JP7152977B2 - アルミニウム合金 - Google Patents

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Description

本発明は、ダイカスト鋳造用原料またはダイカスト鋳物に適したアルミニウム合金(単に「Al合金」という。)等に関する。
近年、軽量化の要請からAl合金が多用されている。量産されるAl合金製品(部材)の多くはダイカスト鋳物である。ダイカスト鋳物を用いれば、切削加工等を大幅に削減しつつ、高精度な製品を短いサイクルタイムで製造可能となる。
ところで、ダイカスト鋳物(単に「鋳物」ともいう。)の大部分は、Al-Si-Cu系合金(特にJIS ADC12)からなる。このAl合金は、不純物元素(Fe等)の許容範囲が広く、鋳造性に優れるため汎用されている。しかし、そのAl合金は、延性または靱性が小さいため、高靱性、高延性が要求される構造部品(例えば、自動車の足回り部品(ホイール、サスペンション部材等)、車体等)への適用は難しい。
そこで、延性に優れたダイカスト用Al合金が種々提案されており、例えば、下記の文献に関連した記載がある。
特開平5-263174号公報 特開平1-283336号公報
渡邊修一郎 素形材 VOL.50 (2009) No.9 23-29 アルミニウム新材料による新たな用途
非特許文献1は、高い伸びを有する3種のダイカスト用Al合金(Al―Si―Mg系合金、Al―Si―Mn系合金、Al―Mg―Si系合金、)を紹介している。しかし、それらのAl合金は、いずれも、Fe量が0.15%または0.2%であり、Feの許容範囲が厳しく規制されている。このため、それらのAl合金は、高品質な一次アルミニウム地金をベースに調製されることが前提となっている。つまり、そのようなAl合金では、二次アルミニウム地金(再生地金)の活用が図れず、リサイクル性が乏しい。
特許文献1、2のダイカスト用Al合金は、Feの許容範囲が広く、再生地金を利用した調製が可能である。しかし、それらのAl合金は、伸びが十分ではなく、所望の機械的性質を確保するために熱処理(溶体化処理、時効処理等)を必要としている。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる組成からなり、機械的性質に優れるAl合金等を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、V、ZrおよびTiを複合添加することにより、Feの許容範囲を確保しつつも、十分な伸びを発揮するAl合金を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《アルミニウム合金》
(1)本発明は、全体を100質量%(単に「%」という。)として、下記の組成を満たすアルミニウム合金である。
Si:7~10%、
Fe:0.3~0.9%、
V :0.05~0.3%、
Zr:0.05~0.3%、
Ti:0.05~0.3%、
残部:Alおよび不純物
(2)本発明のAl合金を用いれば、例えば、機械的性質(特に延性)に優れたダイカスト鋳物(単に「鋳物」ともいう。)を得ることができる。また本発明のAl合金は、Feの許容範囲が広いため、二次Al合金(「再生地金」ともいう。)等の再生原料の活用が可能となり、リサイクル性にも優れる。さらに、本発明のAl合金はFeを含むため、ダイカスト鋳造時の耐焼付き性にも優れる。なお、本発明のAl合金は、Siを多く含むAl―Si系合金であり鋳造性(溶湯補給性等)に優れる。従って本発明のAl合金を用いれば、充填不良や凝固割れ等を抑止しつつ、複雑な形状のダイカスト鋳物でも安定した品質を確保できる。
本発明のAl合金が機械的性質(特に高延性)を発現する理由は、現状、次のように考えられる。本発明のAl合金中に含まれるTi、VおよびZrは、相乗的に作用して、初晶Al(α―Al/基地相)の結晶粒を微細化させると共に、その結晶粒の外周部に共晶SiとFeを含む化合物(「Fe系化合物」という。)を微細かつ均一的に分散(単に「微細均一分散」ともいう。)させ得る。換言すると、一般的にAl合金の延性を低下させる粗大な針状のFe系化合物(例えば、AlSiFe系化合物)の晶出や偏在が回避される。そして、晶出化合物が微細均一分散された結果、例えば、第2相粒子(Fe系化合物等)を選択的に亀裂伝播する破壊形態において、亀裂伝播抵抗が大きくなり、Al合金の延性や靱性が大幅に高まったと考えられる。
