≪第1の形態≫
本発明の一形態(第1の形態)は、導電性を有する樹脂層を含む正極集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極と、セパレータに電解液が保持されてなる電解質層とを含む発電要素を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質層がその周縁部の少なくとも一部に2mm以上の幅にわたって前記正極活物質層と対向しない非対向領域を有し、かつ、前記正極集電体において前記非対向領域と対向する領域の前記負極活物質層側の面に、前記正極活物質層の外周端部まで延在するようにイオン透過抑制層が配置されてなる、リチウムイオン二次電池に関するものである。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。以下では、非水電解質二次電池の一形態である、双極型リチウムイオン二次電池を例に挙げて本発明を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%の条件で行う。
本明細書では、双極型リチウムイオン二次電池を単に「双極型二次電池」とも称し、双極型リチウムイオン二次電池用電極を単に「双極型電極」と称することがある。
<双極型二次電池>
図1は、本発明の一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池を模式的に表した断面図である。図1に示す双極型リチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図1に示すように、本形態の双極型リチウムイオン二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、電解液が保持されたセパレータ17(電解質層)を介して積層されて発電要素21を形成する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とがセパレータ17を介して向き合うように、各双極型電極23およびセパレータ17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間にセパレータ17が挟まれて配置されている。なお、負極活物質層15は、発電要素21の積層方向から見て正極活物質層13よりも一回り大きく形成されている。
図1に示す双極型リチウムイオン二次電池10において、集電体11は、図2に示すように、正極活物質層13との電子の授受を媒介する正極集電体11Cと、負極活物質層15との電子の授受を媒介する負極集電体11Aとの積層体である。そして、これらの正極集電体11Cおよび負極集電体11Aは、導電性を有する樹脂層を有する、いわゆる「樹脂集電体」である。樹脂集電体の詳細な仕様については、後述する。また、図示はしないが、図1に示す双極型リチウムイオン二次電池10において、正極活物質層13は、例えば、導電助剤としてのアセチレンブラックおよび被覆用樹脂としてのメタアクリレート系共重合体を含む被覆剤で覆われた正極活物質(被覆正極活物質粒子)および導電部材としての炭素繊維を含む。炭素繊維は、正極活物質層13のセパレータ17側に接触する第1主面から集電体11側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成し、さらに当該導電通路と正極活物質とは電気的に接続される。同様に、負極活物質層15は、例えば、導電助剤としてのアセチレンブラックおよび被覆用樹脂としてのメタアクリレート系共重合体を含む被覆剤で覆われた負極活物質(被覆負極活物質粒子)および導電部材としての炭素繊維を含む。炭素繊維は、負極活物質層15のセパレータ17側に接触する第1主面から集電体11側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成し、さらに当該導電通路と負極活物質とは電気的に接続される。
隣接する正極活物質層13、セパレータ17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型リチウムイオン二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周部にはシール部(絶縁層)31が配置されている。これにより、セパレータ17からの電解液の漏れによる液絡を防止し、電池内で隣り合う集電体11どうしが接触したり、発電要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止している。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
さらに、図1に示す双極型リチウムイオン二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型リチウムイオン二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型リチウムイオン二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
続いて、本実施形態に係る双極型リチウムイオン二次電池10の特徴的な構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る双極型リチウムイオン二次電池の単セルの周縁部の拡大断面図である。
図2に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、負極活物質層15が発電要素21の積層方向から見て正極活物質層13よりも一回り大きく形成されている。これにより、負極活物質層15の周縁部には、その全周にわたって、正極活物質層13と対向しない領域(非対向領域)が設けられている。なお、図2に示す実施形態において、当該非対向領域の幅(図2に示す距離L1)は10mmであるが、この幅(L1)は2mm以上であればよい。また、非対向領域は、図2に示す実施形態のように負極活物質層15の周縁部の全周にわたって設けられていることが好ましいが、本発明においては、負極活物質層15の周縁部の少なくとも一部に幅2mm以上の非対向領域が設けられていればよい。なお、非対向領域の幅(図2に示す距離L1)とは、発電要素21の積層方向から見た正極活物質層13の端部に垂直な方向における非対向領域の距離を意味する。
そして、図2に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、正極集電体11Cにおいて上述した非対向領域と対向する面に、前記正極活物質層13の外周端部と重複する領域を有するように、イオン透過抑制層として機能するポリプロピレン製粘着テープ35が配置されている(すなわち、ポリプロピレン製粘着テープ35の左側の端部が正極活物質層13の外周端部と重なるように配置されている)。図2に示す実施形態において、イオン透過抑制層としてのポリプロピレン製粘着テープ35が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmである。
図2に示す双極型リチウムイオン二次電池10の負極活物質層15の周縁部には、上述したように、その全周にわたって、正極活物質層13と対向しない領域(非対向領域)が2mm以上の幅で設けられている。本発明者らの検討によれば、正極集電体として樹脂集電体を用いた場合に非対向領域が幅2mm以上と大きいと、充放電の進行に伴って正極集電体(樹脂集電体)が劣化し、場合によっては当該集電体を電解液が透過することによって液絡が発生してしまうことが判明した。このような集電体の劣化とそれに伴う液絡の発生は、電池性能を大きく損なうものである。
このような新たに見出された課題に対し、図2に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、正極集電体11Cにおいて上述した非対向領域と対向する面(図2において正極集電体11Cの下側の面)に、ポリプロピレン製粘着テープ35が配置されている。本発明者らは、このような構成とすることにより、驚くべきことに、上述したような充放電の進行に伴う正極集電体(正極樹脂集電体)の劣化とこれによる液絡の発生が防止されうることをさらに見出したのである。その推定メカニズムは以下のようなものである。すなわち、このポリプロピレン製粘着テープ35は、正極樹脂集電体の非対向領域に対応する領域(非対向領域と対向する面)へのリチウムイオンの供給を抑制するイオン透過抑制層として機能する。このため、双極型リチウムイオン二次電池10の充放電の際に、正極樹脂集電体において上述した非対向領域と対向する領域へのリチウムイオンの供給が抑制される。その結果、正極樹脂集電体の当該領域における好ましくない電位の上昇(過電圧の発生)が抑制され、正極集電体(正極樹脂集電体)の劣化とこれによる液絡の発生が防止されるものと考えられる。
なお、上述したように、図2に示す実施形態では、ポリプロピレン製粘着テープ35が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(L2)が当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmとされている。ただし、上記メカニズムに照らせば当該重複する領域の存在は必須ではない。すなわち、上記メカニズムに基づき、本発明では、イオン透過抑制層が正極集電体において非対向領域と対向する面(図2において正極集電体11Cの下側の面)の少なくとも一部に、正極活物質層の外周端部まで延在するように配置されていればよいとしたものである。これに対し、後述する比較例2のように、イオン透過抑制層を設けたとしても、正極活物質層の外周端部との間が離隔した(すなわち、イオン透過抑制層が正極活物質層の外周端部まで延在していない)状態では、正極集電体(正極樹脂集電体)の劣化とこれによる液絡の発生を防止することはできない。このことからも、上記メカニズムは妥当なものであると考えられる。また、上記重複する領域の幅(L2)が大きすぎると、当該幅を大きくしたことにより得られる効果が逓減する一方で、正極活物質層と正極集電体との間の導通面積が小さくなる結果、内部抵抗が増大する虞がある。このため、上記重複する領域の幅(L2)は、発電要素の積層方向から見て、好ましくは10mm以下である。
また、図2に示す実施形態においては、イオン透過抑制層として機能するポリプロピレン製粘着テープ35が、上記非対向領域と対向する正極集電体の全面に配置されている。さらに、当該ポリプロピレン製粘着テープ35の上述したのとは反対側(図2に示す右側)の端部は、発電要素の積層方向から見て負極活物質層の外周端部を超えて延在するように配置されている。これらの実施形態に係る構成とすることで、正極樹脂集電体へのリチウムイオンの供給をより確実に抑制することが可能となる。ただし、これらの実施形態に限定されない。すなわち、イオン透過抑制層は、正極集電体の上記非対向領域と対向する領域の少なくとも一部において、正極活物質層の外周端部まで延在するように配置されていればよい。また、正極活物質層の外周端部まで延在する側とは反対側のイオン透過抑制層の端部は、正極集電体の周縁部における上記非対向領域と対向しない領域まで延在することなく、当該非対向領域と対向する領域まで延在するに留まっていてもよい。
