以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。同一の又は対応する要素には、全図を通じて同一の符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。
図1は、走行特性を評価する評価システム1の構成図である。図1に示すように、評価システム1は、評価プログラム50を実行する評価装置、および、評価プログラム50の実行により導出された評価指標を記憶する指標格納領域41を備えた記憶装置を備える。記憶装置は、本実施形態では、車両2の外部に固定設置されたサーバ4によって実現される。なお、本実施形態では、走行評価される車両が自動二輪車2である。
本実施形態では、自動二輪車2の搭乗者、例えば運転者が携帯する携帯情報端末3が評価装置として機能する。携帯情報端末3は、走行特性の評価以外の他の機能を達成可能な汎用製品であって、例えば電話機能やインターネット接続可能な機能を有する。本実施形態では、携帯情報端末3には、走行評価用アプリケーション5が事前にインストールされることで評価装置として機能する。走行評価用アプリケーション5は、評価プログラムを含んで構成される。
携帯情報端末3は、自動二輪車2に搭載されている電装部品、例えばコントローラ21から情報取得可能な端末側インターフェイス35を有する。例えば、インターフェイス35は、電装部品に予め設定される通信規格に対応した通信デバイスを含む。本実施形態では、インターフェイス35は、Bluetooth(登録商標)規格に従った通信デバイスを含む。上述する走行評価用アプリケーション5は、車両部品からの情報取得を可能にするための車両通信用プログラムも含まれる。評価プログラム50は、このアプリケーション5の一部を構成する。
インターフェイス35は、サーバ4に対して相互に情報伝送可能に構成される。具体的には、インターフェイス35は、サーバ4に予め設定される通信規格に対応した通信デバイスを含む。本実施形態では、インターフェイス35は、公衆回線接続可能なモバイルデータ通信規格に従った通信デバイスを含む。上述する走行評価用アプリケーション5は、サーバ4と相互情報伝達を可能にするためのサーバ通信用プログラムも含まれる。
携帯情報端末3は、CPU31、メモリ32、および、ディスプレイ33を有する。メモリ32は、走行評価用アプリケーション5を記憶する。CPU31は、メモリ32から走行評価用アプリケーション5を読み出すことで、評価プログラム50を実行する。また、CPU31は、評価プログラム50の実行のために、インターフェイス35を用いて、車両部品またはサーバ4から情報取得する。CPU31は、評価プログラム50に基づいて導出した評価指標をディスプレイ33に表示させる。これにより、運転者は、自身の走行における評価指標を把握できる。
携帯情報端末3は、CPU31、メモリ32およびディスプレイ33を有する。メモリ32は、走行評価用アプリケーション5を記憶する。CPU31は、メモリ32から走行評価用アプリケーション5を読み出すことで、評価プログラム50を実行する。また、CPU31は、評価プログラム50の実行のために、インターフェイス35を用いて、車両部品またはサーバ4から情報を取得する。CPU31は、評価プログラム50に基づいてどうしゅつした評価指標をディスプレイ33に表示させる。これにより、運転者は、自身の走行における評価指標を把握できる。携帯情報端末3は、その他、GPSセンサ38およびジャイロセンサ39を備えている。