なお、本発明のAl合金は、共晶Siが微細に晶出したり、Ti、V、Zr、Siの少なくとも一部がα―Al中に固溶することにより、優れた強度(引張強さ、0.2%耐力等)も発揮し得るようになったと考えられる。
いずれにしても本発明のAl合金は、必須元素(Ti、V、Zr、Si、Fe)が相乗的に作用することにより、鋳造性を確保しつつ、優れた機械的性質を発揮するようになったと考えられる。
《ダイカスト鋳物/ダイカスト鋳造用原料/ダイカスト鋳造方法》
(1)本発明のAl合金は、例えば、ダイカスト鋳造用原料またはダイカスト鋳物として把握される。また本発明は、例えば、そのダイカスト鋳造用原料を溶解した溶湯を、金型のキャビティへ加圧注湯(射出)して凝固させることにより、ダイカスト鋳物を得るダイカスト鋳造方法(製造方法)としても把握される。
本発明の鋳物は、熱処理(溶体化処理、時効処理等)されたものでもよい。但し、本発明のAl合金は、熱処理するまでも無く、優れた機械的性質を発揮し得る。
(2)本発明の鋳物は、例えば、10%以上、11%以上さらには13%以上の破断伸び(単に「伸び」ともいう。)を発揮し得る。また、その0.2%耐力(単に「耐力」ともいう。)は、120MPa以上、130MPa以上さらには140MPa以上ともなり得る。さらに本発明の鋳物は、3点曲げ試験(支点間距離L=30mm)したときのたわみ量が、3mm以上、3.3mm以上さらには3.6mm以上となり得る。
本明細書では、特に断らない限り、Al合金の延性(または靱性)の代表的な指標として「破断伸び(%)」を用いる。また、Al合金の機械的強度の代表的な指標として「0.2%耐力(MPa)」を用いる。本明細書でいう各機械的性質は、特に断らない限り、JIS規格(JIS Z2201)に準拠した試験等から定まるものとする。
《その他》
(1)本明細書でいう不純物には、Al、Si、Fe、V、ZrおよびTi(これらを適宜「必須元素」という。)以外の1種以上の元素が含まれる。不純物量は、所望する機械的性質や鋳造性が阻害されない範囲であればよい。不純物は、例えば、1元素あたり0.5%以下、0.3%以下さらには0.1%以下であるとよい。不純物元素の合計量は、2%以下、1%以下さらには0.5%以下であるとよい。
再生原料の利用を想定すれば、種々の不純物元素の混入があり得る。そのような不純物は、必ずしもAl合金の特性(鋳造性、延性等)を劣化させるものとは限らない。従って本明細書では、Al合金の特性を劣化させるものに限らず、その特性を維持さらには向上させ得る元素であっても、必須元素以外の元素であれば不純物として扱う。
このため、本明細書でいう不純物には、意図的に除外または排除しない元素も含まれ得る。つまり本明細書でいう不純物は、不可避な不純物か否かをとわない。従って、再生原料の利用も想定した本発明のAl合金では、混入の経緯を問わず、必須元素以外の元素が微量または少量含まれ得る。
(2)本明細書でいうリサイクル性は、本発明のAl合金(原料や溶湯)を調製するときにおける再生原料の利用可能性である。本発明のAl合金鋳物がスクラップとなったときの再生可能性は問わない。
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
各試料の鋳造組織を示す写真である。 試料1と試料C4の鋳造組織をEPMAで観察して得られた元素分布を示す写真である。 ダイカスト鋳物の概観写真と、そのダイカスト鋳物から切り出した引張試験片の正面図である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、Al合金のみならず、鋳物、鋳造原料、鋳造方法にも適宜該当する。方法に関する構成要素は、物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《Al合金》
本発明のAl合金は、Alの他に、Si、Fe、V、ZrおよびTiを必須の合金元素として含む。以下、各合金元素とその含有量(濃度)について詳述する。なお、本明細書でいう合金組成は、特に断らない限り、Al合金(鋳物/原料/溶湯)全体に対する質量割合であり、単に「%」で示す。
Siは、鋳造性(湯流れ性、溶湯補給性、耐引け性等)と機械的性質に影響を及ぼす。Siが過少であると、鋳造性の低下、引け量の増加、鋳物内部における鋳造欠陥の発生等が生じ得る。Siが過多になると、脆弱なSi粒子の晶出量が増加して、鋳物の機械的性質(伸び、強度等)が低下し得る。そこでSiは、7~10%、7.5~9.5%さらには8~9%とするとよい。
