以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
(実施形態1)
<電池>
まず、本実施形態に係る電池について、図1を参照して説明する。本実施形態では、電池としてリチウム電池を例に挙げて説明する。図1は、実施形態1に係る電池としてのリチウム電池の構成を示す概略斜視図である。
図1に示すように、本実施形態のリチウム電池100は、電解質3および活物質2bを含む複合体としての正極9と、正極9の一方の側に電解質層20を介して設けられた電極としての負極30と、正極9の他方の側に接して設けられた集電体としての第1集電体41と、を備えている。
すなわち、リチウム電池100は、順に、第1集電体41、正極9、電解質層20、負極30が積層された積層体である。電解質層20において、負極30と接する面を一面20aとし、正極9において、第1集電体41と接する面を表面9aとする。なお、電解質層20に対して、負極30を介して第2集電体(図示せず)を適宜設けてもよく、リチウム電池100は、正極9および負極30のうち少なくとも一方と接する集電体を有していればよい。
[集電体]
第1集電体41および第2集電体は、正極9および負極30と電気化学反応を生じず、かつ電子伝導性を有している形成材料であれば、いずれも好適に用いることができる。第1集電体41および第2集電体の形成材料としては、例えば、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、およびパラジウム(Pd)からなる群からのうちの1種類の金属(金属単体)や、上記の群のうちの1種類以上の金属元素を含む合金、ITO(Tin-doped Indium Oxide)、ATO(Antimony-doped Tin Oxide)、およびFTO(Fluorine-doped Tin Oxide)などの導電性金属酸化物、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タンタル(TaN)などの金属窒化物などが挙げられる。
第1集電体41および第2集電体の形態は、電子伝導性を有する上記形成材料の薄膜の他、金属箔、板状、編み目状または格子状、導電体微粉末を粘結剤とともに混練したペーストなど、目的に応じて適当なものが選択可能である。このような第1集電体41および第2集電体の厚さは、特に限定されないが、例えば、およそ20μmである。第1集電体41および第2集電体の形成は、正極9や負極30などを形成した後であっても、あるいはそれらを形成する前であってもよい。
[負極]
負極30が含む負極活物質(形成材料)としては、例えば、五酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化バナジウム(V2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、ITO(Tin-doped Indium Oxide)、ATO(Antimony-doped Tin Oxide)、FTO(Fluorine-doped Tin Oxide)アルミニウム(Al)が添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウム(Ga)が添加された酸化亜鉛(GZO)、TiO2のアナターゼ相、Li4Ti5O12、Li2Ti3O7などのリチウム複合酸化物、リチウム(Li)、シリコン(Si)、錫(Sn)、シリコン-マンガン合金(Si-Mn)、シリコン-コバルト合金(Si-Co)、シリコン-ニッケル合金(Si-Ni)、インジウム(In)、金(Au)などの金属および合金、炭素材料、炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などが挙げられる。
負極30の厚さは、およそ50nmから100μm程度が好ましいが、所望の電池容量や材料特性に応じて任意に設計することが可能である。
リチウム電池100は、例えば、円盤状であって、外形の大きさは直径約10mm、厚さは約150μmである。小型、薄型であることに加え、充放電可能であって大きな出力エネルギーが得られることから、携帯情報端末などの電力供給源(電源)として好適に用いることができる。なお、リチウム電池100の形状は円盤状であることに限定されず、例えば多角形の盤状であってもよい。このような薄型のリチウム電池100は、単体で用いてもよいし、複数のリチウム電池100を積層させて用いてもよい。積層させる場合には、リチウム電池100において、第1集電体41と、第2集電体とは必ずしも必須な構成ではなく、一方の集電体を備える構成であってもよい。
次に、リチウム電池100に含まれる正極9および電解質層20などの構造について、図2を参照して説明する。図2は、リチウム電池の構造を示す概略断面図である。
図2に示すように、電解質層20は電解質3を含み、正極9は活物質2bと電解質3とを含んでいる。活物質2bは粒子状であって、複数の活物質2bの粒子が寄せ集まって、粒子状の活物質2bの間に複数の孔を有する活物質部2を構成している。
[正極]
正極9における活物質部2の複数の孔は、活物質部2の内部で互いに網目状に連通している。また、活物質2b同士が接触することによって活物質部2における電子伝導性が確保されている。電解質3は、活物質部2の複数の孔を埋め、さらに活物質部2全体を覆って設けられている。すなわち、活物質部2と電解質3とが複合化されて、正極9(複合体)が形成されている。そのため、活物質部2が複数の孔を有さない場合や、孔内まで電解質3が設けられていない場合と比べて、活物質2bと電解質3との接触面積が大きくなる。これにより、界面抵抗が低減され、活物質部2と電解質3との界面において良好な電荷移動が可能となる。
本実施形態のリチウム電池100のように、第1集電体41を正極9側に使用する場合に、活物質2b(活物質部2)には、リチウム(Li)を含む正極活物質であるリチウム複合金属化合物を用いる。なお、図2は活物質2bを模式的に示したものであり、それぞれの活物質2bにおける実際の粒径や大きさは必ずしも同じではない。
正極活物質として用いるリチウム複合金属化合物とは、リチウムを含み、かつ全体として2種類以上の金属元素を含む酸化物などの化合物であって、オキソ酸イオンの存在が認められないものを指している。
リチウム複合金属化合物としては、例えば、リチウム(Li)を含み、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)のうちの1種類以上の元素を含む複合金属化合物が挙げられる。このような複合金属化合物としては、特に限定されないが、具体的には、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、Li2Mn2O3、LiCr0.5Mn0.5O2、LiFePO4、Li2FeP2O7、LiMnPO4、LiFeBO3、Li3V2(PO4)3、Li2CuO2、LiFeF3、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、NMC(Lia(NixMnyCo1-x-y)O2)、NCA(Li(NixCoyAl1-x-y)O2)などが挙げられる。また、本実施形態においては、これらのリチウム複合金属化合物の結晶内の一部原子が、他の遷移金属、典型金属、アルカリ金属、アルカリ希土類、ランタノイド、カルコゲナイド、ハロゲンなどで置換された固溶体もリチウム複合金属化合物に含むものとし、これらの固溶体も正極活物質として用いることができる。
活物質部2の形成材料に、活物質2bとしてリチウム複合金属化合物を用いることにより、活物質2bの粒子間で電子の受け渡しが行われ、活物質2bと電解質3との間でリチウムイオンの受け渡しが行われる。これによって、活物質部2としての機能を良好に発揮させることができる。
活物質部2は、嵩密度が50%以上、90%以下であることが好ましく、50%以上、70%以下であることがより好ましい。活物質部2がこのような嵩密度を有することによって、活物質部2の孔内の表面積を広げ、活物質部2と、電解質3との接触面積を大きくしやすくなる。これにより、リチウム電池100において、従来よりも高容量化が容易となる。
上記の嵩密度をβ(%)、活物質部2の孔も含めた見かけの体積をv、活物質部2の質量をw、活物質2bの粒子の密度をρとすると、下記数式(a)が成り立つ。これにより嵩密度を求めることができる。
β={w/(v・ρ)}×100 ・・・(a)
活物質部2の嵩密度を上記の範囲とするためには、活物質2bの平均粒子径(メジアン径)を、0.3μm以上、10μm以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.5μm以上、5μm以下である。活物質2bの平均粒子径は、例えば、活物質2bをノルマルオクチルアルコールに0.1質量%以上、10質量%以下の範囲の濃度となるように分散させ、光散乱式粒度分布測定装置ナノトラック(商標)UPA-EX250(製品名、マイクロトラック・ベル社)を用いて、メジアン径を求めることにより測定することが可能である。
活物質部2の嵩密度は、活物質部2を形成する工程にて造孔材を用いることによって制御してもよい。
活物質部2の抵抗率は、700Ω・cm以下であることが好ましい。活物質部2がこのような抵抗率を有することにより、リチウム電池100において、充分な出力を得ることができる。抵抗率は、活物質部2の表面に、電極としての銅箔を付着させ、直流分極測定を行うことにより求めることが可能である。
活物質部2では、複数の孔が内部で網目状に連通するとともに、活物質部2同士も連結して網目構造を形成している。例えば、正極活物質であるLiCoO2は、結晶の電子伝導性に異方性があることが知られている。そのため、上記の孔が機械加工で形成されたような、特定の方向に孔が延在しているような構成では、結晶における電子伝導性の方向によっては、電子伝導性が低下することがある。これに対して、本実施形態では、活物質部2が網目構造であるため、結晶の電子伝導性またはイオン伝導性の異方性によらず、電気化学的に活性な連続表面を形成することができる。そのため、用いる形成材料の種類によらず、良好な電子伝導性を担保することができる。
本実施形態の活物質部2を構成する活物質2bでは、表面がチタン酸バリウム(BaTiO3)またはニオブ酸リチウム(LiNbO3)によって被覆されていてもよい。チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウムで表面を被覆することによって、活物質2b(活物質部2)における界面抵抗を低減することができる。
ここで、活物質2b(活物質部2)における被覆の形態について、図3Aおよび図3Bを参照して説明する。図3Aは、BaTiO3による活物質粒子の被覆の形態を示す模式図である。図3Bは、LiNbO3による活物質粒子の被覆の形態を示す模式図である。なお、図3Aおよび図3Bは、活物質2bの粒子単体および被覆の形態を模式的に示したものであり、実際の粒径や被覆の厚さなどは必ずしも同じではない。
図3Aに示すようにBaTiO3では、活物質2bの粒子と比べて微細なBaTiO3の粒子Aが付与されて、活物質2bの表面が被覆されている。BaTiO3の粒子Aによる被覆は、活物質2bの全表面積に対して50%以上であることが好ましい。また、粒子Aの平均粒子径(メジアン径)は、20nm以上、70nm以下であることが好ましい。これらによれば、活物質2b表面において、強誘電体であるBaTiO3によって分極が起こり、リチウムイオンの密度が大きくなって界面抵抗が低減される。粒子Aの平均粒子径は、活物質2bと同様な方法で測定することが可能である。
図3Bに示すようにLiNbO3では、活物質2bの表面にLiNbO3の被膜Bが形成されている。LiNbO3の被膜Bの厚さは、1nm以上、30nm以下であることが好ましく、より好ましくは、3nm以上、20nm以下である。被膜Bの厚さが1nm以上であることにより、活物質2bに含まれる元素の電解質3への拡散が抑えられて、界面抵抗が低減される。ここで、活物質2bに含まれる元素とは、用いるリチウム複合金属化合物によって異なるが、LiCoO2ではコバルト(Co)である。被膜Bの厚さが30nm以下であることにより、リチウムイオン伝導性の低下を抑えることができる。
活物質2b(活物質部2)における、粒子Aや被膜Bによる被覆の形態は上記に限定されず、島状の被膜が付与された形態などであってもよい。
図2に戻り、正極9では、活物質2b同士をつなぎ合わせるバインダー(結着剤)や、活物質部2の嵩密度を調節するための造孔材が含まれる量は、可能な限り低減することが好ましい。バインダーや造孔材は活物質部2(正極9)の中に残存すると、電気特性に悪影響をおよぼす場合があるため、後工程の加熱を入念に実施して除去する必要がある。具体的には、本実施形態においては、正極9を400℃で30分加熱した場合の質量減少率を、5質量%以下としている。上記質量減少率は3質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、質量減少が観測されない、または測定誤差範囲内であることがより好ましい。正極9がこのような質量減少率を有すると、所定の加熱条件において、蒸発する溶媒や吸着水、燃焼または酸化されて気化する有機物などの量が低減される。これによって、リチウム電池100の電気特性(充放電特性)をさらに向上させることができる。
正極9の質量減少率は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用い、所定の加熱条件における加熱前後の正極9の質量値から求めることが可能である。
リチウム電池100において、第1集電体41から法線方向に遠ざかる方向(図2の上方)を上方向としたとき、正極9の上側の表面は、電解質層20と接している。正極9の下側の表面9aは、第1集電体41と接している。正極9において、電解質層20と接する上側が一方の側であり、第1集電体41と接する下側が他方の側である。
正極9の表面9aには、活物質部2が露出している。そのため、活物質部2と第1集電体41とは接して設けられ、双方は電気的に接続されている。電解質3は、活物質部2の孔内まで設けられて、活物質部2の孔内を含む、第1集電体41と接する面以外の活物質部2の表面と接している。このような構成の正極9では、第1集電体41と活物質部2との接触面積より、活物質部2と電解質3との接触面積が大きくなる。これによって、活物質部2と電解質3との界面が、電荷移動のボトルネックとなりにくく、そのため、正極9として良好な電荷移動を確保しやすく、正極9を用いたリチウム電池100において、高容量化や高出力化が可能になる。
[電解質]
次に、正極9に含まれる電解質3の構成について、図4を参照して説明する。図4は、電解質の構成を示す模式図である。
電解質3は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を含む結晶質の第1電解質部31と、第1電解質部31に接する、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)を含む非晶質の第2電解質部32と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
第1電解質部31は、組成式(1)に示すように、リチウム(Li)の一部がガリウム(Ga)で置換され、ランタン(La)の一部がネオジム(Nd)で置換されている。そのため、第1電解質部31は、La(ランタン)の一部がNd(ネオジム)で置換されていない場合と比べて、正方晶-立方晶転移温度(相転移温度)が低下することで、より低い温度で立方晶転移後の結晶が成長しやすくなる。正方晶から立方晶への相転移は、一般的に、微少な吸熱を伴う二次転移であり、相転移に必要な温度および熱量によって起こる。また、ラマン散乱分析やリチウムイオン伝導性の評価により、正方晶においては、リチウムの動きが制限されている一方で、立方晶においては、リチウムが動きやすくなりリチウムイオン伝導性が向上することが分かっている。
図4に示すように、電解質3は、第1電解質部31と、第2電解質部32と、を備え、第2電解質部32は電解質3の内部で連通している。このような電解質3の構造は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)などによって確認することが可能である。
なお、図4は、このような電解質3の構成について、透過型電子顕微鏡を用いた構造観察による状態を模式的に図示したものであって、必ずしも実際の状態と一致するものではない。
