36は、引力を生じさせる電極62を、光の伝搬を妨げない位置に配置した構成例を示す図である。この例では、電極62を透明にする必要はない。図示されているように、ミラー30および40のそれぞれに固定された電極62は単一である必要はなく、分割されていてもよい。分割された電極の一部の静電容量を計測することで、ミラー30とミラー40の間の距離を計測し、ミラー30とミラー40の平行度を調整するなどのフィードバック制御を行うことができる。
電極間の静電気力を利用する代わりに、コイル内の磁性体に引力または斥力を生じさせる電磁誘導を利用してミラー30および/または40を駆動してもよい。
圧電材料、形状記憶合金、または熱による変形を利用したアクチュエータでは、外部から加えられたエネルギーによって材料が変形する現象が利用される。例えば、代表的な圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、電界を分極方向に印加することによって伸縮する。この圧電材料によってミラー30とミラー40の間の距離を直接変化させることができる。しかし、PZTの圧電定数は100pm/V程度であるため、例えば1V/μmの電界を印加しても変位量は0.01%程度と微小である。このため、このような圧電材料を用いた場合には、十分なミラーの移動距離を得ることができない。そこで、ユニモルフまたはバイモルフと呼ばれる構成を用いて、変化量を増加させることができる。
図37は、圧電材料を含む圧電素子72の例を示す図である。矢印は、圧電素子72の変位方向を示し、その矢印の大きさは変位量を示す。図37に示すように、圧電素子72の変位量は材料の長さに依存するため、面方向の変位量は厚さ方向の変位量よりも大きい。
図38Aは、図37に示す圧電素子72を用いたユニモルフの構造を有する支持部材74aの構成例を示す図である。この支持部材74aは、1層の圧電素子72と、1層の非圧電素子71とが積層された構造を有する。このような支持部材74aをミラー30および40の少なくとも一方に固定し、変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。
図38Bは、圧電素子72に電圧を印加することによって支持部材74aが変形した状態の例を示す図である。圧電素子72に電圧が印加されると、圧電素子72のみが面方向に伸びるため、支持部材74a全体がたわむ。このため、非圧電素子71が無い場合と比較して、変位量を増加させることができる。
図39Aは、図37に示す圧電素子72を用いたバイモルフの構造を有する支持部材74bの構成例を示す図である。この支持部材74bは、2層の圧電素子72と、その間の1層の非圧電素子71とが積層された構造を有する。このような支持部材74bをミラー30および40の少なくとも一方に固定し、変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。
図39Bは、両側の圧電素子72に電圧を印加することによって支持部材74aが変形した状態の例を示す図である。バイモルフでは、上下の圧電素子72において変位方向が反対になる。そのため、バイモルフの構成を用いた場合、ユニモルフの構成よりもさらに変位量を増加させることができる。
図40は、図38Aに示す支持部材74aをミラー30の両側に配置したアクチュエータの例を示す図である。このような圧電アクチュエータによって梁をたわませるように支持部材74aを変形させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させることができる。図38Aに示す支持部材74aに代えて、図39Aに示す支持部材74bを用いてもよい。
なお、ユニモルフ型のアクチュエータは、円弧状に変形するため、図41Aに示すように、固定されていない側の先端には傾きが生じる。そのため、ミラー30の剛性が低いと、ミラー30とミラー40を平行に保持することが困難である。そこで、図41Bに示すように、伸縮する方向の異なる2つのユニモルフ型の支持部材74aを直列に繋ぎ合わせてもよい。図41Bの例では、支持部材74aにおいて、伸縮する領域と伸展する領域とで、たわむ方向が反対になる。その結果、固定されていない側の先端に傾きを生じさせないようにすることができる。このような支持部材74aを用いることにより、ミラー30および40が傾くことを抑制することができる。
上記と同様に、熱膨張係数の異なる材料を貼り合わせることによっても、たわみ変形する梁構造を実現することができる。さらに、梁構造を形状記憶合金で実現することもできる。いずれも、ミラー30とミラー40の距離の調整に利用され得る。
また、光導波層20を密閉空間とし、内部の空気または液体を小型ポンプなどで出し入れして光導波層20の体積を変化させることによってミラー30とミラー40の間の距離を変えることも可能である。
以上のように、第1調整素子におけるアクチュエータは、多様な構造によって光導波層20の厚さを変化させることができる。このような厚さの変化は、複数の導波路素子10のそれぞれについて個別に行ってもよいし、全ての導波路素子10について一律に行ってもよい。特に、複数の導波路素子10の構造が全て同じである場合、各導波路素子10におけるミラー30とミラー40の間の距離が一定に制御される。このため、1つのアクチュエータが、全ての導波路素子10を一括して駆動することができる。
図42は、支持部材(すなわち、補助基板)52に保持された複数の第1のミラー30をアクチュエータで一括して駆動する構成の例を示す図である。図42では、第2のミラー40は1つのプレート状のミラーである。ミラー40は、前述の実施形態のように、複数のミラーに分割されていてもよい。支持部材52は、透光性を有する材料で構成され、両側にユニモルフ型の圧電アクチュエータが設けられている。
図43は、複数の導波路素子10における第1のミラー30が1つのプレート状のミラーである構成例を示す図である。この例では、第2のミラー40は、導波路素子10ごとに分割されている。図42および図43の例のように、各導波路素子10におけるミラー30および40の少なくとも一方が、1つのプレート状のミラーの部分であってもよい。アクチュエータは、当該プレート状のミラーを移動させることにより、ミラー30とミラー40の間の距離を変化させてもよい。
<位相シフトのための屈折率変調>
次に、第2調整素子による複数の位相シフタ80における位相の調整のための構成を説明する。複数の位相シフタ80における位相の調整は、位相シフタ80における導波路20aの屈折率を変化させることによって実現され得る。この屈折率の調整は、既に説明した、各導波路素子10における光導波層20の屈折率を調整する方法と全く同じ方法によって実現することができる。例えば、図32Aから図33を参照しながら説明した屈折率変調の構成および方法をそのまま適用することができる。図32Aから図33に関する説明において、導波路素子10を位相シフタ80と読み替え、第1調整素子60を第2調整素子と読み替え、光導波層20を導波路20aと読み替え、第1駆動回路110を第2駆動回路210と読み替える。このため、位相シフタ80における屈折率変調についての詳細な説明は省略する。
各位相シフタ80における導波路20aは、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含む。第2調整素子は、各位相シフタ80における導波路20aに電圧を印加する、または導波路20aの温度を変化させることにより、導波路20a内の屈折率を変化させる。これにより、第2調整素子は、複数の位相シフタ80から複数の導波路素子10に伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることができる。
各位相シフタ80は、光が通過するまでの間に、少なくとも2πの位相シフトが可能なように構成され得る。位相シフタ80における導波路20aの単位長さあたりの屈折率の変化量が小さい場合には、導波路20aの長さを大きくしてもよい。例えば、位相シフタ80の大きさは、数百マイクロメートル(μm)から数ミリメートル(mm)、場合によってはそれ以上であってもよい。これに対し、各導波路素子10の長さは、例えば数十μmから数十mm程度の値であり得る。
<同期駆動のための構成>
本実施形態では、第1調整素子は、複数の導波路素子10から出射される光の方向が揃うように、各導波路素子10を駆動する。複数の導波路素子10から出射される光の方向を揃えるために、例えば各導波路素子10に個別に駆動部を設け、これらの駆動部を同期駆動する。
図44は、それぞれの導波路素子10の電極62から配線64を共通に取り出す構成の例を示す図である。図45は、一部の電極62および配線64を共通にした構成の例を示す図である。図46は、複数の導波路素子10に対して共通の電極62を配置した構成の例を示す図である。図44~図46において、直線の矢印は光の入力を示している。これらの図に示すような構成にすることで、導波路アレイ10Aを駆動するための配線をシンプルにすることができる。
本実施形態の構成によれば、シンプルなデバイス構成で2次元的に光をスキャンすることが可能である。例えば、N本の導波路素子10で構成された導波路アレイを同期駆動する場合、それぞれ独立の駆動回路を設けると、N個の駆動回路が必要である。しかし、上記のように電極または配線を共通にする工夫を行えば1つの駆動回路で動作させることができる。
導波路アレイ10Aの前段に位相シフタアレイ80Aを設けた場合、それぞれの位相シフタ80を独立に動かすためには、さらにN個の駆動回路が必要である。しかし、図31の例のように位相シフタ80をカスケード状に配置することにより、1つの駆動回路でも動作させることができる。すなわち、本開示の構成では、2個ないし2N個の駆動回路で、2次元的に光をスキャンさせる動作を実現できる。また、導波路アレイ10Aおよび位相シフタアレイ80Aをそれぞれ独立して動作させてもよいため、互いの配線が干渉することなく容易に引き出すことができる。
<製造方法>
導波路アレイ、位相シフタアレイ80A、およびこれらをつなぐ導波路は、半導体プロセス、3Dプリンター、自己組織化、ナノインプリントなど、高精度の微細加工が可能なプロセスによって製造することができる。これらのプロセスにより、小さい領域に必要な要素を集積することが可能である。
特に、半導体プロセスを利用すれば、加工精度が極めて高く、量産性も高いという利点がある。半導体プロセスを利用する場合、基板上に蒸着、スパッタ、CVD、塗布などによって様々な材料を成膜することができる。さらに、フォトリソグラフィーとエッチングプロセスにより、微細加工が可能である。基板の材料として、例えばSi、SiO2、Al2O3、AlN、SiC、GaAs、GaNなどを用いることができる。
<変形例>
続いて、本実施形態の変形例を説明する。
図47は、位相シフタアレイ80Aを配置する領域を大きく確保して、導波路アレイを小さく集積した構成の例を模式的に示す図である。このような構成によれば、位相シフタ80の導波路を構成する材料において小さな屈折率変化しか生じない場合でも、十分な位相シフト量を確保することができる。また、位相シフタ80を熱で駆動する場合、間隔を広く取れるため、隣の位相シフタ80に与える影響を小さくすることができる。