Feは、リサイクル性、鋳造性(特に耐焼き付き性)、機械的性質に影響を及ぼす。Feの下限値を過小にすると、再生地金等の利用が制限され、リサイクル性が低下し得る。またFeが過少であると、鋳造時の耐焼き付き性も低下して、金型寿命や鋳物品質が低下し得る。Feが過多になると、脆弱で粗大なAlSiFe系化合物の晶出量が増加して、鋳物の機械的性質(伸び、強度等)が低下し得る。そこでFeは、0.3~0.9%、0.4~0.85%さらには0.45~0.7%とするとよい。
Vは、AlSiFe系化合物を微細なAlSi(Fe、V)系化合物(Fe系化合物の一種)等として、α―Alの外周部に均一的に晶出させ、延性を高め得る。またVの一部は、初晶Al(Al基地)を固溶強化する。Vが過少であると、粗大なAlSiFe系化合物の晶出により、鋳物の延性が低下し得る。Vが過多であると、粗大なV系化合物が晶出して、鋳物の延性が低下し得る。そこでVは、0.05~0.3%、0.08~0.2%さらには0.1~0.17%とするとよい。
Tiは、初晶Al(α-Al)の結晶粒を微細化させることにより、他の晶出物(共晶Si、Fe系化合物等)も微細化させて、延性を高める。またTiの多くは、Al基地を固溶強化する。Tiが過少であると、結晶粒の微細化が不十分となる。特に、鋳型からの指向性が強い場合、柱状晶が発達し易くなり、機械的性質(特に伸び)が低下し得る。Tiが過多であると、鋳造組織中に粗大なTi化合物が晶出し易くなり、機械的性質(特に伸び)が低下し得る。そこでTiは、0.05~0.3%、0.08~0.2%さらには0.1~0.17%とするとよい。
Zrは、初晶Alの結晶粒を微細化させ、Fe系化合物等を等方的に晶出させる。またZrの一部もAl基地を固溶強化する。こうしてZrもAl合金の機械的性質(伸び、強度)の向上に寄与する。Zrが過少であると、結晶粒の微細化が不十分となる。特に、鋳型からの指向性が強い場合、柱状晶が発達し易くなり、機械的性質が低下し得る。Zrが過多であると、鋳造組織中に粗大なZr化合物が晶出し易くなり、機械的性質(特に伸び)が低下し得る。そこでZrは、0.05~0.3%、0.08~0.25%さらには0.1~0.2%とするとよい。
不純物を構成する元素として、例えば、Mn、Cr、Sr、Na、Ca、Sb、B、Be、Cu、Mg、Zn、Ni、Pb、Sn等がある。これらの元素は、Al基地(α―Al)中に固溶していてもよいし、晶出または析出して化合物を形成してもよい。なお、本明細書では、必須元素(Al、Si、Fe、V、ZrおよびTi)以外の元素を不純物元素という。
不純物元素の一例としてMnがある。少量のMnは、Feと同様に、金型に対する耐焼き付き性を向上させ得る。また、少量のMnは、Al基地中に固溶したり、Alと化合物(AlMn等)を生成して、Al合金の強度を向上させ得る。このようなMnは、例えば、0.35%以下(未満)、さらには0.3%以下(未満)であるとよい。Mnが過多になると、Fe化合物の晶出時期が早まることで、AlSi(Fe、Mn)の化合物として粗大化し、Al合金の機械的性質(延性、強度)が低下し得る。勿論、Mnは不純物であるため、実質的に含まれなくてもよい。例えば、Mn<0.1さらには検出限界以下でもよい。
不純物元素の他例としてCrがある。少量のCrも、Al基地中に固溶して、Al合金の強度を向上させ得る。このようなCrも0.35%以下(未満)、さらには0.3%以下(未満)であるとよい。Crが過多になると、Fe化合物の晶出時期が早まることで、AlSi(Fe、Cr、Mn)の化合物として粗大化し、Al合金の機械的性質(延性、強度)が低下し得る。勿論、Crは不純物であるため、実質的に含まれなくてもよい。例えば、Cr<0.1さらには検出限界以下でもよい。
なお、Mnは、一般的に不純物元素とされているFeの除去(濃度低減)、機械的性質の向上等を目的として、Al合金(再生地金の原料となるスクラップ)中に含まれていることも多い。また、Mnは鉄鋼材料の五元素の一つであるため、再生Al合金中に混入し易い元素でもある。Crは、Crメッキ、ステンレス鋼(SUS)等に多く含まれ、原料となるスクラップに混入する可能性が高く、再生Al合金中に混入し易い元素である。
