以下に、本発明の実施の形態にかかる送受信モジュールおよびレーダ装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるレーダ装置の構成例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態にかかるレーダ装置1は、送受信モジュール10および目標検出処理部15を備える。また、レーダ装置1は車両2に搭載される。車両2には、レーダ装置1に加えて、車両2の傾きを算出する車両傾斜判定装置21と、車両2の移動速度を計測する速度計測装置22とが搭載されている。送受信モジュール10は、車両傾斜判定装置21および速度計測装置22と有線または無線の信号線を介して接続されており、車両傾斜判定装置21での判定結果および速度計測装置22での計測結果を取得可能である。車両傾斜判定装置21は、車両2が予め定められた基準に対してどれだけ傾斜しているかを判定する装置であり、例えば、複数の車高センサで検出される車高から傾きを算出する。近年の自動車はこのような車両傾斜判定装置21を備えているケースが多いため、本実施の形態にかかるレーダ装置1では、車両2に搭載されている車両傾斜判定装置21で算出された車両2の傾きを利用する構成としている。車両側から必要な情報を取得して使用する構成とすることにより、送受信モジュールの処理負荷が必要以上に高くなるのを防止できる。なお、車両2が車両傾斜判定装置21を備えていない場合、または、送受信モジュール10が車両傾斜判定装置21と通信できない場合、送受信モジュール10は、後述するセンサ部14での計測結果から傾きを求める。速度計測装置22は、例えば一般的なスピードメーター、カーナビゲーションシステムなどである。なお、送受信モジュール10は、後述するセンサ部14での計測結果から移動速度を求めることも可能である。
送受信モジュール10は、送受信アンテナ11、送受信回路部12、信号処理回路部13およびセンサ部14を備える。
送受信アンテナ11は、アレーアンテナであり、物標探知用の電波の放射および反射波の受信を行う。送受信回路部12は、送受信アンテナ11を介して物標探知用の信号を送信する処理、および、物標探知用の信号の反射波からビート信号を生成する処理を行う。信号処理回路部13は、送受信回路部12に対して各種の指令信号を送信する。また、信号処理回路部13は、車両傾斜判定装置21が算出した傾きと、速度計測装置22が計測した速度とに基づいて、送受信アンテナ11が放射するビームの方向を調整する。センサ部14は、加速度センサおよびジャイロセンサを含み、送受信モジュール10が取り付けられた車両2の加速度および角速度といった値を計測可能である。
目標検出処理部15は、送受信モジュール10で生成されるビート信号に基づいて目標物である物標を検出する。具体的には、目標検出処理部15は、送受信モジュール10から出力されるビート信号を使用して、物標の位置および物標の速度といった、物標の情報を算出する。物標の位置には、物標が存在する方位および物標までの距離が含まれる。ビート信号を使用して物標の情報を算出する処理は一般的なレーダ装置が物標を検出する際に情報を算出する処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
図2は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10の自動車への搭載例を示す図である。図2に示すように、送受信モジュール10は、例えば、車両2の前方中央に搭載され、車両2の前方に向けて物標探知用の電波を放射する。なお、本実施の形態では、レーダ装置1が車両2の前方に存在する物標を検知する構成を想定している。送受信モジュール10の取付位置は、車両2の前方に向けて電波を放射可能な位置であればよい。
図3は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10の回路構成の一例を示す図である。
送受信アンテナ11は、送信アンテナ111および受信アンテナ112で構成される。送信アンテナ111は、送受信回路部12で生成された送信信号を空間に送信電波(以下、送信波と称する)として放射する複数の送信アレーアンテナ1111~111mで構成される。受信アンテナ112は、送信アンテナ111から放射された送信波が物標に反射された反射波を受信する複数の受信アレーアンテナ1121~112nで構成される。
送受信回路部12は、送信アンテナ111から空間に送信波として放射される送信信号を生成する送信回路部121と、受信アンテナ112が受信した反射波をダウンコンバートするなどしてベースバンド帯の信号(以下、ベースバンド信号と称する)を生成する受信回路部122を備える。