図48は、2つの位相シフタアレイ80Aaおよび80Abが、導波路アレイ10Aの両側にそれぞれ配置された構成例を示す図である。この例では、光スキャンデバイス100は、2つの光分岐器90aおよび90b、ならびに2つの位相シフタアレイ80Aaおよび80Abを、導波路アレイ10Aの両側に有している。図48において点線で示されている直線の矢印は、光分岐器90aおよび90bおよび位相シフタ80aおよび80bを伝搬する光を示している。位相シフタアレイ80Aaおよび光分岐器90aは、導波路アレイ10Aの一方の側に接続され、位相シフタアレイ80Abおよび光分岐器90bは、導波路アレイ10Aの他方の側に設けられている。光スキャンデバイス100は、さらに、光分岐器90aへの光の供給と光分岐器90bへの光の供給を切り替える光スイッチ92を備えている。光スイッチ92を切り替えることにより、図48における左側から導波路アレイ10Aに光を入力する状態と、図48における右側から導波路アレイ10Aに光を入力する状態とを切り替えることができる。
本変形例の構成によれば、導波路アレイ10Aから出射される光のX方向についてのスキャン範囲を拡大できるという利点がある。導波路アレイ10Aに片側から光を入力する構成においては、各導波路素子10の駆動によって、光の方向を、正面方向(すなわち、+Z方向)から、+X方向または-X方向のいずれかの方向に沿ってスキャンすることができる。これに対して、本変形例では、図48における左側の光分岐器90aから光を入力した場合、正面方向から+X方向に沿って光をスキャンすることができる。一方、右側の光分岐器90bから光を入力した場合、正面方向から-X方向に光をスキャンすることができる。つまり、図48の構成では、正面から見て図48における左右両方向に光をスキャンすることができる。このため、片側から光を入力する構成に比べて、スキャンの角度範囲を広くすることができる。光スイッチ92は、不図示の制御回路(例えば、マイクロコントローラユニット)から電気信号で制御される。本構成例によれば、全ての素子の駆動を電気信号によって制御することができる。
以上の説明では、導波路素子10の配列方向および導波路素子10が延びる方向が直交している導波路アレイのみを扱ってきた。しかし、これらの方向が直交している必要はない。例えば、図49Aに示すような構成を用いてもよい。図49Aは、導波路素子10の配列方向d1および導波路素子10が延びる方向d2が直交していない導波路アレイの構成例を示している。この例において、各導波路素子10の光出射面は、同一平面内になくてもよい。このような構成であっても、各導波路素子10および各位相シフタを適切に制御することにより、光の出射方向d3を2次元的に変化させることができる。
図49Bは、導波路素子10の配列間隔が一定でない導波路アレイの構成例を示している。このような構成を採用する場合であっても、各位相シフタによる位相シフト量を適切に設定することにより、2次元スキャンを行うことができる。図49Bの構成においても、導波路アレイの配列方向d1と、各導波路素子10の延びる方向d2とが直交していなくてもよい。
<基板上に第1および第2の導波路が配置された実施形態>
次に、基板上に第1および第2の導波路が配置された光スキャンデバイスの実施形態を説明する。
本実施形態における光スキャンデバイスは、第1の導波路と、第1の導波路に繋がる第2の導波路と、第1および第2の導波路を支持する基板とを備える。より具体的には、光スキャンデバイスは、第1の方向に配列された複数の導波路ユニットと、これらの複数の導波路ユニットを支持する基板とを備える。複数の導波路ユニットの各々は、第1の導波路と、第2の導波路とを備える。第2の導波路は、第1の導波路に繋がり、第1の方向に交差する第2の方向に光を伝搬させる。基板は、各導波路ユニットにおける第1の導波路および第2の導波路を支持する。
第2の導波路は、前述の実施形態における反射型導波路に相当する。すなわち、第2の導波路は、多層反射膜を有する第1のミラーと、第1のミラーの前記多層反射膜に対向する多層反射膜を有する第2のミラーと、第1のミラーおよび第2のミラーの間に位置し、前記第1の導波路に入力され第1の導波路を伝搬した光を伝搬させる光導波層と、を有する。第1のミラーは、第2のミラーよりも高い光透過率を有し、光導波層内を伝搬する光の一部を、光導波層の外部に出射する。光スキャンデバイスは、第2の導波路における光導波層の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、第2の導波路から出射される光の方向を変化させる調整素子をさらに備える。
本実施形態によれば、1つの基板の上に第1および第2の導波路を配置することにより、第1の導波路1および第2の導波路10の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1および第2の導波路の位置のずれが抑制される。その結果、第1の導波路から第2の導波路へ効率よく光を導入することができる。
光導波層は、例えば電圧が印加された場合に、光導波層を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含み得る。その場合、調整素子は、光導波層に電圧を印加することにより、光導波層の屈折率を変化させる。これにより、調整素子は、第2の導波路から出射される光の方向を変化させる。
第1の導波路の少なくとも一部は、前述の位相シフタとしての機能を有していてもよい。その場合、第1の導波路には、例えば屈折率を変調させる機構が組み込まれる。光スキャンデバイスは、第1の導波路の少なくとも一部の領域の屈折率を変調させる第2調整素子を備えていてもよい。第2調整素子は、例えば、第1の導波路の近傍に配置されたヒーターであり得る。ヒーターから発する熱によって第1の導波路の少なくとも一部の領域の屈折率を変化させることができる。これにより、第1の導波路から第2の導波路に入力される光の位相が調整される。第1の導波路から第2の導波路に入力される光の位相を調整するための構成は、前述のとおり多様である。それらのいずれの構成を採用してもよい。
位相シフタは、第1の導波路の外部に設けられていてもよい。その場合、第1の導波路は、外部の位相シフタと、導波路素子(第2の導波路)との間に位置する。位相シフタと、第1の導波路との間には明確な境界がなくてもよい。例えば、位相シフタと、第1の導波路とが、導波路および基板等の構成要素を共用していてもよい。
第1の導波路は、光の全反射を利用する一般的な導波路であってもよいし、反射型導波路であってもよい。位相が変調された光は、第1の導波路を経て、第2の導波路に導入される。
以下、基板上に第1および第2の導波路が配置された光スキャンデバイスの実施形態をより詳細に説明する。以下の説明においては、光スキャンデバイスが複数の導波路ユニットを備えているものとする。光スキャンデバイスは、単一の導波路ユニットを備えていてもよい。すなわち、第1の導波路および第2の導波路の組み合わせを1つだけ備える光スキャンデバイスも、本開示の範囲に含まれる。
図50Aは、本実施形態における光スキャンデバイスを模式的に示す図である。この光スキャンデバイスは、Y方向に配列された複数の導波路ユニットと、複数の導波路ユニットを支持する基板50とを備えている。各導波路ユニットは、第1の導波路1と、第2の導波路10とを備えている。基板50は、各導波路ユニットにおける第1の導波路1および第2の導波路10を支持している。
基板50は、XY平面に沿って拡がっている。基板50の上面および下面は、XY平面に略平行に配置されている。基板50は、例えば、ガラス、Si、SiO2、GaAs、GaNなどの材料を用いて構成され得る。
第1の導波路アレイ1Aは、Y方向に配列された複数の第1の導波路1を含む。第1の導波路1の各々は、X方向に延びた構造を有する。第2の導波路アレイ10Aは、Y方向に配列された複数の第2の導波路10を含む。第2の導波路10の各々は、X方向に延びた構造を有する。
図50Bは、図50Aにおける一方の破線で示されたXZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。基板50の上に、第1および第2の導波路1、10が配置されている。第2のミラー40は、光導波層20と基板50との間、および第1の導波路1と基板50との間の領域に拡がっている。第1の導波路1は、例えば、光の全反射を利用する一般的な導波路である。当該一般的な導波路は、例えば、SiまたはGaAsなどの半導体の導波路を含む。第2の導波路10は、光導波層20と、第1および第2のミラー30および40とを有する。光導波層20は、対向する第1のミラー30と第2のミラー40の間に位置する。光導波層20は、第1の導波路に入力され第1の導波路1を伝搬した光を伝搬させる。
本実施形態における光導波層20は、電圧が印加された場合に、光導波層20を伝搬する光に対する屈折率が変化する材料を含んでいる。調整素子は、一対の電極を有する。一対の電極は、下部電極62aと上部電極62bとを含む。下部電極62aは、光導波層20と第2のミラー40との間に配置されている。上部電極62bは、光導波層20と第1のミラー30との間に配置されている。本実施形態における調整素子は、一対の電極62a、62bに電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させる。これにより、調整素子は、第2の導波路10から出射される光の方向を変化させる。一対の電極62a、62bの各々は、図示されるように光導波層20に接触していてもよいし、接触していなくてもよい。
図50Bの構成例では、積層された基板50および第2のミラー40を有する共通の支持体の上に、他の構造物が配置される。すなわち、一体に形成された一つの支持体の上に、第1の導波路1と、第1の電極62a、光導波層20、第2の電極62b、および第1のミラー30の積層体とが作製される。共通の支持体を用いているため、第1の導波路1および光導波層20の作製時の位置合わせが容易になる。さらに、熱膨張による第1の導波路1および光導波層20の接続部分の位置のずれが抑制される。支持体は、例えば、支持基板である。
図50Cは、図50Aにおける他方の破線で示されたYZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。この例では、第2のミラー40は、複数の第2の導波路10によって共用されている。すなわち、複数の第2の導波路10における第2のミラー40は互いに分離されていない。同様に、下部電極62aも、複数の第2の導波路10によって共用されている。これにより、製造プロセスが簡素化される。
一方、複数の第2の導波路10における光導波層20、上部電極62b、および第1のミラー30は、互いに分離して配置されている。これにより、各光導波層20は、光をX方向に伝搬させることができる。上部電極62bおよび第1のミラー30は、分離していなくてもよい。
以下に、本実施形態における光スキャンデバイスの変形例を説明する。以下の変形例において、重複する構成要素の説明は、省略されている。
図51Aは、第2のミラー40および導波路1の間に誘電体層51が配置された構成例を示す図である。この例における光スキャンデバイスは、第2のミラー40と第1の導波路1との間に拡がる誘電体層51をさらに備えている。この誘電体層51は、第1の導波路1と光導波層20との高さのレベルを合わせる調整層として機能する。以下、誘電体層51を調整層51と称する。Z方向における調整層51の厚さを調整することにより、第1の導波路1から光導波層20への光の結合効率を高めることができる。さらに、調整層51は、第1の導波路1における導波光が第2のミラー40によって吸収、散乱または反射されることを防ぐスペーサの役割を果たす。第1の導波路1は、全反射により光を伝搬させる。そのため、調整層51は、第1の導波路1の屈折率よりも低い屈折率を有する透明材料によって構成される。例えば、調整層51は、SiO2などの誘電体材料で形成され得る。
第1の導波路1の上に、他の誘電体層を保護層としてさらに配置してもよい。