ここで、本発明の電池においては、第2電解質部32は必ずしも必須ではない。すなわち、第2電解質部32を用いずに、第1電解質部31で電解質3を形成してもよい。
第1電解質部31において、上記組成式(1)のxが0.1以上であることから、電解質3におけるバルクのリチウムイオン伝導率(粒子バルク内伝導率)を向上させることができる。上記組成式(1)のxが1.0以下であることから、第1電解質部31における粗大粒子の発生を抑えることができる。
第2電解質部32の形成材料としては、融点が、活物質2b、第1電解質部31の融点より低い固体電解質を用いてもよい。具体的には、例えば、LiBH4(268℃)、LiF(848℃)、LiCl(605℃)、LiBr(552℃)、LiI(469℃)、Li3BO3(817℃)、Li2+xC1-xBxO3(0.01<x<0.5)(680℃~750℃)などの酸化物、ハロゲン化物、水素化物、ホウ化物あるいは、それらの部分置換体の非晶質、および部分結晶化ガラスなどが挙げられる。上述した化合物名に付記した括弧内の温度は、化合物の融点である。これらの中でも、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)を含む固体電解質を用いることが好ましく、リチウム(Li)、ホウ素(B)、炭素(C)、酸素(O)を含む固体電解質を用いることがより好ましい。これによれば、非晶質の第2電解質部32を形成することが容易となり、電解質3のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。
また、上記の化合物の一部原子が他の遷移金属、典型金属、アルカリ金属、アルカリ希土類、ランタノイド、カルコゲナイト、ハロゲンなどで置換された固溶体も、第2電解質部32の形成材料として用いてもよい。上述した固体電解質は、1種類単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
本実施形態では、第2電解質部32の形成材料として、Li2+xC1-xBxO3(0.01<x<0.5)を用いる。具体的には、Li2.2C0.8B0.2O3などが挙げられる。上記の形成材料を第2電解質部32に用いることにより、リチウムの偏析によるデンドライトの発生を抑えて、緻密な構造の正極9(複合体)が形成される。これにより、正極9におけるリチウムイオン伝導性をいっそう向上させることができる。
電解質3におけるリチウムイオン伝導性の指標としての総イオン伝導率は、1.0×10-4S/cm以上とする。電解質3がこのようなイオン伝導率を有することにより、活物質部2の表面から離れた位置の電解質3に含まれるイオンが、活物質部2の表面に到達することが容易になる。これにより、上記イオンも活物質部2における電池反応に寄与することが可能となり、リチウム電池100をより高容量とすることができる。
ここで、電解質3のイオン伝導率とは、電解質3自身の伝導率としての粒子バルク内伝導率と、電解質3が結晶質である場合に、結晶の粒子間の伝導率としての粒界伝導率と、それらの総和である総イオン伝導率をいう。また、電解質3における粒界抵抗の指標は粒界伝導率であり、粒界伝導率が増加すれば、粒界抵抗は低減される。電解質3のイオン伝導率の測定方法は後述する。
[電解質層]
図2に戻り、電解質層20は、上述したように、正極9と負極30との間に設けられている。電解質層20は、正極9と同様な電解質3を含み、活物質2bを含んでいない。活物質2bを含まない電解質層20が、正極9と負極30との間に介在することにより、正極9と負極30とが電気的に接続されにくくなり、短絡の発生が抑えられる。正極9および電解質層20は、電解質3を含むため、製造時に双方の電解質3を同時に形成してもよい。すなわち、リチウム電池100の製造工程においては、活物質部2の形成と、電解質層20の形成とを一度に行うことが可能である。また、電解質層20を、電解質3とは異なる形成材料を用いて形成してもよい。その場合には、正極9と電解質層20とを、別々の製造工程にて形成する。
電解質層20の厚さは、0.1μm以上、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2μm以上、10μm以下である。電解質層20の厚さを上記範囲とすることによって、電解質層20の内部抵抗を低減し、かつ正極9と負極30との間での、短絡の発生を抑制することができる。
なお、電解質層20の一面20a(負極30と接する面)に、必要に応じて各種成形法、加工法を組み合わせて、トレンチ、グレーチング、ピラーなどの凹凸構造を設けてもよい。
<電池の製造方法>
本実施形態に係る電池としてのリチウム電池100の製造方法について、図5、図6A、図6B、図6C、図6D、図6Eを参照して説明する。図5は、リチウム電池の製造方法を示す工程フロー図である。図6Aから図6Eは、リチウム電池の製造方法を示す模式図である。なお、図5に示した工程フローは一例であって、これに限定されるものではない。
図5に示すように、本実施形態のリチウム電池100の製造方法は、以下の工程を備えている。工程S1では、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を溶媒に溶解させ、混合して混合物を調製する。工程S2では、活物質2bを用いて第1の成形体としての活物質部2を形成する。工程S3では、混合物を、活物質部2に含浸させた状態で加熱処理を施して反応させ、反応後に得られる結晶質の第1電解質部31と、活物質部2とを含む第2の成形体を形成する。工程S4では、第2の成形体に、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)を含む第2電解質32aを接触させた状態で、加熱によって第2電解質32aを溶融させ、第2の成形体に第2電解質32aの融液を充填する。工程S5では、第2電解質32aの融液が充填された第2の成形体を冷却して、第1電解質部31、第2電解質部32、活物質2b(活物質部2)を含む正極9を形成する。工程S6では、正極の一方の側に電解質層20を介して負極を形成する。工程S7では、正極9の他方の側(表面9a)に第1集電体41を形成する。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
工程S2は、活物質2b(活物質部2)に対して、BaTiO3またはLiNbO3の被覆を施す工程を含んでいてもよい。
ここで、リチウム電池100の製造方法には、本実施形態の電解質3の製造方法が含まれる。すなわち、本実施形態の電解質3の製造方法は、上記組成式(1)で表される結晶質のリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する工程と、混合物に加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部31を形成する工程と、第1電解質部31に、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)を含む第2電解質32aを接触させた状態で、加熱によって第2電解質32aを溶融させる工程と、第2電解質32aの融液を冷却して、第1電解質部31に接する第2電解質部32を形成する工程と、を備えている。
なお、電解質3においては、第2電解質部32を設けなくてもよい。その場合には、上記混合物に加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部31を形成する工程を反復して行うことにより、第1電解質部31と活物質部2とを含む正極9を形成する。
これら電解質3の製造方法が備える工程は、上記リチウム電池100の製造方法のうち、工程S1、工程S3、工程S4、工程S5に含まれている。なお、本実施形態では、液相法を用いた第1電解質部31の製造方法を例に挙げて説明するが、これに限定されない。例えば、混合物から粒子状の第1電解質部31の形成材料を作製した後、粒子状の活物質2bを混合して圧縮成形し、固相法を用いて第2の成形体を形成してもよい。
[混合物の調製]
工程S1では、第1電解質部31の原材料としての前駆体を、溶媒に溶解させて溶液を作製した後、それらを混合して混合物を調製する。すなわち、混合物は、上記原材料(前駆体)を溶解する溶媒を含んでいる。第1電解質部31の前駆体には、上記組成式(1)のリチウム複合金属酸化物を構成する元素を含む金属化合物を用いる。
上記組成式(1)のリチウム複合金属酸化物を構成する元素を含む金属化合物としては、リチウム化合物、ガリウム化合物、ランタン化合物、ネオジム化合物、ジルコニウム化合物を用いる。これらの化合物の種類は特に限定されないが、それぞれ、リチウム、ガリウム、ランタン、ネオジム、ジルコニウムの金属塩または金属アルコキシドの1種類以上であることが好ましい。
リチウム化合物としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム金属塩、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムノルマルブトキシド、リチウムイソブトキシド、リチウムセカンダリーブトキシド、リチウムターシャリーブトキシド、ジピバロイルメタナトリチウムなどのリチウムアルコキシドなどが挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
ガリウム化合物としては、例えば、臭化ガリウム、塩化ガリウム、沃化ガリウム、硝酸ガリウムなどのガリウム金属塩、ガリウムトリメトキシド、ガリウムトリエトキシド、ガリウムトリノルマルプロポキシド、ガリウムトリイソプロポキシド、ガリウムトリノルマルブトキシドなどのガリウムアルコキシドなどが挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
ランタン化合物としては、例えば、塩化ランタン、硝酸ランタン、酢酸ランタンなどのランタン金属塩、ランタントリメトキシド、ランタントリエトキシド、ランタントリプロポキシド、ランタントリイソプロポキシド、ランタントリノルマルブトキシド、ランタントリイソブトキシド、ランタントリセカンダリーブトキシド、ランタントリターシャリーブトキシド、トリス(ジピバロイルメタナト)ランタンなどのランタンアルコキシドなどが挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
ネオジム化合物としては、例えば、臭化ネオジム、塩化ネオジム、フッ化ネオジム、蓚酸ネオジム、酢酸ネオジム、硝酸ネオジム、硫酸ネオジム、トリメタクリルネオジム、ネオジムトリアセチルアセテート、トリ2-エチルヘキサン酸ネオジムなどのネオジム金属塩、トリイソプロポキシネオジム、トリメトキシエトキシネオジムなどのネオジムアルコキシドなどが挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
ジルコニウム化合物としては、例えば、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどのジルコニウム金属塩、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラセカンダリーブトキシド、ジルコニウムテトラターシャリーブトキシド、テトラキス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウムなどのジルコニウムアルコキシドなどが挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
第1電解質部31の前駆体を含む溶液が含む溶媒としては、上述した金属塩または金属アルコキシドを溶解可能な、水あるいは有機溶媒の単溶媒、または混合溶媒を用いる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、アリルアルコール、エチレングルコールモノブチルエーテル(2-ブトキシエタノール)などのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどのエステル類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、ギ酸、酢酸、2-エチル酪酸、プロピオン酸などの有機酸類、トルエン、o-キシレン、p-キシレンなどの芳香族類、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類などが挙げられる。
上述した第1電解質部31の前駆体を、上記の溶媒に溶解して、第1電解質部31の前駆体を含む複数の溶液(金属化合物溶液)を調製する。次いで、複数の溶液を混合して混合物を調製する。このとき、混合物には、第1電解質部31の組成に従った所定の割合で、リチウム、ガリウム、ランタン、ネオジム、ジルコニウムを含有させる。このとき、それぞれの前駆体を含む複数の金属化合物溶液を調製せずに、前駆体を全て混合してから溶媒に溶解し、混合物を調製してもよい。
なお、後工程における加熱によって、上記組成中のリチウムが揮散することがある。そのため、加熱の条件に合わせて、あらかじめ混合物中のリチウム化合物の含有量を、所望の組成に対して0.05モル%から30モル%程度過剰に配合してもよい。
混合物の調製は、具体的には、例えば図6Aに示すように、パイレックス製ビーカー81に、第1電解質部31の前駆体を、それぞれ含む複数の溶液を入れる。そこに、磁石式撹拌子(マグネチックスターラーバー)82を入れ、マグネチックスターラー83にて撹拌しながら混合する。これにより、混合物3Xを得る。そして、工程S2へ進む。
[第1の成形体の形成]
工程S2では、第1の成形体としての活物質部2を形成する。本実施形態では、活物質部2の形成材料(活物質2b)として、リチウム複合金属化合物のLiCoO2を用いる。まず、LiCoO2(シグマアルドリッチ社)の粒子に、湿式遠心分離機LC-1000型(製品名、Krettek社)を用いてノルマルブタノール(ブタノール)中で分級操作を行い、平均粒子径が5μmの粒子状の活物質2bを得る。
[被覆の形成]
本実施形態では、活物質2bの粒子にBaTiO3またはLiNbO3の被覆を施してもよい。被覆の形成方法としては、スパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などの気相法、被覆の形成材料を含む被覆剤(液体)を用いる液相法、固相法が挙げられる。本実施形態では、液相法を用いた被覆の形成方法を例に挙げて説明する。
まず、BaTiO3またはLiNbO3の形成材料を含む被覆剤(液体)を調製する。具体的には、BaTiO3またはLiNbO3の形成材料を、溶媒に溶解させて溶液を作製した後、それらを混合して被覆剤を調製する。
BaTiO3またはLiNbO3の形成材料としては、バリウム化合物、チタン化合物、リチウム化合物、ニオブ化合物を用いる。これらの化合物の種類は特に限定されないが、それぞれ、バリウム、チタン、リチウム、ニオブの金属塩または金属アルコキシドの1種類以上であることが好ましい。
バリウム化合物としては、例えば、塩化バリウム、塩化バリウム二水和塩、臭化バリウム、臭化バリウム二水和塩、フッ化バリウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化バリウム二水和塩などのハロゲン化物、酢酸バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、リン酸バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウムなどのバリウム塩(金属塩)、バリウムジメトキシド、バリウムジエトキシド、バリウムジプロポキシド、バリウムジイソプロポキシド、バリウムジノルマルブトキシド、バリウムジイソブトキシド、バリウムジセカンダリーブトキシド、バリウムジターシャリーブトキシド、バリウムビス(ジピバロイルメタナート)などのバリウムアルコキシド(金属アルコキシド)が挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
チタン化合物としては、例えば、四臭化チタン、四塩化チタンなどのハロゲン化物(金属塩)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラセカンダリーブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシドなどのチタンアルコキシド(金属アルコキシド)が挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