以下、双極型リチウムイオン二次電池の主な構成要素について説明する。
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はないが、例えば、金属が挙げられる。また、集電体は、導電性を有する樹脂層を含むもの(いわゆる「樹脂集電体」)であってもよい。上述した形態に係るリチウムイオン二次電池においては、正極集電体の少なくとも1つが「樹脂集電体」である。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、後者の導電性を有する樹脂層を含む「樹脂集電体」の構成材料としては、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5~35質量%程度である。
なお、本形態の集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。集電体の厚みは特に制限されないが、好ましくは50~100μmである。
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質および必要に応じて当該正極活物質の表面を被覆する被覆剤を含む。また、正極活物質層は、さらに必要に応じて導電部材、イオン伝導性ポリマー、リチウム塩等を含みうる。
なお、本明細書では、被覆剤により被覆された状態の正極活物質を「被覆正極活物質粒子」とも称する。被覆正極活物質粒子は、正極活物質からなるコア部の表面に被覆用樹脂および導電助剤を含む被覆剤からなるシェル部が形成された、コア-シェル構造を有している。
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム-遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられる。さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)、またはリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(以下単に、「NCA複合酸化物」とも称する)などが用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を有する。そして、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO2、LiMn2O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きい。これにより、エネルギー密度の向上が可能となり、コンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しているため、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi0.8Co0.1Al0.1O2がより有利であるが、寿命特性に難がある。これに対し、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2並みに優れた寿命特性を有しているのである。
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
(被覆剤)
被覆剤は、被覆用樹脂および導電助剤を含む。被覆剤が正極活物質の表面に存在することで、正極活物質層において、正極活物質表面へのイオン伝導パスおよび電子伝導パスを確保することができる。
(被覆用樹脂)
被覆用樹脂は、正極活物質の表面に存在し、電解液を吸液して保持する機能を有する。これにより、正極活物質層において、電解質層から正極活物質表面へのイオン伝導パスを形成することができる。
本形態の双極型二次電池においては、被覆用樹脂の材料は特に制限されないが、柔軟性や吸液性の観点から、(A)ポリウレタン樹脂、(B)ポリビニル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
(A)ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂は、柔軟性が高く(後述の引張破断伸び率が大きく)、また、ウレタン結合どうしは強い水素結合を形成しうることから、これを被覆用樹脂として用いることで、柔軟性に優れつつも、構造的に安定した被覆剤を構成することが可能となる。
ポリウレタン樹脂の具体的な形態について特に制限はなく、ポリウレタン樹脂に関する従来公知の知見が適宜参照されうる。ポリウレタン樹脂は、(a1)ポリイソシアネート成分および(a2)ポリオール成分から構成され、必要に応じて(a3)イオン性基導入成分、(a4)イオン性基中和剤成分、および(a5)鎖延長剤成分をさらに用いて構成されてもよい。
(a1)ポリイソシアネート成分としては、一分子中にイソシアネート基を2つ有するジイソシアネート化合物および一分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネート化合物が挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
ジイソシアネート化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-および/または2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4'-ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、トランス-1,4-シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4および/または(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
これらのジイソシアネート化合物は、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
一分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、上記例示のジイソシアネートのイソシアヌレート三量化物、ビウレット三量化物、トリメチロールプロパンアダクト化物等;トリフェニルメタントリイソシアネート、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等の三官能以上のイソシアネート等が挙げられ、これらのイソシアネート化合物はカルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
(a2)ポリオール成分としては、一分子中にヒドロキシル基を2つ有するジオール化合物および一分子中にヒドロキシル基を3つ以上有するポリオール化合物が挙げられ、これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
ジオール化合物および一分子中にヒドロキシル基を3個以上有するポリオール化合物としては、低分子ポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエステルポリカーボネートポリオール類、結晶性または非結晶性のポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエンポリオール、シリコーンポリオールが挙げられる。
低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等脂環式ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のポリオールが挙げられる。
ポリエーテルポリオール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド付加物;ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のプロピレンオキサイド付加物;上記の低分子ポリオールのエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオール類としては、上記に例示の低分子ポリオール等のポリオールと、その化学量論量より少ない量の多価カルボン酸もしくはそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性誘導体、および/または、ラクトン類もしくはその加水分解開環して得られるヒドロキシカルボン酸との直接エステル化反応および/またはエステル交換反応により得られるものが挙げられる。多価カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、2-メチルアジピン酸、3-メチルアジピン酸、3-メチルペンタン二酸、2-メチルオクタン二酸、3,8-ジメチルデカン二酸、3,7-ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;トリメリト酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸類などの多価カルボン酸が挙げられ、そのエステル形成性誘導体としては、これらの多価カルボン酸の酸無水物、当該多価カルボン酸クロライド、ブロマイド等のハライド;当該多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級脂肪族エステルが挙げられる。また、上記ラクトン類としてはγ-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、ジメチル-ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
必要に応じて用いられる(a3)イオン性基導入成分としては、アニオン性基を導入するものとカチオン性基を導入するものが挙げられる。アニオン性基を導入するものとしては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を含有するポリオール類、1,4-ブタンジオール-2-スルホン酸等のスルホン酸基を含有するポリオール類が挙げられ、カチオン性基を導入するものとしては、例えば、N,N-ジアルキルアルカノールアミン類、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、N-ブチル-N,N-ジエタノールアミン等のN-アルキル-N,N-ジアルカノールアミン類、トリアルカノールアミン類が挙げられる。