このようなMnとCrの少なくとも一方がAl合金中に含まれる場合、Al合金全体中におけるFe、MnおよびCrの各組成(濃度/質量%)が、Fe(%)+2×Mn(%)+2×Cr(%)(この計算値を「指標値」という。)が1(%)以下、0.9%以下さらには0.85%以下であるとよい。指標値はFe化合物の粗大化のしにくさを示している。指標値が過大になると、粗大な化合物が晶出して、Al合金の機械的性質(特に延性)の低下が顕著となる。なお、指標値の下限値はFeの下限値となる。
《鋳造方法》
本発明のAl合金は、一般的な鋳造方法(砂型鋳造、金型鋳造等)に用いることもできるが、特にダイカスト鋳造に好適である。また、本発明のAl合金はFeの許容範囲が広いため、リサイクルした原料(再生地金等)の利用、活用を促す。再生原料を用いると、機械的性質に優れるダイカスト鋳物の製造コスト低減が可能となる。
ダイカスト鋳造は、一般的に、セットされた金型のキャビティへ、プランジャ等でAl合金の溶湯を加圧しつつ供給した後(注湯工程)、急冷凝固(凝固工程)される。このようなダイカスト鋳造は、例えば、射出速度:0.1~5m/secさらには0.2~2m/sec、鋳造圧力:10~100MPaさらには20~80MPa、射出温度:Al合金の液相線温度+60~140℃さらには80~120℃としてなされる。冷却速度は、部位により異なるため一律には特定できないが、例えば、20℃/sec以上さらには50℃/sec以上となる。
《用途》
本発明のAl合金(鋳物)は機械的性質(特に延性、靱性)に優れるため、強度と共に高延性または高靱性が要求される種々の製品や部材に適している。例えば、車両(自動車、二輪車)の骨格部分(ボディ、シャシ等)、サスペンションメンバー、ホイール、ジョイント、サスペンションタワー、ピラー等は、本発明の鋳物により構成され得る。
組成の異なるAl合金からなる試料(ダイカスト鋳物)を製作し、各試料について、金属組織(鋳造組織)の観察と機械的性質の測定を行った。このような具体例に基づいて、本発明をさらに詳しく説明する。
《試料の製造》
表1に示す多数の試料(ダイカスト鋳物)をダイカスト鋳造により製造した。ダイカスト鋳造は、縦型ダイカスト機を用いて行った。所望組成に調製した溶湯をプランジャ(φ40mm)で金型のキャビティへ加圧注入後(注入工程)、凝固させた(凝固工程)。鋳造条件は、鋳造圧力:65MPa、射出(プランジャ)速度:低速0.2m/s、高速1.0m/s、射出(溶解)温度:液相線温度+100℃、金型温度:室温、型開き時間:4sとした。このときの冷却速度は約200~400℃/sとなる。こうして、図3に示す板状(200mm×40mm×t3~5mm)のダイカスト鋳物(単に「鋳物」という。)を得た。各鋳物から、引張試験片(図3参照)、曲げ試験片、硬さ試験片を切り出した。また、各鋳物から金属組織を観察する観察片も切り出した。
なお、各溶湯の調製には、市販されている高純度な原料を用いた。具体的には、純Al(純度99.7%以上)、純Si(純度99.7%以上)、各種のAl合金(Al-10%Fe、Al-10%Mn、Al-10%Cr、Al-10%Ti、Al-10%Zr、Al-5%V)を原料として用いた。表1に示した合金組成は、各原料を秤量したときの配合組成であり、Al合金全体に対する質量割合(質量%/単に「%」で示す。)である。
《組織観察》
各試料の観察片を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍に拡大して観察した。得られた金属組織(SEM像)を図1に対比して示した。また、試料1と試料C4の金属組織をEPMAで分析した。得られた元素分布(EPMA像)を図2にまとめて示した。
さらに、各試料のSEM像を画像処理(解析ソフト:株式会社ニレコ製ルーゼックス)して、金属組織に現れている化合物(主にFe系化合物)の最大長(平均値)を算出した。その最大長が10μm未満のときは○、10~20μmのときは△、20μm超のときは×、として表1に併せて示した。
《機械的性質》
(1)引張試験
各試料の引張試験片を用いて、引張圧縮試験装置(ミネベアミツミ株式会社製)により引張試験を行った。引張試験は、クロスヘッド速度:0.5mm/min、試験温度:室温で行った。0.2%耐力は、歪みゲージを用いて求めた。破断伸びは、つき合せ法により求めた。
(2)硬さ
各試料の硬さ(HV1)をビッカース硬度計により測定した。測定は、室温下で、試験荷重:1kgfとして行った。
(3)たわみ量
各試料の曲げ試験片(10mm×70mm×t3mm)を用いて3点曲げ試験(支点間距離L=30mm)を行った。各試料について、曲げ試験片に亀裂が発生したときのたわみ量を表1にまとめて示した。こうして求めたたわみ量も、Al合金(鋳物)の延性を評価する一指標とした。なお、機械的性質の測定はいずれもJISに準拠して行った。