図51Bは、第1の導波路1の上に第2の誘電体層61がさらに配置された構成例を示す図である。このように、光スキャンデバイスは、第1の導波路1の少なくとも一部を覆う第2の誘電体層61をさらに備えていてもよい。第2の誘電体層61は、第1の導波路1に接し、第1の導波路1の屈折率よりも低い屈折率を有する透明材料によって構成されている。第2の誘電体層61は、第1の導波路1の上にパーティクルまたはごみが付着することを防ぐ保護層として機能する。これにより、第1の導波路1における導波光のロスを抑制することができる。以下、第2の誘電体層61を保護層61と称する。
図51Bに示す第1の導波路1は、位相シフタとして機能する。光スキャンデバイスは、第1の導波路1の屈折率を変調させることによって光導波層20に導入される光の位相を変化させる第2調整素子をさらに備える。第1の導波路1が熱光学材料を含む場合、第2調整素子は、ヒーター68を含む。第2調整素子は、ヒーター68から発する熱によって第1の導波路1の屈折率を変調させる。
ヒーター68に含まれる金属などの配線材料は、光を吸収、散乱または反射し得る。保護層61は、第1の導波路1とヒーター68とを遠ざけることによって、第1の導波路1における導波光のロスを抑制する。
保護層61は、調整層51と同じ材料(例えばSiO2)で形成されてもよい。保護層61は、第1の導波路1だけでなく、第2の導波路10の少なくとも一部を覆っていてもよい。その場合、第1のミラー30の少なくとも一部が保護層61で覆われる。保護層61は、第2の導波路10のみを覆っていてもよい。保護層61が透明材料であれば、第2の導波路10から出射される光は、保護層61を透過する。このため、光の損失を小さく抑えることができる。
図52は、第2のミラー40が第1の導波路1と基板50との間の領域に配置されていない構成例を示す図である。この例における調整層51は、第1の導波路1と基板50との間に拡がっている。調整層51は、第1の導波路1および基板50に接している。第2のミラー40が第1の導波路1の下にないため、第1の導波路1における導波光は、第2のミラー40の影響を受けない。
図53は、図51Bの構成例と比較して、第2のミラー40が第1の導波路1と基板50との間において薄くなっている構成例を示す図である。この例のように、第2のミラー40は、第1の導波路1と基板50との間において、第2の導波路10と基板50との間における第2のミラー40の厚さよりも薄い箇所を有していてもよい。第1の導波路1と第2のミラー40との間には、調整層51が配置されている。このような構造により、第1の導波路1における導波光は、第2のミラー40の影響を受けにくくなる。図53の例では、図52の例と比較して、第1の導波路1と光導波層20との接続箇所において第2のミラー40によって生じる段差が小さい。したがって、加工がより容易である。
第2のミラー40の厚さは、導波路1に沿って変化していてもよい。以下、そのような例を説明する。
図54Aは、第2のミラー40の厚さが段階的に変化する構成例を示す図である。第1の導波路1と基板50との間において、第2のミラー40の厚さは、第1の導波路1に沿って変化している。
図54Aの例では、第1の導波路1の左の部分の下には、第2のミラー40が存在しない。第1の導波路1の左の部分は、光導波層20よりも低い位置にある。一方、第1の導波路1の右の部分、すなわち光導波層20に接続される部分の下には、第2のミラー40が存在する。第1の導波路1の右の部分は、光導波層20と同程度の高さに位置する。保護層61の厚さを調整することにより、保護層61の上面を平らにすることができる。
図54Aの構成例では、保護層61の上に配置されたヒーター68は、第1の導波路1から十分に離れている。したがって、第1の導波路1における導波光は、ヒーター68の配線による影響を受けにくい。このため、第1の導波路1における導波光のロスは抑制される。
図54Bは、上部電極62b、第1のミラー30、および第2の基板50Cが、第1の導波路1における保護層61と、第2の導波路10における光導波層20との上に跨って配置されている構成例を示す図である。図54Cは、図54Bの構成例の製造過程の一部を示す図である。
図54Bの例において、上部電極62b、第1のミラー30、および第2の基板50Cを含む構造体(以下、「上部構造体」と称する。)と、上部電極62bよりも下の構造体(以下、「下部構造体」と称する。)とは、別々に製造される。
下部構造体の製造については、まず、第1の基板50の上に、傾斜を有する第2のミラー40が形成される。第2のミラー40における傾斜を含む部分に、調整層51、導波路1の層、および保護層61がこの順に形成される。第2のミラー40における平らな部分に、下部電極62aおよび光導波層20が形成される。
上部構造体は、第2の基板50Cの上に、第1のミラー30および上部電極62bをこの順で積層することによって作製される。上部構造体は、図54Cに示すように、上下を反転させ、下部構造体の上に貼り付けられる。以上の製造方法によれば、第1の導波路1および第2の導波路10の精密な位置合わせを不要にできる。
保護層61の上面、すなわち、第1の導波路1に接する表面とは反対側の表面は、第2の導波路10における光導波層20の上面よりも低い。第1の導波路1におけるヒーター68の上面は、第2の導波路10における光導波層20の上面と、ほぼ同じ高さである。この場合、上部構造体と下部構造体とを、段差なく貼り合わせることができる。上部構造体は、蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成してもよい。
図55は、図54Bに示す構造を有する光スキャンデバイスにおける複数の第2の導波路10のYZ面断面を示す図である。この例では、第1のミラー30、第2のミラー40、および電極62a、62bは、複数の第2の導波路10によって共用されている。共通の電極62a、62bの間に、複数の光導波層20が配置されている。複数の光導波層20の間の領域は、スペーサ73である。スペーサ73は、例えば、空気(または、真空)、SiO2、TiO2、Ta2O5、SiNまたはAlNなどの透明材料である。スペーサ73が固体材料であれば、上部構造体を蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成することができる。スペーサ73は、隣接する光導波層20の両方に直接接触していてもよい。
第1の導波路1は、光の全反射を利用する一般的な導波路である必要はない。例えば、第1の導波路1は、第2の導波路10と同様の反射型導波路であってもよい。
図56は、第1の導波路1および第2の導波路10が、反射型導波路である構成例を示す図である。第1の導波路1は、対向する2つの多層反射膜3、40に挟まれている。第1の導波路1は、第2の導波路10と同じ原理で、光を伝搬させる。多層反射膜3の厚さが十分に大きければ、第1の導波路1から光は出射しない。
図56の構成例では、図20および図21などを参照して説明したように、2つの反射型導波路の接続条件を最適化することで、光の結合効率を高くすることができる。そのような最適化により、第1の導波路1から第2の導波路10へ効率よく光を導入することができる。
次に、一対の電極62a、62bの配置の変形例を説明する。図50A~図56の例では、一対の電極62a、62bは、第2の導波路10における光導波層20に接触している。図50Cおよび図55の例では、電極62a、62bの一方または両方が、複数の第2の導波路10によって共用されている。電極62a、62bの構成は、このような構成に限定されない。
図57は、上部電極62bが第1のミラー30の上に配置されており、下部電極62aが第2のミラー40の下に配置されている構成例を示す図である。第1のミラー30は、上部電極62bと光導波層20との間に配置されている。第2のミラー40は、下部電極62aと光導波層20との間に配置されている。この例のように、一対の電極62a、62bは、光導波層20を、第1および第2のミラー30および40を介して、間接的に挟んでいてもよい。
図57の例において、下部電極62aは、第1の導波路1の側にまで延びている。下部電極62aから配線を取り出すときに、第1の導波路1の下のスペースを用いることができる。よって配線の設計の自由度が増す。
この例では、一対の電極62a、62bは、光導波層20に接触していない。光導波層20における導波光は、一対の電極62a、62bによる吸収、散乱または反射などの影響を受けにくい。このため、光導波層20における導波光のロスが抑制される。
図58は、さらに他の変形例を示す断面図である。この例では、第1の導波路1は、第1の部分1aと第2の部分1bとに分離されている。第1の部分1aは、相対的に低い位置にあり、第2の導波路10から離れている。第2の部分1bは、相対的に高い位置にあり、第2の導波路10の光導波層20に繋がっている。第1の部分1aおよび第2の部分1bは、+Z方向から見たときに重なる部分を有する。第1の部分1aおよび第2の部分1bは、X方向に略平行に延びている。この例では、調整層51も、2つの部分51a、51bに分離されている。調整層の第1の部分51aは、第1の導波路の第1の部分1aと下部電極62aとの間に配置されている。調整層の第2の部分51bは、第1の導波路の第2の部分1bと第2のミラー40との間に配置されている。保護層61は、第1の導波路の第1の部分1aおよび第2の部分1bの上に配置されている。第1の導波路の第1の部分1aの一部と、第1の導波路の第2の部分1bの一部とが、保護層61を介して対向している。電極62a、62bの配置は、図57における配置と同様である。
図58に示す構成では、第1の導波路の第1の部分1aおよび第2の部分1bの間隔、すなわちZ方向における距離は、導波路内での光の波長以下である。この場合、エバネッセント結合により、第1の部分1aから第2の部分1bへ光を伝搬させることができる。この例では、図54Aの例とは異なり、第2のミラー40の厚さを第1の導波路1a、1bに沿って変化させる必要はない。
図59は、電極62が、隣り合う2つの光導波層20の間に配置されている構成例を示す図である。この例における調整素子は、複数の電極62を有し、これらの電極62に正負(図中では+および-で表示)の電圧を交互に印加する。これにより、各光導波層20の内部に、図59における左右方向の電界を発生させることができる。
図59の例では、Y方向において隣り合う2つの電極62は、その間の光導波層20の少なくとも一部に接触している。光導波層20と電極62との接触領域の面積は小さい。したがって、電極62が光を吸収、散乱または反射する材料であっても、光導波層20における導波光のロスを抑制することができる。
図50A~図59の構成例では、スキャンに用いられる光は、第1のミラー30を通して出射される。スキャンに用いられる光は、第2のミラー40を通して出射されてもよい。
図60は、第1のミラー30が厚く、第2のミラー40が薄い構成の例を示す図である。図60の例では、光は第2のミラー40を透過して基板50の側から出射される。この例における基板50は、透光性を有する材料によって構成される。基板50から出射される光をスキャンに用いることにより、光スキャンデバイスの設計の自由度が増す。
<ミラーの幅に関する検討>
図61は、本実施形態おける、複数の導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図61の構成例では、Y方向において、第1のミラー30の幅は、光導波層20の幅よりも長い。第2のミラー40は、複数の導波路素子10によって共用されている。言い換えれば、各導波路素子10における第2のミラー40は、1つの繋がったミラーの一部である。第1のミラー30、光導波層20の端面からY方向に突出する部分を有する。Y方向における当該突出する部分の寸法を、y1とする。Y方向における、光導波層20の端面からの距離を、yとする。y=0は、光導波層20の端面に相当する。
