JP7158847B2 - 骨補填材および骨補填材の製造方法 - Google Patents
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本発明の一態様は、リン酸カルシウムとコラーゲンとを80:20よりも大きく96.8:3.2以下の質量比で含み、前記コラーゲンが、線維化されており、線維化された前記コラーゲンが、化学架橋されている骨補填材である。
骨補填材の柔軟性および骨形成能は、リン酸カルシウムとコラーゲンとの質量比によって影響される。すなわち、コラーゲンに対してリン酸カルシウムが少な過ぎる場合には、期待される骨形成能を得ることが難しい。一方、コラーゲンに対してリン酸カルシウムが多過ぎる場合には、骨補填材の柔軟性が低下して移植時の操作性が悪くなるとともに骨補填材が脆くなる。
このようにすることで、生体内での酵素耐性および安定性をさらに向上することができる。
生体内でのマクロファージによるリン酸カルシウムの貪食および分解の速度は、リン酸カルシウムの粒子径に依存する。最頻径が100μm以上であるリン酸カルシウムの顆粒を使用することで、期待される新生骨形成が達成されるまでリン酸カルシウムが移植部位に残存することができる。100μm未満のリン酸カルシウムの顆粒は、マクロファージによる貪食および分解を受け易いため、期待される新生骨形成が達成されるまで移植部位に残存することが難しい。
このようにすることで、生体内での酵素耐性および安定性をさらに向上することができる。
このように生体吸収性のリン酸カルシウムを用いることで、生体吸収性の骨補填材を提供することができる。
上記態様においては、前記化学架橋が、前記コラーゲンのアミノ基とカルボキシル基とが直接結合することで形成されたアミド結合であることが好ましい。
このようにアミノ基とカルボキシル基とが直接結合したアミド結合によって化学架橋することで、アミノ基とカルボキシル基との間に化学架橋剤が介在する化学架橋に比べて、骨補填材の生体親和性をより高めることができる。
本態様によれば、リン酸カルシウムとコラーゲンとの質量比が80:20よりも大きく96.8:3.2以下であり、コラーゲンが化学架橋された骨補填材が製造される。したがって、良好な柔軟性および骨形成能を有し、かつ、生体内で高い安定性を有する骨補填材を製造することができる。
このようにすることで、生体内においてより高い酵素耐性および安定性を発揮する骨補填材を製造することができる。
このようにすることで、カルボジイミド化合物によってコラーゲンのアミノ基とカルボキシル基とが脱水縮合により直接結合されることで、コラーゲンはアミド結合により化学架橋される。これにより、生体親和性がより高い骨補填材を製造することができる。カルボジイミド化合物は、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、EDC塩酸塩、およびDCC(N、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
このようにすることで、コラーゲンに含まれる反応可能なアミノ基の50%以上がカルボジイミド化合物によって化学架橋され生体内においてより高い酵素耐性および安定性を発揮する骨補填材を製造することができる。
本実施形態に係る骨補填材1は、図1に示されるように、コラーゲンを主成分とする多孔質のコラーゲンマトリクス2と、コラーゲンマトリクス2に担持されたβ-TCP(β型-リン酸三カルシウム)顆粒3とからなるコラーゲン/β-TCP複合材から形成された多孔体である。
骨補填材1に対するβ-TCPの質量比が80%未満である場合、期待される骨形成能を得ることが難しい。一方、骨補填材1に対するβ-TCPの質量比が96.8%よりも高い場合、良好な骨形成能を期待することができるが、コラーゲンの含有率が低くなり過ぎることで骨補填材1の柔軟性が低下し骨欠損部への充填時の骨補填材1の操作性が低下し得る。
本実施形態に係る骨補填材1の製造方法は、図2(a)~(c)に示されるように、β-TCP顆粒3を製造するβ-TCP顆粒製造工程SA1,SA2と、熱変性コラーゲンを製造する熱変性コラーゲン製造工程SB1~SB3と、β-TCP顆粒製造工程により得られたβ-TCP顆粒3およびアテロコラーゲン酸性溶液からコラーゲン/β-TCP複合材からなる骨補填材1を製造する骨補填材製造工程SC1~SC11と、を含む。
