以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡の構成
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子銃10と、照射レンズ系11と、対物レンズ12と、試料ホルダー13と、試料ホルダー駆動装置14と、中間レンズ15と、投影レンズ16と、STEM検出器17と、EDS検出器18と、EDS検出器駆動装置19と、電子顕微鏡本体制御システム20と、EDS制御システム30と、を含む。
電子銃10は、電子線を発生させ、電子線を放出する。電子銃10は、例えば、陰極(エミッタ)から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。
照射レンズ系11は、電子銃10で放出された電子線を収束させる。照射レンズ系11は、図示の例では、3つの収束レンズで構成されているが、3つ以上の収束レンズから構成されていてもよい。電子顕微鏡100は、収束された電子線で試料Sを走査する走査偏向器(図示せず)を有している。これにより、電子顕微鏡100を、走査透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscope、STEM)として機能させることができる。
対物レンズ12は、電子線を試料S上に収束させて、電子プローブを形成する。また、対物レンズ12は、試料Sを透過した電子を結像する。対物レンズ12は、ポールピース
の上極12aと、ポールピースの下極12bと、磁場を発生させるためのコイル12cと、を有している。上極12aと下極12bとの間に強い磁場を発生させることで、電子線を収束させることができる。
試料ホルダー13は、試料室2において試料Sを保持する。試料室2は、電子顕微鏡100の鏡筒内の空間であり、試料Sが保持される空間である。試料ホルダー13は、試料ホルダー駆動装置14によって、水平方向および垂直方向に移動可能である。試料ホルダー駆動装置14によって試料ホルダー13を移動させることで、試料Sの位置(すなわち電子顕微鏡像の視野)を移動させることができる。試料ホルダー13は、通信用ケーブルを介して、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22およびEDSコントローラ32に接続されている。
中間レンズ15および投影レンズ16は、対物レンズ12で拡大された像または回折図形をSTEM検出器17に投影(結像)する。
STEM検出器17は、試料Sを透過した電子を検出する。STEM検出器17は、試料Sを透過した電子(透過電子および散乱電子)を検出する。STEM検出器17の出力信号から電子顕微鏡像(STEM像)を生成することができる。また、電子顕微鏡100は、対物レンズ12で形成された像を撮影するための撮像装置170を備えている。
EDS検出器18は、電子線が試料Sに照射されることにより試料Sから発生するX線(特性X線)を検出する。EDS検出器18は、例えば、シリコンドリフト検出器(Silicon Drift Detector、SDD)を備えた検出器である。
EDS検出器駆動装置19は、EDS検出器18を移動させ、EDS検出器18を位置決めする。EDS検出器駆動装置19は、EDS検出器18を試料室2内に導入する動作、および、EDS検出器18を試料室2の外に退避させる動作を行う。これにより、EDS分析を行うときのみ、EDS検出器18を試料室2に導入することができ、その他の分析を行う際にはEDS検出器18が邪魔にならない。
EDS検出器駆動装置19は、さらに、後述するように、試料室2内において、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器18を移動させるために用いられる。
EDS検出器駆動装置19は、モーターを用いた駆動装置である。なお、EDS検出器駆動装置19は、モーターおよびピエゾ素子を用いた駆動装置であってもよい。
電子顕微鏡本体制御システム20は、電子顕微鏡本体、すなわち、EDS検出器18およびEDS検出器駆動装置19を除いた電子顕微鏡100の各部を制御する。電子顕微鏡本体制御システム20は、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22と、表示部24と、を有している。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、電子顕微鏡本体を制御するための処理を行う。電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)で記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムを実行することにより各種制御を行う。
表示部24は、例えばLCD(liquid crystal display)等である。表示部24には、電子顕微鏡像や、試料ホルダー13の位置および傾斜角度、撮影モード、撮影倍率等の情報が表示される。
EDS制御システム30は、EDS分析を行うためのシステムである。EDS制御システム30は、EDSコントローラ32(制御部の一例)と、EDSアナライザ34と、EDS制御コンピュータ36と、表示部38と、を有している。
EDSコントローラ32は、EDS検出器駆動装置19を制御する。具体的には、EDSコントローラ32は、ユーザーからの指示(導入指示および退避指示)に応じて、EDS検出器18を導入するための制御およびEDS検出器18を退避させるための制御を行う。
例えば、ユーザーがEDSコントローラ32のGUI(Graphical User Interface)の「IN」ボタンを押すと、EDSコントローラ32は、導入指示があったと判断し、EDS検出器18を試料室2に導入するための制御を行う。これにより、EDS検出器18が試料室2に導入される。また、例えば、ユーザーがGUIの「OUT」ボタンを押すと、EDSコントローラ32は、退避指示があったと判断し、EDS検出器18を退避させるための制御を行う。これにより、EDS検出器18が試料室2の外に退避する。
また、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器18が移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。この制御の詳細については、後述する。