導波光が光導波層20内をX方向に伝搬するとき、Y方向において、光導波層20からエバネッセント光が染み出す。Y方向における当該エバネッセント光の光強度Iは、以下の式で表される。
ただし、光導波層20からのエバネッセント光の光強度が、光導波層20の端面における光導波層20からのエバネッセント光の光強度の1/eになる位置の、光導波層20の端面からのY方向における距離を、ydとするとき、ydは以下の式を満たす。
I0は、y=0における、当該エバネッセント光の光強度である。全反射角θinは、図11に示されている。y=ydにおいて、当該エバネッセント光の光強度Iは、I0の1/eになる。eは、自然対数の底である。
簡単のため、図11に示すように、光導波層20内における導波光を、光線として近似する。図61の構成例に示すように、第1のミラー30がy>y1において存在しない場合、y=0における導波光の1回の反射による光の漏れまたは光ロス(Lloss)は、以下の式で表される。
式(4)に示すように、導波路素子10からの出射光の広がり角θdivを、0.1°以下にするためには、導波路素子10のX方向における伝搬長Lは、1mm以上であることが望ましい。このとき、Y方向における光導波層20の幅をaとすると、図11において、±Y方向における全反射の回数は、1000/(a・tanθin)以上である。a=1μmおよびθin=45°においては、全反射の回数は1000回以上である。1回の反射における光ロスを表す式(25)を用いると、β回の反射における光ロスは、以下の式で表される。
図62は、β=1000の場合における、光ロス(L(β)
loss)の割合およびy1の関係を示す図である。縦軸は、光ロスの割合であり、横軸はy1である。図62に示すように、光ロスの割合を50%以下にするために、例えば、y1≧7ydが満たされる。同様に、光ロスの割合を10%以下にするために、例えば、y1≧9ydが満たされる。光ロスの割合を1%以下にするために、例えば、y1≧11ydが満たされる。
式(25)に示すように、原理的には、y1を大きくすることで、光ロスを低減することができる。しかし、光ロスは、ゼロではない。
図63は、本実施形態おける、導波路素子10をY方向に配列した導波路アレイ10Aの別の構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図63の構成例では、第1および第2のミラー30および40は、複数の導波路素子10によって共用されている。言い換えれば、各導波路素子10における第1のミラー30は、1つの繋がったミラーの一部であり、各導波路素子10における第2のミラー40は、1つの繋がった他のミラーの一部である。これにより、原理的に光ロスを最小化することができる。
次に、図10および図63の構成例における光導波層20からのエバネッセント光の漏れ出しを、数値計算を用いて比較する。
図64Aは、図10の構成例における、電界強度分布の計算結果を示す図である。図64Bは、図63の構成例における、電界強度分布の計算結果を示す図である。数値計算には、Synopsys社のFemSimを用いた。図64Aおよび図64Bにおいて、Y方向における光導波層20の幅は、1.5μmであり、Z方向における光導波層20の厚さは、1μmであり、光の波長は、1.55μmであり、nw=1.68およびnlow=1.44である。nwおよびnlowのこの組み合わせは、例えば、光導波層20に含まれる液晶材料を、SiO2のスペーサ73によって閉じ込める場合に相当する。
図64Aに示すように、図10の構成例では、第1のミラー30が存在しない領域から、エバネッセント光が漏れ出ることがわかる。一方、図64Bに示すように、図63の構成例では、そのようなエバネッセント光の漏れ出しは無視することができる。図64Aおよび図64Bにおいて、導波光がX方向に伝搬する際、第1のミラー30からの光出射およびエバネッセント光の漏れ出しにより、導波光の光強度は減少する。当該導波光の光強度が1/eになる、X方向における光の伝搬長を計算すると、当該光の伝搬長は、図64Aおよび図64Bにおいて、それぞれ7.8μmおよび132μmである。
本実施形態において、スペーサ73は、2つ以上の異なる媒質で構成されてもよい。
図65は、本実施形態において、スペーサ73が、異なる屈折率を有するスペーサ73a、73bを含む構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図65の構成例において、光導波層20に隣接するスペーサ73aの屈折率nlow1は、光導波層20に隣接しないスペーサ73bの屈折率nlow2よりも高い(nlow1>nlow2)。例えば、光導波層20が液晶材料を含む場合、液晶材料を閉じ込めるために、スペーサ73aとして、SiO2を用いてもよい。スペーサ73bは、空気であってもよい。スペーサ73bの屈折率nlow2が低ければ、光導波層20からのエバネッセント光の染み出しを抑制することができる。
図66は、本実施形態の変形例における、導波路素子10の構成例を模式的に示す、YZ平面における光スキャンデバイスの断面図である。図66の構成例では、光導波層20は、YZ平面において台形の断面を有する。第1のミラー30は、光導波層20の、上辺の上だけでなく、左右の辺の上にも配置される。これにより、光導波層20の左右の辺からの光の漏れを抑制することができる。
次に、光導波層20およびスペーサ73の材料を説明する。
図61、図63および図65の構成例において、光導波層20の屈折率nwとスペーサ73の屈折率nlowとは、nw>nlowの関係を満たす。すなわち、スペーサ73は、光導波層20よりも屈折率が低い材料を含む。例えば、光導波層20が電気光学材料を含む場合、スペーサ73は、SiO2、TiO2、Ta2O5、SiN、AlNまたは空気などの透明材料を含んでもよい。光導波層20が液晶材料を含む場合、スペーサ73は、SiO2または空気などを含んでもよい。光導波層20を一対の電極で挟み、電圧を印加することにより、電気光学材料または液晶材料を含む光導波層20の屈折率を変化させることができる。これにより、第1のミラー30から出射される光の出射角度を変化させることができる。光導波層20が液晶材料または電気光学材料を含む場合における、光スキャンデバイスの詳細な駆動方法などは、前述の通りである。
電気光学材料は、以下の化合物のいずれかであってもよい。
・KDP(KH2PO4)型結晶:例えば、KDP、ADP(NH4H2PO4)、KDA(KH2AsO4)、RDA(RbH2PO4)、またはADA(NH4H2AsO4)
・立方晶系材料:例えば、KTN、BaTiO3、SrTiO3Pb3MgNb2O9、GaAs、CdTe、またはInAs
・正方晶系材料:例えば、LiNbO3またはLiTaO3
・せん亜鉛鉱型材料:例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaAs、またはCuCl
・タングステンブロンズ型材料:KLiNbO3、SrBaNb2O6、KSrNbO、BaNaNbO、Ca2Nb2O7
液晶材料は、例えばネマチック液晶であり得る。ネマチック液晶の分子構造は、以下のとおりである。
R1-Ph1-R2-Ph2-R3
ここで、R1は、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択される何れか一つを表す。R3は、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択される何れか一つを表す。Ph1は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基を表す。Ph2は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基を表す。R2は、ビニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、およびアゾキシ基からなる群から選択される何れか一つを表す。
液晶は、ネマチック液晶に限定されない。例えば、スメクチック液晶を用いてもよい。液晶は、スメクチック液晶の中でも、例えばスメクチックC相(SmC相)であってもよい。スメクチック液晶は、スメクチックC相(SmC相)の中でも、例えば液晶分子内にキラル中心(例えば、不斉炭素)を有し強誘電性液晶であるカイラルスメクチック相(SmC*相)あってもよい。
SmC*相の分子構造は、以下のように表される。
R1、R4は、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択される何れか一つである。Ph1は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基である。Ph2は、フェニル基またはビフェニル基等の芳香族基である。R2は、ビニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、およびアゾキシ基からなる群から選択される何れか一つである。Ch*はキラル中心を表す。キラル中心は典型的には炭素(C*)である。R3は、水素、メチル基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択される何れか一つである。R5は、水素、メチル基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、アミン基、ニトロ基、ニトリル基、およびアルキル鎖からなる群から選択される何れか一つである。R3、R4、およびR5は、互いに異なる官能基である。
液晶材料は、組成の異なる複数の液晶分子の混合物であってもよい。例えば、ネマチック液晶分子と、スメクチック液晶分子との混合物を光導波層20の材料として用いてもよい。
図63および図65の構成例を、第1のミラー30と、それ以外の構成とを貼り合わせることによって形成してもよい。これにより、製造が容易になる。また、スペーサ73が固体材料であれば、第1のミラー30を蒸着またはスパッタリングなどの方法によって形成してもよい。
図61、図63および図65の構成例において、第2のミラー40が複数の導波路素子10によって共用されていることを前提に、第1のミラー30の構成を説明した。当然、上記の議論は、第2のミラー40にも適用できる。すなわち、Y方向において、第1および第2のミラー30および40の少なくとも一方の幅が、光導波層20の幅よりも長ければ、光導波層20からのエバネッセント光の漏れ出しを抑制することができる。その結果、光スキャンに用いられる光量の低下は抑制される。
<光導波層およびスペーサに関する検討>
次に、第1のミラー30と第2のミラー40との間における、光導波層20(以下、「光導波領域20」とも称する。)およびスペーサ73(以下、「非導波領域73」とも称する。)の構成が導波モードに与える影響を詳しく説明する。以下の説明において、「幅」とはY方向の幅を意味し、「厚さ」とはZ方向の厚さを意味する。
図63の構成例を導波モードの計算モデルとする。計算に用いたパラメータは以下の通りである。第1のミラー30は、屈折率が2.1の材料と、屈折率が1.45の材料とを交互に12ペア積層した多層反射膜であり、第2のミラー40は、同じ2つの材料を17ペア積層した多層反射膜である。光導波領域20の厚さはh=0.65μmであり、光導波領域20の屈折率は1.6である。非導波領域73の厚さはh=0.65μmであり、非導波領域73の屈折率は1.45である。光の波長はλ=940nmである。