リチウム化合物としては、上述した、組成式(1)のリチウム複合金属酸化物を構成する元素を含む金属化合物に用いるリチウム化合物から、1種類以上が採用可能である。
ニオブ化合物としては、例えば、塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、蓚酸ニオブ、ニオブトリアセチルアセトナート、ニオブペンタセチルアセトナートなどのニオブ塩(金属塩)、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタプロポキシド、ニオブペンタイソプロポキシド、ニオブペンタセカンダリーブトキシドなどのニオブアルコキシド(金属アルコキシド)が挙げられ、この群のうちの1種類以上が採用可能である。
BaTiO3またはLiNbO3の形成材料を含む溶液が含む溶媒としては、上述した金属塩または金属アルコキシドを溶解可能な、水あるいは有機溶媒の単溶媒、または混合溶媒を用いる。具体的には、上述した、第1電解質部31の前駆体を含む溶液に用いる溶媒と同様な溶媒が採用可能である。
ここで、被覆剤には、界面活性剤が含まれていてもよい。被覆剤に界面活性剤を添加することによって、活物質2bに対する被覆剤の濡れ性や、被覆剤に活物質2bを分散させる際の分散性などを向上させることができる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコール化合物、フッ素化合物、ポリオキシエチレン化合物、シリコーン化合物などが採用可能で、用いる溶媒の種類などに応じて適宜選択する。
アセチレングリコール化合物としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール(登録商標)104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D、ダイノール(登録商標)604、607(以上商品名、Air Products and Chemicals, Inc.)、オルフィン(登録商標)B、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、EXP.4123、EXP.4200、EXP.4300、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上商品名、日信化学工業社)、アセチレノール(登録商標)E00、E00P、E40、E60、E100(以上商品名、川研ファインケミカル社)などが挙げられる。
フッ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、フッ素変性ポリマーなどが挙げられる。これらの市販品としては、例えば、S-144、S-145(以上商品名、旭硝子社)、FC-170C、FC-430、フロラードFC4430(以上商品名、住友スリーエム社)、FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FSN-300(以上商品名、Dupont社)、FT-250、FT-251(以上商品名、ネオス社)、BYK(登録商標)-340(商品名、BYK社)などが挙げられる。
ポリオキシエチレン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ニューコール(登録商標)2300番系(2303、2327、2399-Sなど)、ニューコールNT系(3、5、7、9など)、ニューコール1000番系(1004、1006、1008、1203、1305、1525など)(以上商品名、日本乳化剤社)、Tween(登録商標)20、80(以上商品名、東京化成工業社)、エマルゲン(登録商標)102KG、103、104P、105、106、108、120、147、150、220、350、404、420、705、707、709、1108、4085、2025G(以上商品名、花王社)、Brij(登録商標)35、58(商品名、ICI社)、Triton(登録商標)X-100、X-114(商品名、MP Biomedicals,Inc.)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンヘキシルエーテル(C6H13-EO-PO-OH)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物を用いることができる。ポリシロキサン系化合物としては、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、BYK社)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社)、シルフェイス(登録商標)SAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業社)などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、石けん、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルリン酸エステル塩などが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩化合物、N-メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などのアミン塩化合物が挙げられる。
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルアミノ脂肪酸塩などのアミノ酸化合物が挙げられる。
上述したBaTiO3またはLiNbO3の形成材料を、上記の溶媒に溶解して、BaTiO3またはLiNbO3の形成材料を含む複数の溶液を調製する。次いで、複数の溶液を混合し、上記の界面活性剤を添加して被覆剤を調製する。このとき、被覆剤には、BaTiO3またはLiNbO3の組成に従った所定の割合で、バリウム、チタン、リチウム、ニオブを含有させる。このとき、それぞれの形成材料を含む複数の溶液を調製せずに、形成材料を全て混合してから溶媒に溶解し、被覆剤を調製してもよい。被覆剤の調製には、上述した混合物(第1電解質部31の原材料などを含むもの)の調製と同様な方法が採用可能である。
次に、被覆剤中に活物質2bを投入して混合し、被覆剤中に活物質2bの粒子を分散させる。具体的には、図6Bに示すように、被覆剤1Xと活物質2bとを、パイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製の試薬瓶84に入れる。試薬瓶84を、水を入れた超音波洗浄機85に浸漬して超音波を印加する。これにより、二次粒子の発生を抑えて、活物質2bを被覆剤1X中に分散させる。その後、遠心分離装置などを用いて過剰な被覆剤1Xを取り除いてから、被覆剤1Xが表面に付与された活物質2bを内径50mm、深さ20mmのチタン製シャーレに移し、ホットプレート上などで加熱する。このとき、100℃以下で約30分間加熱して被覆剤1Xに含まれる溶媒を揮発させてから、360℃で30分間加熱して有機成分を燃焼、分解する。次に、540℃で1時間加熱して、有機成分の残分の除去と、活物質2b表面へのBaTiO3またはLiNbO3の被覆を施す。以上により、表面がBaTiO3またはLiNbO3で被覆された活物質2bを得る。
ここで上記の説明では、粒子状の活物質2bにBaTiO3またはLiNbO3の被覆を施したが、これに限定されない。活物質2bを用いて活物質部2を形成した後に、活物質部2に被覆剤1Xを付与することによって、活物質部2(活物質2b)の表面に被覆を施してもよい。
次に、図6Cに示すように成形型86を使用して、活物質2bまたは表面が被覆された活物質2b(以降、単に「活物質2b」ともいう。)を圧縮成型する。具体的には、LiCoO2の粉末を、624MPaの圧力にて成形型86(内径10mmの排気ポート付きダイス)を用いて2分間加圧し、LiCoO2(活物質2b)の円盤状成形物(直径10mm、実効径8mm、厚さ150μm)を作製する。
その後、活物質2bの上記成形物を基板に載置し、900℃にて8時間かけて熱処理を施して、活物質部2を得る。この熱処理によって活物質2bの粒子同士が焼結され、上記成形物の形状が保持されやすくなる。また、活物質2b同士が接触して結合し、電子の移動経路が形成される。上記基板の形成材料としては、特に限定されないが、活物質2bや電解質3と反応しにくい材料を用いることが好ましく、例えば酸化マグネシウムなどが挙げられる。
熱処理の温度は、例えば850℃以上であって、活物質2bの融点未満の温度が好ましい。これにより、活物質2b同士を焼結させて、一体化した多孔質の活物質部2が得られる。熱処理の温度を850℃以上とすることによって、焼結が十分に進行するとともに、活物質2bの結晶内の電子伝導性が確保される。熱処理の温度を活物質2bの融点未満とすることによって、活物質2bの結晶内のリチウムイオンが過剰に揮散することを抑え、リチウムのイオン伝導性が維持される。これにより、正極9の電気的な容量を確保することが可能となる。熱処理の温度は、より好ましくは875℃以上、1000℃以下である。これによって、正極9を用いるリチウム電池100において、適切な出力および容量を付与することができる。
熱処理の時間は、例えば5分以上、36時間以下とすることが好ましい。より好ましくは、4時間以上、14時間以下である。以上の処理によって、複数の孔を有する、活物質部2が得られる。そして、工程S3へ進む。
[第2の成形体の形成]
工程S3では、工程S1で調製した混合物3Xを活物質部2に接触、含浸させて加熱処理を施し、混合物3Xから結晶質の第1電解質部31を製造する。これにより、活物質部2の複数の孔内を含む表面に、第1電解質部31が形成され、第2の成形体が得られる。
まず、混合物3Xと活物質部2とを接触させて、混合物3Xを活物質部2へ含浸させる。具体的には、図6Dに示すように、基板87上に活物質部2を載置する。基板87は、例えば酸化マグネシウム製である。
次いで、活物質部2に、マイクロピペット88などを用いて、活物質部2の孔内を含む表面に、混合物3Xを塗布する。このとき、作製した第2の成形体の嵩密度が、およそ75%以上、85%以下程度となるように混合物3Xの塗布量を調節する。換言すれば、活物質部2の空隙(孔)のおよそ半分の体積が、第1電解質部31で充填されるように混合物3Xの塗布量を調節する。第2の成形体の嵩密度は、上述した活物質部2の嵩密度と同様にして求めることができる。
混合物3Xの塗布方法としては、マイクロピペット88による滴下の他に、例えば、浸漬、吹き付け、毛細管現象による浸透、スピンコートなどの手段を用いることが可能であり、これらを組み合わせて実施してもよい。混合物3Xは流動性を有するため、毛細管現象によって活物質部2の孔内へも到達しやすくなっている。活物質部2の孔内を含む表面全体に、混合物3Xが濡れ広がるように塗布する。
ここで、電解質層20を電解質3と同一の形成材料で形成する場合には、活物質部2の片面に、混合物を過剰に塗布してもよい。この状態で後述する加熱処理を施すことにより、第1電解質部31に活物質部2が完全に埋没して、電解質層20が形成される。
次いで、活物質部2に含浸させた混合物3Xに、加熱処理を施す。加熱処理は、加熱温度が500℃以上、650℃以下の第1の加熱処理と、第1の加熱処理の後に行われ、加熱温度が800℃以上、1000℃以下の第2の加熱処理と、を含んでいる。第1の加熱処理により、混合物3Xに含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度が高められて反応が促進され、第1電解質部31を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。これらによって、リチウムイオン伝導性をさらに向上させることができる。なお、加熱処理は、乾燥大気下、酸化雰囲気下、不活性ガス雰囲気下などで行ってもよい。加熱処理の方法としては、例えば、電気マッフル炉などを用いて行う。
次いで、加熱処理の後に室温まで徐冷する。加熱処理によって混合物3Xにおける反応が進行し、結晶質の第1電解質部31が形成される。
以上により、活物質部2と第1電解質部31とが複合化された第2の成形体が得られる。第2の成形体は、嵩密度がおよそ75%以上、85%以下程度であり、複数の孔を有している。なお、第2成形体の嵩密度が70%未満であった場合には、該嵩密度が70%以上となるまで工程S3を繰り返し行う。ここで、本実施形態では、液相法を用いて第1電解質部31を形成したが、これに限定されない。第1電解質部31などを、固相法を用いて形成してもよい。そして、工程S4へ進む。
[第2電解質の充填]
工程S4では、第2の成形体の孔内に、第2電解質部32の形成材料を含む第2電解質32aの融液を充填する。本実施形態では、第2電解質32aとして、Li2.2C0.8B0.2O3(以下、「LCBO」ともいう。)を用いる。まず、LCBOの粒子(紛体)を作製する。具体的には、例えば、Li2CO3とLi3BO3とをモル混合比4:1で混合し、工程S2で用いた成形型86を用い、30MPaの圧力にて2分間加圧し錠剤型とする。その後、高温炉に入れ、650℃にて4時間焼成して、LCBOの固形物を作製する。この固形物を、乾式ミルなどを用いて粉砕し、粉末状としてLCBO粒子(第2電解質32aの粒子)を得る。
ここで、作製したLCBOの粒子について、熱重量示差熱分析装置TG-DTA2000SA(製品名、ブルカーAXS社)を用いて融点を測定した結果、およそ685℃であった。融点の測定条件については、実施例にて説明する。なお、粒子状の第2電解質32aの製造方法は、上述した方法に限定されず、公知の方法が採用可能である。
次に、第2の成形体に第2電解質32aの融液を含浸させる。具体的には、図6Eに示すように、第2の成形体9Xを、支持体89を介して坩堝90内に載置する。さらに第2の成形体9Xの上面9b(天井面)に、粒子状の第2電解質32aを載置する。
坩堝90は、例えば酸化マグネシウム製であり、支持体89は、例えば金(Au)製である。本実施形態では、第2の成形体9Xの上面9bと対向する面(下面)が、正極9(図1参照)の表面9aとなる。
上面9bに載置する第2電解質32aの質量は、第2の成形体9Xの複数の孔を埋めるに足る質量以上とすることが好ましい。また、上面9bを、活物質部2が第1電解質部31に完全に埋没した面としてもよい。これによれば、上記質量を調節して、正極9と同時に電解質層20を形成することが可能である。この場合には、上面9bが、電解質層20の一面20aとなる。本実施形態では、正極9と電解質層20とを同時に形成する。
上述した状態で、粒子状の第2電解質32aを単独、または粒子状の第2電解質32aおよび第2の成形体9Xを含む全体を加熱する。この際の加熱温度は、第2電解質32aの融点より高く、第1電解質部31の融点より低ければ、任意に設定することが可能である。本実施形態では、加熱温度を700℃とする。加熱方法としては、電気マッフル炉、レーザーアニールなどが挙げられる。なお、粒子状の第2電解質32aから成形ペレットを作製し、この成形ペレットを第2の成形体9Xに載置して加熱してもよい。
第2電解質32aは融点を超えて加熱されることにより、溶融して融液となる。融液は、第2の成形体9Xの上面9bから孔内に浸透しながら、第2の成形体9X全体を包含する。
ここで、第2の成形体9Xへの第2電解質32aの充填方法は、上述した第2電解質32aの融液を浸透させる方法に限定されない。その他の形成方法としては、例えば、第2電解質32aの前駆体を含む溶液を用いた、浸漬、滴下、吹き付け、毛細管現象による浸透、スピンコートなどが挙げられ、後工程にて加熱を施して、上記溶液中の溶媒の除去と第2電解質32aの焼成を行ってもよい。そして、工程S5へ進む。
[正極の形成]
工程S5では、第2電解質32aの融液および第2の成形体9Xを放冷して、第2電解質32aの融液を固化させる。このとき、第2電解質32aの融液は、第2の成形体9Xにおける、活物質部2の表面に設けられた、第1電解質部31と接触した状態で固化する。これにより、活物質部2、第1電解質部31、第2電解質部32が複合化された正極9が形成される。