自動二輪車2に搭載されるコントローラ21は、車両を制御する。例えば、コントローラ21は、駆動源であるエンジンを制御するエンジンコントローラ(ECU)が含まれる。エンジンコントローラは、車体に設けられる各種センサから取得した情報に基づいて駆動源を制御する。エンジンコントローラは、各種センサに基づいて推定されるタイヤ力情報に基づいて、エンジンを制御してもよい。自動二輪車2は、タイヤ力を取得するためのセンサの一例として、車体の3軸周りの角速度を検出するジャイロセンサ、車速センサ、前後輪の回転速度センサ、ブレーキ圧センサを備える。なお、コントローラ21は、ジャイロセンサの検出値に基づいて、車体の3軸周りの角度位置あるいは角加速度を測定できる。また、コントローラ21には、ブレーキ、サスペンションなどのエンジン以外のアクチュエータを制御して走行挙動を制御するコントローラが含まれていてもよい。
また、コントローラ21には、計器メータを制御するメータコントローラが含まれる。本実施形態では、メータコントローラは、車両に設けられる各種センサから取得したメータ表示情報をメータである計器に表示する。メータコントローラは、CPU21a、メモリ21bおよびインターフェイス21cを備えている。メータコントローラは、携帯情報端末3に情報伝送可能な車両側インターフェイスとして通信デバイスを含む。車両側の通信デバイスと端末側の通信デバイスとが共通の通信規格に対応する。これにより、互いの通信デバイスを介して車両側の情報と端末側の情報とを相互伝達可能に構成される。また、メータコントローラは、CAN通信規格に従う車載ネットワークに接続される。これによって、メータコントローラは、車載ネットワークに接続される電装部品から与えられる情報についても、携帯情報端末3へ伝送可能となる。具体的には、メータコントローラは、接続される電装部品から与えられ、かつタイヤ力の推定に必要な情報を携帯情報端末3に無線通信可能に構成される。
図2は、実施形態に係る評価方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態では、評価方法は、携帯情報端末3のCPUが評価プログラム50を実行することによって実現される。携帯情報端末3は、携帯情報端末3の操作者により開始指令の入力操作がなされたと判断すると、当該評価プログラム50の実行を開始し、タイヤ力取得工程S10に進む。タイヤ力取得工程S10では、携帯情報端末3は、走行中での所定間隔おきに、車両のタイヤに作用するタイヤ力F(t)を取得する。ここで、「間隔」とは、走行時間の間隔でもよく走行距離の間隔でもよい。後述するようにタイヤ力は、車両に搭載される歪センサを用いて力を直接求めたり、タイヤ力以外を検出する他のセンサ検出値に基づいて幾何学的な運動方程式に基づいて間接的に求めることができる(例えば、タイヤ力を求める幾何学的な運動方程式はWO2018/073912に開示される)。例えば、走行開始から走行終了までの間におけるタイヤ力を所定時間間隔ごとに取得する。携帯情報端末3は、予め定める複数の間隔のタイヤ力を取得すると、指標導出工程S20に進む。
指標導出工程S20では、携帯情報端末3は、取得した複数のタイヤ力から得られる統計的ばらつきに基づいて自動二輪車の走行特性を示す評価指標を求める。なお、具体的な統計的ばらつきに基づく評価指標の導出については、後述する。評価指標を求めると評価出力工程S30に進む。指標出力工程S30では、携帯情報端末は、ディスプレイに評価指標を示す情報を出力表示する。携帯情報端末は、操作者により終了指令の入力操作がなされたと判断すると、当該評価プログラム50を終了する。
タイヤ力は、車輪であるタイヤに対して、路面から作用する力を意味する。路面に沿う方向に対してタイヤに作用する力が、タイヤと路面との間で生じるグリップ限界を越えた場合には、タイヤは路面に対して滑ることになる。タイヤと路面との接触位置に対して、進行方向とその逆方向を合わせて縦方向と称する。縦方向にタイヤに作用する力が、グリップ限界を越えると、車輪周速が走行速度に対して異なる縦滑り現象が生じる。縦滑り現象は、例えば駆動力過剰に起因して車輪周速が走行速度よりも大きい状態(いわゆるスピン状態)となったり、制動力過剰に起因して車輪周速が走行速度よりも小さい状態(いわゆるロック状態)が存在する。