EDSコントローラ32の機能は、プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)で記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムを実行することにより実現してもよいし、専用回路により実現してもよい。
EDSアナライザ34は、複数のチャンネルを持った多重波高分析器である。EDSアナライザ34は、EDS検出器18の出力信号をX線のエネルギーごとに計数する。
EDS制御コンピュータ36は、EDSアナライザ34で得られたX線のエネルギーごとの計数値に基づいて、EDSスペクトル(X線スペクトルの一例)を生成する処理を行う。
EDS検出器18にX線が取り込まれると、EDS検出器18内でX線のエネルギーの大きさに応じた電荷が発生し、この電荷が電界効果型トランジスタによって電圧変化に変換される。EDS検出器18の出力信号(出力パルス)は、EDSアナライザ34に送られる。EDSアナライザ34は、複数のチャンネルを持った波高分析器であり、EDS検出器18の出力信号(出力パルス)をX線のエネルギー毎に計数する。EDS制御コンピュータ36は、この計数結果から、EDSスペクトル(横軸にX線のエネルギー、縦軸にX線のカウント数を持ったグラフ)を生成する。
表示部38は、例えばLCD等である。表示部38には、EDS制御コンピュータ36で生成されたEDSスペクトルが表示される。
EDS制御システム30は、電子顕微鏡本体制御システム20と通信して、試料ホルダー13の位置(すなわち、試料Sの位置)の情報などを取得する。
1.2. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。ここでは、EDSコントローラ32が行うEDS検出器18の位置の制御について説明する。
図2~図5は、試料ホルダー13とEDS検出器18との位置関係を模式的に示す図で
ある。なお、図2~図5は、電子銃10側から、EDS検出器18および試料ホルダー13を見た図である。なお、図2~図5では、便宜上、EDS検出器18、EDS検出器駆動装置19、および試料ホルダー13以外の部材の図示を省略している。また、図2~図5には、互いに直交する2つの軸として、X軸およびY軸を図示している。
図2は、試料Sが基準位置O(X=0,Y=0)に位置している状態を図示している。基準位置Oは、電子顕微鏡100の光学系の光軸と試料Sとが交わる位置であり、電子線が照射される位置である。
試料ホルダー13には、試料Sが保持されている。試料Sの直径は、例えば、3mm程度である。試料Sの中心の位置が基準位置Oにある場合に、電子線は試料Sの中心に照射される。試料Sの電子線が照射された領域からはX線が発生する。試料ホルダー13の+X方向には、EDS検出器18が配置されている。EDS検出器18は、試料Sから発生したX線を検出する。なお、X方向は、試料ホルダー13の軸の方向である。試料ホルダー13は、試料ホルダー駆動装置14にX軸に沿って挿入されている。
試料ホルダー13は、試料ホルダー駆動装置14によって、X方向およびY方向に移動可能である。例えば、図2に示す状態では、試料ホルダー13は、+X方向に1mm、-X方向に1mm、+Y方向に1mm、-Y方向に1mm、それぞれ移動可能である。
図3は、試料ホルダー13を-X方向に移動させたときの様子を図示している。図4は、試料ホルダー13を-X方向に移動させたときの、試料ホルダー13とEDS検出器18との位置関係を図示している。
上述したように、電子線は基準位置Oに照射されるため、試料S、すなわち試料ホルダー13を移動させることで、電子線が照射される位置を変更することができる。
ここで、図2に示す状態から、図3に示すように、試料ホルダー13を-X方向に移動させた場合、図2に示す状態と比較して、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離D(最短距離)が大きくなる。そのため、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が-X方向に移動した場合、図4に示すように、EDS検出器18が-X方向に移動するように、EDS検出器駆動装置19を制御する。
すなわち、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13がEDS検出器18から遠ざかる方向に移動した場合には、EDS検出器18が試料ホルダー13に近づく方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。この結果、EDS検出器18におけるX線の検出効率を高めることができる。
EDS検出器18におけるX線の検出効率とは、試料Sから放出されたX線のうち、EDS検出器18で検出されて信号となる割合である。ここで、EDS検出器18は、試料Sの電子線の照射領域(すなわち、X線発生源)との間の距離が小さいほど、X線の検出効率が高くなる。これは、EDS検出器18とX線発生源との間の距離が近いほど、EDS検出器18側からX線発生源を見込む立体角が大きくなるためである。これにより、試料Sから発生したX線をEDS検出器18でより多く捉えることができるため、X線の検出効率が高くなる。
図4に示す状態では、EDS検出器18と基準位置Oとの間の距離は、図3に示す状態と比べて小さい。そのため、図4に示す状態では、図3に示す状態と比べて、X線の検出効率が高い。よって、EDSコントローラ32が、試料ホルダー13がEDS検出器18から遠ざかる方向に移動した場合に、EDS検出器18が試料ホルダー13に近づく方向
に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御することで、X線の検出効率を高めることができる。
図5は、試料ホルダー13を+X方向に移動させたときの、試料ホルダー13とEDS検出器18との位置関係を図示している。
図2に示す状態から、試料ホルダー13を+X方向に移動させた場合、EDSコントローラ32は、EDS検出器18が+X方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。