工程SA1は、例えば、カルシウム供給物質とリン酸供給物質とから合成されたβ-TCPの前駆物質を含むスラリーを乾燥することにより行われる。工程SA1によりβ-TCPの前駆体が得られる。
工程SA2は、工程SA1により得られたβ-TCPの前駆体を焼成および粉砕することにより行われる。粉砕の方法は特に限定されない。
化学架橋工程SC7では、コラーゲン中の反応可能なアミノ基の50%以上が化学架橋さるように、化学架橋剤の添加量が制御される。例えば、カルボジイミド化合物の場合には、コラーゲン1gに対して0.13mmol以上のカルボジイミド化合物が添加される。
図3(a)~(c)に示されるように、1つのコラーゲン分子5は3重螺旋構造を形成する3本のポリペプチド鎖4からなり、複数のコラーゲン分子5が自己集束してコラーゲン線維6を形成する。化学架橋剤によるアミノ基とカルボキシル基との化学架橋7は、コラーゲン分子5の内部(図3(a)参照。)、コラーゲン分子5間(図3(b)参照。)、およびコラーゲン線維6間(図3(c)参照。)に形成され得る。
工程SC3で線維化と同時に化学架橋処理を行った場合、コラーゲン分子の自己集束(すなわち線維化)が、コラーゲン分子間に作用する架橋反応によって阻害され得る。一方、線維化後に化学架橋処理を行った場合、コラーゲン線維6が形成された後にコラーゲン線維6間に化学架橋7が形成されるため、骨補填材1の生体内での安定性が向上すると考えられる。
〔実施例1〕
(ウサギPLF埋植試験)
本発明の骨補填材1を使用してウサギの腰椎に後側方固定術(PLF)を行い、横突起間の骨性架橋の進行度を評価した。
図4に示されるように、第4腰椎L4および第5腰椎L5の横突起Tに、骨補填材1への血行および骨形成に関与する細胞の移動を促すための直径0.5mm~1mmのデコルチケーション領域(小孔)Pを形成し、腰椎L4,L5の横突起T間に短冊状(30mm×10mm×5mm)の骨補填材1を埋植した。骨補填材1として、図5に示されるように、β-TCPの粒子径および化学架橋工程のタイミングが異なる4種類のサンプルA,B,C,Dを使用した。
埋植から12週間後、腰椎L4,L5を含む骨補填材1の埋植部位を切り出し、埋植部位における骨形成をμCT画像およびHE染色画像に基づいて以下の通り評価した。
グレード0:骨形成が認められず、移植塊に変化がないか、または吸収されて消失している状態。
グレード1:横突起付近を中心に骨形成の進行が認められるが、横突起間の移植塊に連続性がなく、明確なギャップや移植塊を分断する透亮線が見られる状態。
グレード2:移植部位の骨形成が進行し、移植塊は横突起間を架橋して横突起、椎弓または椎体と癒合しているが、一塊ではなく横突起間の連続性が一部だけ、あるいは移植塊の一部にギャップや透亮線が認められる状態。
グレード3:移植部位の骨形成が進行し、移植塊は横突起間を架橋して均一な連続性を持って横突起、椎弓または椎体と癒合している状態。
サンプルA,B,Cの比較から分かるように、β-TCP顆粒の粒子径が大きい程、高いスコアが得られた。また、サンプルA,Dの比較から分かるように、コラーゲンの線維化の後にEDC塩酸塩を添加した場合には、コラーゲンの線維化と同時にEDC塩酸塩を添加する場合に比べて、高いスコアが得られた。
0:異常・変化なし
1:きわめて軽度
2:軽度
3:中程度
4:やや重度
5:重度
サンプルA,B,Cの比較から分かるように、β-TCP顆粒の粒子径が大きい程、高いスコアが得られた。また、サンプルA,Dの比較から分かるように、コラーゲンの線維化の後にEDC塩酸塩を添加した場合には、コラーゲンの線維化と同時にEDC塩酸塩を添加する場合に比べて、高いスコアが得られた。
(コラゲナーゼ分解性試験)
骨補填材1のサンプルA,B,C,Dの酵素耐性をin vitroで評価した。
酵素としては、細菌(Clostridium Histolyticum)由来のコラゲナーゼを使用した。コラゲナーゼ溶液にサンプルA,B,C,Dを一定時間浸漬し、コラゲナーゼによるサンプルA,B,C,Dの分解後、緩衝液中に溶出したタンパク質(ペプチド)の濃度を測定した。サンプルA,B,C,Dのタンパク質の濃度の測定結果を図10に示す。
(架橋反応率試験)