《評価》
(1)リサイクル性
表1から明らかなように、Fe量が少ない試料C1は、Vを含まなくても優れた機械的性質を発揮した。しかし、試料C1のようなAl合金は、Feの許容範囲が狭く、再生原料を利用した製造が困難であり、リサイクル性が劣る。一方、試料1~4はFeを0.3~0.9%含み、いずれも機械的性質に優れる。従って、試料1~4のAl合金は、再生原料を利用した調製可能であり、リサイクル性に優れる。
(2)機械的性質
試料C1に対して、実質的にFeだけを約0.5%にした試料C2は、Feの増量により延性(破断伸び等)が急減した。一方、試料1~4は、Feを0.3~0.9%含むが、V、ZrおよびTiが複合添加されているために、優れた機械的性質を発揮した。
試料1、2と試料C3、C4の比較から、Fe量がほぼ同じでも、VまたはZrの少なくとも一方が含まれていないと、硬さが小さくなる傾向にあった。この理由は、Ti、ZrおよびVによるα―Al中への固溶強化が不十分なためと考えられる。
試料4と試料C5~C8の比較から、V、Fe、Mn、Crのいずれか一つでも過多になれば、延性(たわみ量等)が大幅に低下することがわかった。また、それら試料の比較から、不純物に関する指標値(Fe%+2×Mn%+2×Cr%)が1超になると、たわみ量が3mm未満となり、延性が低下することもわかった。
(3)金属組織
図1と図2から明らかなように、V、ZrおよびTiを共に含む試料1は、Feが多いにも拘わらず、α―Al(基地相)の外周部に、共晶SiとFe系化合物が、微細かつ均一的に分散した金属組織となった。また試料1の金属組織では、VもFeと同様な分布を示した。このため、試料1のFe系化合物は、Vにより微細化されることがわかった。また、Tiはα―Al内に比較的多く分布(固溶)することもわかった。
Vを含まない試料C4は、粗大なα―Alの外周部に、粗大なFe系化合物が偏在した金属組織となった。また、Tiの殆どは、α―Al内に分布(固溶)し、Fe系化合物の微細化にはあまり寄与していないと考えられる。
Vを過剰に含む試料C5は、粗大なV系化合物が晶出した金属組織となった。Feを過剰に含む試料C6は、粗大な針状のFe系化合物が晶出した金属組織となった。
《考察》
V、ZrおよびTiを含むAl合金(鋳物)が、上述したような金属組織となった理由は次のように考えられる。
一般的に、平衡分配係数(k=CS/CL、CS:固相線濃度、CL:液相線濃度、k≧1)が大きいTi(k=10.4)、Zr(k=4.4)またはV(k=3.0)を含むAl合金では、凝固過程で包晶反応が進行する。このとき、α―Alに対するV、Zr、Tiの各溶質濃度はいずれも、α―Al内部で高く、α―Alの外周部に向かって低くなるといわれている。
しかし、図2に示すEPMA像からもわかるように、試料1等のAl合金の場合、Tiはα―Al内で濃化するものの、VとZrはα―Alの外周部で濃化した。つまり、V、Zrは、その一部がα―Al内に固溶するとしても、その大部分はα―Alの外周部へ排出された。このように、従来の技術常識とは異なるV、Zrの新たな挙動により、Fe系化合物は、α―Alの外周部に微細に分散するようになったと考えられる。
Figure 0007152977000001

Claims (4)

  1. 全体を100質量%(単に「%」という。)として、下記の組成を満たすアルミニウム合金。
    Si:7~10%、
    Fe:0.3~0.9%、
    V :0.05~0.3%、
    Zr:0.05~0.3%、
    Ti:0.05~0.3%、
    残部:Alおよび不可避不純物
  2. さらに、MnまたはCrの少なくとも一方が含まれ、
    全体に対するFe、MnおよびCrの各質量割合が下式を満たす請求項1に記載のアルミニウム合金。
    Fe(%)+2×Mn(%)+2×Cr(%)≦1(%)
  3. ダイカスト鋳造用原料またはダイカスト鋳物である請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
  4. 前記ダイカスト鋳物は、破断伸びが10%以上で、0.2%耐力が120MPa以上である請求項3に記載のアルミニウム合金。
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