送信回路部121は、変調回路1211、電圧制御発振器であるVCO(Voltage Control Oscillator)1212、電力分配器1213、移相器12141~1214m、逓倍器12151~1215m、パワーアンプ12161~1216mおよび送信制御回路1217を備える。
変調回路1211は、信号処理回路部13から周波数変調幅および変調周期を含む変調パラメータの情報を受信し、受信した変調パラメータに従ってVCO1212と連携して変調信号を生成する。変調回路1211には、変調信号を生成する際に、位相を同期させて変調信号を安定化させる位相同期制御(PLL:Phase Locked Loop)回路が含まれる。
VCO1212は、変調回路1211から入力される信号の電圧の変化に対応させて出力信号の周波数を変化させることで変調信号を生成する。
電力分配器1213は、VCO1212から入力される変調信号を増幅し、送信アンテナ111側と受信回路部122側とに分配する。なお、受信回路部122側に分配された変調信号は後述するミキサ12231~1223nへの入力信号となる。
移相器12141~1214mは、電力分配器1213から入力される変調信号の位相を変化させる。
逓倍器12151~1215mは、それぞれ、前段の対応する移相器12141~1214mから入力される変調信号の周波数を逓倍、すなわち整数倍して送信信号を生成する。
パワーアンプ12161~1216mは、それぞれ、前段の対応する逓倍器12151~1215mから入力される送信信号を増幅する。パワーアンプ12161~1216mで増幅された各送信信号は、送信アレーアンテナ1111~111mへの入力となる。
送信制御回路1217は、変調回路1211、VCO1212および電力分配器1213に対して、これらを動作させるための制御電圧を印加する。また、送信制御回路1217は信号処理回路部13から指令信号を受信する。すなわち、送信制御回路1217は、信号処理回路部13から受信した指令信号に従って、変調回路1211、VCO1212および電力分配器1213の動作を制御するための制御信号を生成する。
受信回路部122は、AD(Analogue to Digital)コンバータ12211~1221n、ベースバンドアンプ12221~1222n、ミキサ12231~1223nおよび受信制御回路1224を備える。なお、図3では、ADコンバータ12211~1221nを「AD12211~1221n」と記載している。
ミキサ12231~1223nには、受信アレーアンテナ1121~112nで受信された反射波が受信信号として入力される。ミキサ12231~1223nは、それぞれ、電力分配器1213から入力される変調信号を、受信アレーアンテナ1121~112nから入力される受信信号にミキシングしてダウンコンバートを行い、ベースバンド信号を生成する。ミキサ12231~1223nが生成するベースバンド信号はビート信号である。
ベースバンドアンプ12221~1222nは、それぞれ、前段の対応するミキサ12231~1223nから入力されるベースバンド信号を増幅する。
ADコンバータ12211~1221nは、それぞれ、前段の対応するベースバンドアンプ12221~1222nから入力される増幅後のベースバンド信号をディジタル信号に変換する。
受信制御回路1224は、ミキサ12231~1223n、ベースバンドアンプ12221~1222nおよびADコンバータ12211~1221nに対して、これらを動作させるための制御電圧を印加する。また、受信制御回路1224は、信号処理回路部13から指令信号を受信する。すなわち受信制御回路1224は、受信した指令信号に従って、ミキサ12231~1223n、ベースバンドアンプ12221~1222nおよびADコンバータ12211~1221nの動作を制御するための制御信号を生成する。
信号処理回路部13は、マイコン131で実現される。マイコン131は、各種の演算を行う演算手段の一例である。マイコン131に代えて、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)を用いてもよい。また、マイコン131に代えて、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせた処理回路を用いてもよい。信号処理回路部13は、送信回路部121および受信回路部122へ指令信号を送信する。また、信号処理回路部13は、受信回路部122のADコンバータ12211~1221nからベースバンド信号であるビート信号を受信すると、受信したビート信号を目標検出処理部15へ出力する。また、マイコン131は、判定処理部132を実現する。