すなわち、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13がEDS検出器18に近づく方向に移動した場合には、EDS検出器18が試料ホルダー13から遠ざかる方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。この結果、試料ホルダー13とEDS検出器18とが接触してしまうことを防ぐことができる。
EDSコントローラ32は、例えば、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離D(最短距離)が一定となるように、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器駆動装置19を制御する。試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dは、あらかじめ任意の距離に設定される。距離Dを小さく設定することで、X線の検出効率を高めることができる。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置情報を取得し、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器駆動装置19を制御する。試料ホルダー13の位置情報は、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22から取得する。電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、試料ホルダー13を位置決めする試料ホルダー駆動装置14を制御しており、この試料ホルダー駆動装置14の制御情報から、試料ホルダー13の位置情報を取得する。
なお、試料ホルダー13に、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離を計測する計測器(図示せず)が取り付けられている場合、EDSコントローラ32は、この計測器から、試料ホルダー13の位置情報(試料ホルダー13とEDS検出器18との間の相対的な位置情報)を取得してもよい。このような計測器としては、レーザー計測器などを用いることができる。なお、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離を計測する計測器は、EDS検出器18に取り付けられていてもよい。
図2~図5に示す例では、EDS検出器18が、試料ホルダー13の+X方向に位置しているため、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13のX方向の位置情報のみを取得してもよい。
EDSコントローラ32は、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22から試料ホルダー13の種類の情報を取得する。電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、例えば、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22のGUIからユーザーが試料ホルダー13の種類を選択することで試料ホルダー13の種類の情報を取得する。また、例えば、試料ホルダー駆動装置14に試料ホルダー13の種類を特定するための機構を組み込むことで、試料ホルダー13の種類の情報を取得してもよい。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の種類に応じて、EDS検出器駆動装置19を制御する。EDS検出器18と基準位置Oとの間の距離DO(図6参照)は、試料ホルダー13の種類によって異なる。そのため、例えば、図6に示すように、試料ホルダー13の先端部が長い場合には、EDSコントローラ32が、上記した図2~図5に示す試料ホルダー13と同様の制御を行うと、試料ホルダー13とEDS検出器18とが接触
してしまうおそれがある。EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置に加えて試料ホルダー13の種類に基づいて、距離Dがあらかじめ設定された距離となるように、EDS検出器18の移動量および移動方向を計算し、計算された移動量および移動方向に基づいて、EDS検出器駆動装置19を制御する。これにより、様々な種類の試料ホルダー13に対応できる。
なお、電子顕微鏡100において、試料ホルダー13が1つの種類しか用いられない場合には、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の種類の情報を取得しなくてもよく、EDS検出器駆動装置19の制御において試料ホルダー13の種類を考慮しなくてもよい。
図7は、EDSコントローラ32の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
EDSコントローラ32は、まず、試料ホルダー13の種類の情報を取得する(S100)。
次に、EDSコントローラ32は、ユーザーからEDS検出器18を試料室2に導入する指示(導入指示)があったか否かを判定し(S102)、導入指示があるまで待機する(S102のNo)。EDSコントローラ32は、例えば、GUIの「IN」ボタンが押された場合に、導入指示があったと判定する。
EDSコントローラ32は、導入指示があったと判定した場合(S102のYes)、EDS検出器18が試料室2に導入されるようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S103)。この結果、EDS検出器18が試料室2に導入される。試料室2に導入されたEDS検出器18は、試料室2内の導入位置に配置される。EDS検出器18の導入位置は、あらかじめ設定された任意の位置であり、試料ホルダー13の位置によらず、試料ホルダー13とEDS検出器18とが接触しない位置である。
次に、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置情報を取得する処理を開始する(S104)。EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置情報が更新されたタイミングで、試料ホルダー13の位置情報を取得してもよいし、所定の時間間隔で試料ホルダー13の位置情報を取得してもよい。