非導波領域73の幅を光導波領域20の幅よりも十分大きくし、光導波領域20の幅を変えたときの導波モードの電界分布を計算した。これにより、図64Aおよび64Bの例に示すようなY方向およびZ方向に依存する電界分布が得られる。Y方向およびZ方向に依存する電界分布をZ方向に積分することによって、Y方向における電界分布が得られる。Y方向における電界分布の分散σを計算するために、ガウス関数を用いたフィッティングを行った。ガウス関数では、-3σ≦Y≦3σの範囲に99.73%の成分が存在する。そこで、6σがY方向における電界分布の広がりに相当するとして、分析を行った。以下、「電界の広がり」とは、Y方向における6σの電界の広がりを意味する。
図67は、光導波領域20の幅と電界の広がりとの関係を示す図である。図67の例に示すように、光導波領域20の幅がw=3μm以上の場合、導波モードの電界の広がりは光導波領域20の幅より小さい。光導波領域20の幅がw=3μm以下の場合、導波モードの電界の広がりは光導波領域20の幅より大きく、非導波領域73に染み出す。
次に、非導波領域73が複数の部材を含む構成例を説明する。
図68は、本実施形態における、光導波領域20および非導波領域73の構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。
本実施形態における光スキャンデバイスは、第1のミラー30と、第2のミラー40と、2つの非導波領域73と、光導波領域20とを備える。
第1のミラー30は、光透過性を有し、第2のミラー40は、第1のミラー30に対向する。
2つの非導波領域73は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、Y方向に間隙を空けて並ぶ。Y方向は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に平行である。
光導波領域20は、第1のミラー30と第2のミラー40との間で、且つ、2つの非導波領域73の間に位置する。光導波領域20は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い平均屈折率を有する。光導波領域20は、X方向に沿って光を伝搬させる。X方向は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に平行で、且つ、Y方向に垂直である。
光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45によって構成される領域を含む。光導波領域20または2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの部材46をさらに含む。図示されるように、当該少なくとも1つの部材46は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接していてもよい。
第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い光透過率を有する。第1のミラー30は、光導波領域20内を伝搬する光の一部を、光導波領域20から、XY平面に交差す方向に出射する。XY平面は、X方向およびY方向によって形成される平面である。外部の調整素子は、光導波領域20の屈折率および/または厚さを変化させる。これにより、光導波領域20から出射される光の方向が変化する。より具体的には、外部の調整素子により、出射される光の波数ベクトルのX成分が変化する。
図68に示す例では、光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45を含み、2つの非導波領域73の各々は、部材46を含む。部材46は第2のミラー40に接する。部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも低いとき、光導波領域20の平均屈折率は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い。これにより、光は、光導波領域20を伝搬することができる。共通の材料45および部材46の各々は、例えば、SiO、TaO、TiO、AlO、SiN、AlN、およびZnOからなる群から選択される一種類の材料であり得る。Z方向において、部材46の寸法が、第1のミラー30と第2のミラー40の間の距離(以下、「ミラー間距離」と称する。)のr倍(0≦r≦1)であるとき、非導波領域73の平均屈折率は、nave=n1×r+n2×(1-r)である。以下、「部材の寸法」とは、Z方向における部材の寸法を意味する。
図68に示す例において、導波モードをさらに詳しく分析した。第1のミラー30および第2のミラー40の構成は、図67に示す計算に用いた構成と同じである。計算に用いた屈折率は、n1=1.45およびn2=1.6である。光導波領域20の幅はw=6μmである。光導波領域20の幅は、2つの離れた非導波領域73の距離でもある。光導波領域20の厚さは、h=0.65μmまたは2.15μmである。これらの厚さは、それぞれ式(13)における2次(m=2)および7次(m=7)のモードに対応する。非導波領域73の厚さは、光導波領域20の厚さと同じである。ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rによって導波モードの電界の広がりがどのように変化するか調べた結果を以下に示す。
図69Aは、r=0.1およびh=2.15μmの場合における導波モードの電界分布の計算結果を示す図である。図69Bは、r=0.5およびh=2.15μmの場合における導波モードの電界分布の計算結果を示す図である。いずれの場合においても、図64Bに示す導波モードと同様の導波モードが存在することが確認できる。r=0.1の場合(図69A)の方が、r=0.5の場合(図69B)よりも、電界分布がY方向により広がることがわかる。
図70は、光導波領域20の幅がw=6.0μmである場合における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。光導波領域20の厚さは、h=0.65μm(m=2、図中の実線)またはh=2.15μm(m=7、図中の点線)である。図70に示すように、rを小さくする、すなわち、部材46の寸法を小さくするほど、電界の広がりが大きくなることがわかる。2次および7次の導波モードにおいて、電界の広がりはほとんど同じ振舞いを示す。特に、r≦0.2では、電界の広がりが急激に大きくなり、光導波領域20の幅(w=6.0μm)を超えることがわかる。
図71は、図70の例における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと導波モードの消衰係数との関係を示す図である。図71の例に示すように、rを変化させても、消衰係数のオーダー(10-5)はほとんど同じである。すなわち、消衰係数はrにほとんど依存しない。しかし、電界が非導波領域73まで広がると、様々な要因で散乱または吸収が増大し得る。例えば、非導波領域73の端が平滑でないとき、非導波領域73にパーティクルが存在する場合、または、非導波領域73自体が光吸収する場合には、光導波領域20を伝搬する光に損失が生じる。したがって、電界の広がりが非導波領域73に染み出さない条件であるr≧0.2が望ましい。
次に、光導波領域20の幅、すなわち、2つの離れた非導波領域73の距離がw=3μmである構成例を分析した。これは、r=1である図67に示すように、電界の広がりがちょうど光導波領域20の幅と同程度である条件である。
図72は、光導波領域20の幅がw=3.0μmである場合における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。図70の例と同様に、r≦0.2では、電界の広がりが急激に大きくなることがわかる。r<0.1では、電界の広がりは6μmを超える。
たとえ導波モードの電界が過度に広がっても、単体の光導波領域20を用いて光スキャンデバイスを構成するときには問題ない。しかし、光導波領域20をアレイ化した光スキャンデバイスでは、導波モードの電界の過度な広がりは避けることが望ましい。当該光スキャンデバイスにおいて、2つの光導波領域20に挟まれた非導波領域73の幅が3μm以下の場合、光導波領域20の導波モードの電界は、隣の光導波領域20の導波モードの電界と非導波領域73において重なり合う。その結果、光導波領域20を伝搬する光の少なくとも一部が、隣の光導波領域20に伝わるというクロストーク現象が生じ得る。クロストーク現象は、複数の光導波領域20から出射される光の干渉効果に影響を及ぼし得る。
上記の理由から、本実施形態においては、例えばr≧0.1に設定される。さらに、r≧0.2であれば、ほとんどの電界が光導波領域20の内部に分布することができる。r<0.1であっても、非導波領域73の幅が光導波領域20の幅よりも大きければ、クロストーク現象を回避することができる。すなわち、他の実施形態における光スキャンデバイスにおいては、r<0.1にすることも可能である。
本実施形態における光スキャンデバイスでは、共通の材料45にコストの安い材料を用いることにより製造コストを下げることができる。
<変形例>
図73は、本実施形態の変形例における、光導波領域20および非導波領域73の構成を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図73に示す例では、光導波領域20および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料45を含み、光導波領域20は、部材46を含む。部材46は、第2のミラー40に接する。部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも高いとき、光導波領域20の平均屈折率は、非導波領域73の平均屈折率よりも高い。これにより、光は光導波領域20を伝搬することができる。この構成では、共通の材料45および部材46の各々は、例えば、SiO、TaO、TiO、AlO、SiN、AlN、およびZnOからなる群から選択される一種類の材料であり得る。共通の材料45として空気などの気体または液体を用いてもよい。その場合には、厚さを容易に変化させることができる。つまり、図73に示す構成は、厚さを変調する方式に有利である。
図74は、図73の例における、ミラー間距離に対する部材46の寸法の比rと電界の広がりとの関係を示す図である。計算に用いた屈折率はn1=1.6およびn2=1.45である。光導波領域20の幅はw=3.0μmであり、光導波領域20の厚さはh=0.65μm(m=2)である。図74の例からわかるように、本変形例においても、図70および72の例と同様に、r≦0.2において電界の広がりは急激に大きくなる。
第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方の反射面に段差を設けることによっても、光導波領域20または非導波領域73を形成することができる。当該段差を設けることによって生じる凸部は、共通の材料45とは異なる屈折率を有する部材46に相当する。
