JP7156665B2 - 医薬、並びにその製造方法 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 平成28年度日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会要旨集
特許法第30条第2項適用 平成28年度日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会
特許法第30条第2項適用 平成28年度埼玉工業大学卒業論文発表会
特許法第30条第2項適用 平成28年度埼玉工業大学卒業論文要旨集
特許法第30条第2項適用 平成28年度埼玉工業大学卒業論文
特許法第30条第2項適用 量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」キックオフ国際シンポジウム
本発明は、イメージング剤(特にMRI造影剤)、治療剤、治療補助剤等の医薬、並びにこれらの製造方法に関し、より詳細には、ハイドロゲルナノ粒子に標識プローブを担持した医薬、並びにその製造方法に関する。
イメージング剤としては、PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、量子ドットイメージング剤、及びMRI造影剤などが開発され、医療現場、研究現場等で広く利用されている。
特に、MRI造影剤は、近年様々なタイプの造影剤が開発されており、様々な診断に利用されている。例えば、細胞外液分布造影剤として、Gd-DTPA、Gd-DOTA、Gd-DTPA-BMA、Gd-DTPA-BMEA、Gd-HP-DO3A等のGd造影剤が使用又は開発され、肝特異性造影剤として、SPIO(Super Paramagnetic Iron Oxide)造影剤、Gd-EOB-DTPA、Gd-BOPTA、Gd-DTPA-DeA等のGd造影剤が使用又は開発され、血液プール造影剤として、アルブミン結合性Gd造影剤、高分子Gd造影剤、及びUSPIO(Ultrasmall Super Paramagnetic Iron Oxide)造影剤が使用又は開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
MRI造影剤は、一般的に安全性は高いと考えられているが、組織への蓄積が確認されているものもあり、人体への影響が懸念されている(例えば、非特許文献2参照)。例えば、近年、MRI造影剤として用いられている、ガドペンテト酸ジメグルミンなどの直鎖型Gd錯体では、一定量のGdが脳脊髄液関門から脳に入り、一定量が脳内に蓄積することが報告されている(非特許文献3)。また、ガドテル酸メグルミンなどのマクロ環型Gd錯体では、直鎖型Gd錯体と比較して脳内への蓄積量は少ないものの、脳脊髄液に入ることが報告されており(非特許文献4)、免疫細胞によるpH分解の結果、ごく少量が脳に残留する可能性がある。また、骨に沈着することが報告されている(非特許文献5)。
このため、短時間で体外に排出され組織への蓄積がより低減されたMRI造影剤が求められている。また、このような特性への要求は、他のイメージング剤でも同様であり、治療、又は治療補助用途の医薬でもこのような特性が求められることがある。
また、特定の細胞を標識しその分布を追跡するなど、細胞内へ導入される造影剤の開発も試みられているが、MRI造影剤では、細胞内の分子に結合するなどの相互作用により水プロトンの横緩和時間が短縮し、造影剤の局所濃度や計測するMRIの磁場強度によってはT1強調画像上で信号低下を引き起こす陰性化を生じることがある(非特許文献6)。この陰性化は、対象とする細胞と、空気、血管、骨などとの判別を困難にするため、視認性を劣化させる。
従って、細胞内に造影剤を導入するMRI検査では、横緩和時間の短縮を生じず細胞内でも高い陽性効果を奏する造影剤が求められている。
また、近年、抗がん剤、再生医療分野などにおいて、標的組織又は細胞のみに向けられる分子標的薬の開発が行われている。
ところで、キトサン、寒天、アガロース、ゼラチン、アルブミン、セルロース、カラギーナン、デキストロース等の天然高分子又はその誘導体;ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子;或いはこれらの1種又は2種以上を架橋結合したハイドロゲルは、生体親和性が高い材料として様々な医療用途に利用されている(例えば、非特許文献7及び8、特許文献1)。臓器イメージング剤への利用としては、中村らが、特定のアミノ酸配列を有する遺伝子組換えゼラチンが、一過性に腎臓に集積することを見出し、これに標識プローブを担持させた腎臓イメージング剤を提案している(特許文献2)。ただし、この腎臓イメージング剤は、細胞内に造影剤を導入した際の陰性化の問題を取り扱うものではなく、MRI造影剤としての利用について具体的な記載はない。また、この遺伝子組換えゼラチンは組織への蓄積を回避するために利用するものでもない。
須田らは、アルブミンと水または緩衝液の混合物に、放射線照射してナノ及びサブミクロンサイズオーダーの粒子状成形体を製造する方法を開示し(特許文献3)、古沢らは、0.25~1mg/Lの濃度のゼラチン水溶液にγ線照射する、ゼラチン架橋体の製造方法を開示している(非特許文献9)。ただし、これらの報告では、粒径の制御に関する開示は無く、MRI造影剤等のイメージング剤や治療剤への応用についても特に開示は無い。これに対して、秋山らは、γ線照射によってゼラチン架橋体を製造する方法に関して、ゼラチン水溶液の初期濃度、照射線量、溶液温度、pHといった条件について検討し、数十~数百nmのゼラチン架橋体を製造している(非特許文献10)。但し、この文献では、照射前にナノゲルが観測されており、放射線架橋されていないナノ粒子が形成されており、上限が百nm未満の架橋体は得られていない。また、MRI造影剤等のイメージング剤や治療剤等の医薬への応用について特に開示は無い。
特開2014-105187号公報 国際公開WO2011/013792 特開2008-1764号公報
「改訂版MRI応用自在」MEDICAL VIEW 2004 p.142-153 MRI造影剤の基礎と副作用について[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0ahUKEwig-f3siKPUAhULjLwKHbcXBzMQFggiMAA&url=http%3A%2F%2Fgifuart.umin.ne.jp%2Fsibu%2Fhida%2Flog%2F23nendo_2kai_benkyoukai%2FH23_2kai_benkyoukai_syouroku_terumo.pdf&usg=AFQjCNEHjccpGXqyyZnpg7ynZsgz9Z9Kug]2017年6月4日参照 Kanda T, Ishii K, Kawaguchi H, Kitajima K, Takenaka D. High signal intensity in the dentate nucleus and globus pallidus on unenhanced T1-weighted MR images: relationship with increasing cumulative dose of a gadolinium-based contrast material. Radiology 2014;270(3):834-841. Naganawa S, Nakane T, Kawai H, Taoka T. Gd-based Contrast Enhancement of the Perivascular Spaces in the Basal Ganglia. Magn Reson Med Sci. 2017 Jan 10;16(1):61-65. doi: 10.2463/mrms.mp.2016-0039. Epub 2016 Jul 12. PubMed PMID:27430361. Aime S, Caravan P. Biodistribution of gadolinium-based contrast agents,including gadolinium deposition. J Magn Reson Imaging. 2009 Dec;30(6):1259-67.doi: 10.1002/jmri.21969. Review. PubMed PMID: 19938038; PubMed Central PMCID:PMC2822463. Odaka K, Aoki I, Moriya J, Tateno K, Tadokoro H, Kershaw J, Minamino T, Irie T, Fukumura T, Komuro I, Saga T. In vivo tracking of transplanted mononuclear cells using manganese-enhanced magnetic resonance imaging (MEMRI). PLoS One.2011;6(10):e25487. doi: 10.1371/journal.pone.0025487. Epub 2011 Oct 7. PubMed PMID: 22003393; PubMed Central PMCID: PMC3189206. 河田ら 「γ線架橋による新規ハイドロゲルの調製と製剤素材としての可能性」日本医療薬学会年会2011年、要旨集29P-0555 市川ら YAKUGAKU ZASSHI The Pharmaceutical Society of Japan 127(5)813-823(2007) K. Furusawa, et al., Colloid Polymer Science, 283, 229-233 (2004) Y. Akiyama, et al., Colloid Polymer Science, 285, 801-807 (2007)