必要に応じて用いられる(a4)イオン性基中和剤成分としては、アニオン性基の中和剤として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジプロピルエタノールアミン、1-ジメチルアミノ-2-メチル-2-プロパノール等のN,N-ジアルキルアルカノールアミン類、N-アルキル-N,N-ジアルカノールアミン類、トリエタノールアミン等のトリアルカノールアミン類等の三級アミン化合物;アンモニア、トリメチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等塩基性化合物が挙げられ、カチオン性基の中和剤としては、蟻酸、酢酸、乳酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸等の有機カルボン酸、パラトルエンスルホン酸、スルホン酸アルキル等の有機スルホン酸、塩酸、リン酸、硝酸、スルホン酸等の無機酸、エピハロヒドリン等エポキシ化合物の他、ジアルキル硫酸、ハロゲン化アルキル等の四級化剤が挙げられる。
必要に応じて用いられる(a5)鎖延長剤成分としては、周知一般の鎖延長剤の1種または2種以上を使用することができ、多価アミン化合物、多価一級アルコール化合物等が好ましく、多価アミン化合物がより好ましい。多価アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の上記例示の低分子ジオールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものである低分子ジアミン類;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m-キシレンジアミン、α-(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;ヒドラジン;上記のポリエステルポリオールに用いられる多価カルボン酸で例示したジカルボン酸とヒドラジンの化合物であるジカルボン酸ジヒドラジド化合物が挙げられる。
上述した各成分のなかでも、(a1)ポリイソシアネート成分としては、ジイソシアネート化合物を用いることが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等を用いることが特に好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いることが最も好ましい。また、(a2)ポリオール成分としては、ジオール化合物であるエチレンオキサイド付加物を必須に用いることが好ましく、ポリエチレングリコールを必須に用いることが特に好ましい。ポリエチレングリコールはリチウムイオン伝導性に優れることから、かような構成とすることで、電池の内部抵抗の低減(上昇抑制)効果が顕著に発現しうる。ここで、ポリエチレングリコールの水酸基価から計算される数平均分子量は特に制限されないが、好ましくは2,500~15,000であり、より好ましくは3,000~13,000であり、さらに好ましくは3,500~10,000である。なお、耐熱性に優れるという観点からは、上述した必須成分に加えて、ポリオール成分としてエチレングリコールおよび/またはグリセリンをさらに用いることが好ましい。特に、グリセリンを用いずにエチレングリコールのみを併用すると、被覆用樹脂が膨潤して得られるゲルは物理架橋ゲルとなることから、製造時に溶剤に溶解させることができ、後述するような種々の製造方法の適用が可能となる。一方、エチレングリコールに加えてグリセリンをも併用すると、ポリウレタン樹脂の主鎖どうしが化学架橋することになり、この場合には架橋間分子量を制御して電解液への膨潤度を任意に制御できるという利点がある。
なお、ポリウレタン樹脂の合成方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
(B)ポリビニル系樹脂
ポリビニル系樹脂は、柔軟性が高い(後述の引張破断伸び率が大きい)ことから、これを被覆用樹脂として用いることで、充放電反応に伴う活物質の体積変化を緩和し、活物質層の膨張を抑制することができる。
ポリビニル系樹脂の具体的な形態については、特に制限はなく、重合性の不飽和結合を有するモノマー(以下、「ビニルモノマー」とも称する)を含む単量体を重合して得られる重合体であれば、従来公知の知見を適宜参照されうる。
特に、ビニルモノマーとしてカルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)及び下記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)を含むことが好ましい。
式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は、炭素数1~4の直鎖のアルキル基又は炭素数4~36の分岐アルキル基である。
カルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3~15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4~24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6~24の3価~4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R1はメチル基であることが好ましい。
R2は、炭素数1~4の直鎖のアルキル基又は炭素数4~36の分岐アルキル基であり、R2の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、1-アルキルアルキル基(1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、1-エチルノニル基、1-ブチルエイコシル基、1-ヘキシルオクタデシル基、1-オクチルヘキサデシル基、1-デシルテトラデシル基、1-ウンデシルトリデシル基等)、2-アルキルアルキル基(2-メチルプロピル基(iso-ブチル基)、2-メチルブチル基、2-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、2-メチルペンチル基、2-エチルブチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、2-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルオクチル基、2-エチルヘプチル基、2-メチルノニル基、2-エチルオクチル基、2-メチルデシル基、2-エチルノニル基、2-ヘキシルオクタデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ウンデシルトリデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、2-トリデシルペンタデシル基、2-デシルオクタデシル基、2-テトラデシルオクタデシル基、2-ヘキサデシルオクタデシル基、2-テトラデシルエイコシル基、2-ヘキサデシルエイコシル基等)、3~34-アルキルアルキル基(3-アルキルアルキル基、4-アルキルアルキル基、5-アルキルアルキル基、32-アルキルアルキル基、33-アルキルアルキル基及び34-アルキルアルキル基等)、ならびに、プロピレンオリゴマー(7~11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1~1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7~8量体)及びα-オレフィン(炭素数5~20)オリゴマー(4~8量体)等に対応するオキソアルコールのアルキル残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
これらのうち、電解液の吸液の観点から好ましいのは、メチル基、エチル基、2-アルキルアルキル基であり、更に好ましいのは2-エチルヘキシル基及び2-デシルテトラデシル基である。
また、重合体を構成する単量体には、カルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)、上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)の他に、活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(b3)が含まれていてもよい。
活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(b3)としては、下記(b31)~(b35)が挙げられる。
(b31)炭素数1~20のモノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)脂肪族モノオール[メタノール、エタノール、n-及びi-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等]、(ii)脂環式モノオール[シクロヘキシルアルコール等]、(iii)芳香脂肪族モノオール[ベンジルアルコール等]及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
(b32)ポリ(n=2~30)オキシアルキレン(炭素数2~4)アルキル(炭素数1~18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキシド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキシド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート等]
(b33)窒素含有ビニル化合物
(b33-1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3~30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N-ジアルキル(炭素数1~6)もしくはジアラルキル(炭素数7~15)(メタ)アクリルアミド[N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド等]、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4~20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN-メチル-N-ビニルアセトアミド、環状アミド(ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えば、N-ビニルピロリドン等))