なお、第2電解質部32を用いずに、第1電解質部31で電解質3を形成してもよい。すなわち、その場合は、工程S3を反復して実施することにより、第2の成形体9Xの空隙を充填して正極9(複合体)を形成する。そして、工程S6へ進む。
[負極の形成]
工程S6では、正極9の一方の側、すなわち電解質層20の一面20aに負極30を形成する。負極30の形成方法は、有機金属化合物の加水分解反応などを伴う、所謂ゾル・ゲル法や、有機金属熱分解法などの溶液プロセスの他、適切な金属化合物とガス雰囲気を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD法、固体電解質粒子のスラリーを使用したグリーンシート法やスクリーン印刷法、エアロゾルデポジション法、適切なターゲットとガス雰囲気を用いたスパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、真空蒸着法、めっき、溶射など、を用いることができる。また、負極30の形成材料としては、上述した負極活物質が採用可能であり、本実施形態ではリチウム(Li)金属を用いる。そして、工程S7へ進む。
[第1集電体の形成]
工程S7では、まず、正極9の電解質層20を形成した面(一面20a)と対向する面(下面)側を研磨する。このとき、研磨加工によって、活物質部2を確実に露出させて、表面9aを形成する。これにより、活物質部2と、この後に形成する第1集電体41との電気的な接続を確保可能にする。なお、上述した工程において、正極9の下面側に活物質部2が十分に露出している場合は、この研磨加工を省略してもよい。
次に、表面9aに第1集電体41を形成する。第1集電体41の形成方法としては、適当な接着層を別途設けて接着する方法、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD法、PLD法、ALD法およびエアロゾルデポジション法などの気相堆積法、ゾル・ゲル法、有機金属熱分解法およびめっきなどの湿式法などが挙げられ、形成面との反応性や電気回路に望まれる電気伝導性、電気回路設計に応じて、適当な方法を用いることができる。また、第1集電体41の形成材料としては、上述した形成材料が採用可能である。以上の工程を経てリチウム電池100が製造される。
以上に述べたように、上記実施形態に係る電解質3、電解質3の製造方法、リチウム電池100、リチウム電池100の製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
電解質3によれば、焼成温度としては比較的に低温の1000℃以下で焼成しても、結晶粒子の粒界抵抗を低減すると共に、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。詳しくは、第1電解質部31は、組成式(1)を基本構成とする結晶質のリチウム複合金属酸化物である。すなわち、第1電解質部31は、リチウム複合金属酸化物を構成する元素のうちのリチウム(Li)の一部が、ガリウム(Ga)で置換されている。これにより、電解質3において、バルクのリチウムイオン伝導率(粒子バルク内伝導率)を向上させることができる。
リチウムの一部をガリウムで置換すると、粗大粒子ができやすい傾向がある。粗大粒子が多く存在すると、粒子同士の接触面積が減少して、リチウムイオン伝導性(総イオン伝導率)の低下につながる。そこで、さらにランタン(La)の一部をネオジム(Nd)で置換する。これにより、粗大粒子の発生が抑えられて、粒子径を小さくすることができる。第1電解質部31が小粒径化されることによって、第1電解質部31を圧縮成形して電解質3を形成する場合には、粒子同士の接触面積がより増加する。また、小さな第1電解質部31の粒子が密に集まって電解質3が形成されるため、粒界抵抗を低減させることができる。また、ランタンの一部をネオジムで置換することにより、電解質3における誘電率が増大してリチウムイオン伝導性をさらに向上させることができる。すなわち、1000℃以下の低温で焼成しても、従来より粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電解質3を提供することができる。
組成式(1)で表される結晶質の第1電解質部31を形成することから、粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電解質3を製造することができる。第1電解質部31が液相法によって形成されることから、第1電解質部31の結晶粒子が混合物の溶液から結晶化されて、固相法と比べて結晶粒子を微細化することが容易になる。また、第1の加熱処理によって、混合物に含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度を高めて第1電解質部31を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。これらによって、リチウムイオン伝導性がより向上した電解質3を製造することができる。
非晶質の第2電解質部32を形成することから、結晶質の第1電解質部31が第2電解質部32と接合されて、第1電解質部31の結晶界面に生じる抵抗がさらに低減される。これに加えて、電解質3のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。
第2電解質部32にLCBOを用いることから、非晶質の第2電解質部32を形成することが容易となり、電解質3のリチウムイオン伝導性をよりいっそう向上させることができる。
BaTiO3またはLiNbO3で表面を被覆することによって、活物質2b(活物質部2)における界面抵抗を低減することができる。
LCBOの融液を第1電解質部31に接触させて電解質3を形成するため、第1電解質部31と接して、非晶質の第2電解質部32を形成することが容易となり、よりいっそうリチウムイオン伝導性が向上した電解質3を製造することができる。
粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上された電解質3を用いることから、充放電特性を向上させたリチウム電池100とすることができる。リチウム供給源となる活物質2b(正極活物質)を備えることから、リチウム電池100の充放電特性をさらに向上させることができる。また、リチウム電池100を従来よりも大容量化することができる。
活物質2bを含む活物質部2の表面を含む内部に、液相法にて第1電解質部31が形成されて、第2の成形体が製造される。さらに、第2の成形体の表面を含む内部に、第2電解質32aの融液が充填されて正極9が製造される。そのため、活物質2bと、第1電解質部31とが接し、第1電解質部31と第2電解質部32とが接して、正極9が形成される。このような構造の正極9を容易に製造できることに加えて、該構造により電解質3の粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上したリチウム電池100を製造することができる。
第1の加熱処理によって、混合物に含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度を高めて第1電解質部31を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。したがって、リチウムイオン伝導性がさらに向上したリチウム電池100を製造することができる。
次に、上記実施形態の電解質としての固体電解質について実施例と比較例とを示し、上記実施形態の効果をより具体的に説明する。図7は、実施例および比較例に係る固体電解質の組成および焼成条件などを示す表である。なお、下記の実験における秤量は、分析用天秤ME204T(メトラー・トレド社)を用いて0.1mgの単位まで行った。
(実施例および比較例)
<金属化合物溶液の調製>
まず、リチウム化合物、ガリウム化合物、ランタン化合物、ネオジム化合物、カルシウム化合物、ジルコニウム化合物および溶媒を用いて、それぞれの金属化合物を含む金属元素源として、以下の金属化合物溶液を調製した。
[1mol/kg 硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた30gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、純度99.95%の硝酸リチウム(関東化学社 3N5)1.3789gと、2-ブトキシエタノール(エチレングルコールモノブチルエーテル)(関東化学社 鹿特級)18.6211gとを秤量した。次いで、ホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、190℃にて1時間撹拌しながら、硝酸リチウムを2-ブトキシエタノールに完全に溶解し、室温(約20℃)まで徐冷して、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を得た。なお、硝酸リチウムの純度は、イオンクロマトグラフィー質量分析計を用いて測定することが可能である。
[1mol/kg 硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液]
マグネチックスターラーバーを入れた20gのパイレックス製試薬瓶へ、硝酸ガリウム・n水和物(n=5.5:高純度化学研究所社 3N)3.5470gと、エチルアルコール6.4530gとを秤量した。次いで、ホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、90℃にて1時間撹拌しながら、硝酸ガリウム・n水和物(n=5.5)をエチルアルコールに完全に溶解し、室温まで徐冷して、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物(n=5.5)のエチルアルコール溶液を得た。なお、用いた硝酸ガリウム・n水和物の水和数nは、燃焼実験による質量減少の結果から、5.5であった。
[1mol/kg 硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバーを入れた30gのパイレックス製試薬瓶へ、硝酸ランタン・六水和物(関東化学社 4N)8.6608gと、2-ブトキシエタノール11.3392gとを秤量した。次いで、ホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、140℃にて30分間撹拌しながら、硝酸ランタン・六水和物を2-ブトキシエタノールに完全に溶解し、室温まで徐冷して、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[1mol/kg 硝酸ネオジム,含水の2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバーを入れた20gのパイレックス製試薬瓶へ、硝酸ネオジム,含水(n=5:高純度化学研究所社、4N)4.2034gと、2-ブトキシエタノール5.7966gとを秤量した。次いで、ホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、140℃にて30分間撹拌しながら、硝酸ネオジム,含水(n=5)を2-ブトキシエタノールに完全に溶解し、室温まで徐冷して、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液を得た。なお、用いた硝酸ネオジム,含水の水和数nは、燃焼実験による質量減少の結果から、5であった。
[1mol/kg 硝酸カルシウム・四水和物の2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバーを入れた20gのパイレックス製試薬瓶へ、硝酸カルシウム・四水和物(関東化学社 3N)2.3600gと、2-ブトキシエタノール7.6400gとを秤量した。次いで、ホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、100℃にて30分間撹拌しながら、硝酸カルシウム・四水和物を2-ブトキシエタノールに完全に溶解し、室温まで徐冷して、1mol/kg濃度の硝酸カルシウム・四水和物の2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[1mol/kg ジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液]
マグネチックスターラーバーを入れた20gのパイレックス製試薬瓶へ、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業社)3.8368gと、ブタノール(ノルマルブタノール)6.1632gとを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温にて30分間撹拌しながら、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドをブタノールに完全に溶解して、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液を得た。
<混合物の調製>
次に、実施例1から実施例5c(以降、単に「実施例」ともいう。)、比較例1aから比較例4(以降、単に「比較例」ともいう。)において、図7に示した第1電解質部の組成に従って、混合物としての第1電解質部および第2電解質部の前駆体を含む溶液を調製した。
[実施例1のLi5.5Ga0.5La2.99Nd0.01Zr2O12の前駆体を含む溶液]
実施例1では、Li5.5Ga0.5La2.99Nd0.01Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9900g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.0100g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例1の混合物を得た。
[実施例2a、2bのLi5.5Ga0.5La2.96Nd0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液]
実施例2a、2bでは、Li5.5Ga0.5La2.96Nd0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9600g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.0400g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例2a、2bの混合物を得た。
[実施例2cのLi5.5Ga0.5La2.96Nd0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液]
実施例2cでは、Li5.5Ga0.5La2.96Nd0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液7.1500g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9600g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.0400g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例2cの混合物を得た。
[実施例3a、3bのLi6.7Ga0.1La2.95Nd0.05Zr2O12の前駆体を含む溶液]
実施例3a、3bでは、Li6.7Ga0.1La2.95Nd0.05Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液8.0400g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.1000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9500g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.0500g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例3a、3bの混合物を得た。
[実施例4のLi4Ga1La2.95Nd0.05Zr2O12の前駆体を含む溶液]