次に、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置情報および試料ホルダー13の種類の情報に基づいて、EDS検出器駆動装置19を制御する(S106)。具体的には、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置情報および試料ホルダー13の種類の情報に基づいて、距離Dがあらかじめ設定された距離となるようにEDS検出器18の移動量および移動方向を計算し、計算された移動量および移動方向に基づいて、EDS検出器駆動装置19を制御する。
次に、EDSコントローラ32は、ユーザーからEDS検出器18を試料室2の外に退避させる指示(退避指示)があったか否かを判定する(S108)。EDSコントローラ32は、例えば、GUIの「OUT」ボタンが押された場合に退避指示があったと判定する。
EDSコントローラ32は、退避指示がないと判定した場合(S108のNo)、試料ホルダー13が移動したか否か、すなわち、試料ホルダー13の位置情報が更新されたか否かを判定する(S110)。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が移動したと判定した場合(S110の
Yes)、更新された試料ホルダー13の位置情報および試料ホルダー13の種類の情報に基づいて、EDS検出器駆動装置19を制御する(S112)。ステップS112の処理は、ステップS106の処理と同様に行われる。
ステップS112の処理の結果、試料ホルダー13が-X方向に移動した場合には、EDS検出器18も-X方向に移動し、試料ホルダー13が+X方向に移動した場合には、EDS検出器18も+X方向に移動する。これにより、EDS分析を行う際には、EDS検出器18が最適な位置、すなわち、X線の検出効率が高い位置に配置される。
試料ホルダー13が移動していないと判定した場合(S110のNo)、およびEDS検出器駆動装置19を制御する処理の後(S112の後)、ステップS108に戻って、ステップS108、ステップS110、ステップS112の処理を繰り返す。
EDSコントローラ32は、退避指示があったと判定した場合(S108のYes)、EDS検出器18が試料室2の外に退避するようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S113)。この結果、EDS検出器18が試料室2の外に退避する。そして、EDSコントローラ32は、処理を終了する。
1.3. 特徴
電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
電子顕微鏡100では、試料Sを保持する試料ホルダー13と、試料Sに電子線を照射することにより発生するX線を検出するEDS検出器18と、EDS検出器18を移動させるEDS検出器駆動装置19と、EDS検出器駆動装置19を制御するEDSコントローラ32と、を含み、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器18が移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。そのため、電子顕微鏡100では、試料ホルダー13が移動してもEDS検出器18をX線の検出効率が高い位置に移動させることができる。したがって、電子顕微鏡100では、X線の検出効率を高めることができる。
EDS検出器18におけるX線の検出効率は、X線発生源との間の距離に敏感である。例えば、EDS検出器18とX線発生源との間の距離が1mm大きくなると、検出効率が4割近く減少する場合もある。X線の検出効率を高めるためには、数十μm~数百μm程度のわずかな距離であってもEDS検出器18とX線発生源との間の距離を小さくすることが好ましい。電子顕微鏡100では、EDS検出器駆動装置19が、このような微小なEDS検出器18の位置の制御が可能となるように、微小な移動が可能なピエゾ素子やモーターなどを用いて構成されている。
電子顕微鏡100では、ユーザーが試料Sの分析位置を探すために視野を移動させる場合に、試料ホルダー13の移動に伴って、EDS検出器18も移動する。そのため、電子顕微鏡100では、ユーザーが分析位置を決定して試料ホルダー13の位置が決まると、自動で、EDS検出器18がEDS分析に最適な位置に位置する。さらに、試料ホルダー13を移動させて視野を探す際に、試料ホルダー13とEDS検出器18が接触することを防止することができる。
電子顕微鏡100では、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13がEDS検出器18から遠ざかる方向に移動した場合には、EDS検出器18が試料ホルダー13に近づく方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。そのため、試料ホルダー13が移動してもEDS検出器18をX線の検出効率が高い位置に移動させることができる。したがって、電子顕微鏡100では、X線の検出効率を高めることができる。
電子顕微鏡100では、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13がEDS検出器18に近づく方向に移動した場合には、EDS検出器18が試料ホルダー13から遠ざかる方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。そのため、電子顕微鏡100では、試料ホルダー13とEDS検出器18とが接触してしまうことを防ぐことができる。
電子顕微鏡100では、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dが一定となるようにEDS検出器駆動装置19を制御する。そのため、電子顕微鏡100では、試料ホルダー13が移動してもEDS検出器18をX線の検出効率が高い位置に移動させることができる。したがって、電子顕微鏡100では、X線の検出効率を高めることができる。
なお、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dは、EDS分析を行うときに同じ距離となっていればよく、例えば、試料ホルダー13が移動している間は、距離Dが一定でなくてもよい。