本発明は、以上のような技術水準において、放射線架橋によってハイドロゲルを製造する方法において、従来の方法では達成できなかった小さな粒径を含む広範囲の粒径の中から特定の範囲の粒径を有するハイドロゲルを任意に選択して製造可能な方法を提供することを第一の目的とする。
本発明はまた、脳脊髄液関門の通過がより妨げられ、脳内への蓄積がより少ない、安全性が高いイメージング剤、治療剤、治療補助剤等の医薬(以下、単に「医薬」、又は「イメージング剤等の医薬」と総称することがある)を提供することを第二の目的とする。
本発明はさらに、短時間で体外に排出され、肝臓等の他の臓器中への蓄積もより少ない、より安全性が高いイメージング剤等の医薬を提供することを第三の目的とする。
他方、本発明は、癌組織等の特定の組織や細胞に取り込ませて当該組織や細胞を標識又はその医薬用途に応じて組織又は細胞に作用する、イメージング剤等の医薬を提供することを第四の目的とする。
本発明はさらにまた、細胞に導入されるMRI造影剤において、横緩和時間の短縮を生じず細胞内でも高い陽性効果を奏する造影剤を提供することを第五の目的とする。
本発明らは、上記第一の目的に関し、天然タンパク質(例えばゼラチン等)などの親水性ポリマーの溶液に放射線を照射してハイドロゲル粒子を調製するための条件を検討したところ、親水性ポリマーの分子量、及び親水性ポリマー水溶液の酸素濃度が得られる粒子の粒径に影響を及ぼすことを見出し、特定の条件下で放射線照射することによって、秋山らが達成できなかった非常に小さな粒径を含む広範囲の粒径の中から特定の粒径範囲のナノハイドロゲル粒子を任意に調製できることを見出した。
上記第二の目的に関しては、ハイドロゲルに標識プローブを担持することで脳脊髄液関門の通過を防止し得ることを見出した。
上記第三の目的に関しては、ハイドロゲルを特定の非常に小さな粒径とすることで、イメージング剤等の医薬の腎排出が容易となり、肝臓等の臓器への蓄積が低減されることを見出した。
逆に、上記第四の目的に関しては、ハイドロゲルを比較的大きな特定の粒径とすることで、イメージング剤の腎排出が妨げられ、癌組織等の特定の組織又は細胞に取り込まれ易くなることを見出した。
更に、上記第五の目的に関し、ハイドロゲルにGd錯体等の標識プローブを担持させることで標識プローブの周囲に自由水が多く存在する空間が形成され、これにより細胞内に導入された際でも横緩和時間の短縮が抑制されることを見出した。このようなハイドロゲルによる効果はこれまで全く報告は無く、驚くべき事象である。
本発明は、このような知見に基くものであり、以下のイメージング剤等の医薬、並びにその製造方法等を提供する。
[1]放射線架橋構造を有するハイドロゲル粒子に標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する医薬。
[2]前記ハイドロゲル粒子の粒径は、1~70nmである、[1]に記載の医薬。
[3]前記ハイドロゲル粒子の粒径は、1~10nmである、[1]に記載の医薬。
[4]前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、30nm以下である、[1]に記載の医薬。
[5]前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、5nm以下である、[1]に記載の医薬。
[6]投与後に迅速に腎排泄させるための、[2]~[5]の何れか1項に記載の医薬。
[7]前記標識プローブの腎髄質での信号強度が、投与前の該信号強度に対して、投与後1時間以内に10%以上増大し、投与後2時間以内に10%以下の増加レベルになる、[[6]に記載の医薬。
[8]肝臓への蓄積無しにイメージ化又は治療を行なうための、[2]~[7]の何れか1項に記載の医薬。
[9]前記標識プローブの肝臓での信号強度が、投与前の該信号強度に対して、少なくとも投与後2時間まで10%以上増加しない、[8]に記載の医薬。
[10]肝臓機能が低下している患者に用いる、[2]~[9]の何れか1項に記載の医薬。
[11]細胞内に取り込まれて該細胞を標識又は該細胞に作用するための、[1]に記載の医薬。
[12]前記ハイドロゲル粒子の粒径が1nm~5μmである、[11]に記載の医薬。
[13]前記ハイドロゲル粒子の粒径が10~200nmである、癌組織の標識又は抗癌治療のための、[11]に記載の医薬。
[14]前記ハイドロゲル粒子の粒径が500nm~5μmである、貪食細胞を標識するための、[11]に記載の医薬。
[15]前記ハイドロゲルは、ゼラチン、コラーゲン、及びペプチドからなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーに由来する、[1]~[14]の何れか1項に記載の医薬。
[16]投与後、脳室への移行が無い、[1]~[15]の何れか1項に記載の医薬。
[17]前記標識プローブの脳室での信号強度が、投与前の該信号強度に対して、少なくとも投与後2時間まで5%以上増加しない、[16]に記載の医薬。
[18]PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、又はMRI造影剤である、[1]~[17]の何れか1項に記載の医薬。
[19]MRI造影剤である、[1]~[17]の何れか1項に記載の医薬。
[20]細胞内に導入されるMRI造影剤である、[19]に記載の医薬。
[21]細胞内に導入された際、MRI装置で撮像されたT1強調画像法において水および生体組織において信号低下を生じさせない、[20]に記載の医薬。
[22]細胞外液分布造影剤として用いられるMRI造影剤である、[2]~[9]の何れか1項に記載の医薬。
[23]前記標識プローブが、Gd、Mn、Fe、Co、I、Au、酸化鉄、11C、13N、15O、18F、29Si、62Cu、68Ga、82Rb、13C、19F、He、129Xe、15N、123I又は99mTcを含む、[18]~[22]の何れか1項に記載の医薬。
[24]Gd、Mn、又はFeが、前記ハイドロゲル粒子に直接結合しているか、又はこれら原子の少なくとも1つの1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸モノ-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(DOTA-NHS-エステル)の錯体が前記ハイドロゲル粒子に結合している、[19]に記載の医薬。
[25][1]~[24]の何れか1項に記載の医薬がイメージング剤であり、前記イメージング剤を、in vitroで、対象細胞と共培養して該細胞に該イメージング剤を取り込ませ、該細胞中の該イメージング剤からの信号を検出し、画像化する、細胞イメージング方法。
[26][1]~[24]の何れか1項に記載の医薬がイメージング剤であり、前記イメージング剤を取り込んでいる対象からの信号を検出し、画像化する、組織又は細胞のイメージング方法。
[27]親水性ポリマーを含む水溶液に放射線を照射して、ハイドロゲル粒子を製造する方法であって、
該溶液中の溶存酸素濃度を調整し、且つ/又は特定の範囲の分子量を有する該親水性ポリマーを選択して、前記ハイドロゲル粒子の粒径を制御することを特徴とする、方法。
[28]前記溶液中の溶存酸素濃度を0~40mg/Lの範囲で調整し、且つ/又は分子量1,000~1,000,000の範囲の前記親水性ポリマーから選択する、[27]に記載の方法。
[29]前記親水性ポリマーは、デキストリン、デキストラン、キチン、キトサン、ゼラチン、コラーゲン、寒天、アガロース、ジェランガム、キサンタンガム、フィブリン、カラヤガム、カラギーナン、セルロース、スターチ、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択される天然高分子化合物、該天然高分子化合物をヒドロキシ低級アルキル基、又は低級アルコキシアルキル基で置換した誘導体、並びにポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される合成高分子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[27]又は[28]に記載の方法。
[30]前記放射線が、電子線、X線、及びγ線のいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である、請求項1~29の何れか1項に記載の方法。
[31]さらに、前記水溶液中の前記親水性ポリマーの濃度、前記放射線の線量、前記放射線の線量率、および/又は前記放射線の照射時の温度を調整することにより、前記ハイドロゲル粒子の粒径を制御する、[27]~[30]の何れか1項に記載の方法。