(b33-2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1~4)アミノアルキル(炭素数1~4)(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート〔3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]の4級化物(前記の4級化剤を用いて4級化したもの)等〕
(b33-3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7~14、例えば2-及び4-ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5~12、例えばN-ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニル-2-ピロリドン)
(b33-4)ニトリル基含有ビニル化合物
炭素数3~15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(炭素数1~4)アクリレート
(b33-5)その他ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(炭素数8~16、例えばニトロスチレン)等
(b34)ビニル炭化水素
(b34-1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2~18又はそれ以上のオレフィン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセンなど]、炭素数4~10又はそれ以上のジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエンなど]等
(b34-2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4~18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン、リモネン及びインデン)
(b34-3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8~20又はそれ以上の芳香族不飽和化合物、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン
(b35)ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、不飽和ジカルボン酸ジエステル
(b35-1)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4~15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ-及びジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]、芳香族ビニルエステル[炭素数9~20、例えば芳香族カルボン酸(モノ-及びジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル-4-ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
(b35-2)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル〔炭素数3~15、例えばビニルアルキル(炭素数1~10)エーテル[ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテルなど]、ビニルアルコキシ(炭素数1~6)アルキル(炭素数1~4)エーテル[ビニル-2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4-ジヒドロ-1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル-2-エチルメルカプトエチルエーテル等]、ポリ(2~4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2~6)[ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等]〕
芳香族ビニルエーテル(炭素数8~20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
(b35-3)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4~25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)
芳香族ビニルケトン(炭素数9~21、例えばビニルフェニルケトン)
(b35-4)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4~34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分枝鎖もしくは脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分枝鎖もしくは脂環式の基)
上記(b3)として例示したもののうち電解液の吸液及び耐電圧の観点から好ましいのは、(b31)、(b32)及び(b33)であり、更に好ましいのは、(b31)のうちのメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートである。
重合体において、カルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)、上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)及び活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(b3)の含有量は、重合体の重量を基準として、(b1)が0.1~80質量%、(b2)が0.1~99.9質量%、(b3)が0~99.8質量%であることが好ましい。
モノマーの含有量が上記範囲内であると、電解液への吸液性が良好となる。
より好ましい含有量は、(b1)が30~60質量%、(b2)が5~60質量%、(b3)が5~80質量%であり、更に好ましい含有量は、(b1)が35~50質量%、(b2)が15~45質量%、(b3)が20~60質量%である。
重合体の数平均分子量の好ましい下限は10,000、更に好ましくは15,000、特に好ましくは20,000、最も好ましくは30,000であり、好ましい上限は2,000,000、更に好ましくは1,500,000、特に好ましくは1,000,000、最も好ましくは800,000である。
重合体の数平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃。
重合体の溶解度パラメータ(SP値)は9.0~20.0(cal/cm3)1/2であることが好ましい。重合体のSP値は9.5~18.0(cal/cm3)1/2であることがより好ましく、10.0~14.0(cal/cm3)1/2であることが更に好ましい。重合体のSP値が9.0~20.0(cal/cm3)1/2であると、電解液の吸液の点で好ましい。
また、重合体のガラス転移点[以下Tgと略記、測定法:DSC(走査型示差熱分析)法]は、電池の耐熱性の観点から好ましくは80~200℃、更に好ましくは90~190℃、特に好ましくは100~180℃である。
重合体は、公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など)により製造することができる。
被覆用樹脂は、電解液に浸された状態において適度な柔軟性を有することが好ましい。具体的には、被覆用樹脂の飽和吸液状態での引張破断伸び率は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上であり、特に好ましくは40%以上であり、最も好ましくは50%以上である。引張破断伸び率が10%以上である樹脂を用いて正極活物質を被覆することにより、充放電反応による正極活物質の体積変化を緩和し、電極の膨張を抑制することができる。なお、本明細書において、「引張破断伸び率」とは、樹脂の柔軟性を示す指標であり、後述する実施例の欄に記載の測定方法により得られる値である。被覆用樹脂の引張破断伸び率の値は大きいほど好ましく、上限値は特に制限されないが、通常は400%以下であり、好ましくは300%以下である。すなわち、上記引張破断伸び率の好ましい数値範囲は、10~400%、20~400%、30~400%、40~400%、50~400%、10~300%、20~300%、30~300%、40~300%、50~300%である。
被覆用樹脂に柔軟性を付与し、引張破断伸び率を所望の値に制御するための手法として、柔軟性を有する部分構造(例えば、長鎖アルキル基、ポリエーテル残基、アルキルポリカーボネート残基、アルキルポリエステル残基など)を被覆用樹脂の主鎖に導入する方法が挙げられる。また、被覆用樹脂の分子量を制御したり、架橋間分子量を制御したりする手法によっても、被覆用樹脂に柔軟性を付与して引張破断伸び率を調節することが可能である。
(導電助剤)
導電助剤は、被覆剤中で電子伝導パスを形成し、正極活物質層の電子移動抵抗を低減することで、電池の高レートでの出力特性向上に寄与しうる。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;グラファイト、炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μm程度であることが好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
被覆剤中の被覆用樹脂および導電助剤の含有量は特に制限されないが、被覆用樹脂(樹脂固形分):導電助剤=1:0.2~3.0(質量比)であることが好ましい。このような範囲であれば、被覆剤中で導電助剤が電子伝導パスを良好に形成することができる。
(被覆正極活物質粒子の製造方法)
被覆正極活物質粒子の製造方法は、特に制限されないが、例えば以下の方法が挙げられる。まず正極活物質を万能混合機に入れて10~500rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂および溶媒を含む溶液(被覆用樹脂溶液)を1~90分間かけて滴下混合する。この際の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好適に使用できる。その後、さらに導電助剤を添加し、混合する。そして、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に、10~150分間保持することにより、被覆正極活物質粒子を得ることができる。