判定処理部132は、車高センサ211および自車速度計221から情報を取得し、車両2の状態を判定する。具体的には、判定処理部132は、車両2が走行中か否か、車両2が坂道の上に存在しているか否かを判定する。ここで、車高センサ211は、図1に示した車両傾斜判定装置21の一例であり、自車速度計221は、図1に示した速度計測装置22の一例である。また、判定処理部132は、センサ部14から出力される検出結果に基づいて、送信アンテナ111によるビームの放射方向の調整量を決定し、調整量を示す指令信号を生成して送信回路部121の送信制御回路1217に出力する。
センサ部14は、加速度センサ141およびジャイロセンサ142を備える。加速度センサ141は、3つの軸方向の加速度を検出可能であり、3つの軸のそれぞれについて加速度を検出する。ジャイロセンサ142は、3つの軸について角速度を検出可能であり、3つの軸のそれぞれについて角速度を検出する。センサ部14は、加速度センサ141が検出した加速度を用いて、送受信モジュール10のピッチ方向の傾斜角度、具体的には、送受信モジュール10の送信アンテナ111がビームを放射する面と重力の方向との角度を算出する。以下、送受信モジュール10のピッチ方向の傾斜角度をピッチ角度と称する場合がある。また、センサ部14は、ジャイロセンサ142が検出した角速度を用いて、初期値に対する角度の変化量を算出する。センサ部14は、算出したピッチ角度および角度の変化量を検出結果として信号処理回路部13のマイコン131に出力する。
つづいて、送受信モジュール10の送受信アンテナ11の構成について説明する。図4は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10の送受信アンテナ11の構成例を示す図である。
送受信モジュール10の送受信アンテナ11に含まれる送信アンテナ111および受信アンテナ112は、樹脂基板の上に形成された複数の放射素子と、給電線路を介して複数の放射素子に給電を行う給電部とで構成される。放射素子はパッチアンテナ、給電線路はマイクロストリップ線路である。給電部は、給電線路と図3に示した送受信回路部12とのインピーダンス変換を行う導波管-マイクロストリップ変換器で実現される。給電線路を介して共通の給電部から電力の供給を受ける複数の放射素子が1つのアレーアンテナを形成する。また、送信アンテナ111では、1つのアレーアンテナが1つの送信サブアレー114を構成する。送信サブアレー114は、水平方向(y方向)に2列に分けて配置された合計8個の放射素子と1個の給電部とで構成される。また、3チャネルの送信サブアレー114が、垂直方向(z方向)に配列され、これらの送信サブアレー114が1チャネルの送信アンテナ111を構成している。送信アンテナ111は、アクティブフェーズドアレーアンテナ(APAA:Active Phased Array Antenna)として垂直方向にビーム走査をすることが可能である。具体的には、上述した送信回路部121のパワーアンプ12161~1216mおよび移相器12141~1214mが、送信アンテナ111を構成する3チャネルの送信サブアレー114が送信波として放射する送信信号の振幅および位相を変化させることで、垂直方向にビーム走査をすることができる。
受信アンテナ112は、垂直方向に1列に配列された6個の放射素子と1個の給電部で構成される受信アレーアンテナが水平方向に8個配列された構成である。
ここで、送受信モジュール10の送信アンテナ111がビームを走査可能な方向は、送受信モジュール10が搭載される車両2のピッチ方向とする。すなわち、送受信モジュール10は、図4に示したz方向が車両2のピッチ方向となるように取り付けられる。また、送受信モジュール10は車両2の前方に向けてビームを放射するため、図4に示したx方向は車両2のロール方向、y方向は車両2のヨー方向に対応する。
送受信モジュール10は、例えば、図5に示したような形態、具体的には、レーダ装置1の筐体20に収納された形態で、車両2に取り付けられる。図5は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10とレーダ装置1の筐体20との関係を示す図である。