図75Aは、第2のミラー40の反射面の一部に、他の部分から盛り上がった凸部が設けられた例を示す断面図である。この例では、凸部が、前述の例における部材46に相当する。このため、以下の説明では、凸部を「部材46」と称する。この例における凸部、すなわち部材46は、第2のミラー40と同一の材料から形成されている。部材46は、第2のミラー40の一部であるともいえる。図75Aに示す例では、共通の材料の屈折率n2が、部材46の平均屈折率よりも低い。この例では、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
図75Bは、第2のミラー40の反射面の一部に凸部が設けられた他の例を模式的に示す断面図である。図75Bに示す例では、共通の部材の屈折率n2が、凸部46の平均屈折率よりも高い。この例では、Z方向から見たときに、凸部、すなわち部材46を含まない領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。
図75Aおよび75Bに示すように、共通の材料45の屈折率と部材46の屈折率との大小関係により、光導波領域20および非導波領域73が決まる。
図76は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、第1のミラー30側に2つの部材46が離れて配置されている構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図77は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、第1のミラー30および第2のミラー40の両側の各々に2つの部材46が離れて配置されている構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図76の例において、2つの部材46は第1のミラー30に接し、図77の例において、上の2つの部材46は第1のミラー30に接し、下の2つの部材46は第2のミラーに接する。部材46の屈折率はn1であり、共通の材料45の屈折率はn2である。n1<n2の場合、Z方向から見たときに、部材46を含まない領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。n1>n2の場合、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
図78は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第1のミラー30側に2つの部材46が離れて配置され、第2のミラー40側に他の部材47が配置されている構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図78の例において、2つの部材46は第1のミラー30に接し、他の部材47は第2のミラー40に接する。Z方向から見たときに、部材46と他の部材47とは重なり合わない。共通の材料45の屈折率はn2であり、部材46の屈折率はn1であり、他の部材47の屈折率はn3である。部材46と他の部材47において、屈折率および寸法の少なくとも1つは異なっていてもよい。
Z方向から見たときに、部材46を含む領域の平均屈折率が他の部材47を含む領域の平均屈折率よりも大きいとき、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、他の部材47を含む領域が非導波領域73に相当する。Z方向から見たときに、部材46を含む領域の平均屈折率が他の部材47を含む領域の平均屈折率よりも小さいとき、他の部材47を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。
例えば、部材46の屈折率n1が共通の材料45の屈折率n2よりも低く、他の部材47の屈折率n3が共通の材料45の屈折率n2よりも高い構成(n1<n2<n3)を想定する。この場合、Z方向から見たときに、他の部材47を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含む領域が非導波領域73に相当する。光導波領域20が共通の材料45の屈折率n2よりも高い屈折率n3を有する少なくとも1つの他の部材47を含むことにより、光導波領域20の平均屈折率と非導波領域73の平均屈折率との差が大きくなる。これにより、光導波領域20の導波モードの非導波領域73への染み出しを抑制することができる。
図79は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第2のミラー40側に2つの部材46が離れて配置されている構成例を模式的に示す光スキャンデバイスの断面図である。図79の例では、光スキャンデバイスは、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を固定する2つの支持部材76をさらに備える。2つの支持部材76は、2つの非導波領域の外側に位置する。
図80は、第1のミラー30と第2のミラー40の間において、第1のミラー30および第2のミラー40の両側の各々に部材46が配置されている構成例を示す断面図である。Z方向から見たときに、上下の2つの部材46は重なり合う。共通の材料45が空気であれば、Z方向から見たときに、部材46を含む領域が光導波領域20に相当し、部材46を含まない領域が非導波領域73に相当する。
光スキャンデバイスにおいて、外部の調整素子は、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に接続されたアクチュエータ78を備えてもよい。アクチュエータ78は、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波領域20の厚さを変化させることができる。
アクチュエータ78は、圧電部材を含み、圧電部材を変形させることにより、第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させてもよい。これにより、光導波領域20から出射される光の方向を変化させることができる。圧電部材の材料は、図37~43の例において説明した通りである。
また、図68、73、75A,75Bおよび76~80に示す共通の材料45が液晶であると、外部の調整素子は、光導波領域20を間に挟む一対の電極を備えてもよい。外部の調整素子は、当該一対の電極に電圧を印加する。これにより、光導波領域20の屈折率が変化する。その結果、光導波領域20から出射される光の方向が変化する。
上記の光導波領域20および2つの非導波領域73をアレイ化して光スキャンデバイスを構成してもよい。当該光スキャンデバイスは、上記の光導波領域20を含む複数の光導波領域と、上記の2つの非導波領域73を含む複数の非導波領域とを備える。複数の光導波領域の各々の平均屈折率は、複数の非導波領域の各々の平均屈折率よりも高い。複数の光導波領域および複数の非導波領域は、第1のミラー30と第2のミラー40の間においてY方向に交互に並ぶ。
当該光スキャンデバイスは、複数の光導波領域にそれぞれ接続された複数の位相シフタをさらに備えてもよい。複数の位相シフタのそれぞれは、複数の光導波領域の対応する1つにおける光導波領域20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。
各位相シフタにおける導波路は、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含んでもよい。上記外部の調整素子を、外部の第1調整素子とする。外部の第1調整素子と異なる外部の第2調整素子は、各位相シフタにおける導波路に電圧を印加する、または導波路の温度を変化させる。これにより、導波路内の屈折率が変化し、複数の位相シフタから複数の光導波領域に伝搬する光の位相の差がそれぞれ変化する。その結果、複数の光導波領域から出射される光の方向が変化する。より具体的には、外部の第2調整素子により、出射される光の波数ベクトルのY成分が変化する。
<光導波領域と非導波領域との間に中間領域を設けた構成例>
次に、光導波領域20と2つの非導波領域73との間に2つの中間領域25を備える光スキャンデバイスの構成例を説明する。
前述の反射型導波路においては、光導波領域20と非導波領域73とが隣接している。光導波領域20と非導波領域73との界面で、屈折率が急激に変化し得る。本発明者らは、このような反射型導波路において、導波モードの電界が光導波領域20および非導波領域73に跨って分布すると、導波光のロスが大きくなり得ることを見出した。本発明者らは、図81に示すように、光導波領域20と非導波領域73との間に、中間の屈折率をもつ中間領域25を設けることにより、導波光のロスを低減できることを見出した。以下、このような構成の例を説明する。
図81は、光導波領域20と2つの非導波領域73との間に、2つの中間領域25を備える光スキャンデバイスの構成例を模式的に示す断面図である。
導波領域20、2つの中間領域25、および2つの非導波領域73は、第1のミラー30と第2のミラー40に挟まれている。2つの非導波領域73は、Y方向に間隙を空けて並ぶ。
光導波領域20は、2つの非導波領域73の間にある。光導波領域20と2つの非導波領域73の一方との間には間隙がある。また、光導波領域20と2つの非導波領域73の他方との間にも間隙がある。前述のように、光導波領域20は、X方向に沿って光を伝搬させる。
2つの中間領域25は、2つの非導波領域73と光導波領域20との間の領域である。一方の中間領域25は、光導波領域20と一方の非導波領域73に挟まれている。他方の中間領域25は、光導波領域20と他方の非導波領域73に挟まれている。
図81に示す構成では、光導波領域20、中間領域25、および非導波領域73の各々は、一様な屈折率を有する媒質で満たされている。すなわち、各領域の屈折率は、X、Y、Zの各方向に沿って実質的に変化しない。後述するように、光導波領域20および中間領域25の各々の屈折率は、Z方向に沿って変化していてもよい。各中間領域25の屈折率は、X方向に沿って変化していてもよい。各中間領域25の屈折率は、Y方向に沿って変化していてもよい。
各中間領域25の平均屈折率は、光導波領域20の平均屈折率と、各非導波領域73の平均屈折率との中間の値である。すなわち、光導波領域20の平均屈折率は、各中間領域25の平均屈折率よりも高い。各中間領域25の平均屈折率は、各非導波領域73の平均屈折率よりも高い。
第1のミラー30は、第2のミラー40よりも高い光透過率を有し、光導波領域20内を伝搬する光の一部を、光導波領域20から、XY平面に交差する方向に出射する。図81には示されていない調整素子は、光導波領域20の屈折率および/または厚さを変化させる。これにより、光導波領域20から出射される光の方向が変化する。より具体的には、調整素子による制御により、出射される光の波数ベクトルのX成分が変化する。
本発明者らは、図81の構成について電磁界解析を行い、導波モードの光のロスを低減する効果を検証した。本解析の条件は以下のとおりである。
第1のミラー30として、屈折率が2.1の材料と、屈折率が1.45の材料とを交互に12ペア積層した多層反射膜を用いた。第2のミラー40として、同じ2つの材料を16ペア積層した多層反射膜を用いた。光導波領域20、中間領域25、および非導波領域73の屈折率は、それぞれn1=1.6、n2=1.55、およびn3=1.45とした。すなわち、n1>n2>n3である。光導波領域20、中間領域25、および非導波領域73の各々の屈折率は、一様、すなわち、X方向、Y方向、およびZ方向のいずれの方向についても一定であるものとした。光導波領域20の厚さがh=0.65μmおよび2.15μmの場合について検証した。0.65μmおよび2.15μmの厚さは、それぞれ式(13)における2次(m=2)および7次(m=7)のモードに対応する。各中間領域25の厚さおよび各非導波領域73の厚さは、光導波領域20の厚さと同じ値に設定した。光の波長はλ=940nmに設定した。光導波領域20の幅をw1とし、中間領域25の幅をw2として、w1およびw2に対する導波光の消衰係数の依存性を解析した。