(導電部材)
本形態において、導電部材は、正極活物質層中で電子伝導パスを形成する機能を有する。特に、導電部材の少なくとも一部が、正極活物質層の電解質層側に接触する第1主面から集電体側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成していることが好ましい。このような形態を有することで、正極活物質層中の厚さ方向の電子移動抵抗がさらに低減されるため、電池の高レートでの出力特性をより一層向上しうる。なお、導電部材の少なくとも一部が、正極活物質層の電解質層側に接触する第1主面から集電体側に接触する第2主面までを電気的に接続する導電通路を形成しているか否かは、SEMや光学顕微鏡を用いて正極活物質層の断面を観察することにより確認することができる。
導電部材は、繊維状の形態を有する導電性繊維であることが好ましい。具体的には、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を、導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。なかでも、導電性に優れ、軽量であることから炭素繊維が好ましい。
正極活物質層中における導電部材の含有量は、正極活物質層の全固形分量(全ての部材の固形分量の合計)100質量%に対して、1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましい。導電部材の含有量が上記範囲であると、正極活物質層中で電子伝導パスを良好に形成できると共に、電池のエネルギー密度が低下するのを抑えることができる。
(イオン伝導性ポリマー)
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
(リチウム塩)
リチウム塩(支持塩)としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6およびLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2およびLiC(CF3SO2)3等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。なかでも、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、LiPF6が好ましい。
なお、本形態において、負極活物質層に含まれうる、導電助剤、バインダなどのその他の添加剤の配合比は、特に限定されない。それらの配合比は、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
また、本形態に係る双極型リチウムイオン二次電池においては、正極活物質層の構成部材として、上記の正極活物質のほか、必要に応じて用いられる被覆剤(被覆用樹脂、導電助剤)、導電部材、イオン伝導性ポリマー、リチウム塩以外の部材を適宜使用しても構わない。しかしながら、電池のエネルギー密度を向上させる観点から、充放電反応の進行にあまり寄与しない部材は、含有させないほうが好ましい。例えば、正極活物質粒子とその他の部材とを結着させ、正極活物質層の構造を維持するために添加されるバインダは、極力使用しないことが好ましい。すなわち、本形態に係る双極型リチウムイオン二次電池の好ましい実施形態において、正極活物質層(および後述する負極活物質層)は、正極活物質(負極活物質)がバインダによって結着されていない、いわゆる「非結着体」である。この際、正極活物質層(および負極活物質層)におけるバインダの含有量は、正極活物質層(負極活物質層)に含まれる全固形分量100質量%に対して、それぞれ好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である。このような構成とすることで、バインダを結晶化させるための加熱乾燥工程が省略できる。また、活物質層の厚膜化とバインダの省略により、高容量(つまり、高エネルギー密度)の電池を得ることも可能となる。さらに、活物質およびバインダを含むスラリーを集電体に塗布し、加熱することによって乾燥、およびバインダを結晶化させて得られる乾燥電極とは異なり、いわゆる非結着体の活物質層を用いて電極を作製する場合には、負極活物質層15の非対向部の幅(図2に示す距離L1)を小さくすることが難しく、通常は2mm以上となることが一般的である。このため、非結着体からなる活物質層を含む双極型リチウムイオン二次電池は、本発明の適用対象として好適なものであるといえる。
本形態の双極型二次電池において、正極活物質層の厚さは、好ましくは150~1500μmであり、より好ましくは180~950μmであり、さらに好ましくは200~800μmである。正極活物質層の厚さが150μm以上であれば、電池のエネルギー密度を十分に高めることができる。一方、正極活物質層の厚さが1500μm以下であれば、正極活物質層の構造を十分に維持することができる。
また、正極活物質層の空隙率は、好ましくは35.0~50.0%であり、より好ましくは40.0~49.5%であり、さらに好ましくは42.0~49.0%である。さらに、正極活物質層の密度は、好ましくは2.10~3.00g/cm3であり、より好ましくは2.15~2.70g/cm3であり、さらに好ましくは2.17~2.60g/cm3である。
(イオン透過抑制層)
イオン透過抑制層の構成材料は特に制限されず、イオンの透過を抑制することで正極樹脂集電体へのイオンの供給を抑制することができる材料が適宜用いられうる。このような材料として、例えば、樹脂シートまたはカーボンコートされた金属箔等の導電性シートが挙げられる。樹脂シートの例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;ポリイミド(例えば、カプトン(登録商標))、アラミド、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)等の炭化水素系樹脂等が挙げられる。また、導電性シートの例としては、集電体を構成しうる金属箔の表面をカーボン材料でコーティングしたもの等が挙げられる。さらに、電解液および電位に対する耐性を有する材料であれば、絶縁性・導電性のいずれの材料も用いられうる。例えば、蒸着法やスパッタリング法により形成された金属膜(アルミニウム膜、チタン膜など)であってもよい。イオン透過抑制層の構成材料として導電性の材料を用いれば、イオン透過抑制層が、発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域を有するように配置されていたとしても当該重複する領域に対応する正極活物質層は電池反応に関与することができる。したがって、本願発明の課題を効果的に解決しつつ、電池反応の進行に対して及ぼす悪影響を最小限に抑えることが可能となる。
イオン透過抑制層の厚みは特に制限されない。当該厚みの下限値はイオンの透過を十分に抑制できる厚みに設定すればよく、また、当該厚みの上限値は通常、正極活物質層の厚みと同等に設定すればよい。正極樹脂集電体へのイオン透過抑制層の配置は、単にこれらの部材を密着させることによって行ってもよいし、粘着層や接着剤層を介して貼り付けることによって行ってもよい。
[負極活物質層]
本発明において、負極活物質層は、負極活物質を含む限りにおいて、その他の形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照される。
ただし、本発明の好ましい一形態によると、負極活物質層も上述した正極活物質層と同様の形態を有することが好ましい。すなわち、負極活物質層は、負極活物質および当該負極活物質の表面を被覆する被覆剤を含むことが好ましい。換言すると、負極活物質層は、負極活物質の表面の少なくとも一部が被覆用樹脂および導電助剤を含む被覆剤によって被覆されてなる被覆負極活物質粒子を含むことが好ましい。また、負極活物質層は、必要に応じて導電部材、イオン伝導性ポリマー、リチウム塩等を含みうる。
なお、本明細書では、被覆剤により被覆された状態の負極活物質を「被覆負極活物質粒子」とも称する。被覆負極活物質粒子は、負極活物質からなるコア部の表面に被覆用樹脂および導電助剤を含む被覆剤からなるシェル部が形成された、コア-シェル構造を有している。
なお、被覆負極活物質粒子を含む負極活物質層の実施の形態については、負極活物質の材料以外は、基本的に「正極活物質層」の項で記載した内容と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料(スズ、シリコン)、リチウム合金系負極材料(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-アルミニウム-マンガン合金等)などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム合金系負極材料が、負極活物質として好ましく用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。また、上述の被覆用樹脂は特に炭素材料に対して付着しやすいという性質を有している。したがって、負極活物質が被覆負極活物質粒子の形態である場合には、構造的に安定した電極材料を提供するという観点からは、負極活物質として炭素材料を用いることが好ましい。
負極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
[電解質層]
本形態に係るリチウムイオン二次電池において、電解質層は、セパレータに電解液(液体電解質)が保持されてなる構成を有している。
電解液(液体電解質)は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液層を構成する電解液(液体電解質)は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。液体電解質は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらの環式炭酸エステルは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
セパレータの形態としては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みは、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。一例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途におけるセパレータの厚みは、単層あるいは多層で4~60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いた不織布が挙げられる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5~200μmであり、特に好ましくは10~100μmである。