図6は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10の送受信アンテナ11とセンサ部14との位置関係の一例を示す図である。図6は、図5に示したy方向からレーダ装置1の筐体20および送受信モジュール10を見た場合の断面を示している。図6に示す例では、板状の送受信モジュール10の一方の面にセンサ部14として加速度センサ141およびジャイロセンサ142が設けられ、センサ部14が設けられた面の反対側の面に送受信アンテナ11のアンテナ面110が設けられる。アンテナ面110とは、図4に示した複数の放射素子および給電部が形成され、電波が放射される面である。センサ部14は、例えば、加速度センサ141とジャイロセンサ142が一体化されたワンチップ構成のIC(Integrated Circuit)とすることができる。
つづいて、センサ部14が加速度センサ141で検出された加速度からピッチ角度およびロール角度を求める方法について説明する。ピッチ角度は、送受信モジュール10のピッチ方向に対する傾きを示し、具体的には、送受信モジュール10の送信アンテナ111がビームを放射する平面と重力の方向との角度である。ロール角度は、送受信モジュール10のロール方向(水平方向)に対する傾きを示す。なお、送信アンテナ111がビームを放射する平面は、図6に示したアンテナ面110である。簡単化のため、加速度センサ141が加速度を検出する3つの軸は、図4~図6に示したx軸、y軸およびz軸と一致しているものとする。よって、アンテナ面110が重力の方向に対して傾きを有する場合にはピッチ角度が0°以外となる。
図7は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10が加速度センサ141を使用してピッチ角度およびロール角度を求める方法を説明するための図である。
図7において、x軸、y軸およびz軸は互いに直交しているものとする。また、z軸が重力の方向と一致しているものとする。図7に示したz軸とz’軸との角度θpがピッチ角度である。z’軸は、図4~図6に示したz軸に対応する。Az、AyおよびAzが加速度センサ141により検出される3軸それぞれの加速度である。このように定義した場合、ピッチ角度θpは式(1)で求めることができ、ロール角度θrは式(2)で求めることができる。なお、Gは重力加速度を示す。
つづいて、センサ部14がジャイロセンサ142で検出された角速度から上記のピッチ角度θpおよびロール角度θrの変化量を求める方法について、図8を参照しながら説明する。図8は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10が備えるジャイロセンサ142が検出する角速度を示す図である。ジャイロセンサ142は図8に示したピッチ角速度ωp、ロール角速度ωrおよびヨー角速度ωyを検出するものとする。この場合、時刻0~時刻t1までの間のピッチ角度の変化量は式(3)で求めることができ、また、ロール角度の変化量は式(4)で求めることができる。なお、ジャイロセンサ142が検出する角速度の単位はrad/sである。また、式(3)および式(4)の右辺に記載のθpおよびθrは、ジャイロセンサ142の前回の検出値を用いて算出した角度の変化量である。
ここで、加速度センサ141は、回転を検出できないという問題がある。一方、ジャイロセンサ142は、停止状態では正しい検出値が得られない、時間の経過とともに検出値にノイズが蓄積して誤差が大きくなる、といった問題がある。これらの問題のため、送受信モジュール10が搭載された車両2が走行している場合、加速度センサ141およびジャイロセンサ142の一方のみを用いて精度よく角度を検出することは難しい。そのため、センサ部14は、車両2が走行している場合、加速度センサ141が検出する加速度およびジャイロセンサ142が検出する角速度の両方を使用して角度を求める。加速度および角速度を使用して角度を求める方法は一般的に使用されているが、簡単に説明する。一例として、相補フィルタを用いてピッチ角度を求める方法を説明する。なお、相補フィルタの代わりにカルマンフィルタを使用することも可能である。
センサ部14は、以下の式(5)に従いピッチ角度θp(n)を算出する。式(5)において、θp
A(n)は加速度センサ141が検出した加速度から算出する角度、θp
G(n)はジャイロセンサ142が検出した角速度から算出する角度(角度の変化量)である。また、θp
G(n-1)は、前回のピッチ角度θp(n-1)を算出する際に求めた角度の変化量である。なお、角度の変化量の初期値をθp
G(0)とする。wは係数であり、通常は、w=0.996である。
式(5)で使用するピッチ角度θp
A(n)およびロール角θr
A(n)は以下の式(6)および式(7)に従って求める。