タイヤと路面との接触位置に対して、前記縦方向および鉛直方向に直交する方向を横方向と称する。横方向にタイヤに作用する力が、グリップ限界を越えると、横方向に車輪が移動する横滑り現象が生じる。横滑り現象として、例えば遠心力過剰に起因して車輪が横方向に滑る状態が存在する。特に、旋回時の加減速状態においては、タイヤには横方向と縦方向との両方の成分を含む力が与えられる。そして、タイヤ力は、運転者の操作に応じて、走行中の所定間隔ごとに複雑に変化する。また、グリップ限界についても、旋回時の車体傾斜角度、前後輪への荷重配分、運転姿勢などの運転者の操作や、路面摩擦係数、路面傾斜、接地面積などに応じて、走行中の所定間隔ごとに複雑に変化する。
上述したように、タイヤ力は、運転者の操作に応じて走行中の所定間隔ごとに複雑に変化する。このことから、運転者の操作に関して、趣向、操作傾向、習慣的動作などが、走行車両に生じるタイヤ力として顕れることとなる。そこで本実施形態では、タイヤ力の統計的ばらつきを用いて評価することで、運転者の操作に関する特性を表す指標とする。これにより自身の操作の特性としてのタイヤ力のばらつき度合を運転者が把握しやすくなる。また、走行中の全体として、タイヤ力を意識した走行を行いやすくなる。その他、運転者の操作に関する特性を、定量評価したり、相対評価したりすることができる。
例えば、運転操作の技量の高い運転者による走行車両のタイヤ力のばらつきと比較することで、自身の運転操作の技量レベルを把握したりすることができる。一例として、技量の高い運転者による運転操作では、車体の加減速状況、旋回経路をコントロールしたうえで、走行タイムを高めるために路面に対するタイヤの滑りを阻止または抑えつつ、比較的大きいタイヤ力を高い頻度で作用させる。具体的には、スロットル操作・ブレーキ操作・旋回時車速、車体姿勢、旋回半径、運転姿勢、前後輪への荷重分布など、運転操作によって調整して、摩擦限界を超えない範囲内でタイヤ力を高めた走行を維持・繰り返したり、タイヤ力が一時的に高まる状況に応じて、ライダーの体重移動などでグリップ限界を高めたりする。
このような技量の高い運転者による走行車両のタイヤ力の統計的ばらつきは、比較的高いタイヤ力が最頻値として存在したり、最頻値に対する偏差が小さいことが考えられる。
例えば、周回コースの一周あたり、または、特定のコーナーあたりの走行区間において、所定時間経過毎にタイヤ力を順次取得する。横軸にタイヤ力の大きさごとの頻度を示し、縦軸にタイヤ力の大きさを示した分布関数を求める。この分布関数における数値的特徴を指標とすることで、タイヤ力のばらつき度合を示す走行指標として用いることができる。そこで、本実施形態に係る評価方法及び評価プログラム50では、タイヤ力のばらつき度合に基づいて走行車両の走行特性を示す評価指標を求め、走行特性を定量評価する。
本実施形態では、携帯情報端末3は、走行中において、車両に搭載される各種センサの検出値を取得する。携帯情報端末3は、取得したセンサ検出値からメモリ32に記憶される演算式に従って、所定間隔おきに、路面に垂直な方向のタイヤ力成分であるタイヤ鉛直力Fz(t)、縦方向のタイヤ力成分であるタイヤ縦力Fx(t)、横方向のタイヤ力成分であるタイヤ横力Fy(t)を取得する。本実施形態では、上述したように、走行特性の評価の指標として用いるタイヤ力は、横方向成分と縦方向成分との両方の成分を含む力が用いられる。具体的には、タイヤ横力Fy(t)とタイヤ縦力Fx(t)とをベクトル和した縦横タイヤ力Fxy(t)に基づいて求められる。更に具体的には、縦横タイヤ力Fxy(t)の大きさをタイヤ鉛直力Fz(t)で除算することで無次元化された値を、正規化タイヤ力F(t)として評価に用いる。
具体的には、携帯情報端末3のコントローラ21は、更に、下記式(1)に従って、正規化されたタイヤ力F(t)を走行中の所定間隔おきに求める。本実施形態では、前記走行車両の前輪に作用する前輪タイヤ力と、前記走行車両の後輪に作用する後輪タイヤ力とを個別に取得し、それぞれ個別に評価する。なお、演算式については前後で同様である。したがって、前後のうち注目する一方の車輪のタイヤ力について説明し、他方については記載を省略する。