また、前述した微多孔質(微多孔膜)セパレータまたは不織布セパレータを樹脂多孔質基体層として、これに耐熱絶縁層が積層されたものをセパレータとして用いることも好ましい(耐熱絶縁層付セパレータ)。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。耐熱絶縁層付セパレータは融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは200℃以上である耐熱性の高いものを用いる。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電池の製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
耐熱絶縁層における無機粒子は、耐熱絶縁層の機械的強度や熱収縮抑制効果に寄与する。無機粒子として使用される材料は特に制限されない。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンの酸化物(SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2)、水酸化物、および窒化物、ならびにこれらの複合体が挙げられる。これらの無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来のものであってもよいし、人工的に製造されたものであってもよい。また、これらの無機粒子は1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、コストの観点から、シリカ(SiO2)またはアルミナ(Al2O3)を用いることが好ましく、アルミナ(Al2O3)を用いることがより好ましい。
無機粒子の目付け量は、特に限定されるものではないが、5~15g/m2であることが好ましい。この範囲であれば、十分なイオン伝導性が得られ、また、耐熱強度を維持する点で好ましい。
耐熱絶縁層におけるバインダは、無機粒子どうしや、無機粒子と樹脂多孔質基体層とを接着させる役割を有する。当該バインダによって、耐熱絶縁層が安定に形成され、また樹脂多孔質基体層および耐熱絶縁層の間の剥離を防止される。
耐熱絶縁層に使用されるバインダは、特に制限はなく、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルなどの化合物がバインダとして用いられうる。このうち、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることが好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
耐熱絶縁層におけるバインダの含有量は、耐熱絶縁層100質量%に対して、2~20質量%であることが好ましい。バインダの含有量が2質量%以上であると、耐熱絶縁層と樹脂多孔質基体層との間の剥離強度を高めることができ、セパレータの耐振動性を向上させることができる。一方、バインダの含有量が20質量%以下であると、無機粒子の隙間が適度に保たれるため、十分なリチウムイオン伝導性を確保することができる。
耐熱絶縁層付セパレータの熱収縮率は、150℃、2gf/cm2条件下、1時間保持後にMD、TDともに10%以下であることが好ましい。このような耐熱性の高い材質を用いることで、発熱量が高くなり電池内部温度が150℃に達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[シール部]
シール部(絶縁層)は、集電体同士の接触や単電池層の端部における短絡を防止する機能を有する。シール部を構成する材料としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性等を有するものであればよい。例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴム(エチレン-プロピレン-ジエンゴム:EPDM)等が用いられうる。また、イソシアネート系接着剤や、アクリル樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤などを用いてもよく、ホットメルト接着剤(ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂)などを用いてもよい。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性等の観点から、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂が、絶縁層の構成材料として好ましく用いられ、非結晶性ポリプロピレン樹脂を主成分とするエチレン、プロピレン、ブテンを共重合した樹脂を用いることが好ましい。
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができ、所望の電解液層厚みへと調整容易であることから、外装体はアルミネートラミネートがより好ましい。
本形態の双極型リチウムイオン二次電池は、上述したような構成を有することにより、正極樹脂集電体の劣化やそれに伴う液絡の発生、これらに起因する電池性能の低下の虞が低減されたものである。したがって、本形態の双極型リチウムイオン二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
なお、本形態に係るリチウムイオン二次電池は、図1~図2を参照して説明したような双極型リチウムイオン二次電池に限らず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型電池などの従来公知の任意のリチウムイオン二次電池にも適用可能である。なお、並列積層型電池においては、シール部(絶縁層)の配置は不要である。
≪第2の形態≫
本発明の他の形態(第2の形態)は、双極型リチウムイオン二次電池にのみ適用可能なものであり、最外層に配置される正極樹脂集電体の劣化を防止する技術に関する。
すなわち、本形態に係る双極型リチウムイオン二次電池は、正極集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極と、セパレータに電解液が保持されてなる電解質層とを含む発電要素を有するものであり、これらの点では第1の形態に係るリチウムイオン二次電池と共通している。一方、本形態に係る双極型リチウムイオン二次電池においては、最外層に位置する正極集電体が、導電性を有する樹脂層を含むいわゆる「樹脂集電体」(以下、単に「最外層正極樹脂集電体」とも称する)であり、この「最外層正極樹脂集電体」に隣接するように正極集電板が配置されている。ここで、これらの「最外層正極樹脂集電体」および「正極集電板」は、図1で言えば正極側の最外層集電体11aおよび正極集電板(正極タブ)25にそれぞれ相当する部材である。
そして、本形態に係る双極型リチウムイオン二次電池においても、図3に示すように、最外層正極樹脂集電体11C(11a)を含む単電池層においては、負極活物質層15が発電要素21の積層方向から見て正極活物質層13よりも一回り大きく形成されている。これにより、負極活物質層15の周縁部には、その全周にわたって、正極活物質層13と対向しない領域(非対向領域)が設けられている。なお、図3に示す実施形態において、当該非対向領域の幅(図3に示す距離L1)は10mmであるが、この幅(L1)は2mm以上であればよい。また、非対向領域は、図3に示す実施形態のように負極活物質層15の周縁部の全周にわたって設けられていることが好ましいが、本形態においても、負極活物質層15の周縁部の少なくとも一部に幅2mm以上の非対向領域が設けられていればよい。
そして、図3に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、最外層正極樹脂集電体11C(11a)において上述した非対向領域と対向する領域の前記負極活物質層15とは反対側の面(図3において正極樹脂集電体11C(11a)の上側の面)に、発電要素の積層方向から見て正極活物質層13の外周端部と重複する領域を有するように、電子透過抑制層として機能するカプトン(登録商標)粘着テープ37が配置されている。図3に示す実施形態において、電子透過抑制層としてのカプトン(登録商標)粘着テープ37が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図3に示す距離L3)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmである。
図3に示す双極型リチウムイオン二次電池10においても、負極活物質層15の周縁部には、上述したように、その全周にわたって、正極活物質層13と対向しない領域(非対向領域)が2mm以上の幅で設けられている。このため、本発明者らが見出したように、最外層正極集電体として樹脂集電体を用いた場合に非対向領域が幅2mm以上と大きいと、充放電の進行に伴って正極集電体(樹脂集電体)が劣化し、場合によっては当該集電体を電解液が透過することによって液絡が発生してしまい、電池性能を大きく損なう虞がある。
これに対し、図3に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、最外層正極樹脂集電体11C(11a)において上述した非対向領域と対向する領域の前記負極活物質層15とは反対側の面(図3において正極樹脂集電体11C(11a)の上側の面)に、カプトン(登録商標)粘着テープ37が配置されている。本発明者らは、このような構成とすることによっても、驚くべきことに、上述したような充放電の進行に伴う最外層正極集電体11C(11a)の劣化とこれによる液絡の発生が防止されうることを見出した。その推定メカニズムは以下のようなものである。すなわち、このカプトン(登録商標)粘着テープ37は、正極集電板(正極タブ)25と最外層正極樹脂集電体11C(11a)との間での電子の授受を抑制する電子透過抑制層として機能する。このため、双極型リチウムイオン二次電池10の充放電の際に、正極集電板(正極タブ)25と、最外層正極樹脂集電体11C(11a)の上述した非対向領域と対向する領域との間での電子の授受が抑制される。その結果、最外層正極樹脂集電体11C(11a)の非対向領域と対向する領域における好ましくない電位の上昇(過電圧の発生)が抑制され、最外層正極樹脂集電体の劣化とこれによる液絡の発生が防止されるものと考えられる。