[32]前記水溶液中の前記親水性ポリマーの濃度を0.05~5.0質量%に調整し、放射線の線量を0.04~100kGyの範囲で調整し、前記放射線のうちγ線やX線の線量率を0.1~100kGy/h、電子線の線量率は0.04~50kGy/passの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を0~70℃の範囲で調整する、[31]に記載の方法。
[33]分子量が50,000~1,000,000の前記親水性ポリマーを選択し、前記溶液中の溶存酸素濃度を8~40mg/Lの範囲で調節し、前記水溶液中の前記天然高分子化合物又はその誘導体の濃度を0.05~5.0質量%に調整し、前記放射線の線量を0.1~100kGyの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を25~60℃の範囲で調整し、必要に応じて限外ろ過フィルターにかけ、所望の粒径のゼラチンナノゲルを分取することにより、典型的には、粒径が1~70nmの前記ハイドロゲル粒子を得る、[31]に記載の方法。
[34]分子量が1,000~50,000の前記親水性ポリマーを選択し、前記溶液中の溶存酸素濃度を8~40mg/Lの範囲で調節し、前記水溶液中の前記天然高分子化合物又はその誘導体の濃度を0.05~0.5質量%に調整し、前記放射線の線量を0.1~100kGyの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を25~60℃の範囲で調整することにより、典型的には、粒径が1~10nmのハイドロゲル粒子を調製する、[31]に記載の方法。
[35]前記溶液中の溶存酸素濃度を30~40mg/Lの範囲で調節する、[31]~[34]の何れか1項に記載の方法。
[36]分子量が1,000~10,000の前記親水性ポリマーを選択する、[31]~[35]の何れか1項に記載の方法。
[37]粒径が1~10nmの放射線架橋構造を有するハイドロゲル粒子に、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する工程を含む、医薬の製造方法。
[38][27]~[36]の何れか1項に記載の方法で得られたハイドロゲル粒子に、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する工程を含む、医薬の製造方法。
[39]前記医薬は、MRI造影剤であり、前記ハイドロゲル粒子にマクロ環型キレート剤を結合し、前記マクロ環型キレート剤に標識化合物を結合させて錯体を形成する、[37]又は[38]に記載の方法。
[40]
前記マクロ環型キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸モノ-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(DOTA-NHS-エステル)であり、前記標識化合物は、Gdである、[39]に記載の方法。
[41]放射線架橋構造を有するハイドロゲル粒子であって、粒径が1~10nmの粒子。
[42]前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、5nm以下である、[41]に記載の粒子。
[43][41]又は[42]に記載の粒子を含む水性組成物。
本発明の一の実施形態では、溶液中の溶存酸素を架橋反応の反応停止剤として利用し、この濃度を適宜調整し、且つ/又は特定の範囲の分子量を有する親水性ポリマーを選択し、任意選択で放射線照射の他の条件を適宜調整して、簡単且つ確実に、10nm以下の粒径を含む広範囲の粒径から任意に選択される特定範囲の粒径の放射線架橋構造を有するハイドロゲル粒子を製造可能にする。また、本発明の他の実施形態では、このような本発明の方法を使用して小さな粒径のハイドロゲル粒子を調製し、これに標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持することで、迅速に体外へ排出され臓器への蓄積がより低減された医薬を提供する。逆に、本発明の更に他の実施の形態では、比較的大きな粒径のハイドロゲル粒子に標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持することで、癌組織などの特定の組織や貪食細胞などの細胞への取り込みが容易に成り、当該組織や細胞のイメージング化又はこれらへの薬学的に活性な物質の作用を可能とする医薬を提供する。
また、本発明の更に他の実施の形態では、細胞に導入されるMRI造影剤において、横緩和時間の短縮を生じず細胞内でも高い陽性効果を奏する造影剤を提供する。すなわち、本発明の造影剤では、ハイドロゲル粒子に標識プローブ、典型的には陽性造影剤用標識化合物(例えばGdを含む標識化合物など)が担持されるが、ハイドロゲルは、内部又はその周りに多くの水を保持するため、標識プローブの周囲に自由水が多く存在する空間が形成される。この多くの自由水の存在は、MRI造影剤の横緩和時間の短縮を最小限に抑制し、細胞内においてもMRI造影剤が高い陽性効果を発揮することができる。
ここで、本願明細書で使用する用語の定義を以下に示す。
本願明細書における「親水性ポリマー」とは、親水性基を有し、架橋反応により吸水性高分子となるポリマーを意味する。
本願明細書における「ハイドロゲル」とは、架橋構造を有し、その内部又は周りに多くの水を保持することができる高分子を意味する。
本願明細書における「放射線架橋構造」は、親水性ポリマーが架橋剤を介さずに結合して形成される橋渡し構造であり、このような構造は、架橋剤に由来する構造を有しないことを特徴とする。後述する実施例で実証する通り、典型的な放射線架橋では、フェニルアラニンなどアミノ酸残基が減少するものの、標識プローブや薬学的に活性な物質を担持させるためのアミノ基を有するリジン残基を化学架橋に比して2倍程度多く残すことができる。
本願明細書における「低級アルキル」、「低級アルコキシ」及び「低級アルコキシアルキル」とは、それぞれ炭素数が1~10、好ましくは1~5の「アルキル」、「アルコキシ」及び「アルコキシアルキル」を意味する。
本願明細書では、特に言及しない限り、「分子量」は重量平均分子量を意味するものとする。重量平均分子量は、示差屈折計を有する水系GPC分析装置(TOSOH 8020 model Gel Permeation Chromatography)を用い、サイズ排除クロマトカラム(TSK gel PWXL-Mを2本とPWXL2500を1本連結させたもの)を50℃に保ち、リン酸バッファー(0.1M KH2PO4、0.1M Na2HPO4・12H2O混合溶液)を溶離液として1.0 ml/minで通液することで、分析できる。
本願明細書では、特に言及しない限り、「医薬」は、生体成分、細胞若しくは組織の分析、診断、治療、又は治療補助等の医療又はライフサイエンスに関連する目的で用いられる物質を意味する。
また、「薬学的に活性な物質」とは、低分子化学物質、生体分子、放射性同位体、ラジカル、熱等の、治療、予防、又は治療補助等の目的に応じて、化学的、物理的、生物学的等の活性を通じて何らかの薬理活性を奏する物質をいう。
図1は、実施例1で得られた放射線架橋により作製したゼラチンナノゲル(Gd担持前)の動的光散乱法による粒径分布を示すグラフである。 図2は、実施例1で得られた、ゼラチンナノゲルにGd錯体を担持したMRI造影剤を、透過型電子顕微鏡で観測して得られた画像の写真である。 図3は、実施例1で得られたMRI造影剤と、対照としてデキストランにMn-DOTAを担持したMRI造影剤を細胞に導入した後に、MRI計測を行った際のT1強調画像及びT2強調画像を示す。ゼラチンナノゲルにGd標識化合物を担持した実施例1のMRI造影剤は、細胞内に入ってもT1強調画像(T1W)で陽性効果を維持していることが解る。 図4は、実施例10で得られたゼラチンナノゲルの動的光散乱法による粒径分布を示すグラフである。 図5は、担癌マウスにゼラチンナノゲルにGd標識化合物を担持した平均粒径が4.9nmのMRI造影剤を静脈投与する前にMRI計測を行った際のT1強調画像の写真であり、信号強度を測定した各部位を枠で囲んでいる。 図6は、担癌マウスにゼラチンナノゲルにGd標識化合物を担持した平均粒径が4.9nmのMRI造影剤を静脈投与する前、投与直後及び投与から1間後にMRI計測を行った際の腎臓付近のT1強調画像の写真である。 図7は、担癌マウスにゼラチンナノゲルにGd標識化合物を担持した平均粒径が4.9nmのMRI造影剤を静脈投与する前、投与直後及び投与から1間後にMRI計測を行った際の各部位の信号強度を示すグラフである。 図8は、ゼラチン水溶液への2MeVの電子線照射により作製したナノゲルの動的光散乱法による粒径分布を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下に記載する実施形態に限定されるものではない。
上述の通り、本発明の医薬は、ハイドロゲル粒子に標識プローブ又は薬学的に活性な物質が担持されているものである。