なお、凹凸路の走行中や登坂から降坂への急変時に生じ得るが、タイヤ鉛直力Fz(t)がゼロ値あるいは負値になる場合には、正規化タイヤ力F(t)はゼロ値として算出される。
式(1)に表されるとおり、正規化タイヤ力F(t)は、縦横タイヤ力をタイヤ鉛直力Fz(t)で除算して得られる値であって、無次元の値である。タイヤ鉛直力が大きいほど、タイヤに作用する摩擦力が大きくなる。したがって、タイヤを滑らせずに済むであろう最大の縦横タイヤ力が大きくなる。本実施形態では、このようにタイヤ鉛直力で除した値を評価に用いることで、タイヤ鉛直力の影響で走行特性が過大評価されたり過小評価されたりするのを抑止できる。式(1)において右辺分子は、縦横タイヤ力の大きさである。そのため、タイヤ縦力とタイヤ横力とを個別に取得する必要はなく、それらが統合された縦横タイヤ力を取得できればよい。
ここでは、正規化タイヤ力F(t)の算出を携帯情報端末3のコントローラが実行するとしているが、正規化タイヤ力F’(t)を算出するまでの演算の一部または全部が、自動二輪車1に搭載されたコントローラで実行されてもよい。
携帯情報端末3は、走行中に所定間隔ごとに生じた複数の正規化タイヤ力F(t)のデータを取得すると、そのデータに基づいて走行特性を表す評価指標を導出する(指標導出工程S20)。図2に示すように、指標導出工程S20では、まず、携帯情報端末3は、規定区間中の度数分布または頻度分布関数を導出する(S21)。「規定区間」は、例えば、周回コースであるサーキット1周に相当する時間もしくは距離区間でもよいし、特定のコーナーに相当する時間もしくは距離区間でもよい。なお、正規化タイヤ力F(t)は連続量であっても離散値であってもよい。離散値の場合には、度数分布を導出するにあたって、正規化タイヤ力の大きさの範囲をいくつかの階級に分ける。所定区間ごとの正規化タイヤ力がそれぞれの階級に属する個数を頻度としてカウントして得られる分布を近似する関数としてもよい。
図3A-Dは、4人のライダーが同一車両で同一区間を走行して得られた前後輪それぞれの正規化タイヤ力F(t)の度数分布を表すグラフである。図4は、図3A-Dで得られるような頻度分布実データを説明便宜のため単純化して表した度数分布の模式図である。図3A-Dおよび図4のいずれも、横軸は正規化タイヤ力、縦軸は頻度を示す。このような正規化タイヤ力の9度数分布図あるいは度数分布図に表される頻度分布関数は、走行中のタイヤ力のばらつき度合を表すものである。したがって、それらの分布図および頻度分布関数の特徴が、運転者の操作に関する特性を表す指標として顕れる。
本実施形態では、このように度数分布が得られると、携帯情報端末3が、最頻値Fpeakを求める(S22)。最頻値(mode)は、度数分布で最も頻繁に出現する値(頻度分布関数が最大となる正規化タイヤ力(確率変数)の値)である。なお、度数分布が二峰性あるいは多峰性を有する場合、複数の候補値のうち最も高い数値を最頻値としてもよい。
次に、携帯情報端末3は、正規化タイヤ力F(t)の偏差σを求める(S23)。特に、規定区間内の正規化タイヤ力の全データのうち、最頻値以上の領域内での偏差σを求める。偏差σは、一例として、下記(2)より求められる。(2)式では、P(F)は度数分布によって得られた頻度分布関数を表す。
なお、領域の下限は最頻値Fpeakであるが、領域の上限FMは任意の値に設定できる。
以上の各種統計量を基に、評価指標を導出する。本実施形態では、携帯情報端末3は、3種類の評価指標を考慮する。具体的には、「グリップスコアGS」、「セーフティスコアSS」および「コヒーレンススコアCS」の3種である。実際には、携帯情報端末3は、前後輪それぞれに対し、3種のスコアを導出する。