実施例4では、Li4Ga1La2.95Nd0.05Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液4.8000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液1.0000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9500g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.0500g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例4の混合物を得た。
[実施例5a、5bのLi5.2Ga0.6La2.8Nd0.2Zr2O12前駆体を含む溶液]
実施例5a、5bでは、Li5.2Ga0.6La2.8Nd0.2Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.2400g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.8000g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.2000g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例5a、5bの混合物を得た。
[実施例5cのLi5.2Ga0.6La2.8Nd0.2Zr2O12前駆体を含む溶液]
実施例5cでは、Li5.2Ga0.6La2.8Nd0.2Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.7600g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.8000g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.2000g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、実施例5cの混合物を得た。
[比較例1a、1bのLi5.5Ga0.5La2.79Nd0.21Zr2O12の前駆体を含む溶液]
比較例1a、1bでは、Li5.5Ga0.5La2.79Nd0.21Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.7900g、1mol/kg濃度の硝酸ネオジム,含水(n=5)の2-ブトキシエタノール溶液0.2100g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、比較例1a、1bの混合物を得た。
[比較例2のLi5.5Ga0.5La3Zr2O12の前駆体を含む溶液]
比較例2では、Li5.5Ga0.5La3Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液3.0000g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、比較例2の混合物を得た。比較例2の混合物には、ネオジム(Nd)が含まれない。
[比較例3a、3bのLi5.5Ga0.5La2.96Ca0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液]
比較例3a、3bでは、Li5.5Ga0.5La2.96Ca0.04Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液6.6000g、1mol/kg濃度の硝酸ガリウム・n水和物のエチルアルコール溶液0.5000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液2.9600g、1mol/kg濃度の硝酸カルシウム・四水和物の2-ブトキシエタノール溶液0.0400g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、比較例3a、3bの混合物を得た。比較例3a、3bの混合物には、ネオジム(Nd)が含まれず、代わりにカルシウム(Ca)が含まれている。
[比較例4のLi7La3Zr2O12の前駆体を含む溶液]
比較例4では、Li7La3Zr2O12の前駆体を含む溶液を調製する。まず、ガラス製ビーカーへ、1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液7.0000g、1mol/kg濃度の硝酸ランタン・六水和物の2-ブトキシエタノール溶液3.0000g、1mol/kg濃度のジルコニウムテトラノルマルブトキシドのブタノール溶液2.0000gを秤量し、マグネチックスターラーバーを投入した。次いで、マグネチックスターラーを用いて、室温にて30分間撹拌し、比較例4の混合物を得た。比較例4の混合物には、ガリウム(Ga)およびネオジム(Nd)が含まれない。
実施例および比較例の混合物(前駆体を含む溶液)では、後工程の加熱によるリチウムの揮散分(脱離分)を勘案し、各所定の理論組成に対して、後述する焼成温度を1000℃とする水準(実施例2cおよび実施例5c)では、モル比で1.30倍となるように1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を配合した。これに対し、上記以外の水準では、各所定の理論組成に対して、モル比で1.20倍となるように1mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を配合した。他の金属化合物溶液は、理論組成に対して、等モル比となるように配合した。
<固体電解質ペレットの作製>
以上で調製した、実施例および比較例の混合物を用いて、評価用の固体電解質ペレット(第1電解質部のペレット)を作製する。なお、図7に示した第2電解質部は、実施例および比較例のリチウム電池を製造する際の電解質に含まれるものを示している。以下に述べる固体電解質ペレットの評価は、第1電解質部単独での評価である。
まず、内径50mmφ×高さ20mmのチタン製シャーレに、前駆体を含む溶液を入れる。これをホットプレートに載せ、ホットプレートの設定温度を180℃として1時間加熱し、溶媒を除去する。続いて、ホットプレートの設定温度を360℃として30分間加熱し、含まれる有機成分の大部分を燃焼により分解させる。その後、ホットプレートの設定温度を540℃として1時間加熱し、残存する有機成分を燃焼、分解させる。その後、ホットプレート上で室温まで徐冷して、540℃仮焼成体を得る。
次に、540℃仮焼成体をメノウ乳鉢に移して充分に粉砕、混合する。そこから0.2000gを秤量して、0.624kN/mm2(624MPa)の圧力にて成形型(内径10mmの排気ポート付きダイス)を用いて5分間加圧し、540℃仮焼成体ペレット(540℃仮焼成体の円盤状成形物)を作製する。
さらに、図7に示した焼成条件により、540℃仮焼成体ペレットに焼成(本焼成)を施す。具体的には、540℃仮焼成体ペレットを酸化マグネシウム製の坩堝に入れ、酸化マグネシウム製の蓋をして、電気マッフル炉FP311(製品名、ヤマト科学社)にて各焼成条件で焼成を施す。なお、焼成条件は、実施例2a、5a、比較例3aが800℃で9時間とし、実施例2c、5cが1000℃で8時間とし、これら以外は900℃で8時間とした。次いで、電気マッフル炉を室温まで徐冷してペレットを取り出し、直径約9.5mm、厚さ約800μmの評価用固体電解質ペレットとする。
以上の操作を、実施例および比較例の前駆体を含む溶液について行い、各固体電解質ペレットを作製した。なお、実施例3b、比較例1bの固体電解質(第1電解質部)は、それぞれ実施例3a、比較例1aの第1電解質部と同様であるため、固体電解質ペレットの評価を省略した。
<固体電解質の評価>
[リチウムイオン伝導性]
実施例および比較例の固体電解質ペレットについて、以下の方法にて、リチウムイオン伝導性の指標としてリチウムイオン伝導率の評価を行った。
固体電解質ペレットの表裏両面に、リチウム蒸着にて8mmφのリチウム電極(イオン活性化電極)を作製した。次いで、インピーダンスアナライザーSI1260(ソーラトロン社)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。なお、測定時のAC振幅は10mV、測定周波数は107Hzから10-1Hzとした。
得られたインピーダンススペクトルであるCole-Coleプロットの一例として、比較例2を用いて説明する。図8は、比較例のインピーダンススペクトルであるCole-Coleプロットを示すグラフである。図8においては、横軸はインピーダンスの実数成分(Z’)、縦軸はインピーダンスの虚数成分(Z”)を示し、スペクトルの粒子バルク内成分をZ1、同じく粒界成分をZ2として図8中に記載した。また、低周波数領域の抵抗の発散は、イオンブロッキング電極によるものである。実施例および比較例の固体電解質ペレットについて、Z1およびZ2から、リチウムイオン伝導率(粒子バルク内伝導率、粒界伝導率、総イオン伝導率)を算出し、図9に示した。なお、比較例4のインピーダンススペクトル(Cole-Coleプロット)では、粒子バルク内成分と粒界成分とが一体となっており分離できなかった。そのため、比較例4では、総イオン伝導率のみ算出し、粒子バルク内成分および粒界成分の欄は、「-」と表記した。
[ラマン散乱分析]
実施例および比較例の固体電解質ペレットについて、ラマン散乱分析を行った。具体的には、ラマン分光装置S-2000(日本電子社)を用いてラマン散乱スペクトルを取得し、固体電解質ペレットの結晶構造を確認した。結晶構造(晶系)について、立方晶を「c」、正方晶を「t」、正方晶および立方晶の混在を「t+c」として、図9に示した。
[XRD分析]
実施例および比較例の固体電解質ペレットについて、X線回折(XRD)分析を行った。具体的には、X線回折分析装置MRD(フィリップス社)を用いて、夾雑物の副生を調査した。代表例として、実施例1、比較例1a、比較例2のX線回折チャートを図10Aに、実施例2a、比較例3bのX線回折チャートを図10Bに示した。
固体電解質ペレット中の夾雑物の副生について、図10Aおよび図10Bを参照して説明する。図10Aは、実施例1、比較例1a、比較例2の固体電解質ペレットのX線回折チャートを示す図である。図10Bは、実施例2a、比較例3bの固体電解質ペレットのX線回折チャートを示す図である。図10Aおよび図10Bにおいて、横軸は2θ、縦軸は強度(Intensity/a.u.)を示している。
図10Aに示したように、実施例1および比較例2では、単一のガーネット型結晶構造に基づく回折ピークのみが観察され、夾雑物の副生が確認されなかった。これに対して、比較例1aでは、格子定数が異なる2つのガーネット型結晶構造に基づく回折ピークが観察されたことから、夾雑物の副生が確認された。夾雑物が混在すると、リチウムイオン伝導性を低下させる要因となる。
図10Bに示したように、実施例2aおよび比較例3bでは、単一のガーネット型結晶構造に基づく回折ピークのみが観察され、夾雑物の副生が確認されなかった。
その他の実施例および比較例についても、以上のようにX線回折分析を行い、夾雑物の副生を調査した。その結果、すなわち夾雑物の副生の有無を図9に示した。
上述した固体電解質ペレットの評価結果について、図9を参照して説明する。図9は、実施例および比較例に係るリチウムイオン伝導率および晶系、夾雑物の評価結果を示す表である。
図9に示すように、実施例1から実施例5cの固体電解質ペレットでは、総イオン伝導率が1.0×10-4S/cm以上となった。特に、焼成条件を800℃で9時間とし、焼成温度を他より低くした、実施例2a、5aの総イオン伝導率についても、1.0×10-4S/cmが確保されることが分かった。また評価を行った全ての実施例において、晶系が立方晶であり、夾雑物の副生が確認されなかった。以上の評価結果から、実施例1から実施例5cの固体電解質は、リチウムイオン伝導性に優れ、固体電解質に好適であることが示された。
一方、比較例1aから比較例4の固体電解質ペレットでは、比較例1aを除いて、総イオン伝導率が1.0×10-4S/cm未満となった。また、比較例3aでは正方晶および立方晶の混在が認められ、比較例4は正方晶であることが分かった。さらに、比較例1aは、総イオン伝導率が1.0×10-4S/cm以上となったものの、夾雑物の副生が有ることが分かった。以上の結果から、比較例1aから比較例4の固体電解質は、実施例と比べて劣るものであることが分かった。
[熱分析]
次に、実施例2bおよび比較例3bの混合物(前駆体を含む溶液)について、熱分析により、正方晶形成温度、正方晶-立方晶転移温度および融点を測定した。具体的には、上述した熱重量示差熱分析装置TG-DTA2000SA(製品名、ブルカーAXS社)を用いて、約25mgの混合物をアルミナ製サンプルパンに秤量した。ブランク水準を空の上記サンプルパンとした。測定温度条件は、まず25℃から1300℃まで昇温(昇温速度10℃/分)してから、1300℃で10分間保持した後、25℃まで降温(降温速度20℃/分)した。測定雰囲気は、乾燥空気(流量100ml/分)とした。以上の測定条件にて測定を行った。
上記TG-DTA測定によって得られたTG-DTAチャートから、正方晶形成温度、正方晶-立方晶転移温度および融点を算出して図11に示した。図11は、実施例2bおよび比較例3bのTG-DTA測定結果を示す表である。
図11に示すように、実施例2bは比較例3bと比べて、正方晶形成温度および融点が近しい一方、正方晶-立方晶転移温度が約50℃低い。これは、比較例3bの固体電解質の組成(Li5.5Ga0.5La2.96Ca0.04Zr2O12)に対し、実施例2bでは、カルシウム(Ca)がNdに置き換わった組成(Li5.5Ga0.5La2.96Nd0.04Zr2O12)であることに由来する。すなわち、カルシウム(Ca)をネオジム(Nd)で代替することにより、正方晶-立方晶転移温度を低下させることができる。正方晶-立方晶転移温度の低下によって、固体電解質におけるバルクの成長が促進されて、粒界のイオン伝導率(粒界伝導率)が向上する。このことは、図9に示したように、比較例3bの粒界伝導率が1.0×10-4S/cmであるのに対し、実施例2bでは2.6×10-4S/cmに向上していることからも明らかである。
<リチウム電池の作製>
実施例および比較例の混合物(前駆体を含む溶液)を用いて、上述した製造方法によりリチウム電池を作製した。具体的には、正極活物質としてLiCoO2を、負極としてリチウム箔(厚さ約150μm)を、第1集電体および第2集電体として銅箔(厚さ約100μm)をそれぞれ用いた。正極の厚さは約150μm、電解質層の厚さは約15μm、実効径は約8mmとした。リチウム電池を構成する電解質(第1電解質部の組成および焼成条件など)については、図7に示した通りである。なお、実施例3bおよび比較例1bは、第2電解質部を形成せずに、第2の成形体の形成(工程S3)を繰り返し実施して、第1電解質部のみで電解質を形成した。また、実施例2c、実施例5cには、それぞれ上述したLiNbO3、BaTiO3を用いて活物質LiCoO2に被覆を施した。以下、その詳細な方法について説明する。まず、被覆剤を調製するための金属化合物溶液を調製する。
[0.05mol/kg 硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた100gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、純度99.95%の硝酸リチウム(関東化学社 3N5)0.1724gと、2-ブトキシエタノール(エチレングルコールモノブチルエーテル)(関東化学社 鹿特級)49.8276gとを秤量した。次いで、予め160℃に加熱しておいたホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、硝酸リチウムが完全に溶解するまで30分間、350回毎分で撹拌した。その後、室温(約20℃)まで徐冷して、0.05mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[0.05mol/kg ニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた100gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、ニオブペンタエトキシド(和光純薬工業社)0.