本発明の医薬は、特に制限は無いが、例えば、PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、蛍光イメージング・蛍光顕微鏡用各種蛍光・発光イメージング剤、量子ドットイメージング剤、及びMRI造影剤等のイメージング剤;例えば、抗癌剤、抗炎症剤、核酸医薬等の治療若しくは予防剤;並びに放射線治療効果増感剤、放射線防護剤等の治療補助剤等が挙げられるが、これらに限定さるものではない。標識プローブは、典型的には、イメージング剤を構成し、薬学的に活性な物質は、典型的には、治療若しくは予防剤又は治療補助剤を構成する。
PETイメージング剤用の標識プローブとしては、例えば、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、82Rb等を挙げることができる。
SPECTイメージング剤用の標識プローブとしては、例えば、123I、99mTc等を挙げることができる。
CT造影剤用の標識プローブとしては、例えば、ヨード、金、酸化鉄、鉄等を挙げることができる。
蛍光・発光イメージング剤の標識プローブとしては、例えば、メロシアニン、ペリレン、アクリジン、ペリレン、ルシフェリン、ピラニン、スチルベン、ローダミン、クマリン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、ピロメテン、フルオレセイン、ウンベリフェロン等を挙げることができる。
MRI造影剤用の標識プローブとしては、例えば、Fe、Mn、Co、Ni、Gd等の常磁性金属を含む錯体であるDTPA、DOTA、DOTA-NHS-ester、DTPA-BMA、DTPA-BMEA、HP-DO3A、EOB-DTPA、BOPTA、DTPA-DeA、DPDP等を挙げることができる。また、金属粒子である酸化鉄微粒子(SPIO、USPIO)、MnO、GdF3、化学交換飽和移動(CEST)用の化合物、超偏極用の核種(13C、19F、He、129Xe、15N、29Si等)等を挙げることができる。
量子ドットイメージング剤用標識プローブとしては、例えば、カドミウム、セレン、鉛等の量子ドットをアルブミン等の生体高分子でコーティングしたものが挙げられる。
抗癌剤の薬学的に活性な物質としては、例えば、アルキル化剤、白金化合物、代謝拮抗剤(anti-metabolites)、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、抗生物質等の化学療法剤;89Sr、90Y、131I、アスタチン-211、塩化ラジウム223、塩化ラジウム211等の放射性同位体;タクロリムス水和物、プレドニゾロン等の免疫抑制剤が挙げられ、抗炎症剤としては、例えば、ジクロフェナック、サリチル酸コリン、イブプロフェン等が挙げられ、核酸医薬としては、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi、アプタマー、デコイ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、放射線治療効果増感剤の薬学的に活性な物質としては、例えば、ニトロフラン誘導体、ニトロイミダゾール誘導体等が挙げられ、放射線防護剤の薬学的に活性な物質としては、例えば、システアミン、エタノール等が挙げられるが、これらに限定さるものではない。
以上の標識プローブ及び薬学的に活性な物質は、1種のみがハイドロゲル粒子に担持されてもよいが、2種以上の標識プローブ及び薬学的に活性な物質がハイドロゲル粒子に担持されてもよい。例えば、標識プローブと薬学的に活性な物質の両方を担持して、イメージング剤と治療剤の両方の機能を付与してもよいし、例えば、PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、及びMRI造影剤の少なくとも1種のイメージング剤の標識プローブと伴に、各種蛍光・発光イメージング剤の標識プローブをハイドロゲル粒子に結合させて、複数のイメージング機能を付与することができる。
本発明で用いられるハイドロゲルは、水を吸収して、自由水を保持できる特性を有するものであればよい。したがって、これまで生体適合性材料として医療用途に利用されている各種ハイドロゲルを用いることができる。例えば、デキストリン、デキストラン、キチン、キトサン、ゼラチン、寒天、アガロース、ジェランガム、キサンタンガム、アルブミン、フィブリン、カラヤガム、カラギーナン、セルロース、スターチ、ペプチド、コラーゲン及び核酸からなる群から選択される天然高分子;当該天然高分子を低級アルキル基、低級アルコキシアルキル基、又はヒドロキシ低級アルキル基で置換した誘導体、例えば、低級アルキル基置換セルロース誘導体、低級アルコキシアルキル基置換セルロース誘導体、ヒドロキシ低級アルキル基置換セルロース誘導体、低級アルコキシアルキル基置換キトサン誘導体、低級アルコキシアルキル基置換キチン誘導体、低級アルコキシアルキル基置換スターチ誘導体及び低級アルコキシアルキル基置換カラギーナン誘導体からなる群から選択される天然高分子誘導体;並びにポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド及びポリエチレングリコールからなる群から選択される合成高分子からなる群から選択される1種又は2種以上の親水性ポリマーを相互に結合して架橋構造を導入した吸水性高分子化合物が挙げられる。
本発明の医薬は、体内に投与することから安全性の高い天然高分子由来のハイドロゲルが好ましく、中でも、生物毒性が低く、生体親和性の高く、生分解性であることが良く知られ、架橋した際に多くの水を保持する事ができる点で、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン等の生体タンパク質由来のハイドロゲルが好ましい。
ハイドロゲルは架橋構造を有し、本発明の医薬において好ましい特性をもたらす。例えば、ゼラチンなどは、融点が体温より低く(ゼラチンの融点は、28℃である)、体内に投与した際に短時間で溶解して標識プローブ又は薬学的に活性な物質を保持できない状態になる。架橋構造を導入する事で融点を体温より高くすることができ、生体内に存在する間又は長時間標識プローブ又は薬学的に活性な物質を保持できるようになる。また、一般的には、架橋構造を導入することで、より多くの水を保持できるようになる。特に、細胞内においても、ハイドロゲル中に水を保持することができ、上述した細胞内にMRI造影剤を導入した際の陰性化の問題の改善にも寄与する。
また、本発明のハイドロゲルは、放射線照射によってポリマーを活性化させて導入される放射線架橋構造を有する。化学的方法で導入される架橋構造では、架橋剤等の橋かけ構造に寄与する化合物を介して複数のポリマーが結合し、生体内でハイドロゲルが生分解すると、架橋剤に由来する部分が遊離し、生体に悪影響を及ぼす恐れがある。また、ハイドロゲル中に未反応の架橋剤が残存し、これが生体に悪影響を及ぼす恐れがある。他方、放射線照射による物理化学的方法で導入される架橋構造は、架橋剤に由来する化学構造を介することなく複数のポリマーが結合するため、化学的方法で導入される架橋構造に比べ安全である。また、後述する実施例で実証する通り、ハイドロゲル粒子に標識プローブ及び薬学的に活性な物質を結合する場合、アミノ基を有するリジンの残存量が重要となるが、放射線架橋構造では、化学的架橋構造に比べアミノ基を有するリジンの残存量が多いという特徴が有り、より多くの標識プローブ及び薬学的に活性な物質を結合させる事ができる点で有利である。
本発明のハイドロゲル粒子は、調製される医薬に応じて種々の粒径を有し得、通常1nm~5μm、典型的には1~300nmの粒径から特定範囲の粒径を有するハイドロゲル粒子が選択される。後述する通り、本発明の方法では、各条件を調整することで、特定範囲の粒径を有するハイドロゲル粒子を得ることができる。したがって、例えば、細胞外液分布イメージング剤等の迅速な体外への排出が望まれる医薬の場合には、1~70nmの粒径分布の粒子としたり、1~60nmの粒径分布の粒子としたり、1~50nmの粒径分布の粒子としたり、1~40nmの粒径分布の粒子としたり、1~30nmの粒径分布の粒子としたり、1~20nmの粒径分布の粒子としたり、1~10nmの粒径分布の粒子としたり、1~5nmの粒径分布の粒子とすることができる。同様に、ハイドロゲル粒子の平均粒径を、1~30nmとしたり、3~25nmとしたり、3~20nmとしたり、3~10nmとしたり、3~5nmとすることができる。特に腎臓での排出を促進し、体内への蓄積が少ない、イメージング剤等の医薬とするために、粒径を30nm以下(典型的には1~30nm)、好ましくは粒径を10nm以下(典型的には1~10nm)、より好ましくは5nm以下(典型的には1~5nm)、さらに好ましくは3nm以下(典型的には1~3nm)、よりさらに好ましくは2nm以下(典型的には1~2nm)のハイドロゲル粒子に標識プローブを担持したイメージング剤とすることができる。同様の点から、ハイドロゲル粒子の平均粒径を、20nm以下(典型的には3~20nm)とすることもでき、好ましくは10nm以下(典型的には3~10nm)とすることもでき、より好ましくは5nm以下(典型的には3~5nm)とすることもできる。この大きさの粒子では、後述する実施例で実証されている通り、イメージング剤が2時間以内にほぼ総て腎臓から排泄され、体内に存在する間、肝臓への取り込みは極めて少なく脳に蓄積しない。なお、放射線架橋構造を有するハイドロゲル粒子にあって、このような迅速な腎排泄が達成され、肝臓への蓄積が無い粒子は、後述する本発明の方法によって初めて可能になったことに留意すべきである。ここで、臓器への蓄積が無いとは、MRIのT1強調画像法で測定したときに信号強度の上昇が確認されないことをいう。