図82は、光導波領域20の幅w1が3μmである場合における、中間領域25の幅w2と各導波モードの消衰係数との関係を示す図である。w2=0μmは、中間領域25がないことを意味する。中間領域25があると、消衰係数は、中間領域25がないときよりも小さいくなる。w2を増加させると、消衰係数は振動しながら変化する。w2≧1.5μmでは、消衰係数は一定である。これは、光導波領域20の中心をY=0μmとすると、導波モードの電界分布が、-3μm≦Y≦3μmの範囲にすべて存在することに起因する。そのため、w2≧1.5μmでは、非導波領域73は導波モードに影響を与えない。w2≧1.5μmでは、中間領域25は、単にスペーサの役割を果たすといえる。すなわち、この計算条件では、中間領域25の幅がw2≧1.5μmである構成は、中間領域25の幅がw2=0で、かつ非導波領域73の屈折率がn3=1.55である構成と実質的に同じである。
中間領域25の存在により、光導波領域20から非導波領域73にシフトするにつれて、屈折率は、n1からn2を介してn3へと緩やかに減少する。図82に示す計算結果から、上記の条件では、この屈折率の緩やかな減少によって消衰係数が変化する効果が得られるのは、w2≦1.5μmであった。さらに、h=2.15μmの計算結果(m=7、図中の点線)から、0.4μm≦w2≦1μmでは、w2≧1.5μmの場合よりも、小さい消衰係数が得られることがわかる。すなわち、0.4μm≦w2≦1μmでは、中間領域25の顕著な効果が現れる。h=0.65μmの計算結果(m=2、図中の実線)からは、0.4μm≦w2≦0.6μmにおいて同様の顕著な効果が現れることがわかる。光導波領域20と非導波領域73との間における中間領域25の幅を調整することにより、導波光のロスを低減させ、さらに最小化させることができる。
図83は、光導波領域20の幅がw1=6μmである場合における、中間領域25の幅w2と導波モードの消衰係数との関係を示す図である。図83に示す結果は、計算条件を、w1=6μmにしたこと以外は、前述の計算条件と同じである。図83に示すように、図82に示す結果と同様の傾向が確認できる。
図84は、光導波領域20の厚さがh=1.1μmであり、波長がλ=1.5μmである場合における、中間領域25の幅w2と導波モードの消衰係数との関係を示す図である。この例における計算条件は、h=1.1μmおよびλ=1500nm以外は、図83に示す例の計算条件と同じである。なお、第1のミラー30および第2のミラー40の各々の多層膜の厚さは、波長1500nmに対して反射率が十分に高くなるように変更されている。図84に示す例でも、w2≦1.5μmにおいて、中間領域25の効果が見られる。特に、0.6μm≦w2≦1.5μmにおいて、中間領域25の顕著な効果が現れる。この0.6μm≦w2≦1.5μmという範囲は、図82に示す例における0.4μm≦w2≦1μmをちょうど1.5倍に増加させた範囲である。これは、波長を940nmから1500nmへと変更したことに起因する。すなわち、中間領域25の顕著な効果が現れる範囲は、波長λにほぼ比例するといえる。したがって、中間領域25の幅が0.4λ≦w2≦0.8λである場合には、特に顕著な効果が得られるといえる。
以上のように、光導波領域20と、その両側の非導波領域73との間に、2つの中間領域25を設けることにより、光導波領域20から漏洩する光のロスを低減させることができる。この効果は、光導波領域20および中間領域25の各々が一様な媒質である場合に限らず、各領域が複数の媒質から形成されている場合にも得ることができる。以下に、図81に示す構成と同様の効果が得られる構成のいくつかの例を説明する。
図85は、第1のミラー30と第2のミラー40との間にテーパー状の部材(第2の共通の材料の一例)46がある構成例を模式的に示す図である。部材46の屈折率は、部材46の周囲の媒質、すなわち非導波領域73を形成する媒質の屈折率よりも大きい。以下の説明では、部材46の周囲の媒質を「低屈折率媒質」と称することがある。
この例における部材46は、底面が台形である角柱形状を有し、X方向に沿って延びている。部材46におけるX方向に延びる4つの側面のうち、互いに平行な対向する2つの側面は、第1のミラー30および第2のミラー40にそれぞれ接している。他の2つの側面46sは、Z方向に対して傾斜している。互いに平行な2つの側面のうち、面積の小さい面は第1のミラー30に接し、面積の大きい面は第2のミラー40に接している。この例とは逆に、面積の大きい面が第1のミラー30に接し、面積の小さい面が第2のミラー40に接していてもよい。後述する他の例のように、部材46と、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方との間に間隙が存在していてもよい。当該間隙は、上記の低屈折率媒質(第1の共通の材料の一例)で満たされ得る。
導波光は、主に部材46内をX方向に沿って伝搬する。そこで、この部材46を「導波部材46」と呼ぶこともできる。導波部材46は、台形状の断面を有する構造に限らず、多様な構造を有し得る。
図85の例では、光導波領域20は、部材46の一部によって構成される。光導波領域20は、部材46を構成する材料のみを含む。2つの中間領域25は、部材46の残りの部分と、低屈折率媒質とによって形成される。2つの非導波領域73は、低屈折率媒質のみを含む。光導波領域20と中間領域25とは、導波部材46における傾斜した側面46aを含むか否かによって区別される。光は、主に導波領域20に沿ってX方向に伝搬する。光の一部は中間領域25にも染み出すが、非導波領域73には到達しない。
この例における各中間領域25の屈折率は、Y方向(第1の方向の一例)とZ方向(すなわち、ミラー30および40の反射面の法線方向)とに沿って変化する。より具体的には、Y方向およびZ方向のいずれにおいても、導波部材46と低屈折率媒質との境界で屈折率が変化する。他方、導波部材46の屈折率は、X方向については一定である。導波領域20および非導波領域73の各々の屈折率は、X、Y、Z方向の各々について一定である。
図85に示す例では、部材46のYZ平面に平行な断面は台形の形状を有する。つまり、部材46はテーパー形状を有する。中間領域25では、光導波領域20の材料と、非導波領域73の材料とが混在している。したがって、中間領域25の屈折率は、光導波領域20の屈折率および非導波領域73の屈折率の中間の値をもつと考えることができる。本開示において、領域が屈折率の異なるM個のサブ領域A
1~A
Mから構成される場合、その領域の平均屈折率をN、サブ領域A
mの屈折率をN
m、サブ領域A
mの体積をV
m、mを1~Mの整数、領域全体の体積をVとすると、以下の式が満たされる。
中間領域25における平均屈折率をn
2とすると、図85に示すデバイスは、図81に示すデバイスと同様の導波特性を有する。中間領域25のY方向における幅w
2は、図82を参照して説明した理由から、例えばw
2≦1.5μmであり得る。さらには、0.4μm≦w
2≦1μmである場合には、より高い特性が得られる。
図86Aから86Dは、図85に示す構成の変形例を模式的に示す図である。以下の説明において、便宜上、第1のミラー30側を上とし、第2のミラー40側を下とする。
図86Aから86Dに示す例では、光導波領域20の屈折率は、Y方向とZ方向とに沿って一定である。図86Aおよび86Bに示す例では、各中間領域25の屈折率は、Y方向とZ方向とに沿って変化する。すなわち、各中間領域25の屈折率は、Y方向よびZ方向のいずれにおいても非一様である。図86Cおよび86Dに示す例では、各中間領域25の屈折率は、Y方向に沿って一定であるが、Z方向については一定ではない。
図86Aに示す例では、部材46のYZ断面は、台形と長方形とを結合した形状を有する。図86Bに示す例では、部材46のYZ断面は、上辺が下辺よりも長い台形の形状を有する。図86Cに示す例では、部材46のYZ断面は、幅の異なる2つの長方形を結合した形状を有する。図86Dに示す例では、部材46のYZ断面は、3つの長方形を結合した形状を有する。3つの長方形は、Z方向に並ぶ。3つの長方形を、下から順に下段、中段、および上段と称することにすると、上段および下段の幅は等しく、中段の幅は上段および中段の幅よりも短い。
部材46におけるZ方向に対して傾斜した側面の構造は平坦でなくてもよい。当該側面は、中間領域25中でZ方向に対する傾きが変化していてもよい。図86Aに示すように、傾斜した側面が第1のミラー30または第2のミラー40に達していなくてもよい。テーパー状の側面は、平坦でなくてもよく、凹部または凸部を有していてもよい。図86Cおよび図86Dに示すように、部材46の左右の側面は、段差を有していてもよい。
部材46の幅は、図86Bに示すように、第1のミラー30の側から第2のミラー40の側に向かって単調に減少してもよい。逆に、図85に示すように、第1のミラー30の側から第2のミラー40の側に向かって単調に増加してもよい。部材46の幅は、第1のミラー30の側から第2のミラー40の側に向かって一旦大きくなり、その後小さくなってもよい。あるいは、その逆であってもよい。
本実施形態における光スキャンデバイスでは、図68、73、75A、75Bおよび76~80に示す各例における部材46をテーパー状にしてもよい。すなわち、上記の各例における部材46におけるZ方向に平行な対向する2つの側面を、Z方向に対して傾斜するように改変してもよい。そのように改変することを、以下の説明では「部材46にテーパーを付ける」と表現することがある。
光導波領域20、2つの中間領域25の各々、および2つの非導波領域73の各々は、共通の材料(第1の共通の材料の一例)45によって構成される領域を含んでもよい。また、光導波領域20、および2つの中間領域25の各々は、共通の部材(第2の共通の材料の一例)46によって構成される領域を含んでもよい。
図87は、図73に示す例における部材46にテーパーを付けた構成の例を模式的に示す図である。図87に示す例では、光導波領域20の屈折率は、Y方向に沿って一定であるが、Z方向には一定ではない。各中間領域25の屈折率は、Y方向とZ方向とに沿って変化する。図87に示す例では、部材46は、第2のミラー40には接しているが、第1のミラー30には接していない。部材46の屈折率は、共通の材料45の屈折率よりも大きい。
図68、73、75A、75Bおよび76~80の各々に示す構成に、図87に示す部材46の構造を適用してもよい。Y方向における光導波領域20の幅は、例えばw1≧3μmであってもよい。ミラー間距離に対する部材46の寸法の割合であるrは、例えばr≧0.1またはr≧0.2であってもよい。また、図79に示す支持部材76を、図87に示す構造に適用してもよい。図80に示すアクチュエータ78を、図87に示す構造に適用してもよい。
図88は、図85に示す例において、テーパーを付けた部材46aの左右の側面が中間部材46bで覆われた構成例を模式的に示す図である。この例では、光導波領域20は1種類の屈折率を有する1つの領域のみを含む。また、各中間領域25は、3種類の屈折率を有する3つの領域を含む。各中間領域25は、2種類または4種類以上の屈折率を有する2つまたは4つの領域を含んでいてもよい。
図88に示す例では、光導波領域20の屈折率は、Y方向とZ方向とに沿って一定であり、各中間領域25の屈折率は、Y方向とZ方向とに沿って3段階に変化する。図88に示す例では、テーパーを付けた部材46aを形成した後に、テーパー部分のみに中間部材46bの薄膜が形成される。