また、式(5)で使用するピッチ角度θp
G(n)およびロール角θr
G(n)は以下の式(8)および式(9)に従って求める。
なお、センサ部14はピッチ角度を求めることができればよく、加速度センサ141を図7に示したAxおよびAyのみを検出可能な加速度センサとし、ジャイロセンサ142を図8に示したωpのみを検出可能なジャイロセンサとしてもよい。その場合、ピッチ角度を算出する際に使用するロール角度θr=0(rad)とする。
つづいて、送受信モジュール10が車両2のピッチ方向である垂直方向にビーム走査を行う原理について、図9を用いて説明する。図9は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10によるビーム走査を説明するための図である。図9において、E1~Enは送信サブアレーTx1~Txnから放射される電波の電界、θは観測角度を示す。
各送信サブアレーが送信波を放射するときのm番目の送信サブアレーからの放射電界をEmとした場合、その合成電界E(θ)は、式(10)で表わすことができ、送信アンテナ111全体の放射パターンを描く。式(10)において、Amはm番目の送信サブアレーの振幅、Zmはm番目の送信サブアレーのz軸上の位置、kは波数(=2π/λ)を示す。なお、λは使用する周波数の波長である。
垂直方向のAPAAの場合、パワーアンプで各送信サブアレーの電界の振幅Amを制御し、移相器で各送信サブアレーの電界の位相φを制御する。送受信モジュール10は、式(11)となるように移相器の位相設定γmを調整することで、送信アンテナ111全体の放射パターンのメインビームの向きを角度θ0の方向に合わせることができる。式(11)において、Ψmはm番目の送信サブアレーの初期位相を示す。
つづいて、送受信モジュール10が送信アンテナ111から放射するビームの方向(以下の説明では「ビーム方向」と称する場合がある)を調整する動作について説明する。
図10は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10がビーム方向を調整する動作の概要を示す図である。図10に示すように、送受信モジュール10は、初期状態では、アンテナ面110とビーム方向の角度θ0が90°、すなわちθ0=90degとなるよう、各移相器(図3の移相器12141~1214mに相当)の位相設定を調整する。換言すると、送受信モジュール10は、ビーム方向がx軸方向と一致するよう、調整を行う。初期状態は、送受信モジュール10が生産されてから各移相器の位相設定の調整が行われる前までの状態とする。送受信モジュール10は、各移相器の位相設定の調整が行われた後、車両2に搭載されて運用が開始されると、加速度センサ141が検出する加速度およびジャイロセンサ142が検出する角速度を用いて、ビーム方向のずれを示すピッチ角度θpを算出する。送受信モジュール10は、θ0≠0の場合、θ0=90-θpとなるように各移相器の位相設定γmを調整してビーム方向を-θpシフトさせる。送受信モジュール10は、運用を開始した後は、ピッチ角度θpを算出してθ0≠0であれば各移相器の位相設定γmを調整する動作を定められた周期で繰り返す。なお、この動作は、図3に示した信号処理回路部13が送信回路部121の送信制御回路1217に移相器12141~1214mの設定変更を指示する指令信号を送信し、指令信号に従って送信制御回路1217が動作することにより実現される。ピッチ角度θpはセンサ部14で算出することを想定するが、信号処理回路部13が算出するようにしても構わない。
送受信モジュール10が送信アンテナ111から放射するビームの方向を調整する動作を更に詳しく説明する。
図11は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10が車両2に取り付けられた場合に実行するビーム方向の調整動作の一例を示すフローチャートである。以下、図11に示した動作を初期設定動作と称する。送受信モジュール10は、例えば、初期設定動作の開始を指示する信号が外部から入力されるか、初期設定動作の開始を指示する操作をユーザから受け付けると、図11に従った動作を開始する。なお、送受信モジュール10は、電源が投入されるごとに図11に従った動作を開始してもよい。また、送受信モジュール10は、電源が投入されると、初期設定動作を過去に実行して設定が済んでいるかどうかを確認し、設定が済んでいない場合に図11に従った動作を開始してもよい。