EDC塩酸塩の添加量と、コラーゲンのアミノ基の架橋反応率との関係を調べた。
化学架橋工程における、コラーゲン1gに対するEDC塩酸塩の添加量が異なる骨補填材1の複数のサンプルを製造し、各サンプルにおける化学架橋に寄与していない残留アミノ基の量を、トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(TNBS)を用いたTNBS法によって測定した。また、化学架橋工程を行わずに製造した未架橋の骨補填材1のサンプルを製造し、未架橋のサンプルについても同様にアミノ基の量を測定した。
TNBSは、リシン残基中のε-アミノ基との反応によって黄から橙を呈する物質を生成する。したがって、各サンプルをTNBSと反応させ、345nmまたはその近傍の波長で吸光度を測定することで、それぞれの残留アミノ基の量が測定される。
(形状回復性評価)
β-TCPとコラーゲンの配合質量比が異なる3つの骨補填材1のサンプルE,F,Gを作製し、作製した各サンプルE,F,Gの形状回復性を以下の手順により評価した。また、比較例として、β-TCPとコラーゲンの配合質量比のみがサンプルE,F,Gとは異なるサンプルHを作製し、サンプルE,F,Gと同様に形状回復性を評価した。図12に、各サンプルE,F,G,Hの配合質量比と形状回復性の評価結果とを示す。サンプルE,F,G,Hは全て、1cm3の立方体に加工された。
まず、サンプルE,F,G,Hのそれぞれの寸法(高さ)を測定した。次に、サンプルE,F,G,Hのそれぞれに、最大吸水可能量を超えて吸水不可となるまで精製水を滴下した。次に、十分吸水させたサンプルE,F,G,Hにオートグラフを用いて荷重をかけ、サンプルE,F,G,Hを高さが2mmになるまで圧縮した。次に、圧縮されたサンプルE,F,G,Hを除圧して形状を回復させ、回復したサンプルE,F,G,Hの高さを測定した。そして、サンプルE,F,G,Hの形状回復率(%)(=(除圧後に測定された高さ/圧縮前に測定された高さ)×100)を算出した。
2 コラーゲンマトリクス
3 β-TCP顆粒
4 ポリペプチド鎖
5 コラーゲン分子
6 コラーゲン線維
7 化学架橋
Claims (10)
- リン酸カルシウムとコラーゲンとを80:20よりも大きく96.8:3.2以下の質量比で含み、
前記コラーゲンが、線維化されており、
線維化された前記コラーゲンが、化学架橋されている骨補填材。 - コラゲナーゼによる分解反応によって産生されるペプチドおよび生体温度で緩衝液中に溶出するタンパク質の総量の濃度が、100μg/mL以下である請求項1に記載の骨補填材。
- 前記リン酸カルシウムが、100μm以上の最頻径を有する顆粒である請求項1または請求項2に記載の骨補填材。
- 前記コラーゲン中の反応可能なアミノ基の50%以上が化学架橋されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の骨補填材。
- 前記リン酸カルシウムが、低結晶性ハイドロキシアパタイト、カルシウム欠損アパタイト、β型-リン酸三カルシウム、α型-リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、および炭酸含有ハイドロキシアパタイトから選択される請求項1から請求項4のいずれかに記載の骨補填材。
- 前記化学架橋が、アミド結合を有する請求項1から請求項5のいずれかに記載の骨補填材。
- 前記化学架橋が、前記コラーゲンのアミノ基とカルボキシル基とが直接結合することで形成されたアミド結合である請求項6に記載の骨補填材。
- リン酸カルシウムとコラーゲンとを80:20よりも大きく96.8:3.2以下の質量比で混合する混合工程と、
コラーゲンを線維化する線維化工程と、
該線維化工程の後、リン酸カルシウムと線維化されたコラーゲンとが混合された懸濁液に化学架橋剤を添加してコラーゲンを化学架橋する化学架橋工程とを含む骨補填材の製造方法。 - 前記化学架橋剤が、カルボジイミド化合物である請求項8に記載の骨補填材の製造方法。
- 前記化学架橋工程において、コラーゲン1gに対して0.13mmol以上のカルボジイミド化合物を添加する請求項9に記載の骨補填材の製造方法。
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