7955gと、2-ブトキシエタノール(エチレングルコールモノブチルエーテル)(関東化学社 鹿特級)49.2045gとを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にてニオブペンタエトキシドが完全に溶解するまで10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.05mol/kg濃度のニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[1mol/kg 酢酸バリウムの酢酸溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた10gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、酢酸バリウム(和光純薬工業社 試薬特級)0.5108gと、酢酸(関東化学社 特級)1.4892gとを秤量した。次いで、予め120℃に加熱しておいたホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、酢酸バリウムが完全に溶解するまで30分間、350回毎分で撹拌した。これにより、1mol/kg濃度の酢酸バリウムの酢酸溶液を得た。
[0.5mol/kg 酢酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた10gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、1mol/kg濃度の酢酸バリウムの酢酸溶液2.0000gと、2-ブトキシエタノール(エチレングルコールモノブチルエーテル)(関東化学社 鹿特級)2.0000gとを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にて充分に混和するように10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.5mol/kg濃度の酢酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[0.5mol/kg チタンテトライソプロポキシドの2-ブトキシエタノール溶液]
マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた20gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、チタンテトライソプロポキシド(純度97質量%、シグマアルドリッチ社)0.5861gと、2-ブトキシエタノール(エチレングルコールモノブチルエーテル)(関東化学社 鹿特級)3.4139gを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にてチタンテトライソプロポキシドが完全に溶解するまで10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.5mol/kg濃度のチタンテトライソプロポキシドの2-ブトキシエタノール溶液を得た。
次に、調製した金属化合物溶液から被覆剤を調製する。
[実施例2c用のLiNbO3被覆剤の調製]
次に、LiNbO3被覆剤として、0.05mol/kgのニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を調製した。具体的には、マグネチックスターラーバー(磁石式撹拌子)を入れた50gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、0.05mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液4.5000g、0.05mol/kg濃度のニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液5.0000g、ノニオン性界面活性剤としてTriton(登録商標)X-100(商品名、MP Biomedicals,Inc.)0.0340gを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にて充分に混和するように10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.05mol/kg濃度のニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を得た。なお、上記被覆剤においては、LiNbO3の単相形成を考慮して、リチウム(Li)をモル比で0.90倍とし、ニオブ(Nb)をモル比で1倍として調製した。
[実施例5c用のBaTiO3被覆剤の調製]
次に、BaTiO3被覆剤として、0.5mol/kgのチタン酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液を調製した。具体的には、マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた50gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、0.5mol/kg濃度の酢酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液1.8000g、アニオン性界面活性剤としてアルキル硫酸エステル塩のLDS(商品名、ACROS ORGANICS社)0.2723gを秤量した。次いで、予め120℃に加熱しておいたホットプレート機能付きマグネチックスターラーに載せ、LDSが溶解して充分に混和するように30分間、350回毎分で撹拌した。その後、室温(約20℃)まで徐冷してから、上記溶液に、0.5mol/kg濃度のチタンテトライソプロポキシドの2-ブトキシエタノール溶液2.0000gを秤量して添加した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にて充分に混和するように10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.5mol/kgのチタン酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液を得た。なお、上記被覆剤においては、BaTiO3の単相形成を考慮して、バリウム(Ba)をモル比で0.9倍とし、チタン(Ti)をモル比で1倍として調製した。
[実施例2cにおける活物質の被覆]
次に、LiNbO3被覆剤を用いて、活物質LiCoO2に被覆を施した。具体的には、マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた50gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、0.05mol/kg濃度のニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液9.5340g、粒子状のLiCoO2(5H、日本化学社)10.0000gを秤量した。次に、水槽に55℃に加温した水が蓄えられた卓上型超音波洗浄機US-1(製品名、エスエヌディ社)に、上記試薬瓶を入れて超音波を2時間印加した。その後、上記試薬瓶を取り出して、大型遠心分離装置Suprema(登録商標)21(製品名、トミー精工社)を用いて、10000回毎分にて15分間の遠心分離を施した。その後、上澄みの溶媒を取り除き、被覆剤が表面に付与された活物質LiCoO2粒子を分離した。該LiCoO2粒子をチタン製の皿に移してホットプレート上に載置し、ホットプレートを90℃まで加熱して30分間保持し、被覆剤の溶媒を揮発させた。その後、ホットプレートを360℃まで昇温させて30分間保持し、有機成分の燃焼、分解を行った。次いで、ホットプレートを540℃まで昇温させて1時間保持し、残存する有機物の分解とLiCoO2粒子表面へのLiNbO3の被覆とを行った。その後、約20℃まで徐冷して、LiNbO3被覆を施した実施例2c用の活物質LiCoO2を得た。
得られた実施例2c用の活物質LiCoO2について、X回折分析、TEM(透過型電子顕微鏡)観察、エネルギー分散型X線分析を行った結果、LiNbO3被覆には夾雑相が認められないことを確認した。また、被覆の厚さをTEMにより測長した結果、約3nmであることが分かった。なお、被覆の厚さは、被覆剤におけるリチウム(Li)、ニオブ(Nb)の濃度によって調節することが可能である。
[実施例5cにおける活物質の被覆]
次に、BaTiO3被覆剤を用いて、活物質LiCoO2に被覆を施した。具体的には、マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた50gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、0.5mol/kgのチタン酸バリウムの酢酸・2-ブトキシエタノール溶液19.0000g、粒子状のLiCoO2(5H、日本化学社)10.0000gを秤量した。次に、水槽に30℃に加温した水が蓄えられた卓上型超音波洗浄機US-1(製品名、エスエヌディ社)に、上記試薬瓶を入れて超音波を2時間印加した。その後、上記試薬瓶を取り出して、大型遠心分離装置Suprema(登録商標)21(製品名、トミー精工社)を用いて、10000回毎分にて15分間の遠心分離を施した。その後、上澄みの溶媒を取り除き、被覆剤が表面に付与された活物質LiCoO2粒子を分離した。該LiCoO2粒子をチタン製の皿に移してホットプレート上に載置し、ホットプレートを90℃まで加熱して30分間保持し、被覆剤の溶媒を揮発させた。その後、ホットプレートを360℃まで昇温させて30分間保持し、有機成分の燃焼、分解を行った。次いで、ホットプレートを540℃まで昇温させて1時間保持し、残存する有機物の分解とLiCoO2粒子表面へ付与されたBaTiO3の仮焼成とを行った。次いで、電気マッフル炉FP311(ヤマト科学社)を用いて、大気中にて900℃で8時間の焼成を行った。その後、約20℃まで徐冷して、BaTiO3被覆を施した実施例5c用の活物質LiCoO2を得た。
得られた実施例5c用の活物質LiCoO2について、X回折分析、TEM(透過型電子顕微鏡)観察、エネルギー分散型X線分析を行った結果、BaTiO3被覆には夾雑相が認められないことを確認した。また、約50nmのBaTiO3粒子が、活物質LiCoO2の表面を50%程度被覆していることが分かった。
上記の方法で活物質LiCoO2を作製した、実施例2cおよび実施例5cは、以降の製造工程を他の実施例および比較例と同様にして、リチウム電池を作製した。
<電池特性評価>
実施例および比較例のリチウム電池について、25℃環境下で充放電を行い、電池特性の指標として放電容量維持率を評価した。その際の充放電条件を図12に示した。図12は、実施例および比較例のリチウム電池の充放電条件および評価結果を示す表である。
図12に示したように、実施例2cでは、充放電電流を250μA(充放電レート0.5C)とし、実施例5cでは、充放電電流を500μA(充放電レート1.0Cとした。その他では、充放電電流を100μA(充放電レート0.2C)とした。
上記の充放電を繰り返した際の充放電容量を測定した。具体的には、初期(1回目)の充放電容量と、充放電を10サイクル繰り返した後(10回目)の充放電容量を測定し、充放電1回目に対する充放電10回目の放電容量維持率を計算した。その結果を図12に示した。
図12に示したように、実施例1から実施例5cのリチウム電池では、いずれも放電容量維持率が90%以上を確保できることが分かった。これにより、実施例のリチウム電池は、安定したサイクル特性を有し、電池特性に優れることが示された。さらに、活物質の表面に被覆を施した実施例2cおよび実施例5cでは、他と比べて充放電条件を厳しくしたにもかかわらず、放電容量維持率が95%となった。すなわち、活物質の表面にLiNbO3またはBaTiO3の被覆を施すことにより、電池特性がさらに向上することが示された。
一方、比較例のリチウム電池では、放電容量維持率が80%を確保できず、実施例と比べてサイクル特性が安定せず、電池特性が劣ることが分かった。
(実施形態2)
<電池の製造方法>
本実施形態に係る電池としてのリチウム電池の製造方法について、図13を参照して説明する。図13は、実施形態2に係る電池としてのリチウム電池の製造方法を示す工程フロー図である。本実施形態の製造方法には、第1電解質部の製造方法が含まれる。なお、図13に示した工程フローは一例であって、これに限定されるものではない。また、実施形態1と同一の構成部位については、同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
本実施形態のリチウム電池の製造方法は、第1の成形体を形成せずに、第1電解質部の形成材料である仮焼成体と、活物質とから、直接的に複合体としての正極を形成する製造方法である。
図13に示すように、本実施形態のリチウム電池の製造方法は、以下の工程を備えている。工程S11では、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する。工程S12では、混合物に第1の加熱処理を施して仮焼成体を作製する。工程S13では、仮焼成体と活物質とを混合して混合体を調製する。工程S14では、混合体を成形した後、第2の加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部、活物質を含む正極を形成する。工程S15では、正極の一方の側に電解質層を形成する。工程S16では、電解質層に接するように介して負極を形成する。工程S17では、正極の他方の側に第1集電体を形成する。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
[混合物の調製]
図13に示した工程S11では、実施形態1と同様にして、第1電解質部の原材料としての前駆体を含む混合物を調製する。そして、工程S12へ進む。
[仮焼成体の作製]
工程S12では、混合物から仮焼成体を作製する。具体的には、混合物に第1の加熱処理を施して、溶媒の揮発による除去と、有機成分の燃焼または熱分解による除去とを行う。加熱温度は、500℃以上、650℃以下とする。次いで、得られた混合物の固形物を粉砕、混合して粉体状の仮焼成体を作製する。そして、工程S13へ進む。
[混合体の調製]
工程S13では、紛体状の仮焼成体と、活物質とを混合して混合体を調製する。まず、活物質を準備する。本実施形態においても、活物質として、実施形態1と同様に分級操作を行ったLiCoO2を用いる。ここで、活物質に対し、上記実施形態と同様にしてLiNbO3またはBaTiO3の被覆を施してもよい。次いで、紛体状の仮焼成体0.0550gと、LiCoO20.0450gとを充分に撹拌、混合して0.1000gの混合体とする。そして、工程S14へ進む。
[正極の形成]