なお、上述したように、図3に示す実施形態では、カプトン(登録商標)粘着テープ37が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(L3)が当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmとされている。ただし、上記メカニズムに照らせば当該重複する領域の存在は必須ではない。すなわち、上記メカニズムに基づき、本発明では、電子透過抑制層が最外層正極樹脂集電体において非対向領域と対向する領域の負極活物質層とは反対側の面(図3において最外層正極樹脂集電体11C(11a)の上側の面)に、発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部まで延在するように配置されていればよいとしたものである。これに対し、電子透過抑制層を設けたとしても、発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部との間が離隔した状態では、最外層正極樹脂集電体の劣化とこれによる液絡の発生を防止することはできない。また、上記重複する領域の幅(L3)が大きすぎると、当該幅を大きくしたことにより得られる効果が逓減する一方で、最外層正極樹脂集電体と正極集電板との間の導通面積が小さくなる結果、内部抵抗が増大する虞がある。このため、上記重複する領域の幅(L3)は、発電要素の積層方向から見て、好ましくは10mm以下である。
また、図3に示す実施形態においては、電子透過抑制層として機能するカプトン(登録商標)粘着テープ37(絶縁性を有する樹脂シート)が、最外層正極樹脂集電体の上記非対向領域と対向する領域の全面に対応する位置に配置されている。さらに、当該カプトン(登録商標)粘着テープ37は、正極集電体の周縁部における上記非対向領域と対向しない領域に対応する位置まで延在するように配置されている。これらの実施形態に係る構成とすることで、最外層正極樹脂集電体へのイオンの供給をより確実に抑制することが可能となる。ただし、これらの実施形態に限定されない。すなわち、電子透過抑制層は、最外層正極樹脂集電体の上記非対向領域と対向する領域に対応する位置の少なくとも一部において、発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部まで延在するように配置されていればよい。また、電子透過抑制層は、最外層正極樹脂集電体の周縁部における上記非対向領域と対向しない領域に対応する位置まで延在することなく、当該非対向領域と対向する領域に対応する位置まで延在するに留まっていてもよい。
(電子透過抑制層)
図3に示す形態に係る双極型リチウムイオン二次電池10において、電子透過抑制層の構成材料は特に制限されず、電子の透過を抑制することで正極集電板と最外層正極樹脂集電体の非対向領域と対向する領域との間での電子の授受を抑制することができる材料が適宜用いられうる。このような材料として、例えば、図2に示すような第1の形態に用いられるイオン透過抑制層の構成材料として上述した材料のうち、絶縁性の樹脂シート等の絶縁性の材料が用いられうる。電子透過抑制層の厚みは特に制限されない。当該厚みの下限値は電子の透過を十分に抑制できる厚みに設定すればよい。最外層正極樹脂集電体への電子透過抑制層の配置は、単にこれらの部材を密着させることによって行ってもよいし、粘着層や接着剤層を介して貼り付けることによって行ってもよい。
図4は、図3に示す形態に係る双極型リチウムイオン二次電池の変形例を説明するための、正極側最外層に位置する単セルの周縁部の拡大断面図である。
図4に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、電子透過抑制層として機能するカプトン(登録商標)粘着テープ37(絶縁性を有する樹脂シート)が配置されていない。そして、正極集電板(正極タブ)25が、正極活物質層13よりも一回り小さく配置されている。具体的に、正極集電板(正極タブ)25は、発電要素の積層方向から見て正極活物質層13の外周端部から3mmの幅をもって正極活物質層の外周端部よりも内側に配置されている。ただし、本変形例に係る発明においては、正極集電板(正極タブ)25が、最外層正極樹脂集電体11C(11a)において上記非対向領域と対向する面とは反対側の面の少なくとも一部を覆わないように(上記非対向領域と対向する面とは反対側の面の少なくとも一部露出するように)配置されていればよいものとする。
図4に示す双極型リチウムイオン二次電池10においては、正極集電板(正極タブ)25が、正極活物質層13よりも一回り小さく配置されている。図3を参照しつつ説明したメカニズムに照らせば、図4に示すような構成とすることによっても、上述したような充放電の進行に伴う最外層正極集電体11C(11a)の劣化とこれによる液絡の発生が防止されうるものと考えられる。すなわち、正極集電板(正極タブ)25が、正極活物質層13よりも一回り小さく配置されていることで、双極型リチウムイオン二次電池10の充放電の際に、正極集電板(正極タブ)25と、最外層正極樹脂集電体11C(11a)の上述した非対向領域と対向する領域との間での電子の授受が抑制される。その結果、最外層正極樹脂集電体11C(11a)の非対向領域と対向する領域における好ましくない電位の上昇(過電圧の発生)が抑制され、最外層正極樹脂集電体の劣化とこれによる液絡の発生が防止されるものと考えられる。
[セルサイズ]
図5は、リチウムイオン二次電池の代表的な実施形態である扁平積層型のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図5に示すように、扁平な双極型リチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型リチウムイオン二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図1に示す双極型リチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、セパレータ17を介して複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図5に示すタブ(58、59)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図5に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
一般的な電気自動車では、電池格納スペースが170L程度である。このスペースにセルおよび充放電制御機器等の補機を格納するため、通常セルの格納スペース効率は50%程度となる。この空間へのセルの積載効率が電気自動車の航続距離を支配する因子となる。単セルのサイズが小さくなると上記積載効率が損なわれるため、航続距離を確保できなくなる。
したがって、本発明において、発電要素を外装体で覆った電池構造体は大型であることが好ましい。具体的には、ラミネートセル電池の短辺の長さが100mm以上であることが好ましい。かような大型の電池は、車両用途に用いることができる。ここで、ラミネートセル電池の短辺の長さとは、最も長さが短い辺を指す。短辺の長さの上限は特に限定されるものではないが、通常400mm以下である。
[体積エネルギー密度および定格放電容量]
一般的な電気自動車では、一回の充電による走行距離(航続距離)をいかに長くするかが重要な開発目標である。かような点を考慮すると、電池の体積エネルギー密度は157Wh/L以上であることが好ましく、かつ定格容量は20Wh以上であることが好ましい。
また、電極の物理的な大きさの観点とは異なる、大型化電池の観点として、電池面積や電池容量の関係から電池の大型化を規定することもできる。例えば、扁平積層型ラミネート電池の場合には、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比の値が5cm2/Ah以上であり、かつ、定格容量が3Ah以上である電池に対して本発明が適用されることが好ましい。さらに、矩形状の電極のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をかような範囲とすることで、車両要求性能と搭載スペースを両立できるという利点がある。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成したものである。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
[車両]
本形態の非水電解質二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、「部」は特に断りのない限り、「質量部」を意味する。また、正極活物質層用スラリーおよび負極活物質層用スラリーの調製からリチウムイオン二次電池の作製までの工程は、ドライルーム内にて実施した。
≪リチウムイオン二次電池の作製≫
(実施例1)
<活物質被覆用樹脂溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、酢酸エチル83部とメタノール17部とを仕込み68℃に昇温した。
次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部、酢酸エチル52.1部およびメタノール10.7部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.263部を酢酸エチル34.2部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.583部を酢酸エチル26部に溶解した開始剤溶液を、滴下ロートを用いて2時間かけて連続的に追加した。さらに、沸点で重合を4時間継続した。溶媒を除去し、樹脂582部を得た後、イソプロパノールを1,360部加えて、樹脂固形分濃度30質量%のビニル樹脂からなる活物質被覆用樹脂溶液を得た。
<被覆負極活物質の作製>
難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F))88.4部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、上記で得られた活物質被覆用樹脂溶液(樹脂固形分濃度30質量%)を樹脂固形分として10部になるように60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]1.6部を3回に分けて混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持し、被覆負極活物質を得た。なお、被覆負極活物質がコア-シェル構造を有していると考えると、コアとしての難黒鉛化性炭素粉末の平均粒子径は9μmであった。また、被覆負極活物質100質量%に対する、被覆剤の固形分量は1.6質量%であった。