送受信モジュール10は、初期設定動作を開始すると、まず、加速度センサ141が計測した計測値を取得し(ステップS11)、取得した計測値を使用してピッチ角度を算出する(ステップS12)。なお、ピッチ角度は図10に示したピッチ角度θpである。ピッチ角度は上記の式(1)に従って算出する。送受信モジュール10は、上記の式(5)においてw=0としてピッチ角度を算出してもよい。
送受信モジュール10は、次に、算出したピッチ角度がビームを走査可能な範囲内か否かを確認する(ステップS13)。ピッチ角度がビームを走査可能な範囲内の場合(ステップS13:Yes)、送受信モジュール10は、垂直APAAの位相設定を行う(ステップS14)。具体的には、送受信モジュール10は、ピッチ角度が0となるように移相器12141~1214mの位相設定を調整する。送受信モジュール10は、次に、ステップS12で算出したピッチ角度を第1のピッチ角度θp1として記録し(ステップS15)、上述した角度の変化量の初期値θp
G(0)であるジャイロセンサ値の初期値を第1のピッチ角度θp1に設定する(ステップS16)。また、送受信モジュール10は、ステップS12で算出したピッチ角度がビームを走査可能な範囲内ではない場合(ステップS13:No)、垂直APAAの位相設定を調整してもピッチ角度を0とすることができないため、車両2への取付の再調整が必要な旨を作業者に知らせるためのエラー通知を行う(ステップS17)。エラー通知はどのような方法で行ってもよい。送受信モジュール10が表示部を備える構成として文字により通知してもよいし、音により通知してもよい。
送受信モジュール10は、上記の初期設定動作が終了した後、図12および図13に示したフローチャートに従ってビーム調整動作を繰り返す。送受信モジュール10は、搭載されている車両2が走行中の場合は図12に示したフローチャートに従って動作してビーム方向を調整し、車両2が停車中の場合は図13に示したフローチャートに従って動作してビーム方向を調整する。送受信モジュール10は、車両2に搭載されている速度計測装置22で計測される速度を確認して車両2が走行中か停車中かを判断する。
図12は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10が搭載された車両2が走行中に送受信モジュール10が実行するビーム方向の調整動作の一例を示すフローチャートである。
送受信モジュール10は、車両2が走行中にビーム方向を調整する場合、まず、車両2自体が傾斜しているか否かを確認する(ステップS21)。このステップS21は、坂道を走行中であるために車両2が傾斜し、これが原因でビーム方向にずれが生じているのかを判断するために実行する。すなわち、坂道を走行中にビーム方向にずれが生じたと誤って判定し、ビーム方向を調整してしまうことを防止するために実行する。車両2自体が傾斜していない場合(ステップS21:No)、ビーム方向を調整するための位相設定の変更を行わない(ステップS26)。ここでの傾斜は、ピッチ方向(車両2の前後方向)の傾斜を意味する。車両2自体が傾斜していない場合はビーム方向が上記の初期設定動作で設定した方向からずれていないため、ビーム方向の調整は行わない。なお、送受信モジュール10と車両2との間で物理的なずれは生じないものとする。送受信モジュール10は、車両2に搭載されている車両傾斜判定装置21での判定結果を確認して車両2自体が傾いているか否かを判断する。車両傾斜判定装置21から情報を取得できない構成の場合、送受信モジュール10は他の方法で車両2自体が傾いているか否かを判断する。走行中に車両2自体が傾斜するのは車両2が加速中または減速中と考えられるため、例えば、送受信モジュール10は、車両2の速度を繰り返し確認し、速度の変化量が予め定められたしきい値よりも大きい場合に車両2自体が傾斜していると判断する。
送受信モジュール10は、車両2自体が傾斜している場合(ステップS21:Yes)、加速度センサ141およびジャイロセンサ142から計測値を取得し(ステップS22)、取得した計測値を用いてピッチ角度θpを算出する(ステップS23)。ステップS23において、送受信モジュール10は、上記の式(5)に従ってピッチ角度θpを計算する。このとき、w=0.996とする。
送受信モジュール10は、次に、算出したピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内か否かを確認する(ステップS24)。ピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内の場合(ステップS24:Yes)、送受信モジュール10は、垂直APAAの位相設定を行う(ステップS25)。具体的には、送受信モジュール10は、ピッチ角度θpが0となるように移相器12141~1214mの位相設定を調整する。一方、ピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内ではない場合(ステップS24:No)、送受信モジュール10は、車両2の傾斜角度が異常である旨をユーザに知らせるためのエラー通知を行う(ステップS27)。エラー通知は、上述したステップS17と同様の方法で行う。