また、EPR効果により比較的大きな粒径のハイドロゲル粒子が癌組織に集積し易くなるので、これを利用して癌組織を標識したり、抗癌治療を行うことができる。この観点から、例えば、10~200nmの粒径分布の粒子とすることが好ましく、20~100nmの粒径分布の粒子とすることがより好ましい。
また、各種細胞内へ取り込まれ易い粒径とすることもでき、例えば、これを利用して、標識プローブを担持させたハイドロゲル粒子を細胞内に取り込ませて当該細胞を標識し、当該細胞の生体内での動態を観察することができる。
特に限定するものでは無いが、例えば、マクロファージ、単球、好中球等の貪食細胞へ標識プローブを担持させたハイドロゲル粒子を取り込ませて当該細胞を標識するために用いることができる。このとき、ハイドロゲル粒子は、上記貪食細胞のエンドサイトーシス(特にファゴサイトーシス)により細胞内に取り込まれる粒径とすることが好ましい。例えば、500nm以上、通常は500nm~5μm、好ましくは1μm~4μmの粒径のハイドロゲル粒子とすることができる。
或いはまた、幹細胞、iPS細胞、免疫細胞、遺伝子改変された免疫細胞等の非貪食細胞へ標識プローブを担持させたハイドロゲル粒子を取り込ませて当該細胞を標識するために用いることもできる。これにより、例えば移植細胞の動態観察を実現できる。このとき、ハイドロゲル粒子は、上記非貪食細胞の細胞外物質の取り込み方法に対応した粒径とすることが好ましい。例えば、エンドサイトーシス(例えば、マクロピノサイトーシスなど)により細胞内に取り込まれる粒径とすることが好ましい。例えば、10nm以上、通常は10nm~400nm、好ましくは20nm~200nmの粒径のハイドロゲル粒子とすることができる。
なお、対象細胞によるハイドロゲル粒子の取り込みは、in vitro環境下で行っても良いし、in vivo環境下で行っても良い。例えば、in vitro環境下でイドロゲル粒子を取り込んだ細胞の生体内での動態を観察するために、上記イメージング剤を用いても良い。
本発明の医薬は、その標的又はその投与経路等の利用態様に応じて、ハイドロゲル粒子の表面を改質してもよく、例えば、凝集が生じることなく血中を循環できるようにしたり、血液中での循環時間を調節するために、ポリエチレングリコール等を表面に結合してもよい。また、特定の組織、物質を標的化するために、ペプチド、抗体等を表面に結合したり、粒子に電荷を付加したりしてもよい。
本発明の医薬は、通常、水、生理食塩水等に含まれる水性の組成物とすることができる。なお、本発明のハイドロゲル粒子は、医薬以外の様々な分野で利用可能であり、ハイドロゲル粒子を含む水性組成物は、様々な用途で中間物質として利用可能である。
本発明の医薬は、上述の通り、組織・細胞のイメージ化、疾患の治療若しくは予防、治療補助等の様々な目的で利用可能であり、様々な標的に利用できる。例えば、細胞外液;マクロファージ、単球及び好中球等の貪食細胞、幹細胞、iPS細胞、免疫細胞及び遺伝子改変された免疫細胞等の非貪食細胞などの細胞;並びに移植組織・臓器、自家移植組織・臓器、外部から移植される組織・臓器及び人工的に作成された組織・臓器を標的にすることができる。
また、患者への投与経路は、その分析、治療等の目的及び標的などに応じて選択すればよいが、例えば静脈投与、標的臓器への局所投与などで投与することができる。その他については、担持される標識プローブ又は薬学的に活性な物質の通常の利用方法を参考に決定すればよい。
次に、本発明の医薬の製造方法について説明する。
本発明の医薬を構成するハイドロゲル粒子は、親水性ポリマーを架橋反応させて得られ、親水性ポリマーとしては前述した天然高分子、その誘導体、及び合成高分子を挙げることができる。親水性ポリマーは、通常溶液として調製され、架橋反応に供される。溶媒としては水が望ましいが、親水性ポリマーの種類に応じて、適宜、アルコールを添加したり、乳化剤を添加してもよい。
本発明においては、親水性ポリマーは、放射線を照射する架橋方法に供され、本発明は、このような放射線を照射する物理化学的方法で、10nm以下の粒径を含む広範囲の粒径から特定の粒径のハイドロゲル粒子を製造することを今回初めて可能にした。
本発明による放射線架橋方法では、親水性ポリマーを含む溶液に、放射線、典型的にはγ線又は電子線を照射する際に、溶液中の溶存酸素濃度、及び/又は親水性ポリマーの分子量を含む架橋反応条件を調節して、ハイドロゲル粒子の粒径を制御する。
親水性ポリマーを含む溶液にγ線等の放射線を照射すると、水分子の分解によって活性の高い分子が形成され、これが親水性ポリマーから水素原子を引き抜き、親水性ポリマーは反応活性の高い状態になる。この結果、近傍の親水性ポリマーと結合して3次元的なネットワーク構造を形成し、耐熱性や形状安定性が向上すると共に、多くの水を保持できるようになる。この架橋反応が連続すると多くのポリマーが架橋し大きな粒子になるが、反応中、親水性ポリマーを含む溶液に酸素が存在すると、これが架橋反応を停止する。そこで、親水性ポリマーを含む溶液中の酸素濃度を調整することでハイドロゲル粒子の粒径を制御することができる。
他方、親水性ポリマーの分子量は、ネットワーク構造の構造単位の点から、分子量を制御する。すなわち、架橋反応が同じ数繰り返された場合でも、相互に架橋してハイドロゲルを形成する親水性ポリマーの分子量が小さければ、ハイドロゲル粒子の粒径も小さくなる。このため、溶液中の酸素濃度等の他の条件と相まって特定の分子量の親水性ポリマーを選択することで、ハイドロゲル粒子の粒径を制御することができる。
放射線としては、γ線、X線及び電子線のいずれか1種、或いはこれらの混合放射線等を挙げることができ、粒度分布の制御が容易なγ線又は電子線が好ましい。
親水性ポリマーを含む溶液中の酸素濃度は、通常0~40mg/Lの範囲で調整され、例えば、0~7mg/L、又は25~40mg/Lの範囲に調整することもできる。他の架橋条件にもよるが、例えば、平均粒径が30nmを超える粒子とする場合には、溶液中の溶存酸素濃度を0.1mg/L以下とすることが好ましく、0mg/Lとすることがより好ましい。他方、平均粒径が30nm以下の粒子とする場合には、8~40mg/Lの溶存酸素濃度を選択することが好ましく、25~40mg/Lの溶存酸素濃度とすることがより好ましく、30~40mg/Lの溶存酸素濃度とすることが更に好ましい。
溶液中の溶存酸素濃度を0.1mg/L以下とする場合には、例えば、ゼラチン溶液を窒素ガスを充填するなどした無酸素雰囲気に攪拌しながら一定時間(少なくとも30分以上、好ましくは1時間から12時間)置くことが好ましく、必要に応じて脱気工程を行ってもよい。他方、8mg/Lより多い溶存酸素濃度、典型的には10~40mg/Lの溶存酸素濃度とするには、例えば、ゼラチン溶液を、20~100%の酸素含有雰囲気、好ましくは30~100%、より好ましくは75~100%の酸素濃度の雰囲気下で、必要に応じて加圧及び/又は攪拌しながら一定時間(少なくとも20分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間から12時間)置けばよい。大気は、約20%の酸素を含有しており、ゼラチン溶液に酸素を溶存させる簡便な雰囲気である。もっとも、より多くの酸素を含有させるために、より高濃度の酸素を含有する雰囲気を選択しても良い。
親水性ポリマーの分子量は、通常1,000~1,000,000の範囲から選択され、例えば、平均粒径が30nm以上のハイドロゲルを調製する場合には、他の架橋条件にもよるが、分子量が100,000以上(例えば、100,000~1,000,000の親水性ポリマーを選択することが好ましく、分子量が150,000以上(例えば、150,000~800,000)の親水性ポリマーを選択することがより好ましく、分子量が180,000以上(例えば、180,000~500,000)の親水性ポリマーを選択することが更に好ましい。
他方、平均粒径が30nm以下の粒子とする場合には、分子量が180,000以下(例えば、1,000~180,000)の親水性ポリマーを選択するこが好ましく、分子量が10,000以下(例えば、1,000~10,000)の親水性ポリマーを選択することがより好ましく、分子量が3,000以下(例えば、1,000~3,000)の親水性ポリマーを選択することが更に好ましい。特に、平均粒径が10nm以下の粒子とする場合には、分子量が10,000以下(例えば、1,000~10,000)の親水性ポリマーを選択することがより好ましく、平均粒径が5nm以下の粒子とする場合には、分子量が5,000以下(例えば、1,000~5,000)の親水性ポリマーを選択することが好ましく、分子量が3,000以下(例えば、1,000~3,000)の親水性ポリマーを選択することがより好ましい。
本発明の一実施形態によれば、溶液中の溶存酸素濃度及び/又は親水性ポリマーの分子量に加え、放射線、典型的にはγ線又は電子線の照射量・照射率、照射時の溶液温度、溶液中の親水性ポリマー濃度、溶液のpHを特定範囲で調節することにより、ハイドロゲル粒子の粒径を制御する。例えば、溶液中の溶存酸素濃度を0~40mg/Lの範囲で調整するとともに、水溶液中の親水性ポリマーの濃度を0.04~7.0質量%の範囲で調整し、放射線、典型的にはγ線の線量を0.04~100kGyの範囲で調整し、γ線又はX線の線量率を0.1~100kGy/hの範囲で調整し、電子線の線量率を0.04~50kGy/passの範囲で調整しγ線等の放射線の照射時の溶液温度を0~70℃の範囲で調整して、ハイドロゲル粒子の粒径を制御する。