工程S14では、複合体としての正極を形成する。具体的には、成形型86(図6C参照)を使用して、混合体を圧縮成形する。例えば、成形型86(内径10mmの排気ポート付きダイス)を用いて、1019MPaの圧力にて2分間加圧し、混合体の円盤状成形物(直径10mm、実効径8mm、厚さ350μm)を作製する。
その後、円盤状成形物を基板などに載置し、第2の加熱処理を施す。第2の加熱処理における加熱温度は、800℃以上、1000℃以下とし、活物質の粒子同士の焼結と、結晶質の第1電解質部の形成とを促進させる。加熱処理の時間は、例えば5分以上、36時間以下とすることが好ましい。より好ましくは、4時間以上、14時間以下である。
これにより、活物質から活物質部が形成されて電子の移動経路が形成されると共に、活物質部(活物質)と第1電解質部(電解質)とが複合化された正極が形成される。そして、工程S15へ進む。
[電解質層の形成]
工程S15では、正極の一方の側に電解質層を形成する。電解質層の形成材料としては、上記実施形態の第1電解質部または第2電解質部に含まれる固体電解質の他に、例えば、酸化物、硫化物、ハロゲン化物、窒化物、水素化物、ホウ化物などを含む結晶質または非晶質の公知の固体電解質が挙げられる。
電解質層の形成には、例えば、有機金属化合物の加水分解反応などを伴う、所謂ゾル・ゲル法や、有機金属熱分解法などの溶液プロセスの他、適切な金属化合物とガス雰囲気を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、固体電解質粒子のスラリーを使用したグリーンシート法やスクリーン印刷法、エアロゾルデポジション法、適切なターゲットとガス雰囲気を用いたスパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、融液や溶液を用いたフラックス法などが採用可能である。
形成する電解質層の厚さは、0.1μm以上、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2μm以上、10μm以下である。電解質層の厚さを上記範囲とすることによって、電解質層の内部抵抗を低減し、かつ正極と負極との間での、短絡の発生を抑制することができる。なお、電解質層の負極と接する面に、必要に応じて各種成形法、加工法を組み合わせて、トレンチ、グレーチング、ピラーなどの凹凸構造を設けてもよい。そして、工程S16へ進む。
[負極の形成]
工程S16では、電解質層に接するように、正極の一方の側に電解質層を介して負極を形成する。負極の形成には、上記実施形態と同様な形成材料および形成方法が採用可能である。そして、工程S17へ進む。
工程S17では、正極の他方の側に第1集電体を形成する。第1集電体の形成には、上記実施形態と同様な形成材料および形成方法が採用可能である。例えば、まず、負極を形成した面と対向する面を研磨する。このとき研磨加工によって、活物質部を確実に露出させて、表面を形成する。これにより、活物質部と、この後に形成する第1集電体との電気的な接続を確保可能にする。なお、上述した工程において、正極の、負極を形成した面と対抗する面に活物質部が十分に露出している場合には、この研磨加工を省略してもよい。次いで、上述した気相堆積法、湿式法などを用いて第1集電体を形成する。これにより、本実施形態のリチウム電池が製造される。
以上に述べたように、本実施形態に係るリチウム電池の製造方法によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。第1電解質部の形成材料である仮焼成体と、活物質とから、直接的に正極を形成することから、800℃以上の加熱処理が1回で済むなど、製造工程を簡略化することができる。
(実施形態3)
<電池の製造方法>
本実施形態に係る電池としてのリチウム電池の製造方法について、図14を参照して説明する。図14は、実施形態3に係る電池としてのリチウム電池の製造方法を示す工程フロー図である。本実施形態の製造方法には、第1電解質部の製造方法が含まれる。なお、図14に示した工程フローは一例であって、これに限定されるものではない。また、実施形態1と同一の構成部位については、同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
本実施形態のリチウム電池の製造方法は、第1の成形体を形成しない点は実施形態2と同様であるが、第1電解質部の形成材料である仮焼成体と、活物質とから成形物を作製し、成形物に第2電解質を充填して複合体(正極)を形成する点が異なっている。
図14に示すように、本実施形態のリチウム電池の製造方法は、以下の工程を備えている。工程S21では、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する。工程S22では、混合物に第1の加熱処理を施して仮焼成体を作製する。工程S23では、仮焼成体と活物質とを混合して混合体を調製する。工程S24では、混合体を成形した後、第2の加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部、活物質を含む成形物を作製する。工程S25では、成形物に、リチウム(Li)、ホウ素(B)、酸素(O)を含む第2電解質を接触させた状態で、加熱によって第2電解質を溶融させ、成形物に第2電解質の融液を充填する。工程S26では、第2電解質の融液が充填された成形物を冷却して、結晶質の第1電解質部、第2電解質部、活物質を含む正極(複合体)を形成する。工程S27では、正極の一方の側に電解質層を介して負極を形成する。工程S28では、正極の他方の側に第1集電体を形成する。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
工程S21および工程S22は、実施形態2の工程S11および工程S12に相当し、同様にして行う。
工程S23においては、混合体に造孔材を添加してもよい。混合体に造孔材を添加することにより、工程S24で作製する成形物に複数の孔が形成されやすくなる。そのため、この孔に第2電解質の融液を容易に充填することが可能となる。混合体に添加する造孔材の量は、成形体の嵩密度がおよそ75%以上となるように調節する。上記以外は、実施形態2の工程S13と同様に行う。
工程S24では、実施形態2の工程S14と同様な方法を用いて、成形物を作製する。
工程S25から工程S28では、実施形態1の工程S4から工程S7と同様に行う。ここで、工程S27において負極を形成する前に、正極における負極を形成する面に電解質層を形成してもよい、
以上に述べたように、本実施形態に係るリチウム電池の製造方法によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。第1電解質部の形成材料である仮焼成体と、活物質とから、直接的に成形物を形成することから、800℃以上の加熱処理が1回で済むなど、製造工程を簡略化することができる。
(実施形態4)
<電子機器>
本実施形態に係る電子機器について、図15を参照して説明する。本実施形態では、電子機器として、ウェアラブル機器を例に挙げて説明する。図15は、実施形態3に係る電子機器としてのウェアラブル機器の構成を示す概略図である。
図15に示すように、本実施形態のウェアラブル機器400は、バンド310を用いて、人体の、例えば手首WRに腕時計のように装着され、人体に係る情報を入手する情報機器である。ウェアラブル機器400は、電池305、表示部325、センサー321、処理部330を備えている。電池305には、上記実施形態のリチウム電池を用いている。
バンド310は、装着時に手首WRに密着するように、ゴムなどの可撓性を備えた樹脂を用いた帯状を成している。バンド310の端部には、手首WRの太さに対応して結合位置を調整可能な結合部(図示せず)が設けられている。
センサー321は、バンド310において、装着時に手首WRに触れるよう、バンド310の内面側(手首WR側)に配置されている。センサー321は、手首WRと触れることによって、人体の脈拍や血糖値などに関する情報を入手し、処理部330へ出力する。センサー321としては、例えば光学センサーが用いられる。
処理部330は、バンド310に内蔵され、センサー321および表示部325と電気的に接続されている。処理部330としては、例えば集積回路(IC)が用いられる。処理部330は、センサー321からの出力に基づいて、脈拍や血糖値などの演算処理を行って、表示部325に表示データを出力する。
表示部325は、処理部330から出力された、脈拍や血糖値などの表示データを表示する。表示部325としては、例えば受光型の液晶表示装置を用いる。表示部325は、ウェアラブル機器400の装着時に、表示データを装着者が読み取れるように、バンド310の外面側(センサー321が配置された内面と対向する側)に配置されている。
電池305は、表示部325、センサー321、処理部330へ電力を供給する電力供給源として機能する。電池305は、着脱可能な状態にてバンド310に内蔵されている。
以上の構成により、ウェアラブル機器400は、手首WRから装着者の脈拍や血糖値に係る情報を入手し、演算処理などを経て、脈拍や血糖値などの情報として表示することができる。また、ウェアラブル機器400は、リチウムイオン伝導性が向上し、小型ながら大きな電池容量を有する、上記実施形態のリチウム電池を適用しているため、軽量化が可能であり、稼働時間を伸長させることができる。さらには、上記実施形態のリチウム電池は、全固体型の二次電池であるため、充電による繰り返しの使用が可能であることに加え、電解液などの漏洩の懸念がないため、長期間かつ安全に使用が可能なウェアラブル機器400を提供することができる。
本実施形態では、ウェアラブル機器400として腕時計型のウェアラブル機器を例示したが、これに限定されるものではない。ウェアラブル機器は、例えば、足首、頭、耳、腰などに装着されるものであってもよい。
また、電力供給源としての電池305(上記実施形態のリチウム電池)が適用される電子機器は、ウェアラブル機器400に限定されない。その他の電子機器としては、例えば、ヘッドマウントディスプレイなどの頭部装着型ディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ、携帯電話機、携帯情報端末、ノート型パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽プレイヤー、ワイヤレスヘッドホン、携帯ゲーム機などが挙げられる。これらの電子機器は、例えば、データ通信機能、ゲーム機能、録音再生機能、辞書機能などの他の機能を有していてもよい。
また、本実施形態の電子機器は、一般消費者向けの用途に限定されず、産業用途へも適用が可能である。さらに、上記実施形態のリチウム電池が適用される機器は、電子機器に限定されない。例えば、上記実施形態のリチウム電池を、移動体の電力供給源として適用してもよい。移動体としては、具体的には、自動車、バイク、フォークリフト、無人飛行機等の飛行体などが挙げられる。これによれば、イオン伝導性が向上した電池を、電力供給源として備えた移動体を提供することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
(変形例1)
本変形例に係る電池について、図16を参照して説明する。本変形例では、電池としてリチウム電池を例に挙げて説明する。図16は、変形例1に係る電池としてのリチウム電池の構成を示す概略断面図である。
図16に示すように、本変形例のリチウム電池200は、一対の集電体241,242の間に、正極209、電解質層220、負極230が挟持されたものである。
電解質層220は、結晶質の第1電解質部221と、非晶質の第2電解質部222とを含む。第1電解質部221、第2電解質部222は、実施形態1の電解質と同様な形成材料を用いて形成することが可能である。
電解質層220を形成する方法としては、例えばグリーンシート法が採用可能である。具体的には、粒子状の第1電解質部221の原材料を含むスラリーを用い、仮焼成を施してシートを形成する。該スラリーは、第1電解質部221の原材料の他に、結着剤や造孔材などを含んでいる。上記シートに対して、乾燥、焼成を繰り返した後に、800℃以上、1000℃以下の温度で加熱処理を施す。その後、上記シートに第2電解質の融液を含浸させて、第2電解質部222を形成する。なお、本実施形態において、第2電解質部222は必須の構成ではなく、第2電解質部222を形成せずに、電解質層220を形成してもよい。
これにより、上記シートの内部において、第1電解質部221の粒子の間に、非晶質の第2電解質部222が充填される。
正極209を形成する方法としては、例えばグリーンシート法が採用可能である。具体的には、実施形態1と同様な活物質部2を構成する正極活物質(活物質2b)を用い、シート状に形成した電解質層220に積層して形成してもよい。同様にして、負極230を形成する方法としては、例えばグリーンシート法により、実施形態1の負極30を構成する負極活物質を用いて、シート状の電解質層220に積層して形成してもよい。このようにして作製した正極209、電解質層220、負極230が積層されたシート状の積層体を、所望の大きさおよび形状に型抜きすることによって、ペレット状の電池セルが得られる。
上記電池セルに集電体241,242を形成する方法としては、実施形態1と同様に、適当な接着層を別途設けて接着する方法、PVD法、CVD法、PLD法、ALD法およびエアロゾルデポジション法などの気相堆積法、ゾル・ゲル法、有機金属熱分解法およびめっきなどの湿式法などが挙げられ、形成面との反応性や電気回路に望まれる電気伝導性、電気回路設計に応じて、適当な方法を用いることができる。集電体241,242の形成材料としては、実施形態1と同様な形成材料が採用可能である。なお、集電体241,242は、必ずしも両方が必要ではなく、いずれか一方を備える構成であってもよい。
以上に述べたリチウム電池200とその製造方法によれば、電解質層220において優れたリチウムイオン伝導性が実現可能である。したがって、薄型で電池特性と量産性とが優れたリチウム電池200を、提供あるいは製造することができる。
(変形例2)
本変形例に係る電池の製造方法においては、粒子状の活物質から活物質部(第1の成形体)を形成した後に、活物質部の表面にBaTiO3またはLiNbO3の被覆を施す。粒子状の活物質に被覆を施した実施形態1とは、この点が異なっている。本変形例では、LiNbO3の被覆を例に挙げて説明する。
まず、LiNbO3被覆剤を調製するための金属化合物溶液を調製する。被覆剤に用いる金属化合物、溶媒、界面活性剤などは、実施形態1と同様なものが採用可能である。ここで、本変形例では、活物質部に施す被覆の狙いの厚さを、およそ20nmとするため、以下に述べる金属化合物溶液および被覆剤の濃度を、実施形態1と比べて高くする。
[0.20mol/kg 硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液]