図89は、図85に示す例において、テーパーを付けた部材46aの左右の側面および上辺が中間部材46bで覆われた構成例を模式的に示す図である。この例では、光導波領域20は2種類の屈折率を有する2つの領域を含み、各中間領域25は3種類の屈折率を有する3つの領域を含む。このように、光導波領域20および中間領域25の各々は、屈折率が互いに異なる複数の層を含んでいてもよい。非導波領域73は、前述の各例では一様媒質であるが、同様に屈折率が互いに異なる複数の領域を含んでいてもよい。
図89に示す例では、テーパーを付けた部材46aを形成した後に、上からスパッタ法などによってテーパー部分および上辺に中間部材46bの薄膜が形成される。このような方法により、簡単なプロセスで図89に示すデバイスを製造できる。
上記の光導波領域20、2つの非導波領域73、および2つの中間領域25をアレイ化して光スキャンデバイスを構成してもよい。そのような光スキャンデバイスは、上記の光導波領域20を含む複数の光導波領域と、上記の2つの非導波領域73を含む複数の非導波領域と、上記の2つの中間領域25を含む複数の中間領域とを備える。複数の光導波領域の各々の平均屈折率は、複数の中間領域の各々の平均屈折率よりも高い。複数の中間領域の各々の平均屈折率は、複数の非導波領域の各々の平均屈折率よりも高い。複数の光導波領域および複数の非導波領域は、第1のミラー30と第2のミラー40との間において、Y方向に交互に並ぶ。複数の中間領域の各々は、隣接する光導波領域と非導波領域の間に配置される。これらの複数の光導波領域、複数の非導波領域、および複数の中間領域は、本開示の何れかの実施形態/変形例に係る導波路アレイ10Aに適用してもよい。
当該光スキャンデバイスは、複数の光導波領域にそれぞれ接続された複数の位相シフタをさらに備えてもよい。複数の位相シフタのそれぞれは、複数の光導波領域の対応する1つに直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。
各光導波領域の屈折率または厚さを変化させる調整素子を第1調整素子とする。光スキャンデバイスは、第1調整素子とは異なる第2調整素子をさらに備えていてもよい。第2調整素子は、複数の位相シフタから複数の光導波領域へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させる。これにより、複数の光導波領域から出射される光の第3の方向が変化する。
各位相シフタにおける導波路は、電圧の印加または温度変化に応じて屈折率が変化する材料を含んでもよい。第2調整素子は、各位相シフタにおける導波路に電圧を印加する、または導波路の温度を変化させる。これにより、導波路内の屈折率が変化し、複数の位相シフタから複数の光導波領域に伝搬する光の位相の差がそれぞれ変化する。その結果、複数の光導波領域から出射される光の方向が変化する。より具体的には、外部の第2調整素子により、出射される光の波数ベクトルのY成分が変化する。
<応用例>
図90は、回路基板(たとえば、チップ)上に光分岐器90、導波路アレイ10A、位相シフタアレイ80A、および光源130などの素子を集積した光スキャンデバイス100の構成例を示す図である。光源130は、例えば、半導体レーザーなどの発光素子であり得る。この例における光源130は、自由空間における波長がλである単一波長の光を出射する。光分岐器90は、光源130からの光を分岐して複数の位相シフタにおける導波路に導入する。図90の構成例において、チップ上には電極62aと、複数の電極62bとが設けられている。導波路アレイ10Aには、電極62aから制御信号が供給される。位相シフタアレイ80Aにおける複数の位相シフタ80には、複数の電極62bから制御信号がそれぞれ送られる。電極62a、62bは、上記の制御信号を生成する不図示の制御回路に接続され得る。制御回路は、図90に示すチップ上に設けられていてもよいし、光スキャンデバイス100における他のチップに設けられていてもよい。
図90に示すように、全てのコンポーネントをチップ上に集積することで、小型のデバイスで広範囲の光スキャンが実現できる。例えば2mm×1mm程度のチップに、図90に示される全てのコンポーネントを集積することができる。
図91は、光スキャンデバイス100から遠方にレーザーなどの光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。2次元スキャンは、ビームスポット310を水平および垂直方向に移動させることによって実行される。例えば、公知のTOF(Time Of Flight)法と組み合わせることで、2次元の測距画像を取得することができる。TOF法は、レーザーを照射して対象物からの反射光を観測することで、光の飛行時間を算出し、距離を求める方法である。
図92は、そのような測距画像を生成することが可能な光検出システムの一例であるLiDARシステム300の構成例を示すブロック図である。LiDARシステム300は、光スキャンデバイス100と、光検出器400と、信号処理回路600と、制御回路500とを備えている。光検出器400は、光スキャンデバイス100から出射され、対象物から反射された光を検出する。光検出器400は、例えば光スキャンデバイス100から出射される光の波長λに感度を有するイメージセンサ、またはフォトダイオードなどの受光素子を含むフォトディテクタであり得る。光検出器400は、受光した光の量に応じた電気信号を出力する。信号処理回路600は、光検出器400から出力された電気信号に基づいて、対象物までの距離を計算し、距離分布データを生成する。距離分布データは、距離の2次元分布を示すデータ(すなわち、測距画像)である。制御回路500は、光スキャンデバイス100、光検出器400、および信号処理回路600を制御するプロセッサである。制御回路500は、光スキャンデバイス100からの光ビームの照射のタイミングおよび光検出器400の露光および信号読出しのタイミングを制御し、信号処理回路600に、測距画像の生成を指示する。
2次元スキャンにおいて、測距画像を取得するフレームレートとして、例えば一般的に動画でよく使われる60fps、50fps、30fps、25fps、24fpsなどから選択することができる。また、車載システムへの応用を考慮すると、フレームレートが大きいほど測距画像を取得する頻度が上がり、精度よく障害物を検知できる。例えば、60km/hでの走行時において、60fpsのフレームレートでは車が約28cm移動するごとに画像を取得することができる。120fpsのフレームレートでは、車が約14cm移動するごとに画像を取得することができる。180fpsのフレームレートでは車が、約9.3cm移動するごとに、画像を取得することができる。
1つの測距画像を取得するために必要な時間は、ビームスキャンの速度に依存する。例えば、解像点数が100×100のイメージを60fpsで取得するためには1点につき1.67μs以下でビームスキャンをする必要がある。この場合、制御回路500は、600kHzの動作速度で、光スキャンデバイス100による光ビームの出射、および光検出器400による信号蓄積・読出しを制御する。
<光受信デバイスへの応用例>
本開示における光スキャンデバイスは、ほぼ同一の構成で、光受信デバイスとしても用いることができる。光受信デバイスは、光スキャンデバイスと同一の導波路アレイ10Aと、受信可能な光の方向を調整する第1調整素子60とを備える。導波路アレイ10Aの各第1のミラー30は、第3の方向から第1の反射面の反対側に入射する光を透過させる。導波路アレイ10Aの各光導波層20は、第2の方向に第1のミラー30を透過した光を伝搬させる。第1調整素子60が各導波路素子10における光導波層20の屈折率および/または厚さを変化させることにより、受信可能な光の方向を変化させることができる。さらに、光受信デバイスが、光スキャンデバイスと同一の複数の位相シフタ80、または80aおよび80bと、複数の導波路素子10から複数の位相シフタ80、または80aおよび80bを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させる第2調整素子を備えている場合には、受信可能な光の方向を2次元的に変化させることができる。
例えば、図90に示す光スキャンデバイス100における光源130を受信回路に置換した光受信デバイスを構成することができる。導波路アレイ10Aに波長λの光が入射すると、その光は位相シフタアレイ80Aを通じて光分岐器90へ送られ、最終的に一箇所に集められ、受信回路に送られる。その一箇所に集められた光の強度は、光受信デバイスの感度を表すといえる。光受信デバイスの感度は、導波路アレイおよび位相シフタアレイ80Aに別々に組み込まれた調整素子によって調整することができる。光受信デバイスでは、例えば図26において、波数ベクトル(図中の太い矢印)の方向が反対になる。入射光は、導波路素子10が延びる方向(図中のX方向)の光成分と、導波路素子10の配列方向(図中のY方向)の光成分とを有している。X方向の光成分の感度は、導波路アレイ10Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。一方、導波路素子10の配列方向の光成分の感度は、位相シフタアレイ80Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。光受信デバイスの感度が最大になるときの光の位相差Δφ、光導波層20の屈折率nwおよび厚さdから、θおよびα0(式(16)および式(17))がわかる。このため、光の入射方向を特定することができる。
図68、73、および75A~80の例における光導波領域20および2つの非導波領域73を用いて光受信デバイスを構成してもよい。当該光受信デバイスでは、光導波領域20は、XY平面に交差する方向から第1のミラー30を介して光導波領域20に入射した光をX方向に伝搬させる。第1調整素子は、光導波領域20の屈折率および/または厚さを変化させることにより、受信可能な光の方向が変化させる。
光導波領域20および非導波領域73をアレイ化した上述の光スキャンデバイスと同様の構成を光受信デバイスとして用いてもよい。当該光受信デバイスでは、第2調整素子は、複数の光導波領域から複数の位相シフタを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、受信可能な光の方向が変化させる。
図81、85から89の例における光導波領域20、2つの非導波領域73および2つの中間領域25を用いて光受信デバイスを構成してもよい。当該光受信デバイスでは、光導波領域20は、XY平面に交差する方向から第1のミラー30を介して光導波領域20に入射した光をX方向に伝搬させる。光導波領域20の屈折率および/または厚さを変化させることにより、受信可能な光の方向が変化する。
光導波領域20、2つの非導波領域73および2つの中間領域25をアレイ化した上述の光スキャンデバイスと同様の構成を光受信デバイスとして用いてもよい。当該光受信デバイスでは、複数の光導波領域から複数の位相シフタを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、受信可能な光の方向が変化する。
上述した実施形態および変形例は、適宜、組み合わせることができる。例えば、図61に示した第1のミラー30を他の実施例または変形例の第1のミラー30の代わりに用いてもよい。また、図65に示した導波路素子10を他の実施例または変形例の導波路素子10の代わりに用いてもよい。