グリップスコアGSは、正規化タイヤ力F(t)をどの領域で最もよく使っているのかを表す指標である。グリップスコアGSは、最頻値Fpeakと正に相関する。一例として、グリップスコアGSは、次式(3)に基づき、最頻値Fpeakに対して正比例する値として求められる。
なお、KGSは、グリップスコア算出係数であり、正値である。グリップスコアGSが高いほど、縦横方向に大きいタイヤ力を用いて走行する頻度が高い走行特性であることを意味する。運転操作の技量の高い運転者による運転操作では、グリップスコアGSが高い傾向にある。
セーフティスコアSSは、スリップとなる状況を回避した走行ができているかどうかを表す指標であり、スリップ状況を回避していないと判断される運転をした場合、言い換えるとスリップが発生していると判断される運転をした場合にその数値が低く算出される。このセーフティスコアSSの導出のため、最頻値よりも高値側で所定の頻度で利用された正規化タイヤ力F(t)の数値(以下、セーフティスコア入力値)を用いる。ここで「所定の頻度」は一例として、0.1%程度であり、その場合、セーフティスコア入力値は、最頻値Fpeakに3σを加算した値としてもよい(Fpeak+3σ,σは上記偏差)。言い換えると、全体の分布のなかで、正規化タイヤ力の上限値を含んで確率密度が所定値Δ%(△は任意の値を意味する、例えば、0.1%)となる範囲で下限値となるときの正規化タイヤ力F(t)をセーフティスコア入力値xとして設定する。このような全分布領域のうちで、最頻値から所定範囲上側に離れた正規化タイヤ力の上限側範囲での正規化タイヤ力(セーフティスコア入力値x)が、路面摩擦係数に比べて大きい側に離れているほど、すりプ状況の回避頻度が低いとして、セーフティスコアSSが小さくなる。このように、セーフティスコアSSは、最頻値以上の領域での偏差σが大きいほど、タイヤ水平力が最大のグリップ限界を越える状況が多く発生したものとして、その数値が低く算出される。
一例として、セーフティスコアSSは下記式(4)、(4h1)および(4h2)に従って算出される。
ここで、x1は急減設定値である。
図5は式(4h)で表されるセーフティスコアSSの算出に用いられるセーフティスコア導出関数h(x)を表すグラフである。図5に示すように、セーフティスコア導出用の関数h(x)は、予め定める急減域と、非急減域とが設定される。セーフティスコア入力値xが予め定める急減設定値x1を超えて大きくなるほど、セーフティスコアSSが下がる方向に急変化する。また、急減設定値x1を超えて小さくなった場合はセーフティスコア入力値xに関わらず一定の値αをとる。急減設定値x1は、摩擦係数近傍の値が設定されてもよいし、路面摩擦係数に対して大きい値が設定されてもよい。
他の例として、非急減域は不変域と緩減域とを更に有するように設定されてもよい。この場合、不変域と緩減域とをわける緩減設定値が設定される。緩減設定値は、急減設定値x1よりも小さい値に設定される。セーフティスコア入力値xが予め定める緩減設定値以下であれば、セーフティスコアは基準値を維持する。セーフティスコア入力値xが緩減設定値を超えて大きくなるほど、セーフティスコアSSは、基準値に比べて徐々に低下する。また緩減設定値からさらに急減設定値x1を越えると、緩減域に比べてセーフティスコアSSが下がる方向に急変化する。なお、上述したセーフティスコア導出関数h(x)は、一例であって、急減設定値x1を超えると急減域が設定される関数であれば、他の関数であってもよい。