リチウム(Li)を含む金属化合物溶液(硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液)の濃度は、実施形態1における濃度である0.05mol/kgから、0.20mol/kgへ変更する。そのため、硝酸リチウムの配合量を増量した他は、実施形態1と同様にして、0.05mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[0.20mol/kg ニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液]
ニオブ(Nb)を含む金属化合物溶液(ニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液)の濃度は、実施形態1における濃度である0.05mol/kgから、0.20mol/kgへ変更する。そのため、ニオブペンタエトキシドの配合量を増量した他は、実施形態1と同様にして、0.05mol/kg濃度のニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液を得た。
[LiNbO3被覆剤の調製]
次に、LiNbO3被覆剤として、0.20mol/kgのニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を調製した。具体的には、マグネチックスターラーバー(撹拌子)を入れた50gのパイレックス(Pyrex:CORNING社商標)製試薬瓶へ、0.20mol/kg濃度の硝酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液4.5000g、0.20mol/kg濃度のニオブペンタエトキシドの2-ブトキシエタノール溶液5.0000g、ノニオン性界面活性剤としてTriton(登録商標)X-100(商品名、MP Biomedicals,Inc.)0.0340gを秤量した。次いで、マグネチックスターラーに載せ、室温(約20℃)にて充分に混和するように10分間、350回毎分で撹拌した。これにより、0.20mol/kg濃度のニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液を得た。なお、上記被覆剤においては、LiNbO3の単相形成を考慮して、リチウム(Li)をモル比で0.90倍とし、ニオブ(Nb)をモル比で1倍として調製した。
[活物質部の形成]
グリーンシート法により、粒子状の活物質から活物質部を形成する。具体的には、活物質として実施形態1と同様に分級操作を行ったLiCoO2を用いてスラリーを調製した。次いでスラリーから、950℃で16時間の焼成処理を施してシート状の活物質部を作製した。このとき、シート状の活物質部は、嵩密度がおよそ50%、厚さが150μmとなるように、スラリーの濃度、シートの成形条件などを調節する。その後、シート状の活物質部を直径10mmに加工して、LiCoO2ペレット(活物質部)を得た。なお、活物質部の形成方法は上記に限定されず、例えば、実施形態1で用いた成形型を用いて、粒子状の活物質を圧縮成形した後、焼成処理を施して形成してもよい。
[活物質部の被覆]
ホットプレート上にシリコン製基板を介して、LiCoO2ペレットを載置する。マイクロピペットを用いて、0.20mol/kgのニオブ酸リチウムの2-ブトキシエタノール溶液(被覆剤)15μLを、LiCoO2ペレットの上面から滴下する。被覆剤はLiCoO2ペレットに対して、毛細管現象によって内部まで浸透すると共に、全体を包含するように濡れ広がる。次いで、ホットプレートを90℃まで昇温させて15分間保持し、被覆剤の溶媒を揮発させた。その後、ホットプレートを360℃まで昇温させて10分間保持し、有機成分の燃焼、分解を行った。さらに、ホットプレートを540℃まで昇温させて1時間保持し、残存する有機物の分解と活物質部表面へのLiNbO3の被覆とを行った。その後、約20℃まで徐冷して、LiNbO3被覆を施した活物質部(LiCoO2ペレット)を得た。得られた活物質部について、被覆の厚さをTEM(透過型電子顕微鏡)により測長した結果、約20nmであった。
なお、活物質部への被覆剤の付与方法は上記に限定されない。その他の付与方法としては、例えば、浸漬、吹き付け、スピンコートなどが挙げられる。
被覆を施した活物質部を用いて、上記実施形態と同様な方法によりリチウム電池を形成することが可能である。
本変形例によれば、実施形態1に対して、被覆剤中への活物質粒子の分散、遠心分離などの作業を省くことができる。
以下に、実施形態から導き出される内容を記載する。
電解質は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を含む結晶質の第1電解質部を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、焼成温度としては比較的に低温の1000℃以下で焼成しても、結晶粒子の粒界抵抗を低減すると共に、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。詳しくは、第1電解質部は、組成式(1)を基本構成とする結晶質のリチウム複合金属酸化物である。すなわち、第1電解質部は、リチウム複合金属酸化物を構成する元素のうちのリチウム(Li)の一部が、ガリウム(Ga)で置換されている。これにより、電解質において、バルクのリチウムイオン伝導率(粒子バルク内伝導率)を向上させることができる。
リチウムの一部をガリウムで置換すると、粗大粒子ができやすい傾向がある。粗大粒子が多く存在すると、粒子同士の接触面積が減少して、リチウムイオン伝導性(総イオン伝導率)の低下につながる。そこで、さらにランタン(La)の一部をネオジム(Nd)で置換する。これにより、粗大粒子の発生が抑えられて、粒子径を小さくすることができる。第1電解質部が小粒径化されることによって、第1電解質部を圧縮成形して電解質を形成する場合には、粒子同士の接触面積がより増加する。また、小さな第1電解質部の粒子が密に集まって電解質が形成されるため、粒界抵抗を低減させることができる。また、ランタンの一部をネオジムで置換することにより、電解質における誘電率が増大してリチウムイオン伝導性をさらに向上させることができる。すなわち、1000℃以下の低温で焼成しても、従来より粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電解質を提供することができる。
上記電解質は、第1電解質部に接する、Liを含む非晶質の第2電解質部を備えることが好ましい。
この構成によれば、結晶質の第1電解質部が非晶質の第2電解質部と接合されるため、第1電解質部の結晶界面に生じる抵抗がさらに低減される。これに加えて、電解質のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。
上記電解質において、第2電解質部は、Li、B、Oを含むことが好ましい。
この構成によれば、非晶質の第2電解質部を形成することが容易となり、電解質のリチウムイオン伝導性をよりいっそう向上させることができる。
電池は、上記電解質、および活物質を含む複合体と、複合体の一方の側の電極と、複合体の他方の側の集電体と、を備える。
この構成によれば、粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上された電解質を用いることから、充放電特性を向上させた電池とすることができる。
上記電池において、活物質は、Liを含む正極活物質であることが好ましい。
この構成によれば、リチウム供給源となる正極活物質を備えることから、充放電特性をさらに向上させることができる。また、電池を従来よりも大容量化することができる。
電子機器は、上記電池を備える。
この構成によれば、充放電特性が向上し、小型で高品位な電池を電力供給源として備えた電子機器を提供することができる。
電解質の製造方法は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する工程と、混合物に加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部を形成する工程と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電解質を製造することができる。
上記電解質の製造方法は、原材料を溶媒に溶解させる工程を備え、混合物は溶媒を含み、加熱処理は、加熱温度が500℃以上、650℃以下の第1の加熱処理と、第1の加熱処理の後に行われ、加熱温度が800℃以上、1000℃以下の第2の加熱処理と、を含むことが好ましい。
この構成によれば、第1電解質部が液相法によって形成される。第1電解質部の結晶粒子が混合物の溶液から結晶化されるため、固相法と比べて結晶粒子を微細化することが容易になる。また、第1の加熱処理によって、混合物に含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度を高めて第1電解質部を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。これらによって、リチウムイオン伝導性がより向上した電解質を製造することができる。
上記電解質の製造方法は、第1電解質部に、Li、B、Oを含む第2電解質を接触させた状態で、加熱によって第2電解質を溶融させる工程と、第2電解質の融液を冷却して、第1電解質部に接する第2電解質部を形成する工程と、を備えることが好ましい。
この構成によれば、第1電解質部と接して、非晶質の第2電解質部を形成することが容易となり、よりいっそうリチウムイオン伝導性が向上した電解質を製造することができる。
電池の製造方法は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を溶媒に溶解させ、混合して混合物を調製する工程と、活物質を用いて第1の成形体を形成する工程と、混合物を、第1の成形体に含浸させた状態で加熱処理を施して反応させ、反応後に得られる結晶質の第1電解質部と、第1の成形体とを含む複合体を形成する工程と、複合体の一方の側に電極を形成する工程と、複合体の他方の側に集電体を形成する工程と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、活物質を含む第1の成形体の表面を含む内部に、液相法にて第1電解質部が形成されて、複合体が製造される。そのため、活物質と第1電解質部とが接して複合体が形成される。このような構造の複合体を容易に製造できることに加えて、該構造により電解質の粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電池を製造することができる。
電池の製造方法は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を溶媒に溶解させ、混合して混合物を調製する工程と、活物質を用いて第1の成形体を形成する工程と、混合物を、第1の成形体に含浸させた状態で加熱処理を施して反応させ、反応後に得られる結晶質の第1電解質部と、第1の成形体とを含む第2の成形体を形成する工程と、第2の成形体に、Li、B、Oを含む第2電解質を接触させた状態で、加熱によって第2電解質を溶融させ、第2の成形体に第2電解質の融液を充填する工程と、第2電解質の融液が充填された第2の成形体を冷却して、第1電解質部、第2電解質部、活物質を含む複合体を形成する工程と、複合体の一方の側に電極を形成する工程と、複合体の他方の側に集電体を形成する工程と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、活物質を含む第1の成形体の表面を含む内部に、液相法にて第1電解質部が形成されて、第2の成形体が製造される。さらに、第2の成形体の表面を含む内部に、第2電解質の融液が充填されて複合体が製造される。そのため、活物質と、第1電解質部とが接し、第1電解質部と第2電解質部とが接して、複合体が形成される。このような構造の複合体を容易に製造できることに加えて、該構造により電解質の粒界抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性が向上した電池を製造することができる。
上記電池の製造方法において、加熱処理は、加熱温度が500℃以上、650℃以下の第1の加熱処理と、第1の加熱処理の後に行われ、加熱温度が800℃以上、1000℃以下の第2の加熱処理と、を含むことが好ましい。
この構成によれば、第1の加熱処理によって、混合物に含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度を高めて第1電解質部を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。したがって、リチウムイオン伝導性がさらに向上した電池を製造することができる。
電池の製造方法は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する工程と、混合物に第1の加熱処理を施して仮焼成体を作製する工程と、仮焼成体と活物質とを混合して混合体を調製する工程と、混合体を成形した後、第2の加熱処理を施して、結晶質の第1電解質部、活物質を含む複合体を形成する工程と、複合体の一方の側に電極を形成する工程と、複合体の他方の側に集電体を形成する工程と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、第1電解質部の形成材料である仮焼成体と活物質とから、直接的に複合体を形成するため、製造工程を簡略化することができる。
電池の製造方法は、下記組成式(1)で表されるリチウム複合金属酸化物を構成する元素が含まれる複数種類の原材料を混合して混合物を調製する工程と、混合物に第1の加熱処理を施して仮焼成体を作製する工程と、仮焼成体と活物質とを混合して混合体を調製する工程と、混合体を成形した後、第2の加熱処理を施して、成形物を作製する工程と、成形物に、Li、B、Oを含む第2電解質を接触させた状態で、加熱によって第2電解質を溶融させ、成形物に第2電解質の融液を充填する工程と、第2電解質の融液が充填された成形物を冷却して、結晶質の第1電解質部、第2電解質部、活物質を含む複合体を形成する工程と、複合体の一方の側に電極を形成する工程と、複合体の他方の側に集電体を形成する工程と、を備える。
(Li7-3xGax)(La3-yNdy)Zr2O12 ・・・(1)
(但し、0.1≦x≦1.0、0.01≦y≦0.2を満たす。)
この構成によれば、電池の製造方法は、第1電解質部の形成材料である仮焼成体と活物質とから、直接的に成形物が形成される。そのため、製造工程を簡略化することができる。
上記電池の製造方法において、第1の加熱処理は、加熱温度が500℃以上、650℃以下であり、第2の加熱処理は、加熱温度が800℃以上、1000℃以下であることが好ましい。
この構成によれば、第1の加熱処理によって、混合物に含まれる溶媒や不純物などの有機物が分解されて低減される。そのため、第2の加熱処理において、純度を高めて第1電解質部を形成することができる。また、加熱処理の温度を1000℃以下とすることにより、結晶粒界での副反応やリチウムの揮散の発生を抑えることができる。したがって、リチウムイオン伝導性がさらに向上した電池を製造することができる。