電子顕微鏡100では、あらかじめ試料Sの分析位置が複数設定されている場合、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22が、設定された順番で分析位置に電子線が照射されるように試料ホルダー13を移動させる。すなわち、電子顕微鏡100では、自動で複数の分析位置に対するEDS分析が可能である。EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置に応じて、EDS検出器駆動装置19を制御するため、電子顕微鏡100では、各分析位置において、EDS検出器18を最適な位置に配置することができる。このように、電子顕微鏡100では、試料Sの複数の分析位置のEDS分析を自動で行う際にも、X線の検出効率を高めることができる。
1.4. 変形例
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について説明する。図8~図10は、第1実施形態の変形例に係る電子顕微鏡101における、試料ホルダー13と2つのEDS検出器(第1EDS検出器18aおよび第2EDS検出器18b)との位置関係を模式的に示す図である。以下、電子顕微鏡101において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
上述した電子顕微鏡100は、図2に示すように、EDS検出器18と、EDS検出器18を移動させるEDS検出器駆動装置19と、を備えていた。
これに対して、本変形例に係る電子顕微鏡101では、図8~図10に示すように、第1EDS検出器18aと、第2EDS検出器18bと、第1EDS検出器18aを移動させる第1EDS検出器駆動装置19aと、第2EDS検出器18bを移動させる第2EDS検出器駆動装置19bと、を備えている。
第1EDS検出器18aは、試料ホルダー13の+Y方向側に位置し、第2EDS検出器18bは、試料ホルダー13の-Y方向側に位置している。すなわち、試料ホルダー13(試料S)は、第1EDS検出器18aと第2EDS検出器18bとの間に位置している。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13の位置に応じて、第1EDS検出器駆動装置19aおよび第2EDS検出器駆動装置19bを制御する。
図8は、試料Sの中心が基準位置Oに位置している状態での、試料ホルダー13と2つのEDS検出器18a,18bとの位置関係を図示している。図9は、試料ホルダー13を+Y方向に移動させたときの、試料ホルダー13と2つのEDS検出器18a,18bとの位置関係を図示している。図10は、試料ホルダー13を-Y方向に移動させたときの、試料ホルダー13と2つのEDS検出器18a,18bとの位置関係を図示している。
図8に示す状態から、試料ホルダー13を+Y方向に移動させた場合、EDSコントローラ32は、第1EDS検出器18aおよび第2EDS検出器18bが+Y方向に移動するように、EDS検出器駆動装置19を制御する。
また、図8に示す状態から、試料ホルダー13を-Y方向に移動させた場合、EDSコントローラ32は、第1EDS検出器18aおよび第2EDS検出器18bが-Y方向に移動するように、EDS検出器駆動装置19を制御する。
すなわち、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が第1EDS検出器18aから遠ざかる方向に移動した場合には、第1EDS検出器18aが試料ホルダー13に近づく方向に移動するように第1EDS検出器駆動装置19aを制御し、試料ホルダー13が第1EDS検出器18aに近づく方向に移動した場合には、第1EDS検出器18aが試料ホルダー13から遠ざかる方向に移動するように第1EDS検出器駆動装置19aを制御する。EDSコントローラ32は、第2EDS検出器駆動装置19bについても同様の制御を行う。この結果、X線の検出効率を高めることができる。
図8~図10に示す例では、EDSコントローラ32は、第1EDS検出器18aと試料ホルダー13との間の距離D1が一定となるように第1EDS検出器駆動装置19aを制御する。またEDSコントローラ32は、第2EDS検出器18bと試料ホルダー13との間の距離D2が一定となるように第2EDS検出器駆動装置19bを制御する。
なお、第1EDS検出器18aの位置および第2EDS検出器18bの位置は、図8に示す位置に限定されず、第1EDS検出器18aおよび第2EDS検出器18bを任意の位置に配置することができる。例えば、図11に示すように、第1EDS検出器18aを試料ホルダー13の+X方向に配置し、第2EDS検出器18bを試料ホルダー13の-Y方向に配置してもよい。
図11に示す場合、EDSコントローラ32は、第1EDS検出器駆動装置19aを、上述した図2に示すEDS検出器18を移動させるEDS検出器駆動装置19と同様に制御する。すなわち、EDSコントローラ32は、第1EDS検出器18aと試料ホルダー13との間の距離D1が一定となるように第1EDS検出器駆動装置19aを制御する。
また、EDSコントローラ32は、第2EDS検出器駆動装置19bを、上述した図8に示す第2EDS検出器18bを移動させる第2EDS検出器駆動装置19bと同様に制御する。すなわち、EDSコントローラ32は、第2EDS検出器18bと試料ホルダー13との間の距離D2が一定となるように第2EDS検出器駆動装置19bを制御する。
ここで、第2EDS検出器18bを試料ホルダー13に近づけると、第1EDS検出器18aに接触してしまう可能性がある。そのため、EDSコントローラ32は、第2EDS検出器18bが第1EDS検出器18aにあらかじめ設定された距離だけ近づいた場合には、第2EDS検出器18bの移動が停止されるように第2EDS検出器駆動装置19bを制御する。これにより、第1EDS検出器18aと第2EDS検出器18bとが接触してしまうことを防ぐことができる。
なお、図11に示す例において、第1EDS検出器18aのみを移動させて、第2EDS検出器18bを第1EDS検出器18aと接触しない位置に固定してもよい。また、第2EDS検出器18bのみを移動させて、第1EDS検出器18aを第2EDS検出器18bと接触しない位置に固定してもよい。
上記の変形例においても、第1実施形態と同様に、X線の検出効率を高めることができる。なお、上記では、EDS検出器が2つの場合について説明したが、EDS検出器が2つ以上であってもよい。
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡の構成