セーフティスコアSSは、正規化タイヤ力F(t)と路面摩擦係数との対比に関連した指標であるが、路面摩擦係数の推定は一般に困難といえる。そこで、図5に表されるように、非急減域と急減域とが明確に表れるような関数を設定し、路面摩擦係数がこの2つの領域を分ける数値近傍となるように、急減設定値x1を設定する。これにより、セーフティスコア入力値xが、路面摩擦係数よりも十分低い場合は、スリップが生じる可能性は小さいものとして、その値に関わらず高いセーフティスコアSSが得られる。セーフティスコア入力値xが、路面摩擦係数に近づいて、その値が大きくなるほど、スリップが生じる可能性(頻度)が高くなるとして、その値が大きくなるほどセーフティスコアSSが低くなる。また、急減設定値x1を超えて大きくなる場合には、セーフティスコアSSで急減させることで、スリップ状況の可能性に応じたスコアとすることができる。急減設定値x1(緩減設定値x2)、係数α、傾きβをおよびセーフティスコア算出係数Kssを走行路面に応じて調整可能とすることで、路面に適応したセーフティスコアSSの算出が可能となる。
次に、コヒーレンススコアCSは、一貫したタイヤの使い方ができているかどうかを評価する指標であり、正規化タイヤ力の使用領域が狭ければ、評価が上がる。コヒーレンススコアCSは、偏差σと負に相関する。一例として、コヒーレンススコアCSは、次式(5)に基づき、求められる。
なお、ACSは、コヒーレンススコア初期値、KCSはコヒーレンススコア導出係数である。コヒーレンススコアは減点方式で算出され、偏差が大きいほど初期値に対して低い値が算出される。
図4の度数分布の模式図を参照して、以上3種の評価指標を用いた走行特性評価において、最頻値Fpeakが高いと、グリップスコアが高くなる。最頻値以上の領域での偏差σが大きいと、コヒーレンススコアCSが低くなる。最頻値から所定範囲上側に離れた分布となるセーフティスコア入力値xが路面摩擦係数に比べて大きい側に離れているほど、セーフティスコアSSが低くなる。
最頻値以上の領域での偏差σが小さくても最頻値Fpeakが低い場合、スリップ状況を回避しやすいが、車両あるいはタイヤの性能を十分に引き出せているとは言い難い。運転スタイルとして、慎重であったり、タイヤなどの性能を引き出す路面状況でなかったり、技量が不足していたりすることが考えられる。
その逆で、最頻値Fpeakが高くても、路面摩擦を超える程度のタイヤ力が高い頻度で発生している場合、スリップ状況が発生しやすい走行が行われている可能性がある。このような場合、グリップスコアは高くなることがあるが、セーフティスコアSSは低くなり、総合的には高評価に結び付かない。
このようにして得られた評価指標が、携帯情報端末のディスプレイに表示される。表示形態は特に限定されないが、複数の評価指標の高低を一目で理解させるため、図6に示すようなレーダーチャートは好適である。なお、図6の4つのレーダーチャートは、図3に示す4つの度数分布それぞれと対応している。レーダーチャートから、上記のような総合的に高評価であるのか、そうでないのか、ある項目のみ高評価であるのか、容易に理解できる。そして、ある項目のみ高評価である場合に、走行特性がどのような特性であるのかが定量化されることで、非定量の情報で伝えられる場合に比べて容易に理解できるとともに他者による運転操作で得られた走行特性との比較を行いやすい。
例えば、携帯情報端末は、操作者の操作によって、サーバ装置に評価情報を送信可能に構成される。評価情報の送信にあたって、タイヤ力が取得された状況を示す状況情報を関連付けて送信する。状況情報として、運転者に関する運転者情報、車両に関する車両情報、タイヤに関するタイヤ情報、走行路に関する走行路情報の少なくとも何れかを送信してもよい。運転者情報には、一例として、年齢、性別、習熟度、住んでいる地域が含まれる。車両情報には、車種、排気量、生産時期、車両セッティングが含まれる。タイヤ情報には、タイヤの生産者、種類、利用期間が含まれる。走行路情報には、走行経路、路面状況、渋滞状況、温度、天気が含まれる。これらがサーバに評価指標と共に記憶される。
サーバは、複数の携帯情報端末から上述した情報を検索可能に記憶される。そして、評価指標は、サーバ(記憶装置)の指標格納領域に記憶される。このとき、評価指標は、タイヤ力が取得された状況を示す状況情報と関連付けされる。このようにして関連付けされた関連付け情報(評価指標が状況情報と紐付けされている)が、指標格納領域に記憶される。このように関連付けられる情報に基づいて、評価指標に基づく新たな機能を実現することができる。