親水性ポリマーの濃度は、広範囲の濃度を選択可能であり、典型的には、0.04~7.0質量%の範囲から選択される。平均粒径が30nm以上のハイドロゲルを調製するには、1.0質量%以上の濃度とすることが好ましく、3.0質量%以上の濃度とすることがより好ましく、4.0質量%以上の濃度とすることが特に好ましい。他方、30nm未満の平均粒径のハイドロゲルを調製するには、1.0質量%未満が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。また、0.04~0.2質量%の範囲であれば、粒径に大きな差異はないが、生成される粒子数が濃度に依存して多くなるため、0.08質量%以上の濃度を選択することが好ましく、0.1質量%以上の濃度を選択することがより好ましい。
γ線等の放射線の線量・線量率も、広範囲の線量・線量率を選択可能であり、通常、γ線やX線の線量率は0.1~100kGy/hの範囲から選択され、電子線の線量率は0.04~50kGy/passの範囲から選択され、照射線量は1kGy~100kGyの範囲から選択される。平均粒径が30nm以上のハイドロゲルを調製する場合には、溶液中の親水性ポリマーの濃度を1.0質量%より大きく、好ましくは4.0質量%以上とした上で、γ線の照射線量を5kGy以上とすることが好ましく、10kGy以上とすることがより好ましく、15kGy以上とするがさらに好ましい。溶液中の親水性ポリマーの濃度が1.0質量%以下、特に0.5質量%以下の場合には、放射線の線量・線量率は、ほとんど粒径に影響を及ぼさず、主に、形成される粒子の濃度に関連する。従って、このような親水性ポリマーの濃度においては、典型的にはγ線やX線の場合、0.1kGy/h~20kGy/hの範囲から選択することができ、形成される粒子の濃度に対するエネルギー効率の観点から、好ましくは0.3kGy/h~15kGy/hの範囲から選択され、より好ましくは2kGy/h~10kGy/hの範囲から選択される。また、電子線の場合、0.04~50kGy/passの範囲から選択することができ、形成される粒子の濃度に対するエネルギー効率の観点から、好ましくは0.04~10kGy/passの範囲から選択され、より好ましくは0.04~5kGy/passの範囲から選択される。
照射時の溶液温度は、形成される粒子の粒径に影響を及ぼす因子であり、通常、0℃~70℃から選択される。特に、親水性ポリマーの濃度を3.0質量%以上とし、照射線量を1kGy以上とする場合には、25℃以上の温度を選択することで平均粒径が50nm以上の粒子を得ることができる。他方、溶液中の親水性ポリマーの濃度が1.0質量%以下、特に0.5質量%以下の場合には、20℃以上の温度では、温度が粒径に殆ど影響を及ぼさないが、20℃未満の温度とすると粒径が大きくなる。従って、例えば、平均粒径が30nmを超える粒子とする場合には、20℃未満の温度を選択することが好ましく、15℃以下の温度を選択することがより好ましい。他方、平均粒径が30nm以下の粒子とする場合には、20℃より高い温度を選択することが好ましく、平均粒径が25nm以下の粒子とする場合には、25℃以上の温度を選択することが好ましい。
溶液のpHは、親水性ポリマーの濃度を3.0質量%以上とする場合には、粒径に関連する因子になり、例えば、平均粒径が40nm以上の粒子とする場合には、pH6以上を選択することが好ましく、pH7以上を選択することがより好ましい。他方、親水性ポリマーの濃度を1.0質量%以下とする場合には、溶液のpHは、粒径に影響を及ぼさない。従って、特にpHを調製する必要は無いが、通常はpH5~11程度とする。
以上の点を踏まえ、一実施形態において、平均粒径5nm以下の粒径を有するハイドロナノゲル粒子、典型的にはゼラチンナノゲルを調製する場合、以下の条件が選択される。
親水性ポリマーの分子量:5,000以下(例えば、1,000~5,000、好ましくは1,000~3,000)
親水性ポリマー溶液の濃度:0.05~3.0重量%
溶存酸素濃度:8~40mg/L(好ましくは25~40mg/L、より好ましくは30~40mg/L)
γ線線量:0.1~100kGy
溶液温度が20~60℃。
また、他の実施形態において、平均粒径30nm以下の粒径を有するハイドロナノゲル粒子、典型的にはゼラチンナノゲルを調製する場合、以下の条件が選択される。
親水性ポリマーの分子量:150,000以下(例えば、1,000~150,000、好ましくは1,000~100,000)
親水性ポリマー溶液の濃度:0.05~0.5重量%
溶存酸素濃度:8~40mg/L、(好ましくは、30~40mg/L)
γ線線量:0.1~100kGy
溶液温度が20~60℃(好ましくは25~60℃)。
さらに他の実施形態において、平均粒径20nm以下(好ましくは15nm以下)の粒径を有するゼラチンナノゲルを調製する場合、以下の条件が選択される。
親水性ポリマーの分子量:100,000以下(通常1,000~100,000)
ゼラチン水溶液の濃度:0.05~0.5重量%
溶存酸素濃度:30~40mg/L
γ線の照射線量:0.1~100kGy
溶液温度が25~60℃。
他方、さらに他の実施形態において、平均粒径60nm以上(好ましくは70nm以上)を有するゼラチンナノゲルを調製する場合、以下の条件が選択される。
親水性ポリマーの分子量:5,000以上(通常5,000~1,000,000)
ゼラチン水溶液の濃度:0.05~5重量%
溶存酸素濃度:0~8mg/L
γ線の照射線量:0.1~100kGy
照射温度が0~15℃。
本発明の製造方法では、上述のようにして得られたハイドロゲル粒子に、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を結合・担持して、医薬を調製する。
ハイドロゲル粒子に結合・担持される標識プローブ及び薬学的に活性な物質は、前述のとおりであり、例えば、エステル化反応やキレート剤の活用によって、標識プローブ及び薬学的に活性な物質をハイドロゲル粒子に結合・担持させる。
MRI造影剤の標識プローブを例に説明すると、標識プローブは、通常、Fe、Mn、Co、Ni、Gd等の常磁性体を含み、標識プローブの担持は、通常、これら常磁性体を含む化合物をハイドロゲル粒子にエステル結合させることにより行なう。これら常磁性体は、生体内でイオン化すると毒性を有することがあるため、キレート剤などに捕捉させた上でハイドロゲル粒子に結合させることが好ましい。このようなキレート剤としては、DTPA等の直鎖型キレート剤、DOTA-NHS-エステル(一般名ガドテル酸メグミン)等のマクロ環型誘導体、複合型のPyC3A、金属粒子である酸化鉄微粒子(SPIO、USPIO)、MnO、GdF3、化学交換飽和移動(CEST)用の標識化合物、超偏極用の核種(13C、19F、3He、129Xe、15N等)などが挙げられる。
標識プローブ又は薬学的に活性な物質をキレート化合物に捕捉させた上でハイドロゲル粒子に結合させる方法としては、例えば、キレート化合物をハイドロゲル粒子に結合させた後、標識プローブ又は薬学的に活性な物質をハイドロゲル粒子に結合したキレート化合物と反応させて錯体を形成する方法が挙げられる。
キレート化合物とハイドロゲル粒子との結合は、例えば、キレート化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド部分等の官能基と、ハイドロゲルのアミノ基とのアミド結合を典型的な一例として挙げることができ、その他では、エステル結合、エーテル結合、ジスルフィド結合、ホスホジエステル結合、メタセシス反応、アルドール縮合等を利用して行なう事ができる。反応は、例えば、常温で水中で両化合物を混合する、事前に両化合物を結合するなどして行なう事ができる。
錯体の形成は、標識プローブ又は薬学的に活性な物質のハロゲン化合物等の塩を用いてキレート化合物に標識プローブ又は薬学的に活性な物質を捕捉させることで行なうことができる。
キレート化合物以外の化合物についても、同様の結合を利用することができるし、ゲルの網目に保持することでハイドロゲルに担持させることも可能である。
ハイドロゲル粒子に、ポリエチレングリコール、ペプチド、抗体等を結合したり、粒子に電荷を付加したりする方法は、多数の報告があるので、それらに従って行えばよい。また、蛍光化合物をゲルに結合させることも、多数の報告があるので、それらに従って行えばよい。
本発明の製造方法では、場合によっては、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する前の、又は担持したゼラチンナノゲルを濃縮及び/又は精製する工程を行なってもよい。また、特定の粒径のゼラチンナノゲルを分取する工程を含んでよい。
このような濃縮、精製及び分取工程は、一般的に利用されている方法でよいが、例えば、1~100kDaの限外ろ過フィルターにより行なうことができる。
標識プローブ又は薬学的に活性な物質がハイドロゲル粒子に担持された医薬は、その用途に応じて他の成分を配合して医薬組成物を調製することができ、通常の診断薬、分析試薬、治療薬、予防薬等で用いられる成分を用いて調整すれば良い。典型的には、水性組成物として調製される。