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、図1および図2に示す第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成と同様であり、その図示および説明を省略する。
2.2. 電子顕微鏡の動作
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。以下では、図1および図2を参照しながら説明する。
上述した第1実施形態では、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dがあらかじめ設定された距離となるように、EDS検出器駆動装置19を制御した。
これに対して、第2実施形態では、EDSコントローラ32は、X線強度が最大となる位置にEDS検出器18が位置するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。
具体的には、EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更してX線強度の情報を取得する処理を繰り返してX線強度が最大となる位置を決定し、X線強度が最大となる位置にEDS検出器18を移動させる。この処理は、分析位置が決定されて試料ホルダー13が位置決めされた状態で行われる。
図12は、第2実施形態に係る電子顕微鏡のEDSコントローラ32の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図13および図14は、試料ホルダー13とEDS検出器18との位置関係を模式的に示す図である。
EDSコントローラ32は、まず、試料ホルダー13の種類の情報を取得する(S200)。ステップS200の処理は、図7に示すステップS100の処理と同様に行われる。
次に、EDSコントローラ32は、ユーザーから導入指示があったか否かを判定し(S202)、導入指示があるまで待機する(S202のNo)。ステップS202の処理は、図7に示すステップS102の処理と同様に行われる。
EDSコントローラ32は、導入指示があったと判定した場合(S202のYes)、EDS検出器18が試料室2に導入されるようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S203)。この結果、EDS検出器18が試料室2に導入される。
EDSコントローラ32は、EDS検出器18が試料室2に導入されると、試料ホルダー13の位置情報を取得する(S204)。
ここで、試料室2に導入されたEDS検出器18は、図13に示すように、試料室2内の導入位置に配置される。図13に示す例では、EDS検出器18の導入位置は、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dが、距離a(D=a)となる位置である。
EDS検出器18が導入位置に配置されると、試料Sに電子線が照射されることにより発生したX線が、EDS検出器18で検出され、EDSアナライザ34およびEDS制御コンピュータ36の処理によりEDSスペクトルが得られる。
EDSコントローラ32は、得られたEDSスペクトルから、導入位置(D=a)におけるX線強度の情報を取得する(S206)。なお、X線強度として用いるエネルギー帯は、適宜設定可能である。
次に、EDSコントローラ32は、EDS検出器18が試料ホルダー13に近づくように、すなわち、EDS検出器18が-X方向に移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S208)。
図14に示す例では、EDSコントローラ32は、EDS検出器18が-X方向に距離bだけ移動するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。この結果、距離Dは、D=a-bとなる。なお、距離bは、適宜設定可能である。
EDS検出器18が-X方向に距離bだけ移動すると、試料Sに電子線が照射されることにより発生したX線が、EDS検出器18で検出され、EDSアナライザ34およびEDS制御コンピュータ36の処理によりEDSスペクトルが得られる。
EDSコントローラ32は、得られたEDSスペクトルから、距離D=a-bにおけるX線強度の情報を取得する(S210)。
次に、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dが所定値となったか否かを判定する(S212)。所定値は、例えば、試料ホルダー13とEDS検出器18とが接触しない限界の距離に設定される。
EDSコントローラ32は、距離Dが所定値になっていないと判定した場合(S212のNo)、ステップS208に戻って、ステップS208、ステップS210、ステップS212の処理を行う。
すなわち、EDSコントローラ32は、EDS検出器18を-X方向に距離bだけ移動させ、その位置でのX線強度の情報を取得し、距離Dが所定値となったか否かを判定する処理を、距離Dが所定値となるまで繰り返し行う。
EDSコントローラ32は、距離Dが所定値となったと判定した場合(S212のYes)、EDS検出器18の最適位置を決定する(S214)。EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更するごとに取得したX線強度の情報から、X線強度が最大となる位置を探してEDS検出器18の最適位置とする。
図15は、試料ホルダー13とEDS検出器18との間の距離Dと、EDS検出器18で検出されるX線強度Iと、の関係の一例を示すグラフである。
図15に示すように、距離Dが小さくなるに従って、すなわち、EDS検出器18がX線発生源に近づくに従ってX線強度Iは大きくなるが、ある距離よりも近づくと、X線強
度Iが減少する場合がある。これは、EDS検出器18が試料ホルダー13の影になってしまう場合があるためである。本実施形態によれば、このようなEDS検出器18におけるX線の検出効率が最大となる最適位置(図15に矢印で示す位置)を見つけることができる。なお、場合によっては、距離Dが小さくなるに従って、X線強度Iが単調に増加し、距離Dが零となるときにX線強度Iが最大となる場合もある。