以上の走行特性評価により、運転者およびメーカの双方にメリットがある。運転者側に関し、走行後に運転者は、上級者で同じ走行路を走行している人の走行評価を確認して、上達のために利用できる。運転者の特性に応じた車両セッティングの方向性の決定が支援される。メーカ側に関し、サーバに収集される情報をいわゆるビッグデータとして分析し、使用者の特性の傾向を把握できる。この分析結果を活用して、使用者の特性に合わせた設計あるいは保守を行うことが可能になる。
これまで実施形態について説明したが、上記構成は本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、削除および/または追加可能である。
例えば、上記実施形態では、タイヤ力に基づいて評価指標を求めている。タイヤ力に限られず、車体に作用する外力である車体作用力に基づいて評価指標を求めてもよい。タイヤ力以外の車体作用力として、路面または運転者からステアリングシャフトに与えられるステアリングトルク、遠心力、運転者が車体に与える荷重、例えば、姿勢移動によって生じる外力(重心移動力)を例示できる。このような車体に作用する力についてもタイy力と同様に、走行中における所定間隔おきに生じる統計的ばらつきに基づくことで、走行速度の影響を抑えた評価を得ることができる。
本実施形態では、縦力成分と横力成分とが含まれたタイヤ縦横力を用いて指標が求められたが、縦力と横力との少なくともいずれか一方を含むタイヤ水平力に基づいて指標が求められてもよい。タイヤ力は正規化された値を用いなくてもよい。前輪のタイヤ力と後輪のタイヤ力、少なくともいずれか一方が考慮されればよい。
本実施形態では、グリップスコアGS、セーフティスコアSS、コヒーレントスコアCSなどの分布関数から得られる特徴を用いて指標を決定してもよい。例えば、分布関数の傾きや、正規分布に対する相関度などであってもよい。これによっても、走行速度の影響を抑えた評価を得ることができる。
本実施形態では、携帯情報端末が評価処理を行うとしたが、車両に設けられるCPUが評価を行ってもよい。また、サーバが評価を行ってもよい。このように、タイヤ力などの統計的バラつきを用いて評価すればよく、処理を実行するハードウェアは上記実施形態の構成に限定されるものではない。
携帯情報端末はなくてもよい。車両が携帯情報端末を介さずにサーバと通信してもよい。携帯情報端末を介在させることにより、サーバとの連携が容易であり、また、走行後に運転者が容易に評価結果を確認できる。
車両内で評価してメータに表示したり外部装置に評価結果を送信したりしてもよい。本実施形態では、携帯情報端末においてタイヤ力を演算したが、車両内でタイヤ力を演算し、演算結果を携帯情報端末に送信してもよい。車両内でタイヤ力に基づく他の制御を並行して実施する場合に、有利である。
タイヤ力に関する情報が、走行中にリアルタイムに送信されてもよいし、走行後に車両メモリに累積された情報が走行後に送信されてもよい。すなわち、フローは、走行後に実施される場合も本発明に含まれる。指標は表示するだけでなく、他の装置に指標情報出力し、他の装置では出力を表示するようにしてもよい。サーバへの送信は、走行停止後に行ってもよい。
図7Aおよび7Bを参照してタイヤ力について説明する。車両2の一例としての自動二輪車は、前輪61および後輪62を有する。後輪62が駆動輪、前輪61が従動輪である。自動二輪車は、エンジンおよび/または電気モータで構成される動力源を備えている。動力源で発生されたトルクは後輪62に伝達され、それにより、後輪62が回転駆動される。自動二輪車は、車輪61,62を制動するブレーキ装置を備えている。ブレーキ装置は、前輪61に制動力を付与する前ブレーキ装置63、および、後輪62に制動力を付与する後ブレーキ装置64を備え、これらブレーキ装置63,64は互いに独立して作動可能に構成されている。どちらのブレーキ装置63,64も、油圧式であり、対応する車輪61,62にブレーキ油圧と概ね比例した制動力を付与する。