<被覆正極活物質の作製>
ニッケル・アルミ・コバルト酸リチウム(NCA)(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製)140.0部を万能混合機に入れ、室温、15m/sで撹拌した状態で、上記で得られた活物質被覆用樹脂溶液(樹脂固形分濃度30質量%)0.48部にジメチルホルムアミド14.6部を追加混合した溶液を3分かけて滴下混合し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]8.6部を混合し、60分撹拌したままで140℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し5時間保持し、被覆正極活物質を得た。なお、被覆正極活物質がコア-シェル構造を有していると考えると、コアとしてのニッケル・アルミ・コバルト酸リチウム粉末の平均粒子径は6μmであった。また、被覆正極活物質100質量%に対する、被覆剤の固形分量は0.1質量%であった。
<電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)に、Li[(FSO2)2N](LiFSI)を2mol/Lの割合で溶解させて、電解液を得た。
<負極活物質スラリーの調製>
上記で得た被覆負極活物質から、平均粒子径(D50)20μmのものを616部取り分け、平均粒子径(D50)5μmのものを264部取り分け、これに導電部材としての炭素繊維(大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm)76.5部を添加し、120℃、100mmHgの減圧下で16時間乾燥させ、含有水分の除去を行った。
次に、ドライルーム中で、上記の乾燥済みの材料に、上記で得た電解液637.7部を添加した。この混合物を、混合撹拌機(DALTON社製、5DM-r型(プラネタリーミキサー))を用いて、自転:63rpm、公転:107rpmの回転数で30分撹拌することにより、固練りを実施した。
その後、上記で得た電解液638.9gをさらに添加し、上記と同様の混合撹拌機を用いて、自転:63rpm、公転:107rpmの回転数で10分×3回撹拌することにより、固練りを実施した。このようにして、負極活物質スラリーを得た。なお、このようにして得られた負極活物質スラリーの固形分濃度は41質量%であった。
<正極活物質スラリーの調製>
上記で得た被覆正極活物質1543.5部に導電部材としての炭素繊維(大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm)31.5部を添加し、120℃、100mmHgの減圧下で16時間乾燥させ、含有水分の除去を行った。
次に、ドライルーム中で、上記の乾燥済みの材料に、上記で得た電解液393.8部を添加した。この混合物を、混合撹拌機(DALTON社製、5DM-r型(プラネタリーミキサー))を用いて、自転:63rpm、公転:107rpmの回転数で30分撹拌することにより、固練りを実施した。
その後、上記で得た混合物に電解液417.6部をさらに添加し、上記と同様の混合撹拌機を用いて、自転:63rpm、公転:107rpmの回転数で10分×3回撹拌することにより、攪拌希釈を実施した。このようにして、正極活物質スラリーを得た。なお、このようにして得られた正極活物質スラリーの固形分濃度は66質量%であった。
<樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー(株)製](B-1)75質量%、アセチレンブラック(AB)(デンカブラック(登録商標)NH-100)20質量%、樹脂集電体用分散剤(A)として変性ポリオレフィン樹脂(三洋化成工業(株)製ユーメックス(登録商標)1001)5質量%を180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練して樹脂集電体用材料を得た。得られた樹脂集電体用材料を、押し出し成形することで、厚み90μmの樹脂集電体(20%AB-PP)を得た。
<電極の作製>
上記で得られた樹脂集電体の一方の面に、上記で得られた負極活物質スラリーまたは正極活物質スラリーをそれぞれ塗工し、プレス処理を施して、樹脂集電体上に負極活物質層または正極活物質層がそれぞれ配置されてなる負極および正極を作製した。この際、正極活物質層の塗工部よりも負極活物質層の塗工部が一回り大きく形成されるように上記スラリーの塗工を行った。具体的に、正極活物質層の塗工部のサイズは100mm×100mmであり、負極活物質層の塗工部のサイズは120mm×120mmであった。また、正極樹脂集電体には、正極活物質スラリーの塗工前に、当該集電体の周縁部の全周にわたって、図2に示すようにイオン透過抑制層として機能するポリプロピレン製粘着テープ35(日東電工株式会社製、NO3703DF、厚み55μm)を貼り付けた。なお、イオン透過抑制層(ポリプロピレン製粘着テープ)が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmとなるようにした。
<単セル(リチウムイオン二次電池)の作製>
次に、上記で得られた正極および負極を、セパレータ(セルガード社製、#3501、厚さ25μm、サイズ135mm×135mm)を介して積層した。そして、正極樹脂集電体の表面にリード付き正極集電板(アルミニウム箔)を配置し、負極樹脂集電体の表面にリード付き負極集電体(銅箔)を配置して、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。この際、負極活物質層の周縁部には、全周にわたって、図2に示すように正極活物質層と対向しない領域(非対向領域)を設けた。この非対向領域の幅(図2に示す距離L1)は10mmであった。なお、セパレータには上記で調製した電解液を保持させた。また、正極の樹脂集電体の周縁部と負極の樹脂集電体の周縁部との間には、図1および図2に示すようにシール部31を配置した。このシール部31には、ポリエチレンナフタレート(PEN)の枠材を用い、ヒートシールフィルを介して形成した。
(実施例2)
イオン透過抑制層として、ポリプロピレン製粘着テープに代えてカプトン(登録商標)粘着テープ(厚み50μm)を貼り付けたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。なお、イオン透過抑制層(カプトン(登録商標)粘着テープ)が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって2mmとなるようにした。
(実施例3)
イオン透過抑制層として、ポリプロピレン製粘着テープに代えてポリプロピレンフィルム(厚み100μm)を、プライマーを使用して接着剤(アロンアルファ(登録商標))により貼り付けたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
(実施例4)
イオン透過抑制層として、ポリプロピレン製粘着テープに代えて、正極活物質層と同程度の厚みを有するポリプロピレン製のイオン遮断体を貼り付けたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。このようにイオン透過抑制層と正極活物質層との厚みを揃えることで、積層構造を安定させることが可能となる。なお、イオン透過抑制層(ポリプロピレン製のイオン遮断体)が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって0mmとなる(つまり、正極活物質の外周端部とイオン透過抑制層の端部とが重複せず隣接する)ようにした。
(実施例5)
イオン透過抑制層として、ポリプロピレン製粘着テープに代えてカーボンでコートされたアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製、Ranafoil TYPE-CB、厚み20μm)を貼り付けたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。なお、イオン透過抑制層(カーボンでコートされたアルミニウム箔)が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって10mmとなるようにした。
(実施例6)
イオン透過抑制層に代えて、正極樹脂集電体の周縁部の全周にわたって、図3に示すように電子透過抑制層として機能するカプトン(登録商標)粘着テープ37(厚み50μm)を貼り付けたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。なお、電子透過抑制層(カプトン(登録商標)粘着テープ)が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図3に示す距離L3)は、当該集電体の周縁部の全周にわたって3mmとなるようにした。
(比較例1)
イオン透過抑制層35としてのポリプロピレン製粘着テープを配置しなかったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
(比較例2)
イオン透過抑制層35が発電要素の積層方向から見て正極活物質層の外周端部と重複する領域の幅(図2に示す距離L2)が、当該集電体の周縁部の全周にわたって-1mmとなる(つまり、正極活物質の外周端部とイオン透過抑制層の端部とが重複せず1mmの幅を空けて離隔する)ようにしたこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、単セル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
≪リチウムイオン二次電池の評価≫
(単セル(リチウムイオン二次電池)の初回充放電)
上記で作製した単セル(リチウムイオン二次電池)を45℃に設定した恒温槽(エスペック社製、PFU-3K)の内部に載置して調温し、その状態で充放電装置(北斗電工社製、HJ0501SM8A)を用いて当該単セルに対して充電処理を施した。なお、この充電処理では、充電電流を0.05Cとし、CCCV充電(定電流・定電圧モード)にて終止電圧4.2Vまで充電を行った。その後、終止電圧2.5Vまで0.05Cでの定電流放電を行った。
(単セル(リチウムイオン二次電池)の耐久性の評価)
上記で初回充放電を行った単セルに対し、初回充放電と同様の充放電条件でさらに99サイクルの充放電処理を行い、合計100サイクルの充放電処理を行った。その後、正極樹脂集電体の劣化とそれに伴う液絡の発生の有無を目視で確認した。その結果、実施例1~6においては正極樹脂集電体の劣化およびそれに伴う液絡の発生は確認されなかった。一方、比較例1および比較例2においては、正極樹脂集電体が著しく劣化し、これに伴って単セルに液絡が発生したことが確認された。