以下、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
(MRI造影剤の調製)
[実施例1]
分子量150,000の豚ゼラチン0.1重量%に蒸留水99.9重量%を加え、25℃において空気雰囲気で(酸素含有量約21%、大気圧)、10分間攪拌して溶存酸素濃度8mg/Lのゼラチン水溶液を得た。次いで、得られた溶液を、空気雰囲気で、温度25℃で、Co60照射施設においてγ線を線量率10kGy/h、線量5kGyで照射したところ、白濁した液が得られた。動的光散乱測定装置(Malvern社ゼータサイザーナノZSP)を用いて、液にレーザー光を照射して散乱光のゆらぎ(拡散係数を反映する)を検出し、ストークス・アインシュタイン式を利用して液中のゼラチンナノゲルの粒径を分析したところ、図1に示した通り、8~60nmであった。
得られた白濁液を100kDa限外ろ過フィルターにかけ、未反応のゼラチンを弁別し、ゼラチンナノゲルを分取、濃縮、精製した。
得られたゼラチンナノゲルの濃縮液を、5mmol/Lの1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸モノ-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(DOTA-NHS-エステル)と混合し、25℃で1時間静置して反応させ、得られたDOTA-NHS-エステルを担持したゼラチンナノゲルと5mmol/Lの塩化ガドリニウムを40℃で3時間反応させることにより、ゼラチンナノゲルにGd錯体を担持したMRI造影剤を得た。
得られたMRI造影剤を含有する水溶液を密閉容器に入れ、透過型電子顕微鏡で観察した。得られた顕微鏡の像を図2に示す。観察された像からも、造影剤はサイズの揃った粒子であることが分かる。
[実施例2~9]
以下の条件でγ線の照射を行なった他は、実施例1と同様にして(線量5kGy、分子量150,000の豚ゼラチン)、MRI造影剤を得た。
Figure 0007156665000001
実施例2乃至9で得られたゼラチンナノゲルの粒径、並びにMRI造影剤を、実施例1と同様に分析及び観察した。各実施例で得られたゼラチンナノゲルの粒径範囲及び平均粒径を、放射線架橋条件と伴に、表2に纏めて示す。
Figure 0007156665000002
上記の通り、ゼラチン水溶液にγ線を照射する際の条件によって、粒径を制御でき、酸素含有雰囲気での放射線架橋は、酸素を含有しない雰囲気での放射線架橋に比べ、粒子が小さくなった。また、空気雰囲気または高酸素雰囲気で25℃以上の温度で0.05~0.1質量%の濃度のゼラチン水溶液に0.5~10kGy/hの線量率でγ線を照射した場合には、平均粒径30nm以下のゼラチンナノゲルが得られることが分った。
(MRI細胞内へ導入した造影剤のMRI画像の分析)
実施例1で得られた造影剤を、24時間、間葉系幹細胞と共培養し、細胞内に導入した。培養液をPCRチューブに移し、遠心装置により沈殿させた後、チューブをMRI装置内に固定し、MRI計測を行った。対照として、粒径10nm未満のデキストランにMn-DOTAを担持した造影剤を用いた。装置は、7テスラ前臨床用MRIおよび送受信バードケージコイルを用い、典型的なT1強調画像、T2強調画像、T1計算画像、T2計算画像を撮像し、得られた画像より、緩和時間および緩和率を計算した。
図3の左は、実施例1の造影剤を導入した細胞のT1強調画像及びT2強調画像であり、右は、対照であるデキストランMn-DOTAを導入した細胞のT1強調画像及びT2強調画像である。図3に示すように、実施例1の造影剤は、細胞内に入ってもT1強調画像で陽性効果を維持した。一方、デキストランMn-DOTAでは陰性化した。実施例1の造影剤では、水を多く保持しているゼラチンナノゲルを母材としたことで、Gd錯体の周囲に自由水が多く存在する空間が形成され、これにより、横緩和時間の短縮が抑制されたものと予想される。結果として、本発明の造影剤は、細胞追跡など、造影剤を細胞内に導入して行なうMRI検査に有用と考えられる。
実施例1で得られた造影剤と、比較対象としてのgadoteridol、Gd-HP-DO3AMRIに対する造影能を示す数値を以下に示す。
<実施例1の造影剤>
縦緩和能(r1):5.40(sec-1・mM-1
横緩和能(r2):7.96(sec-1・mM-1
r1/r2:0.68
<gadoteridol、Gd-HP-DO3A>
r1:3.82(sec-1・mM-1
r2:4.82(sec-1・mM-1
r1/r2:0.79
(1テスラ装置、サンプル温度24度、ソレノイドコイルで計測)
(平均粒径5nm以下のゼラチンナノゲルの調製)
[実施例10]
分子量2,000の豚ゼラチン2重量%に蒸留水98重量%を加え、25℃において空気雰囲気で(酸素含有量約21%、大気圧)、10分間攪拌して溶存酸素濃度8mg/Lのゼラチン水溶液を得た。次いで、得られた溶液を、空気雰囲気で、温度25℃で、Co60照射施設においてγ線を線量率5kGy/h、線量2.5kGyで照射した。動的光散乱測定装置(Malvern社ゼータサイザーナノZSP)を用いて、この液にレーザー光を照射して散乱光のゆらぎ(拡散係数を反映する)を検出し、ストークス・アインシュタイン式を利用して液中のゼラチンナノゲルの粒径を解析したところ、図4に示す通り2~20nmの粒径で、4nm付近に大きなピークと11nm付近に小さなピークを有する粒径分布が得られ、平均粒径は4.9nmであった。
(坦がんマウスの体内でのイメージング剤の集積及び排出の動態)
実施例10で得られた平均粒径4.9nm、濃度5mMのMRI造影剤を、21.3gの坦がんマウスの静脈に300μL注入し、体内での集積及び排出の様子をMRIにより計測・撮像した。担がんマウスは、Colon26 s.c. Day9 modelを用いた。装置は、7テスラ前臨床用MRIおよび送受信バードケージコイルを用い、T1強調画像、T2強調画像、T1計算画像、T2計算画像を撮像した。
図5は、実施例10で得られたMRI造影剤を担癌マウスに投与する前のMRIのT1強調画像であり、信号強度を測定した各部位を枠で囲んでいる。図6は、実施例10で得られたMRI造影剤を静脈投与する前、投与直後及び投与から1間後にMRI計測を行った際の腎臓付近のT1強調画像であり、図7は、担癌マウスに実施例10で得られたMRI造影剤を静脈投与する前、投与直後及び投与から1間後にMRI計測を行った際の各部位(肝臓、腎臓皮質、腎臓髄質及び腫瘍部の信号強度を示す。
これらの図に示すように、造影剤は腫瘍や肝臓には集積せず、投与直後腎臓に集積し、その後、2時間以内で腎排出され正常な値(複数回の投与で投与前の信号強度の100~110%)に戻ることが分かった。このことから、2時間後には投与された造影剤の大半の排出が終わったことが示唆される。
(電子線を用いたナノゲル作製)
[実施例11]
実施例2と同じ条件で作製したゼラチン水溶液を、空気雰囲気で、温度25℃で、2MeVの電子線を線量率800Gy/passで6回、線量4.8kGy照射した。動的光散乱測定装置を用いて、液中のゼラチンナノゲルの粒径を分析したところ、図8に示す通り、10nm以下の他、10~50nmの間と300~600nmの間にピークを有する粒度分布のナノゲルが得られた。
(放射線架橋と化学架橋後の残存アミノ酸の比較)
分子量150,000の豚ゼラチン10重量%に蒸留水90重量%を加え、25℃において空気雰囲気で(酸素含有量約21%、大気圧)、10分間攪拌して溶存酸素濃度8mg/Lのゼラチン水溶液を得た。この水溶液に対し、空気雰囲気で、温度25℃で、Co60照射施設においてγ線を線量率10kGy/h、線量60kGyで照射し、放射線架橋ゼラチンゲルを得た。また、上記ゼラチン水溶液に、化学架橋剤であるグルタルアルデヒドの水溶液(0.48重要%)を等量加え40℃で12時間反応させたのち、100mMのグリシン水溶液で50℃1時間洗浄し化学架橋ゼラチンゲルを得た。それぞれの手法で得られた架橋ゼラチンゲルを30℃で24時間真空乾燥し、約1mgを1.5mLの小型バイアルに採取した。窒素飽和条件下、110℃で塩酸により24時間加水分解した。リファレンスとして未架橋のゼラチンも同様に加水分解した。その後、水酸化ナトリウムで中和し、各アミノ酸を4-Fluoro-7-nitrobenzofurazanにより蛍光標識し、HPLCにより定性、定量測定した。ゲル粒子にキレート剤を結合する場合、アミノ基を有するリジンの残存量が重要となる。解析の結果、表3に示すように、未処理のゼラチンと比較して、グルタルアルデヒド処理ではリジンが20%程度まで減少するものの、γ線照射では40%以上残すことが出来るが明らかにされた。さらに、放射線照射では、架橋に関与すると考えられているフェニルアラニンの残存率がグルタルアルデヒドと比べて減少することが明らかにされた。
Figure 0007156665000003


*表中の数値は、未処理のゼラチン中のアミノ基を有するリジン及びフェニルアラニンのモル数を100とした場合の各架橋ゲルのリジン及びフェニルアラニン残存率を示す。
本発明は、脳内に入らない臨床MRI診断用造影剤として広く利用できる可能性がある。また、幹細胞などの移植細胞を標識して、体内動態を追跡できる陽性造影剤としても利用できる可能性がある。また、ナノハイドロゲルの粒径制御法として期待できる。