自動二輪車は、正面視で車幅中心線が路面と垂直な方向に向いた直立状態で、直進走行できる。自動二輪車は、この直立状態に対して車体を前後軸周りに傾斜させた状態である「バンク状態」で、旋回走行できる。なお、「前後軸」は、仮想的な軸線であり、前輪61および後輪の接地部位を通過する。以下、車体の前後軸周りの傾斜角を「バンク角β」という。直立状態では、バンク角βがゼロである。
タイヤ力は「タイヤ鉛直力」の成分と「タイヤ水平力」の成分とに分解できる。タイヤ鉛直力は、路面から車輪61,62に路面と垂直な方向に働く力である。タイヤ水平力は、路面から車輪61,62に路面と平行な面内における一方向(路面が水平であれば水平の一方向)に働く力である。タイヤ水平力は、「タイヤ縦力」の成分と「タイヤ横力」の成分とに分解できる。タイヤ縦力は、前述の平行面内で路面から車輪61,62に「縦方向」に働く力であり、タイヤ横力は、同面内で路面から車輪61,62に「横方向」に働く力である。車輪61,62を路面と平行な面に投影すると、車輪61,62は角丸長方形状を呈する(図7Bを参照)。縦方向は、当該平行面内で車輪61,62の長辺方向であって、車長方向あるいは前後方向と実質的に一致する。横方向は、当該平行面内で縦方向と直交する方向であって、車幅方向あるいは左右方向と実質的に一致する。
自動二輪車の場合、「タイヤ力」には、前輪61に作用する「前輪タイヤ力」と、後輪62に作用する「後輪タイヤ力」とが含まれる。前輪タイヤ力は、前輪タイヤ鉛直力Fzfと前輪タイヤ水平力Fhfとに分解でき、前輪タイヤ水平力Fhfは、前輪タイヤ縦力Fxfと前輪タイヤ横力Fyfとに分解できる。後輪タイヤ力は、後輪タイヤ鉛直力Fzrと後輪タイヤ水平力Fhrとに分解でき、後輪タイヤ水平力Fhrは、後輪タイヤ縦力Fxrと後輪タイヤ横力Fyrとに分解できる。
後輪62は駆動輪である。後輪タイヤ縦力Fxrを発生させる主要因として、(1)動力源で発生されて後輪62に伝達された動力、(2)後輪ブレーキ装置64で発生されて後輪62に付与された制動力を挙げることができる。要因(1)で発生される後輪タイヤ縦力Fxrの向きは、要因(2)で発生される後輪タイヤ縦力Fxrの向きと逆である。前輪61は従動輪である。前輪タイヤ縦力Fxfを発生させる主要因として、前輪ブレーキ装置63で発生されて前輪61に付与された制動力を挙げることができる。前輪タイヤ横力Fyfおよび後輪タイヤ横力Fyrは、旋回走行中、走行速度および旋回半径に基づく遠心力の反力として発生する。また、後輪タイヤ横力Fyrには、バンク角βの一階微分値(バンク角速度)あるいは二階微分値(バンク角加速度)に応じて発生する成分も含まれる。
このようにスロットル操作あるいはブレーキ操作が行われ、車両が大きな加減速をしているときに、タイヤ縦力Fxf,Fxrは大きくなる。操舵が行われ、遠心力を伴って車両が旋回走行しているときに、タイヤ横力Fyf,Fyrは大きくなる。特に、車体を横に倒し込んでいるときに(バンク角速度あるいはバンク角加速度が検出されているときに)、タイヤ横力Fyf,Fyrは大きくなる。逆にいえば、運転者は、スロットル操作あるいはブレーキ操作を通じてタイヤ縦力を調整しており、旋回走行時の車速あるいは車体姿勢操作を通じてタイヤ横力を調整している。
タイヤ水平力Fhy,Fhrが車輪61,62の「グリップ限界」を超えると、車輪61,62は路面に対して相対的に滑り、スピン度あるいはロック度が高くなる。なお、グリップ限界とは、車輪61,62に作用し得る(最大の)摩擦力(いわゆる摩擦限界)と同等であり、タイヤ鉛直力Fzf,Fzrと路面摩擦係数μとの乗算値に相当する。
タイヤ力取得工程S10において、「取得」には、センサによるタイヤ力の検出または計測も、タイヤ力そのものを示していないパラメータ値に基づくタイヤ力の推定も含まれる。