図13は、実施の形態1にかかる送受信モジュール10が搭載された車両2が停車中に送受信モジュール10が実行するビーム方向の調整動作の一例を示すフローチャートである。
送受信モジュール10は、車両2が停車中にビーム方向を調整する場合、まず、加速度センサ141が計測した計測値を取得し(ステップS31)、取得した計測値を使用してピッチ角度θpを算出する(ステップS32)。これらのステップS31およびS32は、上述したステップS11およびS12と同じ処理である。
送受信モジュール10は、次に、車両2自体が傾斜しているか否かを確認する(ステップS33)。このステップS33は、上述したステップS21と同じ処理である。
送受信モジュール10は、車両2自体が傾斜している場合(ステップS33:Yes)、ステップS32で算出したピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内か否かを確認する(ステップS34)。ピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内の場合(ステップS34:Yes)、送受信モジュール10は、垂直APAAの位相設定を行う(ステップS35)。ステップS34およびS35は、上述したステップS24およびS25と同じ処理である。送受信モジュール10は、次に、ステップS32で算出したピッチ角度θpを第2のピッチ角度θp2として記録し(ステップS36)、上述した角度の変化量の初期値θp
G(0)であるジャイロセンサ値の初期値を第2のピッチ角度θp2に設定する(ステップS37)。一方、ピッチ角度θpがビームを走査可能な範囲内ではない場合(ステップS34:No)、送受信モジュール10は、車両2の傾斜角度が異常である旨をユーザに知らせるためのエラー通知を行う(ステップS40)。ステップS40は、上述したステップS27と同じ処理である。
また、送受信モジュール10は、車両2自体が傾斜していない場合(ステップS33:No)、ステップS32で算出したピッチ角度θpを第3のピッチ角度θp3として記録し(ステップS38)、記録している第1のピッチ角度θp1と第3のピッチ角度θp3との差が予め定められているしきい値θpt未満か否かを確認する(ステップS39)。「θp1-θp3<θpt」が成り立つ場合(ステップS39:Yes)、送受信モジュール10は、ステップS34を実行する。「θp1-θp3<θpt」が成り立たない場合(ステップS39:No)、送受信モジュール10は、軸ずれが発生した旨をユーザに知らせるためのエラー通知を行う(ステップS41)。エラー通知は、上述したステップS17と同様の方法で行う。ここでの「軸ずれ」とは、振動などによって送受信モジュール10の取付方向が変化し、送受信モジュール10と車両2との間で物理的なずれが生じたことにより、実際のビーム方向と正常なビーム方向との差がしきい値θthよりも大きい状態となることをいう。ここでは、例えば、θpt=θthとして設定する。
なお、本実施の形態では、送受信モジュール10を車両2に搭載した後に図11のフローチャートが示す初期設定動作を実行することとしたが、車両2に搭載する前に初期設定動作を行ってもよい。この場合、重力の方向に直交する平面に送受信モジュール10を置いた状態とした後、送受信モジュール10が図11のフローチャートに従って初期設定動作を行う。
以上のように、本実施の形態にかかる送受信モジュール10は、物標探知用の信号を送信するビームをピッチ方向に走査可能な送信アンテナ111を備え、加速度センサ141が検出する加速度およびジャイロセンサ142が検出する角速度に基づいてビーム方向のピッチ方向のずれを検出すると、送信アンテナ111を構成する各送信アレーアンテナ1111~111mが送信する物標探知用の信号の位相を調整してずれを解消させる。本実施の形態にかかる送受信モジュール10は、機械的にビームの放射方向を変更するのではなく送信信号の位相の設定を調整してビームの放射方向を変更するため、装置の小型化およびビーム方向の調整に要する時間の短縮化を実現できる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。