Claims (38)

  1. ゼラチンまたはペプチドで構成されるハイドロゲルナノ粒子であって、
    溶液中に溶解している前記ゼラチンまたはペプチドが放射線架橋によって結合してゲル粒子が形成されている、ハイドロゲルナノ粒子。
  2. 粒径が400nm以下である、請求項1に記載のハイドロゲルナノ粒子。
  3. 平均粒径が20nm以下である、請求項1または2に記載のハイドロゲルナノ粒子。
  4. 放射線架橋構造を有するゼラチンまたはペプチドで構成されるハイドロゲル粒子であって、平均粒径が5nm以下である、ハイドロゲルナノ粒子。
  5. 標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する、請求項1~4の何れか1項に記載のハイドロゲルナノ粒子を含む、医薬。
  6. PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、又はMRI造影剤である、請求項5に記載の医薬。
  7. 標識プローブを担持し、放射線架橋構造を有するゼラチンまたはペプチドで構成されるハイドロゲル粒子を含む、細胞外液分布造影剤であって、
    前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、1~20nmである、細胞外液分布造影剤。
  8. 前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、1~10nmである、請求項7に記載の細胞外液分布造影剤。
  9. 前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、3~10nmである、請求項7に記載の細胞外液分布造影剤。
  10. 前記ハイドロゲル粒子の平均粒径は、5nm以下である、請求項7に記載の細胞外液分布造影剤。
  11. 前記標識プローブの腎髄質での信号強度が、投与前の該信号強度に対して、投与後1時間以内に10%以上増大し、投与後2時間以内に10%以下の増加レベルになる、請求項7~10の何れか1項に記載の細胞外液分布造影剤。
  12. 肝臓への蓄積無しにイメージ化を行なうための、請求項7~11の何れか1項に記載の細胞外液分布造影剤。
  13. 前記標識プローブの肝臓での信号強度が、投与前の該信号強度に対して、少なくとも投与後2時間まで10%以上増加しない、請求項12に記載の細胞外液分布造影剤。
  14. 肝臓機能が低下している患者に用いる、請求項7~13の何れか1項に記載の細胞外液分布造影剤。
  15. PETイメージング剤、SPECTイメージング剤、CT造影剤、又はMRI造影剤である、請求項7~14の何れか1項に記載の細胞外液分布造影剤。
  16. 細胞内に導入されて該細胞を標識するためのMRI造影剤であって、標識プローブを担持する、放射線架橋構造を有するゼラチンまたはペプチドで構成されるハイドロゲル粒子を含む、MRI造影剤。
  17. 前記ハイドロゲル粒子の粒径が1nm~5μmである、請求項16に記載のMRI造影剤。
  18. 前記ハイドロゲル粒子の粒径が10~200nmである、癌細胞に導入されて該細胞を標識するための、請求項16に記載のMRI造影剤。
  19. 前記ハイドロゲル粒子の粒径が500nm~5μmである、貪食細胞に導入されて該細胞を標識するための、請求項16に記載のMRI造影剤。
  20. 細胞内に導入された際、MRI装置で撮像されたT1強調画像法において水および生体組織において信号低下を生じさせない、請求項16~19の何れか1項に記載のMRI造影剤。
  21. 前記標識プローブが、Gd、Mn、Fe、Co、I、Au、酸化鉄、11C、13N、15O、18F、29Si、62Cu、68Ga、82Rb、13C、19F、He、129Xe、15N、123I又は99mTcを含む、請求項5または6に記載の医薬、または請求項7~20の何れか1項に記載の造影剤。
  22. Gd、Mn、又はFeが、前記ハイドロゲル粒子に直接結合しているか、又はこれら原子の少なくとも1つの1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸モノ-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(DOTA-NHS-エステル)の錯体が前記ハイドロゲル粒子に結合している、請求項21に記載の医薬または造影剤。
  23. 請求項16~22の何れか1項に記載のMRI造影剤を、in vitroで、対象細胞と共培養して該細胞に該MRI造影剤を取り込ませ、該細胞中の該イメージング剤からの信号を検出し、画像化する、細胞イメージング方法。
  24. 請求項5、6、21または22に記載の医薬、または請求項7~22の何れか1項に記載の造影剤を取り込んでいる対象からの信号を検出し、画像化する、組織又は細胞のイメージング方法。
  25. ゼラチンまたはペプチドを含む水溶液に放射線を照射して、ハイドロゲル粒子を製造する方法において、
    該溶液中の溶存酸素濃度を調整し、且つ特定の範囲の分子量を有する該ゼラチンまたはペプチドを選択して、前記ハイドロゲル粒子の粒径を制御することによって、所定の粒径のハイドロゲル粒子を製造し、
    前記ゼラチンまたはペプチドは、目的とする粒径に応じて、分子量が1,000~1,000,000の範囲のものを選択し、前記溶液中の溶存酸素濃度を8~40mg/Lの範囲で調整する、方法。
  26. 前記溶液中の溶存酸素濃度を、所定の酸素濃度の雰囲気中で前記溶液を攪拌して調整する、請求項25に記載の方法。
  27. 前記放射線が、電子線、X線、及びγ線のいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である、請求項25または26に記載の方法。
  28. さらに、前記水溶液中の前記ゼラチンまたはペプチドの濃度、前記放射線の線量、前記放射線の線量率、および/又は前記放射線の照射時の温度を調整することにより、前記ハイドロゲル粒子の粒径を制御する、請求項25~27の何れか1項に記載の方法。
  29. 前記水溶液中の前記ゼラチンまたはペプチドの濃度を0.05~5.0質量%に調整し、放射線の線量を0.04~100kGyの範囲で調整し、前記放射線の線量率を、ガンマ線やX線の場合は0.1~10kGy/hの範囲で、電子線の場合は0.04~50kGy/passの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を0~70℃の範囲で調整する、請求項28に記載の方法。
  30. 分子量が50,000~1,000,000の前記ゼラチンまたはペプチドを選択し、前記水溶液中の前記ゼラチンまたはペプチドの濃度を0.05~5.0質量%に調整し、前記放射線の線量を0.1~100kGyの範囲で調整し、前記放射線の線量率をγ線又はX線では0.1~100kGy/hの範囲で、電子線では0.04~50kGy/passの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を25~60℃の範囲で調整し、必要に応じて限外ろ過フィルターにかけ、所望の粒径のゼラチンナノゲルまたはペプチドナノゲルを分取する、請求項28に記載の方法。
  31. 分子量が1,000~50,000の前記ゼラチンまたはペプチドを選択し、前記水溶液中の前記ゼラチンまたはペプチドの濃度を0.05~0.5質量%に調整し、前記放射線の線量を0.1~100kGyの範囲で調整し、前記放射線の線量率を0.1~10kGy/hの範囲で調整し、前記放射線の照射時の温度を25~60℃の範囲で調整する、請求項28に記載の方法。
  32. 前記溶液中の溶存酸素濃度を30~40mg/Lの範囲で調節する、請求項28~31の何れか1項に記載の方法。
  33. 分子量が1,000~10,000の前記ゼラチンまたはペプチドを選択する、請求項28~32の何れか1項に記載の方法。
  34. 請求項1~4の何れか1項に記載のハイドロゲルナノ粒子に、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する工程を含む、医薬の製造方法。
  35. 請求項25~33の何れか1項に記載の方法で得られたハイドロゲル粒子に、標識プローブ又は薬学的に活性な物質を担持する工程を含む、医薬の製造方法。
  36. 前記イメージング剤は、MRI造影剤であり、前記ハイドロゲル粒子にマクロ環型キレート剤を結合し、前記マクロ環型キレート剤に標識化合物を結合させて錯体を形成する、 請求項34又は35に記載の方法。
  37. 前記マクロ環型キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸モノ-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(DOTA-NHS-エステル)であり、前記標識化合物は、Gdである、請求項36に記載の方法。
  38. 請求項1~4の何れか1項に記載のハイドロゲル粒子を含む水性組成物。
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