EDSコントローラ32は、EDS検出器18が、決定した最適位置に位置するようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S216)。この結果、X線強度が最大となる位置でEDS分析を行うことができる。
次に、EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が移動したか否か、すなわち、試料ホルダー13の位置情報が更新されたか否かを判定する(S218)。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が移動したと判定した場合(S218のYes)、ステップS204に戻って、ステップS204、ステップS206、ステップS208、ステップS210、ステップS212、ステップS214、ステップS216、ステップS218の処理を行う。これにより、試料ホルダー13が移動した場合でも、EDS検出器18を最適位置に位置させることができる。
EDSコントローラ32は、試料ホルダー13が移動していないと判定した場合(S218のNo)、ユーザーから退避指示があったか否かを判定する(S220)。
EDSコントローラ32は、退避指示がないと判定した場合(S220のNo)、ステップS218に戻り、試料ホルダー13が移動したか否かを判定する(S218)。
EDSコントローラ32は、退避指示があったと判定した場合(S220のYes)、EDS検出器18が試料室2の外に退避するようにEDS検出器駆動装置19を制御する(S221)。この結果、EDS検出器18が試料室2の外に退避する。そして、EDSコントローラ32は、処理を終了する。
なお、上記では、EDS検出器18を試料ホルダー13に近づけてEDS検出器18の最適位置を見つけたが、最適位置を見つける手法は特に限定されず、例えばEDS検出器18を試料ホルダー13に近づけた状態から遠ざけていくことで最適位置を見つけてもよい。
2.3. 特徴
第2実施形態に係る電子顕微鏡では、EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更してX線強度の情報を取得する処理を繰り返してX線強度が最大となる位置を決定し、X線強度が最大となる位置にEDS検出器18を移動させる。そのため、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、EDS検出器18をX線強度が最大となる位置に配置することができ、X線の検出効率を高めることができる。
2.4. 変形例
第2実施形態に係る電子顕微鏡においても、上述した第1実施形態の変形例を適用可能である。すなわち、第2実施形態に係る電子顕微鏡は、2つのEDS検出器と、2つのEDS検出器駆動装置と、を備えていてもよく、2つのEDS検出器を備えている場合でも、X線の検出効率を高めることができる。
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡の構成
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第3実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、図1および図2に示す第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成と同様であり、その図示および説明を省略する。
3.2. 電子顕微鏡の動作
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。以下では、図1および図2を参照しながら説明する。
上述した第2実施形態では、EDSコントローラ32は、X線強度が最大となる位置にEDS検出器18が位置するようにEDS検出器駆動装置19を制御した。
これに対して、第3実施形態では、EDSコントローラ32は、EDSスペクトルのバックグラウンド強度に対するピーク強度の比(以下「PB比(peak-to-background ratio)」ともいう)が最大となる位置にEDS検出器18が位置するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。
具体的には、EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更してPB比の情報を取得する処理を繰り返してPB比が最大となる位置を決定し、PB比が最大となる位置にEDS検出器18が位置するようにEDS検出器駆動装置19を制御する。
図16は、第3実施形態に係る電子顕微鏡のEDSコントローラ32の処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下、図16に示すフローチャートにおいて、図12に示すフローチャートと同じ処理については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図12に示す第2実施形態では、X線強度の情報を取得した(S206、S210)。これに対して、図16に示す第3実施形態では、PB比の情報を取得する(S306、S310)。
PB比は、得られたEDSスペクトルから、ピーク強度と、バックグラウンドの強度と、を抽出することで得られる。ピーク強度として用いるエネルギー帯およびバックグラウンド強度として用いるエネルギー帯は、適宜設定可能である。
また、図12に示す第2実施形態では、EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更するごとに取得したX線強度の情報から、X線強度が最大となる位置を探してEDS検出器18の最適位置とした(S214)。これに対して、図16に示す第3実施形態では、EDS検出器18の位置を変更するごとに取得したPB比の情報から、PB比が最大となる位置を探してEDS検出器18の最適位置とする(S314)。
3.3. 特徴
第3実施形態に係る電子顕微鏡では、EDSコントローラ32は、EDS検出器18の位置を変更してPB比の情報を取得する処理を繰り返してPB比が最大となる位置を決定し、PB比が最大となる位置にEDS検出器18を移動させる。そのため、第3実施形態に係る電子顕微鏡では、EDS検出器18をPB比が最大となる位置に配置することができ、X線の検出効率を高めることができる。
例えば、EDSスペクトルのバックグラウンドとして、対物レンズ12のポールピースを構成する材料である、鉄(Fe)およびコバルト(Co)が検出される場合がある。そのため、バックグラウンド強度として鉄のピークのエネルギー帯およびコバルトのピークのエネルギー帯を設定することで、EDS分析において、ポールピースを構成する材料の影響を低減できる。
3.4. 変形例
第3実施形態に係る電子顕微鏡においても、上述した第1実施形態の変形例を適用可能である。すなわち、第3実施形態に係る電子顕微鏡は、2つのEDS検出器と、2つのEDS検出器駆動装置と、を備えていてもよく、2つのEDS検出器を備えている場合でも、X線の検出効率を高めることができる。
4. 第4実施形態
4.1. 電子顕微鏡の構成
次に、第4実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第4実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、図1および図2に示す第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成と同様であり、その図示および説明を省略する。
4.2. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡の動作について説明する。EDS検出器18を試料室2に導入して試料ホルダー13の近傍に配置した場合、視野ずれが生じる場合がある。EDS検出器18の一部には絶縁物が用いられており、その絶縁物が帯電する場合がある。このようなEDS検出器18が試料ホルダー13の近傍に配置されると、試料Sに照射される電子線がその影響によりわずかに曲げられて視野のずれが生じる。
第4実施形態に係る電子顕微鏡では、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22(視野補正部の一例)が、EDS検出器18を試料室2に導入することによる視野ずれを補正する処理を行う。
具体的には、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDS検出器18を試料室2に導入する前の電子顕微鏡像と、EDS検出器18を試料室2に導入した後の電子顕微鏡像とを取得し、導入する前の電子顕微鏡像の視野と導入した後の電子顕微鏡像の視野とのずれ量を計算し、計算されたずれ量に基づいて、EDS検出器18を試料室2に導入する前の視野に戻す。
図17は、第4実施形態に係る電子顕微鏡の電子顕微鏡本体制御コンピュータ22の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、ユーザーから導入指示があったか否かを判定し(S400)、導入指示があるまで待機する(S400のNo)。電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDSコントローラ32を介して、導入指示を受け付ける。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、導入指示があったと判定した場合(S400のYes)、電子顕微鏡像の撮影を行うための制御を行い、STEM検出器17または撮像装置170から画像データを受け付けて、電子顕微鏡像を取得する(S402)。この処理で取得した電子顕微鏡像は、EDS検出器18を導入する前の像である。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDS検出器18が試料室2に導入されたことを確認すると(S404)、電子顕微鏡像の撮影を行うための制御を行い、STEM検出器17または撮像装置170から画像データを受け付けて、電子顕微鏡像を取得する(S406)。この処理で取得した電子顕微鏡像は、EDS検出器18を導入した後の像である。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDSコントローラ32からのEDS検出器18の導入が終了したことを示す信号を受け付けてEDS検出器18が導入されたことを
確認する。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDS検出器18を導入する前の電子顕微鏡像の視野と、EDS検出器18を導入した後の電子顕微鏡像の視野と、のずれ量およびずれの方向を計算する(S408)。ずれ量およびずれの方向は、導入する前の電子顕微鏡像と導入した後の電子顕微鏡像の相互相関を計算することで求めることができる。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、計算されたずれ量およびずれの方向に基づいて、電子顕微鏡像の視野を補正する、すなわち、EDS検出器18を導入する前の視野に戻す(S410)。
電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、試料Sに照射される電子線を偏向器(図示せず)で偏向することで視野を移動させてもよいし、試料ホルダー駆動装置14を制御して試料ホルダー13(試料S)を移動させることで視野を移動させてもよい。
以上の処理により、EDS検出器18が導入されたことによる電子顕微鏡像の視野のずれを補正することができる。
4.3. 特徴
第4実施形態に係る電子顕微鏡では、電子顕微鏡本体制御コンピュータ22は、EDS検出器18を導入する前の電子顕微鏡像とEDS検出器18を導入した後の電子顕微鏡像を取得し、EDS検出器18を導入する前の電子顕微鏡像の視野とEDS検出器18を導入した後の電子顕微鏡像の視野とのずれ量を計算し、計算された視野のずれ量に基づいて、EDS検出器18を導入する前の視野に戻す。そのため、EDS分析の位置精度を向上できる。
なお、図17に示す第4実施形態の処理を、上述した図7に示す第1実施形態の処理に組み込むことも可能である。同様に、図17に示す第4実施形態の処理を、上述した図12に示す第2実施形態の処理に組み込むことも可能であり、上述した図16に示す第3実施形態の処理に組み込むことも可能である。
4.4. 変形例
第4実施形態に係る電子顕微鏡においても、上述した第1実施形態の変形例を適用可能である。すなわち、第4実施形態に係る電子顕微鏡は、2つのEDS検出器と、2つのEDS検出器駆動装置と、を備えていてもよく、2つのEDS検出器を備えている場合でも、EDS分析の位置精度を向上できる。
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。